(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ヘモグロビン異常症を処置するためのグロビン遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20221014BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20221014BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221014BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221014BHJP
A61P 7/06 20060101ALN20221014BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20221014BHJP
C07K 14/805 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K9/127
A61K31/7088
A61K38/17
A61P7/06
C12N15/85 Z
C07K14/805
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020035649
(22)【出願日】2020-03-03
(62)【分割の表示】P 2017512966の分割
【原出願日】2015-09-04
【審査請求日】2020-04-01
(32)【優先日】2014-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(73)【特許権者】
【識別番号】517025822
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル サデレイン
(72)【発明者】
【氏名】イザベル リヴィエール
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジ マンシージャ-ソト
(72)【発明者】
【氏名】シューヤン ワン
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ スタマトヤノプーロス
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スタマトヤノプーロス
(72)【発明者】
【氏名】ミンドン リウ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/026110(WO,A2)
【文献】特表2002-536965(JP,A)
【文献】Cell, 2007, Vol.128, pp.1231-1245
【文献】Semin. Hematol., 2004, Vol.41, pp.279-286
【文献】Stem cell Rev. and Rep., 2013, Vol.9, pp.397-407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1
または配列番号25に示されるヌクレオチド配
列を含むインシュレーターと、β-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)
領域に作動可能に連結したグロビン遺伝
子とを含む発現カセット
、および、リポソームを含む、脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項2】
前記送達系がカチオン性脂質媒介性非ウイルス送達系である、請求項1に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項3】
前記β-グロビンLCR領域が、Dnase I高感受性部位-2(HS2)領域を含まない、請求項1または2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項4】
前記β-グロビンLCR領域が、HS2のコア配列を含まない、請求項
1または2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項5】
HS2の前記コア配列が、配列番号20または配列番号21に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項4に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項6】
前記β-グロビンLCR領域が、HS2のエンハンサー活性を維持するHS2領域を含まない、請求項1または2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項7】
前記β-グロビンLCR領域が、Dnase I高感受性部位-1(HS1)領域、Dnase I高感受性部位-3(HS3)領域およびDnase I高感受性部位-4(HS4)領域を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項8】
前記HS3領域が、前記HS1領域と前記HS4領域との間に置かれる、請求項7に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項9】
前記HS1領域が1.1kbの長さ、600bpの長さまたは490bpの長さである、請求項7または8に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項10】
前記HS1領域が、配列番号2、配列番号3または配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項9に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項11】
前記β-グロビンLCR領域が、HS1領域を含まない、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項12】
前記β-グロビンLCR領域が、HS1のコア配列を含まない、請求項
1~10のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項13】
HS1の前記コア配列が、配列番号22または配列番号23に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項12に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項14】
前記β-グロビンLCR領域が、HS1の機能を維持するHS1領域を含まない、請求項11に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項15】
前記β-グロビンLCR領域が、HS3領域およびHS4領域を含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項16】
前記HS3領域が、前記グロビン遺伝
子と前記HS4領域との間に置かれる、請求項15に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項17】
前記HS3領域が1300bpの長さである、請求項7~16のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項18】
前記HS3領域が、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項17に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項19】
前記HS4領域が1.1kbの長さまたは450bpの長さである、請求項7~16のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項20】
前記HS4領域が、配列番号6、配列番号7または配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項19に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項21】
a.前記β-グロビンLCR領域が、HS1領域、HS3領域およびHS4領域を含み、HS2領域を含まず、ここで、
i.前記HS1領域が配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含み、前記HS3領域が配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含み、かつ前記HS4領域が配列番号6に示されるヌクレオチド配列を含むか、
ii.前記HS1領域が配列番号3に示されるヌクレオチド配
列を含み、前記HS3領域が配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含み、かつ前記HS4領域が配列番号8に示されるヌクレオチド配列を含むか、または
iii.前記HS1領域が配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含み、前記HS3領域が配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含み、かつ前記HS4領域が配列番号8に示されるヌクレオチド配列を含むか、あるいは
b.前記β-グロビンLCR領域が、HS3領域およびHS4領域を含み、HS1領域もHS2領域も含まず、ここで、前記HS3領域が配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含み、かつ、前記HS4領域が配列番号6に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項3~20のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項22】
前記β-グロビンLCR領域が、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含む、請求項1または2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項23】
前記HS2領域が860bpの長さであり、および/または、前記HS3領域が1300bpの長さであり、および/または、前記HS4領域が1.1kbの長さである、請求項22に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項24】
前記HS2領域が配列番号9に示されるヌクレオチド配列を含み、および/または、前記HS3領域が配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含み、および/または、前記HS4領域が配列番号7に示されるヌクレオチド配列を含む、請求項22または23に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項25】
前記β-グロビンLCR領域が、HS1領域をさらに含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項26】
前記グロビン遺伝子が、β-グロビン遺伝子、γ-グロビン遺伝子およびδ-グロビン遺伝子からなる群から選択される、請求項1~25のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項27】
前記グロビン遺伝子が、ヒトβ-グロビン遺伝子である、請求項26に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項28】
前記ヒトβ-グロビン遺伝子が、野生型ヒトβ-グロビン遺伝子、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む、欠失したヒトβ-グロビン遺伝子、および少なくとも1つの抗鎌状化アミノ酸残基をコードする、変異したヒトβ-グロビン遺伝子からなる群から選択される、請求項27に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項29】
前記ヒトβ-グロビン遺伝子が、コドン87におけるスレオニンからグルタミンへの変異をコードするヒトβ
A-グロビン遺伝子(β
A-T87Q)である、請求項27または28に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項30】
1つの前記インシュレーター、または2つの前記インシュレーターを含む、請求項1~
29のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項31】
β-グロビンプロモーターをさらに含む、請求項1~3
0のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項32】
前記β-グロビンプロモーターが、前記グロビン遺伝
子と前記β-グロビンLCR領域との間に置かれる、請求項3
1に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項33】
前記β-グロビンプロモーターが、610bpまたは265bpの長さのヒトβ-グロビンプロモーターである、請求項3
1または3
2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項34】
前記ヒトβ-グロビンプロモーターが、配列番号10または配列番号11に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項3
3に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項35】
ヒトβ-グロビン3’エンハンサーをさらに含む、請求項1~3
4のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項36】
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが、前記グロビン遺伝
子の上流に置かれる、請求項3
5に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項37】
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが880bpの長さである、請求項3
5または3
6に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項38】
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが、配列番号12に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項3
7に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項39】
少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーをさらに含む、請求項1~3
8のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項40】
前記少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーが、前記グロビン遺伝
子とβ-グロビンLCR領域との間に置かれる、請求項
39に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項41】
前記少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーが、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16または配列番号17に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項
39または4
0に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項42】
前記発現カセットが、哺乳動物における前記グロビン遺伝
子の発現を可能にする、請求項1~4
1のいずれか一項に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【請求項43】
前記発現が、赤血球系組織に限定される、請求項4
2に記載の脂質媒介性非ウイルス送達系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2014年9月4日に出願された米国仮出願第62/045,997号の優先権を主張し、その内容全体が本明細書中に参照によって組み込まれる。
【0002】
補助金情報
本発明は、国立心肺血液研究所からの補助金番号第HL053750号のもとの政府支援で行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本明細書で開示される主題は、グロビンタンパク質、例えばヒトβ-グロビンタンパク質を発現する発現カセット、およびかかる発現カセットを含むベクターを提供する。本明細書で開示される主題は、複数のDnase I高感受性部位を含むβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)に作動可能に連結したグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む発現カセットをさらに提供する。本明細書で開示される主題の発現カセットは、エンハンサーエレメントの効果を相殺する1つまたは複数のインシュレーターを含む。本明細書で開示されるインシュレーターは、本明細書で開示される発現カセットを含むベクターの力価に対して、実質的に有害に影響しない。これらの発現カセットおよびベクターは、ヘモグロビン異常症、例えば、β-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血を処置するために使用され得る。
【背景技術】
【0004】
β-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血は、ヘモグロビンのβ鎖を欠損して産生することによって引き起こされる重症の先天性貧血である。β-サラセミアでは、β鎖欠損は、過剰なα-グロビン鎖の細胞内沈殿をもたらし、効果のない赤血球生成および溶血性貧血を引き起こす(WeatherallおよびClegg(1981年)、Stamatoyannopoulosら、(1994年)、Weatherall(2001年)、Steinberg(2001年))。ホモ接合体または複合ヘテロ接合体において見出される最も重症の形態では、貧血は、任意の処置の非存在下では、人生の最初の数年以内に死に至る(CooleyおよびLee(1925年))。貧血を修正し、効果のない赤血球生成を抑制し、消化管鉄吸収を阻害するために、生涯にわたる輸血治療が必要とされる(WeatherallおよびClegg(1981年)、Stamatoyannopoulosら(1994年)、Weatherall(2001年)、Steinberg(2001年))。しかし、輸血治療自体は、処置されなければ死に至る鉄過負荷をもたらす。鉄過負荷の予防および処置は、現行の患者管理の主要な目標である(Giardina(2001年))。β-サラセミアを治癒させるための唯一の現行の治癒的処置は、同種骨髄移植(BMT)を介して、正常グロビン遺伝子を保有する赤血球系前駆体を提供することである(GiardiniおよびLucarelli(1994年)、Bouladら(1998年)、Lucarelliら(1999年)、TisdaleおよびSadelain(2001年))。
【0005】
鎌状赤血球貧血では、ヘモグロビンβ鎖は、アミノ酸6位において変異しており(Glu→Val)、正常βA鎖の代わりにβSの合成をもたらす(Steinberg(2001年)、Paulingら(1949年))。生じたヘモグロビンHbSは、加速された赤血球破壊、赤血球系過形成および有痛性の血管閉塞性「クリーゼ」を引き起こす(Steinberg(2001年))。血管閉塞は、臓器を損傷し得、最終的に、長期能力障害を引き起こし(例えば、脳卒中または骨壊死後)、時々、突然死を引き起こす。非常に重篤な障害ではあるものの、鎌状赤血球症の過程は、典型的には予測不能である(Steinberg(2001年))。胎児ヘモグロビンの産生を増加させ(SwankおよびStamatoyannopoulos(1998年))、造血発生を抑制することによって、ヒドロキシウレアは、測定可能な臨床的利益を生じ得る(Plattら(1984年))、Characheら(1992年)、AtwehおよびLoukopoulos(2001年))。ヒドロキシウレアは細胞傷害剤であるので、γ-グロビン遺伝子発現を誘導するための、代替的な毒性の低い薬物が、大いに必要とされている(Perrineら(2005年)、Stamatoyannopoulos(2005年))。β-サラセミアに対してと同様、同種骨髄移植(BMT)は、現時点で、鎌状赤血球症に対する唯一の治癒的治療である(TisdaleおよびSadelain(2001年)、Vermylenら(1998年)、LuzzattoおよびGoodfellow(1989年))。
【0006】
しかし、BMTは、ほとんどの個体にとっての、HLAが適合した骨髄ドナーの欠如に起因して、β-サラセミアまたは鎌状赤血球症に罹患しているほとんどの患者にとって、治療選択肢として利用可能ではない。さらに、潜在的に治癒的ではあるものの、同種BMTは、合併症を欠かない。安全な移植は、移植片拒絶および移植片対宿主病のリスクを最小化するために、組織適合性ドナーの同定を必要とする(TisdaleおよびSadelain(2001年)、Vermylenら(1998年)、LuzzattoおよびGoodfellow(1989年))。適合した無関係の移植片または不適合の移植片と関連するより大きいリスクに起因して、ほとんどの患者は、効果のない赤血球生成を修正せず、全身性の鉄蓄積を増悪させる、生涯にわたる輸血治療に同意しなければならない。さらに、過去数十年における平均余命におけるかなりの改善(Borgna-Pignattiら(2004年)、Telferら(2009年)、Ladisら(2011年))にもかかわらず、ウイルス感染、鉄毒性および肝硬変症から長期にわたって生じる一部の重篤な合併症のリスクが残る(Mancusoら(2006年))。これらの医療上のリスクは、慢性β-サラセミアの社会経済的費用と併せて、安全で有効な治癒的治療の必要性を強調する。
【0007】
重症のβ-サラセミアを処置するのではなく治癒させるための唯一の手段は、健常な造血幹細胞(HSC)を患者に提供することである。HSCは、成人において、1日当たり200億個のRBCを含む、全ての血球型を通常生じる。HSCは、正常含量のヘモグロビンを有する長寿命赤血球(RBC)を得るために、野生型β-グロビン遺伝子を有するドナーから回収され得る。あるいは、患者自身のHSCを遺伝学的に修正し得、これは即座に、ドナーについての探索を解決し、同種BMTと関連する移植片対宿主病および移植片拒絶のリスクを排除する(Sadelain(1997年)、Sadelainら(2007年))。グロビン遺伝子移入は、β-サラセミア被験体自身の造血性幹細胞の能力を回復させて、十分なヘモグロビン含量を有するRBCを生じさせることを目的とする(Sadelainら(2007年)、PersonsおよびTisdale(2004年)、Sadelain(2006年))。鎌状赤血球貧血を有する患者における目標は、鎌状化を予防することであり、これは、ベクターにコードされたグロビン鎖を取り込む非鎌状化Hbで内因性HbSを希釈することによって達成され得る。患者自身のHSCは、長期持続性の治療利益を確実にし、治癒的な幹細胞ベースの治療を達成するために、遺伝学的に改変される必要がある細胞である。
【0008】
重症のβ-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血の処置のためのグロビン遺伝子移入の実行は、HSCにおける調節されたヒトβ-またはβ様グロビン遺伝子の効率的導入を必要とする。β-グロビン遺伝子(またはβ様バリアント)は、特に、輸血依存的ベータ-ゼロサラセミアの処置のために、赤血球系特異的様式で、高レベルで発現されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今日までに開発されたグロビンベクターは、サラセミアおよび鎌状赤血球患者におけるそれらの安全な使用を制限し得、またはさらには妨げ得る欠点を提示する。ベクター中に含有されるβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)構成要素の一部、特にDnase I高感受性部位-2(HS2)は、非赤血球系活性を有し得、非特異的発現ベクターで見られるような挿入発癌のリスクに患者を曝露させ得る。さらに、大きいLCRセグメントの使用は、高力価ベクターの産生および患者HSCの効率的形質導入にとって、有害であり得る。したがって、挿入発癌の最小のリスクを伴った、赤血球系特異的かつ分化段階特異的様式でのグロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の治療的発現を可能にし、サラセミアおよび鎌状赤血球患者を処置する際に使用される場合に高レベルの形質導入を可能にし、したがってそれらの安全性を改善する、新規グロビン発現カセットが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示される主題は、一般に、エンハンサー遮断性インシュレーターを提供し、ある特定のインシュレーターは、バリアインシュレーター活性をさらに有する。本明細書で開示される主題は、1つまたは複数のインシュレーターを含む発現カセットもまた提供し、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβグロビン遺伝子)の発現を可能にする。かかる発現カセットを含むベクター、かかる発現カセットまたはかかるベクターで形質導入された細胞、およびヘモグロビン異常症(例えば、β-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血)を処置するためのかかる発現カセットの使用もまた、提供される。
【0011】
ある特定の非限定的な実施形態では、本明細書で開示される主題は、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを提供する(以下を参照のこと)。本明細書で開示される主題は、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを少なくとも1つ含む、発現カセットもまた提供する。非限定的な実施形態では、発現カセットは、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを少なくとも1つ、およびβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)に作動可能に連結したグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCRは、Dnase I高感受性部位-2(HS2)領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2のコア配列を含まない。非限定的な一実施形態では、HS2のコア配列は、配列番号20に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、HS2のコア配列は、配列番号21に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCRは、HS2のエンハンサー活性を維持するHS2領域を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCRは、Dnase I高感受性部位-1(HS1)領域、Dnase I高感受性部位-3(HS3)領域およびDnase I高感受性部位-4(HS4)領域を含む。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、HS1領域とHS4領域との間に置かれる。
【0012】
ある特定の実施形態では、上記HS1領域は、約1.1kb bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、約500bpから約1000bpの間の長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約600bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、602bpの長さである。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約500bpから約600bpの間の長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約490bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、489bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、上記β-グロビンLCRは、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCRは、HS2領域を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCRは、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCRは、HS2領域を含まない。
【0013】
ある特定の実施形態では、上記β-グロビンLCR領域は、HS1領域を含まずおよび/またはHS2領域を含まず、このβ-グロビンLCRは、HS2のコア配列を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCRは、HS1のコア配列を含まない。非限定的な一実施形態では、HS1のコア配列は、配列番号22に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、HS1のコア配列は、配列番号23に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCRは、HS1の機能を維持するHS1領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCRは、HS3領域およびHS4領域を含み、HS1のコア配列を含まない。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、グロビン遺伝子またはその機能的部分とHS4領域との間に置かれる。ある特定の実施形態では、このHS3領域は約200bpから約1400bpの間の長さ、例えば、約1300bpから1400bpの間の長さである。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、約1300bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、1301bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約200bpから約1200bpの間の長さ、例えば、約400bpから1100bpの間の長さである。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1.1kbの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、1065bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約450bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、446bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域もHS2領域も含まない。
【0014】
あるいは、上記β-グロビンLCR領域は、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含み得る。ある特定の実施形態では、このHS2領域は、約400bpから約1000bpの間の長さ、例えば、約800bpから900bpの間の長さである。ある特定の実施形態では、このHS2領域は、約860bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS2領域は、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、約1300bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、1301bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1.1kbの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、1065bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有する。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含む。さらに、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域をさらに含み得る。
【0015】
ある特定の実施形態では、上記グロビン遺伝子は、β-グロビン遺伝子、γ-グロビン遺伝子およびδ-グロビン遺伝子からなる群から選択される。非限定的な一実施形態では、このグロビン遺伝子は、ヒトβ-グロビン遺伝子である。非限定的な実施形態では、このヒトβ-グロビン遺伝子は、野生型ヒトβ-グロビン遺伝子、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む、欠失したヒトβ-グロビン遺伝子、および少なくとも1つの抗鎌状化アミノ酸残基をコードする、変異したヒトβ-グロビン遺伝子からなる群から選択される。非限定的な一実施形態では、このヒトβ-グロビン遺伝子は、コドン87におけるスレオニンからグルタミンへの変異をコードするヒトβA-グロビン遺伝子(βA-T87Q)である。
【0016】
ある特定の実施形態では、上記発現カセットは、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを、1つ含む。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を各々が含む2つのインシュレーターを含み、例えば、それらに限定されないが、ここで、一方または両方のインシュレーターは、配列番号24もしくは配列番号25を含むおよび/または配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0017】
ある特定の実施形態では、上記発現カセットは、β-グロビンプロモーターをさらに含む。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、グロビン遺伝子またはその機能的部分とβ-グロビンLCR領域との間に置かれる。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約200bpから約700bpの間の長さである。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約613bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである。非限定的な実施形態では、このヒトβ-グロビンプロモーターは、配列番号10に示されるヌクレオチド配列を有する。別の非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約265bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである。非限定的な一実施形態では、このβヒトβ-グロビンプロモーターは、配列番号11に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0018】
ある特定の実施形態では、上記発現カセットは、ヒトβ-グロビン3’エンハンサーをさらに含む。ある特定の実施形態では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、上記グロビン遺伝子またはその機能的部分の上流に置かれる。ある特定の実施形態では、このβ-グロビン3’エンハンサーは、約700bpから約900bpの間の長さ、例えば、約800bpから900bpの間の長さである。非限定的な一実施形態では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、約879bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、配列番号12に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0019】
ある特定の実施形態では、上記発現カセットは、少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーをさらに含む。ある特定の実施形態では、この少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーは、上記グロビン遺伝子またはその機能的部分と上記β-グロビンLCR領域との間に置かれる。ある特定の実施形態では、この少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーは、配列番号13、14、15、16および17からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する。ある特定の実施形態では、この少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーは、約100bpから約200bpの間の長さである。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、1つ、2つまたは3つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。
【0020】
ある特定の実施形態では、上記発現カセットは、哺乳動物における上記グロビン遺伝子またはその機能的部分の発現を可能にする。非限定的な一実施形態では、この発現カセットは、ヒトβ-グロビン遺伝子の発現を可能にする。ある特定の実施形態では、このグロビン遺伝子またはその機能的部分の発現は、赤血球系組織に限定される。
【0021】
本明細書で開示される主題は、上記発現カセットを含む組換えベクターもまた提供する。ある特定の実施形態では、この組換えベクターは、レトロウイルスベクターである。非限定的な一実施形態では、このレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、この組換えベクター中に含まれる発現カセットは、1つのインシュレーターを含む。ある特定の実施形態では、この組換えベクターは、このベクターの3’長末端反復(LTR)中にウッドチャック肝炎ポスト調節エレメント(post-regulatory element)(WPRE)をさらに含む。ある特定の実施形態では、この組換えベクターは、このベクターの3’長末端反復(LTR)中にウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0022】
さらに、本明細書で開示される主題は、上記発現カセットを含む、天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼを提供する。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼは、天然に存在しないまたは操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、天然に存在しないまたは操作されたメガヌクレアーゼ、および天然に存在しないまたは操作された転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼは、DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼ切断ドメインを含む。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼは、ゲノムセーフハーバー部位(genomic safe harbor site)に結合する。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼは、ゲノムセーフハーバー部位において二本鎖切断(DSB)を引き起こす。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼ中に含まれる発現カセットは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを2つ含む。ある特定の実施形態では、このヌクレアーゼは、上記発現カセットの標的化された送達を可能にする。本明細書で開示される主題は、上記ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、およびこのポリヌクレオチドを含むベクターもまた提供する。非限定的な一実施形態では、このベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0023】
さらに、本明細書で開示される主題は、上記発現カセットを含む天然に存在しないまたは操作されたCRISPR-Cas系を提供する。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Cas系は、CRISPR-CasヌクレアーゼおよびシングルガイドRNAを含む。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Cas系は、ゲノムセーフハーバー部位に結合する。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Cas系は、ゲノムセーフハーバー部位において二本鎖切断(DSB)を引き起こす。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Cas系中に含まれる発現カセットは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを2つ含む。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Casは、上記発現カセットの標的化された送達を可能にする。本明細書で開示される主題は、上記CRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチド、およびこのポリヌクレオチドを含むベクターもまた提供する。非限定的な一実施形態では、このベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0024】
一部の実施形態では、上記ゲノムセーフハーバー部位は、遺伝子外のゲノムセーフハーバー部位である。ある特定の実施形態では、このゲノムセーフハーバー部位は、第1染色体上に位置する。一部の実施形態では、このゲノムセーフハーバーは、以下の5つの判定基準:(1)任意の遺伝子の5’末端から(例えば、その遺伝子の5’末端から)少なくとも50kbの距離、(ii)任意のがん関連遺伝子から少なくとも300kbの距離、(iii)開いた/アクセス可能なクロマチン構造内(天然のまたは操作されたヌクレアーゼによるDNA切断によって測定される)、(iv)遺伝子転写単位の外側の位置、および(v)ヒトゲノムの超保存領域(UCR)、microRNAまたは長い非コードRNAの外側の位置のうち全てを満たす。
【0025】
さらに、本明細書で開示される主題は、上記発現カセットで形質導入された細胞、上記組換えベクターで形質導入された細胞、上記ヌクレアーゼで形質導入された細胞、上記CRISPR-Cas系で形質導入された細胞を提供する。さらに、本明細書で開示される主題は、上記ベクターで形質導入された細胞を提供する。ある特定の実施形態では、この細胞は、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞および造血内皮細胞からなる群から選択される。非限定的な一実施形態では、この造血幹細胞は、CD34+造血幹細胞である。ある特定の実施形態では、この細胞は、ex vivoで形質導入される。
【0026】
上記細胞の有効量、および薬学的に許容されるキャリアを含む、医薬組成物もまた提供される。本明細書で開示される主題は、上記細胞の有効量、および薬学的に許容されるキャリアを含む、ヘモグロビン異常症を処置するための医薬組成物もまた提供する。
【0027】
さらに、本明細書で開示される主題は、上記細胞を含む、ヘモグロビン異常症を処置するためのキットを提供する。ある特定の実施形態では、このキットは、ヘモグロビン異常症を有する被験体を処置するためにこの細胞を使用するための書面の指示をさらに含む。
【0028】
さらに、本明細書で開示される主題は、被験体においてヘモグロビン異常症を処置する方法であって、上記細胞の有効量を被験体に投与するステップ、それによって、正常ヘモグロビンを含有する赤血球を生成する被験体の能力を回復させるステップを含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、細胞を被験体に投与するステップの後に、治療的に適切なレベルのヘモグロビンがこの被験体において産生される。ある特定の補正では、この方法は、上記組換えベクターで形質導入された細胞の有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、被験体において治療的に適切なレベルのヘモグロビンを提供する、細胞中の組換えベクターのベクターコピー数は、細胞1個当たり約0.5~2ベクターコピー数である。ある特定の実施形態では、この方法は、被験体において効果のない赤血球生成を修正する。ある特定の実施形態では、この方法は、被験体において移植片対宿主病のリスクをきたさない。ある特定の実施形態では、この方法は、免疫抑制剤を投与するステップを含まない。ある特定の実施形態では、この細胞は、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞および造血内皮細胞からなる群から選択される。非限定的な一実施形態では、この被験体はヒトである。ある特定の実施形態では、この細胞は、被験体由来である。非限定的な一実施形態では、この細胞は、被験体の骨髄由来である。
【0029】
本明細書で開示される主題によれば、上記ヘモグロビン異常症は、ヘモグロビンC病(hemoglobin C disease)、ヘモグロビン鎌状赤血球症(hemoglobin sickle cell disease)(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β-サラセミア、重症型サラセミア(thalassemia major)、中間型サラセミア(thalassemia intermedia)、α-サラセミアおよびヘモグロビンH病(hemoglobin H disease)からなる群から選択され得る。非限定的な一実施形態では、このヘモグロビン異常症は、β-サラセミアである。別の非限定的な実施形態では、このヘモグロビン異常症は、鎌状赤血球貧血である。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含む、インシュレーター。
(項目2)
配列番号24または配列番号25を含む、項目1に記載のインシュレーター。
(項目3)
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する、項目2に記載のインシュレーター。
(項目4)
項目1から3のいずれかに記載のインシュレーター、およびβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)領域に作動可能に連結したグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む、発現カセット。
(項目5)
前記β-グロビンLCR領域が、Dnase I高感受性部位-2(HS2)領域を含まない、項目4に記載の発現カセット。
(項目6)
前記β-グロビンLCR領域が、HS2のコア配列を含まない、項目5に記載の発現カセット。
(項目7)
HS2の前記コア配列が、配列番号20に示されるヌクレオチド配列を有する、項目6に記載の発現カセット。
(項目8)
HS2の前記コア配列が、配列番号21に示されるヌクレオチド配列を有する、項目6に記載の発現カセット。
(項目9)
前記β-グロビンLCR領域が、HS2のエンハンサー活性を維持するHS2領域を含まない、項目4に記載の発現カセット。
(項目10)
前記β-グロビンLCR領域が、Dnase I高感受性部位-1(HS1)領域、Dnase I高感受性部位-3(HS3)領域およびDnase I高感受性部位-4(HS4)領域を含む、項目4から9のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目11)
前記HS3領域が、前記HS1領域と前記HS4領域との間に置かれる、項目10に記載の発現カセット。
(項目12)
前記HS1領域が約1.1kbの長さである、項目10または11に記載の発現カセット。
(項目13)
前記HS1領域が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する、項目12に記載の発現カセット。
(項目14)
前記HS1領域が約600bpの長さである、項目10または11に記載の発現カセット。
(項目15)
前記HS1領域が602bpの長さである、項目14に記載の発現カセット。
(項目16)
前記HS1領域が、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有する、項目15に記載の発現カセット。
(項目17)
前記HS1領域が約490bpの長さである、項目10または11に記載の発現カセット。
(項目18)
前記HS1領域が489bpの長さである、項目17に記載の発現カセット。
(項目19)
前記HS1領域が、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する、項目18に記載の発現カセット。
(項目20)
前記β-グロビンLCR領域が、HS1領域を含まない、項目4または5に記載の発現カセット。
(項目21)
前記β-グロビンLCR領域が、HS1のコア配列を含まない、項目20に記載の発現カセット。
(項目22)
HS1の前記コア配列が、配列番号22に示されるヌクレオチド配列を有する、項目21に記載の発現カセット。
(項目23)
HS1の前記コア配列が、配列番号23に示されるヌクレオチド配列を有する、項目21に記載の発現カセット。
(項目24)
前記β-グロビンLCR領域が、HS1の機能を維持するHS1領域を含まない、項目20に記載の発現カセット。
(項目25)
前記β-グロビンLCR領域が、HS3領域およびHS4領域を含む、項目20から24のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目26)
前記HS3領域が、前記グロビン遺伝子またはその機能的部分と前記HS4領域との間に置かれる、項目25に記載の発現カセット。
(項目27)
前記HS3領域が約1300bpの長さである、項目10から26のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目28)
前記HS3領域が1301bpの長さである、項目27に記載の発現カセット。
(項目29)
前記HS3領域が、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する、項目28に記載の発現カセット。
(項目30)
前記HS4領域が約1.1kbの長さである、項目10から29のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目31)
前記HS4領域が1065bpの長さである、項目30に記載の発現カセット。
(項目32)
前記HS4領域が、配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有する、項目31に記載の発現カセット。
(項目33)
前記HS4領域が、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有する、項目31に記載の発現カセット。
(項目34)
前記HS4領域が約450bpの長さである、項目10から29のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目35)
前記HS4領域が446bpの長さである、項目34に記載の発現カセット。
(項目36)
前記HS4領域が、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する、項目35に記載の発現カセット。
(項目37)
前記β-グロビンLCR領域が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、該β-グロビンLCR領域が、HS2領域を含まない、項目5から11のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目38)
前記β-グロビンLCR領域が、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、該β-グロビンLCR領域が、HS2領域を含まない、項目5から11のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目39)
前記β-グロビンLCR領域が、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、該β-グロビンLCR領域が、HS2領域を含まない、項目5から11のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目40)
前記β-グロビンLCR領域が、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、該β-グロビンLCR領域が、HS1領域もHS2領域も含まない、項目20から25のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目41)
前記β-グロビンLCR領域が、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含む、項目4に記載の発現カセット。
(項目42)
前記HS2領域が860bpの長さである、項目41に記載の発現カセット。
(項目43)
前記HS2領域が、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有する、項目42に記載の発現カセット。
(項目44)
前記HS3領域が約1300bpの長さである、項目41から42のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目45)
前記HS3領域が1301bpの長さである、項目44に記載の発現カセット。
(項目46)
前記HS3領域が、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する、項目45に記載の発現カセット。
(項目47)
前記HS4領域が約1.1kbの長さである、項目41から46のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目48)
前記HS4領域が1065bpの長さである、項目47に記載の発現カセット。
(項目49)
前記HS4領域が、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有する、項目49に記載の発現カセット。
(項目50)
前記β-グロビンLCR領域が、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含む、項目41に記載の発現カセット。
(項目51)
前記β-グロビンLCR領域が、HS1領域をさらに含む、項目41から50のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目52)
前記グロビン遺伝子が、β-グロビン遺伝子、γ-グロビン遺伝子およびδ-グロビン遺伝子からなる群から選択される、項目4から51のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目53)
前記グロビン遺伝子が、ヒトβ-グロビン遺伝子である、項目52に記載の発現カセット。
(項目54)
前記ヒトβ-グロビン遺伝子が、野生型ヒトβ-グロビン遺伝子、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む、欠失したヒトβ-グロビン遺伝子、および少なくとも1つの抗鎌状化アミノ酸残基をコードする、変異したヒトβ-グロビン遺伝子からなる群から選択される、項目53に記載の発現カセット。
(項目55)
前記ヒトβ-グロビン遺伝子が、コドン87におけるスレオニンからグルタミンへの変異をコードするヒトβA-グロビン遺伝子(βA-T87Q)である、項目54に記載の発現カセット。
(項目56)
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを1つ含む、項目4から55のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目57)
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する前記インシュレーターを2つ含む、項目4から55のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目58)
β-グロビンプロモーターをさらに含む、項目4から57のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目59)
前記β-グロビンプロモーターが、前記グロビン遺伝子またはその機能的部分と前記β-グロビンLCR領域との間に置かれる、項目58に記載の発現カセット。
(項目60)
前記β-グロビンプロモーターが、約613bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである、項目58または59に記載の発現カセット。
(項目61)
前記ヒトβ-グロビンプロモーターが、配列番号10に示されるヌクレオチド配列を有する、項目60に記載の発現カセット。
(項目62)
前記β-グロビンプロモーターが、約265bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである、項目58または59に記載の発現カセット。
(項目63)
前記ヒトβ-グロビンプロモーターが、配列番号11に示されるヌクレオチド配列を有する、項目62に記載の発現カセット。
(項目64)
ヒトβ-グロビン3’エンハンサーをさらに含む、項目4から63のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目65)
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが、前記グロビン遺伝子またはその機能的部分の上流に置かれる、項目64に記載の発現カセット。
(項目66)
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが約879bpの長さである、項目64または65に記載の発現カセット。
(項目67)
前記ヒトβ-グロビン3’エンハンサーが、配列番号12に示されるヌクレオチド配列を有する、項目66に記載の発現カセット。
(項目68)
少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーをさらに含む、項目5から67のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目69)
前記少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーが、前記グロビン遺伝子またはその機能的部分とβ-グロビンLCR領域との間に置かれる、項目68に記載の発現カセット。
(項目70)
前記少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーが、配列番号13、14、15、16および17からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する、項目68または69に記載の発現カセット。
(項目71)
1、2または3つの赤血球系特異的エンハンサーを含む、項目68から70のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目72)
哺乳動物における前記グロビン遺伝子またはその機能的部分の発現を可能にする、項目4から71のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目73)
ヒトβ-グロビン遺伝子の発現を可能にする、項目72に記載の発現カセット。
(項目74)
前記グロビン遺伝子またはその機能的部分の発現が、赤血球系組織に限定される、項目71または72に記載の発現カセット。
(項目75)
項目4から74のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、組換えベクター。
(項目76)
レトロウイルスベクターである、項目75に記載の組換えベクター。
(項目77)
前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、項目76に記載の組換えベクター。
(項目78)
前記発現カセットが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを1つ含む、項目75から77のいずれか一項に記載の組換えベクター。
(項目79)
前記ベクターの3’長末端反復(LTR)中にウッドチャック肝炎ポスト調節エレメント(WPRE)をさらに含む、項目75から77のいずれか一項に記載の組換えベクター。
(項目80)
前記ベクターの3’長末端反復(LTR)中にウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルをさらに含む、項目79に記載の組換えベクター。
(項目81)
項目4から74のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼ。
(項目82)
天然に存在しないまたは操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、天然に存在しないまたは操作されたメガヌクレアーゼ、および天然に存在しないまたは操作された転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群から選択される、項目81に記載のヌクレアーゼ。
(項目83)
DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼ切断ドメインを含む、項目81または82に記載のヌクレアーゼ。
(項目84)
ゲノムセーフハーバー部位に結合する、項目81から83のいずれか一項に記載のヌクレアーゼ。
(項目85)
前記ゲノムセーフハーバー部位において二本鎖切断(DSB)を引き起こす、項目84に記載のヌクレアーゼ。
(項目86)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、遺伝子外のゲノムセーフハーバー部位である、項目84または85に記載のヌクレアーゼ。
(項目87)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、第1染色体上に位置する、項目84から86のいずれか一項に記載のヌクレアーゼ。
(項目88)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、以下の5つの判定基準:(1)任意の遺伝子の5’末端から(例えば、該遺伝子の5’末端から)少なくとも50kbの距離、(ii)任意のがん関連遺伝子から少なくとも300kbの距離、(iii)開いた/アクセス可能なクロマチン構造内(天然のまたは操作されたヌクレアーゼによるDNA切断によって測定される)、(iv)遺伝子転写単位の外側の位置、および(v)ヒトゲノムの超保存領域(UCR)、microRNAまたは長い非コードRNAの外側の位置のうち全てを満たす、項目84から86のいずれか一項に記載のヌクレアーゼ。
(項目89)
前記発現カセットが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する前記インシュレーターを2つ含む、項目81から88のいずれか一項に記載のヌクレアーゼ。
(項目90)
前記発現カセットの標的化された送達を可能にする、項目81から89のいずれか一項に記載のヌクレアーゼ。
(項目91)
項目81から90のいずれか一項に記載のヌクレアーゼをコードする、ポリヌクレオチド。
(項目92)
項目91に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
(項目93)
レンチウイルスベクターである、項目92に記載のベクター。
(項目94)
項目4から74のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、天然に存在しないまたは操作されたCRISPR-Cas系。
(項目95)
前記CRISPR-Cas系が、CRISPR-CasヌクレアーゼおよびシングルガイドRNAを含む、項目94に記載の系。
(項目96)
前記CRISPR-Cas系が、ゲノムセーフハーバー部位に結合する、項目94または95に記載の系。
(項目97)
前記CRISPR-Cas系が、前記ゲノムセーフハーバー部位において二本鎖切断(DSB)を引き起こす、項目96に記載の系。
(項目98)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、遺伝子外のゲノムセーフハーバー部位である、項目96または97に記載の系。
(項目99)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、第1染色体上に位置する、項目96から98のいずれか一項に記載の系。
(項目100)
前記ゲノムセーフハーバー部位が、以下の5つの判定基準:(1)任意の遺伝子の5’末端から(例えば、該遺伝子の5’末端から)少なくとも50kbの距離、(ii)任意のがん関連遺伝子から少なくとも300kbの距離、(iii)開いた/アクセス可能なクロマチン構造内(天然のまたは操作されたヌクレアーゼによるDNA切断によって測定される)、(iv)遺伝子転写単位の外側の位置、および(v)ヒトゲノムの超保存領域(UCR)、microRNAまたは長い非コードRNAの外側の位置のうち全てを満たす、項目96から99のいずれか一項に記載の系。
(項目101)
前記発現カセットが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する前記インシュレーターを2つ含む、項目94から100のいずれか一項に記載の系。
(項目102)
前記発現カセットの標的化された送達を可能にする、項目94から101のいずれか一項に記載の系。
(項目103)
項目94から102のいずれか一項に記載のCRISPR-Cas系をコードする、ポリヌクレオチド。
(項目104)
項目103に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
(項目105)
レンチウイルスベクターである、項目104に記載のベクター。
(項目106)
項目4から74のいずれか一項に記載の発現カセットで形質導入された、細胞。
(項目107)
項目75から80のいずれか一項に記載の組換えベクターで形質導入された、細胞。
(項目108)
項目81から90のいずれか一項に記載のヌクレアーゼで形質導入された、細胞。
(項目109)
項目94から102のいずれか一項に記載のCRISPR-Cas系で形質導入された、細胞。
(項目110)
項目92、93、104および105のいずれか一項に記載のベクターで形質導入された、細胞。
(項目111)
造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞および造血内皮細胞からなる群から選択される、項目106から110のいずれか一項に記載の細胞。
(項目112)
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である、項目111に記載の細胞。
(項目113)
ex vivoで形質導入される、項目106から112のいずれか一項に記載の細胞。
(項目114)
項目106から113のいずれか一項に記載の細胞の有効量、および薬学的に許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
(項目115)
項目106から113のいずれか一項に記載の細胞の有効量、および薬学的に許容されるキャリアを含む、ヘモグロビン異常症を処置するための医薬組成物。
(項目116)
前記ヘモグロビン異常症が、ヘモグロビンC病、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β-サラセミア、重症型サラセミア、中間型サラセミア、α-サラセミアおよびヘモグロビンH病からなる群から選択される、項目115に記載の医薬組成物。
(項目117)
前記ヘモグロビン異常症がβ-サラセミアである、項目116に記載の医薬組成物。
(項目118)
前記ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球貧血である、項目116に記載の医薬組成物。
(項目119)
項目106から113のいずれか一項に記載の細胞を含む、ヘモグロビン異常症を処置するためのキット。
(項目120)
ヘモグロビン異常症を有する被験体を処置するために前記細胞を使用するための書面の指示をさらに含む、項目119に記載のキット。
(項目121)
前記ヘモグロビン異常症が、ヘモグロビンC病、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β-サラセミア、重症型サラセミア、中間型サラセミア、α-サラセミアおよびヘモグロビンH病からなる群から選択される、項目119または120に記載のキット。
(項目122)
前記ヘモグロビン異常症がβ-サラセミアである、項目121に記載のキット。
(項目123)
前記ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球貧血である、項目121に記載のキット。
(項目124)
被験体においてヘモグロビン異常症を処置する方法であって、項目106から113のいずれか一項に記載の細胞の有効量を該被験体に投与するステップ、それによって、正常ヘモグロビンを含む赤血球を生成する該被験体の能力を回復させるステップを含む、方法。
(項目125)
前記細胞を前記被験体に投与するステップの後に、治療的に適切なレベルのヘモグロビンが該被験体において産生される、項目124に記載の方法。
(項目126)
項目75から80のいずれか一項に記載の組換えベクターで形質導入された細胞の有効量を投与するステップを含む、方法。
(項目127)
前記被験体において治療的に適切なレベルのヘモグロビンを提供する、前記細胞中の前記組換えベクターのベクターコピー数が、細胞1個当たり約0.5~2ベクターコピー数である、項目126に記載の方法。
(項目128)
前記被験体において効果のない赤血球生成を修正する、項目124から127のいずれか一項に記載の方法。
(項目129)
前記被験体に対する移植片対宿主病のリスクをきたさない、項目124から128のいずれか一項に記載の方法。
(項目130)
免疫抑制剤を投与するステップを含まない、項目124から129のいずれか一項に記載の方法。
(項目131)
前記ヘモグロビン異常症が、ヘモグロビンC病、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β-サラセミア、重症型サラセミア、中間型サラセミア、α-サラセミアおよびヘモグロビンH病からなる群から選択される、項目124から130のいずれか一項に記載の方法。
(項目132)
前記ヘモグロビン異常症がβ-サラセミアである、項目131に記載の方法。
(項目133)
前記ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球貧血である、項目131に記載の方法。
(項目134)
前記細胞が、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞および造血内皮細胞からなる群から選択される、項目124から133のいずれか一項に記載の方法。
(項目135)
前記被験体がヒトである、項目124から134のいずれか一項に記載の方法。
(項目136)
前記細胞が前記被験体由来である、項目124から135のいずれか一項に記載の方法。
(項目137)
前記細胞が、前記被験体の骨髄由来である、項目136に記載の方法。
【0030】
例として与えられるが、記載された具体的実施形態に本発明を限定することを意図しない以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本明細書で開示される主題の非限定的な一実施形態に従う発現カセットを含む組換えベクター(a recombinant vector comprising an expression cassette)を示す。
【0032】
【
図2】
図2は、本明細書で開示される主題の非限定的な一実施形態に従う発現カセットを含む組換えベクター(a recombinant vector an expression cassette)を示す。
【0033】
【
図3】
図3は、本明細書で開示される主題の非限定的な一実施形態に従う発現カセットを含む組換えベクターを示す。
【0034】
【
図4】
図4は、本明細書で開示される主題の非限定的な一実施形態に従う発現カセットを含む組換えベクターを示す。
【0035】
【
図5】
図5A~Cは、インシュレーターA1の遺伝子毒性を示す。(A)は、使用したガンマレトロウイルスベクター遺伝子毒性アッセイを明示する。(B)は、インスレートされたガンマレトロウイルスベクターで形質導入された32D細胞を受けているマウスの増加した生存を示す。cHS4およびインスレートされていない対照を用いて得られた結果もまた示す。(C)は、インシュレーターA1が、遺伝子毒性のリスクを減少させたことを示している。
【0036】
【
図6】
図6は、処置の8週間後および44週間後のサラセミアHbb
th3/+マウスにおける、正規化されたβ鎖発現を示す。
【0037】
【
図7】
図7は、非赤血球系K562細胞におけるエンハンサー活性の評価を示す。
【
図8】
図8は、本明細書で開示される主題のある特定の実施形態に従う赤血球系特異的エンハンサーを示す。
【0038】
【
図9】
図9は、本明細書で開示される主題のある特定の実施形態に従う赤血球系特異的エンハンサーを示す。
【0039】
【
図10A】
図10A~Bは、本明細書で開示される発現カセットを含む種々の組換えベクターを示す。
【0040】
【
図10B】
図10A~Bは、本明細書で開示される発現カセットを含む種々の組換えベクターを示す。
【0041】
【
図11】
図11は、本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターの力価を示す。
【0042】
【
図12】
図12は、本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターの力価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書で開示される主題は、一般に、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の発現を可能にする発現カセットを提供する。非限定的な一例では、この発現カセットは、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを少なくとも1つ、およびβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)領域に作動可能に連結したグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む。本明細書で開示される発現カセットによって誘導されるグロビン遺伝子の発現は、赤血球系特異的、分化段階特異的、高レベルであり、持続性である。本明細書で開示される主題は、組換えベクター、天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼ、ならびにかかる発現カセットを含む天然に存在しないまたは操作されたCRISPR-Cas系、ならびにかかる発現カセット、組換えベクター、ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系で形質導入された細胞もまた提供する。本明細書で開示される発現カセットおよびそれを含むベクターは、細胞1個当たり低いベクターコピー数(例えば、0.5~2、1~2またはさらには0.5~1)で治療的導入遺伝子発現が達成される(例えば、治療的に適切なレベルのヘモグロビンが産生される)場合、安全な遺伝子移入治療を提供する。さらに、本明細書で開示される主題は、ヘモグロビン異常症(例えば、β-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血)を処置するために、かかる形質導入された細胞を使用する方法を提供する。
【0044】
I.定義
別段定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明において使用される用語の多くの一般的定義を当業者に提供する:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994年);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988年);The Glossary of Genetics、第5版、R. Riegerら(編)、Springer Verlag(1991年);ならびにHaleおよびMarham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991年)。本明細書で使用する場合、以下の用語は、別段特記しない限り、以下のそれらに帰せられる意味を有する。
【0045】
本明細書で使用する場合、用語「発現カセット」とは、標的細胞における特定の核酸の転写を可能にする一連の特定化された核酸エレメントを有する、組換えまたは合成によって生成された核酸構築物を指す。発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、色素体DNA、ウイルスまたは核酸領域中に組み込まれ得る。発現カセット部分は、転写される遺伝子、およびその遺伝子の発現を制御するエレメント(例えば、プロモーター)を含み得る。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「β-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)領域」とは、HS1領域、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含む、1つまたは複数のDnase I高感受性部位(HS)領域から構成されるポリヌクレオチドを指す。ヒト(Liら、J. Biol. Chem.(1985年);260巻:14,901頁;Liら、Proc. Natl. Acad. Sci.(1990年)87巻:8207頁);マウス(Sheheeら、J. Mol. Biol.(1989年);205巻:41頁);ウサギ(Margotら、J. Mol. Biol.(1989年);205巻:15頁);およびヤギ(Li, Q.ら、Genomics(1991年);9巻:488頁)などの、β-グロビン遺伝子の多くのLCRの構造が公開されており、これらは各々、参照によって本明細書に組み込まれる。ある特定の実施形態では、上記β-グロビンLCR領域は、HS2領域を含む(例えば、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域;ならびにHS1領域、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域)。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない(例えば、HS1領域、HS3領域、HS4領域を含むβ-グロビンLCR領域)。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域もHS1領域も含まない(例えば、HS3領域およびHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域)。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「組換え」は、異種核酸の導入によって改変された細胞もしくはベクターに対する言及、または細胞がそのように改変された細胞由来であることを含む。したがって、例えば、組換え細胞は、ネイティブ(非組換え)形態の細胞内で同一の形態で見出されない遺伝子を発現する、または故意のヒト介入の結果として、他の方法で異常に発現される、過小発現される、もしくは全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する、またはネイティブ遺伝子の、低減もしくは排除された発現を有し得る。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「グロビン」とは、酸素の結合および輸送に関与するヘム含有タンパク質のファミリーを指す。脊椎動物および無脊椎動物のヘモグロビンのサブユニット、脊椎動物および無脊椎動物のミオグロビンまたはそれらの変異体は、用語グロビンによって包含される。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「野生型」とは、いずれの変異または改変を有さない、天然に見出される正常な遺伝子、ウイルスまたは生物を指す。
【0050】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、相互交換可能に使用される。これらは、任意の長さの、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれかのポリマー性形態のヌクレオチド、またはそれらのアナログを指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、公知または知られていない任意の機能を果たし得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子領域のコード領域または非コード領域、連鎖分析から定義された遺伝子座(複数もしくは単数)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、micro-RNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、1つまたは複数の改変されたヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含み得る。特定の実施形態では、本明細書で開示される主題は、1つまたは複数のグロビン遺伝子またはその機能的(fuctional)部分をコードするポリヌクレオチドを提供する。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する改変は、ポリマーのアセンブリの前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、例えば、標識構成要素とのコンジュゲーションによって、重合後にさらに改変され得る。かかるポリヌクレオチドは、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には、実質的な同一性を示す。内因性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることが可能である。「ハイブリダイズする」とは、ストリンジェンシーの種々の条件下で、相補的ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記載される遺伝子)またはそれらの部分間で二本鎖分子を形成するように対合することを意味する。(例えば、Wahl, G. M.およびS. L. Berger(1987年)Methods Enzymol. 152巻:399頁;Kimmel, A. R.(1987年)Methods Enzymol. 152巻:507頁を参照のこと)。
【0051】
例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、約750mM未満のNaClおよび75mM未満のクエン酸三ナトリウム、好ましくは約500mM未満のNaClおよび50mM未満のクエン酸三ナトリウム、より好ましくは約250mM未満のNaClおよび25mM未満のクエン酸三ナトリウムである。低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えば、ホルムアミドの非存在下で得られ得るが、高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%のホルムアミド、より好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下で得られ得る。ストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約30℃の、より好ましくは少なくとも約37℃の、最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含む。種々のさらなるパラメーター、例えば、ハイブリダイゼーション時間、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの洗剤の濃度、およびキャリアDNAを含むか含まないかは、当業者に周知である。変動するレベルのストリンジェンシーが、必要に応じて、これらの種々の条件を組み合わせることによって達成される。好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーションは、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウムおよび1%SDS中で、30℃で起こる。より好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーションは、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミドおよび100μg/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)中で、37℃で起こる。最も好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーションは、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミドおよび200μg/ml ssDNA中で、42℃で起こる。これらの条件に対する有用なバリエーションは、当業者に容易に明らかである。
【0052】
ほとんどの適用について、ハイブリダイゼーション後の洗浄ステップも、ストリンジェンシーを変動させる。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度および温度によって定義され得る。上記のように、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を減少させることまたは温度を上昇させることによって、増加され得る。例えば、洗浄ステップのためのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mM未満のNaClおよび3mM未満のクエン酸三ナトリウム、最も好ましくは約15mM未満のNaClおよび1.5mM未満のクエン酸三ナトリウムである。洗浄ステップのためのストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃の、なおより好ましくは少なくとも約68℃の温度を含む。好ましい実施形態では、洗浄ステップは、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中で、25℃で行われる。より好ましい実施形態では、洗浄ステップは、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中で、42℃で行われる。より好ましい実施形態では、洗浄ステップは、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中で、68℃で行われる。これらの条件に対するさらなるバリエーションは、当業者に容易に明らかである。ハイブリダイゼーション技術は、当業者に周知であり、例えば、BentonおよびDavis(Science 196巻:180頁、1977年);GrunsteinおよびRogness(Proc. Natl. Acad. Sci.、USA 72巻:3961頁、1975年);Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology、Wiley Interscience、New York、2001年);BergerおよびKimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques、1987年、Academic Press、New York);ならびにSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New Yorkに記載されている。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマー、ならびにそのバリアントおよび合成アナログを指すために、相互交換可能に使用される。したがって、これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、合成の天然に存在しないアミノ酸、例えば、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的アナログであるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で開示される主題の特定の実施形態は、ポリペプチド「バリアント」もまた含む。ポリペプチド「バリアント」とは、少なくとも1つのアミノ酸残基の付加、欠失、トランケーションおよび/または置換によって参照ポリペプチドから識別され、生物学的活性を保持する、ポリペプチドを指す。ある特定の実施形態では、ポリペプチドバリアントは、当該分野で公知のように、保存的または非保存的であり得る1または複数の置換によって、参照ポリペプチドから識別される。ある特定の実施形態では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの対応する配列に対して、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ超の配列同一性または類似性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、アミノ酸の付加または欠失は、参照ポリペプチドのC末端の端および/またはN末端の端で生じる。ある特定の実施形態では、アミノ酸欠失は、アミノ酸の全ての介在する数、例えば、25、26、27、29、30・・・100、101、102、103、104、105・・・170、171、172、173、174個などを含む、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、約150、約155、約160、約165、約170もしくは約175またはそれ超のアミノ酸の、C末端トランケーションを含む。
【0054】
上述のように、本明細書で開示される主題のポリペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、トランケーションおよび挿入を含む種々の方法で変更され得る。かかる操作のための方法は、一般に、当該分野で公知である。例えば、参照ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、DNA中の変異によって調製され得る。変異誘発およびヌクレオチド配列変更のための方法は、当該分野で周知である。例えば、Kunkel(1985年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82巻:488~492頁)、Kunkelら(1987年、Methods in Enzymol、154巻:367~382頁)、米国特許第4,873,192号、Watson, J. D. ら、Molecular Biology of the Gene、第4版、Benjamin/Cummings、Menlo Park、Calif、1987年)およびそれらで引用された参考文献を参照のこと。目的のタンパク質の生物学的活性に影響を与えない適切なアミノ酸置換に関するガイダンスは、Dayhoffら(1978年)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl. Biomed. Res. Found.、Washington、D.C.)のモデル中に見出され得る。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に同一」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載されるアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載される核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。好ましくは、かかる配列は、比較のために使用される配列に対して、アミノ酸レベルまたは核酸で、少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、より好ましくは90%、95%またはさらには99%同一である。
【0056】
配列同一性または相同性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group、University of Wisconsin Biotechnology Center、1710 University Avenue、Madison、Wis.53705、BLAST、BESTFIT、GAPまたはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を使用して測定される。かかるソフトウェアは、種々の置換、欠失および/または他の改変に、相同性の程度を割り当てることによって、同一または類似の配列を一致させる。同一性または相同性の程度を決定するための1つの例示的なアプローチでは、BLASTプログラムが、密接に関連する配列を示す、e-3とe-100との間の確率スコアで、使用され得る。2つの配列間の同一性の百分率は、DNAMAN(Lynnon Biosoft、バージョン3.2)などのプログラムを用いても決定され得る。このプログラムを使用して、2つの配列は、最適なアラインメントアルゴリズムを使用してアラインされ得る(SmithおよびWaterman、1981年)。2つの配列のアラインメント後、同一性百分率が、アラインされた配列の長さマイナス全てのギャップの長さによって、2つの配列間で同一のヌクレオチドの数を除算することによって、計算され得る。
【0057】
ポリヌクレオチドの配向を記述する用語には、以下が含まれる:5’(通常、遊離リン酸基を有するポリヌクレオチドの末端)および3’(通常、遊離ヒドロキシル(OH)基を有するポリヌクレオチドの末端)。ポリヌクレオチド配列は、5’から3’の配向または3’から5’の配向で注釈付けされ得る。
【0058】
本明細書で使用する場合、「シングルガイドRNA」または「合成ガイドRNA」とは、ガイド配列、tracr配列およびtracrメイト配列を含むポリヌクレオチド配列を指す。用語「ガイド配列」とは、標的部位を特定するガイドRNA内の約20bpの配列を指し、用語「ガイド」または「スペーサー」と相互交換可能に使用され得る。用語「tracrメイト配列」はまた、用語「ダイレクトリピート(複数可)」と相互交換可能に使用され得る。
【0059】
用語「天然に存在しない」または「操作された」は、相互交換可能に使用され、人の手の関与を示す。これらの用語は、核酸分子またはポリペプチドに言及する場合、その核酸分子またはポリペプチドが、天然において天然に会合する、および天然に見出される、少なくとも1つの他の構成要素を少なくとも実質的に含まないことを意味する。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「発現」とは、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えば、mRNAまたは他のRNA転写物へと)転写されるプロセス、および/または転写されたmRNAがペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質へと引き続いて翻訳されるプロセスを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と呼ばれ得る。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来である場合、発現は、真核生物細胞中でのmRNAのスプライシングを含み得る。
【0061】
本明細書で使用する場合、用語「処置すること」または「処置」とは、処置されている個体または細胞の疾患過程を変更することを試みる臨床的介入を指し、予防のため、または臨床病理の過程の間のいずれかで、実施され得る。処置の治療効果には、限定なしに、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減退、転移の予防、疾患進行の速度の減少、疾患状態の軽減または寛解、および軽快または改善された予後が含まれる。疾患または障害の進行を予防することによって、処置は、罹患したもしくは診断された被験体、または障害を有する疑いがある被験体における、その障害に起因する悪化を予防できるが、処置はまた、障害のリスクがあるまたは障害を有する疑いがある被験体における、障害または障害の症状の発生を予防し得る。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「被験体」とは、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類など(例えば、特定の処置のレシピエントである、またはそこから細胞が回収される)が含まれるがこれらに限定されない任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「単離された細胞」とは、その細胞と天然に付随する分子構成要素および/または細胞構成要素から分離された細胞を指す。本明細書で使用する場合、用語「単離された」とは、そのネイティブ状態で見出される場合にそれと通常付随する構成要素を含まない、実質的に含まない、または変動する程度まで本質的に含まない、材料を指す。「単離する」は、元の供給源または周囲からのある程度の分離を指す。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「細胞集団」とは、類似のまたは異なる表現型を発現する、少なくとも2つの細胞の群を指す。非限定的な例では、細胞集団は、類似のまたは異なる表現型を発現する、少なくとも約10、少なくとも約100、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約500、少なくとも約600、少なくとも約700、少なくとも約800、少なくとも約900、少なくとも約103個の細胞、少なくとも約104個の細胞、少なくとも約105個の細胞、少なくとも約106個の細胞、少なくとも約107個の細胞または少なくとも約108個の細胞を含み得る。
【0065】
本明細書で使用する場合、用語「切断」とは、DNA分子の共有結合骨格の破損を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解が含まれるがこれらに限定されない種々の方法によって開始され得る。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は、2つの別個の一本鎖切断事象の結果として生じ得る。DNA切断は、平滑末端または粘着末端のいずれかの生成を生じ得る。ある特定の実施形態では、融合ポリペプチドが、標的化された二本鎖DNA切断のために使用される。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「切断ハーフドメイン」とは、第2のポリペプチド(同一または異なるのいずれか)とともに、切断活性(好ましくは二本鎖切断活性)を有する複合体を形成する、ポリペプチド配列を指す。用語「第1および第2の切断ハーフドメイン」;「+および-切断ハーフドメイン」および「右側および左側の切断ハーフドメイン」は、ダイマー化する切断ハーフドメインの対を指すために、相互交換可能に使用される。
【0067】
本明細書で使用する場合、用語「染色体」とは、細胞のゲノムの全てまたは一部分を含むクロマチン複合体を指す。細胞のゲノムは、その細胞のゲノムを含む全ての染色体の集合体であるその核型によってしばしば特徴付けられる。細胞のゲノムは、1つまたは複数の染色体を含み得る。
【0068】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域、ならびにそのような調節配列がコード配列および/または転写された配列に近接するか否かに関わらず、遺伝子産物の産生を調節する全てのDNA領域、を含む。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えば、リボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合部位および遺伝子座制御領域が含まれるがこれらに限定されない。
【0069】
用語「作用的連結」および「作用的に連結した」(または「作動可能に連結した」)は、2またはそれ超の構成要素(例えば、配列エレメント)の並置に関して相互交換可能に使用され、そこでは、該構成要素が配置され、その結果、両方の構成要素が正常に機能し、構成要素のうち少なくとも1つが、他方の構成要素のうち少なくとも1つに対して及ぼされる機能を媒介できる可能性が許容される。例示として、プロモーターなどの転写調節配列は、その転写調節配列が、1つまたは複数の転写調節因子の存在または非存在に応答して、コード配列の転写のレベルを制御する場合、コード配列に作用的に連結している。転写調節配列は、一般に、コード配列と、シスで作用的に連結されるが、それと直接近接している必要はない。例えば、エンハンサーは、それらが隣接していない場合であっても、コード配列に作用的に連結した転写調節配列である。
【0070】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能的領域」または「機能的部分」は、その配列が、全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、その全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同じ機能をなおも保持する、タンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的領域は、対応するネイティブ分子よりも多い、それよりも少ない、もしくはそれと同じ数の残基を有し得る、および/または1つもしくは複数のアミノ酸置換もしくはヌクレオチド置換を含有し得る。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)を決定するための方法は、当該分野で周知である。同様に、タンパク質機能を決定するための方法は、周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルター結合、電気泳動移動度-シフトまたは免疫沈降アッセイによって決定され得る。DNA切断は、ゲル電気泳動によってアッセイされ得る。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、共免疫沈降、ツーハイブリッドアッセイまたは遺伝学的および生化学的の両方の補完によって決定され得る。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)の認識部位を指す。用語「エンハンサー」とは、増強された転写を提供することが可能な配列を含有し、一部の場合には、別の制御配列に対するそれらの配向とは独立して機能し得る、DNAのセグメントを指す。エンハンサーは、プロモーターおよび/または他のエンハンサーエレメントと協調的にまたは相加的に機能し得る。
【0072】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」とは、適切な制御エレメントと関連する場合に複製が可能であり、細胞中に遺伝子配列を移入させることができる、任意の遺伝エレメント、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどを指す。したがって、この用語は、クローニングビヒクルおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターおよびプラスミドベクターを含む。
【0073】
本明細書で使用する場合、用語「モジュレートする」とは、正にまたは負に変更することを指す。例示的なモジュレーションには、約1%、約2%、約5%、約10%、約25%、約50%、約75%または約100%の変化が含まれる。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「増加させる」とは、約5%、約10%、約25%、約30%、約50%、約75%または約100%正に変更することが含まれるがこれらに限定されない、少なくとも約5%正に変更することを指す。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「低減させる」とは、約5%、約10%、約25%、約30%、約50%、約75%または約100%負に変更することが含まれるがこれらに限定されない、少なくとも約5%負に変更することを指す。
【0076】
本明細書で使用する場合、用語「約」または「およそ」とは、その値が如何にして測定または決定されたか、即ち、測定システムの制約に一部依存する、当業者によって決定される特定の値について、許容可能な誤差範囲内であることを意味する。例えば、「約」とは、当該分野での実務に従って、3標準偏差以内または3よりも大きい標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」とは、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、より好ましくはさらには最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に、生物学的な系またはプロセスに関して、この用語は、ある桁以内(within an order of magnitude)、好ましくはある値の5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0077】
II.インシュレーター
ベクター関連悪性形質転換のいくつかの例が、ベクターにコードされたエンハンサーによる細胞癌遺伝子の活性化と関連して、臨床状況において報告されており(Baumら(2006年)、Nienhuisら(2006年)、Ramezaniら(2006年))、種々のベクター改変が、ベクター遺伝子毒性を低減させるために実施または提唱されてきた(Baumら(2006年)、Nienhuisら(2006年)、Ramezaniら(2006年))。クロマチンインシュレーターとして公知のDNAエレメントのクラスは、ベクターの安全性および性能を改善するための1つのアプローチとして認識されている(Emery(2011年))。
【0078】
インシュレーターは、近接するクロマチンドメイン間の機能的境界を形成することを助ける(help from)、天然に存在するDNAエレメントである。インシュレーターは、クロマチンを改変するタンパク質に結合し、局所遺伝子発現を変更する。本明細書に記載されるベクター中でのインシュレーターの配置は、以下が含まれるがこれらに限定されない種々の潜在的利益を提供する:1)フランキング染色体による発現の多様位置効果(positional effect variegation)からのベクターの遮蔽(即ち、位置効果およびベクターサイレンシングを減少させ得るバリア活性);および2)ベクターによる内因性遺伝子発現の挿入性トランス活性化からフランキング染色体を遮蔽すること(エンハンサー遮断)。2つの基本的なクラスのクロマチンインシュレーターが存在する:(a)サイレンシングヘテロクロマチンの、転写を許容する開いたクロマチンの隣接領域中への侵食を遮断するバリアインシュレーター、および(b)隣接領域のエンハンサー媒介性の転写活性化を防止するエンハンサー遮断性インシュレーター。これらの活性を媒介する配列は、物理的に分離可能であり、機構的に別個である(Recillas-Targaら(2002年))。クロマチンインシュレーターは、それ自体では固有の転写増強活性または抑圧活性を示さない。このように、これらは、遺伝子移入ベクターと標的細胞ゲノムとの間の相互作用を低減させるための理想的なエレメントを構成する。インシュレーターは、ゲノムまたは遺伝子コンテクスト中に埋め込まれた遺伝子または転写単位の独立した機能を保つ助けをし得、さもなければ、それらの発現は、ゲノムまたは遺伝子コンテクスト内の調節シグナルによって影響を受ける可能性がある(例えば、Burgess-Beusseら(2002年)Proc. Nat’l Acad. Sci. USA、99巻:16433頁;およびZhanら(2001年)Hum. Genet.、109巻:471頁を参照のこと)。
【0079】
ウイルスベクターの挿入性変異誘発によって生じる問題は、遺伝子毒性のリスクがクロマチンインシュレーターの使用によって低減され得ることから明らかなように(Arumugamら(2007年)、Emery(2011年)、Evans-Galeaら(2007年)、Rivellaら(2000年)、Emeryら(2000年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2003年)、Ramezaniら(2008年))広く公知である(Nienhuis(2013年)、Baumら(2006年)、Nienhuisら(2006年))。本明細書で開示される主題は、強力なエンハンサー遮断性インシュレーターである新規インシュレーターを提供し、ある特定のインシュレーターは、バリアインシュレーター活性をさらに有する。脊椎動物では、エンハンサー遮断性インシュレーターの機能は、ジンクフィンガーDNA結合因子CTCFを介して媒介される(GasznerおよびFelsenfeld(2006年)、WallaceおよびFelsenfeld(2007年))。一般に、これらのエレメントは、近接するインシュレーターエレメント間のCTCF媒介性の相互作用によって、または核内の構造エレメントへのクロマチン線維のCTCF媒介性の係留を介して確立される、物理的ループ構造を介して機能すると考えられる。最初に特徴付けられた脊椎動物クロマチンインシュレーターは、ニワトリβ-グロビン遺伝子座制御領域内に位置する。このエレメントは、DNase-I高感受性部位-4(cHS4)を含み、ニワトリβ-グロビン遺伝子座の5’境界を構成するようである(Prioleauら(1999年)EMBO J. 18巻:4035~4048頁)。cHS4エレメントを含有する1.2kb領域は、細胞株中でのグロビン遺伝子プロモーターとエンハンサーとの相互作用を遮断する能力(Chungら(1993年)Cell、74巻:505~514頁)、ならびにDrosophila(同文献)、形質転換された細胞株(Pikaartら(1998年)Genes Dev. 12巻:2852~2862頁)およびトランスジェニック哺乳動物(Wangら(1997年)Nat. Biotechnol.、15巻:239~243頁;Taboit-Dameronら(1999年)Transgenic Res.、8巻:223~235頁)において、位置効果から発現カセットを保護する能力を含む、古典的なインシュレーター活性を示す。この活性の多くは、250bp領域中に含有される。このストレッチ内には、エンハンサー遮断アッセイに関与するジンクフィンガーDNA結合タンパク質CTCF(Bellら(1999年)Cell、98巻:387~396頁)と相互作用する、49bpのcHS4エレメント(Chungら(1997年)Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、94巻:575~580頁)がある。
【0080】
cHS4などのインシュレーターは、エンハンサーとプロモーターとの間の相互作用を、それがこれらのエレメント間に配置された場合、遮断できる(Evans-Galeaら(2007年)、Chungら(1997年)、Bellら(1999年)、Ryuら(2007年)、Ryuら(2008年))。いくつかの研究により、ガンマレトロウイルスベクター(Evans-Galeaら(2007年)、Rivellaら(2000年)、Emeryら(2000年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2006年)、Yaoら(2003年)、Nishinoら(2006年)、Akerら(2007年)、LiおよびEmery(2008年))およびレンチウイルスベクター(Bankら(2005年)、Arumugamら(2007年)、Puthenveetilら(2004年)、Evans-Galeaら(2007年)、Ramezaniら(2003年)、Akerら(2007年)、Maら(2003年)、Changら(2005年)、Plutaら(2005年))の位置効果サイレンシングを低減させるcHS4インシュレーターの能力が実証されている。これらの適切に設計された研究により、1.2kbバージョンのcHS4インシュレーターを含めることが、少なくとも一部の状況において、ベクター導入遺伝子発現の見込みおよび/または一貫性を増加させたことが実証された(Arumugamら(2007年)、Emery(2011年)、Evans-Galeaら(2007年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2006年)、Akerら(2007年)、LiおよびEmery(2008年)、Plutaら(2005年).Jakobssonら(2004年))。それにもかかわらず、cHS4インシュレーターによって与えられる保護の程度は、完全にはほど遠い。さらに、1.2KbのcHS4を含めることは、ベクター力価に悪影響を与え得るが、最も小さいcHS4コアは無効であると証明されている(Akerら(2007年)、Jakobssonら(2004年))。対照的に、本明細書で開示される主題のインシュレーターは、ウイルスベクターの力価に悪影響を与えず、cHS4インシュレーターよりも強力かつ有効である。
【0081】
本明細書で開示されるインシュレーターは、ゲノムアプローチを介して、例えば、ヒトゲノムの強力なエンハンサー遮断因子およびバリアインシュレーターであるインシュレーターを同定するためのゲノムアプローチを使用して、同定される。本明細書で開示されるインシュレーターは、遺伝子治療(例えば、幹細胞遺伝子治療、グロビン遺伝子治療)の安全性を増強する。ヘモグロビン異常症の遺伝子治療のために、強力なエンハンサーが、治療レベルのグロビン遺伝子発現を達成するために必要とされる。したがって、強力なインシュレーターは、組込みベクターの強力なエンハンサーからゲノム環境を保護するための1つの手段を提示する。
【0082】
本明細書で開示されるインシュレーターは、強力なエンハンサー遮断活性を有する。例えば、限定目的ではなく、本開示のインシュレーターは、エンハンサーエレメントの活性を、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%または少なくとも約99%低減させ得る。ある特定の実施形態では、これらのインシュレーターは、エンハンサー遮断活性に加えて、バリア活性を有する。本明細書で開示されるインシュレーターは、ウイルスベクターと関連する挿入性変異誘発および遺伝子毒性のリスクを実質的に減少させる。さらに、本明細書で開示されるインシュレーターがベクター中に取り込まれる場合、このインシュレーターは、ベクターのベクター力価に悪影響を与えない。ある特定の実施形態では、これらのインシュレーター(例えば、インシュレーターA1)は、グロビン遺伝子またはその機能的部分のin vivo発現を増加させる。
【0083】
ある特定の実施形態では、このインシュレーターは、転写リプレッサーCTCF結合部位を含み、これは、以下に提供される配列番号18に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化1】
。
【0084】
非限定的な一実施形態では、このインシュレーターは、以下に提供される配列番号1に示されるヌクレオチド配列、または配列番号1に対して少なくとも約95パーセント相同もしくは少なくとも約98パーセント同一(相同)である配列を有する。配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するこのインシュレーターは、インシュレーターA1と称される。
【化2】
【0085】
ある特定の実施形態では、このインシュレーターは、配列番号24に示されるヌクレオチド配列、または配列番号24に対して少なくとも約95パーセント同一もしくは少なくとも約98パーセント同一である配列を含む。
【化3】
【0086】
ある特定の実施形態では、このインシュレーターは、配列番号25に示されるヌクレオチド配列(これは、配列番号1の逆相補体である)、または配列番号25に対して少なくとも約95パーセント同一もしくは少なくとも約98パーセント同一である配列を含む。
【化4】
【0087】
ある特定の実施形態では、このインシュレーターは、第1染色のhg18座標76229933~76230115に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0088】
ある特定の実施形態では、このインシュレーターは、Homo sapiens第1染色体クローンRP11-550H2、GenBank受託番号AC092813.2の、残基68041と68160との間、もしくは残基68041と68210との間、もしくは残基68041と68280との間、もしくは残基68005と68305との間のヌクレオチド配列、またはそれらに対して少なくとも95もしくは98パーセント同一な配列を含む。
【0089】
III.発現カセット
本明細書で開示される主題は、1つまたは複数の上に開示したインシュレーター(例えば、インシュレーターA1)を含む発現カセットを提供する。ある特定の実施形態では、発現カセットは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを少なくとも1つ、およびβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む。
【0090】
β-グロビンLCR領域
ヒトβ-グロビン遺伝子クラスターは、多くの嗅覚受容体遺伝子アレイのうち1つの内に埋め込まれた5つの遺伝子からなる(Bulgerら、PNAS(1999年);96巻:5129~5134頁)。このクラスターは、染色体11p15.4上の80kbに及び、5つの発現されるβ様遺伝子、および個体発生の間のそれらの段階特異的発現を指示するシス作用性調節エレメントを含む(Forget(2001年)、Molecular Mechanism of Beta Thalassemia. Steinberg MHら編、Disorders of Hemoglobin. Genetics、Pathophysiology and Clinical Management、Cambridge University Press、Cambridge)。これらの遺伝子は、それらの発生上の発現の順序、5’-ε-Gγ-Aγ-ψη-δ-β-3’で配置されている(Stamatoyannopoulosら(2001年)Hemoglobin Switching.、Stamatoyannopoulos Gら編、Molecular Basis of Blood Disorders、W.B. Saunders、Philadelphia、PA)。α様グロビン遺伝子クラスター(5’-ξ2-ψξ1-ψα2-ψα1-α2-α1-θ-3’)は、第16染色体の短腕のテロメアに非常に近い位置にあり、約40kbに及ぶ。これら2つの独立したクラスター内にコードされる遺伝子の発現は、赤血球系細胞に限定され、β-グロビン様鎖のアウトプットがα鎖のものと一致するように、バランスがとられる。この微調整されたバランスは、転写レベル、転写後レベルおよび翻訳後レベルで調節される。
【0091】
発生段階特異的発現は、いくつかの近位または遠位のシス作用性エレメントおよびそれらに結合する転写因子によって制御される。β-グロビン遺伝子(HBB)の場合、近位調節エレメントは、β-グロビンプロモーターおよび2つの下流エンハンサーを含み、一方のエンハンサーはβ-グロビンの2番目のイントロン中に位置し、他方のエンハンサーはこの遺伝子のおよそ800bp下流に位置する(Antoniouら、EMBO J.(1988年);7巻:377~384頁;Trudelら、Genes Dev.(1987年);1巻:954~961頁;Trudelら、Mol. Cell. Biol.(1987年);7巻:4024~4029頁)。最も卓越した遠位調節エレメントは、HBBの50~60kb上流に位置し、赤血球系細胞におけるDNaseIに対する増大した感受性を有するいくつかのサブ領域から構成される、β-グロビンLCRである(Forget(2001年);Grosveldら、Cell(1987年);51巻:975~985頁;Talbotら、Nature(1989年);338巻:352頁)。LCRの最も卓越した特性は、その強い転写増強活性である。第11染色体上のヒトβ-グロビン領域の例示的なヌクレオチド配列は、以下に提供される配列番号19(GenBank受託番号:NG_000007.3)に示される:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【0092】
5つの5’高感受性部位(HS)部位(HS1~HS5)および1つの3’HS部位が、ヒトβ-グロビンLCRにおいて同定されている(Stamatoyannopoulosら(2001年))。5’HS1~4は、Dnase I高感受性部位である。HS2およびHS3エレメントは、多くのグループが裏付けたように、LCR内の最も強力な単一のエレメントである(Ellisら、EMBO J.(1996年)、15巻:562~568頁;Collisら、EMBO J.(1990年)9巻:233~240頁)。トランスジェニックマウスにおいてβYACの環境においてHS2を欠失させることは、HS部位形成、および全ての発生段階における全てのヒトβ-グロビン遺伝子の発現に、大きく影響を与える(Bungertら、Mol. Cell Biol.(1999年);19巻:3062~3072頁)。HS2の欠失は、卵黄嚢由来赤血球における胚性εyおよびβhiグロビン遺伝子の発現を最小限に低減させたことが報告された(Leyら、Ann. N.Y. Acad. Sci.(1998年);850巻:45~53頁;Hugら、Mol. Cell Biol.(1996年);26巻:2906~2912頁)。HS2は、主にエンハンサーとして機能する。
【0093】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含む。非限定的な一例では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含む。ある特定の実施形態では、β-グロビンLCR領域内のHS2領域、HS3領域およびHS4領域は、隣接している。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域、HS3領域およびHS4領域から本質的になる。別の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域とHS4領域との間の接合部において、2つの導入されたGATA-1結合部位を含む。HS3領域は、HS2領域とHS4領域との間に存在し得る。HS2領域の長さおよび配列は、変動し得る。このHS2領域は、約400bp~約1000bp、例えば、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、または約900bp~約1000bpの長さを有し得る。非限定的な一実施形態では、このHS2領域は、860bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS2領域は、以下に提供される配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化23】
【0094】
ある特定の実施形態では、このHS2領域は、約840bpの長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS2領域は、約650bp(例えば、646bp)の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS2領域は、約420bp(例えば、423bp)の長さを有する。
【0095】
HS3領域の長さおよび配列は、変動し得る。このHS3領域は、約200bp~約1400bp、例えば、約200bp~約300bp、約300bp~約400bp、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、約900bp~約1000bp、約1000bp~約1100bp、約1100bp~約1200bp、約1200bp~約1300bp、または約1300bp~約1400bpの長さを有し得る。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、約1300bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、1308bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS3領域は、1301bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS3領域は、以下に提供される配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化24】
【0096】
ある特定の実施形態では、このHS3領域は、約850bp(例えば、845bp)の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS3領域は、約280bp~約290bp(例えば、280bpおよび287bp)の長さを有する。
【0097】
同様に、HS4領域の長さおよび配列は、変動し得る。このHS4領域は、約200bp~約1200bp、例えば、約200bp~約300bp、約300bp~約400bp、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、約900bp~約1000bp、約1000bp~約1100bp、または約1100bp~約1200bpの長さを有し得る。
【0098】
ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1.0kbまたはそれ超の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1.1kbの長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1150bp(例えば、1153bp)の長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、1065bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS4領域は、以下に提供される配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化25】
【0099】
非限定的な一例では、このHS4領域は、以下に提供される配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化26】
【0100】
ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約1.0kb未満、例えば、約900bp未満、約700bp未満、約600bp未満または約500bp未満の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約500bp未満の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約450bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS4領域は、約446bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS4領域は、以下に提供される配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化27】
【0101】
ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約280bp(例えば、283bp)の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS4領域は、約240bp(例えば、243bp)の長さを有する。
【0102】
ある特定の非限定的な実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号9、配列番号20または配列番号21に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域、および配列番号6、配列番号7または配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含む。
【0103】
非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、
図1に示すように、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含む。
【0104】
別の非限定的な実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域をさらに含む、即ち、β-グロビンLCR領域は、HS1領域、HS2領域、HS3領域およびHS4領域を含む。ある特定の実施形態では、β-グロビンLCR領域内のHS1領域、HS2領域、HS3領域およびHS4領域は、隣接している。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域、HS2領域、HS3領域およびHS4領域から本質的になる。別の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域とHS4領域との間の接合部において、2つの導入されたGATA-1結合部位を含む。
【0105】
HS1領域の長さおよび配列は、変動し得る。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約300bp~約1500bpの長さ、例えば、約300bp~約1100bpの長さである。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約1.0kbまたはそれ超、例えば、約1.1kb、約1.2kb、約1.3kb、約1.4kbまたは約1.5kbの長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約1.1kbの長さを有する。非限定的な一例では、このHS1領域は、1074bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS1領域は、以下に提供される配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化28】
【0106】
ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約1.0kb未満、例えば、約400bp~約700bp、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、または約900bp~約1.0kbの長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約700bp未満の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約600bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、602bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS1領域は、以下に提供される配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化29】
【0107】
ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約500bp未満の長さを有する。ある特定の実施形態では、このHS1領域は、約490bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、このHS1領域は、489bpの長さを有する。非限定的な一例では、このHS1領域は、以下に提供される配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化30】
【0108】
最近の研究により、HS2は赤血球系特異的ではないが、他の細胞株および系統において発現され(実施例3および
図7を参照のこと)、未分化のヒト胚性幹細胞中にも存在する(Changら、Stem cell reviews(2013年);9巻:397~407頁)ことが示されている。HS2の非赤血球系活性に起因して、HS2含有グロビンベクターは、例えば、サラセミアおよび鎌状赤血球患者を処置するための臨床的処置におけるそれらの安全な使用に対してリスクをもたらし得る。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2のコア配列を含まない。HS2のコア配列は、位置非依存的な高レベルの発現を提供する。さらに、HS2のコア配列は、HS2のエンハンサー活性を維持する。例えば、HS2のコア配列は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の転写を増強する。さらに、HS2のコア配列は、AP1ファミリーのタンパク質のメンバー(例えば、NF-E2)、GATA-1(「NF-E1」または「NFE1」としても公知)、クルッペル様Znフィンガータンパク質(例えば、遍在性タンパク質Sp1およびYY1、ならびに赤血球系限定的因子赤血球系クルッペル様因子(EKLF))および塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)タンパク質(Eボックス)(例えば、USFおよびTAL1)が含まれるがこれらに限定されない遍在性および組織特異的(例えば、赤血球系特異的)タンパク質(例えば、転写因子)に対する、1つまたは複数の結合部位または結合モチーフを含む。AP1結合部位は、増強および誘導のために必要とされる(MoiおよびKan(1990年);Neyら(1990年);TalbotおよびGrosveld(1991年))。さらに、NF-E2の結合は、HS2において、in vitroで再構成されたクロマチンの破壊を引き起こし得る(ArmstrongおよびEmerson(1996年))。GATA-1結合部位における変異は、トランスジェニックマウスにおいてHS2のエンハンサー活性の低減を引き起こし得る(Caterinaら(1994年))。AP1(例えば、AP1/NF-E2)結合部位およびGATA1結合部位の両方がコア機能にとって重要であるものの、これらの因子を欠くマウスは、障害されたグロビン遺伝子発現を示さない(Weissら、1994年)。
【0109】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2のコア配列の全長を含まない。ある特定の実施形態では、HS2領域のコア配列は、ヒトHS2のコア配列である。非限定的な一実施形態では、ヒトHS2のコア配列は、AP1ファミリーのタンパク質のメンバー(例えば、NF-E2)(「AP1/NF-E2」結合部位と呼ばれる)に対する結合部位のタンデム対(例えば、GCTGAGTCAおよびGATGAGTCA)、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位(例えば、AGGGTGTGT)、1つのGATA-1結合部位(例えば、CTATCT)、および3つのEボックス(CANNTG、例えば、CAGATGおよびCACCTG)を含む。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、以下に提供される配列番号20に示されるヌクレオチド配列を有する、ヒトHS2の388bpのコア配列の全長を含まない:
【化31】
【0110】
配列番号20に示されるヌクレオチド配列は、配列番号19(GenBank受託番号:NG_000007.3)のヌクレオチド16671位~17058位に対応する。配列番号20では、GCTGAGTCAのヌクレオチド配列を有する1つのAP1/NF-E2結合部位は、175位~183位に位置し、GATGAGTCAのヌクレオチド配列を有する1つのAP1/NF-E2結合部位は、185位~193位に位置し、AGGGTGTGTのヌクレオチド配列を有する、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位は、205位~213位に位置し、その各々がCAGATGのヌクレオチド配列を有する2つのEボックスは、217位~222位および278位~283位に位置し、CTATCTのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、246位~251位に位置し、CACCTGのヌクレオチド配列を有する1つのEボックスは、306位~311位に位置する。
【0111】
非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、以下に提供される配列番号21に示されるヌクレオチド配列を有する、ヒトHS2の387bpのコア配列の全長を含まない:
【化32】
【0112】
配列番号21では、GCTGAGTCAのヌクレオチド配列を有する1つのAP1/NF-E2結合部位は、175位~183位に位置し、GATGAGTCAのヌクレオチド配列を有する1つのAP1/NF-E2結合部位は、185位~193位に位置し、AGGGTGTGTのヌクレオチド配列を有する、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位は、204位~212位に位置し、その各々がCAGATGのヌクレオチド配列を有する2つのEボックスは、216位~221位および277位~282位に位置し、CTATCTのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、245位~250位に位置し、CACCTGのヌクレオチド配列を有する1つのEボックスは、305位~310位に位置する。
【0113】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2のコア配列を含むHS2領域を含まない。HS2のコア配列を含むHS2領域は、長さおよび配列が変動し得る。非限定的な例では、HS2のコア配列を含むHS2領域は、約400bp~約1000bp、例えば、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、または約900bp~約1000bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、840bpのHS2領域(例えば、米国特許第7,541,179号に開示されるグロビンベクターTNS9中に含まれるHS2領域)を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、860bpのHS2領域を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、約650bpのHS2領域を含まない。非限定的な一例では、このβ-グロビンLCR領域は、646bpのHS2領域(例えば、「β87」としても公知の、グロビンベクターLentiGlobin(商標)中に含まれるHS2領域)を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、約420bpのHS2領域を含まない。非限定的な一例では、このβ-グロビンLCR領域は、423bpのHS2領域(例えば、Sadelainら、Proc. Nat’l Acad. Sci. (USA)(1995年);92巻:6728~6732頁に開示されるグロビンベクター中に含まれるHS2領域)を含まない。
【0114】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2のエンハンサー活性を維持するHS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の転写を増強することが可能なHS2領域を含まない。非限定的な例では、このβ-グロビンLCR領域は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の転写を増強するその能力が、ネイティブHS2領域と比較して60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上であるHS2領域を含まない。
【0115】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、以下の結合部位のうち1、2、3、4、5、6または7つを含むHS2領域を含まない:2つの(タンデム対の)AP1/NF-E2結合部位(例えば、GCTGAGTCAおよびGATGAGTCA)、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位(例えば、AGGGTGTGT)、1つのGATA-1結合部位(例えば、CTATCT)、および3つのEボックス(CANNTG、例えば、CAGATGおよびCACCTG)。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、上記結合部位のうち6つを含むHS2領域を含まない。例えば、ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つのAP1/NF-E2結合部位、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位、1つのGATA-1結合部位、および3つではなく2つのEボックスを含むHS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つではなく1つのAP1/NF-E2結合部位、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位、1つのGATA-1結合部位、および3つのEボックスを含むHS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つのAP1/NF-E2結合部位、1つのGATA-1結合部位、および3つのEボックスを含み、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位を含まないHS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つのAP1/NF-E2結合部位、クルッペル様Znフィンガータンパク質に対する1つの結合部位、および3つのEボックスを含み、1つのGATA-1結合部位を含まないHS2領域を含まない。
【0116】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域、HS3領域およびHS4領域を含み、HS2領域を含まない。ある特定の実施形態では、β-グロビンLCR領域内のHS1領域、HS3領域およびHS4領域は、隣接している。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域、HS3領域およびHS4領域から本質的になる。別の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域とHS4領域との間の接合部において、2つの導入されたGATA-1結合部位を含む。このHS3領域は、HS1領域とHS4領域との間に存在し得る。
【0117】
ある特定の非限定的な実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号22または配列番号23に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域、および配列番号6、配列番号7または配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。
【0118】
非限定的な一実施形態では、
図2に示すように、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。
【0119】
非限定的な一実施形態では、
図3に示すように、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。
【0120】
非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有するHS1領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS2領域を含まない。
【0121】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域もHS2領域も含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1のコア配列を含まない。HS1のコア配列は、HS1の活性、例えばエンハンサー活性を維持し、または他のHS領域、例えばHS2~4のエンハンサー活性を係留するための促進因子もしくは調節エレメントとして機能する。さらに、HS1のコア配列は、GATA-1およびクルッペル様Znフィンガータンパク質(例えば、赤血球系限定的因子EKLF)が含まれるがこれらに限定されない遍在性および組織特異的(例えば、赤血球系特異的)タンパク質(例えば、転写因子)に対する、1つまたは複数の結合部位または結合モチーフを含む。
【0122】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1のコア配列の全長を含まない。ある特定の実施形態では、HS1領域のコア配列は、ヒトHS1のコア配列である。非限定的な一実施形態では、ヒトHS1のコア配列は、2つのGATA-1結合部位(例えば、TTATCTおよびCTATCA)、およびEKLFに対する1つの結合部位(例えば、CCACACACA)を含む。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、ヒトHS1の286bpのコア配列の全長を含まない。非限定的な一実施形態では、ヒトHS1の286bpのコア配列は、以下に提供される配列番号22に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化33】
【0123】
配列番号22では、TTATCTのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、173位~178位に位置し、CTATCAのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、210位~215位に位置し、CCACACACAのヌクレオチド配列を有する、EKLFに対する1つの結合部位は、183位~191位に位置する。
【0124】
別の非限定的な一実施形態では、ヒトHS1の286bpのコア配列は、以下に提供される配列番号23に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化34】
【0125】
配列番号23に示されるヌクレオチド配列は、配列番号19(GenBank受託番号:NG_000007.3)のヌクレオチド21481位~21766位に対応する。配列番号23では、TTATCTのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、173位~178位に位置し、CTATCAのヌクレオチド配列を有する1つのGATA-1結合部位は、210位~215位に位置し、CCACACACAのヌクレオチド配列を有する、EKLFに対する1つの結合部位は、183位~191位に位置する。
【0126】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1のコア配列を含むHS1領域を含まない。HS1のコア配列を含むHS1領域は、長さおよび配列が異なり得る。非限定的な例では、HS1のコア配列を含むHS1領域は、約300bp~約1200bp、例えば、約300bp~約400bp、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、約900bp~約1000bp、約1000bp~約1100bp、または約1100bp~約1200bpの長さである。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、約1.0kb bpのHS1領域を含まない。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、約1.1kbのHS1領域を含まない。
【0127】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS1の活性、例えばエンハンサー活性を維持し、または他のHS領域、例えばHS2~4のエンハンサー活性を係留するための促進因子もしくは調節エレメントとして機能するHS1領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の転写を増強することが可能なHS1領域を含まない。非限定的な例では、このβ-グロビンLCR領域は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の転写を増強するその能力が、ネイティブHS1領域と比較して60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上であるHS1領域を含まない。非限定的な例では、このβ-グロビンLCR領域は、HS2~HS4のうち1種または複数種のエンハンサー活性を係留するその能力が、ネイティブHS1領域と比較して60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上であるHS1領域を含まない。
【0128】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、以下の結合部位のうち1、2または3つを含むHS1領域を含まない:2つのGATA-1結合部位(例えば、TTATCTおよびCTATCA)、およびEKLFに対する1つの結合部位(例えば、CCACACACA)。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、上記結合部位のうち2つを含むHS1領域を含まない。例えば、ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つのGATA-1結合部位を含み、EKLFに対する1つの結合部位を含まないHS1領域を含まない。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、2つではなく1つのAP1/NF-E2結合部位およびEKLFに対する1つの結合部位を含むHS1領域を含まない。
【0129】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域およびHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域もHS2領域も含まない。ある特定の実施形態では、β-グロビンLCR領域内のHS3領域およびHS4領域は、隣接している。非限定的な一実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域およびHS4領域から本質的になる。別の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、HS3領域とHS4領域との間の接合部において、2つの導入されたGATA-1結合部位を含む。このHS3領域は、グロビン遺伝子またはその機能的部分とHS4領域との間に存在し得る。
【0130】
ある特定の実施形態では、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域、および配列番号6、配列番号7または配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域もHS2領域も含まない。
【0131】
非限定的な一実施形態では、
図4に示すように、このβ-グロビンLCR領域は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含み、このβ-グロビンLCR領域は、HS1領域もHS2領域も含まない。
【0132】
グロビン遺伝子
本明細書で開示される主題によれば、発現カセットは、グロビン遺伝子またはその機能的部分を含む。このグロビン遺伝子は、β-グロビン遺伝子、γ-グロビン遺伝子またはδ-グロビン遺伝子であり得る。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、ヒトβ-グロビン遺伝子を含む。本明細書で開示される主題によれば、このヒトβ-グロビン遺伝子は、野生型ヒトβ-グロビン遺伝子、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む、欠失したヒトβ-グロビン遺伝子、または少なくとも1つの抗鎌状化アミノ酸残基をコードする、変異したヒトβ-グロビン遺伝子であり得る。非限定的な一実施形態では、本明細書で開示される発現カセットは、野生型ヒトβ-グロビン遺伝子を含む。別の実施形態では、本明細書で開示される発現カセットは、コドン87におけるスレオニンからグルタミンへの変異をコードするヒトβA-グロビン遺伝子(βA-T87Q)を含む。ガンマ-グロビン鎖中の87位のグルタミン残基は、成人のベータ鎖の酸素結合特徴を保ちつつ、ベータ鎖と比較してガンマ鎖の抗鎌状化活性を増進する(Nagelら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1979年);76巻:670~672頁)。ある特定の実施形態では、グロビン遺伝子の機能的部分は、対応する野生型参照ポリヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の同一性を有する。
【0133】
プロモーターおよびエンハンサー
本明細書で開示される主題によれば、この発現カセットは、β-グロビンプロモーターをさらに含み得る。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、グロビン遺伝子またはその機能的部分とβ-グロビンLCR領域との間に置かれるる。このβ-グロビンプロモーターの長さおよび配列は、変動し得る。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約100bp~約1600bpの長さ、例えば、約200bp~約700bp、約100bp~約200bp、約200bp~約300bp、約300bp~約400bp、約400bp~約500bp、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、約800bp~約900bp、約900bp~約1000bp、約1000bp~約1100bp、約1100bp~約1200bp、約1200bp~約1300bp、約1300bp~約1400bp、約1400bp~約1500bp、または約1500bp~約1600bpの長さである。ある特定の実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約130bp、約613bp、約265bpまたは約1555bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである。一実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約613bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである。非限定的な一例では、このヒトβ-グロビンプロモーターは、以下に提供される配列番号10に示されるヌクレオチド配列を有する:
【化35】
【0134】
一実施形態では、このβ-グロビンプロモーターは、約265bpの長さであるヒトβ-グロビンプロモーターである。非限定的な一例では、このヒトβ-グロビンプロモーターは、配列番号11に示されるヌクレオチド配列を有する。
【化36】
【0135】
さらに、またはあるいは、本明細書で開示される発現カセットは、ヒトβ-グロビン3’エンハンサーをさらに含み得る。ある特定の実施形態では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、グロビン遺伝子またはその機能的部分の上流に置かれる。ある特定の実施形態では、このβ-グロビン3’エンハンサーは、約500bp~約1000bpの長さ、例えば、約500bp~約600bp、約600bp~約700bp、約700bp~約800bp、または約800bp~約900bpの長さである。一実施形態では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、約879bpの長さである。一例では、このヒトβ-グロビン3’エンハンサーは、配列番号12に示されるヌクレオチド配列を有する。
【化37】
【0136】
さらに、本明細書で開示される発現カセットは、少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーをさらに含み得る。本明細書で開示される発現カセットは、赤血球系特異的様式でのグロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)の発現を可能にする。この赤血球系特異的エンハンサーは、赤血球系特異的様式でのグロビン遺伝子の発現を増強し得る。例えば、この赤血球系特異的エンハンサーは、非赤血球系組織ではエンハンサー活性を欠く。特に、発現エンハンサーとして主に機能するHS2領域を欠くβ-グロビンLCR領域について、1つまたは複数の赤血球系特異的エンハンサーの付加は、HS2領域の増強活性を補償し得る。さらに、本明細書で開示される赤血球系特異的エンハンサーは、上記発現カセットを含むベクターの力価を減少も低減もさせない。この赤血球系特異的エンハンサーの長さは、例えば、約100bpから約200bpまで、約100bpから約120bpまで、約120bpから約140bpまで、約140bpから約200まで(例えば、約140bpから約150bpまで、約150bpから約160bpまで、約160bpから約170bpまで、約170bpから約180bpまで、約180bpから約190bpまで、または約190bpから約200bpまで)変動し得る。ある特定の実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、約140bp~約200bpの長さを有する。非限定的な一実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、以下に提供される配列番号13に示されるヌクレオチド配列を有する、152bpの長さを有する:
【化38】
【0137】
非限定的な一実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、以下に提供される配列番号14に示されるヌクレオチド配列を有する、157bpの長さを有する:
【化39】
【0138】
非限定的な一実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、以下に提供される配列番号15に示されるヌクレオチド配列を有する、141bpの長さを有する:
【化40】
【0139】
非限定的な一実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、以下に提供される配列番号16に示されるヌクレオチド配列を有する、171bpの長さを有する:
【化41】
【0140】
非限定的な一実施形態では、この赤血球系特異的エンハンサーは、以下に提供される配列番号17に示されるヌクレオチド配列を有する、195bpの長さを有する:
【化42】
【0141】
赤血球系特異的エンハンサーは、当該分野で公知の任意の適切な方法によって同定および決定され得る。これらの赤血球系特異的エンハンサーは、β-グロビンLCR領域の3’LTR(下流)または5’LTR(下流)に置かれ得る。一実施形態では、この少なくとも1つの赤血球系特異的エンハンサーは、β-グロビンLCR領域の5’LTR、例えば、HS3領域の上流に置かれる。上記発現カセットは、1、2、3、4または5つの赤血球系特異的エンハンサーを含み得る。一実施形態では、この発現カセットは、1つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。別の実施形態では、この発現カセットは、2つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。さらに別の実施形態では、この発現カセットは、3つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、4つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。非限定的な実施形態では、この発現カセットは、5つの赤血球系特異的エンハンサーを含む。
【0142】
インシュレーター
本明細書で開示される主題によれば、上記発現カセットは、上記インシュレーターのうち少なくとも1つを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で開示される発現カセットは、配列番号18に示されるCTCF結合部位配列を含むインシュレーター、例えば、それらに限定されないが、配列番号24または配列番号25を含むインシュレーター、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーター(即ち、インシュレーターA1)を少なくとも1つ含む。種々の非限定的な実施形態では、このインシュレーターは、一方もしくは両方のLTR中に、または細胞ゲノム中に組み込まれる本明細書で開示される発現カセットの領域中の他の場所に、取り込まれ得るまたは挿入され得る。一実施形態では、このインシュレーターは、発現カセットの3’末端に置かれる。一実施形態では、このインシュレーターは、発現カセットの5’末端に置かれる。一実施形態では、この発現カセットは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを2つ含み、一方のインシュレーターは、発現カセットの3’末端に置かれ、他方のインシュレーターは、発現カセットの5’末端に置かれる。
【0143】
本明細書で開示されるインシュレーターは、強力なエンハンサー遮断活性を有する。ある特定の実施形態では、これらのインシュレーターは、エンハンサー遮断活性に加えて、バリア活性を有する。本明細書で開示されるインシュレーターは、ウイルスベクターと関連する挿入性変異誘発および遺伝子毒性のリスクを実質的に減少させる。さらに、本明細書で開示されるインシュレーターがベクター中に取り込まれる場合、このインシュレーターは、ベクターのベクター力価に悪影響を与えない。ある特定の実施形態では、これらのインシュレーター(例えば、インシュレーターA1)は、グロビン遺伝子またはその機能的部分のin vivo発現を増加させる。
【0144】
限定ではなく例示の目的で、
図1~4は、本明細書で開示される主題のある特定の実施形態に従う例示的な発現カセットを含む組換えベクターを示す。
図1は、860bpのHS2領域(例えば、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するもの)、1301bpのHS3領域(例えば、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するもの)および1065bpのHS4領域(例えば、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するもの)を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したヒトβ
A-T87Qグロビン遺伝子を含む本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターを示す。
【0145】
図2は、本明細書で開示される主題の一実施形態に従う発現カセットを含む1つの例示的な組換えベクターを示す。
図2は、1.1kbのHS1領域(例えば、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有するもの)、1301bpのHS3領域(例えば、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するもの)および1065bpのHS4領域(例えば、配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するもの)を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したヒトβ
A-T87Qグロビン遺伝子を含む本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターを示す。
【0146】
図3は、本明細書で開示される主題の一実施形態に従う発現カセットを含む1つの例示的な組換えベクターを示す。
図3は、602bpのHS1領域(例えば、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有するもの)、1301bpのHS3領域(例えば、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するもの)および446bpのHS4領域(例えば、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するもの)を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したヒトβ
A-T87Qグロビン遺伝子を含む本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターを示す。
【0147】
図4は、本明細書で開示される主題の一実施形態に従う発現カセットを含む1つの例示的な組換えベクターを示す。
図4は、1301bpのHS3領域(例えば、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するもの)および1065bpのHS4領域(例えば、配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するもの)を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したヒトβ
A-T87Qグロビン遺伝子を含む本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターを示す。
図4に示される発現カセットは、以下の5つの赤血球系特異的エンハンサー(
図4中で「EE5」と示される)もまた含む:配列番号13に示されるヌクレオチド配列を有する1つの赤血球系特異的エンハンサー、配列番号14に示されるヌクレオチド配列を有する1つの赤血球系特異的エンハンサー、配列番号15に示されるヌクレオチド配列を有する1つの赤血球系特異的エンハンサー、配列番号16に示されるヌクレオチド配列を有する1つの赤血球系特異的エンハンサー、および配列番号17に示されるヌクレオチド配列を有する1つの赤血球系特異的エンハンサー。
【0148】
図1~4に示すように、これらの発現カセットの各々は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーター(即ち、インシュレーターA1)を含む。さらに、
図1~4に示すように、これらの発現カセットの各々は、ヒトβ-グロビン遺伝子の上流に置かれた、879bpのヒトβ-グロビン3’エンハンサーを含む。さらに、
図1~4に示すように、これらの組換えベクターの各々は、ベクターの3’長末端反復(LTR)中(例えば、3’LTR中のR領域に対して3’側)にウッドチャック肝炎ポスト調節エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。
【0149】
III.ベクター、ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系
本明細書で開示される主題は、上記発現カセットを含むベクターおよび送達系(例えば、天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系)を提供する。これらのベクターおよび送達系は、細胞においてグロビンタンパク質(ヒトβ-グロビンタンパク質)の発現を増加させるための、広範囲の標的細胞のゲノム中へのグロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン)の安定な導入に適切な送達ビヒクルである。
【0150】
ある特定の実施形態では、上記ベクターは、宿主細胞(例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞または造血内皮細胞)のゲノム中への上記発現カセットの導入または形質導入に使用されるレトロウイルスベクター(例えば、ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルス)である。ある特定の実施形態では、このレトロウイルスベクターは、上記インシュレーターのうち1つ、例えば、インシュレーターA1を含む発現カセットを含む。このインシュレーターは、発現カセットの3’末端または5’末端に置かれ得る。一実施形態では、このインシュレーターは、発現カセットの3’末端に置かれる。逆転写およびベクター組込みの間に、3’末端に置かれたインシュレーターは、発現カセットの5’末端へとコピーされる。得られたトポロジーは、組み込まれたウイルスの5’LTRおよび3’LTRに位置するゲノム領域間にインシュレーターのコピー、ならびに、5’LTRからのエンハンサー活性および内部パッケージプロモーターを配置するが、3’LTR中にエンハンサーを含まない。このトポロジーは、遺伝子毒性を減少させ得、それによって、動物の腫瘍形成の減少および生存の増加を生じさせる。
【0151】
ある特定の実施形態では、上記組換えベクターは、ベクターの3’長末端反復(LTR)中(例えば、ベクターの3’LTR中のR領域に対して3’側)に、ウッドチャック肝炎ポスト調節エレメント(WPRE)をさらに含む。ある特定の実施形態では、この組換えベクターは、ベクターの3’長末端反復(LTR)中(例えば、ベクターの3’LTR中のR領域に対して3’側)に、WPREに加えて、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルをさらに含む。治療的グロビンベクターの本質的な特性は、患者細胞の有効な形質導入に十分な高い力価を達成することである。遺伝子、プロモーター、エンハンサーおよび/またはLCRエレメントを含むそれらの大きいカーゴのおかげで、グロビンレンチウイルスベクターは、それらの製造を困難にし、それらの臨床的使用を限定する、低い力価を固有に有する。この問題は、ベクターのサイズをさらに増加させるインシュレーターなどのさらなるゲノムエレメントの取込みによって、さらに複雑にする。WPREは、組換えベクターの力価を増加させ得る。WPREへのウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルの付加は、組換えベクターの力価をさらに増加させ得る。ある特定の実施形態では、WPREおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルは、発現カセット内に含まれず、したがって、組換えベクターで形質導入された細胞に移入されない。グロビンレンチウイルスベクターの産生を増強するためのこれらのエレメントの取込みは、より高い力価を得るため、したがって、本出願に記載されるベクターの臨床的有用性のために重要である。
【0152】
非限定的な一例では、本明細書で開示される発現カセットは、レトロウイルスベクター中にクローニングされ得、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、または代替的内部プロモーターから、駆動され得る。レトロウイルスベクターおよび適切なパッケージング株の組合せもまた適切であり、ここで、カプシドタンパク質は、ヒト細胞に感染するのに機能的である。PA12(Millerら(1985年)Mol. Cell. Biol. 5巻:431~437頁);PA317(Millerら(1986年)Mol. Cell. Biol. 6巻:2895~2902頁);およびCRIP(Danosら(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85巻:6460~6464頁)が含まれるがこれらに限定されない、種々のアンホトロピックウイルス産生細胞株が公知である。非アンホトロピック粒子、例えば、VSVG、RD114またはGALVエンベロープで偽型粒子、および当該分野で公知の任意の他のものもまた、適切である。
【0153】
形質導入の適切な方法には、例えば、Bregniら(1992年)Blood 80巻:1418~1422頁の方法による、細胞と産生細胞との直接的共培養、または例えば、Xuら(1994年)Exp. Hemat. 22巻:223~230頁;およびHughesら(1992年)J. Clin. Invest. 89巻:1817頁の方法による、適切な成長因子およびポリカチオンありもしくはなしの、ウイルス上清単独もしくは濃縮ベクターストックとの培養もまた含まれる。
【0154】
形質導入ウイルスベクターは、宿主細胞(例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞)においてグロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)を発現させるために使用され得る。好ましくは、選択されたベクターは、高効率の感染ならびに安定な組込みおよび発現を示す(例えば、Cayouetteら、Human Gene Therapy(1997年);8巻:423~430頁;Kidoら、Current Eye Research(1996年);15巻:833~844頁;Bloomerら、Journal of Virology(1997年);71巻:6641~6649頁;Naldiniら、Science(1996年);272巻:263 267頁;およびMiyoshiら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94巻:10319頁、1997年を参照のこと)。使用され得る他のウイルスベクターには、例えば、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、またはヘルペスウイルス、例えば、エプスタイン・バーウイルスが含まれる(例えば、Miller、Human Gene Therapy(1990年);15~14頁;Friedman、Science(1989年);244巻:1275~1281頁;Eglitisら、BioTechniques 6巻:608~614頁、1988年;Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology(1990年);1巻:55~61頁;Sharp、The Lancet(1991年);337巻:1277~1278頁;Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology(1987年)36巻:311~322頁;Anderson、Science(1984年);226巻:401~409頁;Moen、Blood Cells(1991年);17巻:407~416頁;Millerら、Biotechnology(1989年);7巻:980~990頁;Le Gal La Salleら、Science(1993年);259巻:988~990頁;およびJohnson、Chest(1995年);107巻:77S~83S頁のベクターもまた参照のこと)。レトロウイルスベクターは、特に十分に開発されており、臨床状況において使用されている(Rosenbergら、N. Engl. J. Med(1990年);323巻:370頁;Andersonら、米国特許第5,399,346号)。
【0155】
効率的送達および組込みの要求は、レトロウイルスベクターを、本明細書で開示される発現カセットを形質導入するのに適切なものにする。レトロウイルスベクターは、レトロウイルス科の3つの属由来であり得る:γ-レトロウイルス(C型マウスレトロウイルスまたはオンコレトロウイルスとしても公知)、レンチウイルスおよびスプーマウイルス(泡沫状ウイルスとしても公知)。複製欠損レトロウイルス粒子の生成のための分子アプローチを詳述するいくつかの総説が、入手可能である(Cornettaら(2005年);CockrellおよびKafri(2007年))。治療的導入遺伝子またはcDNAをコードするベクターはそれ自体、パッケージング細胞株におけるウイルス粒子のパッケージング、逆転写および組込みを可能にするために必要な最小限のウイルス配列を保持する。このパッケージング細胞は、形質導入された細胞におけるその逆転写および組込みに必要なベクター配列ならびに機構を含有する感染性組換え粒子をアセンブルするために必要とされる必要な構造タンパク質および酵素を発現する。
【0156】
全てのレトロウイルスベクター型の製造態様は、同じ一般原則に従うが、γ-レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびスプーマウイルスベクターは、それらの固有の生物学的特性の一部が異なる。プロトタイプのマウス白血病ウイルス(MLV)を含むガンマ-レトロウイルスは、多くの細胞型に有効に感染するが、感染直後にS期に進行しない細胞中では組み込まれることができない。対照的に、レンチウイルスおよびそれらのベクター誘導体は、核に移動し、細胞分裂の非存在下で組み込まれるそれらの能力(LewisおよびEmerman、1994年;Goff、2001年)に起因して、非分裂細胞を形質導入できる(FollenziおよびNaldini、2002年;SalmonおよびTrono、2002年)。レンチウイルスベクターの別の基本的属性は、MLVベースのグロビンベクターのゲノム不安定性(Leboulchら、1994年;Sadelainら、1995年)とは対照的に、グロビンレンチウイルスベクターについて確立されたような(Mayら、2000年)、それらの相対的なゲノム安定性である。レンチウイルスおよび泡沫状ベクターは、より大きいパッケージング能力をさらに提供する(Kumarら、2001年;Rethwilm、2007年)。3つ全てのベクター型が、サイトカイン活性化HSCの形質導入のために、首尾よく使用されてきた(Miyoshiら、1999年;Josephsonら、2002年;Leursら、2003年)。
【0157】
これら3つのベクター系は、それらの組込みパターンが異なる。レトロウイルスの組込みパターンは、半ランダムであり、全ての組込み事象のおよそ3分の2において、遺伝子およびそれらの近傍に向かって偏っている(Schroderら、2002年;Wuら、2003年;Mitchellら、2004年;De Palmaら、2005年;Trobridgeら、2006年)。しかし、それらの正確な分布には、僅かな、おそらくは有意な差異が存在する。ガンマ-レトロウイルスは、転写される遺伝子の上流に組み込まれる性向を有するが、レンチウイルスおよびレンチウイルスベクターは、転写される遺伝子配列全体を標的化する。泡沫状ベクターは、遺伝子内組込みの傾向が低いようである(Trobridgeら、2006年)。一実施形態では、発現カセットを含むベクターは、レンチウイルスベクターである。これらのベクターは、ヒト免疫不全-1(HIV-1)、ヒト免疫不全-2(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジェンブラナ病(Jembrana Disease)ウイルス(JDV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)などに由来し得る。非限定的な一実施形態では、このレンチウイルスベクターは、HIVベクターである。HIVベースの構築物は、ヒト細胞の形質導入において最も効率的である。
【0158】
ベクター組込みの半ランダムパターンは、ベクターが近隣の癌遺伝子をトランス活性化する場合、挿入発癌のリスクに患者を曝す。これは、クローン増殖(clonal expansion)(Ottら、2006年;Cavazzana-Calvoら、2010年)、脊髄形成異常症(Steinら、2010年)または白血病(Hacein-Bey-Abinaら、2003年、2008年;Howeら、2008年)を生じさせ得る。天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼ(ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、メガヌクレアーゼ、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が含まれるがこれらに限定されない)またはCRISPR-Cas系を利用する、標的化された遺伝子送達戦略は、レトロウイルスベクターの使用に固有の挿入発癌の懸念を低減またはさらには排除し得る。
【0159】
真核生物細胞は、DNA二本鎖切断(DSB)に応答して、2つの別個のDNA修復機構(repair mechanism)を利用する:相同組換え(HR)および非相同末端結合(NHEJ)。HR修復機構(repair machinery)の活性化は、細胞周期状態に依存し、これは、S期およびG2期に限定される;対照的に、NHEJ経路は、細胞周期を通じて活性である。機構的に、HRは、損傷したDNA鎖を修復するために相同な鋳型を必要とするので、誤りのないDNA修復機構である。他方、NHEJは、DNA切断部位における挿入または欠失をもたらす修復の間のDNA末端プロセシングに起因して、不正確な鋳型非依存的修復機構である(MoynahanおよびJasin、2010年)。その相同性ベースの機構に起因して、HRは、異なる種のゲノムを部位特異的に操作するためのツールとして使用されてきた。治療的観点から、HRは、変異した遺伝子を修復するために首尾よく使用されており、したがって、一遺伝子疾患の細胞媒介性処置のための有望なアプローチを提供する(Porteusら、2006年)。
【0160】
HRによる遺伝子標的化は、目的の導入遺伝子/標的部位に隣接する2つの相同性アームの使用を必要とする。一般に、標準的なプラスミドDNAは、陽性選択および陰性選択のための導入遺伝子と共に、5~10kbの相同性アームを送達するために使用されてきた。この方法は、マウス胚性幹(mES)細胞において遺伝子をノックアウト/ノックインするために一般に使用されている(Capecchi、2005年;
図2B)。ヒト細胞では、このアプローチの使用は、mES細胞中よりも低い、治療的に実用的でない、10
-6のオーダーの効率での遺伝子標的化を可能にしてきた。HR効率は、特異的希少切断エンドヌクレアーゼを使用した標的部位におけるDNA二本鎖切断(DSB)の導入によって増加され得、正確な遺伝子標的化における1,000倍を超える増加を生じる(Jasin、1996年)。この現象の発見は、異なる種のゲノムにおいて部位特異的DSBを作り出すための方法の開発を促進した。種々のキメラ酵素、即ち、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼおよび転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が、過去十年にわたって、この目的のために設計されてきた。
【0161】
ZFNは、ZFベースのDNA結合ドメイン(DBD)およびFokIヌクレアーゼドメインを含有するモジュラーキメラタンパク質である(PorteusおよびCarroll、2005年)。DBDは通常、3つのZFドメインから構成され、これらは各々、3塩基対の特異性を有する;FokIヌクレアーゼドメインは、2つの隣接するZFNによって標的化されるDNAニック形成活性を提供する。DBDのモジュラー性質に起因して、ゲノム中の任意の部位が、原理上標的化され得る。しかし、単一のZFNがDNAに結合でき、DNAにニック形成できるので、挿入/欠失を導入し得るまたは非特異的様式で標的化ベクターを組込み得るNHEJ経路の活性化を生じる、高い数のオフターゲット(off-target)効果の潜在性が存在する。真正(Obligate)FokIドメインであって、それらがヘテロダイマーを形成する場合にのみそのそれぞれのDNA鎖にニック形成し得る真正FokIドメインが、最近報告された(Doyonら、2011年)。かかる真正ZFNの使用は、このアプローチの遺伝毒性効果を低減させ得る。
【0162】
メガヌクレアーゼ(MN)/ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)は、真核生物ゲノムにおいて、大きいDNA部位(14~40bp)を認識し、それを低い切断頻度で切断するdsDNAヌクレアーゼである(PaquesおよびDuchateau、2007年)。これは、潜在的標的部位を制限するが、MN-DNA構造は、MN特異性を変化させるためにDNA相互作用性残基を特異的に改変するためのガイドとして使用されてきた(Marcaidaら、2010年)。I-CreIは、ヒトXPC遺伝子およびRAG1遺伝子を標的化するキメラメガヌクレアーゼを生成するように首尾よく操作されており、これらは、明白な遺伝子毒性なしに哺乳動物細胞においてHR活性を刺激することが示されている(Redondoら、2008年;Grizotら、2009年)。このアプローチの遺伝子毒性は、ZFNおよびTALEヌクレアーゼのものと比較される必要がある。
【0163】
TALENは、植物病原性細菌によって使用される病原性因子である転写アクチベーター様エフェクター(effcetor)(TALE)にDBDが由来することを除いて、類似のZFNである(Herbers、1992年)。TALE DBDは、モジュラーであり、34残基リピートから構成され、そのDNA特異性は、リピートの数および順序によって決定される(Herbers、1992年)。各リピートは、2つの残基だけを介して、標的配列中の単一のヌクレオチドを結合する(Boch、2011年)。ZFNテクノロジーを上回る利点は、DBDの迅速な構築である。
【0164】
いくつかの研究が、それらの標的部位において遺伝子付加または遺伝子修復のいずれかのためにHRを刺激するために、これらのキメラ酵素を使用してきた(PaquesおよびDuchateau、2007年;Urnovら、2010年)。Porteusは、鎌状赤血球変異ヌクレオチドを取り囲むヒトHBB由来の半分の部位の配列に対するZFNを設計した(Porteus、2006年)。このZFNは、この配列を標的化し、Zif268結合部位を標的化するZFNと組み合わせた場合、キメラDNA標的におけるHRを刺激する。臍帯血CD34+細胞中の遺伝子を標的化することにおいて、最近進歩があった。ZFNを送達するための非組込みレンチウイルスおよびこれらの細胞においてCCR5遺伝子を標的化するためのドナーDNAの使用は、Lombardoら、2007年に報告された。Lombardoら、2007年は、陽性選択された細胞の80%における正確な標的化で、この遺伝子座における遺伝子付加を示した。
【0165】
本明細書で開示される主題は、上記のような、本明細書で開示される発現カセットを含む天然に存在しないまたは操作されたヌクレアーゼを提供する。適切なヌクレアーゼには、ZFN、メガヌクレアーゼおよびTALENが含まれるがこれらに限定されない。本明細書で開示されるヌクレアーゼは、DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼ切断ドメインを含む。ヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、最適な配列、例えば所定の部位に結合するように操作され得る。操作されたDNA結合ドメインは、天然に存在するヌクレアーゼと比較して、異なる結合特異性を有し得る。操作方法には、合理的設計および種々の型の選択が含まれるがこれらに限定されない。任意の適切な切断ドメインが、ヌクレアーゼを形成するために、DNA結合ドメインに作用的に連結され得る。例えば、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメインは、その操作されたZFP DNA結合ドメインを介してその意図した核酸標的を認識でき、ヌクレアーゼ活性を介してZFP結合部位の近傍でDNAが切断されるようにする機能的実体-ZFNを作り出すために、ヌクレアーゼ切断ドメインに融合され得る。例えば、Kimら、Proc Nat’l Acad Sci USA(1996年);93巻(3号):1156~1160頁を参照のこと。同様に、TALE DNA結合ドメインは、TALENを作り出すために、ヌクレアーゼ切断ドメインに融合され得る。例えば、米国特許出願公開第20110301073号を参照のこと。
【0166】
この切断ドメインは、DNA結合ドメイン、例えばメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン、および異なるヌクレアーゼ由来の切断ドメインにとって異種であり得る。異種切断ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから取得され得る。切断ドメインが由来し得る例示的なエンドヌクレアーゼには、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが含まれるがこれらに限定されない。例えば、2002~2003年 Catalog、New England Biolabs、Beverly、Mass.;およびBelfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25巻:3379~3388頁を参照のこと。DNAを切断するさらなる酵素が公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ;マングビーンヌクレアーゼ;膵DNase I;小球菌ヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linnら(編)Nucleases、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1993年もまた参照のこと)。これらの酵素(またはその機能的領域)のうち1つまたは複数が、切断ドメインおよび切断ハーフドメインの供給源として使用され得る。
【0167】
同様に、切断ハーフドメインは、切断活性のためにダイマー化を必要とする上記ヌクレアーゼ由来であり得る。一般に、2つの融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合、該融合タンパク質が切断のために必要とされる。あるいは、2つの切断ハーフドメインを含む単一のタンパク質が使用され得る。2つの切断ハーフドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的部分)由来であり得、または各切断ハーフドメインは、異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的部分)由来であり得る。
【0168】
ある特定の実施形態では、上記ヌクレアーゼは、上記インシュレーターを2つ、例えば、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するインシュレーターを2つ含む発現カセットを含む。2つのインシュレーターのうち一方は、発現カセットの3’末端に置かれ、他方のインシュレーターは、発現カセットの5’末端に置かれる。
【0169】
本明細書で開示される主題は、上記発現カセットを含む天然に存在しないまたは操作された(engineer)CRISPR-Cas系もまた提供する。CRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列)-Cas(CRISPR関連)系は、ゲノム操作のために使用され得る、細菌系に基づく操作されたヌクレアーゼ系である。これは、多くの細菌および古細菌の適応免疫応答の一部に基づく。ウイルスまたはプラスミドが細菌に侵入するとき、侵入者のDNAのセグメントは、「免疫」応答によってCRISPR RNA(crRNA)に変換される。次いで、crRNAは、部分的相補性の領域を介して、tracrRNAと呼ばれる別の型のRNAと会合し、「プロトスペーサー」と呼ばれる、標的DNA中のcrRNAに対して相同な領域へと、CRISPR-Casヌクレアーゼをガイドする。このCRISPR-Casヌクレアーゼは、DNAを切断して、crRNA転写物内に含有される20ヌクレオチドのガイド配列によって特定される部位のDSBにおいて、平滑末端を生成する。このCRISPR-Casヌクレアーゼは、部位特異的なDNAの認識および切断のために、crRNAおよびtracrRNAの両方を必要とする。この系は、crRNAおよびtracrRNAが1つの分子(「シングルガイドRNA」)へと組み合わされ得るように操作されている;シングルガイドRNAのcrRNA相当部分は、任意の所望の配列を標的とするようにCRISPR-Casヌクレアーゼをガイドするように操作され得る(Jinekら、Science(2012年);337巻:816~821頁を参照のこと)。したがって、このCRISPR-Cas系は、ゲノム中の所望の標的においてDSBを作り出すように操作され得る。ある特定の実施形態では、このCRISPR-Cas系は、CRISPR-CasヌクレアーゼおよびシングルガイドRNAを含む。CRISPR-Casヌクレアーゼの適切な例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2.Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変されたバージョンが含まれるがこれらに限定されない。これらのCRISPR-Casヌクレアーゼは公知である;例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、受託番号Q99ZW2の下でSwissProtデータベース中に見出され得る。一部の実施形態では、このCRISPR-Casヌクレアーゼは、Cas9など、DNA切断活性を有する。ある特定の実施形態では、このCRISPR-CasヌクレアーゼはCas9である。このCRISPR-Casヌクレアーゼは、標的配列(例えば、ゲノムセーフハーバー部位)の位置において、一方または両方の鎖の切断を誘導し得る。さらに、このCRISPR-Casヌクレアーゼは、標的配列の最初のまたは最後のヌクレオチドから、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500塩基対またはそれ超以内での、一方または両方の鎖の切断を誘導し得る。
【0170】
本明細書で開示されるヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系は、発現カセットの標的化された送達を可能にする。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるCRISPR-Cas系または本明細書で開示されるヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、ゲノムセーフハーバー部位に結合する。ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系は、このゲノムセーフハーバー部位において二本鎖切断を引き起こす。ゲノムセーフハーバー部位は、宿主細胞または生物に対する有害作用なしに、新たに組込まれたDNAの予測可能な発現を提供することができる、ヒトゲノムの遺伝子内または遺伝子外領域である。有用なセーフハーバーは、ベクターにコードされたタンパク質または非コードRNAの所望のレベルを得るために十分な導入遺伝子発現を可能にしなければならない。ゲノムセーフハーバー部位はまた、細胞に悪性形質転換が生じ易くさせることも、細胞機能を変更することもあってはならない。ゲノムセーフハーバー部位を同定するための方法は、それらの全体が参照によって組み込まれる、Sadelainら、「Safe Harbours for the integration of new DNA in the human genome」、Nature Reviews(2012年);12巻:51~58頁;Papapetrouら、「Genomic safe harbors permit high β-globin transgene expression in thalassemia induced pluripotent stem cells」Nat Biotechnol.(2011年)1月;29巻(1号):73~8頁に記載されている。本明細書で開示されるゲノムセーフハーバー部位は、以下の5つの判定基準:(1)任意の遺伝子の5’末端から(例えば、その遺伝子の5’末端から)少なくとも50kbの距離、(ii)任意のがん関連遺伝子から少なくとも300kbの距離、(iii)開いた/アクセス可能なクロマチン構造内(天然のまたは操作されたヌクレアーゼによるDNA切断によって測定される)、(iv)遺伝子転写単位の外側の位置、および(v)ヒトゲノムの超保存領域(UCR)、microRNAまたは長い非コードRNAの外側の位置のうち1つまたは複数(1、2、3、4または5つ)を満たす。最も一般的な挿入発癌事象は、近隣の腫瘍促進遺伝子のトランス活性化であるので、最初の2つの判定基準は、遺伝子、特に、ヒトがんに機能的に関与する遺伝子またはモデル生物におけるがんに関与する遺伝子のヒトホモログであるがん関連遺伝子のプロモーター近傍に位置するヒトゲノムの部分を排除する。miRNAは、細胞の増殖および分化を含む多くの細胞プロセスの調節に関与するので、miRNA遺伝子に対する近接は、1つの排除判定基準である。転写単位内でのベクター組込みは、腫瘍サプレッサー遺伝子の機能喪失または異常にスプライシングされた遺伝子産物の生成を介して遺伝子機能を破壊し得るので、4番目(iv)の判定基準は、転写される遺伝子の内部に位置する全ての部位を排除する。複数の脊椎動物にわたって高度に保存され、エンハンサーおよびエクソンについて富化されていることが公知の領域であるUCR、ならびに長い非コードRNAもまた、排除される。ある特定の実施形態では、このゲノムセーフハーバー部位は、遺伝子外のゲノムセーフハーバー部位である。ある特定の実施形態では、このゲノムセーフハーバー部位は、第1染色体上に位置する。
【0171】
本明細書で開示される主題は、上記ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、上記ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、上記CRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチド、および上記CRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチドを含むベクターもまた提供する。
【0172】
ヌクレアーゼおよびこれらのヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびにCRISPR-Cas系およびこのCRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチドは、任意の適切な手段によって、in vivoまたはex vivoで送達され得る。例えば、本明細書に記載されるヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系は、ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチドを含むベクターによって、細胞(例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞または造血内皮細胞)に送達され得る。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター(例えば、γ-レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよび泡沫状ウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクターおよびアデノ随伴(adena-associated)ウイルスベクターなどが含まれるがこれらに限定されない任意のベクターが、使用され得る。一実施形態では、上記ヌクレアーゼまたは上記CRISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、レンチウイルスベクターである。特定の一実施形態では、このレンチウイルスベクターは、非組込みレンチウイルスベクターである。非組込みレンチウイルスベクターの例は、Oryら(1996年)Proc. Natl. A cad. Sci. USA 93巻:11382~11388頁;Dullら(1998年)J. Viral.72巻:8463~8471頁;Zufferyら(1998年)J. Viral. 72巻:9873~9880頁;Follenziら(2000年)Nature Genetics 25巻:217~222頁;米国特許出願公開第2009/054985号に記載されている。
【0173】
さらに、非ウイルスアプローチもまた、細胞におけるグロビン遺伝子の発現のために使用され得る。例えば、核酸分子は、リポフェクションの存在下で核酸を投与すること(Feignerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84巻:7413頁、1987年;Onoら、Neuroscience Letters 17巻:259頁、1990年;Brighamら、Am. J. Med. Sci. 298巻:278頁、1989年;Staubingerら、Methods in Enzymology 101巻:512頁、1983年)、アシアロオロソムコイド-ポリリシンコンジュゲート化(Wuら、Journal of Biological Chemistry 263巻:14621頁、1988年;Wuら、Journal of Biological Chemistry 264巻:16985頁、1989年)または手術条件下でのマイクロインジェクション(Wolffら、Science 247巻:1465頁、1990年)によって、細胞中に導入され得る。遺伝子移入のための他の非ウイルス手段には、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーションおよびプロトプラスト融合を使用した、in vitroでのトランスフェクションが含まれる。リポソームもまた、細胞中へのDNAの送達のために潜在的に有益であり得る。被験体の罹患組織中への正常遺伝子の移植は、培養可能な(cultivatable)細胞型(例えば、自家もしくは異種の初代細胞またはその後代)中にex vivoで正常核酸を移入させることによって達成され得、その後、その細胞(またはその子孫)が、標的組織中に注射される、または全身的に注射される。組換え受容体はまた、トランスポザーゼを使用して、誘導または取得され得る。一過的発現は、RNAエレクトロポレーションによって得られ得る。
【0174】
IV.細胞
細胞(例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞および造血内皮細胞)の遺伝子改変は、実質的に均質な細胞組成物を、組換えDNAまたはRNA構築物(例えば、上記発現カセットを含むベクターまたは送達系)で形質導入することによって、達成され得る。本明細書で開示される主題は、「形質導入された細胞」と総称される、上記発現カセットで形質導入された細胞、上記ベクターで形質導入された細胞、および上記ヌクレアーゼで、またはこれらのヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質導入された細胞、および上記CARISPR-Cas系で、またはこのCARISPR-Cas系をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質導入された細胞、を提供する。上記のように、ベクター、ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系は、グロビン遺伝子(例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子)を発現させるための、細胞への発現カセットの形質導入のために使用される。ある特定の実施形態では、これらの形質導入された細胞は、造血の疾患、障害または状態を処置および/または予防するために、被験体に投与される。本明細書で開示されるインシュレーターは、細胞への発現カセットの形質導入の効率を増強し得る。
【0175】
適切な形質導入された細胞には、幹細胞、前駆体細胞および分化した細胞が含まれるがこれらに限定されない。本明細書で使用する場合、用語「前駆体」または「前駆体細胞」とは、自己再生し、より成熟した細胞へと分化する能力を有する細胞を指す。前駆体細胞は、多能性および複能性幹細胞と比較して低い能力を有する。多くの前駆体細胞が、単一の系統に沿って分化するが、極めて広範な増殖能も有し得る。
【0176】
ある特定の実施形態では、上記形質導入された細胞は、幹細胞である。幹細胞は、特定の生物学的ニッチにin vivoで投与された場合、適切な細胞型へと分化する能力を有する。幹細胞は、(1)長期自己再生、または元の細胞の少なくとも1つの同一コピーを生成する能力、(2)単一細胞レベルでの、複数の特殊化した細胞型、一部の場合には1つだけの特殊化した細胞型への分化、および(3)組織のin vivoでの機能的再生、が可能な未分化細胞である。幹細胞は、それらの発生潜在力に従って、全能性、多能性、複能性および少能性(oligopotent)/単能性として、下位分類される。本明細書で使用する場合、用語「多能性」とは、身体または細胞体の全ての系統を形成する細胞の能力(即ち、胚本体)を意味する。例えば、胚性幹細胞は、3つの胚葉、外胚葉、中胚葉および内胚葉の各々由来の細胞を形成できる、多能性幹細胞の型である。本明細書で使用する場合、用語「複能性」とは、1つの系統の複数の細胞型を形成する、成体幹細胞の能力を指す。例えば、造血幹細胞は、血球系統、例えば、リンパ系細胞および骨髄系細胞の全ての細胞を形成することが可能である。
【0177】
ある特定の実施形態では、上記形質導入された細胞は、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯幹細胞、胎盤幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、肝臓幹細胞、膵幹細胞、心幹細胞、腎臓幹細胞および/または造血幹細胞である。一実施形態では、上記形質導入された細胞は、造血幹細胞(HSC)である。HSCは、生物の生涯にわたって成熟血球の全レパートリーを生成することが可能な関与する造血前駆体細胞(HPC)を生じる。用語「造血幹細胞」または「HSC」とは、骨髄系系統(例えば、単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)およびリンパ系系統(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞)を含む、生物の全ての血球型を生じる複能性幹細胞を指す。致死的に放射線照射された動物またはヒト中に移植した場合、造血幹細胞および前駆体細胞は、赤血球系、好中球-マクロファージ、巨核球およびリンパ系造血細胞プールを再配置させ得る。
【0178】
HSCは、骨髄、臍帯血または末梢血から単離または収集され得る。HSCは、特定の表現型または遺伝子型マーカーに従って同定され得る。例えば、HSCは、それらの小さいサイズ、系統(lin)マーカーの欠如、生体色素、例えばローダミン123(rhodamineDULL、rholoとも呼ばれる)またはHoechst 33342による低い染色(サイドポピュレーション)、およびそれらの表面上での、その多くが表面抗原分類シリーズに属する(例えば、CD34、CD38、CD90、CD133、CD105、CD45、Terl19、およびc-kit、幹細胞因子に対する受容体)種々の抗原性マーカーの存在、によって同定され得る。一実施形態では、上記形質導入された細胞は、CD34+HSCである。
【0179】
一実施形態では、上記形質導入された細胞は、胚性幹細胞である。別の実施形態では、この形質導入された細胞は、人工多能性幹細胞である。さらに別の実施形態では、この形質導入された細胞は、造血内皮細胞である。
【0180】
HSCは、長期造血発生を回復させるための天然のビヒクルであるが、それらの使用は、いくつかの重要な制限を有する。第1は、それらの相対的な欠乏であり、これは、回収された細胞生成物が小さすぎる場合に、自家HSC治療を最終的に妨げ得る。第2は、バイオセイフティー試験、例えば、組込み部位分析を実施すること、および結果として、選択された組込み部位を有する細胞を選択することの困難さであり、それは、成体HSCが、in vitroでは複製できないからである。第3の制限は、現行のテクノロジーを使用する相同組換えが、実際的には不可能であり、したがって、遺伝子修正の到来を損なうことである。これらの制限は全て、成体HSCが、それらの幹細胞の能力を喪失することなしにin vitroで増殖させることができないという事実に最終的に起因する。これらの制限は、安定な遺伝子移入を達成するにあたり顕著に迅速かつ効率的なウイルスベクター、例えば、ガンマレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターの決定的な重要性を説明する。これは、限定的な量でしか利用可能でないHSCを扱う場合に重要である。
【0181】
グロビン遺伝子治療のためのESおよび人工多能性幹(iPS)細胞の使用は、Moiら、Haematol、2008年3月1日;93巻(3号):325~330頁に開示されている。胚性幹(ES)細胞は、多分化能を喪失することのない制限のないin vitro細胞分裂を必要とする遺伝子標的化および遺伝子修正を受けやすい。Changら、Proc Natl Acad Sci USA 2006年;103巻:1036~40頁は、鎌状赤血球貧血を有するマウスにおける相同組換えアプローチの実現可能性の原理の証拠を提供した。Takahashiら Cell 2006年;126巻:663~76頁は、胚性幹様状態への線維芽細胞の首尾よい再プログラミングを報告した。人工多能性幹(iPS)細胞と呼ばれる、この逆分化プロセスによって取得された細胞は、胚性幹細胞中で生理学的に活性であるが、分化が進行したときには一般にオフになる4つの転写因子をコードするガンマレトロウイルスベクターに、胚性または若年成体バルク線維芽細胞培養物を曝露させることによって、生成された。これらの培養細胞は、ES細胞コロニーと類似のコロニーを形成した。これらの知見は、マウスおよびヒトの両方の線維芽細胞について、他の研究者らによって確認および拡大されている(Meissnerら、Nat Biotechnol 2007年;25巻:1177~81頁;Nakagawaら、Nat Biotechnol 2007年;26巻:101~6頁;Okitaら、Nature 2007年;448巻:313~7頁;Parkら、Nature 2007年;451巻:141~6頁;Takahashiら、Nat Protoc 2007年;2巻:3081~9頁;Takahashi Kら、Cell 2007年;131巻:861~72頁;Wernigら、Nature 2007年;448巻:318~24頁;Yu Jら、Science 2007年;318巻:1917~20頁)。Rudolf Jaenischおよび共同研究者らは、ES様iPS細胞における相同組換えを使用して、鎌状赤血球症のマウスモデルにおいて首尾よい遺伝子治療を達成した(Hannaら、Science 2007年;318巻:1920~3頁)。このプロセスは、これまで、皮膚生検から回収された線維芽細胞に主に適用されており、これらは次いで、4つの幹細胞転写因子をコードするレトロウイルスベクターによる形質導入によって、iPSになるように誘導される。iPSは、標準的な相同組換え技術によるSC変異の修正に従順であり、次いで、制限されない量の造血幹細胞へと、in vitroで分化され得る。プロセス全体は、そのSC疾患がこれから治癒される元のマウスドナー中への修正されたHSCの自家移植で終わる。この技術は、相同組換えに有用なだけではなく、詳細な組込み部位分析および細胞をレシピエント中に注入する前の適切なin vitro細胞増殖を実施するための手段を提供することによって、β-サラセミアの処置のためのレンチウイルス媒介性のグロビン遺伝子移入を増強することもできる。
【0182】
本明細書で開示される主題の細胞は、自家(「自己」)または非自家(「非自己」、例えば、同種、同系または異種間(xenogeneic))であり得る。本明細書で使用する場合、「自家」とは、同じ被験体由来の細胞を指す。本明細書で使用する場合、「同種」とは、比較される細胞とは遺伝学的に異なる同じ種の細胞を指す。本明細書で使用する場合、「同系」とは、比較される細胞と遺伝学的に同一である異なる被験体の細胞を指す。本明細書で使用する場合、「異種間」とは、比較される細胞とは異なる種の細胞を指す。ある特定の実施形態では、細胞は自家であり、例えば、本明細書で開示される発現カセットで形質導入された細胞が、細胞が被験体から収集されるその被験体に投与され、例えば、細胞は、被験体の骨髄、臍帯血、末梢血および/または脂肪組織から収集される。ある特定の実施形態では、この細胞は、被験体の骨髄から取得または収集される。
【0183】
ある特定の実施形態では、発現カセットによる形質導入の前に、細胞は、例えば、1種もしくは複数種のサイトカイン(例えば、IL-3、IL-1α、IL-6、Kitリガンド(「幹細胞因子(SCF)」としても公知)およびFlt-3リガンド)および/または1種もしくは複数種の糖タンパク質(例えば、トロンボポエチンおよびフィブロネクチン)の存在下で事前刺激される。非限定的な一例では、この細胞は、Flt-3リガンド、SCF、トロンボポエチン、インターロイキン-3およびフィブロネクチンの存在下で事前刺激される。この細胞は、約24時間またはそれよりも長く、例えば、約48時間または約36時間にわたって事前刺激され得る。引き続いて、この細胞は、本明細書で開示される発現カセット、またはかかる発現カセットを含むベクターもしくは別の送達系で形質導入される。形質導入は、新鮮な細胞に対してまたは凍結細胞に対して実施され得る。細胞のゲノムDNAは、例えば、サザンブロット分析および/または定量的PCRによって、ベクターコピー数を決定し、組込み部位または組み込まれたベクター構造を分析するために、単離される。グロビンmRNAの定量(例えば、ヒトβ-グロビン導入遺伝子分析)のために、総RNAが、細胞から抽出される。定量的プライマー伸長アッセイが、グロビンmRNAの定量に使用され得る。
【0184】
V.組成物および製剤
本明細書で開示される主題は、上述された本明細書で開示される形質導入された細胞および薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物を提供する。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容されるキャリア」には、薬学的に許容される細胞培養培地を含む、生理学的に適合性である、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容されるキャリアは、非経口(例えば、静脈内、筋内、皮下または腹腔内)、脊髄または表皮投与(例えば、注射、注入またはインプランテーションによる)に適切であり得る。投与の経路に依存して、活性化合物、例えば形質導入された細胞は、その化合物を不活性化し得る酸および他の天然の条件の作用からその化合物を保護するための材料でコーティングされ得る。
【0185】
薬学的に許容されるキャリアには、滅菌水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の即座の調製のための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体および作用物質(agent)の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体または作用物質が形質導入された細胞と不適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物におけるそれらの使用が企図される。
【0186】
本明細書で開示される主題の医薬組成物は、単独で、または治療の1つもしくは複数の他のモダリティと組み合わせてのいずれかで、細胞または動物への投与のための薬学的に許容されるまたは生理学的に許容される溶液中に製剤化された、本明細書に記載される1種または複数種のポリペプチド、ポリヌクレオチド、それを含むベクター、形質導入された細胞などをさらに含み得る。所望の場合、本明細書で開示される主題の医薬組成物は、サイトカイン、成長因子、ホルモン、小分子または種々の薬学的に活性な作用物質が含まれるがこれらに限定されない他の作用物質と組み合わせて投与され得る。意図した遺伝子治療を送達する組成物の能力に悪影響を与えない任意のさらなる作用物質が、組成物中に含められ得る。
【0187】
本明細書で開示される主題の医薬組成物では、薬学的に許容される賦形剤およびキャリア溶液の製剤化は、例えば、経口、非経口、静脈内、鼻腔内および筋内の投与および製剤を含む種々の処置レジメンにおいて本明細書に記載される特定の組成物を使用するための適切な投薬レジメンおよび処置レジメンの開発と同様、当業者に周知である。
【0188】
本明細書で開示される主題の医薬組成物は、例えば、米国特許第5,543,158号;米国特許第5,641,515号および米国特許第5,399,363号に記載されるように、非経口(例えば、静脈内、筋内または腹腔内)で送達され得る。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散物は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中、ならびに油中でも、調製され得る。貯蔵および使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための防腐剤を含む。
【0189】
薬学的に許容されるキャリアには、滅菌水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の即座の調製のための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体および作用物質の使用は、当該分野で公知である。任意の従来の媒体または作用物質が活性化合物と不適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物におけるそれらの使用が企図される。補足的な活性化合物もまた、これらの組成物中に組み入れられ得る。
【0190】
治療的組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。この組成物は、高い薬物濃度に適切な溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または他の秩序だった構造物として製剤化され得る。薬学的に許容されるキャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散物の場合に必要とされる粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期にわたる吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによって、もたらされ得る。
【0191】
本明細書で開示される主題の医薬組成物は、選択されたpHへと緩衝化され得る、無菌の液体調製物、例えば、等張水性溶液、懸濁物、エマルジョン、分散物または粘稠性組成物として、慣習的に提供され得る。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘稠性組成物および固体組成物よりも、調製が容易である。さらに、液体組成物は、特に注射によって投与するのに、いくらかより簡便である。他方、粘稠性組成物は、特定の組織とのより長い接触期間を提供するために、適切な粘度範囲内で製剤化され得る。液体または粘稠性組成物は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であり得るキャリアを含み得る。
【0192】
無菌の注射可能な溶液は、所望に応じて、必要な量の適切な溶媒中に、本明細書で開示される主題の組成物を、種々の量の他の成分と共に組み入れることによって、調製され得る。かかる組成物は、適切なキャリア、希釈剤または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどとの混合物中であり得る。これらの組成物はまた、凍結乾燥され得る。これらの組成物は、所望される投与の経路および調製物に依存して、補助的物質、例えば、湿潤剤、分散剤または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化添加剤または粘度増強性添加剤、防腐剤、香味剤、色素などを含み得る。参照によって本明細書に組み込まれる「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE」、第17版、1985年などの標準的な教科書が、過度の実験なしに適切な調製物を調製するために、調べられ得る。
【0193】
抗菌防腐剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝剤が含まれる、組成物の安定性および無菌性を増強する種々の添加剤が、添加され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって確実にされ得る。注射可能な医薬品形態の長期にわたる吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム(alum inurn monostearate)およびゼラチンの使用によって、もたらされ得る。
【0194】
これらの組成物は、等張であり得る、即ち、血液および涙液と同じ浸透圧を有し得る。本明細書で開示される主題の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム、あるいは他の薬学的に許容される作用物質、例えば、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコールまたは他の無機もしくは有機の溶質を使用して達成され得る。塩化ナトリウムが、特に、ナトリウムイオンを含む緩衝液にとって好ましい。
【0195】
水性溶液での非経口投与のために、例えば、この溶液は、必要な場合適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤が、十分な食塩水またはグルコースで最初に等張にされる。無菌の注射可能な溶液は、上に列挙された成分のうち1つまたはそれらの組合せと共に、適切な溶媒中に必要とされる量で活性化合物を組み入れ、必要に応じてその後精密濾過滅菌することによって、調製され得る。一般に、分散物は、基本的分散媒および上で列挙したものからの必要とされる他の成分を含む無菌ビヒクル中に、活性化合物を取り込むことによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、活性成分プラス以前に無菌濾過されたその溶液由来の任意のさらなる所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)である。
【0196】
ある特定の実施形態では、上記組成物は、鼻腔内スプレー、吸入および/または他のエアロゾル送達ビヒクルによって送達され得る。経鼻エアロゾルスプレーを介して、遺伝子、ポリヌクレオチドおよびペプチド組成物を肺に直接送達するための方法は、例えば、米国特許第5,756,353号および米国特許第5,804,212号に記載されている。リゾホスファチジル-グリセロール化合物を使用して薬物を送達する方法は、例えば、米国特許第5,725,871号に記載されている。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroetheylene)支持体マトリックスの形態での経粘膜薬物送達は、例えば、米国特許第5,780,045号に記載されている。本明細書で開示される主題の組成物は、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、ナノ粒子などのいずれかに被包して、送達のために製剤化され得る。かかる送達ビヒクルの製剤化および使用は、公知の従来の技術を使用して実施され得る。本明細書で開示される主題の製剤および組成物は、単独で、または治療の1つもしくは複数の他のモダリティと組み合わせてのいずれかで、細胞または動物への投与のための薬学的に許容されるまたは生理学的に許容される溶液(例えば、培養培地)で製剤化された、本明細書に記載される、任意の数のポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび小分子の組合せを含む、1種または複数種のリプレッサーおよび/またはアクチベーターを含み得る。
【0197】
ある特定の態様では、本明細書で開示される主題は、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)ベクターが含まれるがこれらに限定されないウイルスベクター系の送達(即ち、ウイルス媒介性形質導入)に適した製剤または組成物を提供する。ex vivo送達のための例示的な製剤は、当該分野で公知の種々のトランスフェクション剤、例えばリン酸カルシウム、エレクトロポレーション、熱ショックおよび種々のリポソーム製剤(即ち、脂質媒介性トランスフェクション)の使用もまた含み得る。リポソームは、水性流体の一部(fraction)を封入する脂質二重層である。DNAは、カチオン性リポソームの外部表面と(その電荷によって)自発的に会合し、これらのリポソームは、細胞膜と相互作用する。
【0198】
当業者は、本明細書で開示される主題の組成物中の、および本明細書で開示される主題の方法において投与される、細胞ならびに任意選択の添加剤、ビヒクルおよび/またはキャリアの量を、容易に決定できる。典型的には、任意の添加剤(形質導入された細胞(複数可)および/または作用物質(複数可)に加えて)は、リン酸緩衝食塩水中に、約0.001重量%~約50重量%)溶液の量で存在し、活性成分は、マイクログラムからミリグラムのオーダー、例えば、約0.0001wt%~約5wt%、約0.0001wt%~約1wt%、約0.0001wt%~約0.05wt%、約0.001wt%~約20wt%、約0.01wt%~約10wt%、または約0.05wt%~約5wt%で存在する。動物またはヒトに投与される任意の組成物のために、および投与の任意の特定の方法のために、毒性は、例えば、適切な動物モデル、例えば、マウスなどのげっ歯類における致死用量(LD)およびLD50;ならびに適切な応答を惹起する、組成物(複数可)の投薬量、その中の構成要素の濃度、および組成物(複数可)の投与のタイミングを決定することによって、決定すべきである。かかる決定は、当業者の知識、本開示および本明細書で引用された文書から、過度の実験を必要としない。そして、逐次的投与のための時間は、過度の実験なしに確認され得る。
【0199】
VI.使用および方法
本明細書で開示される発現カセットを含むベクターおよび他の送達系(ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系)は、遺伝子治療の改善された方法を提供する。本明細書で使用する場合、用語「遺伝子治療」とは、遺伝子および/または遺伝子の発現を回復、修正または改変する、細胞のゲノム中へのポリヌクレオチドの導入を指す。種々の非限定的な実施形態では、本明細書で開示されるベクターまたは他の送達系(例えば、ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系)は、造血系の疾患、障害もしくは状態を有すると診断された被験体またはそれを有する疑いがある被験体に、治癒的、予防的または軽減的利益を提供する、グロビンタンパク質(例えば、ヒトβグロビンタンパク質)をコードするグロビン遺伝子またはその機能的部分を含む発現カセットを含む。このベクターまたは他の送達系(例えば、ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系)は、細胞を、in vivo、ex vivoまたはin vitroで感染および形質導入することができる。ex vivoおよびin vitroの実施形態では、形質導入された細胞は、次いで、治療を必要とする被験体に投与され得る。本明細書で開示される主題は、本明細書で開示される主題のベクターおよび他の送達系(例えば、ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系)、ウイルス粒子、ならびに形質導入された細胞が、被験体における造血系の疾患、障害または状態、例えばヘモグロビン異常症を処置、予防および/または軽減させるために使用されることを企図する。
【0200】
本明細書で使用する場合、用語「ヘモグロビン異常症」または「ヘモグロビン異常症状態」には、血液中の異常なヘモグロビン分子の存在が関与する任意の障害が含まれる。ヘモグロビン異常症の例には、ヘモグロビンC病、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血およびサラセミアが含まれたがこれらに限定されない。異常なヘモグロビンの組合せが血液中に存在するヘモグロビン異常症(例えば、鎌状赤血球/Hb-C病)もまた含まれる。
【0201】
本明細書で使用する場合、「サラセミア」とは、ヘモグロビンを欠損して産生することを特徴とする遺伝性障害を指す。サラセミアの例には、α-サラセミアおよびβ-サラセミアが含まれる。β-サラセミアは、ベータグロビン鎖における変異によって引き起こされ、重症型または軽症型形態(major or minor form)で生じ得る。重症型形態のβ-サラセミアでは、小児は誕生時には正常であるが、人生の1年目の間に貧血を発症する。軽度形態のβ-サラセミアは、小さい赤血球を生成し、これらのサラセミアは、グロビン鎖からの遺伝子(単数または複数)の欠失によって引き起こされる。α-サラセミアは、典型的には、HBA1遺伝子およびHBA2遺伝子が関与する欠失から生じる。これらの遺伝子は両方とも、ヘモグロビンの構成要素(サブユニット)であるα-グロビンをコードする。各細胞ゲノム中には、2コピーのHBA1遺伝子および2コピーのHBA2遺伝子が存在する。結果として、α-グロビンを産生する4つの対立遺伝子が存在する。異なる型のサラセミアは、これらの対立遺伝子の一部または全ての喪失から生じる。最も重症形態のサラセミアである、Hb Bart症候群は、4つ全てのα-グロビン対立遺伝子の喪失から生じる。HbH病は、4つの[アルファ]-グロビン対立遺伝子のうち3つの喪失によって引き起こされる。これら2つの状態では、[アルファ]-グロビンの不足は、細胞が正常ヘモグロビンを作製することを防止する。その代り、細胞は、ヘモグロビンBart(Hb Bart)またはヘモグロビンH(HbH)と呼ばれる、異常な形態のヘモグロビンを産生する。これらの異常なヘモグロビン分子は、身体の組織へ酸素を有効に運搬することができない。正常ヘモグロビンのHb BartまたはHbHへの置換は、貧血、およびサラセミアと関連する他の重篤な健康問題を引き起こす。
【0202】
本明細書で使用する場合、用語「鎌状赤血球症」とは、グロビン遺伝子における変異から生じ、異常な硬直した鎌状形状をとる赤血球を特徴とする、常染色体劣性の遺伝的血液障害の群を指す。これらは、グルタミン酸がペプチドのアミノ酸6位においてバリンによって置換されたβ-グロビン鎖バリアントをコードするβS-遺伝子、および臨床的表現型をもたらすHbSの結晶化を可能にする変異を有する第2のβ-遺伝子の存在によって定義される。本明細書で使用する場合、用語「鎌状赤血球貧血」とは、HbSを引き起こす変異についてホモ接合性である患者における、鎌状赤血球症の特定の形態を指す。他の一般的な形態の鎌状赤血球症には、HbS/β-サラセミア、HbS/HbCおよびHbS/HbDが含まれる。
【0203】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示される主題の遺伝子治療方法は、ヘモグロビンC病、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β-サラセミア、重症型サラセミア、中間型サラセミア、α-サラセミアおよびヘモグロビンH病からなる群から選択されるヘモグロビン異常症を処置、予防または軽減させるために使用される。非限定的な実施形態では、このヘモグロビン異常症は、β-サラセミアである。別の非限定的な一実施形態では、このヘモグロビン異常症は、鎌状赤血球貧血である。
【0204】
種々の非限定的な実施形態では、本明細書で開示される発現カセットを含むベクターまたは他の送達系(例えば、ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系)は、遺伝子治療を必要とする被験体の細胞、組織または臓器へのin vivoでの直接注射によって投与される。種々の他の実施形態では、細胞は、本明細書で開示される主題のベクターまたは他の送達系(例えば、ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系)でin vitroまたはex vivoで形質導入され、任意選択でex vivoで増殖される。次いで、形質導入された細胞、例えば、本明細書に開示される医薬製剤内の該細胞が、遺伝子治療を必要とする被験体に投与される。
【0205】
本明細書で開示される主題は、形質導入された細胞を被験体に提供する方法を提供する。種々の非限定的な実施形態では、この方法は、本明細書で開示される発現カセットまたはかかる発現カセットを含むベクターもしくは別の送達系(例えば、ヌクレアーゼもしくはCRISPR-Cas系)で形質導入された1個または複数の細胞(細胞の集団)を、被験体に(例えば、非経口)投与するステップを含む。
【0206】
本明細書で開示される主題は、被験体においてヘモグロビン異常症を処置する方法を提供する。種々の非限定的な実施形態では、この方法は、本明細書で開示される形質導入された細胞または本明細書で開示される形質導入された細胞(例えば、HSC、胚性幹細胞またはiPSC)の集団の有効量を被験体に投与するステップを含む。
【0207】
処置のために、投与される量は、所望の効果を生じるのに有効な量である。有効量は、1回の投与または一連の投与で提供され得る。有効量は、ボーラスで、または持続的灌流によって、提供され得る。「有効量」(または「治療有効量」)は、処置の際に、有益なまたは所望の臨床結果を及ぼすのに十分な量である。有効量は、1または複数の用量で被験体に投与され得る。処置に関して、有効量は、疾患の進行を寛解、軽減、安定化、逆転もしくは緩徐化させるのに、または他の方法で疾患の病理学的結果を低減させるのに十分な量である。有効量は、一般に、ケースバイケースで医師によって決定され、当業者の技術範囲内である。いくつかの因子が、有効量を達成するための適切な投薬量を決定する場合に、典型的には考慮される。これらの因子には、被験体の年齢、性別および体重、処置されている状態、状態の重症度、ならびに投与される免疫応答性細胞の形態および有効濃度が含まれる。
【0208】
非限定的な一例では、本明細書で開示される形質導入された細胞のうち1種または複数種の投与の後、被験体の末梢血が収集され、ヘモグロビンレベルが測定される。治療的に適切なレベルのヘモグロビンが、本明細書で開示される形質導入された細胞のうち1種または複数種の投与の後に産生される。治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、(1)貧血を改善または修正するため、(2)正常ヘモグロビンを含む赤血球を生成する被験体の能力を回復させるため、(3)被験体において効果のない赤血球生成を修正するため、(4)髄外造血発生(例えば、脾および肝での髄外造血発生)を修正するため、ならびに/または(5)例えば、末梢組織および臓器における鉄蓄積を低減させるために十分なヘモグロビンのレベルである。治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、少なくとも約7g/dLのHb、少なくとも約7.5g/dLのHb、少なくとも約8g/dLのHb、少なくとも約8.5g/dLのHb、少なくとも約9g/dLのHb、少なくとも約9.5g/dLのHb、少なくとも約10g/dLのHb、少なくとも約10.5g/dLのHb、少なくとも約11g/dLのHb、少なくとも約11.5g/dLのHb、少なくとも約12g/dLのHb、少なくとも約12.5g/dLのHb、少なくとも約13g/dLのHb、少なくとも約13.5g/dLのHb、少なくとも約14g/dLのHb、少なくとも約14.5g/dLのHb、または少なくとも約15g/dLのHbであり得る。さらに、またはあるいは、治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、約7g/dLのHb~約7.5g/dLのHb、約7.5g/dLのHb~約8g/dLのHb、約8g/dLのHb~約8.5g/dLのHb、約8.5g/dLのHb~約9g/dLのHb、約9g/dLのHb~約9.5g/dLのHb、約9.5g/dLのHb~約10g/dLのHb、約10g/dLのHb~約10.5g/dLのHb、約10.5g/dLのHb~約11g/dLのHb、約11g/dLのHb~約11.5g/dLのHb、約11.5g/dLのHb~約12g/dLのHb、約12g/dLのHb~約12.5g/dLのHb、約12.5g/dLのHb~約13g/dLのHb、約13g/dLのHb~約13.5g/dLのHb、約13.5g/dLのHb~約14g/dLのHb、約14g/dLのHb~約14.5g/dLのHb、約14.5g/dLのHb~約15g/dLのHb、約7g/dLのHb~約8g/dLのHb、約8g/dLのHb~約9g/dLのHb、約9g/dLのHb~約10g/dLのHb、約10g/dLのHb~約11g/dLのHb、約11g/dLのHb~約12g/dLのHb、約12g/dLのHb~約13g/dLのHb、約13g/dLのHb~約14g/dLのHb、約14g/dLのHb~約15g/dLのHb、約7g/dLのHb~約9g/dLのHb、約9g/dLのHb~約11g/dLのHb、約11g/dLのHb~約13g/dLのHb、または約13g/dLのHb~約15g/dLのHbであり得る。ある特定の実施形態では、治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約12ヶ月間(または1年間)、少なくとも約24ヶ月間(または2年間)にわたって被験体において維持される。ある特定の実施形態では、治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、最大約6ヶ月間、最大約12ヶ月間(または1年間)、最大約24ヶ月間(または2年間)にわたって被験体において維持される。ある特定の実施形態では、治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、約6ヶ月間、約12ヶ月間(または1年間)、約24ヶ月間(または2年間)にわたって被験体において維持される。ある特定の実施形態では、治療的に適切なレベルのヘモグロビンは、約6ヶ月間~約12ヶ月間(例えば、約6ヶ月間~約8ヶ月間、約8ヶ月間~約10ヶ月間、約10ヶ月間~約12ヶ月間)、約12ヶ月間~約18ヶ月間(例えば、約12ヶ月間~約14ヶ月間、約14ヶ月間~約16ヶ月間、または約16ヶ月間~約18ヶ月間)、または約18ヶ月間~約24ヶ月間(例えば、約18ヶ月間~約20ヶ月間、約20ヶ月間~約22ヶ月間、または約22ヶ月間~約24ヶ月間)にわたって被験体において維持される。
【0209】
ある特定の実施形態では、この方法は、上述された本明細書で開示される発現カセットを含む組換えベクターで形質導入された1種または複数種の細胞を投与するステップを含む。被験体において治療的に適切なレベル(例えば、9~10g/dL)のヘモグロビンを提供する、細胞中の組換えベクターのベクターコピー数は、細胞1個当たり約0.5~約2、約0.5~約1、または約1~約2ベクターコピー数である。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるベクターのベクターコピー数は、細胞1個当たり約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9または約2.0ベクターコピー数である。
【0210】
ある特定の実施形態では、上記被験体は、ヒト白血球抗原(HLA)が適合したドナーを欠く。ある特定の実施形態では、上記形質導入された細胞は、同じ被験体由来である。一実施形態では、この形質導入された細胞は、同じ被験体の骨髄由来である。したがって、形質導入された細胞の投与は、被験体において移植片対宿主病のリスクをきたさない。この方法は、移植片拒絶を予防するための免疫抑制を必要とせず、例えば、この方法は、被験体に免疫抑制剤を投与するステップを含まない。
【0211】
本明細書で開示される主題は、被験体において、白血球(white blood cell)または白血球(leukocyte)と比較して、赤血球(red blood cell)または赤血球(erythrocyte)の割合を増加させる方法もまた提供する。種々の非限定的な実施形態では、この方法は、本明細書で開示される形質導入された細胞または本明細書で開示される形質導入された細胞(例えば、HSC、胚性幹細胞またはiPSC)の集団の有効量を被験体に投与するステップを含み、ここで、造血幹細胞の赤血球後代細胞の割合は、被験体において、造血幹細胞の白血球後代細胞と比較して増加する。
【0212】
任意の特定の理論に束縛されることは望まないが、本明細書で開示される主題の発現カセット、ベクターおよび他の送達系(例えば、ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系)、組成物ならびに方法によって提供される重要な利点は、既存の方法と比較して、より低い百分率の形質導入された細胞を含む細胞の集団を投与することによって達成され得る、高い効力のグロビン遺伝子治療である。これは、形質導入された細胞における細胞遺伝子の有害な変異、形質転換または癌遺伝子活性化の低減された機会と関連する、重要な安全性の利点を提供する。形質導入された細胞は、骨髄切除治療を受けたまたは受けていない個体において、骨髄または臍帯血移植の一部として投与され得る。
【0213】
本明細書に記載される発現カセットで形質導入された本明細書で開示される細胞(「形質導入された細胞」)の治療的使用に関する1つの考慮事項は、最適な効果を達成するために必要な細胞の量である。投与される形質導入された細胞の量は、処置されている被験体によって変動する。一実施形態では、約1×104~約1×105細胞/kg、約1×105~約1×106細胞/kg、約1×106~約1×107細胞/kg、約1×107~約1×108細胞/kg、約1×108~約1×109細胞/kg、または約1×109~約1×1010細胞/kgの本明細書で開示される形質導入された細胞が、被験体に投与される。より有効な細胞は、さらに少ない数で投与され得る。一部の実施形態では、少なくとも約1×108細胞/kg、少なくとも約2×108細胞/kg、少なくとも約3×108細胞/kg、少なくとも約4×108細胞/kg、または少なくとも約5×108細胞/kgの本明細書で開示される形質導入された細胞が、被験体に投与される。有効な用量とみなされるものの正確な決定は、特定の被験体の大きさ、年齢、性別、体重および状態を含む、各被験体にとって個別の因子に基づき得る。投薬量は、本開示および当該分野の知識から、当業者が容易に確認でき得る。
【0214】
種々の実施形態では、本明細書で開示される主題の発現カセット、ベクターおよび他の送達系(ヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas系)、組成物ならびに方法は、ex vivo遺伝子治療を使用する遺伝子治療および自家移植の改善された方法を提供する。発現カセットで形質導入された細胞の、またはヘモグロビン異常症を有する被験体中への移植は、疾患の長期修正を生じる。
【0215】
1種または複数種の本明細書で開示される形質導入された細胞は、非経口投与(例えば、筋内投与、静脈内投与、皮下投与または腹腔内投与)、脊髄投与および表皮投与が含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の任意の方法によって投与され得る。非限定的な一実施形態では、1種または複数種の形質導入された細胞が、被験体に静脈内送達される。1種または複数種の本明細書で開示される形質導入された細胞は、注射、注入またはインプランテーションによって投与され得る。非限定的な一実施形態では、1種または複数種の形質導入された細胞は、注射によって投与される。別の非限定的な実施形態では、1種または複数種の形質導入された細胞は、静脈内注射によって投与される。
【0216】
上記被験体は、進行形態の疾患を有し得、この場合、処置目標には、疾患進行の緩和もしくは逆転、および/または副作用の軽減が含まれ得る。これらの被験体は、それに対して被験体が既に処置された状態の病歴を有し得、この場合、治療目標には、典型的には、再発のリスクにおける減少または遅延が含まれる。
【0217】
VII.キット
本明細書で開示される主題は、ヘモグロビン異常症の処置または予防のためのキットを提供する。一実施形態では、このキットは、単位剤形中に、本明細書で開示される発現カセットで形質導入された細胞の有効量を含む、治療的または予防的組成物を含む。非限定的な一実施形態では、このキットは、本明細書に開示される1つまたは複数の発現カセットを含む。ある特定の実施形態では、このキットは、本明細書に開示される発現カセットを含む1種または複数種のベクターを含む。一部の実施形態では、このキットは、箱、アンプル、ビン、バイアル、チューブ、バッグ、パウチ、ブリスターパック、または当該分野で公知の他の適切な容器形態であり得る、無菌容器を含む。かかる容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、または医薬を保持するのに適切な他の材料で作製され得る。
【0218】
所望の場合、上記形質導入された細胞は、ヘモグロビン異常症を有する被験体またはヘモグロビン異常症を発症するリスクがある被験体にこの細胞を投与するための指示と一緒に提供される。これらの指示は、ヘモグロビン異常症の処置または予防のための組成物の使用に関する情報を一般に含む。他の実施形態では、これらの指示は、以下のうち少なくとも1つを含む:治療剤の説明;ヘモグロビン異常症またはその症状の処置または予防のための投薬スケジュールおよび投与;基本的注意;警告;適応症;対抗適応症(counter-indication);過量服薬情報;有害反応;動物薬理学;臨床研究;および/または参考文献。あるいはまたはさらに、このキットは、1つまたは複数の発現カセットおよび/またはかかる発現カセットを含むベクターで細胞を形質導入するための指示を含み得る。これらの指示は、容器(存在する場合)上に直接、または容器に張り付けられたラベルとして、または容器中に入ったもしくは容器と同梱された、別々のシート、パンフレット、カードもしくはフォルダーとして、印刷され得る。
【実施例】
【0219】
本明細書で開示される主題の実施は、特記しない限り、当業者の技術範囲内に十分に入る、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を使用する。かかる技術は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版(Sambrook、1989年);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984年);「Animal Cell Culture」(Freshney、1987年);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1996年);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(MillerおよびCalos、1987年);「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、1987年);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」、(Mullis、1994年);「Current Protocols in Immunology」(Coligan、1991年)などの文献中に、十分に説明されている。これらの技術は、本明細書で開示される主題のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、したがって、本明細書で開示される主題を構成および実施する際に考慮され得る。特定の実施形態のために特に有用な技術は、以下のセクションで議論される。
【0220】
以下の実施例は、本明細書で開示される主題の発現カセット、ベクター、送達系および治療方法を如何にして構成および使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために示され、本発明者らが本発明者らの発明とみなすものの範囲を限定することは意図しない。
【0221】
(実施例1)
新規インシュレーターの発見
遺伝子毒性のリスクが、クロマチンインシュレーターの使用によって低減され得ることから明らかなように(Arumugamら(2007年)、Emery(2011年)、Evans-Galeaら(2007年)、Rivellaら(2000年)、Emeryら(2000年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2003年)、Ramezaniら(2008年))、ウイルスベクターの挿入性変異誘発によって生じる問題は、広く知られている(Nienhuis(2013年)、Baumら(2006年)、Nienhuisら(2006年))。ヒトゲノムにおけるエンハンサー遮断性インシュレーターの効率的同定を可能にするアプローチが開発されている。これらの新たなインシュレーターは、平均150bpで短く、ウイルスベクターの力価に悪影響を与えず、インシュレーターcHS4よりも数倍強力である。ゲノムアプローチを使用して、ヒトゲノムの最も強力なエンハンサー遮断因子およびバリアインシュレーターを発見した。ヘモグロビン異常症の遺伝子治療のために、強力なエンハンサーが、治療レベルのグロビン遺伝子発現を達成するために必要である。したがって、強力なインシュレーターは、組込みベクターの強力なエンハンサーからゲノム環境を保護するための1つの手段を提供し得る。
【0222】
いくつかの研究が、ガンマレトロウイルスベクター(Evans-Galeaら(2007年)、Rivellaら(2000年)、Emeryら(2000年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2006年)、Yaoら(2003年)、Nishinoら(2006年)、Akerら(2007年)、LiおよびEmery(2008年))およびレンチウイルスベクター(Evans-Galeaら(2007年)、Ramezaniら(2003年)、Puthenveetilら(2004年)、Arumugamら(2007年)、Bankら(2005年)、Akerら(2007年)、Maら(2003年)、Changら(2005年)、Plutaら(2005年))の位置効果サイレンシングを低減させるcHS4インシュレーターの能力を実証している。適切に設計されたそれらの研究により、1.2kbバージョンのcHS4インシュレーターを含めることが、少なくとも一部の状況において、ベクター導入遺伝子発現の見込みおよび/または一貫性を増加させたことが実証された(Arumugamら(2007年)、Evans-Galeaら(2007年)、Emeryら(2002年)、Yannakiら(2002年)、Hinoら(2004年)、Ramezaniら(2006年)、Akerら(2007年)、LiおよびEmery(2008年)、Plutaら(2005年)、Jakobssonら(2004年))。それにもかかわらず、cHS4インシュレーターによって与えられる保護の程度は、完全にはほど遠い。さらに、1.2KbのcHS4を含めることは、ベクター力価に悪影響を与え得るが、最も小さいcHS4コアは無効であると証明されている(Akerら(2007年)、Jakobssonら(2004年))。
【0223】
遺伝子毒性に対する効果を、マウスにおける腫瘍形成の定量に基づくin vivoアッセイを使用して試験した。インシュレーターA1によってインスレートされたベクターは、インスレートされていない対照またはcHS4でインスレートされた対照を受けたマウスと比較して、造血キメラにおいて、ランダムベクター組込みによって誘導される腫瘍形成を減少させた。
【0224】
ベクター力価に対する影響を評価するために、インシュレーターA1を、構成的パッケージプロモーターからGFPを発現する第3世代レンチウイルスベクターの二重コピー領域中に導入し、ウイルス力価およびGFP発現を測定した。インシュレーターA1は、ベクターGFP発現に悪影響を与えなかった。
【0225】
in vivo遺伝子毒性アッセイでは、ガンマレトロウイルスベクターで形質導入された細胞株は、マウスにおいて移植後に腫瘍を生成し、無腫瘍生存の割合を測定することによる遺伝毒性効果の定量を可能にした。遺伝子毒性に対するインシュレーターの効果を、マウスにおいて形成された腫瘍の数および無腫瘍生存の割合によって定量した。インシュレーターA1を、3’LTRの近位部分中に挿入し、そこから、それを、逆転写およびベクター組込みの間に5’LTRへとコピーする。得られたトポロジーは、組み込まれたプロウイルスの5’側および3’側に位置するゲノム領域間にインシュレーターのコピー、ならびに、5’ウイルスLTRからのエンハンサー活性および内部Pgkプロモーターを配置するが、3’LTR中にエンハンサーを含まない。これは、遺伝子毒性を減少させ得、したがって、動物の腫瘍形成の減少および生存の増加を生じさせる。インシュレーターA1または制御領域が隣接したガンマレトロウイルスレポーターベクターを使用して、成長因子依存的細胞株32Dを形質導入し、各ベクターについて10個の独立したサブプールを、同系C3H/HeJマウス中に移植した。モック形質導入された細胞を移植した10匹のマウスは全て、32D細胞由来腫瘍を含まないままであったが、インサートを含まないまたは790bpの中性スペーサー(neutral spacer)を含むベクターで形質導入された32D細胞を移植したほぼ全てのマウスは、16週間の中央値以内に腫瘍を発症した(
図5B)。このベクターをcHS4インシュレーターと隣接させることは、腫瘍形成の発生を数週間遅延させ、腫瘍を発症した動物の頻度を、10匹中6匹まで低減させた。対照的に、10匹の動物のうち2匹だけが、インシュレーターA1が隣接したベクターで形質導入した32D細胞による移植後に、腫瘍を生じさせた(
図5B)。腫瘍を有する動物の頻度および元のサブプールにおけるベクター形質導入事象の数は、ベクターをインシュレーターA1と隣接させることが、腫瘍形成の全体的割合を、10
5のプロウイルス当たり46.9腫瘍から10
5のプロウイルス当たり3.9腫瘍まで、12分の1に低減させたことを示唆した(
図5C)。比較して、cHS4インシュレーターは、腫瘍形成の全体的割合を(10
5のプロウイルス当たり16.9腫瘍まで)2.8分の1に低減させたが、中性スペーサーは、腫瘍形成の割合に対して統計的に識別可能な影響を有さなかった。これらの結果は、発見されたエンハンサー遮断性インシュレーターが、挿入性変異誘発および遺伝子毒性のリスクを実質的に減少させ得ることを示している。
【0226】
(実施例2)
少なくとも1つのインシュレーターを含むグロビンベクターの特徴付け。
インシュレーターA1、ならびに配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したコドン87におけるスレオニンからグルタミンへの変異をコードするヒトβ
A-グロビン遺伝子(β
A-T87Q)を含む、本明細書で開示される発現カセット(「発現カセット1」と称される;
図1に示される)を、生成した。バリアントβ鎖(β
A)を使用するための理論的根拠は、ベクターにコードされるβ-グロビン遺伝子の検出を促進して、内因性のまたは注入されたベータ鎖からそれを識別することである。γ-グロビン鎖中の87位のグルタミン(GLN)残基は、成人のβ鎖の酸素結合特徴を保ちつつ、β鎖と比較してガンマ鎖の抗鎌状化活性を増進する(Nagelら(1979年))。ベクター1では、コドン87を変更する点変異(β
A-T87Q即ちβ87)は、正常スレオニンをグルタミンで置き換え、ベクターがコードするβ鎖の抗鎌状化活性を増進する。このβ87鎖は、HbE-サラセミアを有する患者において安全に使用されてきた(Cavazzana-Calvoら(2010年))。
【0227】
発現カセット1を、レンチウイルスベクター(「ベクター1」と称される)に組み入れまたは導入した。ベクター1を、C57BL/6-Hbb th3/+マウスの骨髄細胞中に導入し、以前に記載されたように、同系の致死的に放射線照射されたレシピエントに移植した(Mayら(2000年)、Mayら(2002年)、Lisowskiら(2007年))。V1のベクター力価は、インシュレーターA1を欠く発現カセットを含むレンチウイルスベクターのものと匹敵した。ベクター1のβ-グロビン発現を、インシュレーターを欠き、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号6に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結した野生型(wild)ヒトβ-グロビン遺伝子を含む発現カセットを含むレンチウイルスベクター(「ベクター2」と称される)のものと比較した。ベクター2と比較して、ベクターコピーに対して正規化したベクター1のβ-グロビン発現は、
図6に示すように、等価または僅かに増加しており、このことは、隣接するバリアエレメントによって提供されるin vivo発現のための追加の利益を示唆している。
【0228】
(実施例3)
非赤血球系K562細胞におけるエンハンサー活性の評価
HS2のエンハンサー活性を、非赤血球系K562細胞において評価した。
図7に示すように、エンハンサーなし(「空」)、HS2、HS3-4、HS2-3-4または陽性対照として使用したrunx1エンハンサー(「RUNX1」)と連結したミニマルプロモーターによって駆動されるベクターで形質導入されたK562細胞におけるGFP発現。バックグラウンドの発現は、およそ(on the order or)0.01%(「空」)であったが、HS2-3-4では10倍超増加した(「Lcr9」、0.17%)。この増強は、大部分はHS2に起因し(0.15%)、HS3-4には起因しなかった(0.05%)。全ての細胞株を、同等に形質導入した(平均ベクターコピー数2.5)。これらの結果は、HS3-HS4ではなくHS2が、非赤血球系造血幹細胞および前駆体細胞において発癌のリスクを有し得ることを支持している。
【0229】
(実施例4)
新規赤血球系特異的エンハンサー
図8および9に示すように、5つの赤血球系特異的エンハンサーがHS2を置換した:ALASイントロン1、ALASイントロン8、BLVRB、PPOXおよびスペクトリン-アルファ。本発明者らは、これら5つ全てのエンハンサーが、強力なエンハンサーであり、非赤血球系組織においてエンハンサー活性を欠き、ベクター力価を低減させないことを示した。
【0230】
(実施例5)
3’LTR改変を介してグロビンレンチウイルスベクター産生を増加させる
治療的グロビンベクターの本質的な特性は、患者細胞の有効な形質導入に十分な高い力価を達成することである。遺伝子、プロモーター、エンハンサーおよび/またはLCRエレメントを含むそれらの大きいカーゴのおかげで、グロビンレンチウイルスベクターは、それらの製造を困難にし、それらの臨床的使用を制限する、低い力価を固有に有する。この問題は、ベクターのサイズをさらに増加させるインシュレーターなどのさらなるゲノムエレメントの組み入れによって、さらに複雑にする。
【0231】
本発明者らは、グロビンベクターの力価を増加させるために、グロビンベクターの3’長末端反復(LTR)の異なる改変を調査した。1から62まで番号を付けた、62にわたるバリエーションを評価し、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域に作動可能に連結したヒトβ-グロビン遺伝子を含むレンチウイルスベクターでモデル化した。言い換えると、ベクター1番からベクター62までの全てが、配列番号9に示されるヌクレオチド配列を有するHS2領域、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有するHS3領域および配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するHS4領域を含むβ-グロビンLCR領域を含む。3’LTR中に標準的なU3欠失を含むベクター18番は、ベースラインとして機能した。ベクター1番(示さず)は、臨床的には使用できない、完全な、即ち野生型のLTRを含んだ。3’LTRに対する改変は、
図10Aおよび10Bに示され、それらの力価は、
図11および12に示される(Y軸は、製造され、厳密に同一の条件下で試験されたベクターストックのベクターコピー数を示す)。力価決定は、三重の複製(triple replicas)で測定し、2人のオペレーターが並行して実施し、複数の実験において反復した。
【0232】
図11および12に示すように、ベクター55番は、より高い力価を反復して示した。このベクターは、3’LTR中のR領域に対して3’側に、ウッドチャック肝炎ポスト調節エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。したがって、このWPREエレメントは、形質導入された細胞に移入されない。
【0233】
グロビンレンチウイルスベクターの産生を増強するためのこれらのエレメントの組み入れは、より高い力価を得るため、したがって、本出願に記載されるベクターの臨床的有用性のために重要である。
【0234】
参考文献
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
【化52】
【化53】
【化54】
【化55】
【化56】
【0235】
上述の説明から、バリエーションおよび改変が、本明細書に記載される本明細書で開示される主題に対してなされ得、それを種々の用法および条件に適合させ得ることが明らかである。かかる実施形態もまた、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0236】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物ならびに受託番号または参照番号によって言及される配列は、各個々の特許および刊行物ならびに配列が、具体的かつ個々に参照によって組み込まれると示されるのと同じ程度まで、参照によって本明細書に組み込まれる。
【配列表】