(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/162 20170101AFI20221017BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20221017BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221017BHJP
【FI】
C01B32/162
C01B32/159
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019147941
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2021-04-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会名:化学工学会第50回秋季大会(開催日:2018年9月18日から9月20日) 開催場所:国立大学法人 鹿児島大学 郡元キャンパス(発表日:2018年9月20日) アドレス http://www3.scej.org/meeting/50f/pages/jp_appl-intellectual.html(ウェブサイトの掲載日:2018年9月4日) 2.集会名:2018 MRS Fall Meeting (開催日:2018年11月25日から11月30日) 開催場所:米国 Sheraton Boston Hotel(発表日:2018年11月26日) アドレス https://www.mrs.org/fall-2018-symposium-sessions/symposium-sessions-detail?code=NM01 (ウェブサイトの掲載日:2018年11月25日) 3.集会名:第56回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム(開催日:2019年3月2日から3月4日) 開催場所:東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール(発表日:2019年3月4日) 刊行物:第56回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム(フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会)(発行日:2019年3月2日)
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【氏名又は名称】中村 聡
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】並木 克也
(72)【発明者】
【氏名】張 子豪
(72)【発明者】
【氏名】大沢 利男
(72)【発明者】
【氏名】杉目 恒志
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/008046(WO,A1)
【文献】特表2007-527844(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010523(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/015044(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/013706(WO,A1)
【文献】並木 克也 他,浮遊触媒化学気相成長法による単層カーボンナノチューブとその繊維状集合体の連続合成,化学工学会年会研究発表講演要旨集,2017年,82nd
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを合成する合成炉と、
前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルと、
前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を前記合成炉の反応場の温度よりも高温に設定可能なノズル温度調整手段とを備え
、
前記ノズル温度調整手段が前記触媒原料供給ノズルの内部に設けられたヒーターであ
るカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項2】
カーボンナノチューブを合成する合成炉と、
前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルと、
前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を前記合成炉の反応場の温度よりも高温に設定可能なノズル温度調整手段とを備え、
前記ノズル温度調整手段として、前記触媒原料供給ノズルの外側から加熱する手段と、前記触媒原料供給ノズルの内側から加熱する手段とを併用し、前記触媒原料供給ノズルの内側から加熱する手段として、セラミックス製の伝熱棒を前記触媒原料供給ノズルの内部に設置するカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度が、触媒原料が熱分解し、触媒金属蒸気を生じる温度であり、前記合成炉の反応場の温度が、触媒金属粒子を生成し、CNTを生成する温度である、請求項1
または2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記触媒原料供給ノズルを複数備える請求項1~
3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項5】
前記触媒原料供給ノズルの外周部外側に、炭素原料を流通させる炭素原料流通路を備える請求項1~
4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項6】
カーボンナノチューブを合成する合成炉の反応場の温度よりも、前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を高温に設定して前記触媒原料を加熱するカーボンナノチューブの製造方法
であって、
前記触媒原料供給ノズルの内部に設けられたヒーターにより、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を前記合成炉の反応場の温度よりも高温に設定可能とするカーボンナノチューブの製造方法
。
【請求項7】
カーボンナノチューブを合成する合成炉の反応場の温度よりも、前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を高温に設定して前記触媒原料を加熱するカーボンナノチューブの製造方法であって、
ノズル温度調整手段により、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を前記合成炉の反応場の温度よりも高温に設定可能であり、
前記ノズル温度調整手段として、前記触媒原料供給ノズルの外側から加熱する手段と、前記触媒原料供給ノズルの内側から加熱する手段とを併用し、前記触媒原料供給ノズルの内側から加熱する手段として、セラミックス製の伝熱棒を前記触媒原料供給ノズルの内部に設置するカーボンナノチューブの製造方法
。
【請求項8】
前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度が触媒原料を熱分解し触媒金属蒸気を生成する温度であり、前記合成炉の反応場の温度がCNTを生成する温度である、請求項
6または7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)の合成法の1つとして、触媒金属粒子が気相分散した状態の炭素原料ガスを合成炉に供給し、浮遊状態の触媒金属粒子からCNTを成長させる、浮遊触媒化学気相成長(FCCVD)法が知られている。本発明者らは、触媒原料を供給するためのアルミナ製の触媒原料供給ノズルの外周部外側にタングステンワイヤーを巻いて、当該タングステンワイヤーを通電加熱して触媒原料の有機金属化合物を予熱および急速昇温してカーボンナノチューブを製造する方法を開発した。当該方法では、有機金属化合物を短時間で分解して空間中に小径の触媒金属粒子を高密度に生成することを目標にし、合成されるCNTの高品質化および収量の増加を図った(例えば非特許文献1)。
【0003】
本発明者らはまた、触媒原料を予混合火炎で分解して触媒金属蒸気を発生させ、キャリアガスや炭素原料ガスと混合して触媒金属ナノ粒子を生成し、単層CNTを連続合成する方法を提案した(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】並木他、「浮遊触媒を用いた単層カーボンナノチューブの気相合成と反応場・流れ場の解析」、公益社団法人 化学工学会、第83年会講演要旨集(2018)、PE383
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示されるCNTの合成方法では、触媒原料供給ノズルの外側からタングステンワイヤーで加熱するため、アルミナ製の触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を合成炉の反応場の温度と同程度の温度まで昇温することはできるが、その温度よりも高く設定することが困難であり、触媒原料供給ノズル内を流通する触媒原料を十分高温に加熱できないという課題がある。さらに、アルミナ製の触媒原料供給ノズルが高温に加熱されることで、触媒原料供給ノズルのアルミナ成分が合成されるCNTに混入してしまう虞があるという課題もある。
【0007】
特許文献1に開示されるCNTの合成方法では、過剰な酸素(O2)や水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)がCNTを合成するための原料に混合され、CNTが成長しない触媒金属ナノ粒子の数が増加するため、生産性を向上することが難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、触媒原料供給ノズル内の触媒原料を高温に昇温することで、触媒原料を熱分解し、この熱分解した触媒原料を合成炉に供給してCNT成長温度帯である化学気相成長(CVD)温度まで急速に冷却することにより微小な触媒金属粒子を発生させ、この微小な触媒金属粒子同士の衝突による凝集を抑えて、触媒金属粒子と炭素原料との反応により合成されるCNTの品質および収量を向上することができるカーボンナノチューブの製造装置および製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブを合成する合成炉と、前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルと、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を前記合成炉の反応場の温度よりも高温に設定可能なノズル温度調整手段とを備えるカーボンナノチューブの製造装置を提供する。
【0010】
本発明に係る製造装置は、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度が、触媒原料が熱分解し、触媒金属蒸気を生じる温度であり、前記合成炉の反応場の温度が、触媒金属粒子を生成し、CNTを生成する温度である、とすることができる。
【0011】
本発明に係る製造装置は、前記ノズル温度調整手段が前記触媒原料供給ノズルの内部に設けられる場合がある。
【0012】
本発明に係る製造装置は、前記ノズル温度調整手段がヒーターである場合がある。
【0013】
本発明に係る製造装置は、前記ヒーターが炭素で構成され、前記ヒーターを通電加熱して前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を調整する場合がある。
【0014】
本発明に係る製造装置は、前記触媒原料供給ノズルを複数備える場合がある。
【0015】
本発明に係る製造装置は、前記触媒原料供給ノズルの外周部外側に、炭素原料を流通させる炭素原料流通路を備える場合がある。
【0016】
本発明は、カーボンナノチューブを合成する合成炉の反応場の温度よりも、前記合成炉に前記カーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を高温に設定して前記触媒原料を加熱するカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0017】
本発明に係る製造方法は、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度が触媒原料を熱分解し触媒金属蒸気を生成する温度であり、前記合成炉の反応場の温度がCNTを生成する温度である、とすることができる。
【0018】
本発明に係る製造方法は、前記触媒原料供給ノズルの内部に設けたノズル温度調整手段により、前記触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を調整する場合がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、触媒原料供給ノズルの内腔部の温度を合成炉の反応場の温度よりも高温に設定することにより、合成されるCNTの品質および収量を向上することができるカーボンナノチューブの製造装置および製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の概略図である。
【
図2】本発明の実施例1に係るカーボンナノチューブの製造装置の構成の一例を部分的に示す概略図である。
【
図3】本発明の実施例1に係るノズル温度調整手段を示す概略図である。
【
図4】比較例1の触媒原料供給ノズルを示す概略図である。
【
図5】比較例2の触媒原料供給ノズルおよび通電加熱用のコイルを示す概略図である。
【
図6】本発明の実施例1および比較例2の触媒原料供給ノズルの内腔部における深さ方向の温度分布を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例1で製造したCNTの写真図である。
【
図8】本発明の実施例1、比較例1および比較例2のCNT生産性、および、熱重量示差熱分析の残渣のEDS定量分析結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例1、比較例1および比較例2により製造されたCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図10】本発明の実施例1、比較例1および比較例2により製造されたCNTの熱重量示差熱分析結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施例1で製造したCNTの(a)SEM写真図、および、(b)TEM写真図である。
【
図12】本発明の実施例2aにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図13】本発明の実施例2aにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図14】本発明の実施例2bにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図15】本発明の実施例2bにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図16】本発明の実施例2cにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図17】本発明の実施例2cにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図18】本発明の実施例2dにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図19】本発明の実施例2dにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図20】本発明の実施例2eにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図21】本発明の実施例2eにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図22】本発明の実施例2eにより製造したCNTの熱重量示差熱分析結果を示す図である。
【
図23】本発明の実施例2fにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図24】本発明の実施例2fにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図25】本発明の実施例2fにより製造したCNTの熱重量示差熱分析結果を示す図である。
【
図26】本発明の実施例2gにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図27】本発明の実施例2gにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図28】本発明の実施例2hにより製造したCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【
図29】本発明の実施例2hにより製造したCNTのSEM写真図である。
【
図30】本発明の実施例2hにより製造したCNTの熱重量示差熱分析結果を示す図である。
【
図31】本発明の実施例3に係るカーボンナノチューブの製造装置の構成の一例を部分的に示す概略図である。
【
図32】本発明の実施例3において、触媒原料供給ノズルを複数備える構成としたCNTの製造装置の一例を部分的に示す、製造装置の側面から見た断面図である。
【
図33】本発明の実施例3の触媒原料供給ノズルを複数備える構成について、断熱材に複数の孔を開けて触媒原料供給ノズルを一体的に形成する場合の一例を示す、製造装置の上から見た断面図である。
【
図34】本発明の実施例3の触媒原料供給ノズルを複数備える構成について、個別の断熱材を用いて触媒原料供給ノズルを分割して形成する場合の一例を示す、製造装置の上から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のカーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)の製造装置および製造方法の好ましい実施形態について、図面および実施例に基づいて説明する。
【0022】
1.カーボンナノチューブの製造装置
図1は本実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置1の概略図である。当該製造装置1は、カーボンナノチューブを合成する合成炉2と、合成炉2にカーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズル3と、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を合成炉2の反応場5の温度よりも高温に設定可能なノズル温度調整手段6とを備える。
【0023】
触媒原料供給ノズル3には、触媒原料供給管14を介して、触媒原料および必要に応じて助触媒を供給する触媒原料供給部11が接続される。炭素原料供給管15には、炭素原料を供給する炭素原料供給部12が接続される。不活性ガス供給管16には、パージするためのアルゴン(Ar)等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給部13が接続される。
【0024】
合成炉2は、例えば石英ガラスやセラミックス、ステンレス鋼等からなる円筒状の容器で形成される。合成炉2の反応場5は、CNTの成長が行われる領域である。
【0025】
触媒原料および助触媒は、昇華され、蒸気の状態で、例えばアルゴン(Ar)をキャリアガスとして、触媒原料供給部11から触媒原料供給管14を介して触媒原料供給ノズル3に供給される。触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度は合成炉2の反応場5の温度よりも高温に加熱するように設定されることから、触媒原料は触媒原料供給ノズル3内で急速に昇温され、熱分解される。熱分解された触媒原料は、合成炉2でCVD温度まで急速冷却され、触媒金属粒子を形成し、この触媒金属粒子が炭素原料と反応することによりカーボンナノチューブを産生する。
【0026】
従来の方法では、触媒金属粒子を高濃度で合成炉2に供給すると、触媒金属粒子が気相で速やかに凝集して、直径の小さいCNTが得られない。本発明の実施形態では、触媒原料を短時間(例えば10ミリ秒以下)で合成炉2の反応場5の温度より高温(触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度として例えば1400℃以上)に加熱することで、触媒原料を分解しつつ触媒金属粒子の生成を抑えて合成炉に供給する。そして、分解した触媒原料と炭素原料とが急速混合されることで、触媒金属蒸気が合成炉2の反応場5の温度であるCVD温度(例えば1200℃以下)まで冷却され、金属粒子の核発生を生じさせ、微小な触媒金属粒子を合成炉2の反応場5の空間中で高密度になるように発生させて、触媒金属粒子が凝集する時間を与えずに直径の小さいCNTを高密度に気相成長させる。
【0027】
触媒原料は、触媒成分に鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)および銅(Cu)の中から選択される1以上の金属元素を含むものを使用することができる。これらの中で特に好ましいものは鉄(Fe)であり、触媒原料として特に好ましいものはフェロセン(Fe(C5H5)2)である。
【0028】
助触媒は硫黄(S)であることが好ましい。硫黄源としては、例えば、硫黄やチオフェン、硫化水素等を使用することができる。硫黄は、小さい触媒金属粒子を安定に形成させ、鉄の触媒金属粒子からの炭素析出を促進する効果が期待できる。ただし、助触媒は必須の構成ではない。
【0029】
本実施形態において、炭素原料は、炭素原料供給部12から炭素原料供給管15を介して、炭素源ガスとして合成炉2に供給される。炭素原料は、例えばメタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、トルエン(C6H5CH3)および、エタノール(C2H5OH)等であり、本発明においては、特にメタン(CH4)およびエチレン(C2H4)が、タール等の不純物の発生を抑制できるので好適である。炭素原料は、例えばアルゴン(Ar)等のキャリアガスや水素(H2)とともに合成炉2に供給することができる。
【0030】
図1において、炭素原料は、合成炉2の上部外周部に設けられた炭素原料供給管15を上方から下方に向かって流れ、合成炉2の側部に設けられた炭素原料流出口19から水平方向に合成炉2内に供給される。炭素原料の供給方法は、合成炉2の反応場5において触媒原料供給ノズル3から供給される分解された触媒原料と混合することができれば、特に限定されない。
【0031】
炭素原料の供給方法として、例えば、触媒原料供給ノズル3の外周部外側に、炭素原料を流通させる炭素原料流通路17(
図31を参照)を設けてもよい。ノズル温度調節手段6から放出される熱を利用して炭素原料を予熱し、昇温後に合成炉2に供給することで、反応場5が高温に維持される。そして、熱分解した触媒原料と予熱した炭素原料との迅速な混合が可能となる。
【0032】
CNTの製造装置1は、触媒原料供給ノズル3を複数備えるように構成してもよい。触媒原料供給ノズル3を複数備えることで、CNTの製造装置1をプラント等の大型の装置にスケールアップすることが可能であり、量産設備として生産性を向上することができる。触媒原料供給ノズル3を複数備えるCNTの製造装置1の具体的な構成例については後述する。
【0033】
ノズル温度調整手段6は、例えば触媒原料供給ノズル3の内腔部4を触媒原料供給ノズル3の内側から加熱する手段を採用することができる。また、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を合成炉2の反応場5の温度よりも十分に高温に設定可能であれば、触媒原料供給ノズル3の内腔部4を触媒原料供給ノズル3の外側から加熱する等、ノズル温度調整手段6として触媒原料供給ノズル3の内腔部4を加熱する手段は特に限定されない。
【0034】
ノズル温度調整手段6において、触媒原料供給ノズル3の内側から加熱する手段としては、ノズル温度調整手段6を触媒原料供給ノズル3の内部に設けることができる。この場合、触媒原料供給ノズル3内を流通する触媒原料をノズル温度調整手段6で直接加熱することができるので、触媒原料を短時間で分解することができる。また、ノズル温度調整手段6の発する熱による触媒原料供給ノズル3の損傷を防ぐことができる。
【0035】
一方、ノズル温度調整手段6として、触媒原料供給ノズル3の外側から加熱する手段を採用する場合、触媒原料供給ノズル3の内側から加熱する手段を併用することもできる。この場合、触媒原料供給ノズル3の内側から加熱する手段として、例えばセラミックス製の伝熱棒(
図2および
図3を参照)を触媒原料供給ノズル3の内部に設置すると、触媒原料供給ノズル3の内側からの輻射により伝熱棒が加熱される。触媒原料供給ノズル3の内側および伝熱棒の表面の両方から触媒原料供給ノズル3の内腔部4が均一に加熱されるため、触媒原料が短時間で熱分解して、合成炉2の反応場5でCVD温度まで冷却することにより空間中に高密度に触媒金属粒子を生成することができる。
【0036】
また、ノズル温度調整手段6はヒーター7(
図31を参照)とすることができる。好ましくは、ヒーター7が炭素で構成され、ヒーター7を通電加熱して触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を上昇させ、通電量を変化させることにより触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を調整する。ヒーター7により触媒原料を直接加熱することができるので、触媒原料を触媒金属が凝縮しない高温まで昇温して、触媒原料供給ノズル3のノズル内腔部4での触媒金属粒子の生成を確実に抑制しつつ、触媒金属蒸気を合成炉2の反応場5でCVD温度まで冷却することにより空間中に高密度に触媒金属粒子を生成することができる。
【0037】
金属製のヒーターでは、例えば、フェロセン(Fe(C5H5)2)等の触媒原料中の炭素によりヒーターが炭化したり脆化したりすることが問題となる。セラミック製のヒーターは、高抵抗であり、また炭素が表面析出することでヒーターの抵抗値が変化し、ヒーターの温度制御が困難となる課題がある。炭素製のヒーターであれば、通電加熱をしても炭素によりヒーターが脆化することはなく、炭素析出による抵抗値の変化も小さい。
【0038】
合成炉2の反応場5の温度を制御する保温手段8は、例えば合成炉2の外周部外側に設けられることが好ましい。保温手段8は、例えば、ニクロム線やセラミックス発熱体等に電流を流して加熱する電気炉等の加熱炉や、合成炉2の外周側部を覆うように設けられる断熱材とすることができる。合成炉2の反応場5の温度は、例えば、カーボンナノチューブの成長に適するように、好ましくは800℃~1300℃、より好ましくは1000℃~1200℃の範囲内に保つ。保温手段8により合成炉2の反応場5の温度を管理して、CNTの成長温度を維持し、成長時間の増大を図る。本発明者らは、保温手段8の温度を1150℃~1200℃として、加熱した触媒原料と炭素原料とを混合することで、高品質の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を合成できることを確認している。本発明においては、合成炉2の反応場5の温度よりも、合成炉2に触媒原料を供給する触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を高温に設定すればよい。
【0039】
触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度は、触媒原料が熱分解する温度であり、特に触媒原料が熱分解して触媒金属蒸気を生じる温度とすることができる。合成炉2の反応場5の温度は、触媒金属粒子を生成しCNTを生成する温度とすることができる。
【0040】
特に、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度は触媒金属蒸気が凝縮しない温度とすることが好ましい。例えば、フェロセン(Fe(C5H5)2)を0.4Pa含むアルゴン(Ar)ガスを供給した場合、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度が約1400℃以上であれば、触媒金属である鉄(Fe)の蒸気が凝縮し、鉄粒子が生成するのを抑制することができる。
【0041】
熱分解された触媒原料を触媒金属粒子を生成させずに炭素原料と合流させて、微小な触媒金属粒子を合成炉2の反応場5の空間中で高密度に生成して直ちにCNTの合成を開始することで、直径の小さいCNTを高密度、高純度、高品質、かつ高収量で気相成長させることができる。
【0042】
2.カーボンナノチューブの製造方法
本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法では、上記のとおり、カーボンナノチューブを合成する合成炉2の反応場5の温度よりも、合成炉2にカーボンナノチューブを合成するための触媒原料を供給する触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を高温に設定して触媒原料を加熱し分解する。熱分解された触媒原料を合成炉2に供給し、CVD温度まで急速冷却することにより、触媒粒子が凝集することなく、カーボンナノチューブが製造できる。
【0043】
触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を高温に設定する手段の一例として、上記のとおり、触媒原料供給ノズル3の内部に設けたノズル温度調整手段6により、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を調整する。
【0044】
尚、
図1の合成炉2は図中上下方向に長い縦型であるが、図中左右方向に長い横型であってもよい。また、同図においては、縦型の合成炉2として、触媒原料および炭素原料を図中上方から下方に向けて供給している。しかしながら、触媒原料および炭素原料のいずれか一方または両方を図中下方から上方に向けて供給してもよいし、図中横方向から供給してもよい。合成炉2を横型とした場合も同様である。
【0045】
本実施形態のCNTの製造装置1および製造方法によれば、高密度、高純度、高品質かつ高収量で、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)および/または多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の製造が可能である。
【実施例】
【0046】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0047】
以下の方法でレーザー顕微ラマン分光分析、熱重量示差熱分析(TG-DTA)およびEDS定量分析を行い、実施例および比較例において評価した。
【0048】
<レーザー顕微ラマン分光分析>
CNTの結晶性は、例えばレーザー顕微ラマン分光分析により分析することができる。レーザー顕微ラマン分光分析において、1590cm-1付近に現れるピークは、G-bandと呼ばれ、六員環構造を有する炭素原子の面内方向の伸縮振動に由来するものである。また、1350cm-1付近に現れるピークは、D-bandと呼ばれ、六員環構造に欠陥があると現れやすくなる。相対的なCNTの結晶性は、D-bandに対するG-bandのピーク強度比IG/ID(G/D比)によって評価することができる。G/D比が高いほど結晶性の高いCNTであるといえる。200cm-1付近に現れるピークは、RBM(Radial Breathing Mode)と呼ばれる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に特有のもので、チューブの直径方向に振動するモードである。本実施例では、レーザー顕微ラマン分光計(型番:HR-800、堀場製作所社製)にCNT塊状試料を設置し、488nmのレーザー波長を用いて、レーザー顕微ラマン分光分析を行った。
【0049】
<熱重量示差熱分析>
炭素材料の分析における熱重量示差熱分析(TG-DTA)では、5℃/min程度で1000℃程度まで昇温させ、燃焼のピーク温度や残渣を分析することで、炭素材料の構成元素や質を評価する。例えばFCCVDにおける生成物は、鉄(Fe)等の触媒原料に含まれる金属や、CNT、アモルファスカーボン(a-C)、グラフィティックカーボン(g-C)の混合物である。炭素材料を上記の条件で昇温すると、例えば鉄(Fe)等の金属が含まれている場合、当該金属の酸化による質量増加が観察される。通常、a-Cは350~450℃程度で燃焼し、CNTやg-Cは400℃程度で燃焼し始め、700℃程度で完全に燃焼する。本実施例では、熱分析装置(型番:TG8120、リガク製)を用いて、空気流通下、昇温速度5℃/minで熱重量示差熱分析を行った。
【0050】
<EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)定量分析>
熱重量示差熱分析後の残渣は酸化金属であるため、これらをEDS定量分析し、炭素(C)、鉄(Fe)およびアルミニウム(Al)の元素比率を算出した。本実施例では、走査型電子顕微鏡(SEM)(型番:S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)-エネルギー分散X線分析(EDX)装置(型番:EDAX Genesis、AMETEK社製)を用いて残渣の定量分析を行った。
【0051】
(実施例1)コイルによる外側加熱と伝熱棒による内側加熱との併用(エチレン原料)
【0052】
図2および
図3は、本発明の実施例1に係るCNTの製造装置1の構成の一例を部分的に示す概略図である。
【0053】
図2に示すように、触媒原料供給ノズル3には、触媒原料供給管14を介して、触媒原料および必要に応じて助触媒を供給する触媒原料供給部11を接続した。炭素原料供給管15には、炭素原料を供給する炭素原料供給部12を接続した。不活性ガス供給管16には、パージするためのアルゴン(Ar)等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給部13を接続した。
【0054】
図2および
図3に示すように、実施例1のノズル温度調整手段6として、触媒原料供給ノズル3の外周部外側にコイル21を設け、さらに触媒原料供給ノズル3の内部に伝熱棒22を設けた。コイル21の位置や長さは特に限定されない。このような構成により、コイル21に通電して触媒原料供給ノズル3の外側から内腔部4を加熱するとともに、触媒原料供給ノズル3の内側からの輻射により加熱された伝熱棒22により触媒原料供給ノズル3の内側からも内腔部4を加熱して、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を容易に高く設定することができる。コイル21への通電量により触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を調整した。
【0055】
特に、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を合成炉2の反応場5の温度よりも高温に設定した。そして、触媒原料供給部11から触媒原料供給管14を介して供給され、触媒原料供給ノズル3内を流通する触媒原料を、短い接触時間で高温に昇温した。伝熱棒22により、触媒原料供給ノズル3の内腔部4において、触媒原料が分解される領域が均一に加熱されるため、触媒原料が短い接触時間で分解された。
【0056】
触媒原料供給ノズル3および伝熱棒22はアルミナ(Al2O3)製で、触媒原料供給ノズル3の内径は4mm、伝熱棒の直径は2mmとした。とした。触媒原料供給ノズル3の外周部外側に設けるコイル21はタングステン(W)製とした。
【0057】
23は、触媒原料供給ノズル3の内腔部4を高温に保つための断熱材である。
【0058】
図4は比較例1に係るCNTの製造装置における触媒原料供給ノズル3である。本実施例と同じ触媒原料供給ノズル3を使用し、触媒原料供給ノズル3の外周部外側に設けたコイル21および伝熱棒22を設けず、触媒原料を加熱せずに合成炉2の反応部5に供給した。その他の構成は実施例1と同じとした。
【0059】
図5は、触媒原料ノズル3および触媒原料供給ノズル3の外周部外側に設けたコイル21を備える比較例2に係るCNTの製造装置である。本実施例と同一の触媒原料供給ノズル3およびコイル21を使用し、伝熱棒22を設けず、コイル21に通電加熱して、触媒原料供給ノズル3の外側からのみの加熱手段で、触媒原料供給ノズル3の内腔部4を加熱した。その他の構成は実施例1と同様とした。
【0060】
図6は、触媒原料供給ノズル3に合計で2SLMのガスを流通させたときの内腔部4の深さ方向の温度変化を示す図である。実施例1では触媒原料供給ノズル3の中央に設置した熱電対(図示せず)を用いて温度を測定した。比較例2では、汎用数値流体解析ソフト(ANSYS Fluent)を使用した流体解析により、触媒原料供給ノズル3の中心部の温度を算出した。保温手段8(Furnace)の設定温度は1150℃とした。比較例2では、触媒原料供給ノズル3の流出口に向けて温度が上昇したが、1150℃未満までしか昇温されなかった。これに対し、実施例1では、コイルが巻かれ始めている、触媒原料供給ノズル3の深さ方向50~55mmで1150℃に達し、そこから流出口までの触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度が、保温手段8の設定温度(1150℃)よりも高くなった。内腔部4の温度の最大値は約1400℃であった。実施例1では内径4mmの触媒原料供給ノズル3と直径2mmの伝熱棒の間の断面積0.0942cm
2の隙間を流量2SLMの気体が流通する。気体の流量は0℃で33.3cm
3/sであり、1400℃に加熱されると204cm
3/sとなる。断面積0.0942cm
2の隙間を平均2170cm/sで流通し、触媒原料供給ノズル3の加熱部2cmを通過する時間は平均0.9msであった。合成炉2の反応場5の温度は保温手段8の設定温度(1150℃)と同等かそれよりも低かった。
【0061】
実施例1、比較例1および比較例2において、触媒原料や炭素原料、パージ用ガス、キャリアガスのガス種、ガス流量およびガス温度、ならびに保温手段8の設定温度は、すべて同一とした。
【0062】
80℃に加熱した触媒原料としてのフェロセン(Fe(C5H5)2)に、アルゴン(Ar)ガスを0.5SLM流通して、フェロセン蒸気を含むアルゴンガスを触媒原料供給管14に、触媒原料供給部11から供給した。また108℃に加熱した助触媒としての硫黄(S)に、アルゴン(Ar)ガスを1.0SLM流通して、硫黄蒸気を含むアルゴンガスを触媒原料供給管14に、触媒原料供給部11から供給した。さらに触媒原料供給管14に、キャリアガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを120℃、0.5SLMで供給した。不活性ガス供給管16に、不活性ガス供給部13から、アルゴン(Ar)ガスを1.0SLMで供給した。炭素原料供給管15に、炭素原料供給部12から、炭素原料としてのエチレン(C2H4)を、0.05SLMで供給した。また炭素原料供給管15に、水素(H2)ガスを0.5SLMで、キャリアガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを1.5SLMで供給した。保温手段8として、合成炉2の外周部外側に電気炉を設け、電気炉の温度を1150℃に設定した。
【0063】
図7の写真図に示すように、実施例1では、CNTが凝集体31として製造された。反応管から取り出した凝集体の長さは約10cmであった。表1に、実施例1、比較例1および比較例2で製造されたCNTの各種評価をまとめた。以下、それぞれの評価の結果の詳細について説明する。
【0064】
【0065】
<EDS定量分析結果(生産性および炭素純度)>
図8に生産性および元素比率の結果を示す。生産性は、CNTの収量と合成時間から、単位時間当たりの収量として算出した。生産性は、実施例1が5.73mg/minであり、比較例1の2.80mg/minn、および比較例2の3.81mg/minに比べて高かった。
【0066】
後述する熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った後の残渣に対して、EDS定量分析を行った。触媒原料であるフェロセン(Fe(C5H5)2)に由来する鉄(Fe)、および触媒原料供給ノズル3のアルミナ(Al2O3)に由来するアルミニウム(Al)に対する、CNTに由来する炭素(C)の比率は、実施例1が84.9wt%であり、比較例1の80.6wt%、および比較例2の71.7wt%に比べて高かった。
【0067】
以上のことから、実施例1は、生産性が高いCNT製造装置および製造方法であり、加えて純度が高いCNTを製造できることが示された。
【0068】
<レーザー顕微ラマン分光分析結果(結晶性)>
図9は製造されたCNTのラマンスペクトルである。I
G/I
D(G/D比)を算出した結果、実施例1が57であり、比較例1の11、および比較例2の55に比べて高かった。200cm
-1付近に現れるRBMピークも観察された。よって、実施例1では、結晶性が高いSWCNTを製造することができることが示された。
【0069】
<熱重量示差熱分析結果(触媒利用効率)>
図10上図は製造されたCNTの熱重量分析(TG)結果を示す図であり、
図10下図は示差熱分析(DTA)の結果を示す図である。表2に熱重量示差熱分析による評価結果を示す。TGの結果において、実施例1では、初めに触媒である鉄(Fe)の酸化により質量が増加した(図中(1))。実施例1の質量増加のピークは比較例1および比較例2に比べて小さかった。燃焼は350℃付近から開始された。DTAのピーク変化から、約350℃~約420℃がアモルファスカーボン(a-C)の燃焼であり(
図10中(2))、約420℃~約650℃がCNTの燃焼(図中(3))と同定できる。実施例1では残渣の灰の量は燃焼前の22wt%となり、比較例1の30wt%、および比較例2の43wt%に比べて少なかった。よって、実施例1では、触媒の利用効率を向上することができることが示された。
【0070】
【0071】
<走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果>
図11は、実施例1により製造されたCNTのSEM写真図(a)およびTEM写真図(b)である。SEM写真図より、粒子数が少ないことが示された。すなわち、CNTの合成に使用されなかった触媒金属粒子が少なく、CNTの成長に有効な触媒金属粒子数が増加したことが示された。
【0072】
TEM写真図より、SWCNT32が製造されていることが示された。そこで、TEMによりCNTの直径およびその分布を観測した。
【0073】
実施例1により製造されたCNTの直径は平均で1.55nmであり、比較例1の2.22nm、および比較例2の1.69nmよりも小さかった。これにより、実施例1では、触媒原料を熱分解し、分解した触媒金属原料を炭素源ガスと混合して速やかにCVD温度まで冷却して微小な触媒金属粒子を発生させ、直ちにCNTを生成することで小径のCNTを製造することができることが示された。
【0074】
実施例1により製造されたCNTの直径の標準偏差σは0.43であり、比較例1の0.90、および比較例2の0.63よりも小さかった。これにより、実施例1では、伝熱棒22を使用することで触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度分布が均一になり、触媒原料の熱分解が空間的に均一に行われ、結果として触媒金属粒子を空間的に均一に生成することができることが示された。
【0075】
(実施例2)コイルによる外側加熱と伝熱棒による内側加熱との併用(メタン原料)
実施例1と同じ装置を用い、実施例1と同じ条件で触媒原料供給管14に触媒原料供給部11から触媒原料を含むアルゴン(Ar)ガスを流通し、炭素源としてエチレン(C
2H
4)に代えてメタン(CH
4)を用いてカーボンナノチューブを合成した。実施例2a~2hのその他の合成条件は表3の通りであり、合成炉2の温度は1150℃~1200℃の範囲で変えて実験を行った。触媒原料供給ノズルの内腔部の温度は
図6の通りであり、合成炉2の温度より高い領域が20mm程度あるように設定した。
【0076】
図12、14、16、18、20、23、26および28は、それぞれ実施例2a~2hで製造したCNTのラマンスペクトルであり、各実施例のI
G/I
D(G/D比)を算出した。
図13、15、17、19、21、24、27および29は、それぞれ実施例2a~2hで製造したCNTのSEM写真図である。
【0077】
表3に評価結果を示す。実施例2a~2hの全ての条件でG/D比が58.8以上、生産性が5.31mg/min以上と、比較例1および2よりも高い質と量でカーボンナノチューブを合成できた。
【0078】
実施例2e、2fおよび2hについて、熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った(
図22、25、30)。表3に示すように、残渣の灰の量は燃焼前の23.1wt%以下となり、比較例1および2に比べて少なかった。
【0079】
実施例2hについて、熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った後の残渣に対して、EDS定量分析を行った。触媒原料であるフェロセン(Fe(C5H5)2)に由来する鉄(Fe)、および触媒原料供給ノズル3のアルミナ(Al2O3)に由来するアルミニウム(Al)に対する、CNTに由来する炭素(C)の比率は、92.7wt%であり、比較例1および2に比べて高かった。
【0080】
【0081】
(実施例3)炭素ヒーターによる内側加熱
図31は、本発明の実施例3に係るCNTの製造装置1の構成の一例を部分的に示す概略図である。
【0082】
図31に示すように、ノズル温度調整手段6を触媒原料供給ノズル3の内部に設ける。このような構成により、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を容易に高く設定することができ、触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を合成炉2の反応場5の温度よりも高温に設定することができる。そして、触媒原料供給部11から触媒原料供給管14を介して供給され、触媒原料供給ノズル3内を流通する触媒原料を、短時間で高温に昇温することができる。この構成ではノズル温度調整手段6よりも触媒原料供給ノズルの温度を低く保てるため、ノズル温度調整手段6を特に高温に設定すると、昇温された触媒原料は高温かつ短時間で熱分解されて触媒金属蒸気を生成し、生成した触媒金属蒸気が凝縮することなく合成炉2の反応場5に供給される。
【0083】
また、ノズル温度調整手段6を触媒原料供給ノズル3の内部に設けることで、触媒原料供給ノズル3の外周部外部にコイルを設けて外側から加熱する場合に比べて、触媒原料供給ノズル3の熱損傷を抑制することができる。
【0084】
本実施例では、ノズル温度調整手段6はヒーター7である。当該ヒーター7は炭素で構成され、ヒーター7を通電加熱し、通電量を変化させることにより触媒原料供給ノズル3の内腔部4の温度を調整する。触媒原料供給ノズル3は、耐熱性セラミックス材料で作製することができ、例えば、ジルコニア(ZrO2)製の円筒とすることができる。ヒーター7は、例えばC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)シートにスリット18を入れて、逆U字型に形成され、触媒原料供給ノズル3の内部に配置される。ヒーター7に例えばNi製の電極9を接続し、当該電極9を介してヒーター7に通電する。ヒーター7により触媒原料が合成炉2の反応場5の温度よりも高温に加熱されるため、触媒原料供給ノズル3内において触媒原料から金属粒子が核発生することを抑制できる。加熱された触媒原料は触媒金属蒸気として合成炉2の反応場5に供給される。
【0085】
17は、触媒原料供給ノズル3の外周部外側に設けられた、炭素原料を流通させる炭素原料流通路である。炭素原料は、炭素原料供給部12から炭素原料供給管15を介して、炭素原料流通路17に供給される。合成炉2の反応場5の温度よりも内腔部4が高温に加熱された触媒原料供給ノズル3の外周部外側を炭素原料が流通するが、断熱性の触媒原料供給ノズル3を使用することで、炭素原料が分解しない範囲で炭素原料を効率よく予熱することができる。この場合、触媒失活を惹起する副生成物等の生成を防ぐとともに、熱分解した触媒原料と炭素原料との迅速な混合が可能となる。炭素原料としてメタン(CH4)を使用した場合、予熱温度を調整すれば、予熱によりアセチレン(C2H2)やエチレン(C2H4)など、CNTの合成を促進する炭素源を生成することもできる。
【0086】
図32は、触媒原料供給ノズル3を1つだけ有する
図31のCNTの製造装置1に対し、触媒原料供給ノズル3を複数備えるように構成したCNTの製造装置1の側断面図である。
図33は
図32に対応した上面図である。当該製造装置1は、触媒原料供給ノズル3を複数備える構成以外、
図31と同様の構成とすることができる。
図33において、複数の触媒原料供給ノズル3は、円柱型の断熱材に、当該断熱材の上面から下面に貫通する複数の孔41を開けることで形成される。複数の孔41のそれぞれの内部にヒーター7が設置され、その上部に触媒原料供給管14が接続される。
図34は、触媒原料供給ノズル3を複数形成する方法として、
図33とは別の例を示す。
図34では、複数の触媒原料供給ノズル3は、それぞれ円筒形の断熱材で個別に作成される。円筒形の断熱材のそれぞれの内部にヒーター7が設置され、その上部に触媒原料供給管14が接続される。
【0087】
実施例1~3で示されたように、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、例えば
図1~
図3や
図31~34に記載の製造装置を使用して実施でき、高密度、高純度、高品質かつ高収量のカーボンナノチューブを製造できる。
【0088】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、触媒原料供給ノズル3の直径や長さ、および、触媒原料供給ノズル3の内部に設けられるヒーター7の幅や長さ、スリット18の幅等のサイズは、
図31に示すものに限定されず、適宜設定可能である。ヒーター7の形状も特に限定されず、例えば逆U字型の形状とする場合であっても、その作製方法は上述した方法に限定されない。ヒーター7の加熱には、通電加熱以外にも誘導加熱なども用いることもできる。
【0089】
また、炭素原料を予熱することなく低温で合成炉2に供給し、合成炉2で急速に加熱するカーボンナノチューブの製造装置であってもよい。
【0090】
また、実施例3についてのみ触媒原料供給ノズル3を複数備える具体的な構成を説明したが、実施例1および2についても実施例3の場合と同様にして触媒原料供給ノズル3を複数備える構成とすることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 カーボンナノチューブの製造装置
2 合成炉
3 触媒原料供給ノズル
4 内腔部
5 反応場
6 ノズル温度調整手段
7 ヒーター
8 保温手段
9 電極
11 触媒原料供給部
12 炭素原料供給部
13 不活性ガス供給部
14 触媒原料供給管
15 炭素原料供給管
17 炭素原料流通路
18 スリット
19 炭素原料流出口
21 コイル
22 伝熱棒
23 断熱材
31 カーボンナノチューブの凝集体
32 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
41 孔