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特許7158934車両用内装材、及び、車両用スピーカーグリル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】車両用内装材、及び、車両用スピーカーグリル
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20221017BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B60R13/02 B
B60R11/02 S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018136112
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020011645
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】赤平 晃治
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 朋也
(72)【発明者】
【氏名】永戸 慎吾
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-073442(JP,A)
【文献】実開昭61-042183(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0001971(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口部が並べられたスピーカーグリルと、音を通過させる表皮材であって前記スピーカーグリルの表面であるグリル表面に対して接着剤により接着された表皮材と、を備える車両用内装材であって、
前記複数の開口部は、音を通過させる複数の貫通孔、及び、前記グリル表面から凹んだ凹部を含み、
前記スピーカーグリルは、前記グリル表面までの範囲内において前記凹部の底部から出た凸部であって前記凹部の周囲の前記グリル表面に繋がっていない凸部を有し、
前記スピーカーグリルの厚さ方向において、前記底部から前記グリル表面までの長さをL1とするとき、前記底部から前記凸部の先端部までの長さL2は、長さL1の0.6倍以上、且つ、長さL1以下である、車両用内装材。
【請求項2】
複数の開口部が並べられ、表面に表皮材を接着剤により接着させるための車両用スピーカーグリルであって、
前記複数の開口部は、音を通過させる複数の貫通孔、及び、前記表面から凹んだ凹部を含み、
前記表面までの範囲内において前記凹部の底部から出た凸部であって前記凹部の周囲の前記表面に繋がっていない凸部を有し、
前記スピーカーグリルの厚さ方向において、前記底部から前記表面までの長さをL1とするとき、前記底部から前記凸部の先端部までの長さL2は、長さL1の0.6倍以上、且つ、長さL1以下である、車両用スピーカーグリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカーグリルと表皮材を備える車両用内装材、及び、車両用スピーカーグリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドアトリムやデッキサイドトリムといった自動車用内装材として、音を通過させる表皮材を接着剤により貼り付けた樹脂製スピーカーグリルを基材に組み込んだものが知られている。スピーカーグリルは、周縁部で囲まれた音通過領域に多数の貫通孔を有している。特許文献1に開示されたドアトリム用スピーカーグリルは、厚さ方向へ貫通した縦長開口部が複数並べられたグリル本体の表面の平坦面に表皮材が貼着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-51594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表皮材が接着されたスピーカーグリルを基材に取り付けるためのフックやボスがスピーカーグリルの裏面に形成されることがある。スピーカーグリルの音通過領域内にフックやボスが配置される場合、フックやボスの位置には貫通孔を形成することができない。貫通孔を無くした位置の表面を平坦にすると、表皮材を手で触ったときに複数の貫通孔の不均一な配置が違和感を生じさせる。しかし、貫通孔の大きさに合わせてフックやボスの位置の表面にダミー用の凹部を形成すると、凹部の底部に表皮材が接着されることによる凹みが表皮材に生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、表皮材がスピーカーグリルの凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みを抑制可能な技術を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の開口部が並べられたスピーカーグリルと、音を通過させる表皮材であって前記スピーカーグリルの表面であるグリル表面に対して接着剤により接着された表皮材と、を備える車両用内装材であって、
前記複数の開口部は、音を通過させる複数の貫通孔、及び、前記グリル表面から凹んだ凹部を含み、
前記スピーカーグリルは、前記グリル表面までの範囲内において前記凹部の底部から出た凸部であって前記凹部の周囲の前記グリル表面に繋がっていない凸部を有し、
前記スピーカーグリルの厚さ方向において、前記底部から前記グリル表面までの長さをL1とするとき、前記底部から前記凸部の先端部までの長さL2は、長さL1の0.6倍以上、且つ、長さL1以下である、態様を有する。
【0007】
また、本発明は、複数の開口部が並べられ、表面に表皮材を接着剤により接着させるための車両用スピーカーグリルであって、
前記複数の開口部は、音を通過させる複数の貫通孔、及び、前記表面から凹んだ凹部を含み、
前記表面までの範囲内において前記凹部の底部から出た凸部であって前記凹部の周囲の前記表面に繋がっていない凸部を有し、
前記スピーカーグリルの厚さ方向において、前記底部から前記表面までの長さをL1とするとき、前記底部から前記凸部の先端部までの長さL2は、長さL1の0.6倍以上、且つ、長さL1以下である、態様を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表皮材がスピーカーグリルの凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みを抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】自動車の内装の例を側面部の図示が省略された状態で模式的に示す図。
図2】スピーカーグリルの表面の例を模式的に示す図。
図3】内装材の裏面の要部を模式的に例示する図。
図4】内装材の要部の例を図2のA1の位置において模式的に示す断面図。
図5】内装材の要部の例を図2のA2の位置において模式的に示す断面図。
図6】基材に組み付ける前のスピーカーグリルの例を模式的に示す図。
図7】スピーカーグリルの凹部の例を模式的に示す斜視図。
図8】スピーカーグリルの凹部の例を図2のA3-A3の位置において模式的に示す断面図。
図9】スピーカーグリルの凹部の例を図2のA4-A4の位置において模式的に示す断面図。
図10】接着剤の塗布方法の例を模式的に示す断面図。
図11】内装材の要部の例を模式的に示す断面図。
図12】内装材の要部の別の例を模式的に示す断面図。
図13】比較例に係る内装材の要部を模式的に示す断面図。
図14】比較例に係る内装材の表皮材に凹みが生じた様子を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0011】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~14に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0012】
[態様1]
本技術の一態様に係る車両用内装材1は、複数の開口部50が並べられたスピーカーグリル30、及び、音を通過させる表皮材20であって前記スピーカーグリル30の表面であるグリル表面31に対して接着剤25により接着された表皮材20を備える。前記複数の開口部50は、音を通過させる複数の貫通孔51、及び、前記グリル表面31から凹んだ凹部52を含んでいる。前記スピーカーグリル30は、前記グリル表面31までの範囲81内において前記凹部52の底部53から出た凸部54を有する。
上記態様では、並べられた複数の開口部50の中で貫通孔51の代わりに凹部52があるので、表皮材20を手で触ったときに複数の開口部50の連続性が良好な触感として感じられる。ここで、スピーカーグリル30の凹部52に接着剤25が入っても、凹部52内の凸部54が表皮材20を支持するので、凹部52の位置における表皮材20の凹みが抑制される。従って、本態様は、表皮材がスピーカーグリルの凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みを抑制する車両用内装材を提供することができる。
【0013】
ここで、車両用内装材には、ドアトリム、デッキサイドトリム、ピラートリム、ルーフトリム、バックドア(tailgate)トリム、インストルメントパネル内装材、等が含まれる。
表皮材は、スピーカーグリルの縁部においてスピーカーグリルの裏面に折り返されて接着されてもよいし、スピーカーグリルの裏面に接着されなくてもよい。
グリル表面までの範囲内において凹部の底部から出た凸部の先端部は、グリル表面に合わせられてもよいし、グリル表面よりも底部側の位置でもよい。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
ここで、図8に例示するように、前記スピーカーグリル30の厚さ方向D3において、前記底部53から前記グリル表面31までの長さをL1とする。前記底部53から前記凸部54の先端部55までの長さL2は、長さL1の0.6倍以上、且つ、長さL1以下でもよい。本態様は、表皮材がスピーカーグリルの凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みをさらに抑制する技術を提供することができる。
【0015】
[態様3]
図7,8等に例示するように、前記凸部54の先端部55は、曲面形状でもよい。この態様は、スピーカーグリルの凹部の位置における表皮材の触感を向上させる技術を提供することができる。
尚、態様3に含まれないが、態様1の効果を損なわない範囲で、前記凸部の先端部を平坦形状といった、曲面形状以外の形状にすることも、本技術に含まれる。
【0016】
[態様4]
図3~5に例示するように、本車両用内装材1は、前記スピーカーグリル30の裏面32側に配置された基材10をさらに備えてもよい。前記スピーカーグリル30は、該スピーカーグリル30の裏面32のうち前記凹部52と重なる位置から前記基材10側へ出て該基材10に結合した結合部位40を有してもよい。本態様は、スピーカーグリル30において複数の開口部50が配置されない周縁部35に結合部位40が配置されることによる周縁部35の拡がりが抑制されるので、スピーカーグリルの大型化を抑制する技術を提供することができる。
尚、態様4に含まれないが、複数の開口部に凹部が含まれる限り、結合部位が全てスピーカーグリルの周縁部に配置されることも、本技術に含まれる。
【0017】
[態様5]
また、本技術の一態様に係る車両用スピーカーグリル30は、表面31に表皮材20を接着剤25により接着させるための車両用スピーカーグリル30であって、複数の開口部50が並べられている。前記複数の開口部50は、音を通過させる複数の貫通孔51、及び、前記表面31から凹んだ凹部52を含んでいる。本車両用スピーカーグリル30は、前記表面までの範囲81内において前記凹部52の底部53から出た凸部54を有する。本態様は、表皮材が凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みを抑制する車両用スピーカーグリルを提供することができる。
【0018】
(2)車両用スピーカーグリルを含む車両用内装材の具体例:
図1は、自動車100の内装を側面部の図示が省略された状態で模式的に例示している。図2は、車両用内装材1に含まれるスピーカーグリル30の表面31を模式的に例示している。図2には、グリル表面31を覆う表皮材20の位置を二点鎖線により示している。図2の下部には、スピーカーグリル30の凹部52の拡大図を例示している。図3は、内装材1の裏面の要部を模式的に例示している。図4は、内装材1の要部の断面を図2のA1の位置において模式的に例示している。図5は、内装材1の要部の断面を図2のA2の位置において模式的に例示している。図6は、基材10に組み付ける前のスピーカーグリル30を模式的に例示している。これらの図中、FRONT、REAR、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、上、下を示す。左右の位置関係は、自動車100から前を見る方向を基準とする。また、符号D1は自動車100の前後方向を示し、符号D2は自動車100の上下方向を示し、符号D3はスピーカーグリル30を含む内装材1の厚さ方向を示し、符号D4は大部分の開口部50の長手方向を示し、符号D5は大部分の開口部50の短手方向を示している。尚、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右方向を上下方向又は前後方向に変更すること、上下方向を左右方向や前後方向に変更すること、前後方向を左右方向や上下方向に変更すること、等も、本技術に含まれる。
【0019】
図1に示す自動車100は、道路上で使用されるように設計及び装備された路上走行自動車とされ、例えば、鋼板製といった金属製の車体パネルが車室SP1及び荷室SP2を囲んで車体を形成している。また、図1に示す自動車100は、後部の荷室SP2が車室SP1と繋がり、2列のシート101(前席と後席)を備えるワゴンタイプの乗用自動車とされている。むろん、本技術を適用可能な自動車には、3列シートタイプといった2列シートタイプ以外の自動車も含まれ、いわゆるステーションワゴンやワンボックスカー等の他、セダンタイプ等の自動車も含まれる。
【0020】
自動車100の車体パネルには、室内(SP1,SP2)側において種々の内装材1が配置されている。荷室SP2から側方にあるデッキサイドパネル(車体パネルの例)には、荷室SP2側においてデッキサイドトリム111(内装材1の例)が設置されている。車室SP1から側方にあるドアパネル(車体パネルの例)には、車室SP1側においてドアトリム112(内装材1の例)が設置されている。同じく車室SP1から側方にあるピラー(車体パネルの例)には、車室SP1側においてピラートリム113(内装材1の例)が設置されている。ピラートリムは、ピラーガーニッシュとも呼ばれる。車室SP1及び荷室SP2から上方にあるルーフパネル(車体パネルの例)には、室内(SP1,SP2)側においてルーフトリム114(内装材1の例)が設置されている。荷室SP2から後方にあるバックドアパネル(車体パネルの例)には、荷室SP2側においてバックドアトリム115(内装材1の例)が設置されている。車室SP1から前方にあるインストルメントパネル(車体パネルの例)には、車室SP1側においてインストルメントパネル内装材116(内装材1の例)が設置されている。
【0021】
音源2からの音を通過させるスピーカーグリル部3は、上述した内装材1のいずれかに組み込まれる。図1では、デッキサイドトリム111とドアトリム112に配置されていることが示されている。
音源2には、例えば、図示しない制御部から音声信号を入力して音声を出力するスピーカーを有する音源ユニットを用いることができる。
【0022】
スピーカーグリル部3を有する内装材1は、図2~5に示すように、基材10、表皮材20、及び、スピーカーグリル30を有している。
【0023】
基材10は、音源2が配置される部分においてスピーカーグリル30よりも小さい開口13を有している。基材10における開口13の周縁部は、部品としてのスピーカーグリル30(図6参照)のボス44を厚さ方向D3へ通すためのボス挿通孔14を有し、スピーカーグリル30のフック41が引っ掛けられる部位である。スピーカーグリル30は、フック41と溶着部43を含む結合部位40により、開口13を塞ぐように基材10の表面11に固定されている。従って、基材10は、スピーカーグリル30の裏面32側に配置されている。
【0024】
基材10には、繊維が集合した基材、樹脂製の基材、発泡樹脂製の基材、これらの少なくとも一部の組合せ、等、様々な材料を用いることができる。前述の繊維には、熱可塑性樹脂といった合成樹脂(エラストマーを含む)の繊維、合成樹脂に添加剤を添加した繊維、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、ケナフといった植物繊維、反毛繊維、これらの少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。例えば、前記熱可塑性樹脂には、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン樹脂(PE)といったポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、等を用いることができる。樹脂製の基材の樹脂には、熱可塑性樹脂といった合成樹脂(エラストマーを含む)を用いることができ、繊維といった添加材が添加されてもよい。前記熱可塑性樹脂には、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、これらの組合せ、等を用いることができ、補強用繊維等といった添加材が添加されてもよい。
また、基材10は、単層で構成されてもよいし、2層以上が積層された構造でもよい。さらに、開口13を有する基材10は内装材1に含まれる主基材に取り付けられてもよい。
【0025】
音を通過させる表皮材20は、少なくともグリル表面31に対して接着剤25により接着されている。表皮材20は、内装材1の意匠面の見栄えを向上させる機能、及び、室内(SP1,SP2)からゴミといった異物が裏面32側に入るのを防ぐ機能を有する。図4,5には、グリル表面31に接着された表皮材20の余った部分がスピーカーグリル30の周縁部35における裏面32に回り込んで接着剤25により接着されていることが示されている。これにより、スピーカーグリル30の裏面であるグリル裏面32から表皮材20が剥がれ難いうえ、スピーカーグリル部3の端末部の見栄えが向上している。
【0026】
表皮材20は、音を通過させる接着可能な材料であれば厚くても薄くてもよく、多数の開口を有する材料が好ましい。このような材料は、通常、伸縮性を有する。表皮材20をスピーカーグリル30の周縁部35における裏面32に回り込ませて接着させる場合、表皮材20は柔軟な材料が好ましい。表皮材20には、織布、パンチングレザーやパンチング加工された不織布といった穴あきシート材、等、様々な材料を用いることができる。
【0027】
接着剤25には、熱可塑性樹脂を有機溶剤で溶解した接着剤、ホットメルト接着剤、等、様々な材料を用いることができる。接着剤25をスピーカーグリル30に塗布する方法は、機械式でもよいし、手作業でもよく、スプレー塗布、ロールコーター、刷毛塗り、等、様々な方法を採用することができる。接着剤25を塗布したスピーカーグリル30に表皮材20を貼り付ける方法も、機械式でもよいし、手作業でもよい。
尚、意匠面に接着剤25が染み出したり音の通過性能が低下したりする可能性はあるものの、表皮材20の裏面に接着剤25を塗布することも可能である。
【0028】
図2,3に示すように、スピーカーグリル30は、周縁部35を除く部分である音通過領域34に複数の開口部50を有している。各開口部50は略長方形であり、大部分の開口部50の長手方向D4は前後方向D1であり、大部分の開口部50の短手方向D5は上下方向D2である。複数の開口部50は、グリル表面31から見て音通過領域34に対して縦横に整然と並べられている。グリル裏面32からは、各開口部50を避ける位置において音源2側へ複数のリブ33が延出している。複数のリブ33は、グリル裏面32から見て縦向き又は横向きに配置されている。複数の開口部50は、図4,5に示すように、スピーカーグリル30の厚さ方向D3へ貫通した複数の貫通孔51、及び、グリル表面31から凹んでいるが厚さ方向D3への貫通孔ではない複数の凹部52を含んでいる。従って、各貫通孔51は音源2からの音を容易に通過させ、各凹部52は図2に示す底部53を有して音源2からの音を概ね遮断する。音通過領域34の中に複数の凹部52があるのは、図3に示すように、グリル裏面32において音通過領域34と重なる位置に基材10との結合部位40が複数あるためである。尚、結合部位40の位置によっては、凹部52の裏に結合部位40が無い場合もある。
【0029】
複数の結合部位40の少なくとも一部は、図4,5に示すように、グリル裏面32のうち凹部52と重なる位置から基材10側へ出て該基材10に結合している。複数の結合部位40は、基材10における開口13の周縁部に引っ掛かった複数のフック41、及び、基材10における開口13の周縁部に固定された複数の溶着部43を含んでいる。各フック41には、必須ではないが、グリル裏面32に繋がっている補強用のリブ42が形成されている。各溶着部43は、部品としての車両用スピーカーグリル30(図6参照)にあるボス44から超音波溶着といった溶着により形成された部位である。各ボス44には、必須ではないが、グリル裏面32に繋がっている補強用のリブ45(図6参照)が形成されている。
【0030】
スピーカーグリル30には、合成樹脂の射出成形品といった成形品を用いることができる。前述の合成樹脂には、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、これらの組合せ、等を用いることができ、補強用繊維等といった添加材が添加されてもよい。
【0031】
ここで、各結合部位40に対応する表面を平坦面にすると、音通過領域34内の開口部50の並びが不均一になる。すると、音通過領域34の表面側にある表皮材20を指で触ったときに貫通孔51がある部分と貫通孔51がない平坦部分とが識別され、違和感が生じる。このため、大部分の貫通孔51の大きさに合わせて結合部位40の位置のグリル表面31にダミー用の凹部52が配置されており、音通過領域34内の開口部50の並びが均一化されている。これにより、音通過領域34の表面側にある表皮材20を手で触ったときに複数の開口部50の連続性が良好な触感として感じられる。
【0032】
しかし、大部分の貫通孔51の大きさに合わせてグリル表面31にダミー用凹部52を形成すると、凹部52内に凸部54が無い場合、凹部52の底部53に表皮材20が接着されることによる凹みが表皮材20に残る可能性がある。この理由を図13,14に従って説明する。
【0033】
図13は、比較例に係る車両用内装材901の要部を模式的に示す断面図である。図14は、比較例に係る内装材901の表皮材20に凹み920が生じた様子を模式的に示す断面図である。
スプレー式塗布装置といった接着剤塗布装置により接着剤25を塗布すると、スピーカーグリル30のダミー用凹部52の底部53にも接着剤が付着する。この状態で表皮材20を少なくともグリル表面31に貼り付ける作業が行われることになる。接着剤25が乾いていない場合、図13に示すようにダミー用凹部52の表面側の表皮材20が指F1等で押されると、図14に示すように表皮材20がダミー用凹部52の底部53に貼り付き、意匠面に凹み920が残り、スピーカーグリル部3の美観が低下する。また、ユーザーが自動車を購入した後においても、夏に車内が高温になったり、湿度が高かったりすると、接着剤25が軟化し、ユーザーがダミー用凹部52の表面側の表皮材20を指F1等で押してしまうと、凹み920が残る可能性がある。
【0034】
尚、ダミー用凹部52の位置に合わせてマスキングテープを貼ってから接着剤25を塗布してマスキングテープを剥がすと、ダミー用凹部52の底部53に接着剤25が付着しない。しかし、マスキングテープを貼る作業、及び、マスキングテープを剥がす作業が余分に必要である。また、グリル表面31に対してマスキングテープの位置がずれると接着剤25が正しく塗布されないため、グリル表面31に対するマスキングテープの位置合わせに高い精度が要求され、マスキングテープを貼る作業に時間がかかる。
【0035】
また、音通過領域34からダミー用凹部52を無くすために結合部位40の位置を周縁部35にすると、グリル表面31に接着された表皮材20の余った部分をスピーカーグリル30の周縁部35における裏面32に回り込ませようとすると表皮材20が結合部位40に干渉する。表皮材20と結合部位40とが干渉しないように表皮材20においてグリル裏面32に回り込ませる部分を少なくすると、表皮材20とグリル裏面32との接触面積が減って表皮材20が剥がれ易くなる。表皮材20の剥がれを抑制しながら表皮材20と結合部位40とが干渉しないように表皮材20に結合部位40を避けるための切欠きを形成する場合、表皮材20の加工コストがかかる。加えて、表皮材20をスピーカーグリル30に貼り付ける工程において、表皮材20の切欠きを結合部位40の位置に合わせる手間もかかる。
【0036】
表皮材20の剥がれを抑制するためにスピーカーグリル30の周縁部35を外側へ拡げると、スピーカーグリル30自体が大型化する。スピーカーグリル30全体の大きさをそのままにして周縁部35を広くすると、音通過領域34の面積が小さくなり、音源2からの音の通過性能に影響する。また、音通過領域34にある貫通孔51の面積が少なくなる分、スピーカーグリル30の重量が増え、軽量化の観点からも不利である。
【0037】
以上のことから、本具体例では、グリル裏面32において音通過領域34と重なる位置に基材10との結合部位40が配置され、音通過領域34において結合部位40の位置のグリル表面31にダミー用の凹部52が配置されている。
【0038】
図14で示したような表皮材20の凹み920の残留を抑制するため、本具体例では、図7~9等に例示するように、グリル表面31までの範囲81内においてダミー用凹部52の底部53から出た凸部54をスピーカーグリル30に設けている。ここで、図7は、スピーカーグリル30のダミー用凹部52及びその周辺を模式的に例示している。図8は、ダミー用凹部52の断面を図2のA3-A3の位置において模式的に例示している。図9は、ダミー用凹部52の断面を図2のA4-A4の位置において模式的に例示している。
【0039】
図7~9に示すように、スピーカーグリル30の凸部54は、凹部52の底部53からグリル表面31側に膨出している。図8に示すように、厚さ方向D3及び短手方向D5に沿った断面における凸部54の形状は、略半円形状である。ここで、厚さ方向D3及び短手方向D5に沿った断面における凸部54の先端部55の曲率半径をr1とする。図9に示すように、厚さ方向D3及び長手方向D4に沿った断面における凸部54の形状は、底部53からほぼ曲率半径r1で立ち上がって先端部55において直線状となる形状である。凸部54がかまぼこに似た形状であるのは、貫通孔51とともにダミー用凹部52が長手方向D4において長い略長方形であり、凹部52の位置における表皮材20の凹みの残留を効果的に抑制するためである。
むろん、凸部54の形状は、ダミー用凹部52の形状に応じて設定すればよい。例えば、貫通孔51及びダミー用凹部52が略円形や略正方形といった形状であれば、凹部52の位置における表皮材20の凹みの残留を効果的に抑制するため、凸部54の形状を略半球形状にしてもよい。
【0040】
凸部54の高さ(長さL2)は、凹部52の深さ(長さL1)以下が好ましい。ここで、長さL1は、スピーカーグリル30の厚さ方向D3において底部53からグリル表面31までの長さである。長さL2は、スピーカーグリル30の厚さ方向D3において底部53から凸部54の先端部55までの長さである。L2≦L1であることにより、表皮材20に凸部54による出っ張りが現れず、スピーカーグリル部3の美観が維持される。また、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触っても、凸部54の存在による違和感が生じ難い。
さらに、凸部54の長さL2は、長さL1の0.6倍以上が好ましく、長さL1の0.7倍以上がより好ましく、長さL1の0.8倍以上がさらに好ましく、長さL1の0.9倍以上が特に好ましい。これにより、表皮材20が凸部54の先端部55に接着されても、表皮材20の凹みが目立ち難い。図8には、凸部54の長さL2が実質的に長さL1に合わせられていることが示されている。実質的にL2=L1であることには、誤差により長さL2が長さL1からずれていることが含まれる。
【0041】
凸部54の先端部55は、図7~9に例示するように、曲面形状が好ましい。例えば、先端部55に角があると、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触ったときに凸部54の存在が感じされる可能性があり、表皮材20の耐久性が低下する可能性もある。先端部55が曲面形状であると、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触っても、凸部54の存在が感じられ難い。
尚、先端部55をグリル表面31に沿った平坦面にすることも可能であるが、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触ったときに凸部54の存在が感じられる可能性がある。凸部54が断面矩形である場合、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触ったときに貫通孔51よりも小さい孔が2つ存在するように感じられる可能性がある。スピーカーグリル30が樹脂製である場合、射出成形時に断面矩形の凸部54に欠肉が生じる可能性があり、凸部54の強度が低下する可能性もある。
【0042】
厚さ方向D3及び短手方向D5に沿った断面における凸部54の先端部55の曲率半径r1は、0.5~2mmが好ましい。曲率半径r1が0.5~2mmであると、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20を手で触っても、凸部54の存在が感じられ難い。尚、凸部54が略半球形状である場合の曲率半径も、同じ理由により0.5~2mmが好ましい。
【0043】
(3)車両用内装材の製造方法の具体例、作用、及び、効果:
次に、図10,11も参照して、車両用内装材1の製造方法の具体例を説明する。ここで、図10は、部品としての車両用スピーカーグリル30の対する接着剤25の塗布方法を模式的に例示する断面図である。図11は、形成された内装材1の要部を模式的に例示する断面図である。
部品としてのスピーカーグリル30(図6参照)は、例えば、射出成形型の射出成形型に溶融状態の熱可塑性樹脂を射出して固化させることにより形成することができる。スピーカーグリル30が取り付けられる基材10は、例えば、成形前の原料基材を所要形状にプレス成形することにより形成することができる。
【0044】
その後の接着剤塗布工程では、スピーカーグリル30において、表面31の全体、及び、周縁部35における裏面32に対して、図10に示すように塗布装置200により液状の接着剤25を塗布する。図10に示す塗布装置200はスプレー式であるが、塗布装置はロールコーター式等でもよい。接着剤25の塗布により、底部53と凸部54を含む凹部52の内側面の少なくとも一部にも接着剤25が付着する。
その後の表皮材接着工程では、グリル表面31から周縁部35における裏面32にかけて表皮材20を回り込ませて接着させる。
【0045】
その後のスピーカーグリル仮保持工程では、基材10の各ボス挿通孔14にボス44を通し、基材10における開口13の周縁部に各フック41を引っ掛けることにより、基材10にスピーカーグリル30を仮保持させる。
その後の溶着工程では、各ボス挿通孔14に通されたボス44の先端を例えば超音波溶着により基材10の裏面12に溶着させる。これにより、各ボス44の先端が結合部位40としての溶着部43に変わり、表皮材20が接着されたスピーカーグリル30が開口13を塞ぐように基材10の表面11に固定され、スピーカーグリル部3を有する内装材1が形成される。
【0046】
ここで、スピーカーグリル30に接着剤25を塗布すると、ダミー用凹部52にも接着剤25が入る。しかし、グリル表面31までの範囲81内において凹部52の底部53から凸部54が出ているので、図11に示すようにダミー用凹部52の表面側の表皮材20が指F1等で押されても、凸部54が表皮材20を支持する。図11に示すように凸部54の両側にある底部53に接着剤25が付着しても、底部53が狭いため、底部53に表皮材20が貼り付くことが抑制される。従って、表皮材20がスピーカーグリル30の凹部52の底部53に接着されることによる表皮材20の凹みが抑制される。
また、凸部54の先端部55が曲面形状であるので、凹部52の表面側の表皮材20に手を触れても違和感無く貫通孔51の連続性が良好な触感として感じられる。
【0047】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、スピーカーグリル30のリブ33は、スピーカーグリル30としての強度が確保される限り、無くてもよい。フック41に繋がっているリブ42やボス44に繋がっているリブ45も、強度が確保される限り、無くてもよい。
上述した具体例では音通過領域34に複数のダミー用凹部52が配置されていたが、音通過領域に配置されるダミー用凹部は一つのみでもよい。
【0048】
ダミー用凹部の底部から出た凸部の形状は、上述した形状以外にも様々考えられる。
図12は、内装材の別の例において内装材の要部の断面を模式的に例示している。尚、上述した具体例と同じ機能を有する要素に同じ符号を付している。ここでは、上述した具体例とは異なる形状を有する要素について、説明する。
【0049】
図12は、図2のA3-A3に相当する位置における内装材1の厚さ方向D3及び短手方向D5に沿った断面を示している。内装材1に含まれるスピーカーグリル30は、先端部55が丸みを帯びた断面略三角形の凸部54を有している。曲面形状の先端部55の曲率半径r1は、上述した理由により0.5~2mmが好ましい。
図12に示す内装材1も、ダミー用凹部52の表面側の表皮材20が指等で押されても、凸部54が表皮材20を支持する。また、凸部54の両側にある底部53が狭いため、底部53に表皮材20が貼り付くことが抑制される。従って、表皮材20がスピーカーグリル30の凹部52の底部53に接着されることによる表皮材20の凹みが抑制される。さらに、凸部54の先端部55が曲面形状であるので、凹部52の表面側の表皮材20に手を触れても違和感無く貫通孔51の連続性が良好な触感として感じられる。
【0050】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、表皮材がスピーカーグリルの凹部の底部に接着されることによる表皮材の凹みを抑制可能な技術等を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1…内装材、2…音源、3…スピーカーグリル部、
10…基材、11…表面、12…裏面、13…開口、14…ボス挿通孔、
20…表皮材、25…接着剤、
30…スピーカーグリル、31…表面、32…裏面、34…音通過領域、35…周縁部、
40…結合部位、41…フック、43…溶着部、44…ボス、
50…開口部、51…貫通孔、52…凹部、53…底部、54…凸部、55…先端部、
81…範囲、
100…自動車、101…シート、
111…デッキサイドトリム、112…ドアトリム、113…ピラートリム、
114…ルーフトリム、115…バックドアトリム、
116…インストルメントパネル内装材、
D1…前後方向、D2…上下方向、D3…厚さ方向、D4…長手方向、D5…短手方向、
F1…指、SP1…車室、SP2…荷室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14