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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ハードコート剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/16 20060101AFI20221014BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C09D175/16
C08F290/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022022390
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2022-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 文男
(72)【発明者】
【氏名】門脇 利治
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢志
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-116591(JP,A)
【文献】特開2018-203947(JP,A)
【文献】特開2009-084328(JP,A)
【文献】特開2017-203068(JP,A)
【文献】特開2018-172672(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194765(WO,A1)
【文献】特表2018-530631(JP,A)
【文献】特開2012-229412(JP,A)
【文献】特開2021-017592(JP,A)
【文献】特開2021-024943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
C08F 290/06
C08G 18/00 - 18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを含むポリオールと、キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートを含み、
前記ポリオール100質量%中に前記ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを90質量%以上含む、フォルダブルディスプレイ用ハードコート剤。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート100質量%中に前記キシリレンジイソシアネートを90質量%以上含む、請求項に記載のフォルダブルディスプレイ用ハードコート剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハードコート剤が硬化して得られる硬化物を含むフォルダブルディスプレイ用光学フィルム
【請求項4】
請求項1または2に記載のハードコート剤が硬化して得られる硬化物を含むフォルダブルディスプレイ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート剤に関し、詳細には、活性エネルギー線の照射により硬化可能な、ウレタン(メタ)アクリレートを含むハードコート剤、およびそれにより得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線の照射により硬化可能な樹脂組成物をハードコート剤として用い、各種基材に塗布して、高い硬度を持つ塗膜を形成することが知られている。例えば、特許文献1には、ペンタエリスリトールの(メタ)アクリル酸付加物とポリイソシアネート系化合物とを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート系組成物、フッ素含有(メタ)アクリレート系化合物および重合禁止剤を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物において、重合禁止剤を通常よりも多く含有させることが記載され、それにより、防汚性能および耐擦傷性に優れた硬化塗膜が得られることが記載されている。
【0003】
ウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をハードコート剤として用いる際に、塗膜の硬化収縮が起こり、硬化塗膜がカールしやすいという問題がある。一方、近年、折り畳み可能なディスプレイ、即ちフォルダブルディスプレイを持つ携帯電子機器が普及しつつあり、硬化塗膜を形成したプラスチックフィルムを曲げても筋が付きにくいという屈曲性が求められている。
【0004】
特許文献2には、カールしにくく、硬度および屈曲性にも優れた硬化塗膜を形成することを目的として、水酸基価が200mgKOH/g以上のペンタエリスリトール(メタ)アクリレートと多価イソシアネートとを反応させてなる組成物[I]と、水酸基価が40mgKOH/g以上のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートと多価イソシアネートとを反応させてなる組成物[II]とを併用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-104908号公報
【文献】特開2018-178093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにハードコート剤には、低カール性で、硬度が高く、屈曲性が高いことが求められる。しかしながら、一般に低カール性と硬度は背反性能であり、即ち硬度が高いほどカールしやすくなるという関係があり、両立することは困難である。また、低カール性および硬度に優れても、屈曲性に劣ることがあり、低カール性、硬度および屈曲性を同時に満足することは容易ではない。
【0007】
なお、上記特許文献1には、具体的に、水酸基価が120mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレートにイソホロンジイソシアネートを反応させてなるウレタンアクリレートを用いることが記載されている。しかしながら、該ウレタンアクリレートを用いた場合、屈曲性の点で不十分であることが分かった。
【0008】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、低カール性、硬度および屈曲性に優れた塗膜を形成することができるハードコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討するなかで、特定の水酸基価を持つペンタエリスリトールアクリレートとキシリレンジイソシアネートとの反応物であるウレタンアクリレートを用いることにより、当該課題を解決できることを見出した。
【0010】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを含むポリオールと、キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートを含む、ハードコート剤。
[2] 前記ポリオール100質量%中に前記ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを90質量%以上含む、[1]に記載のハードコート剤。
[3] 前記ポリイソシアネート100質量%中に前記キシリレンジイソシアネートを90質量%以上含む、[1]または[2]に記載のハードコート剤。
[4] フォルダブルディスプレイ用である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のハードコート剤。
[5] [1]~[4]のいずれか1項に記載のハードコート剤が硬化して得られる硬化物。
[6] [5]に記載の硬化物を含む物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態に係るハードコート剤であると、低カール性、硬度および屈曲性に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係るハードコート剤は、水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを含むポリオールと、キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートを含む。
【0013】
本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを表す。(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを表す。
【0014】
[ポリオール]
本実施形態では、ポリオールとして、水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを用いる。水酸基価が80mgKOH/g未満であると、塗膜の低カール性を確保することが難しくなる。水酸基価が160mgKOH/gを超えると、塗膜の低カール性と硬度を両立しにくくなる。ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価は、100mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは110mgKOH/g以上であり、また150mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは140mgKOH/g以下である。
【0015】
本明細書において、水酸基価はJIS K0070-1992に準じて測定される。詳細には、試料(ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート)を、無水酢酸/ピリジン(15質量部/85質量部)に溶解させる。その後、90℃で1.5時間反応させた後、少量の水を加え、さらに10分間反応させ、その後に、室温まで冷却する。そして、指示薬としてフェノールフタレインを加え、1mol/L水酸化カリウム(KOH)エタノール溶液で滴定することにより、水酸基価が求められる。
【0016】
ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸が反応して得られるものであり、ペンタエリスリトールの水酸基の水素原子が(メタ)アクリロイル基に置換されたものである。水酸基価は、置換された水酸基の数に応じた値となる。ペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸の反応は、公知方法で行うことができる。これにより、ペンタエリスリトールに対して(メタ)アクリル酸が1つ付加したペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、2つ付加したペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、3つ付加したペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、4つ付加したペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが形成されてもよく、通常はこれら(メタ)アクリレートの2種以上を含む混合物である。
【0017】
一実施形態において、上記ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートを35~55質量%含むことが好ましく、より好ましくは40~50質量%含むことである。すなわち、上記(メタ)アクリレートの混合物100質量%中のペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの含有割合が35~55質量%であることが好ましく、より好ましくは40~50質量%である。また、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートの含有割合が、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3~12質量%である。ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートの含有割合は、例えば35~55質量%でもよく、40~50質量%でもよい。ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレートの含有割合は、例えば5質量%以下でもよく、0~3質量%でもよい。
【0018】
本実施形態において、ポリオールは、水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートのみで構成されてもよいが、効果が損なわれない限り、他のポリオールを含んでもよい。好ましい実施形態において、ポリオールは、上記ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを90質量%以上含むことである。すなわち、ポリオール100質量%中にペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを90質量%以上含むことが好ましい。
【0019】
他のポリオールとしては、特に限定されず、例えば、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
[ポリイソシアネート]
本実施形態では、ポリイソシアネートとして、キシリレンジイソシアネート(XDI)を用いる。キシリレンジイソシアネートを上記特定の水酸基価を持つペンタエリスリトール(メタ)アクリレートと反応させて得られたウレタン(メタ)アクリレートを用いることにより、塗膜の硬度と低カール性と屈曲性を全て満足させることができる。
【0021】
本実施形態において、ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネートのみで構成されてもよいが、効果が損なわれない限り、他のポリイソシアネートを含んでもよい。好ましい実施形態において、ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネートを90質量%以上含むことである。すなわち、ポリイソシアネート100質量%中にキシリレンジイソシアネートを90質量%以上含むことが好ましい。
【0022】
他のポリイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、あるいはこれらポリイソシアネートの3量体化合物または多量体化合物、アロファネート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネートが挙げられ、さらにはこれらポリイソシアネートとポリオールとの反応物でもよい。
【0023】
[ウレタン(メタ)アクリレート]
ウレタン(メタ)アクリレートは、上記のポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるものであり、詳細には、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基とキシリレンジイソシアネートのイソシアネート基とが反応することにより得られる。
【0024】
ポリオールとポリイソシアネートとの反応は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。両者の仕込み比は、塗膜の硬度と安全性の観点から、ポリオールの水酸基(OH)とポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)とのモル比([OH]/[NCO])で、例えば1.00~1.50であることが好ましく、より好ましくは1.01~1.40である。
【0025】
ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際には、(メタ)アクリロイル基の重合を阻害する重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、例えば、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、トルキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、ハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、モノ-t-ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチルクレゾール、p-t-ブチルカテコール等が挙げられる。
【0026】
ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際には、反応を促進するための触媒を添加してもよい。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、硝酸ビスマス、臭化ビスマス、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン等が挙げられる。
【0027】
また、反応においては、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤を用いてもよい。
【0028】
[ハードコート剤]
本実施形態に係るハードコート剤は、上記ウレタン(メタ)アクリレートを含有するものであり、活性エネルギー線を照射されることで硬化可能な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物である。
【0029】
ハードコート剤は、上記ウレタン(メタ)アクリレートのみで構成されてもよいが、更に光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル等が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
光重合開始剤の含有量としては、特に限定されず、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~20質量部でもよく、0.5~10質量部でもよく、1~5質量部でもよい。
【0031】
ハードコート剤は、必要に応じて、塗布時の粘度を調整するために、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、キシレン等の芳香族類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等の酢酸エステル類、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらの有機溶剤はいずれか1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ハードコート剤には、また、本実施形態の効果が損なわれない範囲で、他のウレタン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート以外のエチレン性不飽和モノマー、アクリル樹脂、表面調整剤、レベリング剤、重合禁止剤、フィラー、染料、顔料、油、可塑剤、ワックス類、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、ゲル化剤、安定剤、消泡剤、界面活性剤、チクソトロピー性付与剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、架橋剤、シリカ、ジルコニウム化合物、防腐剤等が配合されてもよい。
【0033】
ハードコート剤は、各種基材に塗布して塗膜を形成するための硬化性組成物として用いることができる。ハードコート剤を基材に塗布した後、活性エネルギー線を照射することにより硬化されることができる。ハードコート剤が有機溶剤を含む場合、塗布後に乾燥して有機溶剤を除去した後、活性エネルギー線を照射することにより硬化させてもよい。
【0034】
ハードコート剤を塗布する対象である基材としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン系樹脂等からなるプラスチック基材、これらの樹脂にガラス繊維や無機物を混合した複合材料基材、金属基材、ガラス基材等が挙げられ、更にこれらの各種材料からなる層が複数積層された積層基材でもよい。これらの基材の形状としては、例えば、フィルム、シートの他、立体的に成型されたものでもよい。
【0035】
ハードコート剤の塗布方法としては、例えば、スプレー、グラビア、ディッピング、ロール、スピン、スクリーン印刷等のようなウェットコーティング法が挙げられる。
【0036】
基材上に塗布されたハードコート剤を硬化させる際に使用する活性エネルギー線としては、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が挙げられる。これらの中でも紫外線照射により硬化させることが好ましい。その場合、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LEDランプ等を用いて、30~3,000mJ/cmの紫外線を照射して硬化させてもよい。
【0037】
ハードコート剤の硬化後の硬度(即ち、硬化物の硬度)としては、例えばマルテンス硬度が350N/mm以上であることが好ましく、より好ましくは380N/mm以上である。マルテンス硬度の上限は特に限定されないが、通常は500N/mm以下である。
【0038】
マルテンス硬度の測定方法は、次のとおりである。ハードコート剤を、乾燥状態での膜厚が約6μmになるようにPETフィルム上に塗布し、乾燥させた後に、高圧水銀ランプ(80W/cm×1灯)を用いて、積算照度600mJ/cmにて照射させることにより、硬化塗膜を得る。得られた塗膜について、微小硬度計(株式会社エリオニクス製「ENT-1100a」、試験荷重0.3mN,三角錐圧子 稜間隔115度)で押し込み硬さ(荷重)を求めた。マルテンス硬度(HM)はHM=F/As(h)の式より求められ、最大荷重(F)をかけたとき、圧子の最大押し込み深さから計算される圧子の表面積(As(h))で割った値である。
【0039】
本実施形態に係るハードコート剤は、各種基材に塗布して硬化させることにより、硬化物(硬化塗膜)を形成することができ、そのような硬化物を含む様々な物品を提供することができる。そのような物品としては、例えば、ディスプレイやタッチパネルなどの様々な電気電子機器が挙げられ、また、該電気電子機器に組み込まれる光学フィルム等でもよい。好ましい物品としては、フォルダブルディスプレイを持つスマートフォン等の携帯電子機器が挙げられる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されない。
【0041】
実施例および比較例で使用したアクリレート1~6の合成例を以下に示す。
【0042】
[アクリレート1]
(水酸基価120mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサーを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸1151質量部(16.0モル)、ペンタエリスリトール(広栄化学工業(株)製)604質量部(4.44モル)、パラトルエンスルホン酸43.9質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル2.1質量部、トルエン552質量部を添加し、混合した。その後、減圧下において、空気を吹き込みながら反応温度約100℃を維持しつつ、ペンタエリスリトール中の全水酸基の83%がエステル化されるまで反応させた。反応は縮合水を除去しながら行った。反応終了後に、トルエン353質量部を追加した。このトルエンを追加した反応液の酸分に対して1.4倍モル量の相当する20質量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら添加することによって中和処理を実施し、それにより過剰なアクリル酸及びパラトルエンスルホン酸を除去した。その後、有機層を分離し、攪拌しながら有機層100質量部に対して水10質量部を添加することにより水洗処理を行った。その後、再度、有機層を分離し、減圧下において加熱することによりトルエンを留去した。得られたアクリレート1は1082質量部であり、水酸基価は120mgKOH/gであった。
【0043】
アクリレート1における、下記成分(A1)~(A4)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ペンタエリスリトールモノアクリレート 0質量%
(A2)ペンタエリスリトールジアクリレート 6質量%
(A3)ペンタエリスリトールトリアクリレート 49質量%
(A4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート 45質量%
【0044】
アクリレート中の各成分の含有割合は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC、「Prominence-iLC2050C」((株)島津製作所製))分析により求めた。詳細には、カラム(「Inertsil ODS-2」、内径4.6mm×長さ250mm(ジーエルサイエンス(株)製))、カラム温度40℃、移動相にメタノール/水=20/80から100/0のグラジエント溶出法で測定した。
【0045】
[アクリレート2]
(水酸基価110mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート)
アクリレート1と同じ方法により合成されたロット違いのペンタエリスリトールアクリレートであり、水酸基価は110mgKOH/g、下記成分(A1)~(A4)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ペンタエリスリトールモノアクリレート 0質量%
(A2)ペンタエリスリトールジアクリレート 6質量%
(A3)ペンタエリスリトールトリアクリレート 44質量%
(A4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50質量%
【0046】
[アクリレート3]
(水酸基価139mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート)
アクリレート1と同じ方法により合成されたロット違いのペンタエリスリトールアクリレートであり、水酸基価は139mgKOH/g、下記成分(A1)~(A4)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ペンタエリスリトールモノアクリレート 0質量%
(A2)ペンタエリスリトールジアクリレート 11質量%
(A3)ペンタエリスリトールトリアクリレート 47質量%
(A4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート 42質量%
【0047】
[アクリレート4]
(水酸基価78mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサーを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸1151質量部(16.0モル)、ペンタエリスリトール(広栄化学工業(株)製)544質量部(4.0モル)、パラトルエンスルホン酸42.4質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル2.0質量部、トルエン532質量部を添加し、混合した。その後、減圧下において、空気を吹き込みながら反応温度約100℃を維持しつつ、ペンタエリスリトール中の全水酸基の89%がエステル化されるまで反応させた。反応は縮合水を除去しながら行った。反応終了後に、トルエン341質量部を追加した。このトルエンを追加した反応液の酸分に対して1.4倍モル量の相当する20質量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら添加することによって中和処理を実施し、それにより過剰なアクリル酸及びパラトルエンスルホン酸を除去した。その後、有機層を分離し、攪拌しながら有機層100質量部に対して水10質量部を添加することにより水洗処理を行った。その後、再度、有機層を分離し、減圧下において加熱することによりトルエンを留去した。得られたアクリレート4は1222質量部であり、水酸基価は78mgKOH/gであった。
【0048】
アクリレート4における、下記成分(A1)~(A4)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ペンタエリスリトールモノアクリレート 0質量%
(A2)ペンタエリスリトールジアクリレート 1質量%
(A3)ペンタエリスリトールトリアクリレート 39質量%
(A4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量%
【0049】
[アクリレート5]
(水酸基価190mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサーを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸1151質量部(16.0モル)、ペンタエリスリトール(広栄化学工業(株)製)604質量部(4.44モル)、パラトルエンスルホン酸43.9質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル2.1質量部、トルエン552質量部を添加し、混合した。その後、減圧下において、空気を吹き込みながら反応温度約100℃を維持しつつ、ペンタエリスリトール中の全水酸基の75%がエステル化されるまで反応させた。反応は縮合水を除去しながら行った。反応終了後に、トルエン353質量部を追加した。このトルエンを追加した反応液の酸分に対して1.1倍モル量の相当する20質量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら添加することによって中和処理を実施し、それにより過剰なアクリル酸及びパラトルエンスルホン酸を除去した。その後、有機層を分離し、攪拌しながら有機層100質量部に対して水10質量部を添加することにより水洗処理を行った。その後、再度、有機層を分離し、減圧下において加熱することによりトルエンを留去した。得られたアクリレート5は837質量部であり、水酸基価は190mgKOH/gであった。
【0050】
アクリレート5における、下記成分(A1)~(A4)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ペンタエリスリトールモノアクリレート 0質量%
(A2)ペンタエリスリトールジアクリレート 23質量%
(A3)ペンタエリスリトールトリアクリレート 45質量%
(A4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート 32質量%
【0051】
[アクリレート6]
(水酸基価50mgKOH/gのジペンタエリスリトールアクリレート)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサーを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸3166質量部(43.9モル)、ジペンタエリスリトール1526質量部(6.0モル)、パラトルエンスルホン酸187.7質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル9.4質量部、トルエン939質量部を添加し、混合した。その後、減圧下において、空気を吹き込みながら反応温度約100℃を維持しつつ、ジペンタエリスリトール中の全水酸基の88%がエステル化されるまで反応させた。反応は縮合水を除去しながら行った。反応終了後に、1.2倍モル量の相当する25質量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら添加することによって中和処理を実施し、それにより過剰なアクリル酸及びパラトルエンスルホン酸を除去した。その後、有機層を分離し、攪拌しながら有機層100質量部に対して水25質量部を添加することにより水洗処理を行った。その後、再度、有機層を分離し、減圧下において加熱することによりトルエンを留去した。得られたアクリレート6は3894質量部であり、水酸基価は50mgKOH/gであった。
【0052】
アクリレート6における、下記成分(A1)~(A2)の合計に対する各成分の含有割合は以下の通りであった。
(A1)ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 47質量%
(A2)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 53質量%
【0053】
[実施例1]
フラスコに、ポリイソシアネートとしてキシリレンジイソシアネート(三井化学(株)製)188.19g(1.0モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.61g、及び、ポリオールとして水酸基価120mgKOH/gのペンタエリスリトールアクリレート(アクリレート1)1028.68g(水酸基換算で2.2モル)を仕込んだ後、50~80℃にて遊離イソシアネート量が0.1%以下になるまで反応させることにより、実施例1のウレタンアクリレートを得た。
【0054】
[実施例2~5および比較例1~16]
ポリオール、ポリイソシアネートおよび重合禁止剤の仕込み量(g)を、下記表1~4に示すとおり変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例2~5および比較例1~16のウレタンアクリレートを合成した。
【0055】
上記で得られた実施例1~5および比較例1~16のウレタンアクリレートを用いてハードコート剤を作製し、マルテンス硬度、低カール性、硬度・低カール指数、および屈曲性を測定・評価した。比較例17では、ウレタンアクリレートの代わりにジペンタエリスリトールアクリレートを用いてハードコート剤を作製し、同様に測定・評価した。結果を表1~4に示す。測定・評価方法は以下の通りである。
【0056】
[マルテンス硬度]
ウレタンアクリレート/トルエン/「Omnirad184」(IGM Resins B.V.製)=60質量部/40質量部/1.8質量部の割合で混合して、ハードコート剤を作製した。該ハードコート剤を、厚さ100μmのPETフィルム(コスモシャインA4360、東洋紡(株)製)に乾燥した状態での膜厚が約6μmとなるように塗布し、80℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプ(80W/cm×1灯)を用いて、積算照度600mJ/cmにて紫外線を照射することにより、塗膜を硬化させたフィルムを得た。得られたフィルムについて、微小硬度計(株式会社エリオニクス「ENT-1100a」、試験荷重0.3mN,三角錐圧子 稜間隔115度)で押し込み硬さ(荷重)を求め、上記の式からマルテンス硬度(HM)を求めた。数値が大きい程、高硬度の塗膜であることを示す。
【0057】
[低カール性]
ウレタンアクリレート/「Omnirad184」(IGM Resins B.V.製)=100質量部/3質量部の割合で混合して、ハードコート剤を作製した。該ハードコート剤を、厚さ100μmのPETフィルム(「コスモシャインA4360」、東洋紡(株)製)に乾燥した状態での膜厚が約10μmとなるよう塗布した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプ(80W/cm×1灯)を用いて、積算照度600mJ/cmにて照射することにより、塗膜を硬化させたフィルムを得た。得られたフィルムを6cm×6cmの大きさに切り出した後、水平面上に置き、1隅を固定した。そして、水平面からの3隅の浮き(mm)をそれぞれ測定し、その平均値を算出し、比較例17の値を100として低カール性を指数表示した。数値が小さいほど、反りが少なく、低カール性に優れることを示す。
【0058】
[硬度・低カール指数]
マルテンス硬度を低カール性の指数で除した値(「マルテンス硬度」/「低カール性の指数」)を、硬度と低カール性の両立効果を示す指数(硬度・低カール指数)とした。数値が大きいほど、硬度と低カール性の両立効果に優れることを示す。
【0059】
[屈曲性]
ウレタンアクリレート/「Omnirad184」(IGM Resins B.V.製)=100質量部/3質量部の割合で混合して、ハードコート剤を作製した。該ハードコート剤を、厚さ100μmのPETフィルム(「コスモシャインA4360」、東洋紡(株)製)に乾燥した状態での膜厚が約6μmとなるよう塗布した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプ(80W/cm×1灯)を用いて、積算照度600mJ/cmにて照射することにより、塗膜を硬化させたフィルムを得た。塗膜を硬化させたフィルムに対してJIS K5600-5-1:1999に準拠して測定を行い、屈曲性を測定し、下記基準で評価した。
A:マンドレル直径が4mmで筋が付かない。
B:マンドレル直径が5~7mmで筋が付く。
C:マンドレル直径が8mm以上で筋が付く。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
結果は表1~4に示すとおりである。ジペンタエリスリトールアクリレートを用いたコントロールである比較例17は、硬度は高いものの、低カール性および屈曲性に劣っていた。これに対し、特定の水酸基価を持つペンタエリスリトールアクリレートとキシリレンジイソシアネートとの反応物であるウレタンアクリレートを用いた実施例1~5では、高硬度を維持しつつ、低カール性が顕著に改善されており、硬度と低カール性の両立効果に優れるとともに、屈曲性にも優れていた。
【0065】
一方、水酸基価が小さいペンタエリスリトールアクリレートとキシリレンジイソシアネートとの反応物であるウレタンアクリレートを用いた比較例1では、硬度と低カール性の両立効果が実施例1~5よりも劣っており、屈曲性にも劣っていた。水酸基価が大きいペンタエリスリトールアクリレートとキシリレンジイソシアネートとの反応物であるウレタンアクリレートを用いた比較例3では、硬度と低カール性の両立効果が実施例1~5よりも劣っていた。
【0066】
ウレタンアクリレートを構成するポリイソシアネートとしてキシリレンジイソシアネート以外のポリイソシアネートを用いた場合、ポリオールとして特定の水酸基価を持つペンタエリスリトールアクリレートを用いても、比較例2,5,9,15に示されるように、硬度と低カール性の両立効果が実施例1~5よりも劣り、屈曲性にも劣っていた。
【0067】
ウレタンアクリレートを構成するポリオールとして水酸基価が大きいペンタエリスリトールアクリレートを用い、これにキシリレンジイソシアネート以外のポリイソシアネートを組み合わせた場合、比較例4,6,8,10に示されるように、硬度と低カール性の両立効果と屈曲性の少なくとも一方の評価が劣っていた。また、ウレタンアクリレートを構成するポリオールとしてジペンタエリスリトールアクリレートを用いた場合、比較例11~14,16に示されるように、低カール性および屈曲性が劣っていた。
【0068】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】低カール性、硬度および屈曲性に優れた塗膜を形成することができるハードコート剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るハードコート剤は、水酸基価が80~160mgKOH/gのペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを含むポリオールと、キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートを含む。
【選択図】なし