(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20221017BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20221017BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20221017BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20221017BHJP
C04B 111/76 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B24/06 A
C04B24/26 E
C04B24/26 G
C04B111:76
(21)【出願番号】P 2017049005
(22)【出願日】2017-03-14
【審査請求日】2020-01-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭 度連
(72)【発明者】
【氏名】中田 和秀
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-91580(JP,A)
【文献】特開2006-282853(JP,A)
【文献】特開2010-150083(JP,A)
【文献】特開2016-23103(JP,A)
【文献】特開2007-113002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通ポルトランドセメント
100質量部に対して、カルシウムアルミネート類を有効成分として含有する速硬性混和材
の配合量が20~70質量部である速硬性セメント、及びポリカルボン酸系減水剤を含有するセメント組成物であって、
ポリカルボン酸系減水剤の含有量が、速硬性セメント100質量部に対して、0.03~0.2質量部であり、
当該ポリカルボン酸系減水剤が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリエチレンオキサイド換算分子量において、重量平均分子量が20,000~40,000であって、Z平均分子量が20,000~90,000であり、多分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕が2.3以下であるポリカルボン酸系高分子化合物であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
さらに、オキシカルボン酸類を含有する請求項
1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
さらに、セメント用ポリマーを含有する請求項1
又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記セメント組成物が低温環境下用である請求項1~
3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
低温環境下において、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセメント組成物を用いてモルタル又はコンクリートを製造することを特徴とするモルタル又はコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温環境下において使用されるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築分野において、補修工事や緊急工事では、施工時間が短時間に制限されることが多いため、工期短縮のために速硬性のモルタル、コンクリートが用いられる。このようなモルタル、コンクリート等のセメント含有材料の硬化を早める手段として速硬材をモルタルやコンクリートに混和することが行われている。速硬材としては、早期強度発現性、ワーカビリティの調整し易さ、経済性等の点で総合的に優れていることからカルシウムアルミネートを有効成分とする速硬材が広く用いられている。
【0003】
しかし、速硬成分としてのカルシウムアルミネートは、例えば10℃以下のような低温環境下になると、早期強度発現性の低下傾向が現れる。即ち、初期強度発現時期の遅れ、早期強度値が全般的に低いといった状況になり、この傾向は温度低下に連れてより顕著なものとなる。低温環境下での強度発現性低下の対策として、主要速硬成分のカルシウムアルミネートに加え、特定の凝結・硬化促進成分を併用することが知られている。具体的には、アルカリ金属の硫酸塩(例えば、特許文献1参照。)、アルカリ金属の炭酸塩(例えば特許文献2参照)、アルカリ金属のアルミン酸塩(例えば、特許文献3参照。)、アルカリ土類金属の乳酸塩等(例えば、特許文献4参照。)の凝結・硬化促進成分をカルシウムアルミネート系の速硬成分と共にセメント含有材料に混和させると低温での強度発現性改善に有効であるとされている。
【0004】
また、カルシウムアルミネートの成分を調整した低温用の速硬材も提案されている。具体的には、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートとCaOとAl2O3が等モル比の結晶質カルシウムアルミネートを混合した低温用混和材が提案されている(特許文献5参照)。
【0005】
一方、モルタルやコンクリートのワーカビリティの確保、あるいは使用する単位水量を低減することによる高強度化を図る観点から、一般的に混和剤が使用されている。このような混和剤としては、ナフタレンスルホン酸塩系、メラミンスルホン酸塩系、リグニンスルホン酸塩系、ポリカルボン酸塩系等が使用されている。このうち、ポリカルボン酸塩系の減水剤は、他の減水剤と比べて分散性能が高い点や、スランプロスやフローロスを抑制できるメリットがあり、減水剤が効き難くスランプロスやフローロスが大きいカルシウムアルミネートを硬化促進剤として使用したモルタルやコンクリートに対しても効果が高く、十分な作業性と速硬性・短時間強度を付与できることが知られている(例えば特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-26536号公報
【文献】特開2005-263614号公報
【文献】特開平11-199302号公報
【文献】特開平08-169736号公報
【文献】特開2011-136885号公報
【文献】特開2001-39761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の速硬成分を含有するセメント組成物を用いる低温環境下でのモルタルやコンクリートの施工においては、良好なワーカビリティと初期強度発現性は十分とは言えなかった。
従って、本発明の課題は、低温環境下においても、所定のワーカビリティ(流動性と可使時間)を有し、かつ時間材齢での初期強度発現性に優れるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、低温環境下におけるセメント組成物について鋭意検討を重ねた結果、速硬性セメントを使用する場合において、驚くべきことに、特定の分子量を有するポリカルボン酸系減水剤を使用したときに限って、ワーカビリティが良好で、時間材齢における初期強度発現性に優れたセメント組成物が得られることを見出し、発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔5〕で表されるセメント組成物及びモルタル又はコンクリートの製造方法を提供するものである。
〔1〕普通ポルトランドセメント100質量部に対して、カルシウムアルミネート類を有効成分として含有する速硬性混和材の配合量が20~70質量部である速硬性セメント、及びポリカルボン酸系減水剤を含有するセメント組成物であって、
ポリカルボン酸系減水剤の含有量が、速硬性セメント100質量部に対して、0.03~0.2質量部であり、
当該ポリカルボン酸系減水剤が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリエチレンオキサイド換算分子量において、重量平均分子量が20,000~40,000であって、Z平均分子量が20,000~90,000であり、多分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕が2.3以下であるポリカルボン酸系高分子化合物であることを特徴とするセメント組成物。
〔2〕さらに、オキシカルボン酸類を含有する〔1〕に記載のセメント組成物。
〔3〕さらに、セメント用ポリマーを含有する〔1〕又は〔2〕に記載のセメント組成物。
〔4〕前記セメント組成物が低温環境下用である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のセメント組成物。
〔5〕低温環境下において、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のセメント組成物を用いてモルタル又はコンクリートを製造することを特徴とするモルタル又はコンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温環境下でも時間材齢(特に6時間材齢)における初期強度発現性に優れたセメント組成物を得ることができる。これにより冬季のコンクリート打設においても、速硬性のモルタルやコンクリートを使用可能となり、例えば道路コンクリート舗装として使用した場合も、早期の交通解放が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によるセメント組成物は、速硬性セメント及び特定のポリカルボン酸系減水剤を含有する。あるいは、セメント、カルシウムアルミネート類を含有する速硬性混和材、及び特定のポリカルボン酸系減水剤を含有する。以下、詳細に説明する。
【0012】
<セメント組成物の構成材料>
[速硬性セメント]
本発明に用いる速硬性セメントとしては、11CaO・7Al2O3・CaX2(Xはハロゲン原子)又は3CaO・3Al2O3・CaSO4(アウイン)等のカルシウムアルミネート類を有効成分として含有するセメント、例えば「ジェットセメント」や「スーパージェットセメント」等の商品名で市販されている超速硬セメント等、あるいは種々のセメントにカルシウムアルミネート類等の速硬性混和材を添加したもの等が挙げられる。
【0013】
[セメント]
本発明に用いるセメントとしては、種々のものが挙げられ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント又はエコセメント、或いはこれらにシリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン粉末、高炉スラグ粉末等を混合した混合セメントが挙げられる。これらのセメントは、いずれか1種を選択して使用することもできるが、2種以上のセメントを組み合わせて使用してもよい。
【0014】
[速硬性混和材]
本発明に用いる速硬性混和材は、カルシウムアルミネート類を有効成分として含む。速硬性混和材の配合量としては、セメント100質量部に対して、20~70質量部が好ましく、20~60質量部がより好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネート類としては、CaOをC、Al2O3をA、Na2OをN、Fe2O3をFで表示した場合、C3A、C2A、C12A7、C5A3、CA、C3A5又はCA2等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、C2AF、C4AF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC3A3・CaF2やC11A7・CaF2等と表示されるカルシウムフロロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、C8NA3やC3N2A5等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、アウイン(3CaO・3Al2O3・CaSO4)等のカルシウムサルホアルミネート、アルミナセメント等が挙げられる。並びにこれらにSiO2、K2O、Fe2O3、TiO2等が固溶又は結合したもの等が含まれる。また、結晶質、非晶質いずれであっても構わない。
【0016】
カルシウムアルミネート類のブレーン値は特に限定されるものではないが、反応速度と強度発現性の確保、及び十分な可使時間を得る点から、3000~8000cm2/gが好ましい。なお、カルシウムアルミネート類は結晶質であってもガラス質であってもよく限定されるものではない。
【0017】
速硬性混和材には、上記のカルシウムアルミネート類の他に、各種無機塩類が含まれてもよい。そのような無機塩類としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、水酸化物等が挙げられる。例えば、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
[ポリカルボン酸系減水剤]
本発明においては、減水剤を使用することが必須であるが、減水剤としてはポリカルボン酸系減水剤が使用される。ポリカルボン酸系減水剤以外の減水剤、例えば、メラミン系減水剤、リグニン系減水剤、ナフタレン系減水剤を使用した場合は、いずれも10℃以下の環境下における3~6時間材齢の強度発現性が悪く、本発明における効果が得られない。
さらにポリカルボン酸系減水剤の中でも、特定の減水剤を用いない場合は同じく低温環境下での強度発現性が十分とは言えない。種々検討の結果、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリエチレンオキサイド換算分子量において、重量平均分子量(Mw)が10,000~50,000であって、Z平均分子量(Mz)が100,000未満であるポリカルボン酸系高分子化合物を用いた場合、本発明における効果が得られることが分かった。これに該当しないポリカルボン酸系減水剤では、他のポリカルボン酸系以外の減水剤と同様、10℃以下の環境下において、十分な3~6時間材齢の強度発現性が得られない。
ポリカルボン酸系高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、低温環境下での強度発現の点から15,000~45,000が好ましく、18,000~42,000がより好ましく、20,000~40,000がさらに好ましい。また、Z平均分子量(Mz)は、低温環境下での強度発現性の点から、20,000以上100,000未満が好ましく、20,000以上90,000以下がより好ましく、30,000以上80,000以下がさらに好ましい。さらに、前記ポリカルボン酸系化合物の多分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕は、2.3以下であるのが、コンクリートの可使時間を60分以上保持し、速硬性混和材添加後の短期強度の発現性の点で好ましく、2.2以下であるのがより好ましく、2.1以下であるのがさらに好ましい。
各分子量の定義は下記のとおり。
Mn=Σ(Mi・Ni)/ΣNi =ΣCi/Σ(Ci/Mi)
Mw=Σ(Mi2・Ni)/Σ(Mi・Ni) =Σ(Ci・Mi)/ΣCi
Mz=Σ(Mi3・Ni)/Σ(Mi2・Ni) =Σ(Ci・Mi2)/Σ(Ci・Mi)
(ここで、Nはポリマー分子の数、Mは分子量、Cは試料濃度(wt./vol.))
【0019】
上記以外のポリカルボン酸系減水剤、あるいはナフタレンスルホン酸塩系、メラミンスルホン酸塩系、リグニンスルホン酸塩系を使用した場合は、低温環境下での短期強度発現性に優れたセメント組成物が得られない。
【0020】
本発明のセメント組成物に配合されるポリカルボン酸系高分子化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系高分子化合物が挙げられる。
当該ポリカルボン酸系高分子化合物としては、特に限定されず、例えばポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系共重合体及びポリアルキレングリコール鎖を有するマレイン酸系共重合体等が挙げられ、これらは1種でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
これらのうち(メタ)アクリル酸系共重合体としては、基-COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示す)及びポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系共重合体が好ましいものとして挙げられる。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸系共重合体の基-COOM中のMは、水素原子;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;アンモニウム又は有機アミンが好ましい。
【0023】
さらに(メタ)アクリル酸系共重合体の好ましいものとしては、全構成単位中に、下記式(1)で示される構成単位(1)を40~80モル%、下記式(2)で示される構成単位(2)を2~25モル%、下記式(3)で示される構成単位(3)を3~20モル%及び下記式(4)で示される構成単位(4)を1~45モル%の割合で含む共重合体である。なお、構成単位のモル%は、(1)~(4)の全構成単位を100モル%とした場合の夫々の構成単位のモル%を示す。
【0024】
【0025】
〔式中、R1、R2、R4及びR5は同一若しくは異なって水素原子又はメチル基を示し、R3及びR6は炭素数1~3のアルキル基を示し、M1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示し、Xは-SO3M2又はO-Ph-SO3M2(ここで、M2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示し、Phはフェニレン基を示す)を示し、nは2~200の整数を示す〕
【0026】
R3及びR6としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基が挙げられ、就中メチル基が好ましい。また、M1としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルカノールアミン等が好ましく、特に、水に対する溶解性の面からナトリウムが好ましい。また基X中のM2としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウム及びエタノールアミン等のアルカノールアミン等の有機アミンが挙げられる。これらのうちXとしては、-SO3Naが好ましい。また、(4)式中のnは2~200であるが、5~109が好ましい。
【0027】
ポリカルボン酸系減水剤の含有量としては、低温環境下におけるモルタルやコンクリートが十分な初期強度発現性を得る点、初期流動性を確保する点から、固形分換算で結合材100質量部に対して、0.02~0.5質量部が好ましく、0.05~0.3質量部がより好ましく、0.05~0.2質量部がさらに好ましい。
なお、ここで結合材とはモルタルやコンクリートの強度発現に寄与する無機粉末材料をいう。本発明においては速硬性セメント、あるいはセメントと速硬性混和材との合計物をいい、さらに無機粉末の混和材料が加えられる場合は、それを含めたものをいう。
【0028】
[オキシカルボン酸類]
本発明におけるセメント組成物は、30分以上の安定した可使時間を確保することができる点から、さらにオキシカルボン酸類を含むことが好ましい。オキシカルボン酸類とは、オキシカルボン酸及びオキシカルボン酸塩から選ばれる一種又は二種以上である。オキシカルボン酸及びオキシカルボン酸塩としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、ヘプトン酸、並びにこれらの塩等が挙げられる。本発明においてオキシカルボン酸及びオキシカルボン酸塩の含有量は、結合材100質量部に対し、30分以上の可使時間を確保する観点から、0.02~0.4質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.05~0.2質量部である。
【0029】
本発明におけるセメント組成物は、さらにセメント用ポリマーを加えることができる。本発明に用いるセメント用ポリマーとしては、通常セメントに用いられるポリマーであれば特に限定されないが、高い靱性を得る点から、アクリル酸エステル系ポリマー、アクリルスチレン系ポリマー、スチレンブタジエン系ポリマー、酢酸ビニル系ポリマー、エチレン酢酸ビニル系ポリマー、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル系ポリマー、エチレンビニルアルコール(EVA)系ポリマー、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル系ポリマー等が好ましい。これらのポリマーは、通常ポリマーディスパージョンの形態で市販されているもの、及び再乳化粉末樹脂として市販されているもののいずれでもよく、いずれもJIS A 6203に規定のものを用いることができる。この中で、スチレンブタジエン系ポリマーが特に好ましい。
【0030】
セメント用ポリマーの含有量は、結合材100質量部に対して、固形分換算で5~25質量部含有させると、金属、コンクリートとの付着強度、繰り返し載荷に対する耐久性、及び曲げ強度が良好になる点から、好ましい。
【0031】
[任意の混和材料]
さらに、本発明によるセメント組成物は、本発明の効果を実質失わない範囲で、コンクリートに使用できる他の混和材料を含有するものであっても良い。このような混和材料として、具体的には、収縮低減剤、膨張材、保水剤、防錆剤、空気連行剤、消泡剤、起泡剤、防水材、撥水剤、白華防止剤、顔料、繊維、シリカフューム、スラグ微粉末、石灰石微粉末等が例示される。
【0032】
[骨材]
本発明のセメント組成物をモルタルやコンクリートとして使用する際には、骨材が使用されるが、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に使用される細骨材及び粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材及び粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材及び再生粗骨材等が挙げられる。
【0033】
本発明のセメント組成物は、上記構成を有することにより、低温環境下で適度なワーカビリティ(流動性)を有し、初期強度発現性を改善することができる。そのため、本発明のセメント組成物は、低温環境下用の速硬性セメント組成物として用いることができる。本明細書において、「低温環境下用」とは、例えば10℃以下等の低温環境下でも十分な凝結時間及び初期強度発現性を示すことができるものを指し、具体的には、JIS A 1147:2007「コンクリートの凝結時間測定方法」に基づき測定した5℃環境下におけるコンクリート試料の凝結時間の始発が30分以上を示し、且つ、JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に基づき測定したコンクリート試料(養生条件:5℃)の圧縮強度(N/mm2)が、6時間材齢の時点で20N/mm2以上、より好ましくは30N/mm2以上を示す。
【0034】
<モルタル又はコンクリートの製造方法>
本発明のセメント組成物を用いてモルタル又はコンクリートを製造する方法は、特に限定されるものではなく、通常のモルタルやコンクリートの製造時に使用される各種ミキサを用い、本発明のセメント組成物、骨材、水等を混練することによって製造することができる。
また、ベースコンクリートを製造し、アジテータ車で施工現場に搬送後、これに遅延剤(オキシカルボン酸類)、速硬性混和材等を添加しアジテータ車内で混練後、コンクリートを排出し打設することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0036】
〔試験例1〕
<使用材料>
実施例で使用する材料を表1に示す。また、各種減水剤を表2に示す。
なお、速硬性セメントとしてセメントと速硬性混和材からなるものを使用した。
【0037】
【0038】
【0039】
(ポリカルボン酸系減水剤のGPCによる測定)
以下にGPCの測定条件を記す。
・装置:ビルトアップGPCシステム(東ソー製、島津製作所製)
・カラム:TSKgel GMPWXL(7.8mmI.D.×30cm)×2本(東ソー製)
・検出器:RI検出器 polarity(+)
・溶離液:0.2mol/L リン酸バッファー(pH=7)/アセトニトリル=9/1
・流速:1.0mL/min.
・濃度:1mg/mL
・注入量:100μL
・カラム温度:40℃
・試料前処理:試料を秤量し、所定量の溶離液を加えて室温で一晩静置溶解させ、穏やかにふり混ぜた後、0.5μmのセルロースアセテートカートリッジフィルターでろ過した。
・検量線:ポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた3次近似曲線。得られる分子量はポリエチレンオキサイド換算分子量となる。
【0040】
GPCによる測定結果を表3に示す。なお、測定は2回行い平均値をとった。
【0041】
【0042】
(モルタルの製造)
上記の材料を用い、5℃の恒温室にてモルタルを製造した。表4にモルタル配合を示す。
各材料を計量し、JIS R 5201セメントの物理試験方法のセメント強さ試験の練混ぜ方法に準じて混練した。混練後、モルタルをホバートミキサから排出し、圧縮強度測定用供試体作製のため所定の型枠に充填した。
【0043】
(凝結性状の試験)
モルタルの凝結性状について、JIS R 5210に準拠した方法で測定した。
【0044】
(圧縮強度の試験)
モルタルの強度発現性の評価は、6時間材齢の初期強度、ならびに24時間材齢の圧縮強度を測定した。試験は、JIS R 5201に準拠した方法で実施した。養生はすべて5℃の恒温室にて行った。
【0045】
(試験結果)
凝結性状及び圧縮強度の試験結果を表4に示す。
特定のポリカルボン酸系減水剤を使用した場合は、6時間材齢では30N/mm2以上、24時間材齢では40N/mm2以上の強度発現性を示した。一方、他の減水剤を使用した場合は、6時間材齢においても1N/mm2以上程度、さらに24時間材齢でも2N/mm2以上程度であり、強度発現性が悪いことが分かった。
【0046】
【0047】
〔試験例2〕
試験例1と同様の試験を20℃環境下で実施した。減水剤の配合量を結合材100質量部に対して0.1質量部、凝結時間が60分以上となるよう遅延剤の量を結合材100質量部に対して0.4質量部と調整して実施した結果、いずれの減水剤を使用した場合でも、6時間材齢では30N/mm2以上、24時間材齢では40N/mm2以上の強度発現性を示した。
【0048】
〔試験例3〕
セメント用ポリマー(SBR系ポリマー;市販品)を結合材100質量部に対して10質量部(固形分換算)添加した以外は試験例1と同様の条件で試験を5℃環境下で実施した。結果を表5に示す。
セメント用ポリマーを添加した場合も、試験例1と同様に、低温環境下において特定のポリカルボン酸系減水剤を添加した場合に、初期強度発現性が良好なモルタル硬化体を得られることが分かった。
【0049】