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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20221014BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20221014BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B23K9/12 304B
B23K9/12 305
B23K9/073 545
B23K9/133 502Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019056411
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020099945
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018239497
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】恵良 哲生
(72)【発明者】
【氏名】荒金 智
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094380(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027639(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/105151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00,9/06-9/133,10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収用する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の波形パラメータを補正し、
前記波形パラメータが、前記収容量が目標値よりも大のときは正送ピーク値であり、前記収容量が前記目標値よりも小のときは逆送ピーク値である、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収用する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の波形パラメータを補正し、
前記波形パラメータが、前記収容量が目標値よりも大のときは逆送ピーク値であり、前記収容量が前記目標値よりも小のときは正送ピーク値である、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記波形パラメータの所定位相に同期して前記補正を行う、
ことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記所定位相が、前記プル送給速度が0となる位相である、
ことを特徴とする請求項3に記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの送給を正送と逆送とに交互に切り換えて溶接する正逆送給アーク溶接方法が提案されている。この正逆送給アーク溶接方法では、一定の送給速度の従来技術に比べて、短絡とアークとの繰り返しの周期を安定化することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
【0004】
正逆送給アーク溶接方法では、溶接ワイヤの正送及び逆送を100Hz程度で高速・高精度に切り換える必要がある。このために、送給方式としてプッシュプル送給方式を採用することが多い。さらに、プッシュ側送給モータとプル側送給モータとの送給経路の間に溶接ワイヤを一時的に収用する中間ワイヤ収容部を設けることも多い。
【0005】
正逆送給アーク溶接方法においては、短絡期間及びアーク期間の発生タイミングに同期して、正送期間と逆送期間とが切り換えられる。このために、溶接電圧の設定値、突き出し長さ等の溶接条件が変化して短絡期間とアーク期間との時間比率が変化すると、正送期間と逆送期間との時間比率も変化するので溶接ワイヤの平均送給速度が変化する。平均送給速度が変化すると、溶着量が変化するので、溶接品質が悪くなる。この問題に対処するために、特許文献1の発明では、プッシュ側モータによって一定速度で正送送給し、中間ワイヤ収容部の収容量を検出し、この収容量に基づいてプル側モータのプル送給速度を補正制御している。この補正制御によって、平均送給速度が変化することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-94380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の補正制御では、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度の平均値を変化させている。このために、溶接電圧の設定値、突き出し長さ等の溶接条件が急峻に変化した場合、補正制御の過渡応答性が悪いために、溶接品質が低下するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明では、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度を補正制御する正逆送給アーク溶接方法において、補正制御を高速・高精度に行うことができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収用する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の波形パラメータを補正し、
前記波形パラメータが、前記収容量が目標値よりも大のときは正送ピーク値であり、前記収容量が前記目標値よりも小のときは逆送ピーク値である、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0012】
請求項2の発明は、
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収用する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の波形パラメータを補正し、
前記波形パラメータが、前記収容量が目標値よりも大のときは逆送ピーク値であり、前記収容量が前記目標値よりも小のときは正送ピーク値である、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0013】
請求項3の発明は、
前記波形パラメータの所定位相に同期して前記補正を行う、
ことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法である。
【0014】
請求項4の発明は、
前記所定位相が、前記プル送給速度が0となる位相である、
ことを特徴とする請求項3に記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度を補正制御する正逆送給アーク溶接方法において、補正制御を高速・高精度に行うことができるので、高品質の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図4】本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0020】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0021】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0022】
プッシュ側送給モータWMPは、後述するプッシュ送給制御信号Fcpを入力として、正送回転して一定速度のプッシュ送給速度Fwpで溶接ワイヤ1を送給する。プル側送給モータWMは、後述するプル送給制御信号Fcを入力として、正送回転と逆送回転とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。プッシュ側送給モータWMPが送給経路の上流側に設けられており、プル側送給モータWMは下流側に設けられている。両送給モータともに速度制御されている。両送給モータでプッシュプル送給制御系を構成している。
【0023】
中間ワイヤ収容部WBは、プッシュ側送給モータWMPとプル側送給モータWMとの間の送給経路に設けられ、溶接ワイヤ1を一時的に収用し、収容量に応じた収容量信号Wbを出力する。中間ワイヤ収容部WBは、特許文献1等の従来技術で慣用されているので、詳細な構造については省略する。溶接ワイヤ1の収容量の検出は、機械的原理、電気的原理、光学的原理、磁気的原理、又はこれらの原理の組合せによって行う。
【0024】
溶接ワイヤ1は、上記のプル側送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出して、アーク3を大気から遮蔽する。
【0025】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0026】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0027】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0028】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0029】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0030】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0031】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0032】
正送ピーク初期値設定回路WSSは、予め定めた正送ピーク初期値設定信号Wssを出力する。
【0033】
逆送ピーク初期値設定回路WRSは、予め定めた逆送ピーク初期値設定信号Wrsを出力する。
【0034】
収容量設定回路WBRは、目標値となる予め定めた収容量設定信号Wbrを出力する。収容量誤差増幅回路EWは、上記の収容量設定信号Wbr及び上記の収容量信号Wbを入力として、収容量設定信号Wbr(-)と収容量信号Wb(+)との誤差を増幅して、収容量誤差増幅信号Ewを出力する。Ew=G・(Wb-Wbr)であり、Gは正の値の増幅率である。したがって、収容量信号Wbが目標値の収容量設定信号Wbrよりも大のときは収容量誤差増幅信号Ewは正の値となり、収容量信号Wbが目標値の収容量設定信号Wbrよりも小のときは収容量誤差増幅信号Ewは負の値となる。
【0035】
プル送給速度補正回路FHは、上記の正送ピーク初期値設定信号Wss、上記の逆送ピーク初期値設定信号Wrs及び上記の収容量誤差増幅信号Ewを入力として、以下に示す処理1)~5)の中から一つを選択して補正制御を行い、正送ピーク値設定信号Wsr及び逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。以下に示す補正制御(変調制御)は、微小制御周期ごとに行われる。微小制御周期は、例えば0.1msである。また、以下に示す補正制御は、制御系がP制御の場合であるが、PI制御、PID制御であっても良い。
処理1)正送ピーク値のみを補正制御する場合
正送ピーク初期値設定信号Wssを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して正送ピーク値設定信号Wsr=Wss+Ewを出力する。そして、逆送ピーク初期値設定信号Wrsをそのまま逆送ピーク値設定信号Wrr=Wrsとして出力する。
処理2)逆送ピーク値のみを補正制御する場合
逆送ピーク初期値設定信号Wrsを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して逆送ピーク値設定信号Wrr=Wrs+Ewを出力する。そして、正送ピーク初期値設定信号Wssをそのまま正送ピーク値設定信号Wsr=Wssとして出力する。
処理3)正送ピーク値及び逆送ピーク値を補正制御する場合
正送ピーク初期値設定信号Wssを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して正送ピーク値設定信号Wsr=Wss+Ewを出力する。そして、逆送ピーク初期値設定信号Wrsを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して逆送ピーク値設定信号Wrr=Wrs+Ewを出力する。
処理4)収容量誤差増幅信号Ewの符号に応じて正送ピーク値及び逆送ピーク値を補正制御する第1の場合
収容量誤差増幅信号Ew≧0のときは、正送ピーク初期値設定信号Wssを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して正送ピーク値設定信号Wsr=Wss+Ewを出力する。他方、収容量誤差増幅信号Ew<0のときは、逆送ピーク初期値設定信号Wrsを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して逆送ピーク値設定信号Wrr=Wrs+Ewを出力する。
処理5)収容量誤差増幅信号Ewの符号に応じて正送ピーク値及び逆送ピーク値を補正制御する第2の場合
収容量誤差増幅信号Ew<0のときは、正送ピーク初期値設定信号Wssを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して正送ピーク値設定信号Wsr=Wss+Ewを出力する。他方、収容量誤差増幅信号Ew≧0のときは、逆送ピーク初期値設定信号Wrsを収容量誤差増幅信号Ewによって補正制御(変調制御)して逆送ピーク値設定信号Wrr=Wrs+Ewを出力する。
【0036】
プル送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成されたプル送給速度パターンをプル送給速度設定信号Frとして出力する。このプル送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持するプル送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持するプル送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンのプル送給速度設定信号Frが生成される。
【0037】
プル送給制御回路FCは、上記のプル送給速度設定信号Frを入力として、プル送給速度設定信号Frの値に相当するプル送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するためのプル送給制御信号Fcを上記のプル側送給モータWMに出力する。
【0038】
プッシュ送給速度設定回路FRPは、正の値の予め定めたプッシュ送給速度設定信号Frpを出力する。プッシュ送給制御回路FCPは、上記のプッシュ送給速度設定信号Frpを入力として、プッシュ送給速度設定信号Frpの値に相当するプッシュ送給速度Fwpで溶接ワイヤ1を送給するためのプッシュ送給制御信号Fcpを上記のプッシュ側送給モータWMPに出力する。
【0039】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0040】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0041】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0042】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0043】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0044】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0045】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0046】
電流降下時間設定回路TDRは、予め定めた電流降下時間設定信号Tdrを出力する。
【0047】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流降下時間設定信号Tdrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から電流降下時間設定信号Tdrによって定まる時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0048】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後の大電流アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる小電流アーク期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流アーク期間中は定電流特性となり、それ以外の大電流アーク期間中は定電圧特性となる。
【0049】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はプル送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はプッシュ送給速度Fwpの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0050】
同図(A)に示すプル送給速度Fwは、図1のプル送給速度設定回路FRから出力されるプル送給速度設定信号Frの値に制御される。プル送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、プル送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。また、同図(F)に示すプッシュ送給速度Fwpは、図1のプッシュ送給速度設定信号Frpによって定まる一定の速度となる。
【0051】
[時刻t1~t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1~t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0052】
同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは時刻t2~t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0053】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1~t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。
【0054】
同図(B)に示すように、時刻t1~t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0055】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0056】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0057】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=175A/ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間=0.5ms。
【0058】
[時刻t4~t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4~t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。例えば、逆送減速期間Trd=1msに設定される。
【0059】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5~t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0060】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4~t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。
【0061】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4~t41の遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、時刻t41から溶接電流Iwは急速に増加してピーク値となり、その後は徐々に減少する大電流値となる。この時刻t41~t61の大電流アーク期間中は、図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。したがって、大電流アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化する。
【0062】
時刻t4にアークが発生してから図1の電流降下時間設定信号Tdrによって定まる電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。
【0063】
同図において、正送ピーク値Wsp(正送ピーク値設定信号Wsr)及び/又は逆送ピーク値Wrp(逆送ピーク値設定信号Wrr)は、図1のプル送給速度補正回路FHによって、処理1)~5)の中から一つが選択されて補正制御される。
【0064】
上記のプル送給速度Fwの補正制御の数値例を以下に示す。Wss=60m/min、Wrs=-50m/minの場合において、Ew=2であったときは、
処理1)の場合 Wsr=60+2=62、Wrr=-50
処理2)の場合 Wsr=60、Wrr=-50+2=-48
処理3)の場合 Wsr=60+2=62、Wrr=-50+2=-48
処理4)の場合 Ew≧0であるのでWsr=60+2=62、Wrr=-50
処理5)の場合 Ew≧0であるのでWsr=60、Wrr=-50+2=-48
【0065】
また、Ew=-3であったときは、
処理1)の場合 Wsr=60-3=57、Wrr=-50
処理2)の場合 Wsr=60、Wrr=-50-3=-53
処理3)の場合 Wsr=60-3=57、Wrr=-50-3=-53
処理4)の場合 Ew<0であるのでWsr=60、Wrr=-50-3=-53
処理5)の場合 Ew<0であるのでWsr=60-3=57、Wrr=-50
【0066】
上述した実施の形態1によれば、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて、プル送給速度の波形パラメータを補正する。波形パラメータは、正送ピーク値及び/又は逆送ピーク値である。正逆送給アーク溶接方法においては、短絡期間及びアーク期間の発生タイミングに同期して、正送期間と逆送期間とが切り換えられる。このために、溶接電圧の設定値、突き出し長さ等の溶接条件が変化して短絡期間とアーク期間との時間比率が変化すると、正送期間と逆送期間との時間比率も変化するので、溶接ワイヤの平均送給速度(プル送給速度の平均値)が変化する。平均送給速度が変化すると、溶着量が変化するので、溶接品質が悪くなる。本実施の形態においては、正送期間と逆送期間との時間比率が変化してプル送給速度の平均値が変化すると、一定速度のプッシュ送給速度との間に差分が生じる。この結果、中間ワイヤ収容部の収容量と目標値との間に誤差が発生する。この誤差が0になるように正送ピーク値及び/又は逆送ピーク値を補正することによって、プル送給速度とプッシュ送給速度の平均値とを等しくすることができる。このために、プル送給速度の平均値を所定値に戻すことができる。さらに、溶接電圧の設定値、突き出し長さ等の溶接条件が急峻に変化しても、本実施の形態においては、プル送給速度の波形パラメータを直接補正するので、補正制御の過渡応答性を向上させることができる。この結果、補正制御を高速・高精度に行うことができるので、高品質の溶接が可能となる。
【0067】
さらに、実施の形態1によれば、波形パラメータが、収容量が目標値よりも大のときは正送ピーク値であり、収容量が目標値よりも小のときは逆送ピーク値である。さらに、実施の形態1によれば、波形パラメータが、収容量が目標値よりも大のときは逆送ピーク値であり、収容量が目標値よりも小のときは正送ピーク値である。このようにすると、補正制御時の溶接状態をより安定化させることができる。
【0068】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、実施の形態1で上述したプル送給速度の補正制御を、プル送給速度の波形パラメータの所定位相に同期して行う。所定位相は、例えば、プル送給速度が0となる位相である。
【0069】
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1のプル送給速度補正回路FHを第2プル送給速度補正回路FH2に置換したものである。以下、同図を参照して、このブロックについて説明する。
【0070】
第2プル送給速度補正回路FH2は、上記のプル送給速度設定信号Fr、上記の正送ピーク初期値設定信号Wss、上記の逆送ピーク初期値設定信号Wrs及び上記の収容量誤差増幅信号Ewを入力として、実施の形態1で上述した処理1)~5)の中から一つを選択し、プル送給速度設定信号Frの波形が所定位相になった時点における収容量誤差増幅信号Ewに基づいて補正制御を行い、正送ピーク値設定信号Wsr及び逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0071】
図3における各信号のタイミングチャートは、上述した図2と同一であるので省略する。但し、補正制御によるプル送給速度Fwの更新が、プル送給速度Fwの所定位相に同期して行われる点は異なっている。所定位相としては、図2(A)に示す以下の場合がる。
1)時刻t1の正送減速期間Tsdの開始時点(短絡発生時点)
2)時刻t2の正送から逆送に切り替わるプル送給速度Fw=0の時点
3)時刻t3の逆送ピーク期間Trpの開始時点
4)時刻t4の逆送減速期間Trdの開始時点(アーク発生時点)
5)時刻t5の逆送から正送に切り替わるプル送給速度Fw=0の時点
6)時刻t6の正送ピーク期間Tspの開始時点
【0072】
上述した実施の形態2によれば、プル送給速度の波形パラメータの所定位相に同期して、プル送給速度の補正を行う。このようにすると、プル送給速度の更新が同じ溶接状態のときに行われるので、溶接状態が安定化する。
【0073】
さらに、所定位相が、プル送給速度が0となる位相であることがより好ましい。このようにすると、プル送給速度が急峻に変化することなく円滑に更新されるので、溶接状態がより安定化する。
【0074】
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、実施の形態1又は2において、溶接終了時に、補正されたプル送給速度の波形パラメータを記憶し、記憶されたプル送給速度の波形パラメータによって次回の溶接を開始するものである。
【0075】
図4は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1の正送ピーク初期値設定回路WSSを第2正送ピーク初期値設定回路WSS2に置換し、図1の逆送ピーク初期値設定回路WRSを第2逆送ピーク初期値設定回路WRS2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0076】
第2正送ピーク初期値設定回路WSS2は、上記の正送ピーク値設定信号Wsrを入力として、前回の溶接が終了した時点における正送ピーク値設定信号Wsrの値を記憶しておき、次回の溶接を開始するときはこの記憶された値を正送ピーク初期値設定信号Wssとして出力する。
【0077】
第2逆送ピーク初期値設定回路WRS2は、上記の逆送ピーク値設定信号Wrrを入力として、前回の溶接が終了した時点における逆送ピーク値設定信号Wrrの値を記憶しておき、次回の溶接を開始するときはこの記憶された値を逆送ピーク初期値設定信号Wrsとして出力する。
【0078】
図4における各信号のタイミングチャートは、上述した図2と同一であるので省略する。但し、前回の溶接終了時における補正制御されたプル送給速度Fwの波形パラメータが記憶され、次回の溶接に際しては、この記憶されたプル送給速度Fwの波形パラメータを初期値として補正制御が開始される点は異なっている。
【0079】
上述した実施の形態3によれば、溶接終了時に、補正されたプル送給速度の波形パラメータを記憶し、この記憶されたプル送給速度の波形パラメータによって次回の溶接を開始する。このようにすると、次回の溶接の開始時点から安定した溶接状態を得ることができる。
【0080】
上述した実施の形態3は、実施の形態1を基礎とした場合であるが、実施の形態2を基礎とする場合も同様である。
【符号の説明】
【0081】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
EW 収容量誤差増幅回路
Ew 収容量誤差増幅信号
FC プル送給制御回路
Fc プル送給制御信号
FCP プッシュ送給制御回路
Fcp プッシュ送給制御信号
FH プル送給速度補正回路
FH2 第2プル送給速度補正回路
FR プル送給速度設定回路
Fr プル送給速度設定信号
FRP プッシュ送給速度設定回路
Frp プッシュ送給速度設定信号
Fw プル送給速度
Fwp プッシュ送給速度
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STD 小電流期間回路
Std 小電流期間信号
SW 電源特性切換回路
TDR 電流降下時間設定回路
Tdr 電流降下時間設定信号
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WB 中間ワイヤ収容部
Wb 収容量信号
WBR 収容量設定回路
Wbr 収容量設定信号
WL リアクトル
WM プル側送給モータ
WMP プッシュ側送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
Wrr 逆送ピーク値設定信号
WRS 逆送ピーク初期値設定回路
Wrs 逆送ピーク初期値設定信号
WRS2 第2逆送ピーク初期値設定回路
Wsp 正送ピーク値
Wsr 正送ピーク値設定信号
WSS 正送ピーク初期値設定回路
Wss 正送ピーク初期値設定信号
WSS2 第2正送ピーク初期値設定回路
図1
図2
図3
図4