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特許7158634中空部を有する窒化ホウ素粒子を含有するシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】中空部を有する窒化ホウ素粒子を含有するシート
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20221014BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20221014BHJP
   C08K 7/24 20060101ALI20221014BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C01B21/064
C08K3/38
C08K7/24
C08L101/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022544002
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030446
(87)【国際公開番号】W WO2022039235
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2020139474
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道治
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/003193(WO,A1)
【文献】特開2016-76586(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108545708(CN,A)
【文献】国際公開第2020/031883(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/073690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/38
C08K 7/24
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、中空部を有する窒化ホウ素粒子と、を含有し、
前記窒化ホウ素粒子の前記中空部には前記樹脂が充填されており、
前記窒化ホウ素粒子は、シートの断面において、前記窒化ホウ素粒子に占める前記中空部の面積割合が40%以上である窒化ホウ素粒子を含む、シート。
【請求項2】
樹脂と、中空部を有する窒化ホウ素粒子と、を含有し、
前記窒化ホウ素粒子の前記中空部には前記樹脂が充填されており、
前記窒化ホウ素粒子が、1.5以上のアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子を含む、シート。
【請求項3】
前記1.5以上のアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子が、80μm以上の最大長さを有する、請求項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空部を有する窒化ホウ素粒子を含有するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の電子部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが課題となっている。この課題に対して、熱伝導率が高いセラミックス粉末を含有する放熱部材が用いられる。
【0003】
セラミックス粉末としては、高熱伝導率、高絶縁性、低比誘電率等の特性を有している窒化ホウ素粉末が注目されている。窒化ホウ素粉末は、一般的に、窒化ホウ素の一次粒子が凝集してなる凝集粒子(塊状粒子)で構成されている。例えば、特許文献1には、凝集粒子の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成したとされる六方晶窒化ホウ素粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-98882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、上述したような伝熱シートにおいて窒化ホウ素粉末の充填量を高めるほど伝熱シートが重くなるため、軽量化を図ることが望ましい場合がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、軽量化が可能なシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、樹脂と、中空部を有する窒化ホウ素粒子と、を含有し、窒化ホウ素粒子の中空部には樹脂が充填されている、シートである。
【0008】
このシートでは、窒化ホウ素粒子が中空部を有しており、その中空部に窒化ホウ素より軽い樹脂が充填されていることにより、例えば従来の窒化ホウ素の一次粒子が凝集してなる凝集粒子(塊状粒子)を用いた場合に比べて、シートの軽量化が可能となる。加えて、驚くべきことに、中空部の窒化ホウ素粒子を含有するシートが、例えば従来の窒化ホウ素の凝集粒子(塊状粒子)を含有するシートに比べて、同等以上の熱伝導率を有し得ることも判明した。
【0009】
シートの断面において、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が40%以上であってよい。
【0010】
窒化ホウ素粒子が、1.5以上のアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子を含んでよい。この1.5以上のアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子が、80μm以上の最大長さを有してよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量化が可能なシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の窒化ホウ素粒子のX線回折測定結果のグラフである。
図2】実施例1のシートの断面のSEM画像である。
図3】実施例2のシートの断面のSEM画像である。
図4】実施例3のシートの断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態は、樹脂と窒化ホウ素粒子とを含有するシートである。このシートは、例えば放熱シートとして用いることができる。
【0014】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。樹脂は、未硬化の状態であってよく、半硬化した状態(硬化した樹脂と未硬化の樹脂とが存在する状態)であってよく、完全硬化(実質的に硬化した樹脂のみが存在する状態)であってよい。
【0015】
シートに占める樹脂の割合は、10%以上、20%以上、30%以上、又は40%以上であってよく、90%以下、85%以下、又は80%以下であってよい。
【0016】
シートに占める樹脂の割合は、シートの任意の10個の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率300倍で観察した断面画像(SEM画像)を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、各断面画像内の任意の300μm×300μmの領域において樹脂(窒化ホウ素粒子の中空部に充填された樹脂を含む)が占める面積割合を算出し、算出された10個の断面における面積割合の平均値として定義される。
【0017】
窒化ホウ素粒子は、中空部を有する窒化ホウ素粒子である。窒化ホウ素粒子は、例えば、窒化ホウ素により形成される外殻部と、外殻部に囲われた中空部とを有してよい。言い換えれば、窒化ホウ素粒子は、中空形状を有している。外殻部は、中空部と連通する開口を有していてもよい。中空部は、窒化ホウ素粒子の外観形状に沿って形成されていてよく、窒化ホウ素粒子の外観形状と略相似形の形状であってもよい。
【0018】
窒化ホウ素粒子が上記のような中空形状を有することは、シートの断面をSEMで観察し、当該シートの断面のSEM画像において確認できる。シートの断面画像(SEM画像)において、窒化ホウ素粒子の外殻部が開口を有さない(閉空間を形成している)場合、窒化ホウ素粒子の中空部は当該閉空間を意味する。また、シートの断面画像(SEM画像)において、窒化ホウ素粒子の外殻部が開口を有する場合、窒化ホウ素粒子の中空部は、当該開口における窒化ホウ素粒子の端同士を結ぶ直線と、窒化ホウ素粒子の外殻部とで囲われる部分を意味する。なお、開口における窒化ホウ素粒子の端同士を結ぶ直線は、中空部の面積が最大となるように結ぶものとする。
【0019】
窒化ホウ素粒子は、中空部を有することにより、中実の窒化ホウ素粒子(例えば、窒化ホウ素の一次粒子が凝集してなる従来の窒化ホウ素粒子)に比べて、窒化ホウ素よりも軽い樹脂が中空部に充填され得ることから、シートの軽量化が期待できる。
【0020】
窒化ホウ素粒子は、シートの更なる軽量化の観点から、シートの断面において、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が、40%以上、50%以上、又は60%以上である窒化ホウ素粒子を含んでよい。当該窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合は、90%以下又は80%以下であってよい。
【0021】
窒化ホウ素粒子の中空部の面積割合は、シートの断面画像(SEM画像)を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込んで、当該断面画像における窒化ホウ素粒子の断面画像から計算することにより求めることができる。
【0022】
窒化ホウ素粒子は、シートの更なる軽量化の観点から、外殻部の厚さが、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下である窒化ホウ素粒子を含んでよい。当該窒化ホウ素粒子の外殻部の厚さは、窒化ホウ素粒子の形状を維持しやすくなる観点から、1μm以上又は3μm以上であってよい。外殻部の厚さは、シートの断面画像(SEM画像)において、中空部を有する1個の窒化ホウ素粒子における任意の10箇所の外殻部の厚さの平均値と定義される。
【0023】
窒化ホウ素粒子は、1.5以上、1.7以上、2.0以上、3.0以上、5.0以上、又は7.0以上のアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子を含んでよい。当該窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、12.0以下、10.0以下、9.0以下、又は8.0以下であってよい。
【0024】
窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、窒化ホウ素粒子の最大長さ(長手方向の最大長さ)Lと、最大長さを有する方向(長手方向)に垂直な方向(短手方向)における窒化ホウ素粒子の最大長さ(短手方向の最大長さ)Lとの比(L/L)として定義される。窒化ホウ素粒子の最大長さとは、シートの断面をSEMで観察したときに、1個の窒化ホウ素粒子上の任意の2点間の直線距離のうち最大となる長さを意味する。窒化ホウ素粒子の長手方向の最大長さL及び短手方向の最大長さLは、シートのSEM画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込んで測定することができる。
【0025】
シートは、窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比が1.3以上となる断面を有していてよい、当該平均アスペクト比は、1.5以上又は1.7以上であってよく、10.0以下、9.0以下、又は8.0以下であってよい。
【0026】
窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、以下のように定義される。すなわち、まず、シートの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率300倍で3視野において観察し、各視野の断面画像(SEM画像)を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、各視野の断面画像内の任意の300μm×300μmの領域において、3視野で合計5個の窒化ホウ素粒子を観察する。このとき、窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、3視野において観察した5個の窒化ホウ素粒子のアスペクト比の平均値として定義される。
【0027】
窒化ホウ素粒子のアスペクト比又は平均アスペクト比が大きいほど、窒化ホウ素粒子はより細長い形状を有するため、窒化ホウ素粒子の長手方向の熱伝導率を向上させることができる。特に、窒化ホウ素粒子の長手方向がシートの厚さ方向に沿うように窒化ホウ素粒子が配置されると、窒化ホウ素粒子間での伝熱ロスが少なくなるため、シートの熱伝導性がより優れると考えられる。
【0028】
上述したアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子の長手方向の最大長さLは、シートの熱伝導率をより向上させる観点から、80μm以上、100μm以上、又は150μm以上であってよい。窒化ホウ素粒子の長手方向の最大長さLは、500μm以下又は400μm以下であってよい。
【0029】
シートは、窒化ホウ素粒子の平均最大長さが50μm以上である断面を有していてよい。当該平均最大長さは、70μm以上又は80μm以上であってよく、500μm以下又は400μm以下であってよい。
【0030】
窒化ホウ素粒子の平均最大長さは、以下のように定義される。すなわち、まず、シートの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率300倍で3視野において観察し、各視野の断面画像(SEM画像)を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、各視野の断面画像内の任意の300μm×300μmの領域において、3視野で合計5個の窒化ホウ素粒子を観察する。このとき、窒化ホウ素粒子の平均最大長さは、3視野において観察した5個の窒化ホウ素粒子の最大長さの平均値として定義される。
【0031】
窒化ホウ素粒子の最大長さ又は平均最大長さが大きいことで、シートの厚み方向に並ぶ粒子数が少なくなり、窒化ホウ素粒子間での伝熱ロスが少なくなるため、シートの熱伝導性がより優れると考えられる。
【0032】
上述したアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子においては、長手方向の両端の少なくとも一方が開口端であってよく、両方が開口端であってもよい。当該開口端は、中空部と連通していてよい。窒化ホウ素粒子がこのような開口端を有する場合、シートの製造時に、樹脂が窒化ホウ素粒子の中空部に充填されやすくなる。
【0033】
シートに占める窒化ホウ素粒子の割合は、シートの熱伝導率を向上させる観点から、10%以上、15%以上、又は20%以上であってよい。シートに占める窒化ホウ素粒子の割合は、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下であってよい。シートに占める窒化ホウ素粒子の割合は、シートの任意の10個の断面をSEMにより倍率300倍で観察した断面画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、各断面画像内の任意の300μm×300μmの領域において窒化ホウ素粒子(窒化ホウ素粒子の中空部は除く)が占める面積割合を算出し、算出された10個の断面における面積割合の平均値として定義される。
【0034】
シートは、その他の成分を更に含有してもよい。樹脂が未硬化の状態又は一部硬化された状態である場合、シートは、硬化剤を更に含有してもよく、硬化促進剤(硬化触媒)を更に含有してもよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択される。樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上又は1質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0035】
硬化促進剤(硬化触媒)としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルフォスフェイト等のリン系硬化促進剤、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のアミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0036】
その他の成分は、カップリング剤、湿潤分散剤、表面調整剤等であってもよい。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤に含まれる化学結合基としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0037】
湿潤分散剤としては、リン酸エステル塩、カルボン酸エステル、ポリエステル、アクリル共重合物、ブロック共重合物等が挙げられる。
【0038】
表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0039】
シートの厚さは、50μm以上、80μm以上、又は100μm以上であってよく、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下であってよい。
【0040】
以上説明したシートは、例えば、上述した窒化ホウ素粒子を用意する工程(用意工程)と、窒化ホウ素粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物を調製する工程(調製工程)と、樹脂組成物をシート状に成形する工程(成形工程)と、を備える、シートの製造方法により製造される。すなわち、本発明の他の一実施形態は、このようなシートの製造方法である。
【0041】
用意工程は、例えば、炭素材料で形成された容器内に、炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物と、炭素材料で形成された基材とを配置する工程(配置工程)と、容器内を窒素雰囲気にした状態で加熱及び加圧することにより、基材上に窒化ホウ素粒子を生成させる工程(生成工程)と、を有する。これにより、中空部を有する窒化ホウ素粒子を製造することができる。
【0042】
炭素材料で形成された容器は、上記混合物及び基材を収容できるような容器である。当該容器は、例えばカーボンルツボであってよい。容器は、好ましくは、開口部に蓋をすることにより、気密性を高められるような容器である。配置工程では、例えば、混合物を容器内の底部に配置し、基材を容器内の側壁面や蓋の内側に固定するように配置してよい。炭素材料で形成された基材は、例えば、シート状、板状、又は棒状であってよい。炭素材料で形成された基材は、例えば、カーボンシート(グラファイトシート)、カーボン板、又はカーボン棒であってよい。
【0043】
混合物中の炭化ホウ素は、例えば粉末状(炭化ホウ素粉末)であってよい。混合物中のホウ酸は、例えば粉末状(ホウ酸粉末)であってよい。混合物は、例えば、炭化ホウ素粉末とホウ酸粉末とを公知の方法で混合することにより得られる。
【0044】
炭化ホウ素粉末は、公知の製造方法により製造することができる。炭化ホウ素粉末の製造方法としては、例えば、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合した後、不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気中で、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、塊状の炭化ホウ素粒子を得る方法が挙げられる。この方法により得られた塊状の炭化ホウ素粒子を、粉砕、篩分け、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行うことで炭化ホウ素粉末を得ることができる。
【0045】
塊状の炭素ホウ素粒子の粉砕時間を調整することによって、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を調整することができる。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、5μm以上、7μm以上、又は10μm以上であってよく、100μm以下、90μm以下、80μm以下、又は70μm以下であってよい。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0046】
炭化ホウ素とホウ酸との混合比率は、適宜選択できる。混合物中のホウ酸の含有量は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、炭化ホウ素100質量部に対して、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、100質量部以下、90質量部以下、又は80質量部以下であってよい。
【0047】
炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物は、他の成分を更に含有してもよい。他の成分としては、炭化ケイ素、炭素、酸化鉄等が挙げられる。炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物が炭化ケイ素を更に含むことで、開口端を有さない窒化ホウ素粒子を得やすくなる。
【0048】
容器内は、例えば95体積%以上の窒素ガスを含む窒素雰囲気となっている。窒素雰囲気中の窒素ガスの含有量は、好ましくは95体積%以上であり、より好ましくは99.9体積%以上であり、実質的に100体積%であってよい。窒素雰囲気中に、窒素ガスに加えて、アンモニアガス等が含まれてもよい。
【0049】
加熱温度は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1600℃以上であり、更に好ましくは1800℃以上である。加熱温度は、2400℃以下、2300℃以下、又は2200℃以下であってよい。
【0050】
加圧する際の圧力は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは0.3MPa以上であり、より好ましくは0.6MPa以上である。加圧する際の圧力は、1.0MPa以下、又は0.9MPa以下であってよい。
【0051】
加熱及び加圧を行う時間は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは5時間以上である。加熱及び加圧を行う時間は、40時間以下、又は30時間以下であってよい。
【0052】
生成工程では、中空部を有する窒化ホウ素粒子が、炭素材料で形成された基材上に生成する。したがって、基材上の窒化ホウ素粒子を回収することにより、窒化ホウ素粒子が得られる。基材上に生成した粒子が窒化ホウ素粒子であることは、基材上に生成した粒子の一部を基材から回収し、回収した粒子についてX線回折測定を行い、窒化ホウ素に由来するピークが検出されることにより確認できる。
【0053】
以上のようにして得られる窒化ホウ素粒子に対して、特定の範囲の最大長さを有する窒化ホウ素粒子のみが得られるように分級する工程(分級工程)を実施してもよい。
【0054】
調製工程では、例えば、公知の方法(例えばヘンシェルミキサーによる混合)で、窒化ホウ素粒子と樹脂とを混合することにより、樹脂組成物を調製する。調製工程で調製される樹脂組成物は、必要に応じて溶媒(例えば樹脂を溶解させる溶媒)を更に含んでよく、上述したその他の成分を更に含んでもよい。
【0055】
調製工程において、窒化ホウ素粒子の添加量は、樹脂100質量部に対して、10質量部以上、30質量部以上、又は50質量部以上であってよく、600質量部以下、400質量部以下、又は300質量部以下であってよい。
【0056】
溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶媒としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。芳香族系溶媒としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0057】
成形工程では、例えば、フィルムアプリケーターを用いて、樹脂組成物を基板上に塗工することにより、樹脂組成物をシート状に成形できる。成形工程においては、成形と同時又は成形後に、樹脂組成物中の樹脂を一部又は全部を硬化させる工程(硬化工程)が行われてもよい。
【0058】
樹脂を硬化させる方法は、樹脂(及び必要に応じて用いられる硬化剤)の種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂であり、上述した硬化剤が共に用いられる場合、硬化工程では、加熱により樹脂を硬化させることができ、加熱と共に加圧が行われてもよい。この場合、加熱温度及び加熱時間(加圧が行われる場合は圧力及び加圧時間)を調整することにより、得られるシートにおける樹脂の硬化状態を調整することができる。樹脂組成物が溶媒を含む場合は、硬化工程において、樹脂を硬化させると共に、当該溶媒を揮発させてもよい。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
塊状の炭化ホウ素粒子を粉砕機により粉砕し、平均粒子径が10μmである炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末100質量部と、ホウ酸9質量部とを混合し、カーボンルツボに充填し、カーボンルツボの開口部をカーボンシート(NeoGraf社製)で覆い、カーボンルツボの蓋とカーボンルツボとでカーボンシートを挟むことで、カーボンシートを固定した。蓋をしたカーボンルツボを抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で20時間加熱することで、カーボンシート上に粒子が生成した。カーボンシート上に生成した粒子を回収し、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いてX線回折測定した。このX線回折測定結果、及び比較対象としてデンカ株式会社製の窒化ホウ素粉末(GPグレード)のX線回折測定結果をそれぞれ図1に示す。図1から分かるように、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。
【0061】
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、HP4032)100質量部と、硬化剤としてイミダゾール化合物(四国化成社製、2E4MZ-CN)10質量部とを混合し、次いで、得られた窒化ホウ素粒子81質量部を更に混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、500Paの減圧脱泡を10分間行い、PET製基板上に厚みが1.0mmになるように塗布した。その後、温度150℃、圧力160kg/cmの条件で60分間の加熱及び加圧を行って、厚さ0.5mmのシートを作製した。
【0062】
作製したシートの断面のSEM画像を図2に示す。シートの断面において、窒化ホウ素粒子の一つ(図2において矢印1で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が68%、外殻部の厚さが7.0μm、アスペクト比が2.5、最大長さが168μmであった。また、シートの断面において、別の窒化ホウ素粒子の一つ(図2において矢印2で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が62%、外殻部の厚さが6.2μm、アスペクト比が2.9、最大長さが140μmであった。シートに占める樹脂の割合は64%、窒化ホウ素粒子の割合は36%であった。
【0063】
(実施例2)
窒化ホウ素粒子の添加量を、樹脂100質量部に対して47質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。作製したシートの断面のSEM画像を図3に示す。シートの断面において、窒化ホウ素粒子の一つ(図3において矢印3で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が75%、外殻部の厚さが5.5μm、アスペクト比が3.9、最大長さが211μmであった。また、シートの断面において、別の窒化ホウ素粒子の一つ(図3において矢印4で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が56%、外殻部の厚さが8.5μm、アスペクト比が3.8、最大長さが156μmであった。シートに占める樹脂の割合は75%、窒化ホウ素粒子の割合は25%であった。
【0064】
(実施例3)
窒化ホウ素粒子の添加量を、樹脂100質量部に対して33質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。作製したシートの断面のSEM画像を図4に示す。シートの断面において、窒化ホウ素粒子の一つ(図4において矢印5で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が70%、外殻部の厚さが5.2μm、アスペクト比が4.6、最大長さが182μmであった。また、シートの断面において、別の窒化ホウ素粒子の一つ(図4において矢印6で示した窒化ホウ素粒子)では、窒化ホウ素粒子に占める中空部の面積割合が65%、外殻部の厚さが5.9μm、アスペクト比が2.9、最大長さが111μmであった。シートに占める樹脂の割合は79%、窒化ホウ素粒子の割合は21%であった。
【0065】
(比較例1)
実施例1で得られた窒化ホウ素粒子を、平均粒子径85μmの塊状窒化ホウ素粒子に変更し、窒化ホウ素粒子の添加量を樹脂100質量部に対して47質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0066】
[熱伝導率の測定]
得られたシートから10mm×10mmの大きさの測定用試料を切り出し、キセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、LFA447NanoFlash)を用いたレーザーフラッシュ法により、測定用試料の熱拡散率A(m/秒)を測定した。また、測定用試料の比重B(kg/m)をアルキメデス法により測定した。また、測定用試料の比熱容量C(J/(kg・K))を、示差走査熱量計(株式会社リガク製、ThermoPlusEvoDSC8230)を用いて測定した。これらの各物性値を用いて、熱伝導率H(W/(m・K))をH=A×B×Cの式から求めた。熱伝導率の測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、中空部を有する窒化ホウ素粒子の添加量を81質量部(実施例1)から47質量部(実施例2)に減らし、更に33質量部(実施例3)に減らしても、平均粒子径85μmの塊状の窒化ホウ素粒子の添加量が47質量部の比較例1のシートよりも熱伝導率が優れることから、シートの優れた熱伝導率を維持しつつ、シートを軽量化できることがわかる。
図1
図2
図3
図4