(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】傾斜検知センサ
(51)【国際特許分類】
G01C 9/12 20060101AFI20221014BHJP
G01C 9/06 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G01C9/12 P
G01C9/06 R
(21)【出願番号】P 2019053397
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭造
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-023217(JP,U)
【文献】実開昭63-105811(JP,U)
【文献】特開2007-205738(JP,A)
【文献】実開昭61-131615(JP,U)
【文献】特公昭37-003697(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 9/12 - 9/16
G01C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準姿勢に対する検知対象物の傾斜を検知する傾斜検知センサであって、
ケースと、
前記ケースに保持される支軸と、
前記支軸を支点として揺動する揺動部と、
前記揺動部の揺動を検知する揺動検知手段と、を備え、
前記揺動部は、揺動の固有振動数が異なる複数の揺動体からなり、
前記揺動検知手段は、前記複数の揺動体が揺動していずれも基準位置から外れた場合に、前記検知対象物が前記基準姿勢から傾斜していることを示す信号を出力することを特徴とする傾斜検知センサ。
【請求項2】
前記揺動検知手段は1つのホール素子を有し、前記複数の揺動体のいずれもが前記基準位置から外れた場合に前記1つのホール素子から前記信号を出力する、請求項1記載の傾斜検知センサ。
【請求項3】
前記揺動検知手段は1つのフォトカプラを有し、前記複数の揺動体のいずれもが前記基準位置から外れた場合に前記1つの
フォトカプラから前記信号を出力する、請求項1記載の傾斜検知センサ。
【請求項4】
前記揺動部は、1Hz前後の固有振動周波数と、を有する揺動体と、数100Hz以上数kHz以下程度の固有振動周波数を有する他の揺動体と、を少なくとも含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の傾斜検知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の転倒検知センサに用いることができる傾斜検知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の自動二輪車では、車両が転倒したときには安全のためにエンジンを停止させるように制御されているものも少なくない。この制御において車体の傾斜を検知するセンサを用いる場合、走行中に車両が転倒したと誤判定するとエンジンの停止に繋がることから、誤判定を起こさないことが重要となる。従来、この種の傾斜検知センサとしては、特許文献1に開示された自動二輪車の車体傾斜センサが知られている。当該車体傾斜センサは、車体と共に揺動するウエイトの位置を検出して車体の角度を検出するセンサであって、車体が所定角度傾いた際に、車両が転倒したと判定するセンサである。
【0003】
この特許文献1に記載の車体傾斜センサでは、自動二輪車がカーブを走行中に車体のローリングなどによってウエイトが傾斜した際に転倒と誤判定しないように、傾斜角検出手段が所定時間内のウエイトの傾斜であれば、傾斜状態発信手段から傾斜状態信号を発しないようにして、走行中の車体の傾斜を転倒として誤検出しないような構成としている。
【0004】
また、特許文献2には、振り子とホール素子を用いた車両用転倒センサが開示されている。しかしながら、このような振り子式の転倒センサの場合、自動二輪車のエンジン等の振動によって振り子が共振し、振り子が振れた状態になるいわゆる駆け上がり現象が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-68062号公報
【文献】特開2011-121529号公報
【文献】特開平11-304478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたセンサは、車体のローリングなどによる慣性力が生じている際の誤作動を防止することができるが、自動二輪車ではローリング状態が左右交互に連続するスラロームを行う場合がある。このような場合、振り子が振れる方向に、振り子の共振周波数と合致した周期でスラロームが行われた際に振り子が共振し、想定している所定時間以上に振り子が振れるおそれがあり、このような振り子の共振による誤作動については回避することができない。
【0007】
また、特許文献2に記載のセンセでは、自動二輪車のエンジン等によるウエイトの共振によって生じる数100~数kHz(100Hz以上5kHz以下)の高周波領域での駆け上がり現象を回避することができない。このため、特許文献3のように、ウエイトに対して液体による粘性抵抗を付加してこのような共振を防止することが考えられる。
【0008】
しかしながら、このような液体を用いた構成においては、液体中の泡の発生や液漏れなどを防ぐ必要があるため液体の取り扱いが難しく、コスト的にも不利になるという不都合がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、揺動体の揺動を検知して検知対象物の傾斜を検知する傾斜検知センサであって、自動二輪車でスラロームを走行する場合のような低周波領域での揺動体の共振を防止することができる傾斜検知センサを提供することを目的とする。また、本発明の傾斜検知センサは、エンジン等の比較的高周波の振動が加わった場合でも共振を防止して、誤動作を抑制することができる傾斜検知センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一態様に係る傾斜検知センサは、基準姿勢に対する検知対象物の傾斜を検知する傾斜検知センサであって、ケースと、ケースに保持される支軸と、支軸を支点として揺動する揺動部と、揺動部の揺動を検知する揺動検知手段と、を備える。この傾斜検知センサにおいて、揺動部は、揺動の固有振動数が異なる複数の揺動体からなり、揺動検知手段は、複数の揺動体が揺動していずれも基準位置から外れた場合に、検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号を出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の傾斜検知センサによれば、揺動部の揺動を検知して検知対象物の傾斜を検知するものであり、揺動部として揺動の固有振動数が異なる複数の揺動体が設けられる。揺動検知手段は、複数の揺動体が揺動していずれも基準位置から外れた場合に、検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号を出力する。すなわち、異なる固有振動数を有する複数の揺動体の全てが基準位置から外れないと傾斜していることを示す信号が出力されないため、特定の共振周波数の振動によって傾斜を誤検知することが抑制される。
【0012】
上記傾斜検知センサにおいて、揺動検知手段は1つのホール素子を有し、複数の揺動体のいずれもが基準位置から外れた場合に1つのホール素子から前記信号を出力するようにしてもよい。これにより、複数の揺動体のそれぞれについて基準位置から外れたことを個別に検知する必要がなく、1つのホール素子によって一括して検知することができる。
【0013】
上記傾斜検知センサにおいて、揺動検知手段は1つのフォトカプラを有し、複数の揺動体のいずれもが基準位置から外れた場合に1つのホール素子から前記信号を出力するようにしてもよい。これにより、複数の揺動体のそれぞれについて基準位置から外れたことを個別に検知する必要がなく、1つのフォトカプラによって一括して検知することができる。
【0014】
上記傾斜検知センサにおいて、揺動部は、1Hz前後(0.1Hz以上10Hz以下)の固有振動周波数を有する揺動体と、数100Hz以上数kHz以下程度(100Hz以上5kHz以下)の固有振動周波数を有する他の揺動体と、を少なくとも含んでいてもよい。これにより、1Hz前後の低周波領域の共振による誤作動と、数100Hz以上数kHz以下程度の高周波領域の共振による誤動作とを防止することができる。
【0015】
例えば、自動二輪車のスラローム等によって揺動体の揺動方向に傾斜が繰り返された場合、基準位置から外れるほど共振する揺動体と、そのような共振を起こさない揺動体とが生じる。当該構成では、全ての揺動体が基準位置から外れないと揺動検知手段から信号が出力されないため、スラローム等の1Hz近傍(0.1Hz以上10Hz以下)の低周波領域の共振による誤作動を防止することができる。
【0016】
また、例えば、エンジン等から数100~数kHz(100Hz以上5kHz以下)の高周波領域の振動が加わった場合であっても、いわゆる駆け上がり現象によって揺動する揺動体と、そのような揺動を起こさない揺動体とが生じる。したがって、エンジン等から数100~数kHzの高周波領域の振動が加わった場合の誤動作を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、自動二輪車でスラローム走行を行った場合のような低周波領域での揺動体の共振を防止することができると共に、エンジン等の振動が加わった場合でも揺動体の駆け上がり現象を防止することができる傾斜検知センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第一の実施形態の傾斜検知センサの形状を例示する斜視図である。
【
図2】傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。
【
図3】傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。
【
図4】傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。
【
図5】傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。
【
図6】傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。
【
図7】第二の実施形態の傾斜検知センサの形状を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0020】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態の傾斜検知センサの形状を例示する斜視図である。なお、
図1には、ケース2の一部を破断した状態が示される。
図1に示すように、第一の実施形態の傾斜検知センサ1は、揺動部4が揺動するいわゆる振り子式のセンサである。傾斜検知センサ1は検知対象物に取り付けられ、基準姿勢に対する検知対象物の傾斜を検知する。
【0021】
傾斜検知センサ1は、ケース2と、ケース2に固定されている支軸3と、支軸3を中心に揺動する揺動部4と、揺動部4の揺動を検知する揺動検知手段5であるホール素子51を備える。第一の実施形態の傾斜検知センサ1では、揺動部4の揺動角度に応じてホール素子51の抵抗値が変化することにより、揺動部4の揺動を検知する。
【0022】
ケース2は、例えば合成樹脂により形成されており、支軸3及び揺動部4を収納する収納部2aを有する。ケース2の上方には、自動二輪車等の検知対象物(図示省略)に固定するための固定部2bが設けられている。また、ケース2の下方には、ホール素子51からの信号を外部に出力する出力端子6の周囲を囲むコネクタ部2cが設けられている。また、ケース2における収納部2aの上方(収納部2aと固定部2bとの間)には、磁気的に検知するホール素子51が配置される。なお、ケース2は、収納部2aの前面を覆う蓋部材(図示省略)を備えている。
【0023】
揺動部4は、揺動の固有振動数が互いに異なる複数の揺動体を有する。本実施形態では、第1揺動体41及び第2揺動体42による2つの揺動体を有する。第1揺動体41及び第2揺動体42は、支軸3に同軸に取り付けられ、それぞれ支軸3を支点として揺動可能に設けられる。すなわち、第1揺動体41及び第2揺動体42のそれぞれは、支軸3に揺動可能に取り付けられ、支軸3に沿って互いに重なるように配置される。なお、第1揺動体41と第2揺動体42との間には僅かな隙間が設けられ、互いの動きに影響を受けることなく揺動可能となっている。
【0024】
第1揺動体41及び第2揺動体42のそれぞれは、例えば磁性体材料によって形成される。これにより、第1揺動体41及び第2揺動体42の揺動によってホール素子51の抵抗値変化を発生させることができる。なお、磁性体材料には、スチール等の素材のみならず、磁性体を混合した合成樹脂等の素材も含まれる。また、第1揺動体41及び第2揺動体42におけるホール素子51と対向する面や、その近傍部分のみに磁性体材料が用いられていてもよい。
【0025】
第1揺動体41は、支軸3に対して一方側に延出する第1振り子部分411と、支軸3に対して他方側(一方側とは反対側)に延出する第1延出部分412とを有する。第1振り子部分411及び第1延出部分412のそれぞれは、例えば扇型に設けられる。第1振り子部分411における支軸3の中心から重心位置までの距離は、第1延出部分412における支軸3の中心から重心位置までの距離よりも長い。したがって、通常の状態では、第1振り子部分411の自重によって第1振り子部分411が支軸3に対して下側、第1延出部分412が支軸3に対して上側に配置される。
【0026】
第1延出部分412の周縁の面は、ホール素子51と対向している。第1延出部分412が扇型に設けられていると、第1揺動体41が揺動した際、一定の揺動角度内では第1延出部分412の周縁の面とホール素子51との距離は変化しない。一方、一定の揺動角度を超えると、第1延出部分412の周縁の面とホール素子51とは対向しなくなる。したがって、第1延出部分412の扇型の角度によって、第1揺動体41の揺動角度に応じたホール素子51の抵抗値変化の特性を設定することができる。
【0027】
第2揺動体42は、支軸3に対して一方側に延出する第2振り子部分421と、支軸3に対して他方側(一方側とは反対側)に延出する第2延出部分422とを有する。第1揺動体41と同様、第2振り子部分421及び第2延出部分422のそれぞれは、例えば扇型に設けられる。
【0028】
ここで、第2延出部分422の扇型の大きさ(扇型に基づく円の半径及び中心角度。以下同等。)は、第1延出部分412の扇型の大きさとほぼ等しい。これにより、第1延出部分412と同様に、第2延出部分422の周縁の面はホール素子51と対向することになる。そして、第2揺動体42が揺動した際、一定の揺動角度内では第2延出部分422の周縁の面とホール素子51との距離は変化せず、一定の揺動角度を超えると、第2延出部分422の周縁の面とホール素子51とが対向しなくなる。したがって、第2延出部分422の扇型の角度によって、第2揺動体42の揺動角度に応じたホール素子51の抵抗値変化の特性を設定することができる。
【0029】
一方、第2振り子部分421の扇型の大きさは、第1振り子部分411の扇型の大きさよりも大きい。すなわち、第2振り子部分421における支軸3の中心から重心位置までの距離は、第1振り子部分411における支軸3の中心から重心位置までの距離よりも長い。第1振り子部分411と第2振り子部分421との扇型の大きさの相違によって、第1揺動体41と第2揺動体42との固有振動数が相違することになる。
【0030】
ホール素子51は、第1延出部分412及び第2延出部分422のそれぞれの周縁の面と対向する位置に配置される。ホール素子51は、ケース2の枠内に埋め込まれていてもよい。ホール素子51の抵抗値は、第1揺動体41及び第2揺動体42の支軸3を支点とした揺動に伴い第1延出部分412及び第2延出部分422が揺動することによって変化する。
【0031】
本実施形態では、ホール素子51にバイアス磁石52が設けられる。バイアス磁石52によってホール素子51の出力値にバイアスが設定される。本実施形態では、第1揺動体41及び第2揺動体42が揺動していずれも基準位置から外れた場合に、ホール素子51の出力値(抵抗値)が所定の閾値を超えるようにバイアス設定される。
【0032】
なお、振動等が加えられておらず、かつ支軸3の中心、揺動検知手段5(ホール素子51)および揺動部4の重心位置が重力方向に直線状に並んだ状態を基準姿勢とした場合、基準位置とは、基準姿勢に対して所定の傾斜角度の範囲で傾斜している状態(基本姿勢も含む)であることをいう。例えば、自動二輪に用いられた場合には、基準位置とは転倒していない状態であり、基準位置を外れるとは転倒した状態であると言える。
【0033】
すなわち、第1揺動体41及び第2揺動体42の一方のみが基準位置から外れた状態ではホール素子51の出力値は所定の閾値を超えず、第1揺動体41及び第2揺動体42のいずれもが基準位置から外れた状態のみホール素子51の出力値が所定の閾値を超えるようになっている。これにより、第1揺動体41及び第2揺動体42のそれぞれについて基準位置から外れたことを1つのホール素子51によって一括して検知するため、複数のセンサを設ける必要はない。したがって、傾斜検知センサ1の構成の簡素化およびコスト低減を図ることが可能となる。
【0034】
言い換えると、揺動部4は揺動検知手段5の検知対象である被検知部を有し、被検知部は揺動部4の揺動に連動した揺動を行う。被検知部は揺動検知手段5に対向して配置され、揺動検知手段5が被検知部を検知して、傾斜検知センサ1の傾斜角度が基準位置の範囲から外れていないかを検知する。
【0035】
なお、本実施形態における被検知部は第1延出部分412および第2延出部分422であり、第1延出部分412および第2延出部分422の周縁の面が支軸3の延設方向に並んで配置され、ともに揺動検知手段5であるホール素子51に対向して配置されている。次に詳しく説明するように、第1延出部分412および第2延出部分422が同時に基準位置の範囲から外れている状態であるとき、傾斜検知センサ1は基準位置から傾斜している(外れている)と判断する。
【0036】
(傾斜検知動作)
以下、本実施形態に係る傾斜検知センサ1の動作について説明する。
図2~
図6は、傾斜検知センサの動作例を説明する正面図である。なお、いずれの図においても、ケース2の一部を破断した状態が示される。また、以下の動作の説明において、第1揺動体41の方向とは、支軸3の中心から第1振り子部分411の重心に向かう方向のことを言い、第2揺動体42の方向とは、支軸3の中心から第2振り子部分421の重心に向かう方向のことを言うものとする。
【0037】
図2には、基準姿勢の状態が示される。すなわち、揺動部4における第1揺動体41及び第2揺動体42の方向のいずれもが重力方向Gを向いている状態が基本姿勢であり、傾斜検知センサ1は、基準姿勢から検知対象物がどれだけ傾斜したかの検知を行う。傾斜検知センサ1は、検知対象物の傾斜角度が0度の状態において基準姿勢となるように検知対象物に取り付けられている。
【0038】
傾斜検知センサ1が基準姿勢の状態では、第1揺動体41の第1延出部分412の周縁の面、及び第2揺動体42の第2延出部分422の周縁の面は、ともにホール素子51と対向している。したがって、出力端子6からは、検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号は出力されない。
【0039】
次に、検知対象物が傾くと、検知対象物に固定されているケース2が同じ角度だけ傾く。
図3には、ケース2が少し傾いた状態が示される。この際、ケース2は傾くものの、第1揺動体41及び第2揺動体42の方向は重力方向Gを維持することになる。このため、ケース2に対して第1揺動体41及び第2揺動体42が相対的に回転する状態となる。
【0040】
ケース2の傾きが僅かな場合には、ケース2に対して第1揺動体41及び第2揺動体42は回転するものの、第1揺動体41の第1延出部分412の周縁の面、及び第2揺動体42の第2延出部分422の周縁の面は、ともにホール素子51と対向している。したがって、出力端子6からは、検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号は出力されない。検知対象物が基準姿勢から傾いても、第1延出部分412及び第2延出部分422の周縁の面とホール素子51と対向状態が維持される角度(ホール素子51の抵抗値の閾値を超えるまでの角度)までは、検知対象物の傾斜許容範囲である。
【0041】
図4には、検知対象物が傾斜許容範囲を超えて傾いた状態が示される。この状態では、ケース2に対して第1揺動体41及び第2揺動体42の相対的な回転角度が大きくなり、第1揺動体41の第1延出部分412の周縁の面、及び第2揺動体42の第2延出部分422の周縁の面とは、ともにホール素子51と対向しなくなる(対向状態が維持されない角度)。これにより、ホール素子51の抵抗値が閾値を超えるまで変化し、出力端子6からは、検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号が出力される。例えば、検知対象物である自動二輪車が転倒した場合、傾斜検知センサ1は傾斜許容範囲を超える状態となり、出力端子6から信号が出力され、自動二輪車が転倒するほど傾斜していること検知することができる。
【0042】
ここで、傾斜検知センサ1に対して、自動二輪車等の検知対象物が連続してスラロームをするような低周波(1Hz近傍、具体的には0.1Hz以上10Hz以下)の振動が加わった場合の動作について説明する。
図5には、傾斜検知センサ1に低周波の振動が加わった状態が示される。この場合、実際には傾斜検知センサ1が傾いていなくても、低周波に固有振動数を有する第2揺動体42が共振して、揺動する可能性がある。第2揺動体42の揺動によって第2延出部分422の周縁の面は、ホール素子51と対向しなくなる状態になり得る。
【0043】
一方、第1揺動体41は低周波に固有振動数を有していないため共振しない。したがって、第1揺動体41の第1延出部分412の周縁の面は、ホール素子51と対向した状態が維持される。このように、第2揺動体42の揺動によって第2延出部分422の周縁の面がホール素子51と対向しなくなっても、第1延出部分412の周縁の面はホール素子51と対向した状態が維持されるため、ホール素子51の抵抗値は閾値を超えない。すなわち、バイアス磁石52によるバイアスの範囲内での変化では、出力端子6から検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号は出力されない。
【0044】
次に、傾斜検知センサ1に対して、エンジン振動等の比較的高周波(数100~数kHz程度、具体的には100Hz以上5kHz以下)の振動が加わった場合の動作について説明する。
図6には、傾斜検知センサ1に比較的高周波の振動が加わった状態が示される。この場合、実際には傾斜検知センサ1が傾いていなくても、高周波に固有振動数を有する第1揺動体41が共振して、揺動する可能性がある。これは、いわゆる駆け上がり現象であり、揺動部4に対して細かく振動する力が加わることで振り子が振れた状態になるためである。第1揺動体41の揺動によって第1延出部分412の周縁の面は、ホール素子51と対向しなくなる状態になり得る。
【0045】
一方、第2揺動体42は高周波に固有振動数を有していないため共振せず、いわゆる駆け上がり現象は生じにくい。したがって、第2揺動体42の第2延出部分422の周縁の面は、ホール素子51と対向した状態が維持される。このように、第1揺動体41の揺動によって第1延出部分412の周縁の面がホール素子51と対向しなくなっても、第2延出部分422の周縁の面はホール素子51と対向した状態が維持されるため、ホール素子51の抵抗値は閾値を超えない。すなわち、バイアス磁石52によるバイアスの範囲内での変化では、出力端子6から検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号は出力されない。
【0046】
このように、第一の実施形態の傾斜検知センサ1によれば、低周波振動が加わった場合でも揺動部4の2つの揺動体41、42の両方が共振することを抑えることができ、高周波振動が加わった場合でも揺動部4の2つの揺動体41、42の両方が共振することを抑えることができるため、誤作動が生じにくい。特に、検知対象物が自動二輪車の場合、1Hz近傍の低周波領域で共振する固有振動数をもつ第2揺動体42と、数100Hz~数kHz程度の高周波領域で共振する固有振動数をもつ第1揺動体41とを設けることで、スラローム走行を行った場合やエンジン等の振動が加わった場合でも誤動作を抑制でき、自動二輪車の転倒を精度良く検出することが可能となる。
【0047】
なお、自動二輪車を運転する際に、エンジンが高回転の状態でスラローム走行を行うことは通常有り得ないため、低周波に高周波が重畳された振動が加わって2つの揺動体41、42が同時に共振する可能性は事実上ないと考えてよい。
【0048】
(第二の実施形態)
次に、第二の実施形態について説明する。
図7は、第二の実施形態の傾斜検知センサの形状を例示する斜視図である。なお、
図7には、ケース2の一部を破断した状態が示される。
図7に示すように、第二の実施形態の傾斜検知センサ11は、揺動検知手段5としてフォトカプラ53を有する。フォトカプラ53は図示しない発光部及び受光部を有し、第1延出部分412及び第2延出部分422の面と直交する方向を光軸(検出光路)としている。フォトカプラ53は、第1延出部分412及び第2延出部分422を間(検出光路上)にして配置される。
【0049】
第1延出部分412及び第2延出部分422はフォトカプラ53の検出光波長を透過しない材料によって形成される。したがって、第1延出部分412及び第2延出部分422のいずれか一方によってフォトカプラ53の検出光路を遮ると、フォトカプラ53の受光部は光を受けるこができない。一方、第1延出部分412及び第2延出部分422のいずれもがフォトカプラ53の検出光路から外れると、フォトカプラ53の受光部は光を受けることができる。
【0050】
具体的には、第二の実施形態の傾斜検知センサ11を、
図2に示す基準姿勢の状態、
図3に示すケース2が少し傾いた状態(傾斜許容範囲内)、
図5に示す傾斜検知センサに低周波の振動が加わった状態、及び
図6に示す傾斜検知センサに比較的高周波の振動が加わった状態と同様の状態にした場合、第1延出部分412及び第2延出部分422の少なくとも一方でフォトカプラ53の検出光路を遮ることになり、出力端子6から検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号は出力されない。
【0051】
一方、
図4に示す検知対象物が傾斜許容範囲を超えて傾いた状態では、第1延出部分412及び第2延出部分422のいずれもがフォトカプラ53の検出光路から外れることになり、出力端子6から検知対象物が基準姿勢から傾斜していることを示す信号が出力される。
【0052】
第二の実施形態の傾斜検知センサ11では、第1揺動体41及び第2揺動体42のそれぞれについて基準位置から外れたことを1つのフォトカプラ53によって検知するため、複数のセンサを設ける必要はない。したがって、傾斜検知センサ1の構成の簡素化およびコスト低減を図ることが可能となる。また、揺動検知手段5としてフォトカプラ53を用いることで、外部磁気雑音に影響されずに傾斜を検知することが可能となる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、自動二輪車でスラロームを走行する場合のような低周波領域での揺動体の共振を防止することができると共に、エンジン等の比較的高周波の振動が加わった場合でも揺動体の共振を防止して、誤動作を抑制することが可能となる。
【0054】
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、揺動部4の揺動体は2つに限定されず、3つ以上あってもよい。傾斜検知センサ1が第1揺動体41とは異なる振動数で駆け上がり現象を生じうる第3揺動体を有する場合には、特殊な状況でエンジンが高回転の状態でスラローム走行を行うことがあって第1揺動体41および第2揺動体42の双方の周縁の面がホール素子51と対向しない状態となったとしても、第2揺動体42が駆け上がり現象を生じる振動数では第3揺動体は駆け上がり現象を生じないので、傾斜検知センサ1が転倒と誤認する可能性を回避することができる。また、揺動体の形状は扇型以外であってもよい。例えば、所定の重さ(重心)を有し、揺動した際にケース2の収納部2aに干渉しない形状であればよい。また、揺動検知手段5は、ホール素子51やフォトカプラ53に限定されず、例えば静電容量式やインダクタンス方式など、他のセンサであってもよい。
【0055】
また、揺動検知手段5は、揺動体の揺動を検知できる場所であればどこに配置されていてもよい。例えば、揺動体の振り子部分で検知してもよいし、支軸3の周りの部分で検知するようにしてもよい。また、揺動体の形状によって、揺動検知手段5による揺動検知の論理を上記説明とは逆にしてもよい。さらにまた、揺動体の回転(揺動)動作に対して適宜の抵抗(例えば、粘性抵抗)を持たせるようにしてもよい。
【0056】
検知対象物は自動二輪車のみならず、自転車、ボート、ジェットスキーなどであっても適用可能である。
【0057】
また、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の構成例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0058】
1、11…傾斜検知センサ
2…ケース
2a…収納部
2b…固定部
2c…コネクタ部
3…支軸
4…揺動部
5…揺動検知手段
6…出力端子
41…第1揺動体
42…第2揺動体
51…ホール素子
52…バイアス磁石
53…フォトカプラ
411…第1振り子部分
412…第1延出部分
421…第2振り子部分
422…第2延出部分
G…重力方向