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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】営農システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20120101AFI20221014BHJP
【FI】
G06Q50/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019004538
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020113123
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】武田 修司
(72)【発明者】
【氏名】吉本 良治
(72)【発明者】
【氏名】西川 知宏
(72)【発明者】
【氏名】畦崎 明徳
(72)【発明者】
【氏名】小丸 千明
【審査官】新里 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-048461(JP,A)
【文献】特開2018-081675(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164097(WO,A1)
【文献】特開2002-149744(JP,A)
【文献】特開2017-224224(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場作業機を用いて複数の区画に区分けされた圃場を管理する営農システムであって、
前記圃場作業機による前記区画ごとの圃場作業の計画を示す作業計画マップを作成する作業計画マップ作成部と、
前記作業計画マップに基づく前記圃場作業の内容を示す作業内容データがシミュレーション入力パラメータとして入力されるシミュレーション演算機能を備え、前記シミュレーション演算機能のシミュレーションの結果としての前記圃場作業機による前記区画ごとの作業予測結果を示す作業予測マップを作成する作業予測マップ作成部と、
前記圃場作業を実施した圃場作業機によって生成された作業データに基づいて区画単位の作業実績マップを作成する作業実績マップ作成部と、
前記作業計画マップ、前記作業予測マップ、前記作業実績マップのいずれかを、またはすべてを、予想作業結果と実作業実績とを評価するためにディスプレイに表示する表示制御部と、を備えた営農システム。
【請求項2】
前記作業計画マップは第1座標系で示され、前記作業予測マップと前記作業実績マップとは、前記第1座標系とは異なる第2座標系で示されている請求項1に記載の営農システム。
【請求項3】
前記第1座標系は、前記圃場を境界付ける2つの境界線を縦軸と横軸とする圃場座標系であり、前記第2座標系は、衛星測位データによって取得される緯度と経度とを縦軸と横軸とする衛星測位座標系である請求項2に記載の営農システム。
【請求項4】
前記第1座標系から前記第2座標系への座標変換を行う座標変換部が備えられている請求項2または3に記載の営農システム。
【請求項5】
前記作業計画マップで用いられている前記区画の形状と前記作業予測マップで用いられている前記区画の形状とが異なっており、前記作業予測マップと前記作業実績マップとで用いられている前記区画の形状は同じである請求項1から4のいずれか一項に記載の営農システム。
【請求項6】
前記作業予測マップと前記作業実績マップとで用いられている前記区画の形状は、前記圃場作業を実施する圃場作業機の作業幅によって規定されている請求項5に記載の営農システム。
【請求項7】
前記作業計画マップの前記区画に割り当てられた作業計画データを、前記作業予測マップの前記区画に割り振る区画データ変換部が備えられている請求項5または6に記載の営農システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場作業機を用いて複数の区画に区分けされた圃場を管理する営農システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による営農システムは、農作区画を管理する農作区画管理部と、継時的に実施される施肥や収穫などの農作業イベントを農作区画ごとに管理する農作業管理部と、実施された農作業イベントの内容(施肥量や収穫量など)及びコストを農作業実績として記録するデータ記録部と、農作業イベントの履歴を農作業実績表として出力するための実績出力データを生成する実績出力データ生成部と、農作業実績から算定された農作業イベントの基準に基づいて農作業計画書を出力するための計画出力データを生成する計画出力データ生成部を備えている。農作業者は、出力された農作業計画書を見ながら、農作業を実施する。
【0003】
特許文献2による営農システムは、圃場地図データを記録する地図データ記録部と、各種の農作業機によって圃場に対して行われた作業毎に生成された圃場作業データを記録する圃場作業データ記録部と、圃場地図データと圃場作業データとを共通の座標位置でデータ管理するデータ管理部と、圃場作業データに基づいて圃場の営農評価を行う評価部とを備えている。圃場作業データには、微小区画当たりの収量、食味、施肥量が含まれている。圃場における微小区画当たりの収量に基づいて出力される圃場の微小区画収量分布から、圃場の収穫が平均より良い優良区画及び平均より悪い不良区画が判定される。この判定結果に基づいて、優良区画への肥料投下の低減、不良区画への肥料投下の増加などを計画することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-194653号公報
【文献】特開2017-068533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の営農システムでは、過去に実施された施肥作業などの圃場作業に関する作業データと、当該圃場作業の成果としての収穫量などの実績データとが圃場毎に記録されている。新たに圃場作業計画を立案する際には、記録されている作業データや実績データを参照して、効率のよい収穫が期待されるように計画することが重要である。営農家は、作業対象となっている圃場の形状をディスプレイやプリントアウトを通じて把握し、その形状に合わせた作業内容を想定して、圃場作業計画を行なう。このため、営農家は、圃場の形状を規定する畔や農道を境界線として圃場を分割し、分割された圃場領域(区画)に対して最適な作業内容を割り振る。このような圃場作業計画が作成されると、当該圃場作業計画が実現できるように、圃場作業機が圃場を作業走行する。その際、圃場作業機は、作業幅を設定しているので、この作業幅(オーバーラップを含む)を有する走行軌跡が圃場を網羅するように走行しなければならない。作業計画時には、圃場作業機の作業幅は、それほど厳密に考慮されていない。さらに、圃場には予期しない走行障害物などが存在する可能性があるので、圃場作業車の走行経路も作業計画時と実際の作業走行時とでは必ずしも一致しない。その結果、実際の作業による実作業実績と作業計画で予想されている予想作業結果(予想作業実績とが、相違することになる。しかしながら、これまでの、営農システムでは、そのような予想作業結果と実作業実績との間の相違を簡単に評価することは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、予想作業結果と実作業実績との間の相違を簡単に評価することができる営農システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による営農システムは、圃場作業機を用いて複数の区画に区分けされた圃場を管理するシステムであり、前記圃場作業機による前記区画ごとの圃場作業の計画を示す作業計画マップを作成する作業計画マップ作成部と、前記作業計画マップに基づく前記圃場作業の内容を示す作業内容データがシミュレーション入力パラメータとして入力されるシミュレーション演算機能を備え、前記シミュレーション演算機能のシミュレーションの結果としての前記圃場作業機による前記区画ごとの作業予測結果を示す作業予測マップを作成する作業予測マップ作成部と、前記圃場作業を実施した圃場作業機によって生成された作業データに基づいて区画単位の作業実績マップを作成する作業実績マップ作成部と、前記作業計画マップ、前記作業予測マップ、前記作業実績マップのいずれかを、またはすべてを、予想作業結果と実作業実績とを評価するためにディスプレイに表示する表示制御部とを備える。
【0008】
この構成では、圃場作業の作業計画マップが作成されると、当該作業計画マップに基づいて当該圃場作業のシミュレーションが実行される。そのシミュレーション結果が作業予測マップとして作成される。これにより、営農家は、ディスプレイに表示される作業計画マップと作業予測マップとを見ながら、作業計画を評価することができ、必要な場合、作業計画を修正して、作業計画マップを改善することができる。さらに、作業計画マップに基づく圃場作業が圃場作業機によって実施されると、当該圃場作業を通じて得られた作業データから作業実績マップが作成される。このようにして作成された一連の、作業計画マップと作業予測マップと作業実績マップのいずれかが、またはすべてが相互に比較できるようにディスプレイに表示されるので、このディスプレイの表示画面を通じて、営農家は、次の圃場作業計画のために有益な指針を得ることができる。
【0009】
施肥作業や薬剤投与作業などの圃場作業を計画する場合、営農家は、圃場を大まかに複数の領域に区分けし、その領域毎の過去の圃場作業の結果及び現在の圃場状態を考慮して、その領域毎に圃場作業の内容を決定する。その際、営農家は、圃場の形状を規定する畔や農道を境界線として圃場を分割し、分割された圃場領域(区画)に対して最適な作業内容を割り振りながら、作業計画を立案する。これに対して、圃場作業のシミュレーションや実際の圃場作業では、圃場作業機の走行軌跡とその作業幅とによって規定される圃場領域(区画)単位で、その作業結果が算定される。このことから、作業計画マップは、作業予測マップ及び作業実績マップとは異なる座標系で表した方が、それぞれのマップの作成においては好都合である。したがって、本発明による好適な実施形態の1つでは、前記作業計画マップは第1座標系で示され、前記作業予測マップと前記作業実績マップとは、前記第1座標系とは異なる第2座標系で示されている。
【0010】
圃場作業を自動走行しながら行う圃場作業機は、衛星測位による自車の座標位置を常に算出している。このため、好適には、衛星測位によって得られる座標値と、圃場作業の内容とを組み合わせて、作業予測マップ及び作業実績マップが作成される。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1座標系は、前記圃場を境界付ける2つの境界線を縦軸と横軸とする圃場座標系であり、前記第2座標系は、衛星測位データによって取得される緯度と経度とを縦軸と横軸とする衛星測位座標系である。
【0011】
作業計画マップは第1座標系で示され、作業予測マップまたは作業実績マップは第2座標系で示されている場合、作業計画マップにおける区画ごとの圃場計画内容を作業予測マップ生成部または圃場作業機に正確に伝えるためには、第1座標系から第2座標系への座標変換を行う必要がある。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1座標系から前記第2座標系への座標変換を行う座標変換部が備えられている。
【0012】
営農家は、圃場の形状に基づいて圃場状態を大局的に捉えながら、圃場作業計画を立案する。これに対して、その圃場作業計画のシミュレーション結果や実績は、圃場作業機の作業走行によってもたらされる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業計画マップで用いられている前記区画の形状と前記作業予測マップで用いられている前記区画の形状とが異なっており、前記作業予測マップと前記作業実績マップとで用いられている前記区画の形状は同じである。前記作業予測マップと前記作業実績マップとで用いられている前記区画の形状は、前記圃場作業を実施する圃場作業機の作業幅によって規定されている。その際、圃場作業計画マップに基づくシミュレーション結果や実績は、圃場作業機の作業走行によってもたらされることを考慮すれば、前記作業予測マップと前記作業実績マップとで用いられている前記区画の形状は、前記圃場作業を実施する圃場作業機の作業幅によって規定されることが好適である。
【0013】
圃場作業に、レンタルの圃場作業車などが用いられる場合、圃場作業の直前になって、作業幅などの作業車仕様が変更されることがある。また、圃場の状態により、作業の途中で作業幅が変更されることもある。圃場作業車の作業幅の変更は、作業済区画の形状変更をもたらす。この問題を解決するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業計画マップの前記区画に割り当てられた作業計画データを、前記作業予測マップの前記区画に割り振る区画データ変換部が備えられている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】営農システムの概略的な構成を示す模式図である。
図2】圃場作業機の一例である施肥機能付き田植機の側面図である。
図3】苗取り量調節機構及び繰出し量調節機構の概略構造を示す模式図である。
図4】営農システムに参加している田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
図5】作業計画マップの一例を示す画面図である。
図6】作業予測マップの一例を示す画面図である。
図7】作業計画マップと作業予測マップとを比較するための画面図である。
図8】作業実績マップの一例を示す画面図である。
図9】作業計画マップと作業実績マップとを比較するための画面図である。
図10】作業予測マップと作業実績マップとを比較するための画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による営農システムの概略を、図1を用いて説明する。営農システムは、主に麦作や稲作に用いられるが、小麦、トウモロコシ、人参、玉葱など種々の農作に用いられる。この営農システムは、圃場作業機による圃場作業、特に施肥作業や薬剤散布作業を管理するために適しており、コンピュータシステムによって構築される。この営農システムは、営農家が個人的(スタンドアローン的)に利用するコンピュータシステムに構築されてもよいが、多くの営農家が共同利用するクラウドコンピュータシステムに構築されてもよい。営農家は、この営農システムを利用して、複数の区画に区分けされた圃場に対する圃場作業を計画し、その計画に基づいて圃場作業機を作業走行させる。
【0016】
営農システムは、基本構成要素として、データ格納部51、作業計画マップ作成部52、作業予測マップ作成部53、作業実績マップ作成部54、表示制御部55を備えている。この実施形態の営農システムは、さらに座標変換部56と区画データ変換部57とを備えている。さらに、営農システムは、圃場作業のために投入された圃場作業機との間で、直接的に(データ通信網を用いて)または間接的に(可搬型メモリを用いて)データ交換可能である。
【0017】
データ格納部51は、この営農システムで生成される全てのデータ、及び圃場作業機から送られてくるデータを、圃場毎に格納する。データは圃場毎に格納されており、そのデータの種類は、圃場特性データ、圃場作業計画データ、圃場実績データなどである。
【0018】
作業計画マップ作成部52は、営農家によって立案された圃場作業計画をデータ化して、区画ごとの圃場作業の計画を示す作業計画マップを作成する。この作業計画マップには、当該作業計画マップに基づいて行われる圃場作業の内容を示す作業内容データや圃場作業を行う圃場作業車の作業仕様(作業幅、単位距離当たりの作業量、車速など)を示す仕様データを含む圃場作業機データが付属している。作業予測マップ作成部53は、作業計画マップ作成部52によって作成された作業計画マップに基づいて、圃場作業のシミュレーションを行って当該シミュレーションの結果としての作業予測マップを作成する。このシミュレーションの前に、当該圃場作業に投入される圃場作業機が選択され、選択された圃場作業機の作業幅や作業性能などの仕様がシミュレーション入力パラメータとして作業予測マップ作成部53に与えられる。作業実績マップ作成部54は、圃場作業を実施した圃場作業機によって生成された作業データに基づいて作業実績マップを作成する。例えば、圃場作業機が施肥作業機であれば、作業実績マップには区画ごとの施肥量が含まれる。圃場作業機の走行方向に対する横断方向の区画長さは、圃場作業機の仕様で決定される作業幅に一致させるか、当該作業幅の倍数とすることが好ましい。圃場作業機の走行方向での適正な最小区画長さは、作業制御速度に依存する。つまり、走行方向での区画長さは、圃場作業機に装備されている作業機器の制御応答性に依存する。走行方向での区画長さを小さくしても、その連続する区画に対して有意義な作業結果値が割り当てられない場合、そのような短い区画は無駄である。したがって、走行方向での区画長さは、最大の制御応答性において、有意義な作業結果値が割り当てられる区画長さ以上とする。なお、作業計画マップ及び作業予測マップは圃場作業計画データとして、作業実績マップは圃場実績データとして、データ格納部51に格納される。
【0019】
表示制御部55は、データ格納部51に格納されているデータを抽出して、ディスプレイ58に表示する。例えば、作業計画マップ、作業予測マップ、作業実績マップのいずれか、またはすべてが相互比較可能にディスプレイ58に表示可能となる。したがって、営農家は、今年度の施肥計画を行う際に、ディスプレイ58に表示された過去の圃場作業の状況を見ることができる。
【0020】
営農家は、圃場の様子を頭に描き、前年度の施肥作業や収穫作業の結果を参照しながら、圃場の作業計画を立案する。したがって、作業計画マップ作成部52によって作成される作業計画マップで用いられる座標系(第1座標系)として、ここでは、圃場を境界付ける2つの境界線を縦軸(図1ではYで示されている)と横軸(図1ではXで示されている)とする圃場座標系が採用されている。これに対して、作業予測マップや作業実績マップは、衛星測位システムによって自車位置を算出する圃場作業車の作業軌跡に基づいて作成されるので、それらに用いられる座標系(第2座標系)として、ここでは、衛星測位データによって取得される緯度と経度とを縦軸(図1ではMで示されている)と横軸(図1ではLで示されている)とする衛星測位座標系が用いられている。このため、作業計画マップが作業予測マップ作成部53や作業実績マップ作成部54に与えられる前に、座標変換部56は、作業計画マップのデータを第1座標系から前記第2座標系へ座標変換する。
【0021】
作業計画マップでは作業計画の立案がしやすくなるような区画形状が採用されるのに対して、作業予測マップと作業実績マップとで用いられている区画の形状は、圃場作業機の作業幅によって規定される。このため、ここでは、作業計画マップでは3m×3mの正方形の区画(計画区画)が用いられており、作業予測マップでは、圃場作業車の作業幅が2mであるので、2m×2mの正方形の区画(予測区画)が用いられている。つまり、区画の形状が、作業計画マップと作業予測マップとでは異なっている。このため、作業計画マップが作業予測マップ作成部53や作業実績マップ作成部54に与えられる前に、座標変換部56による座標変換とともに、区画データ変換部57が、作業区画に割り当てられた作業計画データの値(区画データ値)を、作業予測マップの区画に割り当てる区画データ変換を行う。その際、目標とする予測区画に対応する位置の計画区画及び当該計画区画の周辺に位置する計画区画の区画データ値の平均値(算術平均値または加重平均値)を計画区画の面積で除算して得られたデータ密度を予測区画の面積に乗算することで、目標とする予測区画の区画データ値が算出される。この算出処理を、全ての予測区画に対して行うことで、作業計画マップから作業予測マップへの区画データの変換が完了する。
【0022】
次に、本発明による営農システムによって管理される圃場作業の一例として、稲作における施肥作業が説明される。この施肥作業には、圃場作業機として、図2に示す乗用型の田植機が用いられる。
【0023】
図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の走行機体(以下、機体1と称する)を備えている。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構11、リンク機構11を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ11a、リンク機構11の後端部にローリング可能に連結される苗植付装置3(作業機器群の一例)、及び、機体1の後端部から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4(作業機器群の一例)などを備えている。
【0024】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン13、及び油圧式の無段変速装置14を備えている。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン13及び無段変速装置14は、機体1の前部に搭載されている。エンジン13からの動力は、無段変速装置14などを介して前輪12A、後輪12Bなどに供給される。
【0025】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成されている。苗植付装置3は、苗載せ台31、8条分の植付機構32などを備えている。なお、この苗植付装置3は、図示されていない各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植えなどの形式に変更可能である。
【0026】
苗載せ台31は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台31は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、縦送り機構33は、苗載せ台31が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台31上の各マット状苗を苗載せ台31の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構32は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置されている。そして、各植付機構32は、機体1からの動力により、苗載せ台31に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3の作動状態では、苗載せ台31に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0027】
苗植付装置3には、図3に示すように、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機構30が備えられている。植付機構32は、苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレール31aに形成された苗取り出し口を通過して一株分の苗を取り出して植え付ける。苗載せ台31及び苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレール31aを上下に位置変更することにより苗取り量を調節する。
【0028】
苗取り量調節機構30は、苗載せ台31及びガイドレール31aを上下に位置変更するためのアクチェータである減速機構付きの苗取り量調節モータ36と、この苗取り量調節モータ36の出力軸に設けられたピニオンギアと噛み合っている扇形ギア35とを備えている。更に、苗取り量調節機構30は、ガイドレール31aの前部に挿入された支持アーム301と、この支持アーム301を揺動可能に支持する支持軸302とを備えている。支持アーム301と扇形ギア35とは、連結アーム303によってリンク結合している。扇形ギア35の回動軸304には、扇形ギア35の回動角度(苗取り量)を検出する苗取り量センサ305が設けられている。苗取り量調節モータ36の一方方向の駆動により、苗載せ台31及びガイドレール31aが上昇側に移動し、苗取り量調節モータ36の他方方向の駆動により、苗載せ台31及びガイドレール31aが下降側に移動する。苗載せ台31及びガイドレール31aの上下移動により苗取り量が変更される。
【0029】
図2に示すように、施肥装置4は、横長のホッパ41、繰出機構42、電動式のブロワ43、複数の施肥ホース44、及び、各条毎に備えられた作溝器45を備えている。ホッパ41は、粒状または粉状の肥料を貯留する。繰出機構42は、エンジン13から伝達される動力で作動し、ホッパ41から2条分の肥料を所定量ずつ繰り出す。
【0030】
ブロワ43は、機体1に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電力で作動し、各繰出機構42により繰り出された肥料を圃場の泥面に向けて搬送する搬送風を発生させる。施肥装置4は、ブロワ43などの断続操作により、ホッパ41に貯留した肥料を所定量ずつ圃場に供給する作動状態と、供給を停止する非作動状態とに切り換えることができる。
【0031】
各施肥ホース44は、搬送風で搬送される肥料を各作溝器45に案内する。各作溝器45は、各整地フロート15に配備されている。そして、各作溝器45は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0032】
施肥装置4には、図3に示すように、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更調整可能な繰出し量調節機構40が備えられている。繰出し量調節機構40は、繰出機構42における繰出し量を調節するための調節体402を変位させるねじ軸403と、ギアを介してねじ軸403を正方向及び逆方向に回転させる肥料調節モータ404と、ねじ軸403の回転に基づく調節体402の変位位置を検出する位置検出センサ405等を有する。
【0033】
図2に示すように、機体1は、その後部側に運転部20を備えている。運転部20は、前輪操舵用のステアリングホイール21、無段変速装置14の変速操作を行うことで車速を調整する主変速レバー22、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー23、苗植付装置3の昇降操作と作動状態の切り換えなどを可能にする作業操作レバー25、各種の情報を表示(報知)してオペレータに報知(出力)すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを有する汎用端末9、及び、オペレータ用の運転座席16などを備えている。さらに、運転部20の前方に、予備苗を収容する予備苗フレーム17が設けられている。
【0034】
ステアリングホイール21は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール21の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調整される。さらに図3に示すように、操舵機構には、ステアリングモータM1も連結されており、自動走行時には、制御ユニット6からの指令に基づいてステアリングモータM1が動作することにより、前輪12Aの操舵角が調整される。さらに、主変速レバー22を自動操作するための変速操作用モータM2も備えられており、自動走行時には、制御ユニット6からの指令に基づいて、変速操作用モータM2が動作することにより、無段変速装置14の変速位置が調整される。
【0035】
図4には、この田植機の制御系及び上述した営農システムを構築している外部コンピュータシステム5の制御ブロック図が示されている。田植機の制御系の中核をなす制御ユニット6は、外部コンピュータシステム5との間でデータ交換する際に用いられる通信部81及び田植機に備えられている汎用端末9と接続されている。汎用端末9には、自動走行時の目標となる走行経路を生成する走行経路生成部91が構築されている。制御ユニット6には、測位ユニット8、自動切換スイッチ27、走行センサ群28、作業センサ群29からの信号が入力されている。制御ユニット6からの制御信号が、走行機器群1Aと作業機器群1Bとに出力される。
【0036】
測位ユニット8は、機体1の位置及び方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。自動切換スイッチ27は、走行経路生成部91によって生成された走行経路に沿って機体1を自動走行させる自動走行モードと手動で走行させる手動走行モードとを選択するスイッチである。走行センサ群28には、操舵角、車速、エンジン回転数などの状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群29には、リンク機構11、苗植付装置3、施肥装置4の状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。
【0037】
走行機器群1Aには、例えば、ステアリングモータM1や変速操作用モータM2が含まれており、制御ユニット6からの制御信号に基づいて、ステアリングモータM1が制御されることで操舵角が調節され、変速操作用モータM2が制御されることで車速が調節される。
【0038】
作業機器群1Bには、例えば、昇降シリンダ11aや苗取り量調節機構30や繰出し量調節機構40が含まれている。制御ユニット6からの制御信号に基づいて、苗取り量調節モータ36(図3参照)が制御されることで苗取り量が調節され、肥料調節モータ404(図3参照)が制御されることで施肥量が調節される。
【0039】
制御ユニット6には、走行制御部61、作業制御部62、自車位置算出部63、作業パラメータ設定部64、作業データ作成部65が備えられている。
【0040】
自車位置算出部63は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データに基づいて、機体1の地図座標(自車位置)を算出する。この田植機は、自動走行と手動走行とが可能であり、走行制御部61には、自動切換スイッチ27による指令に基づいて、自動走行が行われる自動走行モード、または手動走行が行われる手動走行モードのいずれかが設定される。自動走行モードでは、自動走行制御部611は、自車位置と目標走行経路とを比較して算出された横偏差及び方位偏差に基づいて、横偏差及び方位偏差が縮小するように、操舵制御量を演算する。操舵制御量に基づいて、ステアリングモータM1が制御され、前輪12Aの操舵角が調整される。手動走行モードでは、手動走行制御部612が、ステアリングホイール21の操作量に基づいて、ステアリングモータM1を制御することで、前輪12Aの操舵角が調整される。
【0041】
作業制御部62は、自動走行モードでは、前もって与えられているプログラムに基づいて自動的に作業機器群1Bを制御し、手動走行モードでは、運転者の操作に基づいて、作業機器群1Bを制御する。
【0042】
作業パラメータ設定部64は、外部コンピュータシステム5からダウンロードされた作業計画マップに含まれている作業内容に基づいて、作業機器群1Bに対して作業パラメータを設定する。この作業内容は、圃場の区画毎に設定されている。圃場作業が施肥作業の場合では、作業パラメータ設定部64は、自車位置算出部63で算出された自車位置に基づいて、作溝器45が位置している区画を特定し、この特定された区画に割り振られている肥料投与量に対応する作業パラメータとしての調整量を算出する。算出された調整量が実現するように、繰出し量調節機構40が制御される。
【0043】
作業データ作成部65は、田植機が圃場作業計画に基づいて実施した圃場作業の作業結果をデータ化して作業データを生成し、この作業データを含む作業結果ファイルを作成する。田植機が圃場作業として施肥作業を実施している場合、この作業結果ファイルには、作業日時、圃場を特定するデータ、機体1の走行軌跡、肥料種類、区画ごとの施肥量などが含まれる。作成された作業結果ファイルは、通信部81を通じて、外部コンピュータシステム5にアップロードされる。
【0044】
圃場作業が苗植付作業であれば、田植機から外部コンピュータシステム5にアップロードされる作業結果ファイルの作業データには、区画ごとの施肥量に代えて、区画ごとの苗植付量が含まれる。圃場作業が収穫作業なら、圃場作業機としてコンバインが用いられ、作業結果ファイルの作業データには区画毎の収量や食味が含まれる。圃場作業が、作土作業であれば、作業結果ファイルの作業データには区画毎の作土深が含まれる。
【0045】
外部コンピュータシステム5は、図1を用いて説明した営農システムと同様な機能を有しているので、その説明は省略される。ここでは、この営農システムを用いて、営農家が、作業計画を立案し、シミュレーションを経て、田植機に送り出す最終的な作業計画マップを作成する間にディスプレイ58に表示される内容の一部が説明される。
【0046】
図5には、作業計画マップ作成部52によって作成され、ディスプレイ58に表示される作業計画マップ(ここでは施肥計画マップ)が示されている。今年度の施肥計画マップは、同一圃場の昨年度の収量実績マップ(作業実績マップの一例)を参照しながら、営農家が区画毎の施肥量を入力することで、作成される。なお、この作業計画マップ作成部52は、収量と施肥量との一定の関係を設定しておけば、自動的に、収量実績マップから施肥計画マップマップを作成することも可能である。自動的に作成された施肥計画マップをディスプレイ画面に表示しながら、営農家が、任意の区画を指定して、その施肥量を修正することも可能である。
【0047】
図6には、作業予測マップ作成部53によって作成され、ディスプレイ58に表示される作業予測マップ(ここでは施肥予測マップ)が示されている。作業予測マップ作成部53には、シミュレーション演算機能が備えられており、入力された施肥計画マップに含まれている区画毎の施肥量の肥料を、指定された施肥作業機によって投与した際の肥料分布が施肥予測マップとして演算される。このシミュレーションでは、指定された施肥作業機の作業幅が区画の一辺の長さとなる。なお、田植機や施肥作業機では、各条クラッチ等の制御により、作業幅が変更可能であるので、変更された作業幅に合わせて区画の幅も変更する可変区画幅を採用してもよい。区画の他辺の長さは、つまり、施肥作業機の走行方向での区画長さは、肥料の投与ピッチによって異なる値を採用することができる。但し、投与ピッチを下回るような区画長さは、無駄な区画が生じるので、採用されない。図7に示すように、作成された施肥予測マップは、施肥計画マップと並んで表示される。このようなディスプレイ画面は、施肥計画の良否判定に利用される。図7では、比較しやすいように、施肥計画マップと施肥予測マップとは並べて表示されるが、これに代えて、施肥計画マップと施肥予測マップとを選択可能に重ね合わせて表示することも可能である。
【0048】
図8には、作業実績マップ作成部54によって作成され、ディスプレイ58に表示される作業実績マップ(ここでは施肥実績マップ)が示されている。作業実績マップ作成部54は、田植機の作業データ作成部65で作成され、外部コンピュータシステム5にアップロードされた作業結果ファイルの作業データに含まれている区間ごとの施肥量に基づいて、施肥実績マップを作成する。なお、シミュレーションと実際の作業とで、作業幅が異なる場合には、作業予測マップと作業実績マップとが異なるサイズの区画が用いられてもよい。作業結果ファイルには、田植機の走行軌跡も含まれているので、施肥実績マップに施肥作業を行っている田植機の走行軌跡を重ねて表示することも可能である。図8では、走行軌跡の一部が点線で示されている。図9のディスプレイ画面図では、施肥計画マップと施肥実績マップとが並んで表示されており、図10のディスプレイ画面図では、施肥予測マップと施肥実績マップとが並んで表示されている。営農家は、図9のディスプレイ画面を評価して、施肥計画との実際の施肥実績がどのように相違するのか、どのような場所において大きな相違が発生するのかを検討することができる。また、図10のディスプレイ画面を通じて、シミュレーション結果と実績とを見比べることで、シミュレーションの改善点を見出すことができる。
【0049】
〔別実施の形態〕
(1)図4で示された実施形態では、営農システムは外部コンピュータシステム5に構築されていたが、汎用端末9など、圃場作業機側に構築されてもよい。あるいは、外部コンピュータシステム5と汎用端末9とに分割して構築されてもよい。
(2)上述した実施形態では、圃場作業機は自動走行可能な車両であったが、自動走行が不可能な車両でもよい。その場合には、測位ユニット8からの測位データに基づいて自車位置(作業位置)が算出され、その自車位置と作業結果とを組み合わせて、作業実績マップが作成される。手動走行の場合には、走行経路生成部91で生成された走行経路は、走行支援マップとして利用される。
(3)作業幅が可変の圃場作業機の場合、作業幅の変更に連動する区画幅を有する作業予測マップや作業実績マップが作成される構成が採用されてもよい。さらに、圃場作業機による圃場作業における最小応答タイミングに合わせた、走行方向での区画長さを有する作業予測マップや作業実績マップが作成される構成が採用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、上述した実施形態では、圃場作業機として施肥装置付きの田植機が採用されたが、施肥専用機なども、本発明の営農システムに組み込むことが可能である。
【符号の説明】
【0051】
4 :施肥装置
40 :繰出し量調節機構
402 :調節体
403 :ねじ軸
404 :肥料調節モータ
405 :位置検出センサ
41 :ホッパ
42 :繰出機構
43 :ブロワ
44 :施肥ホース
45 :作溝器
5 :外部コンピュータシステム
51 :データ格納部
52 :作業計画マップ作成部
53 :作業予測マップ作成部
54 :作業実績マップ作成部
55 :表示制御部
56 :座標変換部
57 :区画データ変換部
58 :ディスプレイ
6 :制御ユニット
61 :走行制御部
62 :作業制御部
63 :自車位置算出部
64 :作業パラメータ設定部
65 :作業データ作成部
8 :測位ユニット
9 :汎用端末
91 :走行経路生成部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
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図10