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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】シート試験装置とシート試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20221017BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20221017BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01N3/32 K
B25J13/08 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019009010
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020118520
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】西形 光祐
(72)【発明者】
【氏名】大島 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】嘉山 武史
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0188088(US,A1)
【文献】特開2002-214095(JP,A)
【文献】特開平11-248409(JP,A)
【文献】特開昭60-058526(JP,A)
【文献】特開2002-131193(JP,A)
【文献】特開平03-024430(JP,A)
【文献】特開平09-061326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
G01N 3/00-3/62
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを加圧する加圧部を有した加圧ユニットと、
前記加圧部が前記シートを加圧した状態において前記加圧部に加わる負荷を検出する荷重検出手段と、
前記負荷が目標荷重範囲に入ったか否かを判断する手段と
前記目標荷重範囲に入った前記加圧部の位置に関する情報を取り込むことにより、最新の過去複数回分の位置データを更新する手段と、
前記最新の過去複数回分の位置データに基づいて前記加圧部を移動させるべき予測位置を求める手段と、
前記加圧部を前記予測位置へ移動させる手段と、
を具備し、
前記加圧ユニットが、
ダミーの腰部の下部に設けられた前記加圧部と、
前記加圧部をシートに加圧するための腰部用の加圧部材と、
前記ダミーの右脚用の加圧部材と、
前記ダミーの左脚用の加圧部材と、
前記右脚用の加圧部材を上下方向に移動させる右脚用アクチュエータと、
前記左脚用の加圧部材を上下方向に移動させる左脚用アクチュエータと、
前記腰部用の加圧部材に負荷された荷重を検出する腰部負荷センサと、
前記右脚用の加圧部材に負荷された荷重を検出する右脚負荷センサと、
前記左脚用の加圧部材に負荷された荷重を検出する左脚負荷センサと、
を具備したことを特徴とするシート試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシート試験装置において、
前記加圧ユニットを取付けたロボットアームを有したシート試験装置。
【請求項3】
加圧部によってシートを加圧する動作を複数回繰り返すシート試験方法において、
前記加圧部に負荷された荷重を検出し、
前記加圧部に負荷された荷重が目標荷重範囲に入ったか否かを判断し、
前記荷重が前記目標荷重範囲に入ればそのときの前記加圧部の位置に関する情報を位置データとして取り込み、
最新の過去複数回分の前記位置データに基づいて前記加圧部を移動させるべき予測位置を求め、
前記予測位置へ前記加圧部を移動させて前記シートを加圧し、
負荷された荷重が前記目標荷重範囲に入っていなければ前記加圧部の位置を前記予測位置に基づいて調整し、
前記荷重が前記目標荷重範囲に入ればそのときの前記加圧部の位置に関する情報を取り込むことにより最新の過去複数回分の位置データを更新すること、
を特徴とするシート試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗り物用シートや家具用シート等の耐久試験や品質評価等を行なうのに適したシート試験装置とシート試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの耐久性や品質評価を行なうためにシート試験装置が使用されている。従来のシート試験装置は、例えば特許文献1-3に記載されているように、負荷子あるいは摩擦子と称される加圧部によってシートを加圧しながら、シートの表面に沿って前記加圧部を移動させている。前記加圧部は、シートに乗降する実際の人間の動作を再現するようティーチングされたロボット等によって、同じ加圧動作を多数回(例えば1万回以上)繰り返すこともある。
【0003】
シートを加圧する前記加圧部は、シートに乗降する人間の動きと同じようにシート上を移動しながらシートを加圧する。加圧部に負荷される荷重は、試験項目に応じて変化させることもある。たとえば加圧部を移動させながら、シートの各部ごとに荷重を変化させている。その場合、加圧部の位置に応じて荷重を設定し、所定の荷重がシートの各部に負荷されるように加圧部を制御する必要がある。このため加圧部がシートから受ける反力(荷重)を負荷センサによって検出することにより、所定の荷重が負荷されるように加圧部の高さを制御することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-131194号公報
【文献】特開2007-127526号公報
【文献】中国特許出願公開第105928682号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者達はシートの各部を加圧する一連の試験項目を多数回繰り返す研究を鋭意行なってきた。しかし従来のシート試験装置では、試験項目が何度か繰り返されたときに、実際には所定の荷重がシートに負荷されていない事例があることが判明した。その原因と考えられるのはシートに使われている弾性部材の特性である。
【0006】
例えばウレタン等の樹脂発泡体からなる弾性部材は、乗員が着座したときの荷重によって圧縮され、厚さが減少する。また乗員がシートから離れて荷重が除かれると、多少の遅れ時間(いわばヒステリシス)を伴って元の厚さに復帰する。その復帰に要する時間は一定ではなく、さまざまな要因により変化する。例えばシートが使用される環境温度や荷重の大きさ、加圧された面積および加圧のストローク、加圧動作のインターバルなどによって、比較的早く元の厚さに復帰することもあれば、元の厚さに戻るまでにじわじわと時間がかかることもある。しかもシートに使われる弾性部材は、荷重の負荷と除荷が繰り返されると、へたり(永久変形)が生じ、経時的に厚さが減少してゆくことも荷重制御が正確に行なわれない原因となっていた。
【0007】
荷重制御を正確に行なうには、シートを加圧している加圧部をしばらくの間停止させた状態に保持し、負荷センサによって荷重を検出しつつ比例制御方式等によって目標荷重範囲に入るように加圧部の位置を調整するといった荷重制御も考えられなくはない。しかしそのような荷重制御は1回あたり3秒以上かかることがあるため、1万回以上のサイクルで試験が繰り返される場合に適用すると膨大な試験時間が必要となり、到底実用に耐えるものではなかった。これらの問題に対し、特許文献1-3等に示されている従来の試験装置は有効な手段を有していなかった。
【0008】
本発明の目的は、正確な荷重制御を行ないかつ能率良くシートの試験を行なうことができるシート試験装置とシート試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施形態のシート試験装置は、シートを加圧する加圧部を有した加圧ユニットと、前記加圧部が前記シートを加圧した状態において前記加圧部に加わる負荷を検出する荷重検出手段(例えば負荷センサ)と、前記負荷が目標荷重範囲に入ったか否かを判断する手段と、前記目標荷重範囲に入った前記加圧部の位置に関する情報を取り込むことにより最新の過去複数回分の位置データを更新する手段と、前記最新の過去複数回分の位置データに基づいて前記加圧部を移動させるべき予測位置を求める手段と、前記加圧部を前記予測位置へ移動させる手段(例えばロボットアームやダミーの脚部を駆動する電動アクチュエータ)とを具備している。
【0010】
前記加圧ユニットの一例は、ダミーの腰部用の加圧部材と、前記ダミーの右脚用の加圧部材と、前記ダミーの左脚用の加圧部材と、前記右脚用の加圧部材を上下方向に移動させる右脚用電動アクチュエータと、前記左脚用の加圧部材を上下方向に移動させる左脚用電動アクチュエータと、前記腰部用の加圧部材に負荷された荷重を検出する腰部負荷センサと、前記右脚用の加圧部材に負荷された荷重を検出する右脚負荷センサと、前記左脚用の加圧部材に負荷された荷重を検出する左脚負荷センサとを具備している。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシート試験装置とシート試験方法によれば、シートを加圧する動作が多数回繰り返される試験において、試験項目ごとに所定の荷重をシートに負荷させることができ、かつ、能率良くシートの試験を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1つの実施形態に係るシート試験装置の斜視図。
図2図1に示されたシート試験装置の加圧ユニットの側面図。
図3図2に示された加圧ユニットの正面図。
図4】同シート試験装置の電気的構成を示すブロック図。
図5】同シート試験装置の制御部の機能の一例を示すフローチャート。
図6】比例制御によって荷重を制御した場合の経過時間と荷重との関係を示す図。
図7】予測位置に基づいて荷重を制御した場合の経過時間と荷重との関係を示す図。
図8】試験のサイクル数と加圧部の高さおよび荷重との関係を示す図。
図9】試験が1万回以上繰り返された場合のサイクル数と荷重および加圧部の高さとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、1つの実施形態に係るシート試験装置とシート試験方法について、図1から図9を参照して説明する。
図1は、シートSを試験するためのシート試験装置10の一例を示している。試験される対象物であるシートSは、定盤11の所定の基準面に、支持構体12を介して固定されている。
【0014】
シート試験装置10は、一例として垂直多関節6軸形のロボットアーム15を備えたロボット16と、ロボットアーム15に取付けられた加圧ユニット20と、加圧ユニット20に取付けられたダミー21とを含んでいる。ロボット16と加圧ユニット20は、後に詳しく説明する電気的な構成を備えた制御部70(図4に示す)によって動作が制御される。
【0015】
ダミー21は、人体の腰部に相当する腰部21aと、人体の右脚に相当する右脚部21bと、人体の左脚に相当する左脚部21cとを含んでいる。このダミー21には、実際に人が着用するズボン等の衣類22(図1に示す)が着せられている。
【0016】
図2は加圧ユニット20の側面図である。図3は加圧ユニット20の正面図である。加圧ユニット20は、ロボットアーム15の先端に取付けられたベース部材30と、ベース部材30から延出するブラケット部31と、ブラケット部31に搭載された脚駆動部32と、脚駆動部32によって上下方向に回動する一対の脚駆動アーム33,34などを含んでいる。
【0017】
ベース部材30には上下方向に延びる腰部用の加圧部材40が設けられている。腰部用の加圧部材40の下端にダミー取付部41が設けられている。ダミー取付部41にダミー21の腰部21aが固定されている。腰部21aの下部は、シートSを加圧するための加圧部42(図2に示す)をなしている。
【0018】
加圧部42はヒップポイントHPを含んでいる。右脚部21bと左脚部21cとは、それぞれヒップポイントHPを中心に上下方向に回動する。加圧部42の下方にシートSが配置されている。この明細書では、説明の便宜上、基準面FLからヒップポイントHPまでの距離Hを加圧部の高さ(ヒップポイントHPの垂直位置)と称す。基準面FLの一例は、定盤11(図1に示す)に設定されている。
【0019】
ロボットアーム15によって加圧部材40がシートSに向かって降下すると、ダミー21の加圧部42が矢印P(図2に示す)で示す方向に移動することにより、シートSの上面S1等が加圧される。加圧部材40には、シートSに負荷された荷重を検出するためのロードセル等からなる腰部負荷センサ45が設けられている。腰部負荷センサ45は、腰部21aのための荷重検出手段の一例である。
【0020】
右脚用の脚駆動アーム33は、脚駆動部32に設けられたサーボモータ等の右脚用の電動アクチュエータ50(図3に示す)によって、軸52を中心に上下方向に回動する。左脚用の脚駆動アーム34は、脚駆動部32に設けられたサーボモータ等の左脚用の電動アクチュエータ51によって、軸53を中心に上下方向に回動する。右脚用の脚駆動アーム33に右脚用の加圧部材60が設けられている。この加圧部材60にダミー21の右脚部21bが取付けられている。左脚用の脚駆動アーム34には左脚用の加圧部材61が設けられている。この加圧部材61にダミー21の左脚部21cが取付けられている。
【0021】
ダミー21の右脚部21bと左脚部21cとは、図2中の2点鎖線UP,DWで示すように、中立位置Nを基準として、ヒップポイントHPを中心に互いに独立して上下方向に移動することができる。このため試験項目に応じて、腰部21aと右脚部21bと左脚部21cとを動作させることにより、実際に人間がシートに乗降する際の動作に近い動きをダミー21に再現させることができる。
【0022】
図3に示されるように右脚用の加圧部材60に、ダミー21の右脚部21bに負荷された荷重を検出するためのロードセル等からなる右脚負荷センサ65が設けられている。左脚用の加圧部材61には、ダミー21の左脚部21cに負荷された荷重を検出するためのロードセル等からなる左脚負荷センサ66が設けられている。これらのセンサ65,66は、脚部21b,21cのための荷重検出手段の一例である。
【0023】
図4は、シート試験装置10の電気的構成(制御部70)の一例を示したブロック図である。制御部70は、コントローラとして機能するCPU(Central Processing Unit)71を備えている。CPU71に、バスライン72を介してROM(Read Only Memory)73、RAM(Random Access Memory)74、通信インタフェース部75、表示/操作用ドライバ76、ロボットアーム用ドライバ77、右脚用ドライバ78、左脚用ドライバ79、腰部負荷センサ45、右脚負荷センサ65、左脚負荷センサ66などが接続されている。
【0024】
ROM73には、CPU71を制御するためのプログラムや各種の固定的データが格納されている。RAM74は、シートの各試験項目を実施するのに必要な各種データ等が格納されるメモリエリアを備えている。通信インタフェース部75は、外部機器との間で行なうデータ通信を制御する。表示/操作用ドライバ76は表示操作部80を制御する。表示操作部80を操作することにより、各試験項目に対応した情報をRAM74等のメモリに格納することができる。バスライン72には、通信インタフェース部75を介してパーソナルコンピュータ81が接続されている。パーソナルコンピュータ81は、表示部82と、入力操作部83と、着脱可能な記憶媒体84などを含んでいる。
【0025】
ロボットアーム用ドライバ77は、ロボットアーム15を動作させるためのアクチュエータ90を制御する。右脚用ドライバ78は、ダミー21の右脚部21bを駆動するための電動アクチュエータ50を制御する。左脚用ドライバ79は、ダミー21の左脚部21cを駆動するための電動アクチュエータ51を制御する。腰部負荷センサ45は、ダミー21の腰部21aに負荷された上下方向の荷重を検出する。右脚負荷センサ65は、ダミー21の右脚部21bに負荷された荷重を検出する。左脚負荷センサ66は、ダミー21の左脚部21cに負荷された荷重を検出する。
【0026】
制御部70は、入力された各試験項目に応じて、ロボット用アクチュエータ90と、右脚用の電動アクチュエータ50と、左脚用の電動アクチュエータ51とを制御することにより、試験項目に応じた位置に、ダミー21の腰部21aと右脚部21bと左脚部21cとを移動させる。例えばダミー21の腰部21aは、ロボットアーム15によってシートSに対し所定の垂直位置へ移動し、シートSを加圧する。ダミー21の右脚部21bと左脚部21cとは、それぞれ右脚用の電動アクチュエータ50と左脚用の電動アクチュエータ51とによって、それぞれ独立して所定の垂直位置へ移動し、シートSを加圧する。
【0027】
本実施形態のシート試験装置10によって行なわれるシートSの試験は、制御部70に格納されたコンピュータプログラムと、各試験項目ごとに設定されたデータに基づいてCPU71によって自動化されている。このシート試験装置10は、実際に人間がシートに乗降する際の体の動作や、運転中に生じる動作などを模して、一連の動作(上方からの加圧や水平方向等への移動)が同じ順序で多数回(例えば1万サイクル以上)繰り返される。この繰り返し試験により、シートの耐久性能を調査したり、シートに生じる破損箇所あるいは破損状況などを再現したりすることができる。
【0028】
図5は、前記制御部70に格納されたコンピュータプログラムの機能の一部を示すフローチャートである。試験項目は試験の目的に応じて多数存在するため、ここでは便宜上、ダミー21の腰部21aによってシートSの座部を加圧する場合について説明する。なお試験項目によっては、ダミー21の右脚部21bと左脚部21cとをそれぞれ別々に動作させることにより、実際の人間の乗降動作に近付けることも行なわれる。
【0029】
図5中のステップST1では、過去10回分の位置データが有るか否かが判断される。試験開始直後のため過去10回分の位置データが存在しない場合(ステップST1において“NO”)、ステップST2に移る。ステップST2では、ロボットアーム15によってダミー21の腰部21aを所定の高さに移動させ、その位置でシートSを加圧しステップST3に進む。
【0030】
ステップST3では、ダミー21の腰部21aに負荷された荷重が腰部負荷センサ45によって検出され、ステップST4に進む。ステップST4では、ステップST3で検出された荷重が目標荷重範囲Aに入っているか否かが判断される。ステップST4において目標荷重範囲Aに入っていないと判断された場合(ステップST4において“NO”)、ステップST5に進む。
【0031】
ステップST5では、検出された荷重に応じてダミー21の加圧部42の高さ(ヒップポイントHPの垂直位置)を変化させ、ステップST4に戻る。ステップST4において目標荷重範囲Aに入れば(ステップST4において“YES”)、ステップST6に移る。この荷重制御は例えば比例制御方式等の適宜のアルゴリズムに基づいて行なわれるが、図6に示されるようにオーバーシュートとアンダーシュートを繰り返しながら目標荷重範囲Aに収束するため、比較的長時間(3秒以上)かかることがある。
【0032】
ステップST6では、目標荷重に入った状態のダミー21の腰部21aの位置(加圧部42の垂直位置)に関する情報が位置データとして取り込まれて終了となり、次の試験項目の動作レシピに移行する。そして一連の試験項目が所定の動作レシピに基づいて実施されることにより、1回分のサイクルが終了となる。そののち次回以降の一連の動作レシピのサイクルが繰り返される。この明細書では、試験の初期段階に行なわれるステップST2からステップST5までの処理を、説明の便宜上「初期段階の制御」と称す。
【0033】
図5中のステップST1において、過去10回分の位置データが有ると判断された場合(ステップST1において“YES”)、ステップST10に移る。ステップST10では、最新の過去10回分の位置データの平均値を適宜のアルゴリズムによって算出し、予測位置を求める。そしてステップST11に進む。なお「予測位置」を求めるアルゴリズムは問わない。
【0034】
ステップST11では、ロボットアーム15によってダミー21の腰部21aを予測位置へ移動させることによりシートSが加圧され、ステップST12に進む。
ステップST12では、ダミー21の腰部21aに負荷された荷重が腰部負荷センサ45によって検出され、ステップST13に進む。ステップST13では、ステップST12で検出された荷重が目標荷重範囲に入っているか否かが判断される。ステップST13において目標荷重範囲に入っていないと判断された場合(ステップST13において“NO”)、ステップST14に進む。
【0035】
ステップST14では、検出された荷重に応じてダミー21の腰部21aの位置(加圧部の垂直位置)を前記予測位置に基づいて調整し、ステップST13に戻る。ステップST14で行なわれる荷重制御は予測位置に基づいて行なわれるため、図7に示されるようにオーバーシュートとアンダーシュートをほとんど生じることなく短時間で目標荷重範囲Aに収束させることができる。
【0036】
ステップST13において、目標荷重範囲に入れば(ステップST13において“YES”)、ステップST15に進む。ステップST15では、目標荷重範囲に入った状態のダミー21の腰部21aの位置(加圧部の垂直位置)に関する情報が、最新の位置データとしてメモリに加わることにより、最新の過去10回分の位置データが更新されて終了となり、次の試験項目の一連の動作レシピに移る。この明細書では、ステップST10からステップST15までの処理、すなわち予測位置を用いる制御を、説明の便宜上「学習アシスト制御」と称す。
【0037】
図8はシートの耐久試験等において、1回目からのサイクル数(No.)と、各サイクル数(No.)ごとの加圧部の高さ(垂直位置)および荷重の具体例を示している。以下に図8を参照しながら、図5のフローチャートに示された各ステップとともに説明する。なお本実施形態は過去10回分の最新の位置データに基づいて予測位置を求めた場合である。
【0038】
図8中のサイクル数No.1からNo.13までは、初期段階の制御(図5中のステップST2-ST6)によって、加圧部42を目標荷重範囲Aに入れた場合を示している。この初期段階の制御は、図6に示すように目標荷重範囲Aに収束するまでに比較的時間がかかるが、回数が少ないため特に問題にならない。
【0039】
図8中のサイクル数No.14では、図5に示すステップST10により、最新の過去10回分の位置データ(No.4-No.13の位置データ)から予測位置を求め、ロボット16によって、加圧部42を予測位置へ移動させた(ステップST11)。しかしこの予測位置では目標荷重範囲Aに入らなかったため、図5中のステップST14において予測位置からの荷重制御を行なったことにより、短時間で目標荷重範囲Aに入れることができた。このときの加圧部の位置(調整後の実際の加圧部の垂直位置)に関する情報を最新の位置データとして取込むことにより、最新の過去10回分の位置データを更新した(ステップST15)。
【0040】
図8中のサイクル数No.15もNo.14と同様であり、最新の過去10回分の位置データ(No.5-No.14の位置データ)から予測位置を求め、この予測位置へ加圧部42を移動させた。しかしこの予測位置では目標荷重範囲Aに入らなかったため、図5中のステップST14において予測位置からの荷重制御を行なったことにより、短時間で目標荷重範囲Aに入れることができた。このときの加圧部の位置(調整後の実際の加圧部の垂直位置)に関する情報を最新の位置データとして取込むことにより、最新の過去10回分の位置データを更新した。
【0041】
図8中のサイクル数No.16とNo.17もNo.15と同様であり、それぞれ最新の過去10回分の位置データから予測位置を求め、この予測位置へ加圧部42を移動させた。この場合も目標荷重範囲Aに入らなかったが、図5中のステップST14において予測位置からの荷重制御を行なったことにより、短時間で目標荷重範囲Aに入れることができた。
【0042】
図8中のサイクル数No.17からNo.22も、それぞれ最新の過去10回分の位置データから予測位置を求め、この予測位置へ加圧部42を移動させた。この場合、加圧部42を予測位置に移動させるだけの1回の動作で目標荷重範囲Aに入ったため、図5中のステップST15に進み、最新の過去10回分の位置データを更新した。
【0043】
図8中のサイクル数No.23とNo.24も、それぞれ予測位置へ加圧部42を移動させたが、目標荷重範囲Aに入らなかった。しかしNo.14-No.17と同様に予測位置に基づく荷重制御(図5中のステップST14)を行なったことにより、短時間で目標荷重範囲Aに入れることができた。
【0044】
以上説明したように本実施形態のシート試験方法は、加圧部42によってシートSを加圧する動作を多数回繰り返すが、試験開始直後で位置データが所定数(例えば10個)に達するまでは、初期段階の制御(図5中のステップST2-ST6)を行ない、位置データが所定数に達したのちは、予測位置に基づいて学習アシスト制御(図5中のステップST10-ST15)を行なうものである。
【0045】
すなわち初期段階の制御(図5中のステップST2-ST6)は、予測位置を求めるのに必要な数の位置データが蓄積されていないため下記(1)(2)の処理が行なわれる。
(1)比例制御方式等の適宜のアルゴリズムを用いて目標荷重範囲Aに入るように加圧部42の位置を調整し(ステップST2-ST5)、
(2)目標荷重範囲に入った状態において加圧部42の位置に関する情報を位置データに加える(ステップST6)。
【0046】
学習アシスト制御(図5中のステップST10-ST15)では、
(3)最新の過去複数回分(例えば10回分)の位置データに基づいて、加圧部42を移動させるべき予測位置を求め(ステップST10)、
(4)前記予測位置に加圧部42を移動させてシートSを加圧し(ステップST11)、
(5)検出された荷重が目標荷重範囲Aに入っているか否かを判断し(ステップST12-ST13)、
(6)荷重が目標荷重範囲Aに入っていなければ、目標荷重範囲Aに入るように加圧部42の位置を前記予測位置に基いて調整し(ステップST14)、
(7)目標荷重範囲Aに入ればそのときの加圧部42の位置に関する情報を位置データとして取り込むことにより、最新の過去複数回分の位置データを更新する(ステップST15)。
【0047】
予測位置を用いる本実施形態の学習アシスト制御によれば、加圧部42を予測位置に移動させるだけの1回の動作で目標荷重範囲Aに入ることがある。もし目標荷重範囲Aに入らない場合でも、目標荷重範囲Aからの差が小さいため、ステップST14において予測位置に基づく荷重制御を行なうことにより、短時間に目標荷重範囲Aに入れることができる。図7に示すように予測位置に基づく荷重制御は、短時間で目標荷重範囲Aに収束するため、サイクル数が多い場合に試験を能率良く行なう上で特に有効である。
【0048】
図9は、サイクル数が1万回を超える試験を行なった場合のサイクル数と、荷重および加圧部の高さとの関係を示している。横軸がサイクル数である。縦軸に加圧部の高さ(ヒップポイントHPの垂直位置)と荷重とが示されている。試験開始直後は加圧部の高さがH1であったのに対し、サイクル数が5千回、1万回と多くなるに従い、加圧部の高さがH2、H3と、少しずつ下がっている。
【0049】
その原因は、サイクル数が多くなるに従い、シートの永久変形(へたり)や弾性復元力の減少などにより、シートの上面の位置が下がったためと思われる。従来のように加圧部の高さが一定となるように制御を行なうと、サイクル数が多くなるにつれて次第に荷重が小さくなるため、所定の荷重が負荷されていないこととなる。しかし本実施形態では、予測位置に基づいて加圧部の高さを制御する学習アシスト制御を行なうため、シートの経時的変化の影響を受けることなく、目標荷重範囲Aで試験を行なうことができた。
【0050】
シートの試験項目によっては、実際の人間の乗降動作に近付けるために、ダミー21の右脚部21bと左脚部21cとをそれぞれ独立して動作させることもある。その場合には、右脚部21bに負荷された荷重を右脚負荷センサ65によって検出し、また左脚部21cに負荷された荷重を左脚負荷センサ66によって検出する。そして前記実施形態で説明した腰部21aによる加圧の場合と同様の学習アシスト制御(図5に示すステップST10-ST15)により、右脚用の加圧部材60と右脚用の加圧部材60とを、それぞれ電動アクチュエータ50,51によって予測位置に移動させることにより、右脚部21bと左脚部21cの荷重制御を行なう。
【0051】
なお本発明を実施するに当たって、ロボットやダミーの形状や構成等は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の形態のものを採用できる。またダミーの加圧部や荷重検出手段、制御部など、シート試験装置のための各要素の構成や配置等の態様を必要に応じて種々に変更して実施できることは言うまでもない。また前記加圧部がダミー以外の試験用部材に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0052】
S…シート、10…シート試験装置、15…ロボットアーム、16…ロボット、20…加圧ユニット、21…ダミー、21a…腰部、21b…右脚部、21c…左脚部、32…脚駆動部、33,34…脚駆動アーム、40…腰部用の加圧部材、42…加圧部、45…腰部負荷センサ(荷重検出手段)、50…右脚用の電動アクチュエータ、51…左脚用の電動アクチュエータ、60…右脚用の加圧部材、61…左脚用の加圧部材、65…右脚負荷センサ(荷重検出手段)、66…左脚負荷センサ(荷重検出手段)、70…制御部、90…ロボット用アクチュエータ、A…目標荷重範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9