(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】溶解装置
(51)【国際特許分類】
F27D 11/06 20060101AFI20221017BHJP
H05B 6/24 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
F27D11/06 Z
H05B6/24
(21)【出願番号】P 2017227728
(22)【出願日】2017-11-28
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】松永 和久
(72)【発明者】
【氏名】竹内 章浩
(72)【発明者】
【氏名】三摩 達雄
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-199324(JP,A)
【文献】特開平03-199317(JP,A)
【文献】特開平03-199323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 11/00-11/12
F27B 3/00- 3/28
F27B 14/00-14/20
H05B 6/00- 6/10
H05B 6/14- 6/44
C22B 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解原料が挿入される加熱コイル部と、
前記加熱コイル部の下方側に配置され、前記溶解原料の下端を下方から支持するとともに、溶解された前記溶解原料が流通して落下する
2つのみの貫通孔が設けられている支持部とを備え、
前記溶解原料の下端を支持する前記支持部の原料支持面部は、前記加熱コイル部の内部の前記加熱コイル部の下端よりも上方の位置に配置されているとともに、平面視における前記溶解原料の下端の中央部を支持する前記
2つの貫通孔の間の部分により構成されており、かつ、前記支持部の中央部に配置されており、
前記
2つの貫通孔が隣り合う方向における前記貫通孔の幅は、前記隣り合う方向における前記
2つの貫通孔の間の部分の幅よりも2倍以上大きい、溶解装置。
【請求項2】
前記原料支持面部は、前記加熱コイル部の下端から、鉛直方向における前記加熱コイル部の長さの18%以上の長さ分、上方に配置されている、請求項1に記載の溶解装置。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記支持部の前記原料支持面部の近傍において鉛直方向に延びるように設けられている、請求項1または2に記載の溶解装置。
【請求項4】
平面視において、前記貫通孔は、円形形状を有しており、
前記貫通孔の直径は、前記
2つの貫通孔が隣り合う方向における前記原料支持面部の幅よりも2倍以上大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶解装置。
【請求項5】
前記溶解原料は、非磁性材料を含み、
前記加熱コイル部は、誘導加熱式の前記加熱コイル部を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶解装置に関し、特に、溶解原料が挿入される加熱コイル部を備える溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶解原料が挿入される加熱コイル部を備える溶解装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、アルミニウムのインゴットが挿入されるとともに溶解される挿入・溶解炉を備える溶解装置が開示されている。この溶解装置では、耐火レンガなどにより形成された筒状の挿入・溶解炉の外周側に誘導加熱コイルが設けられている。そして、挿入・溶解炉に挿入されたアルミニウムのインゴットが、誘導加熱コイルにより加熱されることにより溶解される。また、筒状の挿入・溶解炉は、貫通孔を有する板状の冷材受けの表面上に設けられている。そして、溶解されたアルミニウムは、冷材受けの貫通孔を介して下方に滴下される。
【0004】
また、上記特許文献1に記載の溶解装置において、誘導加熱コイルは、鉛直方向において、筒状の挿入・溶解炉の下端よりも上方の部分(挿入・溶解炉が配置される板状の冷材受けの表面から所定の距離だけ離間した上方の部分)に配置されている。また、筒状の挿入・溶解炉に挿入されたアルミニウムのインゴットの下端は、板状の冷材受けの表面上に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載される溶解装置では、誘導加熱コイルは、挿入・溶解炉が配置される板状の冷材受けの表面から所定の距離だけ離間した上方の部分に配置されているので、筒状の挿入・溶解炉に挿入されたアルミニウムのインゴットの下端側(下端および下端近傍)の部分は、誘導加熱コイルの下端から下方に突出した状態となる。このため、アルミニウムのインゴットの下端および下端の近傍の部分に誘導加熱コイルからの磁束が十分に到達しないため、アルミニウムのインゴット(溶解原料)の下端および下端の近傍の部分の溶解に比較的長い時間を要する場合がある。この場合、アルミニウムのインゴット(溶解原料)の溶解が円滑に行えないという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、溶解原料の溶解を円滑に行うことが可能な溶解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による溶解装置は、溶解原料が挿入される加熱コイル部と、加熱コイル部の下方側に配置され、溶解原料の下端を下方から支持するとともに、溶解された溶解原料が流通して落下する2つのみの貫通孔が設けられている支持部とを備え、溶解原料の下端を支持する支持部の原料支持面部は、加熱コイル部の内部の加熱コイル部の下端よりも上方の位置に配置されているとともに、平面視における溶解原料の下端の中央部を支持する2つの貫通孔の間の部分により構成されており、かつ、支持部の中央部に配置されており、2つの貫通孔が隣り合う方向における貫通孔の幅は、隣り合う方向における2つの貫通孔の間の部分の幅よりも2倍以上大きい。
【0009】
この発明の一の局面による溶解装置では、上記のように、溶解原料の下端を支持する支持部の原料支持面部は、加熱コイル部の内部の加熱コイル部の下端よりも上方の位置に配置されている。これにより、溶解原料の下端が加熱コイル部の内部の加熱コイル部の下端よりも上方の位置に配置されるので、溶解原料の下端および下端の近傍の部分に加熱コイル部からの磁束が十分に到達する。その結果、溶解原料の下端および下端の近傍の部分を迅速に溶解することができるので、溶解原料の溶解を円滑に行うことができる。
ここで、溶解原料を加熱コイル部の磁束によって加熱する場合、表皮効果によって溶解原料の表面が主に加熱される。その結果、溶解原料の外表面から溶解が始まり、溶解原料の中央部は、比較的遅い段階で溶解される。つまり、溶解原料の外表面から徐々に中心に向かって溶解が進む。さらに、溶解原料の下端(角部)に磁束が集中するので、下端側の溶解の進行の度合いが速い。その結果、溶解原料は下方に向かって先細る形状となる。そこで、原料支持面部を溶解原料の下端の中央部を支持するように構成することによって、溶解原料の先細った先端(下端)側を安定した状態で支持することができる。
また、原料支持面部に隣り合うように複数の貫通孔が設けられる。そして、溶解原料から溶解した溶解原料は、先細った形状の溶解原料の先端側(原料支持面部に接触する部分)に向かって流れるので、溶解された溶解原料を、原料支持面部に隣り合う複数の貫通孔からよりスムーズに落下させることができる。
【0010】
上記一の局面による溶解装置において、好ましくは、原料支持面部は、加熱コイル部の下端から、鉛直方向における加熱コイル部の長さの18%以上の長さ分、上方に配置されている。このように構成すれば、原料支持面部が加熱コイル部の下端近傍に配置される場合と比べて、溶解原料のおよび下端の近傍の部分に加熱コイル部からの磁束がより十分に到達するので、溶解原料の下端および下端の近傍の部分をより迅速に溶解することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、支持部の原料支持面部の近傍には、鉛直方向に延びるとともに溶解された溶解原料が流通して落下する貫通孔が設けられている。このように構成すれば、溶解された溶解原料を、貫通孔を介してスムーズに下方に落下(滴下)させることができる。また、溶解原料の下端の中央部が原料支持面部により安定した状態で支持されているので、溶解原料が貫通孔に落ち込むことはない。
【0014】
上記一の局面による溶解装置において、好ましくは、平面視において、貫通孔は、円形形状を有しており、貫通孔の直径は、2つの貫通孔が隣り合う方向における原料支持面部の幅よりも2倍以上大きい。このように構成すれば、貫通孔の直径が比較的大きくなるので、溶解された溶解原料を貫通孔からさらにスムーズに落下させることができる。その結果、溶解された溶解原料が原料支持面部に留まるのを抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による溶解装置において、好ましくは、溶解原料は、非磁性材料を含み、加熱コイル部は、誘導加熱式の加熱コイル部を含む。ここで、非磁性材料は、磁束に起因する渦電流による発熱が比較的小さい。つまり、非磁性材料を含む溶解原料は溶解させにくい。そこで、比較的高い周波数の交流を誘導加熱式の加熱コイル部に流すことによって、比較的大きな磁束が発生するので、非磁性材料を含む溶解原料を容易に溶解させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、溶解原料の溶解を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】一実施形態による溶解装置の加熱部の断面図である。
【
図4】一実施形態による溶解装置の加熱コイル部の斜視図である。
【
図5】一実施形態による溶解装置の加熱コイル部の上面図である。
【
図6】一実施形態による溶解装置の加熱部の下面図である。
【
図7】一実施形態による溶解装置の支持部の斜視図である。
【
図8】一実施形態による溶解装置の支持部の上面図である。
【
図9】一実施形態による溶解装置の支持部の側面図である。
【
図10】シミュレーションにより求めた加熱コイル部の近傍の磁束密度の分布を示す図(加熱コイル部の下端と溶解原料の下端とが略面一の状態)である。
【
図11】シミュレーションにより求めた加熱コイル部の近傍の磁束密度の分布を示す図(溶解原料が加熱コイル部の内部に挿入された状態)である。
【
図12】シミュレーションにより求めた加熱コイル部の近傍のジュール熱密度の分布を示す図である。
【
図13】溶解原料が溶解する状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[本実施形態]
図1~
図13を参照して、本実施形態による溶解装置100の構成について説明する。
【0020】
(溶解装置の構成)
図1に示すように、溶解装置100は、高周波電源盤1を備えている。高周波電源盤1は、後述する加熱コイル部11に、高周波(たとえば、10kHz)の交流電力を供給するように構成されている。また、高周波電源盤1の正面には、高周波電源のブレーカ2が設けられている。ブレーカ2をオンさせることにより、高周波電源盤1から加熱コイル部11に高周波の交流電力が供給される。また、高周波電源盤1には、操作パネル3が設けられている。操作パネル3には、たとえば、溶解装置100の運転の準備が完了したことが表示される。また、操作パネル3には、後述する加熱コイル部11に通電するためのスイッチが表示される。また、操作パネル3には、加熱コイル部11に供給する電力の供給量を調節するためのボリュームが表示される。また、
図2に示すように、高周波電源盤1の側面には、冷却水が供給および排出される冷却水取り合い部4が設けられている。
【0021】
また、溶解装置100は、後述する加熱コイル部11が設けられる加熱部10が設けられている。加熱部10は、高周波電源盤1に隣接するように設けられている。
【0022】
図3に示すように、溶解装置100の加熱部10には、溶解原料200が挿入される加熱コイル部11が設けられている。なお、本実施形態では、溶解原料200は、非磁性材料からなる。たとえば、溶解原料200は、アルミニウム、亜鉛、銅などからなる。また、溶解原料200は、インゴット(精製された金属が一塊にされたもの)として構成されている。また、溶解原料200は、略角柱形状(略直方体形状)を有する。また、溶解原料200は、溶解原料200が延びる方向(Z方向)から見て、略直方形状を有する。
【0023】
ここで、本実施形態では、加熱コイル部11は、誘導加熱式の加熱コイル部11である。つまり、高周波電源盤1から供給される交流電力により、加熱コイル部11から磁束(磁界)が発生する。そして、この磁束により、加熱コイル部11の内部に挿入された溶解原料200の表面近傍に高密度の渦電流が発生する。そして、この渦電流のジュール熱によって、溶解原料200の表面が発熱(表皮効果)される。
【0024】
図4および
図5に示すように、加熱コイル部11は、溶解原料200の形状に沿った形状を有する。具体的には、加熱コイル部11は、鉛直方向(Z方向)から見て、略長方形形状に巻回されている。つまり、加熱コイル部11は、略直方体形状の溶解原料200の外周を取り囲むように形成されている。
【0025】
また、加熱コイル部11は、耐火レンガなどから構成される炉部分12に覆われている。また、炉部分12は、耐火レンガなどから構成される下面部13上に配置されている。また、下面部13は、耐熱積層ガラスなどからなる台座部14に配置されている。また、加熱コイル部11、炉部分12、下面部13、および、台座部14は、筐体15に覆われている。
【0026】
炉部分12および筐体15の上面側には、それぞれ、孔部12aおよび孔部15aが設けられている。孔部12aおよび孔部15aは、上方から見て、溶解原料200の形状に沿った形状(略長方形形状)を有する。そして、溶解原料200は、孔部12aおよび孔部15aを介して、加熱コイル部11の内部に挿入されている。
【0027】
また、下面部13、台座部14および筐体15の下面側には、それぞれ、孔部13a、孔部14a、および、孔部15bが設けられている。
図6に示すように、孔部13a、孔部14a、および、孔部15bは、下方(Z2方向側)から見て、略長方形形状を有する。また、孔部13a、孔部14a、および、孔部15bの大きさは、この順に大きくなる。
【0028】
また、
図3に示すように、加熱部10には、略L字形状の取付部16が設けられている。そして、加熱部10は、この取付部16により、高周波電源盤1に取り付けられる。
【0029】
ここで、本実施形態では、溶解装置100には、加熱コイル部11の下方側に配置され、溶解原料200の下端200aを下方から支持する支持部20を備えている。そして、溶解原料200の下端200aを支持する支持部20の原料支持面部21は、加熱コイル部11の内部の加熱コイル部11の下端11aよりも上方(Z1方向側)の位置に配置されている。具体的には、本実施形態では、原料支持面部21は、加熱コイル部11の下端11aから、鉛直方向における加熱コイル部11の長さL11の18%以上の長さL12分、上方に配置されている。より好ましくは、原料支持面部21は、加熱コイル部11の下端11aから、加熱コイル部11の長さL11の25%以上の長さL12分、上方に配置されている。これにより、溶解原料200の下端200aが原料支持面部21により位置決めされるので、溶解原料200の下端200aは、加熱コイル部11の下端11aから、距離L12分、上方の位置に配置される。
【0030】
図7~
図9に示すように、支持部20は、耐火レンガなどにより構成されている。また、支持部20は、溶解原料200の形状に沿った形状(略直方体形状)を有する。
【0031】
また、本実施形態では、
図7に示すように、平面視において、原料支持面部21は、溶解原料200の下端200aの中央部Cを支持するように構成されている。具体的には、支持部20の原料支持面部21の近傍には、鉛直方向に延びるとともに溶解された溶解原料200が流通して落下する貫通孔22が設けられている。また、貫通孔22は、複数(本実施形態では、2個)設けられている。そして、原料支持面部21は、支持部20における複数(2つ)の貫通孔22の間の部分(貫通孔22aと貫通孔22bとの間の部分)により構成されている。詳細には、溶解される前の溶解原料200は、支持部20の上面の貫通孔22以外の部分に支持される。また、溶解原料200の溶解が進むにつれて、溶解原料200は下方に先細る形状(
図13参照)になる。そして、この先細った状態の溶解原料200の先端側が、複数(2つ)の貫通孔22の間の部分により構成されている原料支持面部21により支持される。
【0032】
また、本実施形態では、
図8に示すように、平面視において、貫通孔22は、円形形状を有している。そして、貫通孔22の直径r2は、複数の貫通孔22が隣り合う方向(X方向)における原料支持面部21の幅Wよりも大きい。なお、2つの貫通孔22は、互いに同じ形状(同じ直径)を有する。そして、たとえば、直径r2は、幅Wの2倍以上である。なお、貫通孔22の直径r2は、溶解した溶解原料200が貫通孔22を介してスムーズに下方に落下するように調整される。また、幅Wは、先細った状態の溶解原料200(
図13参照)が安定的に支持されるように調整される。
【0033】
また、
図9に示すように、支持部20のうち、加熱コイル部11の内部に配置される部分の長さL21は、加熱コイル部11の外部に配置される部分の長さL22よりも大きい。なお、長さL21は、原料支持面部21を加熱コイル部11の内部のいずれの位置に配置するかによって調整される。したがって、長さL21が長さL22よりも小さい場合もある。また、加熱コイル部11の内部に配置される部分の長さL21は、溶解原料200の種類に応じて、最適な長さに調整される。
【0034】
また、
図3に示すように、支持部20は、下面部13の表面上に配置されている。支持部20の大きさは、下面部13の孔部13aの大きさよりも大きい。これにより、支持部20が下面部13に支持される。その結果、支持部20の落下が防止される。
【0035】
(磁束密度およびジュール熱密度の解析)
次に、加熱コイル部11から発生する磁束密度およびジュール熱密度の解析(シミュレーション)について説明する。
【0036】
まず、
図10に示すように、溶解原料200の下端200aの高さ位置と、加熱コイル部11の下端11aの高さ位置とを同じ(略面一)にした場合について説明する。この場合、溶解原料200の下端200a近傍における磁束密度(磁界)は比較的低く、溶解原料200を十分に溶解することができないことが確認された。理由として、溶解原料200の側面200bによって磁気が遮断され、溶解原料200の下端200aの角部200cまで十分に磁束が到達しないと考えられる。すなわち、角部200cにおいて、エッジ効果が生じないため、磁束が集中しない。このため、溶解原料200が十分に溶解されずに固体として残存すると考えられる。
【0037】
一方、
図11に示すように、溶解原料200の下端200aを、加熱コイル部11の下端11aから、加熱コイル部11の長さの18%~25%程度の長さ分、上方に配置した場合、溶解原料200の下端200aにおける磁束密度が比較的高くなることが確認された。その結果、溶解原料200の下端200aの角部200cまで十分に磁束が到達するので、角部200cにおいて、エッジ効果が生じる。その結果、角部200cに磁束が集中するので、溶解原料200の全てを溶解できることが確認された。
【0038】
また、
図12に示すように、角部200cに磁束が集中するので、角部200cにおけるジュール熱密度(温度)が比較的高くなることが確認された。なお、
図12は、溶解原料200が1/4に分割された状態で、かつ、溶解原料200が先細る形状の場合のシミュレーションの結果が示されている。この
図12から、溶解原料200において、加熱コイル部11との間の距離が小さい部分ほど、ジュール熱密度(温度)が高くなることが確認された。なお、先細る形状の溶解原料200において、先端部(角部200c)は加熱コイル部11との間の距離が大きい一方、エッジ効果によりジュール熱密度(温度)が高くなることが確認された。これにより、溶解原料200の角部200cから、溶解原料200が溶解することが確認された。
【0039】
(原料支持面部の配置位置についての実験)
次に、加熱コイル部11の内部における原料支持面部21の配置位置に対する、溶解原料200の溶解の状態を確認するために行った実験について説明する。
【0040】
原料支持面部21を、鉛直方向における加熱コイル部11の長さL11の18%未満(0%、5%、10%、15%など)の分、加熱コイル部11の下端11aよりも上方の位置に配置した場合、溶解原料200を十分に溶解できずに、固体の溶解原料200が残留することが確認された。一方、原料支持面部21を、鉛直方向における加熱コイル部11の長さL11の18%以上、加熱コイル部11の下端11aよりも上方の位置に配置した場合、溶解原料200を十分に溶解できることが確認された。
【0041】
(溶解装置の動作)
次に、溶解装置100の動作について説明する。
【0042】
まず、高周波電源(図示せず)のブレーカ2(
図1参照)がオンされる。これにより、高周波電源盤1の内部に設けられたIHインバータ(図示せず)に比較的低い電圧(200V+10%)が供給される。これにより、運転の準備が行われる。
【0043】
次に、冷却水取り合い部4に、高周波電源を冷却するための冷却水が供給される。そして、運転の準備が完了することにより、操作パネル3に、溶解装置100の運転の準備が完了したことが表示される。これにより、加熱コイル部11への通電が可能になる。
【0044】
次に、操作パネル3に表示される、加熱コイル部11に通電するためのスイッチをオンにする。そして、操作パネル3に表示される、電力の供給量を調節するためのボリュームにより設定された値に基づいて、加熱コイル部11に交流電流(高周波電流)が供給される。
【0045】
そして、
図13(a)に示すように、表皮効果によって、溶解原料200の外表面から溶解が始まる。溶解された溶解原料200は、支持部20の貫通孔22を介して下方(加熱コイル部11の外部)に落下する。また、表皮効果のために、溶解原料200の外表面よりも溶解原料200の中央部Cの方が溶解されるのが遅い。これにより、溶解原料200の溶解が進行すると、溶解原料200は、溶解原料200の下方側が先細る形状になる。そして、先細った溶解原料200の先端部は、原料支持面部21に支持された状態となる。
【0046】
さらに溶解が進行すると、エッジ効果(
図12参照)により、先細った溶解原料200の先端部に磁束が集中する。これにより、溶解原料200の先端部が溶解する。その結果、
図13(b)に示すように、溶解原料200の自重によって、溶解原料200が落下する。なお、落下した溶解原料200は、支持部20の原料支持面部21に支持されるので、溶解原料200の落下は停止する。そして、加熱コイル部11への高周波電流の供給が継続されることにより、
図13(a)に示す状態と
図13(b)に示す状態とが交互に繰り返される。これにより、溶解原料200が連続的に溶解する。
【0047】
ここで、加熱コイル部11への高周波電流の供給を停止すると、溶解原料200の加熱は即座に停止される。これにより、溶解された溶解原料200の落下は比較的短い時間で停止される。また、溶解原料200が比較的高温の状態において、加熱コイル部11への高周波電流の供給を再開すると、即座に溶解が始まり、溶解された溶解原料200の落下が再開される。このように、加熱コイル部11への高周波電流の供給時間をコントロールすることにより、溶解される溶解原料200の量をコントロールすることが可能になる。
【0048】
また、本実施形態と異なり、溶解原料200にバーナーの火炎を直接当てることにより溶解原料200を溶解させた場合には、火炎内に含まれるガス(酸素、水素)によって、溶解原料200が酸化してしまう(酸化ロス)場合がある。このため、溶解の歩留まりが悪くなる。さらに、溶解した溶解原料200(溶湯)を液体の状態に保持するためのエネルギが別途必要になるとともに、溶湯の状態を監視するための人員も必要になる。そこで、本実施形態では、高周波電流が供給された加熱コイル部11により溶解原料200を溶解させることによって、溶解原料200が酸化することはないので、溶解の歩留まりを改善する(品質を保持する)ことが可能になる。また、溶湯を液体の状態に保持するためのエネルギを低減することが可能になる。
【0049】
また、本実施形態と異なり、溶解原料200が収容されたルツボにバーナーの火炎を直接当てることにより溶解原料200を溶解させた場合では、バーナーの火炎をルツボの表面に均一に加熱することが困難である。これにより、ルツボの温度分布に偏りが生じる。その結果、ルツボが部分的に摩耗するため、ルツボのメンテナンスが必要になる。また、溶解原料200がルツボを介して間接的に加熱されるので、バーナーの火炎の原料となるガスや石油などの消費量が増えてしまう。そこで、本実施形態では、高周波電流が供給された加熱コイル部11により溶解原料200を溶解させることによって、溶解原料200を直接加熱することができるので、エネルギの消費量が増大するのを抑制することが可能になる。
【0050】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0051】
本実施形態では、上記のように、溶解原料200の下端200aを支持する支持部20の原料支持面部21は、加熱コイル部11の内部の加熱コイル部11の下端11aよりも上方の位置に配置されている。これにより、溶解原料200の下端200aが加熱コイル部11の内部の加熱コイル部11の下端11aよりも上方の位置に配置されるので、溶解原料200の下端200aおよび下端200aの近傍(下端200a側)の部分に加熱コイル部11からの磁束が十分に到達する。その結果、溶解原料200の下端200aおよび下端200aの近傍の部分を迅速に溶解することができるので、溶解原料200の溶解を円滑に行うことができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、原料支持面部21は、加熱コイル部11の下端11aから、鉛直方向における加熱コイル部11の長さL11の18%以上の長さL12分、上方に配置されている。これにより、原料支持面部21が加熱コイル部11の下端11a近傍に配置される場合と比べて、溶解原料200の下端200aおよび下端200aの近傍(下端200a側)の部分に加熱コイル部11からの磁束がより十分に到達するので、溶解原料200の下端200aおよび下端200aの近傍の部分をより迅速に溶解することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、平面視において、原料支持面部21は、溶解原料200の下端200aの中央部Cを支持するように構成されている。ここで、溶解原料200を加熱コイル部11の磁束によって加熱する場合、表皮効果によって溶解原料200の表面が主に加熱される。その結果、溶解原料200の外表面から溶解が始まり、溶解原料200の中央部Cは、比較的遅い段階で溶解される。つまり、溶解原料200の外表面から徐々に中心に向かって溶解が進む。さらに、溶解原料200の下端200a(角部200c)に磁束が集中するので、下端200a側の溶解の進行の度合いが速い。その結果、溶解原料200は下方に向かって先細る形状となる。そこで、原料支持面部21を溶解原料200の下端200aの中央部Cを支持するように構成することによって、溶解原料200の先細った先端(下端200a)側を安定した状態で支持することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、支持部20の原料支持面部21の近傍には、鉛直方向に延びるとともに溶解された溶解原料200が流通して落下する貫通孔22が設けられている。これにより、溶解された溶解原料200を、貫通孔22を介してスムーズに下方に落下(滴下)させることができる。また、溶解原料200の下端200aの中央部Cが原料支持面部21により安定した状態で支持されているので、溶解原料200が貫通孔22に落ち込むことはない。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、貫通孔22は、複数設けられており、原料支持面部21は、支持部20における複数の貫通孔22の間の部分により構成されている。これにより、原料支持面部21に隣り合うように複数の貫通孔22が設けられる。そして、溶解原料200から溶解した溶解原料200は、先細った形状の溶解原料200の先端側(原料支持面部21に接触する部分)に向かって流れるので、溶解された溶解原料200を、原料支持面部21に隣り合う複数の貫通孔22からよりスムーズに落下させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、平面視において、貫通孔22は、円形形状を有しており、貫通孔22の直径r2は、複数の貫通孔22が隣り合う方向における原料支持面部21の幅Wよりも大きい。これにより、貫通孔22の直径r2が比較的大きくなるので、溶解された溶解原料200を貫通孔22からさらにスムーズに落下させることができる。その結果、溶解された溶解原料200が原料支持面部21に留まるのを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、溶解原料200は、非磁性材料を含み、加熱コイル部11は、誘導加熱式の加熱コイル部11を含む。ここで、非磁性材料は、磁束に起因する渦電流による発熱が比較的小さい。つまり、非磁性材料を含む溶解原料200は溶解させにくい。そこで、比較的高い周波数の交流を誘導加熱式の加熱コイル部11に流すことによって、比較的大きな磁束が発生するので、非磁性材料を含む溶解原料200を容易に溶解させることができる。
【0058】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0059】
たとえば、上記実施形態では、本発明の溶解装置を、溶解原料を溶解するために用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、高周波電流の供給量を比較的少なくすることにより、溶解原料の表面に付着する水分や油分を除去する予備加熱装置やアルミニウム等原料の加熱装置として本発明の溶解装置を用いることが可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、溶解原料が略直方体形状(角柱形状)を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、溶解原料が略円柱形状を有していてもよい。この場合、加熱コイル部も略円柱形状を有する溶解原料に沿うように、平面視において、円形状を有するように形成される。
【0061】
また、上記実施形態では、加熱コイル部として、高周波電流が供給される誘導加熱式の加熱コイル部を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、誘導加熱式以外の加熱コイル部を用いてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、原料支持面部が、支持部における複数の貫通孔の間の部分により構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、柱形状の支持部により、溶解原料の中央部を支持するようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、支持部に2つの貫通孔が設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、支持部に設けられる孔の数は、2つ以外であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、支持部に設けられる貫通孔が円形状を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、支持部に設けられる貫通孔が四角形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11 加熱コイル部
11a 下端
20 支持部
21 原料支持面部
22 貫通孔
100 溶解装置
200 溶解原料
200a 下端