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特許7159055ヒト神経細胞及びグリア細胞の機能的ネットワークを形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ヒト神経細胞及びグリア細胞の機能的ネットワークを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20221017BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20221017BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20221017BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20221017BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221017BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12N5/079
C12N5/0797
C12N5/10
C12N5/077
C12Q1/02
G01N33/50 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018560221
(86)(22)【出願日】2017-05-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 DE2017100408
(87)【国際公開番号】W WO2017198258
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】102016109068.9
(32)【優先日】2016-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz-Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D-01069 Dresden,Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】518402200
【氏名又は名称】ドイチェス ツェントラム フュア ニューロデジェネラティブ エルクランクンゲン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】パパディミトリウ,クリストス
(72)【発明者】
【氏名】キジル,カガン
(72)【発明者】
【氏名】フロイデンベルク,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルナー,カルステン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509913(JP,A)
【文献】Lab on a Chip, 2013, Vol.13, pp.2040-2046
【文献】Advanced Materials, 2013, Vol.25, pp.2606-2610
【文献】Nature, 2014, Vol.515, pp.274-278
【文献】Biomaterials, 2014, Vol.35, pp.1420-1428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト神経細胞とヒトグリア細胞のヒト神経三次元機能的ネットワークを形成する方法であって、
前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞を、ゲル成分であるポリエチレングリコール(PEG)及びヘパリンを含有する合成ヒドロゲル系に導入することであって、前記合成ヒドロゲル系は三次元ヒドロゲルの形成のためのものである、導入することと、
前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞を、前記合成ヒドロゲル系で培養することとであって、それによって、前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞のヒト神経三次元機能的ネットワークを形成する、培養することと、を含み、
前記導入することにおいて、前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞を、PEG又はヘパリンのいずれかである前記ゲル成分の1つと事前に混合して、前記ゲル成分と共に前記合成ヒドロゲル系に導入し、それによって、三次元ヒドロゲルの形成中に前記合成ヒドロゲル系中に前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞が既に存在する、方法。
【請求項2】
前記ヒト神経細胞が、ヒトグリア細胞と共培養されることを特徴とし、かつ前記ヒト神経細胞が、ヒト神経幹細胞及び前駆細胞である、又はヒト不死化神経前駆細胞株に由来する、又は中脳から得られた初代ヒト神経前駆細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト神経細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)由来のヒト神経幹細胞及び前駆細胞であるか、又は初代ヒト皮質細胞に由来することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
形成された前記ヒト神経三次元機能的ネットワークの機能性が、成熟神経皮質マーカーが発現していることについて、神経伝達物質に対する応答性について、及び電気生理学的活性について実証可能であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記合成ヒドロゲル系が、スターPEGを含有するスターPEG-ヘパリンヒドロゲル系であり、ここで、スターPEGは、多アームポリエチレングリコールであり、
前記スターPEG-ヘパリンヒドロゲル系が、酵素的に切断可能なペプチド配列を介して架橋され、それによって、前記スターPEG-ヘパリンヒドロゲル系が、切断可能であり、かつ局所的に再構成可能であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記三次元ヒドロゲルが形成された前記合成ヒドロゲルのヒドロゲルマトリックスが、チオール末端スターPEG-ペプチドコンジュゲートとマレイミドによって官能化されたヘパリンとの共有結合架橋によって形成され、前記ヒドロゲルマトリックスが、マイケル付加によって架橋されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スターPEG-ヘパリンヒドロゲル系のヒドロゲルマトリックスが、自己組織化によってヘパリン及び共有結合スターPEG-ペプチドコンジュゲートから非共有結合的に形成され、前記共有結合スターPEG-ペプチドコンジュゲートが、ポリマー鎖に結合された2つ以上のペプチドのコンジュゲートを含み、前記ペプチド配列が、繰り返しジペプチドモチーフ(BA)nを含み、式中、Bが正に荷電した側鎖を有するアミノ酸であり、Aが、アラニンであり、nが、5~20の数であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記三次元ヒドロゲルが形成された前記合成ヒドロゲル系が、貯蔵弾性率によって特徴付けられる、可変機械的性質を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記貯蔵弾性率が、300~600パスカルの範囲内にあることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記合成ヒドロゲル系が、シグナル伝達分子及び/又は細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質に由来する機能性ペプチド単位で修飾されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞が、ヒト間葉系間質細胞及びヒト内皮細胞と一緒に共培養され、これらの細胞が、前記ヒト神経細胞とヒトグリア細胞と共局在化することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって得られた、ニューロンネットワークとして機能する、前記合成ヒドロゲル系内に形成された状態にあるヒト神経三次元機能的ネットワーク。
【請求項13】
ニューロンネットワークの形成を監視するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項14】
ニューロンネットワークの形成をリアルタイムで監視するための、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ニューロンネットワーク内の神経細胞の細胞増殖、長さ、分岐の数及び密度、並びに/又は結合性、並びに/又は電気生理学的活性の定量分析が行われることを特徴とする、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
ヒトの脳におけるニューロン及び/又はニューロンネットワークの形成に影響を及ぼす疾患のモデリングのための、請求項13~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
疾患関連タンパク質凝集体によって引き起こされる神経毒性のモデリング及び/又は神経幹細胞可塑性の変化のための、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
神経活動及び/又はネットワーク形成に影響を及ぼす分子及び/又は活性成分を試験するための、請求項13~17のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以降、ニューロンネットワークとも呼ばれる、ヒト神経細胞及びグリア細胞の機能的ネットワークを形成する方法に関する。この方法は、ニューロンネットワークの形成の監視に使用することができ、これに関連して、特に、ヒトの脳におけるニューロン及び/又はニューロンネットワークの形成に影響を与える疾患のモデリングに使用することができる。
【背景技術】
【0002】
D.Y. Kim et. al., A three-dimensional human neural cell culture model of Alzheimer’s disease, Nature 2014, 515, 274-278による最近の研究は、0.3mm以下の全軸平面を有する3次元薄層培養物を提供するために、BD BiosciencesのMatrigel(登録商標)に埋め込まれた遺伝子組換えヒト細胞を発表している。分化したニューロンは、4~12週間生存可能で機能的であった。Dawai Zhang et. al., A 3D Alzheimer’s disease culture model and the induction of P21-activated kinase mediated sensing in iPSC derived neurons, Biomaterials 2014 Feb; 35 (5), 1420-1428による同様の研究は、ヒト人工多能性幹細胞に由来する神経上皮幹細胞株(It-NES)系統AF22の使用及びそれらの神経系統への分化を報告した。さらに、BD BiosciencesのPuraMatrix(登録商標)から調製して、10μg/mLのラミニンで修飾されたヒドロゲルを使用した。この培養系は、自己組織化アルギニン-アラニン-アスパラギン酸-アラニン(RADA1文字コード)ペプチドによる非共有相互作用によって架橋されたヒドロゲル系に基づいている。ヒドロゲルの機械的性質は、比較的弱い非共有結合相互作用のために限定された範囲でのみ調整可能であり、特定の酵素に感受性のある切断部位も存在しない。BD-PuraMatrix(登録商標)では細胞の分離が不可能であるため、この培養系は、細胞応答微小環境を提供しない。埋め込まれた細胞の増殖に必要なヒドロゲルの再構成は、ペプチドの非特異的分解によって、従ってヒドロゲルマトリックス全体の分解によってのみ達成することができる。従って、Zhangらによる研究によると、細胞の3D培養は、非常に短い期間、例えば2~4日間しか行うことができない。Zhangによる刊行物において、「長期培養は、材料の低い剛性により技術的に困難である」と明確に指摘されている。加えて、動物源から得られたラミニンの混合物の結果として、不純物のリスク及び製品の品質におけるバッチごとの変動を受ける十分に定義されていないタンパク質が、調製(方法)の再現性に強い疑念を生じさせ得るアッセイの構成要素となる。さらに、材料の長いゲル化時間(ゲル形成時間)(20~30分)の結果として、埋め込まれた細胞の局所的な分離の影響(demixing effect)及び不均一性が生じ得る。
【0003】
S. Koutsopoulos et. al., Long-term three-dimensional neural tissue cultures in functionalized self-assembling peptide hydrogels, Matrigel and Collagen I, Acta Biomater. 2013, Feb; 9 (2); 5162-5169は、マウス神経細胞を培養した、PuraMatrix(登録商標)に類似した非細胞応答性自己組織化ペプチドの調製を開示している。JY Sang et. al., Simple and Novel Three Dimensional Neuronal Cell Culture Using a Micro Mesh Scaffold, Exp Neurobiol. 2011 Jun; 20 (2); 110-115による研究は、足場として合成されたナイロン繊維を使用する3次元神経培養を記載している。神経細胞をアガロースと混合し、次いで、ナイロン繊維の上にプレーティングする。このような技術は、発達中の脳のインビボ環境を再生するのに適していない細胞応答環境で細胞がカプセル化される人工環境を提供する。
【0004】
米国特許第6,306,922A号及び同第6,602,975A号は、生分解性である光重合ヒドロゲルを記載している。しかしながら、UVスペクトルに近い波長での重合は、フリーラジカルの生成により、細胞培養系において細胞死及びDNA突然変異を引き起こし得る。重合は通常の実験室条件下でUV光なしで実施されるため、本発明による系では、UV波長に起因する細胞損傷は予期されない。さらに、UV誘導光重合が排除されるため、重合を生じさせる特殊な機器を必要とせず、高度に特殊化された実験室以外での本明細書に記載のヒドロゲル系の使用がはるかに容易である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ヒト起源の細胞を用いるインビトロ系又は方法におけるモジュールを開発することにあり、この系又は方法は、上述の先行刊行物と比較して実質的に改善され、かつ3次元マトリックスにおいて機能的なニューロンネットワークを形成する。このような系の最も重要な評価基準は、中枢神経系の神経組織にインビボ状況を可能な限り再現することを目的としたニューロンネットワークの質である。さらに、この系は、取り扱いが容易であり、例えば移植手順であっても、高度に特殊化された実験室を用いずに、使用についてより安全な見通しを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載のヒト神経細胞及びグリア細胞の機能的ネットワークを形成する方法の形態で達成される。さらなる開発は、従属請求項に規定されている。さらなる請求項は、本方法の使用に関する。
【0007】
本発明によると、ヒト神経細胞及びグリア細胞の機能的ネットワークを形成するための方法において、細胞が、ポリエチレングリコール(PEG)及びヘパリンの成分を含有する合成ヒドロゲル系に導入され、その中で培養された。これに関連して、細胞は、PEG又はヘパリンのいずれかであるゲル成分の1つと共にPEG-ヘパリンヒドロゲル系に導入され、この細胞が事前に混合され、この結果、3次元ヒドロゲルの重合中にヒドロゲル系中にこの細胞が既に存在する。
【0008】
有利には、この方法では、ヒト神経細胞は、グリア細胞と共培養され、このヒト神経細胞は、ヒト神経幹細胞及び前駆細胞である、又はヒト不死化神経前駆細胞株に由来する、又は中脳から得られた初代ヒト神経前駆細胞である。
【0009】
有利な実施形態によると、ヒト神経細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来のヒト神経幹細胞及び前駆細胞であるか、又は初代ヒト皮質細胞に由来する。
【0010】
形成されたネットワークの機能は、特に、成熟神経皮質マーカーの発現、例えばカルシウム流入の形態の神経伝達物質に対する応答性について、及び電気生理学的活性について説明可能である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によると、PEG-ヘパリンヒドロゲル系は、多アームポリエチレングリコール(スターPEG)含有スターPEG-ヘパリンヒドロゲル系であり、このスターPEG-ヘパリンヒドロゲル系は、酵素的に切断可能なペプチド配列、好ましくはマトリックスメタロプロテイナーゼによって切断可能なペプチド配列(MMPペプチド)を介して架橋され、結果として、このスターPEG-ヘパリンヒドロゲル系は、切断可能であり、かつ局所的に再構成可能である。4アームポリエチレングリコール(4アームスターPEG)は、多アームポリエチレングリコールとして特に好ましい。
【0012】
一実施形態では、ヒドロゲルのヒドロゲルマトリックスは、チオール末端スターPEG-ペプチドコンジュゲートとマレイミド、好ましくは4~6個のマレイミド基によって官能化されたヘパリンとの共有結合架橋によって形成される。これに関連して、ヒドロゲルマトリックスは、マイケル付加によって架橋される。
【0013】
あるいは、スターPEG-ヘパリンヒドロゲル系のヒドロゲルマトリックスは、自己組織化によってヘパリン及び共有結合スターPEG-ペプチドコンジュゲートから非共有結合的に形成される。これに関連して、スターPEG-ペプチドコンジュゲートは、ポリマー鎖に結合された2つ以上のペプチドのコンジュゲートを含む。ペプチド配列は、繰り返しジペプチドモチーフ(BA)を含み、Bは、正に荷電した側鎖を有するアミノ酸であり、Aは、アラニンであり、nは、5~20の整数、好ましくは5又は7である。
【0014】
本発明の特に有利な実施形態によると、ヒドロゲルは、貯蔵弾性率によって特徴付けられる可変機械的性質を有する。好ましくは、貯蔵弾性率は、300~600パスカルの範囲内で変更可能である。貯蔵弾性率の範囲は、例えば、2つの材料の成分の混合比率を調整することによって、すなわち架橋度を変更する(ヘパリンに対するPEGのモル比を変更すると同義)ことによって、又は材料成分の固形分含有量、すなわちポリマー出発材料の濃度を変更することによって変更することができ、好ましくは振動レオメトリーによって決定される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、PEG-ヘパリンヒドロゲル系は、シグナル伝達分子及び/又は細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質に由来する機能性ペプチド単位、好ましくは接着ペプチドで修飾される。
【0016】
本発明のさらなる実施形態によると、ヒト神経細胞及びグリア細胞は、ヒト間葉系間質細胞及び内皮細胞と一緒に共培養され、これらの細胞は、ヒト神経細胞及びグリア細胞と共局在化する。
【0017】
この方法では、有利に、遺伝子組換えされていないヒト神経幹細胞を使用することが可能である。細胞は、ヒドロゲル、好ましくはスターPEGヘパリンヒドロゲル中で自然に成熟して、神経マーカータンパク質に対して陽性である完全に分化した神経細胞のサブタイプ、例えばCTIP2+、SATB2+、及びTAU+を形成する。さらに、培養物は、PEG-ヘパリンヒドロゲルを使用すると、10週間を超えて生存し得る。
【0018】
本発明による方法では、急速なヒドロゲル形成、すなわち30秒から最大2分のヒドロゲル形成により、不都合な局所的な分離の影響及び不均一性が回避される。急速かつロバストなヒドロゲル形成は、本発明による方法の主な利点である。
【0019】
本発明のさらなる態様は、本発明による方法によって得ることができるヒト神経の3次元機能的ネットワークに関する。この方法の使用の結果として、個々のニューロンを3次元ネットワークに連結することができ、これらのニューロンは、生理学的に関連する細胞機能を示した。例えば、0.18mmの体積では、200を超えるサブネットワークが発生し、これらのサブネットワークは、互いに連結されていた。これに関連して、各サブネットワークは、合計12,000を超える分岐を有していた。本発明による3次元細胞培養系では、後に例示的な実施形態で詳述されるように、強いネットワークの形成、並びに分化したニューロン及び共局在化した異なるタイプのグリア細胞を伴う神経分枝を検出することが可能であった。
【0020】
ヒドロゲル系を使用する本発明による方法は、以下を可能にする:
・ヒト3次元ネットワーク構造、並びに特に形態、細胞型、及び分化に関するヒトニューロンネットワークの機能の再現、
・細胞培養物の安定性が保証され、この結果、細胞培養物がより長い培養期間にわたって生存し、特に長期間の分析中に安定性を維持する、
?ヒドロゲルマトリックス、生体分子組成、及び貯蔵弾性率などの物理的特性の正確な調節又は調整、この結果、様々な外因性細胞誘導性シグナル及びシグナル伝達物質、例えば可溶性因子、細胞外マトリックスの成分、及び機械的性質を、ニューロンの発達及び疾患のモデリングについて試験することができる、
・インビボ条件下と同様の、形成されたニューロンネットワークの活性成分に対する応答、従って費用のかかる動物実験モデルに取って代わる可能性の提供、加えて、より信頼できるアッセイ方法の治療用活性成分も提供する、
・ニューロン細胞の電気生理学的活性及び膜チャネル活性の決定、
・3次元ニューロンネットワークにおけるシグナル伝達線及び神経回路を研究することができるようにするための、例えば高解像度画像及び記録技術を用いた個々の細胞の分析、
?特にニューロンネットワークの発達過程のリアルタイム分析、
・臓器模倣薬(organ mimetic)を開発するための、例えばプリンティングなどのアレイ技術及び帯状不均一性(zonal heterogeneity)、
・患者に由来する細胞を用いたオーダーメイド医療の有用性、
・インビボ様条件下での、ニューロンネットワーク形成及び血管形成の相互作用を研究するための内皮細胞との共培養、
・単一細胞アッセイ、インビトロ細胞増殖、及び移植目的のための必要な個々の細胞の取り出し、
・非毒性の生分解性材料の移植、
?10週間を超える長期培養、
・ニューロンネットワークの変化及び進行並びに細胞数の定量化。
【0021】
本発明のさらなる態様は、ニューロンネットワークの形成を監視するための本発明による方法の使用に関する。従って、特に3次元ヒドロゲル系における細胞培養物が透明であるため、ニューロンネットワーク形成のリアルタイム監視が可能である。
【0022】
本発明による方法を用いたネットワーク形成の監視は、ニューロンネットワーク内の神経細胞の細胞増殖、長さ、分岐の数と密度、及び/又は結合性、及び/又は電気生理学的活性の定量分析を可能にする。
【0023】
すなわち、ヒトの脳におけるニューロン及びニューロンネットワークの形成に影響を及ぼす疾患、神経系の発達障害、又は神経変性疾患のモデリングも可能である。
【0024】
これに関連して、この方法の特に有利な使用は、疾患関連タンパク質凝集体、例えばアミロイドβ42によって引き起こされる神経毒性のモデリング及び/又は神経幹細胞の可塑性の変更における使用である。
【0025】
本発明による方法を用いたネットワーク形成の監視はまた、神経活動及び/又はネットワーク形成に影響を与える分子及び/又は活性成分又は薬剤の試験にも適している。
【0026】
本発明の実施形態のさらなる詳細、特徴、及び利点は、添付の図面を参照した例示的な実施形態の以下の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、ヒドロゲルを調製するための例示的な一実施形態の絵図を示している。
図2図2は、3週間にわたるニューロンネットワーク成熟の顕微鏡写真を示している。
図3図3は、高密度の神経細胞及びグリア細胞のネットワークを含む3週間経過したゲルの広範な3次元表現を示している。
図4図4は、シナプトフィジン(Syn)及びアセチル化チューブリン(aTub)に対するカプセル化ニューロンの免疫反応性を示している。
図5図5は、神経伝達物質グルタミン酸の添加前後の全蛍光強度の測定を示している。
図6図6は、様々なマーカー/色素を使用した3週間経過した細胞を含むヒドロゲルの三重染色を示している。
図7図7は、細胞培養の開始から1週間後の、埋め込まれた細胞と合成ヌクレオシドブロモデオキシウリジン(BrdU)とのインキュベーションの結果を示している。
図8図8は、新たに形成されたニューロンに由来する様々なニューロンのサブタイプの形成を示している。
図9図9は、ヒドロゲル中に埋め込まれ、増殖により新たに形成された、3週間後の神経幹細胞及び前駆細胞を示している。
図10図10は、ヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)の成熟分化状態のさらなる証拠としてのニューロフィラメントの発現を示している。
図11図11は、初代ヒト皮質細胞(PHCC)におけるアミロイドβ42ペプチドの影響を研究するためのPEG-ヘパリンヒドロゲルの調製の絵図を示している。
図12図12は、ニューロンの細胞質マーカータンパク質としてのアセチル化チューブリンに対する抗体、ペプチド凝集のためのマーカーとしてAβ42、及びグリア細胞の細胞質マーカーとしてGFAPを用いたヒドロゲルの三重免疫染色を示している。
図13図13は、Aβ42(A)を用いず、細胞内Aβ42(A’)及び細胞外Aβ42(A’’)を用いたヒドロゲル中の骨格結合ニューロン経路の最大強度投影を示している。
図14図14は、(A)人工多能性幹細胞(iPSC)及び(B)初代ヒト皮質細胞(PHCC)に由来する、ヒドロゲル中に含まれるヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)の、抗体を用いたアセチル化チューブリン(Acet. Tubulin、画像A/B)及びGFAP(画像A’’/B’’)での二重免疫染色、及び核染色(DAPI、画像A’/B’)を示している。
図15図15は、顕微鏡画像及び定量的評価によるiPSC由来のヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)(A)又はPHCC由来のヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)(B)のニューロン突起の最大強度投影の比較を示している。
図16図16は、Aβ42毒性に対するインターロイキン4の効果の研究のための、スターPEG-HEPゲル及びその中に埋め込まれたPHCCの比較顕微鏡写真を示している。
図17図17は、グリア細胞集団(GFAP)、ニューロンネットワーク形成(Acet.Tubulin)、及び幹細胞集団(SOX2)、及び神経可塑性の能力の比較のための、埋め込まれたPHCCを含むMatrigel及びスターPEG-ヘパリンヒドロゲルの顕微鏡写真を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、ヒドロゲルの調製のための例示的な一実施形態の概略図を示している。前記図面によると、初代ヒト皮質細胞(PHCC)が使用される。これらは、最初にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でヘパリンと一緒にされる。ヘパリン以外のヒドロゲルのさらなる成分として、前記図面では、4アームポリエチレングリコール(スターPEG)と酵素的に切断可能なペプチドとのコンジュゲートが使用され、このPEGは、ペプチド分子と各アームでコンジュゲートしている。前記成分は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でヘパリン及び細胞と一緒にされる。ヒドロゲルのヒドロゲルマトリックスは、チオール末端(システイン側鎖、略してcys)スターPEG-ペプチドコンジュゲートとマレイミド官能化ヘパリンとの共有結合架橋によって形成され、このヒドロゲルマトリックスは、マイケル付加によって架橋されている。
【0029】
いくつかの以下の図面はそれぞれ、顕微鏡画像を示しており、どの図面でも、右下に記号を確認することが可能である。前記記号は、上方から又は側方から円筒形のヒドロゲルを見ている目である。
【0030】
上方を見ている目は、記号によって印が付けられた画像がz軸上の一連の画像の最大強度投影の画像であることを意味する。
【0031】
側方から見ている目は、記号によって印が付けられた画像がx軸上の一連の画像の最大強度投影の画像であることを意味する。
【0032】
図2は、3週間の期間にわたるニューロンネットワークの成熟を示している。細胞質グリア細胞マーカーGFAP(「グリア線維性酸性タンパク質」の名称に由来)の染色により、グリア細胞の細胞質を標識し、この細胞質が、ニューロンと比較して増加したことを明らかにした。ニューロンの細胞質は、アセチル化チューブリン(aTub)で染色される。画像A~A’’はそれぞれ、埋め込みの1週間後の埋め込まれた細胞の状態のz軸を通る最大強度投影の典型的な画像を示している。画像B~B’’はそれぞれ、埋め込みの2週間後の埋め込まれた細胞の状態のz軸を通る最大強度投影の典型的な画像を示している。画像C~C’’はそれぞれ、埋め込みの3週間後の埋め込まれた細胞の状態のz軸を通る最大強度投影の典型的な画像を示している。第1行では、GFAP及びaTub陽性細胞の組み合わせ染色を確認することができる。第2行及び第3行では、それぞれの場合にマーカーaTub及びGFAPに陽性反応する細胞を確認することができる。
【0033】
図3は、高密度の神経細胞及びグリア細胞のネットワークを含む3週間経過したゲルの広範な3次元表現を示している。GFAPで染色されたグリア細胞は、アセチル化チューブリン(aTub)で染色されたニューロンと密接に相互作用し、インビボ状況で生じる現象である。細胞核の色素4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(略してDAPI)で二本鎖核DNAを標識する。DAPI標識細胞は、評価のために試料を固定した時点で生存していた。図3の画像Aは、aTub及びDAPIに対して二重陽性であるニューロンの広範なネットワークを示している。画像Bは、GFAP及びDAPIに対して二重陽性であるグリア細胞の広範なネットワークを示している。
【0034】
図4は、機能的なニューロンにおいてインビボでも生じるように、埋め込まれたニューロンの細胞間接合部及びシナプスボタンにおいて明らかに高度な免疫反応性を示している。これに関連して、画像A~A’及び画像B~B’は:アセチル化チューブリン(aTub)及びシナプトフィジン(Syn)で二重染色された細胞を示している。DAPIで細胞核を染色する。画像Aに示されているように、aTubは、矢印で明示されているニューロン1及び2の突起を染色し、円はニューロン1と2の接合部を示している。画像A’では、シナプトフィジン(Syn)染色は、画像Aで標識されたニューロン1及び2の接合部における複数のシナプス点として現れる。画像Bは、シナプスボタンに当接しているニューロン突起を高倍率で示している。画像B’は、画像Bのシナプスボタンがシナプトフィジン(Syn)とどのように陽性反応するかを示している。
【0035】
図5は、神経伝達物質グルタミン酸の添加の場合の総蛍光強度の測定結果を示している。これに関連して、画像A1は、画像A(A2)の細胞1、2、及び3によって放出された、神経伝達物質グルタミン酸の添加の前(-グルタミン酸)と後(+グルタミン酸)の総蛍光強度の測定結果を示している。画像A2の細胞1、2、3は、添加グルタミン酸に対する応答として細胞が細胞内カルシウム流入を示したときに強い蛍光シグナルを生成するカルシウムセンサーGcampf6でトランスフェクトされた。このために、増加した蛍光シグナルが、A1のグラフ上で観察することができ、これは、インビボ状況でも生じるように、トランスフェクト細胞が神経伝達物質の存在下で反応することを意味している。画像A2の細胞は、神経伝達物質グルタミン酸の添加前にPEG-ヘパリンヒドロゲル系に埋め込まれている。画像A3及び画像A4は、PEG-ヘパリンヒドロゲル系に埋め込まれたGcampf6トランスフェクト細胞を高倍率で示している。画像A3は、グルタミン酸の添加の前の細胞を示している。画像A4は、グルタミン酸の添加後に、カルシウムイオンの流入により強いシグナルが測定されることを示している。
【0036】
図6は、ニューロン細胞質マーカーβ-III-チューブリン(TUBB3)、細胞質グリア細胞マーカーGFAP及びDNA色素4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)に対する免疫反応性を有する3週間経過した細胞含有ヒドロゲルの三重染色を示している。クラスター化された細胞の様々な形態学的特性:画像の左上における明確に配向された細胞突起、及び左中央におけるグリア細胞と混合された格子ニューロンネットワークを識別することが可能である。画像A’~A’’’は、TUBB3、GFAP、DAPIの光チャネルの個々の画像を示している。
【0037】
PEG-ヘパリンゲルに埋め込まれた細胞の培養の開始から1週間後に、前記細胞を合成ヌクレオシドブロモデオキシウリジン(BrdU)と共に3時間インキュベートした。結果は、図7で確認することができ、矢印はそれぞれ、染色された細胞を指している。画像Aは、抗BrdU抗体で染色された細胞(細胞核の染色)を示している。画像A’は、抗BrdU抗体で染色された細胞も、細胞質ニューロンマーカータンパク質アセチル化チューブリン(aTub)に対して陽性であることを示している。図7は、BrdU染色を用いて、ヒドロゲルに埋め込まれた細胞が増殖し、ニューロン同一性(Acet.Tub.染色細胞)を有することを示している。
【0038】
図8は、様々なニューロンのサブタイプが、ヒドロゲルに埋め込まれて、その中で新たに形成されたニューロンから生じ、このサブタイプは、ニューロン細胞の分化の過程でインビボでも生じる細胞型に類似していることを示している。これに関連して、画像Aは、ヒドロゲル系中の細胞が、「Achaete-scuteファミリーbHLH転写因子1」、ASCL1という名称でも知られている神経前駆細胞マーカーMASH1、及びダブルコルチン/DCXに対して二重陽性であることを示している。画像A’及び画像A’’は、DCX及びMASH1染色のための個々の光チャネルを示している。
【0039】
図9は、ヒドロゲルに埋め込まれて、増殖により新たに生成される神経幹細胞及び前駆細胞が、3週間以内に成熟して、成熟皮質ニューロンのマーカータンパク質、例えばCTIP2及びSATB2を発現する細胞を生成することを示している。
【0040】
これに関連して、画像Aは、ヒドロゲル系中の細胞が、「B細胞CLL/リンパ腫11B」、BCL11bという名称としても知られている核皮質マーカーCTIP2、及びニューロン細胞質マーカーTUBB3に対して二重陽性であることを示している。
【0041】
これに関連して、画像A’の矢印は、TUBB3陽性ニューロンのCTIP2陽性細胞核を指している。画像Bは、細胞が、その名称が「特殊なATリッチ配列結合タンパク質2」の略語である核皮質マーカーSATB2、及びニューロン細胞質マーカーTUBB3に対して二重陽性であることを示している。画像B’では、矢印は、TUBB3陽性ニューロンのSATB2陽性細胞核を指している。
【0042】
図10は、細胞が、細胞核色素(cell nucleus dye)DAPI、及び成熟ニューロンで発現される細胞質ニューロンタンパク質ニューロフィラメントに対して二重陽性であることを明らかにしている。これに関連して、画像A’は、画像AのDAPI染色のための光チャネルを示している。ニューロフィラメントの発現は、PEG-ヘパリンヒドロゲル中への埋め込み及び成熟後のヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)の成熟分化状態のさらなる証拠である。
【0043】
図11は、初代ヒト皮質細胞におけるアミロイドβ42ペプチド(Aβ42)の効果を研究するためのPEG-ヘパリンヒドロゲルの調製の絵図を含む。ステップ1で、第2継代細胞を、5×10/cmの密度でペトリ皿に入れた。Aβ42神経毒性モデルのために、第2継代細胞を、同様に5×10/cmの密度でペトリ皿に入れ、2μM Aβ42と共に48時間インキュベートした(ステップ1’)。
【0044】
48時間後に、ステップ2で、細胞を回収して8×10細胞/mlの濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。次いで、ステップ3で、同量のヘパリン溶液(PBS中、45μg/μl)を添加し、これら2つを4×10細胞/mlの最終濃度になるまで混合した。PEG-ヘパリンヒドロゲル系に埋め込まれた細胞の細胞外環境をAβ42で被覆する場合には、ステップ3’で、40μMの濃度のAβ42ペプチドの混合物を添加した。
【0045】
ゲルを投入するために、ステップ3で、細胞溶液、PBS、及びヘパリンを同量のスターPEGと混合した。この段階で、ステップ3’に従って投入されたゲルは、20μMの濃度の細胞外Aβ42を有していた。全てのヒドロゲル中の細胞の濃度は2×10細胞/mlである。ゲル形成反応には2分かかる。投入後、ゲルを、各ウェルが培養培地を含む24ウェル培養プレートに入れた。ゲルを培養してインキュベートするために、37℃において5%CO/95%空気の比率を使用した。ゲルは、所望の時点まで培養することができる。
【0046】
図12は、ニューロン細胞質マーカータンパク質としてのアセチル化チューブリンに対する抗体、ペプチドの凝集のマーカーとしてのAβ42、及びグリア細胞の細胞質マーカーとしてのGFAPを用いたヒドロゲルの三重免疫染色を示している。図12は、画像A~A’’ではAβ42を含まず、画像B~B’’では細胞内Aβ42を含み、かつ画像C~C’’では細胞外Aβ42を含む、3週間経過したゲルのy軸を通る最大強度投影の画像を示している。画像の第1の行、すなわち画像A~Cは、形成されたニューロンネットワークを強調するアセチル化チューブリンでの染色のためのチャネルを示している。画像(A’~C’)の第2の行は、行1からのニューロンネットワーク及び形成されたAβ42アミロイド凝集体を示し、このAβ42アミロイド凝集体は、ゲルの全容積内に広がっている。有益なことは、Aβ42凝集体の存在下でのニューロンネットワークの喪失であり、Aβ42凝集体を含有しない試料(画像A’を参照)と比較して、画像B’及び画像C’を参照されたい。行3は、GFAP染色のためのチャネルを示している。Aβ42凝集体に起因する細胞の喪失及びニューロンネットワークの喪失の定量化は、以下の図13に示されている。
【0047】
図13は、Aβ42(A)を含まず、細胞内Aβ42(A’)を含み、かつ細胞外Aβ42(A’’)を含む、ゲル中の骨格結合ニューロン経路の最大強度投影を示している。
【0048】
画像A-A’’は、全ての場合、すなわち図12のAβ42(A)を含まない対照の場合、細胞内Aβ42(A’)を含む対照の場合、及び細胞外Aβ42(A’’)を含む対照の場合のaTub陽性細胞のためのチャネルを示している。図13の画像Bは、Aβ42を含まない、細胞内Aβ42を含む、細胞外Aβ42を含むゲル中の平均細胞数の定量化を示している。画像Cは、Aβ42を含まない、細胞内Aβ42を含む、細胞外Aβ42を含むゲル中の平均ネットワーク数の定量化を示している。画像Dは、Aβ42を含まない、細胞内Aβ42を含む、及び細胞外Aβ42を含むヒドロゲル中のネットワーク当たりの平均分枝数の定量化を示している。
【0049】
ヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)によってニューロンネットワークが形成される培養条件を、MMP切断可能部位を含有する3次元PEG-ヘパリンヒドロゲルを調製することによって作り出した。この変更により、細胞がその環境を再構成することができる。ヒドロゲル合成は、Tsurkan M.V. et al. Defined Polymer-Peptide Conjugates to Form Cell-Instructive starPEG-Heparin Matrices In Situ. Advanced Materials (2013)に記載されている。
【0050】
重合段階の間に、細胞が前記PEG-ヘパリンヒドロゲル中に導入されると、驚くべきことに、細胞の導入のちょうど1週間後に、このゲルが、まばらに分散した、3D分岐形態を有するGFAP陽性グリア細胞を含むことが観察される。細胞培養の2週間後に、アセチル化チューブリンに対して陽性であるニューロンの拡散及び配置がクラスターで観察される。培養の3週間後に、細胞培養物は、グリア細胞が散在するニューロンの広範囲の複雑なネットワークを示している。さらに、NSPCの3D培養物を、神経ノード及び節点に蓄積するシナプスマーカーシナプトフィジンで染色可能であり、2D培養物と比較して、より成熟したシナプス結合を示唆している。これとは対照的に、神経細胞及びグリア細胞を含む2D培養物では、シナプトフィジン染色をシナプスのクラスターで観察することは不可能である。
【0051】
3Dヒドロゲル中のニューロンはまた、グルタミン酸などの神経伝達物質に応答性であり、これは、CMVプロモーター駆動カルシウムセンサーを含有するプラスミドを発現するGCamP6fのトランスフェクションによって決定される、細胞内カルシウムレベルの増加によって実証することができる。これらの結果は、NSPCの3D培養物が、3次元配置においてニューロン及びグリア細胞の広範なネットワークを生成できることを示している。CTIP2及びSATB2などのより古い皮質サブタイプマーカー、前神経マーカーMash1及びDCX、並びに成熟ニューロンマーカー神経フィラメント(分化したニューロンのマーカータンパク質)もNSPC培養物中で発現され、3D培養物中に存在する神経細胞が、支配的な条件下で発達して成熟ニューロンを生成することを示唆している。
【0052】
アルツハイマー病に関連する、誤って折り畳まれたタンパク質であるアミロイドβ42ペプチドもまた、ニューロンネットワークに対するその毒性及び影響をモデリングするために使用されてきた。培養のための3次元ヒドロゲル系を使用する本発明による方法は、このようにして、神経変性疾患のモデルとして使用することもできる。アミロイドβ42の蓄積が、インビボ及びインビトロでのニューロンネットワークの形成及びニューロンの接続を阻害することを示すことが可能である。アミロイドβ42(Aβ42)が、ニューロンネットワークに影響を与えるか否かを調べるために、ヒドロゲル系に導入する前に細胞をAβ42で処理して培養物を調製した(細胞内Aβ42)、又は細胞の導入の前にヒドロゲルをAβ42と共にインキュベートして培養物を調製した(細胞外Aβ42)。広範なネットワーク形態の形成を観察することが可能であった対照ゲルと比較して、細胞内Aβ42及び細胞外Aβ42によるネットワークの形成には有意な障害が存在した。対照ゲルと比較して、Aβ42処理ゲルは、細胞及びネットワークの数が著しく減少している。加えて、たとえ一部のネットワークがAβ42で処理されたゲルで形成されたとしても、前記ネットワークが、ネットワーク当たり有意に少ない数の分岐を含むことを観察することができる。さらに、Aβ42処理は、ヒトの脳と同様に軸索のジストロフィーを引き起こすことが判明した。これらの結果は、3Dゲルが、神経幹細胞又は神経前駆細胞の神経性能力(neurogenic capacity)にかかわらず、ニューロンネットワークの形成に対して毒性効果を与えるAβ42のヒト病態生理を再現できることを示している。さらに、3次元ヒドロゲル系は、たとえAβ42の存在下でもヒト幹細胞の神経性能力及びニューロンネットワークの形成を回復させ得る化合物を試験するための実用的なスクリーニングプラットフォームとして使用することができる。
【0053】
先行技術のさらなる発展において、モジュール式に容易に制御可能なヒドロゲル材料系が使用され、Tsurkan M.V. et al. Defined Polymer-Peptide Conjugates to Form Cell-Instructive starPEG-Heparin Matrices In Situ. Advanced Materials (2013)から分かるように、このヒドロゲル材料系は、天然の細胞環境(いわゆる細胞外マトリックス(ECM))で生じる細胞誘導性シグナル、特に、物理的なネットワークの特性(200Pa~6kPaの範囲内のヒドロゲルの剛性)、分解性、及び生体分子構成(接着及びシグナルペプチド、可溶性サイトカイン、及び成長因子による官能化)を独立に調節することを可能にする。従って、複数のパラメータを、様々な材料特性において系統的に(及び互いに独立して)試験することが可能である。さらに、ヒドロゲルは、高い細胞生存率を可能にするように穏やかで細胞に優しい条件下で架橋される。さらに、細胞は、良好な生存率を有する帯状に分化した構造を生成するために、帯状の不均一性を有するマトリックス内にプリントすることができる。
【0054】
使用される3次元培養物は、例えば、CTIP2及びSATB2などの成熟ニューロンのマーカータンパク質に対して陽性である神経細胞を含む。これは、培養下で生成され、インビボ条件と非常に類似した細胞の分化の程度を示す成熟皮質ニューロンの指標である。さらに、3Dの培養細胞における電気生理学的活性及び膜チャネル活性、すなわち本発明に従って使用される系のインビボ型の特性を同様に示す機能を測定することが可能であった。
【0055】
広範なニューロンネットワークを含む培養物は、3週間で調製することができ、少なくとも10週間生存し得る。迅速な調製及び培養条件により、例えば、臨床処置の前に患者の細胞に対する様々な活性成分の効果を試験するために、任意の脳疾患中に、iPSベースのオーダーメイド医療にヒドロゲル3D培養物を使用することが可能である。さらに、本発明による方法は、グリア及び神経前駆細胞集団の急速な増殖を容易にし、かつ多数の細胞を必要とする細胞ベースの治療に使用することができる。
【0056】
本明細書に記載の3Dヒドロゲル細胞培養系のさらなる重要な利点はまず、細胞を取り囲むゲル材料が透明であることである。分析目的のために、3D培養物は、透明であり、かつ顕微鏡のリアルタイム記録及び組織の優れた透明度を必要とする他の分析に使用することができる。従って、3D培養物は、光学的及び顕微鏡的方法によるネットワーク形成及び神経分枝部の定量的測定を可能にし、これにより、全培養期間にわたってネットワーク形成を観察することが可能となる。既に述べたように、この系はまた、個々のニューロン及び神経回路の電気生理学的活性及び膜チャネル活性の測定も可能にする。さらに、ゲル中の細胞間結合を追跡し、統計的結果を定量的に記述するためにアルゴリズムが開発された。
【0057】
現在利用可能な情報に基づくと、使用が好ましい初代ヒト皮質細胞を含むスターPEG-ヘパリン培養系は、定量化可能で広範囲のニューロンネットワークを提供する唯一の3D神経細胞培養系である。
【0058】
Kimらの系では、ニューロンネットワークは、本発明に従って使用されるPEG-ヘパリンヒドロゲルが提供する培養空間全体に広がる、本発明による方法によって得ることが可能な遥かに大きいニューロンネットワークと比較すると明らかに質が低い。Koutsopoulos S.らによる系では、細胞の生存率が低いことが分かり、ネットワークの質も、細胞応答性スターPEG-ヘパリン系が提供するものよりも明らかに劣っている。
【0059】
さらに、2つの系(Kim/Koutsopoulosら)は、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫、腫瘍組織から抽出された細胞外マトリックスであるBD Matrigelに基づいている。Matrigelで知られている、結果の再現性を困難にするバッチごとの大きい変動に加えて、腫瘍に典型的なシグナル伝達物質及びこのような製品に含まれる細胞成分が、正常な分子シグナルの細胞への伝達を変更する。従って、このような製品は、インビボでの分子プロセスが腫瘍組織に存在する環境とは大きく異なっているため、脳の発達に関連した研究並びに移植及び/又は神経変性プロセスの研究には不適当である。本発明に従って使用されるヒドロゲル系は、合成PEGに基づき、生物学的に誘導体化されているが、分子量の分布及び機能性などの周知の分子特性を有する精製されたヘパリンであり、これらの分子量の分布及び機能性は、使用前に必ず試験される。従って、この系は、再現性の問題もなく、免疫原性反応も示さない。
【0060】
さらに、Dawai Zhang及びKoutsopoulusらは、神経細胞の培養のために自己組織化ペプチドヒドロゲル及びI型コラーゲンゲルを使用した。コラーゲンの場合には、Matrigelの場合と全く同様に、バッチによってばらつきがある。これまで使用された他の全てのヒドロゲル系(例えば、PuraMatrix、自己組織化ペプチド、コラーゲンI、及びMatrigel)の場合、物理的特性は、むしろ定義されておらず、変動が大きく、生体分子構成と無関係に変えることができない。従って、これに関連して使用される材料は、機械的刺激及び生体分子刺激の影響を独立して研究することができず、再現性に乏しい。
【0061】
細胞外マトリックス(ECM)の組成及び構成から生じるこれらの様々な刺激が、幹細胞活性の影響及び新しい組織形成の主要パラメータであるため、従来技術から知られている系は、機械的シグナルと生体分子シグナルとを互いに別々に検出することが不可能である。これに対して、インビトロアッセイは、複数の細胞外マトリックス由来シグナル及びそれらの多面的効果の間の複雑な相互作用のために、組織構造に対する外因性刺激の作用の同定が困難である。
【0062】
従って、ヒドロゲルの組成を独立に設定することが可能であるため、本明細書で使用される十分に定義されたモジュール式に調整可能なPEG-ヘパリンヒドロゲルは、機械的シグナル及び生体分子シグナルを互いに独立に調節するために使用することができる(Tsurkan M.V. et al. Defined Polymer-Peptide Conjugates to Form Cell-Instructive starPEG-Heparin Matrices In Situ. Advanced Materials (2013))。さらに、本発明による3Dヒドロゲル系はまた、例えばMMP切断可能部位によって細胞応答性であり、これは、例えば、脳組織におけるインビボ条件との酷似を達成するために、独自のマトリックスによる細胞誘導性再構築プロセス及び置換を可能にする。3次元ニューロンネットワークのための以前に記載された既知の方法は、3D培養系の機械的性質及び生体分子特性の特定の調節並びに3Dヒドロゲル中の細胞外マトリックスの細胞依存性再構成を可能にする定義された組成物が欠如している。
【0063】
従って、細胞で覆われた細胞外マトリックスを生成するために細胞がヒドロゲル系と動的に相互作用するのであれば、使用される3D細胞培養プラットフォームは、幹細胞活性及び分化におけるマトリックスの性質の役割を明確にするのに有利な細胞培養系として役立ち得る。加えて、使用される3Dヒドロゲル系は、接着若しくはシグナル伝達分子で共有結合的に、又はヘパリン結合シグナル伝達分子で非共有結合的に被覆することができる。全体として、複数の細胞誘導性外因性シグナルの影響は、ヒト神経幹細胞及び/前駆細胞の細胞増殖及びニューロンネットワーク形成に関して体系的に研究することができる。
【0064】
オルガノイドを含む多くの3D系は、サイズ及び形状が再現可能な構造を形成することができない。本発明による3D培養物は、これらの2つのパラメータを調整して具体的に制御することができ、従って、3D細胞培養物についての実質的により良好に規定された条件を提供することができる。
【0065】
米国特許第6,306,922A号及び米国特許第6,602,975A号に記載されている生分解性ヒドロゲルは、光重合ヒドロゲルである。すなわち、特定の電磁条件下での重合及びゲル形成のために、前記ヒドロゲルは、紫外光(UV光)を放出する特殊な装置を必要とする。UV光は、埋め込まれた細胞でのフリーラジカルの生成及びアポトーシスシグナル伝達経路の誘導をもたらし、これが、細胞死をもたらして、細胞の生存率に悪影響を及ぼし得る。さらに、UV光はまた、DNA突然変異及び埋め込まれた細胞の細胞DNAの損傷を引き起こす。対照的に、本明細書に記載の革新的な3Dヒドロゲル系では、マトリックスは、UV光を使用せずに室温で重合される。このようにして、細胞にDNA損傷及び突然変異が起こらず、従って、細胞機能がより良好に維持される。加えて、UV誘導重合の省略により、高価な装置を使用しなくても3Dヒドロゲル系の使用が可能となる。この利点は、系を使用者に優しくし、従って、高度に特殊化された実験室以外での使用に理想的である。
【0066】
さらに、この系は、例えば、siRNA(低分子干渉RNA)又は遺伝子の非機能的なドミナントネガティブ変異体(機能の減弱又は喪失)の使用によって、プラスミドを用いることで、遺伝子の機能的なタイプを過剰発現(機能の増強)させる又は遺伝子の下方制御するために特定の遺伝子の誤発現を可能にする唯一の系である。
【0067】
プラスミド発現系によって駆動されるカルシウムセンサー(GcaMP)の使用が説明された。誤発現系は、3Dゲルに合わせられたプラスミドトランスフェクション法に基づいている。
【0068】
Matrigelを使用した3D培養物におけるアルツハイマー病(AD)のモデリングに関する以前の報告と比較して、PEG-ヘパリン3Dゲルは、例えば活性成分のハイスループットのスクリーニングプラットフォームでの使用で利点を提供する、ネットワークの著しく迅速な発達を可能にする。
【0069】
これまで、ヒトニューロンを含む3Dゲル系における広範囲のネットワーク形成を示すことが不可能であった。以前の3D培養物は、フローティング又はMatrigel埋め込み系を使用し、改変された細胞を使用する。
【0070】
以前の3D培養物では、ネットワークの形成を定量化することが不可能であったため、ネットワーク形成の品質を評価することが不可能であった。本発明による方法で得ることができる3次元培養物は、ネットワーク形成の定量的測定、例えば、軸索及び神経突起の長さ及び数、分岐及び連結点の数、並びに神経分枝の数の測定を可能にする。これは、これまで不可能であった。さらに、本発明に従って使用される系は、細胞培養期間中のリアルタイムの記録及び埋め込み細胞の監視を可能にする。
【0071】
成熟皮質ニューロンの3D培養物は、例えばCTIP2及びSATB2などの皮質マーカーを発現する。
【0072】
培養細胞では、プラスミドベクターを用いた遺伝子のトランスフェクションを利用して電気生理学的活性及び膜チャネル活性を3Dで測定することが可能であった。足場又はオルガノイドでの3D培養物を用いた以前の研究の場合には、細胞のゲノムを操作する必要があった。可能なトランスフェクション法では、細胞自体の遺伝子改変を用いずに又はウイルスを使用せずに誤発現を行うことが可能である。
【0073】
拡大されたニューロンネットワークを含む培養物は、3週間で調製することができ、16週間を超えて生存し得る。迅速な調製及び培養条件により、臨床処置の前に、患者、患者自身の細胞に対する様々な活性成分の効果を試験するために、任意の脳疾患中に、iPSベースのオーダーメイド医療に3D培養物を使用することも可能である。
【0074】
培養物は、光学的に透明であり、リアルタイムの記録及び組織をはっきりと見る必要がある他の分析に使用することができる。これは、既に公知の3D足場ベース又はオルガノイドベースの系には当てはまらない。
【0075】
3Dネットワークを形成するために細胞を遺伝子組換えする必要はない。
【0076】
ヒドロゲル系を使用する本発明による方法は、グリア細胞及び神経前駆細胞集団の最速の増殖を可能にし、かつ多量の細胞が必要とされる細胞ベースの治療に使用することができる。
【実施例
【0077】
技術的な詳細
実施例1
実施例1では、初代ヒト皮質細胞(PHCC)を使用した。
【0078】
PHCCは、妊娠21週の胎児から提供された組織の大脳皮質から単離されたものであり、ScienCell Research Laboratory(SRL、カタログ番号1800)から初代継代の凍結状態で入手した。細胞は、HIV-1、HBV、HCV、マイコプラズマ、細菌、酵母、及び真菌について陰性であることが証明されていた。PHCCを、従来のT75フラスコ又は24ウェルプレートに入れ、5%ウシ胎児血清(SRL、カタログ番号0010)、1%の星状細胞増殖剤(SRL、カタログ番号1852)、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液(SRL、カタログ番号0503)が添加された星状細胞培地(SRL、カタログ番号1801)を用いて、5%CO/95%空気の大気を有するインキュベーターで、37℃で培養した。
【0079】
PEG-ヘパリンヒドロゲルを、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように調製したが、次の変更を加えた:PHCCは、細胞剥離培地としてAccutase(登録商標)(Invitrogen)を用いて培養容器から回収した。12,000rpmでの10分間の遠心分離後に、細胞を8×10細胞/mlの濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。ヒドロゲル調製用のポリマーの出発物質(前駆体)は、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように、15,000g/モルの分子量を有する6つのマレイミド基で官能化されたヘパリン(HEP-HM6)、及び15,500g/モルの総モル質量を有する、各アームにおける酵素的に切断可能なペプチド配列で官能化された4アームスターPEG(スターPEG-MMP)からなっていた。ヒドロゲルは、3.9%の全固形分で、0.75の架橋度に対応する、1モルのHEP-HM6に対して0.75モルのスターPEG-MMPのモル比で出発物質を混合することによって調製した。このため、各ヒドロゲルのために、細胞を、最初に5マイクロリットル(μl)のPBS中に再懸濁し、次いで5μlのHEP-HM6溶液(5μlのPBS中に溶解した0.448mgのHEP-HM6)及び10μlのスターPEG-MMP溶液(10μlのPBS中に溶解した0.347mgのスターPEG-MMP)を、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように添加し、数秒間激しく混合し、これにより2×10細胞/mlの濃度の細胞を有する20μlの最終容量のヒドロゲルを調製した。次に、20μlの液滴を直ちにパラフィルムシートに適用し、続いてゲル形成が完了するまでさらに2分間待った。次いで、ゲルを24ウェル培養プレートに入れ、各ウェルは、1つの20μlの液滴ヒドロゲル及び1mlの培養培地量を含んでいた。次いで、ヒドロゲルを、所望の時点まで5%CO2/95%空気下、37℃で、ウェルで培養した。ゲル形成後、得られたヒドロゲルは、450±150Paの範囲内の貯蔵弾性率を有しており、この貯蔵弾性率は、プレート直径が25mmのプレートプレート測定装置を有する回転レオメーター(ARES LN2;TA Instruments, Eschborn, Germany)を使用して、2%の変形振幅を有する10-1~10rad/sのせん断周波数範囲内の25℃での周波数依存測定によって、室温でPBS中、膨潤したヒドロゲルスライスの振動レオメトリーによって決定された。
【0080】
実施例2
PEGヘパリンの調製及び細胞の埋め込み:
PEG-ヘパリンゲルは、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように調製したが、以下の変更を加えた:
第2継代のPHCCを、細胞剥離培地としてAccutase(登録商標)(Invitrogen)を用いる培養容器から回収した。12,000rpmでの10分間の遠心分離後に、PHCCを8×10細胞/mlの濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。ヒドロゲル調製用のポリマーの出発物質は、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように、15,000g/モルの分子量を有する6つのマレイミド基で官能化されたヘパリン(HEP-HM6)、及び15,500g/モルの総モル質量を有する、各アームにおける酵素的に切断可能なペプチド配列で官能化された4アームスターPEG(スターPEG-MMP)からなっていた。ヒドロゲルは、3.9%の全固形分で(0.75の架橋度に対応する)1モルのHEP-HM6に対して0.75モルのスターPEG-MMPのモル比で出発物質を混合することによって調製した。このため、総容量が20μlの各ヒドロゲルのために、細胞を、最初に5マイクロリットル(μl)のPBS中に再懸濁し、次いで5μlのHEP-HM6溶液(5μlのPBS中に溶解した0.448mgのHEP-HM6)及び10μlのスターPEG-MMP溶液(10μlのPBS中に溶解した0.347mgのスターPEG-MMP)を、Tsurkan et al., Advanced Materials 2013, vol. 25 (18) pp. 2606-2610に記載されているように添加し、数秒間激しく混合し、これにより2×10細胞/mlの濃度の細胞を有する20μlの最終容量のヒドロゲルを調製した。次に、20μlの液滴を直ちにパラフィルムシートに適用し、続いてゲル形成が完了するまでさらに2分間待った。次いで、ゲルを24ウェル培養プレートに入れ、各ウェルは、1つの20μlの液滴ヒドロゲル及び1mlの培養培地量を含んでいた。使用した培養条件は、37℃において5%CO2/95%空気とした。次いで、ヒドロゲルを、所望の時点までウェルで培養した。ゲル形成後、得られたヒドロゲルは、450±150Paの範囲内の貯蔵弾性率を有しており、この貯蔵弾性率は、プレート直径が25mmのプレートプレート測定装置を有する回転レオメーター(ARES LN2;TA Instruments, Eschborn, Germany)を使用して、2%の変形振幅を有する10-1~10rad/sのせん断周波数範囲内の25℃での周波数依存測定によって、室温でPBS中、膨潤したヒドロゲルスライスの振動レオメトリーによって決定された。
【0081】
アミロイドβ42(Aβ42)で前処理したゲルを使用するために、細胞を2μΜ Aβ42と共に48時間インキュベートしてから、培養容器から細胞を回収し、この細胞をヒドロゲル中に埋め込んだ。Aβ42を含むゲル環境を形成するために、細胞をまず、4μlのPBS中100μM Aβ42ペプチドに溶解した。6μlのヘパリン溶液(6μlのPBSに溶解した0.448mgのHEP-HM6)及び10μlのスターPEG-MMPの溶液(10μlのPBSに溶解した0.347mgのスターPEG-MMP)を添加し、そして上記のように混合した。このゲル混合物では、Aβ42の濃度は20μMであり、細胞の濃度は2×10細胞/mlである。
【0082】
実施例3
アミロイドβ42(Aβ42)で前処理したゲルを使用するために、細胞を2μΜ Aβ42と共に48時間インキュベートしてから、培養容器から細胞を回収し、ヒドロゲル中に細胞を埋め込んだ。
【0083】
免疫細胞化学:
全てのヒドロゲルを、氷冷パラホルムアルデヒドで固定し、室温で1.5時間インキュベートし、続いてPBS中で、一晩4℃で洗浄した。免疫細胞化学のために、ヒドロゲルを、PBS中10%正常ヤギ血清、1%ウシ血清アルブミン、0.1%Triton-Xからなるブロッキング溶液中で一晩、4時間ブロッキングした。ゲルを、時折PBSを交換して、2日間連続して4℃で洗浄した。洗浄後、ゲルを、2次抗体と共に室温で6時間インキュベートした(ブロッキング溶液中で1:500)。2時間の3回の洗浄ステップの後、DAPI染色をそれぞれの場合で行った(PBS中1:3000、室温で2時間)。
【0084】
蛍光記録
ヒドロゲルについて、蛍光記録を、Leica-SP5倒立型共焦点/多光子顕微鏡を用いて行った。ヒドロゲルをガラス底ペトリ皿に入れた。60μlのPBSを、乾燥を防止するためにヒドロゲルの上部に加えた。Z-stackを、水浸レンズ(25倍)を用いて捕捉した。各Z-stackは、500μmのz距離を有する。
【0085】
スターPEG-ヘパリンヒドロゲル中の初代ヒト皮質細胞(PHCC)及びiPSC由来神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)の発達の比較
図14は、スターPEG-ヘパリンヒドロゲル中にニューロンネットワークを形成する能力についての埋め込まれたPHCCとiPSC由来NSPCとの比較を可能にする顕微鏡写真を示している。これに関連して、画像A~A’’は、アセチル化チューブリン(Acet. Tubulin、画像Aを参照)で染色され、DAPIで染色され(画像A’)、及びGFAPによって染色された(画像A’’)、RGDペプチドで修飾されたスターPEG-ヘパリンヒドロゲルに埋め込まれたiPSC由来NSPCの500μm厚Z-stackの最大強度投影を示している。画像B~B’’は、アセチル化チューブリン(画像B)で染色され、DAPIで染色され(画像B’)、及びGFAP抗体によって染色された(画像B’’)、スターPEG-ヘパリンヒドロゲルに埋め込まれたPHCCの500μm厚Z-stackの最大強度投影を示している。
【0086】
図15は、TUBB3染色後のヒト皮質NSPCの神経突起の最大強度投影を画像Aに示している。図15の画像Bは、TUBB3染色後のiPSC由来NSPCの神経突起の最大強度投影を示している。画像Cは、グラフにおける画像A及び画像Bのニューロンネットワーク特性の定量化及び比較を示している。
【0087】
本発明に従って使用されるヒドロゲルは、RGD(Arg-Gly-Asp)などの様々なマトリックス由来ペプチドで共有結合的に修飾してもよいし、又は可溶性シグナル伝達分子の有効な投与に使用してもよい。このようにして、外因性シグナルの影響を、ヒト神経幹細胞及び前駆細胞の増殖及びニューロンネットワーク形成について個々に試験することができる。このスターPEG-ヘパリンヒドロゲル系が複数の異なる分子で修飾され得るという事実は、使用者に、カスタマイズされた環境を作り出す可能性を提供する。例えば、RGDペプチドでのPEG-HEP足場の調製により、図14に示されているように、ヒトiPSC由来神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)を培養することが可能となる。このような方法は、RGDの修飾なしでは不可能である。図15から分かるように、最初の初代ヒト皮質細胞(PHCC)がニューロンネットワークを形成する能力と次のiPSC由来の神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)がニューロンネットワークを形成する能力とを比較すると、使用されるヒドロゲル系に差異が存在しない。ネットワークの数並びに分岐の数及び長さは、特に図15の画像Cに例示されているように同等である。初代ヒト皮質細胞(PHCC)の発達と比較したヒトiPSC由来神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)の高度に類似した発達は、上述のヒドロゲル系が広範囲の用途に使用できることを示している。ヒドロゲル系の最も有望な用途は、オーダーメイド医療の分野で期待されている。これは、特に、修飾可能性、例えばインターロイキン4(IL-4)などでの処置に対する応答性によって、また比較的短い時間内でスターPEG-ヘパリンヒドロゲルを大量に生産する能力によっても示唆される。患者由来のiPSC由来ニューロンを培養することにより、様々な神経発達障害をより良く理解することが可能である。しかしながら、生成されるヒドロゲルは、処置戦略を決定するために使用することもできる。
【0088】
iPSC由来の神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)を用いたPEG-ヘパリンゲルの調製
HIP(商標)(BC1系統)と命名されたiPSC由来のヒト神経幹細胞及び前駆細胞(NSPC)をAmsbio(カタログ番号:GSC-4311)から購入した。これらのNSCは、製造者によって指定されたように解凍し、Geltrex被覆細胞培養フラスコで培養した。細胞の増殖及びさらなる培養のために、製造者の取扱説明書に従って増殖培地を使用した。NeuralX(商標)NSC培地は、以下の組成を有する:2%GS22(商標)ニューロンサプリメント、10;1×非必須アミノ酸、2mM L-アラニン/L-グルタミン;20ng/mlのFGF2。HIP(商標)NSCを、Accutase(Invitrogen)を用いて細胞培養フラスコから分離した。12,000rpmで10分間の遠心分離後、HIP(商標)NSCを、8×10細胞/mlの濃度で、PBS中に再懸濁した。各ヒドロゲルでは、細胞を、最初に5マイクロリットル(μl)のPBS中に再懸濁し、次いで5μlのヘパリン溶液(PBS中45μg/μl)及びRGDペプチドとしての2M インテグリンリガンド(Tsurkan, Chwalek et al., 2011, Maitz, Freudenberg et al., 2013, Tsurkan, Chwalek et al. 2013, Wieduwild, Tsurkan et al. 2013)を十分にボルテックスすることによってPBSに溶解し、10μlのPEGを加えて、2×10細胞/mlを含む20μlの最終容量にした。20μlの液滴を、パラフィルムシートに適用した。ゲル形成には2分かかった。ゲルを24ウェル培養プレートに入れ、各ウェルは、1mlのHIP増殖培地容量を含む。ゲルを、37℃において5%CO/95%空気を使用して培養した。次いで、ゲルを所望の時点まで培養することができる。
【0089】
神経可塑性及びAβ42媒介毒性に対する個々の因子の影響を分析するためのPEG-HEPヒドロゲルの使用
図16は、いずれも、抗Aβ42抗体で染色した後(画像A~A’’)、DAPIで染色した後(画像B~B’’)、抗GFAP抗体で染色した後(画像C~C’’)、及び抗SOX2抗体で染色した後(画像D~D’’)の、Aβ42を含まない対照群(A~D)、Aβ42を含む対照群(A’~D’)、及びAβ42及びインターロイキン4(IL-4)を含む培養物(A’’~D’’)の、埋め込まれたPHCCを含むスターPEG-HEPゲルの顕微鏡写真を示している。
【0090】
例えばゼブラフィッシュの研究で以前に示すことができたのと同様の方法で、IL-4がヒトにおいて作用するか否かを試験するために、上述のPHCCを含むスターPEG-HEPヒドロゲルを使用した。このために、埋め込まれたPHCCを含むヒドロゲルを調製し、既に記載されたようにAβ42と共にインキュベートした。各実験設定には、陽性対照群(Aβ42)及び陰性対照群(Aβ42なし)並びにAβ42及びIL-4を含む実験群が含まれていた。実験群では、埋め込まれたPHCCを含むスターPEG-HEPゲルをAβ42と共に培養し、培地中に100ng/ml IL-4が同時に存在した。3週間の培養後、試料を固定し、神経幹細胞及び前駆細胞に対するIL-4の効果を調べるために、GFAP及びSOX2に対して免疫染色した。全細胞を示すために、核色素DAPIを使用した。Aβ42処理細胞の培養物では、GFAP陽性グリア細胞及びSOX2陽性ニューロンの両方が影響を受け、未処理対照培養物と比較して細胞数の大幅な減少を観察することが可能であった。Aβ42で処理され、同時にIL-4で処理された培養物では、細胞数は、Aβ42で処理されていない対照培養物と完全に同等であった。この結果は、IL-4での処理がAβ42の神経毒性の影響を弱め得ることを示している。インターロイキン4での処理は、GFAP陽性細胞の増殖を刺激してより多くの神経幹細胞及び前駆細胞を生成すると結論付けることができる。従って、IL-4は、神経毒性Aβ42の存在にもかかわらず、埋め込まれたPHCCの神経可塑性を高める。全体として、このデータは、ゼブラフィッシュモデルで示されているように、IL-4での処理がヒト神経幹細胞の増殖を活性化することを示している。従って、IL-4は、Aβ42媒介性神経変性に対する将来の治療のための重要な候補である。本発明のヒドロゲルベースの3D培養物への細胞浸透性配列を有する特異的Aβ42ペプチドの投与は、本明細書で使用される細胞培養法が、ヒトAβ42毒性の病態生理を再現することができ、かつ神経保護効果を、スターPEG-HEPヒドロゲル系でも調べることができることを示している。
【0091】
3D細胞培養物を調製する従来の方法とスターPEG-HEPヒドロゲル系との比較
図17は、MatrigelとスターPEG-ヘパリンヒドロゲルとを比較するためのGFAP、SOX2、及びアセチル化チューブリンに対する免疫染色後の顕微鏡写真を示し、いずれにも初代ヒト皮質細胞(PHCC)が埋め込まれている。これに関連して、画像A~A’’’は、Matrigelに埋め込まれたPHCCを示している。対照的に、画像B~B’’’は、スターPEG-ヘパリンヒドロゲルに埋め込まれたPHCCを示している。画像A及び画像Bはそれぞれ、グリア細胞集団を同定するためにグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)で染色されている。画像A’及び画像B’はそれぞれ、ニューロンネットワーク形成を示すためにアセチル化チューブリン(Acet. Tubulin)で染色されている。画像A’’及び画像B’’は、全細胞を標識するためのDAPI染色を含む。最後に、画像A’’’と画像B’’’との相対する配置により、SOX2染色による幹細胞集団の範囲及び神経可塑性能力の比較が可能である。
【0092】
生物における3次元トポロジー構造は、従来の2次元(2D)細胞培養では再現できない構造、系統特異化、及び空間相互作用などの組織特性を付与する。結果として、3次元(3D)細胞培養系は明らかな利点を有し、広く使用されている。Matrigelベースの3D細胞培養物は、現在、コラーゲン及びラミニンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質が埋め込まれている粘性ゲル材料で神経細胞が成長するこのような技術の好ましい標準である。しかしながら、Matrigelベースの製品は、その組成が化学的に定義されておらず不均一であり、剛性、足場組成、又は生物学的応答性などの様々な特性を変更することができない。これは、結果の解釈を困難にするため、様々な外因性及び傍分泌シグナルの細胞発達に対する影響を正確に分析することがほぼ不可能である。対照的に、本発明に従って使用される、ヘパリン及びPEGをベースとするヒドロゲル系は、生物物理学的及び生体分子マトリックスシグナルの独立した調整を可能にすることによって有益な利点を提供する。図17におけるMatrigel系と本発明に従って使用される系との間の直接的な比較では、グリア細胞の細胞構成が両方のマトリックス系において非常に類似しているが、神経性能力及びヒト幹細胞のニューロンネットワークを形成する能力が、MatrigelマトリックスでよりもスターPEG-ヘパリンヒドロゲルで明らかに高いことを容易に観察することができる。この時点で、両方の培養系は、さらなる添加剤を用いずに同じ増殖培地で同じ3週間の期間にわたって培養したことに留意されたい。Matrigel系ではなく、スターPEG-ヘパリンヒドロゲルにおけるニューロンネットワークの観察が、Matrigel系ではニューロン間で成熟したシナプス結合を確認することがほぼ不可能であるという事実によって確認された。対照的に、スターPEG-ヘパリンヒドロゲル中のニューロンは、ニューロンネットワークを形成した。Matrigel系中のNSPCが神経原性を示さず、ネットワークを形成しない理由は、恐らく、瘢痕組織と同様に機能する殆ど組織化されていないECM環境によるものである。
【0093】
Matrigel3D培養物の調製
Matrigel細胞培養物には、BD BiosciencesのMatrigel(カタログ番号:356234)を使用した。各細胞培養手順及びMatrigelの使用の前に、ピペットチップ及びエッペンドルフチューブを「濃縮ゲル法(thick gel method)」のために製造者の取扱説明書に従って-20℃で凍結させた。Matrigelを、氷上で一晩、4℃で解凍した。第2継代のPHCCを、Accutase(Invitrogen)を用いて細胞培養フラスコから分離した。遠心分離(12,000rpmで10分間)後、PHCCを2×10細胞/mlの密度でBD Matrigel中に再懸濁した。37℃で固化する細胞/Matrigel混合物の液滴を調製した。その後、細胞培養培地(SRL、カタログ番号1801)を添加し、ゲルを3週間培養した。これに関連して、細胞培養培地を、細胞/Matrigel混合物の調製の翌日に交換し、以降、1日おきに交換した。
【0094】
略語のリスト
Aβ42 アミロイドβ42
Acet.Tub アセチル化チューブリン
aTub アセチル化チューブリン
BrdU ブロモデオキシウリジン
CTIP2 「B細胞CLL/リンパ腫11B」、BCL11bという名称でも知られている成熟皮質ニューロンのマーカータンパク質
DAPI 4’、6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、細胞核色素
GFAP グリア線維性酸性タンパク質、グリア細胞の細胞質マーカー
Gcamp カルシウムセンサー
HEP-HM6 6つのマレイミド基とコンジュゲートしたヘパリン
IL-4 インターロイキン4
iPSC 人工多能性幹細胞
MMP マトリックスメタロプロテアーゼ
NSPC ヒト神経幹細胞及び前駆細胞;用語:神経幹細胞及び前駆細胞の略語
PBS リン酸緩衝生理食塩水
PEG ポリエチレングリコール
PHCC 初代ヒト皮質細胞;用語:初代ヒト皮質細胞の略語
HEP ヘパリン
SATB2 成熟皮質ニューロンのマーカータンパク質、用語「特殊なATリッチ配列結合タンパク質2」の略語
SOX2 転写因子、「性決定領域Yボックス2」の略語
StarPEG-MMP 酵素的に(マトリックスメタロプロテアーゼ)切断可能なペプチドリンカーで末端が官能化された星形(4アーム)ポリエチレングリコール
Syn シナプトフィジン
TUBB3 β-III-チューブリン、ニューロン細胞質マーカー
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17