(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】モータ支持構造
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
H02K5/16 A
(21)【出願番号】P 2019143481
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】道岡 力
(72)【発明者】
【氏名】中川 光路
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-158437(JP,A)
【文献】特開平03-135395(JP,A)
【文献】特開2001-212961(JP,A)
【文献】特開平07-235584(JP,A)
【文献】特開2016-205939(JP,A)
【文献】特開2019-007075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのロータを回転可能に支持する支持部材と前記モータを収容するカバーとの間に、プレート状の基材
となる鋼板の両面に絶縁層を設け
てプレス加工された絶縁部材が介在されて、前記支持部材が前記カバーに支持され、
前記支持部材または前記カバーの少なくとも一方に、前記絶縁部材の縁部との接触を回避する逃がし空間が形成されている、モータ支持構造。
【請求項2】
前記絶縁部材には、第1ノック穴および第2ノック穴が形成されており、
前記第2ノック穴は、前記第1ノック穴の中心と前記第2ノック穴の中心とを通る直線の方向に長い長穴である、請求項1に記載のモータ支持構造。
【請求項3】
モータのロータを回転可能に支持する支持部材と前記モータを収容するカバーとの間に、プレート状の基材
となる鋼板の両面に絶縁層を設け
てプレス加工された絶縁部材が介在されて、前記支持部材が前記カバーに支持され、
前記絶縁部材の縁部は、前記支持部材における前記絶縁部材との接触領域のエッジよりも外側に位置している、モータ支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)には、走行用の駆動源としてのモータが搭載されている。モータには、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)が広く採用されている。永久磁石同期モータは、ロータに強磁性体である永久磁石を用いた同期電動機である。
【0003】
モータは、ケースおよびカバー内に収容されて、そのケースおよびカバーに支持されている。具体的には、モータは、支持部材を備えている。支持部材は、カバーにボルトで締結されている。支持部材には、ベアリングの外輪が固定されており、ロータは、そのベアリングの内輪に挿通されて、ベアリングを介して支持部材に回転可能に支持されている。
【0004】
回転子、ベアリング、支持部材、ケースおよびカバーは、いずれも金属製である。そのため、ロータの回転角度による磁気抵抗の変化などにより、回転子の永久磁石が発生する磁束が変化すると、電磁誘導による電圧が生じ、回転子、ベアリング、支持部材、ケースおよびカバーで形成される閉回路に誘導電流が流れる。その結果、ベアリングなどに電食が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、支持部材とカバーとの間に絶縁板を介在させて、支持部材とカバーとの間で絶縁を図ることが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、支持部材とカバーとの間に絶縁板を介在させただけでは、支持部材とカバーとの絶縁が十分ではないことが判った。そして、本願発明者らは、支持部材とカバーとが十分に絶縁されない原因を探求し、その結果、本発明に至った。
【0008】
本発明は、かかる背景の下になされたものであり、その目的は、支持部材とカバーとを良好に絶縁できる、モータ支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係るモータ支持構造は、モータのロータを回転可能に支持する支持部材とモータを収容するカバーとの間に、プレート状の基材の両面に絶縁層を設けた絶縁部材が介在されて、支持部材がカバーに支持され、支持部材またはカバーの少なくとも一方に、絶縁部材の縁部との接触を回避する逃がし空間が形成されている。
【0010】
この逃がし空間が形成されていることにより、絶縁部材の縁部と支持部材またはカバーとの接触が回避されるので、絶縁部材の絶縁性能を確保することができる。その結果、支持部材とカバーとを良好に絶縁でき、電食の発生を抑制することができる。
【0011】
すなわち、絶縁部材の縁部には、
図8に示されるようにその加工時にバリが発生する。そのバリを有する縁部が支持部材とカバーとに挟まれて、支持部材またはカバーによりバリが押されると、応力が発生し、
図9に示されるように、絶縁部材におけるバリが突出する側と反対側の絶縁層が局所的に圧縮変形する。そして、その圧縮変形により、絶縁層のインピーダンスが局所的に低下し、絶縁部材の絶縁性能が低下するのではないかと、本願発明者らは考えて本発明に至った。
【0012】
逃がし空間により、絶縁部材の縁部に生じているバリが支持部材またはカバーと接触することが回避されるので、バリが支持部材またはカバーに押されることによる絶縁層の局所的な圧縮変形を防止できる。その結果、絶縁層のインピーダンスが局所的に低下することを抑制でき、絶縁部材の絶縁性能を確保することができる。
【0013】
絶縁部材には、第1ノック穴および第2ノック穴が形成されており、第2ノック穴は、第1ノック穴の中心と第2ノック穴の中心とを通る直線の方向に長い長穴であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、第2ノック穴が長穴に形成されているので、絶縁部材に加工による反りが生じていても、組付時に第2ノック穴にノックピンを挿通させることができる。そのため、絶縁部材に要求される反りの規格を緩和することができる。その結果、絶縁部材の製造コストを低減することができる。
【0015】
また、第1ノック穴が丸穴に形成されていれば、第1ノック穴に挿通されるノックピンにより絶縁部材を支持部材およびカバーに対して精度よく位置決めすることができる。そのため、支持部材またはカバーの少なくとも一方に形成される逃がし空間のサイズの縮小を図ることができる。これにより、逃がし空間が形成される支持部材および/またはカバーと絶縁部材との接触面積を大きく確保して、その接触部分に生じる面圧の増大を抑制することができる。
【0016】
本発明の他の局面に係るモータ支持構造は、モータのロータを回転可能に支持する支持部材とモータを収容するカバーとの間に、プレート状の基材の両面に絶縁層を設けた絶縁部材が介在されて、支持部材がカバーに支持され、絶縁部材の縁部は、支持部材における絶縁部材との接触領域のエッジよりも外側に位置している。
【0017】
この構成によれば、絶縁部材の縁部が支持部材と接触することを回避できる。よって、絶縁部材の絶縁性能を確保することができ、支持部材と支持部材とを良好に絶縁できるので、電食の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、支持部材とカバーとを良好に絶縁でき、電食の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ支持構造の構成部品を分解して示す斜視図である。
【
図2】
図1に示される各構成部品を所定の平面で切断したときの端面を示す図である。
【
図3】絶縁プレートを支持部材側から見た図である。
【
図4】モータ支持構造の断面図であり、絶縁プレートのボルト挿通穴の周縁部を示す。
【
図5】モータ支持構造の断面図であり、第1ノック穴の周縁部を含む部分を示す。
【
図6】モータ支持構造の断面図であり、第2ノック穴37の周縁部を含む部分を示す。
【
図7】モータ支持構造の断面図であり、絶縁プレート31の外周縁部を含む部分を示す。
【
図8】絶縁プレートにバリが生じている状態を示す断面図である。
【
図9】絶縁プレートの絶縁層が局所的に圧縮変形している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
<モータ支持構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ支持構造3の構成部品を分解して示す斜視図である。
図2は、
図1に示される各構成部品を所定の平面で切断したときの端面を示す図である。
【0022】
たとえば、ハイブリッド車では、走行用の駆動源としてのモータ1がケースおよびカバー2内に収容される。モータ支持構造3は、モータ1をカバー2により支持する構造である。
【0023】
モータ1は、支持部材11を備えている。支持部材11には、有底円筒状のベアリング収容部12が形成されている。ベアリング収容部12の内側には、ベアリング13が嵌められ、そのベアリング13を介して、モータ1のロータ(図示せず)が回転可能に支持される。ベアリング収容部12の周囲には、3個のボルト挿通部14と、2個のノックピン挿入部15とが形成されている。各ボルト挿通部14には、締結用のボルトBが挿通されるボルト挿通穴16がベアリング収容部12の中心線の方向に貫通して形成されている。各ノックピン挿入部15には、ノックピンNが挿入されるノック穴17がノックピンNの外径に応じた径を有する円形の凹部として形成されている。
【0024】
なお、ノックピンNの外径に応じた径とは、ノックピンNがノック穴17に挿入されたときに、ノックピンNとノック穴17との間でガタが生じないような径をいう。後述する絶縁円筒部材25および第1ノック穴36についても同様である。
【0025】
カバー2には、支持部材11の各ボルト挿通部14と重なる位置に、カバー2の内面から突出するボス21が形成されている。各ボス21には、ボルトBの先端部がねじ込まれるボルト穴22が形成されている。ボルト穴22の周面には、雌ねじが切られている。また、カバー2には、支持部材11の各ノックピン挿入部15と重なる位置に、カバー2の内面から突出するボス23が形成されている。各ボス23には、ノックピンNが挿入されるノック穴24が円形の凹部として形成されている。ノック穴24の内周面には、絶縁材料からなる円筒状の絶縁円筒部材25が嵌められている。絶縁円筒部材25の内径は、ノックピンNの外径に応じた径に設定されている。
【0026】
カバー2と支持部材11との間には、絶縁プレート31が介在される。絶縁プレート31は、
図8に示されるように、プレート状の基材となる鋼板32の両面に絶縁層33,34を設けた構成を有している。絶縁層33,34の材料としては、たとえば、ニトリルゴム(NBR)を用いることができる。
【0027】
図3は、絶縁プレート31を支持部材11側から見た図である。
【0028】
絶縁プレート31には、支持部材11の各ボルト挿通部14と重なる位置に、ボルト挿通穴35が厚さ方向に貫通して形成されている。また、支持部材11の各ノックピン挿入部15と重なる位置に、第1ノック穴36および第2ノック穴37が厚さ方向に貫通して形成されている。第1ノック穴36は、丸穴であり、その径は、ノックピンNの外径に応じた径に設定されている。第2ノック穴37は、第1ノック穴36の中心と第2ノック穴37の中心とを通る直線Lの方向に長い長穴に形成されている。
【0029】
かかる構成の絶縁プレート31は、鋼板32および絶縁層33,34の積層体をプレス加工(打ち抜き加工)することにより作製される。そのため、ボルト挿通穴35、第1ノック穴36および第2ノック穴37の各周縁部、ならびに絶縁プレート31の外周縁部には、
図8に示されるように、バリ38が生じる。
【0030】
絶縁プレート31は、バリ38が突出する側を支持部材11側に向けて、カバー2と支持部材11との間に介在される。そして、絶縁プレート31の第1ノック穴36および第2ノック穴37にそれぞれ挿通されるノックピンNの一端部がカバー2のノック穴24に挿入され、他端部が支持部材11のノック穴17に挿入されることにより、絶縁プレート31がカバー2と支持部材11との間でそれらに対して位置決めされる。そして、締結用のボルトBが絶縁材料からなる絶縁ワッシャ39に挿通された後、そのボルトBが支持部材11の各ボルト挿通部14および絶縁プレート31の各ボルト挿通穴35に順に挿通されて、各ボルトBの先端部がカバー2のボルト穴22にねじ込まれることにより、支持部材11および絶縁プレート31がカバー2に締結される。
【0031】
図4、
図5、
図6および
図7は、モータ支持構造3の断面図であり、それぞれ絶縁プレート31のボルト挿通穴35の周縁部、第1ノック穴36の周縁部、第2ノック穴37の周縁部および外周縁部を含む部分を示す。
【0032】
絶縁プレート31のボルト挿通穴35、第1ノック穴36および第2ノック穴37の各周縁部には、バリ38が生じているので、支持部材11のボルト挿通穴16およびノック穴17の各周縁部には、面取りまたは座ぐりにより、バリ38との接触を回避する逃がし空間41が形成されている。言い換えれば、バリ38と支持部材11との接触を回避すべく、支持部材11のボルト挿通穴16およびノック穴17の各周縁部に逃がし空間41が形成されることにより、絶縁プレート31のボルト挿通穴35、第1ノック穴36および第2ノック穴37の各周縁部は、支持部材11における絶縁プレート31との接触領域のエッジよりも外側にはみ出している。
【0033】
また、絶縁プレート31の外周縁部にも、バリ38が生じているので、バリ38と支持部材11との接触を回避すべく、絶縁プレート31の外周縁部は、支持部材11の外周にはみ出している。
【0034】
<作用効果>
以上のように、絶縁プレート31に生じているバリ38と支持部材11との接触が回避されるので、絶縁プレート31の絶縁性能を確保することができる。すなわち、絶縁プレート31の縁部に生じているバリ38が支持部材11と接触することが回避されるので、バリ38が支持部材11に押されることによる絶縁層34の局所的な圧縮変形を防止できる。その結果、絶縁層34のインピーダンスが局所的に低下することを抑制でき、絶縁プレート31の絶縁性能を確保することができる。そして、カバー2と支持部材11とを良好に絶縁できるので、ベアリング13などに電食が発生することを抑制できる。
【0035】
しかも、支持部材11とバリ38との接触を回避するためにバリ38を除去する必要がないので、製造コストが安価ですむ。
【0036】
また、絶縁プレート31の第2ノック穴37が長穴に形成されているので、絶縁プレート31に加工による反りが生じていても、第2ノック穴37にノックピンNを挿通させることができる。そのため、絶縁プレート31に要求される反りの規格を緩和することができる。その結果、絶縁プレート31の製造コストを低減することができる。
【0037】
一方、第1ノック穴36が丸穴に形成されているので、第1ノック穴36に挿通されるノックピンNにより絶縁プレート31を支持部材11およびカバー2に対して精度よく位置決めすることができる。そのため、支持部材11に形成される逃がし空間41のサイズの縮小を図ることができる。これにより、逃がし空間41が形成される支持部材11と絶縁プレート31との接触面積を大きく確保して、その接触部分に生じる面圧の増大を抑制することができる。
【0038】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0039】
たとえば、絶縁プレート31は、バリ38が突出する側を支持部材11側に向けて、カバー2と支持部材11との間に介在されるとしたが、バリ38が突出する側をカバー2側に向けて、カバー2と支持部材11との間に介在されてもよい。この場合、カバー2にバリ38との接触を回避するための逃がし空間が形成されるとよい。
【0040】
また、本発明では、カバー2と支持部材11との絶縁について説明したが、モータ1を収納するケース側に同様の構造を設けてもよい。
【0041】
また、モータ支持構造3は、ハイブリッド車に限らず、電気自動車に適用されてもよい。
【0042】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:モータ
2:カバー
3:モータ支持構造
11:支持部材
32:鋼板(基材)
33,34:絶縁層
36:第1ノック穴
37:第2ノック穴
41:逃がし空間
L:直線