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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】電動補助自転車及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20221014BHJP
   B62J 45/412 20200101ALI20221014BHJP
   B62J 45/411 20200101ALI20221014BHJP
【FI】
B62M6/45
B62J45/412
B62J45/411
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020166032
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057659
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】榎田 薫
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽一郎
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-270486(JP,A)
【文献】特開2001-122183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/40 - 6/75
B62J 45/412
B62J 45/411
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動補助自転車の車速を検出する車速センサと、
前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、
前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、
前記踏力及び前記車速に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、
前記車速に基づいて不正判定しきい値を決定するしきい値決定部と、
前記モータの補助力及び前記踏力の総量である走行出力と、前記しきい値決定部で前記車速に基づいて決定された前記不正判定しきい値とを比較することにより、前記車速センサ又は前記トルクセンサに関する不正改造の有無を判断する不正検出部とを備え、
前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、予め決められた不正検出に対応する制御がなされる、電動補助自転車。
【請求項2】
請求項1に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記車速が一定である条件下における前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断する、電動補助自転車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記車速が一定であり、且つ、前記電動補助自転車が平坦な道を走行していると判断される条件下における前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断する、電動補助自転車。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記電動補助自転車の前記車速及び進行方向の加速度の少なくとも1つが予め決められた条件を満たす場合の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断する、電動補助自転車。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記走行出力及び前記不正判定しきい値を、周期的に複数回取得し、前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較を複数回行うことにより、前記不正改造の有無を判断する、電動補助自転車。
【請求項6】
請求項5に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記走行出力及び前記不正判定しきい値を取得する周期を前記クランク軸の回転数に応じて変化させる、電動補助自転車。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記走行出力が前記不正判定しきい値を超える時間が、前記走行出力が前記不正判定しきい値を超えないで補助力が発生している時間よりも、長く継続した場合に、前記不正改造があると判断する、電動補助自転車。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記複数回の比較のそれぞれにおいて、比較結果に基づいて不正疑い度合いを示す値を算出し、複数回の比較における前記不正疑い度合いを示す値の累計が許容範囲を超えた場合に、前記不正改造があると判断する、電動補助自転車。
【請求項9】
請求項8に記載の電動補助自転車であって、
前記モータの動作のオン/オフを制御する電源スイッチと、
データを記録するメモリと、をさらに備え、
前記不正検出部は、前記不正疑い度合いを示す値の累計を前記メモリに記録し、
前記メモリに記録された前記不正疑い度合いを示す値の累計は、前記電源スイッチをオフにした場合も保持される、電動補助自転車。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記複数回の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較のそれぞれにおいて、比較結果に基づいて不正疑い度合いを示す値を、前記車速及び前記走行出力の少なくとも1つに基づく重みをつけて算出する、電動補助自転車。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部は、前記車速が予め決められた対象範囲内である場合の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づいて、前記不正改造を検出する、電動補助自転車。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記しきい値決定部は、前記電動補助自転車において想定される全車速域の少なくとも一部において、前記車速が高いほど、前記不正判定しきい値が大きくなるように前記不正判定しきい値を決定する、電動補助自転車。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、前記モータ制御部は、不正検出時モードで前記モータの前記補助力を制御する、電動補助自転車。
【請求項14】
電動補助自転車のペダルの踏力を補助する補助力を発生させるモータを制御するモータ制御装置であって、
前記ペダルの踏力を検出するトルクセンサで検出された前記踏力及び、前記電動補助自転車の車速センサで検出された車速に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、
前記車速に基づいて不正判定しきい値を決定するしきい値決定部と、
前記モータの補助力及び前記踏力の総量である走行出力と、前記しきい値決定部で決定された前記不正判定しきい値とを比較することにより、前記車速センサ又は前記トルクセンサに関する不正改造を検出する不正検出部とを備え、
前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、予め決められた不正検出に対応する処理を実行する、モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動補助自転車及び電動補助自転車のモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動補助自転車は、モータにより、乗員のペダルの踏力を補助する補助力を発生させる。乗員の踏力に対するモータの補助力の比率の上限は、電動補助自転車の車速に応じて設定されることが多い。例えば、日本国では、法令により、車速が10km/h未満の場合と、車速が10km/h以上24km/h未満の場合のそれぞれについて上記比率の上限が定められている。また、車速が24km/h以上の場合は、モータによる補助をしないことが定められている。
【0003】
近年、市販の電動補助自転車に対して、モータによる補助力の上限を解除する改造がなされることが問題となっている。このような改造として、例えば、センサやモータ制御系を改造して、モータの補助力の制御に用いられる車速又は踏力等の情報を改ざんすることが行われ得る。
【0004】
モータ制御における異常を検出する技術として、特開平9-109983(特許文献1)には、モータ駆動系から最終的にモータに出力される電力供給状態を監視する駆動力補助装置が開示されている。駆動力補助装置は、異常なモータ出力制御から障害を判別して対処する。駆動力補助装置は、モータの指令値又は供給電力値が、設定期間、規定値以上の場合に補助駆動力を制限する。
【0005】
特開平9-286377(特許文献2)には、電動自転車の補助動力制御装置が開示されている。補助動力制御装置は、トルクセンサ部に異常があっても、これを即座に検出し、また補助動力の駆動を停止する。この補助動力制御装置は、ペダルが正回転していないと判定されたときにトルクセンサ部によって検出された出力値が予め定められた規定値を越えたときに、当該トルクセンサ部の異常と判定する。
【0006】
特許第6534883号公報(特許文献3)には、車輪の回転速度に基づいてアシストモータを制御する自転車の制御装置が開示されている。この制御装置は、例えば、車輪の回転速度を検出するセンサが、クランクの回転速度を検出するように改造された場合に、センサの検出対象の回転体を判定し、アシストモータの駆動を禁止する。この制御装置は、自転車に設けられる回転体の回転速度を反映した信号を出力する第1のセンサの出力と、自転車に設けられる回転体の回転速度を反映した信号を出力する第2のセンサの出力とに基づいて、第1のセンサおよび第2のセンサが同一の回転体を検出対象にしているか否かを判定する。第1のセンサおよび第2のセンサが同一の回転体を検出対象にしていると判定された場合に、アシストモータの駆動が禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-109983
【文献】特開平9-286377
【文献】特許第6534883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開平9-109983及び特開平9-286377に記載の従来の異常検出は、例えば、センサで検出される車速又はトルク等が改ざんされる場合を想定したものではない。そのため、上記従来の異常検出では、例えば、異なる車速域において設定された補助力の上限を解除するような改造を確実に検出することが難しい場合がある。
【0009】
上記特許第6534883号公報では、自転車の回転体(例えば、車輪)の回転を検出するセンサを、別の回転体(例えばクランク)の回転を検出するよう付け替える改造を判定することを想定している。この従来の判定の構成では、2以上の回転体のセンサとそれらの回転速度を反映した信号を取得し、2以上の回転体の回転速度、位相、又は周期の比較演算する構成が必要となる。そのため、判定のための構成が複雑になる。
【0010】
本願は、モータ制御部に対する不正改造を、簡単な構成で検出することができる電動補助自転車及びモータ制御装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態における電動補助自転車は、前記電動補助自転車の車速を検出する車速センサと、前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、前記踏力及び前記車速に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記車速に基づいて不正判定しきい値を決定するしきい値決定部と、前記モータの補助力及び前記踏力の総量である走行出力と、前記しきい値決定部で前記車速に基づいて決定された前記不正判定しきい値とを比較することにより、前記車速センサ又は前記トルクセンサに関する不正改造の有無を判断する不正検出部とを備える。前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、予め決められた不正検出に対応する制御がなされる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電動補助自転車において、モータ制御部に対する不正改造を、簡単な構成で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態における電動補助自転車を示す左側面図である。
図2図2は、本実施形態におけるモータ制御装置4の構成例を示す図である。
図3図3は、図2に示すモータ制御装置の処理と、データの流れの一例を示す図である。
図4図3に示すS2~S4の処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、車速と不正判定しきい値との対応関係の一例を示すグラフである。
図6図6は、図3のメモリに記録される比較結果の時間推移の一例を示すグラフである。
図7図7は、モータ制御装置の構成の変形例を示す図である。
図8図8は、不正改造を検出する処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明者らは、電動補助自転車におけるモータ制御部に対する不正改造を、簡単な構成で、検出することを検討した。具体的には、発明者らは、モータ制御のソフトウエアにより、不正改造を検出することを検討した。検討において、電動補助自転車が走行するのに必要な走行出力、すなわち、乗員の踏力とモータの補助力の総量が、車速が増加するのにしたがって大きくなる傾向があることに着目した。この傾向を利用すれば、車速センサで検出される車速において必要になる走行出力のレベルが決定できる。その車速において必要になる走行出力のレベルよりも、実際の走行出力のレベルが高い場合、改造されている可能性が高い。そこで、電動補助自転車において、検出される車速に基づいて不正判定しきい値を決定し、この不正判定しきい値と、その車速で走行中の走行出力とを比較することで、不正改造の有無を判断する構成に想到した。具体的には、下記の実施形態に想到した。
【0015】
本発明の実施形態における電動補助自転車は、前記電動補助自転車の車速を検出する車速センサと、前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、前記踏力及び前記車速に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記車速に基づいて不正判定しきい値を決定するしきい値決定部と、前記モータの補助力及び前記踏力の総量である走行出力と、前記しきい値決定部で前記車速に基づいて決定された前記不正判定しきい値とを比較することにより、前記車速センサ又は前記トルクセンサに関する不正改造の有無を判断する不正検出部とを備える。前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、予め決められた不正検出に対応する制御がなされる。
【0016】
上記構成によれば、不正検出部は、車速センサで検出される車速に基づいて決定される不正判定しきい値と、モータの補助力及び踏力の総量である走行出力とを比較する。そのため、その検出された車速における実際の走行出力のレベルが、その車速における正常レベルに比べて乖離しているか否かを判断できる。これにより、不正改造を検出できる。すなわち、モータ制御において平素から用いられる車速、踏力、及びモータの補助力の情報を使って、不正改造の検出が可能になる。そのため、モータ制御部に対する不正改造を、簡単な構成で検出することができる。
【0017】
しきい値決定部は、例えば、予め記録された、車速と不正判定しきい値との対応を示す対応データを用いて決定してもよい。対応データは、例えば、テーブル、マップ等のように車速と不正判定しきい値の対応関係を示すデータであってもよい。また、対応データは、車速と不正判定しきい値の関係を示す関数、又は、入力された車速に対して対応する不正判定しきい値を出力するプログラムであってもよい。
【0018】
車速と不正判定しきい値との関係は、車速が増えると不正判定しきい値も増える車速域を含むものであってもよい。例えば、車速の増加に伴って不正判定しきい値が単調増加してもよい。また、一例として、不正判定しきい値は、車速の一次関数で表されてもよい。或いは、不正判定しきい値は、車速の2次曲線、又は3次曲線で表されてもよい。
【0019】
無改造時(すなわち正常時)の走行出力は、車速の増加に伴って増加する傾向にある。例えば、車速によって変化する無改造時の走行出力レベルよりも高いレベルの値を、不正判定しきい値とすることができる。無改造時の走行出力レベルから不正判定しきい値へのレベルの増分は、例えば、無改造時に諸条件によって増加し得る量に基づき決定することができる。
【0020】
車速センサは、電動補助自転車の進行方向の速度を検出するものであってもよい。車速センサは、例えば、電動補助自転車の進行に伴い回転する回転体(例えば、車輪、クランク軸、又は、伝達部材等)の回転を検出することで、車速を検出するよう構成されてもよい。
【0021】
不正検出部で検出される不正改造は、例えば、モータ制御部の制御に用いられる踏力及び車速の少なくとも1つの値の改ざんが挙げられる。例えば、車速センサ又はトルクセンサの取り付け位置や構成の変更、或いは、モータ制御部に提供される車速又はトルクの値を改変する装置の追加、等の不正改造が検出対象となり得る。
【0022】
前記不正検出部は、前記車速が一定である条件下における前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断してもよい。車速が一定の時の走行出力を判断に用いることで、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0023】
不正検出部は、例えば、所定期間内に検出される車速の変動量又は加速度が所定の範囲内である場合に、車速が一定と判断することができる。また、不正検出部は、電動補助自転車が進行方向すなわち前後方向における加速度が一定の条件下で、走行出力と不正判定しきい値とを比較することにより不正改造の有無を判断する形態であってもよい。加速度が一定の条件の例には、加速度が0の場合も含む。或いは、前後方向の加速度に加え、上下方向又は左右方向(車幅方向)等、その他の方向の加速度が所定の条件を満たす場合に、前記比較による不正改造を検出してもよい。
【0024】
前記不正検出部は、前記車速が一定であり、且つ、前記電動補助自転車が平坦な道を走行していると判断される条件下における前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断してもよい。電動補助自転車が、平坦な道を一定の車速で走行している時の走行出力を判断に用いることで、誤検出を抑え、さらに正確に不正改造の有無を判断できる。
【0025】
電動補助自転車が平坦な道を走行しているか否かは、例えば、電動自転車に設けられた加速度センサにより検出される電動自転車の少なくとも上下方向の加速度によって判断できる。加速度センサの他、ジャイロセンサ(角速度センサ)等で検出される情報が上記判断に用いられてもよい。
【0026】
前記不正検出部は、前記電動補助自転車の前記車速及び進行方向の加速度の少なくとも1つが予め決められた条件を満たす場合の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づき、前記不正改造の有無を判断してもよい。車速及び進行方向の加速度の少なくとも1つが予め決められた条件を満たす時の走行出力を判断に用いることで、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0027】
不正検出部が、車速又は加速度等の所定条件下で、走行出力と不正判定しきい値とを比較することにより不正改造の有無を判断する形態としては、例えば、所定条件下で上記比較をし、所定条件を満たさない場合には比較をしない形態が挙げられる。或いは、他の形態として、所定条件を満たさない場合の比較結果を、不正改造の有無の判断に用いない形態も可能である。又は、所定条件を満たさない場合の比較結果を、所定条件下の比較結果よりも重みを下げて判断に用いる形態も可能である。
【0028】
前記不正検出部は、前記走行出力及び前記不正判定しきい値を、周期的に複数回取得し、前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較を複数回行うことにより、前記不正改造の有無を判断してもよい。複数回の比較結果によって判断することで、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0029】
前記不正検出部は、前記走行出力及び前記不正判定しきい値を取得する周期を前記クランク軸の回転数に応じて変化させてもよい。これにより、クランク軸の回転数に応じた適切な周期で走行出力及び不正判定しきい値を決定できる。なお、走行出力及び不正判定しきい値を取得する周期と、走行出力と不正判定しきい値とを比較する周期は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、走行出力を取得する周期と不正判定しきい値を取得する周期は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
例えば、不正検出部は、前記周期における踏力及びモータ補助力の少なくとも1つの代表値(例えば、平均値等)に基づき、各周期の走行出力を決定することができる。これにより、クランク軸の回転周期における踏力又は補助力の変動の影響を抑えた走行出力を得ることができる。
【0031】
前記不正検出部は、前記走行出力が前記不正判定しきい値を超える時間が、前記走行出力が前記不正判定しきい値を超えないで補助力が発生している時間よりも、長く継続した場合に、前記不正改造があると判断してもよい。これにより、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0032】
前記不正検出部は、前記複数回の比較のそれぞれにおいて、比較結果に基づいて不正疑い度合いを示す値を算出し、複数回の比較における前記不正疑い度合いを示す値の累計が許容範囲を超えた場合に、前記不正改造があると判断してもよい。これにより、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0033】
前記電動補助自転車は、前記モータの動作のオン/オフを制御する電源スイッチと、データを記録するメモリと、をさらに備えてもよい。この構成において、前記不正検出部は、前記不正疑い度合いを示す値の累計を前記メモリに記録してもよい。前記メモリに記録された前記不正疑い度合いを示す値の累計は、前記電源スイッチをオフにした場合も保持されてもよい。これにより、電源スイッチをオフにしても、不正疑い度合いを示す値の累計を維持できる。電源スイッチをオフの期間を跨ぐ期間において、不正疑い度合いを示す値を蓄積できるため、より誤検出が生じにくくなる。なお、電源スイッチは、乗員の操作によりオン/オフが切り替わる形態であってもよい。或いは、乗員の操作に替えて又は乗員の操作に加えて、車両の状態(例えば、クランク軸の回転の有無)に応じて、自動的に電源スイッチのオン/オフが切り替えられてもよい。
【0034】
前記不正検出部は、前記複数回の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較のそれぞれにおいて、比較結果に基づいて不正疑い度合いを示す値を、前記車速及び前記走行出力の少なくとも1つに基づく重みをつけて算出してもよい。これにより、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0035】
前記不正検出部は、前記車速が予め決められた対象範囲内である場合の前記走行出力と前記不正判定しきい値との比較結果に基づいて、前記不正改造を検出してもよい。これにより、処理効率を向上させることができる。例えば、電動補助自転車の想定される全車速域において、車速0を含む低速域の比較結果は、不正改造の判断に用いないようにしてもよい。これにより、不正改造が検出されやすい車速域における比較結果を用いて判断することができる。
【0036】
前記しきい値決定部は、前記電動補助自転車において想定される全車速域の少なくとも一部において、前記車速が高いほど、前記不正判定しきい値が大きくなるように前記不正判定しきい値を決定してもよい。これにより、走行出力が車速の増加に伴って増加するという傾向に沿ったしきい値を決定することができる。そのため、誤検出を抑え、より正確に不正改造の有無を判断できる。
【0037】
前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、前記モータ制御部は、不正検出時モードで前記モータの前記補助力を制御してもよい。これにより、不正改造が検出された場合に、モータによる補助力の供給形態を、不正改造が検出されていない場合と異ならせることができる。
【0038】
モータ制御部は、不正検出時モードにおいて、踏力に対するモータの補助力を、不正検出時モードでない場合(例えば、通常モードで動作する場合)に比べて制限する。例えば、不正検出時モードにおいて、モータ制御部は、モータ出力を停止してもよいし、モータの補助力の上限を、不正検出時モードでない場合に比べて下げてもよい。また、モータ制御部は、不正検出時モードを、一定時間経過後に自動的に解除するよう構成されてもよい。或いは、不正検出部が、走行出力と不正判定しきい値とを比較することにより、不正改造がないと判断した場合に、モータ制御部が、不正検出時モードを解除してもよい。
【0039】
上記電動補助自転車のモータ制御装置も、本発明の実施形態に含まれる。前記モータ制御装置は、電動補助自転車のペダルの踏力を補助する補助力を発生させる。前記モータ制御装置は、前記ペダルの踏力を検出するトルクセンサで検出された前記踏力及び、前記電動補助自転車の車速センサで検出された車速に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記車速に基づいて不正判定しきい値を決定するしきい値決定部と、前記モータの補助力及び前記踏力の総量である走行出力と、前記しきい値決定部で決定された前記不正判定しきい値とを比較することにより、前記車速センサ又は前記トルクセンサに関する不正改造を検出する不正検出部とを備える。前記モータ制御装置は、前記不正検出部で不正改造があると判断された場合、予め決められた不正検出に対応する処理を実行する。
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態による電動補助自転車について説明する。図中、同一又は相当部分には、同一符号を付して、その部材についての説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。なお、以下の説明において、電動補助自転車の前後、左右、上下は、乗員が、サドル(シート24)に着座し且つハンドル23を握った状態を基準とした前後、左右、及び上下を意味する。電動補助自転車の前後、左右、及び上下の各方向は、電動補助自転車の車体フレームの前後、左右及び上下の各方向と同じである。また、電動補助自転車の進行方向は、電動補助自転車の前後方向と同じである。以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0041】
<電動補助自転車の全体構成例>
図1は、本実施形態における電動補助自転車10を示す左側面図である。図1における符号F、B、U、Dは、それぞれ前、後、上、下を表す。
【0042】
図1に示すように、電動補助自転車10は、車体フレーム11を有する。車体フレーム11は、前後方向に延びている。車体フレーム11は、ヘッドパイプ12、アッパフレーム13u、ダウンフレーム13d、シートフレーム14、一対のチェーンステイ16、及び一対のシートステイ17を有している。ヘッドパイプ12は、電動補助自転車10の前部に配置されている。ヘッドパイプ12には、ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uの前端が接続されている。ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uは、前後方向に延びている。ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uは、斜め下方に向かって延びている。アッパフレーム13uは、ダウンフレーム13dより上に位置する。アッパフレーム13uの後端は、シートフレーム14に接続される。ダウンフレーム13dの後端は、ブラケット15に接続される。シートフレーム14の下端はブラケット15に接続される。シートフレーム14は、ブラケット15から上方且つ斜め後方に向かって延びている。なお、車体フレーム11は、アッパフレーム13uがない構成であってもよい。
【0043】
ヘッドパイプ12には、ハンドルステム25が回転自在に挿入されている。ハンドルステム25の上端には、ハンドル23が固定されている。ハンドルステム25の下端には、フロントフォーク26が固定されている。フロントフォーク26の下端には、前輪21が車軸27によって回転可能に支持されている。
【0044】
ハンドル23の左右端には、それぞれグリップが取り付けられている。ハンドル23の左部には、左のブレーキレバー74が取り付けられ、ハンドル23の右部には、右のブレーキレバー74が取り付けられている。左のブレーキレバー74は、後輪22のブレーキ76を操作するためのレバーである。右のブレーキレバー74は、前輪21のブレーキ75を操作するためのレバーである。
【0045】
円筒状のシートフレーム14には、シートパイプ28が挿入されている。シートパイプ28の上端には、シート24が設けられている。このように、車体フレーム11は、前部で、ハンドルステム25を回転可能に支持し、後部で、後輪22を回転可能に支持する。また、車体フレーム11には、シート24及び駆動ユニット40が取り付けられる。
【0046】
ブラケット15の後端には、一対のチェーンステイ16が接続されている。一対のチェーンステイ16は、後輪22を左右から挟むように配置されている。各チェーンステイ16の後端には、それぞれシートステイ17の一方の端部が接続されている。一対のシートステイ17は、後輪22を左右から挟むように配置されている。各シートステイ17の他方の端部は、それぞれ、シートフレーム14の上部に接続されている。一対のチェーンステイ16の後端には、後輪22が車軸29によって回転可能に支持されている。
【0047】
チェーンステイ16の後端部には、後輪22の回転を検出する車速センサ(スピードセンサ)1が設けられている。車速センサ1は、例えば、後輪22とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有する。検出素子は、機械的、磁気的又は光学的に被検出素子を検出する。なお、車速センサ1は、後輪22に限らず、例えば、前輪21、モータ3、クランク軸41、伝達ギヤ、チェーン等、電動補助自転車10の進行に伴って回転する回転体の回転を検出するものであってもよい。
【0048】
ブラケット15の下に、駆動ユニット40が、締結金具(図示略)により取り付けられる。駆動ユニット40は、駆動ユニット40の外形を形成するハウジング51を有する。ハウジング51内に、モータ3が格納される。ハウジング51には、クランク軸41が左右方向に貫通している。クランク軸41は、ハウジング51に対して複数の軸受を介して回転可能に支持されている。
【0049】
クランク軸41の周りには、乗員の踏力を検出するトルクセンサ2が設けられる。トルクセンサ2は、クランク軸41を軸周りに回転させるトルクを検出する。トルクセンサ2は、例えば、磁歪式のような非接触式、又は、弾性体変量検出式のような接触式のトルクセンサを用いることができる。磁歪式トルクセンサは、磁歪効果を有し、クランク軸の回転力を受ける磁歪材と、磁歪材の力による透磁率の変化を検出する検出コイルを有する。
【0050】
クランク軸41の両端には、クランクアーム31が取り付けられている。クランクアーム31の先端には、それぞれ、ペダル33が取り付けられている。乗員がペダル33を踏み込むことにより、クランク軸41が回転する。図示しないが、電動補助自転車10には、クランク軸41とともに回転する駆動スプロケットと、後輪22とともに回転する従動スプロケットが設けられる。駆動スプロケットと、従動スプロケットの間にチェーン46が巻き掛けられている。なお、チェーン46の代わりに、ベルト又はシャフト等が用いられてもよい。クランク軸41から駆動スプロケットへの回転の伝達経路上には、ワンウェイクラッチ(図示略)が設けられる。ワンウェイクラッチは、前転方向の回転を伝達し、後転方向の回転を伝達しない。
【0051】
駆動ユニット40内には、モータ3の回転を、駆動スプロケット(又はチェーン46)へ伝達する伝達機構(図示略)が設けられる。伝達機構は、例えば、複数の減速ギヤを含む。減速ギヤにより、モータの回転が減速されて駆動スプロケットへ伝達される。また、伝達機構は、クランク軸41の回転とモータ3の回転を合成して駆動スプロケットへ伝達する合成機構を含む。合成機構は、例えば、筒状部材を有する。筒状部材の内部にクランク軸41が配置される。合成機構には、駆動スプロケットが取り付けられる。合成機構は、クランク軸41及び駆動スプロケットと同じ回転軸を中心にして回転する。クランク軸41から合成機構への回転の伝達経路上、及び、モータ3から合成機構への回転の伝達経路上には、ワンウェイクラッチ(図示略)が設けられてもよい。ワンウェイクラッチは、前転方向の回転を伝達し、後転方向の回転を伝達しない。モータ3から伝達機構を経て駆動スプロケットへ伝達される回転力が、モータ3の補助力となる。
【0052】
駆動スプロケット及び補助スプロケットは、チェーン46を介して、後輪22に駆動力を伝達する。具体的には、乗員がペダル33を踏み込むことにより発生する踏力は、駆動スプロケットを前転方向に回転させ、チェーン46を介して後輪22を前転方向に回転させる駆動力として伝達される。また、モータ3が作動することにより発生する回転力は、クランク軸41を前転方向に回転させる。これにより、乗員がペダル33を踏み込んで発生させる踏力を、モータ3から出力される回転力がアシスト(補助)する。
【0053】
なお、モータ3による補助力の伝達機構は、上記例に限られない。例えば、駆動ユニット40は、ハウジング51の中から外へ左右方向に伸びる出力軸を有してもよい。この場合、モータ3の回転は、伝達機構により出力軸に伝達される。ハウジング51の外において、出力軸に、補助スプロケットが取り付けられる。補助スプロケットはチェーン46に巻き掛けられる。モータ3が作動することにより発生する回転力は、補助スプロケットを回転させ、チェーン46を介して後輪22を前転方向に回転させる。
【0054】
図示しないが、駆動ユニット40は、モータ3を制御するモータ制御装置を有する。例えば、駆動ユニット40のハウジング51内の基板に実装された電子機器により、モータ制御装置が構成される。電子機器は、例えば、プロセッサ又は電子回路を有する。モータ制御装置は、車速センサ1、トルクセンサ2及びモータ3と電気的に接続される。この接続は、有線であっても無線であってもよい。
【0055】
ダウンフレーム13dには、バッテリユニット35が配置されている。バッテリユニット35は、駆動ユニット40のモータ3に電力を供給する。バッテリユニット35は、図示しないバッテリ及び電池制御部を有する。バッテリは、充放電可能な充電池である。電池制御部は、バッテリの充放電を制御するとともに、バッテリの出力電流及び残容量等を監視する。なお、バッテリユニット35は、シートフレーム14又はアッパフレーム13uに配置されてもよい。
【0056】
ハンドル23には、表示装置37が設けられている。表示装置37は、例えば、ディスプレイ及びユーザ操作を受け付けるボタン、又はタッチパネル等の入力部を有する。表示装置37は、電動補助自転車10に関する各種情報を表示する。なお、表示装置37は、省略されてもよい。
【0057】
図示しないが、電動補助自転車10は、クランク軸41の回転を検出するクランク軸回転センサを有してもよい。クランク軸回転センサは、例えば、クランク軸41とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有してもよい。検出素子は、機械的、光学的又は磁気的に、被検出素子を検出することができる。
【0058】
図示しないが、電動補助自転車10は、変速機構を備えてもよい。変速機構は、乗員による変速操作器の操作に応じて変速比を変更する機構である。変速操作器は、例えば、ハンドル23に設けられる。変速機構は、例えば、駆動スプロケット及び従動スプロケットの少なくとも1つを多段スプロケットにすることで構成できる。変速操作器の操作に応じてチェーン46が巻き掛けられる多段スプロケットが切り替わる。変速機構は、このような外装変速機であってもよいし、内装変速機であってもよい。
【0059】
<モータ制御装置の構成例>
図2は、モータ制御装置4の構成例を示す図である。図2に示す例では、モータ制御装置4は、モータ制御部(モータコントローラ)5、しきい値決定部6、及び不正検出部7を備える。モータ制御部5は、トルクセンサ2で検出された踏力T及び車速センサ1で検出された車速Vに応じてモータ3の補助力を制御する。しきい値決定部6は、車速Vに基づいて不正判定しきい値を決定する。不正検出部7は、モータ3の補助力及び踏力Tの総量である走行出力と、しきい値決定部6で決定された不正判定しきい値とを比較する。不正検出部7は、比較結果に基づき、不正改造の有無を判断する。不正検出部7で不正改造があると判断された場合、電動補助自転車10では、予め決められた不正検出に対応する制御がなされる。
【0060】
モータ制御装置4は、一例として、MCU(Motor Control Unit)である。モータ制御装置4は、例えば、プロセッサ、メモリ、モータ駆動回路、及び、モータ監視部を備える。プロセッサは、メモリのプログラムを実行することにより、モータ制御部5、しきい値決定部6、及び、不正検出部7の機能を実現することができる。なお、モータ制御部5、しきい値決定部6、及び、不正検出部7の少なくとも一部の機能は、プロセッサ以外の回路により実現されてもよい。
【0061】
モータ制御部5の機能を実現するために、プロセッサは、車速V及び踏力Tを入力し、モータ3に対する制御信号を出力する。モータ駆動回路が、制御信号に従って動作することで、モータ3が駆動される。モータ駆動回路は、例えばインバータである。プロセッサからの制御信号に応じた電力をバッテリユニット35からモータ3に供給する。電力が供給されたモータ3は回転し、モータ制御部5により制御された駆動補助出力を発生させる。
【0062】
モータ監視部は、モータ3の電流、電圧、回転数、回転速度、等のモータ3の駆動に関する値を検出する。プロセッサ又はモータ駆動回路は、モータ監視部で検出された値を用いて、処理を実行又は動作してもよい。
【0063】
車速センサ1は、後輪22(又は他の回転体)の回転角を検出し、回転角に応じた信号をモータ制御装置4へ出力する。例えば、車速センサ1は、後輪22の回転を所定の角度毎に検出し、矩形波信号又は正弦波信号を出力する。プロセッサは、車速センサ1の出力信号から後輪22の回転速度を算出する。なお、回転速度の算出を車速センサ1が実行するよう構成されてもよい。
【0064】
トルクセンサ2は、検出したトルクの大きさに応じた振幅の電圧信号を出力する。トルクセンサ2は、電圧信号をトルク値に換算するトルク演算回路を有していてもよい。トルク演算回路は、例えば、出力されたアナログ電圧信号をAD変換によってデジタル値に変換する。検出されたトルクの大きさは、デジタル信号として外部に出力される。なお、モータ制御装置4が、トルクセンサ2からアナログ信号を受け取ってデジタル値に変換するよう構成されてもよい。
【0065】
<処理の例>
図3は、図2に示すモータ制御部5、しきい値決定部6及び不正検出部7の処理と、データ(信号)の流れの一例を示す図である。
【0066】
図3に示す例では、モータ制御部5は、車速及び踏力と、モータ指令値との対応を示すアシストデータに基づいて、入力された車速V及び踏力Tに応じた指令値を決定することができる(S1)。アシストデータは、予めメモリに記録される。アシストデータは、マップ、テーブル、又は、関数その他のプログラムであってもよい。一例として、モータ制御部5は、踏力Tに対するモータ補助力の比率であるアシスト比率が、車速Vに応じて変化するよう、モータ補助力を制御することができる。これにより、例えば、電動補助自転車10で想定される全車速域のうち最も高い領域である高速域では、アシスト比率を制限する制御が可能になる。
【0067】
しきい値決定部6は、車速センサ1で検出された車速Vに基づいて不正判定しきい値を決定する(S2)。しきい値決定部6は、車速と不正判定しきい値との対応関係を示す対応データを用いて、車速Vに対応する不正判定しきい値を決定する。対応データは、メモリに予め記録される。
【0068】
不正検出部7は、トルクセンサ2で検出された踏力Tと、モータ監視部で検出されたモータ3の補助力PMから、走行出力PRを決定する(S3)。走行出力PRは、例えば、モータ3の補助力PMと、トルクセンサ2で検出された踏力Tの値を和(PR=PM+T)とすることができる。モータ3の補助力PMは、これに限定されないが、一例として、モータ3の指令値及びモータ回転数を基に算出される。モータ3の補助力PMは、例えば、モータ出力値であってもよい。走行出力PRは、モータ3の補助力PM及び踏力Tの総量を示す値であればよい。走行出力の算出方法は特定のものに限定されない。例えば、モータ3の電流及び電圧の少なくとも1つに基づいて、モータ3の補助力PMを示す値を算出してもよい。また、モータ3の補助力PMの仕事量と、踏力Tの仕事量の合計を、走行出力PRとしてもよい。
【0069】
不正検出部7は、走行出力PRの算出に用いるモータ3の補助力PMを示す値及び踏力Tを示す値は、クランク軸41の回転周期より短い周期の変動分を除去した値を用いることができる。例えば、不正検出部7は、設定された周期で、走行出力PRを取得する。この場合、各周期における踏力Tの代表値、及びモータ3の補助力PMの代表値(例えば、平均値、又は中央値等)を用いて各周期の走行出力PRを算出してもよい。例えば、各周期における踏力Tの移動平均及びモータ3の補助力PMの移動平均の値が、各周期の走行出力PRの算出に用いられてもよい。或いは、踏力T及びモータ3の補助力PMの少なくとも1つは、ローパスフィルタで処理された値が用いられてもよい。或いは、不正検出部7は、各周期における走行出力の移動平均を、各周期の走行出力PRとして、算出してもよい。走行出力を取得する周期は、例えば、クランク軸41の回転数又は回転周期に応じて変化してもよい。
【0070】
不正検出部7は、S2で決定した不正判定しきい値Th1と、S3で決定した走行出力PRを比較し、比較結果をメモリに保存する(S4)。不正検出部7は、比較結果を基に、不正改造の有無を判断する(S5)。比較結果は、不正改造の疑い度合いを示す値とすることができる。一例として、走行出力PRが不正判定しきい値Th1を越える場合(PR>Th1)は、メモリの疑い度合いを示す値に加算し、走行出力PRが不正判定しきい値Th1を越えない場合(PR<Th1)は、疑い度合いを示す値を減算することができる。PR=Th1の場合に加算、減算のいずれにするかは予め決めておけばよい。このように、PR>Th1の場合に、疑い度合いが高くなるよう、メモリの値を更新することができる。これにより、不正検出部7は、メモリの疑い度合いを示す値が、許容範囲を超えた場合に、不正改造があると判断することができる。
【0071】
不正検出部7は、比較結果を示す値に、車速V及び走行出力PRの少なくとも1つに基づく重みを付けて、メモリに記録してもよい。例えば、走行出力PRが不正判定しきい値を上回る量に応じて、重みを付けることができる。また、車速Vが属する車速域に応じて重みを付けることができる。例えば、不正改造による車速に対する走行出力の上昇が顕著になる車速域では、疑い度合いが高くなるよう値に重み付けすることができる。例えば、予め決められた特定車速域において、PR>Th1の場合に疑い度合いの値に加算する量を、前記特定車速域外でPR>Th1の場合に加算する量よりも多くなるよう、比較結果に重み付けされてもよい。これにより、不正改造の判断精度を向上させることができる。
【0072】
メモリに記録されたデータは、モータ3の動作のオン/オフを制御する電源スイッチがオフになっても保持される。また、バッテリユニット35が、電動補助自転車10から取り外され、モータ制御装置4にバッテリユニット35からの電力供給がない状態になっても、メモリのデータは保持される。そのため、メモリの不正改造の疑いの度合いを示す値は、電源供給が途絶えても保持される。なお、メモリは、不揮発性メモリとすることができる。
【0073】
図3に示すS2~S4の処理は、設定された周期で複数回繰り返し実行される。複数回の比較処理(S4)の各回の比較処理で、メモリの比較結果が更新される。すなわち、複数回の比較の結果がメモリに記録されることになる。不正検出部7は、複数回の比較処理の結果が反映されたメモリの情報を基に、不正改造の有無を判断する。
【0074】
図4は、図3に示すS2~S4の処理の一例を示すフローチャートである。図4に示す例では、しきい値決定部6が、車速センサ1で検出された車速Vを取得する(S11)。不正検出部7は、トルクセンサ2で検出された踏力Tを取得する(S12)。不正検出部7は、モータ3の補助力PMを取得する(S13)。S11~S13の取得処理の順は特に限定されない。S11~S13の取得処理は互いに同期して実行される。すなわち、略同時期に検出された車速V、踏力T及びモータ3の補助力PMが取得される。言い換えれば、車速Vが検出された時の踏力T及びモータ3の補助力PMが取得される。また、取得される車速V、踏力T及びモータ3の補助力PMの少なくとも1つは、移動平均であってもよい。
【0075】
しきい値決定部6は、S11で取得した車速Vを基に不正判定しきい値Th1を決定する(S14)。不正検出部7は、S12で取得した踏力Tと、S13で取得したモータ3の補助力PMから走行出力PRを決定する(S15)。一例として、走行出力PRは、T+PMとすることができる。なお、S15で決定される走行出力PRは、移動平均であってもよい。
【0076】
不正検出部7は、S14で決定した不正判定しきい値Th1と、S15で決定した走行出力PRを比較する(S16)。不正検出部7は、比較結果をメモリに記録する(S17)。一例として、Th1>PRであれば、不正改造の疑い度合いを示す値に(-1)を加算し、Th1≦PRであれば、疑い度合いを示す値に(+1)を加算する。以上のS11~S17の処理が、設定された周期で繰り返される。なお、Th1≧PRの場合に(-1)、Th1<PRの場合に(+1)を上記値に加算してもよい。
【0077】
なお、S11で取得された車速V、又はS13で取得されたモータ3の補助力PMの少なくとも一方が0の場合、不正検出部7は、S14~S17の処理を実行しないようにしてもよい。これにより、電動補助自転車10が走行していない状態、又はモータ3によるアシストがされていない状態では、比較処理を実行しないようにすることができる。
【0078】
図5は、図3の対応データが示す、車速と不正判定しきい値との対応関係の一例を示すグラフである。図5のグラフでは、正常時(不正改造していない時)の車速と走行出力との関係を示すラインL1と、車速と不正判定しきい値Th1の関係を示すラインL2が示される。ラインL1に示すように、正常時は、車速が高くなるほど、走行出力も大きくなる傾向にあることが発明者らによって見出されている。図5に示すラインL1は、電動補助自転車10が、一定の車速で、平坦な道を走行している場合の車速と走行出力との関係を示している。
【0079】
図5に示す例では、正常時のラインL1よりも高いレベルの走行出力のラインL2が、不正判定しきい値Th1として設定される。車速と走行出力が、ラインL2より上になる領域では、不正の疑いありと判断されることになる。図5に示すラインL1は、平均的な車速と走行出力の関係を示している。実際の正常時の車速と走行出力の関係は、その時の諸条件によって変動する。そのため、実際の正常時の車速と走行出力の関係は、図5に示す平均的なラインL1から離れる場合がある。そこで、不正判定しきい値Th1のレベル(ラインL2)の正常時の走行出力レベル(ラインL1)に対する増加量Mは、正常時において増加する可能性のある量を少し超える程度に設定することが好ましい。
【0080】
増加量Mは、正常時の走行出力の増加要因を考慮して決定することができる。考慮するとよい増加要因としては、例えば、電動補助自転車の全重量、向かい風、平坦誤差(例えば、駆動ユニット取付誤差、又はフロントサスペンションの沈み込みによる前傾等)、サスペンション抵抗(粘性損失)、タイヤ空気圧、タイヤ形状(ブロックタイヤ)、オフロード抵抗、及び、加減速誤差等が挙げられる。これらの少なくとも1つを考慮して、正常時の走行出力レベルに対する不正判定しきい値の増加量Mを設定することで、より適切なレベルの不正位判定しきい値を設定できる。
【0081】
図5のラインL1に示すように、走行出力は、車速の3乗に比例することが発明者によって見出されている。例えば、不正改造により、車速センサ1で検出される車速が実際よりも低くなるように改ざんされた場合を想定する。このように、検出される車速が実際のより低くなると、検出される車速の増加に伴って走行出力が急激に増加することになる。図5に示すラインL3は、不正改造によって車速が実際より低くなるよう改ざんされた場合の、検出された車速と走行出力との関係を示す線である。正常時のラインL1は、不正改造により、ラインL3のように変形する。このように、車速の検出値に対する走行出力が異常に高くなると、走行出力が、検出された車速に応じて決まる不正判定しきい値Th1を越える。これにより、メモリの不正改造の疑い度合いを示す値が高くなる。さらに、走行出力が不正判定しきい値Th1を越えることが繰り返されると、不正改造と判断される。
【0082】
図5に示す例では、車速が増加すると、不正判定しきい値も増加する。ラインL2は、単調増加関数である。ラインL2は、3次関数であるが、不正判定しきい値と車速の関係は、1次関数で表されてもよいし、2次関数で表されてもよい。また、全車速域の全体を通じて、車速の増加とともに増加する傾向でありながらも、一部の車速域で、車速の増加に伴って増加しない区間があってもよい。
【0083】
図5に示すように、車速センサ1で検出される車速の増加に伴って不正判定しきい値Th1を高くすることで、広い車速域で、不正改造の判断のための比較処理が可能になる。例えば、不正改造がされた場合、ある車速V1で、走行出力PR1が、不正判定しきい値Th1(V1)を超える(PR1>Th1(V1))。この場合、不正改造の疑い度合いが高く判断される。この車速V1より高い車速V2(V2>V1)では、同じ走行出力PR1は、不正判定しきい値Th1(V2)を超えない(PR1<Th1(V2))。この場合、不正改造の疑い度合いが低く判断される。このように、V1、V2の両方で妥当な判断ができる。これに対して、不正判定しきい値が車速に関わらず一定である場合は、このように異なる車速V1、V2の両方で正しい判断をすることはできない。
【0084】
図6は、図3に示す処理において、メモリに記録される比較結果の時間推移の一例を示すグラフである。図6において、グラフの横軸は時間を、縦軸は不正改造の疑い度合いを示す値の累計値を示す。図6に示す例では、走行出力PRと不正判定しきい値Th1の比較結果が、PR>Th1である期間では、疑い度合いを示す値が増え、PR<TH1である期間は、疑い度合いを示す値が減る。疑い度合いを示す値が変化しない期間は、例えば、走行出力又は車速が0のため、比較処理を実行していない期間である。疑い度合いを示す値の累計値が、しきい値Th2を超えると、不正検出部7は、不正改造ありと判断する。すなわち、不正改造が検出される。この例では、走行出力PRが不正判定しきい値Th1を超える時間が、走行出力PRが不正判定しきい値Th1を超えないで補助力が発生している時間よりも、長く継続した場合に、不正検出部7が、不正改造ありと判断する。
【0085】
本実施形態では、車速センサ1の検出値が実際より小さくなるよう不正改造がなされた場合に、例えば、図5のように、検出される車速がV1且つ走行出力がPR1で一定時間継続して走行すると不正改造が検出される。一方、不正改造がなされていない場合、これと同じ走行出力PR1で、車速V1より高い車速V2(V2>V1)で、同様に一定時間継続して走行しても、不正改造は検出されない。このように、検出される車速に応じた適切な不正改造の判断が可能になる。
【0086】
<モータ制御装置の他の構成例>
図7は、モータ制御装置の構成の変形例を示す図である。図7の例では、モータ制御装置4は、電動補助自転車10に設けられた加速度センサ8で検出された加速度及びクランク軸回転センサ9で検出されたクランク軸回転数Crを、取得する。加速度センサ8は、車体フレーム11の前後方向の加速度ax、左右方向の加速度ay、及び上下方向の加速度azを検出する。これらの3方向の加速度のうち少なくとも1つを、モータ制御装置4が用いることができる。このように、モータ制御装置4は、車速V及び踏力T以外の検出された情報を取得し、処理に用いてもよい。
【0087】
モータ制御部5は、車速V及び踏力Tに加えて、クランク軸回転数Crを、モータ3の制御に用いてもよい。不正検出部7は、加速度及びクランク軸回転数Crをさらに用いて、不正改造の有無を判断することができる。なお、モータ制御装置4において、さらに利用できる情報は、図7に示す例に限られない。例えば、変速比、車体フレーム11の前後、左右及び上下方向の軸周りの角速度等の検出された情報が、モータ制御装置4で用いられてもよい。
【0088】
<不正改造検出処理の変形例>
図8は、不正改造を検出する処理の変形例を示すフローチャートである。図8は、図4に示す処理の変形例である。すなわち、図8は、図3に示すS2~S4の処理の変形例である。図8に示す処理は、設定された周期で繰り返し実行される。
【0089】
図8に示す例では、しきい値決定部6が、車速センサ1で検出された車速Vを取得する(S11)。不正検出部7が、加速度センサ8で検出された3方向の加速度ax、ay、azを取得する(S21)。
【0090】
不正検出部7は、車速Vが、予め決められた下限値Vd以上(V≧Vd)か否かを判断する(S22)。S22でNOすなわちV<Vdの場合は、しきい値決定部6及び不正検出部7は、以降の処理S23、S24、S12~S17を実行しない。すなわち、V<Vdの場合は、不正判定しきい値Th1及び走行出力PRを決定し、これらを比較する処理は実行されない。このように、車速Vが予め決められた範囲でない場合に、比較処理を実行しないことで、処理効率を向上させることができる。例えば、車速Vが、Vd以下の低速域である場合は、不正改造の検出の必要性やメリットが低い場合がある。必要性又はメリットが低い車速域で、比較処理を実行しないようにすることで、処理効率を高めることができる。
【0091】
S22でYESの場合、不正検出部7は、車速Vの変化量VAが予め決められた上限値VAu以下(VA≦VAu)か否かを判断する(S23)。S23でNOすなわちVA>VAuの場合は、しきい値決定部6及び不正検出部7は、以降の処理S24、S12~S17を実行しない。S23では、車速Vが一定か否か、が判断される。車速V変化量VAの上限値VAuは、車速Vが一定であると判断できる上限値が設定される。車速Vの変化量VAは、直近の一定期間における車速Vの変化量とすることができる。車速Vの変化量VAは、例えば、周期内で検出される車速Vの最高値と最低値の差であってもよい。或いは、車速Vの変化量VAは、周期内で検出される車速Vの微分値又は前後方向(進行方向)の加速度axであってもよい。
【0092】
不正検出部7は、車速Vが一定であると判断すると比較処理を実行し、車速Vが一定でないと判断した場合は、比較処理を実行しない。これにより、車速Vが一定である条件下の比較結果が、不正改造の判断に用いられることになる。電動補助自転車10の車速Vが一定でない時、例えば、電動補助自転車10が加速している時は、車速Vに対する走行出力PRが増加する。そのため、不正改造していないのに、車速Vに対する走行出力PRが高くなり、その車速Vにおける不正判定しきい値Th1を越える場合がある。比較処理を、車速が一定の条件下に限定することで、不正改造の誤検出が発生しにくくなる。
【0093】
なお、S23の処理の代わりに、例えば、車速Vが一定である場合の比較結果の重みを、車速Vが一定でない比較結果の重みより大きくすることで、同様に、誤検出の発生を抑えることができる。
【0094】
S23でYESの場合、不正検出部7は、ピッチ角Pが上限値Pu以下(P≦Pu)であるか否かを判断する(S24)。S24でNOすなわちP>Puの場合は、しきい値決定部6及び不正検出部7は、以降の処理S12~S17を実行しない。S24では、電動補助自転車10が、平坦な道を走行しているか否か、が判断される。ピッチ角Pの上限値Puは、電動補助自転車10が平坦な道を走行中であると判断できる上限値が設定される。ピッチ角Pは、例えば、加速度センサ8で検出された前後方向の加速度ax及び上下方向の加速度azを基に算出することができる。
【0095】
不正検出部7は、電動補助自転車10が平坦な道を走行中と判断すると比較処理を実行し、平坦でない道を走行中と判断した場合は、比較処理を実行しない。これにより、電動補助自転車10が平坦な道を走行中である条件下の比較結果が、不正改造の判断に用いられることになる。電動補助自転車10が平坦でない道を走行している時、例えば、電動補助自転車10が上り坂を上っている時は、車速Vに対する走行出力PRが増加する。そのため、不正改造していないのに、車速Vに対する走行出力PRが高くなり、その車速Vにおける不正判定しきい値Th1を越える場合がある。比較処理を、電動補助自転車10が平坦な道を走行中の条件下に限定することで、不正改造の誤検出が発生しにくくなる。
【0096】
図8における12~S17の処理は、図3のS12~S17と同様に実行することができる。図8に示す処理により、車速Vが一定であり、且つ、電動補助自転車10が平坦な道を走行していると判断される条件下における走行出力PRと不正判定しきい値Th1との比較結果に基づき、不正改造の有無を判断することが可能になる。
【0097】
なお、さらなる変形例として、図8において、比較処理を実行するか否かの判断する処理S22~S24のうち少なくとも1つを省略してもよい。また、S22~S24の他にも、比較処理を実行するか否かの条件が設定されてもよい。例えば、不正検出部7は、電動補助自転車10の振動量が上限値を超える場合は、比較処理を実行しないと判断してもよい。振動量は、例えば、加速度センサ8で検出される左右方向の加速度ay及び上下方向の加速度azの少なくとも1つに基づく値とすることができる。例えば、電動補助自転車10がオフロードを走行中は振動量が大きくなる。オフロード走行中は、車速Vに対する走行出力PRが大きくなる。振動量が大きい場合に比較処理を実行しないことで、走行出力PRが大きくなる条件下での比較結果が不正改造の判断に影響するのを避けることができる。
【0098】
また、不正検出部7は、変速比が1と判断できる条件下の比較結果に基づき、不正改造の有無を判断してもよい。例えば、図8において、不正検出部7は、変速比が1であると判断した場合に、比較処理(例えば、図8のS12~S17)を実行し、変速比が1でないと判断した場合に比較処理を実行しないようにしてもよい。これにより、車輪の回転を検出する車速センサを、クランク軸の回転を検出するように付け替える不正改造を、効率よく検出することができる。
【0099】
また、他の変形例として、図3又は図8に示す処理を実行する周期は、クランク軸回転数Crに応じて変化してもよい。例えば、クランク軸回転数Crが大きくなる程、図3又は図8の処理を実行する周期を短くすることができる。これにより、クランク軸回転の周期に合わせて、走行出力PR及び不正判定しきい値Th1を取得する周期を変化させることができる。これにより、クランク軸の回転周期内における踏力Tやモータ3の補助力PMの変動を平滑化した走行出力PRその他物理量の値が得やすくなる。なお、図3及び図8に示す例では、走行出力PRを取得する周期と、走行出力PRと不正判定しきい値Th1を比較する周期が同じであるが、これらの周期は異なっていてもよい。
【0100】
<不正改造検出時の動作例>
不正検出部7が、不正改造があると判断した場合、モータ制御部5は、不正検出時モードでモータ3を制御する。不正検出時モードでは、踏力Tに対するモータ3の補助力が、不正検出時モードでない場合(例えば、通常モード)に比べて制限される。例えば、不正検出時モードでは、モータ3の出力の上限を、通常モードに比べて低くすることができる。或いは、不正検出時モードでは、モータ3の出力制限を適用する車速域を、低速側へシフトしてもよい。
【0101】
モータ制御部5は、電動補助自転車10が、不正検出時モードで一定時間走行すると、不正検出時モードを解除することができる。不正検出時モードが解除される場合、不正検出部7は、メモリに記録された不正改造疑いを示す値をリセットしてもよい。或いは、不正検出部7は、不正検出時モードにおいても、走行出力PRと不正判定しきい値Th1の比較を実行し、メモリの不正改造の疑い度合いを示す値を更新してもよい。疑い度合いを示す値が許容範囲になった場合に。不正検出時モードを解除することができる。
【0102】
不正改造があると判断した場合、電動補助自転車10の表示装置37に、不正改造が検出されたことを示す情報が表示されてもよい。また、不正検出時モードの設定及び解除を示す情報が、表示装置37に表示されてもよい。
【0103】
<その他の変形例>
図1に示す例では、クランク軸41が駆動ユニット40を貫通しているが、クランク軸41が駆動ユニット40を貫通しない構成であってもよい。例えば、駆動ユニット40は、後輪22の車軸29の周り、又は前輪21の車軸27の周りに配置されてもよい。
【0104】
上記例では、車速センサ1は、電動補助自転車の走行に伴って回転する回転体の回転を検出する形態である。車速センサ1の形態がこれに限られない。例えば、電動補助自転車10の進行方向(車体フレーム11の前後方向)の加速度を検出する加速度センサを車速センサ1として用いてもよい。
【0105】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1:車速センサ、2:トルクセンサ、3:モータ、4:モータ制御装置、5:モータ制御部、6:しきい値決定部、7:不正検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8