(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
G01N27/12 C
(21)【出願番号】P 2018188574
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 徳美
(72)【発明者】
【氏名】澁田 夕佳里
(72)【発明者】
【氏名】村山 徹
(72)【発明者】
【氏名】春田 正毅
(72)【発明者】
【氏名】武井 孝
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223557(JP,A)
【文献】特開2011-002358(JP,A)
【文献】特開平04-323548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0138459(US,A1)
【文献】NISHIBORI, M. et al.,CO oxidation performance of Au/Co3O4 catalyst on the micro gas sensor device,Catalysis Today,2013年,Vol.201,p.85-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象ガスと非検出対象ガスとを含むガスを吸着する吸着層と、
前記吸着層に覆われ、前記吸着層を通過した前記検出対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する感知層と
を備え、
前記吸着層が、金粒子と、
Fe
2
O
3
、MnO
2
、CeO
2
、Co
3
O
4
、NiO、ZrO
2
、CuOからなる群より選択される1以上の助触媒と、前記金粒子
及び前記助触媒を担持した金属酸化物担体とを含む触媒成分を含み、
前記金粒子の平均粒子径が10nm以下であり、前記金粒子が、前記触媒成分の総質量を100%としたときに、0.02質量%以上であって12質量%以下の量で含まれている、ガスセンサ。
【請求項2】
前記助触媒が、前記触媒成分の総質量を100%としたときに、0.1質量%以上であって10質量%以下の量で含まれている、請求項
1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記吸着層を加熱するヒータ層をさらに含む、請求項1
または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記金属酸化物担体が、Al
2O
3、
及びCr
2O
3からなる群より選択される1以上の金属酸化物を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記感知層が、金属酸化物半導体を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記金属酸化物半導体が、SnO
2、In
2O
3、WO
3、ZnO、TiO
2からなる群より選択される1以上の金属酸化物を含む、請求項
5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記検出対象ガスがケトンであり、前記非検出対象ガスがアルコールである、請求項1~
6のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のガスセンサを用いたガス検出方法であって、
前記吸着層を200℃~400℃に加熱して、前記感知層の電気的特性を得る検出工程を含む方法。
【請求項9】
前記検出工程の前に、前記吸着層及び前記感知層を370℃~500℃に加熱するクリーニング工程を含む、請求項
8に記載のガス検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。特には、検出対象ガスを高感度で選択的に検出することができるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検出対象ガスと非検出対象ガスとを含む雰囲気であっても、検出対象ガスを正確に検知することが可能なガスセンサが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高感度で、検出対象ガスを選択的に正確に検出することができるガスセンサが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ガスセンサの吸着層の触媒成分を検討し、特定の活性成分を特定の量で含むことにより、検出対象ガスを選択的に検出することができることを見出すことにより本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、一実施形態によれば、ガスセンサであって、検出対象ガスと非検出対象ガスとを含むガスを吸着する吸着層と、前記吸着層に覆われ、前記吸着層を通過した前記検出対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する感知層とを備え、前記吸着層が、金粒子と、前記金粒子を担持した金属酸化物担体とを含む触媒成分を含み、前記金粒子の平均粒子径が10nm以下であり、前記金粒子が、前記触媒成分の総質量を100%としたときに、0.02質量%以上であって12質量%以下の量で含まれている。
【0007】
前記ガスセンサにおいて、前記触媒成分が、Fe2O3、MnO2、CeO2、Co3O4、NiO、ZrO2、CuOからなる群より選択される1以上の助触媒をさらに含むことが好ましい。
【0008】
前記助触媒を含むガスセンサにおいて、前記助触媒が、前記触媒成分の総質量を100%としたときに、0.1質量%以上であって10質量%以下の量で含まれていることが好ましい。
【0009】
前記ガスセンサにおいて、前記吸着層を加熱するヒータ層をさらに含むことが好ましい。
【0010】
前記ガスセンサにおいて、前記金属酸化物担体が、Al2O3、ZrO2、CeO2、Cr2O3、Fe2O3、NiOからなる群より選択される1以上の金属酸化物を含むことが好ましい。
【0011】
前記ガスセンサにおいて、前記感知層が、金属酸化物半導体を含むことが好ましい。
【0012】
前記ガスセンサにおいて、前記金属酸化物半導体が、SnO2、In2O3、WO3、ZnO、TiO2からなる群より選択される1以上の金属酸化物を含むことが好ましい。
【0013】
前記ガスセンサにおいて、前記検出対象ガスがケトンであり、前記非検出対象ガスがアルコールであることが好ましい。
【0014】
本発明は、別の実施形態によれば、上記のいずれかに記載のガスセンサを用いたガス検出方法であって、前記吸着層を200℃~400℃に加熱して、前記感知層の電気的特性を得る検出工程を含む方法に関する。
【0015】
前記ガス検出方法において、前記検出工程の前に、前記吸着層及び前記感知層を370℃~500℃に加熱するクリーニング工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出対象ガスを正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態によるガスセンサの断面構造を示す概念図である。
【
図2】
図2は、実施例1-1のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1-2のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1-3のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1-4のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1-5のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、比較例2のガスセンサの感度特性を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1のガスセンサによる300℃の感度比のプロットを示す。
【
図11】
図11は、本発明に係るガスセンサの触媒成分を用いてガス成分の転化率を試験した結果であって、金の担持量と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示したグラフである。
【
図12】
図12は、本発明に係るガスセンサの触媒成分を用いてガス成分の転化率を試験した結果であって、金の担持量と、反応温度、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示したグラフである。
【
図13】
図13は、本発明に係るガスセンサの触媒成分を用いてガス成分の転化率を試験した結果であって、金の粒径と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示したグラフである。
【
図14】
図14は、本発明に係るガスセンサの触媒成分を用いてガス成分の転化率を試験した結果であって、金の担持量を概ね一定とした場合の助触媒Fe
2O
3の担持量と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示したグラフである。
【
図15】
図15は、本発明に係るガスセンサの触媒成分を用いてガス成分の転化率を試験した結果であって、金の担持量を概ね一定とした場合の助触媒ZrO
2の担持量と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態に係るガスセンサは、検出対象ガスと非検出対象ガスとを含む雰囲気であっても、検出対象ガスを正確に検知することが可能なガスセンサである。
【0020】
以下では、検出対象ガスの一例であるアセトンと、非検出対象ガスの一例であるエタノールとを含むガス雰囲気において、アセトンを正確に検知することが可能な半導体式のガスセンサを例に挙げて説明する。アセトンを正確に検知することが可能なガスセンサは、例えば呼気中のアセトンを検知して体調管理を行う呼気計測器等に好適に用いることができる。なお、検出対象ガスはアセトン以外のケトンガスであってもよく、非検出対象ガスはエタノール以外のアルコールガスであってもよい。アセトン以外の検出対象ケトンガスとしては、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、2-ブタノンなどが挙げられるが、これらには限定されない。エタノール以外の非検出対象アルコールガスとしては、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどが挙げられるが、これらには限定されない。
【0021】
(ガスセンサ)
本発明は一実施形態によれば、ガスセンサである。本実施形態に係るガスセンサを、
図1を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係るガスセンサの概略断面図である。
【0022】
図1に示されるように、ガスセンサは、ダイアフラム構造を有する半導体式のガスセンサであってよく、基板10と、熱絶縁支持層20と、ヒータ層30と、絶縁層40と、ガス検出層50とを備えている。ヒータ層30は、図示しない駆動処理部と電気的に接続されており、駆動処理部がヒータ層30をヒータ駆動する。また、ガス検出層50は、図示しない駆動処理部と電気的に接続されており、駆動処理部がガス検出層50の感知層52の電気的特性を読み出す。
【0023】
基板10は、半導体材料により形成される部材であってよく、例えばシリコン(Si)により形成されている。基板10の中央部分には、基板10を貫通する貫通孔11が形成されている。
【0024】
熱絶縁支持層20は、基板10の上に形成されており、ダイアフラム構造を有する。熱絶縁支持層20は、熱酸化膜21、支持膜22、熱絶縁膜23を含む。
【0025】
熱酸化膜21は、基板10の上に形成されており、例えば熱酸化SiO2膜により形成されている。熱酸化膜21は、ヒータ層30で発生する熱を基板10側へ熱伝導しないように熱伝導率を小さくするものである。また、熱酸化膜21は、基板10に対して高いエッチング選択性を有する。
【0026】
支持膜22は、熱酸化膜21の上に形成されており、例えばCVD-Si3N4膜により形成されている。支持膜22は、ダイアフラム構造の支持膜として機能する。
【0027】
熱絶縁膜23は、支持膜22の上に形成されており、例えばCVD-SiO2膜により形成することができる。熱絶縁膜23は、ヒータ層30との間に高い密着性を有すると共に、基板10とヒータ層30とを電気的に絶縁する。
【0028】
ヒータ層30は、熱絶縁支持層20の上に、平面視において貫通孔11が形成されている位置の中央部分に形成することができる。これにより、ヒータ層30は、基板10と熱的に分離されている。また、ヒータ層30は、図示しない電源に接続されており、電源から電力が供給されることにより発熱し、ガス検出層50を加熱する。より具体的には、ヒータ層30は、エタノールを酸化させて後述する感知層52に到達するエタノールを減少させる温度、及びクリーニングにおいて必要な温度、例えば200℃~500℃に、後述する感知層52及び吸着層53を加熱することができる。このとき、ヒータ層30が基板10と熱的に分離されているので、ヒータ層30において発生した熱は、ほとんど周囲に拡散することはない。このため、ガス検出層50及び感知層52を効率的に昇温させることができる。ヒータ層30は、例えば白金(Pt)とタングステン(W)との合金膜(以下「Pt-W膜」ともいう。)により形成することができる。なお、感知層52及び吸着層53を含むガス検出層50を所定の温度に加熱することができれば、ヒータ層30に換えて、他の加熱装置を備えることもできる。
【0029】
絶縁層40は、熱絶縁支持層20の上に、ヒータ層30を覆うように形成されており、例えばスパッタSiO2膜により形成することができる。絶縁層40は、ヒータ層30とガス検出層50とを電気的に絶縁する。また、絶縁層40は、ガス検出層50との間に高い密着性を有する。
【0030】
ガス検出層50は、絶縁層40の上に、平面視において貫通孔11が形成されている位置の中央部分に形成されている。即ち、ガス検出層50は、絶縁層40の上に、平面視においてヒータ層30が形成されている位置と対応するように形成されている。ガス検出層50は、電極層51、感知層52、吸着層53を含む。また、絶縁層40と電極層51との間の密着性が十分ではない場合には、絶縁層40と電極層51との間に、例えばタンタル(Ta)膜、チタン(Ti)膜により形成される接合層を設けてもよい。
【0031】
電極層51は、絶縁層40の上に、平面視において感知層52の両端に形成される一対の金属膜であり、例えばPt膜、金(Au)膜により形成することができる。
【0032】
感知層52は、絶縁層40の上に、一対の電極層51と接触するように形成されている。感知層52は、金属酸化物により形成されており、例えばSnO2により形成することができる。感知層52は、吸着層53を通過したアセトンの濃度に応じて抵抗値等の電気的特性が変化するものである。なお、感知層52は、SnO2以外の材料、例えばIn2O3、WO3、ZnO、TiO2等の金属酸化物半導体を主成分とする材料により形成されていてもよい。また、本明細書における「主成分」とは、層を構成する成分の総質量を100%とした場合に50質量%以上含有していることを意味する。
【0033】
吸着層53は、電極層51及び感知層52の上に、感知層52の表面を覆うように形成されており、アセトンとエタノールとを含むガスを吸着することができる。吸着層53は、金粒子を担持した金属酸化物担体を主成分として含む。主成分の定義は、上記と同様とする。吸着層53は、感知層52の上面に積層して形成されてもよく、必ずしも感知層の側面が吸着層にて覆われていなくてもよい。
【0034】
金属酸化物担体は、Al2O3、ZrO2、CeO2、Cr2O3、Fe2O3、NiO、またはこれらの2以上が混合された絶縁体であることが好ましく、例えば、γ-Al2O3であってよいが、これらには限定されない。
【0035】
金粒子は、平均粒子径が、10nm以下であり、5nm以下であることが好ましい。このような平均粒子径範囲において、エタノールの選択的な酸化反応(燃焼反応)を促進する触媒効果が高いためである。金粒子の当該反応に対する活性は、粒子径が小さいほど大きく、原子状態においても触媒活性を示す。そのため、金粒子の平均粒子径下限は特に限定されないが、例えば約0.3nm以上程度であってよい。なお、金粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡にて測定した場合の平均粒子径をいうものとする。
【0036】
金粒子は、触媒成分の総質量を100%としたときに、0.02質量%以上であって12質量%以下の量で含まれ、5質量%以上であって、12質量%以下であることがより好ましい。ここで、触媒成分の総質量とは、金粒子、金属酸化物担体、並びに存在する場合は、後述する任意選択的な成分である助触媒の総質量をいうものとする。
【0037】
吸着層53は、任意選択的な成分として、助触媒を含むことが好ましい。助触媒の添加により、感度特性を保持したまま、耐久性などの他の特性を付与することができるためである。助触媒は、Fe2O3、MnO2、CeO2、Co3O4、NiO、ZrO2、CuO、またはこれらの2以上の混合物から選択される金属酸化物であることが好ましく、例えば、エタノールを選択的に転化し、アセトンを転化しない活性の観点から、Fe2O3、およびZrO2を好ましく用いることができるが、これらには限定されない。
【0038】
助触媒は、触媒成分の総質量を100%としたときに、0.1質量%以上であって10質量%以下の量で含まれることが好ましく、0.1質量%質量%以上であって8質量%以下の量で含まれることがより好ましい。この添加範囲において、上記効果が顕著であるためである。助触媒添加量が0.1質量%より少ないと、上記効果を十分に発揮できない場合がある。
【0039】
吸着層53には、その他に、バインダや骨材、その他の通常の添加剤成分を含んでもよい。例えば、シリカゾルバインダを、吸着層の総質量に対し、5質量%以上であって20質量%以下の量で含んでもよいが、特定の含有量には限定されない。また、本発明の吸着層53には、白金(Pt)や、パラジウム(Pd)は含まないことが好ましい場合がある。吸着層の総質量とは、触媒成分と、バインダや骨材、添加剤などの総質量であって、焼結、乾燥後にガスセンサに搭載された状態の質量をいうものとする。
【0040】
このようなダイアフラム構造を有するガスセンサは、高断熱、低熱容量としうる構造である。また、ガスセンサは、電極、感知層、ヒータ層の各構成要素をMEMS(微小電気機械システム)等の技術により熱容量を小さくすることができる。したがって、ヒータ駆動時における温度の時間変化が速くなり、熱脱離をごく短時間で起こすことができる。なお、本発明は、ダイアフラム構造を有するガスセンサに限定されるものではなく、本明細書において説明する吸着層と感知層とを備え、ガスの検知が可能な任意のガスセンサを含むものとする。
【0041】
(ガスセンサの製造方法)
本発明の一実施形態に係るガスセンサの製造方法について説明する。最初に、基板10の上に、熱絶縁支持層20を形成する。具体的には、基板10を熱酸化することにより、基板10の上に熱酸化膜21を形成することができる。続いて、熱酸化膜21の上に、プラズマCVD法により、窒化シリコン(Si3N4)を堆積させ、支持膜22を形成する。続いて、支持膜22の上に、プラズマCVD法により、酸化シリコン(SiO2)を堆積させ、熱絶縁膜23を形成することができる。
【0042】
次に、熱絶縁支持層20の上に、ヒータ層30を形成する。具体的には、熱絶縁膜23の上に、スパッタ法により、平面視において貫通孔11が形成されている位置の中央部分にPt-W膜を形成し、ヒータ層30を形成することができる。このとき、例えばPt-W膜を形成する位置が開口したメタルマスク等を用いることができる。
【0043】
次に、熱絶縁支持層20の上に、ヒータ層30を覆うように絶縁層40を形成する。具体的には、熱絶縁支持層20の上に、スパッタ法により、ヒータ層30の表面を覆うようにSiO2を成膜し、絶縁層40を形成することができる。
【0044】
次に、絶縁層40の上に、ガス検出層50を形成する。具体的には、絶縁層40の上に、スパッタ法により、Ptを成膜し、一対の電極層51を形成することができる。続いて、絶縁層40の上に、スパッタ法により、一対の電極層51と接触するようにSnO2を成膜し、感知層52を形成する。
【0045】
続いて、電極層51及び感知層52の上に吸着層53を形成する。吸着層53の形成にあたって、上記金粒子、金属酸化物担体を少なくとも含み、任意選択的に助触媒、バインダ等を含んでもよい吸着層組成物を調製する。吸着層組成物は、まず、触媒成分を析出沈殿法により、具体的には以下の方法により調製することができる。金粒子の前駆体であるHAlCl4と、任意選択的に助触媒を構成する金属元素の硝酸塩とを含む水溶液中に金属酸化物担体とを分散し、適切なpH、例えば、pH6~8程度に調整して一定時間撹拌する。これを、洗浄、ろ過、乾燥し、約350~450℃にて、3~5時間焼成する。このようにして得られた、金粒子及び任意選択的に助触媒を担持した金属酸化物に、これらの総量と同質量の有機溶剤を添加し、さらにシリカゾルバインダ等のバインダを添加することにより調製することができる。有機溶剤としては、エチレングリコールやグリセリン等を用いることができるが、これらには限定されない。また、触媒成分の調製において、金粒子の前駆体の添加量を変えることにより、金粒子の含有量を変化させることができる。このようにして得られる吸着層組成物のペーストを、スクリーン印刷法等により、所定の厚さに電極層51及び感知層52の上に吸着層53を形成し、350~450℃で10~13時間焼成することにより、吸着層53を形成することができる。吸着層53は、感知層52の表面に積層するように形成されてもよく、電極層51と感知層52の表面を被覆するように形成されても良い。
【0046】
次に、基板10に貫通孔11を形成する。具体的には、プラズマエッチング法により、基板10を裏面側(ガス検出層50が形成されていない側)からエッチングし、平面視においてガス検出層50が形成された位置を含む部分のSiを除去し、貫通孔11を形成することができる。このとき、熱酸化膜21が基板10に対して高いエッチング選択性を有しているので、熱酸化膜21はエッチングされることなく、基板10のみをエッチングすることができる。即ち、熱酸化膜21は、基板10をエッチングする際のエッチングストップ膜として機能する。
【0047】
以上により、
図1に示されるように、ダイアフラム構造を有するガスセンサを製造することができる。なお、ガスセンサの製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、電極層51及び感知層52を形成した後、基板10に貫通孔11を形成し、その後、感知層52を覆うように吸着層53を形成することもできる。
【0048】
(ガス検出方法)
本発明は別の実施形態によれば、上記の実施形態によるガスセンサを用いたガス検出方法に関する。かかるガス検出方法は、ガスセンサの作動方法ともいうことができる。本実施形態によるガス検出方法は、上記のガスセンサの吸着層を、200℃~400℃に加熱して、前記感知層の電気的特性を得る検出工程を含む。
【0049】
吸着層の加熱は、ヒータ層もしくは別の加熱装置により、吸着層53を200℃~400℃に加熱することにより実施することができる。なお、
図1に示すヒータ層30により加熱を行う場合には、ヒータ温度をこの範囲とすることができる。このような温度範囲でアセトンとエタノールの感度が異なる傾向を示すため、吸着層53において、エタノールを選択的に除去し、アセトンを感知層52に到達させることが可能となるためである。好適な温度範囲は、吸着層の組成によっても異なる場合があり、例えば、吸着層53が助触媒を含まない場合は、吸着層53を250~350℃に加熱することが好ましく、280~320℃に加熱することがより好ましい。金粒子の濃度によらず、約300℃前後でアセトンとエタノールの高い感度比を達成することが可能となるためである。吸着層が助触媒としてFe
2O
3を含む場合には、吸着層を200℃を超えて、300℃に加熱することが好ましく、230℃~270℃に加熱することがより好ましい。約250℃前後でアセトンとエタノールの高い感度比を達成することが可能となるためである。
【0050】
感知層52の電気的特性は、駆動処理部により感知層52の電気抵抗値を読み出すことで得ることができる。この場合の感知層52の温度は、吸着層53の温度と実質的に同じとなる。
【0051】
かかる検出工程によれば、所定の温度範囲にすることで、吸着層53で、エタノールの酸化反応(燃焼反応)を促進する一方、アセトンをほとんど酸化しない。これにより、吸着層53では、アセトンに対してエタノールを選択的に酸化して除去することができる。そして、吸着層53において、感知層52に到達するエタノールを減少させ、アセトンを選択的に感知層52に到達させることができる。その結果、感知層52においてアセトンとエタノールとを分離して検知することができ、アセトンを正確に検知することができる。
【0052】
上記検出工程の前に、感知層52及び吸着層53を、370℃~500℃に加熱するクリーニング工程を含むことが好ましい。
図1に示すヒータ層30により加熱を行う場合には、ヒータ温度をこの範囲とすることができる。370℃以上に加熱することにより、感知層表面の吸着物質を除去し、感知層を構成する金属酸化物半導体の表面に、酸素を化学吸着させることができる。370℃以上であれば上記の作用を行い、ガスセンサを検知に適した状態に清浄化することができ、例えば、400℃、450℃、500℃で実施することもできる。クリーニング工程は、例えば、20~40秒周期で0.5~2秒間駆動させる間欠駆動を5~15分間継続することにより実施することができるが、これらの周期、駆動時間、継続時間は特定の範囲には限定されない。クリーニング工程の別の例としては、例えば連続駆動で数十秒から数分間駆動を継続することで実施することもできる。
【0053】
本実施形態によるガス検出方法によれば、吸着層でエタノールなどのアルコールを除去し、アセトンなどのケトンを正確に検知することができ、所定の温度範囲とすることにより、高感度のガス検知が可能となる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
本実施例では、
図1に示すガスセンサを製造し、ガス感度特性を評価した。最初に、基板10として用いるSi基板を熱酸化することにより、Si基板の上に、熱酸化膜21となる熱酸化SiO
2膜を形成した。続いて、熱酸化SiO
2膜の上に、プラズマCVD法により、支持膜22となるCVD-Si
3N
4膜及び熱絶縁膜23となるCVDSiO
2膜をこの順番に形成し、熱絶縁支持層20とした。
【0055】
次に、CVD-SiO2膜の上に、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタ法により、ヒータ層30となるPt-W膜を形成した。続いて、Pt-W膜の上に、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタ法により、絶縁層40となるSiO2膜を形成した。
【0056】
次に、SiO2膜の上に、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタ法により、Arガス圧力が1Pa、基板温度が300℃、RFパワーが2W/cm2の条件で、膜厚が200nmの電極層51となるPt膜を形成した。
【0057】
次に、SiO2膜の上に、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いた反応性スパッタ法により、Ar+O2ガス圧力が2Pa、基板温度が150℃~300℃、RFパワーが2W/cm2の条件で、膜厚が400nmの感知層52となるSnO2膜を形成した。このとき、ターゲット材としては、アンチモン(Sb)を0.1質量%含むSnO2を用いた。
【0058】
次に吸着層53を調製した。γ―Al2O3(平均粒径:1μm~2μm)に析出沈殿法により金を添加した。すなわち前駆体であるHAuCl4を水に溶解させAl2O3を加えた。pHを7に調整し、1hr攪拌した後、洗浄、ろ過、乾燥を行い、400℃にて4hr焼成を行った。このようにして調製した、Al2O3を主成分とする金属酸化物担体に平均粒径が2.5~3.5nmの金粒子を担持させた触媒(Au/Al2O3触媒)に、有機溶剤を同重量添加し、さらにシリカゾルバインダを、吸着層の総質量に対し、実施例1-1では13質量%、実施例1-2~実施例1-5では12質量%となるように添加して金濃度の異なるペーストを生成した。続いて、Pt膜及びSnO2膜の上に、スクリーン印刷法により、厚さが約30μm、直径が約250μmの円形状となるようにペーストを塗布し、400℃で12時間焼成した。これにより、吸着層53として、金添加量がそれぞれ、2.2質量%(実施例1-1)、4.8質量%(実施例1-2)、9.9質量%(実施例1-3)、10.2質量%(実施例1-4)、10.4質量%(実施例1-5)と異なる、5種のAu-Al2O3膜を形成した。なお、金の添加量(質量%)は、金、γ-Al2O3を含む、焼成後の触媒成分の総質量を100%としたときの添加量をいうものとする。
【0059】
次に、プラズマエッチング法により、Si基板を裏面側からエッチングし、平面視においてPt-W膜、Pt膜、SnO
2膜及びAu-Al
2O
3膜が形成された位置を含む部分のSiを除去し、貫通孔11を形成した。以上により、
図1に示されるように、ダイアフラム構造を有するガスセンサを製造した。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と異なる材料、方法により吸着層を形成した点以外は、実施例1と同様にして、ガスセンサを製造した。具体的には、平均粒径が2.5nmの金粒子を8質量%、Fe2O3を0.5質量%添加したγ-Al2O3(平均粒径:1μm~2μm)に有機溶剤を同重量、さらにシリカゾルバインダを12質量%添加してペーストを生成した。続いて、Pt膜及びSnO2膜の上に、スクリーン印刷法により、厚さが約30μm、直径が約250μmの円形状となるように生成したペーストを塗布し、400℃で12時間焼成することにより、吸着層に金粒子とFe2O3を担持したAu/Fe-Al2O3膜を形成した。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、金を用いることなく吸着層を形成した点以外は、実施例1と同様にして、ガスセンサを製造した。具体的には、パラジウム(Pd)を7.0質量%添加したγ-Al2O3(平均粒径:2μm~3μm)にジエチレングリコールモノエチルエーテルを同重量、さらにシリカゾルバインダを11質量%添加してペーストを生成した。続いて、Pt膜及びSnO2膜の上に、スクリーン印刷法により、厚さが約30μm、直径が約250μmの円形状となるように生成したペーストを塗布し、500℃で12時間焼成した。これにより、吸着層にPd粒子を担持したAl2O3(Pd-Al2O3)膜を形成した。
【0062】
(比較例2)
比較例2では、触媒を含まない吸着層を形成した点以外は、実施例1と同様にして、ガスセンサを製造した。具体的には、触媒を添加せず、γ-Al2O3(平均粒径:2μm~3μm)単独にジエチレングリコールモノエチルエーテルを同重量、さらにシリカゾルバインダを15質量%添加してペーストを生成した。続いて、Pt膜及びSnO2膜の上に、スクリーン印刷法により、厚さが約30μm、直径が約250μmとなるように生成したペーストを塗布し、500℃で12時間焼成した。これにより、吸着層に触媒を含まないAl2O3膜を形成した。
【0063】
(評価)
次に、実施例1、2、比較例1、2で製造したガスセンサを、30秒周期で1秒間駆動させる間欠駆動を、ガスセンサのヒータ温度を400℃として10分間継続した後、ヒータ温度を変化させ、ガスセンサ(感知層52)の抵抗値が安定した状態での抵抗値を測定した。また、測定した抵抗値からガス感度を算出した。ガス感度は、アセトン及びエタノールを含まない清浄空気雰囲気におけるガスセンサの抵抗値をRair、所定の濃度のアセトン又はエタノールを含むガス雰囲気におけるガスセンサの抵抗値をRgasとしたときに、Rair/Rgasにより算出される値である。
【0064】
図2~
図7は実施例のガスセンサの感度特性を、
図8は比較例1のガスセンサの感度特性を、
図9は比較例2のガスセンサの感度特性を、それぞれ説明するグラフである。グラフでは、1ppmの濃度のアセトンを含むガス雰囲気での感度の温度依存性、及び、1ppmの濃度のエタノールを含むガス雰囲気での感度の温度依存性を示した。横軸はガスセンサのヒータ温度(℃)を示し、縦軸はガスセンサの感度R
air/R
gasを示す。また、グラフ中の白丸印はアセトンの感度の温度依存性を示し、黒丸印はエタノールの感度の温度依存性を示す。
【0065】
図2~
図6は実施例1のガスセンサの感度特性を示す。
図2に示されるように、ガスセンサのヒータが250℃~350℃の範囲において、アセトンの感度とエタノールの感度とが異なる傾向を示し、アセトンの感度がエタノールの感度よりも高くなっていることが分かる。これは、平均粒径が5nm以下である金粒子が添加されたγ-Al
2O
3により、250℃~350℃の範囲でエタノールが酸化され、アセトンがほとんど酸化されないためであると考えられる。よって、実施例1のガスセンサでは、アセトンの感度とエタノールの感度との差を利用して、アセトンとエタノールとを区別して検知することができる。
【0066】
図3~
図6からは、特に、金粒子の添加量の増加に伴い、アセトン感度とエタノール感度の差が大きくなる傾向が見えており、金粒子の添加量を増やすことにより、よりエタノールの影響を受けずにアセトンを検知することが可能となる。実施例1のガスセンサにおける、アセトン感度とエタノール感度の比を表1に示す。感度比は、金粒子の添加量にかかわらず、250℃と350℃の間で増大している傾向がみられた。
【0067】
【0068】
表1の300℃の感度比のプロットを
図10に示す。金粒子の添加量を増加させることにより感度比がより大きくなる傾向がみられた。
【0069】
図7は、実施例2のガスセンサの感度特性を説明するグラフである。
図7に示されるように、ガスセンサのヒータ温度が200℃~400℃の範囲において、アセトンの感度とエタノールの感度とが異なる傾向を示し、アセトンの感度がエタノールの感度よりも高くなった。
【0070】
表2に、実施例2のアセトン感度とエタノール感度の比を示す。実施例2のように、金粒子に加え、助触媒を含む組成をもつ感知層とすることで、実施例1に比べてガス検知時のヒータ温度を低温化することが可能である。
【0071】
【0072】
図8は、比較例1のガスセンサの感度特性を説明するための図である。
図8に示されるように、ガスセンサのヒータ温度がアセトンに対する感度が高い温度範囲(100℃~300℃)においてアセトンの感度とエタノールの感度とがほぼ同一の傾向を示していることが分かる。これは、吸着層にはPdが触媒として添加されているが、アセトンに対する感度が高い温度範囲では、アセトンの酸化反応及びエタノールの酸化反応のいずれもほとんど起こらないためであると考えられる。このため、比較例1のガスセンサでは、アセトンとエタノールとを区別して検知することができない。
【0073】
図9は、比較例2のガスセンサの感度特性を説明するための図である。
図9においても、
図8と同様、ガスセンサのヒータ温度がアセトンに対する感度が高い温度範囲(100℃~300℃)においてアセトンの感度とエタノールの感度とがほぼ同一の傾向を示していることが分かる。これは、吸着層が触媒を含んでいないため、アセトンの酸化反応及びエタノールの酸化反応のいずれもほとんど起こらないためであると考えられる。このため、比較例2のガスセンサでは、アセトンとエタノールとを区別して検知することができない。
【0074】
(試験例)
本試験例では、本発明に係るセンサに用いる触媒成分を用いて、アセトンとエタノールの転化率を検証した。
【0075】
(試験例1.金担持量とエタノール及びアセトン転化率の関係)
析出沈殿法(DP)にて、Al2O3を主成分とする金属酸化物担体に金を担持させた触媒(Au/Al2O3触媒)の調製を行った。前駆体HAuCl4を溶解させた水溶液にAl2O3担体を加え、NaOH水溶液を用いてpHを7に調節し、1h攪拌した後、洗浄、ろ過、乾燥を行った。得られた触媒を400℃にて4h焼成を行った。Al2O3担体としては、ハイジライト(昭和電工 H43M)の800℃、5h焼成品したものを用いた。水溶液量は、Al2O3の1gに対し50mLとした。金前駆体水溶液はHAuCl4を50mLの水溶液に対し,所定の仕込み重量になるように溶解させ用いた。
【0076】
気相流通式反応装置において、上記方法にて調製したAu/Al
2O
3触媒0.048gに、2000ppmのエタノールおよび400ppmのアセトン、20vol%の酸素、窒素をバランスガスとして含む気体を、50mL min
-1にて通過させ、通過後のガスを水素炎イオン化型検出器(Flame Ionization Detector:FID)付きガスクロマトグラフにて分析した。触媒の温度は250℃とした。この実験手法により、本発明の
図1に示される吸着層53を通過するガス成分を模擬的に試験することが可能であり、得られるエタノール転化率、アセトン転化率の値は、ガスセンサ感度と相関性がある。
【0077】
表3及び
図11に、触媒成分における金の担持量と、エタノール転化率、アセトン転化率を示す。エタノール転化率%は、[(初期のエタノール濃度-触媒通過後のエタノール濃度)/初期のエタノール濃度]*100で求められる値である。アセトン転化率%は、[(初期のアセトン濃度-触媒通過後のアセトン濃度)/初期のアセトン濃度]*100で求められる値である。本発明の金担持量の範囲にて、金を用いない場合と比較して、エタノール転化率が高くなり、かつアセトン転化率を低いままとすることができ、ガスセンサにおいてアセトンの選択的な検出が可能であることが示唆された。
【0078】
【0079】
(試験例2.金担持量とエタノール及びアセトン転化率、並びに温度の関係)
先の触媒例a、b、及びiを用いて、触媒温度を変化させた以外は試験例1同様の実験条件にて、エタノール転化率%及びアセトン転化率を測定した。結果を
図12に示す。この結果から、アセトン転化率とエタノール転化率の差が大きくなり、かつエタノール転化率が充分に大きくなる温度領域は触媒の金担持量によって異なるものの、所定の温度領域において、ガスセンサとした場合にアセトンの選択的な検出が可能であることが示唆された。
【0080】
(試験例3.金粒径とエタノール及びアセトン転化率)
試験例1と同様の方法で、金担持量を2.1質量%としたAu/Al2O3触媒を調製し、触媒例jとした。触媒例jと同様の方法で得たAu/Al2O3触媒を、600℃で4時間再焼成したものを触媒例l、700℃で4時間再焼成したものを触媒例m、800℃で4時間再焼成したものを触媒例nとした。いずれの触媒も、仕込み量は4質量%、金担持量は2.1質量%とした。次いで、これらの触媒を用いて、試験例1と同様の実験条件で、触媒温度を250℃とし、エタノール及びアセトンの転化率を測定した。
【0081】
表4及び
図12に、触媒成分における金の粒子径と、エタノール転化率、アセトン転化率を示す。本発明の金粒子径の範囲にて、エタノール転化率が、かつアセトン転化率が低い活性とすることができた。
【0082】
【0083】
(試験例4.助触媒Fe2O3添加効果)
助触媒としてFe2O3を含む触媒成分を調製した。γ-Al2O3(製品名:H43Mハイジライト)を、所定量の金属硝酸塩(硝酸鉄(III)九水和物)を溶解させた水溶液に分散させ蒸発乾固させ、得られた粉末を600℃にて4時間焼成することにより、Al2O3を主成分とする金属酸化物担体に助触媒を含浸担持した。次いで、前駆体HAuCl4を溶解させた水溶液に、助触媒Fe2O3を担持したAl2O3担体(Fe2O3/Al2O3)を加え、NaOH水溶液を用いてpHを7に調節し、1h攪拌した後、洗浄、ろ過、乾燥を行った。得られた触媒を400℃にて4h焼成を行った。水溶液量は、Al2O3の1gに対し50mLとし、金前駆体水溶液はHAuCl4を50mLの水溶液に対し、所定の仕込み重量になるように溶解させ用いた。次いで、これらの触媒成分を用いて、試験例1と同様の実験条件で、触媒温度を250℃とし、エタノール及びアセトンの転化率を測定した。
【0084】
表5及び
図13に、触媒成分における助触媒の含有量と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示す。助触媒の含有量が所定の範囲にて、エタノール転化率が、かつアセトン転化率が低い活性とすることができた。
【0085】
【0086】
(試験例5.助触媒ZrO2添加効果)
金属硝酸塩として、オキシ硝酸ジルコニウムを用いた以外は試験例4と同様にして、助触媒としてZrO2を含む触媒成分を調製した。金前駆体水溶液はHAuCl4を50mLの水溶液に対し、所定の仕込み重量になるように溶解させ用いた。次いで、これらの触媒成分を用いて、試験例1と同様の実験条件で、触媒温度を250℃とし、エタノール及びアセトンの転化率を測定した。
【0087】
表6及び
図14に、触媒成分における助触媒の含有量と、エタノール転化率、アセトン転化率との関係を示す。助触媒の含有量が所定の範囲にて、エタノール転化率が、かつアセトン転化率が低い活性とすることができた。
【0088】
【0089】
(試験例6.助触媒添加効果)
金属硝酸塩として、下記表に示す金属酸化物を構成する金属の硝酸塩を用いた以外は試験例4、5と同様にして、各助触媒を含む触媒成分を調製した。金前駆体水溶液はHAuCl4を50mLの水溶液に対し、所定の仕込み重量になるように溶解させ用いた。次いで、これらの触媒成分を用いて、試験例1と同様の実験条件で、エタノール及びアセトンの転化率を測定した。触媒温度は250℃とし、助触媒として1質量%のCuOを担持した触媒例viについては、触媒温度213℃におけるエタノール及びアセトンの転化率も測定した。
【0090】
表7に、触媒成分における助触媒の種類並びに含有量と、エタノール転化率、アセトン転化率、触媒温度との関係を示す。表に示す各助触媒を添加した場合も、エタノール転化率とアセトン転化率の差がみられ、ガスセンサの吸着層成分として機能し得ることが示された。
【表7】
【0091】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係るガスセンサは、電池駆動を念頭においた低消費電力型のMEMS固体ガスセンサとして有用である。
【符号の説明】
【0093】
10 基板
11 貫通孔
20 熱絶縁支持層
21 熱酸化膜
22 支持膜
23 熱絶縁膜
30 ヒータ層
40 絶縁層
50 ガス検出層
51 電極層
52 感知層
53 吸着層