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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20221014BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20221014BHJP
   H02K 7/06 20060101ALN20221014BHJP
   F16H 25/20 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
F16H25/24 G
F16B5/02 E
H02K7/06 A
F16H25/20 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018219157
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020085102
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】秦 将人
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 正明
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/084312(WO,A1)
【文献】特開2008-175358(JP,A)
【文献】特開平08-135655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16B 5/02
H02K 7/06
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線方向に移動可能なスライダと、
前記スライダに連結されたカバーと、
前記カバーの第1の部分と前記スライダの一部との間に設けられたコイル状ばねと、
前記カバーの第2の部分と前記スライダの前記一部との間に、被駆動部材を保持する保持部を備える駆動装置。
【請求項2】
前記被駆動部材が前記保持部に保持されていない第1の状態と、前記被駆動部材が前記保持部に保持される第2の状態とを有し、前記直線方向における前記コイル状ばねの長さは、前記第1の状態においては第1の長さを有し、前記第2の状態においては前記第1の長さよりも短い第2の長さを有している請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記カバーの前記第1の部分及び前記第2の部分と、前記スライダの前記一部との間の相対位置が変化可能である請求項1または2のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記カバーの前記第1の部分及び前記第2の部分は、前記スライダの前記一部に対して少なくとも前記直線方向の成分を含む方向に移動する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記カバーは、前記スライダに軸により揺動可能に支持されており、前記カバーが前記スライダに対して揺動することで、前記カバーは前記スライダに対して少なくとも前記直線方向の成分を含む方向に移動する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記スライダおよび前記カバーの少なくとも一方には、前記コイル状ばねの位置を決める凸部または凹部が設けられた請求項1乃至5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記コイル状ばねの付勢力が8N~12Nの範囲に含まれる値である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動部材を直線方向に移動させる駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転力を直線運動に変換し、被駆動部材を直線方向に移動させる駆動装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開番号WO2018/084312A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような駆動装置では、被駆動部材の保持強度が重要となる。また、製造コストや被駆動部材の交換の容易性といった点も重要となる。被駆動部材を保持する構造について、特許文献1には特に記載されていない。
【0005】
例えば、接着やねじ止めにより被駆動部材を駆動装置に固定する方法が考えられるが、これらの方法は、作業性が悪く製造コストが上昇する。また、被駆動部材の交換が簡単に行えない。このような背景において、本発明は、直線方向に被駆動部材を駆動する駆動装置における被駆動部材の保持を接着や締結によらず高い強度で行う技術を得ることを発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、直線方向に移動可能なスライダと、前記スライダに連結されたカバーと、前記カバーの第1の部分と前記スライダの一部との間に設けられたコイル状ばねと、前記カバーの第2の部分と前記スライダの前記一部との間に、被駆動部材を保持する保持部を備える駆動装置である。
【0007】
本発明において、前記被駆動部材が前記保持部に保持されていない第1の状態と、前記被駆動部材が前記保持部に保持される第2の状態とを有し、前記直線方向における前記コイル状ばねの長さは、前記第1の状態においては第1の長さを有し、前記第2の状態においては前記第1の長さよりも短い第2の長さを有している態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記カバーの前記第1の部分及び前記第2の部分と、前記スライダの前記一部との間の相対位置が変化可能である態様が挙げられる。本発明において、前記カバーの前記第1の部分及び前記第2の部分は、前記スライダの前記一部に対して少なくとも前記直線方向の成分を含む方向に移動する態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記カバーは、前記スライダに軸により揺動可能に支持されており、前記カバーが前記スライダに対して揺動することで、前記カバーは前記スライダに対して少なくとも前記直線方向の成分を含む方向に移動する態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、前記スライダおよび前記カバーの少なくとも一方には、前記コイル状ばねの位置を決める凸部または凹部が設けられた態様が挙げられる。本発明において、前記コイル状ばねの付勢力が8N~12Nの範囲に含まれる値である態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、直線方向に被駆動部材を駆動する駆動装置における被駆動部材の保持を接着や締結によらず高い強度で行う技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の斜視図である。
図2】実施形態の上面図である。
図3】実施形態の前面図である。
図4】実施形態の側断面図である。
図5】実施形態の側面図である。
図6】圧縮コイルばねの特性を示すグラフである。
図7】板ばねの特性を示すグラフである。
図8】実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1の実施形態
(概要)
図1は駆動装置100の斜視図であり、図2は駆動装置100の上面図であり、図3は駆動装置100の前面図であり、図4は駆動装置100の側断面図であり、図5は駆動装置100の側面図である。
【0014】
駆動装置100は、直線方向(Y軸方向)に移動可能なスライダ120と、スライダ120に連結されたカバー130と、カバー130の第1の部分である前壁部131とスライダ120の一部であるコイルばね接触部124との間に設けられたコイル状ばねであるコイルばね126と、カバー130の第2の部分である後壁部132とスライダ120の一部であるコイルばね接触部124との間に、被駆動部材を保持する保持部133を備えている。
【0015】
駆動装置100は、被駆動部材が保持部133に保持されていない第1の状態と、被駆動部材が保持部133に保持される第2の状態とを有し、前記直線方向(Y軸方向)におけるコイルばね126の長さは、前記第1の状態においては第1の長さL1を有し、前記第2の状態においては前記第1の長さL1よりも短い第2の長さL2を有する。
【0016】
カバー130の前壁部131及び後壁部132と、スライダ120のコイルばね接触部124との間の相対位置は変化可能である。また、カバー130の前壁部131及び後壁部132は、スライダ120のコイルばね接触部124に対して少なくとも前記直線方向(Y軸方向)の成分を含む方向に移動可能である。
【0017】
カバー130は、スライダ120に軸134を介して連結されている。すなわち、カバー130は、スライダ120に軸134により揺動可能に支持されており、カバー130がスライダ120に対して揺動することで、カバー130はスライダ120に対して駆動軸方向(Y軸方向)に移動する。より詳細にいうと、スライダ120に対するカバー130の移動は揺動(微小回転)である。しかしながら、この移動をベクトルで考えると、当該ベクトルはY軸方向とZ軸方向の成分を有している。よって、スライダ120に対するカバー130の軸134を中心とする揺動では、同時にZ軸方向への移動も生じるが、Y軸方向への移動も生じる。
【0018】
スライダ120に対するカバー130の移動の方向は、少なくともY軸方向のベクトル成分を有していればよい。すなわち、コイルばね接触部124に対して前壁部131および後壁部132が動くことができる方向は、少なくともY軸方向の成分を有していればよい。よって、上記のカバー130がX軸を軸として揺動することで、スライダ120に対してY軸方向への変位が生じる形態の他に、スライダ120に対してカバー130がY軸方向に直線的に移動する形態も可能である。
【0019】
また、スライダ120には、コイルばね126の位置を決める凸部125が設けられ、カバー130には、コイルばね126の位置を決める凹部136が設けられている。
【0020】
(構成)
図1には、駆動装置100が示されている。駆動装置100は、図示しない被駆動部材をY軸方向に直線移動させる。駆動装置100は、骨格となる土台プレート101を備えている。土台プレート101が駆動装置100を固定する対象に締結部材(ネジ等)により固定される。土台プレート101は、金属板により構成されている。土台プレート101の材質は、加工が行い易く、また強度が確保できるのであれば特に限定されない。
【0021】
土台プレート101の前後(Y軸方向における両端)は、上方(Z軸方向)に折れ曲がった構造とされ、土台プレート101と一体となった前フレーム101aと後フレーム101bが形成されている。前フレーム101aには、駆動軸であるリードスクリュー102の一端が軸受105により回転自在な状態で保持されている。リードスクリュー102は、外周に雄ねじ102aが形成された円柱状の部材である。リードスクリュー102は、後フレーム101bを回転自在な状態で貫通し、その先端は後述するモータ107のモータフレーム110に軸受106により回転自在な状態で保持されている。
【0022】
また、前フレーム101aと後フレーム101bには、丸棒状のガイド部材103,104が固定されている。ガイド部材103,104は、後述するスライダ120の動きを駆動軸(リードスクリュー102)の軸方向(Y軸方向)に規制するガイドして機能する。
【0023】
後フレーム101bには、モータ107が固定されている。モータ107は、クローポール型PMステッピングモータであるが、モータの形式は限定されない。モータ107は、プレート108に固定され、プレート108が後フレーム101bにネジ116により固定されている。モータ107のロータ109の軸中心には、リードスクリュー102が固定されている。この構造により、モータ107のロータ109が回転すると、リードスクリュー102が回転する。
【0024】
リードスクリュー102の雄ねじ102aの部分には、内側に雌ネジが形成されたナット111,112が噛み合った状態で結合されている。リードスクリュー102とナット111,112は、通常のボルトとナットの関係と同様な状態で噛合っている。
【0025】
ナット111,112には、ナット111,112と共に駆動軸の軸方向(Y軸方向)で移動するスライダ120が係合している。スライダ120は、樹脂製であり、駆動軸の軸方向(Y軸方向)で離間した脚部121,122を備えている。脚部121,122のそれぞれは、左右方向(X軸方向)に離間した一対のガイド保持部を備え、この一対のガイド保持部のそれぞれにガイド部材103と104が摺動可能な状態で貫通している。
【0026】
スライダ120の内側には、窪み123が形成され、窪み123にナット111,112が納められている。ナット111のY軸負の方向の端面は、スライダ120に接触している。また、ナット112のナット111と反対側の端面がコイルばね113を介してスライダ120の内側に間接的に接触している。コイルばね113は圧縮状態とされ、ナット112と脚部122とが離れる方向にコイルばね113による付勢力が働いている。
【0027】
ナット112は、スライダ120に固定されていないが、ナット112は軸方向から見て矩形であり、その上面がスライダ120に接触し、スライダ120に対して回転できない状態とされている。ナット111もナット112と同じ形状であり、その上面がスライダ120に接触し、スライダ120に対して回転できない状態とされている。
【0028】
スライダ120には、樹脂製のカバー130が軸134により当該軸134を中心に回転が自在な状態で保持されている。つまり、カバー130は、スライダ120に対して、X軸方向から見て、軸134を支点として左右に揺動する状態でスライダ120に支持(保持)されている。この揺動の範囲は、僅かであるが、この揺動により、スライダ120に対するカバー130のY軸上における相対位置が変化する。つまり、平行移動ではないが、スライダ120に対してカバー130がY軸上で移動する。カバー130の内側には空間135が形成され、空間135を2分するように、スライダ120から上方(Z軸方向)に延在したコイルばね接触部124が位置している。
【0029】
コイルばね接触部124には、駆動軸であるリードスクリュー102の軸方向に突出する凸部125が設けられ、凸部125は、コイルばね126の内側に嵌め込まれている。凸部125をコイルばね126に嵌め込むことで、コイルばね接触部124(スライダ120)に対するコイルばね126の位置が決められる。
【0030】
コイルばね126の先端はカバー130の前壁部131の内側に接触している。また、前壁部131のコイルばね126が接触する部分には凹部136が形成されている。凹部136にコイルばね126の先端が嵌め込まれることで、前壁部131(カバー130)に対するコイルばね126の位置が決められる。
【0031】
また、カバー130は後壁部132を有している。後壁部132は、前壁部131に対してリードスクリュー102の軸方向上で離れた位置に設けられている。後壁部132と、スライダ120のコイルばね接触部124との間の隙間が被駆動部材(図示せず)を保持する保持部133となる。この例において、被駆動部材は、ヘッドマウントディスプレイの投影部材として機能する板状の半透過ミラーである。もちろん、被駆動部材は半透過ミラーに限定されない。
【0032】
スライダ120は、上方向に突出する柱状のリミットスイッチ接触部127を備えている。リミットスイッチ接触部127がリミットスイッチ128に接触することで、スライダ120の駆動軸上(リードスクリューの軸上)における基準位置が電気的に検出される。リミットスイッチ128は、後フレーム101bの上端からカバー130の方向に延在したリミットスイッチ取付台114に固定されている。
【0033】
リミットスイッチ128からの出力端子とモータ107に設けられた駆動信号端子が接続端子基板115に半田接続されている。接続端子基板115に外部からのモータ駆動信号とリミットスイッチ128からの検出信号を伝送するコネクタが接続される。
【0034】
(被駆動部材を保持する仕組み)
保持部133に図示しない被駆動部材が保持されていない状態(第1の状態)において、保持部133のY軸方向の隙間寸法は、被駆動部材のY軸方向の寸法よりも小さい。また、この状態において、コイルばね126は圧縮されており、この圧縮により発生する反発力により、図4,5の視点から見て、カバー130は反時計回り方向に付勢されている。
【0035】
保持部133に被駆動部材が上方(Z軸正の方向)から押し込まれると、コイルばね接触部124と後壁部132との間の隙間(保持部133のY軸方向の隙間)が押し拡げられ、両者が離れる方向に力が働く。この結果、カバー130は、軸134を中心に図4における時計回り方向に僅かに回転する。この結果、前壁部131とコイルばね接触部124とがY軸方向で近づき、コイルばね126がY軸方向で更に圧縮される。圧縮されたコイルばね126は、前壁部131とコイルばね接触部124とをY軸方向で離そうとする反発力を発生し、それにより、コイルばね接触部124と後壁部132との間を狭めようとする付勢力が生じ、コイルばね接触部124と後壁部132との間に被駆動部材が挟まれる。つまり、コイルばね126の反発力により、コイルばね接触部124と後壁部132との間に被駆動部材が挟まれる。この状態が第2の状態となる。
【0036】
すなわち、保持部133に被駆動部材が押し込まれることで、カバー130の内側でコイルばね接触部124が前壁部131に近づき、コイルばね126がY軸方向で圧縮される。この圧縮により、コイルばね126の反発力が生じ、カバー130をスライダ120から離そうとする付勢力が発生する。この際、コイルばね接触部124に後壁部132を押し付けようとする付勢力が生じ、保持部133に被駆動部材が挟まれる。コイルばね接触部124と後壁部132の間で被駆動部材を挟む込み力は、圧縮されたコイルばね126の反発力に由来し、コイルばね126の反発力に比例したものとなる。
【0037】
ここで、図示しない被駆動部材が保持部133に保持されていない第1の状態におけるY軸方向(駆動方向)におけるコイルばね126の長さL1と、図示しない被駆動部材が保持部133に保持されている第2の状態におけるY軸方向(駆動方向)におけるコイルばね126の長さL2には、L1>L2の関係がある。
【0038】
(動作)
モータ107に駆動信号を供給し、モータ107を回転させると、リードスクリュー102が回転する。ナット111,112は、スライダ120に対して回転できないので、リードスクリュー102が回転すると、ねじの作用により、リードスクリュー102に対してナット111,112を軸方向(Y軸方向)に動かそうとする駆動力が発生する。この結果、ナット111,112は、リードスクリュー102の延長方向に沿って、リードスクリュー102に対して相対的に移動する。
【0039】
例えば、リードスクリュー102が回転することで、ナット111,112がリードスクリュー102に対して、Y軸負の方向(図4の左の方向)に動くとする。この場合、ナット111のY軸負の方向の端面がスライダ120に接触し、ナット111はスライダ120に対してY軸負の方向に動けないので、スライダ120は、Y軸負の方向に移動しようとするナット111に押され、ナット111と一緒にY軸負の方向に動く。
【0040】
また、上記の場合と逆の方向にリードスクリュー102が回転すると、ナット111,112がリードスクリュー102に対して、Y軸正の方向に動く。この際、スライダ120は、コイルばね113を介してナット112によってY軸正の方向に押され、Y軸正の方向に動く。
【0041】
すなわち、モータ107を回転させることで、スライダ120がY軸上を直線移動する。この際、スライダ120に保持された被駆動部材もスライダ120と共にY軸上を直線移動する。
【0042】
上記のスライダ120の移動の際、ナット112を支点として、コイルばね113によりスライダ120をY軸正の方向に押す付勢力が働いている。この付勢力により、リードスクリュー102に対するスライダ120の保持状態のガタが抑えられ、リードスクリュー102の回転によるスライダ120の軸方向での移動制御の精度が確保されている。
【0043】
ナット111を軽圧入、しばり嵌め等によってスライダ120に固定してもよい。2つあるナットの一方をスライダ120に固定することで、固定する側のナットとスライダ120の接触面積が増えてスライダ120とリードスクリュー102の間のガタが抑制される。また、ナット112とスライダ120との間にコイルばね113を配置することで、ナット112とスライダ120の間のガタが抑制される。
【0044】
(実測値)
図6に圧縮コイルばねの実測データを示す。図6(A)は、第1のコイルばねの特性である。図6(B)は、第2のコイルばねの特性である。2つのコイルばねは、構成する線材に違いがあり、(B)の方が強い反発力を生じる仕様とされている。図7(C)~(E)は、比較のための板ばねの特性である。ここで、測定対象のコイルばねと板ばねは、図1の構造を有する試作品の駆動装置に装着可能な寸法およびデザインとした。なお、tは板ばねの厚みである。
【0045】
図6および図7に示す各グラフの横軸は、無負荷状態からのばねの変位長である。縦軸は、当該ばねが発生する反発力である。図6および図7のグラフから判るように、同じ変位長における反発力がコイルばねは相対的に大きく、板ばねは相対的に小さい。
【0046】
本実施の形態における被駆動部材の厚み寸法は1.4mm程度であり、その際のばねの変位長も同程度となる。そして、被駆動部材を挟む力は、8N~12N程度が適切であることが実験により判明している。この、被駆動部材を挟む力を示す数値の適切な範囲は、被駆動部材が大きくなれば上記の範囲より大きくなり、被駆動部材が小さければ上記の範囲より小さくなる。図6(A)には、1.4mmの圧縮で約8Nの反発力が得られる場合が示され、図6(B)には、1.4mmの圧縮で約11N弱の反発力が得られる場合が示されている。
【0047】
上記の要求に対して、図7(A)~(C)に示す板ばねのサンプルでは、反発力が足りず、対応が困難である。より厚みのある板ばねを用いることで、反発力の問題は克服できる可能性があるが、そうすると、板ばねを支える部分に加わる力が過大となる問題が発生する。また、高反発力の板ばねは、変形可能な範囲が狭く、被駆動部材の厚みの大小に対応できない。
【0048】
すなわち、仮に、コイルばね126の代わりに板ばねを利用した場合、板ばねの両端をカバー130の側面内側に固定し、板ばねの中央(腹)の部分をコイルばね接触部124に接触させる構造となる。この場合、上述した実験データから示唆されるように、板ばねの板厚を大きくすれば要求される反発力が得られる可能性はある。しかしながら、板ばねは両端で支えるので、カバー130の局所的な狭い部分に大きな負荷が加わり、樹脂製のカバー130の変形や破損の問題が顕在化する。また、これに関連して、長期使用における信頼性が低下する。
【0049】
この点、コイルばね126を採用した場合は、大きな反発力が得られる。また、カバー130への接触面積を大きく確保できるので、カバー130に加わる負担を低減できる。
【0050】
また、板バネに比較してコイルばねは、弾性変形時のストローク(変位幅)を大きくとれる。被駆動部材によっては、被駆動部材の装着時にコイルばね接触部124に対するカバー130の変位が大きくなる場合が有り得る。このような場合、板ばねではストロークが確保できず対応できないが、コイルばねであれば対応できる。
【0051】
(優位性)
コイルばね126の反発力を利用してコイルばね接触部124と後壁部132との間に被駆動部材を挟むことで、被駆動部材を強く保持できる。また、被駆動部材はコイルばね126の反発力により弾性的に挟まれて保持されるので、保持部133への被駆動部材の組み付けや保持部133からの被駆動部材の取り外しも容易である。
【0052】
また、コイルばね126は、前壁部131(カバー130)への接触面積を大きく確保でき、ばねの反発力を大きく設定しても前壁部131を構成する部材に加わる負担が小さく、カバー130の変形や破損が抑制される。
【0053】
(その他)
駆動装置100は、ねじ機構を用いてスライダ120の軸方向における駆動を行っているが、シリンダや各種のリニアアクチュエータの駆動によってスライダを直線運動させる機構にも本発明を適用することができる。
【0054】
また、駆動装置100では、スライダ120に対して、カバー130が軸134を支点として揺動することで、スライダ120に対してカバー130が軸方向(Y軸の方向)に動き、それによりコイルばね接触部124と後壁部132との間の隙間の寸法(保持部133のY軸方向の寸法)が変化する構造であるが、スライダ120に対して、カバー130が軸方向(Y軸方向)に平行移動する形態も可能である。この場合、スライダ120の側に設けられた溝やレール等のガイドに沿ってカバー130が軸方向で移動可能な構造が採用される。
【0055】
図4の構造において、ナット111と112の間に圧縮したコイルばねを配置してもよい。また、図4の構造において、コイルばね113を配置せず、ナット111と112の間に圧縮したコイルばねを配置してもよい。これらの構造によれば、ナット111とスライダ120およびリードスクリュー102間のガタの発生が抑制される。
【0056】
図4の構造において、ナット111をスライダ120に固定せず、ナット112をスライダ120に固定し、両ナット間に圧縮したコイルばねを配置した構造も可能である。また、この構造において、コイルばね113を配置せず、ナット111と112の間に圧縮したコイルばねを配置する構造も可能である。これらの構造によれば、スライダ120とリードスクリュー102との間のガタの発生を抑えることができる。
【0057】
また、ナットの数を3個以上とすることもできる。この場合、少なくとも一つのナットをスライダに固定する。すなわち、リードスクリューに少なくとも2つのナットを噛み合わせ(螺合させ)、2つのナットの少なくとも一方をスライダに固定した構造が可能である。また、この構造において、(1)軸方向で隣接する2つのナットの間に圧縮したコイルばねを配置した構造、(2)少なくとも一方のナットとスライダの間に圧縮したコイルばねを配置した構造が可能である。ここで、(1)および(2)の構造も可能であり、(1)または(2)の構造も可能である。
【0058】
ガイド部材103,104の代わりに、土台プレート101に溝やレール等のガイド部を設け、それに沿ってスライダ120が動くようにしてもよい。また、スライダ120の動きを規制するガイド部材やガイド部は、1つでもよく、あるいは3つ以上であってもよい。
【0059】
前壁部131(カバー130)に対するコイルばね126の位置を決める凹部136の代わりに、凸部125のような構造を用いてもよい。また、複数の突起でコイルばね126の端部の縁を内側または外側から押える構造も可能である。また、コイルばね接触部124のコイルばね126が当たる部分に凹部を位置決め部(ガイド部)として設ける構造、あるいは複数の突起でコイルばね126の端部の縁を内側または外側から押える構造も可能である。また、コイルばね126の位置決めを行う構造をスライダ120とカバー130のいずれか一方に設ける構造も可能である。
【0060】
コイルばね126とコイルばね接触部124(スライダ120)との間、およびコイルばね126と前壁部131(カバー130)との間の一方または両方にスペーサを入れてもよい。この場合、コイルばね126とコイルばね接触部124との間の接触、およびコイルばね126と前壁部131との間の接触は、スペーサを介した間接的な接触となる。
【0061】
2.第2の実施形態
図8に本実施形態の上面図を示す。この例では、コイルばね126と保持部133の位置が、図2の第1の実施形態の場合と入れ替わっている。なお、コイルばね126と保持部133以外については、第1の実施形態と同じである。また、凸部や凹部等を用いたコイルばね126の保持構造は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0062】
この例では、コイルばね126は、カバー130の第1の部分となる後壁部132とスライダ120の一部であるコイルばね接触部124との間に配置されている。また、カバー130の第2の部分となる前壁部131とスライダ120の一部であるコイルばね接触部124との間が被駆動部材を保持する保持部133となっている。この保持部133も部分に被駆動部材が挟まれて保持される。
【0063】
図2の第1の実施形態では、カバー130の「第1の部分」が符号131の部分であり、「第2の部分」が符号132の部分となる。他方で、図8の第2の実施形態では、カバー130の「第1の部分」が符号132の部分であり、「第2の部分」が符号131の部分となる。
【0064】
第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果が実現される。すなわち、コイルばね126を用いることで被駆動部材を強く保持できる。また、被駆動部材がコイルばね126の反発力により弾性的に挟まれて保持されるので、保持部133への被駆動部材の組み付けや保持部133からの被駆動部材の取り外しが容易となる。また、コイルばね126は、後壁部132(カバー130)への接触面積を大きく確保でき、ばねの反発力を大きく設定しても後壁部132を構成する部材に加わる負担が小さく、カバー130の変形や破損が抑制される。
【符号の説明】
【0065】
100…駆動装置、101…土台プレート、101a…前フレーム、101b…後フレーム、102…リードスクリュー、103…ガイド部材、104…ガイド部材、105…軸受、106…軸受、107…モータ、108…プレート、109…ロータ、110…モータフレーム、111…ナット、112…ナット、113…コイルばね、114…リミットスイッチ取付台、120…スライダ、121…脚部、122…脚部、123…窪み、124…コイルばね接触部、125…凸部、126…コイルばね、127…リミットスイッチ接触部、128…リミットスイッチ、130…カバー、131…前壁部、132…後壁部、133…保持部、134…軸、135…空間、136…凹部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8