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特許7158842パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20221017BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20221017BHJP
   H01L 29/15 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/80 H
H01L29/91 F
H01L29/06 601S
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017222407
(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公開番号】P2018174296
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】17152589.2
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ・ミン
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-003296(JP,A)
【文献】特開2013-021124(JP,A)
【文献】特開2011-238685(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015800(WO,A1)
【文献】特表2014-527303(JP,A)
【文献】特開2003-077835(JP,A)
【文献】特開2014-165394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/338
H01L 29/861
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板を製造する方法であって、ベース基板を用意するステップと、前記ベース基板上にバッファ層構造を成長させるステップと、前記バッファ層構造上にIII-N積層体を成長させるステップとを含み、
前記バッファ層構造は、少なくとも第1の超格子積層体と、前記第1の超格子積層体の上の第2の超格子積層体とを含み、
前記第1の超格子積層体は、複数の第1のAlGaN層から構成される第1の超格子ユニットの繰返しを含み、前記第1のAlGaN層のそれぞれは0≦x≦1であるAlGa1-xNによって構成され、xは前記第1のAlGaN層の間で異なり、
前記第2の超格子積層体は、複数の第2のAlGaN層から構成される第2の超格子ユニットの繰返しを含み、前記第2のAlGaN層のそれぞれは0≦y≦1であるAlGa1-yNによって構成され、yは前記第2のAlGaN層の間で異なり、
前記バッファ層構造を成長させると、前記第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が、前記第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量よりも高い所定差となるようにプロセス条件が制御され、
少なくとも1つの超格子積層体について、超格子ユニットの前記成長を、その場ウエハ曲率の勾配が0.015km-1/s未満に低下するまで少なくとも継続する、方法。
【請求項2】
前記第1および第2の超格子ユニットは、少なくとも1つのAlGaN層のアルミニウム含有量および/または厚さの変動を除いて同じ層構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および/または第2の超格子積層体の少なくとも1つの隣接する対の層の間に少なくとも部分的な歪緩和が生じるように、前記バッファ層構造を成長させる、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板およびそのような基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III-N材料系の高圧電源装置において、デバイス層のリーク電流阻止能力を高くし、電気抵抗を高くする必要があることは、主な用件の1つである。このリーク電流阻止能力は通常、構造が両方の極性で縦方向にバイアスされている場合、室温(25℃)と高温(通常は150℃)との両方において、垂直リーク電流密度が1μA/mmとなる電圧で評価される。ネイティブ基板の欠如のため、III-N材料系のデバイスは通常、有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)または分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy:MBE)を使用してSi、サファイア、およびSiCなどの異種基板上に成長される。そしてこの種のヘテロエピタキシ処理は、良好な材料品質および電気特性でデバイス活性層を成長させることができるように、格子不整合によって生じる応力を管理するバッファ層の成長を必要とする。さらに、この応力管理のためのバッファ層は、ほとんどの場合、フルスタックのリーク阻止能力に寄与することもできる。
【0003】
スタックのリーク阻止能力を高めるための一般的な方法の1つは、単純にバッファの厚さを増加させることである。超格子(Superlattice:SL)バッファは通常、AlN/AlGa1-xN(0=<x<1)ペア層の複数回の繰返し/周期から構成されるバッファ構造の一種である。SLバッファを有するSi基板上にデバイス層を成長させるには、十分なリーク阻止能力を得るためにSLバッファを非常に厚く(3~4μm)しなければならない。このような厚さにすると、エピタキシ後の冷却中における、温度の不一致によって生じる凹型ウエハ湾曲を補償するために十分なその場(in situ)凸型ウエハ湾曲を得ることが困難になる。
【0004】
米国特許出願公開第2012/223328号明細書から、基板と、バッファと、主積層体とをこの順に含むIII族窒化物エピタキシャル積層基板が知られており、バッファは、初期成長層と、第1の超格子積層体と、第2の超格子積層体とをこの順に含む。第1の超格子積層体は、5~20組の第1のAlN層と第2のGaN層とを含み、第1のAlN層と第2のGaN層とは交互に積層され、第1のAlN層および第2のGaN層の1組はそれぞれ44nm未満の厚さを有する。第2の超格子積層体は、AlN材料またはAlGaN材料から構成される複数組の第1の層と、この第1の層とは異なるバンドギャップを有するAlGaN材料から構成される第2の層とを含み、第1の層と第2の層とは交互に積層されている。この二元超格子積層構造は、結晶性の改善と基板反りの抑制との両方を実現するために使用される。
【発明の概要】
【0005】
この開示の目的は、リーク阻止能力が改善された、すなわち縦方向耐圧が改善されたバッファ構造を可能にする、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板を提供することである。
【0006】
詳細には、本開示の目的は、十分なリーク阻止能力を有するバッファ構造を可能にし、基板反りを許容範囲内に保つことを可能にする、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板を提供することである。
【0007】
本開示の別の目的は、このようなIII-N系基板を製造する方法を提供することである。
【0008】
本開示の一態様では、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板が提示され、III-N系基板は、ベース基板と、ベース基板上のIII-N積層体と、ベース基板とIII-N積層体との間のバッファ層構造とを含む。バッファ層構造は、少なくとも第1の超格子積層体と、第1の超格子積層体の上の第2の超格子積層体とを含む。第1の超格子積層体は、複数の第1のAlGaN層から構成される第1の超格子ユニットの繰返しを含み、第1のAlGaN層のそれぞれは0≦x≦1であるAlGa1-xNによって構成され、xは第1のAlGaN層の間で異なる。第2の超格子積層体は、複数の第2のAlGaN層から構成される第2の超格子ユニットの繰返しを含み、第2のAlGaN層のそれぞれは0≦y≦1であるAlGa1-yNによって構成され、yは第2のAlGaN層の間で異なる。第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は、第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量よりも高い所定差である。本開示によれば、所定差によって、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板の耐圧を改善することができる。バッファ層構造は、格子不整合を補償し、ウエハ湾曲を制御するために設けられている。
【0009】
第2の超格子積層体すなわち上部の超格子積層体よりも高い平均アルミニウム含有量を有する、第1の超格子積層体すなわち下部の超格子積層体によって、耐圧を向上できることが明らかとなっている(比較として、AlNの破壊電界は12E6V/cmであり、GaNの破壊電界である3.3E6V/cmよりも約4倍高い)。本開示の実施形態では、アルミニウム含有量の所定差の結果として、順方向および/または逆方向の縦バイアスにおける150V/μmを超える破壊電界強度が、室温(25℃)で達成され得ることが明らかとなっている。
【0010】
本開示の実施形態では、アルミニウム含有量の所定差によって、室温(25℃)での基板反りを許容範囲内に制御することができ、例えば直径200mmの基板については50μm未満である。
【0011】
第1の(下部の)超格子積層体における平均アルミニウム含有量(すなわち等価アルミニウム含有量)が、第2の(上部の)超格子積層体よりも高いことで、単一の超格子積層体のみを有するバッファと比較して、既に同程度に薄いスタック厚でバッファ耐圧を改善するだけでなく、基板反りの制御に同時に寄与できることが明らかとなっている。これは、下部の超格子積層体よりも上部の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が低いことで、冷却中に生じる引張応力を補償することができる追加の圧縮応力がスタックに発生するためである。
【0012】
第1の超格子積層体の各第1の超格子ユニットについて、xは、隣接する(すなわち接触する)第1のAlGaN層の対の間で異なってもよい。例えば、第1の第1のAlGaN層と、第2の第1のAlGaN層と、第3の第1のAlGaN層とから構成される第1の超格子ユニットでは、xが第1の第1のAlGaN層と第2の第1のAlGaN層との間で異なってよく、さらにxが第2の第1のAlGaN層と第3の第1のAlGaN層との間で異なっていてもよい。応じて、第2の超格子積層体の各第2の超格子ユニットについて、yは、隣接する第2のAlGaN層の対の間で異なってもよい。例えば、第1の第2のAlGaN層と、第2の第2のAlGaN層と、第3の第2のAlGaN層とから構成される第2超格子ユニットでは、yが第1の第2のAlGaN層と第2の第2のAlGaN層との間で異なってよく、さらにyが第2の第2のAlGaN層と第3の第2のAlGaN層との間で異なっていてもよい。
【0013】
本開示の実施形態では、第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は、少なくとも30%である。
【0014】
本開示の実施形態では、平均アルミニウム含有量の所定差は、少なくとも5%である。これは例えば、第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が30%である場合、第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が25%以下であることを意味する。好適には、隣接する超格子積層体間の平均アルミニウム含有量の差は最小限に維持され、それでもなおウエハ反り制御要件を満たし、それによってスタック全体における両方の(または全ての)超格子積層体は、高いアルミニウム含有量を有してVbd能力を最大にすることができる。
【0015】
本開示の実施形態では、バッファ層構造は、第2の超格子積層体の上に少なくとも1つの追加の超格子積層体を含んでもよく、各追加の超格子積層体は、複数の第3のAlGaN層からそれぞれ構成される第3の超格子ユニットの繰返しをそれぞれ含み、第3のAlGaN層のそれぞれは0≦i≦1であるAlGa1-iNによって構成され、iは第3の超格子ユニットの各第3のAlGaN層の間でそれぞれ異なる。また第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量よりも少なくとも5%高く、第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は追加の超格子積層体の平均アルミニウム含有量より少なくとも5%高い。したがって、第1、第2、および追加の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は、隣接する超格子積層体の間の平均アルミニウム含有量の差として、下から上に向かって最小で5%減少してもよい。
【0016】
本開示の実施形態では、追加の超格子積層体の平均アルミニウム含有量は、少なくとも5%である。
【0017】
超格子積層体は任意で、しかし好ましくは、互いの上に直接的に、すなわち、いかなる界面層(interface layer)を介さずに形成することができる。
【0018】
実施形態では、超格子ユニットは、上部のAlGaN層とAlNの下層とからそれぞれ構成されてもよい。そのような実施形態では、最上層のアルミニウム含有量の変化によって、最上層のアルミニウム含量を一定に保った状態での最上層の厚さの変化によって、もしくは、厚さとアルミニウム含有量との両方の変化の組み合わせによって、または他の方法で、異なる超格子積層体の超格子ユニット間の平均アルミニウム含有量の変動が達成され得る。したがって、等価アルミニウム含有量は例えば、上部のAlGaN層について同じ組成および厚さを維持しながら、AlN層の厚さを修正することによって変更することもできる。同一の原理を、より多くの層または異なる層を有する超格子ユニットに適用することができ、AlGaN層のうちの1つのアルミニウム含有量および/または厚さを単純に変化させることによって、超格子ユニット、したがって(ユニットの繰返しである)超格子積層体の平均アルミニウム含有量に影響を与えながら、全体の構造を同じまたは類似に保つことができる。
【0019】
本開示の実施形態では、少なくとも1つの超格子積層体の厚さは、超格子積層体の十分な歪緩和を可能にするのに十分に大きくなければならず、これはウエハのその場曲率の勾配が明らかに減少するときの厚さに相当する。この厚さは、超格子積層体内の平均アルミニウム含有量および層構造に依存する。これらの実施形態では、少なくとも1つの超格子積層体は、好ましくは、圧縮応力が緩和し始める厚さを有し、これは、ウエハのその場曲率の勾配が明らかに減少するときの厚さに相当する。例えば、少なくとも1つの超格子積層体の好ましい厚さは、少なくとも、その場ウエハ曲率の勾配が0.015km-1/s未満に低下するときの厚さであってもよい。上記は、それぞれの超格子積層体にさらに適用されてもよい。
【0020】
本開示の実施形態では、第1および/または第2の超格子積層体の少なくとも1つの隣接する対の層の間において、バッファ層構造内に少なくとも部分的な歪緩和が存在する。歪緩和は、部分的歪緩和から全歪緩和の範囲内の任意の程度であり得る。ここで歪緩和とは、面内歪の緩和を意味する。少なくとも1つの超格子積層体の、2つの相互に接触する層の間に少なくとも部分的な歪緩和を有することにより、バッファ層構造をより大きな厚さで形成することができる。バッファ層構造の成長の際には圧縮歪が蓄積することがあり、ベース基板のその場曲率が増加することがある。その場曲率が限界量(ベース基材固有の正確な値)を超えて増加すると、ベース基材の塑性変形が起こることがある。超格子積層体の少なくとも1つに少なくとも部分的な歪緩和を有することにより、塑性変形が生じる限界量に達することなくより厚いバッファ層構造が形成され得るように、その場曲率の増加率を減少させることができる。
【0021】
第1および/または第2の超格子積層体の隣接する対の層は、少なくとも部分的な歪緩和層を有する隣接する対以外では、仮像層であってもよい。ここで仮像層対とは、上層の(面内の)格子定数と下層の(面内の)格子定数とが一致する、下層と上層の対を意味する。
【0022】
本開示の実施形態では、第1、第2、および/または追加の超格子ユニットは、少なくとも3つのAlGaN層から構成されてもよく、および/または、最大5つのAlGaN層から構成されてもよい。超格子ユニット(したがって積層体)の平均アルミニウム含有量が本開示の実施形態について定義された範囲内である限り、層のアルミニウム含有量を任意に選択することによって、ウエハ反りをさらに制御するなどの他の理由のために最適化することができる。
【0023】
本開示の実施形態では、第1、第2、および/または追加の超格子ユニットは、AlNの層、例えば底部層を有する。
【0024】
本開示の実施形態では、第1、第2、および/または追加の超格子ユニットは、0<j≦0.5であるAlGa1-jNの層、例えば上層を有する。
【0025】
本開示の実施形態では、第1、第2、および/または追加の超格子積層体から選択される1つまたは複数の層は、耐圧をさらに改善するために不純物原子を含んでもよい。不純物原子濃度は、1×1018[atoms/cm]より高くてもよい。不純物原子は、C原子、Fe原子、Mn原子、Mg原子、V原子、Cr原子、Be原子、およびB原子からなる群から選択される1または複数の種であってもよい。不純物原子は、C原子またはFe原子であることが好ましい。
【0026】
本明細書に記載の他の態様と組み合わせることが可能な別の態様では、本開示によって、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板を製造する方法が提供され、この方法は、ベース基板を用意するステップと、ベース基板上にバッファ層構造を成長させるステップと、バッファ層構造上にIII-N積層体を成長させるステップとを含み、このバッファ層構造は、少なくとも第1の超格子積層体と、この第1の超格子積層体の上の第2の超格子積層体とを含む。第1の超格子積層体は、複数の第1のAlGaN層から構成される第1の超格子ユニットの繰返しを含み、第1のAlGaN層のそれぞれは0≦x≦1であるAlGa1-xNによって構成され、xは第1のAlGaN層の間で異なる。第2の超格子積層体は、複数の第2のAlGaN層から構成される第2の超格子ユニットの繰返しを含み、第2のAlGaN層のそれぞれは0≦y≦1であるAlGa1-yNによって構成され、yは第2のAlGaN層の間で異なる。バッファ層構造を成長させると、第1の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が第2の超格子積層体の平均アルミニウム含有量よりも高い所定差となるように、プロセス条件が制御される。所定差によって、パワーエレクトロニクス装置用のIII-N系基板の耐圧を改善することができる。
【0027】
III-N系基板に関する上記の態様に関連して説明した利点、詳細、および実施形態は、本方法の態様に対応して適用することができる。したがって、上記を参照する。
【0028】
第1の超格子積層体すなわち下部の超格子積層体が、耐圧を高めることができる程度に第2の超格子積層体すなわち上部の超格子積層体よりも高い平均アルミニウム含有量を有するように、プロセス条件を制御できることが明らかとなっている。本開示の実施形態では、アルミニウム含有量の所定差の結果として、順方向および/または逆方向の縦バイアスにおける少なくとも150V/μmの破壊電界強度が達成され得ることが明らかとなっている。
【0029】
本開示の実施形態では、アルミニウム含有量の所定差によって、室温(25℃)での基板反りを許容範囲内に制御することができ、例えば直径200mmの基板については50μm未満である。第1の(下部の)超格子積層体における平均アルミニウム含有量(すなわち等価アルミニウム含有量)が、第2の(上部の)超格子積層体よりも高いことで、単一の超格子積層体のみを有するバッファと比較して、薄いスタック厚でバッファ耐圧を改善するだけでなく、基板反りの制御にも同時に寄与できることが明らかとなっている。これは、下部の超格子積層体よりも上部の超格子積層体の平均アルミニウム含有量が低いことで、冷却中に生じる引張応力を補償することができる追加の圧縮応力がスタックに発生するためである。
【0030】
本開示による実施形態では、III-N材料系基板は、有機金属気相成長法(MOVPE)または分子線エピタキシ(MBE)を使用してSi、サファイア、およびSiCなどの異種基板上に成長される。
【0031】
本開示による実施形態では、第1および/または第2の超格子積層体の少なくとも1つの隣接する対の層の間に少なくとも部分的な歪緩和が生じるように、バッファ層構造が成長される。歪緩和は、部分的歪緩和から全歪緩和の範囲内の任意の程度であり得る。ここで歪緩和とは、面内歪の緩和を意味する。上述のように、少なくとも1つの超格子積層体の、2つの層の間に少なくとも部分的な歪緩和を有することにより、バッファ層構造をより大きな厚さで形成することができる。
【0032】
第1および/または第2の超格子積層体の隣接する対の層は、少なくとも部分的な歪緩和層を有する隣接する対以外では、仮像成長されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本開示は、以下の説明および添付の図面によってさらに明らかになるであろう。
図1】本開示による階段状SLバッファを有するGaN系パワーHEMT(またはダイオード)スタックの概略的な例を示す。
図2】本開示による等価アルミニウム含有量を計算するための式の例を示す。
図3】2つのSL積層体を有する本開示による実施例1を示しており、等価Al%の差は、SLユニットの最上層のAl含有量を変化させることによって達成される。
図4図3の構造に関する、25℃および150℃での縦方向バッファ耐圧(Vbd)測定結果を示す。
図5】2つのSL積層体を有する本開示による実施例2を示しており、等価Al%の差は、SLユニットの最上層の厚さを変化させることによって達成される。
図6図5の構造に関する、25℃および150℃での縦方向バッファ耐圧(Vbd)測定結果を示す。
図7】単一のSL積層体を有する基準スタックを示す。
図8】単一のSL積層体を有する基準スタックを示す。
図9】両方のバイアス極性における25℃および150℃のそれぞれ2つの実施例および基準のVbd測定の概要を示す。
図10】本開示による階段状SLバッファの実施形態を構築する際の、その場ウエハ曲率の経時的な変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示は、特定の実施形態に関して、かつ特定の図面を参照して説明されるが、本開示はそれに限定されず、請求項によってのみ限定される。記載された図面は概略的なものに過ぎず、限定的ではない。図面において、要素のいくつかのサイズは、説明のために誇張されており、縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法および相対的な寸法は、本開示の実施のための実際の縮小に必ずしも対応していない。
【0035】
さらに、明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも逐次的または時間的な順序を説明するためではない。これらの用語は適切な状況下で交換可能であり、本開示の実施形態は、本明細書に記載または例示される以外の順序で動作することができる。
【0036】
さらに、明細書および特許請求の範囲における上部、下部、上方、上、下方などの用語は説明目的で使用され、必ずしも相対的な位置を説明するためではない。このように使用される用語は適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載される開示の実施形態は、本明細書に記載または例示される以外の方向で動作することができる。例えば、上方および下方という用語は、ベース基板(またはその上に形成された層のいずれか)の(延伸の主平面または主表面の)垂直方向に沿う方向および反対の方向をそれぞれ指してもよい。
【0037】
さらに、様々な実施形態は、「好ましい」と表すが、開示の範囲を限定するものではなく、本開示を実施することができる例示的なものとして解釈されるべきである。
【0038】
特許請求の範囲で使用される用語「含む(comprising)」は、その後に列挙された要素またはステップに限定されるものとして解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを排除するものではない。参照された特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を特定するものとして解釈される必要があるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、もしくは構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。したがって、「AおよびBを含む装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみから構成される装置に限定されるべきではなく、代わりに本開示に関して、装置の構成要素のうち列挙されたものがAおよびBのみであり、さらに請求項はこれらの構成要素の等価物を含むものと解釈されるべきである。
【0039】
この開示では、階段状超格子(SL)バッファ方式が提示されており、その実施形態は従来のSLバッファと比較して、バッファの厚さの点でリーク阻止能力を向上させるために有効であるだけでなく、その場凸型ウエハ湾曲を生じさせるのにより有効である。
【0040】
階段状SLバッファ方式は、SL構造の複数のブロックまたは積層体を含んでもよい。このような階段状SLバッファを有するGaN系パワーHEMT(またはダイオード)スタックの一例が、図1に概略的に示されている。図示のように、各SL積層体はSLユニットの繰返しから構成され、さらに各SLユニットは、複数のAlGaN層、好ましくは3~5層のAlGaN層から構成される。ベース基板は、III-N材料に対して異種基板、例えばSi基板、サファイア基板、またはSiC基板であってもよい。ベース基板とSL積層体との間には、任意の核生成層および/または遷移層を設けてもよい。上部のSL積層体の上には、すなわちGaNチャネル層の下には、任意のさらなる(Al)GaN層を設けてもよく、これは意図的または非意図的にCドープされ得る。
【0041】
SL1積層体では、SL1積層体の等価(平均)Al%はAleq-1%である。SLn積層体では、SLn積層体の等価(平均)Al%はAleq-n%である。等価Al%は式を用いて計算されるが、厚さがDAlNのAlNの層と厚さがDAlGaNのAlGa1-xNの層とから構成されるSLユニットの例が図2に示されている。本開示全体にわたって、指数「x」、「y」、「z」などは、原子百分率を指す。
【0042】
本開示の実施形態では、Aleq-n%<Aleq-(n-1)%<Aleq-(n-2)%<Aleq-(n-3)%<...<Aleq-1%(用語「階段状超格子バッファ」の由来)である必要がある。それによって、よりAleq%の高いSL積層体は、リーク阻止能力を向上させる上でより効果的であり得る一方で、より大きなその場凸型ウエハ湾曲を各SL積層体の間に生じさせることができる。SL積層体は、電気抵抗をさらに増加させるために、C濃度≧1E18cm-3であることが好ましい。
【0043】
以下に、比較例として、階段状SLバッファの有効性を証明する実験結果を示す。すべての例は、200mmのSi基板上で成長させる。
【0044】
図3は、本開示による実施例1を示す。スタックの概略図には、このバッファ構造内の2つのSL積層体が示されており、総スタック厚は4μm以下である(200nmのAlN核生成層+1μmのSL1+1.65μmのSL2+1μmのC-GaN+300nmのGaNであり、これは垂直Vbd全体に寄与する全スタックである)。SL1積層体の等価Al%は40.6%であり、SL2積層体は23.6%である。SL1積層体およびSL2積層体はいずれもSLユニットの繰返しによって構成され、各SLユニットは、AlN層(5nm)と、それぞれその上部の、SL1ではAlGa1-xN(28nm)、SL2ではAlGa1-yN層(28nm)とによって構成されている。等価Al%の差は最上層のAl含有量を変化させることによって達成され、この実施例ではxが0.3であり、yが0.1である。SL1は30回の繰返しから構成され、SL2は50回の繰返しから構成される。右側の図は、このスタックの成長中に記録されたその場ウエハ曲率であり、曲線の急激な上昇および幅の狭い高周波振動が測定システムのアーチファクトである。正の曲率は凸状のウエハ形状を表し、負の曲率は凹状のウエハ形状を表す。ストーニーの公式によれば、その場ウエハ曲率の勾配は、成長フロントにおける面内応力に比例する。正の勾配は圧縮面内応力を示し、負の勾配は引張面内応力を示す。その場ウエハ曲率は、SL成長全体を通して、冷却中の引張応力を効果的に補償し、エピタキシャルウエハの反りを最小限に抑えることができる圧縮応力を維持できることを示している。特に、SL2積層体が成長し始めると、その場曲率の勾配の明らかな増加が認められる。これは、SL2積層体中の等価Al%がSL1積層体中よりも低いために、SL1積層体上にSL2積層体を成長させるときの格子不整合によって生じる圧縮応力によるものであり(AlGa1-xN層の場合、xが小さいほど格子定数は大きくなる)、一方でSL1積層体の圧縮歪は、SL2積層体を成長させる前に既に十分に緩和されている。破線の四角で示された領域は、それぞれSL1およびSL2積層体の成長中のその場曲率を表す。
【0045】
最終的なエピタキシャルウエハの反り(室温、すなわち25℃)は+40μmである。反りの正の符号は、その場曲率(すなわち、凸状のウエハ形状)と同様である。200mmのSi CMOSラインでのデバイス加工では、ウエハ反りの標準的なSPECは±50μm以下であり、正の反りはエピタキシャルウエハの完全性を安定させる上でより好ましい。したがって、この実施例1で達成されるウエハ反りは許容範囲内となる。
【0046】
図4は、25℃および150℃での縦方向バッファ耐圧(Vbd)測定結果を示す。測定方法を左側に示し、正方形(100μm×100μm)の金属ドットを、Ti/Auメタライゼーションおよびリフトオフによってサンプル上で処理したことを示す。バッファ耐圧は、リーク電流が1μA/mmに達するときの電圧として定義される。測定値から、バッファ構造の総厚がわずか4.14μmであっても耐圧が高いことが実証される。
【0047】
図5は、本開示による実施例2を示す。スタックの概略図には、このバッファ構造内の2つのSL積層体が示されており、総厚は4μm以下である。SL1積層体の等価Al%は40.0%であり、SL2積層体は23.6%である。SL1積層体およびSL2積層体はいずれもSLユニットの繰返しによって構成され、各SLユニットは、AlN層(5nm)と、それぞれその上部の、SL1ではAlGa1-xN層(10nm)、SL2ではAlGa1-yN層(28nm)とによって構成されている。この例ではx=y=0.1であり、等価Al%の差は最上層の厚さを変えることによって達成される。SL1は66回の繰返しから構成され、SL2は50回の繰返しから構成される。右側の図は、このスタックの成長中に記録されたその場ウエハ曲率であり、曲線の急激な上昇および幅の狭い高周波振動が測定システムのアーチファクトである。正の曲率は凸状のウエハ形状を表し、負の曲率は凹状のウエハ形状を表す。ストーニーの公式によれば、その場ウエハ曲率の勾配は、成長フロントにおける面内応力に比例する。正の勾配は圧縮面内応力を示し、負の勾配は引張面内応力を示す。その場ウエハ曲率は、SL成長全体を通して、エピタキシャルウエハの反りを最小限に抑えるために冷却中の引張応力を効果的に補償することができる圧縮応力を維持できることを示している。特に、SL2積層体が成長し始めると、その場曲率の勾配の明らかな増加が認められる。これは、SL1積層体およびSL2積層の両方におけるAlGaN層のAl%は同じであるが、SL2積層体の等価Al%がSL1積層体よりも低いために、SL1積層体上にSL2積層体を成長させるときの格子不整合によって生じる圧縮応力によるものである(一方でSL1積層体の圧縮歪は、SL2積層体を成長させる前に既に十分に緩和されている)。破線の四角で示された領域は、それぞれSL1およびSL2積層体の成長中のその場曲率を表す。
【0048】
最終的なエピタキシャルウエハの反り(冷却後)は約-20μmである。反りの正の符号は、その場曲率(すなわち、凸状のウエハ形状)と同様である。200mmのSi生産ラインでのデバイス加工では、ウエハ反りの標準的なSPECは±50μm以下であり、正の反りはエピタキシャルウエハの完全性を安定させる上でより好ましい。したがって、最終的な反りは許容範囲内となる。
【0049】
図6は、25℃および150℃での縦方向バッファ耐圧(Vbd)測定結果を示す。測定値から、バッファ構造の総厚がわずか4.14μmであっても耐圧が高いことが実証される。
【0050】
参考として、単一のSL積層体を有するスタックを図7および図8に示す。SL積層体は、実施例1および2におけるSL2積層体と同じSLユニット、すなわちAlN層(5nm)と、10%のAlを含む上部のAlGaN層(28nm)との100回の繰返しから構成される。総スタック厚は5.4μm以下である。SL積層体が1つしかないため、SLの成長中に追加の圧縮応力が生じることがなく、室温(25℃)でのウエハ反りも-40μm以下となり、これもあまり好ましいとはいえない。このスタックのVbdは実施例1および2のVbdと類似しているが、その厚さははるかに大きい。その結果、比較における基準スタックの破壊電界強度ははるかに低い。
【0051】
図9は、両方のバイアス極性における25℃および150℃のそれぞれ2つの実施例および基準のVbd測定の概要を示す。この図は、すべての条件において、特に150℃において、2つの実施例における破壊電界強度が基準よりもはるかに高いことを明確に示している。
【0052】
図10は、好ましくは超格子積層体の十分な歪緩和を可能にするのに十分な、少なくとも1つの超格子積層体の好ましい厚さの説明として提供される。曲線の急激な上昇および幅の狭い高周波振動は、測定システムのアーチファクトである。好ましい厚さは、ウエハのその場曲率の勾配が明らかに減少するときの厚さに相当する(SLユニットの追加は、少なくともその場ウエハ曲率の勾配が0.015km-1/s未満に低下するまで継続される)。この厚さは、超格子積層体の平均アルミニウム含有量および層構造に依存する。図は一例を示し、矢印は、その場ウエハ曲率の勾配が、明らかに減少しているとみなされる箇所を示し、したがって歪緩和のための適切な厚さが得られた箇所を示している。
【0053】
なお、図10は単なる一例を示しており、バッファ層構造の成長は、第1または第2の超格子積層体において、下部、中間、または上部の隣接する1対の層の間で、少なくとも部分的な面内歪緩和が起こるように行われてもよいことに留意すべきである。対は、下層と、この下層上に形成された上層とを含んでもよく、上層は、バッファ層構造の成長中に、下層に対して少なくとも部分的に歪緩和されるようになるか、またはそのように形成される。歪緩和は、例えば、層の臨界厚さを超える厚さまで上層を成長させることによって達成することができる。または、仮像層(すなわち、臨界厚さよりも薄い)として上層を成長させ、その後、上部にさらなる層が成長した後に部分歪緩和させてもよい。歪緩和は、第1の超格子積層体内および/または第2の超格子積層体内の1つまたは複数の位置で生じ得る。超格子積層体の他の層はすべて、仮像層を形成することができる。例えば図5の実施例では、歪緩和は、SL1の下側部分において既に生じていることが確認できる。
【0054】
III-N基板の完成および冷却に続いて、(少なくとも)下層と隣接する上層との間に、少なくとも部分的な歪緩和がバッファ層構造中に存在してもよい。隣接する下層および上層の格子不整合誘起面内歪fは、f=(c-c)/cと定義することができ、cは下層の面内格子定数であり、 は、緩和された上層の面内格子定数である。仮像上層の場合、上層の面内格子定数は下層の面内格子定数と一致する。
【0055】
上記において、本発明の概念は、限定された数の例を参照して主に説明された。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、上に開示したもの以外の他の例も、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の概念の範囲内で等しく可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10