(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】音響装置および音響信号生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/18 20060101AFI20221014BHJP
G10H 7/08 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G10H1/18 Z
G10H7/08
(21)【出願番号】P 2020540923
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2018032896
(87)【国際公開番号】W WO2020049659
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】315017409
【氏名又は名称】AlphaTheta株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂上 敬
(72)【発明者】
【氏名】中井 敏貴
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-054857(JP,A)
【文献】特開平05-219589(JP,A)
【文献】特開平04-161994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される変調波により、オシレータにより生成された搬送波を変調して、音響信号を生成する複数の音響信号生成部と、
操作者による調整を
促し、
複数の
前記音響信号生成部により生成された音響信号の特徴量を
それぞれ調整する複数の
調整操作部と、
それぞれの
前記音響信号生成部により生成された音響信号を、加算または乗算して合成された合成音響信号を生成する音響信号合成部と、
複数の前記
調整操作部の調整状態から、出力される合成音響信号の信号強度を推定する信号強度推定部と、
推定された合成音響信号の信号強度に基づいて、前記調整操作部による調整操作量
が限界量
に達しているか否かと、前記調整操作部による調整操作量と前記限界量との差との少なくとも一方を、操作者に報知する限界量報知部と、
を備える音響装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響装置において、
前記限界量報知部は、複数の前記調整操作部のそれぞれに応じて複数設けられ、複数の前記調整操作部のそれぞれにおける前記調整操作量が前記限界量に達しているか否かと、複数の前記調整操作部のそれぞれにおける前記調整操作量と前記限界量との差との少なくとも一方を、前記操作者に報知する音響装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の音響装置において、
前記音響信号生成部は、生成した音響信号を自己および他の音響信号生成部の
少なくともいずれかの変調波として入力する音響装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の音響装置において、
前記限界量報知部は、
発光部を備え、推定された合成音響信号の
信号強度に応じて異なる
発光状態または発光色で前記発光部を発光表示させることにより報知する音響装置。
【請求項5】
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の音響装置において、
前記限界量報知部は、前記信号強度推定部による推定中、前回の調整操作時における報知状態を報知する音響装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の音響装置として機能させるコンピュータ読み取り可能な音響信号生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置および音響信号生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子楽器としてFMシンセサイザー等の音響装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
FMシンセサイザーは、第1のオシレータから発振された搬送波を、第2のオシレータから発振された変調波により変調して様々な音響信号を生成する。そして、FMシンセサイザーに接続された電子鍵盤等により入力されたキーノートに応じた周波数の音響信号を生成することにより、音階のある音声出力することができる。
FMシンセサイザーによれば、搬送波および変調波の組み合わせにより、様々な音響信号を生成できるので、通常の楽器の音色に近い音響信号を生成したり、従来にはない新たな音色の音響信号を生成できるという効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年のFMシンセサイザーでは、前述した2つのオシレータの組み合わせを複数用い、それぞれから出力される音響信号を加算または乗算し、自己が生成した音響信号を自己の入力としてループさせて、新たな音響信号を生成することが行われている。
この場合、従来、複数の組み合わせを制限して、プリセットされた組み合わせ方でそれぞれのオシレータにおける波形、周波数、増幅率等の調整を行っていた。
【0005】
しかしながら、プリセットされた組み合わせ方では、生成できる新たな音色の音響信号の選択幅が限られてしまうという課題がある。
一方、オシレータの組み合わせの自由度を向上させ、それぞれのオシレータの調整量を自由に設定できるようにしても、操作者はどのパラメータを調整すれば、音響信号に影響を与えるか理解することが難しい。したがって、それぞれのオシレータの調整、設定が非常に難しいという課題がある。
また、オシレータのパラメータの調整、設定の組み合わせによっては、生成された音響信号の音階が破綻してしまい、楽器として機能しない場合があるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、自由に新たな音響信号を生成することができ、かつ、楽器として破綻せず、音階のある音響信号を出力することができる音響装置および音響信号生成プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音響装置は、入力される変調波により、オシレータにより生成された搬送波を変調して、音響信号を生成する複数の音響信号生成部と、操作者による調整を促す調整操作部を有し、それぞれの音響信号生成部により生成された音響信号の特徴量を調整する複数の特徴量調整部と、それぞれの音響信号生成部により生成された音響信号を、加算または乗算して合成された合成音響信号を生成する音響信号合成部と、複数の前記特徴量調整部の調整状態から、出力される合成音響信号の信号強度を推定する信号強度推定部と、複数の前記特徴量調整部に応じて設けられ、推定された合成音響信号の信号強度に基づいて、前記調整操作部による調整操作量の限界量を、操作者に報知する限界量報知部と、を備える。
本発明のコンピュータ読み取り可能な音響信号生成プログラムは、コンピュータを、前述の音響装置として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る音響装置を示すブロック図。
【
図2】前記実施の形態における音響信号生成部および音響信号合成部の構造を示すブロック図。
【
図3】前記実施の形態における変調波の波形に応じて生成される音響信号の信号強度を示すグラフ。
【
図4】前記実施の形態における合成音響信号の信号強度を示すグラフ。
【
図5】前記実施の形態における音響信号生成部、音響信号合成部、信号強度推定部、および限界量報知部を示すブロック図。
【
図6】前記実施の形態における信号強度推定部および限界量報知部を示すブロック図。
【
図7】前記実施の形態における作用を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明の実施の形態に係るFM(Frequency Modulation)シンセサイザー1が示されている。
FMシンセサイザー1は、シンセサイザー本体2および調整操作ユニット3を備え、MIDIキーボード4から出力されたキーノートに応じた音程の音響信号を生成して、外部に音声出力する。調整操作ユニット3は、シンセサイザー本体2が有する複数のオシレータのゲイン、周波数比を調整する調整つまみ32を複数備え、操作者がそれぞれの調整つまみ32を操作することにより、出音用FMシンセサイザー部6に異なる音色の音響信号を生成させる。
【0010】
調整操作ユニット3は、ボックス状のケース31と、複数の調整つまみ32とを備える。本実施の形態では、シンセサイザー本体2の調整可能な音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4に応じて、4×4=16個の調整操作部としての調整つまみ32が設けられている。
なお、本実施の形態では、調整操作ユニット3をハードウェアとして構成しているが、これに限られない。たとえば、コンピュータの画面上に表示される画像として構成される特徴量調整部としてもよい。
【0011】
シンセサイザー本体2は、
図1に示すように、入力されたキーノートKNOTEに応じた音階の音響信号を生成して、音声出力する。シンセサイザー本体2は、パラメータ選択部5、出音用FMシンセサイザー部6、分析用FMシンセサイザー部7、ノイズ成分分析部8、およびノイズリダクション部9を備える。
パラメータ選択部5は、シンセサイザー本体2により生成および出力する音響信号の波形を選択する部分であり、選択可能な波形としては、たとえば、サイン波W1、三角波W2、ノコギリ波W3、矩形波W4を例示できる(
図3参照)。選択された波形、周波数比、出力側増幅器63A(
図2参照)の増幅率および入力側増幅器64A(
図2参照)の増幅率は、出音用FMシンセサイザー部6および分析用FMシンセサイザー部7に出力される。
【0012】
出音用FMシンセサイザー部6は、
図2に示すように、DSP(Digital Signal Processor)から構成され、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP6までを複数備える。
このうち、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4は、出音用FMシンセサイザー部6で使用する搬送波および変調波に基づいて出力する音響信号を生成する。なお、本実施の形態では、別途音響信号生成部OP5および音響信号生成部OP6が設けられている。音響信号生成部OP5および音響信号生成部OP6は、既存のプリセット型のオシレータの組み合わせにより変調を行うものであり、予備的に設けられている。
音響信号生成部OP1は、オシレータ61、増幅器62、信号出力部63、出力側増幅器63A、および変調波入力部64を備える。音響信号生成部OP2から音響信号生成部OP4も同様の構成である。
【0013】
オシレータ61は、パラメータ選択部5で選択された波形から所定の周波数比の搬送波を生成し、入力された変調波により、搬送波を変調する。具体的には、オシレータ61は、MIDIキーボード4から入力されたキーノートKNOTEに応じた周波数の搬送波を生成して、変調波により変調する。
たとえば、
図3に示すように、変調波がサイン波W1である場合、キーノートKNOTEとして入力された周波数の搬送波に対して、オシレータ61は、調整操作ユニット3の調整つまみ32で設定された周波数比のサイン波W1で変調する。変調後に出力される音響信号の信号強度は、キーノートKNOTEに応じた周波数f_in’をピークとするパターンPT1のようになる。
【0014】
同様に、変調波が三角波W2である場合、変調後の出力される音響信号の信号強度は、パターンPT2のようになり、変調波がノコギリ波W3である場合、変調後に出力される音響信号の信号強度は、パターンPT3のようになり、変調波が矩形波W4である場合、変調後に出力される音響信号の信号強度は、パターンPT4のようになる。
すなわち、搬送波が変調波により変調されると、変調波の波形によっては、キーノートKNOTEに応じた周波数f_in’以外の周波数の信号強度のピークを有する音響信号が生成される。
【0015】
増幅器62は、オシレータ61から出力された音響信号を増幅する。増幅率は、EG(エンベロープ・ジェネレーター)の出力およびキーノートKNOTEに含まれるMIDIキーボード4の打鍵の強さに応じて増幅率が設定される。
信号出力部63は、オシレータ61で生成された音響信号を音響信号合成部65に出力する。また、信号出力部63から出力された音響信号は、音響信号生成部OP1の変調波入力部64にフィードバックされるとともに、他の音響信号生成部OP2、音響信号生成部OP3、および音響信号生成部OP4の変調波入力部64に出力される。
【0016】
同様に音響信号生成部OP2、音響信号生成部OP3、および音響信号生成部OP4のそれぞれの信号出力部63から出力された音響信号も、自己の変調波入力部64にフィードバックされるとともに、他の音響信号生成部の変調波入力部64に出力される。
変調波入力部64は、複数の入力側増幅器64Aおよび入力側加算器64Bを備える。
入力側増幅器64Aは、入力される音響信号に応じて複数設けられ、音響信号生成部OP1であれば、自己が出力したフィードバックされた音響信号、および他の音響信号生成部OP2から音響信号生成部OP4で生成され、入力された音響信号を増幅する。増幅率は、調整操作ユニット3の調整つまみ32を調整することにより調整することができる。
入力側加算器64Bは、入力側増幅器64Aから入力された複数の音響信号を加算して、オシレータ61に変調波として出力する。
【0017】
本実施の形態では、4つの音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4を備えているので、それぞれの4つのオシレータ61の前段に設けられている4つの入力側増幅器64Aによって増幅される音響信号の強度を調整して、最終的な音響信号を出力する。つまり、本実施の形態では、16カ所の調整が可能となり、調整操作ユニット3の調整操作つまみ32の数に対応する。
本実施の形態では、FMシンセサイザー1が多入力1出力の音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4を備えているため、音色が多岐に亘った音響信号を生成できる。しかし、その反面、調整操作ユニット3をどのように操作すれば、所望の音色の音響信号を生成することができるのか予測がつかず、操作者による調整操作が困難を極めるシンセサイザーとなっている。
【0018】
信号出力部63は、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP6で生成された音響信号を出力する。
出力側増幅器63Aは、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP6で生成された音響信号を所定の増幅率で増幅する。増幅率は、調整操作ユニット3の調整つまみ32を調整することにより調整することができる。
【0019】
音響信号合成部65は、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4のそれぞれから出力された音響信号を加算または乗算し、FMシンセサイザー1の音響信号として出力する。音響信号合成部65は、第1加算器66、フィルター部67、第2加算器68、および増幅器70を備える。
第1加算器66は、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4のそれぞれから出力された音響信号を加算して、音声出力用の合成音響信号を生成する。なお、第1加算器66には、予備的な音響信号生成部OP5および音響信号生成部OP6の出力も加算される。
【0020】
フィルター部67は、第1加算器66で加算された合成音響信号に対してフィルター処理を行う。フィルター部67のフィルターは、所望の音色の音響信号に加工するために所望のフィルター特性に設定される。
第2加算器68は、フィルター部67を経ずに、補助の音響信号生成部OP5からの出力が加算され、音響信号生成部OP5の出力のフィルター処理を行うか否かは、前段にあるスイッチ69の切り替えによって行われる。
増幅器70は、出力する合成音響信号を増幅する。増幅された合成音響信号は、スピーカー等によって音声出力される。
【0021】
出力される合成音響信号は、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP4のオシレータ61の波形、周波数比、出力側増幅器63Aの増幅率、および入力側増幅器64Aの増幅率によって種々変化する。たとえば、合成音響信号としては、入力されたキーノートKNOTEに応じた周波数f_in’に対して、異なる周波数の合成音響信号が出力される。たとえば、
図4に示すように、サイン波W1で変調している場合であれば、出力強度パターンPO1のように、周波数f_in’が最大値をとり、周波数の信号強度は、周波数が高くなるにしたがって減衰していく。したがって、聴取者は、出力された合成音響信号の音階を識別することができる。
【0022】
しかし、三角波W2で変調した出力強度パターンPO2から矩形波W4で変調した出力強度パターンPO4のように、徐々にキーノートKNOTEに応じた周波数f_in’の信号強度が他の周波数の信号強度に埋もれてしまい、キーノートKNOTEに応じた音程の出力ができない。つまり、操作者がMIDIキーボード4のどの鍵盤を打鍵しても、高周波ノイズ音しか出力されなくなり、楽器として破綻してしまう。
そこで、本実施の形態のFMシンセサイザー1では、出力される合成音響信号が、高周波ノイズ音のみとなり、楽器として破綻する、ということがないように操作することができるナビゲーション機能を持たせている。
【0023】
分析用FMシンセサイザー部7は、
図5に示すように、出音用FMシンセサイザー部6と同様にDSPから構成された複数の音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’と、出力側増幅器72Aと、加算器74と、信号強度推定部75と、限界量報知部76とを備える。
音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’のそれぞれは、オシレータ71、信号出力部72、および変調信号入力部73を備える。変調信号入力部73は、入力側増幅器73Aおよび入力側加算器73Bを備える。
【0024】
これらの構成は、出音用FMシンセサイザー部6の音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP6と同様の構成である。なお、それぞれのオシレータ71には、シンセサイザー本体2内で生成されるテスト用キーノートTNOTEが入力され、オシレータ71は、テスト用キーノートTNOTEの周波数に応じた搬送波を、複数の調整つまみ32の調整状態に応じて生成した変調波により変調する。
加算器74は、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’のそれぞれで生成された音響信号を加算または乗算し、合成音響信号として信号強度推定部75に出力する。
【0025】
信号強度推定部75および限界量報知部76は、図示しないコンピュータの演算処理装置上で実行されるプログラムまたは記憶装置上確保された記憶領域として構成される。
信号強度推定部75は、
図6に示すように、テスト用キーノート出力部751、合成音響信号検出部752、操作量変更部753、限界量判定部754、および調整つまみ選択部755を備える。また、信号強度推定部75には、調整操作ユニット3のそれぞれの調整つまみ32の番号と、その調整つまみ32の調整操作量が出力され、後述する限界量判定部754による限界量判定に供される。
【0026】
テスト用キーノート出力部751は、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’に対して、テスト用キーノートTNOTEを出力する。音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’は、テスト用キーノートTNOTEに基づいて、音響信号を生成する。
また、テスト用キーノート出力部751は、出力したテスト用キーノートTNOTEに応じた周波数を限界量判定部754に出力する。
【0027】
調整つまみ選択部755は、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’のうち、オシレータ71の調整を行う調整つまみ32を選択する。具体的には、調整つまみ選択部755は、調整対象となるオシレータ71、そのオシレータ71の変調波形、出力される音響信号の強度、周波数比、およびそのオシレータ71あるいは他のオシレータ71に入力される音響信号の強度を調整する調整つまみ32を選択する。調整つまみ選択部755は、選択された調整つまみ32を限界量判定部754に出力する。
【0028】
合成音響信号検出部752は、加算器74により加算された音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’で生成された音響信号を合成した合成音響信号を検出する。
合成音響信号検出部752は、検出した合成音響信号を、FFT(Fast Fourier Transform)等により、周波数に応じた信号強度に変換して信号強度の分布を取得し、限界量判定部754に出力する。
【0029】
操作量変更部753は、調整操作ユニット3の調整つまみ32の調整操作と同様に、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’にそれぞれのオシレータ71の変調波の波形、周波数比、増幅率、および入力側増幅器73Aの増幅率の調整操作量を出力する。具体的には、操作量変更部753は、調整操作ユニット3のそれぞれの調整つまみ32の調整量に応じて、すべての調整つまみ32の調整操作量の組み合わせを調整操作量として出力する。
また、操作量変更部753は、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’に出力した調整操作量を限界量判定部754に出力する。
【0030】
限界量判定部754は、操作量変更部753から出力された調整操作量に基づいて設定された、変調波の波形、周波数比、出力側増幅器72Aの増幅率、および入力側増幅器73Aの増幅率により変調された合成音響信号が、音声出力したときに破綻しているか否かを判定する。具体的には、限界量判定部754は、テスト用キーノートTNOTEに応じた周波数を基本周波数として、基音、その第2倍音、および第3倍音の信号強度と、合成音響信号中に含まれる他の周波数成分の信号強度とのS/N比により、出力される合成音響信号の破綻の有無を判定する。テスト用キーノートTNOTEに応じた周波数を基本周波数として、基音、第2倍音、および第3倍音の信号強度と、合成音響信号中に含まれる他の周波数成分の信号強度とのS/N比が所定の閾値よりも小さい場合には、調整操作量が限界量を超え、破綻していると判定する。
【0031】
ここで、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’で生成する合成音響信号は、出音用FMシンセサイザー部6の設定と同じ設定により生成される音響信号とは異なり、出音用FMシンセサイザー部6の設定と同じ設定に、さらに調整つまみ32を1箇所操作したときの設定により生成される。
このとき、調整操作ユニット3は、4つのオシレータ61およびオシレータ71の前段に設けられている4つの入力側増幅器64Aおよび入力側増幅器73Aを操作する状態になっている。これらの16箇所のパラメータを、調整操作ユニット3の16個の調整操作つまみ32により調整することができる。
【0032】
操作者がある1つの調整つまみ32を操作すると、その操作に加えて、さらに、調整つまみ32のうちの1つを所定の位置に操作した状態を内部的にシミュレートし、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’は、内部的にシミュレートした状態での調整つまみ32の操作位置に応じた合成音響信号を生成する。
限界量判定部754は、この合成音響信号を分析し、限界量に達しているか否かを判定する。
限界量判定部754により判定されたそれぞれの調整つまみ32の調整操作量の限界量は、限界量報知部76に出力される。
【0033】
限界量報知部76は、制御信号出力部761および報知状態記憶部762を備える。
制御信号出力部761は、限界量判定部754から出力された調整操作量の限界量に基づいて、点灯制御信号を生成して、調整操作ユニット3のそれぞれの調整つまみ32の視覚的手段としてのLED発光部327に出力する。具体的には、制御信号出力部761は、調整つまみ32の調整操作量が、限界量以下である場合には、LED発光部327に緑色で発光させる制御信号を出力する。
【0034】
また、制御信号出力部761は、調整つまみ32の調整操作量が、限界量を超えている場合には、LED発光部327に赤色で発光させる制御信号を出力する。
なお、LED発光部327の発光色は2色に限られず、限界量よりも十分に調整操作量が少ない場合は緑色、限界量に近くなった場合は黄色、限界量を超えたら赤色のように多段階で表示するように構成してもよい。
【0035】
報知状態記憶部762は、メモリ等の記録媒体の記憶領域の一部として構成される。報知状態記憶部762には、限界量判定部754によって判定された調整つまみ32の調整操作量の限界量が記憶される。限界量判定部754は、それぞれの調整つまみ32の調整操作量の限界量が演算されたら、前回の限界量を新たな調整操作量の限界量に書き換える。
【0036】
次に、本実施の形態の作用について、
図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
FMシンセサイザー1を起動すると(手順S1)、制御信号出力部761は、前回の調整状態を報知状態記憶部762から読み出す(手順S2)。
制御信号出力部761は、前回の調整状態に基づく制御信号を調整操作ユニット3に出力し、調整操作ユニット3のそれぞれに調整つまみ32のLED発光部327を、前回の調整つまみ32の調整状態に応じて発光表示させる。
具体的には、全く音に影響を与えない調整つまみ32に対応するLED発光部327は消灯しており音に影響を与えないことを示し、新たに調整つまみ32を操作し音に影響を与える場合は、推定対象となり、結果をLED発光部327で表示する。その際に、信号強度推定部75の動作が遅い場合に備えて最後に発光していた状態を記憶しておき対象となった際に暫定的に発光表示させる(手順S4)。
【0037】
操作者が調整操作ユニット3の16個の調整つまみ32の中から、任意の1つ以上の調整つまみ32を選択し、調整操作量を変更する(手順S5)。
現在の発光状態が消灯の場合で、全く音に影響を与えない調整つまみ32に対応するLED発光部327は消灯しており音に影響を与えないことを示し、調整操作で、新たに調整つまみ32を操作した際に推定対象となった場合、結果をLED発光部327で表示する。その際に、信号強度推定部75の動作が遅い場合に備えて前回の調整つまみ32の調整状態を記憶しておき対象となった際に暫定的に発光表示させる(手順S6)。
【0038】
テスト用キーノート出力部751は、テスト用キーノートTNOTEを音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’に出力する(手順S7)。
音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’は、それぞれに設定された調整操作量に基づいて、さらに調整つまみ32のうちの1つを所定の位置に操作した状態を内部的にシミュレートしたときの音響信号を生成する(手順S8)。
合成音響信号検出部752は、それぞれの音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’で生成された音響信号を、加算器74で加算または乗算した合成音響信号を検出する(手順S9)。
【0039】
限界量判定部754は、検出された合成音響信号が破綻しているか否かに基づいて、調整操作量が限界量に達しているか否かを判定する(手順S10)。
限界量に達していない場合、制御信号出力部761は、LED発光部327を緑色発光させる制御信号を出力して(手順S11)、操作者にまだ調整操作量を増大させることが可能な旨を報知する。
限界量を超えている場合、制御信号出力部761は、LED発光部327を赤色発光させる制御信号を出力して(手順S12)、操作者がこれ以上調整操作量を増大させることを牽制する。
【0040】
限界量判定部754は、推定対象となったすべての調整つまみ32に対して限界量に達したか否かを判定したかを判定する(手順S13)。推定対象となった調整つまみ32のすべてについて限界量に達したか否かが判定されていない場合、手順S8に戻って、手順S9以下を繰り返す。
推定対象となった調整つまみ32のすべてについて限界量に達したか否かが判定されている場合、限界量判定部754は、処理を終了し、手順S5に戻って、手順S6以下を繰り返す。
【0041】
このような本実施の形態によれば、以下のような効果がある。
本実施の形態では、FMシンセサイザー1により生成される合成音響信号の周波数に応じた信号強度を、操作者が操作する前に信号強度推定部75により取得し、合成音響信号の音色が破綻しているか否かを判定している。そして、合成音響信号の音色が破綻して限界量を超えている場合、限界量報知部76が、調整操作ユニット3の調整つまみ32のLED発光部327を、発光色を変化させて操作者に視覚的に認識させている。
【0042】
したがって、調整つまみ32を操作する操作者は、調整つまみ32をどこまで調整操作すれば、合成音響信号の音色を破綻させずに新たな合成音響信号を生成できるかを認識できる。よって、調整つまみ32の発光状態をナビゲーションのガイドとして、音階のある新たな合成音響信号を生成することができる。
特に本実施の形態のように、変調波が多入力である場合、入出力系が複雑化され、生成される合成音響信号の予測がつけられないので、本発明を採用することの意義は大きい。
【0043】
本実施の形態では、調整つまみ32のLED発光部327を異なる発色光で限界量を超えたか否かを報知している。したがって、操作者は、調整つまみ32の調整中に容易に限界量を超えたか否かを認識して、どの調整つまみが調整可能であるかを判断して、新たな合成音響信号の生成の簡単化を図ることができる。
本実施の形態では、限界量報知部76がFMシンセサイザー1の起動時、前回の調整操作時における報知状態を表示している。したがって、操作者は、前回の調整操作で限界量を超えていない調整つまみ32を簡単に把握することができるので、新たな合成音響信号の生成を一層簡便に行うことができる。
【0044】
なお、本発明の実施の際の具体的な構造および形状等は、以下のような変形をも含む。
前記実施の形態では、音響信号生成部OP1から音響信号生成部OP6、音響信号生成部OP1’から音響信号生成部OP6’をDSPで構成していたが、本発明はこれに限られない。たとえば、コンピュータの演算処理装置上で実行させるコンピュータ読み取り可能な音響信号生成プログラムとして構成してもよい。
【0045】
前記実施の形態では、限界量報知部76は、調整つまみ32のLED発光部327の発光色を変化させることにより、操作者に調整操作量が限界量を超えたことを報知していたが、本発明はこれに限られない。たとえば、LED発光部327を点滅させ、点滅の間隔を変化させて操作者に報知してもよく、コンピュータの表示装置等にメッセージで表示させるようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…FMシンセサイザー、2…シンセサイザー本体、3…調整操作ユニット、4…MIDIキーボード、5…パラメータ選択部、6…出音用FMシンセサイザー部、7…分析用FMシンセサイザー部、8…ノイズ成分分析部、9…ノイズリダクション部、31…ケース、32…調整つまみ、61…オシレータ、62…増幅器、63…信号出力部、63A…出力側増幅器、64…変調波入力部、64A…入力側増幅器、64B…入力側加算器、65…音響信号合成部、66…第1加算器、67…フィルター部、68…第2加算器、69…スイッチ、70…増幅器、71…オシレータ、72…信号出力部、72A…出力側増幅器、73…変調信号入力部、73A…入力側増幅器、73B…入力側加算器、74…加算器、75…信号強度推定部、76…限界量報知部、327…LED発光部、751…テスト用キーノート出力部、752…合成音響信号検出部、753…操作量変更部、754…限界量判定部、755…選択部、761…制御信号出力部、762…報知状態記憶部、KNOTE…キーノート、OP1…音響信号生成部、OP2…音響信号生成部、OP3…音響信号生成部、OP4…音響信号生成部、OP5…音響信号生成部、OP6…音響信号生成部、OP1’…音響信号生成部、OP2’…音響信号生成部、OP3’…音響信号生成部、OP4’…音響信号生成部、OP5’…音響信号生成部、OP6’…音響信号生成部、PO1…出力強度パターン、PO2…出力強度パターン、PO3…出力強度パターン、PO4…出力強度パターン、PT1…パターン、PT2…パターン、PT3…パターン、PT4…パターン、TNOTE…テスト用キーノート、W1…サイン波、W2…三角波、W3…ノコギリ波、W4…矩形波、f_in'…周波数。