(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】吸水性ポリマーの分解方法、リサイクルパルプの製造方法、および、吸水性ポリマー分解剤キット
(51)【国際特許分類】
C08J 11/24 20060101AFI20221014BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20221014BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20221014BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20221014BHJP
【FI】
C08J11/24 ZAB
C08J11/16
B09B3/70
B09B101:67
(21)【出願番号】P 2018203029
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2018016746
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小林 信弘
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 一司
(72)【発明者】
【氏名】玉置 まり子
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206569(JP,A)
【文献】特開平11-172039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0305037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J11/00-11/28
B29B17/00-17/04
B09B1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性ポリマーと、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で吸水性ポリマーを分解する分解方法であって、
前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、(ii)亜硫酸水素(塩)および、(iii)亜硫酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記条件において、さらに酸化剤が存在し、
前記酸化剤が、過硫酸塩、過酸化物、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩、過炭酸塩、
過硼酸塩、および、過酢酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記還元剤の量が、6~70質量部であり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記遷移金属イオンを生成する化合物の量が0.005~15質量部であり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記酸化剤の量が、4~100質量部であり、
分解される前記吸水性ポリマー1質量部に対し、存在する前記水の量が100~1000質量部である、
分解方法。
【請求項2】
前記酸化剤が、過酸化物である、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記条件において、さらに重合禁止剤が存在する、請求項1または2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記重合禁止剤が、ヒドロキノンである、請求項3に記載の分解方法。
【請求項5】
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記重合禁止剤の量が0.1~50質量部である、請求項3または4に記載の分解方法。
【請求項6】
前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、および、(ii)亜硫酸水素(塩)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1~5のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項7】
前記遷移金属イオンが、鉄イオンまたは銅イオンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項8】
前記吸水性ポリマーの分解率が、分解処理液の温度25℃、処理時間1時間の分解処理条件下で、90.8%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項9】
繊維状物質および吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプを製造する製造方法であって、
前記混合物と、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で、前記混合物中の前記吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程、および、可溶化された前記吸水性ポリマーと、前記繊維状物質とを分離する工程、を含み、
前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、(ii)亜硫酸水素(塩)および、(iii)亜硫酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1つであり、
分解される前記吸水性ポリマー1質量部に対し、存在する前記水の量が100~1000質量部である、
リサイクルパルプの製造方法。
【請求項10】
還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物を含む、吸水性ポリマー分解剤キットであって、
前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、(ii)亜硫酸水素(塩)および、(iii)亜硫酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1つであり、
さらに酸化剤を含み、
前記酸化剤が、過硫酸塩、過酸化物、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩、過炭酸塩、
過硼酸塩、および、過酢酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記還元剤の量が、6~70質量部であり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記遷移金属イオンを生成する化合物の量が0.005~15質量部であり、
分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記酸化剤の量が、4~100質量部である、
吸水性ポリマー分解剤キット。
【請求項11】
さらに重合禁止剤を含む、請求項10に記載の吸水性ポリマー分解剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性ポリマーの分解方法に関する。また、本発明は、リサイクルパルプの製造方法、および、吸水性ポリマー分解剤キットに関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性ポリマー(SAP/Super Absorbent polymer)は、水膨潤性水不溶性の高分子ゲル化剤であり、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)、農園芸用の土壌保水剤、工業用の止水剤等、様々な用途に利用されている。
【0003】
吸水性ポリマーの主用途である紙おむつ等の衛生材料の原料としては、前述の吸水性ポリマーの他に、パルプ、不織布および接着剤等が挙げられる。この衛生材料は、使用後に種々の用途にリサイクルされることが知られており、例えば、原料を分別して再利用するマテリアルリサイクル、炭化して固形燃料とする燃料化、発酵させて堆肥として使用する堆肥化、洗浄・殺菌して建築資材向け素材として再利用等のリサイクルがある。
【0004】
一方、使用済衛生材料をリサイクルして得られるパルプを、衛生材料向けに再利用する試みがなされているが実現されていない。これは、リサイクルパルプ中に残存した吸水性ポリマーが、衛生基準が厳しい衛生材料向けに適合できないことが原因の一つである。
【0005】
この問題に対し、特許文献1は、リサイクル材料中の吸水した吸水性ポリマーに、多価金属塩(CaCl2)等の薬剤を投入して吸水性ポリマーを脱水・収縮させた後に、サイクロンを用いてパルプを回収する方法を開示している。
【0006】
特許文献2は、パルプ、吸水性ポリマーおよび水を含む混合物に電圧を印加し、吸水性ポリマーを不活化した後に、パルプを回収する方法を開示している。
【0007】
特許文献3~10は、吸水性ポリマー分解剤を添加することにより、吸水性ポリマーを分解して水に可溶化し、水不溶性のパルプと分離する方法を開示している。具体的には、特許文献3~4は、吸水性ポリマー分解剤として、酸化剤である過酸化水素を使用し、この酸化剤の存在下で加熱処理する方法(特許文献3)、および40℃以上の温度で加熱処理する方法(特許文献4)を開示している。特許文献5は、吸水性ポリマーを過硫酸塩水溶液で加熱処理する方法を開示している。特許文献6は、過ヨウ素酸塩を含む分解剤を用いて、吸水性ポリマーを分解する方法を開示している。特許文献7~8は、吸水性ポリマーに、アスコルビン酸および水を配合し、pH4~7.5の範囲にある吸水性ポリマー可溶化組成物とする方法(特許文献7)、およびpH4~7.5の条件下で水膨潤性架橋重合体を可溶化する方法(特許文献8)を開示している。特許文献9は、分解剤として、酸またはアルカリと酸化剤とを用いる吸水性ポリマーの分解方法を開示している。特許文献10は、酸化剤、ヒドロキノンおよび鉄または銅イオンの存在下で、吸水性ポリマーを分解する方法を開示している。
【0008】
また、特許文献11は、使用済衛生製品をオゾン水に浸漬し、吸水性ポリマーを分解する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-132598号公報
【文献】特開2017-189728号公報
【文献】特開平4-317785号公報
【文献】特開平4-317784号公報
【文献】特開平6-313008号公報
【文献】特開2001-316519号公報
【文献】特開平5-247307号公報
【文献】特開平5-247221号公報
【文献】特開平9-249711号公報
【文献】特開平11-172039号公報
【文献】特開2014-217835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、吸水性ポリマーを脱水・収縮することによるパルプ回収方法は、収縮した吸水性ポリマーの一部がパルプ中に残存するという問題がある。
【0011】
また、分解剤を用いて吸水性ポリマーを分解させる方法は、加熱処理および/または長時間の分解処理を要し、設備的、経済的な課題がある。加えて、近年、吸水性ポリマーは、加圧下での吸水能が求められており、これを高めるためにその表面を架橋したポリマーが主流となってきている。このような吸水性ポリマーは、分解され難く、従って、より反応性に優れた吸水性ポリマー分解剤が求められている。
【0012】
さらに、オゾン水を用いて吸水性ポリマーを分解する方法は、高価なオゾン発生装置、有毒な未反応オゾンガスの処理設備等、高額な設備投資が必要であるという問題がある。
【0013】
これらの問題に対し、本発明の一態様は、高温の加熱処理を必要とせずに、比較的穏やかな温度条件下で、吸水性ポリマーを分解することができる吸水性ポリマーの分解方法を提供することを主たる目的とする。すなわち、本発明の目的は、短時間の常温処理で吸水性ポリマーを分解することができる、生産性およびリサイクル性に優れた吸水性ポリマーの分解方法およびその利用技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、特に、還元剤と遷移金属イオンを生成する化合物との組み合わせが、高い吸水性ポリマー分解能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔16〕に記載の発明を含む。
〔1〕吸水性ポリマーと、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で吸水性ポリマーを分解する分解方法。
〔2〕前記条件において、さらに酸化剤が存在する、〔1〕に記載の分解方法。
〔3〕前記酸化剤が、過酸化物である、〔2〕に記載の分解方法。
〔4〕分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記酸化剤の量が1~200質量部である、〔2〕または〔3〕に記載の分解方法。
〔5〕前記条件において、さらに重合禁止剤が存在する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の分解方法。
〔6〕前記重合禁止剤が、ヒドロキノンである、〔5〕に記載の分解方法。
〔7〕分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記重合禁止剤の量が0.1~50質量部である、〔5〕または〔6〕に記載の分解方法。
〔8〕前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、および、(ii)亜硫酸水素(塩)からなる群より選択される少なくとも1つである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の分解方法。
〔9〕前記遷移金属イオンが、鉄イオンまたは銅イオンである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の分解方法。
〔10〕分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記還元剤の量が1~100質量部であり、前記遷移金属イオンを生成する化合物の量が0.001~50質量部である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の分解方法。
〔11〕分解される前記吸水性ポリマー1質量部に対し、存在する前記水の量が100~1000質量部である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の分解方法。
〔12〕前記吸水性ポリマーの加圧下における生理食塩水吸水倍率が5g/g以上である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の分解方法。
〔13〕繊維状物質および吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプを製造する製造方法であって、前記混合物と、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で、前記混合物中の前記吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程、および、可溶化された前記吸水性ポリマーと、前記繊維状物質とを分離する工程、を含む、リサイクルパルプの製造方法。
〔14〕還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物を含む、吸水性ポリマー分解剤キット。
〔15〕さらに酸化剤を含む、〔14〕に記載の吸水性ポリマー分解剤キット。
〔16〕さらに重合禁止剤を含む、〔14〕または〔15〕に記載の吸水性ポリマー分解剤キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、高温の加熱処理を必要とせずに、比較的穏やかな温度条件下で、吸水性ポリマーを分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に関して詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「~酸(塩)」は「~酸および/またはその塩」、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」をそれぞれ意味する。
【0018】
また、吸水性ポリマーの質量は、特に記載のない限り、固形分に換算した数値を表す。
【0019】
さらに、使用済紙おむつに含まれる吸水性ポリマーの質量が不明な場合は、未使用紙おむつに含まれる吸水性ポリマーの質量および使用済紙おむつ中の吸水性ポリマーの吸水倍率の一般値を考慮して、使用済紙おむつの総質量に対する吸水性ポリマーの含有量(固形分換算値)を3~9質量%と仮定して、本発明の方法を実施することができる。使用済紙おむつの使用状態により、実際の吸水性ポリマー含有量は大きく異なる可能性もあるが、実際の分解状況を確認しながら、当業者が適宜に分解条件を調整することができる。
【0020】
〔1〕吸水性ポリマーの分解方法
本発明の一実施形態において、吸水性ポリマーの分解方法は、吸水性ポリマー、還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、および、適宜に水が存在する条件下で吸水性ポリマーの分解を行う工程を含む。
【0021】
より具体的には、前記工程においては、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物を含む分解処理液を調製し、還元剤および遷移金属イオンの存在下で、吸水性ポリマーを分解する。分解処理液には、必要に応じてさらに酸化剤および/または重合禁止剤を添加してもよい。つまり、吸水性ポリマーの分解方法は、必要に応じて、さらに酸化剤および/または重合禁止剤を添加する工程を含む。
【0022】
本実施形態に係る吸水性ポリマーの分解方法は、吸水性ポリマーおよび繊維状物質などの紙おむつを構成する部材の製造過程、紙おむつの製造過程、実際に紙おむつ等が使用される過程、紙おむつ等の廃棄過程、または、吸水性ポリマーの分解工程において、吸水性ポリマーと、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物とが存在する条件下で吸水性ポリマーを分解する方法を包含する。
【0023】
また、本実施形態に係る吸水性ポリマーの分解方法は、吸水性ポリマーおよび繊維状物質などの紙おむつを構成する部材の製造過程、紙おむつの製造過程、実際に紙おむつ等が使用される過程、紙おむつ等の廃棄過程、または、吸水性ポリマーの分解工程において、吸水性ポリマーに上記の水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物を添加する工程を含む、吸水性ポリマーの分解方法を包含する。
【0024】
なお、上記水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物は、実際に紙おむつ等が使用される過程において、紙おむつ等に吸液される体液そのものに含まれるものであってもよい。
【0025】
(1-1)還元剤
本発明の一実施形態において、還元剤は、還元性を有する化合物であって、後述の遷移金属イオンを生成する化合物と併用することにより、ラジカルを発生する化合物である。
【0026】
このような還元剤としては、例えば、亜硫酸(塩)、亜硫酸水素(塩)、亜リン酸(塩)、次亜リン酸(塩)、チオ硫酸(塩)、ギ酸、シュウ酸、エリトルビン酸、アミン、アスコルビン酸(塩)またはその誘導体(例えば、L-アスコルビン酸(塩)、イソアスコルビン酸(塩)、並びに、アスコルビン酸のアルキルエステル)、リン酸エステルおよび硫酸エステル等が挙げられ、好ましくは、亜硫酸(塩)、亜硫酸水素(塩)、L-アスコルビン酸(塩)、イソアスコルビン酸(塩)が好適に使用される。
【0027】
本発明の一実施形態において、複数種類の還元剤を併用することが好ましい。複数種類の還元剤を併用すれば、吸水性ポリマーの分解率を上げることができる。併用される還元剤の組み合わせとしては、限定されず、上述した還元剤の少なくとも1つを含む組み合わせを挙げることができる。より具体的に、併用される還元剤の組み合わせとしては、(a)少なくともアスコルビン酸(塩)またはその誘導体を含む組み合わせ、(b)少なくとも亜硫酸水素(塩)を含む組み合わせ、および、(c)少なくともアスコルビン酸(塩)またはその誘導体と亜硫酸水素(塩)とを含む組み合わせ、を挙げることができる。
【0028】
また、本発明の分解方法により吸水性ポリマーを分解する際には、吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する還元剤の量が、1~100質量部であることが好ましく、2~90質量部であることがより好ましく、3~80質量部であることがさらに好ましく、4~70質量部であることが特に好ましい。複数種類の還元剤を併用する場合には、還元剤の合計量が上述した量であることが好ましい。還元剤の存在量が少なすぎると、分解能の低下をもたらし得る。また、還元剤の存在量が多すぎると、それに見合った効果の向上は認められず、むしろ分解コストの増加をもたらし得る。
【0029】
(1-2)遷移金属イオンを生成する化合物
本発明の一実施形態において、遷移金属イオンを生成する化合物は、水溶液中で遷移金属イオンを生成し、上述の還元剤と併用することにより、ラジカルを発生する化合物である。また、遷移金属イオンを生成する化合物は、後述の酸化剤と併用することにより、フェントン反応によってラジカルを発生する。
【0030】
このような化合物から生成する遷移金属イオンとしては、例えば、Cu2+、Ag+、Fe2+、Fe3+、Al3+、Ni2+、Mn2+等が挙げられ、好ましくは、鉄イオン(Fe2+)、銅イオン(Cu2+)であり、最も好ましくは鉄イオン(Fe2+)である。
【0031】
遷移金属イオンを生成する化合物としては、例えば、塩化物およびその水和物、例えば、塩化第一鉄等;有機酸塩およびその水和物、例えば、フマル酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、塩化第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、酢酸第一鉄等;硫酸塩およびその水和物、例えば、硫酸第一鉄等;等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の分解方法により吸水性ポリマーを分解する際には、吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する遷移金属イオンを生成する化合物の量が、0.001~50質量部であることが好ましく、0.01~40質量部であることがより好ましく、0.05~30質量部であることがさらに好ましく、0.1~15質量部であることが特に好ましい。遷移金属イオンを生成する化合物の存在量が少なすぎると、分解能の低下をもたらし得る。また、遷移金属イオンを生成する化合物の存在量が多すぎると、それに見合った効果の向上は認められず、むしろ分解コストの増加をもたらし得る。
【0033】
(1-3)酸化剤
本発明の一実施形態において、必要に応じて存在させる酸化剤は、酸化性を有する化合物であって、還元剤および/または遷移金属イオンを生成する化合物と併用することにより、ラジカルを発生する化合物である。本発明にとって酸化剤は必須ではないが、本発明に酸化剤を用いることによって、吸水性ポリマーの分解率を、より向上させることができる。すなわち、還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物および酸化剤の3剤の組み合わせが特に好ましい。
【0034】
このような酸化剤としては、例えば、過硫酸塩、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等;過酸化物、例えば、過酸化水素、アルキルハイドロパーオキサイド、過エステル等;過塩素酸塩、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等;過ヨウ素酸塩、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等;過炭酸塩、過硼酸塩、過酢酸等が挙げられ、好ましくは、過酸化水素および過硫酸塩が好適に使用される。
【0035】
また、本発明の分解方法により吸水性ポリマーを分解する際には、吸水性ポリマー100質量部に対し、必要に応じて存在する酸化剤の量が、1~200質量部であることが好ましく、2~150質量部であることがより好ましく、3~120質量部であることがさらに好ましく、4~100質量部であることが特に好ましい。酸化剤の存在量が少なすぎると、分解能の低下をもたらす場合がある。また、酸化剤の存在量が多すぎると、それに見合った効果の向上は認められず、むしろ分解コストの増加、および、混在するパルプ繊維の損傷をもたらし得る。
【0036】
(1-4)重合禁止剤
本発明の一実施形態において、必要に応じて存在させる重合禁止剤は、公知の任意の重合禁止剤を用いることができる。吸水性ポリマーを分解するに際し、還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、および、必要に応じて酸化剤に加えて、さらに必要に応じて重合禁止剤を存在させることにより、分解された吸水性ポリマーの分子量を下げることができるので、分解後の分解処理液の粘度を低下させて作業性を向上させることができる。機構については定かではないが、吸水性ポリマーの分解により生成したポリマーラジカル同士の再結合が抑制されることによるものと考えられる。
【0037】
このような重合禁止剤としては、例えば、キノン類、例えば、ヒドロキノン、メトキノン、ナフトキノン、アントラキノンおよびこれらのアルキル置換体等;フェノチアジン類、例えば、フェノチアジン、ビス-(α-メチルベンジル)フェノチアジン等;ニトロソ化合物、例えば、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン(塩)、p-ニトロソフェノール等;等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキノンおよびメトキノンが好適に使用される。
【0038】
また、本発明の分解方法により吸水性ポリマーを分解する際には、吸水性ポリマー100質量部に対し、必要に応じて存在させる重合禁止剤の量が、0.1~50質量部であることが好ましく、0.2~40質量部であることがより好ましく、0.3~30質量部であることがさらに好ましく、0.4~15質量部であることが特に好ましい。重合禁止剤の存在量が少なすぎると、ポリマーラジカルの再結合を抑制する十分な効果が得られ難い。また、重合禁止剤の存在量が多すぎると、上述の還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、および酸化剤から発生したラジカルそのものをトラップしてしまい、分解能の低下をもたらし得る。
【0039】
(1-5)吸水性ポリマー
本発明の分解方法により分解される「吸水性ポリマー」とは、水膨潤性水不溶性の高分子ゲル化剤であって、特に限定されないものの、10~1000倍の吸水倍率を有する慣用の吸水性ポリマーを指す。本発明における吸水性ポリマーは、例えば、水性液を吸収するための衛生材料に使用された吸水性ポリマーであってもよい。また、吸水性ポリマーの製造装置内に付着した吸水性ポリマー等の、廃棄処理を行う必要がある吸水性ポリマーも、本発明の分解方法によって分解して可溶化することができる。また、本発明における吸水性ポリマーには、水性液を吸収した後の膨潤ゲルも含まれる。本発明の一実施形態において、実際に人尿を吸収して膨潤した吸水性ポリマーは、本発明の分解方法により、特に分解・可溶化し易い傾向がある。
【0040】
より具体的には、「吸水性ポリマー」は、「水膨潤性」として、ERT441.2-02で規定されるCRCが5g/g以上の物性を満たすことが好ましい。
【0041】
なお、「ERT」は、欧州標準(ほぼ世界標準)の吸水性ポリマーの測定法(EDANA Recommended Test Methods)の略称である。本発明では、特に断りのない限り、ERT原本(2002年改定/公知文献)に準拠して、吸水性ポリマーの物性を測定する。
【0042】
また、「CRC」は、centrifuge Retention Capacity(遠心分離機保持容量)の略称であり、吸水性ポリマーの無加圧下吸水倍率(単に「吸水倍率」と称する場合もある)を意味する。具体的には、吸水性ポリマー0.2gを不織布製の袋に入れた後、大過剰の0.90質量%塩化ナトリウム水溶液中に30分間浸漬して自由膨潤させ、その後、遠心分離機(250G)で水切りした後の吸水倍率(単位;g/g)のことを指す。
【0043】
吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸(塩)系樹脂、ポリスルホン酸(塩)系樹脂、無水マレイン酸(塩)系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリアスパラギン酸(塩)系樹脂、ポリグルタミン酸(塩)系樹脂、ポリアルギン酸(塩)系樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸塩架橋重合体、(メタ)アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体のケン化物架橋体、デンプン-アクリル酸塩グラフト重合体およびその架橋物等が挙げられる。
【0044】
本発明の分解方法により分解される対象としては、多官能架橋剤で表面架橋が施されていることによって高いAAPを有する吸水性ポリマーも包含される。高いAAPを有する吸水性ポリマーは、衛生材料中で優れた吸水能を発揮するが、その表面架橋のために分解され難い。特に、例えば5g/g以上、好ましくは5~30g/gであり、より好ましくは6~28g/gであり、さらに好ましくは7~25g/gであるAAPを有する吸水性ポリマーは、リサイクルに際して、分解処理が困難であることが知られている。しかしながら、このような高いAAPを有する吸水性ポリマーであっても、短時間の常温処理で分解することができる。
【0045】
なお、「AAP」は、Absorption Against Pressureの略称であり、吸水性ポリマーの加圧下における生理食塩水吸水倍率を意味する。具体的には、吸水性ポリマー0.9gを大過剰の0.90質量%塩化ナトリウム水溶液に対して、1時間、4.83kPa(49g/cm2、0.7psi)荷重下で膨潤させた後の吸水倍率(単位;g/g)のことを指す。
【0046】
(1-6)分解条件
本発明の一実施形態において、吸水性ポリマーに対して存在させる水の量は、実質的に水を含まない乾燥状態の吸水性ポリマー1質量部に対し、100~1000質量部であり、好ましくは150~900質量部、より好ましくは200~800質量部、さらに好ましくは250~700質量部である。分解処理液中の水の量が少なく、吸水性ポリマー濃度が高すぎると、吸液して膨潤した吸水性樹脂のために、分解液の混合性が不十分となり、各分解成分(還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤、重合禁止剤)の分解能が低下する恐れがある。また、水の量が多く、吸水性ポリマー濃度が低すぎると、1バッチあたり、または、単位時間あたりの分解効率が低下し得る。また、分解効率が低下しない場合であっても、分解後の液には吸水性ポリマー分解物など、多くの有機物を含有している。よって、一般的な有機物含有廃水処理方法を用いて、水溶液の有機物含有量が環境基準値以下となるようにしないと、河川、海へ排出できない。よって、出来る限り廃水処理量を減らすことが望ましい。分解処理に供される吸水性ポリマーが水または尿等の水性液を既に吸収している場合には、添加する水の量は、前記質量部となる量から、吸収している水または水性液の量を差し引いた量とすることが望ましい。
【0047】
本発明の分解方法は、高温、例えば90℃を超える温度での加熱処理を必要とせずに、吸水性ポリマーを分解することができる任意の温度で行うことができる。具体的には、分解処理液の温度は、例えば0~90℃であってよく、好ましくは5~70℃であり、より好ましくは10~50℃であり、さらに好ましくは15~40℃であり、最も好ましくは常温(20~30℃)である。本発明の分解方法は、常温またはそれ未満の温度であっても、十分に高い分解能を示すため、必ずしも加熱処理を行う必要がない。従って、加熱およびその後の冷却に要するエネルギー、時間等を節約し得る点において好ましい。
【0048】
本発明における分解処理液のpHは特に限定されないが、酸性から弱アルカリ性の範囲とすることが好ましく、好ましくはpH2~9であり、より好ましくはpH2~8であり、pH3~8が最も好ましい。この範囲を外れると分解率が低下するおそれがある。
【0049】
分解処理は、分解処理液中の吸水性ポリマーが分解・可溶化するのに必要な任意の処理時間で行うことができる。具体的には、処理時間は、例えば30分間~12時間であり、好ましくは45分間~6時間であり、より好ましくは1~3時間である。処理時間をさらに短縮するために、分解処理液を加温してもよい。また、分解処理液の攪拌を適宜に行ってもよく、これにより、吸水性ポリマーと各分解成分との接触機会を増大させて、分解速度を高めることができる。
【0050】
分解処理液の調製方法、すなわち、吸水性ポリマーを含む水性液に、還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤および重合禁止剤の各分解成分を存在させる順番、または、水に、還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤および重合禁止剤の各分解成分を添加する順番に関しては、特に制限はない。分解処理液は、例えば、前記水性液または水に、(I)全分解成分を同時に、もしくは間隔を空けずにほぼ同時に投入してもよく、(II)各分解成分を順序不同に投入してもよく、(III)各分解成分を所定の順番にて投入してもよい。安定した効果が得られ易いとの観点から、(I)全分解成分を同時にまたはほぼ同時に投入して分解処理液を調製すること、または、(III)各分解成分を所定の順番にて投入して分解処理液を調製すること、が好ましい。前記各分解成分のうち、重合禁止剤を除く二分解成分以上が混合された時点で吸水性ポリマーの分解が始まるので、全分解成分は、吸水性ポリマーに同時に添加するか、もしくは間隔を空けずに添加することがより好ましい。それゆえ、より安定した効果を得る観点からは、重合禁止剤、還元剤および遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤の順に、吸水性ポリマーを含む水性液中に間隔を空けずに投入して、分解処理液を調製することが好ましい。
【0051】
上記(II)および(III)の場合、還元剤を一括して投入して分解処理液を調整してもよいが、安定した効果が得られ易いとの観点から、還元剤を分割して投入することが好ましい。より具体的に、1種類の還元剤を分割して逐次投入して分解処理液を調整してもよいし、複数種類の還元剤を別々に逐次投入して分解処理液を調整してもよい。より具体的に、還元剤として、アスコルビン酸(塩)またはその誘導体と、亜硫酸水素(塩)とを用いる場合、アスコルビン酸(塩)またはその誘導体よりも先に亜硫酸水素(塩)を投入して分解処理液を調整すれば、より安定した効果を得ることができる。
【0052】
本発明の一実施形態に係る分解方法によれば、比較的穏やかな温度条件下で、具体的には例えば常温下、短時間(30分間~12時間)で、吸水性ポリマーを高い分解率で分解することができる。具体的には、25℃、1時間の処理条件下で、70%以上、より好ましくは75%以上、さらには80%を超える高い分解率で吸水性ポリマーを分解することができる。
【0053】
なお、本発明における「分解率」とは、吸水性ポリマーを含む水性液に各分解成分を存在させ、もしくは吸水性ポリマーに分解処理液を添加し、25℃で1時間攪拌した後の分解処理液に関して、分解処理液中に残存する未分解の吸水性ポリマーの質量と、分解処理前の吸水性ポリマーの質量とから、以下の式により求められる値である。
分解率(%)={1-(未分解の吸水性ポリマーの質量)/(分解処理前の吸水性ポリマーの質量)}×100。
【0054】
すなわち、本発明の一態様によれば、加熱処理を行わず、短時間の常温処理で吸水性ポリマーを分解することができる吸水性ポリマーの分解方法を提供することができる。前記吸水性ポリマーの分解方法は、加熱処理を行わず、短時間の常温処理で吸水性ポリマーを分解することができるので、大掛かりな装置を必要とせず、また、従来の分解方法と比較してエネルギーコストも掛からない。所望により、加熱処理を行うことでさらに分解に要する時間を短縮することができる。
【0055】
〔2〕リサイクルパルプの製造方法
本発明はさらに、繊維状物質および吸水性ポリマーを含む混合物を、上述の分解方法に供した後に、可溶化された吸水性ポリマーと繊維状物質とを分離する工程を含む、リサイクルパルプの製造方法を提供する。
【0056】
具体的には、本発明のリサイクルパルプの製造方法は、繊維状物質(例えば、パルプ、不織布等)および吸水性ポリマーを含む混合物(好ましくは、紙おむつ等の衛生材料)に、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物が存在する条件下で、混合物中の吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程、および、可溶化された吸水性ポリマーと、繊維状物質とを分離する工程、を含む。
【0057】
吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程においては、還元剤、および遷移金属イオンを生成する化合物に加えてさらに、酸化剤および/または重合禁止剤を存在させてもよい。
【0058】
吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程において、各分解成分の存在量、分解処理液の温度、処理時間、水および各分解成分を存在させる順番等については、上述の吸水性ポリマーの分解方法において説明した内容と同じであるため、その説明を省略する。
【0059】
その後の吸水性ポリマーと繊維状物質とを分離する工程において、可溶化された吸水性ポリマー等の可溶性成分と、水不溶性の繊維状物質とを分離してリサイクルパルプを得る。分離手段としては、特に限定されず、可溶性物質と不溶性物質とを分離する慣用の固液分離手段、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
【0060】
分離回収した繊維状物質は、必要に応じて洗浄、脱水、乾燥等を行った後に、リサイクルパルプとして、所望の形態に加工し、再利用することができる。
【0061】
リサイクル対象の混合物としては、吸水性ポリマーと繊維状物質とを含む混合物であれば特に限定されず、例えば、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)、および、これらの衛生材料の中間分解物等が挙げられる。
【0062】
一方、分離工程においてパルプ等の不溶性物質と分離された吸水性ポリマー分解物を含む水溶液は、微生物分解、活性汚泥処理、または無機系凝集剤、高分子凝集剤等による沈殿処理等、一般的な有機物含有廃水処理方法を用いて、水溶液の有機物含有量が環境基準値以下となっていることを確認した上で、河川や海に排出することができる。
【0063】
本発明の製造方法によれば、比較的穏やかな温度条件下で、具体的には例えば常温下、短時間(30分間~12時間)の分解処理で、衛生材料中の吸水性ポリマーを可溶化することができるため、混在するパルプに損傷を与えることなく、高純度・高品質のリサイクルパルプを生産性良く製造することができる。
【0064】
本実施の形態のリサイクルパルプの製造方法は、以下のように構成することもできる。なお、各構成については、上述した“〔1〕吸水性ポリマーの分解方法”の欄、並びに、後述する“〔3〕吸水性ポリマー分解剤キット”の欄および実施例の欄に記載の構成を用いることができる。
<1>繊維状物質および吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプを製造する製造方法であって、前記混合物と、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で、前記混合物中の前記吸水性ポリマーを分解して可溶化する工程、および、可溶化された前記吸水性ポリマーと、前記繊維状物質とを分離する工程、を含む、リサイクルパルプの製造方法。
<2>前記条件において、さらに酸化剤が存在する、<1>に記載の製造方法。
<3>前記酸化剤が、過酸化物である、<2>に記載の製造方法。
<4>分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記酸化剤の量が1~200質量部である、<2>または<3>に記載の製造方法。
<5>前記条件において、さらに重合禁止剤が存在する、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>前記重合禁止剤が、ヒドロキノンである、<5>に記載の製造方法。
<7>分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記重合禁止剤の量が0.1~50質量部である、<5>または<6>に記載の製造方法。
<8>前記還元剤が、(i)アスコルビン酸(塩)またはその誘導体、および、(ii)亜硫酸水素(塩)からなる群より選択される少なくとも1つである、<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9>前記遷移金属イオンが、鉄イオンまたは銅イオンである、<1>~<8>のいずれかに記載の製造方法。
<10>分解される前記吸水性ポリマー100質量部に対し、存在する前記還元剤の量が1~100質量部であり、前記遷移金属イオンを生成する化合物の量が0.001~50質量部である、<1>~<9>のいずれか1項に記載の製造方法。
<11>分解される前記吸水性ポリマー1質量部に対し、存在する前記水の量が100~1000質量部である、<1>~<10>のいずれかに記載の製造方法。
<12>前記吸水性ポリマーの加圧下における生理食塩水吸水倍率が5g/g以上である、<1>~<11>のいずれかに記載の製造方法。
【0065】
〔3〕吸水性ポリマー分解剤キット
本発明はさらに、吸水性ポリマーに添加してこれを分解することができる吸水性ポリマー分解剤キットを提供する。
【0066】
具体的には、本発明の吸水性ポリマー分解剤キットは、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物を含む。また、吸水性ポリマー分解剤キットは、これらの成分に加えてさらに、酸化剤および/または重合禁止剤を含んでいてもよい。
【0067】
吸水性ポリマー分解剤キットに含まれる還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤、および重合禁止剤については、上述の吸水性ポリマーの分解方法において説明した内容と同じであるため、その説明を省略する。
【0068】
また、ポリマーを安定して分解することができるという効果を得るという観点から、吸水性ポリマー分解剤キットを構成する各分解成分(還元剤、遷移金属イオンを生成する化合物、酸化剤および重合禁止剤)は、吸水性ポリマーを分解させる直前に、当該吸水性ポリマーに添加、混合することが好ましい。
【0069】
本発明の吸水性ポリマー分解剤キットを用いることにより、比較的穏やかな温度条件下で、具体的には例えば常温下、短時間(30分間~12時間)で、吸水性ポリマーを高い分解率(25℃、1時間の処理条件下で、70%以上)で分解することができる。
【実施例】
【0070】
以下に示す実施例および比較例に従って本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も、本発明の範囲に含まれることとする。
【0071】
以下に示す実施例および比較例において、分解対象となる吸水性ポリマーとして、表1に示す諸性能〔CRC(生理食塩水の無加圧下吸水倍率)、AAP(生理食塩水の4.8kPaでの加圧下吸水倍率)〕を有する五種類の吸水性ポリマー(SAP1~5)を使用した。
【0072】
【0073】
なお、CRCおよびAAPは、下記方法に従って測定を行った。
【0074】
(a)CRC(生理食塩水の無加圧下吸水倍率)
吸水性ポリマーW(g)(約0.20g)を不織布製の袋(60mm×85mm、材質はEDANA ERT 441.1-99に準拠)に均一に入れてシールし、25±2℃に調温した生理食塩水中に浸漬した。
【0075】
30分間経過後に袋を引き上げ、遠心分離機(株式会社コクサン製、型式H-122小型遠心分離機)を用いて250G(250×9.81m/s2)で3分間水切りを行った後、袋の質量W2(g)を測定した。
【0076】
また、吸水性ポリマーを用いずに不織布製の袋のみで同様の操作を行い、その際の袋の質量W1(g)を測定した。得られた質量W1およびW2から、次式に従って、生理食塩水の無加圧下吸水倍率(g/g)を算出した。
無加圧下吸水倍率(g/g)={(質量W2(g)-質量W1(g))/W(g)}-1。
【0077】
(b)AAP(生理食塩水の4.8kPaでの加圧下吸水倍率)
400メッシュのステンレス製金網(目開き38μm)を円筒断面の一辺(底)に溶着させた内径60mmのプラスチック製の支持円筒を作製した。この支持円筒の底の前記金網上に、吸水性ポリマーW(g)(約0.90g)を均一に散布し、その上に、外径が60mmよりもわずかに小さく支持円筒との壁面に隙間が生じず、かつ、上下の動きは妨げられないピストン(cover plate)を載置した。そして、支持円筒、吸水性ポリマーおよびピストンの合計の質量W3(g)を測定した。
【0078】
次に、前記吸水性ポリマーに対して、ピストンの質量を含めて4.8kPaの荷重を均一に加えることができるようにその質量が調整された重りを前記ピストン上に載置し、測定装置一式を完成させた。
【0079】
直径150mmのペトリ皿の内側に、直径90mm、厚さ5mmのガラスフィルターを置き、25±2℃に調温した生理食塩水をガラスフィルターの上部面と同レベルになるように加えた。その上に直径9cmの濾紙(トーヨー濾紙(株)製、No.2)を1枚載せて表面が全て濡れるようにし、かつ過剰の生理食塩水を除いた。
【0080】
前記測定装置一式を前記濡れた濾紙上に載せ、生理食塩水を荷重下で吸収させた。生理食塩水の液面がガラスフィルターの上部から低下したら生理食塩水を追加し、液面レベルを一定に保った。1時間経過後に測定装置一式を持ち上げ、前記重りを取り除いて、支持円筒、膨潤した吸水性ポリマーおよびピストンの合計の質量W4(g)を測定した。得られた質量W3およびW4から、次式に従って、生理食塩水の4.8kPaでの加圧下吸水倍率(g/g)を算出した。
加圧下吸水倍率(g/g)=(質量W4(g)-質量W3(g))/W(g)。
【0081】
(実施例1)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して50質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)、およびヒドロキノン0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0082】
分解後の分解処理液を100メッシュの金網でろ過し、金網上に残った吸水性ポリマーの不溶物を脱イオン水で十分に洗浄した。次に、金網とともに前記不溶物を180℃のオーブンで2時間乾燥させ、下記式に従って吸水性ポリマーの分解率を求めた。その結果、分解率は99.9%であった。
吸水性ポリマーの分解率(%)=[1-{(金網+乾燥後の不溶物の質量)-(金網の質量)}/(分解前の吸水性ポリマーの質量)]×100。
【0083】
(実施例2)
分解させる吸水性ポリマーを「SAP2」に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は99.0%であった。
【0084】
(実施例3)
分解させる吸水性ポリマーを「SAP3」に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は92.5%であった。
【0085】
(実施例4)
分解させる吸水性ポリマーを「SAP4」に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は98.8%であった。
【0086】
(実施例5)
分解させる吸水性ポリマーを「SAP5」に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は96.9%であった。
【0087】
(実施例6)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.05g(吸水性ポリマーに対して25質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.285g(吸水性ポリマーに対して42.8質量%)、およびヒドロキノン0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0088】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は98.3%であった。
【0089】
(実施例7)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.02g(吸水性ポリマーに対して10質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.002g(吸水性ポリマーに対して1質量%)、30質量%過酸化水素水0.114g(吸水性ポリマーに対して17.1質量%)、およびヒドロキノン0.002g(吸水性ポリマーに対して1質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0090】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は91.4%であった。
【0091】
(参考例8)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.057g(吸水性ポリマーに対して8.6質量%)、およびヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0092】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は83.2%であった。
【0093】
(参考例9)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して50質量%)、および硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0094】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は86.1%であった。
【0095】
(実施例10)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して50質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、および30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0096】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は97.8%であった。
【0097】
(実施例11)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.40gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液8gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水92g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して250倍)、L-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して25質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して42.8質量%)、およびヒドロキノン0.01g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0098】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は99.4%であった。
【0099】
(実施例12)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.02g(吸水性ポリマーに対して10質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.002g(吸水性ポリマーに対して1質量%)、30質量%過酸化水素水0.114g(吸水性ポリマーに対して17.1質量%)、およびヒドロキノン0.002g(吸水性ポリマーに対して1質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で2時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0100】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は97.8%であった。
【0101】
(参考例13)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.057g(吸水性ポリマーに対して8.6質量%)、およびヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で3時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0102】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は93.7%であった。
【0103】
(実施例14)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して50質量%)、塩化銅(II)2水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)、およびヒドロキノン0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0104】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は90.8%であった。
【0105】
(参考例15)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.057g(吸水性ポリマーに対して8.6質量%)、ヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、および硫酸0.03g(吸水性ポリマーに対して15質量%)を一括して添加してpH約5の分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0106】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は94.2%であった。
【0107】
(参考例16)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.057g(吸水性ポリマーに対して8.6質量%)、ヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、および硫酸0.07g(吸水性ポリマーに対して35質量%)を一括して添加してpH約2の分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0108】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は88.3%であった。
【0109】
(実施例17)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、イソアスコルビン酸ナトリウム1水和物0.012g(吸水性ポリマーに対して6質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、30質量%過酸化水素水0.057g(吸水性ポリマーに対して8.6質量%)、およびヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0110】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は91.7%であった。
【0111】
(実施例18)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、L-アスコルビン酸0.03g(吸水性ポリマーに対して15質量%)、0.1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.01g(吸水性ポリマーに対して0.005質量%)、30質量%過酸化水素水0.03g(吸水性ポリマーに対して4.5質量%)、ヒドロキノン0.001g(吸水性ポリマーに対して0.5質量%)、および硫酸0.03g(吸水性ポリマーに対して15質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0112】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は93.4%であった。
【0113】
(実施例19)
吸水性ポリマーを膨潤させる溶液を、0.9質量%塩化ナトリウム水溶液から成人の人尿に変更し、室温で3日間放置することにより吸水性ポリマーを膨潤させた以外は、実施例12と同様の操作を行った。吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は99.6%であった。
【0114】
(実施例20)
市販の紙おむつ(大王製紙株式会社製「グーン(登録商標)」)に0.9質量%塩化ナトリウム水溶液200gを吸水させて1時間以上放置した。次に、吸水させた紙おむつをはさみで約5cm角に切断し、10Lポリバケツに入れた。
【0115】
次いで、この内容物に水5kg、L-アスコルビン酸5.0g、硫酸鉄(II)7水和物0.50g、30質量%過酸化水素水28.5g、およびヒドロキノン0.50gを一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を攪拌翼のついたスリーワンモーターにて、25℃で2時間攪拌した。
【0116】
攪拌終了後、液面に浮遊しているパルプの一部をすくい取り、脱イオン水で表面を軽く洗浄した後、105℃の熱風循環オーブンで1時間乾燥を行った。乾燥後のパルプの表面を観察したところ、吸水性ポリマーの付着は見られず、パルプと吸水性ポリマーとの十分な分離が確認された。
【0117】
(実施例21)
市販の紙おむつ(大王製紙株式会社製「グーン(登録商標)」)に0.9質量%塩化ナトリウム水溶液200gを吸水させて1時間以上放置した。次に、吸水させた紙おむつをはさみで約5cm角に切断し、10Lポリバケツに入れた。
【0118】
次いで、この内容物に水2.5kgおよび塩化カルシウム10.0gを添加し、攪拌翼のついたスリーワンモーターにて、25℃で15分間攪拌し、その後30分間放置した。
【0119】
得られた内容物を10メッシュの金網でろ過し、上記紙おむつの中間分解物として、メッシュ上の残留物を得た。得られた中間分解物を、別の10Lポリバケツに入れ、そこに、水5kg、L-アスコルビン酸0.50g、硫酸鉄(II)7水和物0.050g、30質量%過酸化水素水2.85g、およびヒドロキノン0.050gを一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を攪拌翼のついたスリーワンモーターにて、25℃で2時間攪拌した。
【0120】
攪拌終了後、液面に浮遊しているパルプの一部をすくい取り、脱イオン水で表面を軽く洗浄した後、105℃の熱風循環オーブンで1時間乾燥を行った。乾燥後のパルプの表面を観察したところ、吸水性ポリマーの付着は見られず、パルプと吸水性ポリマーとの十分な分離が確認された。
【0121】
(参考例22)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、亜硫酸水素ナトリウム0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)、および硫酸0.030g(吸水性ポリマーに対して15質量%)を添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で攪拌を行い、吸水性ポリマーの分解を開始した。
【0122】
撹拌開始30分後に亜硫酸水素ナトリウム0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)を添加し、さらに30分後にL-アスコルビン酸0.004g(吸水性ポリマーに対して2質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)を添加し、合計1.5時間吸水性ポリマーの分解を行った。
【0123】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は98.5%であった。
【0124】
(実施例23)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、亜硫酸水素ナトリウム0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)、および硫酸0.030g(吸水性ポリマーに対して15質量%)を添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で攪拌を行い、吸水性ポリマーの分解を開始した。
【0125】
撹拌開始30分後に亜硫酸水素ナトリウム0.005g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)を添加し、さらに30分後にL-アスコルビン酸0.004g(吸水性ポリマーに対して2質量%)、1質量%硫酸鉄(II)7水和物水溶液0.020g(吸水性ポリマーに対して0.10質量%)、30質量%過酸化水素水0.030g(吸水性ポリマーに対して4.5質量%)を添加し、合計1.5時間吸水性ポリマーの分解を行った。
【0126】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は99.9%であった。
【0127】
(実施例24)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」1.00gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液20gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水80g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して100倍)、L-アスコルビン酸0.25g(吸水性ポリマーに対して25質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.025g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、30質量%過酸化水素水1.43g(吸水性ポリマーに対して42.8質量%)、およびヒドロキノン0.025g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0128】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は96.3%であった。
【0129】
(比較例1)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、およびL-アスコルビン酸0.1g(吸水性ポリマーに対して50質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0130】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は11.7%であった。
【0131】
(比較例2)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、および硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0132】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は45.3%であった。
【0133】
(比較例3)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、および30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0134】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は8.2%であった。
【0135】
(比較例4)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)、およびヒドロキノン0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0136】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は8.7%であった。
【0137】
(比較例5)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、硫酸鉄(II)7水和物0.01g(吸水性ポリマーに対して5質量%)、および30質量%過酸化水素水0.57g(吸水性ポリマーに対して85.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0138】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は35.6%であった。
【0139】
(比較例6)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」0.20gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液4gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水96g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して500倍)、30質量%過酸化水素水0.75g(吸水性ポリマーに対して112.5質量%)、および硫酸0.075g(吸水性ポリマーに対して37.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を、低pH条件下(pH約2)、25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行った。
【0140】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は43.1%であった。
【0141】
(比較例7)
ビーカーに、吸水性ポリマー「SAP1」2.00gおよび0.9質量%塩化ナトリウム水溶液40gを入れ、1時間以上放置した(吸水倍率20倍)。次に、水60g(塩化ナトリウム水溶液と合わせて、吸水性ポリマーに対して50倍)、L-アスコルビン酸0.50g(吸水性ポリマーに対して25質量%)、硫酸鉄(II)7水和物0.05g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)、30質量%過酸化水素水2.85g(吸水性ポリマーに対して42.8質量%)、およびヒドロキノン0.05g(吸水性ポリマーに対して2.5質量%)を一括して添加して分解処理液を得た。得られた分解処理液を25℃で1時間攪拌して、吸水性ポリマーの分解を行ったところ、部分的にうまく混合できていないところが見られた。
【0142】
分解後の分解処理液について、実施例1と同様の操作を行って吸水性ポリマーの分解率を求めたところ、分解率は60.7%であった。
【0143】
実施例1~18、22~24および比較例1~7について、分解条件および分解率をまとめて以下の表2および表3に示す。
【0144】
【0145】
【0146】
表2に示すように、実施例1~18の分解処理液は、常温かつ比較的短時間という厳しい分解条件においても、高い分解率を示した。また、前記分解処理液は、吸水倍率(CRC、AAP)の異なる様々な吸水ポリマーに対して、いずれも高い分解率を示した。
【0147】
一方、比較例1~6の分解処理液は、常温かつ比較的短時間という厳しい分解条件では、実施例1~18の分解処理液に比べて、大幅に低い分解率しか示さなかった。
【0148】
実施例6、11、24および、比較例7から、吸水性ポリマーに対する水の比率には最適な範囲が存在することも確認された。
【0149】
また、実際の人尿を用いて吸水性ポリマーを膨潤させた実施例19においても、本発明の分解方法の分解効果が確認された。
【0150】
さらに、実施例20および21に示される通り、本発明のリサイクルパルプの製造方法により、衛生材料およびその中間分解物において、吸水性ポリマーとパルプとの十分な分離が確認された。
【0151】
表2に示すように、参考例22、実施例23の分解処理液は、常温かつ比較的短時間という厳しい分解条件においても、非常に高い分解率を示した。また、参考例22と実施例23との比較から、(i)酸化剤を用いることによって、吸水性ポリマーの分解率が上がること、(ii)分解処理液に対して還元剤を分割して添加することによって、吸水性ポリマーの分解率が上がること、および、(iii)複数種類の還元剤を併用することによって、吸水性ポリマーの分解率が上がること、が明らかになった。なお、上記(i)の効果は、参考例9と実施例10との比較からも理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明に係る吸水性ポリマーの分解方法は、高温の加熱処理を必要とせずに、比較的穏やかな温度条件下で、高い分解率を示すため、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)およびその中間分解物からリサイクルパルプを製造するリサイクル分野等において好適に利用することができる。