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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】化合物半導体基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20221014BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20221014BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B25/18
C30B29/38 D
C23C16/34
H01L21/205
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018241389
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020100539
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(72)【発明者】
【氏名】大内 澄人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠宜
(72)【発明者】
【氏名】生川 満久
(72)【発明者】
【氏名】川村 啓介
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-053385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0140525(US,A1)
【文献】国際公開第2007/077666(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/069087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 -35/00
C23C16/00 -16/56
H01L21/205
H01L21/31
H01L21/365
H01L21/469
H01L21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、
前記Si基板上に形成されたAlを含む第1の窒化物半導体層であって、厚さ方向に沿って前記Si基板から離れるに従ってAl濃度が減少する傾斜層である第1の窒化物半導体層と、
前記第1の窒化物半導体層上に形成された第2の窒化物半導体層であって、前記第1の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する第2の窒化物半導体層と、
前記第2の窒化物半導体層上に形成されたAlを含む第3の窒化物半導体層であって、前記第2の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも高い平均Al濃度を有する第3の窒化物半導体層とを備え、
前記第3の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度は、前記第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度よりも低く、
前記第1の窒化物半導体層内に存在している貫通転位の少なくとも一部は、前記第2の窒化物半導体層によって覆われており、
前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体層との界面は滑り面である、化合物半導体基板。
【請求項2】
前記第2の窒化物半導体層はGaNよりなり、3nm以上100nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記第1の窒化物半導体層は、
下部層と、
前記下部層上に形成され、前記下部層の平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する上部層とを含む、請求項1または2に記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
前記第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DA、前記第3の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DBとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DBの比率(DB/DA)は0より大きく0.6以下である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物半導体基板。
【請求項5】
前記第1の窒化物半導体層の厚さW1に対する前記第2の窒化物半導体層の厚さW2の比率(W2/W1)は0.007以上0.26以下である、請求項1~4のいずれかに記載の化合物半導体基板。
【請求項6】
前記第3の窒化物半導体層上に形成されたGaN層をさらに備えた、請求項1~5のいずれかに記載の化合物半導体基板。
【請求項7】
前記第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DA、前記GaN層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DCとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DCの比率(DC/DA)は0より大きく0.3以下である、請求項6に記載の化合物半導体基板。
【請求項8】
上部複合層をさらに備え、
前記上部複合層は、
上下方向に積層された複数の上部GaN層と、
前記複数の上部GaN層の各々の間に形成されたAlを含む上部窒化物半導体層とを含み、
前記GaN層は前記複数の上部GaN層のうち最下層の上部GaN層であり、
前記複数の上部GaN層の各々の厚さW3に対する前記上部窒化物半導体層の厚さW4の比率(W4/W3)は0.0015以上0.025以下である、請求項6または7に記載の化合物半導体基板。
【請求項9】
前記Si基板上に形成されたSiC層と、
前記SiC層上に形成されたAlNよりなるバッファー層とをさらに備え、
前記第1の窒化物半導体層は前記バッファー層上に形成される、請求項1~8のいずれかに記載の化合物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板に関し、より特定的には、Al(アルミニウム)を含む窒化物半導体層内の貫通転位を低減することのできる化合物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)は、Si(ケイ素)に比べてバンドギャップが大きく、絶縁破壊電界強度が高いワイドバンドギャップ半導体材料として知られている。GaNは、他のワイドバンドギャップ半導体材料と比べても高い耐絶縁破壊性を有するので、次世代の低損失なパワーデバイスへの適用が期待されている。
【0003】
GaNを用いた半導体デバイスのスタート基板(下地基板)にSi基板を用いた場合、GaNとSiとの間の格子定数および熱膨張係数の大きな差に起因して、基板に反りが発生したり、GaN層内にクラックが発生したりする現象が起こりやすくなる。このため、スタート基板として、Si基板上にSiC(炭化ケイ素)層などを形成した化合物半導体基板を採用することで、GaNとSiとの間の格子定数および熱膨張係数の差をSiC層などによって緩和する技術が提案されている。
【0004】
このような技術として、下記特許文献1などには、基板の反りやクラックの発生を抑止する技術が開示されている。下記特許文献1には、SiC層と、SiC層上に形成されたAlN(窒化アルミニウム)バッファー層と、AlNバッファー層上に形成されたAlを含む窒化物半導体層と、窒化物半導体層上に形成された第1のGaN層と、第1のGaN層に接触して第1のGaN層上に形成された第1のAlN中間層と、第1のAlN中間層に接触して第1のAlN中間層上に形成された第2のGaN層とを備えた化合物半導体基板が開示されている。
【0005】
従来のGaN層を備えた半導体基板は、下記特許文献2にも開示されている。下記特許文献2には、SiCよりなる基板と、基板上に形成されたAlNよりなる核生成層と、核生成層上に形成されたAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)よりなる傾斜層と、傾斜層上に形成されたGaNよりなる窒化物層とを備えた半導体構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/069087号
【文献】特表2010-521065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のGaN層を備えた半導体基板においては、バッファー層としてAlを含む窒化物半導体層(AlGaNなど)が用いられることが多かった。しかし、従来のAlを含む窒化物半導体層には、内部の貫通転位が多いという問題があった。また、Alを含む窒化物半導体層上にGaN層を形成した場合には、貫通転位がGaN層内にも引き継がれ、GaN層内の貫通転位も増加していた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、Alを含む窒化物半導体層内の貫通転位を低減することのできる化合物半導体基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に従う化合物半導体基板は、Si基板と、Si基板上に形成されたAlを含む第1の窒化物半導体層であって、厚さ方向に沿ってSi基板から離れるに従ってAl濃度が減少する傾斜層である第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層上に形成された第2の窒化物半導体層であって、第1の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層上に形成されたAlを含む第3の窒化物半導体層であって、第2の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも高い平均Al濃度を有する第3の窒化物半導体層とを備え、第3の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度は、第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度よりも低く、第1の窒化物半導体層内に存在している貫通転位の少なくとも一部は、第2の窒化物半導体層によって覆われており、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との界面は滑り面である
【0010】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第2の窒化物半導体層はGaNよりなり、3nm以上100nm以下の厚さを有する。
【0011】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第1の窒化物半導体層は、下部層と、下部層上に形成され、下部層の平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する上部層とを含む。
【0012】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DA、第3の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DBとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DBの比率(DB/DA)は0より大きく0.6以下である。
【0013】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第1の窒化物半導体層の厚さW1に対する第2の窒化物半導体層の厚さW2の比率(W2/W1)は0.007以上0.26以下である。
【0014】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第3の窒化物半導体層上に形成されたGaN層をさらに備える。
【0015】
上記化合物半導体基板において好ましくは、第1の窒化物半導体層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DA、GaN層内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DCとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DCの比率(DC/DA)は0より大きく0.3以下である。
【0016】
上記化合物半導体基板において好ましくは、上部複合層をさらに備え、上部複合層は、上下方向に積層された複数の上部GaN層と、複数の上部GaN層の各々の間に形成されたAlを含む上部窒化物半導体層とを含み、GaN層は複数の上部GaN層のうち最下層の上部GaN層であり、複数の上部GaN層の各々の厚さW3に対する上部窒化物半導体層の厚さW4の比率(W4/W3)は0.0015以上0.025以下である。
【0017】
上記化合物半導体基板において好ましくは、Si基板上に形成されたSiC層と、SiC層上に形成されたAlNよりなるバッファー層とをさらに備え、第1の窒化物半導体層はバッファー層上に形成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Alを含む窒化物半導体層内の貫通転位を低減することのできる化合物半導体基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態における複合層4内部のAl濃度の分布を示す図である。
図3】GaN層42aを構成するGaNの二次元成長を模式的に示す図である。
図4】本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板CS2の構成を示す断面図である。の構成を示す断面図である。
図5】本発明の第1の実施例における化合物半導体基板CS1の作製条件、ならびに貫通転位数の計測位置P1、P2、およびP3を示す断面図である。
図6】本発明の第1の実施例における化合物半導体基板CS100の作製条件、ならびに貫通転位数の計測位置P1、P2、およびP3を示す断面図である。
図7】本発明の第1の実施例における貫通転位密度の計測結果を示す図である。
図8】本発明の第1の実施例における化合物半導体基板の最表層(Al窒化物半導体層10)の表面の顕微鏡写真およびエッチピットの密度の計測結果を示す図である。
図9】本発明の第2の実施例における試料C1、C2、およびC3の各々の反り量の計測結果を示す図である。
図10】本発明の第2の実施例における試料C1、C2、およびC3の各々の反り量の計測結果から得られたGaN層42bの厚さと反り量との関係を示すグラフである。
図11】本発明の第2の実施例における試料D1、D2、およびD3の各々の反り量の計測結果を示す図である。
図12】本発明の第2の実施例における試料D1、D2、およびD3の各々の反り量の計測結果から得られたAl窒化物半導体層52aおよび52bの厚さと反り量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
【0022】
図1は、本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す断面図である。
【0023】
図1を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS1は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)を含んでいる。化合物半導体基板CS1は、Si基板1(Si基板の一例)と、SiC層2(SiC層の一例)と、AlNバッファー層3(バッファー層の一例)と、複合層4と、複合層5(上部複合層の一例)と、GaN層7と、Al窒化物半導体層10とを備えている。
【0024】
Si基板1は、たとえばp+型のSiよりなっている。Si基板1の表面には(111)面が露出している。なお、Si基板1は、n型の導電型を有していてもよいし、半絶縁性であってもよい。Si基板1の表面には(100)面や(110)面が露出していてもよい。Si基板1は、たとえば6インチの直径を有しており、1000μmの厚さを有している。
【0025】
SiC層2は、Si基板1に接触しており、Si基板1上に形成されている。SiC層2は、3C-SiC、4H-SiC、または6H-SiCなどよりなっている。特に、SiC層2がSi基板1上にエピタキシャル成長されたものである場合、一般的に、SiC層2は3C-SiCよりなっている。
【0026】
SiC層2は、Si基板1の表面を炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはLPE(Liquid Phase Epitaxy)法などを用いて、SiCをホモエピタキシャル成長させることによって形成されてもよい。SiC層2は、Si基板1の表面を炭化することのみによって形成されてもよい。さらに、SiC層2は、Si基板1の表面に(またはバッファー層を挟んで)ヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されてもよい。SiC層2は、たとえばN(窒素)などがドープされており、n型の導電型を有している。SiC層2は、たとえば0.1μm以上3.5μm以下の厚さを有している。なお、SiC層2はp型の導電型を有していてもよいし、半絶縁性であってもよい。
【0027】
なお、AlNバッファー層3の下地層としては任意の材料よりなる層を使用することができる。一例として、Si基板1上にSiC層2を形成せずに、AlNバッファー層3をSi基板1上に直接形成してもよい。この場合、AlNバッファー層3の下地層はSi基板1となる。しかし、Si基板1とAlNバッファー層3との間にSiC層2を形成することで、メルトバックエッチング(GaN層中のGaが拡散しSi基板1中のSiと反応し、Si基板1が破壊される現象)をSiC層2によって確実に抑止することができる。
【0028】
AlNバッファー層3は、SiC層2に接触しており、SiC層2上に形成されている。AlNバッファー層3は、SiC層2と、複合層4を構成するAl窒化物半導体層との格子定数の差を緩和するバッファー層としての機能を果たす。AlNバッファー層3は、たとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成される。AlNバッファー層3の成長温度は、たとえば1000℃以上Si融点未満とされる。このとき、Al源ガスとしては、たとえばTMA(Tri Methyl Aluminium)や、TEA(Tri Ethyl Aluminium)などが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3(アンモニア)が用いられる。AlNバッファー層3は、たとえば100nm以上1000nm以下の厚さを有している。
【0029】
複合層4は、AlNバッファー層3に接触しており、AlNバッファー層3上に形成されている。複合層4は、上下方向(Si基板1、SiC層2、およびAlNバッファー層3の積層方向と同じ方向、図1中縦方向)に積層された複数のAl窒化物半導体層と、複数のAl窒化物半導体層の各々の間に形成されたGaN層とを含んでいる。言い換えれば、複合層4は、Al窒化物半導体層とGaN層とが1以上の回数だけ交互に積層された構成を有しており、複合層4の最上層および最下層は、いずれもAl窒化物半導体層である。
【0030】
複合層4を構成するAl窒化物半導体層の層数は2層以上であればよく、9層以下であることが好ましい。複合層4を構成するGaN層の層数も1層以上であればよく、8層以下であることが好ましい。本実施の形態の複合層4は、Al窒化物半導体層として、2層のAl窒化物半導体層41a(第1の窒化物半導体層の一例)および41b(第3の窒化物半導体層の一例)を含んでおり、GaN層として1層のGaN層42a(第2の窒化物半導体層の一例)を含んでいる。Al窒化物半導体層41aは、2層のAl窒化物半導体層41aおよび41bのうちSi基板1に最も近い位置に形成されており、AlNバッファー層3と接触している。Al窒化物半導体層41bは、2層のAl窒化物半導体層41aおよび41bのうちSi基板1から最も遠い位置に形成されている。GaN層42aは、Al窒化物半導体層41aとAl窒化物半導体層41bとの間に形成されている。言い換えれば、GaN層42aはAl窒化物半導体層41a上に形成されており、Al窒化物半導体層41bはGaN層42a上に形成されている。
【0031】
複合層4を構成するAl窒化物半導体層の各々は、Alを含む窒化物半導体よりなっており、好ましくはAlGaNよりなっている。複合層4を構成するAl窒化物半導体層の各々は、たとえばAlxGa1-xN(0<x≦1)で表される材料よりなっている。この場合、Alの組成比xを0.5以上にすることで、Gaの組成比が0.5以下となり、複合層4による反り制御の効果を大きくすることができる。また複合層4を構成するAl窒化物半導体層の各々は、AlxInyGa1-x-yN(0<x≦1、0≦y<1)で表される材料よりなっていてもよい。複合層4を構成するAl窒化物半導体層は、AlNバッファー層3と複合層5中のGaN層との格子定数の差を緩和するバッファー層としての機能を果たす。複合層4を構成するAl窒化物半導体層の総膜厚は、たとえば100nm以上3μm以下、好ましくは900nm以上2μm以下の厚さを有している。
【0032】
複合層4を構成するAl窒化物半導体層は、たとえばMOCVD法を用いて形成される。このとき、Ga源ガスとしては、たとえばTMG(Tri Methyl Gallium)や、TEG(Tri Ethyl Gallium)などが用いられる。Al源ガスとしては、たとえばTMAやTEAなどが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3などが用いられる。
【0033】
複合層4を構成するGaN層は、後述するように化合物半導体基板CS1に凹形状の反りを発生させる役割を果たす。
【0034】
複合層4を構成するGaN層は、たとえばMOCVD法を用いて形成される。このとき、Ga源ガスとしては、たとえばTMGやTEGなどが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3などが用いられる。
【0035】
複合層4を構成するGaN層は、たとえば3nm以上100nm以下の厚さを有しており、好ましくは3nm以上50nm以下の厚さを有している。複合層4を構成するGaN層が複数である場合、複合層4を構成するGaN層の各々は、同一の厚さを有していてもよいし、互いに異なる厚さを有していてもよい。
【0036】
また、Al窒化物半導体層41aの厚さを厚さW1とし、GaN層42aの厚さを厚さW2とした場合、厚さW1に対する厚さW2の比率(W2/W1)は0.007以上0.26以下であることが好ましい。
【0037】
複合層5は、複合層4(Al窒化物半導体層41b)に接触しており、複合層4(Al窒化物半導体層41b)上に形成されている。複合層5は、上下方向(Si基板1、SiC層2、AlNバッファー層3、および複合層4の積層方向と同じ方向、図1中縦方向)に積層された複数のGaN層と、複数のGaN層の各々の間に形成されたAl窒化物半導体層とを含んでいる。言い換えれば、複合層5は、GaN層とAl窒化物半導体層とが1以上の回数だけ交互に積層された構成を有しており、複合層5の最上層および最下層は、いずれもGaN層である。
【0038】
複合層5を構成するGaN層の層数は2層以上であればよく、9層以下であることが好ましい。複合層5を構成するAl窒化物半導体層の層数も1層以上であればよく、8層以下であることが好ましい。本実施の形態の複合層5は、GaN層として3層のGaN層51a、51b、および51c(上部GaN層およびGaN層の一例)を含んでおり、Al窒化物半導体層として2層のAl窒化物半導体層52aおよび52b(上部窒化物半導体層の一例)を含んでいる。GaN層51aは、3層のGaN層51a、51b、および51cのうちSi基板1に最も近い位置に形成されており、複合層4(Al窒化物半導体層41b)と接触している。GaN層51bは、3層のGaN層51a、51b、および51cのうち2番目にSi基板1に近い位置に形成されている。GaN層51cは、3層のGaN層51a、51b、および51cのうちSi基板1から最も遠い位置に形成されている。Al窒化物半導体層52aは、GaN層51aとGaN層51bとの間に形成されている。Al窒化物半導体層52bは、GaN層51bとGaN層51cとの間に形成されている。
【0039】
複合層5を構成するGaN層の各々にはC(炭素)がドープされていることが好ましい。CはGaN層の絶縁性を高める役割を果たす。CがドープされているGaN層は、1×1018個/cm3以上1×1021個/cm3以下の平均炭素原子濃度を有していることが好ましく、3×1018個/cm3以上2×1019個/cm3以下の平均炭素濃度を有していることがより好ましい。CがドープされているGaN層が複数存在する場合、それらのGaN層は、同一の平均炭素原子濃度を有していてもよいし、互いに異なる平均炭素原子濃度を有していてもよい。
【0040】
複合層5を構成するGaN層にCをドープする場合、TMGに含まれるCがGaN層に取り込まれるようなGaNの成長条件が採用される。GaN層中にCをドープする具体的な方法としては、GaNの成長温度を下げる方法、GaNの成長圧力を下げる方法、または、NH3に対してTMGのモル流量比を高くする方法などがある。
【0041】
また、複合層5を構成するGaN層の各々は、たとえば550nm以上3000nm以下の厚さを有しており、好ましくは800nm以上2500nm以下の厚さを有している。複合層5を構成するGaN層の各々は、同一の厚さを有していてもよいし、互いに異なる厚さを有していてもよい。複合層5を構成するGaN層は、複合層4を構成するGaN層と同様の方法で形成される。
【0042】
複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、後述するように化合物半導体基板CS1に凸形状の反りを発生させる役割を果たす。
【0043】
複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、Alを含む窒化物半導体よりなっており、好ましくはAlNよりなっている。複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、たとえばAlxGa1-xN(0<x≦1)で表される材料よりなっている。この場合、Alの組成比xを0.5以上にすることで、Gaの組成比が0.5以下となり、複合層4による反り制御の効果を大きくすることができる。また複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、AlxInyGa1-x-yN(0<x≦1、0≦y<1)で表される材料よりなっていてもよい。
【0044】
複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、たとえば3nm以上50nm以下の厚さを有しており、好ましくは20nm以下の厚さを有している。複合層5を構成するAl窒化物半導体層が複数である場合、複合層5を構成するAl窒化物半導体層の各々は、同一の厚さを有していてもよいし、互いに異なる厚さを有していてもよい。また、複合層5を構成するAl窒化物半導体層の各々のAl組成比は任意である。複合層5を構成するAl窒化物半導体層は、複合層4を構成するAl窒化物半導体層と同様の方法で形成される。
【0045】
複合層5を構成するGaN層の各々の厚さを厚さW3とし、複合層5を構成するAl窒化物半導体層の厚さを厚さW4とした場合、厚さW3に対する厚さW4の比率(W4/W3)は0.0015以上0.025以下であることが好ましい。
【0046】
GaN層7は、複合層5に接触しており、複合層5上に形成されている。GaN層7は、アンドープであり、半絶縁性である。GaN層7は、HEMTの電子走行層となる。GaN層7は、たとえば100nm以上1500nm以下の厚さを有している。GaN層7は、複合層4を構成するGaN層と同様の方法で形成される。
【0047】
Al窒化物半導体層10は、GaN層7に接触しており、GaN層7上に形成されている。Al窒化物半導体層10は、Alを含む窒化物半導体よりなっており、たとえばAlxGa1-xN(0<x≦1)で表される材料よりなっている。またAl窒化物半導体層10は、AlxInyGa1-x-yN(0<x≦1、0≦y<1)で表される材料よりなっていてもよい。Al窒化物半導体層10は、HEMTの障壁層となる。Al窒化物半導体層10は、たとえば10nm以上50nm以下の厚さを有している。Al窒化物半導体層10は、複合層4を構成するGaN層と同様の方法で形成される。
【0048】
図2は、本発明の第1の実施の形態における複合層4内部のAl濃度の分布を示す図である。
【0049】
図2を参照して、Al窒化物半導体層41aは、Al濃度が厚さ方向に沿ってSi基板1から離れるに従って(図1中上方向に向かって)減少する傾斜層である。本実施の形態では、Al窒化物半導体層41aは、下部層411(下部層の一例)と、下部層411上に形成された上部層412(上部層の一例)とを含んでいる。下部層411および上部層412の各々は厚さ方向に均一なAl濃度分布を有している。下部層411の平均Al濃度は濃度S1aであり、上部層412の平均Al濃度は濃度S1bである。上部層412の平均Al濃度(濃度S1b)は、下部層411の平均Al濃度(濃度S1a)よりも低い。Al窒化物半導体層41aの平均Al濃度は濃度S1である。
【0050】
なお、Al窒化物半導体層41aは、Al濃度が厚さ方向に沿ってSi基板1から離れるに従って一定の割合で減少する傾斜層であってもよい。
【0051】
GaN層42aは、Al窒化物半導体層41aの平均Al濃度(濃度S1)よりも低い平均Al濃度を有している。GaN層42aの平均Al濃度は0(%)であることは言うまでもない。なお、複合層4中のGaN層は、0より大きく濃度S1よりも低い平均Al濃度を有するAl窒化物半導体層によって置き換えられてもよい。
【0052】
Al窒化物半導体層41bは、GaN層42aの平均Al濃度よりも高い平均Al濃度を有している。Al窒化物半導体層41bの平均Al濃度は濃度S2である。濃度S2は濃度S1よりも高くても低くてもよい。
【0053】
複合層4を構成する各層のAl濃度は、MOCDVにより成膜する際に使用する原料ガスに占めるAl源ガスの濃度比や成膜温度などにより調整可能である。また、複合層4を構成する各層のAl濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)などの方法によって計測される。さらに、化合物半導体基板を構成する各層の厚さは、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いて化合物半導体基板の断面を観察することにより計測される。
【0054】
続いて、本実施の形態の効果を説明する。
【0055】
図3は、GaN層42aを構成するGaNの二次元成長を模式的に示す図である。
【0056】
図3を参照して、本願発明者らは、傾斜層であるAl窒化物半導体層41a上に、Al窒化物半導体層41aの成膜温度よりも低い成膜温度でGaN層42a(Al窒化物半導体層41aの平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する窒化物半導体層)を形成することにより、GaNの二次元成長(図3中矢印で示す方向の成長)が促進されることを見出した。これにより、下層に存在していた貫通転位TDがGaN層42aによって覆われ、GaN層42aの上層であるAl窒化物半導体層41bの貫通転位を低減することができる。ひいては、Al窒化物半導体層41bの上層であるGaN層51a、51b、および51cの貫通転位を低減することができる。
【0057】
具体的には、Al窒化物半導体層41b内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度は、Al窒化物半導体層41a内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度よりも低い。また、Al窒化物半導体層41a内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DA、Al窒化物半導体層41b内の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DBとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DBの比率(DB/DA)は0より大きく0.6以下である。さらに、GaN層51a、51b、または51cの内部の厚さ方向の任意の位置における貫通転位密度を貫通転位密度DCとした場合、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DCの比率(DC/DA)は0より大きく0.3以下である。
【0058】
加えて本実施の形態によれば、化合物半導体基板CS1の反りを容易に制御することができる。
【0059】
なお、以降の説明における「凸形状」および「凹形状」とは、Si基板1を下側、Al窒化物半導体層10を上側にした場合の凸形状および凹形状を意味している。
【0060】
図1を参照して、複合層4におけるGaN層42aと、GaN層42aの下地層であるAl窒化物半導体層41aと、GaN層42aの上層であるAl窒化物半導体層41bとの関係に着目する。
【0061】
GaN層42aとAl窒化物半導体層41aとの界面BR1は滑り面となっている。言い換えれば、界面BR1においてGaN層42aの結晶とAl窒化物半導体層41aの結晶とは不整合となっている。このため、GaN層42aの結晶構造に及ぼすAl窒化物半導体層41aの結晶構造の影響は小さく、GaN層42aの格子定数に及ぼすAl窒化物半導体層41aの格子定数の影響は小さい。
【0062】
一方、Al窒化物半導体層41bは、下地層であるGaN層42aの表面の結晶面に揃うように成長する。このため、Al窒化物半導体層41bの結晶構造はGaN層42aの結晶構造の影響を受け、Al窒化物半導体層41bの格子定数はGaN層42aの格子定数の影響を受ける。Al窒化物半導体層41bを構成する材料(AlGaNやAlNなど)の格子定数はGaN層42aを構成するGaNの格子定数よりも小さいため、Al窒化物半導体層41bには引張り応力が加わり、Al窒化物半導体層41bの内部には引張り歪みが発生する。引張り応力の反作用として、複合層4は化合物半導体基板CS1に凹形状の反りを発生させる。
【0063】
なお、GaN層42aのエピタキシャル成長の条件(温度や圧力など)を制御することで、GaN層42aとAl窒化物半導体層41aとの界面BR1を滑り面とすることができる。また、Al窒化物半導体層41bのエピタキシャル成長の条件(温度や圧力など)を制御することで、Al窒化物半導体層41bをGaN層42aの表面の結晶面にすべりが生じないように成長(コヒーレント成長)させることができる。
【0064】
凹形状の反りを発生させる複合層4の作用は、複合層4を構成するGaN層が厚くなるほど大きくなる。一方で、複合層4を構成するGaN層が厚すぎるとGaN層の内部にクラックが発生しやすくなる。複合層4を構成するGaN層の内部へのクラックの発生を抑止しつつ複合層4による凹形状の反りを効果的に発生させるためには、複合層4中の1層当たりのGaN層の厚さを3nm以上100nm以下、好ましくは3nm以上50nm以下とし、複合層4中のGaN層の数を1~2層程度にすることが好ましい。
【0065】
次に、複合層5におけるAl窒化物半導体層52bと、Al窒化物半導体層52bの下地層であるGaN層51bと、Al窒化物半導体層52bの上層であるGaN層51cとの関係に着目する。
【0066】
Al窒化物半導体層52bとGaN層51bとの界面BR2は滑り面となっている。言い換えれば、界面BR2においてAl窒化物半導体層52bの結晶とGaN層51bの結晶とは不整合となっている。このため、Al窒化物半導体層52bの結晶構造に及ぼすGaN層51bの結晶構造の影響は小さく、Al窒化物半導体層52bの格子定数に及ぼすGaN層51bの格子定数の影響は小さい。
【0067】
一方、GaN層51cは、下地層であるAl窒化物半導体層52bの表面の結晶面に揃うように成長する。このため、GaN層51cの結晶構造はAl窒化物半導体層52bの結晶構造の影響を受け、GaN層51cの格子定数はAl窒化物半導体層52bの格子定数の影響を受ける。GaN層51cを構成するGaNの格子定数はAl窒化物半導体層52bを構成する材料(AlGaNやAlNなど)の格子定数よりも大きいため、GaN層51cには圧縮応力が加わり、GaN層51cの内部には圧縮歪みが発生する。圧縮応力の反作用として、複合層5は化合物半導体基板CS1に凸形状の反りを発生させる。
【0068】
なお、Al窒化物半導体層52bのエピタキシャル成長の条件(温度や圧力など)を制御することで、Al窒化物半導体層52bとGaN層51bとの界面BR2を滑り面とすることができる。また、GaN層51cのエピタキシャル成長の条件(温度や圧力など)を制御することで、GaN層51cをAl窒化物半導体層52bの表面の結晶面に揃うように成長させることができる。
【0069】
複合層5におけるAl窒化物半導体層52aと、Al窒化物半導体層52aの下地層であるGaN層51aと、Al窒化物半導体層52aの上層であるGaN層51bとの関係に着目した場合にも同様のことが言える。すなわち、Al窒化物半導体層52aの結晶構造に及ぼすGaN層51aの結晶構造の影響は小さく、Al窒化物半導体層52aの格子定数に及ぼすGaN層51aの格子定数の影響は小さい。一方、GaN層51bは、下地層であるAl窒化物半導体層52aの表面の結晶面に揃うように成長する。GaN層51bにはAl窒化物半導体層52aの影響により圧縮応力が加わり、GaN層51bの内部には圧縮歪みが発生する。
【0070】
凸形状の反りを発生させる複合層5の作用は、複合層5を構成するAl窒化物半導体層が厚くなるほど大きくなる。一方で、複合層5を構成するAl窒化物半導体層が厚すぎるとAl窒化物半導体層の内部にクラックが発生しやすくなる。複合層5を構成するAl窒化物半導体層の内部へのクラックの発生を抑止しつつ複合層5による凸形状の反りを効果的に発生させるためには、複合層5中の1層当たりのAl窒化物半導体層の厚さを3nm以上50nm以下、好ましくは20nm以下とし、複合層5中のAl窒化物半導体層の数を1~2層程度にすることが好ましい。
【0071】
本実施の形態によれば、化合物半導体基板CS1に凹形状の反りを発生させる機能を有する複合層4と、化合物半導体基板CS1に凸形状の反りを発生させる機能を有する複合層5との各々を調節することにより、化合物半導体基板CS1の反りを容易に制御することができる。
【0072】
加えて、滑り面である界面BR1およびBR2上の半導体層は、下地層の格子定数差や歪みの影響を受けずに成長することができるので、クラックの発生も抑止することができる。さらに、複合層4の層の数が少ないため、容易に化合物半導体基板CS2を作製することができる。
【0073】
[第2の実施の形態]
【0074】
図4は、本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板CS2の構成を示す断面図である。
【0075】
図4を参照して、本実施の形態の複合層4は、Al窒化物半導体層として、3層のAl窒化物半導体層41a、41b、および41c(複数の下部窒化物半導体層の一例)を含んでおり、GaN層として2層のGaN層42aおよび42b(下部GaN層の一例)を含んでいる。Al窒化物半導体層41aは、3層のAl窒化物半導体層41a、41b、および41cのうちSi基板1に最も近い位置に形成されており、AlNバッファー層3と接触している。Al窒化物半導体層41bは、3層のAl窒化物半導体層41a、41b、および41cのうち2番目にSi基板1に近い位置に形成されている。Al窒化物半導体層41cは、3層のAl窒化物半導体層41a、41b、および41cのうちSi基板1から最も遠い位置に形成されている。GaN層42aは、Al窒化物半導体層41aとAl窒化物半導体層41bとの間に形成されている。GaN層42bは、Al窒化物半導体層41bとAl窒化物半導体層41cとの間に形成されている。
【0076】
Al窒化物半導体層41a、GaN層42a、およびAl窒化物半導体層41bの各々は、図2に示す第1の実施の形態の場合と同じAl濃度の分布を有している。Al窒化物半導体層41cのAl濃度は任意である。Al窒化物半導体層41cのAl濃度は、厚さ方向に沿ってSi基板1から離れるに従って減少していてもよいし、厚さ方向に沿って一定であってもよい。
【0077】
本実施の形態における複合層4を構成するGaN層の厚さが第1の実施の形態の場合と同一であると仮定した場合、本実施の形態における複合層4による凹形状の反りを発生させる効果は、第1の実施の形態の複合層4による凹形状の反りを発生させる効果よりも大きくなる。このため、化合物半導体基板CS2では、化合物半導体基板CS1よりも凹形状の反り量を大きくすることができる。一方で、本実施の形態における複合層4を構成するGaN層の厚さを1の実施の形態の場合よりも薄くした場合には、化合物半導体基板CS2においても、化合物半導体基板CS1と同等の反り量とすることもできる。
【0078】
なお、上述以外の化合物半導体基板CS2の構成は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0079】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
[実施例]
【0081】
第1の実施例として、本願発明者らは、GaN層42aを形成することによる貫通転位の低減の効果を確認すべく、以下の実験を行った。
【0082】
図5は、本発明の第1の実施例における化合物半導体基板CS1の作製条件、ならびに貫通転位数の計測位置P1、P2、およびP3を示す断面図である。
【0083】
図5を参照して、本発明例Aとして、図1に示す化合物半導体基板CS1(GaN層42a有りの化合物半導体基板)を作製した。Si基板1としてp+型の導電性を有する6インチの基板を用いた。Al窒化物半導体層41aとして下部層411と上部層412とを形成した。GaN層42aの厚さを15nmとした。Al窒化物半導体層52aおよび52bの各々の厚さを15nmとした。
【0084】
本発明例Aにおいて、Al窒化物半導体層41aにおけるGaN層42aとの界面から下方に0.1μmだけ離れた位置を計測位置P1とした。Al窒化物半導体層41bにおけるGaN層42aとの界面から上方に0.34μmだけ離れた位置を計測位置P2とした。GaN層51aにおけるAl窒化物半導体層41bとの界面から上方に1μmだけ離れた位置を計測位置P3とした。
【0085】
次に、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いた観察により、計測位置P1、P2、P3の各々の断面内に存在する貫通転位の個数を計測した。計測した貫通転位の個数を断面の面積(ここでは9.25×10-9cm2)で除した。これにより、計測位置P1における貫通転位密度DA、計測位置P2におけるDB、および計測位置P3における貫通転位密度DCを算出した。
【0086】
次に、貫通転位密度DBを貫通転位密度DAで除することにより、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DBの比率(DB/DA)を算出した。同様に、貫通転位密度DCを貫通転位密度DAで除することにより、貫通転位密度DAに対する貫通転位密度DCの比率(DC/DA)を算出した。なお、比率(DB/DA)が小さいことは、Al窒化物半導体層41b内の貫通転位密度DBの減少率が大きいことを意味している。比率(DC/DA)が小さいことは、GaN層51a内の貫通転位密度DCの減少率が大きいことを意味している。
【0087】
図6は、本発明の第1の実施例における化合物半導体基板CS100の作製条件、ならびに貫通転位数の計測位置P1、P2、およびP3を示す断面図である。
【0088】
図6を参照して、比較例Bとして、GaN層42aを含まない化合物半導体基板CS100(GaN層42a無しの化合物半導体基板)を作製した。GaN層42aを含まない点以外の化合物半導体基板CS100の構成については、本発明例Aの化合物半導体基板CS1と同じにした。
【0089】
比較例Bにおいて、Al窒化物半導体層41aにおけるAl窒化物半導体層41bとの界面から下方に0.1μmだけ離れたの位置を計測位置P1とした。Al窒化物半導体層41bにおけるAl窒化物半導体層41aとの界面から上方に0.34μmだけ離れた位置を計測位置P2とした。GaN層51aにおけるAl窒化物半導体層41bとの界面から上方に1μmだけ離れた位置を計測位置P3とした。
【0090】
次に、本発明例Aと同様の方法を用いて、計測位置P1における貫通転位密度DA、計測位置P2におけるDB、および計測位置P3における貫通転位密度DCを算出し、比率(DB/DA)および比率(DC/DA)を算出した。
【0091】
図7は、本発明の第1の実施例における貫通転位密度の計測結果を示す図である。
【0092】
図7を参照して、本発明例Aにおいて、計測位置P1の貫通転位密度DAは9.6×109個/cm2、計測位置P2の貫通転位密度DBは5.2×109個/cm2、計測位置P3の貫通転位密度DCは2.2×109個/cm2であった。比率(DB/DA)は0.55であり、比率(DC/DA)は0.23であった。
【0093】
なお、本発明例Aにおいて、Al窒化物半導体層41a内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P1の各々の貫通転位密度DAを計測し、Al窒化物半導体層41b内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P2の各々の貫通転位密度DBを計測し、GaN層51a内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P3の各々の貫通転位密度DCを計測した。その結果、いずれの計測位置の組合せでも、比率(DB/DA)は0より大きく0.6以下であり、比率(DC/DA)は0より大きく0.3以下であった。
【0094】
比較例Bにおいて、計測位置P1の貫通転位密度DAは1.1×1010個/cm2、計測位置P2の貫通転位密度DBは7.2×109個/cm2、計測位置P3の貫通転位密度DCは3.8×109個/cm2であった。比率(DB/DA)は0.67であり、比率(DC/DA)は0.35であった。
【0095】
なお、比較例Bにおいて、Al窒化物半導体層41a内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P1の各々の貫通転位密度DAを計測し、Al窒化物半導体層41b内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P2の各々の貫通転位密度DBを計測し、GaN層51a内の深さ位置が互いに異なる複数の計測位置P3の各々の貫通転位密度DCを計測した。その結果、いずれの計測位置の組合せでも、比率(DB/DA)は0.6より大きく、比率(DC/DA)は0.3より大きかった。
【0096】
以上の結果により、本発明例Aにおいては、Al窒化物半導体層41b内の貫通転位密度は、Al窒化物半導体層41a内の貫通転位密度よりも低いことが分かる。また、GaN層42aの導入により、Al窒化物半導体層41b内の貫通転位が大きく減少し、GaN層51a内の貫通転位が大きく減少することが分かる。
【0097】
続いて本願発明者らは、本発明例Aおよび比較例Bの各々について、化合物半導体基板CS1の最表層(Al窒化物半導体層10)の表面に存在するエッチピットの密度を計測した。本発明例Aおよび比較例Bの各々のAl窒化物半導体層10の表面を、溶融KOH(水酸化カリウム)溶液を用いてエッチングし、Al窒化物半導体層10の表面を腐食させた。一般的に、溶融KOH溶液を用いたエッチングにより、結晶表面の格子歪みが大きい部分や未結合手が存在する転位芯の部分が選択的にエッチングされることが知られている。次に、Al窒化物半導体層10の表面を顕微鏡で観察し、Al窒化物半導体層10の表面の所定の面積(ここでは4.32×10-4cm2の面積)の領域内に存在する、所定のサイズより大きいサイズのエッチピット(以降、エッチピット(大)と記すことがある)の数を計測した。そしてエッチピット(大)の数を観察した領域の面積で除することにより、エッチピット(大)の密度を算出した。同様に、Al窒化物半導体層10の表面の所定の面積(ここでは2.50×10-7cm2の面積)の領域内に存在する、所定のサイズより小さいサイズのエッチピット(以降、エッチピット(小)と記すことがある)の数を計測し、エッチピット(小)の密度を算出した。
【0098】
なお、エッチピット(大)は、従来の知見によりナノパイプなどの微小な欠陥に由来するものであると推測される。エッチピット(小)は、密度レベルから貫通転位に由来するものであると推測される。
【0099】
図8は、本発明の第1の実施例における化合物半導体基板の最表層(Al窒化物半導体層10)の表面の顕微鏡写真およびエッチピットの密度の計測結果を示す図である。
【0100】
図8を参照して、本発明例Aにおいて、エッチピット(大)の密度は7.87×104個/cm2であった。エッチピット(小)の密度は1.04×108個/cm2であった。比較例Bにおいて、エッチピット(大)の密度は2.78×105個/cm2であった。エッチピット(小)の密度は1.40×108個/cm2であった。
【0101】
以上の結果により、GaN層42aの導入により、GaN層51a内の微小な欠陥および貫通転位が大きく減少することが分かる。
【0102】
第2の実施例として、本願発明者らは、本発明の化合物半導体基板による反りの制御の効果を確認すべく、以下の実験を行った。
【0103】
GaN層42bの厚さを15nm(試料C1)、45nm(試料C2)、または60nm(試料C3)とした3種類の化合物半導体基板CS2を作製した。試料C1、C2、およびC3ではいずれも、Al窒化物半導体層52aおよび52bの各々の厚さを15nmとし、GaN層42aの厚さを15nmとした。Al窒化物半導体層52aおよび52bをAlNとした。得られた化合物半導体基板CS2の反り量を計測した。
【0104】
図9は、本発明の第2の実施例における試料C1、C2、およびC3の各々の反り量の計測結果を示す図である。図10は、本発明の第2の実施例における試料C1、C2、およびC3の各々の反り量の計測結果から得られたGaN層42bの厚さと反り量との関係を示すグラフである。なお、図10および図12では、凸形状となる反りの方向をマイナスとし、凹形状となる反りの方向をプラスとしている。
【0105】
図9および図10を参照して、GaN層42bの厚さが15nmである試料C1は、凸形状で90μmの反り量となった。GaN層42bの厚さが45nmである試料C2は、凸形状で15μmの反り量となった。GaN層42bの厚さが60nmである試料C3は、凹形状で39μmの反り量となった。また、GaN層42bの厚さが増加するに従って、化合物半導体基板CS2の反り量は凹形状となる方向に略一定の割合で増加した。
【0106】
次に、Al窒化物半導体層52bの厚さ/Al窒化物半導体層52aの厚さを、15nm/15nm(試料D1)、15nm/10nm(試料D2)、または10nm/10nm(試料D3)とした3種類の化合物半導体基板CS2を作製した。試料D1、D2、およびD3ではいずれも、GaN層42aおよび42bの各々の厚さを15nmとした。Al窒化物半導体層52aおよび52bをAlNとした。得られた化合物半導体基板CS2の反り量を計測した。
【0107】
図11は、本発明の第2の実施例における試料D1、D2、およびD3の各々の反り量の計測結果を示す図である。図12は、本発明の第2の実施例における試料D1、D2、およびD3の各々の反り量の計測結果から得られたAl窒化物半導体層52aおよび52bの厚さと反り量との関係を示すグラフである。
【0108】
図11および図12を参照して、Al窒化物半導体層52bの厚さ/Al窒化物半導体層52bの厚さが15nm/15nmである試料D1は、凸形状で90μmの反り量となった。Al窒化物半導体層52bの厚さ/Al窒化物半導体層52bの厚さが15nm/10nmである試料D2は、凸形状で23μmの反り量となった。Al窒化物半導体層52bの厚さ/Al窒化物半導体層52bの厚さが10nm/10nmである試料D3は、凹形状で46μmの反り量となった。また、Al窒化物半導体層52bの厚さとAl窒化物半導体層52bの厚さとの合計値が減少するに従って、化合物半導体基板CS2の反り量は凹形状となる方向に略一定の割合で増加した。
【0109】
以上の実験結果から、複合層4を構成するGaN層の厚さまたは複合層5を構成するAl窒化物半導体層の厚さを調節することにより、化合物半導体基板CS1の反りを容易に制御できることが分かった。
【0110】
[その他]
【0111】
本発明の化合物半導体基板は、Si基板と、Si基板上に形成されたAlを含む第1の窒化物半導体層であって、厚さ方向に沿ってSi基板から離れるに従ってAl濃度が減少する傾斜層である第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層上に形成された第2の窒化物半導体層であって、第1の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも低い平均Al濃度を有する第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層上に形成されたAlを含む第3の窒化物半導体層であって、第2の窒化物半導体層の平均Al濃度よりも高い平均Al濃度を有する第3の窒化物半導体層とを備えていればよい。一例として、図1における複合層5、GaN層7、およびAl窒化物半導体層10は省略されてもよいし、これらの層の代わりに別な層が形成されていてもよい。
【0112】
上述の実施の形態は、適宜組み合わせることが可能である。
【0113】
上述の実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
1 Si基板
2 SiC層
3 AlNバッファー層
4,5 複合層
7,42a,42b,51a,51b,51c GaN層
10,41a,41b,41c,52a,52b Al窒化物半導体層
411 下部層
412 上部層
BR1,BR2 界面
CS1,CS2,CS100 化合物半導体基板
EP エッチピット
P1,P2,P3 貫通転位数の計測位置
TD 貫通転位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12