(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】軟化食品製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/70 20160101AFI20221014BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20221014BHJP
A23L 13/40 20160101ALI20221014BHJP
【FI】
A23L13/70
A23L13/00 A
A23L13/40
(21)【出願番号】P 2018211463
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】松下 功
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199766(WO,A1)
【文献】特開2004-166572(JP,A)
【文献】特開2004-229550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施
し、
前記浸透工程において、前記肉類の全体に均一に前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の内部に電圧を印加して前記肉類の少なくとも内部を加熱する軟化食品製造方法。
【請求項2】
肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類の全体に均一に前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の少なくとも内部を加熱し、
前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施する軟化食品製造方法。
【請求項3】
肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類中に分散する前記酵素の量が当該肉類の内部よりも表面側で多くなるように前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の内部に電圧を印加して前記肉類の少なくとも内部を加熱する軟化食品製造方法。
【請求項4】
肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類中に分散する前記酵素の量が当該肉類の内部よりも表面側で多くなるように前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の少なくとも内部を加熱
し、
前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施す
る軟化食品製造方法。
【請求項5】
前記通電加熱工程において、前記肉類の表面の少なくとも一部を冷却しながら前記肉類に電圧を印加して、前記肉類の内部の温度が前記冷却した表面部分よりも高くなるように、前記肉類を加熱する請求項
2又は4に記載の軟化食品製造方法。
【請求項6】
前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施する請求項
1又は3に記載の軟化食品製造方法。
【請求項7】
前記酵素は、プロテアーゼである請求項1~
6のいずれか一項に記載の軟化食品製造方法。
【請求項8】
前記浸透工程では、前記酵素を含有する処理液に前記肉類を浸漬させて、当該肉類に前記酵素を浸透させ、
前記処理液は、前記酵素の濃度が0.001質量%以上1質量%以下である請求項1~
7のいずれか一項に記載の軟化食品製造方法。
【請求項9】
前記肉類は、鳥獣肉である請求項1~
8のいずれか一項に記載の軟化食品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉類からなる軟化食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化に伴い、嚥下障害を有する者や咀嚼力が低下した者が増加していることから、歯茎や舌で容易に潰すことができる軟化食品(所謂、やわらか食)の開発が求められている。従来の軟化食品は、食材を細かく刻む、ミキサー等ですり潰すといった手法を用いて製造されていた。しかしながら、これらの手法で製造した軟化食品は、食材が原形をとどめておらず、見た目や食味が元の食材と比較して悪化していることで、軟化食品を食する者の食欲の減退を招いていた。
【0003】
そこで、近年、食品業界では、食材の形状をできる限り維持したまま食材を軟化させる方法の一つとして、酵素によりタンパク質などの基質を分解して食材を軟化させる方法に注目が集まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、魚介類を原材料とする加工食品を製造する方法が開示されており、当該特許文献1に開示された方法によれば、魚介類中の酵素基質を所定の分解酵素の作用によって分解させる工程を行うことで、形状を保持した柔軟な食感を有する加工食品を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、肉類は、酵素処理によって基質の分解が進み過ぎると、未処理の肉類と異なった味や食感を伴う食味となるため、軟化食品を食する者は、未処理の肉類の食味との違いに違和感を抱き、食欲が減退するという問題がある。
【0007】
また、酵素を浸透させた肉類全体を酵素の活性温度まで加熱する場合、煮る、火で炙るといった一般的に用いられることの多い加熱方法を使用すると、表面から内部に向けて徐々に熱が伝達されるため、表面側から順に基質の分解が進むことになる。そのため、内部における基質の分解が十分進行するだけの処理時間を確保しようとした場合、表面側の基質の分解が進み過ぎて、処理後の肉類の見た目や形状が悪化するため、軟化食品を食する者は、未処理の肉類との見た目や形状の違いにも違和感を抱き、食欲が減退するという問題もある。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、見た目や形状、食味をできる限り維持しつつ、肉類を原材料とする軟化食品を製造できる方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る軟化食品製造方法は、肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類中の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類の全体に均一に前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の内部に電圧を印加して前記肉類の少なくとも内部を加熱する方法である。
【0010】
上記特徴構成によれば、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加することで電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱によって肉類が酵素の活性温度まで加熱され、肉類が酵素の活性温度まで加熱されることで、酵素による分解作用によって肉類中の基質が分解し、肉類が所定の硬さに軟化する。このように、上記特徴構成によれば、肉類に電圧を印加することで、一般的な加熱方法を使用した場合と異なり、肉類全体を均一に加熱したり、内部を優先的に加熱したりすることが可能となるため、肉類全体を軟化させる際に表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
また、上記特徴構成によれば、全体に均一に酵素が浸透した肉類の内部を加熱することができるため、酵素による基質の分解が肉類内部で優先的に進み易くなり、上記と同様に、表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
上記特徴構成によれば、肉類の内部に電圧を印加するようにしていることで、電圧が印加された内部にはジュール熱が発生する一方、電圧の印加されていない表面側にはジュール熱が発生しないため、表面側は内部と比較して温度上昇が緩やかとなる。したがって、肉類の内部の温度が表面側よりも高い状態を維持したままで、肉類を加熱することができるため、酵素による分解作用によって肉類中の基質を分解して、肉類を所定の硬さに軟化させることができ、また、表面側の分解が先に進行することに起因する食味や見た目、形状の悪化を防止することができる。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明に係る軟化食品製造方法は、肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類の全体に均一に前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の少なくとも内部を加熱し、
前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施する方法である。
【0012】
上記特徴構成によれば、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加することで電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱によって肉類が酵素の活性温度まで加熱され、肉類が酵素の活性温度まで加熱されることで、酵素による分解作用によって肉類中の基質が分解し、肉類が所定の硬さに軟化する。このように、上記特徴構成によれば、肉類に電圧を印加することで、一般的な加熱方法を使用した場合と異なり、肉類全体を均一に加熱したり、内部を優先的に加熱したりすることが可能となるため、肉類全体を軟化させる際に表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
また、上記特徴構成によれば、全体に均一に酵素が浸透した肉類の内部を加熱することができるため、酵素による基質の分解が肉類内部で優先的に進み易くなり、上記と同様に、表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
ところで、酵素を肉類全体に均等に浸透させた状態で、肉類の内部を加熱し、表面側の基質が十分分解される前に加熱を停止すれば、肉類はその表面側がある程度の硬さを有したものとなるため、取り扱いの容易さや見た目の点で優れたものとなる。したがって、表面側がある程度の硬さを有した状態となるように肉類の内部を加熱し、実際に食する直前に、表面側を加熱して全体を軟化させれば、食する直前まで肉類の見た目や形状が損なわれず、使い勝手も向上する。
更に、酵素が不均一に浸透している肉類について、その内部を優先的に加熱した場合、表面側が十分に加熱された状態になるまでに時間を要すると、内部の基質が過度に分解され、食味が損なわれるという問題が生じ得る。また、このような問題は、肉類全体に均一に酵素を浸透させれば解消することができるが、肉類全体に均一に酵素を浸透させるためには、例えば、凍結乾燥した後に酵素を浸透させるといった手法を用いる必要があり、軟化食品の製造コストが増大するという別の問題が生じる。そこで、酵素が不均一に浸透している場合には、内部を加熱した後に改めて当該肉類の表面側を加熱することで、肉類の食味や見た目、形状などの悪化を抑えながら、肉類全体を軟化することが可能となり、また、凍結乾燥等を行うことに伴う製造コストの増大も抑えられる。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明に係る軟化食品製造方法は、肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類中に分散する前記酵素の量が当該肉類の内部よりも表面側で多くなるように前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の内部に電圧を印加して前記肉類の少なくとも内部を加熱する方法である。
【0014】
上記特徴構成によれば、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加することで電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱によって肉類が酵素の活性温度まで加熱され、肉類が酵素の活性温度まで加熱されることで、酵素による分解作用によって肉類中の基質が分解し、肉類が所定の硬さに軟化する。このように、上記特徴構成によれば、肉類に電圧を印加することで、一般的な加熱方法を使用した場合と異なり、肉類全体を均一に加熱したり、内部を優先的に加熱したりすることが可能となるため、肉類全体を軟化させる際に表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
ところで、肉類中に分散する酵素の量が内部よりも表面側で多くなっているような場合には、通電加熱によって肉類全体を均一に加熱した場合、酵素の分散量が多い表面側の方が速く分解が進み、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じる可能性がある。したがって、酵素の分散量が内部よりも表面側の方が多くなっている場合には、肉類の内部を加熱することが好ましい。
更に、上記特徴構成によれば、肉類の内部に電圧を印加するようにしていることで、電圧が印加された内部にはジュール熱が発生する一方、電圧の印加されていない表面側にはジュール熱が発生しないため、表面側は内部と比較して温度上昇が緩やかとなる。したがって、肉類の内部の温度が表面側よりも高い状態を維持したままで、肉類を加熱することができるため、酵素による分解作用によって肉類中の基質を分解して、肉類を所定の硬さに軟化させることができ、また、表面側の分解が先に進行することに起因する食味や見た目、形状の悪化を防止することができる。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明に係る軟化食品製造方法は、肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、
前記肉類に、当該肉類の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、
前記酵素を浸透させた前記肉類に電圧を印加して、前記肉類を前記酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施し、
前記浸透工程において、前記肉類中に分散する前記酵素の量が当該肉類の内部よりも表面側で多くなるように前記酵素を浸透させ、
前記通電加熱工程において、前記肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、前記肉類の少なくとも内部を加熱し、
前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施する方法である。
【0016】
上記特徴構成によれば、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加することで電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱によって肉類が酵素の活性温度まで加熱され、肉類が酵素の活性温度まで加熱されることで、酵素による分解作用によって肉類中の基質が分解し、肉類が所定の硬さに軟化する。このように、上記特徴構成によれば、肉類に電圧を印加することで、一般的な加熱方法を使用した場合と異なり、肉類全体を均一に加熱したり、内部を優先的に加熱したりすることが可能となるため、肉類全体を軟化させる際に表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。
ところで、肉類中に分散する酵素の量が内部よりも表面側で多くなっているような場合には、通電加熱によって肉類全体を均一に加熱した場合、酵素の分散量が多い表面側の方が速く分解が進み、軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じる可能性がある。したがって、酵素の分散量が内部よりも表面側の方が多くなっている場合には、肉類の内部を加熱することが好ましい。
また、ところで、酵素を肉類全体に均等に浸透させた状態で、肉類の内部を加熱し、表面側の基質が十分分解される前に加熱を停止すれば、肉類はその表面側がある程度の硬さを有したものとなるため、取り扱いの容易さや見た目の点で優れたものとなる。したがって、表面側がある程度の硬さを有した状態となるように肉類の内部を加熱し、実際に食する直前に、表面側を加熱して全体を軟化させれば、食する直前まで肉類の見た目や形状が損なわれず、使い勝手も向上する。
更に、酵素が不均一に浸透している肉類について、その内部を優先的に加熱した場合、表面側が十分に加熱された状態になるまでに時間を要すると、内部の基質が過度に分解され、食味が損なわれるという問題が生じ得る。また、このような問題は、肉類全体に均一に酵素を浸透させれば解消することができるが、肉類全体に均一に酵素を浸透させるためには、例えば、凍結乾燥した後に酵素を浸透させるといった手法を用いる必要があり、軟化食品の製造コストが増大するという別の問題が生じる。そこで、酵素が不均一に浸透している場合には、内部を加熱した後に改めて当該肉類の表面側を加熱することで、肉類の食味や見た目、形状などの悪化を抑えながら、肉類全体を軟化することが可能となり、また、凍結乾燥等を行うことに伴う製造コストの増大も抑えられる。
【0017】
また、本発明に係る軟化食品製造方法の更なる特徴構成は、前記通電加熱工程において、前記肉類の表面の少なくとも一部を冷却しながら前記肉類に電圧を印加して、前記肉類の内部の温度が前記冷却した表面部分よりも高くなるように、前記肉類を加熱する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、肉類の表面の少なくとも一部を冷却した状態で電圧を印加するようにしていることで、冷却されている箇所は、発生したジュール熱に起因する温度上昇が緩やかになる。したがって、肉類の内部の温度が冷却されている部分よりも高い状態を維持したまま、肉類を加熱することができ、酵素による分解作用によって肉類を所定の硬さに軟化させることができるとともに、表面側の分解が先に進行することに起因する食味や見た目、形状の悪化を防止することができる。
【0021】
ところで、酵素を肉類全体に均等に浸透させた状態で、肉類の内部を加熱し、表面側の基質が十分分解される前に加熱を停止すれば、肉類はその表面側がある程度の硬さを有したものとなるため、取り扱いの容易さや見た目の点で優れたものとなる。したがって、表面側がある程度の硬さを有した状態となるように肉類の内部を加熱し、実際に食する直前に、表面側を加熱して全体を軟化させれば、食する直前まで肉類の見た目や形状が損なわれず、使い勝手も向上する。
【0022】
更に、酵素が不均一に浸透している肉類について、その内部を優先的に加熱した場合、表面側が十分に加熱された状態になるまでに時間を要すると、内部の基質が過度に分解され、食味が損なわれるという問題が生じ得る。また、このような問題は、肉類全体に均一に酵素を浸透させれば解消することができるが、肉類全体に均一に酵素を浸透させるためには、例えば、凍結乾燥した後に酵素を浸透させるといった手法を用いる必要があり、軟化食品の製造コストが増大するという別の問題が生じる。そこで、酵素が不均一に浸透している場合には、内部を加熱した後に改めて当該肉類の表面側を加熱することで、肉類の食味や見た目、形状などの悪化を抑えながら、肉類全体を軟化することが可能となり、また、凍結乾燥等を行うことに伴う製造コストの増大も抑えられる。
【0023】
即ち、本発明に係る軟化食品製造方法の更なる特徴構成は、前記通電加熱工程を行った後、前記肉類の表面側を加熱する加熱工程を実施する点にある。
【0024】
また、本発明に係る軟化食品製造方法の更なる特徴構成は、前記酵素は、プロテアーゼである点にある。
【0025】
上記酵素は、タンパク質加水分解酵素であり、タンパク質が酵素基質である。したがって、上記特徴構成によれば、タンパク質を分解して肉類を柔らかくでき、適度な硬さを有した軟化食品を製造することができる。
【0026】
また、本発明に係る軟化食品製造方法の更なる特徴構成は、前記浸透工程では、前記酵素を含有する処理液に前記肉類を浸漬させて、当該肉類に前記酵素を浸透させ、
前記処理液は、前記酵素の濃度が0.001質量%以上1質量%以下である点にある。
【0027】
酵素を含有する処理液を肉類に浸漬させる場合、処理液中の酵素濃度が高すぎると、酵素自身の味が軟化食品の味に強く現れすぎたり、分解作用が強くなり過ぎて形状の維持が困難となったりする一方、酵素濃度が低すぎると、分解作用が弱くなり過ぎて処理に要する時間が増大する。上記特徴構成によれば、処理液中の酵素の濃度が0.001質量%以上1質量%以下であることで、酵素自身の味が軟化食品の味に強く現れることもなく、分解作用が適度な強さとなることで適切な処理時間で形状が維持された軟化食品を製造することができる。
【0028】
ところで、肉類がとりわけ鳥獣肉である場合、当該鳥獣肉は、酵素処理によって基質の分解が進み過ぎると、レバーのような独特な苦みやペースト状の食感・舌触りといった、所謂レバー感を伴う独特の食味となり、また、表面側の基質の分解が進み過ぎた場合の見た目や形状の悪化が著しいため、軟化食品を食する者は、未処理の鳥獣肉との食味や見た目、形状の違いにより違和感を抱き易く、食欲が減退し易い。したがって、本発明に係る軟化食品製造方法は、肉類が鳥獣肉である場合に特に好適に採用できる。
【0029】
即ち、本発明に係る軟化食品製造方法の更なる特徴構成は、前記肉類は、鳥獣肉である点にある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る軟化食品製造方法を説明するための模式図である。
【
図2】別実施形態に係る軟化食品製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】別実施形態に係る軟化食品製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】通電加熱試験で使用する通電加熱装置の概略構成を示す図である。
【
図5】酵素に関する反応温度と可溶性タンパク質濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】比較例1及び2の経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1の経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例2の経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例1及び実施例2における通電加熱後のサンプルの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る軟化食品製造方法について説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
[軟化食品製造方法]
本発明の実施形態に係る軟化食品製造方法は、肉類からなる軟化食品を製造する方法であって、肉類に、当該肉類中の所定の基質を分解する酵素を浸透させる浸透工程と、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加して、肉類を酵素の活性温度まで加熱する通電加熱工程とを実施する。
【0033】
この軟化食品製造方法によれば、酵素を浸透させた肉類に電圧を印加することで電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱によって肉類が酵素の活性温度まで加熱され、肉類が酵素の活性温度まで加熱されることで、酵素による分解作用によって肉類中の基質が分解され、肉類が所定の硬さに軟化する。
【0034】
実施形態に係る軟化食品製造方法で使用する酵素は、肉類中の基質を分解することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、プロテアーゼである。尚、プロテアーゼとしては、ブロメラインF(活性温度65~75℃)、パパインW-40(活性温度70~90℃)、アロアーゼ(登録商標)XA-10(活性温度60~75℃)、アロアーゼAP-10(活性温度50~65℃)、プロチンNY100(活性温度50~55℃)、プロチンSD-AY10(活性温度70~80℃)、ヌクレイシン(登録商標)(活性温度55~65℃)、アルカラーゼ(登録商標)、ビオプラーゼ(登録商標)OP(活性温度50~60℃)、ビオプラーゼSP-20(活性温度60~70℃)、オリエンターゼ(登録商標)22BF(活性温度60~70℃)、オリエンターゼAY(活性温度50~60℃)、オリエンターゼOP、プロテアーゼA「アマノ」SD(活性温度40~50℃)、プロテアーゼP「アマノ」SD(活性温度40~50℃)、プロテアーゼM「アマノ」G、スミチーム(登録商標)AP、スミチームACP-G、スミチームLP-G、スミチームFP-G、スミチームFLAP-G、スミチームDPP-G、デナプシン2P、デナチーム(登録商標)プロテアーゼYP-SS、デナチームAP(活性温度45~55℃)、デナチームPMC SOFTER(活性温度40~60℃)、パンチダーゼ(登録商標)NP-2(活性温度50~60℃)、サモアーゼ(活性温度50~60℃)、コラゲナーゼ(活性温度30~50℃)、ニューラーゼF3G(活性温度40~50℃)を例示することができる。また、酵素は、1種又は相互に阻害しないものを2種以上組み合わせて使用することができる。また、酵素は、植物由来であっても微生物由来であってもよく、植物由来のものと微生物由来のものとを組み合わせて使用しても良い。
【0035】
浸透工程においては、具体的に、酵素を含有する処理液に肉類を浸漬させて、当該肉類に酵素を浸透させることができる。尚、処理液としては、酵素を水やアルコールなどを含む水系の溶媒に分散させたものを用いることができ、当該処理液は、酵素の他、pH調整剤や調味料(塩、醤油、酒類、みりん、砂糖、ソース等)、増粘剤など各種添加剤を含有していても良い。
【0036】
また、処理液中の酵素の濃度は、いずれであってもよいが、酵素の濃度が0.001質量%未満であると、酵素の分解作用が弱くなり過ぎて処理に要する時間が増大する一方、1質量%より高いと、酵素自身の味が製造される軟化食品の味に強く現れすぎる、或いは、酵素の分解作用が強くなり過ぎて形状の維持が困難になる。したがって、処理液中の好適な酵素の濃度は、0.001質量%以上1質量%以下である。
【0037】
通電加熱工程において印加する電圧の大きさについては、原材料となる肉類の大きさや成分、使用する酵素の種類や量、使用する処理液中の酵素の濃度などに応じて、適宜設定すれば良い。具体的に、印加する電圧の大きさは、肉類中に過電流が流れないような大きさに調整すれば良い。
【0038】
浸透工程において、肉類の全体に均一に酵素を浸透させ、通電加熱工程において、肉類の全体に電圧を印加して、当該肉類の全体を均一に加熱することもできる。
【0039】
即ち、
図1に示すように、浸透工程において、酵素を肉類全体に渡って均一に浸透させた後(均一浸透)、通電加熱工程において、全体に均一に酵素が浸透した肉類の全体に電圧を印加し、肉類全体を均一に酵素の活性温度まで加熱することで(均一加熱)、酵素による基質の分解が肉類全体で均一に進むため、表面側の分解が進み過ぎるといった問題が生じ難く、製造された軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が発生し難い。尚、通電加熱工程を行った後、製造した軟化食品を一般的な調理のために加熱しても良い。
【0040】
尚、酵素を均一に浸透させる方法としては、肉類を凍結乾燥した後、酵素を含む処理液に浸漬させて、肉類に酵素を浸透させる方法を例示することができる。
【0041】
また、浸透工程において、肉類の全体に均一に酵素を浸透させ、通電加熱工程において、肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、肉類の少なくとも内部を加熱することもできる。
更に、肉類の内部を加熱した後に加熱工程を行い、肉類の表面側を加熱することもできる。
【0042】
この場合、
図2に示すように、浸透工程において、酵素を肉類全体に渡って均一に浸透させた後(均一浸透)、通電加熱工程において、内部が表面側よりも高温となるように内部を加熱することで(不均一加熱(内部加熱))、内部の方が表面側よりも酵素による分解が進み易くなるため、表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、製造された軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。また、表面側がある程度の硬さを有した状態(即ち、表面側の基質の分解が十分に進んでいない状態)となるように肉類の内部を加熱した後、加熱工程として、実際に食する直前に、煮る、蒸す、焼くといった加熱方法や通電加熱によって表面側を加熱(不均一加熱(外部加熱))して全体を軟化させれば、食する直前まで見た目や形状が損なわれず、使い勝手も向上する。
【0043】
尚、酵素を均一に浸透させる方法として、上記凍結乾燥を用いる方法を採用することができる。また、肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、肉類の内部を加熱する方法としては、肉類の表面の少なくとも一部を冷却しながら肉類に電圧を印加して、肉類の内部の温度が冷却した表面部分よりも高くなるように、肉類を酵素の活性温度まで加熱する方法や、肉類の内部に電圧を印加して、肉類の内部温度が少なくとも表面の一部の温度よりも高くなるように、肉類を酵素の活性温度まで加熱する方法を例示することができる。
【0044】
肉類の表面の一部を冷却しながら電圧を印加する場合、肉類の表面の少なくとも一部を冷却した状態で電圧を印加するようにしていることで、冷却されている箇所は、発生したジュール熱に起因する温度上昇が緩やかになる。したがって、肉類の内部の温度が冷却されている部分よりも高い状態を維持したまま、肉類を活性温度まで加熱することができる。
【0045】
また、肉類の内部に電圧を印加する場合、例えば、後端側が被覆された一対の電極の先端を肉類に挿し込み、一対の電極間に電圧を印加することで、肉類の内部に優先的に電圧を印加することができ、このようにすることで、電圧が印加された内部にはジュール熱が発生する一方、電圧の印加されていない表面側にはジュール熱が発生しないため、表面側は内部と比較して温度上昇が緩やかとなる。したがって、肉類の内部の温度が表面側よりも高い状態を維持したままで、肉類を活性温度まで加熱することができる。
【0046】
また、浸透工程において、肉類中に分散する酵素の量が肉類の内部よりも表面側で多くなるように酵素を浸透させ、通電加熱工程において、肉類の内部の温度が表面側の温度よりも高くなるように、肉類の少なくとも内部を加熱することができる。
更に、肉類の内部を加熱した後に加熱工程を行い、肉類の表面側を加熱することもできる。
【0047】
この場合、
図3に示すように、浸透工程において、肉類中に内部よりも表面側で浸透する量が多くなるように酵素を浸透させた後(不均一浸透)、通電加熱工程において、内部が表面側よりも高温となるように内部を加熱することで(不均一加熱(内部加熱))、肉類中に分散している酵素の量が内部よりも表面側で多くなっているにもかかわらず、内部の方が表面側よりも酵素による分解が進み易くなるため、表面側の分解が進み過ぎるという問題が生じ難く、製造された軟化食品の食味や見た目、形状が悪化するという問題が生じ難い。また、内部を加熱した後、加熱工程として、煮る、蒸す、焼くといった加熱方法や通電加熱によって表面側を加熱(不均一加熱(外部加熱))することで、食味や見た目、形状などの悪化を抑えながら、肉類全体を軟化することが可能となり、酵素を均一に浸透させるための処理(凍結乾燥など)を行う必要がなくなるので、コストの増大を抑えられる。
【0048】
そして、この軟化食品製造方法は、肉類が鳥獣肉である場合に特に好適に採用できることを実験により確認している。
【0049】
尚、本願において「鳥獣肉」とは、鶏肉や鴨肉、牛肉、馬肉、羊肉、猪肉などの鳥類及び獣類の肉であれば、特に種類は限定されないが、魚介類の肉は含まないものとする。一方、本願において「肉類」とは、鳥獣肉だけでなく、魚介類の肉も含む広い概念である。
【0050】
[通電加熱工程で用いる装置]
図4に、上記軟化食品製造方法における通電加熱工程で使用する装置の一例として、鳥獣肉の上面及び下面を冷却した状態で電位を印加することができる装置(以下、単に「通電加熱装置」という)を示した。
【0051】
図4に示すように、通電加熱装置1は、天板、背板及び相互に対向する2枚の側板からなるフレーム2や、天板、背板及び2枚の側板に囲まれた空間に、上下方向で相互に対向するように配設された2つの板状の上側電極3及び下側電極4、これら2つの電極3,4間に電位を印加するためのジュール加熱装置5などを備えている。尚、ジュール加熱装置5に代えて、AC電源を使用することもできる。
【0052】
下側電極4は、フレーム2の下端側において背板及び2枚の側板に固定されており、上側電極3は、下側電極4に接近離反できるように上下に移動自在に設けられている。また、これら2つの電極3,4は、保冷剤や氷を接触させたり、水冷システムを取り付けたりすることで、冷却されるようになっており、鳥獣肉を挟んだ状態で当該鳥獣肉に電圧を印加できるようになっている。
【0053】
[酵素の分解活性に関する確認試験]
酵素の分解活性に関する温度依存性を確認するための試験を行った。
(試験方法)
細かく切断した牛スジ肉を液体窒素で凍結した後、凍結粉砕機を用いて粉砕した。粉砕した牛スジ肉40mg/Lに40μg/mlの酵素(パパインW-40)を0.1容量%添加した。酵素反応の反応液は、20mMクエン酸ナトリウム(pH5)、20mMクエン酸ナトリウム(pH6)を用いた。また、酵素反応は、30℃、50℃、70℃についてそれぞれ2時間実施した後、酵素反応を停止させるために95℃下に20分放置した。可溶性タンパク質の測定は、Lowry法を用いた。
【0054】
(試験結果)
図5は、反応温度と可溶性タンパク質濃度との関係を示すグラフである。同図から分かるように、pHの違いにかかわらず、反応温度が高くなることで、可溶性タンパク質の濃度も高くなっていることから、パパインW-40の活性は、温度が高いほど高くなることが確認できた。このことから、パパインW-40と同様に、他のタンパク質加水分解酵素の活性についても、温度が高いほど高くなるものと推定される。
【0055】
[通電加熱試験]
通電加熱により、鳥獣肉の内部が表面側よりも温度が高い状態を維持したまま、全体を酵素の活性温度まで加熱でき、軟化食品を製造できることを確認するための試験を行った。
(サンプルの作製)
国産牛のモモ肉(約100g)を3%NaCl水溶液が100cc入ったジッパー付保存袋内に入れ、タンパク質加水分解酵素であるブロメラインF(天野エンザイム株式会社製)をモモ肉に対して0.01質量%又は0.1質量%添加した後、冷蔵庫内で約1日間浸漬したものをサンプルとした。また、ブロメラインFを添加していないものもサンプルとして準備した。
【0056】
(試験方法)
上述した通電加熱装置を用いて、各サンプルに対する通電加熱を行った。尚、試験では、下側電極及び上側電極としてチタン製の板を用いた。下側電極と上側電極とでサンプルのモモ肉を挟み、ジュール加熱装置(株式会社羽野製作所製)によって20V、2kHzの電圧を印加して、肉中を流れる電流で発生するジュール熱によってサンプルを加熱し、加熱前及び加熱中の適当なタイミングで、ファイバー温度計(フォトンコントロール社製)を用いて肉の内部及び表面付近の温度を計測した。
【0057】
ブロメラインFを添加したサンプルについては、上側電極上にジッパー付保存袋に氷を入れたものを置き、氷を適宜追加、補充しながら上側電極を冷却した状態で、電圧を印加した状態と電圧を印加していない状態とを一定間隔で繰り返して加熱した。0.01質量%のブロメラインFを添加したサンプルを使用した場合を実施例1、0.1質量%のブロメラインFを添加したサンプルを使用した場合を実施例2とする。
【0058】
尚、予備試験として、ブロメラインFを添加していないサンプルを使用し、通電加熱により、サンプルの内部が表面側よりも温度が高い状態を作り出せるか否かを確認するための試験を行った。具体的に、ブロメラインFを添加していないサンプルについては、上側電極を冷却した状態で電圧を印加してサンプルを加熱した場合と、上側電極を冷却していない状態で電圧を印加してサンプルを加熱した場合の双方について試験を行った。尚、予備試験においても、電圧を印加した状態と印加していない状態とを一定間隔で繰り返すことでサンプルを加熱した。上側電極を冷却した状態で行った場合を比較例1、上側電極を冷却していない状態で行った場合を比較例2とする。
【0059】
(試験結果)
図6~
図8は、電圧の印加を開始してからの経過時間とサンプルの内部及び表面周辺の温度との関係を示したグラフであり、
図6は比較例1及び2、
図7は実施例1、
図8は実施例2についてのグラフである。
【0060】
図6から分かるように、電圧を印加した状態と印加していない状態とを繰り返すことで、サンプル全体の温度を酵素の活性温度の範囲内に調整することができたが、上側電極の冷却の有無によって、サンプルの内部と表面周辺との間の温度差の変化に違いが見られた。比較例1及び2は、いずれの場合もサンプルの内部と表面周辺とで温度差が得られており、20分経過後には同じ温度に収束しているが、収束するまでに要する時間は、上側電極を冷却している比較例1の場合の方が長くなっている。尚、比較例1において、最終的に内部と表面周辺と同じ温度に収束しているが、これは氷が解けて通電加熱の途中で電極の冷却が不十分になったことに起因するものと考えられる。以上のことから、通電加熱を行っている間、電極を十分に冷却しながら電圧を印加した状態と印加していない状態とを一定間隔で繰り返すことによって、内部の温度が表面周辺の温度よりも高く、且つ、内部及び表面周辺の温度が酵素の活性温度の範囲内にある状態を維持できることが確認できた。
【0061】
また、
図7及び
図8から分かるように、上側電極を冷却した状態で、電圧を印加した状態と印加していない状態とを一定間隔で繰り返すことによって、添加した酵素の濃度にかかわらず、サンプルの内部と表面周辺とで温度差が得られ、サンプル全体の温度が酵素の活性温度の範囲内に収まることを確認できた。
【0062】
酵素の分解活性に関する確認試験及び通電加熱試験の結果から、上側電極を冷却した状態でサンプルに電圧を印加して加熱すれば、内部の温度が表面周辺の温度よりも高く、且つ、内部及び表面周辺の温度が酵素の活性温度の範囲内にある状態が維持され、温度が高い内部の方が酵素の活性が高くなって表面周辺よりも分解が速く進む結果、表面周辺の分解が先に進行して見た目や形状が悪化するという問題の発生を抑えつつ、サンプル全体を軟化できることが確認できた。
【0063】
図9は、実施例1及び2のサンプルを示す写真である。同図中左側が実施例1のサンプル、同図中右側が実施例2のサンプルであり、また、同図中の左右上側は各実施例における上側電極側の面を表に向けた状態のサンプル、左右下側は各実施例における下側電極側の面を表に向けた状態のサンプルである。同図から分かるように、各実施例ともに、冷却された上側電極側の面と内部とが適度に分解されてふっくらとしている。一方、下側電極側の面は、特に酵素の濃度が高い実施例2のサンプルでは、内部よりも表面周辺において分解が進み、見た目や形状が悪化しており、通電加熱を行う際に、内部の温度を表面側の温度よりも高い状態を維持することの重要性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の軟化食品製造方法は、見た目や形状、食味をできる限り維持しつつ、肉類を原材料とする軟化食品を製造するのに用いられる。
【符号の説明】
【0065】
1 通電加熱装置
2 フレーム
3 上側電極
4 下側電極
5 ジュール加熱装置