(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】パイル織機における起動制限方法及び装置
(51)【国際特許分類】
D03D 51/00 20060101AFI20221017BHJP
D03D 39/22 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
D03D51/00 Z
D03D39/22
(21)【出願番号】P 2019008211
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000215109
【氏名又は名称】津田駒工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直幸
(72)【発明者】
【氏名】志武 豊
(72)【発明者】
【氏名】桜田 健司
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-126961(JP,A)
【文献】特開平7-133558(JP,A)
【文献】特開2008-13876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 51/00
D03D 39/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の織機サイクルから成る1パイル形成サイクルがルーズピック及びファストピックであるパイルピックから成るパイルパターンで構成されると共に前記1パイル形成サイクル中の各パイルステップにおいて前記パイルパターンに従って筬打ち位置と織前位置との相対位置を変更してパイルを形成するパイル織機であって、緯入れ不良発生時に不良糸除去が作業者によって行われるパイル織機における起動制限方法であって、
前記パイルピックにおける前記ルーズピック及び最初の前記ファストピックである第1ファストピックには前記パイルステップと同じ数値が割り当てられるように設定された起動逆転数であって、前記パイルパターンに複数の前記ファストピックを含む場合には2番目以降の前記ファストピックに対しては1が割り当てられるように設定された起動逆転数を予め記憶させておき、
製織中の緯入れ不良発生時に、その緯入れ不良が発生した織機サイクルの前記パイルピックに対応する数値を前記起動逆転数から読み出して現在値として記憶し、
記憶された前記現在値が、その後の織機の動作に伴い、主軸の正転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に+1され、逆転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に-1されるように更新され、
更新された前記現在値が0になるまで運転ボタン操作による織機の起動を禁止する
ことを特徴とするパイル織機における起動制限方法。
【請求項2】
前記ファストピックの織機サイクル内で主軸の回転角度の範囲として定められる起動可能区間が予め設定されており、
前記起動可能区間以外の主軸の回転角度では運転ボタン操作による織機の起動を禁止する
ことを特徴とする請求項1に記載のパイル織機における起動制限方法。
【請求項3】
複数の織機サイクルから成る1パイル形成サイクルがルーズピック及びファストピックであるパイルピックから成るパイルパターンで構成されると共に前記1パイル形成サイクル中の各パイルステップにおいて前記パイルパターンに従って筬打ち位置と織前位置との相対位置を変更してパイルを形成するパイル織機であって、緯入れ不良発生時に不良糸除去が作業者によって行われるパイル織機における起動制限装置であって、
前記パイルピックにおける前記ルーズピック及び最初の前記ファストピックである第1ファストピックには前記パイルステップと同じ数値が割り当てられるように設定された起動逆転数であって、前記パイルパターンに複数の前記ファストピックを含む場合には2番目以降の前記ファストピックに対しては1が割り当てられるように設定された起動逆転数が予め記憶される第1の記憶器、
緯入れ不良の検知信号の発生に伴って前記第1の記憶器に記憶された前記起動逆転数から読み出される数値であってその緯入れ不良が発生した織機サイクルの前記パイルピックに対応する数値を現在値として記憶する第2の記憶器、
前記第2の記憶器に記憶された前記現在値を、織機の動作に伴う主軸の正転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に+1し、逆転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に-1するように更新する演算器、
更新された前記現在値を監視して、前記現在値が0になるまで運転ボタン操作による織機の起動を禁止する起動制御器、
を備えることを特徴とするパイル織機における起動制限装置。
【請求項4】
前記第1の記憶器は、前記ファストピックの織機サイクル内で主軸の回転角度の範囲として定められる起動可能区間を記憶しており、
前記起動制御器は、前記起動可能区間以外の主軸の回転角度では運転ボタン操作による織機の起動を禁止する
ことを特徴とする請求項3に記載のパイル織機における起動制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の織機サイクルから成る1パイル形成サイクルがルーズピック及びファストピックであるパイルピックから成るパイルパターンで構成されると共に前記1パイル形成サイクル中の各パイルステップにおいて前記パイルパターンに従って筬打ち位置と織前位置との相対位置を変更してパイルを形成するパイル織機であって、緯入れ不良発生時に不良糸除去が作業者によって行われるパイル織機における起動制限方法及び装置に関する。
【0002】
なお、上記で言う「パイルピック」とは、パイル織機においてパイルを形成するために行われる所謂ルーズピック、ファストピックの総称である。
【0003】
また、上記で言う「パイルパターン」について、1つのパイルは2以上のルーズピックとその後に行われる1以上のファストピックとを経て形成され、その上で、前記「パイルパターン」とは、そのルーズピックとファストピックの数の組み合わせとして成るものである。例えば、2回のルーズピック(L)と1回のファストピック(F)とで1つのパイルが形成される場合、そのパイルパターンは2Lと1Fとの組み合わせであり、「2L-1F」と表される。
【0004】
さらに、上記で言う「1パイル形成サイクル」とは、前記のように複数のパイルピックから成るパイルパターンの1繰返しが実行される(完遂する)織機サイクルである。なお、各パイルピックが1織機サイクルで行われることから、1パイル形成サイクルの数(サイクル数)は、パイルパターンにおけるパイルピックの総数分の織機サイクル数に相当する。したがって、例えばパイルパターンが前記の2L-1Fの場合には、1パイル形成サイクルは3織機サイクルである。
【0005】
そして、上記で言う「パイルステップ」は、その1パイル形成サイクルにおける織機サイクル単位での段階であり、その段階(何番目か)がステップ番号で表されるものである。
【背景技術】
【0006】
織機において製織中に緯入れ不良が発生すると、織機が停止され、その後、その緯入れ不良となった緯糸(以下、「不良緯糸」と言う。)を織布に織り込まれた状態から織前から除去し、織機を再起動するといった不良緯糸の除去を伴う復帰作業が行われる。パイル織機でも同様であるが、パイル織機の場合、不良緯糸のみを除去して織機を再起動すると、製織されたパイル織物に欠点(以下、「パイル抜け」と言う。)が発生する場合がある。具体的には、2番目以降のルーズピック及び1番目のファストピックの織機サイクルの緯入れにおいて緯入れ不良が発生した場合、その不良緯糸のみを除去して織機を再起動すると、形成済みあるいは次に形成されるパイルに対する緯糸の保持力が低下するため、その後の製織に伴ってパイル経糸が送出側に引っ張り出されてパイル抜けが発生する。そのため、上記のような場合、その前記復帰作業においては、不良緯糸だけでなく、その1パイル形成サイクルにおけるそれ以前のルーズピックの織機サイクルで緯入れされた緯糸を全て除去する必要がある。
【0007】
なお、前記のような緯糸の除去が自動的に行われるように織機が構成されている場合には問題は無いが、不良緯糸の除去等の前記復帰作業が作業者によって行われる織機の場合、作業者が失念し、不良緯糸のみを除去して織機を再起動させてしまう場合がある。そして、その場合には、製織された織物は、前記のようなパイル抜けを有するものとなってしまう。そこで、そのように除去すべき緯糸を除去しないままでの織機の再起動を防止する技術として、下記の特許文献1に開示された技術(以下、「従来技術」と言う。)がある。
【0008】
前記従来技術は、前記のようなパイル抜けを防止すべく、緯入れ不良による織機停止後の再起動時において、2番目のルーズピックの織機サイクル又はそのルーズピックに後続する1番目のファストピックの織機サイクルからの織機の起動を禁止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記従来技術は、その従来技術文献に開示されているようなパイルパターンが「2L-1F」や「2L-2F」の場合、すなわち、ルーズピックが2織機サイクルの場合にしか対応できず、それ以外のパイルパターンには対応できない。
【0011】
詳しくは、ある特定のパイル織機において製織が想定されるパイル織物の種類は、前記のような2種類に限らず、3以上の種類の方が一般的である。そして、その3以上の種類のパイル織物は、ルーズピックを3以上の織機サイクルとするように設定されたパイルパターンで製織された織物を含む場合も十分に考えられる。その上で、例えば、ルーズピックが3織機サイクルのパイルパターンの場合であって、1番目のファストピックの緯入れで緯入れ不良が発生した場合を想定する。その場合において、作業者が不良緯糸のみを除去して織機を再起動させようとすると、その再起動時点の織機の状態は、3番目のルーズピックの織機サイクルである。
【0012】
しかし、前記従来技術では、ルーズピックに関しては2番目のルーズピックの織機サイクルでの再起動を禁止することしか想定されていないため、上記のような場合では、織機は再起動されてしまう。したがって、その場合には、前述のようなパイル抜けが発生してしまう。
【0013】
また、前記のように3以上の種類のパイル織物の製織が想定されるパイル織機では、そのパイル織機に設定されるパイルパターンは、その想定されるパイル製織に応じた数となる。その場合において、前記従来技術に基づいて前記のように再起動を禁止しようとすると、その準備に多大な労力と時間とを要するという問題がある。
【0014】
詳しくは、前記従来技術では、パイルパターンにおける織機の再起動を禁止するパイルステップ(ステップ番号2のルーズピック及びステップ番号3のファストピック)のそれぞれを、織機制御コンピュータのプログラムに予め設定することで、そのパイルステップの織機サイクルでの再起動が禁止されるようになっている。すなわち、前記従来技術は、パイルパターン毎に、再起動を禁止するパイルステップを全て設定することを必要としている。そのため、前記のように3以上の種類のパイル織物の製織が想定される場合では、当然ながらその製織が想定されるパイル織物の種類に応じた数のパイルパターンがパイル織機に設定されるため、その設定される全てのパイルパターンについて、再起動を禁止するパイルステップのそれぞれを予め設定する必要がある。しかも、前記従来技術では、その設定は、織機制御コンピュータのプログラムに対し行う、すなわち、プログラムの改修を伴うものとなっている。したがって、前記のような場合に、前記従来技術に基づいてパイル織機の再起動を禁止しようとすると、その設定(準備)に多大な労力と時間とを要することとなる。
【0015】
本発明は、上記実情を考慮して創作されたものであり、前述の技術分野に記載したパイル織機において、ルーズピックが3織機サイクル以上のパイルパターンを用いたパイル織物の製織が行われる場合であっても、作業者の作業ミスに起因するパイル抜けの発生を防止すると共に、特定のパイルピックの織機サイクルでの再起動を禁止するための設定を容易とする起動制限方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、緯入れ不良発生時に不良糸除去が作業者によって行われるパイル織機を前提とする。そのパイル織機は、複数の織機サイクルから成る1パイル形成サイクルがルーズピック及びファストピックであるパイルピックから成るパイルパターンで構成されると共に前記1パイル形成サイクル中の各パイルステップにおいて前記パイルパターンに従って筬打ち位置と織前位置との相対位置を変更してパイルを形成する。
【0017】
その上で、本発明のパイル織機における起動制限方法は、前記パイルピックにおける前記ルーズピック及び最初の前記ファストピックである第1ファストピックには前記パイルステップと同じ数値が割り当てられるように設定された起動逆転数であって、前記パイルパターンに複数の前記ファストピックを含む場合には2番目以降の前記ファストピックに対しては1が割り当てられるように設定された起動逆転数を予め記憶させておき、製織中の緯入れ不良発生時に、その緯入れ不良が発生した織機サイクルの前記パイルピックに対応する数値を前記起動逆転数から読み出して現在値として記憶し、記憶された前記現在値が、その後の織機の動作に伴い、主軸の正転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に+1され、逆転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に-1されるように更新され、更新された前記現在値が0になるまで運転ボタン操作による織機の起動を禁止することを特徴とする。
【0018】
また、本発明のパイル織機における起動制限方法は、前記ファストピックの織機サイクル内で主軸の回転角度の範囲として定められる起動可能区間が予め設定されており、前記起動可能区間以外の主軸の回転角度では運転ボタン操作による織機の起動を禁止するものであっても良い。
【0019】
また、本発明のパイル織機における起動制限装置は、以下の第1の記憶器、第2の記憶器、演算器、起動制御器を備えることを特徴とする。前記第1の記憶器は、前記パイルピックにおける前記ルーズピック及び最初の前記ファストピックである第1ファストピックには前記パイルステップと同じ数値が割り当てられるように設定された起動逆転数であって、前記パイルパターンに複数の前記ファストピックを含む場合には2番目以降の前記ファストピックに対しては1が割り当てられるように設定された起動逆転数が予め記憶されるものである。前記第2の記憶器は、緯入れ不良の検知信号の発生に伴って前記第1の記憶器に記憶された前記起動逆転数から読み出される数値であってその緯入れ不良が発生した織機サイクルの前記パイルピックに対応する数値を現在値として記憶する。前記演算器は、前記第2の記憶器に記憶された前記現在値を、織機の動作に伴う主軸の正転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に+1し、逆転に伴って主軸の回転角度が0°を通過する毎に-1するように更新する。前記起動制御器は、更新された前記現在値を監視して、前記現在値が0になるまで運転ボタン操作による織機の起動を禁止する。
【0020】
また、本発明のパイル織機における起動制限装置は、前記第1の記憶器が前記ファストピックの織機サイクル内で主軸の回転角度の範囲として定められる起動可能区間を記憶しており、前記起動制御器が前記起動可能区間以外の主軸の回転角度では運転ボタン操作による織機の起動を禁止するものであっても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ルーズピックが3織機サイクル以上のパイルパターンを用いてパイル製織が行われるパイル織機においても、緯入れ不良の発生時に伴う織機停止後の再起動時に、全てのルーズピックの織機サイクルにおいて織機の起動を禁止することを実現するものである。具体的には、ルーズピック、ファストピックの数が制限されないパイルパターンにおいて、各パイルステップに対し数値(起動逆転数)を割り当てる設定が行われると共に、その起動逆転数と、所定期間の主軸の正逆回転動作数(詳しくは、緯入れ不良が検知された時点から不良緯糸が除去されて織機の起動が可能な織機サイクルに織機が逆転された時点までの間における主軸の正逆回転動作数)との関係で、織機の起動を禁止しようとするものである。
【0022】
その上で、本発明では、そのための設定(起動逆転数の設定)が、ルーズピック及び1番目のファストピックに対してはパイルステップと同じ数値を割り当てると共に、パイルパターンに複数のファストピックを含む場合には2番目以降のファストピックに対しては1を割り当てるといったかたちで行われている。それにより、本発明によれば、前記従来技術のように各パイルパターンについて再起動を禁止するパイルステップを一つ一つ設定するといったことを行う必要が無いため、その設定(準備)作業のための労力及び時間を軽減することができる。したがって、本発明によれば、ルーズピックが3織機サイクル以上のパイルパターンを用いてパイル製織が行われるパイル織機においても、その設定(準備)に多大な労力等を掛けることなく、前記のような起動の禁止を実現することができる。
【0023】
また、本発明において、主軸の回転角度(以下、「クランク角度」と言う。)の範囲として起動可能区間を予め定めると共に、その起動可能区間以外のクランク角度では再起動を禁止することにより、再起動直後の緯入れが正常に行われないといった事態が発生することが防止される。
【0024】
詳しくは、通常の織機では、織機が起動されるクランク角度によっては起動直後の緯入れが正常に行われない場合がある。言い換えれば、織機は、クランク角度が緯入れを正常に行える角度範囲内の回転角度(以下、「緯入れ可能角度」と言う。)にある状態で、起動させることを必要とする。したがって、前記した本発明においては、不良緯糸が検知された後の再起動に向けた織機(主軸)の正、逆転操作(以下、「再起動準備操作」と言う。)により、再起動が可能な織機サイクル(前記現在値が0となった織機サイクル)である状態へ織機が移行されるが、その織機において、再起動される時点のクランク角度は、その再起動が可能な織機サイクルにおける前記の緯入れ可能角度にすることを必要とする。
【0025】
しかし、再起動準備操作での最終的に再起動させるクランク角度へ向けた主軸の逆転操作において、作業者の作業ミスにより、前記現在値が0となった織機サイクル内であるものの、クランク角度が前記の緯入れ可能角度以外である状態でその逆転操作を止めてしまう場合がある。そして、その状態で織機を再起動させてしまうと、前記のような緯入れが正常に行われないといった事態が発生してしまう。
【0026】
それに対し、前記の緯入れが正常に行われる回転範囲を起動可能区間として予め第1の記憶器に記憶させておくと共に、その起動可能区間以外の主軸の回転角度からの起動を禁止するように起動制御器を構成することにより、前記のような作業ミスに起因して再起動直後に緯入れが正常に行われないといった事態が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明が適用されるパイル織機の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明によって設定される製織パターンを入力設定するためのパターン設定画面の一例を示す説明図である。
【
図3】本発明のパイル織機における起動制限装置の一例を示すブロック図である。
【
図4】複数のパイルパターンに対応する起動逆転数の設定の一例を示す一覧表である。
【
図5】緯糸の除去及び織機の操作を正しい手順で行った場合のパイル織機の作用を示す説明図である。
【
図6】運転ボタンの操作を間違った手順で行った場合のパイル織機の作用を示す説明図である。
【
図7】起動制限装置の変形した実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に示すのは本発明が適用されるパイル織機の一例である。なお、本実施例のパイル織機は、テリーモーション機構によりパイルパターンに従って織前の位置を前後方向に移動させることにより、その織前位置と筬打ち位置との相対位置を変更してパイルを形成する布移動式のパイル織機であるものとする。
【0029】
図1に示すように、パイル織機1は、多数のパイル経糸2がシート状に巻き付けられたパイル経糸供給用のワープビーム(パイル経糸ビーム)3と、多数の地経糸4がシート状に巻き付けられた地経糸供給用のワープビーム(地経糸ビーム)5の2つの経糸ビーム3、5を備えている。
【0030】
パイル経糸2は、パイル経糸ビーム3から送り出され、ガイドロール6、パイルテンションロール7、綜絖枠8(綜絖9)及び筬11を経て織前12に導かれている。一方、地経糸4は、地経糸ビーム5から送り出され、地経糸用のテンションロール13に巻き掛けられた後、綜絖9及び筬11を経て織前12に導かれる。
【0031】
そして、各経糸ビーム3、5から送り出された経糸2、4が綜絖枠8の上下動によって開口14を形成し、その開口14に対し緯入れされた緯糸(図示略)が筬11によって織前12に筬打ちされることにより織布15が形成される。また、織布15は、クロスガイド16に巻き掛けられて案内された後、巻取ロール(サーフェイスロール)17及びガイドロール18を経て巻取ビーム19に巻き取られる。
【0032】
なお、そのようなパイル織機においては、パイルが形成されるパイル製織と、ボーダ等が形成される地織り製織とが繰り返し行われる。そして、本実施例のパイル織機1は、パイル製織が前記のように筬11の最前進位置に対し織前位置を移動させることによって行われる所謂布移動式のパイル織機である。
【0033】
そのようなパイル織機において、前記のように織前を移動させる動作は、テリーモーションとも呼ばれる。そして、そのテリーモーションは、前記のように地経糸4が巻き掛けられた地経糸用のテンションロール13と製織された織布15が巻き掛けられたクロスガイド16とを前後方向へ変位させることによって行われる。因みに、テンションロール13及びクロスガイド16をそのように変位させる構成自体は周知であるため説明を省略するが、図示の例では、その動作の駆動源として駆動モータ21が用いられている。そして、その駆動モータ21は、パイル織機1の主制御装置30に予め記憶されたパイルパターンに従って駆動される。
【0034】
パイルパターンは、入力設定装置40において設定されると共に主制御装置30において記憶される。
図2に示すのは、その入力設定装置40においてパイルパターンを含む製織パターンが設定されるパターン設定画面41である。そして、そのパターン設定画面41の右側の欄42が、パイルパターンの設定表示欄42である。なお、製織パターンは、パイル経糸や地経糸の張力、織機回転数、緯糸の種類(カラー)、緯糸密度、開口パターン、及びパイルパターンを含む。そして、パターン設定画面41では、そのうちの開口パターン、カラー、緯糸密度、及びパイルパターンが1織機サイクル毎に設定される。
【0035】
そのパターン設定画面41において、左端の欄43の数字43aは、製織パターンのステップNo.(1ステップ=1織機サイクル)を示している。また、その右側でセルCが格子状に並んでいる欄44は開口パターンの設定表示欄44である。そして、開口パターンの設定表示欄44に対し上側の部分44aには綜絖枠の番号を示す数字が表示されている。さらに、パターン設定画面41の中央の欄45はカラー及び緯糸密度の設定表示欄45である。
【0036】
そして、図示のパターン設定画面41では、パイルパターンの設定表示欄42における「P」の欄において「5 3L-2F」或いは「4 3L-1F」といった形式でパイルパターンが設定される。但し、その表示(例えば、「5 3L-2F」)について、前述のように、「L」はルーズピックを示し、「F」はファストピックを示している。したがって、「3L-2F」は、3回のルーズピックと2回のファストピックとからなるパイルパターンを表している。また、その左側の数字(「5 3L-2F」おける「5」)は、そのパイルパターンを構成するパイルピックの総数、すなわち、1パイル形成サイクルの織機サイクル数を表している。
【0037】
なお、製織時にそのパイルパターンを完遂するには、その1パイル形成サイクル分の織機サイクルが必要になる。したがって、パイルパターンの設定表示欄42における「P」の欄においては、その織機サイクル数分のセルに対し同じパイルパターンが設定される。具体的には、3L-2Fのパイルパターンを完遂するには5織機サイクルが必要であることから、5織機サイクル分のセルに対し、その「5 3L-2F」が設定される。
【0038】
また、パイルパターンの設定表示欄42における「P」の欄に対して右側の「S」の欄に表示されている数字は、「P」の欄に設定されたパイルパターンにおけるパイルステップのステップ番号を示している。因みに、3L-2Fのパイルパターンでは、ステップ番号1~3のパイルステップがルーズピックに対応し、ステップ番号4~5のパイルステップがファストピックに対応している。
【0039】
そして、そのようにパターン設定画面41で設定されたパイルパターンに従って、テリーモーションが行われる。具体的には、3L-2Fのパイルパターンでは、パイルパターンにおける1番目のルーズピック(ステップ番号が「1」のパイルステップ)において、織前位置が筬の最前進位置よりも離間する方向(前方)に移動する。また、パイルパターンにおける1番目のファストピック(ステップ番号が「4」のパイルステップ)において、織前位置が筬の最前進位置に移動する(戻る)。
【0040】
ところで、本発明は、緯入れ不良発生時に不良緯糸の除去が作業者によって行われるパイル織機(以下、単に「織機」とも言う。)を前提とする。そして、そのような織機において緯入れ不良が発生した場合には、その織機において以下のような操作が行われる。
【0041】
先ず、前提として主制御装置30には、緯糸の到達を検出するセンサである緯糸フィーラ22が接続されている。また、主制御装置30は、その緯糸フィーラ22から入力された緯糸到達信号S2に基づいて緯入れが正常に行われたか否か(緯入れ不良が発生したか否か)を判別する機能を備えている。その上で、主制御装置30は、緯入れ不良が発生したと判別すると、駆動制御装置50に対し停止信号S1を出力する。そして、駆動制御装置50が、その停止信号S1の入力に伴って、主軸モータ23の回転を停止させると共に、ブレーキ(図示略)を動作させることによって織機の停止制御が行われる。
【0042】
それにより、織機は、その停止制御が開始された時点から主軸24の1回転程度の惰性回転を経て、例えば、緯入れ不良が発生した織機サイクルの次の織機サイクルにおけるクランク角度280°付近で一時的に停止した状態となる。因みに、この一時的に停止した状態となるクランク角度を「一次停止位置のクランク角度」と言う。そして、その後に、自動的に逆転動作が開始され、織機は、その逆転動作の完了後に停止して、作業者を待つ待機状態となる。また、この待機状態となるクランク角度を「二次停止位置のクランク角度」と言う。なお、織機の逆転動作は、主軸24が1回転程度逆転するように行われる。したがって、織機は、緯入れ不良が発生した織機サイクルにおけるクランク角度300°付近で前記の待機状態となると共に、クランク角度は、その逆転の過程で0°を通過する。
【0043】
そして、作業者が織機に到着すると、その作業者は、逆転ボタン25を操作し、織機をクランク角度180°付近まで逆転させる。それにより、経糸が開口して不良緯糸が口出しされた状態となる。そして、作業者は、その状態で経糸の開口14内から不良緯糸を除去する除去作業を行う。
【0044】
なお、その除去作業後に最も織前側に位置する緯糸がルーズピックの織機サイクル(以下、「ルーズピックサイクル」と言う。)で緯入れされた緯糸である場合には、織機を再起動するにあたってその緯糸も除去しておく必要がある。そこで、その場合に作業者は、前記と同様に、織機を逆転させて当該緯糸が口出しされた状態とし、当該緯糸の除去作業を行う。
【0045】
その上で、不良緯糸を含む除去すべき全ての緯糸の除去作業を行った後、作業者は、逆転ボタン25を操作し、織機を再起動させるためのクランク角度(起動角度)まで逆転させる。なお、その起動角度は、除去すべき最後の緯糸が除去された織機サイクルの1つ前の織機サイクルにおける例えばクランク角度300°付近に設定される。したがって、その織機の再起動に向けた逆転の過程においても、クランク角度は0°を通過する。
【0046】
そして、織機が前記の起動角度まで逆転されると、作業者は、逆転ボタン25の操作を終了して織機を停止させると共に、運転ボタン26を操作する(以下、「運転ボタン操作」と言う。)。それにより、織機が再起動される。因みに、織機には正転ボタン27も設けられている。作業者は、緯糸の除去作業及び織機のクランク角度を起動角度に合わせる作業において、必要に応じて正転ボタン27を操作して、織機を正転させる。
【0047】
以上で説明したパイル織機において、本発明では、その織機は、不良緯糸の除去作業後の運転ボタン操作による再起動を制限する起動制限装置を備えている。その起動制限装置について、以下で詳細に説明する。
【0048】
図3に示すように、起動制限装置60は、その入力端において主制御装置30に接続されると共に、その出力端において織機の主軸モータ23を駆動制御する駆動制御装置50と接続されている。また、起動制限装置60は、後述する起動逆転数等を記憶する第1の記憶器61と、入力端において第1の記憶器61及び主制御装置30に接続される現在値演算器62と、入力端において第1の記憶器61、現在値演算器62、及び主制御装置30に接続される起動制御器63とを構成要素として含むように構成されている。
【0049】
なお、織機は、クランク角度を検出するための装置としてエンコーダ28を備えている。その上で、起動制限装置60における起動制御器63は、その入力端においてそのエンコーダ28にも接続されている。そして、起動制御器63には、エンコーダ28で検出されたクランク角度を示す信号(角度信号θ)が入力されている。さらに、起動制御器63は、その出力端において駆動制御装置50と接続されている。そして、起動制御器63は、駆動制御装置50に対し織機を再起動させるための信号である運転指令信号S4を出力するように構成されている。
【0050】
第1の記憶器61には、起動逆転数及び起動可能区間といった織機の再起動の禁止に関する設定値が予め記憶されている。それらの設定値のうち、起動逆転数は、織機の再起動を禁止するかどうかの判断に用いられるための設定値である。そして、その起動逆転数は、主制御装置30に記憶された全てのパイルパターンに対し設定される。
【0051】
その起動逆転数は、具体的には、そのパイルステップにおけるパイルピックがルーズピック及び1番目のファストピックの場合には、パイルステップのステップ番号と同じ数値が割り当てられるように設定される。また、複数のファストピックを含むように設定されたパイルパターンに対しては、起動逆転数は、前記に加え、2番目以降のファストピックに対し1が割り当てられるように設定される。なお、その起動逆転数においてパイルパターンの各パイルピックに対し割り当てられる数値(以下、「割当値」と言う。)は、緯入れ不良が検知された織機サイクル(以下、省略して「検知サイクル」と言う。)から再起動が可能な織機サイクルまでの間の織機サイクル数に対応している。
【0052】
より詳しくは、前記したように緯糸の除去作業後において最も織前側に位置する緯糸がルーズピックサイクルで緯入れされた緯糸である場合には、織機を再起動する上でその緯糸も除去する必要がある。そして、最も織前側に位置する緯糸がファストピックの織機サイクル(以下、「ファストピックサイクル」と言う。)で緯入れされた緯糸である状態とすることで、織機の再起動後に製織上の問題が発生するのを防止することができる。そこで、通常は、検知サイクルに対し逆転方向において最も近いファストピックサイクルにおける前記した起動角度まで織機(主軸24)を逆転させ、その状態で織機の再起動が行われる。因みに、検知サイクルがルーズピックサイクル又は1番目のファストピックサイクルである場合では、その検知サイクルを含むパイル形成サイクルの1つ前のパイル形成サイクルにおける最後のファストピックサイクルが、検知サイクルに対し最も近いファストピックサイクルである。
【0053】
このように、通常の再起動の方法では、検知サイクルに対し最も近いファストピックサイクルで織機の再起動が行われるが、その再起動が行われる織機サイクルは、検知サイクルに対し、その検知サイクルのパイルステップの数の分だけ前の織機サイクルである。言い換えれば、検知サイクルから検知サイクルのパイルステップの数だけ主軸24を1回転単位で逆転させることで、織機はその再起動が行われる織機サイクルに至る状態となる。
【0054】
そして、起動逆転数は、前記のように織機の再起動を禁止するかどうかの判断に用いられるものであるが、その判断は、検知サイクルからその割当値相当の逆転が行われたかどうかで行われる。そこで、検知サイクルがルーズピックサイクル又は1番目のファストピックサイクルである場合には、起動逆転数の割当値は、その検知サイクルのパイルステップのステップ番号と同じ数値とされる。また、検知サイクルが2番目以降のファストピックサイクルである場合、当然ながらその1つ前の織機サイクルもファストピックサイクルであるため、検知サイクルに対し最も近いファストピックサイクルは、検知サイクルの1つ前の織機サイクルである。したがって、その場合には、起動逆転数の割当値は1とされる。そして、起動逆転数は、パイルパターン毎に、そのパイルパターンにおける各パイルステップに対し前記のような割当値が割り当てられたかたちで設定される。
【0055】
以上で説明した起動逆転数について、その一例を
図4に示す。なお、その
図4は、複数種類のパイルパターンに対し、起動逆転数がどのように設定されるかを一覧表のかたちで示している。また、その
図4に示す一覧表では、表の最も左端の欄にパイルパターンが示されると共に、その各パイルパターンに対し、その右側に並ぶ欄において各パイルステップにおけるパイルピック及びそのパイルステップに対応する起動逆転数の割当値が示されている。具体的には、3L-2Fのパイルパターンのステップ番号が4(4th)の欄の「F/4」は、その織機サイクルのパイルピックがファストピックで、起動逆転数の割当値が4であることを示している。
【0056】
因みに、一般的なパイル織機は、複数種類のパイルパターンでの製織に対応できるようになっている。そこで、本実施例においても、第1の記憶器に記憶される起動逆転数は、複数種類のパイルパターンのそれぞれに応じたもの(例えば、
図4に示される全てのもの)が各パイルパターンに対応付けられるかたちで、システムデータとして第1の記憶器に記憶されている。
【0057】
また、前記した設定値のうちの起動可能区間は、織機サイクル内(主軸1回転中)において再起動が可能な区間であり、クランク角度の角度範囲で設定される区間である。言い換えると、その起動可能区間は、その設定された角度範囲以外のクランク角度では再起動を禁止するために定められた区間である。より詳しくは、その起動可能区間としては、再起動直後の緯入れが正常に行われるクランク角度の角度範囲が設定されている。そして、その角度範囲は、製織条件(例えば、織機回転数、緯入れノズルの噴射開始タイミング及び噴射圧力、製織されるパイル織物の幅等)に基づいて定められる。その上で、本実施例では、角度範囲241~340°が起動可能区間として設定されているものとする。
【0058】
現在値演算器62は、
図3に示すように記憶部64及び演算部65から構成されている。なお、その記憶部64は、本発明における第2の記憶器に相当する。そして、その記憶部64は、緯入れ不良の検知信号(以下、単に「検知信号」と言う。)S6の発生に伴い、その緯入れ不良が発生した織機サイクルのパイルピックに対応する数値(割当値)であって、第1の記憶器61に記憶された起動逆転数から読み出された割当値Nを現在値Pとして記憶するように構成されている。また、演算部65は、本発明における演算器に相当するものであって、記憶部64に記憶された現在値Pを織機の動作に伴う主軸24の正逆回転に伴ってクランク角度が0°を通過する度に更新するように構成されている。このように構成された現在値演算器62について、より詳しくは以下の通りである。
【0059】
先ず前提として、
図3に示すように、主制御装置30は、現在値演算器62における演算部65と接続されている。そして、主制御装置30は、緯糸フィーラ22から入力される緯糸到達信号S2に基づいて緯入れ不良が発生したと判別した場合には、前記した織機の停止制御を行うと共に、演算部65に対し検知信号S6を出力するように構成されている。
【0060】
さらに、主制御装置30は、前記のように入力設定装置40において入力設定されたパイルパターンを記憶している。そして、主制御装置30は、製織中において主軸24が1回転する毎に製織パターンにおける現在のステップNo.を更新すると共に、前記した駆動モータを制御すべく、パイルパターン及びパイルステップをその更新されたステップNo.に応じたものに更新する。したがって、主制御装置30は、各織機サイクルにおいて、その時点のパイルパターン及びパイルステップを把握している。その上で、主制御装置30は、前記のように検知信号S6を演算部65に対し出力する際、現在のパイルパターン及びパイルステップを示すパイル情報信号S8も演算部65に対し出力するように構成されている。
【0061】
そのような前提の基に、演算部65は、主制御装置30からの検知信号S6及びパイル情報信号S8の入力に伴い、そのパイル情報信号S8で示されるパイルパターン及びパイルステップに基づき、第1の記憶器61から起動逆転数の割当値Nを読み出すように構成されている。具体的には、主制御装置30から入力されたパイル情報信号S8に示されるパイルパターンが3L-2Fでパイルステップ(ステップ番号)が4の場合には、演算部65は、第1の記憶器61から起動逆転数の割当値Nとして4を読み出す。さらに、演算部65は、その読み出した割当値Nを現在値Pとして現在値演算器62における記憶部64に記憶させるように構成されている。
【0062】
また、演算部65は、前述のように記憶部64に記憶された現在値Pを、織機の動作に伴う主軸24の正逆回転に伴ってクランク角度が0°を通過する度に更新するように構成されている。より詳しくは、主制御装置30は、主軸24が駆動されるのに伴い、その回転方向を示す回転信号S10(正転信号/逆転信号)を演算部65に対し出力するように構成されている。なお、その回転信号S10は、製織中を除いた期間において出力される信号である。したがって、前記のような停止制御に伴う惰性回転中においても正転信号が演算部65に対し出力される。因みに、「製織中」とは、本実施例では、織機の運転開始時点から緯入れ不良等の停止原因の発生時点までの期間を示すものとする。また、回転信号S10は駆動制御装置50に対しても出力されており、駆動制御装置50は、その回転信号S10が示す回転方向に基づいて主軸モータ23を駆動制御するように構成されている。
【0063】
なお、主制御装置30は、エンコーダ28から入力される角度信号θに基づいてクランク角度を検出するようにも構成されている。さらに、主制御装置30は、クランク角度の0°を検出する毎に、演算部65に対しそのクランク角度0°を示す信号(0°信号)θaを出力するように構成されている。
【0064】
その上で、演算部65は、主制御装置30から正転信号が入力されている状態で前記の0°信号θaが入力されると、記憶部64から現在値Pを読み出してその現在値Pに対し1を加算すると共に、その加算後の数値を新たな現在値Pとして記憶部64に記憶させる(記憶部64に記憶されている現在値Pに上書きする)ように構成されている。また、演算部65は、主制御装置30から逆転信号が入力されている状態で前記の0°信号θaが入力されると、記憶部64から現在値Pを読み出してその現在値Pから1を減算すると共に、その減算後の数値を新たな現在値Pとして記憶部64に記憶させるように構成されている。
【0065】
そのように演算部65が構成されていることにより、記憶部64に記憶されている現在値Pは、織機の正転動作に伴ってクランク角度が0°を通過する毎に、0°通過前の数値に対し+1された数値に更新される。また、記憶部64に記憶されている現在値Pは、織機の逆転動作に伴ってクランク角度が0°を通過する毎に、0°通過前の数値に対し-1された数値に更新される。
【0066】
起動制御器63は、現在値Pが0以外の場合、及び現在値Pが0であってもクランク角度が起動可能区間として設定された角度範囲(241~340°)以外の場合には、運転ボタン操作による織機の起動を禁止するように構成されている。その起動制御器63について、より詳しくは以下の通りである。
【0067】
先ず前提として、
図3に示すように起動制御器63と接続される主制御装置30には運転ボタン26が接続されている。そして、主制御装置30は、運転ボタン26が操作されると、起動制御器63に対し運転信号S12を出力するように構成されている。また、起動制御器63は前記のように現在値演算器62とも接続されているが、その現在値演算器62における演算部65は、起動制御器63からの要求に応じて記憶部64で記憶されている現在値Pを起動制御器63に対し伝送するように構成されている。
【0068】
その上で、起動制御器63は、主制御装置30から運転信号S12が入力されると、前記要求のための要求信号S14を現在値演算器62(演算部65)に対し出力するように構成されている。さらに、起動制御器63は、現在値Pが0の場合、第1の記憶器61から起動可能区間の設定値を読み出すと共に、その設定値とエンコーダ28から入力された角度信号θに基づいて検出した現在のクランク角度とを比較するように構成されている。そして、起動制御器63は、その比較の結果として、クランク角度が起動可能区間の角度範囲内(241~340°)に入っている場合、前記の駆動制御装置50に対し運転指令信号S4を出力するように構成されている。換言すると、起動制御器63は、現在値Pが0で無い場合には前記の比較は行わず、その比較が行われない結果として駆動制御装置50に対し運転指令信号S4を出力しないように構成されている。
【0069】
その構成によれば、現在値演算器62(記憶部64)に記憶されている現在値Pが0の場合には、運転ボタン26の操作に伴って起動制御器63から駆動制御装置50に対し運転指令信号S4が出力され、織機が通常通り再起動される。一方で、現在値Pが0で無い場合には、運転ボタン26が操作されても起動制御器63からの運転指令信号S4の出力が行われないため、織機の再起動は行われないこととなる。すなわち、後者の場合には、運転ボタン26が操作されることによって主制御装置30から運転信号S12が出力されるが、それに伴う(駆動制御装置50による)織機の再起動が起動制限装置60によって制限されることとなる。
【0070】
なお、起動制御器63は、前記の後者の場合において、主制御装置30に対し再起動が禁止されたことを示す禁止信号S16を出力するようにも構成されている。一方で、主制御装置30は、その禁止信号S16が入力されるのに伴い、入力設定装置40に対し運転ボタン操作無効等のメッセージを表示させるように構成されている。
【0071】
以上のような本実施例における起動制限装置60を備えたパイル織機について、その作用を
図5、6に基づいて説明する。なお、
図5、6は、3L-2Fのパイルパターンにおいて、ステップ番号4のパイルステップである1番目のファストピックサイクルで緯入れ不良が発生した場合の例を示している。因みに、図の上側に示す「1st(Loose)」や「4th(Fast)」は、その織機サイクルにおけるパイルパターンのパイルステップ及びパイルピックを示している。例えば、「4th(Fast)」は、パイルステップのステップ番号が4のファストピックサイクルであることを示している。また、
図5は、織機停止から再起動までの間における緯糸の除去作業、並びに逆転ボタン25及び運転ボタン26の操作を正しい手順で行った場合のパイル織機の作用を示す説明図である。それに対し
図6は、運転ボタン26の操作を間違った手順で行った場合のパイル織機の作用を示す説明図である。先に
図5に基づいて緯糸の除去作業、並びに逆転ボタン25及び運転ボタン26の操作が正しい手順で行われた場合のパイル織機の作用を以下の(1)~(7)の順に説明する。
【0072】
(1)緯入れ不良が発生すると、前記のように主制御装置30により、織機の停止制御、及び起動制限装置60における現在値演算器62(演算部65)に対する検知信号S6及びパイル情報信号S8の出力が行われる。それに伴い、演算部65は、そのパイル情報信号S8に示されるパイルパターン(3L-2F)及びパイルステップ(ステップ番号4)に基づいて第1の記憶器61から起動逆転数の割当値Nである「4」を読み出すと共に、その「4」を現在値Pとして記憶部64に記憶させる。なお、
図5には、その現在値Pを緯入れ不良発生時点のクランク角度の近傍に示している(丸数字の4)。
【0073】
(2)前記の停止制御に伴って主軸24は前記一次停止位置のクランク角度まで惰性回転して停止するが、その回転は正転方向の回転であるため、主制御装置30は、その惰性回転中においては現在値演算器62(演算部65)に対し正転信号を出力している。また、その惰性回転は前述のように1回転程度であるため、その惰性回転中にクランク角度が0°を通過する。したがって、惰性回転中において、0°信号が1回だけ主制御装置30から演算部65に対し出力される。それにより、演算部65は、記憶部64に記憶されている現在値Pの「4」を読み出して1を加算すると共に、その加算後の数値である「5」を新たな現在値Pとして記憶部64に記憶させる。
【0074】
(3)次いで、織機は、前記一次停止位置のクランク角度において一時的に停止した後、前記した待機状態となる二次停止位置のクランク角度まで自動的に逆転動作される。そして、前述のようにその逆転動作中にクランク角度が0°を通過することから、その二次停止位置までの逆転中において、主制御装置30から逆転信号及び1回の0°信号が現在値演算器62(演算部65)に対し出力される。それにより、演算部65は、記憶部64に記憶されている現在値Pの「5」を読み出して1を減算すると共に、その減算後の数値である「4」を新たな現在値Pとして記憶部64に記憶させる。そして、その自動逆転後、織機は、その二次停止位置のクランク角度(クランク角度300°付近)で待機状態となる。
【0075】
(4)その待機状態となっている織機に作業者が到着すると、作業者は、逆転ボタン25を操作してその織機サイクルにおける180°付近まで織機を逆転させた上で、不良緯糸の除去作業を行う。
【0076】
(5)そして、本実施例では1番目のファストピックサイクルで緯入れ不良が発生した場合であることから、その前の3つのルーズピックサイクルで緯入れされた緯糸を全て取り除く作業が行われる。具体的には、前記と同様にして1つ前の織機サイクルにおける180°付近まで織機を逆転させてその緯糸を除去するという作業が繰り返されることで、その前の3織機サイクルで緯入れされた緯糸が除去された状態とされる。そして、そのように3つのルーズピックサイクルで緯入れされた緯糸を除去する過程においては、
図5に示すように、織機の逆転動作に伴ってクランク角度が0°を3回通過することから、前記と同様にしてクランク角度が0°を通過する毎に減算の処理が行われ、その除去作業が完了したした時点では、現在値演算器62における記憶部64に記憶されている現在値Pは「1」となっている。
【0077】
(6)その上で、作業者は、再起動を行うために逆転ボタン25を操作して、1つ前の織機サイクルにおける起動角度(300°)まで織機を逆転させる。なお、その逆転動作においてもクランク角度が0°を通過するため、減算の処理が行われ、記憶部64に記憶されている現在値Pは「0」となる。そして、その逆転の完了後、作業者が運転ボタン26を操作することにより、前述のように運転信号S12が主制御装置30から起動制御器63に対し出力される。
【0078】
(7)運転信号S12が入力されると、起動制御器63は、現在値Pが0であるか否かの判別を行う。そして、前述のように現在値Pが「0」であることから、起動制御器63は、前記した起動可能区間の角度範囲(本実施例では241~340°)と現在のクランク角度(起動角度:300°)との比較を行う。そして、現在のクランク角度が起動可能区間の角度範囲に入っていることから、起動制御器63から駆動制御装置50に対し運転指令信号S4が出力され、それにより織機が再起動される。
【0079】
次に
図6に基づいて運転ボタン26の操作を間違った手順で行った場合のパイル織機の作用を以下の(8)~(11)の順に説明する。
【0080】
(8)作業者が除去すべき緯糸の本数を失念したり或いは間違えたりして、未だ除去すべき緯糸が残っているにもかかわらず、再起動のための操作を行ってしまう場合がある。具体的には、作業者が不良緯糸を除去した後、3番目或いは2番目のルーズピックサイクルで緯入れされた緯糸を除去した段階で再起動が可能となったと思い込み、そこからの織機の逆転をその1つ前の織機サイクルにおける起動角度までとし、その起動角度まで織機を逆転させた段階で運転ボタン26を操作してしまう場合がある。
【0081】
(9)しかし、前述から明らかなように、その段階では現在値演算器62(記憶部64)に記憶されている現在値Pは0とはなっていない。したがって、その段階で作業者により運転ボタン26が操作されても起動制御器63は、前述のように前記の比較を行わず、駆動制御装置50に対する運転指令信号S4の出力を行わない。
【0082】
(10)また、作業者による除去作業が正しく行われた場合であっても、最終的に織機の再起動を行うクランク角度へ向けた逆転操作において作業者が操作を誤り、再起動直後の緯入れが正常に行われないクランク角度、すなわち、起動可能区間の角度範囲以外のクランク角度に織機を逆転させ、その状態で運転ボタン26を操作してしまう場合がある。しかし、その場合には、起動制御器63は、前記の比較は行うが、その時点のクランク角度が起動可能区間の角度範囲に入っていないため、その比較の結果として前記の場合と同様に駆動制御装置50に対する運転指令信号S4の出力を行わない。
【0083】
(11)このように、除去すべき緯糸が全て除去されていない場合(現在値Pが0でない場合)や、除去すべき緯糸が全て除去されている場合(現在値Pが0の場合)であっても再起動直後の緯入れが正常に行われないクランク角度(起動可能区間の角度範囲以外のクランク角度)に織機が逆転された状態となっている場合には、運転ボタン26が操作されても起動制限装置60から駆動制御装置50に対しては運転指令信号S4の出力が行われないこととなる。したがって、駆動制御装置50による主軸モータ23の駆動制御が再開されず、織機の再起動が行われないこととなる。すなわち、それらの場合には、運転ボタン26の操作に伴う織機の再起動が起動制限装置60によって制限されることとなる。
【0084】
なお、本発明は、以上で説明した実施例(前記実施例)に限定されるものではなく、以下の1)~3)のような変形した実施形態でも良い。
【0085】
1)前記実施例は、起動制限装置60について、ファストピックサイクル内における角度範囲として起動可能区間が予め設定されており、その起動可能区間以外のクランク角度では、運転ボタン26が操作されても駆動制御装置50に対し運転指令信号S4が出力されない構成とした。しかし、本発明は、その起動可能区間が設定されない構成としても良い。
【0086】
例えば、織機によっては、停止状態で逆転ボタン25が操作されるのに伴い、1つ前の織機サイクルにおける予め設定されたクランク角度まで織機が逆転すると共に、そのクランク角度で逆転が一旦停止するように構成されたものがある。したがって、そのように構成された織機は、その一旦停止するクランク角度を起動可能区間の角度範囲内に設定しておけば良い。その場合、正しい操作として、不良緯糸の除去作業後にそのクランク角度で逆転が停止するまで織機を逆転させた状態で、除去すべき緯糸が残っている場合には、さらに緯糸を除去すべく逆転ボタン25が操作され、除去すべき緯糸が全て除去されている場合には、織機を再起動させるべく運転ボタン26が操作される。それにより、少なくとも再起動直後の緯入れが正常に行われないクランク角度で作業者が運転ボタン26を操作するといった状況が発生しないため、そのような織機は、起動可能区間が設定されない構成としても良い。
【0087】
2)前記実施例の起動制限装置60は、本発明における演算器に相当する現在値演算器62における演算部65が、前述のように現在値Pを更新する機能に加え、現在値Pを読み出すと共に、その読み出した現在値Pを第2の記憶器に相当する現在値演算器62における記憶部64に記憶させる機能を有するものとなっている。すなわち、その起動制限装置60は、第1の記憶器61から現在値を読み出すと共にその現在値を第2の記憶器67に記憶させる機能を演算器が有する構成となっている。
【0088】
しかし、本発明による起動制限装置は、演算器が前記機能を有するように構成されたものに限らず、演算器とは別に前記機能を有する専用の部分を備える構成としても良い。具体的には、
図7に示すように、起動制限装置60Aは、前記した専用の部分としての現在値伝送器66を備えると共に、その現在値伝送器66が、第1の記憶器61、第2の記憶器67、及び主制御装置30と接続されるように構成されている。なお、その構成の場合、起動制限装置60Aは、演算器68が第1の記憶器61に対し接続されない構成となる。また、主制御装置30からの検知信号S6及びパイル情報信号S8は、演算器68ではなく、現在値伝送器66に対し出力される。その上で、現在値伝送器66は、検知信号S6の入力に伴い、パイル情報信号S8に示されるパイルパターン及びパイルステップに基づいて第1の記憶器61に記憶された起動逆転数から数値(前記実施例における割当値N)を読み出すと共に、その数値を現在値Pとして第2の記憶器67に記憶させる。それにより、前記実施例と同様に、緯入れ不良が発生した時点でその時点に応じた現在値Pが第2の記憶器67に記憶された状態となる。
【0089】
3)前記実施例では、起動制限装置60において、起動逆転数は、システムデータとして第1の記憶器61に記憶されており、そのパイル織機において想定される複数種類のパイルパターンによる製織に対応できるように、その複数種類のパイルパターンのそれぞれに応じた複数のものが記憶されている。しかし、本発明においては、起動逆転数は、その想定される複数種類のパイルパターンに応じた複数のものが第1の記憶器に記憶されるものに限らず、実際に製織に用いられるパイルパターンに応じたものだけが第1の記憶器に記憶されるものであっても良い。なお、その実際に製織に用いられるパイルパターンに応じた起動逆転数だけを第1の記憶器に記憶させる(設定する)態様として、例えば、以下の2つの態様(第1、第2の態様)が考えられる。
【0090】
第1の態様は、パイル織機における入力設定装置を、実際に製織に用いられるパイルパターンにおけるパイルステップに対し、起動逆転数の割当値が入力設定できるように構成する。具体的には第1の態様は、例えば、起動逆転数の割当値を設定する設定画面を入力設定装置に設け、その設定画面において、パイルパターンの各パイルステップに対し起動逆転数の割当値を入力設定できるようにする。なお、パイルパターンは、パターン設定画面で設定されたものがその設定画面に自動的に表示されるようすれば良い。
【0091】
その上で、入力設定装置は、その割当値の入力設定が完了した時点で、その入力設定された割当値(起動逆転数)をパイルパターンに対応付けるかたちで第1の記憶器に対し伝送するように構成すれば良い。そして、その構成の場合には、新たな製織が開始される前の準備段階において、その製織に用いられるパイルパターンが設定されるのに伴い、そのパイルパターンに応じた起動逆転数の入力設定が作業者によって行われることとなる。そして、その入力設定が完了されると、そのときの製織に用いられるパイルパターンに対応する起動逆転数が第1の記憶器に記憶された状態となる。なお、起動逆転数における割当値については、前述のようにパイルパターンとの関係が定められた(単純な)設定態様に基づいて定められるものであるため、その入力設定において作業者に掛かる負担は小さいと言える。
【0092】
第2の態様は、入力設定装置を、パターン設定画面でパイルパターンが設定されると、そのパイルパターンに応じた起動逆転数が自動的に設定されるように構成する。具体的には第2の態様は、例えば、入力設定装置に、入力設定されたパイルパターンを参照して前述のような設定態様に基づいて起動逆転数(割当値)を定めるプログラムを組み込んでおき、パターン設定画面でパイルパターンが入力設定されると、そのプログラムにより、入力設定されたパイルパターンに応じた起動逆転数が自動的に設定されるように構成する。
その上で、入力設定装置は、その求められた起動逆転数をパイルパターンに対応付けるかたちで第1の記憶器に対し伝送するように構成すれば良い。そして、その構成の場合には、前記の準備段階において、その製織に用いられるパイルパターンの設定が完了されると、そのパイルパターンに対応する起動逆転数が第1の記憶器に記憶された状態となる。
【0093】
本発明は、以上で説明した実施例、変形した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 パイル織機
2 パイル経糸(経糸)
3 ワープビーム(パイル経糸ビーム)
4 地経糸(経糸)
5 ワープビーム(地経糸ビーム)
6 ガイドロール
7 パイルテンションロール
8 綜絖枠
9 綜絖
11 筬
12 織前
13 テンションロール
14 開口
15 織布
16 クロスガイド
17 巻取ロール(サーフェイスロール)
18 ガイドロール
19 巻取ビーム
21 駆動モータ
22 緯糸フィーラ
23 主軸モータ
24 主軸
25 逆転ボタン
26 運転ボタン
27 正転ボタン
28 エンコーダ
30 主制御装置
40 入力設定装置
41 パターン設定画面
42 パイルパターンの設定表示欄
43 左端の欄
43a 数字
44 開口パターンの設定表示欄
44a 開口パターンの設定表示欄に対し上側の部分
45 カラー及び緯糸密度の設定表示欄
50 駆動制御装置
60、60A 起動制限装置
61 第1の記憶器
62 現在値演算器
63 起動制御器
64 記憶部
65 演算部
66 現在値伝送器
67 第2の記憶器
68 演算器
【0095】
S1 停止信号
S2 緯糸到達信号
S4 運転指令信号
S6 検知信号
S8 パイル情報信号
S10 回転信号
S12 運転信号
S14 要求信号
S16 禁止信号
C セル
N 割当値
P 現在値