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特許7158641無呼吸低呼吸指標推定装置、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】無呼吸低呼吸指標推定装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20221017BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20221017BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20221017BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20221017BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
A61B5/08 ZDM
A61B5/02 310J
A61B5/0245 Z
A61B5/11 100
A61B5/113
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022098448
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022060807
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514118321
【氏名又は名称】ヘルスセンシング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 正巳
(72)【発明者】
【氏名】新関 久一
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064338(JP,A)
【文献】特開2008-110108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0375490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の生体振動信号を受信する生体振動信号受信部と、
前記生体振動信号から体動信号を検出する体動信号検出部と、
前記生体振動信号から呼吸数を検出する呼吸数検出部と、
前記生体振動信号から心拍数を検出する心拍数検出部と、
前記生体振動信号から検出した心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から位相コヒーレンスを算出する位相コヒーレンス算出部と、
前記体動信号、前記心拍数、前記呼吸数、前記位相コヒーレンスを入力してそれぞれのヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
それぞれの前記ヒストグラムを入力して特徴画像を生成する特徴画像生成部と、
前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定する無呼吸低呼吸指標推定部を備え、
前記無呼吸低呼吸指標推定部は、睡眠ポリソムノグラフに基づいて判定されたAHIを教師データとし、前記教師データと同期した前記特徴画像を入力データとして機械学習を行い、被験者の前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定することを特徴とする無呼吸低呼吸指標推定装置。
【請求項4】
センサ部が出力する生体振動信号を受信するステップと、
前記生体振動信号から体動信号検出部が体動信号を検出し、呼吸数検出部が呼吸数を検出し、心拍数検出部が心拍数を検出し、位相コヒーレンス算出部が生体振動信号から検出した心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から位相コヒーレンスを算出するステップと、
前記体動信号、前記心拍数、前記呼吸数、前記位相コヒーレンスそれぞれのヒストグラムを生成するステップと、
前記ヒストグラムから特徴画像を生成するステップと、
無呼吸低呼吸指標推定モデルが、睡眠ポリソムノグラフに基づいて判定されたAHIを教師データとし、前記教師データと同期した前記特徴画像を入力データとして機械学習を行うステップと、
被験者の前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定するステップを備えることを特徴とする無呼吸低呼吸指標推定方法。
【請求項5】
コンピュータを、
センサ部が出力する生体振動信号を受信する手段、
前記生体振動信号から体動信号を検出する手段、
前記生体振動信号から呼吸数を検出する手段、
前記生体振動信号から心拍数を検出する手段、
前記生体振動信号から検出した心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から位相コヒーレンスを算出する手段、
前記体動信号、前記心拍数、前記呼吸数、前記位相コヒーレンスを入力してそれぞれのヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段、
それぞれの前記ヒストグラムを入力して特徴画像を生成する特徴画像生成手段、
睡眠ポリソムノグラフに基づいて判定されたAHIを教師データとし、前記教師データと同期した前記特徴画像を入力データとして無呼吸低呼吸指標を推定する無呼吸低呼吸指標推定部の機械学習を行わせる手段、
被験者の前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定する手段、
として機能させることを特徴とする無呼吸低呼吸指標推定プログラム。
【請求項6】
動物の生体振動信号を受信する生体振動信号受信部と、
前記生体振動信号から体動信号を検出する体動信号検出部と、
前記生体振動信号から呼吸数を検出する呼吸数検出部と、
前記生体振動信号から心拍数を検出する心拍数検出部と、
前記心拍数から心拍変動パワースペクトルの高周波成分および低周波成分/高周波成分を算出する心拍変動算出部と、
前記体動信号、前記心拍数、前記呼吸数、前記高周波成分、前記低周波成分/高周波成分を入力してそれぞれのヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
それぞれの前記ヒストグラムを入力して特徴画像を生成する特徴画像生成部と、
前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定する無呼吸低呼吸指標推定部を備え、
前記無呼吸低呼吸指標推定部は、睡眠ポリソムノグラフに基づいて判定されたAHIを教師データとし、前記教師データと同期した前記特徴画像を入力データとして機械学習を行い、被験者の前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定することを特徴とする無呼吸低呼吸指標推定装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から算出した位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)から、無呼吸低呼吸指標(以降、AHI(Apnea Hypopnea Index))を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の確定診断のゴールドスタンダードはポリソムノグラフィー検査(PSG)であるが、装置そのものが大がかりであり、また計測される生体信号の種類も多いためSASのスクリーニングには向いていない。そのため、SASが疑われる場合は簡易検査機器を用いるのが一般的である。
SASのスクリーニングでは呼吸気流計で計測した呼吸気流量と、パルスオキシメーターで計測したと経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)から、睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数として、無呼吸低呼吸指標(AHI(Apnea Hypopnea Index))を求めて、この指標によって重症度が分類されている。なお、無呼吸とは、呼吸気流が少なくとも10秒以上消失し、SpO2が4%以上低下した状態であり、低呼吸(Hypopnea)とは、換気の明らかな低下に加えSpO2が3~4%以上低下した状態、もしくは覚醒を伴う状態を指す。
さらにスクリーニングの簡便化を図るため、非接触・非拘束で、AHIを推定する技術が提案されている。
例えば、圧電センサで取得した信号にBPF(0.1-0.7Hz)処理、ノイズ低減処理、フーリエ変換を施して、呼吸の低周波成分のパワーから見かけの無呼吸低呼吸指標を算出する技術が開示されている(特許文献1)。
また、心拍計測器の出力から得られた複数の連続した心拍間隔(RRI)を特徴ベクトルとして、再帰型ニューラルネットワーク(LSTM等)を用いてあらかじめ機械学習させたモデルに入力し、無呼吸状態か正常呼吸状態かを心拍間隔のみから得る技術が開示されている(特許文献2)。
いずれの技術もPSGを用いたAHIの判定を簡便化する試みであるが、無呼吸は低酸素状態をもたらすことから自律神経活動が交感神経優位に傾き、心拍数が急上昇したり睡眠中の覚醒頻度が多くなり体動も変化すると予想される。したがって、間接的にAHIを推定する場合は、無呼吸の影響を受ける自律神経活動等を含む情報を総合的に判断する方が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-011948
【文献】WO2020/166239
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況に鑑み、本発明は、非接触・非拘束で、被験者の生体振動信号を取得し、その信号から呼吸数、心拍数、心拍間隔変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から算出される位相コヒーレンス、および体動の4つのパラメータを抽出して、それらのヒストグラムを作成し、さらにヒストグラムから生成された特徴画像とAHIの関係をあらかじめ機械学習したAHI推定モデルを用いることで、前記特徴画像をAHI推定モデルに入力することによってAHIを推定する技術を提供することを目的とする。
また、非接触・非拘束で、被験者の生体振動信号を取得し、その信号から呼吸数、心拍数、心拍変動パワースペクトルの高周波成分、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分および体動の5つのパラメータを抽出して、それらのヒストグラムを作成し、さらにヒストグラムから生成された特徴画像とAHIの関係をあらかじめ機械学習したAHI推定モデルを用いることで、前記特徴画像をAHI推定モデルに入力することによってAHIを推定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
無呼吸低呼吸指標推定装置として、
動物の生体振動信号を受信する生体振動信号受信部と、
前記生体振動信号から体動信号を検出する体動信号検出部と、
前記生体振動信号から呼吸数を検出する呼吸数検出部と、
前記生体振動信号から心拍数を検出する心拍数検出部と、
前記生体振動信号から検出した心拍間隔変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から位相コヒーレンスを算出する位相コヒーレンス算出部と、
前記体動信号、前記心拍数、前記呼吸数、前記位相コヒーレンスを入力してそれぞれのヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
それぞれの前記ヒストグラムを入力して特徴画像を生成する特徴画像生成部と、
前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定する無呼吸低呼吸指標推定部を備え、
前記無呼吸低呼吸指標推定部は、睡眠ポリソムノグラフに基づいて判定されたAHIを教師データとし、前記教師データと同期した前記特徴画像を入力データとして機械学習を行い、被験者の前記特徴画像を入力して無呼吸低呼吸指標を推定する。
さらには、シート状の圧電センサ等のセンサ部を備えて、無呼吸低呼吸指標推定システムを構成する。
さらには、位相コヒーレンスの代わりに、心拍変動パワースペクトルの高周波成分、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分を用いる。
【発明の効果】
【0006】
呼吸流量計やパルスオキシメーターで被験者を拘束することなく、被験者のAHIを推定することができるので、無呼吸低呼吸症候群のスクリーニングに有用である。
また、睡眠時間全体の複数の生理指標を一つに集約した特徴画像に基づいてAHIを推定するので、画像情報に基づく客観的な無呼吸低呼吸症候群のスクリーニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】無呼吸低呼吸推定装置の概略ブロック図
図2】AHIが2の4つの生理指標のヒストグラムとその特徴画像
図3】AHIが91の4つの生理指標のヒストグラムとその特徴画像
図4】推定AHIと真のAHIとの相関
図5】無呼吸低呼吸推定装置の概略ブロック図(HF、LF/HF版)
図6】AHIが2の5つの生理指標のヒストグラムとその特徴画像(HF、LF/HF版)
図7】AHIが91の5つの生理指標のヒストグラムとその特徴画像(HF、LF/HF版)
図8】推定AHIと真のAHIとの相関(HF、LF/HF版)
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を使って本発明の一実施形態の概要を説明する。AHI推定システム1は、AHI推定装置2とセンサ部3で構成され、センサ部3で検出された生体振動信号または事前に取得されてメモリに蓄積された生体振動信号をAHI推定装置2に入力して推定AHIを出力する。
AHI推定装置2は、本発明の核となる部分で、生体振動信号受信部21、体動信号検出部22、呼吸数検出部23、心拍数検出部24、位相コヒーレンス(λ)算出部25、ヒストグラム生成部26、特徴画像生成部27、AHI推定部28から構成される。
なお、各構成要素は、通常、CPU、メモリ、外部メモリ、通信手段を備えたパーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレット等のコンピュータ上に実装される。
【0009】
各構成要素について、詳細に説明する。
センサ部3は、動物の生体振動を検出し、生体振動信号を出力する。たとえば、センサ部3は、シート状の圧電センサであり、動物が横たわるマットに設置され、体動、心拍(心臓の拍動による心弾動)、呼吸のほか、発声に基づく生体振動信号を出力するが、外部環境等に基づく振動に起因する信号が含まれる場合がある。
なお、センサ部3は、シート状の圧電センサに限られるわけではなく、たとえば、脈波計や心電計等を組み合わせた構成でも構わない。
【0010】
生体振動信号受信部21は、ケーブルや無線等の通信手段により結合されたセンサ部3が出力する生体振動信号を受信する。
受信した生体振動信号は、AHI推定装置2の内部およびUSBメモリ等の外部メモリ(非図示)に蓄積される。
【0011】
体動信号検出部22は、生体振動信号を入力して体動信号を出力する。生体振動信号は、心拍情報や呼吸情報等に関する信号も含んでいるが、体動信号は心拍情報や呼吸情報に関する信号と比べて振幅が大きな信号である。体動信号検出部22は、体動信号を適切な振幅の信号に変換して体動信号を出力する。また、変換された体動信号はパルス状なので、微分処理をして得られた立ち上がりエッジを所定時間計数して、所定時間の体動数を出力することもできる。
【0012】
呼吸数検出部23は、生体振動信号を入力して呼吸数を出力する。生体振動信号に含まれる呼吸情報信号は、体動信号と比較して振幅が遥かに小さいので(通常1/100より小さい)、呼吸数を算出するために、次に示すような処理が必要である。
生体振動信号を0.5Hz以下の周波数範囲の通過域を有するローパスフィルタ(LPF)に通過させてもよい。LPFの遮断周波数は、0.3、0.4、0.6、0.7Hz、0.8Hzであってもよい。
また、ローパスフィルタ(LPF)の代わりにバンドパスフィルタ(BPF)を通過させてもよい。バンドパスフィルタの下限周波数は十分に低い周波数であればよく、例えば0.1Hzでよい。
このようにして得られた周期的な呼吸波形のピークを計数することで呼吸数を算出することができる。また、所定時間における生体振動信号のフーリエ変換またはウェーブレット変換からパワースペクトルを求め、そのピーク周波数から呼吸数を算出してもよい。
【0013】
心拍数検出部24は、生体振動信号を入力して、心拍信号を抽出し、心拍数を算出する。生体振動信号に含まれる心拍信号は、体動信号と比較して振幅が遥かに小さいので(通常1/100より小さい)、心拍信号を抽出し、心拍数を算出するために、次に示すような処理が必要である。
(1)生体振動信号を1~4HzのBPFで処理し、所定時間における周期的なピーク数を計数する。BPFは1~4Hzに限られるわけではなく、下限周波数が0.5Hz以上、0.6Hz以上、0.7Hz以上、0.8Hz以上、0.9Hz又は1Hz以上、上限周波数が10Hz以下、8Hz以下、6Hz以下、5Hz以下、3Hz以下であってもよい。
(2)生体振動信号を下限周波数5Hz以上のBPFで処理し、フィルタ通過後の信号の絶対値を求めた後でその包絡線を抽出するか、または時定数0.1秒前後の積分フィルタを通過させてもよい。BPFの上限周波数は10Hz、20Hz、30Hz、40Hz以下であってもよい。上記積分フィルタ処理は直交検波処理で置き換えても良く、処理した波形のピーク間隔の時間を求めて心拍間隔を求める。
(3)所定時間における生体振動信号をフーリエ変換またはウェーブレット変換し、パワースペクトルのピーク周波数から心拍数を算出しても良い。
【0014】
位相コヒーレンス算出部25は、心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差として位相コヒーレンスを算出する。
位相コヒーレンス算出部は、心拍に関する情報および呼吸に関する情報を含む生体情報を取得する生体情報取得手段、呼吸パターンを抽出する呼吸波形抽出手段、心拍間隔の変動を算出する心拍間隔算出手段、呼吸パターンと心拍間隔の変動との間の瞬時位相差の位相コヒーレンスを算出する位相コヒーレンス算出手段とを含む。詳しくは、WO2017/141976(本出願人の先願)を参照されたい。
【0015】
ヒストグラム生成部26は、所定の睡眠時間における心拍数、呼吸数、位相コヒーレンス、体動それぞれのデータのヒストグラムを作成する。所定の睡眠時間とは例えば一晩である。
心拍数のヒストグラムは、横軸が分時心拍数の階級(40~120)、縦軸が頻度である。
呼吸数のヒストグラムは、横軸が分時呼吸数の階級(0~40)、縦軸が頻度である。
位相コヒーレンスのヒストグラムは、横軸がλの階級(0~1)、縦軸が頻度である。
体動のヒストグラムは、横軸が体動割合の階級(0~0.5)、縦軸が頻度である。
体動の割合は、体動信号検出部22が生体振動信号を10秒窓でサンプリングし、その窓を5秒ずつずらしながら体動の有無を判定し、その後、10分間当たりの体動発生の割合を移動平均して求める。
【0016】
特徴画像生成部27は、それらのヒストグラムから特徴画像を作成する。特徴画像の幅は、各ヒストグラムの階級に対応し、たとえば、その分割数は50(Bin数)である。画像の高さの要素は上から順に、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動割合(BM)を表わしている。したがってヒストグラムのBin数が50である場合の画素数は4×50=200となる。
そして、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動割合(BM)のヒストグラムの各階級における頻度を色相の変化で表す。
この特徴画像は、ある被験者の一定の睡眠時間中の生体振動信号において、心拍数、呼吸数、λ、体動割合の4パラメータの分布を表すので、画像パターンに基づきAHIを客観的に判定するのに有効である。
なお、Bin数は50に限らず、頻度と色相の対応は、頻度の変化が色相の変化として表現されれば任意の色相変化で対応付けをすることができる。
【0017】
AHI推定部28は、入力層に、画像に基づく判定や推定に有効なCNN(Convolutional Neural Network)を有し、中間層には全結合層が2層、出力層には回帰層を有した深層学習器である。
そのCNNを含む深層学習器に、PSGに基づいて臨床的に判定されたAHIを教師データとして、それに同期した特徴画像を入力データとして入力して機械学習を行ってAHI推定モデル(非図示)を、AHI推定部の内部に構築する。それに同期した特徴画像とは、PSGに基づく臨床的なAHIの判定に用いられた生体振動信号から、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)を算出し、そのヒストグラムを生成し、そのヒストグラムに基づき生成された特徴画像のことを言う。
AHI推定部28は、被験者の特徴画像をAHI推定モデルに入力して、そのAHIを推定する。推定AHIは、1時間当たりの無呼吸低呼吸数として算出される。
【0018】
以上、AHI推定システム1の各構成要素について説明したが、本発明は、センサ部3を除いた形態でも機能する。
すなわち、AHI推定装置2は、あらかじめ取得されたある被験者の一定期間の生体振動信号を通信手段やUSBメモリ等によって受信して、その心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)を算出し、そのヒストグラムを生成し、そのヒストグラムに基づき生成された特徴画像を生成し、その特徴画像をAHI推定部28に入力して、その被験者のAHIを推定することもできる。
【0019】
次に、図5に本発明のもう一つの実施形態の概要を示す。
図1の位相コヒーレンス(λ)算出部25に代えて心拍変動算出部31を備えているので、図1に示す実施形態と異なる部分について説明する。
心拍変動算出部31は、心拍数検出部24が生体振動信号から算出した心拍数をフーリエ変換して得られた心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF:0.15-0.40Hz)、低周波成分(LF:0.04-0.15Hz)、低周波成分/高周波成分(LF/HF)を算出する。
また、ヒストグラム生成部26は、位相コヒーレンス(λ)の代わりに、心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)のヒストグラムを生成する。心拍数(HR)、呼吸数(RR)、体動割合(BM)のヒストグラムは図1に示す実施形態の場合と同様である。
心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)のヒストグラムは、横軸がHFの階級(0-1)、縦軸が頻度である。
心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)のヒストグラムは、横軸がLF/HFの階級(0-10)、縦軸が頻度である。
特徴画像生成部27は、位相コヒーレンス(λ)のヒストグラムの代わりに、心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)と低周波成分/高周波成分(LF/HF)のヒストグラムを用いて特徴画像を生成する。心拍数(HR)、呼吸数(RR)、体動割合(BM)のヒストグラムを用いることは図1に示す実施形態の場合と同様である。
【実施例1】
【0020】
まず、25人の被験者のデータを用いて、図1に示す無呼吸低呼吸推定装置のCNNを含む学習器による深層学習を行った。Leave-one-out法による交差検証を行うため、学習は検証用の被験者1名を除いた24人のデータで行った。
教師データはPSGにより判定されたAHIであり、入力データは、PSGと同期して計測された生体振動信号から得られた特徴画像である。
【0021】
特徴画像の生成は次のように行った。
生体振動信号から、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動割合(BM)を算出し、それぞれのヒストグラムを生成した。次に、Bin数を画像の幅に、前記4つのパラメータを画像の高さに設定し、それぞれのヒストグラムの各階級の頻度を色相に対応させて一つの特徴画像を生成した。
図2はAHIが2の被験者のヒストグラムと特徴画像である。
左端が心拍数(HR)のヒストグラム、左から2番目が呼吸数(RR)のヒストグラム、左から3番目が位相コヒーレンス(λ)のヒストグラム、左から4番目が体動割合(BM)のヒストグラムである。右端がこれらのヒストグラムから生成された特徴画像である。
特徴画像の上から1番目がHRのヒストグラム、2番目がRRのヒストグラム、3番目がλのヒストグラム、4番目がBMのヒストグラムに対応し、頻度を色相の変化で表示している。
AHIが2の被験者は睡眠時に無呼吸低呼吸の頻度は少なく、心拍数(HR)のヒストグラムには深睡眠時とレム睡眠や覚醒に対応すると思われる2つのピークが認められ、深睡眠時には心拍数が低下していることが伺える。
また、呼吸数(RR)のヒストグラムのピークがシャープで、呼吸数の変動が少ないことを示している。
また、位相コヒーレンス(λ)のヒストグラムは1に近い方にピークがあり、0.5以下に分布するデータはあまり見られない。また、体動割合(BM)のヒストグラムのピークは0にあり、睡眠時に体動がない時間帯が多いことを意味する。特徴画像にはこれら4つのパラメータのヒストグラムの特徴が反映されている。
【0022】
図3はAHIが91の被験者のヒストグラムと特徴画像である。
左端が心拍数(HR)のヒストグラム、左から2番目が呼吸数(RR)のヒストグラム、左から3番目が位相コヒーレンス(λ)のヒストグラム、左から4番目が体動割合(BM)のヒストグラムである。右端がこれらのヒストグラムから生成された特徴画像である。
特徴画像の上から1番目がHRのヒストグラム、2番目がRRのヒストグラム、3番目がλのヒストグラム、4番目がBMのヒストグラムに対応し、頻度を色相の変化で表示している。
AHIが91の被験者は睡眠時に無呼吸低呼吸の頻度が高く、心拍数(HR)のヒストグラムには深睡眠時とレム睡眠や覚醒に対応する2つのピークが認められず、図2のAHIが2の被験者と比べるとヒストグラムのピークは心拍数が高い方に位置している。
また、呼吸数(RR)のヒストグラムのピークはAHIが2の被験者に比べてシャープではなく、その分布の広がりは呼吸数が低い領域に及んでおり、無呼吸低呼吸が発生しており、呼吸数の変動も多いことが伺える。
また、位相コヒーレンス(λ)のヒストグラムは0.5付近にピークが見られ、AHIが2の被験者に比べて高い値が見られない。また、体動割合(BM)のヒストグラムのピークは0にはなく、睡眠時に体動のない時間帯が少ないことを意味する。特徴画像にはこれら4つのパラメータのヒストグラムの特徴が反映されている。
【0023】
このようにして生成された特徴画像を、無呼吸低呼吸推定部に入力してAHIを推定した。全被験者の推定AHI(pAHI)と臨床的に評価された教師信号として用いたAHIとの相関を図4に示すが、相関係数0.906と良好な結果が得られた。
このことから、睡眠時の生体振動信号に基づいて取得された、呼吸数、心拍数、位相コヒーレンス(λ)、体動割合には、無呼吸低呼吸症候群に係る情報が含まれており、それらが集約された特徴画像を、CNNを含む機械学習器に入力してAHIを推定することが有効であることを確認することができた。
【実施例2】
【0024】
位相コヒーレンス(λ)の代わりに心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)を使用してAHIを推定した実施例について説明する。
まず、25人の被験者のデータを用いて、図5に示す無呼吸低呼吸推定装置のCNNを含む学習器による深層学習を行った。Leave-one-out法による交差検証を行うため、学習は検証用の被験者1名を除いた24人のデータで行った。
教師データはPSGにより判定されたAHIであり、入力データは、PSGと同期して計測された生体振動信号から得られた特徴画像である。
【0025】
特徴画像の生成は次のように行った。
生体振動信号から、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)、体動割合(BM)を算出し、それぞれのヒストグラムを生成した。次に、Bin数を画像の幅に、前記5つのパラメータを画像の高さに設定し、それぞれのヒストグラムの各階級の頻度を色相に対応させて一つの特徴画像を生成した。
【0026】
図6はAHIが2の被験者のヒストグラムと特徴画像であるが、図2と異なる部分について説明する。
左端が心拍数(HR)のヒストグラム(横軸50、100:縦軸0,200,400,600,800)、左から2番目が呼吸数(RR)のヒストグラム(横軸0,20,40:縦軸0,200,400,600,800、1000,1200)、左から3番目が心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)のヒストグラム(横軸0,0.5,1:縦軸0,100,200,300,400、500)、左から4番目が心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)のヒストグラム(横軸0,5,10:縦軸0,200,400,600,800、1000,1200)、左から5番目が体動割合(BM)のヒストグラム(横軸0,0.1,0.2,0.3:縦軸0,500,1000,1500,2000)である。
右端がこれらのヒストグラムから生成された特徴画像である。特徴画像の1がHRのヒストグラム、2がRRのヒストグラム、3がHFのヒストグラム、4がLF/HFのヒストグラム、5がBMのヒストグラムに対応し、頻度を色相の変化で表示している。
HFのヒストグラムは0.7付近にピークを示し、LF/HFのヒストグラムは低値を示す頻度が高い。
特徴画像にはこれら5つのパラメータのヒストグラムの特徴が反映されている。
【0027】
図7はAHIが91の被験者のヒストグラムと特徴画像であるが、図3と異なる部分について説明する。
左端が心拍数(HR)のヒストグラム(横軸50、100:縦軸0,200,400,600,800)、左から2番目が呼吸数(RR)のヒストグラム(横軸0,20,40:縦軸0,200,400,600,800、1000,1200)、左から3番目が心拍変動パワースペクトルの高周波成分(HF)のヒストグラム(横軸0,0.5,1:縦軸0,100,200,300,400、500)、左から4番目が心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分(LF/HF)のヒストグラム(横軸0,5,10:縦軸0,200,400,600,800、1000,1200)、左から5番目が体動割合(BM)のヒストグラム(横軸0,0.1,0.2,0.3:縦軸0,500,1000,1500,2000)である。
右端がこれらのヒストグラムから生成された特徴画像である。
特徴画像の1がHRのヒストグラム、2がRRのヒストグラム、3がHFのヒストグラム、4がLF/HFのヒストグラム、5がBMのヒストグラムに対応し、頻度を色相の変化で表示している。
HFのヒストグラムは中央値にピークを示し、LF/HFのヒストグラムは低値を示す頻度が低下し、高値を示す頻度が増して5以上にも分布が現れる。
特徴画像にはこれら5つのパラメータのヒストグラムの特徴が反映されている。
【0028】
このようにして生成された特徴画像を、無呼吸低呼吸推定部に入力してAHIを推定した。全被験者の推定AHI(pAHI)と臨床的に評価されたAHIとの相関を図8に示すが、相関係数0.359という結果が得られた。
このことから、睡眠時の生体振動信号に基づいて取得された、呼吸数、心拍数、心拍変動パワースペクトルの高周波成分、心拍変動パワースペクトルの低周波成分/高周波成分、体動割合には、無呼吸低呼吸症候群に係る情報が含まれており、それらが集約された特徴画像を、CNNを含む機械学習器に入力してAHIを推定することが可能であることを確認することができた。
【符号の説明】
【0029】
1 AHI推定システム
2 AHI推定装置
21 生体振動信号受信部
22 体動信号検出部
23 呼吸数検出部
24 心拍数検出部
25 位相コヒーレンス(λ)算出部
26 ヒストグラム生成部
27 特徴画像生成部
28 AHI推定部
3 センサ部
31 心拍変動算出部
【要約】
【課題】被験者を拘束することなく無呼吸低呼吸指標を推定する。
【解決手段】非接触・非拘束で、睡眠時の被験者の生体振動信号を取得し、それから呼吸数、心拍数、心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相の瞬時位相差から算出される位相コヒーレンス、体動割合の4つのパラメータを抽出して、それらのヒストグラムを作成し、そのヒストグラムから特徴画像を生成し、その特徴画像をあらかじめ機械学習したAHI推定モデルに入力することによってAHIを推定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8