IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用制御装置 図1
  • 特許-車両用制御装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20221017BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20221017BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20221017BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W40/09
F02D11/10 K
F02D29/02 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017190928
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064413
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】畑内 慎也
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142160(JP,A)
【文献】特開2015-102032(JP,A)
【文献】特開2015-044452(JP,A)
【文献】特開2003-254111(JP,A)
【文献】特開平11-278092(JP,A)
【文献】特開昭61-190135(JP,A)
【文献】特開2015-000625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0075777(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
B60W 40/09
F02D 11/10
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、足踏み操作されるアクセルペダルおよびブレーキペダルを備える車両用の制御装置であって、
前記アクセルペダルに加えられる踏力を検出する踏力検出手段と、
前記踏力検出手段により検出される踏力が異常と判定される場合に、前記車両の所在する路面が勾配を有しており、その路面を登坂する方向の走行レンジが選択されているか否かを判別し、登坂する方向の走行レンジが選択されていない場合、前記車両の駆動輪に伝達される駆動力相対的に大きく抑制されるように、前記エンジンの電子スロットルバルブの開度を第1所定量だけ低減し、登坂する方向の走行レンジが選択されている場合、前記駆動輪に伝達される駆動力相対的に小さく抑制されるように、前記電子スロットルバルブの開度を前記第1所定量よりも小さい第2所定量だけ低減する駆動力抑制手段とを含む、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、車両の運転免許所持者の高齢化に伴い、車両のブレーキペダルとアクセルペダルとの踏み間違い事故、すなわち、運転者が車両を停止させるつもりでアクセルペダルとブレーキペダルを踏み誤り、車両が運転者の意思に反して加速することによる事故が多発している。
【0003】
この踏み間違い事故の発生を抑制するため、種々の装置が開発されている。
【0004】
たとえば、カメラ、ミリ波レーダまたはレーザレーダなどのセンサが車両に搭載されて、そのセンサにより車両の前方における障害物の存在が検出される場合に、エンジンの出力を抑制することにより、アクセルペダルが誤って踏み込まれることによる車両の加速を防止する装置が開発されている。しかしながら、この装置では、車両の前方の障害物が柵などであるためにセンサにより良好に検出されなかったり、アクセルペダルが一旦戻された後に再び踏み込まれた場合、その再踏み込みが誤操作によるものであってもエンジンの出力の抑制が解除されたりすることがある。
【0005】
また、アクセルペダルとブレーキペダルとを1つのペダルに一体化して、そのペダルに足の踵を置いたまま爪先でペダルを踏む操作をブレーキ操作とし、ペダルに足の踵を置いたまま足でペダルを右側にスライドさせる操作をアクセル操作とする装置が開発されている。ところが、この装置を車両に導入するにはコストがかかり、また、アクセル操作に慣れが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-227877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、簡素な構成でブレーキペダルとアクセルペダルとの踏み間違い事故による被害を低減ないし踏み間違い事故の発生を抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、足踏み操作されるアクセルペダルおよびブレーキペダルを備える車両用の制御装置であって、前記アクセルペダルに加えられる踏力を検出する踏力検出手段と、前記踏力検出手段により検出される踏力が異常と判定される場合に、前記車両の駆動輪に伝達される駆動力を抑制する駆動力抑制手段とを含む。
【0009】
アクセルペダルとブレーキペダルとの踏み間違いにより車両が運転者の意思に反して加速した場合、運転者は、ブレーキペダルを踏んでいるのにブレーキが効かないと勘違いし、車両を停止させようとして、アクセルペダルを強く踏む。この場合、アクセルペダルの操作量が最大に達してもアクセルペダルがさらに踏み込まれて、異常な大きさの踏力がアクセルペダルに加えられる。
【0010】
そこで、足踏み操作によりアクセルペダルに加えられる踏力が検出されて、その踏力が異常と判定される場合には、車両の駆動輪に伝達される駆動力が抑制される。これにより、アクセルペダルとブレーキペダルとの踏み間違いによる車両の急発進および急加速を抑制できる。その結果、踏み間違い事故による被害を低減ないし踏み間違い事故の発生を抑制することができる。しかも、駆動力を抑制するために追加されるハードウェアは、アクセルペダルに加えられる踏力を検出するための構成(センサやスイッチなど)のみであるから、ハード構成が簡素ですむ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡素なハード構成でアクセルペダルとブレーキペダルとの踏み間違いによる車両の急発進および急加速を抑制でき、その結果、踏み間違い事故による被害を低減ないし踏み間違い事故の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両の要部の構成を示す図である。
図2】駆動力抑制制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
<車両の構成>
図1は、車両1の要部の構成を示す図である。
【0015】
車両1は、FF(Front-engine Front-wheel-drive:フロントエンジン・フロントドライブ)方式の四輪自動車である。すなわち、車両1の車体2の左前部および右前部には、それぞれ前輪3L,3Rが設けられ、車体2の左後部および右後部には、それぞれ後輪4L,4Rが設けられている。また、車体2の前部には、エンジンコンパートメントが設けられており、そのエンジンコンパートメントには、エンジン5およびトランスミッション6が配置されている。エンジン5の出力は、トランスミッション6で変速されてデファレンシャルギヤ(図示せず)に伝達され、デファレンシャルギヤから左右のドライブシャフト7L,7Rを介してそれぞれ前輪3L,3Rに伝達される。
【0016】
エンジン5には、エンジン5の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン5には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。
【0017】
トランスミッション6は、自動変速機であり、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよいし、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)であってもよい。また、トランスミッション6は、動力分割式無段変速機であってもよい。動力分割式無段変速機は、たとえば、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路に分岐して伝達可能な変速機である。
【0018】
エンジンコンパートメントとダッシュパネルにより隔離される車室内には、運転席が設けられており、その運転席とダッシュパネルとの間には、車両1の加速のために足踏み操作されるアクセルペダル8と、車両1の制動のために足踏み操作されるブレーキペダル9とが設けられている。
【0019】
また、ダッシュパネルには、車室側にメータパネル10が設けられている。メータパネル10には、車速やエンジン回転数を表示するメータのほか、各種の情報を表示するための液晶ディスプレイなどの表示器が配置されている。
【0020】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、ROMおよびRAM、データフラッシュ(フラッシュメモリ)などが内蔵されている。図1には、1つのECU21のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU21と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU21を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0021】
ECU21には、制御に必要な各種センサ、たとえば、車輪速センサ22および踏力センサ23が接続されている。車輪速センサ22は、前輪3L,3Rおよび後輪4L,4Rの各車輪に関連して設けられ、車輪の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。踏力センサ23は、アクセルペダル8に加えられる踏力に応じた検出信号を出力する。
【0022】
ECU21では、各車輪速センサ22の検出信号から前輪3L,3Rおよび後輪4L,4Rの各車輪の車輪速が算出され、たとえば、メータパネル10のメータに表示される車速として、前輪3L,3Rおよび後輪4L,4Rの各車輪の車輪速の平均値から車速が算出される。また、ECU21では、踏力センサ23の検出信号からアクセルペダル8に加えられた踏力が検出される。
【0023】
ECU21には、エンジン5の制御のためのエンジン制御ロジックと、トランスミッション6の制御のための変速制御ロジックとが組まれている。エンジン制御ロジックにより、エンジン5の始動、停止および出力調整などのため、エンジン5に設けられた電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグなどが制御される。変速制御ロジックにより、トランスミッション6の変速比の制御などのため、トランスミッション6の各部に油圧を供給するための油圧回路に含まれる各種のバルブなどが制御される。また、ECU21により、メータパネル10の表示が制御される。
【0024】
<駆動力抑制制御>
図2は、駆動力抑制制御の流れを示すフローチャートである。
【0025】
アクセルペダル8とブレーキペダル9との踏み間違いによる事故の発生を抑制するため、車両1のイグニッションスイッチがオンである間、ECU21により、図2に示される駆動力抑制制御が実行される。
【0026】
駆動力抑制制御では、踏力センサ23の検出信号からアクセルペダル8に加えられた踏力が検出される(ステップS1)。
【0027】
そして、その検出された踏力が予め設定された異常判定値を超えているか否かが判別される(ステップS2)。
【0028】
アクセルペダル8とブレーキペダル9との踏み間違いにより車両1が運転者の意思に反して加速した場合、運転者は、ブレーキペダル9を足踏み操作しているのにブレーキが効かないと勘違いし、車両1を停止させようとして、アクセルペダル8を強く踏む。この場合、アクセルペダル8の操作量が最大に達してもアクセルペダル8がさらに踏み込まれて、異常な大きさの踏力がアクセルペダル8に加えられる。そこで、異常判定値は、アクセルペダル8に加えられる踏力が、アクセルペダル8が最大まで足踏み操作された状態からさらに足踏み操作された場合に超えるような値に設定されている。
【0029】
踏力が異常判定値を超えていない場合(ステップS2のNO)、それ以後の処理は実行されず、駆動力抑制制御が終了される。駆動力抑制制御の終了後の所定のタイミングで、駆動力抑制制御が再び実行される。
【0030】
踏力が異常判定値を超えている場合(ステップS2のYES)、車速が所定車速以下であるか否かが判別される(ステップS3)。アクセルペダル8とブレーキペダル9とが踏み間違いにより、たとえば、駆動輪である前輪3L,3Rが駐車場の車輪止めを乗り越えた場合、前輪3L,3Rが空転するので、前輪3L,3Rの車輪速が車速の算出に用いられると、車速が正確に検出されないおそれがある。そのため、この判別に用いられる車速は、前輪3L,3Rおよび後輪4L,4Rの各車輪の車輪速の平均値から算出される車速であってもよいが、後輪4L,4Rの車輪速の平均値から算出されることが好ましい。
【0031】
車速が所定車速以下でない場合、つまり車速が所定車速を超えている場合(ステップS3のNO)、それ以後の処理は実行されず、駆動力抑制制御が終了される。
【0032】
車速が所定車速以下である場合(ステップS3のYES)、車両1が所在する路面が勾配を有しており、その路面を登坂する方向の走行レンジが選択されているか否かが判別される(ステップS4)。トランスミッション6は、P(パーキング)レンジ、R(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジおよびD(ドライブ)レンジを含むシフトレンジ(変速レンジ)を有している。車両1の所在する路面が前上がりに傾斜している場合に、トランスミッション6の変速レンジがDレンジ(前進方向の走行レンジ)であれば、登坂方向の走行レンジが選択されていると判別される。また、車両1の所在する路面が後上がりに傾斜している場合に、トランスミッション6の変速レンジがRレンジ(後進方向の走行レンジ)であれば、登坂方向の走行レンジが選択されていると判別される。
【0033】
登坂方向の走行レンジが選択されていない場合(ステップS4のNO)、エンジン5の出力(駆動力)が相対的に大きく抑制されるように(ステップS5)、たとえば、電子スロットルバルブの開度が第1所定量だけ低減される。
【0034】
一方、登坂方向の走行レンジが選択されている場合(ステップS4のYES)、エンジン5の出力が相対的に小さく抑制されるように(ステップS6)、たとえば、電子スロットルバルブの開度が第1所定量よりも小さい第2所定量だけ低減される。
【0035】
そして、「アクセルペダルを強く踏みすぎています」などのメッセージがメータパネル10に表示または音声により報知されるか、または、その表示および音声の両方により報知されて(ステップS7)、駆動力抑制制御が終了される。
【0036】
<作用効果>
以上のように、足踏み操作によりアクセルペダル8に加えられる踏力が検出されて、その踏力が異常判定値を超える異常な値と判定される場合には、エンジン5の出力が抑制されて、車両1の駆動輪である前輪3L,3Rに伝達される駆動力が抑制される。これにより、アクセルペダル8とブレーキペダル9との踏み間違いによる車両1の急発進および急加速を抑制できる。しかも、駆動力抑制制御に必要となるハードウェアは、踏力センサ23のみであるから、ハード構成が簡素ですむ。
【0037】
よって、簡素なハード構成でアクセルペダル8とブレーキペダル9との踏み間違いによる車両1の急発進および急加速を抑制でき、その結果、踏み間違い事故による被害を低減ないし踏み間違い事故の発生を抑制できる。
【0038】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0039】
たとえば、踏力センサ23は、アクセルペダル8に加えられる踏力に応じた検出信号を出力する構成のものに限らず、たとえば、アクセルペダル8に加えられる踏力が異常判定値を超えると、接点が閉じて、接点が開いているときとはレベルの異なる信号を出力するスイッチであってもよい。
【0040】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1:車両
3L,3R:前輪(駆動輪)
8:アクセルペダル
9:ブレーキペダル
21:ECU(制御装置、駆動力抑制手段)
23:踏力センサ(踏力検出手段)
図1
図2