IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フロンティアエンジニアリングの特許一覧

<>
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図1
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図2
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図3
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図4
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図5
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図6
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図7
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図8
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図9
  • 特許-加熱ユニットの安全値計算装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】加熱ユニットの安全値計算装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/00 20060101AFI20221017BHJP
   A23L 3/005 20060101ALN20221017BHJP
   A23L 3/22 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
H05B3/00 340
H05B3/00 320Z
A23L3/005
A23L3/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018205507
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020072009
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000136642
【氏名又は名称】株式会社フロンティアエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 弘
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187077(JP,A)
【文献】特開2008-187933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
A23L 3/005
A23L 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料からなる円筒部材および前記円筒部材に設けられる環状の複数の電極を備えた加熱管に、被加熱物としての飲食物を搬送しつつ通電加熱するジュール加熱ユニットを稼働させたときの安全値を算出する加熱ユニットの安全値計算装置であって、
前記ジュール加熱ユニットのシステム要素を入力するシステム要素入力部と、
被加熱物の物性を入力する物性入力部と、
前記ジュール加熱ユニットによる被加熱物の処理条件を入力する処理条件入力部と、
前記システム要素、前記物性および前記処理条件に基づいて、加熱不良が発生するか否かの指標である安全値を演算する安全値演算部と、
前記安全値演算部により演算された安全値を表示する表示部と、を有し、
前記処理条件は、被加熱物の加熱前の温度と、加熱後の温度と、流量と、を含む、 加熱ユニットの安全値計算装置。
【請求項2】
請求項1記載の加熱ユニットの安全値計算装置において、
前記システム要素は、加熱管の内径と、1つの前記円筒部材とこれに組み合わせられる1つの前記電極からなるセクション数と、対をなす2つの電極間の電極間距離と、前記加熱管の本数と、を含む、加熱ユニットの安全値計算装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の加熱ユニットの安全値計算装置において、
前記物性は、被加熱物の粘度と、被加熱物が加熱されると糊化するか否かと、を含む、加熱ユニットの安全値計算装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の加熱ユニットの安全値計算装置において、
前記安全値演算部は、底を1.6とする電力密度の対数値に基づいて得られた値から前記安全値を演算する、加熱ユニットの安全値計算装置。
【請求項5】
請求項記載の加熱ユニットの安全値計算装置において、
前記安全値演算部は、加熱されると糊化する被加熱物については、加熱管の内径と被加熱物の流速とに基づく一定値を初期補正値とし、加熱されても糊化しない被加熱物については、被加熱物のレイノルズ数に応じて初期補正値を演算し、前記対数値に基づいて得られた値から初期補正値を減算した値を安全値とする、加熱ユニットの安全値計算装置。
【請求項6】
請求項記載の加熱ユニットの安全値計算装置において、
前記安全値演算部は、前記初期補正値を減算した値に、前記加熱管の内径に応じた最終補正値を積算した値を安全値とする、加熱ユニットの安全値計算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の電極と円筒部材とからなる加熱管を有するジュール加熱ユニットにより被加熱物を、加熱不良を起こすことなく加熱することができるか否かについての指標としての安全値を求める加熱ユニットの安全値計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性を有する飲食物を被加熱物としてジュール熱により通電加熱するようにした加熱装置つまりジュール加熱ユニットとしては、特許文献1に記載されるように、複数の環状の電極と電極の間に配置される複数の絶縁材料の円筒部材とからなる加熱器つまり加熱管を有するものがある。このジュール加熱ユニットにおいては、例えば、4本の加熱管を接続することにより形成されており、それぞれの加熱管の電極には、電源ユニットから電力が供給される。ジュール加熱ユニットとしては、特許文献2に記載されるように、撹拌部材を有する撹拌軸が加熱管に組み込まれたタイプがある。
【0003】
加熱管は内径や電極間長さ等の所定のシステム構成要素を有し、電源ユニットから電極に供給される電力は、被加熱物の種類に応じて相違する物性、加熱温度等の処理条件により調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5438709号公報
【文献】特許第2821087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1台のジュール加熱ユニットは物性が相違する複数種類の被加熱物を加熱することができる。ある種類の被加熱物を加熱した後に、他の種類の被加熱物を加熱する場合には、被加熱物の物性が相違し、処理条件も相違するので、使用者の経験則に基づいて被加熱物の処理条件が設定される。経験則に基づいた処理条件により被加熱物を処理し、加熱処理が適正に行われたか否かを判定する。加熱管の内壁面にスケールや焦げ付きが発生したり、被加熱物にスパークが発生したりして適正に加熱処理が行われなかった場合には、処理条件を変化させて、適正な通電加熱が行われるまで、被加熱物の加熱処理が繰り返される。被加熱物の種類によっては、処理条件を変化させるだけでなく、ジュール加熱ユニットを構成する加熱管の本数等のシステム要素が変更される。
【0006】
一方、複数の加熱管と電源ユニットからなる加熱ユニットを設計、製造する際には、加熱すべき被加熱物の種類と、処理条件に応じてシステム要素が設計される。設計されたシステム要素を備えたジュール加熱ユニットを製造し、それを用いて、被加熱物を加熱し、加熱不良が発生しないか否かを確認している。
【0007】
しかしながら、実際に被加熱物の加熱処理を行って処理条件やシステム要素を決定することは、時間がかかるだけでなく、廃棄しなければならない飲食物が多く発生することもある。このため、被加熱物の物性に応じてジュール加熱ユニットのシステム要素や被加熱物の処理条件を決定する目安としての安全値が算出できれば、システム要素や処理条件を容易に決定することができる。
【0008】
本発明の目的は、ジュール加熱ユニットが加熱不良を起こすことなく、被加熱物を加熱処理できるか否かの指標を安全値として算出し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の加熱ユニットの安全値計算装置は、絶縁材料からなる円筒部材および前記円筒部材に設けられる環状の複数の電極を備えた加熱管に、被加熱物としての飲食物を搬送しつつ通電加熱するジュール加熱ユニットを稼働させたときの安全値を算出する加熱ユニットの安全値計算装置であって、前記ジュール加熱ユニットのシステム要素を入力するシステム要素入力部と、被加熱物の物性を入力する物性入力部と、前記ジュール加熱ユニットによる被加熱物の処理条件を入力する処理条件入力部と、前記システム要素、前記物性および前記処理条件に基づいて、加熱不良が発生するか否かの指標である安全値を演算する安全値演算部と、前記安全値演算部により演算された安全値を表示する表示部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加熱ユニットの安全値計算装置は、絶縁材料からなる円筒部材および前記円筒部材に設けられる環状の複数の電極を備えた加熱管に、被加熱物としての飲食物を搬送しつつ通電加熱するジュール加熱ユニットを稼働させたときの安全値を算出する加熱ユニットの安全値計算装置であって、前記ジュール加熱ユニットのシステム要素を入力するシステム要素入力部と、被加熱物の物性を入力する物性入力部と、前記ジュール加熱ユニットによる被加熱物の処理条件を入力する処理条件入力部と、前記システム要素、前記物性および前記処理条件に基づいて、加熱不良が発生するか否かの指標である安全値を演算する安全値演算部と、前記安全値演算部により演算された安全値を表示する表示部と、を有し、前記処理条件は、被加熱物の加熱前の温度と、加熱後の温度と、流量と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ジュール加熱ユニットを示す概略図である。
図2図1に示された加熱管の拡大断面図である。
図3】加熱管の変形例を示す一部省略断面図である。
図4図1に示されたジュール加熱ユニット10の制御装置を示すブロック図である。
図5】加熱ユニットの安全値計算装置を示すブロック図である。
図6】レイノルズ数と被加熱物の性質から求められる初期補正値を示す初期補正値表である。
図7】加熱管の内径に基づく最終補正値を示す最終補正値表である。
図8】入力条件に基づく安全値算出結果の一例を示す表である。
図9】入力条件に基づく安全値算出結果の他の一例を示す表である。
図10】(A)~(D)は安全値と加熱条件の変更態様とを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されるジュール加熱ユニット10は4本の加熱管11を有しており、それぞれの加熱管11は内部に流路が設けられ、接続管12により接続されている。ホッパ13内には、被加熱物Wとしてジュース、スープ、ジャム、味噌等のように流動性を有する飲食物が投入される。投入された被加熱物Wは、供給管14によりジュール加熱ユニット10に供給される。ホッパ13内の被加熱物Wは、供給管14に設けられたポンプ15により、予熱部16を介して1段目の加熱管11に供給される。被加熱物Wは、1段目の加熱管11の流路から4段目の加熱管11の流路にまで接続管12を介して供給されて所定の温度に通電加熱される。加熱された被加熱物Wは、排出管17により後工程に搬送される。後工程としては、例えば、被加熱物Wを一定時間保持するホールド工程、ホールド工程を通過した後に被加熱物Wを冷却する冷却工程、および被加熱物Wを包装容器等に充填する充填工程等がある。
【0013】
なお、予熱部16としては、加熱管11と同様にジュール加熱式の管を使用しても良く、熱媒体により被加熱物Wを予熱するようしても良い。また、予熱部16を用いない場合には、ホッパ13内の被加熱物Wは、1段目の加熱管11に直接供給される。
【0014】
それぞれの加熱管11は、図2に示されるように、7つの環状の電極21と隣り合う2つの電極21の間に配置される円筒部材22とからなる。電極21はチタン等の導電性材料からなり、円筒部材22は樹脂等の絶縁材料からなる。加熱管11の両端部には、それぞれ継手23、24が設けられている。2つの加熱管11の間は接続管12により接続され、1段目の加熱管11の継手23には供給管14が接続され、4段目の加熱管11の継手24には排出管17が接続される。
【0015】
それぞれの円筒部材22の両端に配置される2つの電極21は対をなしており、対をなす2つの電極21が相互に逆極性となるように、電源ユニット25からは高周波電流が供給される。対をなす2つの電極21の間を被加熱物Wを介して電流が流れると、通電された被加熱物Wはジュール熱が発生し、ジュール熱により通電加熱される。1つの加熱管11を構成する電極21の数は、複数であれば、7つに限られることなく、被加熱物Wの物性や加熱温度等の処理条件に応じて任意に設定される。同様に、1つのジュール加熱ユニット10を構成する加熱管11の数も、4本に限られることなく、加熱処理される被加熱物の流量等に応じて任意の本数に設定される。
【0016】
図3は加熱管11の変形例を示す。この加熱管11は撹拌部材26が設けられた撹拌軸27を有している。一方の継手24には、電動モータ28が取り付けられており、電動モータ28の図示しない主軸に撹拌軸27の一端が連結され、撹拌軸27の他端部は他方の継手23に回転自在に支持されている。それぞれの撹拌部材26は電極21の径方向内側に配置されている。それぞれの電極21は、図2に示したものと同様に、電源ユニット25に接続されているが、電源ユニット25は図3においては省略されている。このように、加熱管11としては、図3に示されるように撹拌軸27が組み込まれたタイプと、図2に示されるように撹拌軸27が設けられていないタイプとがある。
【0017】
図4図1に示されたジュール加熱ユニット10の制御装置30を示すブロック図である。制御装置30は、4つの加熱管11に電力を供給する4つの電源ユニット25と、ポンプ15とを制御するための制御部31を有している。電源ユニット25とポンプ15の駆動条件は、操作盤32に設けられた入力部を作業者が操作することにより、入力される。入力した値は、操作盤32の表示部に点灯表示される。図1に示されるように、予熱部16を有する場合には、予熱部16も制御部31により制御される。制御部31は、制御信号を演算するマイクロプロセッサと、制御プログラム、マップデータ等が格納されるメモリとを有している。
【0018】
図1に示されるジュール加熱ユニット10は、4本の加熱管11を有しており、システム要素としての加熱管11の本数Nは4本である。それぞれの加熱管11は、図2に示すように、内径はDであり、対をなす2つの電極21の間の距離つまり電極間距離はLである。1つの円筒部材22とこれの一端面に組み合わせられる1つの電極21とから1つのセクション数Pが形成されるとすると、加熱管11は6つのセクション数Pを有している。
【0019】
上述した本数N、内径D、電極間距離L、セクション数Pは、それぞれジュール加熱ユニット10のシステム構成要素つまりシステム要素である。図3に示すように、撹拌軸27が設けられた加熱管11においては、撹拌軸27の直径もシステム要素の1つとなる。このようなシステム要素を有するジュール加熱ユニット10により、被加熱物Wを適正に加熱処理するためには、被加熱物Wの特性つまり物性と、ジュール加熱ユニット10による被加熱物の処理条件とが重要な要素であると考えられる。
【0020】
被加熱物Wとしての飲食物には、澱粉を含み加熱されると糊化する飲食物と、澱粉を含まないか含んでも僅かであり加熱されても糊化しない飲食物とがある。糊化するかしないかは、被加熱物Wの物性つまり物性値として重要な要素である。さらに、粘度μ(mPa・s)、比重Mも被加熱物Wの物性値を示す要素である。
【0021】
一方、被加熱物の処理条件としては、加熱前の被加熱物の温度T1(℃)と、加熱後の被加熱物の温度T2(℃)と、流量Q(L/h)とがある。加熱前の温度T1は1段目の加熱管11の入口における被加熱物Wの温度であり、加熱後の温度T2は4段目つまり最終段目の加熱管11から流出する被加熱物Wの温度である。流量Q(L/h)はポンプ15の回転速度により設定される。加熱後の温度T2と加熱前の温度T1の温度差ΔT(℃)は、4本の加熱管11により被加熱物Wが加熱されて上昇した温度、つまり加熱温度を示す。
【0022】
ジュール加熱ユニット10により被加熱物Wをジュール加熱したときに、加熱管11の内壁面で沸騰したり、スケールが発生したりすると、焦げ付きやスパークに繋がる可能性がある。このような現象が起こると、加熱不良となる。加熱不良の被加熱物つまり飲食物を製品化することはできない。さらに、加熱不良が高まると、ジュール加熱ユニット10に損傷が発生し兼ねない。加熱不良を起こすことなく、安全かつ適切な加熱処理を行うための条件としては、被加熱物Wを流れる電力の電力密度Ed(kW/m3)が大きく影響すると考えられる。電力密度Ed(kW/m3)は、供給される電力をE0(kW)とし、さらに加熱管11の内径D(m)により算出される断面積を、S(m2)とすると、システム要素に基づいて、以下の式[1]により算出される。
【0023】
電力密度Ed=E0/(S×L×P×N)・・・[1]
また、被加熱物Wの物性を示す物性値と加熱管11の内径とにより算出されるレイノルズ数Reは、加熱管内の被加熱物の流速V、内径D、加熱管11の断面積S、被加熱物の粘度μ(mPa・s)、比重Mから以下の式[2]により算出される。
【0024】
レイノルズ数Re=V[4・{S/(πD)}・M・1000/(μ/1000)]・・・[2]
上述のように、ジュール加熱ユニット10を構成するシステム要素と、被加熱物の物性と、ジュール加熱ユニット10による被加熱物Wの処理条件との相関関係に基づいて、加熱管11の内壁面にスケールや焦げ付きが発生するような加熱不良を発生させることなく、適切な加熱処理を行うことができる目安ないし指標としての安全値を検討した。そのような安全値Svが求められれば、ジュール加熱ユニット10により加熱処理される被加熱物Wの種類が変更されるときには、被加熱物Wの物性値と処理条件とを変更することにより、安全値Svが求められる。求められた安全値Svが不適正な値であれば、安全値が適正となるように、処理条件を変更することにより、適正な加熱処理を行うことができる。これにより、実際に被加熱物を使用して試験的な加熱処理を行うことなく、新たな被加熱物を迅速に加熱処理することができる。試験的な加熱処理が不要になると、加熱不良のために廃棄する被加熱物が発生することを防止できる。
【0025】
一方、ジュール加熱ユニット10を設計する場合には、ジュール加熱ユニット10のシステム要素を決定し、その値と、被加熱物Wの種類に応じた物性値と、処理条件とを入力して演算することにより、ジュール加熱ユニット10のシステム要素が適正であるか否かを決定することができる。決定された設計値に基づいて製造されたジュール加熱ユニット10については、確認のために被加熱物Wを加熱処理するのみで製品化することができる。
【0026】
種々のジュール加熱ユニットを種々の被加熱物について加熱試験を行った結果、ジュール加熱ユニット10により加熱処理する際の安全値を算出するための演算式を見出すことができた。
【0027】
実験によれば、安全値Svは、電力密度Ed(kW/m3)に基本的には依存しており、底を1.6とする電力密度Edの対数値と相関関係があることが判明した。安全値Svの精度を高めるには、レイノルズ数Reと被加熱物Wの性質から求められる初期補正値K1により、電力密度から求められる安全値を補正することが好ましい。さらに、安全値Svの精度を高めるには、初期補正後の安全値に、加熱管11の内径Dに基づく最終補正値K2を乗算することが好ましい。
【0028】
したがって、安全値Svは以下の式[3]により演算される。
【0029】
安全値Sv=(log1.6Ed-K1)×K2・・・[3]
図5はジュール加熱ユニット10の安全値計算装置40を示すブロック図である。安全値計算装置40は、安全値Svを演算する安全値演算部41と、入力部42とを有し、入力部42はシステム要素入力部、物性入力部および処理条件入力部を構成する。システム要素としては、本数N、内径D、電極間距離L、セクション数Pが入力部42に入力される。物性値としては、被加熱物Wが糊化するか否かと、粘度μ、比重Mが入力部42に入力される。処理条件としては、流量Q(L/h)、加熱前の温度T1(℃)、加熱後の温度T2(℃)が入力部42に入力される。
【0030】
これらの値が入力されると、安全値演算部41により、式[3]により安全値Svが演算され、演算結果が表示部43に数値で表示される。安全値を演算するための式は、メモリ44に格納されている。
【0031】
図6は、レイノルズ数Reと被加熱物の物性から求められる初期補正値K1を示す初期補正値表である。図7は加熱管11の内径Dに基づく最終補正値K2を示す最終補正値表である。これらの補正値表に相当するデータは、例えばマップデータの形態でメモリ44に格納されており、安全値演算部41は、log1.6電力密度Edにより求められた安全値から初期補正値K1を減算する。さらに、初期補正された安全値に、最終補正値K2を積算することにより、最終的な安全値Svが演算される。
【0032】
初期補正値K1は、被加熱物Wが糊化する物性を有しているか否かにより相違しており、初期補正値K1は、図6に示されるように[1]~[5]の5つのパターンに分けられる。パターン[1]は、糊化する被加熱物を呼び径が2S撹拌または3S撹拌であり、撹拌軸27が設けられた加熱管11を有するジュール加熱ユニット10の場合である。2S撹拌の加熱管11の内径は、図7に示されるように、0.0320mであり、3S撹拌の加熱管11の内径は、0.0464mである。この場合の初期補正値としては、一定値である「-1.5」が設定される。
【0033】
パターン[2]~[5]は、2S撹拌または3S撹拌以外の加熱管11を有するジュール加熱ユニット10の場合である。糊化する被加熱物を0.1m/s未満の流速Vで流しながら加熱する場合には、レイノルズ数Reのいかんに関わらず、初期補正値K1としては、一定値である「-8」が設定される。さらに、糊化する被加熱物を0.1以上の流速Vで流しながら加熱する場合には、レイノルズ数Reのいかんに関わらず、初期補正値K1としては、一定値である「-4」が設定される。
【0034】
糊化しない被加熱物を加熱する場合には、パターン[4][5]に示されるように、加熱管11および流速Vのいかんに関わらす、レイノルズ数Reが「2」未満か、「2」以上かにより初期補正値K1が設定される。レイノルズ数が「2」未満の場合には、以下の一次関数[4]により初期補正値K1が演算される。
【0035】
y=a・Re+b・・・[4]
定数aは1/1.95であり、定数bは-2.975/1.95である。
【0036】
レイノルズ数Reが「2」以上の場合には、log10Reにより初期補正値K1が演算される。
【0037】
図7に示されるように、被加熱物が加熱されると糊化する場合には、最終補正値K2は「7」に設定される。一方、被加熱物が糊化しない場合には、加熱管11の内径Dに応じてそれぞれ最終補正値K2が設定される。内径Dに対応して示された加熱管11の記号は、それぞれJISで規定された呼び径である。ジュール加熱ユニット10としては、図7に示された内径Dのうちいずれかの加熱管11を有するものが使用される。
【0038】
上述した安全値Svを演算するには、式[3]で示されるように、まず、log1.6電力密度Edの値が演算され、この値から上記初期補正値K1が減算される。次いで、減算後の値に最終補正値K2が積算されて安全値Svが演算される。
【0039】
図5に示す安全値計算装置40は、パソコンにより構成することができる。さらに、図4に示した制御部31のメモリに図6に示した初期補正値K1のデータと、図7に示した最終補正値K2のデータとを格納し、上述した安全値Svの演算式(式[3])に基づいて制御部31により安全値Svを演算するようにしても良い。その場合には、制御部31に、図1に示すように、ジュール加熱ユニット10のシステム要素が設定されているので、物性値と処理条件とを入力することにより、ジュール加熱ユニット10による安全値Svが求められる。求められた安全値Svが加熱不良を起こさない値であれば、制御部31のメモリに格納されているデータに基づいて、被加熱物Wを加熱処理することができる。
【0040】
一方、図5に示されるように、ジュール加熱ユニット10の制御装置30とは分離された安全値計算装置40により算出された安全値Svが加熱不良を起こさない値であれば、制御装置30にシステム要素のデータが格納される。ジュール加熱ユニット10を用いて被加熱物Wを加熱する際には、さらに物性値、処理条件のデータがメモリに格納される。
【0041】
図8は入力条件に基づく安全値算出結果の一例を示す表であり、図9は入力条件に基づく安全値算出結果の他の一例を示す表である。
【0042】
図8および図9に示されるように、システム要素として、加熱管11の本数N、加熱管11の内径D等の数値がシステム要素入力部により入力され、被加熱物の処理条件として、流量Q、温度T1、T2が処理条件入力部により入力される。また、被加熱物の物性を示す比重M、糊化するかしないか、および粘度μが処理条件入力部により入力される。
【0043】
断面積Sは、加熱管11の内径Dに基づいて演算され、撹拌軸27が設けられた加熱管11においては撹拌軸27の径と内径Dとに基づいて演算される。流速Vは、流量Qと断面積Sとに基づいて演算される。レイノルズ数Reは、上述のように、流速Vや内径D等に基づいて上述した式[2]により演算される。電力密度Edは上述した式[1]により演算される。
【0044】
電力密度Edが求められると、log1.6Edが演算され、安全値の基本値が求められる。この値は、初期補正値K1と最終補正値K2とにより、上述した式[3]により補正され、最終的な安全値Svが演算される。
【0045】
図8に示したシステム要素の加熱管11により、図8に示した被加熱物を図8に示した処理条件でジュール加熱すると、安全値Svとして「80.35」が演算され、その値が表示部43に表示される。図9に示したシステム要素の加熱管11により、図9に示した被加熱物を図9に示した処理条件でジュール加熱すると、安全値Svは「111.73」が演算され、その値が表示部43に表示される。
【0046】
実験の結果、式[3]を用いて得られた安全値Svが「110」未満であれば、加熱管11の内壁面にスケールや焦げ付きが発生したり、スパークが発生したりすることなく、適正な加熱処理が行われた。図8に示したように安全値Svが「110」未満のシステム要素のジュール加熱ユニット10により被加熱物を処理したところ、加熱不良を発生させることなく、最適な加熱処理を行うことができた。これに対し、安全値Svが「113」以上となると、スケールや焦げ付きが発生し、適正な加熱処理を行うことができなかった。安全値が「110」以上「113」未満の範囲の場合には、スケールや沸騰が発生することもあり、注意深く加熱状況を観察する必要がある。図9に示したように安全値Svが「110」以上のシステム要素のジュール加熱ユニット10により被加熱物を処理したところ、定常状態で被加熱物を適正に加熱処理することができたが、長時間連続的に稼働させた後に、加熱管11の内壁面に僅かにスケールと思われる痕跡が見られた。
【0047】
図10(A)~図10(D)は安全値Svと加熱条件の変更態様とを示すブロック図である。図10(A)は安全値Svが「105」であり、「110」未満という演算結果が得られた場合であり、この場合には、スケールや焦げ付きが発生することなく、安定的に被加熱物Wを加熱処理することができた。図10(B)は、安全値Svが「112」であり、「110」以上「113」未満の場合であり、加熱状況を目視観察して、僅かでも適正な加熱処理が行われなかったときには、処理条件を見直す必要がある。
【0048】
図10(C)は、安全値Svが「115」の場合であり、安全値Svが「113」以上「120」未満の場合には、かなりの確率で加熱異常が発生するので、条件を変更して安全値Svを再度計算し直す必要がある。図10(C)に示すような安全値となった場合には、ポンプ15の回転数を下げて流量Qを減少させるか、予熱部16により予熱温度を上げて、ジュール加熱ユニット10の入口温度を高めることにより、安全値Svを適正範囲に下げることができる。
【0049】
図10(D)は、安全値Svが「125」の場合であり、安全値が「120」以上となると、加熱を行うことができない。実験結果では、スケールが付着したり焦げ付きが発生したりするだけでなく、樹脂製の円筒部材22を損傷してしまう可能性が非常に高い。この場合にも、ポンプ15の回転数を下げて流量Qを減少させたり、予熱部16により予熱温度を上げて、ジュール加熱ユニット10の入口温度を高めたりすることにより、安全値Svを適正範囲に下げることができる。
【0050】
図10は既に組み立てられたジュール加熱ユニット10を用いて、その使用者が特定の物性の被加熱物を加熱処理する場合における安全値Svの利用方法を示している。この場合には、ジュール加熱ユニット10のシステム要素と物性値とを変更することができないので、処理条件のみを変更して安全値Svを再計算している。ただし、ジュール加熱ユニット10を構成する加熱管11の本数を予め増加させておき、加熱不要の加熱管11については電力を供給しないようにダミーとしておけば、安全値を調整するために、ジュール加熱ユニット10の本数Nを増加させることもできる。例えば、図1に示されるように、加熱管11の本数Nが4本のジュール加熱ユニット10において、3つの加熱管11のみに電力を供給して残りの1つの加熱管11をダミーつまり休止させた場合として、本数Nを3として演算した安全値が「110」以上となっていた場合には、Nを4として再度演算するようにできる。
【0051】
また、図4に示される制御部31のメモリに、図6に示した初期補正値K1のデータと、図7に示した最終補正値K2のデータとを格納し、上述した式[3]に基づいて制御部31により安全値Svを演算するようにしても良い。その場合には、安全値Svが「110」未満であれば、そのまま被加熱物Wの加熱処理を行うことができる。ただし、図5に示した安全値計算装置40により安全値を求めるようにしても良い。求めた安全値が「110」未満であれば、そのときの処理条件等を制御装置30の操作盤32により入力して、ジュール加熱ユニット10を稼働させるようにしても良い。
【0052】
使用者からの仕様に基づいて、ジュール加熱ユニット10を設計製造する際には、被加熱物Wの物性と、被加熱物の処理条件とに基づいて、ジュール加熱ユニット10を構成するシステム要素が設定される。設定されたシステム要素と、使用者から求められた物性値と処理条件とを、安全値計算装置40により安全値Svを演算すると、安全値Svが表示部43に表示される。この安全値Svが「113」以上とならないように、好ましくは、「110」未満となるようにしたジュール加熱ユニット10を製造する。この安全値Svが得られるシステム要素を備えたジュール加熱ユニット10は、確認のために被加熱物を加熱処理するだけで、システム要素の変更作業を行うことが不要であった。このように、製造段階でも安全値Svを利用することにより、加熱不良を起こさない最適なジュール加熱ユニット10を短時間に製造することができた。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、システム要素、物性値、処理条件のそれぞれについては、上述した要素等に限られることなく、さらにシステム要素、物性値、処理条件を付加するようにしても良い。また、要素等が付加されることにより、適正な加熱処理を行うことができる安全値が変更されても、安全値に基づいて、加熱不良を起こすことなく、安全に加熱することができるか否かを判定することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 ジュール加熱ユニット
11 加熱管
15 ポンプ
16 予熱部
21 電極
22 円筒部材
23 継手
24 継手
25 電源ユニット
26 撹拌部材
27 撹拌軸
30 制御装置
31 制御部
32 操作盤
40 安全値計算装置
41 安全値演算部
42 入力部
43 表示部
44 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10