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特許7158676再生毛の色制御方法、毛の再生方法及び毛包原基の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】再生毛の色制御方法、毛の再生方法及び毛包原基の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/36 20150101AFI20221017BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221017BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221017BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221017BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
A61K35/36
A01K67/027
C12N5/071
A61L27/38 100
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61P43/00 107
A61P17/14
C12N15/11 Z ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018094498
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019199434
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】吉村 知紗
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 陸満
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/115079(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178438(WO,A1)
【文献】青木仁美,最近の色素細胞研究,フレグランスジャーナル,Vol.45, No.9,2017年,p.12-20
【文献】田口暢彦他,白髪改善・白髪防止剤の開発,フレグランスジャーナル,Vol.45, No.9,2017年,p.38-45
【文献】吉村知紗他,毛髪再生医療の実現に向けた毛包原基大量調製デバイス,化学とマイクロ・ナノシステム,2018年10月,Vol.17, No.2,p.17-18
【文献】吉村知紗他,毛髪再生医療の実現に向けた毛包原基大量調製法の開発,人工臓器,2018年10月,Vol.47, No.2,S-164, YP5-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
A61L 15/00 -33/18
C12N 5/00 - 5/28
A61P 17/14
A61K 8/00 -8/99
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒常部のバルジ領域と毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部とを含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞と前記非恒常部由来の細胞とを含む原料細胞を使用すること、
分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び
前記毛包原基を非ヒト動物に移植して前記毛包原基から毛を生やすこと、
を含み、
前記成体毛包組織に含まれる前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部の重量割合を変えることにより、前記毛包原基から生える毛の色を変える、再生毛の色制御方法。
【請求項2】
前記成体毛包組織に含まれる前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部の重量割合を増加させることにより、前記毛包原基から生える毛の色を濃くする、請求項1に記載の再生毛の色制御方法。
【請求項3】
恒常部のバルジ領域と毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部とを含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞と前記非恒常部由来の細胞とを含む原料細胞を使用すること、
分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び
前記毛包原基を非ヒト動物に移植して前記毛包原基から毛を生やすこと、
を含み、
前記 毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部をさらに含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記毛包原基から、前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす、毛の再生方法。
【請求項4】
前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を第一の重量割合で含む第一の成体毛包組織を使用して製造された第一の毛包原基を前記動物に移植して、前記第一の毛包原基から第一の色の毛を生やすこと、及び
前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を前記第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む第二の成体毛包組織を使用して製造された第二の毛包原基を前記動物に移植して、前記第二の毛包原基から前記第一の色より濃い第二の色の毛を生やすこと、
を含む、請求項3に記載の毛の再生方法。
【請求項5】
恒常部のバルジ領域と毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部とを含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞と前記非恒常部由来の細胞とを含む原料細胞を使用すること、及び
分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、動物に移植されることで毛を生やす毛包原基を製造すること、
を含み、
前記 毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部をさらに含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす前記毛包原基を製造する、毛包原基の製造方法。
【請求項6】
前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を第一の重量割合で含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記動物に移植されることで第一の色の毛を生やす第一の毛包原基を製造すること、及び
前記毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部を前記第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記動物に移植されることで前記第一の色より濃い第二の色の毛を生やす第二の毛包原基を製造すること、
を含む、請求項5に記載の毛包原基の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生毛の色制御方法、毛の再生方法及び毛包原基の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、成体マウスの毛包の毛乳頭から培養毛乳頭細胞を得たこと、当該毛包のバルジ領域からバルジ領域上皮細胞を得たこと、当該毛包のサブバルジ領域からサブバルジ領域細胞を得たこと、及び当該毛包の毛母基底部から毛母基底部細胞を得たことが記載されている。また、特許文献1には、バルジ領域上皮細胞と、サブバルジ領域細胞又は毛母基底部細胞とを混合して遠心分離することにより、当該バルジ領域上皮細胞と、当該サブバルジ領域細胞又は当該毛母基底部細胞とを含む細胞凝集塊を作製するとともに、培養毛乳頭細胞を遠心分離することにより、当該培養毛乳頭細胞の細胞凝集塊を作製したこと、次いで、コラーゲンゲルドロップ内で、当該バルジ領域上皮細胞と、当該サブバルジ領域細胞又は当該毛母基底部細胞とを含む細胞凝集塊の上に、当該培養毛乳頭細胞の細胞凝集塊を密着させたこと、さらに、当該バルジ領域上皮細胞の細胞凝集塊にガイドとしてのナイロン糸を挿入したこと、その後、当該ゲルドロップを固化させて、再生毛包原基を作製したことが記載されている。さらに、特許文献1には、再生毛包原基を、ナイロン糸製ガイドが体表面に露出するようにヌードマウスの皮内に移植した結果、黒色毛の再生毛が得られたことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、規則的な配置の微小凹部からなるマイクロ凹版に、マウス胎児から採取された上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を加えて、酸素を供給しながら混合培養することにより、再生毛包原基を作製したことが記載されている。また、特許文献2には、再生毛包原基をヌードマウスの皮下に注入した結果、発毛が観察されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/115079号
【文献】国際公開第2017/073625号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、成体の毛包を細胞源として使用して、再生毛包原基から生える毛の色を制御することは容易ではなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、毛の色を簡便且つ効果的に制御できる、再生毛の色制御方法、毛の再生方法及び毛包原基の製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る再生毛の色制御方法は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び前記毛包原基を動物に移植して前記毛包原基から毛を生やすこと、を含み、前記成体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合を変えることにより、前記毛包原基から生える毛の色を変える。本発明によれば、毛の色を簡便且つ効果的に制御できる再生毛の色制御方法が提供される。
【0008】
前記方法において、前記動物は、非ヒト動物であることとしてもよい。また、前記方法においては、前記成体毛包組織に含まれる前記非恒常部の重量割合を増加させることにより、前記毛包原基から生える毛の色を濃くすることとしてもよい。また、前記方法において、前記非恒常部は、毛乳頭及び毛母以外の部分を含むこととしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛の再生方法は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び前記毛包原基を動物に移植して前記毛包原基から毛を生やすこと、を含み、非恒常部をさらに含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記毛包原基から、前記非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす。本発明によれば、毛の色を簡便且つ効果的に制御できる毛の再生方法が提供される。
【0010】
前記方法において、前記動物は、非ヒト動物であることとしてもよい。また、前記方法は、前記非恒常部を第一の重量割合で含む第一の成体毛包組織を使用して製造された第一の毛包原基を前記動物に移植して、前記第一の毛包原基から第一の色の毛を生やすこと、及び前記非恒常部を前記第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む第二の成体毛包組織を使用して製造された第二の毛包原基を前記動物に移植して、前記第二の毛包原基から前記第一の色より濃い第二の色の毛を生やすこと、を含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記非恒常部は、毛乳頭及び毛母以外の部分を含むこととしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛包原基の製造方法は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、及び分散された毛乳頭細胞と、分散された前記原料細胞とを混合して培養することにより、動物に移植されることで毛を生やす毛包原基を製造すること、を含み、非恒常部をさらに含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす前記毛包原基を製造する。本発明によれば、毛の色を簡便且つ効果的に制御できる毛包原基の製造方法が提供される。
【0012】
前記方法は、前記非恒常部を第一の重量割合で含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記動物に移植されることで第一の色の毛を生やす第一の毛包原基を製造すること、及び前記非恒常部を前記第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む前記成体毛包組織を使用することにより、前記動物に移植されることで前記第一の色より濃い第二の色の毛を生やす第二の毛包原基を製造すること、を含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記非恒常部は、毛乳頭及び毛母以外の部分を含むこととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、毛の色を簡便且つ効果的に制御できる、再生毛の色制御方法、毛の再生方法及び毛包原基の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】成体毛包の構造を模式的に示す説明図である。
図1B】成体マウスから採取された毛包の構造についての説明図である。
図2A】本実施形態に係る実施例1において10ng/mLのFGF2存在下で2日間初代培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡画像である。
図2B】本実施形態に係る実施例1において100ng/mLのFGF2存在下で2日間初代培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡画像である。
図2C】本実施形態に係る実施例1において10ng/mLのFGF2存在下で9日間初代培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡画像である。
図2D】本実施形態に係る実施例1において100ng/mLのFGF2存在下で9日間初代培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡画像である。
図3A】本実施形態に係る実施例1においてVersican/DAPI二重免疫染色された、成体毛包組織の毛乳頭から得られた初代培養細胞の蛍光顕微鏡画像である。
図3B】本実施形態に係る実施例1においてCD34/DAPI二重免疫染色された、バルジ領域を含む成体毛包組織から得られた細胞の蛍光顕微鏡画像である。
図4A】本実施形態に係る実施例2において非恒常部を含まない成体毛包組織から得られた細胞を使用して形成されマウス皮下に移植された毛包原基から生えた毛の写真である。
図4B】本実施形態に係る実施例2において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して形成されマウス皮下に移植された毛包原基から生えた毛の写真である。
図5A】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して10ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の一例である。
図5B】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して50ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の一例である。
図5C】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して100ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の一例である。
図5D】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して10ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の他の例である。
図5E】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して50ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の他の例である。
図5F】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して100ng/mLのFGF2存在下で形成された毛包原基の位相差顕微鏡写真の他の例である。
図6A】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して形成された毛包原基におけるVersican遺伝子発現を評価した結果の一例である。
図6B】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して形成された毛包原基におけるWng-10b遺伝子発現を評価した結果の一例である。
図7A】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して10ng/mLのFGF2存在下で形成されパッチ法でマウスに移植された毛包原基の写真である。
図7B】本実施形態に係る実施例3において非恒常部を含む成体毛包組織から得られた細胞を使用して100ng/mLのFGF2存在下で形成されパッチ法でマウスに移植された毛包原基の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0016】
本方法の一側面は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、分散された毛乳頭細胞と、分散された当該原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び当該毛包原基を動物に移植して当該毛包原基から毛を生やすこと、を含み、当該成体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合を変えることにより、当該毛包原基から生える毛の色を変える、再生毛の色制御方法を含む。
【0017】
また、本方法の他の側面は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、分散された毛乳頭細胞と、分散された当該原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造すること、及び当該毛包原基を動物に移植して当該毛包原基から毛を生やすこと、を含み、非恒常部をさらに含む当該成体毛包組織を使用することにより、当該毛包原基から、当該非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす、毛の再生方法を含む。
【0018】
また、本方法のさらに他の側面は、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた、上皮幹細胞を含む原料細胞を使用すること、及び分散された毛乳頭細胞と、分散された当該原料細胞とを混合して培養することにより、動物に移植されることで毛を生やす毛包原基を製造すること、を含み、非恒常部をさらに含む当該成体毛包組織を使用することにより、当該非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす当該毛包原基を製造する、毛包原基の製造方法を含む。
【0019】
すなわち、本発明の発明者らは、成体毛包組織から得られた細胞を使用して生体外で再構築した毛包原基から生える毛の色を制御する技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、意外にも、細胞源として非恒常部を含む成体毛包組織を使用することにより、当該毛包原基から生える毛の色を簡便且つ効果的に制御できることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
ここで、成体毛包組織の構造について説明する。図1Aには、成体毛包の構造を模式的に示す。また、図1Bには、成体マウスから採取された毛包の構造を示す。図1A及び図1Bに示すように、毛幹を包む成体毛包組織は、恒常部と、非恒常部とを含む。
【0021】
恒常部は、定常部又は不変部とも呼ばれる。恒常部は、成体毛包組織の上側(すなわち、毛幹の先端側)の略半分を占める。恒常部には皮脂腺がある。恒常部は、その皮脂腺より下側(すなわち、毛幹の先端と反対側)に、立毛筋が接着しているバルジ領域を含む。なお、図1Bに示すように、マウスにおいては、立毛筋に相当する位置に、リングブルスト(Ringwurst)が存在する。バルジ領域には上皮幹細胞が含まれる。
【0022】
このため、恒常部のバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた原料細胞は、当該バルジ領域から得られた上皮幹細胞を含む。上皮幹細胞は、例えば、成体毛包組織(特に、バルジ領域)から得られた、CD34を発現する細胞として特定される。恒常部はさらに、バルジ領域の下側にサブバルジ領域を含む。サブバルジ領域は、恒常部の最下部を構成する。
【0023】
非恒常部は、非定常部又は可変部とも呼ばれる。非恒常部は、成体毛包組織の下側の略半分を占める。すなわち、非恒常部は、例えば、成体毛包組織のうち、恒常部のサブバルジ領域より下側の部分である。非恒常部は、毛球部を含む。毛球部は、毛乳頭と毛母とを含む。毛乳頭には毛乳頭細胞が含まれる。毛母には毛母細胞及び色素細胞が含まれる。非恒常部は、毛球部以外の部分(すなわち、恒常部と、毛球部との間の部分)も含む。なお、原料細胞の細胞源としては、毛周期の成長期にある成体毛包組織を使用することが好ましい。
【0024】
本方法において特徴的なことの一つは、上皮幹細胞を含む原料細胞の細胞源として、非恒常部を含む成体毛包組織を利用する点である。成体毛包組織に含まれる非恒常部は、当該成体毛包組織の非恒常部の一部又は全部であれば特に限られないが、毛乳頭以外の部分を含むこととしてもよく、毛母以外の部分を含むこととしてもよく、毛乳頭及び毛母以外の部分を含むこととしてもよく、毛球部以外の部分を含むこととしてもよい。
【0025】
成体毛包組織に含まれる非恒常部に対する、毛乳頭以外の部分、毛母以外の部分、毛乳頭及び毛母以外の部分、又は毛球部以外の部分の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0026】
成体毛包組織に含まれる非恒常部は、毛乳頭を含まないこととしてもよく、毛母を含まないこととしてもよく、毛乳頭及び毛母を含まないこととしてもよく、毛球部を含まないこととしてもよい。
【0027】
成体毛包組織に含まれる非恒常部は、恒常部のサブバルジ領域と、当該非恒常部の毛球部との間の部分の一部又は全部を含むこととしてもよい。
【0028】
成体毛包組織に含まれる非恒常部に対する、恒常部のサブバルジ領域と、当該非恒常部の毛球部との間の部分の重量割合は、例えば、50重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0029】
上述のように非恒常部を含む成体毛包組織は、上皮幹細胞を含む原料細胞の細胞源として使用するため、恒常部のバルジ領域を含む。原料細胞の細胞源としての成体毛包組織は、サブバルジ領域をさらに含むこととしてもよい。
【0030】
原料細胞の細胞源として使用する成体毛包組織は、成体動物から採取された毛包組織である。成体動物は、皮膚付属器としての毛包を有する成体であれば特に限られず、ヒトであってもよいし、非ヒト動物(ヒト以外の動物)であってもよい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0031】
本方法で使用する原料細胞は、後述の毛包原基の製造において、毛乳頭細胞と混合して培養する細胞である。原料細胞は、バルジ領域及び非恒常部を含む成体毛包組織に酵素処理を施すことにより得られる。
【0032】
酵素処理に使用される酵素は、成体毛包組織から原料細胞を遊離させるために有効な酵素(例えば、当該成体毛包組織において当該原料細胞の周囲のマトリクスを分解し、及び/又は当該原料細胞間の結合を切断する分解酵素)であれば特に限られないが、例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、及びトリプシンからなる群より選択される1以上であってもよい。
【0033】
なお、原料細胞は、毛乳頭細胞から独立して、別途調製される。すなわち、原料細胞の細胞源として使用される成体毛包組織は、毛乳頭細胞の細胞源(例えば、生体毛包組織から分離された毛乳頭)とは別に準備される。そして、毛乳頭細胞の調製とは別に、バルジ領域及び非恒常部を含む成体毛包組織から原料細胞を調製する。
【0034】
原料細胞は、生体毛包組織のバルジ領域から得られた上皮幹細胞に加え、当該成体毛包組織の非恒常部から得られた細胞を含む。すなわち、原料細胞は、毛乳頭以外の非恒常部から得られた細胞を含むこととしてもよく、毛母以外の非恒常部から得られた細胞を含むこととしてもよく、毛乳頭及び毛母以外の非恒常部から得られた細胞を含むこととしてもよく、毛球部以外の非恒常部から得られた細胞を含むこととしてもよい。
【0035】
また、原料細胞は、非恒常部から分離された毛乳頭から得られた細胞を含まないこととしてもよく、非恒常部から分離された毛母から得られた細胞を含まないこととしてもよく、非恒常部から分離された毛乳頭及び毛母から得られた細胞を含まないこととしてもよく、非恒常部から分離された毛球部から得られた細胞を含まないこととしてもよい。
【0036】
また、原料細胞は、毛乳頭から得られた細胞を含まないこととしてもよく、毛母から得られた細胞を含まないこととしてもよく、毛乳頭及び毛母から得られた細胞を含まないこととしてもよく、毛球部から得られた細胞を含まないこととしてもよい。
【0037】
毛乳頭細胞は、毛包原基の一部を形成できるものであれば特に限られないが、例えば、成体毛包組織の毛乳頭に由来する細胞であってもよく、皮膚組織(胎児、幼体、成体のいずれの皮膚組織であってもよい。)に由来する細胞であってもよく、予め培養された細胞であってもよく、生体外で幹細胞(例えば、人工多能性(iPS)幹細胞、胚性幹(ES)細胞、又は胚性生殖(EG)細胞)から誘導された細胞であってもよい。毛乳頭細胞は、例えば、Versicanを発現する細胞として特定される。
【0038】
本方法においては、分散された毛乳頭細胞と、分散された原料細胞とを混合して培養することにより、毛包原基を製造する。すなわち、分散された毛乳頭細胞と、分散された原料細胞とを含む混合細胞懸濁液を培養容器に播種することにより、当該毛乳頭細胞及び原料細胞の混合培養を行う。混合細胞懸濁液は、分散された毛乳頭細胞を含む毛乳頭細胞懸濁液と、分散された原料細胞を含む原料細胞懸濁液とを混合することにより調製される。
【0039】
なお、分散された細胞とは、他の細胞と結合しておらず、又は数個の細胞と結合しているのみであり、溶液中に分散されて浮遊している細胞である。例えば、細胞懸濁液に含まれる細胞と溶媒とを分離するために、分散された細胞を含む当該細胞懸濁液を遠心する場合、遠心後に形成される当該細胞の沈殿物は、当該細胞の凝集塊であり、当該沈殿物を構成する細胞は、分散された細胞ではない。
【0040】
毛乳頭細胞懸濁液は、毛乳頭細胞の培養に適した培養液に、当該毛乳頭細胞を分散させることにより調製される。毛乳頭細胞の培養に適した培養液は、特に限られないが、例えば、FGF2(bFGF)を含む培養液を使用することが好ましい。
【0041】
毛乳頭の培養に使用される培養液に含まれるFGF2の濃度は、特に限られないが、例えば、10ng/mL以上であることとしてもよく、30ng/mL以上であることが好ましく、50ng/mL以上であることがより好ましく、75ng/mL以上であることがより一層好ましく、100ng/mL以上であることが特に好ましい。
【0042】
原料細胞懸濁液は、原料細胞の培養に適した培養液に、当該原料細胞を分散させることにより調製される。原料細胞の培養に適した培養液は、上皮幹細胞の培養に適した培養液であることが好ましい。上皮幹細胞の培養に適した培養液は、特に限られず、上皮幹細胞の培養に使用されている公知の培養液を使用してもよい。
【0043】
混合細胞懸濁液に含まれる毛乳頭細胞と原料細胞との数比は、最終的に毛包原基が製造される範囲内であれば特に限られないが、当該毛乳頭細胞の数に対する当該原料細胞の数の比は、例えば、0.10以上、10.00以下であることとしてもよく、0.20以上、5.00以下であることが好ましく、0.50以上、2.00以下であることがより好ましく、0.75以上、1.50以下であることが特に好ましい。
【0044】
分散された毛乳頭細胞と分散された原料細胞とを混合培養する培養液は、特に限られないが、例えば、FGF2を含む培養液を使用することが好ましい。混合培養に使用される培養液に含まれるFGF2の濃度は、特に限られないが、例えば、10ng/mL以上であることとしてもよく、30ng/mL以上であることが好ましく、50ng/mL以上であることがより好ましく、75ng/mL以上であることがより一層好ましく、100ng/mL以上であることが特に好ましい。
【0045】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養における細胞密度(混合細胞懸濁液の単位体積あたりに含まれる、毛乳頭細胞と原料細胞との合計数)は、毛包原基が形成される範囲内であれば特に限られないが、例えば、5.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以下であることとしてもよく、2.5×10cells/mL以上、5.0×10cells/mL以下であることが好ましく、2.5×10cells/mL以上、2.5×10cells/mL以下であることが特に好ましい。
【0046】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養に使用する培養容器は、特に限られないが、例えば、細胞非接着性の培養容器が好ましく使用される。細胞非接着性の培養容器は、細胞非接着性の表面を有する培養容器である。すなわち、例えば、培養容器が、基材の表面に形成された凹部(有底穴)である場合、当該凹部は、細胞非接着性の底面を有し、細胞非接着性の側面をさらに有することが好ましい。
【0047】
細胞非接着性の表面は、培養される細胞が接着して伸展しない表面である。すなわち、細胞非接着性の表面を有する培養容器で培養された細胞は、当該表面に弱く接着することはあるが、当該表面に伸展はしない。このため、細胞非接着性表面に接着した細胞は、例えば、酵素処理やキレート処理を行うことなく、培養液を流動させることにより、当該表面から脱離して浮遊する。
【0048】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養に使用する培養容器は、例えば、酸素透過性が比較的大きい基材の表面に形成された凹部であることが好ましい。すなわち、培養容器としては、例えば、酸素透過率が100cm/(m・24h・atm)以上の基材に形成された凹部であることとが好ましく、酸素透過率が500cm/(m・24h・atm)以上の基材に形成された凹部であることとがより好ましく、酸素透過率が1000cm/(m・24h・atm)以上の基材に形成された凹部であることとが特に好ましい。
【0049】
酸素透過性が大きい基材を構成する材料としては、例えば、シリコン系材料(例えば、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane):PDMS))が好ましく使用される。
【0050】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養に使用する培養容器として、基材の表面に形成された凹部を使用する場合、当該凹部の容積や、当該凹部の底面の形状及び面積は特に限られない。凹部の容積は、例えば、1nL以上、1mL以下であることとしてもよく、10nL以上、100μL以下であることが好ましく、100nL以上、10μL以下であることが特に好ましい。凹部の底面の形状は、例えば、円形、楕円形、又は多角形であることとしてもよい。凹部の底面の面積は、例えば、1μm以上、100mm以下であることとしてもよく、10μm以上、10mm以下であることが好ましく、100μm以上、1mm以下であることが特に好ましい。
【0051】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養に使用する培養容器としては、基材の表面に規則的に形成された複数の凹部(例えば、一定の間隔で直線的又は網目状に配置された複数の凹部)を使用することとしてもよい。
【0052】
毛乳頭細胞と原料細胞との混合培養時間は、毛包原基を形成できる範囲内であれば特に限られないが、例えば、12時間以上、10日以下であってもよく、1日以上、7日以下であることが好ましい。培養温度は、毛包原基を形成できる範囲内であれば特に限られないが、例えば、25℃以上、40℃以下であることとしてもよく、35℃以上、39℃以下であることが好ましい。
【0053】
混合細胞懸濁液中で、混合された毛乳頭細胞及び原料細胞を培養することにより、当該毛乳頭細胞の凝集部と、当該原料細胞の凝集部とを含む複合細胞凝集体である、毛包原基が形成される。
【0054】
すなわち、この毛包原基は、毛乳頭細胞が互いに結合し凝集することにより形成された毛乳頭細胞凝集部と、原料細胞が互いに結合し凝集することにより形成された原料細胞凝集部とを含む。原料細胞凝集部は、上皮幹細胞が互いに結合し凝集して形成された上皮幹細胞凝集部を含んでもよい。
【0055】
毛包原基において、毛乳頭細胞凝集部の一部と原料細胞凝集部の一部とは結合している。すなわち、毛乳頭細胞凝集部に含まれる一部の毛乳頭細胞と、原料細胞凝集部に含まれる一部の原料細胞とが結合している。この場合、毛乳頭細胞凝集部に含まれる一部の毛乳頭細胞と、原料細胞凝集部に含まれる一部の上皮幹細胞とが結合していてもよい。
【0056】
本方法における毛包原基の形成は、毛乳頭細胞及び原料細胞が分散され、且つ混合された状態で培養を開始した後、当該毛乳頭細胞同士が結合して自発的に凝集し、且つ当該原料細胞同士(例えば、上皮幹細胞同士)が結合して自発的に凝集するとともに、一部の毛乳頭細胞と一部の原料細胞(例えば、一部の上皮幹細胞)とが結合することにより、達成される。
【0057】
本方法において形成される毛包原基の形状は、特に限られないが、例えば、球状、又は長球状であることとしてもよい。本方法において形成される毛包原基の体積は、特に限られないが、例えば、1×10-5mm以上、10mm以下であることとしてもよく、1×10-4mm以上、1mm以下であることが好ましく、1×10-3mm以上、0.1mm以下であることが特に好ましい。
【0058】
毛包原基に含まれる細胞の密度(毛包原基の単位体積あたりに含まれる細胞の合計数)は、特に限られないが、例えば、1.0×10cells/cm以上、7.0×1010cells/cm以下であることとしてもよく、5.0×10cells/cm以上、6.5×1010cells/cm以下であることが好ましく、1.0×10cells/cm以上、5.0×1010cells/cm以下であることが特に好ましい。
【0059】
本方法においては、分散された毛乳頭細胞と、分散された原料細胞とを混合して培養することにより、動物に移植されることで毛を生やす毛包原基を製造する。すなわち、本方法における混合培養で形成された毛包原基は、後述するように、動物に移植することができ、且つ当該動物に移植された後に、当該毛包原基から毛が生える。
【0060】
本方法において、製造された毛包原基を動物に移植して当該毛包原基から毛を生やす場合、当該動物は特に限られず、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物は特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0061】
毛包原基の動物への移植は、当該動物の皮膚への移植であることが好ましい。皮膚への移植は、例えば、皮下移植であってもよいし、皮内移植であってもよい。
【0062】
本方法における毛包原基の製造及びその動物への移植は、医学的用途であってもよいし、研究用途であってもよい。すなわち、本方法においては、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のために、当該疾患を患っている又は患う可能性のあるヒト患者に移植する目的で毛包原基を製造し、又は当該毛包原基を当該ヒト患者に移植することとしてもよい。
【0063】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0064】
また、本方法においては、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、及び/又は当該疾患の機構に関与する物質の探索のために、毛包原基を製造し、又は当該毛包原基を非ヒト動物に移植することとしてもよい。
【0065】
そして、本実施形態に係る再生毛の色制御方法においては、成体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合(すなわち、原料細胞の細胞源として使用される成体毛包組織の重量に対する、当該成体毛包組織に含まれる非恒常部の重量の割合)を変えることにより、毛包原基から生える毛の色を変える。
【0066】
具体的に、例えば、成体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合を増加させることにより、移植された毛包原基から生える毛の色を濃くする。ここで、毛の色の濃さは、目視でも評価できるが、例えば、当該毛の単位重量当たりに含まれるメラニン色素の量として、定量的に評価してもよい。毛に含まれるメラニン色素の定量は、例えば、測定対象となる当該毛を水酸化ナトリウム溶液中で60℃30分間インキュベートしてメラニンを抽出し、次いで、吸光度計を用いて、405nmの吸光度を測定することで、抽出された当該メラニンを定量することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る毛の再生方法においては、非恒常部を含む成体毛包組織を使用することにより、移植された毛包原基から、当該非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす。
【0068】
すなわち、例えば、毛乳頭以外の部分を含む非恒常部、毛母以外の部分を含む非恒常部、毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部、又は毛球部以外の部分を含む非恒常部を含む成体毛包組織から得られた原料細胞を使用して製造された第一の毛包原基を動物に移植することにより、当該非恒常部を含まない成体毛包組織から得られた原料細胞を使用して製造された第二の毛包原基を動物に移植する場合に比べて、色が濃い毛を当該移植された第一の毛包原基から生やす。
【0069】
また、非恒常部を第一の重量割合で含む第一の成体毛包組織を使用して製造された第一の毛包原基を動物に移植して、当該第一の毛包原基から第一の色の毛を生やすとともに、当該非恒常部を当該第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む第二の成体毛包組織を使用して製造された第二の毛包原基を動物に移植して、当該第二の毛包原基から当該第一の色より濃い第二の色の毛を生やすこととしてもよい。
【0070】
この場合、原料細胞の細胞源として使用する生体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合として、複数の重量割合を採用することにより、移植された複数の毛包原基から、色の濃さが異なる複数の毛を生やすことができる。
【0071】
また、本実施形態に係る毛包原基の製造方法においては、非恒常部を含む成体毛包組織を使用することにより、当該非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合に比べて色が濃い毛を生やす毛包原基を製造する。
【0072】
すなわち、例えば、毛乳頭以外の部分を含む非恒常部、毛母以外の部分を含む非恒常部、毛乳頭及び毛母以外の部分を含む非恒常部、又は毛球部以外の部分を含む非恒常部を含む成体毛包組織から得られた原料細胞を使用することにより、当該恒常部を含まない成体毛包組織から得られた原料細胞を使用する場合に比べて、動物に移植されることで色が濃い毛を生やす毛包原基を製造する。
【0073】
また、非恒常部を第一の重量割合で含む第一の成体毛包組織を使用することにより、動物に移植されることで第一の色の毛を生やす第一の毛包原基を製造するとともに、当該非恒常部を当該第一の重量割合より大きい第二の重量割合で含む第二の成体毛包組織を使用することにより、当該動物に移植されることで当該第一の色より濃い第二の色の毛を生やす第二の毛包原基を製造する。
【0074】
この場合、原料細胞の細胞源として使用する生体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合として、複数の重量割合を採用することにより、移植された場合に色の濃さが異なる毛を生やす複数の毛包原基を製造することができる。
【0075】
生体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合は、0%以上、100%以下の範囲内であれば特に限られない。すなわち、第一の重量割合が0%である場合(すなわち、非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合)、第二の重量割合は、例えば、5%以上であることとしてもよく、10%以上であることとしてもよく、20%以上であることとしてもよく、30%以上であることとしてもよい。通常、生体毛包組織から非恒常部を除去しない場合(すなわち、生体毛包組織が恒常部及び非恒常部の全部を含む場合)、当該成体毛包組織の重量に対する、当該非恒常部の重量の割合は、40%程度となる。
【0076】
なお、本方法において、生体毛包組織に含まれる非恒常部の重量割合が0%である場合、すなわち、原料細胞の細胞源として非恒常部を含まない成体毛包組織を使用する場合、上述のようにして、分散された毛乳頭細胞と、分散された当該原料細胞とを混合して培養することにより、動物に移植された場合に白色の毛が生える毛包原基を製造することができる。
【0077】
すなわち、本方法によれば、バルジ領域に加え、サブバルジ領域を含む成体毛包組織から得られた原料細胞を使用することにより、実質的に着色されていない毛が生える毛包原基が製造される。
【0078】
したがって、例えば、このように白色の毛が生える条件と、着色された毛が生える条件とを採用する場合、本方法は、毛の色の制御に関する知見を得るための研究ツールとして利用することができる。また、本方法は、白色の毛を人工的に製造するために利用することもできる。
【0079】
また、第一の重量割合が0%超である場合、当該第一の重量割合に対する第二の重量割合の比は、1超であれば特に限られないが、例えば、1.5以上であることとしてもよく、2.0以上であることとしてもよく、5.0以上であることとしてもよく、10.0以上であることとしてもよい。
【0080】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0081】
[毛乳頭細胞の採取]
成体毛包組織の毛乳頭から毛乳頭細胞を採取した。すなわち、まず7週齢の成体C57BL/6マウスより髭を採取し、当該髭の周囲の脂肪組織を取り除いた。次いで、髭毛包より毛乳頭を切り分けた。この毛乳頭を100U/mLのコラゲナーゼと4.8U/mLのディスパーゼとを含む酵素溶液に浸漬して、COインキュベータ内、37℃で40分間、酵素処理を行った。酵素処理によって毛乳頭から単離された細胞を培養ディッシュに播種して、10ng/mL又は100ng/mLのFGF2を含む培地中で培養した。培養後の細胞をトリプシン-EDTA溶液を用いて回収し、実験に使用した。
【0082】
[原料細胞の採取]
バルジ領域を含む恒常部と、毛乳頭及び毛母が除去された非恒常部とを含む成体毛包組織から、上皮幹細胞を含む原料細胞を採取した。すなわち、まず7週齢の成体C57BL/6マウスより髭を採取し、当該髭の周囲の脂肪組織を取り除いた。次いで、髭毛包より毛乳頭及び毛母を除去した。毛乳頭及び毛母が除去された毛包組織を、100U/mLのコラゲナーゼと4.8U/mLのディスパーゼとを含む酵素溶液に浸漬して、COインキュベータ内、37℃で10分間、酵素処理を行った。その後、毛包組織を、DMEM培地にHEPESを混合して調製されたDMEM/HEPES培地中に移し、当該毛包組織からコラーゲン鞘を取り除いた。さらに、毛包組織にトリプシン溶液に浸漬して、COインキュベータ内、37℃で60分間、酵素処理を行った。その後、酵素処理によって毛包組織から単離された細胞をピペッティングで分散させ、さらに70μmセルストレーナーによる単一化処理を施し、得られた細胞を実験に使用した。
【0083】
[培養毛乳頭細胞の顕微鏡観察]
図2A及び図2Bには、それぞれ10ng/mL及び100ng/mLのFGF2を含む培地中で2日間培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡写真を示す。また、図2C及び図2Dには、それぞれ10ng/mL及び100ng/mLのFGF2を含む培地中で9日間培養した毛乳頭細胞の位相差顕微鏡写真を示す。図2A図2Dのいずれにおいても、毛乳頭から同心円状に広がるように細胞が増殖する様子が観察された。
【0084】
[毛乳頭細胞及び上皮幹細胞の特定]
図3Aには、上述のようにして成体毛包組織の毛乳頭から採取され培養された細胞に、毛乳頭細胞のマーカータンパク質であるVersicanの免疫組織化学染色を施して、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。図3Aに示すように、Versican/DAPIの蛍光二重染色によって、Versicanを発現する細胞の存在が確認された(図中の矢印は、Versicanを発現する細胞の一つを指している。)。すなわち、成体毛包組織の毛乳頭から毛乳頭細胞が得られたことが確認された。
【0085】
図3Bには、上述のようにして毛乳頭及び毛母が除去された成体毛包組織から採取された細胞に、毛包上皮幹細胞のマーカータンパク質であるCD34の免疫組織化学染色を施して、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。図3Bに示すように、CD34/DAPIの蛍光二重染色によって、CD34を発現する細胞の存在が確認された(図中の矢印は、CD34を発現する細胞の一つを指している。)。すなわち、バルジ領域を含む恒常部と、毛乳頭及び毛母が除去された非恒常部とを含む成体毛包組織から得られた原料細胞には、上皮幹細胞が含まれていることが確認された。
【実施例2】
【0086】
[マルチウェル培養容器の作製]
毛乳頭細胞と原料細胞とを共培養するためのマルチウェル培養容器を、上述した特許文献2と同様にして作製した。すなわち、まずCADソフト(V Carve Pro 6.5)を用いて、作製するマルチウェルのパターンをコンピューターで設計した。次いで、切削機を用いて、設計したパターン通りにオレフィン系樹脂基板を切削することで、当該パターンを有する凹鋳型を作製した。この鋳型にエポキシ樹脂(クリスタルリジン、日新レジン株式会社製)を流し込み、1日硬化させ、その後、離型することで、上述の設計されたパターンを有する凸鋳型を形成した。形成した凸鋳型を24ウェルプレートの底面に固定し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込んで固化し、その後、離型することで、PDMS基板に規則的なパターンで形成されたマルチウェル(各ウェルの直径は1mm、深さは1mm)を有するマルチウェル培養容器(以下、「PDMSスフェロイドチップ」という。)を作製した。
【0087】
このPDMSスフェロイドチップは、酸素透過性に優れたPDMS製の基板にウェルが形成されているため、当該ウェル内で培養される細胞、及び細胞凝集塊には、培養期間を通じて、適切な量の酸素が供給された。
【0088】
[毛乳頭細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、成体毛包組織の毛乳頭から毛乳頭細胞を採取し培養した。
【0089】
[原料細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、バルジ領域を含む恒常部と、毛乳頭及び毛母が除去された非恒常部とを含む成体毛包組織から、上皮幹細胞を含む原料細胞(本実施例において「原料細胞(Full)」という。)を採取した。
【0090】
また、非恒常部が除去された成体毛包組織(すなわち、バルジ領域及びサブバルジ領域を含み、非恒常部を含まない成体毛包組織)から、上皮幹細胞を含む原料細胞(本実施例において「原料細胞(1/2)」という。)を採取した。すなわち、まず7週齢の成体C57BL/6マウスより髭を採取し、当該髭の周囲の脂肪組織を取り除いた。次いで、髭毛包の恒常部より下側の部分(すなわち、サブバルジ領域より下の部分)を切断することにより、当該髭毛包から毛乳頭及び毛母を含む非恒常部を除去した。
【0091】
次いで、非恒常部が除去された毛包組織を、100U/mLのコラゲナーゼと4.8U/mLのディスパーゼとを含む酵素溶液に浸漬して、COインキュベータ内、37℃で10分間、酵素処理を行った。その後、毛包組織を、DMEM培地にHEPESを混合して調製されたDMEM/HEPES培地中に移し、当該毛包組織からコラーゲン鞘を取り除いた。さらに、毛包組織にトリプシン溶液に浸漬して、COインキュベータ内、37℃で60分間、酵素処理を行った。その後、酵素処理によって毛包組織から単離された細胞をピペッティングで分散させ、さらに70μmセルストレーナーによる単一化処理を施し、得られた細胞を「原料細胞(1/2)」として実験に使用した。
【0092】
[毛包原基の製造]
毛包原基の培養に使用する培地として、間葉細胞培養培地(DMEM+10%FBS+1%P/S(Penicillin-Streptomycin))とHuMediaKG2培地とを体積比1:1で混合し、FGF2を10ng/mL添加することにより、混合培地を調製した。
【0093】
上述のようにして得られた毛乳頭細胞を混合培地に分散して、毛乳頭細胞懸濁液を調製した。また、上述のようにして得られた原料細胞を混合培地に分散して、原料細胞懸濁液を調製した。そして、毛乳頭細胞懸濁液と原料細胞懸濁液とを混合して、分散された毛乳頭細胞及び原料細胞を含む混合細胞懸濁液を調製した。
【0094】
上述のようにして作製したマルチウェル培養容器の各ウェルに、毛乳頭細胞及び毛包上皮幹細胞それぞれの細胞密度が1×10cells/well(全細胞数2×10cells/well)となるように、混合細胞懸濁液を播種し、COインキュベータ内、37℃で3日間、培養を行った。
【0095】
培養3日目にウェル内を位相差顕微鏡で観察したところ、当該ウェル内に播種された細胞が凝集して球状の細胞凝集塊(いわゆるスフェロイドと呼ばれる。)が形成されていることが確認された。なお、予備的な検討において、この細胞凝集塊は、主に毛乳頭細胞を含む毛乳頭細胞凝集部と、当該毛乳頭細胞凝集部と結合し、主に上皮幹細胞を含む上皮系細胞凝集部とを含むことが確認された。
【0096】
このような細胞凝集塊の形成は、上述のように、分散された毛乳頭細胞と、分散された原料細胞とを混合して、非接着性の培養容器内で培養することにより、例えば、同種の細胞同士が自発的に集合して各細胞凝集部を形成することにより達成されるものと推測される。
【0097】
[毛包原基の移植]
3日間の培養により形成された毛包原基を回収し、注射器を用いて、5週齢のSCID-nuマウスの皮下に直接注入することにより、当該毛包原基を移植した。
【0098】
[再生毛の観察]
移植後3週間目に、マウスの皮下に移植された毛包原基をデジタルマイクロスコープにより観察した。
【0099】
図4A及び図4Bには、それぞれ原料細胞(1/2)を使用して製造された毛包原基、及び原料細胞(Full)を使用して製造された毛包原基を観察した結果を示す。各図において、矢印は、移植された毛包原基から生えた毛を指している。
【0100】
図4Aに示すように、非恒常部を含まない成体毛包組織から得られた原料細胞(1/2)を使用して製造された毛包原基からは、白色の毛が生えていることが確認された。一方、図4Bに示すように、毛乳頭及び毛母が除去された非恒常部を含む成体毛包組織から得られた原料細胞(Full)を使用して製造された毛包原基からは、着色された黒っぽい毛が生えていることが確認された。
【0101】
すなわち、毛乳頭及び毛母以外の非恒常部を含む成体毛包組織から得られた原料細胞(Full)を使用することにより、非恒常部を含まない成体毛包組織から得られた原料細胞(1/2)を使用する場合よりも色が濃い毛が生える毛包原基を製造できることが確認された。
【0102】
このように、原料細胞の細胞源である成体毛包組織における非恒常部(特に、毛乳頭及び毛母以外の非恒常部)の含有量が、当該原料細胞を使用して形成される毛包原基から生える毛の色を変化させるメカニズムは明らかではないが、例えば、当該非恒常部の含有量によって、当該毛包原基に含まれる、色素細胞等の毛色を制御する細胞の含有量及び/又は分布が変化することによるものと推測される。
【実施例3】
【0103】
[毛乳頭細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、成体毛包組織の毛乳頭から毛乳頭細胞を採取し培養した。
【0104】
[原料細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、バルジ領域を含む恒常部と、毛乳頭及び毛母が除去された非恒常部とを含む成体毛包組織から、上皮幹細胞を含む原料細胞を採取した。
【0105】
[毛包原基の製造]
毛包原基の培養に使用する培地として、上述の実施例2で使用した混合培地にFGF2を10ng/mL、50ng/mL、又は100ng/mL添加したFGF2含有混合培地を使用したこと以外は上述の実施例2と同様にして、マルチウェル培養容器を使用して、毛包原基を製造した。
【0106】
[毛包原基の顕微鏡観察]
図5A図5B及び図5Cには、それぞれ10ng/mL、50ng/mL、及び100ng/mLのFGF2を含む混合培地中の培養で形成された毛包原基を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図5A図5Cにおけるスケールバーは500μmを示す。
【0107】
図5D図5E及び図5Fには、それぞれ10ng/mL、50ng/mL、及び100ng/mLのFGF2を含む混合培地中の培養で形成された毛包原基を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図5D図5Fにおけるスケールバーは1mmを示す。
【0108】
図5A図5Fに示すように、3日間の培養で形成された毛包原基の形態は、混合培地のFGF2含有量によって違いは見られなかった。
【0109】
[発毛に関する遺伝子発現の解析]
3日間の培養で形成された毛包原基における発毛マーカー遺伝子(Versican及びWnt-10b)の発現について、RT-PCR解析を行った。すなわち、まず毛包原基からRNAを抽出した。具体的に、毛包原基を15mLチューブに回収し、当該毛包原基が沈殿したら、溶液の体積が1mLとなるように上清を除去した。次いで、毛包原基を含む溶液1mLを1.5mLマイクロチューブに移し替えて、4℃、5000rpmで、3分間遠心した。
【0110】
遠心後の溶液の上清を捨てた後、350μLのBuffer RLTを加え、よくピペッティングした。さらに、ピペッティング後の溶液をQIA Shredderスピンカラムに回収し、4℃、10000rpmで、2分間遠心した。QIA Shredderスピンカラムの上部を捨て、コレクションチューブ内の溶液に70%エタノールを350μL加えた。溶液をRNeasyスピンカラムに移し、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。
【0111】
コレクションチューブ内の濾液を捨て、700μLのBuffer RW1を加え、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。コレクションチューブ内の濾液を捨て、500μLのBuffer RPEを加え、4℃、10000rpmで、15秒間遠心した。コレクションチューブ内の濾液を捨て、500μLのBuffer RPEを加え、4℃、10000rpmで、2分間遠心した。遠心後のカラムを新しい2mLコレクションチューブに移し、4℃、10000rpmで、1分間遠心した。これは、残存するBuffer RPEを除去するために行った。
【0112】
遠心後のカラムを1mLマイクロチューブに移し、RNase free waterを30μL加え、4℃、10000rpmで、1分間遠心した。遠心後のカラムが設置された1mLマイクロチューブに、再度RNase free waterを30μL加え、4℃、10000rpmで、1分間遠心し、RNA溶解液を得た。
【0113】
次いで、分光光度計によりRNA濃度を測定した。すなわち、分光光度計(Nano Vue)の電源を付け、希釈率を60.0に設定した。ここで、希釈率とは、RNA抽出における最終容量である。測定板を70%エタノールで拭いた後、2μLのRNase free waterを当該測定板の中心にアプライし、[OA/100%T]のボタンを押した。この操作でベースラインを得た。
【0114】
上述のようにして毛包原基から得られたRNA溶解液2μLを測定板の中心にアプライし、測定ボタンを押した。A260/A280はサンプルの純度を表し、2.0に近い方が好ましい。
【0115】
その後、RT-PCRを行った。すなわち、上述のようにしてRNA濃度を測定したRNA溶解液を、そのRNA濃度が150μg/mLとなるように希釈した。希釈後のRNA溶解液を、65℃で、5分間インキュベートし、氷上で冷却した。
【0116】
その後、2μLのRNA溶解液と、12μLのNuclear free waterと、4μLの5×RT Bufferと、1μLのPrimier mixと、1μLのEnzyme mixとをマイクロチューブに入れて、透明フィルムで覆った。
【0117】
マイクロチューブをサーマルサイクラーにセットし、しっかり閉まっていることを確認した。その後、37℃で15分間、98℃で5分間の逆転写反応を行い、毛包原基由来のRNAの逆転写産物であるcDNAを得た。
【0118】
その後、1μLのcDNA(毛包原基由来のRNAの逆転写産物)と、10μLのSYBR Green master mixと、0.4μLのForward Primerと、0.4μLのReverse Primerと、0.4μLのDyeと、7.8μLのNuclear free waterとをマイクロチューブに入れて、透明フィルムで覆った。
【0119】
なお、PCRで用いたプライマーの塩基配列は、Versicanについて、Forward Primerは「5‘-GACGACTGTCTTGGTGG-3’」、Reverse Primerは「5‘-ATATCCAAACAAGCCTG-3’」、Wnt-10bについて、Forward Primerは「5‘-CCAAGAGCCGGGCCCGAGTGA-3’」、Reverse Primerは「5‘-AAGGGCGGAGGCCGAGACCG-3’」、コントロールとして用いたGAPDHについて、Forward Primerは「5‘-AGAACATCATCCCTGCATCC-3’」、Reverse Primerは「5‘-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’」であった。
【0120】
マイクロチューブをサーマルサイクラーにセットし、しっかり閉まっていることを確認した。その後、95℃で4分間、(95℃で5秒間、60℃で60秒間)×45サイクル、72℃で10分間、のプロトコールにてPCRを行った。コントロールとして、GAPDHの発現量を測定し、GAPDHの発現量に対するVersican及びWnt-10bの相対的な発現量を算出した。
【0121】
図6A及び図6Bには、それぞれ毛包原基におけるVersican及びWnt-10bの相対的な遺伝子発現量を示す。図6A及び図6Bより、毛包原基におけるVersican及びWnt-10bの遺伝子発現量が、培地のFGF2濃度に依存して増加する傾向が確認された。
【0122】
[毛包原基の移植]
3日間の培養により形成された毛包原基を回収し、パッチ法で、5週齢のSCID-nuマウスの皮膚に移植した。すなわち、マウスの皮膚の真皮又は筋膜の付近に複数の毛包原基を注入した。
【0123】
[再生毛の観察]
移植後6週間目に、マウスに移植された毛包原基をデジタルマイクロスコープにより観察した。図7A及び図7Bには、それぞれ10ng/mL及び100ng/mLのFGF2を含む培地中で形成された毛包原基を観察した結果を示す。各図において、矢印は、移植された毛包原基を指している。
【0124】
図7A及び図7Bより、10ng/mLのFGFを含む培地中で形成された毛包原基に比べて、100ng/mLのFGFを含む培地中で形成された毛包原基の方が、より高い毛髪再生能を示すことが確認された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7A
図7B
【配列表】
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