(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20221014BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20221014BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221014BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/36
G01N21/64 E
G01N21/45 A
(21)【出願番号】P 2018169424
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】山内 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】安彦 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀直
(72)【発明者】
【氏名】松井 永幸
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121248(WO,A1)
【文献】特開2014-035409(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126420(WO,A1)
【文献】特表2002-517183(JP,A)
【文献】特開2019-120570(JP,A)
【文献】特開2016-109579(JP,A)
【文献】特開2013-114042(JP,A)
【文献】国際公開第2002/48693(WO,A1)
【文献】特表2003-506711(JP,A)
【文献】特開2014-35409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/64
G01N 21/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を含む
サンプルの蛍光画像を取得する蛍光画像取得部と、
前記
サンプルの干渉画像を取得する干渉画像取得部と、
前記蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する前記干渉画像中の領域において、前記干渉画像に基づいて
前記サンプルの光学的厚さの積分値を求める演算部と、
を備える測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記干渉画像に基づいて
前記サンプルの光学的厚さ画像を作成するとともに、前記蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成し、前記光学的厚さ画像のうち前記マスク画像が示す領域において
前記サンプルの光学的厚さの積分値を求める、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記干渉画像取得部がインコヒーレント光を用いて干渉画像を取得する、
請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記干渉画像取得部および前記蛍光画像取得部それぞれの光学系の少なくとも一部が共通である、
請求項1~3の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
対象物を含む
サンプルの蛍光画像を蛍光画像取得部により取得する蛍光画像取得ステップと、
前記
サンプルの干渉画像を干渉画像取得部により取得する干渉画像取得ステップと、
前記蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する前記干渉画像中の領域において、前記干渉画像に基づいて
前記サンプルの光学的厚さの積分値を求める演算ステップと、
を備える測定方法。
【請求項6】
前記演算ステップにおいて、前記干渉画像に基づいて
前記サンプルの光学的厚さ画像を作成するとともに、前記蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成し、前記光学的厚さ画像のうち前記マスク画像が示す領域において
前記サンプルの光学的厚さの積分値を求める、
請求項5に記載の測定方法。
【請求項7】
前記干渉画像取得ステップにおいて、前記干渉画像取得部がインコヒーレント光を用いて干渉画像を取得する、
請求項5または6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記干渉画像取得部および前記蛍光画像取得部それぞれの光学系の少なくとも一部が共通である、
請求項5~7の何れか1項に記載の測定方法。
【請求項9】
前記対象物が蛍光染色された細胞核であり、
前記演算ステップにおいて前記細胞核の総量に比例する指標として前記積分値を求める、
請求項5~8の何れか1項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被験体から採取した生体サンプルに含まれるデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、DNA)の総量をinvitroで精度よく測定することが求められている。測定すべき量は、生体サンプル(例えば試験管内の液体内の細胞または培養皿内に播種された細胞)に含まれるDNAの総量である。サンプル全体のうちから一定の率xで抜き取った部分を観察または測定し、その部分に含まれていたDNAの総量を抜き取り率xで割ることで、サンプル全体に含まれるDNAの総量を求めることができる。
【0003】
サンプルに含まれるDNAの総量を測定する方法として吸収法および蛍光法がある。吸収法では、DNAの吸収波長の光をサンプルに照射して該サンプルにおける光の吸収量を測定して、その吸収量からビアランバート則により該サンプル中のDNA総量を求めることができる。蛍光法では、サンプル中のDNAを特異的に蛍光染色し、該サンプルに励起光を照射したときに生じる蛍光の強度を測定して、その蛍光強度から該サンプル中のDNA総量を求めることができる。
【0004】
また、細胞核の一個当たりに含まれるDNAの量は推測することが可能であることから、細胞核の領域を特異的に染色して、その染色領域の個数を数えることで、サンプルに含まれる細胞核の個数を求め、更に、この細胞核の個数からサンプル中のDNA総量を求めることができる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Paul Held, et al, "Analysisof Nuclear Stained Cells, Using the CytationTM3 Cell ImagingMulti-Mode Microplate Reader with DAPI-Stained Cells," BioTek Instruments,Inc., Application Note, AN041013_13, Rev. 04/10/13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、サンプルの全体および部分の何れであっても、そこに含まれるDNAの総量を精度よく求めることは困難である。すなわち、吸収法では、測定結果がDNA以外の光吸収物質の影響を受ける。蛍光法では、測定結果がDNA以外の蛍光物質の影響およびバックグラウンドの光(例えば自家蛍光)の影響を受け、また、蛍光染色の染色率が僅かな条件によって大きく変動する。吸収法および蛍光法の何れにおいても、濃いサンプルに対しては近似的に用いることができるが、薄いサンプルに対しては精度のよい測定は困難である。また、蛍光法では、サンプルの濃度が非常に濃く細胞同士が多層に上下に重なっている場合には、蛍光励起光の光軸に沿って励起光に近い側に存在する細胞が励起光を吸収してしまう。そのため、励起光から遠い側の細胞には十分な励起光が届かず、結果として得られた蛍光値が実際の細胞数と比べて過小評価されてしまう問題が生じる。これらの要因により、サンプル中のDNA総量を精度よく求めることは困難である。
【0008】
また、染色領域の個数を数えることで細胞核の個数を求める場合には、次のような問題がある。すなわち、本来は一つの細胞核であるにも拘わらず、その細胞核が二つに分断されている場合、得られる細胞核の個数は実際より多くなる。逆に、本来は二つの細胞核であるにも拘わらず、それら二つの細胞核が互いに接触し又は重なっていて染色領域としては一つである場合、得られる細胞核の個数は実際より少なくなる。このように、染色領域の個数を数える場合も、細胞核の個数(さらにDNA総量)を精度よく求めることは困難である。
【0009】
これまでに説明してきた問題点は、生体サンプル中の細胞核の個数(さらにDNA総量)を求める場合だけでなく、サンプル中の他の対象物の量を求める場合にも存在する。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、サンプル中の対象物の量を精度よく測定することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の測定装置は、(1) 対象物を含むサンプルの蛍光画像を取得する蛍光画像取得部と、(2) サンプルの干渉画像を取得する干渉画像取得部と、(3) 蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する干渉画像中の領域において、干渉画像に基づいてサンプルの光学的厚さの積分値を求める演算部と、を備える。
【0012】
本発明の一側面による測定装置では、演算部は、干渉画像に基づいてサンプルの光学的厚さ画像を作成するとともに、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成し、光学的厚さ画像のうちマスク画像が示す領域においてサンプルの光学的厚さの積分値を求める。
【0013】
本発明の他の一側面による測定装置では、干渉画像取得部がインコヒーレント光を用いて干渉画像を取得する。
【0014】
本発明の更に他の一側面による測定装置では、干渉画像取得部および蛍光画像取得部それぞれの光学系の少なくとも一部が共通である。
【0015】
本発明の測定方法は、(1) 対象物を含むサンプルの蛍光画像を蛍光画像取得部により取得する蛍光画像取得ステップと、(2) サンプルの干渉画像を干渉画像取得部により取得する干渉画像取得ステップと、(3) 蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する干渉画像中の領域において、干渉画像に基づいてサンプルの光学的厚さの積分値を求める演算ステップと、を備える。
【0016】
本発明の一側面による測定方法では、演算ステップにおいて、干渉画像に基づいてサンプルの光学的厚さ画像を作成するとともに、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成し、光学的厚さ画像のうちマスク画像が示す領域においてサンプルの光学的厚さの積分値を求める。
【0017】
本発明の他の一側面による測定方法では、干渉画像取得ステップにおいて、干渉画像取得部がインコヒーレント光を用いて干渉画像を取得する。
【0018】
本発明の更に他の一側面による測定方法では、干渉画像取得部および蛍光画像取得部それぞれの光学系の少なくとも一部が共通である。
【0019】
本発明の更に他の一側面による測定方法では、対象物が蛍光染色された細胞核であり、演算ステップにおいて細胞核の総量に比例する指標として積分値を求める。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、サンプル中の対象物の量を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、測定装置1Aの構成を示す図である。
【
図3】
図3は、第1変形例の測定装置1Bの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、第2変形例の測定装置1Cの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第3変形例の測定装置1Dの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、干渉観察用光、励起光および蛍光それぞれの波長帯域の間の関係の例を示す図である。
図6(a)は干渉観察用光の波長帯域が蛍光波長帯域より長い場合を示す。
図6(b)は干渉観察用光の波長帯域が蛍光波長帯域と一部が重なっている場合を示す。
図6(c)は干渉観察用光の波長帯域が励起光波長帯域より短い場合を示す。
図6(d)は干渉観察用光の波長帯域が励起光波長帯域と一部が重なっている場合を示す。
【
図7】
図7は、本実施形態の測定装置の動作および本実施形態の測定方法を説明するタイミングチャートである。
【
図9】
図9は、光学的厚さ画像を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、蛍光画像(
図8)に基づいて作成されたマスク画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
図1は、測定装置1Aの構成を示す図である。測定装置1Aは、干渉画像取得部2、蛍光画像取得部3、演算部4およびタイミング制御回路5を備える。干渉画像取得部2および蛍光画像取得部3それぞれの光学系の一部は共通である。干渉画像取得部2は、光源11、ビームスプリッタ12、対物レンズ13、対物レンズ14、参照ミラー15、チューブレンズ16、ビームスプリッタ17、撮像器18、ピエゾ素子21、光検出器22および位相制御回路23を含む。蛍光画像取得部3は、励起光源31、ビームスプリッタ32、チューブレンズ16、励起光カットフィルタ33および撮像器18を含む。
【0024】
干渉画像取得部2は、二光束干渉計としてマイケルソン干渉計を有し、1または複数の対象物の干渉画像を取得する。蛍光画像取得部3は、対象物の蛍光画像を取得する。演算部4は、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する干渉画像中の領域において、干渉画像に基づいて光学的厚さの積分値を求める。好適には、演算部4は、干渉画像に基づいて光学的厚さ画像を作成するとともに、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成し、光学的厚さ画像のうちマスク画像が示す領域において光学的厚さの積分値を求める。タイミング制御回路5は、光源11および励起光源31それぞれの光出力タイミングならびに撮像器18の露光タイミングを制御することで、干渉画像取得部2による干渉画像取得および蛍光画像取得部3による蛍光画像取得それぞれのタイミングを制御する。
【0025】
対象物は、光源11から出力される光の波長において実質的に透明なものであって、蛍光染色されたものである。対象物は、特定の細胞や生体サンプルに限定されるものではない。例えば、対象物として、培養細胞、不死化細胞、初代培養細胞、がん細胞、脂肪細胞、肝臓細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、体性幹細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、iPS細胞、および前記細胞をもとに作られた細胞塊(コロニーまたはスフェロイド)などが挙げられ、また、これらの細胞に含まれる細胞核が挙げられる。対象物は、生体に限られない。
【0026】
本実施形態の以下の説明では、
図2にサンプルの構成例が示されるように、対象物は、容器70に入れられた液体72中の蛍光染色された細胞核73であるとする。容器70の底部の内側には反射増強コーティング71が設けられている。核分画により、弱い界面活性剤により細胞膜を溶解させ、遠心分離により細胞核のみを抽出することができる。
【0027】
光源11は干渉観察用の光を出力する。好適には光源11はインコヒーレント光を出力する。光源11は、例えばハロゲンランプなどのランプ系光源、LED(Light emitting diode)光源、SLD(Super luminescent diode)光源、ASE(Amplified spontaneous emission)光源等である。
【0028】
ビームスプリッタ12は、光源11と光学的に結合され、二光束干渉計であるマイケルソン干渉計を構成する。ビームスプリッタ12は、例えば、反射率と透過率との比が50:50であるハーフミラーであってもよい。ビームスプリッタ12は、光源11から出力された光を二光束に分岐して第1分岐光および第2分岐光とする。ビームスプリッタ12は、第1分岐光を対物レンズ13へ出力し、第2分岐光を対物レンズ14へ出力する。
【0029】
また、ビームスプリッタ12は、反射増強コーティング71で反射されて対物レンズ13を経た第1分岐光を入力するとともに、参照ミラー15で反射されて対物レンズ14を経た第2分岐光を入力する。そして、ビームスプリッタ12は、これら入力した第1分岐光と第2分岐光とを合波して、干渉光をチューブレンズ16へ出力する。
【0030】
対物レンズ13は、ビームスプリッタ12と光学的に結合され、ビームスプリッタ12から出力された第1分岐光を容器70内の細胞核73に集光する。また、対物レンズ13は、反射増強コーティング71で反射された第1分岐光を入力してビームスプリッタ12へ出力する。
【0031】
ビームスプリッタ12と対物レンズ13との間の第1分岐光の光路上にビームスプリッタ32が挿入されている。ビームスプリッタ32は、励起光源31と光学的に接続されている。ビームスプリッタ32は、励起光源31から出力された励起光、光源11から出力された光のうちの第1分岐光、および、励起光が照射された細胞核73で発生した蛍光のうち、一部を反射させ、残部を透過させる。
【0032】
対物レンズ13は、ビームスプリッタ32から到達した励起光を容器70内の細胞核73に集光する。また、対物レンズ13は、細胞核73で発生した蛍光を入力してビームスプリッタ12へ出力する。ビームスプリッタ12は、この蛍光をチューブレンズ16へ出力する。
【0033】
対物レンズ14は、ビームスプリッタ12と光学的に結合され、ビームスプリッタ12から出力された第2分岐光を参照ミラー15の反射面に集光する。また、対物レンズ14は、参照ミラー15の反射面で反射された第2分岐光を入力してビームスプリッタ12へ出力する。
【0034】
チューブレンズ16は、干渉光学系を構成するビームスプリッタ12と光学的に結合され、ビームスプリッタ12から出力された干渉光および蛍光を、ビームスプリッタ17を経て撮像器18の撮像面に結像する。ビームスプリッタ17は、干渉光および蛍光それぞれの一部を反射させ残部を透過させる。ビームスプリッタ17の反射率と透過率との比は例えば20:80である。
【0035】
撮像器18は、ビームスプリッタ17と光学的に結合され、ビームスプリッタ17から到達した干渉光を受光して干渉画像を取得し、また、ビームスプリッタ17から到達した蛍光を受光して蛍光画像を取得する。撮像器18は、例えば、CCDエリアイメージセンサおよびCMOSエリアイメージセンサなどのイメージセンサである。撮像器18の受光面の前に設けられている励起光カットフィルタ33は、干渉光および蛍光を選択的に透過させ、励起光を選択的に遮断する。
【0036】
ピエゾ素子21は、参照ミラー15の反射面に垂直な方向に該反射面を移動させる。ピエゾ素子21は、この反射面の移動により、二光束干渉計における二光束の間の光路長差(すなわち位相差)を調整することができる。ピエゾ素子21は、波長未満の分解能で、参照ミラー15の反射面の位置を決めることができる。二光束干渉計において二光束の間の光路長差は可変である。
【0037】
なお、ビームスプリッタ12から反射増強コーティング71までの光学的距離をL1とし、ビームスプリッタ12から参照ミラー15の反射面までの光学的距離をL2とすると、二光束干渉計における二光束の間の光路長差は2(L1-L2)である。この光路長差が光源11の出力光のコヒーレント長以下であれば、撮像器18は明瞭な干渉画像を取得することができる。光源11の出力光の中心波長をλ0としたとき、二光束干渉計における二光束の間の位相差Δφは次式で表されるものとする。
【0038】
【0039】
光検出器22は、ビームスプリッタ17と光学的に結合され、ビームスプリッタ17から到達した干渉光を受光して検出信号を出力する。光検出器22は、例えば、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管であり、また、ラインセンサ(リニアセンサ)、CCDエリアイメージセンサ、CMOSエリアイメージセンサなどであってもよい。
【0040】
位相制御回路23は、光検出器22と電気的に接続され、光検出器22から出力される検出信号を入力する。また、位相制御回路23は、ピエゾ素子21と電気的に接続され、ピエゾ素子21による光路長差の調整動作を制御する。位相制御回路23は、入力した検出信号に基づいて、二光束干渉計における二光束の間の光路長差を検出する。そして、位相制御回路23は、この検出結果に基づくフィードバック制御により、ピエゾ素子21による光路長差の調整動作を制御する。これにより、二光束干渉計における二光束の間の光路長差を設定値で安定化した状態(ロック状態)とすることができる。
【0041】
干渉画像取得部2は、ロック状態において対象物(細胞核73)の干渉画像を撮像器18により撮像して取得することができる。蛍光画像取得部3は、対象物(細胞核73)の蛍光画像を撮像器18により撮像して取得することができる。演算部4は、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する干渉画像中の領域において、干渉画像に基づいて光学的厚さの積分値を求める。
【0042】
演算部4は、RAMおよびROM等のメモリならびにCPU等のプロセッサ(演算回路)を有するパーソナルコンピュータおよびスマートデバイスなどのコンピュータであってもよい。また、演算部4は、操作者からの入力を受け付ける入力部(キーボード、マウス、タッチパネルなど)、ならびに、干渉画像および光学的厚さ画像等を表示する表示部(ディスプレイなど)を備えていてもよい。また、演算部4は、画面に画像等を表示するとともに、その画面において操作者による領域の指定を受け付ける機能を有するのが好適である。
【0043】
干渉画像取得部2の動作は次のとおりである。光源11から出力された光はビームスプリッタ12により二光束に分岐されて第1分岐光および第2分岐光とされ、ビームスプリッタ12から第1分岐光および第2分岐光が出力される。ビームスプリッタ12から出力された第1分岐光は、ビームスプリッタ32を経て、対物レンズ13により容器70内の細胞核73に集光され、容器70の底部の内側に設けられた反射増強コーティング71で反射される。反射増強コーティング71で反射された第1分岐光は、対物レンズ13およびビームスプリッタ32を経て、ビームスプリッタ12に入力される。ビームスプリッタ12から出力された第2分岐光は、対物レンズ14により参照ミラー15の反射面に集光され、その反射面で反射される。参照ミラー15の反射面で反射された第2分岐光は、対物レンズ14を経てビームスプリッタ12に入力される。
【0044】
対物レンズ13からビームスプリッタ12に入力された第1分岐光、および、対物レンズ14からビームスプリッタ12に入力された第2分岐光は、ビームスプリッタ12により合波されて、ビームスプリッタ12から干渉光が出力される。この干渉光は、チューブレンズ16を経た後にビームスプリッタ17により2分岐されて、撮像器18および光検出器22それぞれにより受光される。干渉光を受光した光検出器22から検出信号が出力され、この検出信号に基づいて位相制御回路23により二光束干渉計における二光束の間の光路長差が検出される。そして、位相制御回路23によるピエゾ素子21に対するフィードバック制御により、二光束干渉計における二光束の間の光路長差が設定値で安定化した状態(ロック状態)とされる。ロック状態において干渉光を受光した撮像器18により干渉画像が取得され、その干渉画像は演算部4へ出力される。そして、演算部4により、干渉画像に基づいて対象物(細胞核73)の光学的厚さ画像が求められる。
【0045】
演算部4は、位相シフト法により、複数の干渉画像から光学的厚さ画像を求める。すなわち、干渉画像取得部2は、二光束干渉計の光路長差を互いに異なる複数の設定値それぞれで安定化した状態とし各状態において干渉画像を取得する。演算部4は、干渉画像取得部2により取得された複数の干渉画像に基づいて位相画像を求めることができる(特許文献1参照)。更に、演算部4は、この位相画像から光学的厚さ画像を求めることができる。
【0046】
例えば、干渉画像取得部2は、ピエゾ素子21、光検出器22および位相制御回路23を用いたフィードバック制御により干渉光の位相差を或る初期位相で安定化させて、位相差を安定化させた状態で干渉画像I1を撮像器18により取得する。次に、干渉画像取得部2は、ピエゾ素子21、光検出器22および位相制御回路23を用いて干渉光の位相差を“初期位相+π/2”で安定化させ、位相差を安定化させた状態で干渉画像I2を撮像器18により取得する。同様にして、干渉画像取得部2は、干渉光の位相差を“初期位相+π”で安定化させた状態で干渉画像I3を撮像器18により取得し、干渉光の位相差を“初期位相+3π/2”で安定化させた状態で干渉画像I4を撮像器18により取得し、干渉光の位相差を“初期位相+2π”で安定化させた状態で干渉画像I5を撮像器18により取得する。
【0047】
演算部4は、これら5つの干渉画像I1~I5を用いて、下記(2)式の演算を行って位相画像Φを求める。argは複素数の変換を取得する演算子である。iは虚数単位である。演算部4は、この位相画像Φに対して位相アンラップ処理および背景歪み補正処理をした後、光学的厚さOTを下記(3)式で求めて光学的厚さ画像を求める。なお、これらの式に現れる各パラメータは画素位置(x,y)の関数であり、これらの式の演算は画素毎に行われる。
【0048】
【0049】
【0050】
背景補正については、x,yを変数とする多項式関数(たとえばゼルニケ多項式)を用いることで良好な(フラットな)バックグラウンドを得ることができる。また、背景における歪み成分の空間周波数が個々のサンプルの空間周波数よりも十分に低い場合には、ハイパスフィルタリング処理をすることもできる。光学的厚さ画像の背景における平坦性は、光学的厚さの標準偏差にして5nm未満であるのが好ましい。
【0051】
この光学的厚さOTは、サンプルを透過した光に与えられた位相変化量を表したものである。細胞核73の厚さをdとし、細胞核73の平均的な屈折率をncとし、液体72の屈折率をnmとすると、光学的厚さOTは次式で与えられる。
【0052】
【0053】
蛍光画像取得部3の動作は次のとおりである。励起光源31から出力された励起光は、ビームスプリッタ32で反射され、対物レンズ13により容器70内の細胞核73に集光照射される。この励起光の照射により細胞核73で発生した蛍光は、対物レンズ13、ビームスプリッタ32、ビームスプリッタ12、チューブレンズ16、ビームスプリッタ17および励起光カットフィルタ33を経て、撮像器18により受光される。この蛍光を受光した撮像器18は蛍光画像を取得することができる。演算部4は、この蛍光画像を入力する。
【0054】
次に、
図3~
図5を用いて、測定装置の変形例の構成について説明する。測定装置の構成(特に干渉画像取得部および蛍光画像取得部の構成)は、他に様々な態様が可能である。なお、変形例の構成を示す
図3~
図5では、演算部およびタイミング制御回路の図示が省略されており、また、干渉画像取得部のビームスプリッタ17、光検出器22および位相制御回路23の図示も省略されている。
【0055】
図3に示される第1変形例の測定装置1Bは、
図1に示された測定装置1Aの構成と比較すると、干渉画像取得部2および蛍光画像取得部3の各構成については略同様であるが、ビームスプリッタ32が挿入されている位置の点で相違する。ビームスプリッタ32は、
図1に示された測定装置1Aでは二光束干渉計の中に設けられていたのに対して、
図3に示される第1変形例の測定装置1Bでは、二光束干渉計の外であって、ビームスプリッタ12とチューブレンズ16との間の光路上に設けられている。
【0056】
図4に示される第2変形例の測定装置1Cは、
図1に示された測定装置1Aの構成と比較すると、ダイクロイックミラー34および蛍光透過フィルタ35を更に備える点で相違し、干渉画像取得用の撮像器18とは別に蛍光画像取得用の撮像器36を更に備える点で相違する。ダイクロイックミラー34は、ビームスプリッタ12と光学的に結合されており、ビームスプリッタ12から出力した干渉光および蛍光を入力する。ダイクロイックミラー34は、入力した干渉光および蛍光のうち、干渉光を選択的に反射させ、蛍光を選択的に透過させる。干渉画像取得用の撮像器18は、ダイクロイックミラー34で反射された干渉光を受光して干渉画像を取得する。蛍光画像取得用の撮像器36は、ダイクロイックミラー34で透過した蛍光を受光して蛍光画像を取得する。撮像器36の受光面の前に設けられている蛍光透過フィルタ35は、蛍光を選択的に透過させる。
【0057】
図5に示される第3変形例の測定装置1Dは、これまでの測定装置1A~1Cの構成と比較すると、二光束干渉計としてマッハツェンダ干渉計を有する点で相違する。第3変形例の測定装置1Dでは、光源11から出力された干渉観察用の光はビームスプリッタ12により二光束に分岐されて第1分岐光および第2分岐光とされ、ビームスプリッタ12から第1分岐光および第2分岐光が出力される。ビームスプリッタ12から出力された第1分岐光は、ミラー41で反射され、細胞核73を透過し、対物レンズ13を経て、ビームスプリッタ42に入力される。ビームスプリッタ12から出力された第2分岐光は、参照ミラー15で反射され、対物レンズ14を経て、ビームスプリッタ42に入力される。
【0058】
対物レンズ13からビームスプリッタ42に入力された第1分岐光、および、対物レンズ14からビームスプリッタ42に入力された第2分岐光は、ビームスプリッタ42により合波されて、ビームスプリッタ42から干渉光が出力される。この干渉光は、チューブレンズ16を経て、撮像器18により受光される。二光束干渉計における二光束の間の光路長差が設定値で安定化した状態(ロック状態)において干渉光を受光した撮像器18により干渉画像が取得され、その干渉画像は演算部4へ出力される。そして、演算部4により、干渉画像に基づいて対象物(細胞核73)の光学的厚さ画像が求められる。
【0059】
励起光源31から出力された励起光は、ビームスプリッタ42で反射され、対物レンズ13により細胞核73に集光照射される。この励起光の照射により細胞核73で発生した蛍光は、対物レンズ13、ビームスプリッタ42、チューブレンズ16および励起光カットフィルタ33を経て、撮像器18により受光される。この蛍光を受光した撮像器18は蛍光画像を取得することができる。演算部4は、この蛍光画像を入力する。
【0060】
なお、
図1,
図3,
図4および
図5の構成例において、ダイクロイックミラーに替えてビームスプリッタを用いることができる場合があり、逆に、ビームスプリッタに替えてダイクロイックミラー用いることができる場合がある。ビームスプリッタの場合、反射率と透過率との比は例えば20:80である。
【0061】
これら測定装置1A~1Dの何れの構成においても、光源11から出力された干渉観察用の光は、二光束干渉計(マイケルソン干渉計またはマッハツェンダ干渉計)を経るとともに、二光束干渉計の途中に置かれた細胞核をも経て、撮像器の受光面上に干渉画像を形成する。また、励起光源31から出力された励起光の照射によって細胞核で発生した蛍光は、撮像器の受光面上に蛍光画像を形成する。測定装置1A~1Dでは、干渉画像取得部2および蛍光画像取得部3それぞれの光学系の一部(特に対物レンズ13)は共通であり、略同一視野に対して干渉画像および蛍光画像を取得することができる。
【0062】
測定装置1A~1Dそれぞれは、干渉画像および蛍光画像を略同時に取得することができる。第2変形例の測定装置1Cは、干渉画像取得用の撮像器18と蛍光画像取得用の撮像器36とを互いに別個に備えているので、干渉画像および蛍光画像を同時に取得することができる。第2変形例の測定装置1Cは、タイミング制御回路を備えていなくてもよい。
【0063】
測定装置1A,1B,1Dそれぞれは、1つの撮像器18を用いて干渉画像および蛍光画像を時分割で交互に取得することができる。干渉画像および蛍光画像それぞれの撮像の為の露光時間が短いので、測定装置1A,1B,1Dそれぞれは、干渉画像および蛍光画像を略同時に取得することができる。例えば、蛍光撮像に要する露光時間は数百ミリ秒~数秒程度であるのに対し、干渉撮像に要する露光時間は100ミリ秒未満とすることが可能である。蛍光撮像直後に干渉撮像を行う又は干渉撮像直後に蛍光撮像を行うとすれば、蛍光の露光時間と比べて大きなモーションアーチファクトが発生することはないと考えられ、時分割撮像であっても実質的には略同時撮像と見なしうる。
【0064】
本実施形態の測定装置は、略同一視野に対して干渉画像および蛍光画像を略同時に取得することができる構成であればよい。すなわち、干渉画像取得部2における二光束干渉計は、マイケルソン干渉計およびマッハツェンダ干渉計の何れであってもよい。励起光を導入する位置は、二光束干渉計の中であってもよいし外であってもよい。1つの撮像器により干渉画像および蛍光画像を交互に撮像してもよいし、干渉画像取得用の撮像器と蛍光画像取得用の撮像器とが互いに別個に備えられていてもよい。
【0065】
また、略同一視野に対して干渉画像および蛍光画像を取得するためには、干渉画像取得部および蛍光画像取得部それぞれの光学系の一部が共通であるのが好適であるが、干渉画像取得部と蛍光画像取得部とは光学系の共通部分を備えていなくてもよい。干渉画像取得部と蛍光画像取得部とが別個の光学系であっても、略同一視野に対して干渉画像および蛍光画像を取得することができればよい。
【0066】
次に、
図6を用いて、光源11から出力される干渉観察用の光の波長帯域、励起光源31から出力される励起光の波長帯域、および、励起光照射により細胞核73で発生する蛍光の波長帯域の間の関係について説明する。
図6は、干渉観察用光、励起光および蛍光それぞれの波長帯域の間の関係の例を示す図である。一般に、蛍光波長帯域は励起光波長帯域より長波長側にある。
【0067】
図6(a)に示される例では、干渉観察用光の波長帯域は、蛍光波長帯域より長く、分光的手法により蛍光と分離し得る程度に蛍光波長帯域から離れている。この場合、1つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を時分割で交互に取得することもできるし、2つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を同時に取得するのも好適である。
【0068】
図6(b)に示される例では、干渉観察用光の波長帯域は、蛍光波長帯域と一部が重なっている。この場合、1つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を時分割で交互に取得することはできる。干渉画像と蛍光画像との間の色収差を最小にすることができるので好ましい。ただし、2つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を同時に取得することはできない。
【0069】
図6(c)に示される例では、干渉観察用光の波長帯域は、励起光波長帯域より短く、分光的手法により励起光と分離し得る程度に励起光波長帯域から離れている。この場合、1つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を時分割で交互に取得することもできるし、2つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を同時に取得することもできる。ただし、干渉画像と蛍光画像との間の色収差が問題となる場合があり、その場合には、高精度に色収差を補正した光学系を用いることが望ましい。
【0070】
図6(d)に示される例では、干渉観察用光の波長帯域は、励起光波長帯域と一部が重なっている。この場合、1つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を時分割で交互に取得することはできるが、2つの撮像器を用いて干渉画像および蛍光画像を同時に取得することはできない。
【0071】
次に、
図7を用いて、本実施形態の測定装置の動作および本実施形態の測定方法の手順について説明する。
図7は、本実施形態の測定装置の動作および本実施形態の測定方法を説明するタイミングチャートである。この図は、光源11の光出力期間、励起光源31の励起光出力期間、撮像器の露光期間、および、干渉光の位相差(二光束干渉計における二光束の間の位相差)の時間変化の例を示している。本実施形態の測定方法は、干渉画像取得ステップ、蛍光画像取得ステップおよび演算ステップを有する。この図は、1つの撮像器を用いて干渉画像取得ステップおよび蛍光画像取得ステップを時分割で交互に行う場合の動作例を示している。
【0072】
干渉画像取得ステップにおいては、光源11は干渉観察用の光を出力し、励起光源31は励起光を出力しない。干渉画像取得部2は、ピエゾ素子21、光検出器22および位相制御回路23を用いたフィードバック制御により干渉光の位相差を初期位相からπ/2ずつ段階的に設定し、各々の段階において位相差を設定値に安定化させた状態で干渉画像I1~I5を撮像器18により撮像する。
【0073】
蛍光画像取得ステップにおいては、光源11は干渉観察用の光を出力せず、励起光源31は励起光を出力する。この期間の位相差は、安定してないフリー状態にある。蛍光画像取得部3は蛍光画像FLを撮像器18により撮像する。
【0074】
干渉画像取得ステップと蛍光画像取得ステップとを交互に繰り返すことで、干渉画像I1~I5および蛍光画像FLを次々と取得することができる。また、必要に応じて、或る視野に対して干渉画像取得ステップおよび蛍光画像取得ステップを行って干渉画像および蛍光画像を取得した後、例えば電動ステージによりサンプルを移動させて、他の視野に対して干渉画像取得ステップおよび蛍光画像取得ステップを行って干渉画像および蛍光画像を取得してもよい。このようにすることで、複数の視野それぞれに対して干渉画像および蛍光画像を取得することができる。
【0075】
演算ステップにおいて、演算部4は、干渉画像取得部2により取得された干渉画像I1~I5に基づいて、前述した手法により光学的厚さ画像を求める。演算部4は、蛍光画像中の画素値が閾値より大きい領域に対応する干渉画像中の領域において、干渉画像に基づいて光学的厚さの積分値を求める。
【0076】
演算ステップにおいて、演算部4は、干渉画像取得ステップおよびこれに続く蛍光画像取得ステップで取得された干渉画像および蛍光画像を用いて、または、蛍光画像取得ステップおよびこれに続く干渉画像取得ステップで取得された蛍光画像および干渉画像を用いて、後述する各処理を行う。演算ステップは、干渉画像取得ステップおよび蛍光画像取得ステップの双方または何れか一方と並列的に行ってもよい。
【0077】
次に、演算部4による処理(演算ステップ)について詳細に説明する。演算ステップにおいて、演算部4は、干渉画像取得部2により取得された干渉画像および蛍光画像取得部3により取得された蛍光画像を用いて、次のような処理を行う。
【0078】
演算部4は、干渉画像取得部2により取得された複数の干渉画像から上記(2)式に基づいて位相画像を求め、さらに、この位相画像から上記(3)式に基づいて光学的厚さ画像を求める。なお、上記(3)式に示されるとおり位相値Φと光学的厚さOTとは互いに比例関係にあるので、位相画像と光学的厚さ画像とは実質的に互いに等価であると言ってよい。
【0079】
図8は、蛍光画像を模式的に示す図である。
図9は、光学的厚さ画像を模式的に示す図である。これらの蛍光画像および光学的厚さ画像は、実質的に同じ期間において実質的に同じ視野について撮像することにより得られたものである。対象物は蛍光染色された細胞核であるとして以下に説明する。
【0080】
図8に示されるように、蛍光画像において、蛍光染色液の濃度の不均一性または細胞核の個体差により、蛍光強度が大きい細胞核(図中で濃色の領域)と、蛍光強度が小さい細胞核(図中で淡色の領域)と、が存在する。また、蛍光画像において、一個の完全な形状を有する細胞核(図中で円形または楕円形の領域)と、一個の細胞核が二つに分断されたもの(図中で略半円形の領域)と、二個の細胞核が互いに接触し又は重なって見かけの上で融合しているもの(図中において二つの円形または楕円形の各一部が互いに重なった形状の領域)と、が存在する。
【0081】
このように、個々の細胞核の間で蛍光の発現率にバラツキがあることから、蛍光輝度の総和から細胞核の個数を精度よく求めることば困難である。また、見かけ上融合した細胞核や分断された細胞核が存在することから、蛍光を発する領域の個数を数えることによっても、細胞核の個数を精度よく見積もることは困難である。細胞核の個数を精度よく求めることができなければ、DNA量を精度よく求めることも困難である。
【0082】
一方、光学的厚さ画像は、各位置における物質の濃度および厚さに比例した画素値(光学的厚さ)を有する。したがって、領域内に含まれる物質が全て同じ物質であると見なせる場合は、その領域内の画素値の総和を求めることで、その領域に含まれる物質の総量を知ることができる。
【0083】
しかし、光学的厚さ画像では、物質の種類が分からないので、細胞核以外のものが含まれている可能性がある。蛍光画像(
図8)と光学的厚さ画像(
図9)とを対比すると、光学的厚さ画像(
図9)において矢印で示される三つの領域は、蛍光画像(
図8)において蛍光を発していないことから、蛍光染色された細胞核を表すものではないことが分かる。光学的厚さ画像において細胞核以外の物体が現れる原因としては、核分画の作業の際に細胞核以外の物体(例えば細胞内小器官)を完全に除去することができないことが挙げられる。
【0084】
このように、蛍光画像および光学的厚さ画像それぞれは上記のような問題点を有していることから、蛍光画像および光学的厚さ画像のうちの一方の画像のみを用いる場合には、サンプル中の細胞核の個数を精度よく求めることは困難である。
【0085】
本実施形態では、蛍光画像および光学的厚さ画像の双方を用いることにより、サンプル中の細胞核の個数を精度よく求めることができ、さらに、サンプル中のDNA総量を精度よく求めることができる。すなわち、本実施形態では、蛍光画像が有する蛍光性対象物に対する特異性を利用することで、光学的厚さ画像が有する上記の物質識別性に関する問題点を解消して、光学的厚さ画像が有する上記の定量性に関する利点を活かす。
【0086】
蛍光画像は、定量性の点で劣るものの、蛍光性対象物に対する特異性を有している。そこで、演算部4は、蛍光画像(
図8)中の画素値が閾値より大きい領域を示すマスク画像を作成することができる。
図10は、蛍光画像(
図8)に基づいて作成されたマスク画像を示す図である。マスク画像(
図10)は、蛍光画像(
図8)中の各画素値を適切な閾値によって二値化したものである。マスク画像(
図10)において、白色領域は、蛍光画素値が閾値より大きい領域、すなわち、蛍光を発する細胞核の領域である。黒色領域は、蛍光画素値が閾値より小さい領域である。マスク画像(
図10)において、白色領域内の各画素値を1とし、黒色領域内の各画素値を0とする。
【0087】
光学的厚さ画像(
図9)にマスク画像(
図10)を乗算することで、光学的厚さ画像(
図9)のうちマスク画像(
図10)が示す領域(すなわち、蛍光を発する細胞核の領域)を抽出することができる。
図11は、光学的厚さ画像(
図9)とマスク画像(
図10)との積の画像を示す図である。この積画像(
図11)では、光学的厚さ画像(
図9)にあった細胞核以外の物体が除外され、光学的厚さ画像(
図9)にあった細胞核のみが示されることになる。
【0088】
積画像(
図11)の各位置の画素値(光学的厚さ)は、該位置における細胞核の濃度および厚さに比例している。そこで、演算部4は、この積画像(
図11)の画素値を視野全体に亘って積分する。これにより得られる積分値V
Nは、その視野にある細胞核の総量に比例する指標であり、また、その視野にあるDNAの総量に比例する指標でもある。
【0089】
光学的厚さの測定値は再現性がある値であるので、例えば個々の細胞核を明確に分別することができ細胞核の個数が明確であるサンプルについて積画像(
図11)の画素値を視野全体に亘って積分し、その積分値を視野内の細胞核の個数で除算することにより、細胞核一個当たりの平均の積分値V
1を求めることができる。測定対象のサンプルについて積画像(
図11)の画素値を視野全体に亘って積分して得られた積分値V
Nを、細胞核一個当たりの平均の積分値V
1で除算することにより、該サンプルの該視野にある細胞核の個数を求めることができ、さらに、該サンプルの該視野にあるDNAの総量を求めることができる。
【0090】
なお、画像取得時の倍率が異なると、同じ視野であっても該視野内の画素数が異なることから、視野全体に亘る画素値の積分値も異なる。したがって、画像取得時の倍率が異なる場合には、その倍率によって積分値を補正する。例えば、視野全体に亘る画素値の積分値を該視野内の画素数で除算することにより、画像取得時の倍率によらない値とすることができる。
【0091】
また、1つの視野に限られるものではなく、複数の視野を繋ぎ合わせた複合視野であってもよい。複合視野について取得された蛍光画像および干渉画像に基づいて同様にして細胞核の個数を求めることができる。
【0092】
例えば、サンプルが細胞懸濁液である場合、まず、核分画によりサンプル中の細胞の細胞膜を溶解させ細胞核のみを抽出する。このようにして抽出された主として細胞核のみが集まった溶液を、予め容積が分かっている容器に注入する。細胞核のみが集まった溶液の量が1mLであり、これを十分に懸濁させた溶液の一部を10mm×10mm×1mm(高さ)の容器に注入したとすると、この容器の容積100μLは元のサンプルの1/10に相当する。この容器に入れられたサンプルのうち1mm×1mmの視野について蛍光画像および干渉画像を取得する。この視野に含まれるサンプル量は、元のサンプルの1/1000に相当する。
【0093】
そして、蛍光画像からマスク画像を作成し、干渉画像から光学的厚さ画像を作成する。さらに、マスク画像および光学的厚さ画像から積画像を作成して、この積画像の積分値VNを求める。この積分値VNを細胞核一個当たりの平均の積分値V1で除算することにより、視野にある細胞核の個数を求める。これにより求めた視野内の細胞核の個数を1000倍することにより、元のサンプルに含まれる細胞核の個数を求めることができる。細胞核の一個当たりに含まれるDNAの量は推測することが可能であるので、元のサンプルに含まれるDNAの総量をも求めることができる。
【0094】
従来の吸収法と比較すると、本実施形態では、測定結果に対するDNA以外の吸光物質の影響が抑制され、液体サンプルの場合であっても溶液自体の吸収の影響が抑制される。また、本実施形態では、濃度の低いサンプルに対しても精度よく測定することが可能である。
【0095】
従来の蛍光法と比較すると、本実施形態では、測定結果に対する蛍光の染まりムラや蛍光発現率のバラツキの影響が抑制され、測定結果に対する自家蛍光の影響も抑制される。また、本実施形態では、濃度が非常に高く複数の細胞核が上下に重なっている場合であっても精度よく測定することが可能であるとともに、自家蛍光やバックグラウンド蛍光が無視できなくなるような濃度の低いサンプルに対しても精度よく測定することが可能である。
【0096】
従来の染色細胞核を計数する方法と比較すると、本実施形態では、見かけ上融合した細胞核または分断された細胞核が存在している場合であっても、精度よく測定することが可能である。また、本実施形態では、細胞核の領域を画定するためのセグメンテーション処理が不要であるので、該処理に起因する誤差が無く、高速な処理が可能である。
【符号の説明】
【0097】
1A~1D…測定装置、2…干渉画像取得部、3…蛍光画像取得部、4…演算部、5…タイミング制御回路、11…光源、12…ビームスプリッタ、13,14…対物レンズ、15…参照ミラー、16…チューブレンズ、17…ビームスプリッタ、18…撮像器、21…ピエゾ素子、22…光検出器、23…位相制御回路、31…励起光源、32…ビームスプリッタ、33…励起光カットフィルタ、34…ダイクロイックミラー、35…蛍光透過フィルタ、36…撮像器、41…ミラー、42…ビームスプリッタ、70…容器、71…反射増強コーティング、72…液体、73…細胞核。