(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】温度補償型てんぷ、ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
G04B 17/22 20060101AFI20221017BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
G04B17/22 Z
G04B17/06 A
(21)【出願番号】P 2019031407
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 正洋
(72)【発明者】
【氏名】川内谷 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 久
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-142326(JP,A)
【文献】実公昭44-12842(JP,Y1)
【文献】実公昭36-2064(JP,Y1)
【文献】特公昭43-26014(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/22
G04B 17/06
G12B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線に沿って延びるてん真と、
ひげぜんまいの動力によって前記第1軸線回りに回動可能に前記てん真に設けられるとともに、熱膨張率の異なる高膨張部及び低膨張部を有するてんぷ本体と、を備え、
前記てんぷ本体は、
前記高膨張部及び前記低膨張部の熱膨張率の違いにより、温度変化に応じて前記第1軸線に直交する径方向に変形可能な変形部と、
前記径方向に沿う第2軸線に対して偏心した位置に重心を有する錘部を有し、少なくとも前記錘部が前記第2軸線に沿う方向への移動が規制された状態で、前記第2軸線回りに回転可能に前記変形部に取り付けられる調整部と、を備えている温度補償型てんぷ。
【請求項2】
前記変形部は、前記高膨張部及び前記低膨張部が前記径方向に重ね合わされるとともに、前記第1軸線回りの周方向に沿って延在するバイメタルであり、
前記てんぷ本体は、前記変形部のうち前記周方向における第1端部と、前記てん真と、の間を連結する連結部を備えている請求項1に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項3】
前記調整部は、
前記第2軸線に沿って延びるとともに、前記変形部に支持される軸部と、
前記軸部のうち、前記変形部に対して前記径方向の外側に位置する前記錘部と、を備えている請求項1又は請求項2に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項4】
前記軸部と前記錘部は、一体に形成されている請求項3に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項5】
前記軸部と前記錘部は、別体で形成されている請求項3に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項6】
前記錘部には、前記径方向から見た側面視において、前記第2軸線を中心とする仮想円の接線方向に沿う平面取り部が形成され、
前記変形部における前記第1軸線方向を向く端縁は、前記平面取り部が前記第1軸線方向を向いた状態で、前記平面取り部と平行に形成されている請求項3から請求項5の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項7】
前記変形部には、前記調整部が着脱可能に装着される取付部が、前記第1軸線回りの周方向に間隔をあけて配設されている請求項1から請求項6の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の温度補償型てんぷを備えていることを特徴とするムーブメント。
【請求項9】
請求項8記載のムーブメントを備えていることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償型てんぷ、ムーブメント及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の調速機として機能するてんぷは、軸線に沿って延びるてん真と、てん真に固定されたてん輪と、ひげぜんまいと、を備えている。てん真及びてん輪は、ひげぜんまいの伸縮に伴い、軸線回りに周期的に正逆回動(振動)する。
【0003】
上述したてんぷでは、振動周期が予め決められた規定値内に設定されていることが重要とされている。仮に、振動周期が規定値からずれてしまうと、機械式時計の歩度(時計の遅れ、進みの度合い)が変化する。
【0004】
てんぷの振動周期Tは、次式(1)で表される。式(1)において、Iはてんぷの「慣性モーメント」を示し、Kはひげぜんまいの「ばね定数」を示している。
【0005】
【0006】
式(1)に基づくと、温度変化等により、てんぷの慣性モーメントIやひげぜんまいのばね定数Kが変化すると、てんぷの振動周期Tが変化する。具体的に、上述したてん輪は、熱膨張率が正の材料(温度上昇によって膨張する材料)により形成される場合がある。この場合、温度が上昇すると、てん輪が拡径し、慣性モーメントIが増加する。
そのため、温度上昇に伴い、慣性モーメントIが増加することで、振動周期Tが長くなる。その結果、てんぷの振動周期Tが低温で短く、高温で長くなることで、時計の温度特性が低温で進み、高温で遅れることになる。
【0007】
振動周期Tの温度依存性を改善するための対策として、てん輪における回転対称となる位置に、バイメタルを設ける構成が考えられる(例えば、下記非特許文献1参照)。バイメタルは、熱膨張率が異なる板材を積層して形成される。
この構成によれば、温度上昇時において、各板材の熱膨張率の差により、バイメタルが例えば径方向の内側に向けて変形する。これにより、てん輪の平均径が縮径することで、慣性モーメントIを低下させることができる。その結果、慣性モーメントIの温度特性を補正でき、振動周期Tの温度依存性を抑えることができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】スイス時計大学偏、「時計学理論(The Theory of Horology)」、英語版第2版、2003年4月、p136-137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば製造ばらつき等によってバイメタルが所望の形状に形成されなかった場合、バイメタルの温度係数(温度変化に対するバイメタルの変形量)が不安定になり、バイメタルによる温度特性の補正が正確に行われない可能性があった。このような場合、バイメタルにチラねじを取り付け、慣性モーメントIの温度特性(温度変化に対する慣性モーメントIの変化量)を調整する方法が考えられる。
【0010】
しかしながら、チラねじによる温度特性の調整では、取付の有無や取付位置の変更、取り付けるチラねじの重量の調整等しかできなかったため、温度特性の微調整や連続的な調整を行うことができなかった。
【0011】
本発明は、歩度の変化を抑えつつ、慣性モーメントの温度特性の調整を簡単、かつ高精度に行うことができ、温度補償性能に優れた高品質な温度補償型てんぷ、ムーブメント及び時計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る温度補償型てんぷは、第1軸線に沿って延びるてん真と、ひげぜんまいの動力によって前記第1軸線回りに回動可能に前記てん真に設けられるとともに、熱膨張率の異なる高膨張部及び低膨張部を有するてんぷ本体と、を備え、前記てんぷ本体は、前記高膨張部及び前記低膨張部の熱膨張率の違いにより、温度変化に応じて前記第1軸線に直交する径方向に変形可能な変形部と、前記径方向に沿う第2軸線に対して偏心した位置に重心を有する錘部を有し、少なくとも前記錘部が前記第2軸線に沿う方向への移動が規制された状態で、前記第2軸線回りに回転可能に前記変形部に取り付けられる調整部と、を備えている。
【0013】
本態様によれば、変形部は周方向の位置によって半径変形量(変形前後における第1軸線からの距離)が異なるので、錘部の重心が周方向で変化することで、変形部の変形に伴う錘部の半径変形量を変更(調整)することができる。
特に、本態様では、錘部の回転位置によって錘部の重心を周方向で連続的に変化させることができるので、錘部の半径変形量の微調整が可能になる。
しかも、本態様では、錘部が第2軸線方向への移動が規制された状態で回転するので、錘部の回転に伴う錘部の径方向への移動を抑制できる。これにより、錘部の重心位置の変更に伴うてんぷ本体の平均径(慣性モーメント)の変動を抑制できる。
その結果、歩度の変化を抑えつつ、慣性モーメントの温度特性の調整を簡単、かつ高精度に行うことができ、温度補償性能に優れた高品質な温度補償型てんぷを提供できる。
【0014】
上記態様において、前記変形部は、前記高膨張部及び前記低膨張部が前記径方向に重ね合わされるとともに、前記第1軸線回りの周方向に沿って延在するバイメタルであり、前記てんぷ本体は、前記変形部のうち前記周方向における第1端部と、前記てん真と、の間を連結する連結部を備えていてもよい。
本態様によれば、変形部の変形によりてんぷ本体の平均径を変化させ、慣性モーメントの温度特性を補正できる。
しかも、てんぷのリム部のみにバイメタルとして変形部を設けることで、てんぷ本体の全体で変形部を構成する場合等に比べ、連結部の設計自由度を向上させることができる。また、変形部が第1端部を起点に片持ちで延在することになるので、固定端から自由端に向かうに従い温度変化に対する変形部の半径変形量が漸次大きくなる。そのため、錘部の重心を周方向で変化させることで、温度変化に対する錘部の半径変形量を漸次小さく又は大きくすることができる。その結果、慣性モーメントの温度特性の調整をより簡単に行うことができる。
【0015】
上記態様において、前記調整部は、前記第2軸線に沿って延びるとともに、前記変形部に支持される軸部と、前記軸部のうち、前記変形部に対して前記径方向の外側に位置する前記錘部と、を備えていてもよい。
本態様によれば、錘部をてんぷ本体の外側から操作することができるので、温度特性の調整が容易になる。
【0016】
上記態様において、前記軸部と前記錘部は、一体に形成されていてもよい。
本態様によれば、軸部と錘部とが一体に形成されているので、部品点数の削減や構成の簡素化を図ることができる。
【0017】
上記態様において、前記軸部と前記錘部は、別体で形成されていてもよい。
本態様によれば、軸部と錘部とのそれぞれに適した材料等を選択できる。そのため、設計自由度の向上を図ることができる。
【0018】
上記態様において、前記錘部には、前記径方向から見た側面視において、前記第2軸線を中心とする仮想円の接線方向に沿う平面取り部が形成され、前記変形部における前記第1軸線方向を向く端縁は、前記平面取り部が前記第1軸線方向を向いた状態で、前記平面取り部と平行に形成されていてもよい。
本態様によれば、平面取り部が第1軸線方向を向いた状態で、変形部からの錘部の第1軸線方向での突出量を抑えることができる。これにより、てん輪の第1軸線方向での大型化を抑制できる。
また、錘部の操作時には、平面取り部を用いて錘部を保持することで、工具と錘部との回り止めを行うことができる。そのため、錘部に工具係止部を別途設ける必要がないので、錘部の設計自由度を向上させることができる。
【0019】
上記態様において、前記変形部には、前記調整部が着脱可能に装着される取付部が、前記第1軸線回りの周方向に間隔をあけて配設されていてもよい。
本態様によれば、変形部に複数の取付部が形成されているので、変形部に取り付ける調整部の数や、調整部の取付位置を変更することができる。これにより、慣性モーメントの温度特性をより高精度、かつ広範囲に調整できる。
【0020】
本発明の一態様に係るムーブメントは、上記態様の温度補償型てんぷを備えていてもよい。
本発明の一態様に係る時計は、上記態様のムーブメントを備えていてもよい。
本態様によれば、上記本態様の温度補償型てんぷを備えているため、高品質なムーブメント及び時計を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、歩度の変化を抑えつつ、慣性モーメントの温度特性の調整を簡単、かつ高精度に行うことができ、温度補償性能に優れた高品質な温度補償型てんぷ、ムーブメント及び時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】第1実施形態に係るムーブメントを表側から見た平面図である。
【
図3】第1実施形態に係るてんぷを表側から見た斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係るてんぷの部分平面図である。
【
図7】変形部の動作を説明するためのてんぷの部分平面図である。
【
図8】調整部の動作を説明するためのてんぷの側面図である。
【
図9】調整部の動作を説明するためのてんぷの側面図である。
【
図10】調整部の動作を説明するためのてんぷの部分平面図である。
【
図11】調整部の動作を説明するためのてんぷの部分平面図である。
【
図12】第2実施形態に係るてんぷの部分断面図である。
【
図14】第3実施形態に係るてんぷの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する各実施形態において、対応する構成には同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
(第1実施形態)
[時計]
図1は、時計1の外観図である。なお、以下に示す各図では、図面を見やすくするため、時計用部品のうち一部の図示を省略しているとともに、各時計用部品を簡略化して図示している場合がある。
図1に示すように、本実施形態の時計1は、ムーブメント2や文字板3、各種指針4~6等が時計ケース7内に組み込まれて構成されている。
【0024】
時計ケース7は、ケース本体11と、ケース蓋(不図示)と、カバーガラス12と、を備えている。ケース本体11の側面のうち、3時位置(
図1の右側)にはりゅうず15が設けられている。りゅうず15は、ケース本体11の外側からムーブメント2を操作するためのものである。りゅうず15は、ケース本体11内に挿通された巻真19に固定されている。
【0025】
[ムーブメント]
図2は、ムーブメント2を表側から見た平面図である。
図2に示すように、ムーブメント2は、ムーブメント2の基板を構成する地板21に複数の回転体(歯車等)が回転可能に支持されて構成されている。なお、以下の説明では、地板21に対して時計ケース7のカバーガラス12側(文字板3側)をムーブメント2の「裏側」と称し、ケース蓋側(文字板3側とは反対側)をムーブメント2の「表側」と称する。また、以下で説明する各回転体は、何れもムーブメント2の表裏面方向を軸方向として設けられている。
【0026】
地板21には、上述した巻真19が組み込まれている。巻真19は、日付や時刻の修正に用いられる。巻真19は、その軸線周りに回転可能、かつ軸方向に移動可能とされている。巻真19は、おしどり23、かんぬき24、かんぬきばね25及び裏押さえ26を含む切換装置によって、軸方向の位置が決められている。
巻真19を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車31が回転する。きち車31の回転により丸穴車32及び角穴車33が順に回転し、香箱車34に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
【0027】
香箱車34は、地板21と香箱受35との間で回転可能に支持されている。二番車41、三番車42、四番車43は、地板21と輪列受45との間で回転可能に支持されている。
ぜんまいの復元力により香箱車34が回転すると、香箱車34の回転により二番車41、三番車42及び四番車43が順に回転する。香箱車34、二番車41、三番車42及び四番車43は、表輪列を構成する。
【0028】
上述した表輪列のうち、二番車41には、分針5(
図1参照)が取り付けられている。二番車41の回転に伴って回転する筒車(不図示)には、上述した時針4が取り付けられている。また、秒針6(
図1参照)は、四番車43の回転に基づいて回転するように構成されている。
【0029】
ムーブメント2には、調速脱進機51が搭載されている。
調速脱進機51は、がんぎ車52、アンクル53及びてんぷ(温度補償型てんぷ)54を有している。
【0030】
がんぎ車52は、地板21と輪列受45との間で回転可能に支持されている。がんぎ車52は、四番車43の回転に伴い回転する。
アンクル53は、地板21とアンクル受55との間で往復回動可能に支持されている。アンクル53は、一対のつめ石56a,56bを備えている。つめ石56a,56bは、アンクル53の往復回動に伴いがんぎ車52のがんぎ歯車52aに交互に係合する。がんぎ車52は、一対のつめ石56a,56bのうち、一方のつめ石ががんぎ歯車52aに係合しているとき、一時的に回転が停止する。また、がんぎ車52は、一対のつめ石56a,56bががんぎ歯車52aから離脱しているとき、回転する。これらの動作が連続的に繰り返されることにより、がんぎ車52が間欠的に回転する。そして、がんぎ車52の間欠的な回転運動により、上述した輪列(表輪列)が間欠的に動作することで、表輪列の回転が制御される。
【0031】
<てんぷ>
図3は、てんぷ54を表側から見た斜視図である。
図4は、てんぷ54の側面図である。
図3、
図4に示すように、てんぷ54は、がんぎ車52を調速する(がんぎ車52を一定速度で脱進させる。)。てんぷ54は、てん真61、てん輪62、ひげぜんまい63及び調整部64を有している。なお、てん輪62及び調整部64により、本実施形態のてんぷ本体を構成している。
【0032】
図4に示すように、てん真61は、地板21とてんぷ受65との間で、第1軸線O1回りに回動可能に支持されている。以下の説明では、第1軸線O1に沿う方向を第1軸線方向といい、第1軸線O1に直交する方向を第1径方向といい、第1軸線O1回りに周回する方向を第1周方向という場合がある。この場合、第1軸線方向は、表裏面方向に一致している。
【0033】
てん真61は、ひげぜんまい63から伝えられた動力によって第1軸線O1回りに一定の振動周期で正逆回動する。てん真61における第1軸線方向の表側端部は、てんぷ受65に支持されている。てん真61における第1軸線方向の裏側端部は、地板21に支持されている。
【0034】
てん真61における第1軸線方向の裏側端部は、振り座67に嵌合されている。振り座67は、第1軸線O1と同軸上に配置された筒状に形成されている。振り座67における第1周方向の一部には、振り石68が設けられている。振り石68は、てんぷ54の往復回動に同期してアンクル53のアンクルハコとの係合及び離脱を繰り返す。これにより、アンクル53が往復回動することで、つめ石56a,56bががんぎ車52との係合及び離脱を繰り返す。
【0035】
図3に示すように、てん輪62は、てん真61における振り座67に対して第1軸線方向の表側に固定されている。てん輪62は、連結部70と、リム部73と、を備えている。
【0036】
連結部70は、てん真61とリム部73との間を連結している。連結部70は、ハブ部71及びあみだ部72を備えている。
ハブ部71は、てん真61に圧入等によって固定されている。
あみだ部72は、ハブ部71から第1径方向の外側に突設されている。本実施形態において、あみだ部72は、第1軸線O1に対して放射状に3本形成されている。なお、第1周方向におけるあみだ部72の位置や、あみだ部72の本数等は適宜変更が可能である。
【0037】
リム部73は、複数の変形部80を備えている。各変形部80は、上述した各あみだ部72から第1周方向の一方側に向けてそれぞれ片持ちで延在している。本実施形態において、変形部80は、第1軸線O1回りで回転対称(本実施形態では、3回対称)に形成されている。回転対象とは、図形を特徴づけるための表現の一例であり、公知の概念である。例えばnを2以上の整数とし、ある中心(2次元図形の場合)又は軸(3次元図形の場合)の周りを(360/n)°回転させると自らと重なる性質を、n回対称、又はn相対称、(360/n)度対称等という。例えば、n=3の場合、120°回転させると自らと重なる3回対称となる。
【0038】
リム部73は、各変形部80が、同一円周上において、第1周方向に間隔あけて配置されることで、全体として第1軸線O1と同軸上に配置された環状に形成されている。リム部73は、連結部70の周囲を第1径方向の外側から囲繞している。
【0039】
変形部80は、熱膨張率の異なる2枚の板材が第1径方向に重ね合わされた、いわゆるバイメタルである。変形部80は、第1径方向の内側に位置する低膨張部81と、低膨張部81の第1径方向の外側に位置する高膨張部82と、を備えている。変形部80は、低膨張部81及び高膨張部82の熱膨張率の差を利用して、温度変化に伴い固定端(あみだ部72との境界部分)を起点にして第1径方向に変形可能に構成されている。本実施形態では、高膨張部82が第1径方向の外側に位置しているため、温度上昇した場合に、変形部80が第1径方向の内側に向けて変形する。なお、図示の例において、低膨張部81の第1径方向での厚さは、高膨張部82よりも厚くなっている。但し、低膨張部81及び高膨張部82の板厚は適宜変更可能である。
【0040】
本実施形態において、低膨張部81には、インバー(Ni-Fe合金)やシリコン、セラミックス等が好適に用いられる。高膨張部82には、銅や銅合金、アルミニウム等が好適に用いられる。但し、低膨張部81及び高膨張部82の材料は、適宜変更が可能である。
【0041】
変形部80の自由端(第1周方向における先端部)には、取付孔(取付部)85が形成されている。取付孔85は、変形部80を第1径方向に貫通している。なお、取付孔85の形成位置は、各変形部80において、互いに回転対象となる位置に形成されていれば、適宜変更が可能である。
【0042】
ひげぜんまい63は、第1軸線方向から見た平面視で渦巻状の平ひげである。ひげぜんまい63は、アルキメデス曲線に沿うように巻回されている。ひげぜんまい63の内端部は、ひげ玉87を介しててん真61に連結されている。ひげぜんまい63の外端部は、ひげ持(不図示)を介しててんぷ受65に接続されている。ひげぜんまい63は、四番車43からがんぎ車52に伝えられた動力を蓄え、てん真61に伝える役割を果たしている。
【0043】
本実施形態において、ひげぜんまい63には、恒弾性材料(例えば、コエリンバー等)が好適に用いられる。ひげぜんまい63は、使用温度範囲でのヤング率が正の温度特性になっている。この場合、ひげぜんまい63のヤング率の温度係数は、温度変化に伴うてん輪62の慣性モーメントの温度特性に対して、てんぷ54の振動周期がなるべく一定になるように調整されている。但し、ひげぜんまい63は、恒弾性材料以外の材料により形成してもよい。この場合、ひげぜんまい63としては、ヤング率が負の温度係数(温度上昇によってばね定数が低下する特性)を有する一般的な鋼材料を用いることが可能である。
【0044】
<調整部>
図5は、てんぷ54の部分平面図である。
図3、
図5に示すように、調整部64は、上述した各変形部80に各別に取り付けられている。すなわち、各調整部64は、第1軸線O1回りで回転対象となる位置に設けられている。調整部64は、係合部100と、ピン部材101と、錘部102と、を備えている。調整部64は、第2軸線O2に沿って延びる棒状に形成されている。本実施形態において、第2軸線O2は、第1径方向に沿って延在している。以下の説明では、第2軸線O2に沿う方向を第2軸線方向(第1径方向)といい、第2軸線O2に直交する方向を第2径方向といい、第2軸線O2回りに周回する方向を第2周方向という場合がある。
【0045】
係合部100は、第2軸線方向に延びる段付きの筒状に形成されている。具体的に、係合部100は、第2軸線方向の内側(第1径方向の内側)に位置する大径部110と、大径部110に対して第2軸線方向の外側に位置する小径部111と、を有している。
【0046】
小径部111は、変形部80の取付孔85内に第2軸線方向の内側から圧入されている。これにより、係合部100は、大径部110と小径部111との間の段差面112が変形部80の内周面に第2軸線方向の内側から当接又は近接した状態で、変形部80に固定(係合)されている。なお、係合部100は、変形部80に対して接着等により固定されていてもよい。
【0047】
ピン部材101は、第2軸線O2と同軸に配置されている。ピン部材101は、軸部115と、頭部116と、を備えている。
軸部115における第2軸線方向の内側端部は、係合部100内に第2軸線方向の外側から圧入されている。
頭部116は、軸部115における第2軸線方向の外側端縁から張り出している。なお、第2軸線方向から見た側面視において、係合部100及びピン部材101の重心は、第2軸線O2上に位置している。
【0048】
図6は、
図5のVI矢視図である。
図6に示すように、錘部102は、第2軸線O2回りに回転可能に軸部115に取り付けられている。具体的に、錘部102は、第2径方向の内側に付勢された状態で、軸部115における第2軸線方向の外側端部に取り付けられている。錘部102は、側面視において、軸部115の周囲を取り囲むC字状に形成されている。したがって、側面視において、錘部102の重心Gは、第2軸線O2に対して第2径方向に偏心している。
【0049】
錘部102は、軸部115の外周面上を摺動しながら、第2軸線O2回りに回転可能に構成されている。したがって、錘部102の回転に伴い、錘部102の重心Gが第2軸線O2回りに移動(公転)する。これにより、錘部102の重心Gが第1周方向(具体的には、変形部80の外周面のうち、取付孔85を通る接線方向)に沿って移動する。なお、錘部102の側面視外形は、円形に限らず、多角形状等であってもよい。また、本実施形態では、錘部102の付勢力によって軸部115に対する第2周方向の位置決めを行う構成としているが、この構成に限られない。例えば、錘部102と軸部115とは、第2周方向に乗り越え可能な凹凸等によって第2周方向の位置決めが行われるようになっていてもよい。
【0050】
本実施形態の錘部102において、第2周方向の両端部には、平面取り部120が形成されている。平面取り部120は、第2軸線O2を中心とする仮想円の接線方向に沿って延びる平坦面とされている。平面取り部120は、第1軸線方向を向いた状態で、変形部80における第1軸線方向を向く両端縁と平行に配置される。なお、図示の例において、錘部102における第2径方向の厚さは、全周に亘って一様に形成されている。但し、錘部102は、第2周方向の位置によって厚さを変更してもよい。
【0051】
なお、錘部102の重心位置(重心Gの偏心量)は、適宜変更が可能である。錘部102の重心位置を変更する方法としては、錘部102の形状を変更したり、錘部102の比重を変更したりすること等が挙げられる。例えば錘部102は、比較的(例えば係合部100やピン部材101に比べて)比重が大きい材料を選択することもできる。この場合、錘部102は、金(Au)や白金(Pt)、タングステン(W)等が好適に用いられる。
【0052】
錘部102は、変形部80の外周面と、頭部116と、の間で第2軸線方向に挟持されている。これにより、錘部102は、変形部80やピン部材101によって第2軸線方向への移動が規制されている。なお、錘部102と変形部80の外周面との間や、錘部102と頭部116との間には、僅かに隙間が形成されていてもよい。
【0053】
本実施形態では、錘部102のみが第2軸線O2回りに回転可能な構成について説明したが、この構成のみに限られない。すなわち、調整部64は、少なくとも錘部102が第2軸線O2回りに回転可能な構成であれば、錘部102に加えて係合部100やピン部材101が錘部102とともに回転可能な構成であってもよい。すなわち、係合部100が取付孔85内に挿入されるとともに、ピン部材101が係合部100に固定され、かつ錘部102がピン部材101に固定されることで、調整部64自体が回転可能な構成であってもよい。また、係合部100が取付孔85内で固定されるとともに、ピン部材101が係合部100に挿入されることで、ピン部材101及び錘部102が回転可能に構成されていてもよい。
【0054】
[温度係数の補正方法]
次に、上述したてんぷ54において、温度係数の補正方法について説明する。
図7は、変形部80の動作を説明するためのてんぷ54の部分平面図である。
図7に示すように、本実施形態のてんぷ54では、温度変化が生じると、低膨張部81及び高膨張部82の熱膨張率の差によって変形部80が屈曲変形する。具体的に、所定温度T0(常温(例えば、23℃程度))に対して温度上昇した場合には、高膨張部82が低膨張部81よりも膨張する。これにより、変形部80が、第1径方向の内側に変形する(
図7における符号A)。所定温度T0に対して温度低下した場合には、高膨張部82が低膨張部81よりも収縮する。これにより、変形部80が、第1径方向の外側に変形する(
図7における符号B)。
【0055】
変形部80が変形することで、変形部80の自由端と第1軸線O1との第1径方向での距離が変化する。具体的に、所定温度T0での変形部80の自由端と第1軸線O1との第1径方向での距離R0とし、温度上昇時での変形部80の自由端と第1軸線O1との第1径方向での距離をR1とした場合、距離R0と距離R1との差分が温度上昇時における第1径方向での半径変化量ΔR1となる。一方、温度低下時での変形部80の自由端と第1軸線O1との第1径方向での距離をR2とした場合、距離R0と距離R2との差分が温度低下時における第1径方向での半径変化量ΔR2となる。なお、半径変形量ΔR1,ΔR2は、固定端から自由端に向かうに従い漸次大きくなる。
【0056】
そして、半径変化量ΔR1,ΔR2に応じててん輪62の平均径を縮径又は拡径させることができ、てん輪62の第1軸線O1回りの慣性モーメントを変化させることができる。すなわち、温度上昇した場合には、てん輪62の平均径を縮径させて慣性モーメントを小さくすることができる。温度低下した場合には、てん輪62の平均径を拡径させて慣性モーメントを大きくすることができる。これにより、慣性モーメントの温度特性を補正することができる。
【0057】
ところで、製造ばらつき等によって変形部が所望の形状に形成されなかった場合、温度変化に対する変形部80の変形量にばらつきが生じ、変形部80による温度特性の補正が正確に行われない可能性がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、変形部80の温度係数に応じて錘部102の第1周方向での重心位置を変更できるようになっている。具体的に、
図5に示すように、錘部102の重心G及び第2軸線O2が第1軸線方向に並んでいる位置を基準位置とする。
【0059】
図8、
図9は、調整部64の動作を説明するための
図5に対応する側面図である。
図10、
図11は、調整部64の動作を説明するためのてんぷ54の部分平面図である。
図8、
図10に示すように、変形部80の温度係数が所望の値よりも高い場合には、錘部102を第2軸線O2回りに回転させ、錘部102の重心Gを変形部80の固定端寄りに移動させる。これにより、錘部102が基準位置にある場合に比べ、温度変化に対する錘部102の半径変化量を小さくでき、てん輪62の慣性モーメントを小さくできる。
【0060】
一方、
図9、
図11に示すように、変形部80の温度係数が所望の値よりも低い場合には、錘部102を第2軸線O2回りに回転させ、錘部102の重心Gを変形部80の自由端寄りに移動させる。これにより、錘部102が基準位置にある場合に比べ、温度変化に対する錘部102の半径変形量を大きくでき、てん輪62の慣性モーメントを大きくできる。
【0061】
以上、本実施形態によれば、第2軸線O2に対して偏心した位置に重心Gを有する錘部102が、第2軸線O2回りに回転可能な構成とした。
この構成によれば、変形部80は第1周方向の位置によって半径変形量が異なるので、錘部102の重心Gが第1周方向で変化することで、変形部80の変形に伴う錘部102の半径変形量を変更(調整)することができる。
特に、本実施形態では、錘部102の回転位置によって錘部102の重心Gを周方向で連続的に変化させることができるので、錘部102の半径変形量の微調整が可能になる。
しかも、錘部102が変形部80と頭部116とによって第1径方向への移動が規制された状態で回転するので、錘部102の回転に伴う錘部102の第1径方向への移動を抑制できる。これにより、錘部102の重心位置の変更に伴うてん輪62の平均径の変動を抑制できる。
その結果、歩度の変化を抑えつつ、温度係数の調整を簡単、かつ高精度に行うことができ、温度補償性能に優れた高品質なてんぷ54を提供できる。
【0062】
本実施形態では、低膨張部81及び高膨張部82が重ね合わされた変形部80を有する構成とした。
この構成によれば、変形部80の変形によりてん輪62の平均径を変化させ、慣性モーメントの温度特性を補正できる。
しかも、てんぷ54のリム部73のみにバイメタルとして変形部80を設けることで、てんぷ本体の全体で変形部を構成する場合等に比べ、連結部70等の設計自由度を向上させることができる。また、変形部80が片持ちで延在することになるので、固定端から自由端に向かうに従い温度変化に対する変形部80の半径変形量が漸次大きくなる。そのため、錘部102の重心Gを周方向で変化させることで、温度変化に対する錘部102の半径変形量を漸次小さく又は大きくすることができる。その結果、慣性モーメントの温度特性の調整をより簡単に行うことができる。
【0063】
本実施形態では、変形部80に対して第1径方向(第2軸線方向)の外側に錘部102が配置される構成とした。
この構成によれば、錘部102をてんぷ54の外側から操作することができるので、温度特性の調整が容易になる。
【0064】
本実施形態では、軸部115と錘部102とが別体で形成されている構成とした。
この構成によれば、軸部115と錘部102とのそれぞれに適した材料等を選択できる。そのため、設計自由度の向上を図ることができる。
【0065】
本実施形態では、変形部80における第1軸線方向を向く端縁は、平面取り部120が第1軸線方向を向いた状態で、平面取り部120と平行に形成されている構成とした。
この構成によれば、平面取り部120が第1軸線方向を向いた状態で、変形部80からの錘部102の第1軸線方向での突出量を抑えることができる。これにより、てん輪62の第1軸線方向での大型化を抑制できる。
また、錘部102の操作時には、平面取り部120を用いて錘部102を保持することで、工具と錘部102との回り止めを行うことができる。そのため、錘部102に工具係止部を別途設ける必要がないので、錘部102の設計自由度を向上させることができる。
【0066】
本実施形態のムーブメント2及び時計1は、上述したてんぷ54を備えているため、歩度のばらつきの少ない高品質なムーブメント2及び時計1を提供できる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。
図12は、第2実施形態に係るてんぷ54の部分断面図である。
図13は、
図12のXIII矢視図である。本実施形態では、調整部200において軸部201と錘部202とが一体に形成された点で上述した第1実施形態と相違している。
図12,13に示す調整部200は、係合部100とピン部材210とを備えている。
係合部100の小径部111は、取付孔85内に挿入されている。
【0068】
ピン部材210は、軸部201と錘部202とを備えている。
軸部201は、取付孔85を通じて係合部100内に圧入されている。これにより、ピン部材210は、係合部100とともに第2軸線O2回りに回転可能に構成されている。
【0069】
錘部202は、軸部201における第2軸線方向の外側端部に形成されている。錘部202は、軸部201に対して拡径されている。錘部202は、係合部100の段差面112との間に、変形部80を第2軸線方向で挟持している。これにより、変形部80に対する錘部202の第2軸線方向の移動が規制されている。
【0070】
図13に示すように、錘部202は、側面視において、第2軸線O2から偏心した位置を中心とする円形状に形成されている。これにより、側面視において、錘部202の重心Gは、第2軸線O2から偏心している。但し、錘部202の形状は適宜変更が可能である。
【0071】
錘部202における第2軸線方向の外側端面には、工具係止部211が形成されている。工具係止部211は、重心Gを通り第2径方向に沿って直線状に延びる溝である。工具係止部211には、工具が係止可能に構成されている。すなわち、調整部200は、工具係止部211に係止された工具を介して第2軸線O2回りに回転可能に構成されている。なお、工具係止部211は、工具に係止可能な構成であれば、溝に限られない。
【0072】
本実施形態によれば、工具係止部211に工具を係止した状態で、工具を第2軸線O2回りに回転させることで、調整部200が第2軸線O2回りに回転する。これにより、錘部202の重心Gが第1周方向に移動する。その結果、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
さらに、本実施形態では、軸部201と錘部102とが一体に形成されているので、部品点数の削減や構成の簡素化を図ることができる。
【0073】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明する。
図14は、第3実施形態に係るてんぷ54の斜視図である。本実施形態では、調整部301の取付位置を変更できる点で上述した各実施形態と相違している。
図14に示すてんぷ54において、各変形部80には、複数の取付孔310が形成されている。本実施形態において、取付孔310は、第1周方向に間隔をあけて形成されている。
【0074】
図15は、
図14のXV-XV線に沿う断面図である。
図14、
図15に示すように、調整部301は、各取付孔310のうち、少なくとも何れかの取付孔310を通じて変形部80に着脱可能に取り付けられる。
【0075】
調整部301において、ピン部材101の軸部115には、雄ねじ部311が形成されている。雄ねじ部311は、軸部115のうち、少なくとも変形部80に対して第2軸線方向の内側に突出した部分に形成されている。
【0076】
係合部320の内周面には、雌ねじ部321が形成されている。係合部320は、雌ねじ部321が雄ねじ部311に螺着されることで、軸部115に着脱可能に取り付けられる。
【0077】
本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することに加え、以下の作用効果を奏する。
すなわち、変形部80に複数の取付孔310が形成されているので、変形部80に取り付ける調整部301の数や、調整部301の取付位置を変更することができる。これにより、慣性モーメントの温度特性をより高精度、かつ広範囲に調整できる。
【0078】
(その他の変形例)
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0079】
例えば、上述した実施形態では、変形部80としてバイメタルを用いた場合について説明したが、この構成に限られない。変形部は、温度変化に伴う高膨張部及び低膨張部の相対変形によっててん輪の平均径が変化する構成であればよい。この場合、例えばてん輪のうち、高膨張部及び低膨張部の何れか一方の部材であみだ部を形成し、高膨張部及び低膨張部の何れか他方の部材でリム部を形成してもよい。この場合、リム部は、片持ちに限らず、両持ちであってもよい。すなわち、本発明に係る温度補償型てんぷでは、てんぷのうち、てん真を除く部分(てんぷ本体)の一部に変形部を有していればよい。
【0080】
上述した実施形態では、変形部80に対して第1径方向の外側に錘部が配置される構成について説明したが、この構成に限られない。錘部は、変形部80に対して第1径方向の内側や第1軸線方向の両側に配置されていてもよい。
上述した実施形態では、調整部が取付孔を通じて変形部80に取り付けられる構成について説明したが、この構成のみに限られない。調整部は、少なくとも錘部が第2軸線に沿う方向への移動が規制された状態で、第2軸線回りに回転可能に構成されていればよい。
上述した実施形態では、調整部によって慣性モーメントを調整する構成について説明したが、これに加えて、チラネジ等を別途設けててん輪の慣性モーメントを調整してもよい。
【0081】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…時計
2…ムーブメント
54…てんぷ
62…てん輪(てんぷ本体)
63…ひげぜんまい
64,200,300…調整部(てんぷ本体)
80…変形部
102,202…錘部
310…取付孔(取付部)