(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】イヌの妊娠診断方法及びその診断試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2019535050
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2018026664
(87)【国際公開番号】W WO2019031163
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017154767
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 透
(72)【発明者】
【氏名】富山 友里奈
(72)【発明者】
【氏名】旭 由香里
(72)【発明者】
【氏名】菊池 達範
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-524251(JP,A)
【文献】ULUTAS PA、他3名,Acute phase protein levels in pregnancy and oestrus cycle in bitches,Res Vet Sci,2009年06月,Vol.86,No.3,Page.373-376
【文献】津曲茂久,犬の産科診療-日常診療で必要な基礎知識を中心に-犬の妊娠診断と妊娠犬の管理,SA Medcine,日本,2006年06月01日,Vol.8,No.3,Page.12-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗
イヌ血清アミロイドA抗体又はそのフラグメントを使用して、
診断対象の交配後のイヌ由来の生物学的サンプルにおける
イヌ血清アミロイドAを免疫学的に測定する工程を含む、イヌの
交配後における妊娠診断
方法。
【請求項2】
交配直後と比較して交配後20~40日目においてイヌ血清アミロイドA濃度が上昇している場合又は交配後30日目においてイヌ血清アミロイドA濃度が2.0mg/L以上の場合に妊娠していると判断する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
生物学的サンプルが血清又は血漿サンプルである、
請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
免疫学的測定がラテックス免疫凝集法である、
請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
抗
イヌ血清アミロイドA抗体又はそのフラグメントを含む、
請求項1~4のいずれか1項記載の方法によりイヌの
交配後において妊娠
を診断
するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性相タンパク質を指標としたイヌの妊娠診断方法及びその診断試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
愛玩動物であるイヌの繁殖生産が現在活発に行われている。ブリーダーにとって、交配後、妊娠に成功したか否か診断できることは重要である。
【0003】
ヒトの妊娠の診断は、尿中(または血中)のヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(以下「hCG」と称す)をマーカーとして測定することにより行われるが、イヌにおいてはヒトのhCGに相当する妊娠の診断に実際に使用されているマーカーは知られていない。
【0004】
ところで、血清アミロイドA(以下、「SAA」と称する)やC反応性タンパク(以下、「CRP」と称する)等の急性相タンパク質は、炎症マーカーとして知られている。
【0005】
SAAは、アミロイドーシスにおいて組織に沈着するアミロイドタンパク質Aの前駆体タンパク質であり、分子量約12000の血清タンパク質である(非特許文献1)。このSAAの血清値はアミロイドーシス以外の炎症性疾患で上昇することが明らかにされており、鋭敏な炎症マーカーとして評価されている(非特許文献2)。
【0006】
CRPは、肺炎球菌のC多糖体と沈降反応を起こすタンパク質として見出され、糖鎖を持たない分子量約21500のサブユニット5個が輪状に結合した5量体の構造を有する分子量約110000のタンパク質であり、炎症性疾患のマーカーとして広く臨床的に活用されている(非特許文献3)。
【0007】
SAAやCRPは、ヒト以外の動物種においても重要な炎症マーカーであることが知られている(非特許文献4~9)。例えば、特許文献1は、泌乳哺乳類(ウシ等)の乳房から得られた乳汁のサンプルにおけるSAAタンパク質の量が、乳房組織の炎症応答(乳腺炎)レベルと明確に相互関係にあることを開示する。特許文献2は、異常な症状又は行動を示す哺乳動物(ウマ等)の血液サンプルにおけるSAA濃度に基づいて、感染症と非感染性病因とを区別できることを開示する。
【0008】
また、特許文献3は、イヌの血中CRPの存在を確認すると共に、イヌにおいても血清中のCRP濃度が炎症性疾患や組織破壊のマーカーとなることを開示する。特許文献4は、抗イヌCRP抗体を用いたラテックス凝集法によるイヌCRPの測定により、イヌの炎症性疾患の診断、予後判定及び術後感染症の診断が簡便・迅速にできることを開示する。
【0009】
一方、非特許文献10は、イヌの妊娠において血清中のCRPが上昇することを開示する。しかしながら、従来において、SAA等の急性相タンパク質を指標として、イヌの妊娠を診断できることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2003-507725号公報
【文献】国際公開第2014/118764号
【文献】特開昭62-155299号公報
【文献】特開平5-288748号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Husby G.及びNatvig J.B., J. Clin. Invest., 1974年, Vol. 53, pp. 1054-1061
【文献】山田俊幸ら, 臨床検査, 1988年, 32:2, pp. 167-172
【文献】伊藤喜久,臨床検査,2002年,46:9,pp.959-966
【文献】Nunokawa Y.ら, J. Vet. Med. Sci., 1993年, 55(6), pp. 1011-1016
【文献】Kajikawa T.ら, J. Vet. Med. Sci., 1996年, 58(11), pp. 1141-1143
【文献】Tamamoto T.ら, J. Vet. Med. Sci., 2008年, 70(11), pp. 1247-1252
【文献】Petersen H.H.ら, Vet. Res., 2004年, 35(2), pp. 163-187
【文献】玉本隆司, 北獣会誌, 2014年, 58, pp. 539-543
【文献】Nakamura M.ら,J. Vet. Med. Sci., 2008年, 70(2), pp. 127-131
【文献】Kuribayashi T.ら, Exp. Anim., 2003年, 52(5), pp. 387-390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の実情に鑑み、本発明は、イヌの妊娠診断方法及び当該方法に使用するイヌの妊娠診断試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、SAA等の急性相タンパク質を指標としてイヌの妊娠を診断できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを使用して、生物学的サンプルにおけるイヌ急性相タンパク質を免疫学的に測定する工程を含む、イヌの妊娠診断方法であって、前記イヌ急性相タンパク質はイヌCRPではない、前記方法。
(2)イヌ急性相タンパク質が、イヌSAAである、(1)記載の方法。
(3)交配直後と比較して交配後20~40日目においてイヌSAA濃度が上昇している場合又は交配後30日目においてイヌSAA濃度が2.0mg/L以上の場合に妊娠していると判断する、(2)記載の方法。
(4)生物学的サンプルが血清又は血漿サンプルである、(1)~(3)のいずれか1記載の方法。
(5)免疫学的測定がラテックス免疫凝集法である、(1)~(4)のいずれか1記載の方法。
(6)抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを含む、イヌの妊娠診断試薬であって、前記イヌ急性相タンパク質はイヌCRPではない、前記試薬。
(7)イヌ急性相タンパク質が、イヌSAAである、(6)記載の試薬。
【0015】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-154767号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イヌの妊娠を容易に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】粒径215nmのポリスチレンラテックスに抗イヌSAAモノクローナル抗体を固定化したラテックス試薬で、交配後のイヌの血清においてSAAを測定した結果を示す図である。
【
図2】富士ドライケムスライドvc-CRP-P(富士フィルム株式会社製)で、交配後のイヌの血清においてCRPを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明に係るイヌの妊娠診断方法(以下、「本方法」と称する)は、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを使用して、生物学的サンプルにおけるイヌ急性相タンパク質を免疫学的に測定する工程を含むものである。本方法によれば、交配後においてイヌの妊娠を容易に診断(又は検出、評価若しくは予測)することができる。
【0020】
急性相タンパク質とは、炎症の急性期に血中に増加するタンパク質を意味する。本方法において測定対象とする急性相タンパク質としては、CRP以外の急性相タンパク質であれば特に限定されるものではないが、例えばSAA、フィブリノーゲン、ハプトグロビン、α1-アンチトリプシン、α1-アンチキモトリプシン、α1-酸性糖タンパク等が挙げられ、特にSAAが好ましい。
【0021】
下記の実施例に示すように、SAAは交配後30日目前後に上昇のピークが集中しているのに対して、CRPでは上昇の時期が交配後20~50日目と長期間であり、CRPと比較してSAAはピンポイントの測定で妊娠の診断(推定)が可能である。
【0022】
また、妊娠において、SAAは交配後30日目前後に上昇し、これらの時期以外には上昇しない又は上昇しても軽度であることから、交配後30日目前後とこれら以外の任意の時点でのSAAを測定することで、妊娠とそれ以外の炎症性疾患を鑑別することが可能である。
【0023】
本方法で使用する抗イヌ急性相タンパク質抗体は、いずれの免疫グロブリン(Ig)クラス(IgA、IgG、IgE、IgD、IgM、IgY等)及びサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2等)のものであってもよい。また、免疫グロブリンの軽鎖は、κ鎖又はλ鎖のいずれであってもよい。抗イヌ急性相タンパク質抗体としては、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体(例えば、キメラ抗体、単鎖抗体等)等が挙げられる。
【0024】
また、抗イヌ急性相タンパク質抗体フラグメントは、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Fd、Fabc等を含む。このようなフラグメントの作製方法は当技術分野で公知であり、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、又は公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0025】
本方法における生物学的サンプルとしては、急性相タンパク質を含有するか又は含有する可能性がある生物学的サンプルであればよく、例えば全血、血清、血漿、尿、穿刺液、汗、唾液、リンパ液、髄液等が挙げられ、特に血清又は血漿が好ましい。
【0026】
本方法では、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを使用して、診断対象のイヌ由来の生物学的サンプルにおいて急性相タンパク質を免疫学的に測定する。生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質と抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントとを接触させ、抗原抗体反応を生じさせ、形成した免疫複合体に基づいて当該サンプル中のイヌ急性相タンパク質を検出又は測定する。
【0027】
免疫学的測定法としては、例えば、寒天平板内で抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントと生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質の結合による免疫複合体による沈降線の発現を確認する一元放射状免疫拡散法、酵素や放射性元素で標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを用いる酵素免疫測定法や放射免疫測定法、その他、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体を用いる方法等が挙げられる。不溶性担体としては、例えば、ポリエチレンやポリスチレン等のラテックス粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子、金コロイド、磁性粒子等の粒子が挙げられる。これらの不溶性担体の中ではラテックス粒子、特にポリスチレンラテックス粒子が好適に用いられる。
【0028】
また、不溶性担体粒子の粒子径としては、50~500nmが好ましく、75~350nmがさらに好ましい。
【0029】
さらに、不溶性担体に抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化する方法としては、公知の技術である、抗体又はそのフラグメントと不溶性担体を混合して、不溶性担体の表面への抗体又はそのフラグメントの物理吸着を行うことにより不溶性担体への抗体又はそのフラグメントの固定化が可能である。
【0030】
また、表面にアミノ基やカルボキシル基を導入した不溶性担体を用いる場合には、グルタルアルデヒドやカルボジイミド試薬を用いた化学結合によって、不溶性担体の表面への抗体又はそのフラグメントの固定化が可能である。
【0031】
酵素や放射性元素で標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを用いる方法としては、例えば、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固相化したマイクロプレート及び酵素標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメント(2次抗体)を用いる酵素免疫測定法等が挙げられる。具体的に酵素免疫測定法では、マイクロプレートに固相化した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントと生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質を反応させ、さらに酵素標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメント(2次抗体)を添加、反応させ、洗浄した後、酵素基質と反応させ、酵素反応による発色に基づいてイヌ急性相タンパク質を測定する。
【0032】
不溶性担体を用いる方法としては、例えば、ラテックスに抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化したラテックス粒子を用いるラテックス免疫凝集法、金コロイドに抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化した金コロイド粒子を用いる金コロイド凝集比色法、ニトロセルロース膜等のメンブレンにおいて、金属コロイド等で標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメント及び当該抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントとイヌ急性相タンパク質との免疫複合体を捕捉する捕捉抗体を用いるイムノクロマト法等が挙げられる。具体的に、ラテックス免疫凝集法では、ラテックスに抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化したラテックス粒子と生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質とを反応させ、免疫複合体の形成によりラテックス粒子が凝集し、当該ラテックスの凝集による濁度の変化に基づいて、イヌ急性相タンパク質を測定する。また、イムノクロマト法では、ニトロセルロース膜等のメンブレンにおいて、生物学的サンプルを供給し、当該生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質は金属コロイド等で標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを保持する標識試薬保持部で抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントと反応して免疫複合体を形成し、さらに免疫複合体が毛細管現象によってメンブレン中を移動し、メンブレンの所定の位置に固定された捕捉抗体により当該免疫複合体が捕捉され、当該捕捉による呈色に基づいてイヌ急性相タンパク質を検出する。
【0033】
一方で、イヌ急性相タンパク質標準品の測定結果から検量線を作成する。当該検量線に基づいて、上述の免疫学的測定方法により測定した吸光度等から生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質濃度を決定することができる。
【0034】
測定した生物学的サンプル中のイヌ急性相タンパク質濃度に基づいて、生物学的サンプルが由来するイヌが妊娠しているか否か診断することができる。
【0035】
例えば、交配直後の診断対象のイヌ由来の生物学的サンプル中のイヌSAA濃度と比較して、交配後20~40日目(好ましくは、30日目前後)の当該イヌ由来の生物学的サンプル中のイヌSAA濃度が上昇している場合又は交配後20~40日目(好ましくは30日目前後)の当該イヌ由来の生物学的サンプル中のイヌSAA濃度が2mg/L以上、好ましくは3mg/L以上、より好ましくは4.0mg/L以上の場合に妊娠していると判断することができる。
【0036】
一方、本発明に係るイヌの妊娠診断試薬(又はキット)(以下、「本発明に係る試薬」と称する)は、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを含むものである。本発明に係る試薬は、本方法におけるイヌ急性相タンパク質の免疫学的測定方法に使用するものであり、例えば、免疫学的測定法が不溶性担体を用いる方法である場合には、本発明に係る試薬は、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体、例えばラテックスを含むラテックス溶液を含むことができる。免疫学的測定法がイムノクロマト法である場合には、本発明に係る試薬は、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体、例えば金コロイド、及び抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを固定化したニトロセルロース膜等のメンブレンを含むイムノクロマトグラフデバイス(例えば、試料供給部と、金属コロイド等で標識した抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメントを保持する標識試薬保持部と、所定の位置に固定された捕捉抗体を含む検出部とを有する、支持体に担持されたニトロセルロース膜等のメンブレン)に使用することができる。
【0037】
また、本発明に係る試薬は、抗イヌ急性相タンパク質抗体又はそのフラグメント以外に、免疫反応に必要なpHを与える緩衝剤、免疫反応を促進する反応増強剤、非特異的反応を抑制する反応安定剤やブロッカー、試薬の保存性を高めるアジ化ナトリウム等の防腐剤等を含むことができる。
【0038】
緩衝剤としては、例えば次のようなものが挙げられる。
【0039】
GOOD緩衝剤:
2-モルホリノエタンスルホン酸(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic acid;「MES」と省略される);
ピペラジン-ビス(2-エタンスルホン酸)(Piperazine-N,N'-bis(2-ethanesulfonic acid);「PIPES」と省略される);
(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid;「ACES」と省略される);
ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoehtanesulfonic acid;「BES」と省略される);
ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane;「Bis-Tris」と省略される);
3-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic acid;「DIPSO」と省略される);
2-ヒドロキシエチルピペラジン-3-プロパンスルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-3-propanesulfonic acid;「EPPS」と省略される);
ヒドロキシエチルピペラジン-2-エタンスルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonic acid;「HEPES」と省略される);
2-ヒドロキシエチルピペラジン-2-ヒドロキシプロパン-3-スルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-hydroxypropane-3-sulfonic acid;「HEPPSO」と省略される);
3-(モルホリノ)プロパンスルホン酸(3-(N-Morpholino)propanesulfonic acid;「MOPS」と省略される);
3-(モルホリノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(3-(N-Morpholino)-2-hydroxypropanesulfonic acid;「MOPSO」と省略される);
ピペラジン-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(Pioerazine-N,N'-bis(2-hydroxypropanesulfonic acid);「POPSO」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid;「TAPS」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-hydroxy-3-aminopropanesulfonic acid;「TAPSO」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノメタンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid;「TES」と省略される)。
その他の緩衝剤:
2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol)(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)とも呼ばれる);
リン酸緩衝液;
アンモニウム緩衝液。
【0040】
これらの緩衝剤の中でも、HEPESやPIPES等のGOOD緩衝剤は、免疫反応に有利なpHを与えるのみならず、タンパク質への影響が小さいので特に好ましい緩衝剤として挙げられる。免疫反応に必要なpHとしては、pH5~11であればよく、好ましくはpH6~9である。
【0041】
また、反応増強剤としては、ポリエチレングリコールやデキストラン硫酸等が知られている。更に反応安定剤やブロッカーとして、BSA(ウシ血清アルブミン)、動物血清、IgG、IgG断片(FabやFc)、アルブミン、乳タンパク質、アミノ酸、ポリアミノ酸、コリン、ショ糖等の多糖類、ゼラチン、ゼラチン分解物、カゼイン、グリセリン等の多価アルコール等が免疫反応において反応の安定化や非特異的反応の抑止に有効なことが知られている。
【0042】
これらの各種成分を含む本発明に係る試薬は、溶液状態で、又は乾燥状態で供給することができる。溶液状態で流通させるには、タンパク質の安定性を高めることを目的として、更に各種界面活性剤、糖、不活性タンパク質等を加えても良い。これらの安定化剤は、試薬を乾燥するときにも安定剤として、又は賦形剤として有効である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]交配から1日~60日目のイヌのSAA濃度の測定
1.目的
交配から1日目、10日目、20日目、30日目、40日目、50日目及び60日目のイヌ15頭の血清中のSAA濃度又は交配から30日目のイヌ5頭の血清中のSAA濃度を測定して、妊娠の診断ができるか確認した。
【0045】
2.材料・方法
交配後のイヌ血清検体中のSAAを、抗イヌSAAモノクローナル抗体を担持したラテックス試薬を用いて測定した。
【0046】
上記ラテックス試薬は、抗イヌSAAモノクローナル抗体及びポリスチレンラテックス(粒径215nm)を用いてラテックス試薬を作製した。
【0047】
上記ポリスチレンラテックス粒子への固定化は、公知の方法により行った。すなわち、抗イヌSAAモノクローナル抗体とポリスチレンラテックスとを混合して、ポリスチレンラテックスの表面に抗イヌSAAモノクローナル抗体を物理的に吸着することにより固定化を行った。
【0048】
上記、交配後のイヌ血清検体の測定は、日立7170S形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。測定方法は、血清検体2.4μLに第1試薬(50mM HEPES緩衝液pH7.4)80μLを混和し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬(10mM HEPES緩衝液pH7.4を含む、抗イヌSAAモノクローナル抗体固定化ラテックス溶液)80μLを混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の波長660nmでの吸光度変化を測定した。
【0049】
交配後のイヌ血清検体中のSAA濃度は、SAA濃度既知の試料を測定して得られた検量線から算出した。
【0050】
3.結果
結果を
図1に示す。
図1に示すように、交配から20日目、30日目又は40日目において、交配直後(交配1日目)に比較して血清検体のSAA濃度の上昇が認められた。特に交配から30日目において、SAA濃度の上昇が認められる個体が多数認められた。
【0051】
4.結論
交配直後と交配から20日目~40日目の血清検体中のSAA濃度の比較又は交配から20~40日目のSAA濃度から交配後のイヌの妊娠の診断が可能であり、特に交配から30日目のSAA濃度が有用である。
【0052】
[比較例1]交配から1日~60日目のイヌのCRP濃度の測定
1.目的
交配から1日目、10日目、20日目、30日目、40日目、50日目及び60日目のイヌ15頭の血清中のCRP濃度又は交配から30日目のイヌ5頭の血清中のCRP濃度を測定して、妊娠の診断ができるか確認した。なお、測定に供したイヌ血清検体は、実施例1で測定した検体と同一検体である。
【0053】
2.材料・方法
交配後のイヌ血清検体中のCRPを、富士ドライケムスライドvc-CRP-P(富士フィルム株式会社製)を用いて測定した。
【0054】
上記富士ドライケムスライドvc-CRP-Pによる、上記、交配後のイヌ血清検体の測定は、富士ドライケム(富士フィルム株式会社製)により行った。
【0055】
3.結果
結果を
図2に示す。
図2に示すように、交配から20日目~50日目において、交配直後(交配1日目)に比較して血清検体のCRP濃度の上昇が認められた。
【0056】
4.結論
交配直後と交配から20日目~50日目の血清検体中のCRP濃度の比較又は交配から20~50日目のCRP濃度から交配後のイヌの妊娠の診断が可能である。
【0057】
しかしながら、交配後、妊娠によって急性相タンパク質の上昇が見られる時期は、実施例1に示すSAAでは交配後30日目前後に集中しており、これらの時期以外では上昇が見られない又は軽度の上昇しかみられないのに対して、CRPでは交配後20~50日目と長期間であり、CRPと比較してSAAはピンポイントの測定で妊娠の診断(推定)が可能である。
【0058】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。