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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】射出成型方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20221014BHJP
   B29B 11/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B29C45/26
B29B11/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019062996
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020157741
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】梶山 努
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-048039(JP,A)
【文献】特開平06-155535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B29B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂が射出・充填されるキャビティを有し、該キャビティ内に射出された前記溶融した樹脂が分岐・合流する形状を有する金型を用いた射出成型方法において、
前記射出前に前記溶融した樹脂に気泡を注入する気泡注入工程と、
同じく前記射出前に注入された前記気泡を微小気泡に変換する微小気泡生成工程と、
該微小気泡を含有した前記溶融した樹脂を射出する射出工程と、
該射出された前記微小気泡を含有する前記溶融した樹脂の前記微小気泡を前記合流箇所において前記微小気泡に超音波を付与することにより破裂させる微小気泡破裂工程と、を有することを特徴とする射出成型方法。
【請求項2】
前記微小気泡の生成は、
前記注入された気泡に超音波を付与すること又は急加圧処理と急減圧処理とを施すことにより行われることを特徴とする請求項1に記載の射出成型方法。
【請求項3】
前記超音波の付与は、
前記溶融した樹脂の通過する通路の内壁面に超音波振動子を埋設して該超音波振動子に電気信号を与えて振動させることにより行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成型方法。
【請求項4】
前記溶融した樹脂は繊維体を含み、前記合流箇所では前記微小気泡の破裂によりランダムに配向することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の射出成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に溶融した樹脂を射出して製品を製作する射出成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの樹脂製品が射出成型方法により製作されている。射出成型方法においては、溶融した樹脂が閉じた金型内に射出・充填され、金型内で冷却・固化させた後に製品が取り出される。金型内に射出された溶融状態の樹脂が分岐して再度合流する箇所があると、冷却時に合流面にウエルドラインが形成され、外観不具合、強度低下という問題が発生する。
【0003】
図7は、ウエルドライン形成の概略説明図である。金型42内にゲート(図示していない)から射出された溶融状態の樹脂44が合流箇所46で合流する様子を示す。樹脂44には繊維体48が含有されている。繊維体48は誇張して示している。金型内で樹脂が合流するケースは、樹脂の射出入口であるゲートが2箇所以上ある場合や製品に穴等を形成するためにピンやコア等が存在している場合に起こる。
【0004】
図7(a)に示すように所定の箇所で分岐した樹脂44は、それぞれ合流箇所46に向かって流れ再び合流しようとしている。繊維体48は、樹脂44の流れの方向に略沿って流れるが、流動樹脂の先端部分では、先端の表面形状に略平行になっている。樹脂44が合流すると図2(b)に示すように、樹脂44は完全に混ざり合うことはできず境界50が形成される。繊維体48はこの境界50に略平行、すなわち樹脂44の流れる方向と略垂直に配向される。そして、図7(c)に示すように射出圧力が加わり樹脂44が冷却されると、形成された境界50を中心に配向部Lが形成される。上述した境界50がウエルドライン52であり、ウエルドライン52を中心とする配向部Lでは繊維体48は樹脂の流れる方向と略垂直となる。その結果、製品の外観不具合、強度低下が引き起こされる。
【0005】
この様なウエルドラインの形成を防止するため、例えば特許文献1では、溶融樹脂が合流する箇所での会合面を境にして2つの樹脂溜まりを形成し、一方の樹脂溜まりには容積を圧縮させる機構を設け、他方の樹脂溜まりには容積を拡張させる機構を設けている。溶融樹脂を2つの樹脂溜まりに充填してから、一方の樹脂溜まりを圧縮し他方の樹脂溜まりを拡張することにより、樹脂の移動を促進してウエルドラインが形成され難いようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5794481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法によれば、合流箇所で樹脂の移動量を多くし会合面の面積を大きくするものであるが、合流した樹脂は十分には混合され得ない。更に、容積を拡張・圧縮させる機構が必要なため、装置が複雑となる。
【0008】
その他にも、ウエルドラインに対する対策として、金型温度を上げて樹脂の固化を遅らす方法、射出速度を速くして表面の固化層を薄くする方法、樹脂温度を高めに設定する方法、樹脂圧を高めに設定する方法、会合角度を大きくする方法、ゲートのタイミングで会合位置をずらす方法等が検討されてきたが、満足な成果は得られていない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウエルドラインの形成を抑制することのできる新規な射出成型方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的の達成のため請求項1に記載の射出成型方法は、
溶融した樹脂が射出・充填されるキャビティを有し、該キャビティ内に射出された前記樹脂が分岐・合流する形状を有する金型を用いた射出成型方法において、
前記射出前に前記溶融樹脂に気泡を注入する気泡注入工程と、同じく前記射出前に注入された前記気泡を微小気泡に変換する微小気泡生成工程と、該微小気泡を含有した前記溶融樹脂を射出する射出工程と、該射出された前記微小気泡を含有する前記溶融樹脂の前記微小気泡を前記合流箇所で破裂させる微小気泡破裂工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
この方法により、溶融した樹脂に注入された気泡を基に微小気泡が生成され、微小気泡を含有する樹脂が合流箇所まで流され、合流する際に微小気泡が破裂される。この破裂の際には衝撃波やジェット流が生成され膨大なエネルギが発生する。これにより合流箇所の会合面で樹脂は十分に撹拌される。したがって、会合面でウエルドラインが発生することが抑制される。
【0012】
請求項2に記載の射出成型方法は、請求項1に記載の射出成型方法において、
前記微小気泡の生成は、前記注入された気泡に超音波を付与すること又は急加圧処理と急減圧処理とを施すことにより行われることを特徴とする。
【0013】
この方法により、簡単な原理で注入された気泡から微小気泡を容易に作り出すことが可能である。しかも超音波の周波数や振幅、又は急加圧処理、急減圧処理の際の圧力を調整することで必要な量の微小気泡を生成することができる。
【0014】
請求項3に記載の射出成型方法は、請求項1又は2に記載の射出成型方法において、
前記微小気泡の破裂は、前記微小気泡に超音波を付与することにより行うことを特徴とする。
【0015】
この方法により、微小気泡に超音波を付与することによって微小気泡が圧縮と膨張を繰り返し、最終的に微小気泡は破裂(圧潰)することとなる。微小気泡が破裂する際には衝撃波やジェット流が生成され膨大なエネルギが発生する。このエネルギにより合流箇所で樹脂が十分に撹拌される。
【0016】
請求項4に記載の射出成型方法は、請求項2又は3に記載の射出成型方法において、
前記超音波の付与は、前記溶融樹脂の通過する通路の内壁面に超音波振動子を埋設して該超音波振動子に電気信号を与えて振動させることにより行うことを特徴とする。
【0017】
この方法により、微小気泡の生成や微小気泡の破裂は、溶融樹脂の通過する通路の内壁面に超音波振動子を埋設したので簡単に効率良く行うことが可能となる。しかも超音波の周波数や振幅を調整することで微小気泡の破裂を制御することが可能である。
【0018】
請求項5に記載の射出成型方法は、請求項1~4の何れか1項に記載の射出成型方法において、
前記溶融樹脂は繊維体を含み、前記合流箇所では前記微小気泡の破裂によりランダムに配向することを特徴とする。
【0019】
この方法により、樹脂が合流する会合面では、含まれた繊維体は微小気泡の破裂の際に発生するエネルギによりランダムに配向されることとなる。したがって、これまで会合面で樹脂の流れる方向と略直角に配向されていた場合と比較して引張強度の強度劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の射出成型方法によれば、溶融した樹脂に微小気泡を生成させ、溶融樹脂の合流箇所でこの生成した微小気泡を破裂させ、発生するエネルギにより合流箇所での溶融樹脂を撹拌させウエルドラインの形成を防止することができる。これにより、ウエルドラインによる外観不具合や強度低下を抑制することが可能となり、製造された樹脂製品の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の射出成型方法のフローチャートである。
図2図1の気泡注入工程の概略説明図である。
図3図1の微小気泡発生工程の概略説明図である。
図4図1の射出工程の概略説明図である。
図5図1の微小気泡破裂工程の概略説明図である。
図6図5の気泡破裂工程の後の合流箇所での樹脂の様子を示す概略説明図である。
図7】ウエルドライン形成の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の射出成型方法の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の射出成型方法のフローチャートである。気泡注入工程(ステップS10)、微小気泡生成工程(ステップS12)、射出工程(ステップS14)及び微小気泡破裂工程(ステップS16)を有する。製品の一連の製作工程のうち、金型に溶融した樹脂を射出する時点から、分岐した溶融状態の樹脂が合流箇所で合流する時点までのフローチャートであり、段取りの工程や脱型の工程等は省略している。
【0024】
まず、気泡注入工程(ステップS10)を行う。この工程は、溶融した樹脂を金型内に射出する際に、樹脂に気泡を注入する工程である。図2は、気泡注入工程の概略説明図である。金型10に押出バレル12が接続され、溶融した樹脂18が押出バレル12の先端部分14及びノズル16を通り、金型10内に射出される様子を模式的に示している。押出バレル12の先端部分14の途中に気泡を注入するためにシリンダー20が接続されており、このシリンダー20から溶融した樹脂18に気泡26が注入される。気泡26の総注入量は、製品の大きさ等に依存するが、厚さ略3mmの樹脂製品の場合、略1cc以下である。
【0025】
次に、微小気泡生成工程(ステップS12)が行われる。図3は、微小気泡生成工程の概略説明図である。押出バレル12の先端部分14のノズル16の部分であって、金型10に接続する箇所の直前に、超音波発生装置22が設置されている。そして、ノズル16内の溶融樹脂18が通過する通路の内壁面に、超音波振動子24が埋設されている。この超音波振動子24に電気信号を与えて振動させることにより、超音波が気泡26を含む溶融樹脂18に付与される。
【0026】
本実施の形態では、超音波の周波数は、1KHz~1MHzとし、最大振幅は100μm以下とした。この超音波により気泡26は、圧縮・膨張を繰り返し、微小気泡28を生成する。微小気泡は、直径100μm以下である。図3では、微小気泡28を誇大表示しており、多量に微小気泡28が生成されるが実際には目視できない。この構成により、微小気泡の生成は簡単に効率良く行うことが可能となる。しかも超音波の周波数や振幅を調整することで微小気泡の量等を制御することが可能である。
【0027】
次に、射出工程(ステップS14)が行われる。微小気泡生成工程(ステップS12)で生成された微小気泡28を含有する溶融樹脂18が金型10に射出される。微小気泡28は、射出された樹脂18の移動の先端部分に存在する。微小気泡28を含む溶融した樹脂18は、射出によりスプール、ランナー、ゲート等を通過し金型内に充填されて行く。金型10内で、溶融した樹脂18が合流する箇所は実験的、理論的に予め分かっている。図4は、射出工程の概略説明図であり、溶融した樹脂18が穴部を形成するためのピン34で分岐され、交流箇所30で合流する様子を示している。分岐移動する樹脂の先端部に微小気泡28が含有されている。
【0028】
図4(a)は、金型10の概略平面断面図であり、図4(b)は、図4(a)のA-A断面図である。図4(c)は、溶融樹脂18が強化繊維(以下、繊維体32と称す)を含有している場合について示す。図4(a)に示すように、金型10内を流れる溶融樹脂18は、ピン34により分岐され、ピン34を通過後、合流箇所30で会合(合流)する。微小気泡28は、流動する樹脂18の先端部分に存在している。
【0029】
金型10の合流箇所30には、超音波発生器22が設置され、超音波振動子24が金型10の内壁面に埋設されている。この超音波振動子24は、超音波発生器22から電気信号を受けて超音波を発生し、樹脂18に付与することが可能に構成されている。
【0030】
図4(c)に示すように、繊維体32は、樹脂18の流れる方向に略平行になっているが、流動する樹脂18の先端部では、樹脂の先端形状と略平行となっている。
【0031】
次に、微小気泡破裂工程(ステップS16)が行われる。図5は、微小気泡破裂工程の概略説明図である。ピン34により分岐した溶融樹脂18は、合流箇所30で合流する直前の状態にある。この状態で超音波発生器22を稼働し超音波振動子24により溶融樹脂に超音波を付与する。超音波の周波数は、1KHz~1MHzとし、最大振幅は100μm以下とした。
【0032】
超音波が付与された微小気泡28は、膨張・圧縮を繰り返し、最終的に破裂(圧潰、崩壊)する。破裂する際には衝撃波やジェット流が生成される。この衝撃波やジェット流により、合流箇所にある樹脂同士は撹拌し合い十分に混合されることとなる。したがって、ウエルドラインの形成は抑制される。
【0033】
図5(c)に示すように、繊維体32を含有する場合は、合流箇所30において合流箇所30の会合面に略平行、すなわち溶融樹脂18の移動方向とは略直交する方向に配向している。この配向は、微小気泡破裂工程(ステップS16)を行うと、微小気泡28が破裂する際のエネルギによりランダムになる。すなわち、微小気泡28が破裂する際は、指向性を有さず四方八方に衝撃波やジェット流が発生するので繊維体32はランダム配向となる。
【0034】
図6は、図5の気泡破裂工程の後の合流した樹脂の様子を示す。図6(a)、図6(b)に示すようにウエルドラインは形成されず、図6(c)に示すように樹脂に繊維体32が含まれている場合は、繊維体32は合流箇所30の会合面付近でランダムに配向し、ランダム配向領域Mを形成している。本実施の形態では、繊維体は1mmの繊維体を用いた。繊維体32の配向はランダムとなるので、これまで会合面で繊維体の配向が樹脂の流れる方向に垂直であった場合と比較して引張強度の強度劣化は抑えられる。
【0035】
その後、樹脂が冷却され、金型から脱型して製品を得ることができる。得られた製品は、ウエルドラインは確認することができず外観は良好であり引張強度の劣化も抑えられており、信頼性の高い製品となっている。
【0036】
ここで、図1のフローチャートにおいて、気泡注入工程(ステップS10)は、合流する樹脂に気泡が含まれている場合は省略することが可能である。すなわち、材料によっては元々気泡を含む場合があり、その場合気泡注入工程は不要であり、この材料に含まれている気泡を基に超音波発生器により微小気泡を生成することが可能である。
【0037】
また、微小気泡生成工程(ステップS12)は、微小気泡破裂工程(ステップS16)と兼ねることも可能である。すなわち、気泡注入工程(ステップS10)により押出バレル12の先端部分14から気泡が注入されるが、この気泡注入地点と溶融樹脂の合流箇所とが近接している場合は、気泡注入工程(ステップS10)で注入した気泡が、合流箇所まで流され、合流箇所で超音波の付与により、気泡から微小気泡が生成され、そして生成された微小気泡を破裂させることまで実行することが可能である。
【0038】
すなわち、気泡注入工程(ステップS10)で注入された気泡が、分岐した樹脂の合流地点までスムーズに運ばれ、合流地点で超音波が付与できる場合には、微小気泡生成工程(ステップS12)は、微小気泡破裂工程(ステップS16)と共に実行することが可能である。
【0039】
本発明の射出成型方法によれは、金型内で分岐した樹脂が合流する場合に、溶融した樹脂に微小気泡を含ませ、会合面でこの微小気泡を破裂させ、発生するエネルギにより合流箇所の溶融樹脂を撹拌させウエルドラインの形成を防止したので、ウエルドラインによる外観不具合や強度低下を抑制することができる。したがって、製造された樹脂製品の信頼性が向上する。
【0040】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、気泡注入工程での気泡注入は押出バレルの先端部分で行ったが、スプール、ランナー、又はゲート付近であっても良い。また、樹脂が分岐・合流する例として、穴を形成するためのピンを示したが、この様な場合のみに限らず、ゲートが複数ある場合にも適用可能である。更に、分岐・合流が複数個所ある場合、それぞれの合流箇所に超音波振動子を設置しておき、注入される気泡、生成される微小気泡の量を調整することで分岐・合流が複数個所ある場合でもそれぞれの箇所でウエルドラインの形成を抑制することができる。
【符号の説明】
【0041】
10、42 金型
12 押出バレル
14 先端部分
16 ノズル
18、44 溶融樹脂
20 シリンダー
22 超音波発生器
24 超音波振動子
26 気泡
28 微小気泡
30、46 合流箇所
32、48 繊維体
34 ピン
50 境界
52 ウエルドライン
M ランダム配向部
L 配向部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7