(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】水素生成装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/02 20060101AFI20221017BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20221017BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20221017BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20221017BHJP
C25B 11/043 20210101ALI20221017BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20221017BHJP
【FI】
C25B1/02
C01B3/02 H
C01B25/45 Z
C25B9/23
C25B11/043
C25B11/065
(21)【出願番号】P 2018042845
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中日新聞平成29年9月14日付朝刊第1面、平成29年9月14日 ChemElectroChem 2017,4,3032-3036「http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/celc.201700917/abstract」、平成29年10月17日発行
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺西 真哉
(72)【発明者】
【氏名】澤口 久美
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘男
(72)【発明者】
【氏名】福井 舞
(72)【発明者】
【氏名】日比野 高士
(72)【発明者】
【氏名】長尾 征洋
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04341608(US,A)
【文献】米国特許第06432284(US,B1)
【文献】特開昭63-001448(JP,A)
【文献】特表2008-543719(JP,A)
【文献】特開2015-089945(JP,A)
【文献】特表2007-528709(JP,A)
【文献】米国特許第04395316(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0226763(US,A1)
【文献】米国特許第04752364(US,A)
【文献】米国特許第04699700(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する電解質(2)と、
上記電解質の一方面に設けられた陽極(3)と、
上記電解質の他方面に設けられた陰極(4)と、
上記陽極および上記陰極間に電圧を印加する電圧印加部(5)と、を有しており、
上記陽極に、水と糖類と酸とを含む液体燃料
(但し、電気触媒および助触媒を含むものは除く。)(LF)が供給されるように構成されており、
作動温度が100℃以上250℃以下である、水素生成装置(1)。
【請求項2】
上記陽極は、Pt担持カーボン、Pt-Fe合金担持カーボン、Mo
2C、または、カーボンを有する、請求項1に記載の水素生成装置。
【請求項3】
上記陰極は、Pt担持カーボン、Pt-Fe合金担持カーボン、Mo
2C、または、カーボンを有する、請求項1または2に記載の水素生成装置。
【請求項4】
上記カーボンの表面が、カルボニル基、および、カルボキシル基のうち少なくとも1つにより修飾されている、請求項2または3に記載の水素生成装置。
【請求項5】
プロトン伝導性を有する電解質(2)と、
上記電解質の一方面に設けられた陽極(3)と、
上記電解質の他方面に設けられた陰極(4)と、
上記陽極および上記陰極間に電圧を印加する電圧印加部(5)と、を有しており、
上記陽極に、水と糖類と酸とを含む液体燃料
(但し、電気触媒および助触媒を含むものは除く。)(LF)が供給されるように構成されており、
上記陽極および/または上記陰極は、Pt担持カーボン、Pt-Fe合金担持カーボン、Mo
2C、または、カーボンを有しており、
上記カーボンの表面は、カルボニル基、および、カルボキシル基のうち少なくとも1つにより修飾されている、水素生成装置(1)。
【請求項6】
作動温度が100℃以上250℃以下である、請求項5に記載の水素生成装置。
【請求項7】
上記酸は、リン酸、酢酸、および、硫酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水素生成装置。
【請求項8】
上記糖類は、多糖類である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水素生成装置。
【請求項9】
上記糖類は、セルロース類、および、リグニンのうち少なくとも1つである、請求項1~8のいずれか1項に記載の水素生成装置。
【請求項10】
上記糖類は、セルロース類であり、
上記電圧印加部が-1V以上0V以下の電圧を印加するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の水素生成装置。
【請求項11】
上記糖類は、リグニンであり、
上記電圧印加部が-1V以上-0.25V以下の電圧を印加するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の水素生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解により水素を発生させる水素生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非特許文献1には、陽極の触媒としてのPOM(ポリオキソメタレート)溶液にセルロースやリグニン等の糖類を供給して光照射し、糖類を酸化させるとともにPOM分子を生成させ、これによって生じたH+を用いて陰極側で水素を生成させる水素生成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Energy& Environmental Science 2016,9,p467-472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の水素生成装置は、水素源として糖類を使用できるものの、POM溶液を用いており、光照射が必要であるため、その分、装置構成が複雑になる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、比較的簡易な構成で電気分解によって水素を生成させることが可能な水素生成装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、プロトン伝導性を有する電解質(2)と、
上記電解質の一方面に設けられた陽極(3)と、
上記電解質の他方面に設けられた陰極(4)と、
上記陽極および上記陰極間に電圧を印加する電圧印加部(5)と、を有しており、
上記陽極に、水と糖類と酸とを含む液体燃料(但し、電気触媒および助触媒を含むものは除く。)(LF)が供給されるように構成されており、
作動温度が100℃以上250℃以下である、水素生成装置(1)にある。
また、本発明の他の一態様は、プロトン伝導性を有する電解質(2)と、
上記電解質の一方面に設けられた陽極(3)と、
上記電解質の他方面に設けられた陰極(4)と、
上記陽極および上記陰極間に電圧を印加する電圧印加部(5)と、を有しており、
上記陽極に、水と糖類と酸とを含む液体燃料(但し、電気触媒および助触媒を含むものは除く。)(LF)が供給されるように構成されており、
上記陽極および/または上記陰極は、Pt担持カーボン、Pt-Fe合金担持カーボン、Mo2C、または、カーボンを有しており、
上記カーボンの表面は、カルボニル基、および、カルボキシル基のうち少なくとも1つにより修飾されている、水素生成装置(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記水素生成装置において、陽極に供給される液体燃料中の糖類は、酸によって結合の一部が切断され、水と加水分解する。電圧印加部にて陽極および陰極間に電圧を印加すると、加水分解により生じたH+がプロトン伝導性の電解質を介して引き抜かれ、陰極側で水素が発生する。上記水素生成装置によれば、水素源として糖類を使用し、光照射を行わなくても、比較的簡易な構成で電気分解によって水素を生成させることができる。
【0008】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1の水素生成装置を模式的に示した説明図である。
【
図2】実施形態2の水素生成装置を模式的に示した説明図である。
【
図3】実験例1の試験1における、セル電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図4】実験例1の試験1における、電流密度と水素生成速度との関係を示したグラフである。
【
図5】実験例1の試験2における、セル電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図6】実験例1の試験2における、電流密度と水素生成速度との関係を示したグラフである。
【
図7】実験例1の試験3における、セル電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図8】実験例1の試験3における、時間と水素生成速度との関係を示したグラフである。
【
図9】実験例1の試験4における、硫酸処理またはリン酸処理後のリグニンの状態を示す写真である。
【
図10】実験例1の試験4における、リン酸処理前後のリグニンのFT-IRの結果である。
【
図11】実験例1の試験5における、セル電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図12】実験例1の試験5における、セルA、セルDの複素インピーダンスプロットを示した図である。
【
図13】実験例1の試験6における、セルA、セルDの時間とセル電圧との関係を示したグラフである。
【
図14】実験例1の試験6における、セルA、セルDの時間と水素感度との関係を示したグラフである。
【
図15】実験例1の試験7における、セル電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図16】実験例1の試験7における、電流密度と水素生成速度との関係を示したグラフである。
【
図17】実験例1の試験8における、セルAの複素インピーダンスプロットを示した図である。
【
図18】実験例1の試験8における、セルE、セルF、セルGの複素インピーダンスプロットを示した図である。
【
図19】実験例1の試験9における、比表面積の測定結果を示した図である。
【
図20】実験例1の試験9における、XPSの測定結果を示した図である。
【
図21】実験例1の試験9における、セルE、セルH、セルIの複素インピーダンスプロットを示した図である。
【
図22】実験例2において、水素生成装置に電圧を印加した際の時間と水素生成速度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
実施形態1の水素生成装置について、
図1を用いて説明する。
図1に例示されるように、本実施形態の水素生成装置1は、電解質2と、陽極3と、陰極4と、電圧印加部5とを有している。つまり、水素生成装置1では、電解質2と陽極3と陰極4とでセル10が構成されている。以下、これを詳説する。
【0011】
電解質2は、プロトン伝導性を有している。電解質2は、具体的には、プロトン伝導体を含んで構成されることができる。電解質2は、より具体的には、プロトン伝導体より構成されていてもよいし、プロトン伝導体と非プロトン伝導体とによって構成されていてもよい。非プロトン伝導体は、例えば、プロトン伝導体とともに用いて電解質を膜状に形成する役割などを有することができる。プロトン伝導体としては、例えば、SnP2O7、Sn1-XInXP2O7、リン酸ドープポリベンズイミダゾール等のプロトン伝導性固体酸などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。非プロトン伝導体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0012】
陽極3は、電解質2の一方面に設けられている。陰極4は、電解質2の他方面に設けられている。陽極3および陰極4は、具体的には、電解質2に接合されていてもよいし、電解質2に接触されていてもよい。好ましくは、オーミック抵抗の低減等の観点から、前者であるとよい。
【0013】
陽極3および陰極4は、いずれも、Pt担持カーボン、Pt-Fe合金担持カーボン、Mo2C、または、カーボンを有する構成とすることができる。陽極3が上記構成を有する場合には、電気分解時の陽極3の電極反応抵抗を小さくすることができる。一方、陰極4が上記構成を有する場合には、電気分解時の陰極4の電極反応抵抗を小さくすることができる。陽極3および陰極4の両方が、上記構成を有する場合には、電気分解時の陽極3および陰極4の電極反応抵抗を小さくすることができるため有利である。なお、陽極3、陰極4における上記電極材料の組み合わせは、特に限定されない。陽極3、陰極4における上記電極材料の組み合わせは、同じ電極材料による組み合わせであってもよいし、異なる電極材料による組み合わせであってもよい。
【0014】
上記電極材料としてPt-Fe合金担持カーボンを用いた場合には、Pt担持カーボンを用いた場合に比べ、水素生成量を向上させることができる。ここで、上記電極材料において、カーボンが選択される場合、カーボンの表面は、カルボニル基、および、カルボキシル基のうち少なくとも1つにより修飾されている構成とすることができる。この構成によれば、比較的低廉で、電極反応活性が高く、水素生成量の向上を図ることが可能な水素製造装置1が得られる。なお、カーボン表面のカルボニル基、カルボキシル基による修飾は、カーボンの酸化処理、酸化還元処理などによって実施することができる。酸化処理としては、例えば、硝酸処理など、酸化還元処理としては、例えば、硝酸処理後に水素還元する方法などを例示することができる。
【0015】
ここで、水素生成装置1は、陽極3に、水と糖類と酸とを含む液体燃料LFが供給されるように構成されている。なお、水素ガスは、陰極4にて生成する。
【0016】
糖類としては、具体的には、多糖類を好適なものとして挙げることができる。この構成によれば、多糖類の直接電気分解による水素の生成を確実なものとしやすくなる。多糖類としては、具体的には、セルロース類(ヘミセルロースを含む)、リグニンなどを挙げることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。この構成によれば、従来水素が取り出し難いとされていたセルロース類、リグニンを直接電気分解して水素を生成させることができる。なお、セルロース類、リグニンとしては、例えば、バイオマス原料に含まれるものを好適に利用することができる。セルロース類、リグニンを含むバイオマス原料としては、例えば、木材、草類、新聞紙・雑誌等の紙類、稲・もみ殻などの農業廃棄物などを例示することができる。
【0017】
なお、糖類としてセルロース類を用いた場合、陽極3側では、(式1)によってH+が生成する。また、糖類としてリグニンを用いた場合、陽極3側では、以下の(式2)によってH+が生成する。このように生じたH+(プロトン)を電解質を通じて陰極4側へ引き抜くことで、陰極4にて水素を発生させることができる。
C6nH10n+2O5n+1+(7n-1)H2O→6nCO2+24nH++24ne-・・・(式1)
(C31H34O11)n+51nH2O→31nCO2+136nH++136ne-・・・(式2)
【0018】
酸としては、具体的には、リン酸、酢酸、硫酸などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。過度な強酸では、糖類の構造自体を破壊してしまう場合があり、一方、過度な弱酸では、糖類の結合の一部を切断し難くなる場合がありうる。上記構成によれば、糖類の結合の一部を切断して糖類をほぐしやすいので、水素の生成を確実なものとしやすくなる。これらの酸のうち、イオン伝導性、熱安定性などの観点から、好ましくは、リン酸であるとよい。
【0019】
本実施形態において、水素生成装置1は、具体的には、
図1に例示されるように、外部から液体燃料LFを供給する液体燃料供給流路31と、液体燃料供給流路31と連通しており、供給された液体燃料LFを陽極3に接触させる液体燃料接触部32と、液体燃料接触部32と連通しており、陽極反応後の液体燃料LFを排出する液体燃料排出流路33と、を有している。また、水素生成装置1は、具体的には、
図1に例示されるように、陰極4にて生成した水素を回収するためのキャリアガス(不図示)を供給するガス供給流路41と、ガス供給流路41と連通しており、生成した水素を存在させる水素生成部42と、水素生成部42と連通しており、水素を排出するガス排出流路43と、を有している。なお、キャリアガスとしては、例えば、Arガス、窒素ガス等の不活性ガスなどを用いることができる。
【0020】
電圧印加部5は、陽極3および陰極4間に電圧を印加可能とされている。
図1では、具体的には、電圧印加部5は、外部電源51と、外部電源51の正極と陽極3との間を電気的に接続する導体線52と、外部電源51の負極と陰極4との間を電気的に接続する導体線53と、を有する例が示されている。
【0021】
水素生成装置1において、糖類がセルロース類である場合、電圧印加部5は、具体的には、-1V以上0V以下の電圧を印加するように構成することができる。電圧が-1V以上であると、プロトン伝導性を有する電解質の劣化を抑制しやすくなる。電圧が0V以下であると、セルロース類を分解しやすくなる。
【0022】
水素生成装置1において、糖類がリグニンである場合、電圧印加部5は、具体的には、-1V以上-0.25V以下の電圧を印加するように構成することができる。電圧が-1V以上であると、プロトン伝導性を有する電解質の劣化を抑制しやすくなる。電圧が-0.25V以下であると、リグニンを分解しやすくなる。
【0023】
水素生成装置1の作動温度は、具体的には、100℃以上250℃以下とすることができる。この構成によれば、水素の生成をより確実なものとすることができる。作動温度は、電極反応速度の向上、電解質2の抵抗低減などの観点から、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、120℃以上、さらに好ましくは、150℃以上とすることができる。作動温度は、構成部材の耐腐食性などの観点から、好ましくは、240℃以下、より好ましくは、220℃以下、さらに好ましくは、200℃以下とすることができる。
【0024】
水素生成装置1において、陽極3に供給される液体燃料LF中の糖類は、酸によって結合の一部が切断され、水と加水分解する。電圧印加部5にて陽極3および陰極4間に電圧を印加すると、加水分解により生じたH+がプロトン伝導性の電解質を介して引き抜かれ、陰極4側で水素が発生する。水素生成装置1によれば、水素源として糖類を使用し、光照射を行わなくても、比較的簡易な構成で電気分解によって水素を生成させることができる。
【0025】
(実施形態2)
実施形態2の水素生成装置1について、
図2を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0026】
図2に例示されるように、本実施形態の水素生成装置1は、陽極3、電解質2、陰極4とがこの順に積層されてなるセル10と、陽極3の表面に接する多孔性の陽極側集電体63と、陰極4の表面に接する多孔性の陰極側集電体64と、一対のプレート部材73、74と、液体燃料LFと生成した水素とが混ざらないように両者を分離するセパレータ8と、連続的に液体燃料LFを送り出す液体燃料供給源9と、を有している。
【0027】
陽極3側に配置される一方のプレート部材73には、液体燃料供給流路31と、液体燃料接触部32と、液体燃料排出流路33とが形成されている。液体燃料供給流路31には、液体燃料供給源9が接続されている。液体燃料接触部32では、連続的に供給された液体燃料LFを、多孔性の陽極側集電体63の隙間を通じて陽極3に接触させることが可能とされている。
【0028】
一方、陰極4側に配置される他方のプレート部材74には、生成した水素を存在させる管状の水素生成部42が連結されている。陰極4にて生成した水素は、多孔性の陰極側集電体64の隙間を通って水素生成部42内に充満する。ガス供給流路41とガス排出流路43とは、管状に一体形成されており、この管状のガス供給流路41とガス排出流路43との間に、管状の水素生成部42が連結されている。これにより、ガス供給流路41にキャリアガスCが流れると、水素生成室42内の水素は、キャリアガスCとともにガス排出流路43から排出されるようになっている。なお、プレート部材73、74同士は、締結部材740により互いに締結可能とされている。これにより、セル10は、プレート部材73、74の間に挟持される。
【0029】
セパレータ8は、陰極4と同程度の外形の開口部81を有している。開口部81内には、陰極4が配置される。セパレータ8は、例えば、フッ素樹脂シート(テトラフルオロエチレンシート等)などより構成することができる。なお、プレート部材73とセパレータ8との間には、液体燃料LFの漏れを防止するため、ゴムパッキン等のシール部材731が設けられている。
【0030】
電圧印加部(
図2では不図示)における外部電源の正極は、陽極側集電体63と電気的に接続されている。電圧印加部における外部電源の負極は、陰極側集電体64と電気的に接続されている。なお、本実施形態では、陽極側集電体63、陰極側集電体64は、例えば、金属製メッシュ部材(ステンレスメッシュ、Auメッシュ、Ptメッシュ等)などより構成することができる。
【0031】
本実施形態の水素生成装置1によれば、液体燃料供給源9から陽極3に連続的に液体燃料LFを供給することで、糖類を連続的に直接電気分解し、陰極側にて連続的に水素を生成させることができる。そして、連続的に生成した水素は、水素生成部42から流出し、キャリアガスCとともにガス排出流路43から排出される。その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0032】
(実験例1)
【0033】
-電解質膜の準備-
電解質膜を以下の方法で作製した。具体的には、Sn0.9In0.1P2O7を1.0g、PTFE粉を0.04g量りとった。次いで、これらを混ぜ合わせ、所定の厚みとなるように圧延機で調節した。次いで、直径16mm~20mmの大きさに切り取った。これにより、電解質膜を準備した。
【0034】
-陽極の準備-
陽極を以下の方法で作製した。具体的には、所定の陽極材料を直径12mmとなるようにくり抜いた。次いで、くり抜いた陽極材料を85%リン酸水溶液に浸漬した。そしてその状態で、超音波を15分間当て続けた。その後、120℃で1時間乾燥させた。これにより、陽極を形成した。なお、実験例1では、陽極の上に予め所定の液体燃料をのせた。液体燃料の糖類には、セルロース、リグニン、ヒノキ木粉由来のセルロースおよびリグニンの混合物、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物のいずれかの糖類を用いた。また、液体燃料には、上記糖類15mgに対し、85%リン酸水溶液270mgの比率で混ぜ合わせたものを用いた。
【0035】
-陰極の準備-
陰極を以下の方法で作製した。具体的には、所定の陰極材料を直径8mmとなるようにくり抜いた。次いで、くり抜いた陰極材料を85%リン酸水溶液に浸漬した。そしてその状態で、超音波を15分間当て続けた。その後、120℃で1時間乾燥させた。これにより、陰極を形成した。
【0036】
-セルの作製方法-
以下のようにして、複数のセルを作製した。
直径16mmのSUS316の表面に、所定の陽極、電解質膜、セパレータ(厚み1.5mm、外径16mm、内径8mmのリング状)、陰極を順に積層し、セルを構成した。なお、セルの周りは、PTFEテープにて覆い、各構成部材を固定した。また、セルを一対のPtメッシュで挟持した。また、陰極には、キャリアガスとしてArガスを100mLmin-1の速度で流し続けることができるようになっている。以下に、実験例1で用いた各セルの具体的な構成を示す。
【0037】
<セルA>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:Pt担持カーボン(以下、Pt/Cということがある。)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
なお、Pt担持量は、2.0mg/cm2である。以下、同様である。
以下、セルAを、Pt/C||Pt/Cと表すことがある。なお、||は電解質膜、||の左側は陽極、||の右側は陰極を意味する。
【0038】
<セルB>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:Mo2C
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
以下、セルBを、Mo2C||Pt/Cと表すことがある。
【0039】
<セルC>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:Mo2C
・陰極:Mo2C
以下、セルCを、Mo2C||Mo2Cと表すことがある。
【0040】
<セルD>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:Pt-Fe合金担持カーボン(以下、Pt-Fe/Cということがある。)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
なお、Pt-Fe担持量は、2.0mg/cm2である。
以下、セルDを、Pt-Fe/C||Pt/Cと表すことがある。
【0041】
<セルE>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カーボン(ケッチェンブラック)(以下、C,KBということがある。)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
以下、セルEを、C,KB||Pt/Cと表すことがある。
【0042】
<セルF>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カーボン(バルカン)(以下、C,Vということがある。)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
以下、セルFを、C,V||Pt/Cと表すことがある。
【0043】
<セルG>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カーボン(アセチレンブラック)(以下、C,ABということがある。)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
以下、セルGを、C,AB||Pt/Cと表すことがある。
【0044】
<セルH>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カルボニル基、カルボキシル基により表面修飾されたカーボン(酸化処理を施したケッチェンブラック)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
なお、酸化処理を施したケッチェンブラックは、後述の試験9におけるKB1である。
以下、セルHを、C,KB1||Pt/Cと表すことがある。
【0045】
<セルI>
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カルボニル基、カルボキシル基により表面修飾されたカーボン(酸化還元処理を施したケッチェンブラック)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
なお、酸化還元処理を施したケッチェンブラックは、後述の試験9におけるKB2である。
以下、セルIを、C,KB2||Pt/Cと表すことがある。
【0046】
-各種測定方法-
各セルを用い、所定の作動温度において、所定の液体燃料を供給したときの電流-電圧曲線、インピーダンス特性、定電流時の電圧変化を評価した。なお、測定には、電気化学的インターフェイス(Solartron社製、「SI1287」)と周波数応答アナライザ(Solartron社製、「SI1260」)を使用した。
【0047】
<電流-電圧曲線の測定>
ポテンショスタットを使用し、20mVsec-1ごと、0~0.5Acm-2の電流密度の範囲でスキャンすることにより、電流-電圧曲線を測定した。なお、電流密度は、陰極の面積で統一した。
【0048】
<インピーダンス特性>
インピーダンススペクトルは、0.1~106Hzの周波数範囲、バイアス電圧は、0~0.4Vの範囲で記録した。
【0049】
<定電流試験(バッチ式)>
ガルバノスタティックを使用し、0.05~0.2Acm-2の範囲で一定の電流を流し、最大3.0Vになるまで電圧を計測した。
【0050】
<水素生成量の測定>
定電流試験の評価時に陰極から得られる水素量を質量分析計(Pfeiffer Vacuum社製、「ThermoStar」)を用いて計測した。なお、質量分析計で水素量を計測している間、ガルバノスタティックを使用し、0~0.2Acm-2の範囲で一定の電流を流した。
【0051】
以下に具体的な各試験内容と各試験結果を示す。
-試験1-
セルA(Pt/C||Pt/C)を用い、セルロース、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、所定の作動温度で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、作動温度は、100℃、125℃、150℃、175℃、200℃とした。また、比較(blank)のため、セルロースを含まず、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、上記と同様に電圧を印加した。そして、陰極での水素生成速度を求めた。
【0052】
図3に、糖類としてセルロースを用い、作動温度を変化させた場合のセル電圧と電流密度との関係を示す。
図3によれば、負方向に電圧を印加(グラフでは正の値)していくと、いずれの作動温度についても、セルロース、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極に供給した場合に電流が発生することがわかる。
【0053】
次に、その電流が水素生成に使用されているか否かを検討するため、糖類としてセルロースを用い、作動温度を変化させた場合の電流密度と水素生成速度との関係を求めた。その結果を
図4に示す。
図4によれば、電流密度が増加するに従って、水素生成量は直線的に増加することがわかる。
図4では、仮に、全ての電流が水素生成に使われたとした場合の理論生成量を点線で示している。
図4によれば、各電流密度における水素生成量が、理論生成量とほぼ一致していることから、糖類の電気分解による水素生成が実現できていることがわかる。
【0054】
-試験2-
セルA(Pt/C||Pt/C)を用い、リグニン、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、所定の作動温度で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、作動温度は、100℃、125℃、150℃、175℃、200℃とした。また、比較(blank)のため、リグニンを含まず、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、上記と同様に電圧を印加した。そして、陰極での水素生成速度を求めた。
【0055】
図5に、糖類としてリグニンを用い、作動温度を変化させた場合のセル電圧と電流密度との関係を示す。
図5によれば、負方向に電圧を印加(グラフでは正の値)していくと、いずれの作動温度についても、リグニン、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極に供給した場合に電流が発生することがわかる。但し、その電流は、印加電圧が-0.25V以下より発生することがわかる。糖類としてセルロースを用いた場合には、
図3に示されるように、電流は、印加電圧が0V以下より発生していたことから、リグニンは、セルロースよりも電気分解し難いことが確認された。
【0056】
また、
図6に、糖類としてリグニンを用い、電極構成を変化させた場合の電流密度と水素生成速度との関係を示す。なお、ここでは、セルA(Pt/C||Pt/C)以外にも、セルB(Mo
2C||Pt/C)、セルC(Mo
2C||Mo
2C)を用いることで、電極構成を変化させた。
図6によれば、Pt/C電極、Mo
2C電極のいずれを用いた場合でも、各電流密度における水素生成量が理論生成量とほぼ一致しており、糖類の電気分解による水素生成が実現できていることがわかる。
【0057】
-試験3-
セルA(Pt/C||Pt/C)を用い、所定の糖類、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、作動温度175℃で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、糖類には、セルロース、リグニン、または、ヒノキ木粉由来のセルロースおよびリグニンの混合物を用いた。また、比較(blank)のため、糖類を含まず、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、上記と同様に電圧を印加した。
【0058】
図7に、糖類としてセルロース、リグニン、または、ヒノキ木粉由来のセルロースおよびリグニンの混合物を用いた場合のセル電圧と電流密度との関係を示す。
図7によれば、負方向に電圧を印加(グラフでは正の値)していった際のヒノキ木粉使用時の曲線は、セルロース使用時の曲線、リグニン使用時の曲線を合わせたものとよく一致していることがわかる。この結果から、糖類が混合されていても、電気分解による水素生成が実現可能であることが確認された。
【0059】
また、セルA(Pt/C||Pt/C)に代えてセルC(Mo
2C||Mo
2C)を用いるとともに、ヒノキ木粉を使用した場合について、作動温度175℃で電流量を変化させながら、一定時間ずつ水素生成量を測定した。なお、電流量は、20mAcm
-2、40mAcm
-2、60mAcm
-2とした。その結果を
図8に示す。
図8によれば、電流量に応じて、安定的に水素を生成させることができることが確認された。
【0060】
-試験4-
室温で、リグニンを硫酸処理(H
2SO
4処理)またはリン酸処理(H
3PO
4処理)した。
図9(a)に、室温で硫酸処理したリグニンの状態を示す。
図9(b)に、室温でリン酸処理したリグニンの状態を示す。また、上記硫酸処理後のリグニン、上記リン酸処理後のリグニンを、200℃で30分間保持した。
図9(c)に、硫酸処理したリグニンの200℃保持後の状態を示す。
図9(d)に、リン酸処理したリグニンの200℃保持後の状態を示す。なお、
図9(a)~(d)は、走査型電子顕微鏡による観察結果である。
図9によれば、酸としてリン酸を用いた場合には、酸として硫酸を用いた場合に比べ、作動温度が高くても、糖類の構造自体を壊し難く、適度に糖類の結合の一部を切断できることがわかる。
【0061】
また、200℃でのリン酸処理前後のリグニンを平均化するために、それぞれ乳鉢粉砕を行った後、ダイヤモンド板上にサンプルを転写し、ニードルで薄板化した後、FT-IRを測定した。
図10に、リン酸処理前後のリグニンのFT-IRの結果を示す。
図10によれば、リン酸処理後のピークは、リン酸処理前のピークに比べてブロードであることがわかる。この結果から、リン酸との併用により、リグニンの分子結合力を弱めることができることが確認された。
【0062】
-試験5-
セルA(Pt/C||Pt/C)またはセルD(Pt-Fe/C||Pt/C)を用い、リグニン、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、所定の作動温度で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、作動温度は、100℃、125℃、150℃とした。
【0063】
図11に、糖類としてリグニンを用い、電極構成および作動温度を変化させた場合のセル電圧と電流密度との関係を示す。
図11によれば、Pt-Fe/C電極を有するセルDは、Pt/C電極を有するセルAに比べ、電流密度を増加させることができる、すなわち、水素生成量を増やすことができることがわかる。また、
図12に、セルA(Pt/C||Pt/C)、セルD(Pt-Fe/C||Pt/C)の複素インピーダンスプロットを示す。
図12によれば、Pt-Fe/C電極は、Pt/C電極に比べ、電極反応抵抗を小さくすることができることが確認された。
【0064】
-試験6-
セルA(Pt/C||Pt/C)またはセルD(Pt-Fe/C||Pt/C)を用い、リグニン、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、作動温度150℃、一定電流としたときのセル電圧の変化を測定した。その結果を、
図13に示す。
図13によれば、本例では、いずれのセルの場合も、液体燃料中のリグニンの枯渇により、セル電圧が徐々に上がっていくものの、ほぼ安定したセル電圧が得られることが確認された。
【0065】
また、
図14に、質量分析計で測定した水素感度を示す。なお、
図14中、M/Z=2は、分子量が2、すなわち、水素のことである。
図14によれば、いずれのセルの場合も、電流通電中、安定して水素が生成することが確認された。
【0066】
-試験7-
セルA(Pt/C||Pt/C)を用い、所定の糖類、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、作動温度175℃で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、糖類には、セルロース、リグニン、または、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物を用いた。そして、陰極での水素生成速度を求めた。
【0067】
図15に、糖類としてセルロース、リグニン、または、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物を用いた場合のセル電圧と電流密度との関係を示す。
図15によれば、負方向に電圧を印加(グラフでは正の値)していくと、糖類、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極に供給した場合に電流が発生することがわかる。
【0068】
また、その電流が水素生成に使用されているか否かを検討するため、
図16に、糖類として新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物を用いた場合の電流密度と水素生成速度との関係を示す。
図16によれば、電流密度が増加するに従って、水素生成量は直線的に増加することがわかる。
図16では、仮に、全ての電流が水素生成に使われたとした場合の理論生成量を点線で示している。
図16によれば、各電流密度における水素生成量が、理論生成量とほぼ一致していることから、糖類の電気分解による水素生成が実現できていることがわかる。
【0069】
-試験8-
セルA(Pt/C||Pt/C)を用い、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、所定の作動温度で、陽極および陰極間に電圧を印加した。この際、作動温度は、100℃、125℃、150℃、175℃とした。
図17に、この際の複素インピーダンスプロットを示す。また、
図18に、セルA(Pt/C||Pt/C)に代えて、セルE(C,KB||Pt/C)、セルF(C,V||Pt/C)、セルG(C,AB||Pt/C)を用い、作動温度175℃で同様に電気分解を行った際の複素インピーダンスプロットを示す。
【0070】
図17における、作動温度175℃でのピークと
図18とから、カーボン電極を用いた方が抵抗値が低くなり、電気分解しやすいことがわかる。つまり、P/C電極を用いずに、C電極を用いた場合でも、水素生成装置を機能させることができることがわかる。また、
図18から、抵抗値は、セルE(C,KB||Pt/C)<セルF(C,V||Pt/C)<セルG(C,AB||Pt/C)の順で大きかった。カーボンの比表面積は、アセチレンブラック(76m
2g
-1)<バルカン(214m
2g
-1)<ケッチェンブラック(1216m
2g
-1)の順で大きくなり、カーボンの比表面積が大きいほど、吸着容量や活性部位が多くなり、抵抗値に反映されることがわかる。この結果から、好適なカーボン種は、他に比べて比表面積が1000m
2g
-1以上と大きいケッチェンブラックであるといえる。
【0071】
-試験9-
カーボン表面の官能基の効果を調べるため、カーボンとしてケッチェンブラックを用いて次の試験を行った。具体的には、酸化処理を施したケッチェンブラック(以下、試料KB1)、酸化処理後、還元処理したケッチェンブラック(以下、試料KB2)、これらの処理を実施しなかった未処理のケッチェンブラック(以下、試料KB0)を準備した。なお、酸化処理は、24%硝酸20mLと水30mLとを混ぜ合わせた水溶液にケッチェンブラック1.0gを入れ、ホットプレート上で室温、300rpmで72時間撹拌することにより行った。また、還元処理は、上記酸化処理後のケッチェンブラックを水素雰囲気下、600℃で熱処理することにより行った。次いで、作製した試料KB0、試料KB1、および、試料KB2について比表面積測定(BET比表面積、吸着物質:N
2)、XPS測定を行った。XPS測定では、波形分離により、COO基、C=O基、COH基の量の変化を比較測定した。
図19に、比表面積の測定結果を示す。
図20に、XPSの測定結果を示す。
【0072】
図19によれば、比表面積については、酸化処理、酸化還元処理の違いよって目立った変化は見られなかった。しかし、
図20によれば、酸化処理、酸化還元処理を施した場合には、カルボニル基、カルボキシル基のピークが強くなっていることがわかる。特に、酸化処理を施した場合には、カルボキシル基のピークが強くなっており、酸化還元処理を施した場合には、カルボニル基のピークが強くなっていることがわかる。なお、カルボニル基の比率をカルボキシル基の比率より高める場合には、例えば、カルボキシル基が脱離するように600℃程度の高温で熱処理して、カルボニル基を残す処理を行えばよい。
【0073】
また、セルE(C,KB||Pt/C)、セルH(C,KB1||Pt/C)、セルI(C,KB2||Pt/C)を用い、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物、水、および、リン酸より構成される液体燃料を陽極へ供給し、作動温度175℃で、陽極および陰極間に電圧を印加した。
図21に、この際の複素インピーダンスプロットを示す。
【0074】
図21によれば、酸化還元処理を施したケッチェンブラック(KB2)電極を用いた場合に、最も抵抗値が低くなった。なお、比表面積は変化がないため、今回の抵抗値の低下には影響していない。これは、カーボン表面におけるカルボニル基、カルボキシル基が増加したために、活性サイト密度が増加し、電極反応が進行しやすくなったためであると考えられる。この結果から、カルボニル基、および、カルボキシル基の少なくとも1つでカーボン表面を修飾することが、糖類の電気分解に有効であることが確認された。
【0075】
(実験例2)
実施形態2に示される構成に従う水素生成装置を準備した。具体的には、水素生成装置におけるセル構成は、以下の通りであり、基本的には、実験例1のセルIと同様にして作製した。
・電解質膜:Sn0.9In0.1P2O7とPTFEとの混合物、膜厚250μm
・陽極:カルボニル基、カルボキシル基により表面修飾されたカーボン(上述した酸化還元処理を施したケッチェンブラック)
・陰極:Pt担持カーボン(Pt/C)
但し、陽極は、次のように作製した。ケッチェンブラック0.1gと85%リン酸水溶液0.85gとを混ぜ合わせ、スラリー状にしたのち、上述した酸化還元処理を施したケッチェンブラック10mgcm-2をカーボンペーパーに塗布した。次いで、そのカーボンペーパーを直径12mmの大きさでくり抜いた。これにより陽極を形成した。
【0076】
また、セルの陽極には、液体燃料供給源としてのシリンジポンプより、新聞紙由来のセルロースおよびリグニンの混合物、水、リン酸より構成される液体燃料を連続的に供給可能とされている。この際、液体燃料は、0.07~0.44mLmin-1の速度で連続的に供給した。また、陰極側には、キャリアガスとしてArガスを100mLmin-1の速度で流し続けた。陽極側集電体には、ステンレスメッシュ、陰極側集電体には、Auメッシュを用いた。セパレータには、PTFEを用いた。作動温度は、175℃とした。なお、本実験例における定電流試験の際、ガルバノスタティックは、0~0.2Acm-2の範囲で一定の電流を流した。
【0077】
図22に、上記水素生成装置に電圧を印加した際の時間と水素生成速度との関係を示す。
図22によれば、ノイズはあるものの、電流量に応じて安定的、連続的な水素生成が実現できていることがわかる。なお、水素生成速度は、理論値と同等の値であった。
【0078】
また、表面修飾されているカーボン電極を用いた糖類の電気分解で消費されるエネルギーは、およそ0.6kWh(Nm3)-1であり、エタノールの電気分解で消費されるエネルギーの2.0kWh(Nm3)-1よりもはるかに低い。そのため、上記水素生成装置によれば、水素生成に必要なエネルギーを大幅に下げることができるといえる。また、Pt/C電極を用いた糖類の電気分解で消費されるエネルギーは、およそ0.8kWh(Nm3)-1であることから、これと比べても、表面修飾されているカーボン電極を用いることが優位であるということができる。
【0079】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 水素生成装置
2 電解質
3 陽極
4 陰極
5 電圧印加部
6 液体燃料