(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、造形物の製造手順生成装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20221014BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20221014BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20221014BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221014BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221014BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221014BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221014BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221014BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K9/04 Z
B23K9/12 331Q
B29C64/118
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2019146490
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098381(JP,A)
【文献】特開平09-099368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
B29C 64/118
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 50/02
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、
前記積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する工程と、
前記平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、当該特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する工程と、
設定された前記運棒法にてビードを積層する工程と
を含むことを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項2】
前記形成面は、前記積層体を構成する複数の層の各層における面であることを特徴とする請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記形成面は、前記積層体を構成する複数のビードの端部が連なった面であることを特徴とする請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも一部の箇所は、機械加工を受ける箇所であることを特徴とする請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造手順生成装置であって、
前記積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する平坦度算出手段と、
前記平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、当該特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する運棒設定手段と、
設定された前記運棒法にてビードを積層する積層手順を生成する積層手順生成手段と
を備えたことを特徴とする造形物の製造手順生成装置。
【請求項6】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造手順生成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する平坦度算出手段と、
前記平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、当該特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する運棒設定手段と、
設定された前記運棒法にてビードを積層する積層手順を生成する積層手順生成手段と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法、そのような造形物の製造手順生成装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接による多層盛りにおいて、トーチを傾斜させながら溶接することがあり、例えば溶接進行方向と直交する面内でトーチの傾斜角を調整することにより、残層の溶接ビードを形成する時の熱の入り具合を調整する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層造形物を製造する際、一般の多層盛りに比べて、各層又は溶融ビードのパスごとに入熱量や溶け込みのより高度な調整が必要とされる。また、積層造形では一般の多層盛りに比べてパス数が非常に多いため、造形が進むにつれて母材や積層ビードの蓄熱が進む傾向にある。従って、単一の溶け込み条件で三次元形状を積層造形すると、溶け込みが深すぎる箇所や溶け込みが浅すぎる箇所が生じてしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、場所ごとに必要な溶け込み深さを確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する工程と、平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する工程と、設定された運棒法にてビードを積層する工程とを含む造形物の製造方法を提供する。
【0007】
形成面は、積層体を構成する複数の層の各層における面であってもよいし、積層体を構成する複数のビードの端部が連なった面であってもよい。
【0008】
上記少なくとも一部の箇所は、機械加工を受ける箇所であってよい。
【0009】
また、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、隣接する2つのビードの間に形成される狭隘部に対し、後進溶接にてビードを形成する造形物の製造方法も提供する。
【0010】
更に、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造手順生成装置であって、積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する平坦度算出手段と、平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する運棒設定手段と、設定された運棒法にてビードを積層する積層手順を生成する積層手順生成手段とを備えた造形物の製造手順生成装置も提供する。
【0011】
更にまた、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造手順生成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを、積層体の積層計画からビードが形成される形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する平坦度算出手段と、平坦度が閾値を超える特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、特定の領域以外の他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する運棒設定手段と、設定された運棒法にてビードを積層する積層手順を生成する積層手順生成手段として機能させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、場所ごとに必要な溶け込み深さを確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
【
図2】本発明の実施の形態における積層計画装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】(a)は、前進溶接について示した図であり、(b)は、後進溶接について示した図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態で製造される積層造形物及びその層の平坦度の評価方法の一例を示した図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態における溶接方法の一例を示した図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態における平坦度の算出方法の一例を示した図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態で製造される積層造形物の一例を示した図である。
【
図8】(a)~(c)は、本発明の第2の実施の形態でビードの端部が連なった面にカバービードを盛る際の溶接方法の一例を示した図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態における平坦度の算出方法の一例を示した図である。
【
図10】本発明の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
【
図11】本発明の実施の形態における制御装置の機能構成例を示した図である。
【
図12】本発明の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図13】本発明の実施の形態における積層計画装置が行う運棒設定処理の例を示したフローチャートである。
【
図14】本発明の実施の形態における制御装置の動作例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0016】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0017】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層体の一例である積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層のビード101を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0018】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0019】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビード101を形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。本実施の形態では、造形物の製造手順生成装置の一例として、積層計画装置30を設けている。
【0020】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0021】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図2は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
【0022】
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0023】
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、
図2は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0024】
また、
図2に示したハードウェア構成は、制御装置50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御装置50について述べるときは、
図2のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0025】
[本実施の形態の概要]
このような構成を備えた金属積層造形システム1でビード101を形成する際、溶接トーチ13の運棒法に着目した溶接方法としては、溶接トーチ13を垂直に立てて行う溶接の他に、前進溶接及び後進溶接の何れかを用いることが可能である。
【0026】
図3(a)は、前進溶接について示した図である。図示するように、前進溶接は、矢印111で示す溶接の進行方向を溶接トーチ13の方向と同じにする溶接のことである。即ち、前進溶接では、母材90上の溶接トーチ13が傾いた側にビード101が盛られることになる。
【0027】
図3(b)は、後進溶接について示した図である。図示するように、後進溶接は、矢印111で示す溶接の進行方向を溶接トーチ13の方向と反対にする溶接のことである。即ち、後進溶接では、母材90上の溶接トーチ13が傾いた側とは反対側にビード101が盛られることになる。
【0028】
このうち、後進溶接は、前進溶接に比べて、溶け込み量が多いことが知られている。
【0029】
そこで、本実施の形態では、積層造形物100を製造する際に、未溶着が起き易い箇所については、後進溶接にて溶け込みを深くするようにした。具体的には、積層造形物100の積層計画から各層の平坦度を算出し、平坦度が閾値を超える領域に対しては後進溶接にてビード101を積層し、それ以外の箇所に対しては前進溶接にてビード101を積層するようにした。
【0030】
特に、ビード101の端部が連なった面は凹凸が大きくなって未溶着が起き易い。そこで、本実施の形態では、積層造形物100を製造する際に、ビード101の端部が連なった面に対し、後進溶接にてカバービードを盛って溶け込みを深くするようにした。具体的には、積層造形物100の積層計画からビード101の端部が連なった面の平坦度を算出し、平坦度が閾値を超える領域に対しては後進溶接にてビード101を積層し、それ以外の箇所に対しては前進溶接にてビード101を積層するようにした。
【0031】
一方で、前進溶接はビードの表面が平らになり易い傾向があるため、積層平面の平坦度確保が優先される箇所においては、前進溶接によって積層することが好ましい。例えば造形物の機械加工を受ける箇所(例えば最表面)は、機械加工負荷を低減するために平坦度をなるべく小さくした方がよいので、前進溶接によって積層するとよい。
【0032】
以下、後進溶接にて溶け込みを深くする実施の形態を第1の実施の形態として、後進溶接にてカバービードを盛る実施の形態を第2の実施の形態として、その概要を説明する。尚、本明細書において、平坦度とは、JISで定義された平面度のことをいうものとする。JISでは、平面度は、平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさと定義されている。例えば、ある平面形体を2つの平面で挟んだときに、その2つの平面間に0.1mmの幅があったならば、平面度は0.1mmとなる。
【0033】
(第1の実施の形態)
図4は、第1の実施の形態で製造される積層造形物100及びその層の平坦度の評価方法の一例を示した図である。
【0034】
第1の実施の形態では、ビード101が複数重ねられた積層造形物100が製造されるが、ここでは、説明を簡単にするため、1層目のみを示している。図示するように、この層は、3本のビード101を母材90上に形成することにより構成されている。これにより、隣接するビード101間の谷間が2本できるので、2本の狭隘部102が生じている。
【0035】
また、積層造形物100の1層目の平坦度は、母材90に略垂直でかつビード101の方向に略垂直な平面112上で算出される。即ち、この平面112で切断したときの3本のビード101の切断面の上側の線をつないだ凸凹線103の平坦度が、1層目の平坦度として算出される。
【0036】
図5は、第1の実施の形態における溶接方法の一例を示した図である。図示するように、第1の実施の形態では、隣接する2本のビード101間の狭隘部102に、溶接トーチ13で溶接を行う。この際、母材90に略垂直でかつ形成済みのビード101の方向に略垂直な平面112(
図4参照)上でのこれらのビード101の平坦度に応じて、溶接トーチ13の傾きを変更しながら、新たなビード101を狭隘部102に形成する。例えば、溶接トーチ13が新たなビード101を狭隘部102に形成し始めてから直線113に達するまでの平坦度が閾値F1よりも大きければ、図示するように、後進溶接にて新たなビード101を形成すればよい。また、溶接トーチ13が直線113を過ぎてから直線114に達するまでの平坦度が閾値F1以下かつ閾値F2(F2≦F1)以上であれば、溶接トーチ13を垂直に立てて新たなビード101を形成すればよい。更に、溶接トーチ13が直線114を過ぎてから新たなビード101を狭隘部102に形成し終わるまでの平坦度が閾値F2よりも小さければ、前進溶接にて新たなビード101を形成すればよい。
【0037】
ここで、第1の実施の形態における平坦度の算出方法について説明する。
【0038】
図6は、第1の実施の形態における平坦度の算出方法の一例を示した図である。図では、母材90上に2つのビード101が隣接して形成され、これら隣接するビード101間に狭隘部102が生じている。この場合、上述したJISの定義に従えば、ビード101の最も高い点A,Bと、狭隘部102の最も低い点Cとを通過する凸凹線103を、母材90に平行な2つの線で挟んだ場合に、その2つの線の間隔の最小値が平坦度となる。つまり、図のように、点A及び点Bの高さをHmaxとし、点Cの高さをHminとすると、平坦度は(Hmax-Hmin)となる。尚、ビード101の形状のデータとビード101間の距離が分かれば、Hmax及びHminも分かるので、平坦度は算出可能である。
【0039】
(第2の実施の形態)
図7は、第2の実施の形態で製造される積層造形物100の一例を示した図である。
【0040】
第2の実施の形態では、横から見た場合に台形形状を有する壁状の積層造形物100が製造される。図示するように、この積層造形物100は、1層につき1本のビード101を9層にわたって母材90上に積層することにより構成されている。
【0041】
図8(a)~(c)は、第2の実施の形態でビード101の端部が連なった面にカバービード104を盛る際の溶接方法の一例を示した図である。この第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、平坦度を算出して所定の閾値よりも大きい箇所では後進溶接で溶け込みを深くする。第2の実施の形態では、紙面と一致する平面上で平坦度を算出すればよい。そして、例えば、平坦度が閾値F1以下かつ閾値F2(F2≦F1)以上であれば、
図8(a)に示すように、溶接トーチ13を垂直に立てて、矢印111で示す方向にカバービード104を形成すればよい。また、平坦度が閾値F2よりも小さければ、
図8(b)に示すように、溶接トーチ13を傾けて前進溶接にて、矢印111で示す方向にカバービード104を形成すればよい。更に、平坦度が閾値F1よりも大きければ、
図8(c)に示すように、溶接トーチ13を傾けて後進溶接にて、矢印111で示す方向にカバービード104を形成すればよい。
【0042】
尚、積層造形物100の坂に沿って溶接トーチ13を動かしたとする。つまり、
図8(a)~(c)とは異なり、母材90を水平に載置した状態で溶接トーチ13を動かしたとする。この場合は、坂を上るように溶接トーチ13を動かした場合と坂を下るように溶接トーチ13を動かした場合とで更に溶け込み深さが変化してしまう。具体的には、坂を上るよう動かすと溶け込みは深くなり、坂を下るように動かすと溶け込みは浅くなる。従って、本実施の形態では、坂を上るように動かした場合と坂を下るように動かした場合との溶け込み深さの違いによる影響を受けないよう、
図8(a)~(c)に示すように、母材90を傾け、ビード101の端部が連なった面を水平にして、カバービード104を盛っている。
【0043】
ここで、第2の実施の形態における平坦度の算出方法について説明する。
【0044】
図9は、第2の実施の形態における平坦度の算出方法の一例を示した図である。図では、9層のビード101が形成され、ビード101の端部に段差が生じている。この場合、上述したJISの定義に従えば、ビード101の段差の最も高い点D1~D9と、ビード101の段差の最も低い点E1~E8とを通過する凸凹線103を、2つの水平線で挟んだ場合に、その2つの線の間隔の最小値が平坦度となる。つまり、図のように、点D1~D9の基準線からの高さをHmaxとし、点E1~E8の基準線からの高さをHminとすると、平坦度は(Hmax-Hmin)となる。
【0045】
[本実施の形態の詳細]
以下、このような概要を実現する金属積層造形システム1について、積層計画装置30及び制御装置50の構成及び動作を中心に詳細に説明する。尚、上記概要では、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に分けて説明したが、下記詳細では、これらを共通化して説明する。また、上記概要では、平坦度に応じて、溶接トーチ13を垂直に立てて行う溶接、前進溶接、及び後進溶接の何れかを選択するようにしたが、下記詳細では、平坦度に応じて、前進溶接及び後進溶接の何れかを選択することを基本とする。つまり、平坦度が閾値F1よりも大きければ、後進溶接にてビード101を形成し、平坦度が閾値F1以下であれば、原則、前進溶接にてビード101を形成するものとして説明する。
【0046】
(積層計画装置の機能構成)
図10は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、平坦度算出部44と、運棒設定部45と、制御プログラム生成部46と、制御プログラム出力部47とを備える。
【0047】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
【0048】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0049】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビード101を溶着する際の溶接条件やアーク狙い位置を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビード101の高さや幅の他、ビード101の断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。本実施の形態では、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、アーク狙い位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0050】
平坦度算出部44は、積層計画部43が生成した積層計画から、新たにビード101が形成される面の平坦度を算出する。具体的には、上述した第1の実施の形態では、新たにビード101を形成する層の1つ下の層における面の平坦度を算出する。また、上述した第2の実施の形態では、カバービード104が形成されるビード101の端部が連なった面の平坦度を算出する。ここで、新たにビード101が形成される面の平坦度としては、面の全領域の平坦度を算出してもよいし、面の一部領域の平坦度を算出してもよい。本実施の形態では、ビードが形成される形成面の一例として、新たにビード101が形成される面を用いており、形成面の全部又は一部の領域の平坦度を算出する平坦度算出手段の一例として、平坦度算出部44を設けている。
【0051】
運棒設定部45は、平坦度算出部44が算出した平坦度に応じて、新たにビード101を形成する際の溶接トーチ13の運棒法を前進溶接及び後進溶接の何れかに設定する。ここで、平坦度算出部44が面の全領域の平坦度を算出した場合は、その面にビード101を形成する際に、平坦度が閾値F1よりも大きければ運棒法を後進溶接に設定し、平坦度が閾値F1以下であれば運棒法を前進溶接に設定すればよい。また、平坦度算出部44が面の一部領域の平坦度を算出した場合は、平坦度が閾値F1よりも大きい領域にビード101を形成する際に運棒法を後進溶接に設定し、平坦度が閾値F1以下の領域にビード101を形成する際に運棒法を前進溶接に設定すればよい。但し、平坦度が閾値F1以下の領域にビード101を形成する際に、その少なくとも一部の箇所についてのみ、運棒法を前進溶接に設定してもよい。例えば、上記概要で述べたように、平坦度が閾値F2(F2≦F1)よりも大きい箇所にビード101を形成する際には、運棒法を、溶接トーチ13を垂直に立てて行う溶接に設定し、平坦度が閾値F2以下の箇所にビード101を形成する際には、運棒法を前進溶接に設定してもよい。本実施の形態では、平坦度が閾値を超える特定の領域の一例として、平坦度が閾値F1よりも大きい領域を用いており、特定の領域以外の他の領域の一例として、平坦度が閾値F1以下の領域を用いており、他の領域の少なくとも一部の箇所の一例として、平坦度が閾値F2以下の箇所を用いている。また、特定の領域に対しては運棒法を後進溶接に設定し、他の領域の少なくとも一部の箇所に対しては運棒法を前進溶接に設定する運棒設定手段の一例として、運棒設定部45を設けている。
【0052】
制御プログラム生成部46は、積層計画部43が生成した積層計画及び運棒設定部45が設定した運棒法に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。本実施の形態では、ビードを積層する積層手順を生成する積層手順生成手段の一例として、制御プログラム生成部46を設けている。
【0053】
制御プログラム出力部47は、制御プログラム生成部46が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0054】
(制御装置の機能構成)
図11は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63とを備える。
【0055】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
【0056】
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0057】
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、積層計画部43が生成した積層計画及び運棒設定部45が設定した運棒法に従ってビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0058】
(積層計画装置の動作)
図12は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0059】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
【0060】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
【0061】
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
【0062】
次いで、積層計画装置30は、ステップ303で生成された積層計画を用いて、ビード101を形成する際の溶接トーチ13の運棒法を設定する運棒設定処理を行う(ステップ304)。この運棒設定処理の詳細については、後述する。
【0063】
その後、制御プログラム生成部46が、ステップ303で生成された積層計画及びステップ304の運棒設定処理で設定された運棒法に従ってビード101を形成するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する(ステップ305)。
【0064】
最後に、制御プログラム出力部47が、ステップ305で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ306)。
【0065】
図13は、
図12のステップ304の運棒設定処理の例を示したフローチャートである。尚、上記概要の第1の実施の形態では、積層造形物100の各層の平坦度に応じて溶接トーチ13の運棒法を設定することを想定したが、ここでは、上記概要の第2の実施の形態のように、ビード101が形成される面の平坦度に応じて溶接トーチ13の運棒法を設定する場合について説明する。また、1層内でも複数の溶接パスに沿って溶接を行うことがあるが、以下では、1つの溶接パスに沿って溶接を行う場合について説明する。
【0066】
運棒設定処理を開始すると、積層計画装置30では、まず、運棒設定部45が、ビード101が形成される面に設定される領域のインデックスjを1に設定する(ステップ351)。つまり、ビード101が形成される面に設定される1つ目の領域に着目する。
【0067】
次に、平坦度算出部44は、ビード101が形成される面に、インデックスjの領域R(j)を設定する(ステップ352)。ここで、領域R(j)は、任意に設定するとよい。例えば、上記概要の第1の実施の形態では、ビード101の方向に略垂直な細長い領域(ビード101を横断する方向の細長い領域)を設定し、これをR(j)とするとよい。また、上記概要の第2の実施の形態では、ビード101の端部が連なった領域をそのまま1つの領域R(1)とするとよい。
【0068】
次に、平坦度算出部44は、領域R(j)の平坦度F(j)を算出する(ステップ353)。ここで、平坦度は、上記概要で述べた方法で算出するとよい。例えば、上記概要の第1の実施の形態では、
図6を参照して説明した方法により算出すればよい。また、上記概要の第2の実施の形態では、
図9を参照して説明した方法により算出すればよい。
【0069】
その後、運棒設定部45が、ステップ353で算出された平坦度F(j)が閾値F1よりも大きいかどうかを判定する(ステップ354)。
【0070】
その結果、平坦度F(j)が閾値F1よりも大きいと判定すれば、運棒設定部45は、領域R(j)に対して、溶接トーチ13の運棒法を後進溶接に設定する(ステップ355)。
【0071】
一方、平坦度F(j)が閾値F1以下であると判定すれば、運棒設定部45は、領域R(j)に対して、溶接トーチ13の運棒法を前進溶接に設定する(ステップ356)。
【0072】
次に、運棒設定部45は、ビード101が形成される面に設定される領域のインデックスjに1を加算する(ステップ357)。つまり、ビード101が形成される面に設定される次の領域に着目する。
【0073】
これにより、運棒設定部45は、領域のインデックスjが領域の個数mを超えたかどうかを判定する(ステップ358)。
【0074】
領域のインデックスjが領域の個数mを超えていないと判定すれば、運棒設定部45は、処理をステップ352へ戻して、以降の処理を繰り返す。一方、領域のインデックスjが領域の個数mを超えたと判定すれば、運棒設定部45は、処理を終了する。尚、上記概要の第2の実施の形態では、ビード101が形成される面に設定される領域は1つだけなので、ステップ351でj=1となった状態でのみステップ352~356の処理が行われ、ステップ357でj=2となると、ステップ358での判定により処理は終了する。
【0075】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。そして、制御プログラム実行部63が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0076】
図14は、この制御プログラム実行部63の動作例を示したフローチャートである。尚、ビード101は通常、溶接パスに沿って連続的に形成されるが、ここでは、便宜上、溶接パスに沿って溶接箇所から溶接箇所へ進む動作を繰り返すことによりビード101が形成されるものとして、説明する。
【0077】
制御プログラム実行部63は、まず、溶接パスにおける溶接箇所のインデックスiを1に設定する(ステップ501)。つまり、溶接パスにおける1つ目の溶接箇所に着目する。
【0078】
次に、制御プログラム実行部63は、溶接パスにおけるインデックスiの溶接箇所P(i)を含む領域R(k)(k=1,2,…,m)を特定する(ステップ502)。例えば、上記概要の第1の実施の形態では、
図13のステップ352で設定したR(1),R(2),…,R(m)のうち、溶接箇所P(i)を含む領域を、領域R(k)として特定する。また、上記概要の第2の実施の形態では、
図13のステップ352で1つの領域R(1)しか設定していないので、この領域R(1)を領域R(k)として特定する。
【0079】
次いで、制御プログラム実行部63は、ステップ502で特定された領域R(k)に対して
図13のステップ355又はステップ356で設定された運棒法にて、溶接箇所P(i)を溶接するよう溶接ロボット10を制御する(ステップ503)。
【0080】
次いで、制御プログラム実行部63は、溶接パスにおける溶接箇所のインデックスiに1を加算する(ステップ504)。つまり、溶接パスにおける次の溶接箇所に着目する。
【0081】
これにより、制御プログラム実行部63は、溶接パスにおける溶接箇所のインデックスiが溶接パスにおける溶接箇所の個数nを超えたかどうかを判定する(ステップ505)。
【0082】
溶接パスにおける溶接箇所のインデックスiが溶接パスにおける溶接箇所の個数nを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部63は、処理をステップ502に戻して、以降の処理を繰り返す。一方、溶接パスにおける溶接箇所のインデックスiが溶接パスにおける溶接箇所の個数nを超えたと判定すれば、制御プログラム実行部63は、処理を終了する。
【0083】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、積層造形物100の積層計画からビード101が形成される領域の平坦度を算出し、平坦度が閾値を超える領域に対しては後進溶接にてビード101を積層し、それ以外の箇所に対しては前進溶接にてビード101を積層するようにした。これにより、ビード101を積層することにより積層造形物100を製造する際に、場所ごとに必要な溶け込み深さを確保することが可能となった。
【0084】
[変形例]
上記では、積層造形物100の積層計画からビード101が形成される領域の平坦度を算出し、平坦度が閾値を超える領域に対しては後進溶接にてビード101を積層し、それ以外の箇所に対しては前進溶接にてビード101を積層するようにした。しかしながら、ビード101が形成される領域の平坦度は算出しなくてもよい。平坦度を算出しなくても未溶着が起き易い箇所であることが予め分かる箇所に対し、後進溶接にてビード101を形成するようにしてもよい。例えば、
図5に示した隣接する2つのビード101の間に形成される狭隘部に対し、後進溶接にてビード101を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…平坦度算出部、45…運棒設定部、46…制御プログラム生成部、47…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、70…記録媒体