(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】鋼床版の補強構造および補強方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20221014BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2019013093
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-170045(JP,A)
【文献】特開2008-002105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強構造であ って、
隣りあう縦リブ間に設けてデッキプレートと一体化する、現場充
填による、補強体と、
前記補強体の下部を覆うように位置し、隣りあう縦リブの側面同士を繋いでいる、鋼板 と、を有
し、
デッキプレートまたは縦リブと、補強体との間が、デッキプレートと縦リブの側面に溶接されたスタッドジベルである結合部材を介してさらに一体化されていることを特徴とする、
鋼床版の補強構造。
【請求項2】
デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強方法であ って、
デッキプレートと縦リブの側面にスタッドジベルを溶接する工程と、
(a1)隣りあう縦リブの側面同士を繋ぐように鋼板を溶接する工程と、
(a2)鋼板の上面とデッキプレートとの間の空間に、モルタルまたはコンクリートか らなる充填物を充填して補強体を構築する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする、
鋼床版の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版に対し、デッキプレートの剛性を高めて鋼床版の損傷を抑制するための補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路等の道路橋には、デッキプレートと縦リブとからなる鋼床版構造が多く使用されている。
この鋼床版は、大型車両の通行等による影響を繰り返し受けることによって、デッキプレートと縦リブとの交差部に亀裂が生じやすく、今後、多くの箇所で補修・補強作業を施す必要が生じると予想されている。
【0003】
この鋼床版の補強方法としてSFRC工法がある。本工法は、既設の鋼床版の上面に新たな繊維補強コンクリートからなるコンクリート層を設けることで床版の曲げ剛性の向上を図っている。
しかし、本工法は、道路の交通規制が必須となることから、連続施工が困難で工期や費用負担が大きくなる、という問題を有している。
【0004】
そこで、鋼床版の下面側から補強を行うことで交通規制を要することなく補強工事を可能とする技術として、以下の特許文献に係る発明がある。
【0005】
特許文献1に記載の補強構造は、隣りあうUリブ間に位置するデッキプレートの下面に、上面と側面に薄型鋼板を設けた繊維補強型セメント系材料からなるプレキャストコンクリートブロックを、接着剤によってデッキプレートに密着固定し、ブロックとUリブとの隙間にセメント系材料からなる充填材を充填して床版の曲げ剛性を高めている。
しかし、特許文献1に記載の構造では、デッキプレート下部のプレキャストコンクリートブロックによる補強によって床版の曲げ剛性は向上しているものの、デッキプレートとUリブとの交差部に生じる応力集中の軽減には至っていない。
【0006】
特許文献2に記載の補強構造は、デッキプレートと、縦リブで形成される閉鎖領域の内側に板状の内側補強材を配置して、デッキプレートとUリブの交差部を補強している。
特許文献3に記載の補強構造は、隣りあうUリブ間に位置するデッキプレートの下面に繊維補強型セメント系材料を吹き付けることで断面略門型のブロックを形成して、デッキプレートとUリブの交差部における局所応力の緩和を図っている。
しかし、特許文献2,3に記載の構造では、内側補強材や吹き付けコンクリートによって、デッキプレートとUリブとの交差部の補強や応力集中の緩和を実現しているものの、床版自体の曲げ剛性の向上には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-77746号公報
【文献】特開2017-133320号公報
【文献】特開2010-265623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強構造において、デッキプレートと縦リブとの交差部に生じる応力集中の緩和と、鋼床版の曲げ剛性の向上とを同時に得ることが可能な手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強構造であって、隣りあう縦リブ間に設けてデッキプレートと一体化する、現場充填またはプレキャストによる、補強体と、前記補強体の下部を覆うように位置し、隣りあう縦リブの側面同士を繋いでいる、鋼板と、を有することを特徴とするものである。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、デッキプレートまたは縦リブと、補強体との間が、結合部材を介してさらに一体化されていることを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強方法であって、(a1)隣りあう縦リブの側面同士を繋ぐように鋼板を溶接する工程と、(a2)鋼板の上面とデッキプレートとの間の空間に、モルタルまたはコンクリートからなる充填物を充填して補強体を構築する工程と、を少なくとも有することを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、デッキプレートの下面に間隔を設けて縦リブを複数配列してある鋼床版の補強方法であって、(b1)隣りあう縦リブ間に、プレキャストコンクリート製の補強体を嵌合する工程と、(b2)補強体の下部を覆うように予め設けてある鋼板の両端を、隣りあう縦リブの側面に溶接する工程と、を少なくとも有することを特徴とするものである。
また、本願の第5発明は、前記第3発明または第4発明において、デッキプレートまたは縦リブと、補強ブロックとの間を、結合部材を介してさらに一体化することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に記載する効果を奏する。
(1)デッキプレートの下面に間隔を空けて複数配列してある縦リブ間に設けた補強体がデッキプレートと一体化することにより、デッキプレートと縦リブとの交差部に生じる応力集中を緩和し、かつ、鋼床版の曲げ剛性の向上効果を得ることができる。
(2)補強体の下部を覆うように鋼板を設けることで、鋼床版への交通荷重の載荷時に生じる引張応力を鋼板で負担することにより、補強体にひび割れなどの損傷が生じにくくなる。
(3)デッキプレートまたは縦リブと、補強体との間を、結合部材を介してさらに一体化することで、鋼床版の曲げ剛性をさらに向上させることができる。
(4)補強体に、現場充填するモルタルまたはコンクリートを用いることで、デッキプレート、縦リブおよび鋼板で囲んだ領域に密な補強体を設けることができる。
(5)補強体に、プレキャストブロックを用いることで、補強工事の工期短縮に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る鋼床版の補強構造を示す概略図。
【
図2】本発明に係る鋼床版の補強構造の作用を示す概略図。
【
図3】実施例1に係る鋼床版の補強方法(1)を示す概略図。
【
図4】実施例1に係る鋼床版の補強方法(2)を示す概略図。
【
図5】実施例2に係る鋼床版の補強構造を示す概略図。
【
図6】実施例3に係る鋼床版の補強構造を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1>全体構成(
図1,2)
本発明の適用対象とする鋼床版は、デッキプレート10の下面に、別部材である縦リブ20を、間隔を空けて複数配列して構成した床版である。よって、デッキプレート自体を折曲して直接縦リブを形成したものは、本発明の対象に含まない。
そして、本発明に係る鋼床版の補強構造は、当該鋼床版を構成するデッキプレート10と一体化するように新たに設ける補強体30と、前記補強体30の下部を覆うように位置して、隣りあう縦リブ20の側面21同士を繋いでいる鋼板40と、を少なくとも具備して構成する。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0013】
<2>補強体(
図1)
補強体30は、デッキプレート10の下面に新たに設けて該デッキプレート10と一体化することで、鋼床版を補強するための部材である。
補強体30は、後述する鋼板40の設置後に、該鋼板40、デッキプレート10および縦リブ20で囲まれた空間に、モルタルやコンクリートなどの充填材を現場充填して形成することで、充填材の付着力によってデッキプレート10と一体化した態様であってもよいし、工場製作したコンクリート製のプレキャストブロックをデッキプレート10の下面に接着または締結等によって固定することでデッキプレート10と一体化した態様であってもよい。
特に、補強体30の構成材料に、繊維補強コンクリートや繊維補強モルタルなどの剛性の高い材料を用いると、鋼床版の補強効果をより高められる点で有益である。
【0014】
<3>鋼板(
図1)
鋼板40は、鋼床版に生じる引張応力を負担するための部材である。
鋼板40は、補強体30の下部を覆う位置に配置するため、隣りあう縦リブ20間の空間において、鋼床版の最下面に位置する部材となる。
そのため、鋼床版の上面に通行車両等の荷重が載荷された時に、鋼板40の位置に大きな引張応力が生じることとなる。
鋼板40は、この引張応力を負担して抵抗することで、鋼床版全体としての剛性向上を図っている。
鋼板40は、隣りあう縦リブ20間の離隔距離に相当する幅長を有する板材であり、当該板材の各端部と縦リブ20の側面21とを溶接等によって接合し、接合部41を形成する。
鋼板40は、橋軸方向に連続して設けても良いし、間隔を設けて配置してもよい。
【0015】
<4>作用・効果(
図2)
図2に、本発明を適用した鋼床版に対する載荷イメージを示す。
本発明に係る鋼床版の補強構造によれば、現場充填またはプレキャストブロックによって形成した補強体30が、充填材による付着力、接着剤による接着、または締結等による固定等によって、デッキプレート10と一体化した状態を呈し、さらにデッキプレート10と縦リブ20との交差部11が補強体30によって埋没した状態となる。
その結果、鋼床版の上面で車両Aの通行による載荷が生じても、デッキプレート10と縦リブ20との交差部11に応力集中が生じることはない。
また、補強体30によって鋼床版の見かけの厚さが増加した状態を呈し、且つ補強体30の下面に設けた鋼板40が、車両Aの載荷に起因する引張応力に抵抗する状態となるため、鋼床版全体としての曲げ剛性が向上し、補強体30にひび割れなどの損傷を生じにくくする効果を得ることができる。
【実施例1】
【0016】
以下、
図3,4を参照しながら本発明に係る鋼床版の補強方法の手順について説明する。
【0017】
<1>現場充填による補強体を用いる場合(
図3)
図3に、本発明に係る補強構造において、補強体を現場充填で形成する場合の手順例を示す。
(1)鋼板40の設置(
図3(a))
まず、隣りあう縦リブ20間に、デッキプレート10間から所定距離だけ離隔した位置に鋼板40を設置する。鋼板40の端部は、縦リブ20の側面21に溶接等で接合する。
(2)充填材31の充填(
図3(b))
その後、デッキプレート10、縦リブ20および鋼板40で囲まれた空間に、充填材31を充填し、補強体30を形成して補強構造を完成する。
【0018】
<2>プレキャストブロックによる補強体を用いる場合(
図4)
図4に、本発明に係る補強構造において、補強体をプレキャストブロックで形成する場合の手順例を示す。
(1)プレキャストブロックの設置(
図4(a))
まず、所定形状となるよう工場製作したコンクリート製のプレキャストブロック32を、デッキプレート10の下面と、縦リブ20の側面21とに対し、接着剤33を介して接着する。接着剤33は、コンクリートと鋼材間の接着に適する公知の材料を用いることができ、例えばエポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、無機系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤などがある。
例えば、エポキシ樹脂系接着剤として、ショーボンド(登録商標)♯101や、ニッシンボンドを使用することができる。
(2)鋼板の貼り付け(
図4(b))
プレキャストブロック32の下面を覆うように、鋼板40を接着剤33で接着し、鋼板40の端部を縦リブ20の側面21に溶接等で接合して補強構造を完成する。
【0019】
<3>その他の例(図示せず)
なお、プレキャストブロック32による補強体30を用いる場合、プレキャストブロック32の下面に予め鋼板40を接着した態様とし、このプレキャストブロック32をデッキプレート10に接着したのち、鋼板40の端部を縦リブ20に溶接等で接合して補強構造を完成することもできる。
【実施例2】
【0020】
本発明に係る補強構造では、補強体30と、デッキプレート10や縦リブ20との結合を強固とするために、結合部材を別途設けることができる。
結合部材には、スタッドジベルやネジ棒など、結合対象の一体化を促進する公知の部材から任意に選択することができる。
以下、
図5を参照しながら結合部材の配置例について説明する。
【0021】
<1>現場充填+スタッドジベルを用いた例(
図5(a))
図5(a)は、現場充填による補強体を用いる場合のイメージを示した図である。
始めに、鋼板40の設置作業の前後または並行して、デッキプレート10と縦リブ20の側面21にスタッドジベル51を溶接する作業を行う。
その後、充填材31を充填してスタッドジベル51を埋没した補強体30を形成する。
図5(a)は、現場充填による補強体を用いる場合のイメージを示す。
本実施例では、まず、鋼板40の設置作業の前後または並行して、デッキプレート10と縦リブ20の側面21にスタッドジベル51を溶接する作業を行う。
その後、充填材31を充填してスタッドジベル51を埋没した補強体30を形成する。
【0022】
<2>プレキャストブロック+ネジ棒を用いた例(
図5(b))
図5(b)は、プレキャストブロックによる補強体を用いる場合のイメージを示した図である。
始めに、鋼板40の設置作業の前後または並行して、デッキプレート10にネジ棒52を溶接する作業を行う。ネジ棒52は、プレキャストブロック32の厚さよりも長いものとする。また、ネジ棒52には、ボルトやネジ節鉄筋などが含まれる。
プレキャストブロック32には、プレキャストブロック32をデッキプレート10の下面に配置する際に、ネジ棒52を挿通するための挿通孔34を設けておく。
プレキャストブロック32をデッキプレート10の下面に配置した後には、プレキャストブロック32の下面から露出するネジ棒52の下端にナット53を螺合して両者を締結し、プレキャストブロック32を位置決めする。このとき、プレキャストブロック32と、デッキプレート10およびまたは縦リブ20との間を接着剤33によって接着するか否かは必要に応じて任意に選択すれば良い。
【0023】
<3>作用・効果
本実施例に係る構造によれば、デッキプレート10と補強体30との間のさらなる一体化を図り、鋼床版の曲げ剛性をさらに向上させることができる。
【実施例3】
【0024】
<1>縦リブの内部にモルタルを充填した構成(
図6)
本発明に係る補強構造は、さらに、縦リブ20の内部に別途充填材31を充填して、縦リブ20を中実構造としてもよい。
図6には、前記した補強体30および鋼板40の設置に加えて、縦リブ20の内部にモルタル60を充填した態様を示している。
【0025】
<2>作用・効果
本実施例によれば、鋼床版の曲げ剛性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 デッキプレート
11 交差部
20 縦リブ
21 側面
30 補強体
31 充填材
32 プレキャストブロック
33 接着剤
34 挿通孔
40 鋼板
41 接合部
51 スタッドジベル
52 ネジ棒
53 ナット
60 モルタル
A 車両