(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】モールド形静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/26 20060101AFI20221017BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20221017BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20221017BHJP
H01F 27/36 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H01F27/26 130C
H01F27/32 140
H01F30/12 H
H01F27/36 129
(21)【出願番号】P 2018168749
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】中前 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】城条 雅之
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-084521(JP,U)
【文献】特開2018-078194(JP,A)
【文献】実開昭56-169528(JP,U)
【文献】実開昭51-154316(JP,U)
【文献】特開2018-032717(JP,A)
【文献】特開平09-035952(JP,A)
【文献】特開平05-335157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/24-27/26
H01F 27/28
H01F 27/32-27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧側巻線及び低圧側巻線を有し前記
高圧側巻線及び前記低圧側巻線の表面が絶縁部材で覆われ
前記高圧側巻線と前記低圧側巻線との間に空隙が形成されたコイルと、
前記コイルの中心部に通された鉄心と、
前記コイルから突出した前記鉄心の端部を挟み込んで取り付けられているクランプと、
前記コイルの軸方向の端面に接する押え部を有し、前記クランプを支点にして前記押え部を前記軸方向の中心側へ押し付けることにより前記コイルを押さえるコイル押え機構と、
電気絶縁性を有する部材で構成され、前記押え部における前記軸方向の途中部分に設けられ平面視において
前記空隙と重なる位置に設けられ前記押え部を覆う絶縁部材と、
を備え
、
前記絶縁部材は、径方向の外側又は内側のうち少なくとも前記高圧側巻線に近い方に設けられ、前記コイルの前記軸方向に沿って前記コイルとは逆側へ向けて曲がった曲げ部を有している、
モールド形静止誘導機器。
【請求項2】
導電性又は半導電性を有する部材で構成され、前記押え部に対して前記コイルとは逆側に設けられた静電シールドを更に備え、
前記絶縁部材は、平面視において前記静電シールドを覆っている、
請求項1に記載のモールド形静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールド形静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻線の表面を樹脂等の絶縁部材でモールドすることで絶縁性能を確保したモールド形静止誘導機器が知られている。このようなモールド形静止誘導機器は、モールドされた巻線を容器内に格納し、その容器内にドライエア等を充填することで、巻線と容器との絶縁を確保して高電圧に適用させている。しかしながら、このようなモールド形静止誘導機器は、一次側つまり高圧側の電圧が高いことから、高圧側巻線から鉄心等への絶縁破壊を防ぐために、より高い絶縁耐力が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、絶縁耐力の向上を図ることができるモールド形静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のモールド形静止誘導機器は、高圧側巻線及び低圧側巻線を有し前記高圧側巻線及び前記低圧側巻線の表面が絶縁部材で覆われ前記高圧側巻線と前記低圧側巻線との間に空隙が形成されたコイルと、前記コイルの中心部に通された鉄心と、前記コイルから突出した前記鉄心の端部を挟み込んで取り付けられているクランプと、前記コイルの軸方向の端面に接する押え部を有し、前記クランプを支点にして前記押え部を前記軸方向の中心側へ押し付けることにより前記コイルを押さえるコイル押え機構と、電気絶縁性を有する部材で構成され、前記押え部における前記軸方向の途中部分に設けられ平面視において前記空隙と重なる位置に設けられ前記押え部を覆う絶縁部材と、を備える。前記絶縁部材は、径方向の外側又は内側のうち少なくとも前記高圧側巻線に近い方に設けられ、前記コイルの前記軸方向に沿って前記コイルとは逆側へ向けて曲がった曲げ部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】一実施形態によるモールド形静止誘導機器の概略構成を示す断面図
【
図2】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、
図1のX2-X2線に沿って示す断面図
【
図3】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、
図1のX3-X3線に沿って示す断面図
【
図4】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、
図1のX4-X4線に沿って示す断面図
【
図5】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、
図1のX5-X5線に沿って示す断面図
【
図6】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、コイルの上端部周辺の構成を拡大して示す断面図
【
図7】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、コイルの下端部周辺の構成を拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すモールド変圧器10は、モールド形静止誘導機器の適用例の一例であり、例えば電力系統や受変電設備に用いられるものである。本実施形態の場合、モールド変圧器10は、U相、V相、W相の巻線を有する三相の変圧器である。なお、モールド変圧器10は、三相変圧器に限られない。
【0008】
モールド変圧器10は、機器中身20、容器30、及び熱交換器40を備えている。機器中身20は、モールド変圧器10の各相に対応して設けられている。例えば本実施形態において、モールド変圧器10は、U相、V相、及びW相を有する三相変圧器であるため、U相、V相、及びW相のそれぞれに対応した3つの機器中身20を備えている。
【0009】
機器中身20は、
図2及び
図3にも示すように、コイル21、鉄心22、及びスペーサ23を有して構成されている。コイル21は、高圧側巻線211、低圧側巻線212、高圧側口出し線213、低圧側口出し線214、及び鉄心挿入部215を有している。高圧側巻線211は、モールド変圧器10を例えば電力系統に適用した際に高圧電力が入力される1次側の巻線として機能する。また、低圧側巻線212は、モールド変圧器10を例えば電力系統に適用した際に低圧電力を出力する2次側の巻線として機能する。高圧側口出し線213は、高圧側巻線211に接続されており、高圧側巻線211の上端部から引き出されている。同様に、低圧側口出し線214は、低圧側巻線212に接続されており、低圧側巻線212の上端部から引き出されている。
【0010】
高圧側巻線211及び低圧側巻線212は、表面全体が樹脂等の絶縁部材によって覆われている。つまり、高圧側巻線211及び低圧側巻線212の表面は、電気絶縁性を有する樹脂等の絶縁部材によってモールドされている。この場合、高圧側巻線211は、低圧側巻線212の外周側に設けられている。鉄心挿入部215は、コイル21の中心部に形成された円筒形状の穴である。つまり、鉄心挿入部215は、低圧側巻線212の内側に形成されている。鉄心22は、例えば珪素鋼板を積層して矩形棒状に形成されており、コイル21の中心部の鉄心挿入部215に通されている。この場合、詳細は図示しないが、三相各相の機器中身20に対応した各鉄心22は、その各上端部及び各下端部が相互に連結されている。
【0011】
スペーサ23は、
図2及び
図3に示すように、高圧側巻線211と低圧側巻線212との間に設けられている。つまり、スペーサ23は、高圧側巻線211の内周側でかつ低圧側巻線212の外周側に設けられている。スペーサ23は、高圧側巻線211及び低圧側巻線212の全周に亘って波型に形成されている。このスペーサ23により、高圧側巻線211と低圧側巻線212との間に空隙24が形成されて、冷却用の気体を流す空間を確保するとともに、高圧側巻線211と低圧側巻線212との間における必要な絶縁強度を確保している。なお、スペーサ23は、高圧側巻線211と低圧側巻線212と間の絶縁強度及び冷却用の空間を確保できる形状であれば波型に限られない。
【0012】
容器30は、
図1に示すように、モールド変圧器10の外郭を構成するものであり、例えば鋼板等の金属製の筐体を主体として構成されている。容器30は、気密性を有した箱状に構成されている。機器中身20は、容器30の内部に収納されている。詳細は図示しないが、本実施形態の場合、三相各相に対応した3つの機器中身20は、容器30内において等間隔で一列の直線状に配置されている。このため、容器30は、全体として一方向に長い形状、例えば平面視において長方形となる箱状に形成されている。
【0013】
この場合、隣接する機器中身20同士、及び機器中身20と容器30の内壁面とは、それぞれ離間している。これにより、隣接する機器中身20の間、及び機器中身20と容器30の内壁面との間には、それぞれ隙間が確保されている。この隙間によって、冷却用の気体を流す空間を確保するとともに、各機器中身20間、及び機器中身20と容器30の内壁との間における必要な絶縁強度を確保している。
【0014】
容器30は、接地線11及び接地極12を介して、例えばA種接地により接地されて大地電位となっている。この場合、接地線11は、抵抗値が10Ω以下で、引張強さが1.04kN以上の金属線または直径2.6mm以上の軟銅線で構成されている。また、接地極12は、銅板、銅棒、又は亜鉛メッキした鉄棒などで構成されており、地中に埋没されている。この場合、詳細は図示しないが、鉄心22も、接地線11及び接地極12を介して接地されて大地電位となっている。
【0015】
容器30内は、気密性が維持された密閉空間となっている。この場合、容器30内には大気圧よりも高い圧力のドライエア等の気体が充填される。空気の絶縁耐力はその絶対圧力にほぼ比例する。このため、容器30内に大気圧よりも高い圧力のドライエアを充填することで、モールド変圧器10は、機器中身20を大気圧中に設置した場合に比べてより高い絶縁耐圧を得ることができる。なお、容器30内には、高圧のドライエアに限られず、例えばSF6などの不活性ガスを充填しても良い。
【0016】
また、容器30は、上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32を有している。上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32は、容器30内と熱交換器40とを接続している。すなわち、容器30内と熱交換器40とは、接続ダクト31、32を通して相互に連通している。この場合、上部接続ダクト31は、容器30の上部、具体的にはコイル21の上端よりも上側に設けられている。また、下部接続ダクト32は、上部接続ダクト31の下方でかつ容器30の下部、具体的にはコイル21の下端よりも下側に設けられている。
【0017】
熱交換器40は、上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32を介して容器30内に連通している。熱交換器40は、機器中身20の動作によって発生した熱を大気中に放熱する機能を有する。容器30内の気体は、機器中身20で発生した熱によって熱せられると、
図1の白抜き矢印で示したように、機器中身20の周囲の隙間及び機器中身20の内部に形成された空隙24を通って容器30内を上昇する。
【0018】
そして、容器30内を上昇した気体は、上部接続ダクト31を通って熱交換器40内に流入し、気体の熱が熱交換器40の作用によって大気中に放熱される。その後、放熱して温度が下がった気体は、下部接続ダクト32から容器30内に流入し、機器中身20の周囲の隙間及び空隙24を通って再び上昇する。このようにして容器30内を自然循環する気体の流れが発生し、その気体の流れによって各機器中身20が自然冷却される。なお、例えば接続ダクト31、32内等に送風機を設けて、容器30内の気体を強制循環させる構成としても良い。これによれば、モールド変圧器10内の冷却効率を更に向上させることができる。
【0019】
また、モールド変圧器10は、
図1等に示すように、上部クランプ51、下部クランプ52、及びコイル押え機構60を備えている。上部クランプ51は、
図6にも示すように、例えば鋼板等を曲げて構成されており、鉄心22のうちコイル21から上方に突出した上端部を両側から挟み込んだ状態で、鉄心22の上端部に取り付けられている。この場合、上部クランプ51は、鉄心22に対して相対的な移動が不可となるように固定されている。また、詳細は図示しないが、上部クランプ51は、三相各相に対応した3つの機器中身20に亘って設けられており、各鉄心22の上端部を連結している。つまり、上部クランプ51は、3つの三相各相に対応した3つの鉄心22の上端部を連結して相互に固定している。
【0020】
下部クランプ52は、
図7にも示すように、上部クランプ51と同様に鋼板等を曲げて形成されており、鉄心22のうちコイル21から下方に突出した下端部を両側から挟み込んだ状態で、鉄心22の下端部に取り付けられている。この場合、下部クランプ52は、鉄心22に対して相対的な移動が不可となるように固定されている。また、下部クランプ52は、容器30の底部に図示しない締結部材等を用いて固定されている。これにより、機器中身20は、下部クランプ52を介して容器30の底部に固定されている。
【0021】
また、詳細は図示しないが、下部クランプ52も、上部クランプ51と同様に、三相各相に対応した3つの機器中身20に亘って設けられており、各鉄心22の下端部を連結している。つまり、下部クランプ52は、3つの三相各相に対応した3つの鉄心22の下端部を連結して相互に固定している。そして、詳細は図示しないが、クランプ51、52は、接地線11及び接地極12を介して接地されている。
【0022】
コイル押え機構60は、
図1に示すように、上部クランプ51又は下部クランプ52に接続されており、コイル21の軸方向の上端面又は下端面を、コイル21の軸方向の中心側、この場合、
図1の紙面の上下中央側へ押さえ付けるためのものである。コイル押え機構60は、
図1、
図2、及び
図4に示すように、コイル21の上下両端面に対応してそれぞれ4つずつ設けられている。この場合、コイル押え機構60は、
図2及び
図4に示すように、クランプ51、52に対して鉄心22とは逆側となる外側に2つずつ配置されている。そして、各クランプ51、52は、それぞれ同一円周上に配置されている。
【0023】
上部クランプ51に接続されるコイル押え機構60と、下部クランプ52に接続されるコイル押え機構60とは、その形状及び構成が共通している。コイル押え機構60は、
図6及び
図7にも示すように、接続部61、押え部62、ボルト部63、及びナット64を有している。接続部61は、例えば金属製の板状又はブロック状の部材で構成されており、クランプ51、52に溶接等によって接続及び固定されている。押え部62は、電気絶縁性を有する例えばポリエステル樹脂等の合成樹脂製であって、全体として直方体のブロック状に構成されている。押え部62の一方の面は、コイル21の軸方向の端面、つまりコイル21の上側端面又は下側端面に接している。
【0024】
ボルト部63は、例えば金属製又は樹脂製の棒状の部材に形成され、その棒状の全長に亘ってねじが形成されたいわゆる寸切りボルトである。ボルト部63の一方の端部は押え部62に固定されており、他方の端部は接続部61に形成された穴に通されている。この場合、ボルト部63は、押え部62とともに、接続部61に対してコイル21の軸方向に沿った相対的な移動が可能に構成されている。ナット64は、ボルト部63に通されて、接続部61の一方側の面に接するように設けられている。
【0025】
ナット64が接続部61に接した状態でナット64を回転させることで、ボルト部63及び押え部62は、コイル21の軸方向に沿って移動する。これにより、押え部62は、コイル21の上下の端面を押さえつける。例えばボルト部63及びナット64が右ねじである場合について見る。この場合、
図6に示すコイル21の上部に設けられたコイル押え機構60においては、ナット64が右回転すると、ボルト部63には下方へ移動する力が作用し、これにより押え部62はコイル21の上端面を押さえつける。
【0026】
一方、
図7に示すコイル21の下部に設けられたコイル押え機構60においては、ナット64が左回転すると、ボルト部63には上方へ移動する力が作用し、これにより押え部62はコイル21の下端面を押さえつける。これにより、コイル21の上下の端面がコイル押え機構60の押え部62によって押さえつけられて固定される。なお、コイル21の固定を解除する場合には、各コイル押え機構60のナット64を、上述した方向とは逆方向に回転させれば良い。
【0027】
また、モールド変圧器10は、
図1等に示すように、上部静電シールド71、下部静電シールド72、上部絶縁部材81、及び下部絶縁部材82を備えている。上部静電シールド71及び下部静電シールド72は、導電性又は半導電性を有する部材で構成され、全体として平坦な扇板状又は円環板状に形成されている。上部静電シールド71及び下部静電シールド72は、クランプ51、52の特に角部や鉄心22の上下端部等に対する電界集中を緩和する機能を有する。この場合、上部静電シールド71及び下部静電シールド72は、例えばエポキシ樹脂等の絶縁物を基材にして、その基材の周囲を導電性又は半導電性を有する塗料でコーティングして構成されている。
【0028】
上部静電シールド71は、
図6に示すように、上部クランプ51に接続されたコイル押え機構60の押え部62のうち、コイル21の上端面に接する面とは反対側の面に接して設けられている。上部静電シールド71は、
図2に示すように、円環状の板の一部を切り欠いたような扇状に形成されている。すなわち、上部静電シールド71は、切り欠き部711を有している。そして、高圧側巻線211の口出し線213及び低圧側巻線212の口出し線214は、切り欠き部711を通して、図示しないブッシングに接続されている。
【0029】
下部静電シールド72は、
図7に示すように、下部クランプ52に接続されたコイル押え機構60の押え部62のうち、コイル21の下端面に接する面とは反対側の面に接して設けられている。下部静電シールド72は、
図4に示すように、円環板状に形成されている。すなわち、下部静電シールド72は、切り欠き部711を有していない点を除いて上部静電シールド71と同一の構成である。
【0030】
上部静電シールド71及び下部静電シールド72は、いずれもコイル21に対向する面が平坦に形成されている。そして、上部静電シールド71及び下部静電シールド72は、いずれも接地線11及び接地極12を介して接地されて大地電位となっている。これにより、コイル21の上下面と対向する部材は上下の静電シールド71、72のみとなり、上下の静電シールド71、72以外の部材に電界集中が生じることを抑制される。
【0031】
上部絶縁部材81及び下部絶縁部材82は、例えばエポキシ樹脂等の電気絶縁性を有する部材で構成されている。上部絶縁部材81は、
図6に示すように、上部クランプ51に接続されたコイル押え機構60の押え部62の途中部分に設けられている。この場合、上部絶縁部材81は、例えば上下2つに分割された押え部62に挟まれるようにして設けられている。なお、本実施形態において押え部62の途中部分とは、押え部62全体の一方の端面から他方の端面の間、つまり押え部62においてコイル21の端面と接する面と、静電シールド71、72と接する面との間を意味する。
【0032】
上部絶縁部材81は、
図3に示すように、円環状の板の一部を切り欠いたような扇状に形成されている。すなわち、上部絶縁部材81は、切り欠き部813を有しており、機器中身20を上方から見た平面視において、上部静電シールド71の相似形状となっている。そして、高圧側巻線211の口出し線213及び低圧側巻線212の口出し線214は、切り欠き部813を通して、図示しないブッシングに接続されている。
【0033】
この場合、上部絶縁部材81の外径はコイル21の外径よりも大きく、また、上部絶縁部材81の内径はコイル21の内径つまり鉄心挿入部215の内径よりも小さい。また、上部絶縁部材81は、
図6に示すように、外側曲げ部811及び内側曲げ部812を有している。外側曲げ部811は、上部絶縁部材81の径方向の外側部分を、コイル21の軸方向に沿って、コイル21とは反対側この場合上方へ曲げるようにして形成されている。内側曲げ部812は、上部絶縁部材81の径方向の内側部分を、コイル21の軸方向に沿って、コイル21とは反対側この場合上方へ曲げるようにして形成されている。
【0034】
この曲げ部811、812によって、上部絶縁部材81は、径方向に沿って切断した断面がコイル21の上端面とは逆側へ向かって開放された溝状、この場合上方に開放された溝状に形成されている。そして、コイル押え機構60の押え部62は、上部絶縁部材81の溝状の内側であって、平面視において上部絶縁部材81と重なる位置に設けられている。すなわち、上部絶縁部材81は、切り欠き部813を除き、平面視においてコイル21の径方向の内側及び外側へ延出した状態で押え部62を覆っている。
【0035】
下部絶縁部材82は、
図7に示すように、下部クランプ52に接続されたコイル押え機構60の押え部62の途中部分に設けられている。この場合、下部絶縁部材82は、上部絶縁部材81と同様に、上下2つに分割された押え部62に挟まれるようにして設けられている。この下部絶縁部材82は、切り欠き部813を有していない点及び配置が上下逆である点を除いて上部絶縁部材81と同一の構成である。
【0036】
下部絶縁部材82は、
図5に示すように、円環状に形成されている。この場合、下部絶縁部材82は、機器中身20を下方から見た底面視において、換言すれば機器中身20を上方から見た平面視において、下部静電シールド72と相似形状となっている。そして、下部絶縁部材82の外径はコイル21の外径よりも大きく、また、下部絶縁部材82の内径はコイル21の内径つまり鉄心挿入部215の内径よりも小さい。
【0037】
また、下部絶縁部材82は、
図7に示すように、上部絶縁部材81と同様に、外側曲げ部821及び内側曲げ部822を有している。外側曲げ部821は、下部絶縁部材82の径方向の外側部分を、コイル21の軸方向に沿って、コイル21とは反対側この場合下方へ曲げるようにして形成されている。内側曲げ部822は、下部絶縁部材82の径方向の内側部分を、コイル21の軸方向に沿って、コイル21とは反対側この場合上方へ曲げるようにして形成されている。
【0038】
この曲げ部821、822により、下部絶縁部材82は、径方向に沿って切断した断面がコイル21の下端面とは逆側へ向かって開放された溝状、この場合下方に開放された溝状に形成されている。そして、コイル押え機構60の押え部62は、下部絶縁部材82の溝状の内側であって、平面視において下部絶縁部材82と重なる位置に設けられている。すなわち、下部絶縁部材82は、平面視においてコイル21の径方向の内側及び外側へ延出した状態で押え部62を覆っている。
【0039】
以上説明した実施形態によれば、モールド変圧器10は、コイル21と、鉄心22と、クランプ51、52と、コイル押え機構60と、絶縁部材81、82と、を備える。コイル21は、高圧側巻線211及び低圧側巻線212を有し、巻線211、212の表面が絶縁部材で覆われた、いわゆるモールドコイルである。鉄心22は、コイル21の中心部に形成された鉄心挿入部215に通されている。クランプ51、52は、コイル21から突出した鉄心22の上下端部を挟み込んで取り付けられている。コイル押え機構60は、コイル21の軸方向の端面に接する押え部62を有し、クランプ51、52を支点にして押え部62をコイル21の軸方向の中心側へ押し付けることによりコイル21を押さえる機能を有する。そして、絶縁部材81、82は、電気絶縁性を有する部材で構成され、押え部62におけるコイル21の軸方向の途中部分に設けられ、平面視において押え部62を覆っている。
【0040】
これによれば、絶縁部材81、82は、押え部62の途中部分を絶縁しているとともに、平面視において押え部62を覆っているため、バリア効果が期待できる。特に、コイル21から静電シールド71、72に至る経路を絶縁部材81、82に沿ったものとすることで、沿面距離を大きく確保することができ、これにより沿面放電に対する大きなバリア効果を得ることができる。その結果、モールド変圧器10の絶縁耐力の向上を図ることができる。なお、ここでいうバリアとは、放電バリアとも称し、放電の発生や進展を阻止あるいは抑制し、フラッシュオーバー電圧を上昇させて、機器や設備の耐電圧特性を向上させるために放電路に設けられる絶縁物を指す。また、バリア効果とは、バリアによって耐電圧特性つまり絶縁耐力が向上することを指す。
【0041】
モールド変圧器10は、静電シールド71、72を更に備えている。静電シールド71、72は、導電性又は半導電性を有する部材で構成され、押え部62に対してコイル21とは逆側に設けられている。そして、絶縁部材81、82は、平面視において静電シールド71、72を覆っている。つまり、絶縁部材81、82は、その外径が静電シールド71、72の外形よりも大きく、またその内径が静電シールド71、72の内径よりも小さい円環状に形成されている。これによれば、コイル21から静電シールド71、72に至る沿面距離を更に大きく確保することができる。したがって、モールド変圧器10の絶縁耐力の更なる向上を図ることができる。
【0042】
絶縁部材81、82は、少なくとも外側曲げ部811、821を有している。外側曲げ部811、821は、絶縁部材81、82の径方向の外側又は内側のうち、高圧側巻線211に近い方に設けられており、コイル21の軸方向に沿って曲げて形成されている。これによれば、低圧側巻線212に比べて高電圧となりより高い絶縁耐力が必要となる高圧側巻線211側について、その高圧側巻線211から静電シールド71、72に至る沿面距離を更に大きく確保することができる。その結果、より高い絶縁耐力が必要となる高圧側巻線211側についての絶縁耐力を更に向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態の場合、絶縁部材81、82は、外側曲げ部811、821に加えて、内側曲げ部812、822も有している。これによれば、高圧側巻線211側だけでなく、低圧側巻線212側についても沿面距離を長く確保することができる。その結果、高圧側巻線211側だけでなく、低圧側巻線212側についても、絶縁耐力を更に向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態において、曲げ部811、812、821、822は、コイル21とは逆側へ向けて曲げられている。これによれば、例えばコイル21の下部において、コイル21の空隙24へ流れ込もうとする気体が、下部絶縁部材82のコイル21側において曲げ部821、822に巻き込まれてその流れを阻害されることが抑制される。また、例えばコイル21の上部において、コイル21の空隙24から流れ出そうとする気体が、上部絶縁部材81のコイル21側において曲げ部811、812に巻き込まれてその流れを阻害されることが抑制される。
【0045】
すなわち、この構成によれば、曲げ部811、812、821、822がコイル21側へ向けて曲げられた構成に比べて、コイル21を冷却するための気体の流れをより円滑にすることができる。その結果、本実施形態によれば、絶縁部材81、82を設けたことによる冷却効率の低下が抑制され、冷却性能を確保しつつ絶縁耐力の向上を図ることができる。
【0046】
なお、上記実施形態において、絶縁部材81、82は、必ずしも曲げ部811、812、821、822を有している必要はない。絶縁部材81、82は、例えば平坦な板状であっても良い。
また、外側曲げ部811、821と、内側曲げ部812、822とは、相互に逆方向に曲げられていても良い。
【0047】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれる内容と同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
図面中、10はモールド変圧器(モールド形静止誘導機器)、21はコイル、211は高圧側巻線、212は低圧側巻線、213は高圧側口出し線、214は低圧側口出し線、22は鉄心、51は上部クランプ(クランプ)、52は下部クランプ(クランプ)、60はコイル押え機構、62は押え部、71は上部静電シールド(静電シールド)、72は下部静電シールド(静電シールド)、81は上部絶縁部材(絶縁部材)、811は外側曲げ部(曲げ部)、812は内側曲げ部(曲げ部)、82は下部絶縁部材(絶縁部材)、821は外側曲げ部(曲げ部)、822は内側曲げ部(曲げ部)、を示す。