(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ユーザの視野の低下の進行をモニタするための装置および同装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/16 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
A61B3/16
(21)【出願番号】P 2020519832
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2017064628
(87)【国際公開番号】W WO2018228690
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】519447905
【氏名又は名称】センシメド ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュルンド、マリオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリデル、ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】フリチ、ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ド モラエス、カルロス グスタヴォ
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334435(JP,A)
【文献】特表2014-516290(JP,A)
【文献】特開2016-101297(JP,A)
【文献】特表2011-521759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0076367(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0019136(US,A1)
【文献】特表2016-511107(JP,A)
【文献】特開2011-005261(JP,A)
【文献】特開2013-248312(JP,A)
【文献】中国実用新案第204654881(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの視野の低下の進行(VFP)が、所定の
速度以上である可能性をモニタする
装置の作動方法であって、
- 眼の上に置かれている連続着用センサを通して、一定の時間間隔で繰り返されるデータの取得を行うことで、眼の生体力学的特性(OBP)を測定する測定ステップ(S101)、
- ユーザの眼の生体力学的特性を、少なくとも1つのOBP時系列プロットの形でレコーダに記録する記録ステップ(S102)、
- 記録されたOBP時系列プロットから、単数または複数のOBPパラメータを抽出する処理ステップ(S103)、
- 抽出された1つまたは複数のOBPパラメータを追加のユーザメタデータと組み合わせてVFPの速度を計算する計算ステップ(S104)、
- VFPの速度が所定の閾値以上であるかどうかを決定するか、または前記VFPの速度が特定の範囲内に含まれる確率を決定する決定ステップ(S105)、
を有し、そして、視野の低下の進行が速いユーザと遅いユーザとを区別できる出力を提供することを特徴とする、ユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項2】
決定ステップ(S105)において、視野の低下の進行の閾値を0dB/年以下とすることを特徴とする請求項1記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項3】
処理ステップ(S103)において、第1の数量の第1次パラメータを抽出し、次いで、これらの第1の数量の第1次パラメータを組み合わせて、第1の数量よりも小さい第2の数量の第2次パラメータを提供することを特徴とする請求項1または2記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項4】
抽出されたOBPパラメータが、振幅と、最小値と、最大値と、標準偏差と、ピークの数と、勾配と、24時間OBPプロファイルの近似余弦曲線と、大きなピークの数と、平均ピーク比と、コサイン曲線の振幅と、覚醒から睡眠への傾きと、平均からの変動と、曲線下の面積と、それらの組み合わせとを含む群からの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項5】
計算ステップ(S104)において、抽出されたOBPパラメータおよび追加のユーザメタデータを、ロジスティックモデルを通じて結合することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項6】
追加のユーザメタデータを、最新のIOPデータと、年齢と、過去5年間に服用した薬剤の数と、最近の、視野についての平均欠陥とを含む群から取得することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項7】
連続着用センサが無線コンタクトレンズセンサであることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項8】
OBPデータをレコーダからコンピュータに転送するOBPデータダウンロードステップ(S106)をさらに有することを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項9】
OBPデータダウンロードステップが無線データ転送を行うことを特徴とする請求項8記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項10】
処理ステップ(S103)の前に、一貫性のない、または明らかに誤った測定データを削除することによりOBPデータをクリーニングするように適合されたクリーニングステップ(S107)をさらに有することを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項11】
決定ステップ(S105)の後に、視野の低下についての所定の速度またはそれを超える可能性、または視野
の低下の進行のリスクを示す信号を受信機に送信するための、結果を通信するステップ(S108)をさらに有することを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項12】
決定ステップ(S105)において、
網膜神経線維層(RNFL)の構造的変化が所定の速度以上である可能性を決定することを特徴とする請求項1記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載のユーザの視野の低下の進行をモニタする
装置の作動方法を実施するための装置であって、
- 眼の上に配置され、一定の時間間隔で繰り返しデータを取得して、眼の生体力学的特性(OBP)を測定するようにされた、連続着用センサと、
- ユーザの眼の生体力学的特性を少なくとも1つのOBP時系列プロットの形式で記録するように構成されたレコーダと、
- 記録されたOBP時系列プロットから単数または複数のOBPパラメータを抽出する処理ユニットと、
- 抽出された単数または複数のOBPパラメータと追加のユーザメタデータとの組み合わせに基づいてVFPの速度を計算する計算ユニットと、
- VFPの速度が所定の閾値以上であるかどうかを決定するか、または前記VFPの速度が特定の範囲内に含まれる確率を決定する決定ユニットとを有し、
視野の低下の進行が速いユーザと遅いユーザとを区別できる出力を提供するものであることを特徴とする、ユーザの視野の低下の進行をモニタする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の生体力学的特性(OBP:Ocular Biomechanical Properties)をモニタするための、および/または眼疾患を検出および/または診断および/または調査するための、装置および方法に関する。本発明は、特に、例えば眼内容積(IOV:Interocular volume)および眼圧(IOP:Interocular Pressure)を含む単数または複数のOBPをモニタし、また長期間にわたるOBPの変化をモニタするために、ユーザの目に配置することができ、かつこれらのOBPを使用してモニタ対象ユーザの視野の低下の進行を予測することができる装置を含むところの、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、網膜神経節細胞(RGC:Retinal Ganglion Cells)の喪失を特徴とする、進行性視神経障害の不均一な疾患群であり、最終的に視力の喪失とその後の不可逆的な失明につながる。緑内障性視覚障害は不可逆的である一方、疾患は治療可能であり、その進行を遅らせたり停止させたりすることができるため、早期診断と効果的な管理が重要である。この病気は、ほとんどの人でゆっくりと進行する。何年も無症状のままでゆっくりと進行するものもある。しかし、一部の人では病気の急速な進行を経験し、その人を視覚障害または失明の危険にさらす。
【0003】
緑内障の進行は、疾患の悪化、すなわち視神経細胞の死に伴う視野の追加的な損失をもたらす。臨床的に、進行は、視野の低下の進行(VFP:Visual Field Progression)を指す場合は機能的として、また網膜神経線維層(RNFL:Retinal Nerve Fiber Layer)の変化を指す場合は構造的として、それぞれ分類される。機能的変化と構造的変化の両方を経時的に評価して、変化の速度、したがって疾患の進行を、理解することができる。
【0004】
機能の進行は、視野(VF:Visual Field)テストで評価されるところの、ユーザの実際の視覚機能に関連する。各緑内障被験者からのシーケンシャルVFテストデータは、臨床診療における個人の緑内障のVFPの推定に基づいている。このように、VFPは、VFの低下の進行を一度示すと障害が不可逆的であることを知ったうえで、ユーザにおける低下の進行と進行速度(dB/年)とを推定するために、数か月および数年にわたる離散的な測定によって評価される。
【0005】
VFP測定の遅延を克服し、したがって不可逆的な損傷を回避する1つの方法は、IOPに基づいてVFPの可能性を推定することにあり、この点は緑内障の発生と進行についての唯一の修正可能なリスク要因である。しかし、疾患におけるIOPの役割は完全には理解されていない。特に、IOPに対する個々の感受性が異なるため、正常なIOPを持つかなりの数のユーザが緑内障を発症するかVFPを経験するのに対し、IOPが高い他のユーザは疾患の徴候を示さないかVFPがわずかである。これは、長期間にわたりIOPを離散的に測定するというシーケンスを緩和することができるというVFPの可能性を推定するものとしての、IOPの使用時の限界を構成するものである。
【0006】
VFPリスクを推定するためのさらなる手法は、眼球応答アナライザ(Ocular Response Analyzer(ORA))と呼ばれる。この技術は、生体力学的状態の指標として、角膜の粘弾性抵抗によって引き起こされる組織の出入りの遅延を測定するものである。この技術では、空気パルスによって眼に可変圧力が急速に加えられ、電気光学システムが角膜ヒステリシスのデータサンプルを取得する。この角膜ヒステリシスは、圧平の2つの瞬間において記録された圧力どうしの間で測定された差のことを意味する。この手法は、角膜代償性IOP、角膜抵抗係数、ゴールドマン相関IOPに関する情報も提供する。ただし、この手法は、主に研究ツールとしてのみ使用される。
【0007】
IOPをある期間にわたって測定する装置が、当該技術分野において知られている。これらの装置は、通常、IOPを連続的に測定するための圧力センサを備えている。このセンサは、例えば、生体を傷付けないようにしてユーザの目に配置されるコンタクトレンズまたはユーザの目に取り込まれる支持部材に、埋め込まれる。これらの装置は、一定期間にわたって所定間隔でセンサからIOPデータを取得するための、受信ユニットと遠隔測定システムとをさらに備えている。測定され記録されたIOP値は、たとえば必要に応じて平均化および/またはフィルタリングされて、医師によって解釈される。それは、眼圧の上昇を、徐々に視力が失われることを示すVFPにつながる可能性のある、追加的な危険因子として検出するためである。
【0008】
先行技術に記載されているシステムは、例えば、1秒あたりにいくつかのIOP値を測定することを数秒間にわたって行い、この測定サイクルを、特定の期間、通常最大24時間にわたって、数分ごとに実行するように構成されている。これは、IOPについての昼夜一日間のまたは夜間のプロファイルを取得するために実行される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、24時間にわたって適切に測定することは、個々のユーザにおいて使用したり、臨床現場において頻繁に使用したりするときに、時間がかかり、高価で、非実用的である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、これらの問題に対処して、OBPに関連するプロファイルを24時間記録するときに、モニタリング時のVFPの特定のレートおよび/またはリスクまたはそれを超える可能性を決定するための特徴を提供するための装置および方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、OBPをリアルタイムでしかも高解像度で測定する装置および方法を提供することにあり、このOBPには、例えば、IOPプロファイル、まばたき、および/または迅速な眼球運動が含まれる。ただし、これらに限られるものではない。
【0012】
最近、生体を傷付けない手法または生体を最小限にしか傷付けない手法によってほぼ連続的な測定を行う装置を用いて、24時間のOBP推定が可能になった。そのような装置の一つとして、IOPに関連する眼球寸法の変化のパターンとプロファイルとを記録する、コンタクトレンズセンサ(CLS:Contact Lens Sensor)システムがある。内蔵センサは、眼圧と体積の変化により生じる角膜強膜縁の自然な円周方向の変化をとらえる。CLS出力信号の平均24時間パターンは、平均24時間眼圧曲線と関連する。
【0013】
最近、本発明者らは、CLS信号から派生した特定のOBPが、VFPを経験しているユーザに関連付けられていることを発見した。さらに、1日の間に取得されたこの特徴は、長年にわたって複数回行ったIOPの測定よりも、VFPについての優れた予測因子であった。したがって、本発明の別の目的は、例えば緑内障などの眼疾患を診断するために記録されたデータを計算および分析するための装置および方法を提供すること、および/または、視覚的な損傷が発生する前にIOPによって提供される予測のレベルを高めるために、VFPの可能性を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的および他の利点は、それぞれの独立請求項による装置および方法によって達成される。
【0015】
以下においては、次の用語が使用される。
【0016】
眼の生体力学的特性(OBP):眼圧(IOP)、眼内容積(IOV)、角膜剛性、角膜の厚さ、眼の幾何学的寸法および/または眼の温度など。より一般的には、特定の濃度のような非生体力学的な、眼の特性。
【0017】
OBPデータから得られる眼の生体力学的特性(OBP):OBPデータとしては、振幅、最小値、最大値、標準偏差、ピークの数、勾配、24時間OBPプロファイルの近似余弦曲線、大きなピークの数、平均ピーク比、コサイン曲線の振幅、覚醒から睡眠への傾斜、平均からの変動、曲線下の面積、またはそれらの組み合わせ。
【0018】
連続着用センサ:継続的に眼に装着または埋め込まれているセンサ。
【0019】
視野の低下の進行(VFP):視野の低下の速度。ほとんどの場合、経時的な平均欠陥の傾きとして表される。
【0020】
ユーザ:ここでのユーザという用語は、緑内障患者、またはセンサを着用した健康な被験者の両方を指す。
【0021】
本発明の第1の態様は、ユーザの視野の低下の進行(VFP)が、所定の速度以上である可能性をモニタする装置の作動方法であって、次のステップを有し、
- 眼の上に置かれている連続着用センサを通して、一定の時間間隔で繰り返されるデータの取得を行うことで、眼の生体力学的特性(OBP)を測定する測定ステップ、
- ユーザの眼の生体力学的特性を、少なくとも1つのOBP時系列プロットの形でレコーダに記録する記録ステップ、
- 記録されたOBP時系列プロットから、単数または複数のOBPパラメータを抽出する処理ステップ、
- 抽出された1つまたは複数のOBPパラメータを追加のユーザメタデータと組み合わせてVFPの速度を計算する計算ステップ、
- VFPの速度が所定の閾値以上であるかどうかを決定するか、または前記VFPの速度が特定の範囲内に含まれる確率を決定する決定ステップ、
そして、視野の低下の進行が速いユーザと遅いユーザとを区別できる出力を提供することを特徴とする。
【0022】
有利なことに、この方法においてVFPは、数か月または数年にわたって視野などの個々の測定のシーケンスを収集する代わりに、追加のメタデータと組み合わせて、例えば24時間続く単一の測定期間にて推定することができる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、処理ステップの間に55個のOBPパラメータを抽出し、次いで線形結合により組み合わせて4つの最終パラメータを得る。
【0024】
抽出されたOBPパラメータが、振幅と、最小値と、最大値と、標準偏差と、ピークの数と、勾配と、24時間OBPプロファイルの近似余弦曲線と、大きなピークの数と、平均ピーク比と、コサイン曲線の振幅と、覚醒から睡眠への傾きと、平均からの変動と、曲線下からの面積と、それらの組み合わせとを含む群からの少なくとも1つであることで、有利にも、OBPの生データを、パラメータが削減されたセットに統合することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、計算ステップにおいて、抽出されたOBPパラメータを追加のユーザメタデータと組み合わせる。好ましくは、抽出されたOBPパラメータおよび追加のユーザメタデータを、ロジスティックモデルを通じて結合する。これにより、VFP評価に加えて、OBPパラメータの意味を医療従事者に簡単に説明することができる。
【0026】
有利なことに、追加のユーザメタデータは、最新のIOPデータと、年齢と、過去5年間に服用した薬剤の数と、最近の、視野についての平均欠陥とを含む群から取得される。これにより、現在のユーザの病気の状態についての可能な限り最良の説明が得られる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、連続着用センサが、SENSIMED Triggerfishなどの無線コンタクトレンズセンサである。
【0028】
本発明の方法が、OBPデータをレコーダからコンピュータに転送するOBPデータダウンロードステップをさらに有すると有利である。これにより、医療従事者は、記録されたOBPデータを、通常のコンピュータ環境に保存して確認することができる。
【0029】
好ましくは、ダウンロードステップは、無線データ転送で構成される。このようにすれば、ケーブルの数が削減される。
【0030】
本発明の方法が、処理ステップの前に、質の悪い測定データを削除することによりOBPデータをクリーニングするように適合されたクリーニングステップをさらに有することが好ましい。これにより、OBPデータ品質の低下による、誤ったVFP評価を削減または回避することができる。
【0031】
本発明の方法が、計算ステップの後に、一定のVFP以上である可能性を示す信号を受信機に送信するための、結果を通信するステップをさらに有することが、有利である。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の方法が、コンピュータで実施される方法である。この実施形態は、特に、複雑なCPU集約型アルゴリズムの実行に適している。
【0033】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の方法を実行するための装置であって、
- 眼の上に配置され、一定の時間間隔で繰り返しデータを取得して、眼の生体力学的特性(OBP)を測定するようにされた、連続着用センサと、
- ユーザの眼の生体力学的特性を少なくとも1つのOBP時系列プロットの形式で記録するように構成されたレコーダと、
- 記録されたOBP時系列プロットから単数または複数のOBPパラメータを抽出する処理ユニットと、
- 抽出された単数または複数のOBPパラメータと追加のユーザメタデータとの組み合わせに基づいてVFPの速度を計算する計算ユニットと、
- VFPの速度が所定の閾値以上であるかどうかを決定するか、または前記VFPの速度が特定の範囲内に含まれる確率を決定する決定ユニットとを有し、
視野の低下の進行が速いユーザと遅いユーザとを区別できる出力を提供するものであることを特徴とする。
【0034】
本発明のこのシステムについての特定の利点は、本発明の第1の態様の方法の利点と類似しているため、ここでは繰り返し記載しない。
【0035】
初めて、本発明のおかげで、VFPの予測は、過去の視野データの時系列の測定(例えば、9/12か月間隔での複数の測定)に基づいていないが、OBPの表現であるデバイス関連の24時間信号から抽出された、いくつかのメタデータおよびパラメータと組み合わせたところの、視野についての1つの単一測定から計算される。。
【0036】
次に、上記のデータは、特定の視野の低下の進行(VFP)以上になる可能性を計算するツールを、医療従事者に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の方法の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
【
図2】本発明にもとづくOBPセンサの好ましい実施形態を概略的に表す図である。
【
図3】本発明の装置の好ましい実施形態を概略的に表す図である。
【
図4】本発明の方法に従って使用される測定データを表すところの、OBP時系列プロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のさらなる特定の利点および特徴は、添付の図面を参照する本発明の少なくとも1つの実施形態についての、以下の非限定的な説明から、より明らかになる。
【0039】
以下における詳細な説明は、本発明を非限定的な方法で例示することを意図する。なぜなら、以下の実施形態のいずれの特徴も、有利な方法によって、異なる実施形態における他の特徴と組み合わせることができるためである。
【0040】
以下の実施形態に関し、本発明は、眼の1つ以上の生体力学的特性(OBP)を測定および/またはモニタする装置および方法に関する。生体力学的特性(OBP)を測定および/またはモニタするのは、例えば、様々な事態や状況に対するユーザの眼の反応を決定するためである。ここにいう様々な事態や状況としては、たとえば、瞬き刺激、IOVおよび/またはIOPの脈動、睡眠中の急速な眼球運動、薬物の使用、ユーザの身体活動などが挙げられる。上記の決定のために、少なくとも1つのOBPを測定できる連続着用システムが用いられる。ここにいうOBPは、例えば、眼圧、角膜曲率、および/または目の微小変位を含む。しかし、これらに限定されない。この測定は、測定される少なくとも1つのパラメータの変化の頻度の少なくとも2倍の頻度で、たとえば少なくとも10ヘルツで、長時間にわたって行われる。以下の実施例においては、本発明についてさらに、アルゴリズムを有するコンピュータ、または測定データを表示、分析、処理するために同コンピュータに格納されるコンピュータプログラムを説明する。このコンピュータプログラムは、例えばこのコンピュータプログラムがコンピュータにおいて実行されるときに眼の状態に関する重要な情報を与えるものである。
【0041】
図1は、本発明の第1の態様を表す。これは、ユーザの視野の低下の進行(VFP)を予測するための方法、および/またはユーザの視野の低下の進行が特定の速度および/またはリスク以上である可能性を決定するための方法である。
【0042】
好ましくはコンピュータにて実行される方法である本発明の方法は、連続着用センサ、好ましくは眼球上に配置または眼球内に埋め込まれた無線コンタクトレンズセンサを介して、眼の生体力学的特性(OBP)を測定することを含む測定ステップS101を有する。この測定は、一定の時間間隔で繰り返されるデータ収集を含む。好ましくは、所定の測定頻度は、モニタされる少なくとも1つのOBPの変動の頻度の2倍以上である。したがって、所定の測定頻度は、例えば、最終モニタ性に依存する。所定の頻度は、例えば、測定された少なくとも1つのOBPの変動を誘発する事象についての既知の頻度または想定される頻度に依存する。
【0043】
好ましい実施形態では、所定の頻度は、少なくとも1つのOBPの変動についての正確かつ詳細な表現を可能にするように、選択される。したがって、所定の測定頻度周波数は、例えば10から20Hzの範囲であり、これは、短時間における少なくとも1つのOBPの変動、たとえばIOVおよび/またはIOPの脈動の変動を、正確に表現できるようにするためのものである。
【0044】
少なくとも1つのOBPは、例えば、分析が必要な少なくとも1つのOBPの変動および/または行う必要のある診断に応じて、例えば秒、分または時間などの期間にわたって所定の頻度で測定される。実施の形態では、少なくとも1つのOBPは、例えば数秒または数分などの限られた期間にわたって所定の頻度で測定される。この制限された測定期間は、たとえば一定の間隔で、または特定の出来事の発生時などのトリガーによって、繰り返される。
【0045】
したがって、本発明の方法により、ユーザが眠っている夜間を含む長期間にわたって、少なくとも1つのOBPの変動を正確にモニタすることが可能になる。
【0046】
測定ステップの後に、記録ステップS102が続く。この記録ステップは、記録器における少なくとも1つのOBP時系列プロットの形でユーザのOBPを記録することを含む。
【0047】
処理ステップS103が実行されると、記録されたOBP時系列プロットから、複数のOBPパラメータのうちの少なくとも1つが抽出される。次に、計算ステップS104が実行されると、複数のOBPパラメータのうちの少なくとも1つが、VFPの比率および/またはリスクに関連付けられる。そして最終的に決定ステップS105が実行されると、視野低下の進行が特定のVFP閾値以上であるかどうかが決定され、および/または、視野低下の進行が特定の範囲内に含まれる確率が決定される。この特定の範囲について、好ましくは、視野低下の進行速度が-1.0dB/年以下、好ましくは0dB/年以下である場合に、視野の進行が速いと判定する。本発明の好ましい実施形態によれば、処理ステップS103は、55個のパラメータを抽出し、次いでそれらは線形結合により再び結合されて4つの最終パラメータを提供する。これらの抽出されたOBPパラメータというのは、振幅、最小値、最大値、標準偏差、ピークの数、勾配、24時間OBPプロファイルの近似余弦曲線、大きなピークの数、平均ピーク比、コサイン曲線の振幅、覚醒から睡眠への傾き、平均からの変動、曲線下からの面積、またはそれらの組み合わせを含む群からの少なくとも1つとすることができる。
【0048】
決定ステップを明確に説明するために、この決定ステップについての3つの例を検討する:
【0049】
- 第1の例によれば、決定ステップは、患者が-1.0dB/年よりも小さい/大きいVFPを有する確率を決定する。そのような例では、処理ステップおよび計算ステップのおかげで、VFPが-1.0dB/年よりも小さい確率が65%であると、決定ステップが決定する場合、この方法は、ユーザが進行の速い者であると表示する。すなわち、VFPが悪化している。
【0050】
- 第2の例によれば、決定ステップは、視野低下の進行が特定のVFP閾値以上であるかどうかを決定するのではなく、VFPを決定し、さらにVFPが特定の範囲内にある確率(信頼区間または最大標準偏差)を決定する。このような例では、決定ステップは、まず、処理および計算ステップのおかげで、VFPがたとえば-0.82dB/年であると決定し、次に-0.67~-0.94dB/年の信頼区間内にある確率が95%であると決定する。
【0051】
- 第3の例によれば、決定ステップは、上記の2つの例を組み合わせて、最初に、VFPと、VFPが特定の範囲内にある確率(信頼区間または最大標準偏差)を決定し、それに基づいて視野低下の進行が特定のVFP閾値以上であるか否かを決定する。このような例では、決定ステップは、まず、処理および計算ステップのおかげで、VFPがたとえば-0.82dB/年であると決定し、次に-0.67~-0.94dB/年の信頼区間内にある確率が95%であると決定し、そして最後に、これに基づいて、VFPが-1.0dB/年を超える確率が98%であると決定し、ユーザは進行の遅い者であるとされる。
【0052】
より具体的には、24時間にわたるOBPデータと、その期間中の視野の平均偏差変化またはVFPの割合との関係を計算するために、ユーザは24時間モニタを受ける。個々のOBPデータは、好ましくは局所的に重み付けされた散布図平滑化変換を使用して平滑化される。ピークは、平滑化されたOBP信号関数の極大点として定義される。ピークの数の計算は次のとおりである:各トラフはピークの開始と見なされる。前のトラフから極大までのOBP信号値の増加を、高さと呼ぶ。トラフから極大までの経過時間は、ピークまでの時間とも呼ばれる。以下のパラメータが使用される。
【0053】
- 大きなピーク(高さが90mV eq以上のピーク)の数:非常に小さくかつ頻繁に発生する可能性があるが臨床的解釈がほとんどないピークと、アーティファクト(artifact)の結果であるところの、可能性が低い大きなピークとを区別するものである。
【0054】
- 平均ピーク比(ピーク到達時間までの平均ピーク高さ):このパラメータは、ピークの大きさだけでなく、ピークの発生速度も考慮したものである。平均ピーク比が高いということは、緑内障にとってより有害である可能性があるところの、潜伏時間が短いピークを示唆している。
【0055】
- 覚醒から睡眠への勾配(被験者が睡眠に入った時刻の1時間前から1時間後までの線形回帰によってモデル化されたOBP信号からの勾配):覚醒から睡眠への勾配が大きいことは、夜間に発生する信号の生理学的増加が大きく、潜時が短いことを示唆しており、これらも緑内障に有害である可能性がある。
【0056】
- コサイン曲線の振幅:このパラメータは、次の式を使用してOBPデータに適合したコサインモデルに基づくものである。
【0057】
【0058】
ここで、yは時刻tで観測された信号であり、b0、b1、b2は、データから推定された回帰係数である。振幅は、コサインフィット曲線の最大値と最小値との差を2で割った値である。これは、測定期間中における信号の振れの大きさについての全体的な推定値である。
【0059】
- 平均からの変動:このパラメータは、それぞれの期間におけるすべての生データの平均値からの、OBP信号の変動として計算される。
【0060】
【0061】
ここで、nは記録期間中のOBP測定数、OBPoiは観測されたOBP信号、OBPMは記録期間中のOBP信号の平均である。このパラメータは、テスト期間中におけるOBP信号の変動量を反映している。
【0062】
- 曲線よりも下の面積:このパラメータは、平滑化されたOBPデータを使用して計算される。平滑化されたデータは、期間の開始時の値が0になるように、標準化される。面積は、平滑化された輪郭と、y=0における基準線との間の面積の合計として計算される。そのとき、基準線よりも下の面積は負であるとされ、また、すべての値は期間の長さ(つまり、時間)で割り算される。このパラメータは、OBP信号の大きさと、OBP信号が基準線より上に留まる期間とを反映する。
【0063】
各パラメータについて、ユーザが眠っている期間または起きている期間を表す値を取得する。
【0064】
次に、本発明の好ましい実施形態によれば、計算ステップS104において、抽出されたOBPパラメータは、ロジスティックモデルを通じて、追加のユーザメタデータと組み合わされる。追加のユーザメタデータは、最新のIOPデータと、年齢と、過去5年間に服用した薬剤の数と、最近の、視野についての平均欠陥とを含む群から取得される。
【0065】
処理および計算のステップは、処理ユニットが組み込まれている場合はレコーダで行うことができる。または、本方法は、OBPデータを、レコーダからコンピュータに、好ましくはワイヤレスで転送するための、OBPデータダウンロードステップS106をさらに含む。コンピュータは、上記の手順を実行するための処理ユニットを備える。そして、本方法が、処理ステップS103の前に、質の悪い測定データを削除することによりOBPデータをクリーニングするように適合されたクリーニングステップS107をさらに含み得ることを、考慮すべきである。品質が悪いとは、一貫性のない、または明らかに誤りのあるデータを意味する。
【0066】
最後に、本方法は、決定ステップS105の後に、特定のVFP以上の可能性、すなわちVFPについての特定の速度および/またはリスクを示す信号を受信機に送信するための、結果を通信するステップS108をさらに含む。
【0067】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のプロセスを実行する無線OBPセンサによって測定されたIOVおよび/またはIOPの変化に基づいて、ユーザのVFPを予測するためのシステムに関する。このシステムは、一定の時間間隔で繰り返しデータを取得しながら、好ましくは24時間の間に眼の生体力学的特性(OBP)を測定するように構成された、眼の上に配置または眼に埋め込まれた連続着用式センサと、少なくとも1つのOBP時系列プロットの形でユーザのOBPを記録するように構成されたレコーダと、記録されたOBP時系列プロットから複数のOBPパラメータのうちの少なくとも1つを抽出する処理ユニットと、複数のOBPパラメータの少なくとも1つをVFPの速度および/またはリスクに関連付ける計算ユニットと、視野の低下の進行が特定の範囲内に含まれることでVFPの特定の速度および/またはリスク以上となる可能性を決定するために、視野の低下の進行が特定のVFP閾値および/または特定の確率以上であるかどうかを決定する決定ユニットとを備える。
【0068】
より具体的には、
図2は、本発明の実施形態による、眼の生体力学的特性(OBP)の少なくとも1つをある期間にわたって測定するための装置1の例を概略的に示している。装置1は、例えば、IOPおよび/またはIOPの変化などのOBPを測定するように適合された、少なくとも1つのセンサ2を備える。センサ2は、好ましくは固定的に、支持体3に取り付けられている。支持体3は、センサ2が対応するパラメータを測定できるように、センサ2をユーザの目と直接的または間接的に接触させる。図示の実施形態では、支持体3はコンタクトレンズ、例えばソフトコンタクトレンズであり、センサ2は、例えばコンタクトレンズに埋め込まれ、従来のコンタクトレンズのようにユーザによって着用されたときに、眼の表面と直接的または間接的に接触するように配置される。
【0069】
他の実施形態では、デバイスは、少なくとも1つのOBPを測定するために眼に埋め込むことができる埋め込み可能なデバイスであり得る。したがって、支持体は目に埋め込まれるように構成される。
【0070】
センサ2は、少なくとも1つのOBPを測定するように構成された任意のタイプのものである。図示された例では、センサ2は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System:微小電気機械システム)の形態の圧力センサである。例えば、抵抗または誘導電荷の変化を生成するダイアフラムと圧力キャビティとを備えて、ダイアフラムに加えられた圧力による歪みを検出するためのピエゾ抵抗式圧力センサまたは圧電式圧力センサである。しかしながら、他のタイプのセンサ、例えば、排他的ではないが、他のタイプの圧力センサが、本発明の範囲内で適用可能である。実施形態では、センサは、例えば、コンタクトレンズ、好ましくはソフトコンタクトレンズの形態の支持体に埋め込まれた、少なくとも1つの能動的なひずみゲージと少なくとも1つの受動的なひずみゲージとを使用したひずみセンサであり、これによりIOVおよび/またはIOPの変化が精密かつ正確に測定される。
【0071】
図示された実施形態では、本装置は、マイクロコントローラ5と、通信手段4、例えば装置1からおよび/または装置1への無線通信が可能なアンテナとを、さらに備える。マイクロコントローラ5は、例えば、センサ2に電力を供給し、センサ2から、少なくとも1つの測定されたパラメータの値に対応する測定データを読み取り、任意選択的に少なくとも一時的に、測定データを保存し、および/または、通信手段4を介して測定データを送信する。例えば、アンテナを介して測定データを外部装置に無線送信する。他の実施形態では、通信手段は有線通信手段を含む。通信手段4およびマイクロコントローラ5は、好ましくは支持体3に固定的に取り付けられる。例えば支持体3に埋め込まれる。
【0072】
図3は、本発明の実施形態による、眼の生体力学的特性(OBP)の少なくとも1つをモニタするための、および/または眼疾患を検出および/または診断するための、システムの例を概略的に示す。
【0073】
このシステムは、例えば、
図2に関連して上述したような、例えばOBPセンサを備えたソフトコンタクトレンズの形態の測定装置1と、測定装置1との間で通信し、および/またはモニタ期間中に収集された情報を格納するための携帯式の記録装置6と、この携帯式の通信装置6によって収集および格納されたデータを格納、分析、計算および/または表示するための例えばコンピュータであるところの計算装置7と、を備える。
【0074】
携帯式の記録装置6は、OBP測定装置1と通信するための第1の通信インターフェースを備える。
【0075】
第1の通信インターフェースは、例えば、測定装置1がユーザに着用されたときに測定装置1の近くに有利に配置されるアンテナ63を含む、無線通信インターフェースである。アンテナ63は、例えば、図には示されていない眼鏡、および/または、図には示されていない、モニタ期間中にユーザが着用する例えば使い捨ての柔軟で低刺激性のパッチに組み込まれる。しかしながら、本発明の範囲内において、測定装置1が使用者によって着用されたときに測定装置1から適切な距離にアンテナ63を配置するための他の手段が適用可能である。
【0076】
ポータブル記録装置6は、計算装置7と通信するための第2の通信インターフェースをさらに備える。
【0077】
本発明の実施形態によれば、少なくとも1つのOBPをモニタするとき、ユーザは、例えば、従来のコンタクトレンズのようにコンタクトレンズの形の支持体を自分の眼に設置することによって、または片方の眼にあらかじめ移植された形で測定装置を保持することによって、測定装置1を着用する。そしてユーザは、携帯式の記録装置6を、例えばポケットに入れたり首に掛けたりして持ち運ぶ。アンテナ63は、測定装置1と記録装置6との間に第1の通信チャネル150を確立するために、例えば無線通信チャネルを確立するために、測定装置1を着用しているユーザの眼のできるだけ近くに配置される。無線通信の場合、アンテナ63は、好ましくは測定装置1のアンテナの面に可能な限り平行な面に向けられる。これは、例えば近距離誘導通信チャネルであるところの通信チャネル150を介して、マイクロコントローラおよび/またはOBPセンサの効率的な給電を可能にするためである。アンテナ63は、例えば、眼鏡および/または眼を囲むパッチ、例えば、使い捨ての柔軟で低刺激性のパッチに組み込まれている。および/または、帽子、またはユーザが着用する他の衣服またはアクセサリーに組み込まれている。好ましくは、アンテナ63は、測定装置1と携帯式の記録装置6の両方がユーザによって着用されている場合、測定装置1のアンテナの中心に対応する位置に設置される。携帯式の記録装置6のアンテナ63の直径は、測定装置1の直径よりも大きいことが好ましい。携帯式の記録装置6のアンテナ63の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、多角形、または他の適切な形状である。携帯式の記録装置6のアンテナ63の形状は、例えば、このアンテナが取り付けられる眼鏡、パッチ、衣服などのデバイスの形状に適合されることが好ましい。
【0078】
実施形態によれば、携帯式の記録装置6は、少なくとも1つのOBPをモニタしながら、例えば規則的な時間間隔で第1の通信チャネル150を介して測定装置1に電力を供給する。また携帯式の記録装置6は、例えば測定装置1のアンテナを介したうえでマイクロコントローラによって送信されたデータを、収集する。
【0079】
収集されたデータは、例えば、センサからの電気信号を含み、および/または、例えばセンサの電気信号に基づいて測定装置1のマイクロコントローラによって計算されたところの、少なくとも1つの、モニタされたOBPの値を含む。実施形態において、収集されたデータは、携帯式の記録装置6の内部メモリに格納される。
【0080】
少なくとも1つのOBPは、例えば、所定の頻度で測定される。
【0081】
ある瞬間に、例えば1日1回、1週間に1回、または1か月に1回、ユーザおよび/また医師は、携帯式の通信装置6を、コンピュータ装置7(例えばコンピュータ)に、例えば無線通信チャネルであるところの、第2通信チャネル160を介して接続する。この無線通信チャネルは、例えば、Bluetooth、Wi-Fiまたは任意の他の適切な無線通信チャネルなどである。しかしながら、第2の通信チャネル160は、任意の適切な有線通信チャネルであってもよい。携帯式の記録装置6がコンピュータ装置7に接続されると、携帯式の記録装置6の内部メモリに収集され保存されていたデータは、さらなる分析、例えば眼球の生体力学的特性(OBP)のモニタリング、および/または、眼疾患の検出および/または診断および/または調査のために、第2通信チャネル160を介してコンピュータ装置7に転送される。
【0082】
実施形態において、データ分析および/または対応する決定の少なくとも一部は、コンピュータ装置7において実行される1つ以上のコンピュータプログラムの助けを借りて、またはダウンロードしたデータの少なくとも一部をコンピュータ装置が送信する外部サーバ上で実行される1つ以上のコンピュータプログラムの助けを借りて、またはクラウドコンピューティングを通じて、自動的に実行される。検出、診断、制御、決定、および/または適合は、特にモニタ期間中に測定された少なくとも1つのOBPの変動を少なくとも部分的に自動的に分析することにより、実行される。実施形態において、経時的に測定された変動は、例えば、健康なまたは標準的な眼などについての少なくとも1つのOBPに対応する典型的な変動スキームと比較される。測定されたスキームとサンプルスキームとの間の有意差は、眼科疾患またはその進行を診断するために、例えば自動的に検出および/または分析される。少なくとも1つのOBPについてモニタされた測定値、および/または健康な目または標準的な目についての典型的な値は、例えば、少なくとも1つのOBPの値を縦軸に取るとともに時間を横軸に取った二次元グラフにおける1つ以上の曲線として表示される。
【0083】
本発明を完成させるために、本発明者らは、13か国の50のセンターからのデータをまとめた。このとき、各センターの有資格機関によって承認された、さまざまな前向きの研究またはレジストリの一部として、コンタクトレンズセンサー(CLS)によってOBPの記録が行われた。
【0084】
ユーザは、特にヨーロッパおよび米国で、臨床使用が承認されているワイヤレスCLSで24時間の記録セッションを受ける必要がある。このデバイスは、角膜強膜接合部で測定される眼球の寸法変化がIOVおよびIOPの変化に対応すると想定される新しいアプローチに基づく。コンタクトレンズに埋め込まれたマイクロプロセッサは、コンタクトレンズに埋め込まれたひずみゲージの出力信号に比例した出力信号を送信する。ワイヤレス方式による電力とデータとの移送は、ケーブルが携帯式の記録装置に接続されているところの、パッチ付き眼窩周囲アンテナを使用して、実現される。このデバイスは、IOVの変更を最大24時間記録でき、就寝中も動作したままである。30秒間の測定期間中に300個のデータ点が取得され、これが5分ごとに繰り返される。この技術を、以下において詳細に説明する。
【0085】
図4の出力から導出できる多数のOBPパラメータ(N=55)がある。これらのパラメータは、最初の55のパラメータを線形結合することで取得される4つの最終OBPパラメータとなる。
【0086】
平均偏差(MD:mean deviatuion)の勾配(dB/年)は、MDと時間の関係をテストする混合効果線形モデルに従って、最良の線形不偏予測(BLUP:best linear unblased prediction)にて計算される。混合効果モデルは、残差の相関性を考慮しているため、視野テスト結果の繰り返し測定などの縦断データ点の分析の場合に、通常の最小二乗モデルよりも適切である。次に、各最終パラメータとバイナリロジスティックモデルを使用した高速進行の可能性との関係を使用する。-1.0dB/年のカットオフ値が設定され、高速プログレッサーが定義される。4つの最終OBPパラメータは、次の潜在的な交絡因子を含む多変数モデルでテストされる:CLS記録時の年齢、記録日に最も近い視野MD値、眼圧降下薬の数、視野テスト期間中の手術(レーザおよび切開)。統計分析は、市販のソフトウェア(STATA バージョン14、StataCorp LP、College Station,TX)を使用して実行される。統計的有意性は、P<0.05で定義される。
【0087】
本発明の仮説は、OBPパラメータから得られる特徴の組み合わせが、緑内障が治療されたユーザの視野の低下の進行速度に関連するというものであった。単一の24時間の記録期間中に取得されたOBPパラメータの組み合わせは、視野の低下進行が速いユーザと遅いユーザとを区別する重要な能力を持ち、そのような能力は、フォローアップ期間全体にわたってGATで測定された平均IOPであるところの現在のゴールドスタンダードの予測値に匹敵することが発見された。
【0088】
4つの最終OBPパラメータのうち、2つは、年齢、治療、疾患の重症度などの潜在的な交絡因子を考慮した後でも、速やかな視野の低下の進行と有意に関連していた。最大負荷時のOBPパラメータは、これら2つのパラメータのうちの最初のものについての夜間ピークおよびバーストに関連するものと、長いピーク、覚醒から睡眠への傾斜、およびこれら2つのパラメータの2番目についての眼球パルス振幅の変動に関連するものとであった。これらの発見は、睡眠時のIOPピークと、収縮期および拡張期血圧に関連するIOP変動とに相関するOBPパラメータが、緑内障の進行の病因に作用を果たす可能性があることを示唆している。
【0089】
緑内障性損傷の進行性で不可逆的な性質を考慮すると、リスク評価は、臨床的意思決定において重要な役割を果たす。視野の低下についてのより速い進行を経験しているユーザは、治療法の変更が行われない場合、より速い速度での進行が続く可能性が高くなる。将来の視野の結果を推定する方法の1つは、既存の視野データを使用することである。これは、線形変化を仮定した場合、初期の変化率が将来の傾斜に対して有意な予測能力を持つためである。実際、過去の視野の低下の進行率は、平均8年間追跡された緑内障を持つユーザについての、将来の視野結果を予測することができる。フォローアップの前半の変化率を使用して、10以上の視野テストのシーケンス全体を予測することにより、70%のユーザについて、推定最終VFIの±10%以内の最終視野指数(VFI)を予測することができる。さらに、前半とシーケンス全体とのVFI勾配の相関係数は、0.84である。本発明に移し変えると、OBP記録の前に進行が速いとみなされるユーザは、将来において、より速い進行を維持する可能性が高い。それにもかかわらず、臨床診療では、将来の結果を推定するために既存の視野の低下の進行の変化率が常に利用できるとは限らない。したがって、本発明は、24時間のOBP記録が以前の進行率と有意に相関し、このため、十分な視野情報の履歴が利用できない状況であっても、将来の機能喪失のリスクを評価するのに役立つことを示すものである。
【0090】
さらに、IOPは、緑内障視野の進行を防止または遅らせる唯一の実証済みの修正可能なリスク要因である。OBPパターンはIOPパターンと強く相関しているため、24時間システムでIOPの変動性をモニタすると、緑内障にとって有害である可能性があり、しかも営業時間内に行われる単一の測定では見落とされがちな、IOPのピークと変動とについてのより包括的な評価が得られる。実際、本発明は、概日のIOP関連リズムを捕捉する単一の24時間セッションが、数年にわたる追跡でのGATによる複数のIOPの測定と同様に、視野の低下の進行速度に関する同様の情報を提供することを示している。24時間OBP記録を複数実行すると、提供される情報が複数の縦方向のトノメトリー測定の情報よりも優れていることが示される。
【0091】
最後に、24時間のOBP記録と、視野の低下の進行速度との関連を確認する。IOPに関連する体積変化を測定する装置を使用した単一の24時間の記録によって、進行が速い眼と進行が遅い眼を区別することができることが、注目に値する。実際、この関連付けは、IOPモニタのためのゴールドスタンダードを使用した場合つまりGATを使用した平均的なフォローアップIOPを使用した場合に見られるものよりも強力である。
【0092】
結論として、治療を受けた緑内障ユーザの大規模で多様な集団(コホート)では、IOP関連パターンについての単一の24時間モニタリングが、視野の進行率と有意に相関する特徴を提供する。この特徴は、速い進行を経験しているユーザと、遅い進行を経験しているユーザとを区別する場合に、フォローアップ中の平均IOPよりも優れた性能を示した。この装置の予測能力をテストする将来の研究が必要である。
【0093】
変形実施形態では、本発明の方法およびシステムは、例えば医学的治療の有効性を評価するために、および/または、少なくとも1つのOBPに対する薬物の中期的から長期的な影響を評価するために、少なくとも1つのOBPについての長期的な進行をモニタするために使用される。
【0094】
したがって、少なくとも1つのOBPは、医学的治療および/または薬剤適用期間中および/またはその後に、連続的にまたは間隔をおいて測定される。最近の測定期間中に測定された少なくとも1つのOBPの値は、以前に測定されたOBPの値と比較される。例えば、少なくとも部分的に自動的に比較される。それにより、例えば数日、数週間、数ヶ月または数年にわたり測定されたOBPについての、正の進行、負の進行、またはニュートラルな進行が、例えば少なくとも部分的に自動的に決定される。
【0095】
例えば、眼疾患および/または脳疾患を有するユーザの診断および/または治療のための本発明の応用において、および/または、測定されたOBPに対する物質および/または作用の影響の測定において、上記の方法のいくつかを組み合わせることができる。これは、例えば、排他的ではないが、少なくとも1つのOBPについての、より信頼性の高い診断、および/または医療処置のより良いフォローアップ、および/または外部要素の影響のより正確な知識を得るためのものである。
【0096】
本発明のシステムおよび方法の上記の実施形態は、例示であって、決して本発明の具体例を限定するものではない。特に、本発明は、測定装置、モニタシステム、および測定方法を使用して、瞬き刺激、眼圧の脈動、急速眼球動作などに対する眼球の反応を測定するための構造についての、すべてのバリエーションを包含すると考えられる。実施形態では、本発明のシステムは、1つ以上のOBP、例えばIOVおよび/またはIOPおよびその変化、角膜湾曲および/または眼の微小変位を、長時間たとえば数時間の間に、少なくとも10Hzで、連続的かつ正確にモニタするように構成される。本発明によれば、モニタシステムは、モニタ期間中に測定されたデータを表示、分析、処理し、眼の状態に関する重要な情報を提供し、および/または眼および/または脳の疾患を診断できるアルゴリズムを有する、コンピュータなどの計算手段を含む。したがって、本発明の原理および特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな多数の実施形態で使用することができる。特に、本方法の上記の実施形態を任意に組み合わせることが、本発明の範囲内で可能である。