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特許7158765低反射率コーティングならびに基板に塗布するための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】低反射率コーティングならびに基板に塗布するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20221017BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221017BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221017BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20221017BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20221017BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20221017BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221017BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20221017BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B05D7/24 301E
B05D1/02 Z
B05D1/36 B
B05D3/04 C
B05D5/06 A
B05D7/24 302E
B05D7/24 303B
B82Y20/00
B82Y40/00
G02B1/11
G02B5/00 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021072730
(22)【出願日】2021-04-22
(62)【分割の表示】P 2018508162の分割
【原出願日】2016-08-26
(65)【公開番号】P2021121430
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】1515270.5
(32)【優先日】2015-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1515694.6
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1516423.9
(32)【優先日】2015-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1602031.5
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507374170
【氏名又は名称】サレイ ナノシステムズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,ベン プール
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514239(JP,A)
【文献】特開2008-200613(JP,A)
【文献】特開2001-011344(JP,A)
【文献】特開2010-186858(JP,A)
【文献】特開2013-148744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
B82Y 5/00-99/00
C01B 32/00-32/991
C09D 1/00-201/10
G02B 1/00-1/18、5/00-5/136
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非透過性のコーティングを形成するためにカーボンナノ構造体を基板に塗布する方法であって、
(i)第1の溶媒に溶解したポリマーであるポリマー溶液を基板に塗布するステップと、
(ii)カーボンナノ構造体の懸濁液を第2の溶媒中に提供するステップと、
(iii)前記カーボンナノ構造体が前記ポリマー溶液に組み入れられるように前記懸濁液を前記基板にスプレーコーティングするステップと、
(iv)前記基板を乾燥させて前記第1の溶媒および前記第2の溶媒を蒸発させ、ポリマーおよびカーボンナノ構造体のコーティングを残すステップと、
(v)前記コーティングをプラズマエッチングしてカーボンナノ構造体を残すために前記ポリマーの少なくともいくつかを選択的に除去するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(v)の前記プラズマエッチングは、流量比1:4sccmのCF4/O2エッチングを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーは、ピロメリト酸二無水物(PMDA)および4,4-オキシジアニリン(ODA)から誘導されるポリ(アミド)酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の溶媒は、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、またはN-メチル-2-ピロリドンである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(iv)において、前記基板は、50~100℃で乾燥される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(iv)において、前記基板は、31~90分間乾燥される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(iv)後かつステップ(v)前に、前記ポリマーは、前記ポリマーコーティング内で硬化される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(v)の前記プラズマエッチングは、CF4/O2プラズマを用いて行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(v)の前記プラズマエッチングは、0.05~4Wcm-2の出力密度で行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(v)の前記プラズマエッチングは、31秒~3分間に行われる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(v)の前記プラズマエッチングは、0.611Wcm-2の出力密度1~2分間行う、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒中の前記懸濁したカーボンナノ構造体は、前記基板に塗布される前に凝集させられる、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記カーボンナノ構造体を前記溶媒中に分散させるために前記カーボンナノ構造体を超音波処理し、その後、前記懸濁液が凝集するまで前記懸濁液を静置するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ構造体の低反射率コーティングを基板に塗布する方法、ならびに基板に塗布するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長年にわたって、様々な産業的かつ科学的用途のために極めて低い反射率を有する環境的に安定したコーティングおよびデバイスの製造を取り組んできた。それらの取り組みは、撮像システム、較正ターゲット、計装、光ガイド、バッフル、迷光抑制、および多くの他の用途において重要である。
【0003】
工業的に有用であるために、これらのコーティングは、低反射率を有しなければならないが、重要であるように、それらはスペクトル的に平坦で、低脱ガス、低い微粒子降下物、耐熱衝撃性、耐湿性、ならびに高耐衝撃性および高耐振動性を示さなければならない。これらは、コーティングがCCDまたはマイクロボロメータなどの高感度電子検出器にしばしば局所的であるため、重要な要件であり得る。このようなコーティングからのあらゆる汚染は、検出器に必然的に集まりまたは凝縮し、それらのコーティングを不良にし、または許容閾値を超えてそれらの性能を低下させる。
【0004】
最近まで、最良のスプレー塗布したコーティングは、可視スペクトル(380nm~760nmの波長)で約2.5%の反射率を達成したが、いくつかの実験的研究では、CVD成長した配向性カーボンナノ構造体を用いることによってより良い結果、例えば小さい実験室規模の基板に堆積したとき、約0.045~0.5%の全半球反射率(THR)を達成した。配向性吸収体の一例は、「Use of vertical aligned carbon nanotube as a super dark absorber for pv,tpv,radar and infrared absorber application」と題する、Rensselaer Polytechnic InstituteのShawn-Yu Linらによる米国特許出願第2009/0126783号明細書である。この文献は、可視スペクトル、高吸収の配向性カーボンナノチューブ膜を論じている。興味深いものの、これらの配向性アレイ吸収体は、複雑かつ費用のかかる化学蒸着(CVD)反応器を用いて、750℃を超える高温で成長され、物理的蒸着(PVD)反応器で作り出された更により複雑な触媒ステップを必要とする。これは、既存の反応器に適合することができる簡便な平面形状での専門家の基板のそれらの使用を制限し、それによりカーボンナノチューブの成長中に使用される高温(>750℃)に耐えることができる小さく簡便な基板に工業用途を制限する。同様に、これらの膜を成長させるために使用されるCVD法により、これらの膜は、チューブ壁の成長欠陥が終結して、空気への露出時に高極性のヒドロキシル、カルボニル、およびカルボキシル官能基を形成することを本発明者らが見出したので、非常に親水性である傾向がある。この親水性は、スポンジのように作用するため、大気の湿度または自由水への露出時に、膜に光学特性を急速に失わせる。
【0005】
John H Lehmanらによる研究論文「Single-Wall Carbon Nanotube Coating on a Pyroelectric Detector」,Applied Optics,2005年2月1日、第44巻、第4号は、カーボンナノチューブの溶液および好適な溶媒から形成された低反射率コーティングが焦電型検出器に付着されるときに高レベルの吸光度を示し得ることを示唆している。溶媒/カーボンナノ構造体溶液から生成されたこれらの膜は、それらの膜だけが約2%の全半球反射率(THR)を達成することができることを示しており、これだけが最良の既存の工業用の黒色塗料と同等である。これは、有効な反射体としての機能を果たす複数のカーボンナノチューブ側壁をもたらす塗布膜の高密度によるものである。これにより、入射光子は吸収されることなく反射されることが可能となる。スプレーコーティングもまた親水性であるため、配向性アレイ膜と同じ大気汚染問題に悩まされている。このコーティングもまた、基板接着不良に悩まされている。
【0006】
光吸収体とは無関係の分野では、研究者らは、電子インク用途のために溶媒分散した官能基化されたカーボンナノチューブの解決策を生み出している。この種の用途では、インクが安定し、印刷可能であり、かつ印刷後に低電気抵抗を有することが望まれる。例示的な特許は、米国特許第2013/0273257号明細書、「Carbon Nanotube Ink Composition and a Coating Method Thereof and a Forming Method of a Thin Film Containing Carbon Nanotubes」である。この文献は、インクジェット印刷されることができる溶媒溶液中の官能基化されたカーボンナノチューブの生成を開示している。これらの種類のカーボンナノ構造体インクは、官能基化として良好な光吸収体を作製せず、使用される界面活性剤はすべて、電磁スペクトルの臨界部にわたって大幅な増加のTHRに寄与する界面活性剤の化学結合と関連したスペクトル特徴に寄与する。
【0007】
研究グループが予め成長させたカーボンナノチューブ膜および粉末の上にフッ素化炭素またはオルガノシランを堆積することによって超疎水性カーボンナノチューブ膜を生成していることも知られている。一例は、Kenneth KS Lauによって「Nano Letters-Super Hydrophobic Carbon Nanotube Forests」に記載されている。この種のコーティングは、配向性アレイまたはカーボンナノチューブ粉末が水分を吸い上げるのを防ぐが、そうするよう求められる疎水性コーティング厚は、連続的疎水性コーティングの屈折率の大きな差、チューブの間の空所のそのブロック、およびポリマー層で完全に覆われるときにカーボンナノチューブ/フィラメントが光子を吸収する能力が低下する事実により、膜の吸光度が低下する。
【0008】
カーボンナノ構造体を基板に塗布する様々な方法を開示する先行技術としては、米国特許第2016194205A号明細書、米国特許第2016053155A号明細書、米国特許第2014272199A号明細書、米国特許第2013316482A号明細書、米国特許第2013194668A号明細書、米国特許第2015298164A号明細書、米国特許第2013273257A号明細書、米国特許第2011315981A号明細書、米国特許第2011217544A号明細書、米国特許第2011111177A号明細書、米国特許第2010230344A号明細書、米国特許第2009026424A号明細書、米国特許第2008083950A号明細書、米国特許第2005013935A号明細書、および米国特許第2001004471A号明細書が挙げられる。しかしながら、これらの文献はいずれも超低反射率コーティングをもたらすステップを全く開示していない。
【0009】
他の先行技術の文献としては、国際特許第2003/086961A2号パンフレット(DU PONT)、国際特許第2007/075437A2号パンフレット(INTEMATIX)、米国特許第2008/0171193A1号明細書(YI)、国際特許第2009/058763A1号パンフレット(UNIDYM)、米国特許第2009/0050601A1号明細書(PARK)、および中国特許第104558659A号明細書(U.BEIJING)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願第2009/0126783号明細書
【文献】米国特許第2013/0273257号明細書
【文献】米国特許第2016194205A号明細書
【文献】米国特許第2016053155A号明細書
【文献】米国特許第2014272199A号明細書
【文献】米国特許第2013316482A号明細書
【文献】米国特許第2013194668A号明細書
【文献】米国特許第2015298164A号明細書
【文献】米国特許第2013273257A号明細書
【文献】米国特許第2011315981A号明細書
【文献】米国特許第2011217544A号明細書
【文献】米国特許第2011111177A号明細書
【文献】米国特許第2010230344A号明細書
【文献】米国特許第2009026424A号明細書
【文献】米国特許第2008083950A号明細書
【文献】米国特許第2005013935A号明細書
【文献】米国特許第2001004471A号明細書
【文献】国際特許第2003/086961A2号パンフレット
【文献】国際特許第2007/075437A2号パンフレット
【文献】米国特許第2008/0171193A1号明細書
【文献】国際特許第2009/058763A1号パンフレット
【文献】米国特許第2009/0050601A1号明細書
【文献】中国特許第104558659A号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】John H Lehman,et al.「Single-Wall Carbon Nanotube Coating on a Pyroelectric Detector」,Applied Optics,2005年2月1日、第44巻、第4号
【文献】Kenneth KS Lau,「Nano Letters-Super Hydrophobic Carbon Nanotube Forests」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、低反射率コーティングを基板に塗布するための改善された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書に開示する方法は、高温で不安定になる基板などの非平面基板および微細な基板を含む、工業規模で多種多様な基板に塗布するのに適している。本明細書に開示する好ましい実施形態は、上述の制約を克服する高効率電磁(EM)吸収体コーティングを生成することができる。
【0014】
本発明の一態様によれば、カーボンナノ構造体を基板に塗布する方法が提供され、この方法は、(i)カーボンナノ構造体の懸濁液を溶媒中に提供するステップと、(ii)基板を十分な温度まで予熱して、懸濁液が基板と接触するときに溶媒を蒸発させるステップと、(iii)懸濁液を基板にスプレーコーティングするステップと、(iv)スプレーコーティングされている溶媒の蒸発を維持するためにステップ(iii)の間、基板を十分な温度で維持するステップと、(v)カーボンナノ構造体の層が少なくとも2マイクロメートル(好ましくは少なくとも3マイクロメートル、最も好ましくは少なくとも6マイクロメートルの厚さで基板に塗布されるまで、ステップ(iii)およびステップ(iv)を継続するステップと、(vi)このコーティングをプラズマエッチングして、膜密度を低下させ、コーティング内に光学キャビティを生成するステップと、コーティング内に光学キャビティを生成するために堆積ステップより前に懸濁液に光学スペーサを添加するステップと、またはこれらの組み合わせと、を含む。
【0015】
700nmでの反射率を0.2%のTHRにするのに必要な最小厚さは、6ミクロン平均のコーティング高さであることが好ましい。
【0016】
光学キャビティは、コーティングをプラズマエッチングするステップによって生成されてもよく、これは膜密度を低下させ、非配向性カーボンナノチューブのサンゴ様の開放構造および残留非晶質炭素を生成する。この開放構造は、機械的に安定しており、例えば、極めて高い有効性(0.2%のTHR)のUV~MIR(100~8000nm)波長を捕捉および吸収するのに適している。
【0017】
光学キャビティはまた、詳細に後述するように、基板へのカーボンナノ構造体の塗布中に懸濁液に提供された一時的または永久光学スペーサを用いることで形成することができる。光学スペーサは、より長い波長(NIR~GHz)を捕捉するのに特に適している。いくつかの実施形態では、光学スペーサおよびプラズマエッチングがともに使用される。
【0018】
エッチングもしくは光学スペーサの提供、またはこれら2つの組み合わせによるものであろうとなかろうと、光学キャビティを生成するステップが、カーボンナノ構造体の層に自然に現れるあらゆるキャビティ上に追加または改良された光学キャビティを生成することを当業者は理解するであろう。
【0019】
光学スペーサ粒子が光学キャビティを生成するために使用される場合、いくつかの実施形態では、少なくとも部分的に塗布される物品に直接塗布するために光学スペーサが溶媒中に懸濁したカーボンナノ構造体を含むスプレーが設けられてもよい。溶媒が乾燥すると、その中に分散された光学スペーサを有するカーボンナノ構造体は、物品に低反射率コーティングを生じる。材料は同様に、塗料またはインクなど、スプレー以外の形態で設けられ得る。
【0020】
本方法はまた、好ましくはコーティングの反射率を増加させることなく、カーボンナノ構造体のコーティングに保護官能基化を提供するステップを含むことが有利である。
【0021】
好ましい実施形態では、本方法はまた、好ましくはコーティングの反射率を増加させることなく、カーボンナノ構造体のコーティング上に不連続保護コーティングを提供するステップを含む。
【0022】
懸濁液からのカーボンナノ構造体を基板上に堆積し、カーボンナノ構造体層をエッチングして、その層に光学キャビティを形成することによって、極めて低い反射率の非常に黒いコーティングを生じさせることが可能であり、代替的または付加的に、光学スペーサが懸濁液中のカーボンナノ構造体への永久または一時的フィラーによって生成され得ることを本発明者らは見出した。カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブ(最も好ましくは多層ナノチューブ、更により好ましくはSigma Aldrichによって提供される、≧98%炭素基、外径×内径×長さ10nm±1nm×4.5nm±0.5nm×3~約6μmのナノチューブ)であることが好ましく、これらは基板上に層またはコーティングとしてランダムマトリクスで堆積される。低反射率コーティングを生成することに対する以前の試みは、カーボンナノチューブを触媒塗布基板に形成することを含んでおり、これは塗布され得る基板の種類の制限、およびコーティングの特性の制限を含み得る。
【0023】
本方法は、カーボンナノ構造体の層を懸濁液中に堆積する前に基板の接触面を粗面化するステップを含むことができる。粗面化は、不動態化に加えてまたはその代わりであってもよい。粗面化は、基板へのカーボンナノ構造体の接合を高め、膜のグレージング角性能を改善することができる。表面粗面化は、湿式化学エッチングによるものでもよく、または高速の粗粒で表面を打撃することによるものでもよい。より一般的に、反射率の更なる低下を達成するために、本方法は、塗布される基板をエッチングするステップを含むことができ、これはカーボンナノ構造体層の露出面に表面粗さを生じさせる。これは、10~150マイクロメートルの最大サイズ範囲の酸化アルミニウム粗粒で基板の表面に衝撃を与えることによって達成することができる。粗粒は、スラリーまたは乾式のいずれかとして供給することができ、エッチングされる材料の硬度に好適な速度で表面に送り出すことができる。エッチング工程は、表面全体に均一に複数の山部および谷部をもたらす。このエッチングステップは、接合面の改善、吸収の向上をもたらし、塗布部のグレージング角の反射率も改善する。次いで、エッチング面は、好適に洗浄および乾燥される。表面粗さはまた、カーボンナノ構造体層に光学キャビティを生成するのに役立つ。
【0024】
本方法は、カーボンナノ構造体の層を懸濁液中に堆積する前に、好ましくは機械的または化学的に粗面化した基板の表面に化成皮膜を提供するステップを含むことができる。表面に塗布された化成皮膜は、表面プレートレットまたは接点を生じさせ、これは基板へのカーボンナノ構造体の接合を高めることができ、表面構造において繰り返し可能だが局所不均一性を生じさせるので、コーティングの反射率を低下させることに役立つこともできる。これは、膜内の光吸収を改善する均一な凹凸面をもたらすことに役立つ。
【0025】
本方法は、カーボンナノ構造体の層を堆積する前に基板の接触面に接合剤または接着剤を塗布するステップを含むことが好ましい。接合剤または接着剤は、ポリイミドまたは他の熱硬化性ポリマーであってもよく、このポリマーは好適な熱安定性を有し、ナノ構造溶液と接触するときに分解しない。この実施形態では、本方法は、カーボンナノ構造体の層を接合層または接着層に堆積するステップの間に、その接合層または接着層を加熱または硬化するステップを含むことができる。これにより、カーボンナノ構造体はその層に部分的に埋め込まれることが可能となる。カーボンナノ構造体を分散させるために使用される溶媒は、接合剤を希釈せず、またはその接合剤と化学的に反応しないように十分に迅速に「気化」する。硬化中、追加のコーティング厚が吸収層の所望の全体の厚さを達成するように増大する。
【0026】
本方法は、永久光学スペーサもしくはフィラー、または熱もしくは他の手段によって後で除去され得るフィラーを添加し、電磁スペクトルの特定波長域を捕捉することができるキャビティを残すステップを含むことができる。これらのフィラーは、堆積ステップより前に懸濁液に添加される。光学スペーサは、コーティングによって吸収されることが望まれる放射の周波数を透過または吸収することができ、あるいはコーティングに自由体積のみを生じさせるように吸収および設計することができる。例としては、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、スチレン、または非晶質炭素ナノスフェアが挙げられる。熱除去可能スペーサの一例はナフタレンナノ粒子である。加熱すると、それらは、コーティング内のキャビティとして元の粒子状を残して昇華する。このようなナフタレンナノ粒子の光学スペーサは、コーティングに入射する光または他の放射を捕捉することができるカーボンナノ構造体の層内に光学キャビティを生成する。
【0027】
好ましい実施形態では、光学スペーサまたはフィラーは、吸収される放射線の波長に応じて、数ナノメートル~数10マイクロメートルの平均粒径を有する粒子状である。
【0028】
好ましい実施形態では、溶媒は界面活性剤を含まない。コーティング内の界面活性剤は、コーティングの反射率の増加および黒色度の損失につながる可能性があり、または最良でも、界面活性剤はコーティング内に不要な大きいスペクトル特徴(より高い反射率の領域)を生じさせることが見出されている。
【0029】
カーボンナノ構造体の懸濁液は、吹きつけによって基板の接触面に堆積されることが好ましい。他の実施形態では、これは、スロットコーティング、ディッピング、スピニング、ブラッシング、または静電コーティングによるものであり得る。
【0030】
溶媒は、(ペンタンが0の基準極性を有する場合に)0.2~6.7、より好ましくは3.0~6.2の極性指数を有することが好ましい。好ましい実施形態では、溶媒はクロロホルムであるが、エタノール、酢酸エチル、アセトン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、またはN-メチル-2-ピロリドン等のその他の好適な溶媒が使用され得る。クロロホルムの使用が、(例えば健康上の危険性により)望ましくないシナリオでは、エタノールまたは酢酸エチルが良い代替品であるべきであると考えられている。
【0031】
クロロホルムは、様々な溶質に対する非常に優れた溶媒として長い間認められており、これがカーボンナノ構造体のより一層の安定化を可能にし得る極性「スタック」にその分子を配向するその特有の能力によるものであるといういくつの証拠がある(Shepardら,Chem.Commun.,2015,51,4770-4773参照)。本発明の場合、カーボンナノ構造体の高度に分散した溶液は、溶媒蒸発でのカーボンナノ構造体の高密度充填を可能にするので、望ましくないことが見出されている。この結果が充填不十分なカーボンナノ構造体をもたらし、得られる構造の多孔性は効率的な光捕捉を可能にすることが見出されているため、ある程度の凝集が好ましい。好ましい実施形態では、溶媒は、比較的低い沸点(<150℃)かつ3~6の中間の極性指数を有するべきである。立体的に接近可能な求核剤(電子供与体)の存在は、溶媒の機能に有益ではあるが不可欠ではない。
【0032】
いくつかの好ましい溶媒の特性を以下の表に示し、比較のために水も示す。
【0033】
【表1】
【0034】
好ましい実施形態では、堆積した時点で、ランダムに配向したカーボンナノ構造体からなる膜は、少なくとも900秒間のプラズマエッチングによって密度が低下する(時間は反応器の形状および設計に特有である)。プラズマの設定は、UV~NIRからのバルク膜の吸収を改善するように膜の密度を低下させ、光捕捉キャビティを開くようなものである。一般的に、このようにコーティングをプラズマエッチングすることによって、THRにおいて10倍の改善が達成される。
【0035】
垂直配向のナノチューブコーティングの性能を向上させることが見出されたものなど、約15秒の短いエッチングは、この溶液処理コーティングにおいてわずかな改善のみをもたらすか、または全く改善をもたらさないことに留意されたい。これは、開始コーティングの密度の差によるものであり、チューブが非配向であるためである。さらに、酸素プラズマ中の垂直配向のナノチューブコーティングをエッチングすることは、10~20秒間エッチングした場合、30%の反射率の改善をもたらすが、それより長い期間のエッチングは、更なる改善をもたらさず、光学特性を損なうか、または完全に破壊し始め、100秒のエッチングは基板からコーティングを完全に除去し得ることが示されている。溶液処理コーティングの開始密度がより高く、かつナノチューブが水平面にランダムに配向するので、そのためプラズマエッチング工程は、性能向上を達成するのにより時間がかかる。従来の垂直配向のCNTプラズマエッチングは、チューブの先端をクラスタ化し、かつ密度のわずかな低下をもたらし、それにより配向したCNT林立集合体内での複数の反射後に光が捕捉および吸収されるような凹凸面および開放キャビティにすることによって性能改善をもたらす。溶液処理膜によって、チューブはランダムに配向し、塗布されている表面の平面に略水平である。プラズマは、UV~NIRからの電磁エネルギーを捕捉するのに適しているキャビティをエッチングするために使用される。エッチング工程は、バルク「吹きつけ時」膜の密度を効果的に低下させる。その密度の低下および開放構造により、カーボンナノチューブによって吸収されるまで光子は複数回入り込み、「跳ね返る」ことが可能となる。
【0036】
本発明の別の態様によれば、カーボンナノ構造体の層で塗布された物品が提供され、カーボンナノ構造体はこの層内にランダムに配設され、界面活性剤を含まず、このコーティングは電磁放射を捕捉するための光学キャビティを含む。
【0037】
コーティングによって吸収されることが望まれる放射の周波数を透過または吸収することが有利である、光学スペーサがカーボンナノ構造体の層内に提供されてもよい。
【0038】
カーボンナノ構造体は、少なくとも2~10マイクロメートルの長さを有し、かつ/またはカーボンナノチューブの形態であることが好ましい。
【0039】
実際には、カーボンナノ構造体層は、可視スペクトルで2%のTHR(全半球反射)の低反射率、好ましい実施形態では更に低い反射率を有することができる。
【0040】
本発明の更なる態様によれば、カーボンナノ構造体の層を基板に塗布する方法が提供され、この方法は、溶媒にカーボンナノ構造体の懸濁液を形成または取得するステップと、懸濁液中のカーボンナノ構造体の層を基板の接触面に堆積するステップと、溶媒を乾燥させ、それによりカーボンナノ構造体のコーティングを基板の接触面に残すステップと、好ましくは、堆積ステップより前に懸濁液に光学スペーサまたはフィラーを添加することによって、電磁放射線を捕捉するための光学キャビティをコーティング内に生成するステップであって、光学スペーサが硫化亜鉛、セレン化亜鉛、スチレン、もしくは非晶質炭素であり、またはこれらを含む、ステップと、を含む。
【0041】
以下の説明および図面から、他の特徴および利点が明らかになるであろう。
【0042】
ほんの一例として、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を後述する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】カーボンナノ構造体コーティングを基板に塗布する好ましい実施形態の第1のステップを示す概略図である。
図2図1の処理ステップ後の塗布基板の拡大概略平面図である。
図3図2の塗布基板の側面拡大図である。
図4】塗布基板の別の実施形態の塗布基板の側面拡大図である。
図5】本明細書の教示による基板に塗布したコーティングを仕上げるための装置の主な構成要素の概略図である。
図6】仕上がった塗布基板の側面図である。
図7】本発明の別の実施形態による塗布基板の拡大概略平面図である。
図8】本発明の別の実施形態の塗布基板の側面拡大図である。
図9】塗布工程の好ましい実施形態を示すフローチャートである。
図10】エッチングする前の塗布試料のSEM画像である。
図11】エッチング後の塗布試料のSEM画像である。
図12図10および図11の試料の全半球反射を示すグラフである。
図13】光学キャビティを生成するようにナノスフェアフィラーを備えたコーティングを有する試料のSEM画像である。
図14】分散体のエージングの1日後の基板に堆積したカーボンナノ構造体層のSEM画像である。
図15】分散体のエージングの7日後の基板に堆積したカーボンナノ構造体層のSEM画像である。
図16】いくつかの異なる溶媒を使用する効果を示すようにUV~可視スペクトル中の光の波長に対してプロットした反射率のグラフである。
図17図16と同じ溶媒の赤外線スペクトルに類似のグラフである。
図18】様々な異なるエッチング方法の効果を示すように光の波長に対してプロットした反射率のグラフである。
図19図18の結果と同じ結果を示すが、より狭い波長領域に注目する、拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図面は、極めて低い反射率、および好ましくは超低反射率を有するカーボンナノ構造体層を基板に塗布するための装置の実施形態を概略的な形態で示す。本明細書に開示する実施形態は、2.5%よりかなり低く、ほとんどの場合0.5%未満の反射率を示している。好ましい実施形態は、可視スペクトル内で約0.2%のTHRを示している。
【0045】
先ず図1を参照すると、これは、カーボンナノ構造体の低反射率コーティングを基板10に塗布する方法を概略的形態で示す。基板は、極めて低い反射率の少なくとも1つの表面を有することが望まれる任意の物品であり得る。例としては、科学的計装、光ガイド、望遠鏡の筒、バッフル、迷光抑制、および多くの他の用途が挙げられる。
【0046】
基板10は、任意の好適な材料であり得、本明細書の教示により、材料は、基板が安定している広範な温度を含むが、溶融温度または軟化温度に限定されない広範な特性を有することを可能にする。多くの実用的用途では、基板10は、金属または金属合金であってもよいが、ポリマーを含む様々な他の材料で同様に作製され得る。
【0047】
図1は、カーボンナノ構造体の層を基板10に塗布するための非常に簡便かつ好ましいコーティングシステムを示す。本システムは、吹きつけデバイス12を含み、このデバイスは一般的に、溶媒中に懸濁させたカーボンナノ構造体をスプレージェットで分注するように動作可能なノズル、ノズルの列、または1つ以上のスプレースロットであってもよい。吹きつけは、カーボンナノ構造体の層を基板10の接触面14に塗布し、一般的に、室温での空気で自然に、または加熱によって、溶媒が蒸発すると、基板にカーボンナノ構造体の乾燥した層が残される。いくつかの実施形態では、この層は、単にカーボンナノ構造体で構成されるが、他の実施形態では、光学スペーサがあり得る。更なる詳細を後述する。
【0048】
カーボンナノ構造体は、約2~約10マイクロメートルの長さを有することが有利であるカーボンナノチューブの形態であることが好ましい。このような特性を有するカーボンナノチューブは、容易に購入可能であり、上述の特許出願に記載される方法のいずれかによって、かつその他の既知の方法によっても製造することもできる。
【0049】
スプレーコーティングは、図1に示すように、これが表面にランダム配向でカーボンナノ構造体の均一層を形成するように容易に制御することができるので、基板にコーティングを塗布する好ましい方法である。例えば、スロットコーティング、ディッピング、スピニング、ブラッシングなどを含む、他のコーティング方法が使用されてもよい。カーボンナノチューブはまた、静電コーティング方法によって基板に塗布されてもよい。
【0050】
塗布工程がある期間にわたって生じ、かつ/または暖かい基板に塗布される場合、コーティングは、塗布される時点であり、後続の乾燥ステップではない時点で乾燥させることができることが理解されるべきである。例えば、暖かい基板に吹きつける場合、溶媒は、暖かい基板に接触して蒸発し、その結果、コーティングが増大するときに乾燥が連続的に生じる。このような連続的かつ迅速な乾燥は、別個の段階で後に乾燥する湿式コーティングを塗布する工程と比較して、カーボンナノチューブのより開放した構造を生じさせることができる。当然のことながら、いくつかの実施形態では、懸濁液中のカーボンナノ構造体は、基板に塗布することができ、その後、溶媒は、塗布した後の別個のステップで乾燥することができる。
【0051】
次に図2および図3を参照すると、これらは、塗布および乾燥した後の基板10の接触面14でのカーボンナノ構造体20の配列を概略的な形態で示す。図3の実施例では、カーボンナノ構造体20は、基板10に直接堆積され、このため、接触面が堆積ステップより前に粗面化および化成処理される場合に有利である。一般的に、化成処理は、接触面14にAlochrom(アルミニウム基板に使用される)など、湿式化学処理工程によるものである。これは、接触面14で表面の接合性を高めるプレートレットを生成する。不動態化は、材料表面処理の技術分野において既知である。
【0052】
いくつかの実施形態では、不動態化の代わりに、またはそれに加えて、接触面14は、カーボンナノ構造体の層を堆積する前に粗面化することができる。粗面化は、付着または要点を生じさせ、この要点は基板へのカーボンナノ構造体の接合を高め、グレージング角反射率も改善する。一実施形態は、例えば10~150マイクロメートルの最大サイズ範囲の酸化アルミニウム粗粒で基板の表面に衝撃を与えることを含む。粗粒は、スラリーまたは乾式のいずれかとして供給することができ、エッチングされる材料の硬度に好適な速度で表面に送り出すことができる。次いで、エッチング面は、好適に洗浄および乾燥される。エッチング工程は、表面全体に均一に複数の山部および谷部をもたらす。このエッチング工程は、接合面の改善、吸収の向上をもたし、塗布部のゲージング角の反射率も改善する。表面粗さはまた、カーボンナノ構造体層に光学キャビティを生成するのに役立つ。
【0053】
上述したように、溶液中のカーボンナノ構造体が基板10の接触面14に堆積されると、溶媒は、基板10上の層として乾燥したカーボンナノ構造体20を残すように蒸発する。好ましい実施形態では、クロロホルムは懸濁媒体として使用され、これは、カーボンナノ構造体層から溶媒を除去するために室温またはより高い温度で乾燥することができる。実用的な実施形態では、好ましくは約60℃~約300℃の温度で蒸発する種類の任意の好適な溶媒が使用されてもよい。このような温度は、多種多様な基板の種類に適している。
【0054】
カーボンナノ構造体は一般的に、接触面14に略平面に横たわり、その表面に水平に横たわると説明することができる。
【0055】
次に図4を参照すると、これは、物品の別の実施形態の側面図を概略的な形態で示し、そこで基板10とカーボンナノ構造体20の層との間の接触面14に接合層または接着層24が設けられる。好ましい実施形態では、接合層24は、低脱ガスポリマーで作製される。好適なポリマーはポリイミドであるが、ポリアミドおよびエポキシなどの他のポリマーが使用されてもよい。低脱ガスポリマーの層は、一般的に50~60ナノメートルの厚さを有することができるが、例えば1マイクロメートル以上など、より厚くてもよい。
【0056】
ポリマーは、カーボンナノ構造体を基板10に塗布する段階で加熱または硬化することが有利であり、これによりカーボンナノ構造体は接合層24内に部分的に埋め込まれることが可能となる。接合層24は、普通ならカーボンナノ構造体20と直接、強固に接合し得ない材料で形成された基板に塗布するのに有用である。実際には、カーボンナノ構造体を基板10に堆積する段階は、純粋なカーボンナノ構造体20の厚さを増大させるように接合層24が硬化または冷却した後に継続する。このように、接合層24の材料は、カーボンナノ構造体層20の反射特性を妨げない。接合層24が溶融または軟化する場合、加工温度は、接合層24を硬化させ、接合層24の上に純粋なカーボンナノ構造体のコーティングの形成を可能にするために、カーボンナノ構造体による継続的な塗布の間に低下させることができる。
【0057】
接合層が必要でなくてもよく、多くの実施形態では、カーボンナノ構造体がファンデルワールス力により基板に付着することを当業者は理解するであろう。
【0058】
実際には、炭素微細構造の懸濁液は、カーボンナノ構造体を溶媒の量で混合することによって、好ましくは超音波処理によって、すなわち、音波誘起混合によって形成することができる。3~4時間の音波混合段階は、溶媒内でのカーボンナノ構造体の良好な分散を達成することができることが見出されている。好適な溶媒としては、クロロホルム、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、およびN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。いくつかの実施形態では、水は、溶媒として、好ましくはSDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)またはSolsperse 44000(Avecia Inc.から入手可能)などの1つ以上の界面活性剤とともに使用することができる。
【0059】
図2図4に示すコーティングは、基板10に非常に黒く、低反射率のコーティングをもたらし、これは既知の塗料および他の黒色コーティングよりかなり低い反射率を有することができることが見出されている。この形態では、このコーティングは、多種多様な用途に対して十分過ぎる場合がある。
【0060】
コーティング20の反射率は、コーティング20の外面で光学キャビティを生成するように図2図4に示される構造の処理によって更に低下させることができる。これは、例えば、図5に示す種類の装置を用いてプラズマ強化化学エッチングによって行うことができる。カーボンナノ構造体のコーティングの外面をエッチングまたは粗面化するステップはまた、表面のランバート性質を高め、広範囲の角度にわたって光を捕捉および反射し、あらゆる角度から艶消しの外観をもたらす。
【0061】
次に図5を参照すると、これは、基板10上のカーボンナノ構造体の層20の外面をエッチングするためのプラズマ強化化学エッチングシステム50の基本的構成要素を概略的な形態で示す。
【0062】
装置50は、密閉可能なチャンバ52を含み、この中に第1の電極54および第2の電極56が配設される。この実施形態では、電極54、56は、板状構造体であり、この構造体は平面視で略正方形または矩形であり、装置によってエッチングされる物品の形状およびサイズに適合することができるように成形およびサイズ決めされる。しかしながら、電極54、56は、図5に示す特定の形態を有する必要はない。
【0063】
図5に示す構成では、第1の電極54は陰極であり、導体60によって交流電源68に結合される。大部分の形態のプラズマは、反射率の改善をもたらすように示している。最適な結果がRFプラズマによって達成されているが、DC、パルスDC、およびマイクロ波周波数はすべて使用することができる。大気マイクロ波、RF、またはDCプラズマシステムは、類似の結果をもたらすことができる。
【0064】
この特定の実施形態では、電極54は、多数の穿孔または開孔のアレイを有し、その側面64では仕上げられる物品10に面する。酸素、四フッ化炭素、および/または他の好適な材料の源76が電極54に結合される。この源76からのガスの供給は、質量流量コントローラ(図5に図示せず)などの好適なデバイスによって制御することができる。
【0065】
ガス源76は、電極54に流体的に結合され、その結果、装置50の動作中に、ガスは電極54の面板64での1つまたは複数のノズルを通って出ることができ、カーボンナノ構造体層20をエッチングするのに用いるためのプラズマを生成する。
【0066】
第2の電極56は、接地62に結合される。電極アセンブリ56は、微細な構造体の処理さえも可能にするために低い基板の温度を維持するための提供を含む、上述の特許出願で開示された種類の複合構造体であってもよい。
【0067】
当分野において周知であるように、チャンバ52内の空気を抜くことができる真空ポンプ(図5に図示せず)に接続された出口58がチャンバ52に結合される。
【0068】
例えば図2図4に示すように、塗布構造体は、チャンバ52内の電極54と電極56との間に位置決めされ、その後、例えば酸素だが、好ましくは四フッ化炭素などのフッ素含有ガスのエッチングプラズマが生成される。プラズマは、カーボンナノ構造体層20の上面をエッチングするのに十分な期間維持される。いくつかの実用的な例では、エッチングは、数分間、最大約15分間以上実施される。エッチング段階の長さは、層20を形成するカーボンナノ構造体の密度、層20の深さ、および所望の粗さの深さ、ならびに反応器特性に依存する。
【0069】
図6を参照すると、これは、図5に示した装置によって実施されたエッチング工程の効果を概略的な形態で示す。コーティング層20の上面24は、コーティング20内にキャビティ26を生成するように、この工程によって穴が開けられる。エッチング工程は、コーティング層20の密度および深さを低下させる。キャビティ26は、層20に作用する光および他の放射を捕捉することができる光学キャビティとしての機能を果たし、それにより表面の反射率を大幅に低下させる。一実施例では、コーティングの反射率は、表面エッチングによって約2.0%~約0.5%、更に0.2%まで低下させることができる。
【0070】
より具体的には、好ましい実施形態では、ランダムに配向したカーボンナノ構造体からなる堆積膜は、少なくとも900秒であり得る期間のプラズマエッチングによって密度が低下する(時間は反応器形状および設計に特有である)。プラズマの設定は、UV~NIRでのバルク膜吸収を改善するように膜の密度を低下させ、光捕捉キャビティを開くようなものである。一般的に、コーティングをプラズマエッチングすることによって、10倍の改善を達成することができる。
【0071】
上述した実施形態は、純粋なカーボンナノ構造体のコーティング20を生成する。いくつかの実施形態では、コーティング20は、塗布工程の間に使用された担体溶媒とは別に追加の成分を有し得ることが想定される。図7および図8を参照すると、これらは、本明細書の教示による2つの他の実施形態を概略的な形態で示す。これらの実施形態のうちの1つでは、溶媒内にも分散される粒子の形態で光学スペーサ要素が懸濁液に添加される。光学スペーサは、コーティング20の所望の特性に応じて、1つ以上の放射周波数または放射周波数の範囲を透過または吸収することができる。一実施例では、光学スペーサ要素は、例えば、硫化亜鉛、および/もしくはセレン化物、スチレン、もしくは非晶質炭素ナノスフェアであってもよく、またはこれらを含むことができる。粒子は、所望のコーティングの特性に応じて、数ナノメートル~数10マイクロメートル(好ましくは500nm)の平均粒径を有することができる。実用的な実施形態では、粒子は、コーティングが吸収することが望まれる光周波数または他の周波数の約0.1~6倍の平均粒径を有することができる。
【0072】
図7および図8で分かるように、懸濁液が基板10に堆積され、溶媒が蒸発した時点で、コーティング層は、光学スペーサ粒子30をその層内に介在させたカーボンナノ構造体20の構造またはメッシュを含む。光学スペーサ粒子30は、表面20に入射する光または他の放射を捕捉するのを支援する構造体内に光学キャビティを生成する。
【0073】
別の実施形態では、永久光学スペーサ要素の代わりに、除去可能な光学フィラー粒子から形成される除去可能なフィラーが使用される。ナフタレンは、この目的に好適な材料であり、当業者は他の材料を特定することができるであろう。一時的なフィラーは、乾燥後、すなわち、溶媒の除去後、この層から除去される。一時的なフィラー粒子は、上述の永久光学スペーサ要素とサイズおよび密度に関して類似の特性を有することが好ましい。粒子は、コーティング層20内に光学ギャップまたはキャビティ30を残すように、例えば、加熱または化学的除去によって除去することができる。
【0074】
層20内に光学スペーサまたはキャビティを含む実施形態では、図5および図6に関して上述したエッチング工程を実施することは必要ではない場合があるが、このようなステップもまた、これらの実施形態のために実施され得ることが排除されない。
【0075】
次に図9を参照すると、これは、本明細書の教示による物品の形成における様々な段階を示すフローチャート100を示す。
【0076】
ステップ102では、カーボンナノ構造体は、好ましい実施形態のカーボンナノチューブでは、容易に利用可能な供給業者から、またはこれらの製造によって、上述したように得られる。ステップ104では、カーボンナノ構造体は、溶媒、例えばクロロホルムに添加される。ステップ106では、光学フィラーまたはスペーサは、これらが所望される場合、溶媒に随意により添加される。ステップ108では、カーボンナノ構造体および光学フィラーまたはスペーサは、3~4時間、一般的に音波分散によって溶媒中に分散される。カーボンナノチューブは、溶媒1mg/ml、1ミリリットルあたりのミリグラム数の濃度を有することが好ましい。いくつかの実施形態では、超音波処理後、溶液はエージングさせられ、すなわち一時的に放置され、これは懸濁したカーボンナノ構造体に小さな凝集体を形成させる(ステップ109)。この凝集は、溶液が基板に吹きつけられるとき、より一層の表面粗さを生じさせ、そのため、より黒色でより吸収する膜をもたらすことができる。後述する図14および図15は、エージングの実施例を示す。
【0077】
ステップ110では、カーボンナノ構造体層で塗布される基板10が調製される。これは、ステップ112もしくはステップ114での粗面化によるものであってもよく、または、例えばステップ116での低脱ガスポリマーで塗布することによるものであってもよい。接触面は、塗布ステップ120に移る前に、ステップ112からその粗面化状態のまま残されてもよい。他の実施形態では、表面粗面化(ステップ114)後、基板10は、ステップ118でエッチングまたは陽極酸化によって不動態化されてもよい。他の実施形態では、基板は、粗面化することなく不動態化することができる。
【0078】
ステップ120では、カーボンナノチューブの懸濁液は、好ましくは吹きつけによって基板の接触面14に塗布されるが、これもまた、スロットコーティング、ディッピング、ブラッシング、および静電コーティングなどのその他の好適な方法によるものであり得る。ステップ122では、コーティングは、溶媒を除去するように乾燥され、この状態は使用される溶媒に適切である。一般的に、これは、室温、または高温、好ましくは例えば、約60℃~約300℃であってもよい。
【0079】
除去可能なフィラーが懸濁液に添加される場合、これは、ステップ124で除去されてもよい。同様に、所望される場合、乾式コーティングは次に、ステップ126で光学キャビティを生成するようにエッチングされてもよい。ステップ126では、カーボンナノ構造体の層上に疎水性コーティングが設けられてもよい。これは、例えばフッ素含有プラズマを用いて、好ましい実施例では前駆体として四フッ化炭素を用いて、いくつかの実施形態では炭化水素、好ましくはアセチレンと混合して、エッチングと同時に行われ得る。別の実施形態では、疎水性材料による塗布は、上面のエッチング後に実施することができる。疎水性コーティングは、カーボンナノ構造体の層の深さ全体に塗布することができるが、好ましい実施形態では、カーボンナノ構造体の層に部分的にのみ塗布する。疎水性コーティングは、表面チューブの頂部を部分的に塗布し、チューブ欠損を官能基化することができる。このようなコーティングは、毛管作用を防ぎ、それによりTHRを増大させずに防水加工を提供することができる。
【0080】
この工程は、塗布基板のステップ130で完了する。
【0081】
図10図15は、本明細書の教示によって製造される例示的な実施形態の特性を示す。最初に図10および図11を参照すると、これらはそれぞれ、エッチングする前およびエッチング後に基板に堆積されたカーボンナノ構造体層の試料のSEM画像を示す。カーボンナノチューブは、基板の表面にランダムに配向したフィラメントまたはチューブのマトリクスを形成し、これらはすべて、基板の表面の平面と略一致する。カーボンナノ構造体層のエッチングは、層内にキャビティを生成すると同時に、その密度を低下させる。この効果は図12のグラフに効果が示され、図中、曲線150はエッチングする前のコーティング(すなわち図10に示すようなコーティング)の全半球反射率を示し、一方、曲線160はエッチング後のコーティング(すなわち図11に示すようなエッチングしたコーティング)の全半球反射を示す。以上のように、エッチングは、全半球反射率の大幅な低減をもたらすことができ、より広範な波長範囲にわたって一貫している。
【0082】
図13は、光学キャビティを生成するカーボンナノ構造体のマトリクス全体に分散された永久ナノスフェアフィラーを備えたコーティングの一実施例のSEM画像である。この性質のフィラーは、NIRからFIRまでの波長(15マイクロメートル~1mmの波長)を吸収するのに特に有効であることが見出されている。
【0083】
図14および図15は、界面活性剤なしで溶液中に分散したとき、カーボンナノ構造体の分散をエージング可能にする効果を示す。経時的に、溶液中に分散したカーボンナノ構造体は凝集し始める。これが低反射率コーティングの形成に有益であり得ることを本発明者らは見出した。図14は、1日中のエージング、すなわち溶液中に分散した後に1日放置されたカーボンナノ構造体のコーティングの画像である。以上のように、表面は、凝集または集塊したカーボンナノ構造体によって引き起こされた粗さを有する。図15は、類似のコーティングだが7日間のエージング後に塗布されたコーティングを示す。この層は、図14のものより著しく粗い。最適なエージングは、1日から約12日までの幅があり、その後、層の粗さに関する更なる利点は示されないことが見出されている。実際の最適なエージング時間は、カーボンナノ構造体の性質、溶液、およびカーボンナノ構造体の濃度に主に依存する。本明細書の教示から、当業者は、特定の分散に最適な時間を容易に求めることができる。
【0084】
コーティングは、広い波長域にわたって極めて低い反射率を示すように選択することができるが、他の実施形態では、特定の波長または波長域で極めて低い反射率を有するように調整することができる。これは、コーティング層20の外面の選択的エッチングによって、かつ/または光学スペーサもしくは除去可能なフィラーの粒子の選択によって可能である。様々な異なる特性(例えば粒径)を有する光学スペーサまたはフィラーが層20に異なる反射特性をもたらすことができることも当業者は理解するであろう。例えば、層20は、複数の異なる光学スペーサ粒子またはフィラー粒子を組み入れることができる。
【0085】
プラズマ中に混合する四フッ化炭素およびアセチレンの使用は、カーボンナノ構造体の層に形成されるフッ化炭素ポリマー様コーティングを作り出し、これは高度に疎水性かつ非常に安定していると考えられている。上述のように、四フッ化炭素それ自体をうまく使用することができ、すなわちプラズマ中にアセチレンまたは他の反応物質なしで、カーボンナノ構造体の層に疎水性コーティングまたは官能基化を形成することができることが見出されている。他の前駆体は、プラズマ中に追加の反応物質なしで同様に使用することができ、例えば、クロロトリフルオロメタン(CF3CL)、ブロモトリフルオロメタン(CF3Br)、トリフルオロヨードメタン(CF3I)、テトラフルオロエチレン(C2F4)が挙げられる。三フッ化窒素(NF3)および三フッ化ホウ素(BF3)、ならびに純粋なフッ素(F2)を使用することも可能である。前駆体中の炭素または別個の炭素源の不在下でのフッ素またはフッ素系前駆体は、カーボンナノ構造体層に官能基化されたフッ化炭素コーティングを形成すると考えられている。
【0086】
他のフルオロポリマー、例えばポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、ペルフルオロアルコキシル化ポリフルオロオレフィン(PFA)、ならびに関連のフッ化炭素およびクロロフルオロカーボンポリマーなどを使用することができ、これらはすべて、材料および構造体の耐水性を高めるために使用することができる熱的に安定し、化学的に不活性な材料の良い例である。
【0087】
他の実施形態は、前駆体としてオルガノシランを使用する。
【0088】
図16および図17は、本発明に従って得られるカーボンナノ構造体の反射率に対する、異なる溶媒を使用する効果を示す。いくつかのビーズブラスト処理されたクーポンに各々、様々な異なる溶媒中の40mlのカーボンナノ構造体を吹きつけた。毎回、新しいスプレーガンを用いて同じ条件(溶媒1mlあたり1mgのCNT)下で吹きつけを実施した。次に、以下の手順を用いて疎水的にクーポンに塗布した。
【0089】
疎水処理
吸収体コーティングは、O2エッチング後にCNTの再官能基化によって疎水にすることができる。これは、CNTの欠損をCF4プラズマ官能基化に露出することによって(またはプラズマでのFラジカルを生成することができるあらゆる前駆体によって)達成される。
【0090】
フッ素化によるカルボニル基およびカルボキシル基の置換は、水素結合の形成に必要な陽子を受け取るC-F結合の無能により、構造体を疎水性にすると考えられている。カーボンナノチューブのフッ素含有量は、250℃~300℃のC2Fの最大被覆率まで温度とともに増加する。フッ素結合は、環におけるFの位置に応じて2つの異なる結合種類を示す。低温での環のフッ素化は、準安定状態を発生させる隣接した炭素原子(1,2)でのみ可能であり、この状態ではフッ素原子の再結合および環構造の分解が水または他の溶媒との相互作用で生じ得る。より著しく安定した構成は、環の向かい側での(1,4)構成に対するF原子の再配列を必要とする。この場合のC-F結合の強度は、より一層の安定性で更なる共有結合性まで高まる。この位置に達するために、フッ素は、(1,3)でエネルギー的に不利な次に直近の隣接構成を通って移動することが必要である。250~300℃の温度では、この熱力学的障害を克服するのに必要な活性化エネルギーが達成される。これらの温度を超えると、チューブの黒鉛完全性は、被覆率がCFに接近し得る非晶質材料に分解し始める。
【0091】
理論に束縛されるものではないが、フッ化炭素様CF4が独自に使用される場合、基板温度は、少なくとも100℃まで加熱されなければならないが、好ましくは250℃~300℃に加熱されなければならず(300℃を超えると、結合が損傷を受けるため、安定ではない)、官能基化は極めて低い出力密度(約0.09ワット/平方cm)で約5分間かかると考えられている。反応物質を重合するために水素が存在しないことにより、固体膜が生成されると考えられていない。フッ化炭素ラジカルは、CNT探針をクラスタ化することによって膜の反射率を低下させながら、CNT欠陥サイトでカルボキシルおよび他の極性基を単純に置換する。時間範囲は、3分~12分である。この時間を超えると、膜は、反射率に関して損傷を受ける。
【0092】
この場合の実際の工程条件は次の通りであった(これらは反応器設計および構成によって変わり得る)。
圧力:26.6644~159.9864Pa(0.2~1.2トール)(大気圧までの圧力)
13.56MHzでの出力密度:0.09ワット/平方cmが好ましいが、0.01~4ワット/平方cmであり得る
温度:20℃~300℃
継続時間:一般的に5分間
使用ガス:CF4(最大量のF含有ガスが使用され得る)
疎水性コーティング前に、クーポンを920秒間プラズマエッチングした。全体の結果を以下の表ならびに図16および図17に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
酢酸エチルまたはエタノールは、クロロホルムによる健康上の危険性が回避されるべきである状況におけるTHR結果に基づいてクロロホルムの良い代替であるべきことが分かる。
[実施例]
【0095】
比較例1:エッチング前の試料
濃度1mg/mlの酢酸エチル中の多層カーボンナノチューブ(Sigma Aldrichによって提供される、≧98%炭素基、外径×内径×長さ10nm±1nm×4.5nm±0.5nm×3~約6μm)の溶液[試剤によって提供される、技術グレード]を調製した。酢酸エチルの沸点は77.1℃である。
【0096】
次に、溶液を以下の方法に従ってアルミニウム6061グレードの基板にスプレーコーティングした:
【0097】
(i)基板を100℃の温度まで予熱した。
(ii)CNT溶液を、80℃~100℃で基板の温度を維持する間、Iwata Eclipse G6スプレーガンを用いて基板にスプレーコーティングした。結果として、溶媒は基板表面と接触した直後に蒸発した。
(iii)少なくとも2μmのCNTの層を得るまでスプレーコーティングステップを継続した。平方センチメートルあたりのコーティングの質量を、Mettler Toledo balanceの型番MS204を用いて測定し、1.19mgcm-2であることを見出した。
【0098】
コーティングの全半球反射率を、硫酸バリウム積分球のShimadzu UV2600 UV~Vis分光計、および16000nmの波長までのスペクトル領域での拡散金表面のPike Mid IR-IntegratIRを装着したBruker Vertex 70 IR分光計を用いて測定した。この結果を図18(測定した全スペクトル域に対する)および図19(1400nmの波長までのスペクトル域に対する)に示す。
【0099】
実施例2:エッチング後の試料
アルミニウム6061グレードのクーポンを、基板でのコーティングの質量が1.13mgcm-2になるまで比較例1で提示した手順に従って吹きつけた。次に、コーティングをプラズマ反応チャンバ(NanoGrowth 400 Etch)内で酸素エッチングを施して、必要な光学キャビティを発生させた。エッチング工程は、39.9966Pa(0.3トール)の圧力および0.12Wcm-2の出力密度で7分の酸素エッチングから構成された。この後、得られた試料を同じプラズマチャンバ内で5分間、0.12Wcm-2の出力密度を用いて39.9966Pa(0.3トール)の圧力および250℃の基板温度での四フッ化炭素プラズマ中に疎水的にコーティングした。
【0100】
得られたコーティングのTHRを上記の比較例1のように測定し、結果を図18および図19に示す。THRは実施例1と比較して大幅に低下していることが分かる。
【0101】
実施例3:オーバーエッチングした試料
上記のようなアルミニウム6061グレードのクーポンを、基板でのコーティングの質量が0.33mgcm-2になるまで比較例1で提示した手順に従って吹きつけた。次に、試料を酸素エッチングし、実施例2のように疎水的にコーティングした。
【0102】
得られたコーティングのTHRを上記の比較例1のように測定し、結果を図18および図19に示す。
【0103】
結果は、大幅なオーバーエッチングであり、結果として反射率の値は上昇している(しかしながら、実施例1の値より依然として低い)。
【0104】
実施例4:アンダーエッチングした試料
アルミニウム6061グレードのクーポンを、基板でのコーティングの質量が1.07mgcm-2になるまで比較例1で提示した手順に従って吹きつけた。次に、このコーティングを39.9966Pa(0.3トール)の圧力だが0.045Wcm-2の低下した出力密度で7分間、前述のように酸素プラズマによりエッチングした。次に、試料を酸素エッチングし、実施例2のように疎水的にコーティングした。
【0105】
得られたコーティングのTHRを上記の比較例1のように測定し、結果を図18および図19に示す。
【0106】
結果は、より少ない光学キャビティが生成され、したがって反射率の値は最適レベルに達してない(しかしながら、実施例1の値より依然として低い)。
【0107】
実施例5:疎水性コーティングする前の試料
上記のようなアルミニウム6061グレードのクーポンを、基板でのコーティングの質量が1.05mgcm-2になるまで比較例1で提示した手順に従って吹きつけた。次に、試料を実施例2のように酸素エッチングしたが、疎水性コーティングする前にチャンバから取り出した。
【0108】
得られたコーティングのTHRを上記の比較例1のように測定し、結果を図18および図19に示す。THRは実施例3および実施例4の図(スペクトル域の大部分にわたる)より低いが、追加の疎水性コーティングを有する実施例2のTHRほど低くないことが分かる。
【0109】
ポリマー下層
極めて低い反射率を有する基板は、ポリマー溶液を基板に塗布し、基板が依然として湿っている間、カーボンナノ構造体をポリマー溶液に組み入れ、基板を乾燥させ、かつその後、ポリマー分子を選択的に除去して基板の表面にナノ構造体リッチ層を残すことによって製造することができることが見出されている。
【0110】
したがって、本発明の更なる態様では、カーボンナノ構造体を基板に塗布する方法が提供され、この方法は、
【0111】
(i)第1の溶媒に溶解したポリマーであるポリマー溶液を基板に塗布するステップと、
(ii)カーボンナノ構造体の懸濁液を第2の溶媒中に提供するステップと、
(iii)カーボンナノ構造体がポリマー溶液に組み入れられるように懸濁液を基板にスプレーコーティングするステップと、
(iv)基板を乾燥させて第1の溶媒および第2の溶媒を蒸発させ、ポリマーおよびカーボンナノ構造体のコーティングを残すステップと、
(v)このコーティングをプラズマエッチングして前記ポリマーの少なくともいくつかを除去するステップと、を含み、
ステップ(iv)後かつステップ(v)前に、ポリマーはコーティング内で硬化される。
【0112】
次に、この方法の生成物は、上記に規定した本発明の第1の態様の方法における基板として随意により使用することができる。
【0113】
理論に束縛されるものではないが、ポリマーの選択的除去は、優れた「接着」をもたらすために更なるコーティングが塗布され得る基板の表面にペンダントナノ構造分子を残すと考えられている。
【0114】
例示的(非限定的)工程:
1)ポリマー前駆体の合成。14重量%の溶液を生成する試剤の1:1モル比でNMPに溶解した際にピロメリト酸二無水物(PMDA)および4,4-オキシジアニリン(ODA)から誘導されるポリ(アミド)酸。すべての水を排除することに取り組み、ガラス容器を最初に窒素フロー下で加熱して、あらゆる吸着水を除去する。ジアミンをNMPに溶解し、室温で一旦安定した時点で、二無水物を撹拌しながら溶液に添加する。2時間撹拌を継続し、その後、使用まで5℃以下で冷蔵庫内に保管する。
【0115】
2)ポリマー前駆体を、室温での重力送りエアガンを用いて基板に吹きつける。現在のデータでは、塗布した平均質量は0.36mgcm-2である。
【0116】
3)次に、CNTを、依然として「湿っている」間、ポリマー前駆体に組み入れる。これはCNTの組み入れの成功に不可欠である。このためには、CNTを、高せん断ミキサーを用いて酢酸エチル中に(1mg/mlの濃度で)分散させ、室温でポリマー前駆体の表面に吹きつけた。表面に堆積したCNTの質量は0.1mgcm-2であると推定される。
【0117】
4)次に、試料を60分間、60℃で「乾燥」させる。一般的により長い時間かかるが、これは本発明者らの膜厚に十分である。
【0118】
5)次に、試料を20分間、300℃まで加熱する。
【0119】
6)次に、CNTを所定の時間、CF4/O2エッチング(1:4sccmの流量比)を用いて露出する。典型的な露出したCNT層は、600nm~1000nmの厚さを有する。
【0120】
解説:
1)このポリマーを、その耐衝撃性、高熱分解温度、その異方性の機械的強度、および得られたポリマー系とアルミニウムとの間の熱膨張(5.0×10^(-5)と2.4×10^(-5)/Kそれぞれ比較)の類似性で選択する。
【0121】
このポリマーは、カプトンと同じ化学構造を有し、したがって文献において周知である。その合成工程内の因子(主に重量%の濃度)を変更し、その結果、本発明者らは目的のための好適な粘度を得ることができた。
【0122】
他の極性非プロトン性溶媒を支持媒体として使用することができた。DMAcおよびDMFをよく使用し、THF/MeOH混合も溶媒系としての機能を果たすことを示した。NMPを選択した理由は、このポリマー系に最もよく使用される溶媒であることであった。それは高沸点を有し、十分な時間で蒸発前にCNTを組み入れることができる。同様に、NMPがCNTに対して実に良好な溶媒であるため、NMPは、ポリマーマトリクス内にある時点でCNTの分散を支援し、乾燥および硬化段階でポリマー塊にわたって均一な組み入れを促進すると考えられている。これは、より均質な複合材料をもたらす。
【0123】
2)ポリマー前駆体を基板に塗布する代替方法がスピンコーティングによるものであることを本発明者らは示した。他の代替手段としては、ドロップコーティング、ディップコーティング、およびある程度まで塗装が挙げられる。これらの方法の各々に対する条件を最適化するために、ポリマーの粘度を変更した。スピンコーティングから吹きつけへの本発明者らの変更に関して、異なる濃度で合成することでこれを行った。これを2つの手法で行うことができた:a)低重量%での直接合成。これはポリマー鎖長を減少することで還元粘度を達成しなければならない。b)高重量%での合成およびその後の希釈。ポリマー鎖長はこの時点で保持されるべきであるが、最終的な低重量%の担持量の希釈が還元粘度を可能にする。本発明者らの場合、解決策a)を選んだ。b)を選択しなかった理由は、現在の合成法から、吹きつけに相当な粘度を達成するために、溶液の最終的な重量%の担持量は、相当な最終的膜厚(溶媒損失後の塗布厚の約10%)を達成するために、不当な量の溶液が塗布されなければならないほど低いことである。これは、滴下およびそれ故に不均一性などの独自の問題を伴い得る。
【0124】
これは、同じ結果を達成するために広範な考えられ得る調製方法があることを実証している。
【0125】
乾燥する前にポリマー前駆体膜が厚さ15μmのオーダーであると本発明者らは考えている。
【0126】
3)CNTが塗布される前にポリマー前駆体を「乾燥」させる場合、このCNTがポリマーにうまく組み入れられないことを本発明者らは示した。しかしながら、「湿っている」ときに塗布される場合、CNTは、得られたポリマー膜の塊にわたって組み入れられる。
【0127】
本発明者らの方法によって達成したCNT担持量は、最大20重量%に達する。これは、様々なクーポン(基板)から取られた平均であり、ポリイミドの質量がその規定値で一定であると仮定する。これは、基板が依然として存在する溶媒に起因する任意の正確度で独立して測定することができないためである。
【0128】
CNTを塗布するために、本発明者らは酢酸エチルを現在使用している。NMPは、CNTに良い溶媒であり、したがって同様に使用され得る。酢酸エチルが有利である主な理由は、溶媒が蒸発するとき、酢酸エチルが膜厚を増大せず、酢酸エチルがポリマー前駆体と反応せず(この前駆体が非プロトン性であるので)、酢酸エチルが蒸発するとき、酢酸エチルが十分な量のCNTをいつ塗布するかを判断することを可能にし、かつ酢酸エチルがより安価であることである。プロトン性溶媒は、ポリ(アミド)酸前駆体と反応し、それ故に硬化段階を妨げるため、使用することができない。
【0129】
4)文字通り、硬化する前のポリマー前駆体溶液の「乾燥」は、通常乾燥窒素オーブンで、より長い時間にわたって実施される。しかしながら、本発明者らは質量分析を実施して、ちょうど1時間後に更なるNMPが失われていなかったことを示した。しかしながら、これは本発明者らのシステムに特有であり、膜厚およびポリマーの重量%の変化は、この時間に影響を与えるであろう。蒸発によってこのステップで大部分のNMPが失われるが、アミド酸への配位により硬化段階まで常にとどまる一定量がある。
【0130】
球状部品によって、乾燥および硬化工程がヒートガンでも行われ得ることを本発明者らは実証した。基板が要求温度まで加熱され、オーバーシュートしない限り、これは、すべての基板形状で実現可能であるべきである。
【0131】
5)さらに、この工程を本発明者らのシステムに適合するように開発した。本発明者らが硬化段階でクラッキングを見たように(前述のように)、より厚い膜に有効ではない。硬化度を赤外分光法によって測定し、少なくとも外観および赤外分光法によって、同じ最終結果が5時間にわたる温度傾斜工程とは対照的に300℃まで直接加熱することによって達成され得ることを示した。
【0132】
6)上記のステップの結果は、損傷を与えることなく接触できるグレー系色複合膜である。この膜を黒色にする工程の重要な部分は、最終エッチングである。使用したエッチングは、ポリイミドに対して選択的であるCF4/O2エッチング(1:4sccmの流量比)である。本発明者らは、1~2分間、0.611Wcm-2の出力密度を現在使用している。
【0133】
本明細書の教示は、様々な異なる物品を作製するために使用され、その物品の用途は、例えば、追跡システム、光検出器および光学望遠鏡、科学的計装などが挙げられる。
【0134】
記載した実施形態および従属請求項のすべての随意によるおよび好ましい特徴ならびに変更は、本明細書で教示した本発明のすべての態様で使用することができる。さらに、従属請求項の個々の特徴、ならびに記載した実施形態のすべての随意によるおよび好ましい特徴ならびに変更は、互いに組み合わせ可能であり、交換可能である。
【0135】
英国特許出願第1515270.5号明細書、同第1515694.6号明細書、同第1516423.9号明細書、および同第1602031.5号明細書における開示は、本出願が優先権を主張するものであり、本出願に添付する要約書において、参照により本明細書に組み込まれるものである。
図1
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