(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】圧縮機及びこれを備える機器
(51)【国際特許分類】
F04B 39/12 20060101AFI20221017BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
F04B39/12 101F
F04B39/00 101M
(21)【出願番号】P 2019044384
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521161750
【氏名又は名称】ジーエムシーシー アンド ウェリング アプライアンス コンポーネント (タイランド) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中村 考作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 遵自
(72)【発明者】
【氏名】長尾 智大
(72)【発明者】
【氏名】小野 利明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓愛
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163816(WO,A1)
【文献】特開2015-010529(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0043014(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第02339178(EP,A2)
【文献】中国特許出願公開第106121968(CN,A)
【文献】特開2006-161705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00-39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油、
膨潤し得る材料を含んで形成され、挿通孔を有するフード、及び
フード取付部材を収容する密閉容器を備える圧縮機であって、
前記挿通孔の一部に挿通された凸
部を有
し、
前記フードは、前記フード取付部材に固定された被固定部を有し、
前記凸部は、前記挿通孔のうち、前記被固定部側の端部から離間して配されており、
前記フードは、前記密閉容器内に供給される冷媒が通過するフード孔を有し、
該フード孔より上方に前記被固定部が位置する圧縮機。
【請求項2】
前記フード取付部材はサイレンサを含み、前記被固定部の左右幅は前記サイレンサの左右幅より長く、前記被固定部の左右端部に爪が設けられ、前記爪は前記サイレンサの後面に届く請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記挿通孔の、前記被固定部に向かう方向における寸法が凸部より長い請求項
1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記フード孔より下方に前記挿通孔が在る請求項
1乃至3何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記被固定部より上方に上支持部を有し、
該上支持部の下端側
が固定部材の上面側と接する請求項
1乃至4何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項6】
潤滑油、
膨潤し得る材料を含んで形成され、挿通孔を有するフード、及び
フード取付部材を収容する密閉容器を備える圧縮機であって、
脱離抑制部と、前記挿通孔の一部に挿通された凸部とを有し、
前記挿通孔と前記凸部とは2つずつあり、
前記脱離抑制部は、2つの前記凸部を繋ぐ圧縮機。
【請求項7】
前記フードは、前記フード取付部材に固定された被固定部を有し、
前記凸部は、前記挿通孔のうち、前記被固定部側の端部から離間して配されている請求項6に記載の圧縮機。
【請求項8】
脱離抑制部を有し、前記挿通孔と前記凸
部とを2つずつ有し、
前記脱離抑制部は、2つの前記凸部を繋ぐ請求項1乃至5何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至
8何れか一項に記載の圧縮機を備える機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機及びこれを備える機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、可撓性材料で形成された補助フード163の固定が、凸部部165の先端を溶融して固定するとともに、凸部170を貫通させて行われることを開示している(0088-0089,0128,0134-0135、
図11,12,14)。これにより補助フード163の膨潤等に起因する当接状態の悪化を低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、固定される部分に余裕代がなく、膨潤が進行すると円弧部162等が撓み、フード部160から浮き上がる虞が残存すると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事情に鑑みてなされた本発明は、
潤滑油、
膨潤し得る材料を含んで形成され、フード孔及び挿通孔を有するフード、及び
フード取付部材を収容する密閉容器を備える圧縮機であって、
前記挿通孔の一部に挿通された凸部又は脱離抑制部を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】実施形態のフード及びサイレンサ(フード取付部材)の分解斜視図
【
図4】実施形態のフードの(a)変形前(例えば製造直後)の正面図、(b)熱膨張及び膨潤が生じた場合の正面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態の圧縮機1の縦断面図である。
(圧縮機1)
圧縮機1は、冷媒吸入管10、フード11、サイレンサ12と、下方に貯留された潤滑油19、これらを収容する密閉容器18を有する。冷媒吸入管10は、圧縮機1の密閉容器18内外を連通しており、冷凍サイクル等を循環する冷媒を密閉容器内に供給する。フード11は、冷媒吸入管10から射出される冷媒を捕集する。サイレンサ12は、フード11から捕集された冷媒音を低減しつつ、圧縮室に送り出す。
【0008】
圧縮機1はその駆動に伴い潤滑油19を汲み上げて散布しており、密閉容器18中には潤滑油19が飛散したり各部材に付着している。
【0009】
図2は、実施形態のフード11及びサイレンサ12(フード取付部材)の分解斜視図である。
図3は実施形態のフード11及びサイレンサ12の正面図である。
図2中、「前」方向は、冷媒吸入管10が射出する冷媒流の方向を指す。説明の便利のため、前方向及び重力加速度方向に直交する方向を左右方向、重力加速度方向を下方向とするが、必ずしも冷媒方向や左右方向が厳密に重力加速度方向に直交している必要はない。
(サイレンサ12)
サイレンサ12は、吸込み孔120、2つの水平面部121、凸部122を有する。
吸込み孔120は、サイレンサ12や圧縮室に連通しており、冷媒が流れる経路である。2つの水平面部121はそれぞれ、吸込み孔120より上方に在り、サイレンサ12から水平方向に向かって突出している。2つの水平面部121は、冷媒方向視で水平な方向に互いに離間している。この離間している領域に、後述する凹部113が配される。
【0010】
(フード11)
フード11は、膨潤し得る材料で形成された可撓性部材、好ましくは弾性材料、例えば水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)等のゴムで好ましくは一体形成された主部材を有する。HNBRは、好ましくは結合アクリロニトリルを32%以上40%未満有する。膨潤し得る材料としては、HNBRの他、例えば、NBRが挙げられる。
フード11には、主部材より硬い、例えば樹脂部材で形成された固定部材118及び脱離抑制部119が取り付けられる。
【0011】
主部材は、吸込み孔120に連通するフード孔110、上支持部111、挿通孔112(挿通部)、被固定部113、及び庇114を有する。主部材は、上下寸法と左右寸法が異なっており、本実施形態では上下寸法が左右寸法より長く、すなわち、上下方向への膨潤長さが左右方向より大きい。
上支持部111は、水平面部121より上方に位置する。上支持部111は、被固定部113よりも後方に突出しており、固定部材118が取り付けられた場合に固定部材118の上端に接するのが好ましい。これにより固定部材118による後述の挟持による支持に加え、上支持部111が固定部材118に載置されることによる支持を行える。
【0012】
被固定部113は、上下方向で上支持部111と庇114との間に在り、固定部材118が取り付けられる。被固定部113は、前後方向で固定部材118とサイレンサ12との間に挟持される。この挟持は、被固定部の各方向への変位を固定するのが好ましい。このような固定は、例えば、被固定部113の左右幅をサイレンサ12の左右幅より長くし、かつ、被固定部113の左右端部の爪(不図示)がサイレンサ12の後面に届くようにして、可撓性部材又は弾性部材の被固定部113を変形させた状態で取り付けることで行える。このように比較的強固に固定することでフード11上端側とサイレンサ12とが離間しない又はしにくいようにすることで、潤滑油がこれらの間に浸入して孔110,120に達することを抑制できる。
【0013】
固定部材118に加え、被固定部113の左右端は、水平面部121の直上かそれより左右外側に在る。これにより、被固定部113と水平面部121との間を物体で埋めやすくなり、潤滑油の浸入を抑制できる。また、被固定部113及び/又は固定部材118は、左下又は右下方向に傾斜している。これにより、潤滑油をフード孔110や吸込み孔120から離れる方向に案内できる。
【0014】
挿通孔112には、凸部122及び/又は脱離抑制部119が挿通される。本実施形態では凸部122の後端が挿通孔112後端よりも後方に届く寸法にされていて、すなわち挿通孔112には凸部122のみが挿通されている。これに代えて、脱離抑制部119に、前方向に延在する部分を追加して、この部分を挿通孔112に挿通しつつ凸部122に固定するようにしてもよい。
【0015】
挿通孔112は、孔110を挟んで被固定部113の反対側に在り、挿通されている凸部122の寸法より大きい。挿通孔112は、全方向で凸部122の寸法より大きくてもよいが、少なくとも、挿通孔112から被固定部113に向かう方向の寸法(本実施形態では上下方向)が凸部122より長ければよい。これにより、凸部122と脱離抑制部119が固定されても、少なくともフード11の膨潤前(例えば製造時から、圧縮機1の駆動累積時間が十分に経過する前)は、挿通孔112は上下方向に或る程度可動な隙間が残存する。被固定部113は上述の通り強固に固定されているため、主部材が膨潤するとその影響を吸収できない。しかし、挿通孔112は孔110,120より下方に在ることから、潤滑油の滴下防止を考慮する必要性が低い。このため、本実施形態では上下方向の自由度を与えている。なお、密閉容器18内は高温になるため、膨潤に加えて熱膨張の影響も無視できなくなりうる。
【0016】
図4は本実施形態のフード11の(a)変形前(例えば製造直後)の正面図、(b)熱膨張及び膨潤が生じた場合の正面図である。
フード11の初期の長手寸法をL0とすると、熱膨張や膨潤が生じるとその寸法は
L1:=L0+L3
となる。すなわち、寸法L3だけ長手方向に延びることとなる。フード11は被固定部113で上端側を固定されているため、膨潤や熱膨張が生じると下方に向かって膨張(変形)する。このため、初期状態において凸部122の被固定部113側端部(本実施形態では上端)と挿通孔112の被固定部113側端部(上端)との間に、挿通孔112をL3以上残して配置しておくことが好ましい。すなわち、凸部122は、挿通孔112のうち、被固定部113側の端部から離間して配されている。
【0017】
したがって、主部材が潤滑油や冷媒等の影響により膨潤しても、挿通孔112に残存した寸法L3の隙間で膨潤による変形を吸収できるため、フード11がサイレンサ112から浮き上がってしまうことを抑制できる。なお、脱離抑制部119は、凸部122に設けられた穴に挿通された上で超音波溶着される等して固定されることができる。この固定により、フード11は前後方向の移動が規制又は固定され、サイレンサ12からの脱離を抑制される。
【0018】
なお、挿通孔112と凸部122又は脱離抑制部119の寸法差は、主部材の膨潤を考慮して次のように決定することができる。
L3=[膨潤する前の初期状態の長手寸法]L0×(熱膨張率+膨潤率)
ここで、熱膨張率は実使用温度と常温の温度差によるフード11とサイレンサ12の寸法変化率の差であり、本実施形態では実使用温度70℃において2%であった。膨潤率は40℃における動粘度が5.1~6.1mm2/sとなる冷凍機油に、結合アクリロニトリルを32%以上40%未満有するHNBRで成形されたフード11を浸し、実使用温度条件下で膨潤させ飽和するまでの日数を経過させた浸漬試験の結果から求めることができ、本実施形態では2.5%~3.5%であった。
【0019】
これ以外の実使用温度、フード11とサイレンサ12の使用材料、冷凍機油の組み合わせについても同様の試験を行い、挿通孔112と凸部122又は脱離抑制部119の寸法差を決定すればよい。
【0020】
本実施形態では、凸部122と挿通孔112とを2つずつ左右に並べて設け、2つの凸部122を左右に延在する脱離抑制部119で繋いで(超音波溶着で一体化して)フード11の脱離を抑制している。これにより小型の脱離抑制部119でも脱離を抑制できる。密閉容器18との間の離間距離を確保できるのであれば、これに代えて例えば、凸部122と挿通孔112とを1つずつにし、脱離抑制部119を挿通孔112より十分大きくすることで脱離を抑制してもよい。
本実施形態の圧縮機は、冷蔵庫や空気調和機等種々の機器に適用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 圧縮機
10 冷媒吸入管
11 フード
18 密閉容器
19 潤滑油
110 フード孔
111 上支持部
112 挿通孔
113 被固定部
114 庇
118 固定部材
119 脱離抑制部
12 サイレンサ(フード取付部材)
120 吸込み孔
121 水平面部
122 凸部