IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エステー株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社カナエの特許一覧

<>
  • 特許-揮散装置 図1
  • 特許-揮散装置 図2
  • 特許-揮散装置 図3
  • 特許-揮散装置 図4
  • 特許-揮散装置 図5
  • 特許-揮散装置 図6
  • 特許-揮散装置 図7
  • 特許-揮散装置 図8
  • 特許-揮散装置 図9
  • 特許-揮散装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】揮散装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20221017BHJP
   B65D 85/00 20060101ALI20221017BHJP
   B65D 83/00 20060101ALI20221017BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
A61L9/12
B65D85/00 A
B65D83/00 F
A01M1/20 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018135286
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020010837
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129057
【氏名又は名称】株式会社カナエ
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】山崎 美香
(72)【発明者】
【氏名】東郷 真也
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502787(JP,A)
【文献】特開2013-078348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
B65D 83/00、
83/08-83/76、
85/00-85/28、
85/575
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間した2つの排出孔を有する平らな基材フィルムと、
前記基材フィルムに重ねて配置され、前記排出孔と重ならない位置で前記基材フィルムから離れる側に膨出した膨出部分、及び2つの前記排出孔に連通した排出流路を前記基材フィルムとの間に形成した部分を有し、少なくとも前記膨出部分が可撓性を有する、機能フィルムと、
前記機能フィルムの前記膨出部分と前記基材フィルムとで囲まれた空間を密閉するように、前記膨出部分の周囲で前記基材フィルムと前記機能フィルムを密着させて接合した環状の接合部であって、前記空間内の圧力が所定のしきい値を超えたときに前記空間を2つの前記排出孔の間の前記排出流路に連通させる易連通部を有する接合部と、
前記空間内に収容した揮散性を有する薬剤と、を有し、
前記膨出部分の前記接合部から離間した天面が前記基材フィルムと略平行な平らな面を含む、
揮散装置。
【請求項2】
前記空間内に前記薬剤とともに空気を収容した、
請求項1の揮散装置。
【請求項3】
前記基材フィルムおよび前記機能フィルムは樹脂フィルムであり、
前記接合部は、前記機能フィルムの前記膨出部分の周囲を前記基材フィルムにヒートシールにより接合することにより形成されている、
請求項1の揮散装置。
【請求項4】
2つの前記排出孔に対向して前記基材フィルムの前記機能フィルムと反対側に配置され、2つの前記排出孔を介して前記空間から排出された薬剤を吸収して揮散させる揮散シートをさらに有する、
請求項1の揮散装置。
【請求項5】
前記排出流路は、少なくとも1箇所で屈曲している、
請求項1の揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、芳香剤などの薬剤を揮散させる揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者等は、芳香剤などの薬剤を揮散させる揮散装置(特許文献1)を発明した。特許文献1の揮散装置は、2枚のフィルムの間に密閉空間を形成して揮散性を有する薬剤を収容した収容部、および薬剤を収容部から排出する排出孔を備えた本体と、本体の排出孔に対向して本体の裏面側に重ねた吸収材と、本体および吸収材を収容したケースと、を有する。
【0003】
この揮散装置を使用する際には、利用者は、薬剤を収容した本体の収容部をケースの表面側に設けた押込み孔を介してケースの外側から押圧し、排出孔を介して本体から排出させた薬剤を吸収材に吸収させる。これにより、吸収材に吸収させた薬剤が、ケースの裏面側に設けた揮散孔から揮散される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特願2017-002580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の揮散装置の本体を製造する場合、一方のフィルムを部分的に膨出させて収容部を形成し、この膨出部分に薬剤を充填した後、膨出部分を塞ぐように他方のフィルムを貼り合せる。このとき、膨出部分を満たす量の薬剤を充填してしまうと、他方のフィルムを貼り合せることができなくなる。このため、薬剤の充填量を膨出部分の容積より少なくする必要があり、フィルムを貼り合せた後、収容部内には薬剤の他に若干の空気が入ることになる。
【0006】
このため、揮散装置を製造した後、経時的に薬剤が収容部内で空気と反応して、収容部内に負圧を生じる場合がある。このように、収容部内に負圧を生じてしまうと、本体の外部との気圧差によって、膨出部分に凹みを生じてしまう場合がある。このような凹みは、製品の美観を損ねる原因になる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、製品としての美観を良くすることができる揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の揮散装置の一態様は、互いに離間した2つの排出孔を有する平らな基材フィルムと、基材フィルムに重ねて配置され、排出孔と重ならない位置で基材フィルムから離れる側に膨出した膨出部分、及び2つの排出孔に連通した排出流路を基材フィルムとの間に形成した部分を有し、少なくとも膨出部分が可撓性を有する、機能フィルムと、機能フィルムの膨出部分と基材フィルムとで囲まれた空間を密閉するように、膨出部分の周囲で基材フィルムと機能フィルムを密着させて接合した環状の接合部であって、空間内の圧力が所定のしきい値を超えたときに空間を2つの排出孔の間の排出流路に連通させる易連通部を有する接合部と、空間内に収容した揮散性を有する薬剤と、を有する。膨出部分の接合部から離間した天面は、基材フィルムと略平行な平らな面を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揮散装置の一態様によれば、製品としての美観を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る揮散装置を示す外観図である。
図2図2は、図1の揮散装置の薬剤収容体を示す概略図である。
図3図3は、図1の揮散装置の揮散シートを示す概略図である。
図4図4は、図2の薬剤収容体を図3の揮散シートに位置決め固定した組立体を示す概略図である。
図5図5は、図1の揮散装置の包装袋を示す概略図である。
図6図6は、図1のF6-F6に沿った揮散装置の断面図である。
図7図7は、図2の薬剤収容体を製造する方法を説明するための図である。
図8図8は、図2の薬剤収容体の押圧部の凹みについて説明するための図である。
図9図9は、図8の押圧部の比較例を示す図である。
図10図10は、図2の薬剤収容体の押圧部の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、実施形態に係る揮散装置10は、薬剤収容体20を揮散シート30(揮散材)に位置決め固定した組立体40を包装袋50の中に収容した構造を有する。揮散装置10は、偏平な構造を有する。揮散装置10は、例えば、図1で紙面手前側(表面10a側)を上にして図示しない台などの上に載置して使用することができる。或いは、揮散装置10は、図示しないストラップなどを用いて図示しない壁のフックなどに吊下げて使用することもできる。
【0012】
図2(a)および図6に示すように、薬剤収容体20は、例えば2枚の樹脂製のフィルム11、12を部分的に貼り合せて形成されている。薬剤収容体20の裏面側のフィルム11は、例えば、厚さ30μmの樹脂フィルムにより形成されており、平らな基材フィルムとして機能する。表面側のフィルム12は、例えば厚さ180μmの樹脂フィルムにより形成されており、比較的柔らかい機能フィルムとして機能する。2枚のフィルム11、12の外周縁は略同じ形状を有する。2枚のフィルム11、12は、例えばその外周縁が全周にわたってヒートシールにより貼り合わされている。2枚のフィルム11、12を貼り合せた部分は、他の部分より硬い接合部として機能する。
【0013】
2枚のフィルム11、12の間には、互いに分離した大小2つの密閉された空間13、14が設けられている。2つの空間13、14は、2枚のフィルム11、12が互いに離間した部位(すなわち、2枚のフィルム11、12が貼り合わされていない部位)に設けられている。2つの空間13、14は、例えば、真空圧空成形により表面側のフィルム12を部分的に膨出させることによって設けられている。各空間13、14は、それぞれ、2枚のフィルム11、12を例えば熱溶着により接合したシール部分15、15a(すなわち、接合部)によって周りを囲まれて封止されている。
【0014】
2枚のフィルム11、12は、例えば、共押出し加工の柔らかい成形シートであり、30~600μm程度の厚みを有する。本実施形態では、加熱成形ができ、後述する押圧部21を完全に押し潰すことができ、押し潰した際に指が痛くなく、製膜時にバリア層を積層できるように、表面10a側のフィルム12の厚みを180~200μmに設計した。また、本実施形態では、裏面側のフィルム11の厚みを30~50μmに設計した。表面10a側のフィルム12は、少なくとも、大きい方の空間13を形成するために膨出させた部分に可撓性を有するものであれば良い。また、表面10a側のフィルム12は、膨出させた空間13、14の形状を維持するため、ある程度の厚みを有するフィルムであることが望ましい。
【0015】
なお、ここで言う「フィルム」とは、JIS規格によるところの「厚さが0.2ミリメートル以上の軟質性のシート」を含むものであり、以下の説明では、これらフィルムおよびシートを総称してフィルム11、12とする。また、フィルム11、12は、樹脂に限らず他の材料を用いて形成してもよい。
【0016】
薬剤収容体20の大きい方の空間13は、例えば、芳香剤などの揮発性を有する薬剤Yを収容する収容部として機能する。薬剤Yは、芳香剤に限らず、例えば消臭剤や殺虫剤などであってもよい。この空間13内には、後述する理由により、薬剤Yの他に空気が収容されている。薬剤収容体20の小さい方の空間14は、大きい方の空間13から流れ込む薬剤Yを受ける薬剤受部として機能する。以下の説明では、大きい方の空間13を収容部13と称し、小さい方の空間14を薬剤受部14と称する。2枚のフィルム11、12は、後に詳述するように、収容部13内に薬剤Yおよび空気を収容した状態で貼り合わされる。
【0017】
上述した収容部13および薬剤受部14は、2枚のフィルム11、12を貼り合わせない部位で表面側のフィルム12を裏面側のフィルム11から離間する方向に部分的に膨出させることにより形成されている。これに対し、裏面側のフィルム11は、平らであり、薬剤受部14に連通する後述する2つの排出孔17、17を有する。また、後述する指向空間16および排出流路18も、表面側のフィルム12を部分的にわずかに膨出させることにより形成されている。表面側のフィルム12が収容部13を形成した膨出部分は、長円形の断面形状を有し、指で押圧する天面21aが平らに形成されている。以下の説明では、このように収容部13を形成するため表面側のフィルム12を膨出させた部分を押圧部21と称する。
【0018】
上述したように、収容部13内に薬剤Yを収容した状態で2枚のフィルム11、12を貼り合せると、フィルム11、12同士を熱溶着させる際の熱により、薬剤Yが加熱されるとともに収容部13内の空間(収容部13が薬剤Yによって満たされてそれ以外の空間が無い場合も含む)が加熱される。このため、2枚のフィルム11、12を貼り合せた後、一定時間が経過した時点で薬剤Yを収容した部分が十分に冷却されると、収容部13内の圧力がわずかに減圧される。
【0019】
また、薬剤収容体20の後述する製造過程において、表面側のフィルム12を部分的に膨出させた押圧部21の中に薬剤Yを充填するときに、押圧部21内の容積を満たす量の薬剤Yを充填することができないため、収容部13内には、薬剤Yの他に空気が収容される。このため、収容部13内に収容した薬剤Yと空気が経時的に反応して、収容部13内の圧力が減圧される場合がある。
【0020】
上記のように、収容部13内の圧力が経時的に下がると、収容部13の外側の大気圧との間の圧力差によって、押圧部21が外側から凹む現象が生じる場合がある。このような凹みを生じた場合であっても凹みを目立たなくするため、本実施形態では、押圧部21のシール部分15、15aから離間した天面21aをフィルム11と略平行な平らな面に形成した。このように、押圧部21の天面21aを平らにすることにより、平らにしない場合と比較して、押圧部21の凹みを目立たなくすることができる。つまり、押圧部21が凹んだ場合であっても、凹み形状を所望する形状にコントロールすることができ、製品としての美観を維持することができる。押圧部21の凹みを所望する形状にコントロールするメカニズムについては後に詳述する。
【0021】
ところで、収容部13と薬剤受部14の間は、波状に湾曲した細長いシール部分15aによって区画されている。よって、通常(収容部13を外から加圧していない状態で)は、収容部13内の薬剤Yが薬剤受部14に流れ込むことはない。しかし、収容部13と薬剤受部14の間のシール部分15aは、加圧により2枚のフィルム11、12が容易に剥離するシール構造を有する易連通部として機能する。このため、収容部13を加圧することで薬剤受部14と容易に連通させることができる。以下の説明では、収容部13と薬剤受部14の間のシール部分15aを易連通部15aと称する。易連通部15aの幅は、少ない力で2枚のフィルム11、12を剥離しやすくするため狭くすることが好ましく、本実施形態では1~3mmに設計した。
【0022】
この易連通部15aは、例えば、2枚のフィルム11、12を容易に剥離可能なイージーピールにて貼り合せた部分であり、2枚のフィルム11、12を熱溶着(ヒートシール)する際の温度や時間を調整することで、剥離の容易度を適切な度合いに調整したものである。易連通部15aは、これ以外に、収容部13内の圧力が所定のしきい値を超えたときに容易に剥離可能な構造であればいかなるものであってもよい。少なくとも、易連通部15aは、他のシール部分15より剥離し易く形成されていればよい。
【0023】
収容部13と易連通部15aの間には、収容部13内の薬剤Yを薬剤受部14(すなわち、易連通部15a)に向かわせるための比較的薄い指向空間16が設けられている。指向空間16は、2枚のフィルム11、12がわずかに離間した部位(すなわち、2枚のフィルム11、12を貼り合せていない部位)であり、薬剤受部14に沿って湾曲して凹んだ縁部16aを有する。指向空間16は、収容部13の全周を取り囲むように設けられている。指向空間16内には、収容部13内の薬剤Yが流入していてもよい。
【0024】
一方、薬剤受部14の周りには、2枚のフィルム11、12がわずかに離間した(貼り合せていない)排出流路18が形成されている。排出流路18は、2枚のフィルム11、12のうち表面側のフィルム12を指向空間16と同程度に膨出させて形成されている。排出流路18は、薬剤受部14に連通しており、図2に示すように左右に分岐されて延設されている。一方、2枚のフィルム11、12のうち平らな裏面側のフィルム11には、2つの排出孔17、17がフィルム11を貫通して設けられている。そして、2つに分岐された排出流路18のそれぞれが、排出孔17、17に連通している。つまり、薬剤受部14は、左右に分岐された排出流路18を介して2つの排出孔17、17に連通している。
【0025】
フィルム11に設けた2つの排出孔17、17の位置、および排出流路18の形状は、薬剤Yの揮散効率をできるだけ高くするように設計されている。つまり、図1に示すように、薬剤収容体20を揮散シート30に取り付けた組立体40を包装袋50内に収容配置した状態で、薬剤Yの排出孔17、17が包装袋50の揮散孔56にできるだけ近い位置に配置されるように、排出孔17、17の位置および排出流路18の形状を設計した。これにより、薬剤収容体20の収容部13から排出孔17、17を介して排出された薬剤Yが、揮散孔56に近い位置で揮散シート30に吸収されることになり、揮散孔56の近くでより多くの薬剤Yを効果的に揮散させることができ、薬剤Yの揮散効率を高めることができる。
【0026】
薬剤収容体20は、この他に、薬剤収容体20を揮散シート30に取り付けるための2つの係合耳部22、23を有する。2つの係合耳部22、23は、2枚のフィルム11、12を熱溶着したシール部分15の一部であり、薬剤収容体20の外周縁を図2で左右に互いに離間する方向に突出させた形状を有している。係合耳部22、23は、薬剤収容体20の図示上端に設けられ、鋭角にされた先端を有する。係合耳部22、23の先端は、尖っておらず、揮散シート30の後述するスリット31、32に容易に挿通可能となるように、丸められている。係合耳部22、23は、鋭角な先端を有する略三角形状に形成されており、熱溶着によってカールしない程度の長さに形成されている。つまり、係合耳部22、23をカールさせないためには、突出長さを短くするとともに突出方向と交差する方向の幅を長くすることが望ましい。
【0027】
図3に示すように、揮散シート30は、略長方形のシートであり、包装袋50に対する挿入方向および揮散シート30の表裏を作業員が容易に判断できるように、1つの角部に目印としての切り欠きを有する。この切り欠きを設けることにより、揮散装置10の組み立て作業性を向上させることができる。また、揮散シート30は、包装袋50に挿入し易くするため、残りの3つの角が丸められている。本実施形態では、揮散シート30の形状を、後述する包装袋50の形状に合わせて略長方形に形成した。図1に示すように、揮散シート30は、包装袋50の内部空間に対してわずかな遊びを有するサイズ(幅および厚み)および形状を有し、包装袋50の中に収容された状態でわずかに移動可能となっている。
【0028】
言い換えると、揮散シート30および包装袋50は、いかなるサイズおよび形状であってもよく、薬剤収容体20の収容部13に収容した薬剤Yの量や薬剤Yの所望する揮散速度に応じて適宜選択可能である。例えば、薬剤Yの揮散量を多くしたい場合には、薬剤収容体20の収容部13の容積を大きくするとともに、揮散シート30のサイズを大きくすればよい。揮散シート30を大きくすると、単位時間あたりの薬剤Yの揮散量を多くすることができる。
【0029】
揮散シート30は、例えば紙により形成されている。揮散シート30の材質は、必ずしも紙に限るものではなく、不織布、フェルト状織物、無機繊維等、薬剤Yを吸収して良好に揮散させることができる材質であればよい。揮散シート30は、図4に示すように、薬剤収容体20の裏面側に重ねて、薬剤収容体20の裏面側のフィルム11に接触して配置される。言い換えると、薬剤収容体20は、揮散シート30の表面側に取り付けられる。つまり、揮散シート30は、薬剤収容体20の上述した2つの排出孔17、17に対向して配置される。言い換えると、薬剤収容体20の2つの排出孔17、17は、揮散シート30によって概ね塞がれる。
【0030】
また、揮散シート30は、薬剤収容体20を位置決め固定するための固定部として機能する2本のスリット31、32を有する。スリット31、32は、揮散シート30を貫通して互いに略平行に離間して設けられている。スリット31、32は、L字状に略直角に湾曲した部分31a、32aを有する。スリット31、32は、この湾曲した部分31a、32aが互いに内側に向く姿勢で設けられている。一方のスリット31は、図3で揮散シート30の中心から左上に片寄った位置に設けられ、もう一方のスリット32は、揮散シート30の略中央に対してスリット31と対称となる位置、すなわち揮散シート30の図示右下に片寄った位置に設けられている。
【0031】
揮散シート30に薬剤収容体20を取り付けて組立体40を組み立てる場合、まず、薬剤収容体20の一方の係合耳部22を揮散シート30の一方のスリット31に挿通する。このとき、例えば、係合耳部22の傾斜縁22aをスリット31の湾曲した部分31aに押し込んで、係合耳部22をスリット31に挿通する。スリット31の湾曲した部分31aを介して係合耳部22を押し込むことにより、係合耳部22をスリット31に容易に押し込むことができる。また、係合耳部22の先端が丸められているため、スリット31に係合耳部22を挿通し易くなっている。
【0032】
そして、上述したように一方の係合耳部22をスリット31に挿通した後、もう一方の係合耳部23の傾斜縁23aがもう一方のスリット32の湾曲した部分32aに対向する状態に薬剤収容体20を配置し、係合耳部23をスリット32に挿通しつつ、薬剤収容体20を図示時計回り方向に回動させる。これにより、係合耳部23の傾斜縁23aがスリット32の湾曲した部分32aに押し込まれ、続いて、係合耳部23の先端がスリット32の端部32bを乗り越えて、係合耳部23がスリット32に押し込まれる。このとき、係合耳部23の先端が丸められているため、スリット32に係合耳部23の先端を押し込み易くなっている。
【0033】
図4に示すように、外側に湾曲したスリット31の端部31bと外側に湾曲したスリット32の端部32bとの間の距離W1は、2つの係合耳部22、23の先端間の距離W2よりわずかに短くされている。このため、上述したように、一方の係合耳部22をスリット31に挿通した後、もう一方の係合耳部23をスリット32に挿通する際には、薬剤収容体20をわずかに湾曲させて距離W2を短くする必要がある。そして、2つの係合耳部22、23をスリット31、32に挿通した後、薬剤収容体20を元の状態(平らな状態)に戻すことで、係合耳部22、23がスリット31、32に係合される。
【0034】
また、2本のスリット31、32の長さは、薬剤収容体20を揮散シート30に取り付けた状態(図4に示す状態)で、薬剤収容体20が揮散シート30に対してわずかに移動可能となるように、薬剤収容体20の係合耳部22、23に対して遊びを有する長さに形成されている。このため、上述したように、一方の係合耳部22をスリット31に挿通した後、もう一方の係合耳部23をスリット32に挿通する際に、一方の係合耳部22をスリット31に対して図4の状態より深く押し込むことができ、その分、もう一方の係合耳部23の先端をスリット32に押し込み易くすることができる。
【0035】
反面、係合耳部22、23とスリット31、32の間の遊びを大きくし過ぎると、図4の状態から薬剤収容体20が揮散シート30から外れ易くなってしまう。よって、薬剤収容体20を揮散シート30から外れ難くするため、係合耳部22、23をスリット31、32に挿通した後、薬剤収容体20を揮散シート30に対して移動させて、スリット31、32間の中心(幅W1の中心)と薬剤収容体20の中心(幅W2の中心)を概ね一致させる作業が重要となる。このため、本実施形態では、包装袋50の後述する押込み孔54の位置およびサイズを、薬剤収容体20を適正位置に移動させることができる位置およびサイズに設計した。押込み孔54の位置およびサイズについては後に詳述する。
【0036】
本実施形態のように、係合耳部22、23とスリット31、32を用いて薬剤収容体20を揮散シート30に固定すると、薬剤収容体20の一部(2つの係合耳部22、23)がスリット31、32によって保持されて薬剤収容体20の揮散シート30に対する移動が概ね規制される。
【0037】
また、本実施形態では、揮散シート30のスリット31、32に挿通して固定する薬剤収容体20の係合耳部22、23の近くに薬剤Yの排出孔17、17を設けたため、排出孔17、17を揮散シート30の表面に効果的に密着させることができる。これにより、排出孔17、17から排出させた薬剤Yを揮散シート30に確実に吸収させることができ、排出孔17、17から薬剤Yが飛び散ったり漏れたりする不具合を防止することができる。また、この際、揮散シート30の毛細管作用により、排出孔17、17から排出される薬剤Yを揮散シート30に積極的に吸収させることもでき、薬剤Yの吸収効率を高めることができる。
【0038】
さらに、本実施形態によると、揮散シート30の2本のスリット31、32の間に薬剤収容体20の排出孔17、17が位置するため、揮散シート30の中央寄りの位置で薬剤Yを排出孔17、17から揮散シート30へ吸収させることができ、揮散シート30のうち薬剤収容体20と重ならない位置にも全体に薬剤Yを効果的に行き渡らせることができる。これにより、揮散シート30から薬剤Yを効率良く揮散させることができる。
【0039】
なお、薬剤収容体20の揮散シート30に対する取付位置および取付角度は、スリット31、32の位置および角度を変えることで任意に変更可能である。しかし、2本のスリット31、32の相対位置は変更不能である。本実施形態では、組立体40を包装袋50に収容した状態(図1に示す状態)で、薬剤収容体20の押圧部21(薬剤Yを収容部13に収容した部分)が、包装袋50の開口部50aから離れた奥側の位置に配置されるように、薬剤収容体20の揮散シート30に対する取付位置を設計した。また、本実施形態では、薬剤収容体20の2つの排出孔17、17が揮散シート30の中央寄りに配置されるように、薬剤収容体20の揮散シート30に対する取付角度を設計した。
【0040】
図5に示すように、包装袋50は、略矩形の同じ形の2枚のフィルム51、52の外周縁同士を部分的に貼り合せて形成されている。2枚のフィルム51、52は、例えば正方形のアルミニウム層を含む薬剤非透過性のフィルムであり、揮散シート30に吸収させた薬剤Yが包装袋50の外面側に染み出ることのない可撓性を有する材料により形成されている。フィルム51、52は、アルミニウム層を含む薬剤非透過性のフィルムに限らず、例えば樹脂フィルムにより形成してもよい。
【0041】
2枚のフィルム51、52は、開口部50aを除く3辺を熱溶着によりシールして袋状に形成され、開口部50aを介して組立体40を包装袋50内に収容した後、開口部50aが熱溶着によりシールされて塞がれる。本実施形態では、薬剤収容体20の押圧部21を包装袋50の開口部50aから離れた位置に配置したため、開口部50aを塞ぐ際に押圧部21が邪魔になることがない。包装袋50の外周部のシールは、熱溶着に限らず、例えば接着剤を用いて2枚のフィルム51、52の外周部同士を接着してもよい。なお、包装袋50の4つの角部は、利用者が手指を傷付けないように丸められている。
【0042】
本実施形態では、略正方形の2枚のフィルム51、52を貼り合せて包装袋50を形成したが、包装袋50内に収容する組立体40の揮散シート30は、包装袋50に対する挿入方向の長さがわずかに短い長方形に形成されている。このため、開口部50aを介して包装袋50内に組立体40を収容して開口部50aを閉じる際に、揮散シート30の端辺を2枚のフィルム51、52の間のシール部分に挟み込み難くすることができ、開口部50aを確実にシールすることができる。また、開口部50aを塞ぐ際の作業性を向上させることができる。
【0043】
包装袋50は、薬剤収容体20の押圧部21を押し込むための押込み孔54、および揮散シート30に染み込ませた薬剤Yを揮散させるための複数の揮散孔56を有する。押込み孔54は、薬剤収容体20の押圧部21より一回り大きな長円形の孔であり、複数の揮散孔56は、長さの異なる長円形の孔を互いに離間して平行に並べたものである。押込み孔54および複数の揮散孔56は、揮散装置10の表面10a側の包装袋50のフィルム52を貫通して設けられている。包装袋50の裏面側のフィルム51には孔は設けられていない。
【0044】
押込み孔54は、薬剤収容体20の押圧部21を少なくとも部分的に外部に露出させる。本実施形態では、押圧部21の略全部を押込み孔54を介して外部に露出させている。押込み孔54は、図1に示すように組立体40を包装袋50内に収容した状態で、薬剤収容体20の押圧部21に対向する位置に設けられている。本実施形態では、押圧部21を包装袋50の開口部50aから離れた奥側に配置する向きで組立体40を包装袋50内に収容したため、押込み孔54は、図1で包装袋50の左下に片寄った位置に設けられている。
【0045】
押込み孔54は、包装袋50内に収容した組立体40の揮散シート30に対して薬剤収容体20を適正な位置に移動させるためのガイド手段としても機能する。揮散シート30は、上述したように、包装袋50内で遊びを有してわずかに移動可能にされており、薬剤収容体20は、上述したように、スリット31、32と係合耳部22、23との間の遊びによって、揮散シート30に対してわずかに移動可能にされている。
【0046】
このため、組立体40を包装袋50内に収容した状態で、薬剤収容体20の押圧部21を押込み孔54に嵌め合わせる際には、揮散シート30を包装袋50内でわずかに移動させることができるとともに、薬剤収容体20を揮散シート30に対してわずかに移動させることができる。押込み孔54の位置は、薬剤収容体20の押圧部21を押込み孔54に嵌め合わせることで、揮散シート30に対する薬剤収容体20の相対位置、および包装袋50に対する組立体40の相対位置を適切な位置に位置合わせすることのできる位置に設計されている。包装袋50が可撓性を有する材料により形成されているため、揮散シート30の包装袋50に対する移動、および薬剤収容体20の揮散シート30に対する移動は、押圧部21を直接手で触れることなく、包装袋50を揉むようにして行うこともできる。
【0047】
このとき、揮散シート30は、包装袋50に対して図示左右の遊びが略同じ幅になる図1に示す適正位置に配置される。一方、薬剤収容体20は、揮散シート30に対する適正位置に移動される。言い換えると、押込み孔54は、包装袋50に対する適正位置に配置した揮散シート30に対して薬剤収容体20を適正な位置に移動した状態で、押圧部21が図1に示す状態(押込み孔54の中央に配置される状態)に配置される位置に形成されている。この場合、薬剤収容体20の揮散シート30に対する適正位置とは、薬剤収容体20の左右の係合耳部22、23がそれぞれ揮散シート30のスリット31、32に対して同程度の係合具合で係合する位置であり、スリット31、32の幅W1の中央と係合耳部22、23の幅W2の中央が重なる位置である。
【0048】
図1に示すように、複数の揮散孔56は、包装袋50内の適正位置に収容配置された揮散シート30に対向する位置に形成されている。また、複数の揮散孔56は、適正位置に配置した揮散シート30に対して適正位置に配置した薬剤収容体20に対向しない位置に形成されている。本実施形態では、薬剤収容体20より揮散シート30を十分に大きくすることができたため、薬剤収容体20から外れた位置で揮散シート30に対向して表面側のフィルム52に複数の揮散孔56を設けることができる。
【0049】
上記のように表面側のフィルム52に複数の揮散孔56を設けることにより、揮散装置10を表面10aを上にして図示しない台などの上に載置して使用した場合、揮散孔56が台によって塞がれることがないため、薬剤Yの揮散効率を高めることができ、台に薬剤Yが付着して汚れる不具合を防止することができる。また、揮散孔56が薬剤収容体20と重なることがないため、薬剤収容体20が揮散孔56を介して外から見えることがなく、美観に優れるとともに、薬剤Yの揮散効率を高めることができる。なお、本実施形態では、表面側のフィルム52にのみ揮散孔56を設けたが、揮散装置10を吊るして使用する場合などには、裏面側のフィルム51に揮散孔56を設けることも可能である。
【0050】
上記のように構成された揮散装置10は、以下のように使用される。
揮散装置10を使用する場合、ユーザーは、包装袋50の押込み孔54から突出した押圧部21を指で押圧する。これにより、収容部13内の圧力が上昇し、指向空間16内の加圧された薬剤Yが、指向空間16の縁部16aを押して、易連通部15aの2枚のフィルム11、12を押し広げる。このとき、指向空間16の縁部16aが薬剤受部14の外周に沿って湾曲しているため、易連通部15aの2枚のフィルム11、12が薬剤受部14に向けて徐々に剥離される。
【0051】
そして、指向空間16の縁部16aが薬剤受部14に徐々に近づいて両者がつながると、指向空間16を介して収容部13内の薬剤Yが薬剤受部14内に流れ込む。薬剤受部14に流入した薬剤Yは、薬剤受部14に一旦溜まった後、薬剤受部14に連通した排出流路18を流れて、フィルム11の排出孔17、17を介して薬剤収容体20から流出する。排出孔17、17を介して流出した薬剤Yは、排出孔17、17に対向した揮散シート30によって吸収される。揮散シート30によって吸収された薬剤Yは、包装袋50の複数の揮散孔56を介して揮散装置10の外部へ揮散される。
【0052】
以上のように、本実施形態によると、薬剤収容体20の収容部13に連通した指向空間16の縁部16aが薬剤受部14の外周縁に沿って湾曲しているため、押圧部21を所定のしきい値を超える押圧力で押圧したとき、収容部13を薬剤受部14(排出孔17、17)に確実に連通させることができる。このため、例えば、薬剤Yが薬剤収容体20の外周部から漏れる心配がなく、薬剤Yの揮散状態を良好に制御することができる。
【0053】
また、本実施形態によると、押圧部21を押したとき、収容部13を排出孔17、17に直接つなげるのではなく、薬剤受部14に一旦溜めてから排出流路18を介して排出孔17、17へ導くようにしているため、排出孔17、17を介して薬剤Yが勢いよく吐出することがない。このため、排出孔17、17を介して排出した薬剤Yを所定位置で確実に揮散シート30に浸透させることができ、薬剤Yの飛び散りを防止することができる。
【0054】
より具体的には、本実施形態では、押圧部21を押圧したとき、収容部13内の薬剤Yが薬剤受部14に一旦溜まり、薬剤受部14に流れ込んだ薬剤Yが左右2方向に分岐される。このため、押圧部21と排出孔17、17の間に薬剤Yの圧力を逃がす空間を設けることができ、排出孔17、17を介して薬剤Yが急激に吐出されて揮散シート30にうまく吸収されなくなる不具合を防止することができ、薬剤Yの漏れの問題を防止することができる。
【0055】
特に、本実施形態によると、押圧部21を押したとき、薬剤受部14に流れ込んだ薬剤Yが左右2方向に分岐されるため、排出流路18を流れる薬剤Yの圧力が分散され、薬剤Yを左右の排出孔17、17に向けて確実に導くことができる。このように、薬剤Yを2方向に分岐させることにより、薬剤Yを広範囲に拡散させることができ、薬剤Yの拡散スピードを向上させることができ、揮散シート30に対する薬剤Yの吸収スピードを向上させることができる。また、薬剤Yを2方向に分岐させることにより、薬剤Yを均一に拡散させることができる。
【0056】
言い換えると、薬剤Yを一旦溜める薬剤受部14を設けるとともに、易連通部15aを通る薬剤Yの方向と、薬剤受部14から左右の排出孔17、17に向かう流路が交差しているため、この交差部位(すなわち薬剤受部14)において一旦溜めた薬剤Yを方向を変えて左右の排出孔17、17に向かわせることができ、薬剤Yの流速を遅くすることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、薬剤受部14から左右の排出孔17、17に向かう排出流路18が少なくとも1箇所で屈曲している(狭くなっている)。このため、この部位で薬剤Yの流路抵抗を生じさせることができる。また、このように狭くなった排出流路の幅を変更することで、薬剤Yの流速を所望する速度にコントロールすることができ、薬剤Yの揮散速度を所望する速度にコントロールすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、薬剤受部14より収容部13から離れた位置に2つの排出孔17、17を設けて、排出流路18の形状をこの排出孔17、17の配置位置に合わせて設計したため、排出孔17、17を揮散孔56により近付けることができ、薬剤Yの揮散効率を高めることができる。
【0059】
また、本実施形態によると、押圧部21を一度押圧するだけで、収容部13内の薬剤Yを略全量使用することができ、薬剤Yを無駄なく使用することができる。つまり、本実施形態の揮散装置10は、使い捨てを想定したものである。なお、本実施形態では、押圧部21の略全体が包装袋50の押込み孔54から外に突出しているため、個人差を生じることなく、押圧部21を最後まで確実に押し込むことができる。
【0060】
また、本実施形態では、薬剤収容体20の排出孔17、17に対向(接触)して揮散シート30を配置したため、排出孔17、17に到達した薬剤Yを無駄なく揮散シート30に吸収させることができる。
【0061】
さらに、本実施形態によると、押圧部21を指で押圧するだけで、揮散装置10の使用を開始することができ、薬剤Yが漏れて指に付着する不具合を生じることがなく、利便性を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態によると、揮散シート30に設けた2本のスリット31、32により薬剤収容体20を揮散シート30に固定するようにしたため、簡単な装置構成により十分な量の薬剤Yを良好に揮散させることができる。
【0063】
また、本実施形態によると、組立体40を収容する包装袋50はいかなるものであってもよく、包装袋50の選択の自由度を高めることができる。例えば、本実施形態のように2枚のフィルム51、52を貼り合せただけの簡単な構造の包装袋50であっても、揮散シート30に対して薬剤収容体20を位置決め固定した状態の組立体40を収容することができる。
【0064】
また、本実施形態によると、上記のように薬剤収容体20を揮散シート30に固定した組立体40を包装袋50に収容して、薬剤収容体20の押圧部21を包装袋50の押込み孔54から外方へ突出させたため、薬剤収容体20の揮散シート30に対する移動をある程度規制することができ、2つの係合耳部22、23がスリット31、32から抜け難くすることができる。
【0065】
また、本実施形態によると、薬剤収容体20より揮散シート30を十分に大きくすることができるため、揮散装置10の表面10a側に複数の揮散孔56を設けることができる。このため、揮散装置10をその表面10aが上を向く姿勢で台などの上に載置して使用することができ、揮散装置10の使用形態の自由度を高めることができる。
【0066】
また、本実施形態によると、薬剤収容体20の押圧部21の天面21aを平らな面を含む形状に形成したため、押圧部21の形状を凹みの目立たない綺麗な形状に保つことができ、製品としての美観を向上させることができる。
【0067】
ここで、図7を参照して、天面21aが平らな押圧部21を有する薬剤収容体20を製造する方法について説明する。なお、薬剤収容体20は、複数個一括して製造した後、個々に切り離すように分割される。
【0068】
まず、図7(a)に示すように、真空圧空成形によって表面側のフィルム12に押圧部21を形成する。このとき、表面側のフィルム12を金型60に対向させて密着して配置する。そして、フィルム12の金型60と反対側(図示上方)から図示しないブロア等により加圧空気を供給するとともに、金型60の複数の吸引孔62を介して、図示しない真空ポンプにより金型60とフィルム12の間の空気を吸引する。このとき、図示しないヒーターによってフィルム12を予め所定温度に加熱しておく。これにより、図7(b)に示すように、金型60の形状に沿ってフィルム12が部分的に図示下方に膨出されて、押圧部21が形成される。
【0069】
この後、図7(c)に示すように、フィルム12の押圧部21(収容部13)の内側に適量の薬剤Yを充填する。このとき、薬剤Yの充填量は、押圧部21の容積より少ない量、例えば押圧部21の容積の約半分の量が充填される。押圧部21を満たす量の薬剤Yを充填してしまうと、後述するようにフィルム11、12を貼り合せる際に薬剤Yが漏れる可能性がある。このため、2枚のフィルム11、12を貼り合せるためには薬剤Yの充填量を押圧部21の容積より少なくする必要がある。
【0070】
薬剤Yを充填した後、図7(d)に示すように、収容部13を覆うように裏面側のフィルム11をフィルム12に被せて、押圧部21の周囲で2枚のフィルム11、12をシーラー64によって挟んで熱溶着する。これにより、押圧部21の収容部13内に薬剤Yと空気が封入される。そして、最後に、このように形成した複数の薬剤収容体20を個々に切り離す。
【0071】
上記のように薬剤収容体20を製造すると、収容部13内に薬剤Yとともに若干の空気が入る。このため、収容部13内の薬剤Yは、経時的に空気と反応する。薬剤Yと空気の反応により、収容部13内に負圧を生じる場合がある。また、2枚のフィルム11、12を熱溶着した際に加えた熱が冷めることで、収容部13内にわずかな負圧を生じる。このような負圧は、押圧部21の外側から内側に向かう凹みを生じる原因になる。
【0072】
押圧部21に凹みを生じる場合、図8および図9に示すように、押圧部21、21’の外側から押圧部21、21’のフィルム12を内側に押す力が作用する。この力は、収容部13内の圧力と外気圧との差により生じる。このような力は、押圧部21、21’の各部位において、フィルム12の面と直交する方向に作用する。
【0073】
このため、例えば、図9に示す比較例のように、押圧部21’の形状を半球状に形成した場合、押圧部21’の各部において略同じ大きさで球の中心に向かう力が作用する。押圧部21’は、上述したように真空圧空成形によってフィルム12を部分的に膨出させて形成したものであるため、押圧部21’のフィルム12の厚みが他の部分より薄い。特に、フィルム12を膨出させる距離(すなわち押圧部21、21’の膨出高さ)が大きいほどフィルム12は薄くなる。つまり、押圧部21’の形状が半球状である場合、その頂部に近付くにつれてフィルム12が薄くなる。
【0074】
一方、押圧部21’の周囲には、2枚のフィルム11、12を熱溶着により貼り合せた比較的硬いシール部分15があるため、押圧部21’のシール部分15に近い裾部近くは、押圧部21’の頂部近くより剛性が高く変形し難い。このため、押圧部21’のシール部分15から離間した頂点近くが薄くて柔らかいフィルム部分となり、シール部分15に近いフィルム部分より凹み易くなる。なお、図9に示すような半球状の押圧部21’が凹む場合、その頂点近くで任意の位置(例えば、図9の破線で示す位置)に凹みが生じる。つまり、半球状の押圧部21’では、凹みを生じた場合、凹みがどこに形成されるか分からない。このため、半球状の押圧部21’は、凹みを生じた場合、外観上の見栄えが悪くなる。
【0075】
これに対し、図8に示すように、押圧部21の天面21aを平らにした場合、シール部分15に近い裾部以外の部位でフィルム12に外側から作用する力は、概ね裏面側のフィルム11に向かう方向(図示下方)となる。また、天面21aを平らにすると、天面21aの膨出高さが全ての部位で同じになるため、真空圧空成形により天面21aの厚みを均一にすることができる。このため、裾部近くより凹み易い天面21aにおいて凹みを生じた場合、フィルム12がフィルム11に向けて均等に凹むことになり、天面21aが全体的に凹むことになる。このため、本実施形態によると、押圧部21に凹みを生じた場合、天面21aが図10に示すように均一に綺麗に凹むことになる。
【0076】
以上のように、本実施形態によると、薬剤収容体20の押圧部21に上述したような経時的な凹みを生じた場合であっても、天面21aを平均的に均一に凹ませることができ、凹みを目立たなくすることができる。つまり、本実施形態によると、凹み形状を所望する形状にコントロールすることができ、製品としての美観を維持することができる。また、天面21aが平均的に均一に凹むことにより、押圧部21が押圧する指の形状にフィットし、押圧部21を押圧しやすくすることができる。
【0077】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、薬剤収容体20の表面側のフィルム12を可撓性を有するフィルムにより形成した場合について説明したが、これに限らず、少なくとも押圧部21の部分が可撓性を有する素材により薬剤収容体20を形成してもよい。
【0079】
また、上述した実施形態では、薬剤収容体20の押圧部21の天面21aを裏面側のフィルム11と略平行な面に形成した場合について説明したが、これに限らず、天面21aは平らであればよく、必ずしもフィルム11と平行である必要はない。
【0080】
また、上述した実施形態では、真空圧空成形によりフィルム12の押圧部21を形成した場合について説明したが、これに限らず、例えば真空成型などの他の方法によって押圧部21を形成してもよい。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
平らな基材フィルムと、
前記基材フィルムに重ねて配置され、前記基材フィルムから離れる側に膨出した膨出部分を有し、少なくとも前記膨出部分が可撓性を有する、機能フィルムと、
前記機能フィルムの前記膨出部分と前記基材フィルムとで囲まれた空間を密閉するように、前記膨出部分の周囲で前記基材フィルムと前記機能フィルムを密着させて接合した環状の接合部と、
前記空間内に収容した揮散性を有する薬剤と、を有し、
前記膨出部分の前記接合部から離間した天面が前記基材フィルムと略平行な平らな面を含む、
揮散装置。
[2]
前記空間内に前記薬剤とともに空気を収容した、
[1]の揮散装置。
[3]
前記基材フィルムおよび前記機能フィルムは樹脂フィルムであり、
前記接合部は、前記機能フィルムの前記膨出部分の周囲を前記基材フィルムにヒートシールにより接合することにより形成されている、
[1]の揮散装置。
[4]
前記基材フィルムが、前記接合部の外側で前記基材フィルムを貫通した排出孔を有し、
前記接合部が、前記空間内の圧力が所定のしきい値を超えたときに前記空間を前記排出孔に連通させる易連通部を有し、
前記排出孔に対向して前記基材フィルムの前記機能フィルムと反対側に配置され、前記排出孔を介して前記空間から排出された薬剤を吸収して揮散させる揮散シートをさらに有する、
[1]の揮散装置。
【符号の説明】
【0081】
10…揮散装置、 11、12…フィルム、 13…収容部、 14…薬剤受部、 15…シール部分、 17…排出孔、 20…薬剤収容体、 21…押圧部、 21a…天面、 22、23…係合耳部、 30…揮散シート、 31、32…スリット、 40…組立体、 50…包装袋、 Y…薬剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10