(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】有機性廃棄物処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20221017BHJP
C02F 11/06 20060101ALI20221017BHJP
B09B 3/65 20220101ALI20221017BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20221017BHJP
【FI】
C02F11/04 A
C02F11/06 B
B09B3/65
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2018122749
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永森 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】茂庭 忍
(72)【発明者】
【氏名】仕入 英武
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】木内 智明
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-136276(JP,A)
【文献】特開平09-024396(JP,A)
【文献】特開2002-186996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/78、3/28-34、11/00-20
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む処理対象物を嫌気性消化してバイオガスを生成する消化設備と、
前記処理対象物を可溶化して消化設備に供給する可溶化設備と、
を備え、
前記可溶化設備は、
前記処理対象物を貯留する可溶化槽と、
前記可溶化槽の前記処理対象物を循環させて前記可溶化槽に戻す循環経路と、
前記循環経路上で前記処理対象物にオゾン
及び過酸化水素のうち、少なくともオゾンを酸化剤として供給する酸化剤供給部と、
前記循環経路上で前記酸化剤が供給された前記処理対象物を可溶化させて前記可溶化槽に送る溶解部と、
前記酸化剤が供給された前記処理対象物の酸化還元電位を計測する計測部と、
前記酸化還元電位に基づいて
前記酸化還元電位の経時変化が閾値変化以下であるか否かによって、前記オゾンを含む酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定し
、前記酸化剤が飽和レベルに達したと判定された場合に、前記オゾンの供給を停止する制御を行う制御部と、
を備える有機性廃棄物処理システム。
【請求項2】
前記酸化剤供給部は、過酸化水素を前記酸化剤として供給
しており、
前記制御部は、前記オゾンの供給を停止する制御を行うに際して、前記過酸化水素の供給を停止する制御を行う、
請求項1に記載の有機性廃棄物処理システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記酸化還元電位の経時変化に基づいて、前記酸化剤が前記飽和レベルに達したか否かを判定する
請求項1または請求項2に記載の有機性廃棄物処理システム。
【請求項4】
前記消化設備は、前記可溶化槽から供給される前記処理対象物を嫌気性消化する消化槽を有する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理システム。
【請求項5】
前記消化設備は、
外部から供給される前記処理対象物を嫌気性消化して前記処理対象物を前記可溶化槽に供給する第1消化槽と、
前記可溶化槽から供給される前記処理対象物を嫌気性消化する第2消化槽と、
を有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理システム。
【請求項6】
前記消化設備は、外部から供給される前記処理対象物を嫌気性消化して前記処理対象物の一部を前記可溶化槽に供給するとともに、前記可溶化槽から供給される前記処理対象物を嫌気性消化する消化槽を有する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、有機性廃棄物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む処理対象物を処理してメタン等のバイオガスを生成するシステムが知られている。このようなシステムにおいて、バイオガスを増量するための方法としてオゾンによって処理対象物を可溶化することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5916971号公報
【文献】特開2007-203234号公報
【文献】特開2011-45263号公報
【文献】特開2007-275846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のシステムでは、オゾンに関するコストが処理コストの多くを占めている。そこで、オゾンの消費を低減することができる有機性廃棄物処理システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態の有機性廃棄物処理システムは、消化設備と、可溶化設備とを備える。消火設備は、有機物を含む処理対象物を嫌気性消化してバイオガスを生成する。可溶化設備は、前記処理対象物を可溶化して消化設備に供給する。前記可溶化設備は、可溶化槽と、循環経路と、酸化剤供給部と、溶解部と、計測部と、制御部と、を備える。可溶化槽は、前記処理対象物を貯留する。循環経路は、前記可溶化槽の前記処理対象物を循環させて前記可溶化槽に戻す。酸化剤供給部は、前記循環経路上で前記処理対象物にオゾン及び過酸化水素のうち、少なくともオゾンを酸化剤として供給する。溶解部は、前記循環経路上で前記酸化剤が供給された前記処理対象物を可溶化させて前記可溶化槽に送る。計測部は、前記酸化剤が供給された前記処理対象物の酸化還元電位を計測する。制御部は、前記酸化還元電位に基づいて前記酸化還元電位の経時変化が閾値変化以下であるか否かによって、前記オゾンを含む酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定し、前記酸化剤が飽和レベルに達したと判定された場合に、前記オゾンの供給を停止する制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかる有機性廃棄物処理システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、制御部が実行する制御処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、酸化剤の供給方法の異なる酸化還元電位の経時変化を示す図である。
【
図5】
図5は、有機物濃度の異なる汚泥サンプルにおける酸化還元電位の経時変化を示す図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の有機性廃棄物処理システムの全体構成図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態の有機性廃棄物処理システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の例示的な実施形態や変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付されるとともに、重複する説明が部分的に省略される。実施形態や変形例に含まれる部分は、他の実施形態や変形例の対応する部分と置き換えて構成されることができる。また、実施形態や変形例に含まれる部分の構成や位置等は、特に言及しない限りは、他の実施形態や変形例と同様である。
【0008】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態にかかる有機性廃棄物処理システム10の全体構成を示す図である。有機性廃棄物処理システム10は、下水汚泥等の有機性廃棄物である処理対象物に含まれる有機物から嫌気性消化によってメタンと二酸化炭素とを生成して有機物を除去する。有機性廃棄物処理システム10は、嫌気性消化によって生成したメタンが約70%含まれるバイオガスをエネルギーとして回収して利用する。例えば、有機性廃棄物処理システム10は、バイオガスに含まれるメタンをガスボイラーで熱に変換して、後述する消化槽22の加温に利用している。また、有機性廃棄物処理システム10は、バイオガスに含まれるメタンを発電設備90のガス発電機での発電に利用し、発電した電力を有機性廃棄物処理システム10内で利用することにより、購入電力量を低減し、または、売電することで利益を得る。
【0009】
図1に示すように、有機性廃棄物処理システム10は、消化設備12と、可溶化設備14と、制御部16とを備える。
【0010】
消化設備12は、有機物を含む有機性廃棄物である処理対象物を嫌気性消化してメタンを含むバイオガスを生成するとともに、有機物を除去した消化後の処理対象物を排出する。消化設備12は、消化槽22を有する。
【0011】
消化槽22は、可溶化設備14の下流側に接続されている。消化槽22は、可溶化設備14によって可溶化された処理対象物が送られる。消化槽22は、嫌気性微生物を内部に含み、可溶化設備14から供給される可溶化された処理対象物を嫌気性微生物によって嫌気性消化する。嫌気性微生物は、加水分解菌、酸生成菌、及び、メタン生成菌等である。例えば、消化槽22は、加水分解菌によって、処理対象物中の有機物に含まれる炭水化物、タンパク質、脂質等の高分子有機物を低分子有機物へと分解する。次に、消化槽22は、酸生成菌によって低分子有機物を酢酸、プロピオン酸等の低級脂肪酸へ分解する。更に、消化槽22は、メタン生成菌によって低級脂肪酸をメタンと二酸化炭素とに分解してバイオガスを生成し、一部の有機物が除去された消化済みの処理対象物をバイオガスから分離する。消化槽22は、メタンを含むバイオガスを発電設備90等に供給するとともに、消化後の処理対象物を脱水設備92等へ送る。
【0012】
可溶化設備14は、外部から送られる嫌気性消化がされていない処理対象物を可溶化及び液化して、消化設備12へ供給する。可溶化設備14は、循環経路32と、可溶化槽34と、加圧ポンプ36と、過酸化水素注入装置38と、注入ポンプ40と、オゾン発生装置42と、破砕器44と、溶解反応部46と、計測部48とを有する。過酸化水素注入装置38、注入ポンプ40及びオゾン発生装置42は、酸化剤供給部の例である。
【0013】
循環経路32は、可溶化槽34と、加圧ポンプ36と、破砕器44と、溶解反応部46と、可溶化槽34とを接続する処理対象物の経路である。循環経路32は、可溶化槽34の処理対象物を、加圧ポンプ36、破砕器44、溶解反応部46の順で循環させて、可溶化槽34へと戻す。
【0014】
可溶化槽34は、処理対象物を供給する外部の設備等と循環経路32とに接続されている。可溶化槽34は、有機物を含み嫌気性消化がされていない外部の設備等から送られた処理対象物と溶解反応部46から送られる処理対象物とが混合された処理対象物を一時的に貯留する。また、可溶化槽34は、溶解反応部46から送られる可溶化された処理対象物を一時的に貯留する。可溶化槽34は、破砕器44へ処理対象物を送るとともに、可溶化された処理対象物を消化槽22へと送る。
【0015】
加圧ポンプ36は、循環経路32上であって、可溶化槽34と、破砕器44との間に接続されている。加圧ポンプ36は、可溶化槽34の処理対象物を加圧して循環経路32に流し、破砕器44へ送る。
【0016】
過酸化水素注入装置38は、注入ポンプ40を介して、破砕器44よりも上流側で循環経路32に接続されている。過酸化水素注入装置38は、循環経路32を流れる処理対象物に注入して供給するための過酸化水素を生成する。過酸化水素注入装置38は、過酸化水素を含む液状の過酸化水素水を酸化剤として処理対象物に供給する。
【0017】
注入ポンプ40は、過酸化水素注入装置38に接続されるとともに、加圧ポンプ36の下流側と破砕器44の上流側との間の循環経路32に接続されている。注入ポンプ40は、過酸化水素注入装置38から供給された酸化剤としての過酸化水素を、加圧ポンプ36によって加圧された処理対象物に破砕器44の上流側で注入する。
【0018】
オゾン発生装置42は、循環経路32上の破砕器44に接続されている。オゾン発生装置42は、処理対象物に混合する気体であるオゾンを発生させる。オゾン発生装置42は、循環経路32上で破砕器44を流れる処理対象物に酸化剤としてのオゾンを供給する。
【0019】
破砕器44は、循環経路32上に設けられている。破砕器44は、加圧ポンプ36及び注入ポンプ40の下流側と、オゾン発生装置42とに接続されている。破砕器44は、溶解反応部46の上流側に接続されている。破砕器44は、例えば、ポンプの一種であるエジェクター(圧力変動管路ともいう)である。破砕器44は、オゾン発生装置42から供給されたオゾンを吸引する。破砕器44は、加圧ポンプ36で加圧され注入ポンプ40によって過酸化水素が注入された処理対象物と、オゾンとを混合する。破砕器44は、オゾンの供給による圧力変動によって生じたせん断力により処理対象物中の固形物を破砕して低分子化するとともに、オゾンをマイクロバブル化する。破砕器44は、マイクロバブル化したオゾンが混合された処理対象物を溶解反応部46へ送る。
【0020】
溶解反応部46は、溶解部の例である。溶解反応部46は、循環経路32上であって、破砕器44の下流側と可溶化槽34の上流側とに接続されている。溶解反応部46は、循環経路32上で酸化剤が供給された処理対象物を可溶化させて可溶化槽34に送る。溶解反応部46は、ノズル50と、乱流部材52と、溶解反応タンク54とを有する。ノズル50は、溶解反応タンク54内に設置され、破砕器44から延びる循環経路32に接続されている。ノズル50は、破砕器44から送られるオゾンが混合された処理対象物を溶解反応タンク54内に噴射する。乱流部材52は、溶解反応タンク54内に設置されている。乱流部材52は、溶解反応タンク54内に噴射されたオゾンが混合された処理対象物の流れを乱す。これにより、乱流部材52は、マイクロバブル状のオゾンと処理対象物内の固形物との接触を増加させ、オゾンが混合された処理対象物中の有機物の細胞壁をオゾンの酸化力によって破壊し、細胞内部の炭水化物及びタンパク質等の有機物の可溶化を促進する。溶解反応タンク54は、オゾン混合処理対象物を内部で加圧する。溶解反応タンク54は、可溶化槽34と接続されている。溶解反応タンク54は、可溶化された処理対象物を可溶化槽34へ送る。
【0021】
計測部48は、溶解反応部46と可溶化槽34との間の循環経路32上に設けられている。尚、計測部48は、可溶化槽34の内部、または、破砕器44と可溶化槽34との間の循環経路32上に設けられていてもよい。即ち、計測部48は、オゾン発生装置42が処理対象物にオゾンを供給する位置(ここでは、破砕器44の位置)から可溶化槽34の内部までの位置に設けられていればよい。計測部48は、例えば、酸化還元電位を計測するORP(Oxidation-Reduction Potential)計である。計測部48は、過酸化水素及びオゾンを含む酸化剤が供給された処理対象物の酸化還元電位を計測する。計測部48は、計測した酸化還元電位を制御部16に出力する。
【0022】
例えば、制御部16は、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置とを有するコンピュータである。制御部16は、制御プログラムを読み込むことによって、有機性廃棄物処理システム10を制御する。具体的には、制御部16は、注入ポンプ40、オゾン発生装置42及び計測部48と情報及びデータを含む電気信号を送受信可能に接続されている。制御部16は、計測部48から酸化還元電位を取得する。制御部16は、酸化還元電位に基づいて酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定して、判定結果に基づいてオゾン発生装置42を制御してオゾンの供給を制御する。尚、制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達したか否かの判定結果に基づいて、オゾンの供給の制御とともに、注入ポンプ40を制御して過酸化水素の供給を制御してもよい。飽和レベルは、酸化剤が処理対象物内でほぼ飽和して、更に供給しても有機物の可溶化処理にほとんど寄与しない状態のことである。例えば、制御部16は、酸化還元電位の経時変化に基づいて、酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定してよい。具体的には、制御部16は、酸化還元電位がほとんど変化せずほぼ一定の値となると、酸化剤が飽和レベルに達したと判定してよい。制御部16は、例えば、判定時間内における酸化還元電位の経時変化が閾値変化以下になると、酸化剤が飽和レベルに達したと判定する。判定時間は、予め定められた値であって、例えば、計測間隔の数倍であってよい。例えば、計測部48が1分間隔で酸化還元電位を計測する場合、判定時間は数分であってよい。閾値変化は、予め定められた値であって、数十mV、または、計測中の酸化還元電位の数%であってよい。制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達したと判定すると、オゾン発生装置42においてオゾンを発生させるための電圧印加を停止してオゾンの供給を停止してよい。尚、制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達したと判定すると、オゾンの供給の停止とともに、注入ポンプ40を停止して過酸化水素の供給を停止してもよい。
【0023】
次に、有機性廃棄物処理システム10の処理対象物の処理動作について説明する。
【0024】
処理対象物の処理においては、まず、下水汚泥等の有機性廃棄物を含む処理対象物が、外部の設備等から可溶化槽34に供給される。加圧ポンプ36が、可溶化槽34に供給された貯留されている処理対象物を加圧して、循環経路32に流す。注入ポンプ40は、過酸化水素注入装置38から供給された過酸化水素を破砕器44へと流れる循環経路32中の処理対象物に注入する。破砕器44は、加圧されて過酸化水素が注入された処理対象物にオゾン発生装置42から供給されたオゾンを混合するとともに、処理対象物中の固形の有機物を破砕した処理対象物を溶解反応部46へと送る。溶解反応部46は、オゾンと処理対象物内の固形の有機物との接触を高めて可溶化させた処理対象物を可溶化槽34へ送る。可溶化槽34は、可溶化された処理対象物を貯留しつつ、処理対象物の一部を可溶化された処理対象物として消化槽22へ送るとともに、残りを可溶化設備14内で循環させる。消化槽22は、可溶化された処理対象物を嫌気性消化することによって、メタンを含むバイオガスと、可溶化された処理対象物から有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。消化槽22は、バイオガスを発電設備90等に送るとともに、消化後の処理対象物を脱水設備92等に送る。
【0025】
次に、有機性廃棄物処理システム10の処理対象物の処理動作中に制御部16が実行する制御処理について説明する。
図2は、制御部16が実行する制御処理のフローチャートである。尚、
図2のフローチャートは一例であり、ステップの順序等は、適宜変更してよい。
【0026】
図2に示すように、制御処理では、制御部16は、酸化還元電位を計測部48から取得する(S102)。制御部16は、酸化還元電位の経時変化を算出する(S104)。
【0027】
制御部16は、酸化還元電位に基づいて酸化剤が飽和レベルか否かを判定する(S106)。例えば、制御部16は、酸化還元電位の経時変化が閾値変化より小さければ、酸化剤が飽和レベルに達したと判定し、酸化還元電位の経時変化が閾値変化より小さくなければ、酸化剤が飽和レベルに達していないと判定してよい。制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達していないと判定すると(S106:No)、ステップS102以降を繰り返す。
【0028】
制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達したと判定すると(S106:Yes)、注入ポンプ40を停止させて、過酸化水素注入装置38からの過酸化水素の供給を停止させる(S108)。制御部16は、オゾン発生装置42のオゾン発生用の電圧の印加を停止させて、オゾン発生装置42からのオゾンの供給を停止させる(S110)。
【0029】
この後、制御部16は、ステップS102以降を繰り返す。
【0030】
上述したように、第1実施形態の有機性廃棄物処理システム10は、酸化還元電位に基づいて酸化剤が飽和レベルに達したと判定すると、オゾンの供給を停止させる。これにより、有機性廃棄物処理システム10は、過剰なオゾンの供給を抑制して、オゾンの消費を低減できるので、処理対象物の処理コストを低減できる。
【0031】
有機性廃棄物処理システム10は、過剰なオゾンの供給を抑制しているので、オゾンが処理対象物中の有機物を酸化することによる二酸化炭素の発生を低減するとともに、バイオガスの原料としての有機物の減少を抑制できる。これにより、有機性廃棄物処理システム10は、有機物を多く含む処理対象物を消化設備12に供給できるので、消化設備12は有機物の消化による最終目的物のバイオガスをより多く生産できる。
【0032】
有機性廃棄物処理システム10は、酸化剤が飽和レベルに達するとほぼ一定になる酸化還元電位で酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定している。これにより、有機性廃棄物処理システム10は、処理対象物中の有機物の濃度及び種類等によらず酸化剤が飽和レベルに達したか否かを酸化還元電位によって精度よく判定できる。
【0033】
有機性廃棄物処理システム10は、オゾンとともに過酸化水素を酸化剤として処理対象物に供給しているので、酸化剤を短時間で飽和レベルにすることができる。これにより、有機性廃棄物処理システム10は、オゾンの供給量をより低減して、処理対象物の処理コストをより低減できる。
【0034】
次に、上述した有機性廃棄物処理システム10の可溶化設備14の効果を実証するための実験について説明する。まず、今回の実験に用いた実験装置14aについて説明する。
図3は、実験装置14aの全体構成図である。上述の有機性廃棄物処理システム10の可溶化設備14の構成と同様の実験装置14aの構成には、同じ符号を付与して説明を簡略化する。
【0035】
図3に示すように、実験装置14aは、循環経路32と、可溶化槽34と、加圧ポンプ36と、過酸化水素注入装置38と、注入ポンプ40と、破砕器44と、オゾン発生装置42と、溶解反応部46と、計測部48とを備える。溶解反応部46は、ノズル50と、乱流部材52と、溶解反応タンク54とを有する。
【0036】
<第1実験>
第1実験では、有機性廃棄物処理システム10において過酸化水素を併用することによるオゾンの供給量の低減の効果について説明する。第1実験では、酸化還元電位の経時変化と、可溶化率と、ガス増加比とを調べた。
【0037】
第1実験では、加圧ポンプ36によって処理対象物の一例である汚泥サンプルを可溶化槽34に貯留しつつ循環経路32内で循環させた。処理対象の汚泥サンプルは、下水処理場の有機物濃度(Volatile Solids:VS)が1.5%の汚泥サンプルを使用した。尚、有機物濃度VSは、強熱減量ともいう。
【0038】
酸化剤の供給方向の異なる汚泥サンプルにおける酸化還元電位の経時変化を調べた。
図4は、酸化剤の供給方法の異なる酸化還元電位の経時変化を示す。
図4において、実線は、オゾンが50mg/Lの注入率で汚泥サンプルに供給されるとともに、過酸化水素が50ppmの添加率で汚泥サンプルに供給された酸化還元電位の経時変化を示す。点線は、過酸化水素を供給せずに、オゾンが50mg/Lの注入率で汚泥サンプルに供給された酸化還元電位の経時変化を示す。
【0039】
図4にSPで示すように、オゾン及び過酸化水素が供給された汚泥サンプルの飽和レベルにおける酸化還元電位、及び、オゾンが供給された汚泥サンプルの飽和レベルにおける酸化還元電位は、ともに-50mVとなった。オゾン及び過酸化水素が供給された汚泥サンプルの酸化還元電位は約10分で飽和レベルに達した。一方、オゾンのみが供給された汚泥サンプルの酸化還元電位は約13分で飽和レベルに達した。これは、オゾン及び過酸化水素の両方による処理の方が、酸化力が強いことから酸化還元電位が早く飽和レベルに達したと考えられる。
【0040】
次に、上述の実験後の汚泥サンプルの浮遊物質の強熱減量(Volatile Suspended Solids:VSS)を分析して、可溶化率を次の式(1)で算出した。
可溶化率[%]=(1-α1/α2)×100 ・・・(1)
α1:処理後の汚泥サンプルのVSS[%]
α2:未処理汚泥サンプルのVSS[%]
【0041】
オゾン及び過酸化水素が上述の注入率及び添加率で汚泥サンプルに10分間供給された場合の可溶化率、及び、オゾンのみが上述の注入率で汚泥サンプルに13分間供給された場合の可溶化率は、ともに9%であった。
【0042】
次に、ガス発生量を得るために消化実験を実施した。処理対象である汚泥サンプルと、メタン発生菌を含む種汚泥とを1:1の比で200mLのバイアル瓶に入れ、気相部を窒素置換してバイアル瓶を封印した。種汚泥とともに汚泥サンプルが封入され、37℃の恒温振とう機にセットされたバイアル瓶から発生したガス発生量を、30日間を越えるまで測定した。未処理汚泥の有機物濃度VS量当たりのガス発生量に対する、測定した汚泥サンプルの有機物濃度VS量当たりのガス発生量の比であるガス増加比を次の式(2)及び式(3)によって算出した。
ガス発生量[L/g-VS]=β1×10-3/(β2×β3×10-2) ・・・(2)
β1:汚泥サンプルのガス発生量の測定値[mL]
β2:汚泥サンプルの汚泥量[mL]
β3:汚泥サンプルの有機物濃度VS[%]
ガス増加比=γ1/γ2 ・・・(3)
γ1:式(2)によって算出された汚泥サンプルのガス発生量[L/g-VS]
γ2:式(2)によって算出された未処理汚泥サンプルのガス発生量[L/g-VS]
【0043】
オゾン及び過酸化水素が上述の注入率及び添加率で汚泥サンプルに10分間供給された場合のガス増加比、及び、オゾンのみが上述の注入率で汚泥サンプルに13分間供給された場合のガス増加比は、ともに1.6倍であった。
【0044】
第1実験の結果から、オゾン及び過酸化水素を供給した場合の可溶化率及びガスの増加比は、オゾンのみを供給した場合の可溶化率及びガスの増加比と同じであるが、飽和レベルに達するまでの時間を短縮できることがわかった。即ち、オゾン及び過酸化水素を供給することにより、可溶化率及びガスの増加比を維持しつつ、オゾンの供給量を低減できることがわかった。例えば、上述のようにオゾンの供給時間を13分から10分に短縮することにより、オゾンの供給量を23%(=(13-10)×100/13)削減できることがわかる。
【0045】
<第2実験>
第2実験では、有機物濃度VSと飽和レベルにおける酸化還元電位との関係を調べた。
図5は、有機物濃度VSの異なる汚泥サンプルにおける酸化還元電位の経時変化を示す。
図5において、実線は、有機物濃度VSが1.2%の汚泥サンプルにおける酸化還元電位の経時変化を示す。点線は、有機物濃度VSが1.5%の汚泥サンプルにおける酸化還元電位の経時変化を示す。第2実験では、両汚泥サンプルに、オゾンを50mg/Lの注入率で供給するとともに、過酸化水素を50ppmの添加率で供給した。
【0046】
図5に示すように、飽和レベルにおける酸化還元電位は、有機物濃度VSに関わらずともに-50mVとなった。これにより、酸化剤の飽和レベルは、有機物濃度VSの影響を受けることなく、酸化還元電位で精度よく計測できることがわかる。
【0047】
第2実験から、有機物濃度VSが1.2%の酸化還元電位が飽和レベルに達する時間は、有機物濃度VSが1.5%の酸化還元電位が飽和レベルに達する時間に比べて時間ΔTだけ短いことがわかる。これは、オゾンの注入率が同じ場合、有機物濃度VSが低くなると、有機物に対するオゾンの量が多くなることから酸化還元電位の増加速度が向上したことによるものと考えられる。このことから、酸化還元電位が飽和レベルに達するまで可溶化処理を行うことで、汚泥サンプル内の有機性廃棄物の濃度が変化した場合でも、適切な可溶化効果を得ることができることがわかる。
【0048】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の有機性廃棄物処理システム110の全体構成図である。
図6に示すように、第3実施形態の有機性廃棄物処理システム110は、消化設備112と、可溶化設備14とを有する。
【0049】
消化設備112は、第1消化槽120と、第2消化槽122とを有する。
【0050】
第1消化槽120は、例えば、有機性廃棄物処理システム110の最も上流側であって、可溶化設備14の上流側に設けられている。第1消化槽120は、外部の設備等から送られる処理対象物を、消化槽22と同様の消化方法によって嫌気性消化する。第1消化槽120は、処理対象物中の有機物を嫌気性消化して生成したバイオガスを発電設備90等へ送るとともに、一部の有機物が除去された残りの有機物が残存している消化後の処理対象物を可溶化設備14へと送る。尚、第1消化槽120は、点線の矢印で示すように、処理対象物の一部を可溶化設備14ではなく第2消化槽122へと供給してもよい。
【0051】
第2消化槽122は、可溶化設備14の下流側に設けられている。第2消化槽122は、可溶化設備14の可溶化槽34から送られる可溶化された処理対象物を、消化槽22と同様の消化方法によって嫌気性消化する。第2消化槽122は、可溶化された処理対象物を嫌気性消化して生成したバイオガスを発電設備90等へ送るとともに、処理対象物から有機物が除去された残りの消化済みの処理対象物を脱水設備92等に排出する。
【0052】
可溶化設備14は、消化設備112から送られる消化後の処理対象物を可溶化及び液化して消化設備112の第2消化槽122へ供給する。
【0053】
次に、第2実施形態の有機性廃棄物処理システム110の処理対象物の処理動作について説明する。
【0054】
第2実施形態の処理対象物の処理においては、消化設備112の第1消化槽120は、外部から送られた下水汚泥等の有機性廃棄物を含む処理対象物を嫌気性消化して、メタンを含むバイオガスと、一部の有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。第1消化槽120は、バイオガスを発電設備90等に送るとともに、消化された処理対象物を可溶化設備14の可溶化槽34へ送る。加圧ポンプ36が、可溶化槽34に供給された貯留されている処理対象物を加圧して、循環経路32に流す。注入ポンプ40は、過酸化水素注入装置38から供給された過酸化水素を破砕器44へと流れる循環経路32中の処理対象物に注入する。破砕器44は、加圧されて過酸化水素が注入された処理対象物にオゾン発生装置42から供給されたオゾンを混合するとともに、処理対象物中の固形の有機物が破砕された処理対象物を溶解反応部46へと送る。溶解反応部46は、オゾンと処理対象物内の固形の有機物との接触を高めて可溶化させた処理対象物を可溶化槽34へ送る。可溶化槽34は、可溶化された処理対象物を貯留しつつ、処理対象物の一部を可溶化された処理対象物として第2消化槽122へ送るとともに、残りを可溶化設備14内で循環させる。第2消化槽122は、可溶化された処理対象物を嫌気性消化することによって、バイオガスと、可溶化された処理対象物から有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。第2消化槽122は、バイオガスを発電設備90等に送るとともに、消化された処理対象物を脱水設備92等に送る。
【0055】
第2実施形態においても、制御部16は、計測部48から取得した酸化還元電位に基づいて、酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定する。制御部16は、飽和レベルに達したと判定すると、オゾン発生装置42を制御して、処理対象物へのオゾンの供給を停止する。尚、制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達すると、オゾンの停止とともに、注入ポンプ40を制御して、過酸化水素の供給を停止してもよい。
【0056】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0057】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態の有機性廃棄物処理システム210の全体構成図である。
図7に示すように、第3実施形態の有機性廃棄物処理システム210は、消化設備212と、可溶化設備14とを有する。
【0058】
消化設備212は、消化槽220を有する。
【0059】
消化槽220は、可溶化槽34に接続されている。消化槽220は、外部から供給される処理対象物、及び、可溶化槽34から送られる可溶化された処理対象物を嫌気性消化して、バイオガスと、有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。消化槽220は、生成したバイオガスを発電設備90等へ送る。消化槽220は、消化後の処理対象物の一部を可溶化槽34へ送るとともに、消化後の残りの処理対象物を脱水設備92等へ送る。
【0060】
第3実施形態の可溶化設備14の可溶化槽34では、消化槽220から送られる消化後の処理対象物と、溶解反応部46から送られる処理対象物とが混合された処理対象物を貯留する。可溶化槽34は、混合されて可溶化された処理対象物の一部を加圧ポンプ36によって破砕器44へ送るとともに、残りの処理対象物を消化槽220へと送る。
【0061】
次に、第3実施形態の有機性廃棄物処理システム210の処理対象物の処理動作について説明する。
【0062】
第3実施形態の処理対象物の処理においては、消化設備212の消化槽220は、外部から送られた下水汚泥等の有機性廃棄物を含む処理対象物を嫌気性消化して、メタンを含むバイオガスと、一部の有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。消化槽220は、バイオガスを発電設備90等に送るとともに、消化された処理対象物の一部を可溶化設備14の可溶化槽34へ送り、消化された処理対象物の残りを脱水設備92へ送る。加圧ポンプ36が、可溶化槽34に供給された貯留されている処理対象物を加圧して、循環経路32に流す。注入ポンプ40は、過酸化水素注入装置38から供給された過酸化水素を破砕器44へと流れる循環経路32中の処理対象物に注入する。破砕器44は、加圧されて過酸化水素が注入された処理対象物にオゾン発生装置42から供給されたオゾンを混合するとともに、処理対象物中の固形の有機物を破砕したオゾンが混合された処理対象物を溶解反応部46へと送る。溶解反応部46は、オゾンと処理対象物内の固形の有機物との接触を高めて可溶化させた処理対象物を可溶化槽34へ送る。可溶化槽34は、可溶化された処理対象物を貯留しつつ、可溶化された処理対象物の一部を消化槽220へ送るとともに、残りの処理対象物を可溶化設備14内で循環させる。消化槽220は、可溶化された処理対象物を嫌気性消化することによって、バイオガスと、可溶化された処理対象物から有機物が除去された消化済みの処理対象物とを生成する。消化槽220は、バイオガスを発電設備90等に送るとともに、消化された処理対象物を脱水設備92等に送る。
【0063】
第3実施形態においても、制御部16は、計測部48から取得した酸化還元電位に基づいて、酸化剤が飽和レベルに達したか否かを判定する。制御部16は、飽和レベルに達したと判定すると、オゾン発生装置42を制御して、処理対象物へのオゾンの供給を停止する。尚、制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達すると、オゾンの停止とともに、注入ポンプ40を制御して、過酸化水素の供給を停止してもよい。
【0064】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
上述の実施形態は、適宜変更してよい。
【0066】
例えば、上述の実施形態は、オゾンと過酸化水素の両方を酸化剤として処理対象物に供給する例を挙げたが、酸化剤は少なくともオゾンを含めばよく、過酸化水素を含まなくてもよい。この場合、制御部16は、酸化剤が飽和レベルに達すると、オゾンの供給を停止すればよい。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10:有機性廃棄物処理システム、12:消化設備、14:可溶化設備、16:制御部、22:消化槽、32:循環経路、34:可溶化槽、38:過酸化水素注入装置(酸化剤供給部)、40:注入ポンプ(酸化剤供給部)、42:オゾン発生装置(酸化剤供給部)、44:破砕器、46:溶解反応部(溶解部)、48:計測部、110:有機性廃棄物処理システム、112:消化設備、120:第1消化槽、122:第2消化槽、210:有機性廃棄物処理システム、212:消化設備、220:消化槽。