(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系共重合体の製造方法及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 287/00 20060101AFI20221017BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20221017BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20221017BHJP
C08F 8/16 20060101ALI20221017BHJP
C08F 8/48 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C08F287/00
C08L51/04
C08L33/06
C08F8/16
C08F8/48
(21)【出願番号】P 2018131827
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】北村 倫明
(72)【発明者】
【氏名】井本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】河野 晃丈
(72)【発明者】
【氏名】山西 眸
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-030066(JP,A)
【文献】特開2004-231956(JP,A)
【文献】特開平04-145151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 287/00
C08L 51/00 - 51/10
C08L 33/00 - 33/26
C08F 8/00 - 8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(P1)と(メタ)アクリル系単量体とラジカル重合開始剤を共存させてラジカル重合反応を開始する工程、及びラジカル重合反応開始後に反応液にラジカル重合開始剤を添加する重合工程を含むことを特徴とする、
前記共重合体(P1)から構成されるポリマー鎖(A)と前記(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)の製造方法
であり、
前記ポリマー鎖(B)が、主鎖にラクトン環構造、ラクタム環構造、グルタルイミド構造、及び無水グルタル酸構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の環構造を有する製造方法。
【請求項2】
ラジカル重合反応開始後、反応液にラジカル重合開始剤を分割添加する、又は滴下する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応終了時までに使用するラジカル重合開始剤の全量を100質量部とした時、前記滴下速度が、0.1~1.0質量部/分である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合反応の開始まで、ラジカル重合開始剤の添加を停止する請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ラジカル重合反応開始後に添加したラジカル重合開始剤の量が、ラジカル重合反応の開始までに共存させたラジカル重合開始剤量100質量部に対して、30~500質量部である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
ラジカル重合反応開始後、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体を添加する請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記共重合体(P1)が水添物であり、前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物である請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系単量体を、無水マレイン酸及びマレイミドから選ばれる少なくとも1種と共重合させる請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記重合工程の後、該重合工程で生じた前記ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する工程を行う請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)を含み、
前記ポリマー鎖(B)が、主鎖にラクトン環構造、ラクタム環構造、グルタルイミド構造、及び無水グルタル酸構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の環構造を有し、
以下の熱試験によって決定される透明性低下量が1.0%以下であることを特徴とする、樹脂組成物。
熱試験:
1)メルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)のシリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化させる;
2)ピストンを取り出し、シリンダ内に樹脂組成物6gを仕込み、下から樹脂が漏れ出ないよう清掃棒にて封をし、ピストン及び5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させる;
3)10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した樹脂組成物を取り出し、温度250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する;
4)蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて波長500nmの光の透過率(T
2)を調べ、滞留試験前の樹脂組成物から同様にして得られるフィルムの透過率(T
1)と比べて、その低下量(T
1-T
2)を求める。
【請求項11】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)と、
前記ポリマー鎖(B)と構成単位が同じである(メタ)アクリル系重合体(Q)とを含み、
前記ポリマー鎖(B)が、主鎖にラクトン環構造、ラクタム環構造、グルタルイミド構造、及び無水グルタル酸構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の環構造を有し、
前記(メタ)アクリル系共重合体(P)と前記(メタ)アクリル系重合体(Q)との2成分混合物が、以下の熱試験によって決定される1.0%以下の透明性低下量を示すことを特徴とする、樹脂組成物。
熱試験:
1)メルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)のシリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化させる;
2)ピストンを取り出し、シリンダ内に2成分混合物6gを仕込み、下から2成分混合物が漏れ出ないよう清掃棒にて封をし、ピストン及び5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させる;
3)10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した2成分混合物を取り出し、温度250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する;
4)蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて波長500nmの光の透過率(T
2)を調べ、滞留試験前の2成分混合物から同様にして得られるフィルムの透過率(T
1)と比べて、その低下量(T
1-T
2)を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル系共重合体の製造方法、及びこの共重合体を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂は、光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート、フィルム、導光板などの光学材料に幅広く使用されおり、このような透明樹脂として、従来、(メタ)アクリル系樹脂が広く用いられている。しかし、(メタ)アクリル系樹脂は機械的強度に改善の余地があった。特許文献1には、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体を水素添加したゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合すると、機械的強度が改善されることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1の様にして得られるグラフト共重合体を含む樹脂組成物は、加熱条件下で透明性が低下することが分かった。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、加熱条件下で透明性が低下せず、かつ機械的強度も優れる(メタ)アクリル系共重合体の製造方法、及び該(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、加熱条件下での透明性の低下は、(メタ)アクリル系共重合体の凝集現象に帰因すること、そして(メタ)アクリル系共重合体の重合反応を制御すれば凝集現象を低減できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の発明を含む。
[1] ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(P1)と(メタ)アクリル系単量体とラジカル重合開始剤を共存させてラジカル重合反応を開始する工程、及びラジカル重合反応開始後に反応液にラジカル重合開始剤を添加する重合工程を含むことを特徴とする、
前記共重合体(P1)から構成されるポリマー鎖(A)と前記(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)の製造方法。
[2] ラジカル重合反応開始後、反応液にラジカル重合開始剤を分割添加する、又は滴下する[1]に記載の製造方法。
[3] 反応終了時までに使用するラジカル重合開始剤の全量を100質量部とした時、前記滴下速度が、0.1~1.0質量部/分である[2]に記載の製造方法。
[4] 前記ラジカル重合反応の開始まで、ラジカル重合開始剤の添加を停止する[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] ラジカル重合反応開始後に添加したラジカル重合開始剤の量が、ラジカル重合反応の開始までに共存させたラジカル重合開始剤量100質量部に対して、30~500質量部である[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] ラジカル重合反応開始後、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体を添加する[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記共重合体(P1)が水添物であり、前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物である[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記(メタ)アクリル系単量体を、無水マレイン酸及びマレイミドから選ばれる少なくとも1種と共重合させる[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記重合工程の後、該重合工程で生じた前記ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する工程を行う[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[10] ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)を含み、以下の熱試験によって決定される透明性低下量が1.0%以下であることを特徴とする、樹脂組成物。
熱試験:
1)メルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)のシリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化させる;
2)ピストンを取り出し、シリンダ内に樹脂組成物6gを仕込み、下から樹脂が漏れ出ないよう清掃棒にて封をし、ピストン及び5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させる;
3)10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した樹脂組成物を取り出し、温度250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する;
4)蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて波長500nmの光の透過率(T2)を調べ、滞留試験前の樹脂組成物から同様にして得られるフィルムの透過率(T1)と比べて、その低下量(T1-T2)を求める。
[11] ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)と、
前記ポリマー鎖(B)と構成単位が同じである(メタ)アクリル系重合体(Q)とを含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体(P)と前記(メタ)アクリル系重合体(Q)との2成分混合物が、以下の熱試験によって決定される1.0%以下の透明性低下量を示すことを特徴とする、樹脂組成物。
熱試験:
1)メルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)のシリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化させる;
2)ピストンを取り出し、シリンダ内に2成分混合物6gを仕込み、下から2成分混合物が漏れ出ないよう清掃棒にて封をし、ピストン及び5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させる;
3)10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した2成分混合物を取り出し、温度250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する;
4)蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて波長500nmの光の透過率(T2)を調べ、滞留試験前の2成分混合物から同様にして得られるフィルムの透過率(T1)と比べて、その低下量(T1-T2)を求める。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加熱条件下で透明性が低下せず、かつ機械的強度も優れる(メタ)アクリル系共重合体を提供できる。このような(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物は、光学材料に用いた時に、優れた機械的強度と透明性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.(メタ)アクリル系共重合体(P)
本発明は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(P1)から構成されるポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する(メタ)アクリル系共重合体(P)の製造方法に関する。該共重合体(P)はソフト成分として機能する重合体ブロック(a1)及び、ハード成分として機能する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)を含むことによって機械的強度が高められ、ポリマー鎖(B)を含むことによって透明性と耐熱性が高められており、かつこうした共重合体(P)を含む樹脂組成物は、高透明性と高い機械的強度(例えば、耐衝撃性(落球強度)や耐折性(MIT強度))を両立できる。
【0008】
重合体ブロック(a1)のジエン由来の単位を形成するジエンとしては、1,3-ブタジエン(別名:ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(別名:イソプレン)、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン(別名:ジイソブテン)等のアルカジエンが好ましく用いられ、なかでも1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエンがより好ましい。
重合体ブロック(a1)のオレフィン由来の単位を形成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-テトラデセン、1-オクタデセン等のモノオレフィン(アルケンともいう)が好ましく用いられ、なかでも炭素-炭素二重結合がα位にあるアルケンであるα-オレフィンがより好ましい。これらジエンおよびオレフィンの炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0009】
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位は、ジエンおよび/またはオレフィンが重合することにより形成される単位として規定される。オレフィン由来の単位は、同じ構造が形成される限り、オレフィンの単独重合又は共重合によって実際に形成されるものに限らず、ジエン由来の単位が水素化されることによって形成されてもよい(なお、本明細書において、「単独重合又は共重合」であることを「単独/共重合」と表記し、「単独重合体又は共重合体」であることを「(単独/共)重合体」と表記することがある)。重合体ブロック(a1)には、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位として、ブタジエン由来の単位、イソプレン由来の単位、エチレン由来の単位、プロピレン由来の単位、1-ブテン由来の単位、およびイソブテン由来の単位から選ばれる少なくとも1種が含まれることが好ましい。
【0010】
重合体ブロック(a1)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のオレフィン(単独/共)重合体;ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン-ブタジエン共重合体等のジエン(単独/共)重合体;エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、イソブテン-イソプレン共重合体等のオレフィンとジエンの共重合体等が挙げられる。オレフィン(単独/共)重合体としてはα-オレフィン(単独/共)重合体が好ましく、ジエン(単独/共)重合体としては共役ジエン(単独/共)重合体が好ましく、オレフィンとジエンの共重合体としてはα-オレフィンと共役ジエンの共重合体が好ましい。これらの中でもポリイソプレン、イソブテン-イソプレン共重合体等のα-オレフィンと共役ジエンの共重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
【0011】
重合体ブロック(a1)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等;及び芳香族ビニル単量体等が挙げられる。
【0012】
芳香族ビニル単量体は、芳香環にビニル基が結合した化合物であれば特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン等のスチレン系単量体;2-ビニルナフタレン等の多環芳香族炭化水素環ビニル単量体;N-ビニルカルバゾール、2-ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェン等の芳香族複素環ビニル単量体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン系単量体が好ましい。スチレン系単量体には、スチレンのみならず、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に任意の置換基が結合したスチレン誘導体も含まれ、当該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、炭素数1~4が好ましく、炭素数1~2がより好ましく、スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、水素原子の少なくとも一部がヒドロキシ基またはハロゲン基で置換されていてもよい。なお、共重合体(P)の着色を低減する観点から、スチレン系単量体はアミノ基を有しないものが好ましい。さらに、スチレン系単量体は、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に置換基が結合していない無置換のスチレンであることが好ましい。
【0013】
重合体ブロック(a1)は、これら他の不飽和単量体とジエンおよび/またはオレフィンとの共重合体であってもよい。該他の不飽和単量体としては、芳香族ビニル単量体が好ましい。芳香族ビニル単量体とジエンおよび/またはオレフィンとの共重合体を重合体ブロック(a1)にすると、共重合体(P)の透明性を高めやすくなる。例えば、共重合体(P)のポリマー鎖(A)とポリマー鎖(B)の屈折率差が大きい場合でも、共重合体(P)の透明性を高めることが容易になる。
【0014】
重合体ブロック(a1)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有する場合、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は、重合体ブロック(a1)中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この場合、重合体ブロック(a1)中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位の合計の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばこれらの単位の合計含有割合が99質量%以上であってもよい。
【0015】
重合体ブロック(a1)が、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に加えて他の不飽和単量体由来の単位を有するものである場合は、重合体ブロック(a1)は、これらの単量体のランダム共重合体であることが好ましい。
【0016】
なお、重合体ブロック(a1)はジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を主成分として含むことが好ましく、重合体ブロック(a1)100質量%中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばジエンおよび/またはオレフィン由来の単位が99質量%以上であってもよい。
【0017】
重合体ブロック(a2)は、芳香族ビニル単量体由来の単位を有する。該重合体ブロック(a2)を形成する芳香族ビニル単量体としては、上記の重合体ブロック(a1)で例示の芳香族ビニル単量体が挙げられる。
【0018】
重合体ブロック(a2)は、芳香族ビニル単量体由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。重合体ブロック(a2)は、これら他の不飽和単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体(特にランダム共重合体)であってもよい。なお、重合体ブロック(a2)中のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合は1質量%以下であることが好ましく、重合体ブロック(a2)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有しないことが好ましい。
【0019】
重合体ブロック(a2)は芳香族ビニル単量体由来の単位を主成分として含むことが好ましい。具体的には、重合体ブロック(a2)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a2)は、実質的に芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えば芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が99質量%以上であってもよい。
【0020】
前記重合体ブロック(a1)と重合体ブロック(a2)から構成されるポリマー鎖(A)(すなわち共重合体(P1))としては、例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン/ブチレン-スチレンブロック共重合体)、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS))等が挙げられる。また、これらのブロック共重合体において、ブタジエンブロックがブタジエン/スチレンブロックになったものや、イソプレンブロックがイソプレン/スチレンブロックになったものが挙げられる。なお、前記表記において、各ブロックは「-」で区分され、各ブロック中の「/」の表記は、当該ブロック中を構成する単量体単位を表す。
【0021】
ポリマー鎖(A)は、重合体ブロック(a1)の両側に重合体ブロック(a2)が結合したものであることが好ましい。これによりポリマー鎖(A)がエラストマーとして機能し、(メタ)アクリル系共重合体(P)の機械的強度をより高めることができる。この場合、ポリマー鎖(A)は、トリブロック共重合体であってもよく、マルチブロック共重合体であってもよく、ラジアルブロック共重合体であってもよいが、ポリマー鎖(A)の特性制御が容易であり、また(メタ)アクリル系共重合体(P)中へのポリマー鎖(B)の導入が容易な点から、トリブロック共重合体であることが好ましい。このような共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびその水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物等が挙げられる。
【0022】
ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a2)の含有割合は5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上がより好ましく、9質量%以上がさらに好ましく、また55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。これにより、ポリマー鎖(A)がソフト成分とハード成分をバランス良く有するものとなり、(メタ)アクリル系共重合体(P)の機械的強度を高めることが容易になる。同様の観点から、ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a1)の含有割合は45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、また95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、91質量%以下がさらに好ましい。また、ポリマー鎖(A)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
ポリマー鎖(A)の重量平均分子量は、0.1万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、1万以上がさらに好ましく、3万以上がさらにより好ましく、また30万以下が好ましく、25万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましく、15万以下がさらにより好ましい。ポリマー鎖(A)の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、(メタ)アクリル系共重合体(P)の機械的強度を確保し、(メタ)アクリル系共重合体(P)の成形加工性を高めることが容易になる。
【0024】
ポリマー鎖(A)の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は、例えば、1.1以上、好ましくは1.2以上であり、例えば、3.0以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下である。
【0025】
ポリマー鎖(B)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位(以下、「(メタ)アクリル単位」と称する場合がある)を少なくとも有する。ポリマー鎖(B)を有することで(メタ)アクリル系共重合体(P)の透明性を高めることができる。
【0026】
本明細書において(メタ)アクリル系単量体は、α位及び/またはβ位に水素原子かアルキル基(好ましくは、炭素数1~4のアルキル基)が結合したアクリル基を含む単量体の意味で使用し、該アルキル基は、水素原子の少なくとも一部が、ヒドロキシ基またはハロゲン基で置換されていてもよい。(メタ)アクリル系単量体は、好ましくはアクリル基又はメタクリル基を有する単量体を意味する。また(メタ)アクリル系単量体には(メタ)アクリル酸(すなわち遊離酸)およびその誘導体が含まれ、該誘導体には、エステル、塩、酸アミド等が含まれる。
【0027】
前記(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸のエステル結合の酸素原子に直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が結合した(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0028】
直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、C1-18アルキル基が好ましく、C1-12アルキル基がより好ましく、C1-6アルキル基がさらに好ましい。なお本明細書において、「C1-18」や「C1-12」との記載は、それぞれ「炭素数1~18」、「炭素数1~12」を意味する。
【0029】
環状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の架橋環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルのシクロアルキル基は、C3-20シクロアルキル基が好ましく、C4-12シクロアルキル基がより好ましく、C5-10シクロアルキル基がさらに好ましい。
【0030】
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸キシリル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸ビナフチル、(メタ)アクリル酸アントリル等の(メタ)アクリル酸アリール;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールのアリール基は、C6-20アリール基が好ましく、C6-14アリール基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルのアラルキル基は、C6-10アリールC1-4アルキル基が好ましい。(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキルのアリールオキシアルキル基は、C6-10アリールオキシC1-4アルキル基が好ましく、フェノキシC1-4アルキル基がより好ましい。
【0031】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、アルコキシ基、エポキシ基等の置換基を有していてもよい。特に直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、脂肪族炭化水素基がヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン基、アルコキシ基、エポキシ基等を有することが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル等の(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エポキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸エポキシアルキルのアルキル基は、C1-12アルキル基が好ましく、C1-6アルキル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルのアルコキシアルキル基は、C1-12アルコキシC1-12アルキル基が好ましく、当該アルコキシ基はC1-6がより好ましく、当該アルキル基はC1-6がより好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル系単量体としては、後述するプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A、(メタ)アクリル系単量体Bなどで例示する単量体も含まれる。
【0033】
ポリマー鎖(B)は主鎖に環構造を有することが好ましい。すなわち、ポリマー鎖(B)は、ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を有する単位(以下、「環構造単位」と称する場合がある)を有することが好ましい。ポリマー鎖(B)が主鎖に環構造を有することで、(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物の透明性や耐熱性を高めることができる。また、耐溶剤性、寸法安定性、表面硬度、接着性、酸素や水蒸気のバリヤ性、各種の光学特性の向上も期待できる。さらに前記樹脂組成物から延伸フィルムを得る場合は、延伸条件に応じて、ポリマー鎖(B)の環構造に由来して位相差を発現させることも可能となる。
【0034】
ポリマー鎖(B)の主鎖の環構造は、(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含んでいてもよく、(メタ)アクリル系単量体とは別に導入された環構造であってもよい。(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含ませる場合には、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化、イミド化などによって連結すればよい。また隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位のうち一方がヒドロキシ基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル系単量体由来の単位のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル系単量体由来の単位のカルボン酸基とが縮合することでも、環構造を形成できる。環構造を(メタ)アクリル系単量体由来の単位とは別に導入する場合は、例えば、(メタ)アクリル系単量体と、環構造内に重合性二重結合を有する単量体とを共重合すればよい。
【0035】
環構造は、4員環構造、5員環構造、6員環構造、7員環構造、8員環構造等のいずれでもよく、好ましくは5員環構造または6員環構造である。
【0036】
環構造としては、(メタ)アクリル系共重合体(P)の耐熱性の観点から、ラクトン環構造、ラクタム環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられる。これらの環構造は、ポリマー鎖(B)の主鎖に1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、ラクトン環構造、スクシンイミド構造、無水コハク酸構造、グルタルイミド構造、および無水グルタル酸構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてラクトン環構造又はラクタム環構造を有する場合、ラクトン環構造又はラクタム環構造の環員数は特に限定されず、例えば4員環から8員環のいずれかであればよい。なお、環構造の安定性に優れる点から、ラクトン環構造又はラクタム環構造は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
【0038】
ラクトン環構造としては、例えば特開2004-168882号公報に開示される構造等が挙げられるが、ラクトン環構造の導入が容易であること、具体的には、前駆体(ラクトン環化前の重合体)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応におけるラクトン環含有率を高めることができること、(メタ)アクリレート由来の単位を有する重合体を前駆体にできることなどの理由から、下記式(1a)で表される構造が好ましく示される。またラクタム環構造としては、下記式(1b)で表される構造が好ましく示される。下記式(1a)又は下記式(1b)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。
【0039】
【0040】
式(1a)、式(1b)のR1、R2およびR3の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基等が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は酸素原子やハロゲン原子を含んでいてもよく、具体的には、炭化水素基の有する水素原子の1つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0041】
式(1a)のラクトン環構造又は式(1b)のラクタム環構造において、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい(メタ)アクリル系共重合体(P)を得ることが容易な点から、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1-20アルキル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0042】
ヒドロキシ基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A由来の単位のプロトン性水素原子含有基と、該(メタ)アクリル系単量体A由来の単位に隣接する(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基とを環化縮合することにより、ラクトン環構造及びラクタム環構造をポリマー鎖(B)に導入することができる。重合成分として、ヒドロキシ基又はアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体Aは必須であり、(メタ)アクリル系単量体Bは前記単量体Aを包含する。単量体Bは単量体Aと一致していてもよいし、一致しなくてもよい。単量体Bが単量体Aと一致するときには、単量体Aの単独重合となる。
【0043】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体A1としては、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル)、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル)等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。特に好ましくは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが示される。
【0044】
アミノ基を有する(メタ)アクリル系単量体A2としては、前記単量体A1のヒドロキシ基がアミノ基に変わった化合物が例示できる。
【0045】
(メタ)アクリル系単量体Bとしては、ビニル基とエステル基またはカルボキシ基とを有する単量体が好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等)、(メタ)アクリル酸アリール(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等)、2-(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等の2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル)等が挙げられる。
【0046】
ポリマー鎖(B)は、式(1a)又は式(1b)で表されるラクトン環構造又はラクタム構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0047】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造として無水コハク酸構造(すなわち無水マレイン酸単量体に由来する構造)またはスクシンイミド構造(すなわちマレイミド単量体に由来する構造)を有する場合、無水コハク酸構造またはスクシンイミド構造としては、下記式(2)で表される構造が好ましく示される。下記式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は水素原子または置換基を表し、X1は酸素原子または窒素原子を表し、X1が酸素原子のときn1=0であり、X1が窒素原子のときn1=1である。
【0048】
【0049】
式(2)のR6の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0050】
X1が酸素原子のとき、式(2)により示される環構造は無水コハク酸構造となる。無水コハク酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル等)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
【0051】
X1が窒素原子のとき、式(2)により示される環構造はスクシンイミド構造となる。スクシンイミド構造は、例えば、マレイミドと(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。スクシンイミド構造としては、例えば、N位が無置換のスクシンイミド構造、N-メチルスクシンイミド構造、N-エチルスクシンイミド構造、N-シクロヘキシルスクシンイミド構造、N-フェニルスクシンイミド構造、N-ナフチルスクシンイミド構造、N-ベンジルスクシンイミド構造等が挙げられる。また、スクシンイミド構造を与えるマレイミドとしては、N位が無置換のマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ベンジルマレイミド等を用いることができる。
【0052】
X1が窒素原子であるスクシンイミド構造をポリマー鎖(B)が有する場合、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい(メタ)アクリル系共重合体(P)を得ることが容易な点から、R4およびR5は水素原子であり、R6はC3-20シクロアルキル基またはC6-20芳香族基(アリール基、アラルキル基等)であることが好ましく、R4およびR5は水素原子であり、R6はシクロヘキシル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0053】
ポリマー鎖(B)は、式(2)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0054】
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてグルタルイミド構造または無水グルタル酸構造を有する場合、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造としては、下記式(3)で表される構造が好ましく示される。下記式(3)において、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表し、R9は水素原子または置換基を表し、X2は酸素原子または窒素原子を表し、X2が酸素原子のときn2=0であり、X2が窒素原子のときn2=1である。
【0055】
【0056】
式(3)中、R7およびR8のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等のC1-8アルキル基等が挙げられる。なお、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい(メタ)アクリル系共重合体(P)を得ることが容易な点から、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはC1-4アルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
【0057】
式(3)のR9の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1-20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10のアルキル基であり、より好ましくはC1-6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10のアルケニル基であり、より好ましくはC2-6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基(好ましくはC4-12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5-8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6-20アリール基(好ましくはC6-14のアリール基であり、より好ましくはC6-10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7-20アラルキル基(好ましくはC7-15のアラルキル基であり、より好ましくはC7-11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R9は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基がより好ましい。
【0058】
X2が酸素原子のとき、式(3)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
【0059】
X2が窒素原子のとき、式(3)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基をイミド化したり、隣接する(メタ)アクリル酸アミド由来の単位のアミド基と(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基とを環化縮合することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
【0060】
式(3)の環構造において、X2が窒素原子であるグルタルイミド構造を有する場合、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基であることがさらに好ましく、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9はシクロヘキシル基またはフェニル基であることが特に好ましい。
【0061】
ポリマー鎖(B)は、式(3)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0062】
上記に説明した環構造のうち、(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物に良好な表面硬度、耐溶剤性、接着性、バリヤ特性、光学特性が付与される観点から、ポリマー鎖(B)の環構造単位は、ラクトン環構造および/またはスクシンイミド構造(マレイミド単量体由来の構造)を含むことが好ましい。
【0063】
ポリマー鎖(B)中の主鎖の環構造単位の含有割合は特に限定されないが、ポリマー鎖(B)中、環構造単位の含有割合は3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。このように主鎖の環構造単位の含有割合を調整することにより、(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物に耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く付与することができる。前記樹脂組成物により高い耐熱性や機械的強度を付与する場合は、ポリマー鎖(B)中の構造単位の含有割合を10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、あるいは25質量%以上とすることもできる。なお、ここで説明した環構造単位の含有割合は、ポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造を有する単位の含有率を意味し、例えば上記式(1)~(3)で表される構造の含有割合を意味する。
【0064】
ポリマー鎖(B)は、前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位をさらに有していてもよい。(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルピリジン等の芳香族ビニル化合物;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。例えば、ポリマー鎖(B)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有していれば、(メタ)アクリル系共重合体(P)の屈折率や位相差特性を調整することが容易になる。芳香族ビニル単量体の詳細は、ポリマー鎖(A)の芳香族ビニル単量体の説明が参照される。なお、ポリマー鎖(B)が2種以上の単量体成分から形成されるものである場合、ポリマー鎖(B)はランダム共重合体であることが好ましい。
【0065】
前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体由来の単位は、ポリマー鎖(B)100質量部中、例えば、0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、例えば、50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0066】
(メタ)アクリル系共重合体(P)は、ポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)にグラフトしているグラフト共重合体であることが好ましい。なお、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集によると、グラフト高分子とは、「ある高分子中に側鎖として主鎖に結合した1種または数種のブロックがあり、しかもこれらの側鎖が主鎖とは異なる構成(化学構造)上または配置上の特徴をもつ場合、この高分子をグラフト高分子という。」と説明されている。グラフト共重合体は、連鎖移動反応法、高分子開始剤法、カップリング法、マクロモノマー法、表面グラフト法等の公知の製造方法により得ることができ、これらの方法から1つのみを採用してもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの方法の詳細は、日本化学会編、化学便覧(応用化学編)第6版を参考にできる。
【0067】
前記グラフト共重合体(P)において、ポリマー鎖(B)は、ポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)にグラフトしていることがより好ましく、ポリマー鎖(B)が、重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合していることが最も好ましい。この最も好ましい場合、ポリマー鎖(B)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の主鎖の炭素原子に結合していてもよく、当該主鎖に置換基(側鎖)として結合した炭化水素基の炭素原子に結合していてもよい。ポリマー鎖(B)は、例えば、共重合体ブロック(a1)の主鎖のジエン由来の二重結合に結合してもよく、当該二重結合の隣接炭素原子に結合してもよい。あるいは、ポリマー鎖(B)は、共重合体ブロック(a1)の主鎖に置換基(側鎖)として結合したジエン由来の二重結合に結合したり、当該二重結合の隣接炭素原子に結合していてもよい。
【0068】
2.(メタ)アクリル系共重合体(P)の製造方法
2.1 製造原料、試剤
(メタ)アクリル系共重合体(P)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(P1)(以下、「原料共重合体(P1)」と称する場合がある)とラジカル重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル系単量体(以下、「原料(メタ)アクリル系単量体」と称する場合がある)を重合することによって製造できる。前記原料共重合体(P1)が前記ポリマー鎖(A)に相当し、前記原料(メタ)アクリル系単量体の重合物がポリマー鎖(B)を構成する。
【0069】
原料共重合体(P1)の製造方法は特に限定されず、例えば、重合体ブロック(a1)を構成する単量体成分を重合して重合体ブロック(a1)を形成した後、重合体ブロック(a1)の存在下で重合体ブロック(a2)を構成する単量体成分を重合することにより、得ることができる。原料共重合体(P1)は、水添されていてもよい。また原料共重合体(P1)は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。原料共重合体(P1)の2種以上を組み合わせる場合、樹脂組成物としての平均分子量や二重結合量を調整することが容易となる。
【0070】
原料共重合体(P1)としては、オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上2.3mmol/g以下であるものを用いることが好ましい。オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上の原料共重合体(P1)を用いることにより、透明性が高い共重合体(P)を得やすくなる。一方、オレフィン性二重結合量が2.3mmol/g以下の原料共重合体(P1)を用いることにより、ゲル化物の発生が少ない共重合体(P)を得やすくなる。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量は、0.040mmol/g以上がより好ましく、0.050mmol/g以上がさらに好ましく、また2.0mmol/g以下がより好ましい。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量は1H-NMR測定またはヨウ素滴定法により求めることができる。
【0071】
原料(メタ)アクリル系単量体としては、ポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル系単量体が適宜使用できる。また原料(メタ)アクリル系単量体と共に、該(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体を存在させ、これらを共重合してもよい。またポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成するのに必要な成分(以下、「環形成用単量体」と称する場合がある)、例えば、ラクトン環構造又はラクタム環構造を形成するためのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A及び(メタ)アクリル系単量体B、環構造内に重合性二重結合を有する単量体(無水コハク酸構造を形成するための無水マレイン酸、スクシンイミド構造を形成するためのマレイミドなど)、及び無水グルタル酸構造又はグルタルイミド構造を形成する為の(メタ)アクリル酸から選ばれる少なくとも1種を前記原料(メタ)アクリル系単量体として、又は原料(メタ)アクリル系単量体の共重合成分として使用することも可能である。
【0072】
重合の際の原料共重合体(P1)の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分(原料(メタ)アクリル系単量体、原料(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体、環形成用単量体など)の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上がさらにより好ましく、また50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。単量体成分の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分の合計100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、また99質量部以下が好ましく、97質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましく、93質量部以下がさらにより好ましい。
【0073】
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)・二塩酸塩、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート(TAIN)、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート等の有機過酸化物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物は、原料共重合体(P1)が水添物であるときに特に有用である。有機過酸化物によれば、オレフィン由来の単位が有する二重結合(オレフィン性二重結合)のビニル位、アリル位等活性が高い水素を引き抜いて当該箇所でラジカルを生成でき、ポリマー鎖(B)を形成する単量体成分を付加重合させるのに有用である。ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、単量体成分100質量部に対して0.01~1質量部とすることが好ましい。
【0074】
前記重合は、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合法を用いて行うことができるが、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いれば、(メタ)アクリル系共重合体(P)への微小な異物の混入を抑えることができ、共重合体(P)を光学材料用途等に好適に適用しやすくなる。
【0075】
溶液重合に用いる溶媒は、単量体成分の組成に応じて適宜選択でき、通常のラジカル重合反応で使用される有機溶媒を用いることができる。具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
2.2 添加手順
本発明では前記原料共重合体(P1)と前記原料(メタ)アクリル系単量体とラジカル重合開始剤を共存させてラジカル重合反応を開始する工程と、ラジカル重合反応開始後に反応液にラジカル重合開始剤を添加する工程とを行う。ラジカル重合反応開始後にラジカル重合開始剤を追加添加することで、ポリマー鎖(B)の組成分布を小さくすることや、原料共重合体(P1)と(メタ)アクリル系単量体との反応率を向上させ、得られた(メタ)アクリル系共重合体(P)の凝集現象を低減でき、(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物の加熱条件下での透明性の低下を防止できる。以下、ラジカル重合反応が開始するまでの原料共重合体(P1)、原料(メタ)アクリル系単量体、ラジカル重合開始剤の混合物を「初期混合物」といい、ラジカル重合反応が開始した後の反応混合物(反応液)を「反応継続液」という場合がある。
【0077】
初期混合物の調製手順は特に制限されず、原料共重合体(P1)に原料(メタ)アクリル系単量体とラジカル重合開始剤とを添加してもよく、原料共重合体(P1)と原料(メタ)アクリル系単量体との混合物にラジカル重合開始剤を添加してもよい。またラジカル重合が開始するまでの温度制御も適宜設定でき、例えば、原料共重合体(P1)と原料(メタ)アクリル系単量体との混合物を重合開始可能な温度に昇温した後、該混合物にラジカル重合開始剤を添加してラジカル重合反応を開始させてもよい。
【0078】
ラジカル重合反応が開始した後の反応液(反応継続液)へのラジカル重合開始剤の添加は、前記初期混合物を調製するためのラジカル重合開始剤の添加から途切れることなく連続しておこなってもよいが、初期混合物の調製のためにラジカル重合開始剤を添加した後、その添加を一旦停止し、ラジカル重合反応が開始してからラジカル重合開始剤の添加を再開することが好ましい。添加を一旦停止することで、ラジカル重合反応の開始を確認してからの再添加が可能となり、ラジカル反応を安全に行うことができる。ラジカル重合反応の開始は、サンプリング等による成分確認、液性や液温の変化などによって確認できる。
【0079】
反応継続液へのラジカル重合開始剤の添加は、分割添加及び滴下(連続滴下を含む)のいずれでもよい。また分割添加する時の添加回数は2回以上であれば特に制限されず、各回の添加を滴下で行ってもよい。好ましくはラジカル重合開始剤を、滴下、より好ましくは連続滴下する。滴下速度は、反応終了時までに使用するラジカル重合開始剤の全量を100質量部とした時、例えば、0.1~1.0質量部/分程度、好ましくは0.1~0.8質量部/分程度である。反応の終了は転化率を測定することで確認でき、各単量体の転化率が全て90%以上となった時点とする。
【0080】
反応継続液へのラジカル重合開始剤の添加量は、初期混合物に添加したラジカル重合開始剤の添加量100質量部に対して、例えば、30~500質量部であり、好ましくは100~450質量部であり、より好ましくは150~350質量部である。
【0081】
原料共重合体(P1)を反応継続液に添加(分割添加、滴下等)してもよいが、添加しない方が好ましい。添加しない方が、原料共重合体(P1)と(メタ)アクリル系単量体の反応率を高めることができる。反応継続液への原料共重合体(P1)の添加量は、初期混合物に添加した原料共重合体(P1)の添加量100質量部に対して、例えば、0~100質量部であり、好ましくは0~50質量部であり、より好ましくは0質量部である。
【0082】
原料(メタ)アクリル系単量体を反応継続液に添加(分割添加、滴下等)してもよく、添加しなくてもよい。反応継続液への添加の有無は、共重合成分との反応性を比較して決定できる。例えば共重合成分が芳香族ビニル単量体の場合、原料(メタ)アクリル系単量体を反応継続液に添加しないか、添加量を少なくする方が好ましい。共重合成分が芳香族ビニル単量体の場合、原料(メタ)アクリル系単量体の反応継続液の添加の量を少なくする(特に添加しない)方が、原料(メタ)アクリル系単量体の転化率を高めることができる。また芳香族ビニル単量体を共重合させる時のポリマー鎖(B)の組成分布を小さくでき、(メタ)アクリル系共重合体(P)の分散安定性を高めることができ、加熱条件下での透明性低下をより防止できる。共重合成分が芳香族ビニル単量体の場合、反応継続液への原料(メタ)アクリル系単量体の添加量は、初期混合物に添加した原料(メタ)アクリル系単量体の添加量100質量部に対して、例えば、0~50質量部であり、好ましくは0~40質量部であり、より好ましくは0~30質量部である。
【0083】
この重合反応では、前述のプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A、(メタ)アクリル系単量体B、環構造内に重合性二重結合を有する単量体(無水マレイン酸、マレイミドなど)、(メタ)アクリル酸などの環形成用単量体を重合させることも可能である。これら環形成用単量体は初期混合物に添加してもよく、反応継続液に添加(分割添加、滴下等)してもよい。初期混合物への添加量と反応継続液への添加量の比は、共重合成分との反応性を比較して決定できる。例えば共重合成分が芳香族ビニル単量体であり、その使用量が全単量体100質量部中、15質量部以下の場合、環形成用単量体を初期混合物に添加し、反応継続液には添加しないか添加量を少なくする方が好ましい。共重合成分が芳香族ビニル単量体であり、その使用量が全単量体100質量部中、15質量部以上の場合、環形成用成分は初期混合物及び反応継続液に添加することが好ましい。このように初期混合物への添加量と反応継続液への添加量の比を調整することで、環形成用単量体の転化率を高めたり、前述する様に(メタ)アクリル系単量体と芳香族ビニル単量体を反応させるときのポリマー鎖(B)の組成分布を小さくでき、(メタ)アクリル系共重合体(P)の分散安定性を高めることができ、加熱条件下での透明性低下をより防止できる。芳香族ビニル単量体を反応させる時の初期混合物への環形成用単量体の添加量は、環形成用単量体の全添加量100質量部に対して、例えば、20質量部以上であり、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは40質量部以上である。
【0084】
この重合反応では、ビニル単量体(ただし、環形成用単量体を含むことはない)を前記原料(メタ)アクリル系単量体と共重合させてもよい。該ビニル単量体は、初期混合物に添加してもよく、反応継続液に添加(分割添加、滴下等)してもよい。初期混合物への添加量と反応継続液への添加量の比は、原料(メタ)アクリル系単量体とビニル単量体の反応性を比較して決定できる。ビニル単量体が芳香族ビニル単量体の場合、初期混合物への添加をしないか添加量を少なくする一方で、反応継続液に添加することが好ましい。反応継続液での添加量を多くすることで、芳香族ビニル単量体を共重合させる時のポリマー鎖(B)の組成分布を小さくでき、(メタ)アクリル系共重合体(P)の分散安定性を高めることができ、加熱条件下での透明性低下をより防止できる。反応継続液へのビニル単量体の添加量は、ビニル単量体の全添加量100質量部に対して、例えば、50質量部以上であり、好ましくは60質量部以上であり、より好ましくは70質量部以上である。
【0085】
ポリマー鎖(B)の好ましい組成分布としては、反応前半で生成したポリマー鎖(B)に含まれる各単量体の質量分率と反応後半で生成したポリマー鎖(B)に含まれる各単量体の質量分率を単量体ごとに比較した際、その差が例えば10質量%以下であることが好ましい。尚、反応の前半及び後半は、反応終了時までに反応した単量体の総重量を100質量部とした際、約50質量部が反応した時点の前後とする。
【0086】
前記重合反応では、初期混合物及び反応継続液の少なくとも一方、好ましくは初期混合物に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤を使用することで分子量分布を小さくできる。連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、オクタデカンチオール、ドデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2-メルカプトプロピオン酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、オクタン酸2-メルカプトエチルエステル、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、ドデシルメルカプタン、エチレングリコールビスチオグリコレート等のメルカプタン;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、例えば、初期混合物及び反応継続液で使用する全単量体成分100質量部に対して、0.01~3質量部とすることが好ましい。
【0087】
2.3 反応条件
初期混合物において原料共重合体(P1)と単量体(原料(メタ)アクリル系単量体、環形成用単量体、ビニル単量体など、特に原料(メタ)アクリル系単量体、環形成用単量体)は前記溶媒に溶解又は分散していてもよく、原料共重合体(P1)と単量体の合計の濃度は、例えば、10~80質量%、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%である。
また反応継続液に添加するラジカル重合開始剤は、前記溶媒に溶解又は分散していてもよく、その濃度は、例えば、1~50質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~20質量%である。
反応継続液に添加する単量体(原料(メタ)アクリル系単量体、環形成用単量体、ビニル単量体など。特に芳香族ビニル単量体)は、前記溶媒に溶解又は分散していてもよく、また液体である場合は溶媒と混合せずにそのまま添加してもよい。
反応継続液に添加するラジカル重合開始剤と単量体は、別々に反応継続液に添加してもよく、両者を先に混合してから反応継続液に添加してもよい。
【0088】
反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気または気流下で行うのが好ましい。反応温度は、例えば、50~200℃、好ましくは70~150℃、より好ましくは90~120℃である。また反応時間は、重合反応の進行度合や、ゲル化物の生成の程度を見ながら適宜調整すればよく、例えば1時間~20時間行うことが好ましい。
【0089】
前記重合反応での各単量体(原料(メタ)アクリル系単量体、原料(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体、環形成用単量体など)の転化率は、例えば、以下の通りである。
原料(メタ)アクリル系単量体の転化率:例えば、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上
原料(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なビニル単量体(環形成用単量体を除く)の転化率:例えば、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上
環形成用単量体の転化率:例えば、90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上
【0090】
2.4 脱揮工程
ポリマー鎖(B)に環構造を導入しない場合、上記重合工程の後、必要に応じて脱揮工程を含む後処理工程を行う。また環構造内に重合性二重結合を有する単量体(好ましくは、無水マレイン酸及びマレイミドから選ばれる少なくとも1種)を環形成用単量体として用いてポリマー鎖(B)に環構造を導入する場合にも、特段の環化工程は不要であり、重合工程後、必要に応じて脱揮工程を含む後処理工程を行う。
【0091】
脱揮工程では、重合溶媒を含む重合反応液を加熱及び/又は減圧して溶媒を除去する。脱揮工程では、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が使用でき、乾燥機を使用してもよい。
【0092】
ベント付押出機を用いる場合、押出機は、シリンダと、シリンダ内に設けられたスクリューとを有し、加熱手段を備えていることが好ましい。シリンダには、ベントが1つまたは複数設けられる。ベントは、押出機内の移送方向に対して、少なくとも原料投入部の下流側に設けられることが好ましく、原料投入部の上流側にも設けられてもよい。
【0093】
押出機内に供給された重合反応物を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で脱揮が進み、押出機の下流側から(メタ)アクリル系共重合体(P)が排出される。押出機の下流側にはダイスが設けられていることが好ましく、ダイスから共重合体(P)を吐出することにより、所定の形状(フィルム状や棒状)に成形することができる。例えば、棒状に成形された共重合体を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。
【0094】
2.5 環化工程(環構造形成工程)と脱揮工程
一方、プロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体A、(メタ)アクリル系単量体B、(メタ)アクリル酸などを環形成用単量体として用いてポリマー鎖(B)の共重合を行う場合、該共重合反応の後に環化反応(環構造形成工程)を行うことで、ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を導入できる。具体的には、重合工程で形成されたポリマー鎖(B)の隣接する単量体単位が有する反応性基(エステル基、-COOH基、-OH基、-NH2基)の間で縮合反応させて、ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する。環化縮合反応には、エステル化反応、アミド化反応、酸無水物化反応、イミド化反応等が含まれる。例えば、隣接する(メタ)アクリル単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することによって、無水グルタル酸構造を形成することができ、イミド化することによってグルタルイミド構造を形成することができる。また隣接する(メタ)アクリル単位のうち一方がヒドロキシ基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル単位のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル単位のカルボン酸基とを縮合することによって、ラクトン環構造又はラクタム環構造を形成することができる。
【0095】
環構造形成工程において、隣接する単量体単位の反応性基間の縮合反応は、触媒(環化触媒)の存在下で行うことが好ましい。環化触媒としては、酸、塩基およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。酸、塩基およびそれらの塩は有機物であっても無機物であってもよく、特に限定されない。なかでも、環化反応の触媒としては、有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、環化縮合反応を効率的に行うことができるとともに、得られる共重合体(P)の着色を低減することができる。
【0096】
環化触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;アルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;モノ-、ジ-またはトリ-アルキル(アリール)ホスフィン;アルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化モノ-、ジ-またはトリ-アルキル(アリール)ホスフィン;ハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、触媒活性が高く、着色性が低いことから、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。環化触媒の使用量は、例えば、重合工程で得られた共重合体100質量部に対して0.001~1質量部とすることが好ましい。
【0097】
環構造形成工程における反応温度は、50℃~300℃が好ましい。反応時間は、環化縮合反応の進行度合を見ながら適宜調整すればよく、例えば5分~6時間行うことが好ましい。
【0098】
環構造形成工程は、加熱下で行うことが好ましい。この際、重合工程で得られた重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱してもよいし、重合溶媒を脱揮した後に加熱してもよいし、これらの両方を組み合わせて行ってもよい。環化縮合反応に用いる反応器としては、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が挙げられる。
【0099】
環構造形成工程では、脱揮を行うことが好ましい。脱揮は、反応器内を真空ポンプ等で減圧することにより行うことができる。またオートクレーブで加熱した後に真空乾燥することでも脱揮できる。脱揮により、重合工程で用いられ環構造形成工程に持ち込まれた重合溶媒や、環化縮合反応により副生したアルコール等が除去され、得られる(メタ)アクリル系共重合体(P)中の残存揮発分を少なくすることができる。また、環化縮合反応で副生したアルコール等が除去されるため、反応平衡が生成側に傾き有利となる。
【0100】
脱揮をしながら環化縮合反応を行う場合、効率的に脱揮を行う点から、環化縮合反応を減圧下で行うことが好ましい。環化縮合反応での減圧は、例えば、絶対圧として90kPa以下とすることが好ましく、80kPa以下がより好ましく、70kPa以下がさらに好ましい。一方、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、減圧する際の絶対圧は0.1kPa以上が好ましく、1kPa以上がより好ましい。なお、脱揮をせずに環化縮合反応を行う場合は、環化縮合反応は常圧下または加圧下で行ってもよい。
【0101】
脱揮しながら環化をする場合、ベント付押出機を用いることが好ましい。ベント付押出機の構造は、上記脱揮工程で使用するベント付押出機と同様である。押出機内に供給された重合反応物を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で環化縮合反応が進み、押出機の下流側から(メタ)アクリル系共重合体(P)が排出される。押出機の下流側にはダイスが設けられていることが好ましく、ダイスから共重合体(P)を吐出することにより、所定の形状(フィルム状や棒状)に成形することができる。例えば、棒状に成形された共重合体を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。
【0102】
環構造形成工程において環化縮合反応を環化触媒の存在下で行う場合、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることが好ましい。例えば、(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する際、当該樹脂組成物中に環化触媒が残存していると、環化縮合反応が起こることによってアルコール等が発生して、所望しない発泡が起こる可能性がある。しかし、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることにより、このような発泡が防ぐことができる。
【0103】
失活剤としては、環化触媒を中和できる物質が好適に用いられる。例えば環化触媒が酸性物質である場合、失活剤としては塩基性物質を用いることができ、逆に環化触媒が塩基性物質である場合、失活剤としては酸性物質を用いることができる。なお上記に説明したように、環化触媒として有機リン化合物が好適に用いられ、当該化合物は酸性物質であることが多いことから、失活剤としては塩基性物質を用いることが好ましい。塩基性物質としては、環化縮合反応を停止する機能を有し得るものであれば特に限定されないが、例えば金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが用いられる。逆に、環化触媒として塩基性物質を用いる場合は、失活剤としては、上記に説明した環化触媒に使用可能な酸性物質を用いることができる。
【0104】
失活剤を加えるタイミングは、環化縮合反応の途中か、当該反応より後であって(メタ)アクリル系共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する前であることが好ましい。例えば、溶融状態の樹脂組成物に失活剤を加えてもよく、溶媒に溶解した樹脂組成物に失活剤を加えてもよい。上記に説明したように押出機を用いて環化縮合反応を行う場合は、当該押出機において環化縮合反応が十分行われた後の位置に失活剤を添加するようにしてもよい。
【0105】
3.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、(メタ)アクリル系共重合体(P)を1種のみ含有するものであってもよく、2種以上含有するものであってもよい。また、上記に説明した(メタ)アクリル系共重合体(P)に加えて、他の重合体を含有するものであってもよい。この場合、本発明の樹脂組成物は、(メタ)アクリル系共重合体(P)を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよく、他の重合体を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよい。他の重合体としては、共重合体(P)との相溶性に優れる点から、(メタ)アクリル系重合体(Q)が好ましく用いられる。これにより、フィルムの透明性や耐熱性を高めることが容易になる。
【0106】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、上記のポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するものであればよく、好ましくは、上記のポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を有する。(メタ)アクリル系重合体(Q)は、上記のポリマー鎖(B)で説明した他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。(メタ)アクリル系重合体(Q)の構成単位は、(メタ)アクリル系共重合体(P)との相溶性を高める観点から、ポリマー鎖(B)の構成単位と同じであることが好ましい。
【0107】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、環構造を有するものであることが好ましく、主鎖に環構造を有するものであることがより好ましい。これにより、フィルムの透明性や耐熱性を高めることができる。(メタ)アクリル系重合体(Q)の主鎖の環構造としては、ラクトン環構造、ラクタム環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられ、これらの環構造の詳細は、上記のポリマー鎖(B)の環構造に関する説明が参照される。なかでも、(メタ)アクリル系重合体(Q)は、(メタ)アクリル系共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する環構造と同じ環構造を主鎖に有することが好ましい。
【0108】
(メタ)アクリル系重合体(Q)は、(メタ)アクリル系共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する(メタ)アクリル単位と同じ(メタ)アクリル単位を有するとともに、ポリマー鎖(B)が有する環構造単位と同じ環構造単位を有することが好ましい。これにより(メタ)アクリル系重合体(Q)と共重合体(P)との相溶性が高まり、フィルムの透明性や耐熱性を高めることが容易になる。
【0109】
このような(メタ)アクリル系重合体(Q)は、(メタ)アクリル系共重合体(P)を重合生成する際に、ポリマー鎖(B)形成用単量体を原料共重合体(P1)とは別に重合させることで、同じ重合反応系内で一緒に重合生成することが簡便である。上記に説明した(メタ)アクリル系共重合体(P)の製造方法では、共重合体(P)とともに、共重合体(P)のポリマー鎖(B)に対応した(メタ)アクリル系重合体(Q)も同時に生成させ、この際、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を分離しないことにより、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)を含む樹脂組成物を得ることができる。なおこの様にして得られた、実質的に(メタ)アクリル系共重合体(Q)と(メタ)アクリル系共重合体(P)のみを重合体として含む樹脂組成物を、以下、「2成分混合物」という場合がある。樹脂組成物に(メタ)アクリル系重合体(Q)以外の重合体を含有させるには、(メタ)アクリル系共重合体(P)を単離して、あるいは単離せずに、他の重合体を配合すればよい。
【0110】
樹脂組成物中の(メタ)アクリル系共重合体(P)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がさらにより好ましく、これにより樹脂成形体の機械的強度を高めやすくなる。樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合の上限は特に限定されず、樹脂組成物が共重合体(P)のみから構成されていてもよく、樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合が90質量%以下であってもよく、70質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、または30質量%以下であってもよい。
【0111】
樹脂組成物中の共重合体(P)のポリマー鎖(A)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物中のポリマー鎖(A)の含有割合が1質量%以上であれば、樹脂成形体の機械的強度を高めやすくなる。樹脂組成物中のポリマー鎖(A)の含有割合が50質量%以下であれば、樹脂成形体の透明性や耐熱性を高めやすくなる。
【0112】
樹脂組成物が(メタ)アクリル系重合体(Q)を含有する場合、樹脂組成物中の(メタ)アクリル系重合体(Q)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましく、また99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。また樹脂組成物中の(メタ)アクリル系重合体(Q)とポリマー鎖(B)の合計の含有割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましい。
【0113】
樹脂組成物中の共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の合計含有割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましい。フィルム中の共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)の含有割合の上限は特に限定されず、フィルムは実質的に共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体(Q)のみから構成されていてもよい。
樹脂組成物の固形分100質量%中の環構造単位の含有割合は特に限定されないが、3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。このように環構造単位の含有割合を調整することにより、樹脂組成物の耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く高めることが容易になる。なお、ここで説明した環構造単位の含有割合は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造を有する単位の含有量と、(メタ)アクリル系重合体(Q)の主鎖に含まれる環構造を有する単位の含有量を足し合わせた量の割合を意味し、例えば、上記式(1a)、(1b)、(2)、及び(3)で表される構造の含有割合を意味する。
【0114】
本発明の樹脂組成物は、上記に説明した(メタ)アクリル系重合体(Q)以外の重合体を含有していてもよく、そのような重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系重合体;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;シクロオレフィンポリマー;セルロース誘導体;ポリブタジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
【0115】
前記樹脂組成物(好ましくは2成分混合物)の重量平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、3万以上がさらに好ましく、5万以上がさらにより好ましく、また60万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましく、20万以下がさらにより好ましい。樹脂組成物の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、共重合体(P)の成形加工性が向上する。
【0116】
前記樹脂組成物(好ましくは2成分混合物)の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は、例えば、1.5以上、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.0以上であり、例えば、5.0以下、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下である。
【0117】
樹脂組成物(好ましくは2成分混合物)の重量平均分子量は、ポリマー鎖(A)の重量平均分子量の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、また10倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましい。これにより、共重合体(P)に、透明性と機械的強度の各特性をバランス良く付与することが容易になる。
【0118】
樹脂組成物は、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;等が挙げられる。樹脂組成物中の各添加剤の含有割合は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%の範囲内である。
【0119】
本発明の樹脂組成物(好ましくは2成分混合物)は、所定の製造方法によって製造された(メタ)アクリル系共重合体(P)を含有しているため、加熱条件下で透明性が低下しない。樹脂組成物(好ましくは2成分混合物)に対して、以下の熱試験を行うことによって決定される透明性低下量は、例えば、1.0%以下、好ましくは1.0~-1.0%である。
熱試験:
1)メルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)のシリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化させる;
2)ピストンを取り出し、シリンダ内に樹脂組成物6gを仕込み、下から樹脂が漏れ出ないよう清掃棒にて封をし、ピストン及び5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させる;
3)10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した樹脂組成物を取り出し、温度250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する;
4)蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて波長500nmの光の透過率(T2)を調べ、滞留試験前の樹脂組成物から同様にして得られるフィルムの透過率(T1)と比べて、その低下量(T1-T2)を求める。
このような物性を樹脂組成物が有することで成形加工時の熱滞留においても透明性が低下せず、透明性に優れた成形体を得ることができ、例えば高い透明性が求められる光学フィルム等にも、好適に用いることができる。
【0120】
光線の波長を500nmから800nmに変更した以外は前記透明性低下量測定と同様にして実施した時の波長800nmの透過性低下量は、例えば、-1~1%、好ましくは0~1%である。
【0121】
また樹脂組成物の落球試験による衝撃強さ(破壊エネルギー)は、実施例に記載の方法によって決定でき、例えば、10mJ以上、好ましくは20mJ以上、より好ましくは30mJ以上である。
【0122】
樹脂組成物は、100℃以上および100℃未満にそれぞれガラス転移温度を有することが好ましい。なお、100℃以上のガラス転移温度を「高温側のガラス転移温度」と称し、100℃未満のガラス転移温度を「低温側のガラス転移温度」と称する。樹脂組成物は、高温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよく、低温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよい。樹脂組成物が高温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の耐熱性が高まる。樹脂組成物が低温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の機械的強度や耐衝撃性を高めることができる。樹脂組成物の高温側のガラス転移温度は好ましくは100℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは120℃以上である。また、フィルム形成の際の加工性を高める観点から、前記ガラス転移温度は300℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。樹脂組成物の低温側のガラス転移温度は、50℃未満が好ましく、30℃未満がより好ましく、10℃未満がさらに好ましく、また-100℃以上が好ましく、-90℃以上がより好ましく、-80℃以上がさらに好ましい。
【0123】
樹脂組成物は、未延伸フィルムとしたときの厚さ100μmあたりの内部ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.5%以下がさらにより好ましい。これにより、樹脂組成物の透明性を高めることができる。また、厚さ160μmの未延伸フィルムとしたときの全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0124】
未延伸フィルムの厚さ100μmあたりの内部ヘイズは次の方法により測定する。樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する。石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中に作製した未延伸フィルムを浸漬し、ヘイズメーターを用いてヘイズを測定し、次式に従って厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出する。
厚さ100μmあたりの内部ヘイズ(%)=ヘイズ測定値(%)×(100μm/フィルムの厚さ(μm))
なお、測定は3枚のフィルムを用いて行い、その平均値から厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出する。
【0125】
樹脂組成物は、厚さ40μmの延伸フィルムとしたときのMIT試験による耐折度試験回数が200回以上であることが好ましく、500回以上がより好ましく、800回以上がさらに好ましい。耐折回数の上限は特に限定されない。このような高い機械的強度を有するフィルムは、共重合体(P)を含む樹脂組成物を延伸フィルム化することにより、容易に得ることができる。MIT試験による耐折回数は実施例に記載の方法により求める。耐折回数は、いずれかの方向に折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることが好ましく、任意の直交する2方向にそれぞれ折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることがより好ましい。
【0126】
4.樹脂成形体
前記樹脂組成物は、公知の手法に従って成形することで成形体にできる。成形体の形状は用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、板状、シート状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。樹脂組成物の成形には、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等を用いることができ、その場合の樹脂組成物の形状としては、例えば、粒子径が1μm~1000μmの粉体、長径が1mm~10mm程度の円柱状または球状等のペレット、またはそれらの混合物であることが好ましい。樹脂組成物をフィルム化する場合は、重合後にペレット化を経てフィルム成形してもよく、逆に、重合後にペレット化を経ずに直接押出成型機に供給してフィルム成形してもよい。
【0127】
樹脂成形体の用途としては例えば、パーソナルコンピュータ(ノート型、タブレット型を含む。)、プロジェクタ(液晶プロジェクタを含む。)、テレビジョン、プリンタ、ファクシミリ、複写機、オーディオ機器、ゲーム機、カメラ(ビデオカメラ、デジタルカメラ等を含む。)、映像機器(ビデオ等)、楽器、モバイル機器(電子手帳、情報携帯端末(PDA)等)、照明機器、通信機器(電話(携帯電話、スマートフォンを含む。)等)等の筐体、釣具、遊具(パチンコ物品等)、車両用製品、家具用製品、サニタリー製品、建材用製品等に適用できる。車両用製品としてヘッドランプ・レンズ、サイド・ウインドウ、リア・ウインドウ、フロント・ウインドウ、ルーフ・ウインドウ、インストルメントパネルガーニッシュおよびオーナメント、オーディオパネル、オートエアコンパネル、ステアリングオーナメント、ドアトリムオーナメント、パワーウィンドウスイッチベゼル、操作系ノブ、スイッチおよびキャップもしくはカバー各種、ラジエーターグリル、ピラーガーニッシュ、バックドアオーナメント、サイドミラーカバー、アウターパネル、リアスポイラー、インサイドもしくはアウトサイドドアハンドル、サイドバイザー、ホイールカバー、二輪自動車用カウリングなどがある。
【0128】
樹脂組成物はフィルムに成形することもできる。フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知の方法を使用することができる。これらの中でも、溶液キャスト法、溶融押出法が好ましい。
【0129】
溶液キャスト法を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
【0130】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられる。溶融押出法によりフィルムを成形する場合は、延伸することにより延伸フィルムとしてもよい。延伸することで、フィルムの機械的強度をさらに向上させることができる。延伸フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。フィルムの耐折性等の機械的強度が向上する観点からは、二軸延伸が好ましく用いられる。なお、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件は、所望の機械的強度や位相差値に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0131】
延伸装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これらいずれの装置を用いることができる。
【0132】
延伸フィルムを光学フィルムに適用する場合は、光学フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を施してもよい。
【0133】
5.光学フィルム
樹脂組成物から形成されたフィルムは、透明性に優れることから、光学フィルムとして好適に用いることができる。このようにして得られた光学フィルムは、機械的強度と耐熱性にも優れたものとなる。光学フィルムは、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。光学フィルムとしては、例えば、光学用保護フィルム(具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム)、液晶ディスプレイなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、位相差フィルム、光変換用フィルム等が挙げられる。
【0134】
光学フィルムの厚さは、光学フィルムの強度を高める点から、5μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。一方、光学フィルムの薄型化の観点から、光学フィルムの厚さは350μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。光学フィルムの厚さは、例えば、ミツトヨ社製のデジマチックマイクロメーターを用いて測定することができる。
【0135】
光学フィルムは高い光線透過率を有することが好ましく、例えば全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0136】
光学フィルムは、透明性を高める点から、ヘイズが3.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。また内部ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。
光学フィルムは、JIS P 8115(2001)に基づくMIT試験による耐折回数が200回以上となることが好ましく、500回以上がより好ましく、800回以上がさらに好ましい。耐折回数の上限は特に限定されない。このような高い機械的強度を有するフィルムは、共重合体(P)を含む樹脂組成物を延伸フィルム化することにより、容易に得ることができる。耐折回数は、いずれかの方向に折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることが好ましく、任意の直交する2方向にそれぞれ折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることがより好ましい。
光学フィルムは、耐熱性を高める観点から、100℃以上の温度範囲に高温側のガラス転移温度を有することが好ましい。前記ガラス転移温度は、好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは120℃以上である。また、フィルム形成の際の加工性を高める観点から、前記ガラス転移温度は300℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
また、フィルムが低温側のガラス転移温度を有している場合、前記ガラス転移温度は、機械的強度や耐衝撃性を高める観点から、50℃未満が好ましく、30℃未満がより好ましく、10℃未満がさらに好ましく、また-100℃以上が好ましく、-90℃以上がより好ましく、-80℃以上がさらに好ましい。
【0137】
光学フィルムの面内位相差Reや厚さ方向の位相差Rthは、樹脂組成物の組成などを適宜設定することで自由に各種位相差フィルムとして調整できるため、特に限定されない。例えば、光学フィルムを位相差フィルムとして用いる場合は、波長589nmの光に対する面内位相差Reが100nmより大きく1000nm以下、前記光に対する厚さ方向の位相差Rthの絶対値が100nmより大きく1000nm以下であることが好ましい。光学フィルムをゼロ位相差フィルムとして用いる場合は、前記Reが0nm以上100nm以下、前記Rthの絶対値が0nm以上100nm以下であることが好ましく、前記Reが0nm以上50nm以下、前記Rthの絶対値が0nm以上30nm以下であることがより好ましく、前記Reが0nm以上10nm以下、前記Rthの絶対値が0nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。このような面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthを示す光学フィルムは、良好な視野角特性やコントラスト特性を有するものとなり、液晶ディスプレイをはじめとする画像表示装置へ好適に適用できるものとなる。なお、面内位相差Reは、Re=(nx-ny)×dで定義され、厚さ方向の位相差Rthは、Rth=d×{(nx+ny)/2-nz}で定義され、nxはフィルム面内の遅相軸方向(フィルム面内で屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
【0138】
本発明の光学フィルムは、偏光子の片面または両面に積層することで偏光子保護フィルムとしても使用できる。また表面に透明導電層を形成することで透明導電フィルムとしても使用できる。
【0139】
本発明の光学フィルム(例えば、位相差フィルム、偏光子保護フィルム、透明導電フィルム)は、画像表示装置に好適に用いることができる。画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置等が挙げられる。例えば液晶表示装置の場合、画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライト等の部材とともに、本発明の光学フィルムを有するように構成することができる。液晶表示装置以外の画像表示装置としては、例えば、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、QLED、マイクロLED等が挙げられる。
【実施例】
【0140】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の説明では特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0141】
(1)分析方法
(1-1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
-測定システム:東ソー社製、GPCシステムHLC-8220
-測定側カラム構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
分離カラム:東ソー社製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
-リファレンス側カラム構成
リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
-展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
-溶媒流量:0.6mL/分
-標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS-オリゴマーキット)
【0142】
(1-2)原料共重合体(P1)中の全スチレン単位の含有量
NMR測定装置(Varian社製、Unity Plus400)による1H-NMR測定により、原料共重合体(P1)中のスチレン由来の単位の含有量を求めた。具体的には、重THF溶媒中の原料共重合体の1H-NMRスペクトルを測定し、オレフィン由来の単位のアルキル基に帰属される1.5ppm~4.2ppmの領域の積分強度と、オレフィン性二重結合部位に帰属される4.7ppm~5.7ppmの領域の積分強度と、スチレン由来の単位のベンゼン環に結合した水素に帰属される6.2~7.4ppmの領域の積分強度の比率から、原料共重合体中のスチレン由来の単位の含有量を算出した。なお、測定溶媒に由来する1.7ppmのピークと系内の水分に由来する2.5ppmのピークの積分強度は除いた。
【0143】
(1-3)原料共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量
NMR測定装置(Varian社製、Unity Plus400)による1H-NMR測定により、原料共重合体中のオレフィン性二重結合量を求めた。具体的には、重THF溶媒中の原料共重合体の1H-NMRスペクトルを測定し、オレフィン由来の単位のアルキル基に帰属される1.5ppm~4.2ppmの領域の積分強度と、オレフィン性二重結合部位に帰属される4.7ppm~5.7ppmの領域の積分強度と、スチレン由来の単位のベンゼン環に結合した水素に帰属される6.2~7.4ppmの領域の積分強度の比率から、原料共重合体中のオレフィン性二重結合量を算出した。なお、測定溶媒に由来する1.7ppmのピークと系内の水分に由来する2.5ppmのピークの積分強度は除いた。
【0144】
(1-4)原料共重合体(P1)中の重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン単位の含有量
NMR測定装置(Varian社製、Unity Plus400)による1H-NMR測定により、原料共重合体中の重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン由来の単位の含有量を求めた。具体的には、重THF溶媒中の原料共重合体の1H-NMRスペクトルを測定し、スチレン由来の単位のベンゼン環に結合した水素に帰属される6.2~7.4ppmの領域のピークのうち、6.2~6.8ppmの積分強度をx、6.8~7.4ppmの積分強度をy、原料共重合体のスチレン由来の単位の含有量をzとし、次式に従って算出した。
原料共重合体中の重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン単位の含有量={(y-x×3/2)/5}×z/{(y-x×3/2)/5+x/2}
【0145】
(1-5)モノマー転化率および樹脂組成物組成
モノマー転化率(反応率)および樹脂組成物組成は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2014)を用いて、重合反応液中の残存単量体量を測定することにより求めた。
より具体的には、実施例及び比較例において、反応途中、反応終了時の重合液の一部を採取し、この重合液試料中に残存する単量体量及び、内部標準物質である炭酸ジフェニルが約0.1質量%となるようにアセトン溶液を調整する。ガスクロマトグラフィーを用いて、試料中に残存する単量体濃度を測定し、反応時間tにおける重合溶液中に残存する単量体の総質量(at)を求めた。そして、この総質量(at)と、試料を採取した時点までに添加した単量体が重合溶液中に全量残存したと仮定した場合の総質量(bt)と、重合反応終了までに添加する単量体の総質量(bi)とから、計算式ct=(bt-at)/bi×100により、反応時間tにおけるモノマー転化率(ct)(%)を算出した。反応時間tにまでに反応しているモノマー量(bi×ct)と、反応時間t+t’までに反応しているモノマー量(bi×ct + t')との差より、各時間に反応したモノマー量をそれぞれのモノマーにおいて算出し、その比から生成ポリマーの組成を求めた。反応終了までに反応した全モノマー重量を100質量部とした場合、約50質量部が反応した前後で反応の前半、後半を分けた。
【0146】
(1-6)加熱滞留試験
樹脂の加熱滞留試験はメルトインデクサ(タカラ・サーミスタ社製、型式L-248)を用いて行った。より具体的には、シリンダ内にダイ、ピストンをセットした状態で装置が設定温度290℃に到達してから30分以上安定化した後、ピストンを取り出し、シリンダ内に樹脂約6gを仕込んだ。下から樹脂が漏れ出ないよう、清掃棒にて封をし、ピストン及び、5kgの錘を乗せてから10分間樹脂を滞留させた。10分経過後、清掃棒を取り除き、加熱滞留した樹脂を得た。
【0147】
(1-7)透過率
樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して厚さ約160μmのフィルム(未延伸フィルム)を作製した。蒸留水を満たした石英セルに作製したフィルムを浸漬し、分光光度計(島津製作所製、UV-1600PC)を用いて透過率を測定した。
【0148】
(1-8)破壊エネルギー(衝撃強さ)
樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ160μmのフィルム(未延伸フィルム)を作製した。このフィルムの上に、落下高さを低い方から高い方へ代えながら質量0.0054kgの球を落としていき、フィルムが破壊される落下高さ(破壊高さ)を決定する試験を10回実施し、破壊高さの平均値を求めた。フィルムが破壊されたか否かは、フィルムへの落球後、当該フィルムに変形が見られたか否かを目視により確認し、変形が確認されたときにフィルムが破壊されたとした。次式に従って破壊エネルギー(E)を求めた。
破壊エネルギーE(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/s2)
【0149】
(1-9)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、JIS K 7121(2012)に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα-アルミナを用いた。40℃未満のガラス転移温度は示差走査熱量計(ネッチ社製、DSC-3500)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを-100℃から60℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには空の容器を用いた。
【0150】
(1-10)MIT試験による耐折回数(MIT強度)
樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ160μmの未延伸フィルムを作製した。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+20℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順にそれぞれ延伸倍率が2.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。作製した延伸フィルムを90mm×15mmの大きさに切り出して試験片とし、MIT耐折度試験機(テスター産業社製、BE-201)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で荷重200gfを加え、JIS P 8115(2001)に準拠してMIT耐折度試験回数を測定した。測定は各サンプル5点行い、最大値と最小値を除いた3点の平均値をMIT回数とした。
【0151】
(2)樹脂組成物の製造
(2-1)実施例1
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、共重合体(P1)としてのSEBSトリブロック共重合体(旭化成社製、タフテックH1052、オレフィン性二重結合量0.24mmol/g、全スチレン単位含有量15.7質量%、重量平均分子量9.4万)を10部、メタクリル酸メチル(MMA)72.9部、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)13.5部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.03部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(略称TBIC)(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.06部加えた。重合液温の上昇により重合反応の開始を確認した後、スチレン(St)とt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)の添加を開始した。スチレン(St)は、その3.6部を3時間かけて一定速度で添加し、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)は、その0.19部を1部のトルエンに希釈したものを4時間かけて一定速度で滴下した。添加中の重合温度を105~110℃に保ち、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)添加終了後、さらに2時間熟成を行った。
【0152】
熟成反応液に環化触媒としてリン酸ステアリル0.08部を加え、90~110℃の還流下で2時間環化反応を行った。これにより、MMAとMHMAとStから重合形成され、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系共重合体と、当該共重合体鎖がSEBSトリブロック共重合体鎖のジエン/オレフィン由来の単位に結合したグラフト共重合体とを含む樹脂組成物が得られた。反応の終了は各モノマーの転化率が全て90%以上となった点とし、反応終了時の重合液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は94%、MHMAの転化率は96%、Stの転化率は100%であった。
【0153】
次に得られた重合反応液にイオウ系酸化防止剤(ADEKA社製、AO412S)0.05部とヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティーケミカルズ社製、IRGANOX1010)0.05部を加えた後、オートクレーブに入れ240℃で1時間加熱処理を行い、240℃の真空乾燥機で1時間乾燥(脱揮)することにより、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物は高温側のガラス転移温度は127℃、低温側のガラス転移温度は-35℃であった。この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は±0.0%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は3000回超であった。
【0154】
(2-2)実施例2
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、SEBSトリブロック共重合体(Kraton社製、A1536、オレフィン性二重結合量0.16mmol/g、全スチレン単位含有量38.8質量%、重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン単位含有量17質量%、重量平均分子量13.5万)10部、メタクリル酸メチル(MMA)69.4部、フェニルマレイミド(PMI)16.7部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.05部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.05部加えた。重合液温の上昇により重合反応の開始を確認した後、スチレン(St)とt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)の添加を開始した。スチレン(St)は、その4.0部を3時間かけて一定速度で添加し、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)は、その0.10部を1部のトルエンに希釈したものを3時間かけて一定速度で添加した。添加中の重合温度を105~110℃に保ち、添加終了後、さらに4時間熟成を行った。これにより、MMAとPMIとStから重合形成されたアクリル系共重合体と、当該共重合体鎖がSEBSトリブロック共重合体鎖のジエン/オレフィン由来の単位に結合したグラフト共重合体とを含む樹脂組成物が得られた。反応の終了は各モノマーの転化率が全て90%以上となった点とし、反応終了時の重合液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は95%、PMIの転化率は98%、Stの転化率は100%であった。
次に得られた重合反応液を、240℃の真空乾燥機で1時間乾燥(脱揮)することにより、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物は高温側のガラス転移温度は138℃、低温側のガラス転移温度は-68℃であった。この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は0.2%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は2000回超であった。
【0155】
(2-3)実施例3
実施例2において、最初に反応器に仕込む単量体成分として、SEBSトリブロック共重合体(Kraton社製、A1536、オレフィン性二重結合量0.16mmol/g、全スチレン単位含有量38.8質量%、重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン単位含有量17質量%、重量平均分子量13.5万)を26部、MMAを57.1部、PMIを13.7部用い、滴下により加えるStを3.7部用いた以外は、実施例2と同様にして重合反応を行った。反応の終了は各モノマーの転化率が全て90%以上となった点とし、反応終了時の重合液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は93%、PMIの転化率は99%、Stの転化率は98%であった。
得られた重合反応液を実施例2と同様にして真空乾燥機にて脱揮を行い、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物は高温側のガラス転移温度は137℃、低温側のガラス転移温度は-68℃であった。この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は-0.8%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は200000回超であった。
【0156】
(2-4)実施例4
実施例2において、最初に反応器に仕込む単量体成分として、SEBSトリブロック共重合体(JSR社製、Dynaron2324P、オレフィン性二重結合量0.14mmol/g、全スチレン単位含有量13.0質量%、重合体ブロック(a1)に含まれるスチレン単位含有量3質量%、重量平均分子量13.7万)を10部、MMAを90部用い、滴下により加えるStを使用しないこと以外は、実施例2と同様にして重合反応を行った。反応の終了は各モノマーの転化率が全て90%以上となった点とし、反応終了時の重合液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は95%であった。
得られた重合反応液を実施例2と同様にして真空乾燥機にて脱揮を行い、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物の高温側のガラス転移温度は110℃であった。この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は±0.0%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は2000回超であった。
【0157】
(2-5)比較例1
耐圧チューブにSEBSトリブロック共重合体(Kraton社製、G1652、オレフィン性二重結合量0.10mmol/g、全スチレン単位含有量25.9質量%、重量平均分子量8.0万)10部、メタクリル酸メチル(MMA)79.2部、スチレン(St)を10.8部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.1部、開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(TBIC)(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.5部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じ封をした。115度のオイルバス中で6時間反応を行った。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は76%、Stの転化率は98%であった。得られた重合液はクロロホルムで希釈し、メタノール中に滴下することで生成したポリマーを沈殿させた。その後、吸引ろ過を行い、100度の真空乾燥機にて1時間乾燥させ、未反応モノマーを取り除いたポリマーを得た。さらに得られた重合反応液を実施例2と同様にして真空乾燥機にて脱揮を行い、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物の高温側のガラス転移温度は109℃であった。この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は-2.9%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は3000回超であった。
【0158】
(2-6)比較例2
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、メタクリル酸メチル(MMA)77.3部、フェニルマレイミド(PMI)18.5部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.05部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート(略称TAIN)(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)を0.08部加えた。重合液温の上昇により重合反応の開始を確認した後、スチレン(St)とt-アミルパーオキシイソノナノエート(TAIN)の添加を開始した。スチレン(St)は、その4.2部を3時間かけて一定速度で添加し、t-アミルパーオキシイソノナノエート(TAIN)は、その0.15部を1部のトルエンに希釈したものを3時間かけて一定速度で滴下した。添加中の重合温度を105~110℃に保ち、添加終了後、さらに4時間熟成を行った。これにより、MMAとPMIとStから重合形成されたアクリル系共重合体が得られた。反応の終了は各モノマーの転化率が全て90%以上となった点とし、反応終了時の重合液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96%、PMIの転化率は99%、Stの転化率は100%であった。
次に得られた重合反応液を、240℃の真空乾燥機で1時間乾燥することにより、目的の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物は138℃のTgを有しており、この樹脂組成物は加熱滞留前後でのフィルムの500nmの光の透過率の変化量は±0.0%であった。また、延伸フィルムのMIT耐折回数は100回であった。
【0159】
実施例、比較例の結果を表1、表2で整理する。
【0160】
【0161】
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体(P)は、例えば、光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート、フィルム、導光板などの光学材料に使用できる。