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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】血中フリー体AIM増加用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20221017BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221017BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20221017BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20221017BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221017BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221017BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
A61K36/185
A23L33/105
A23L33/18
A61K31/198
A61K36/23
A61P1/16
A61P13/12
A61P43/00 111
A61K131:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019058963
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158437
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
(72)【発明者】
【氏名】倉田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌良
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/162021(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107320505(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101244095(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102688397(CN,A)
【文献】国際公開第2015/119253(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/145723(WO,A1)
【文献】特表2008-533994(JP,A)
【文献】Cellular and Molecular Immunology,2018年,Vol. 15,pp. 563-574
【文献】腎臓の働きを改善する遺伝子「AIM」でネコの寿命が2倍に!?~異分野の発想で進んだ特効薬開発~,2018年,https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1034_00002.html
【文献】Food Chem,2018年,Vol. 268,pp. 118-125
【文献】Redox Biology,2019年01月,Vol. 20,pp. 157-166
【文献】Biomedicine & Pharmacotherapy,2019年02月,Vol. 110,pp. 197-202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/185
A23L 33/105
A23L 33/18
A61K 31/198
A61K 36/23
A61P 1/16
A61P 13/12
A61P 43/00
A61K 131/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物を有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加用の組成物。
【請求項2】
ドリアン果実抽出物がγ-グルタミルシステインを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物が、血中のAIMとIgM複合体からフリー体AIMを生成させる作用を有する請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中フリー体AIM増加用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する分子量約50kDaの分泌型タンパク質である(非特許文献1)。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0003】
AIMは、尿中へ排出されず、血液中で安定的に存在する。このために、IgMとの結合が深く関与していること、またほとんどすべてのAIMは血液中ではIgMと複合体を形成し、非結合体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献2)。
そしてAIMとIgMの結合様式は、IgM五量体のギャップの中にAIMが嵌まり込むような形で結合し、AIMが持つ、システインを多く含む3つのドメインのうち、2番目のドメインに存在するフリーのシステイン残基が、IgM五量体にあるギャップの片側に存在するフリーのシステインとジスルフィド結合により結合していること、AIMのC末端側の3番目のドメイン内に存在する正に荷電したアミノ酸のクラスターが、ギャップのもう片側に存在する負に荷電したアミノ酸クラスターと電荷による結合をしており、AIMにより、ギャップの両側のIgMがクロスブリッジされていることが明らかになっている(非特許文献3)。
【0004】
ヒトにおけるAIMの作用効果の全貌は、未だ不明な点が多いが、その作用効果の一部が明らかになるにつれて、新たな医薬用途の発明がなされている。
特許文献1には、AIMを含有してなる、肝疾患の予防・治療剤の発明が記載されている。
【0005】
特許文献2には、AIMもしくはその部分ペプチドを含有してなる、腎疾患の予防・治療剤の発明が記載されている。
特許文献1および2には、いずれもAIMタンパク質又はペプチド断片を有効成分とする疾患治療剤や、その遺伝子を利用した新たな治療剤やAIM遺伝子の利用が開示されている。
また特許文献3は、AIMの作用を抑止する医薬発明が記載されている。すなわちAIMと結合性を有し、AIM作用を抑制する抗体やAIM遺伝子に対するアンチセンス核酸や、RNAi効果を有する二本鎖核酸を投与することで、AIMの作用を抑制し、メタボリックシンドロームを治療するための医薬発明が記載されている。
【0006】
AIMは、生体中ではマクロファージによって産生されるが、血液中では、上記の通り、IgMと複合体を形成しており、不活性化されている。そして、腎疾患や肝臓疾患の進行に伴って、フリー体のAIMが出現し、疾患の改善にプラスに作用する。
例えば、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症などさまざまな疾患症状に対し抑制的な効果を示すことが確認されている。特にネコに腎不全が多発するのは、ネコのAIMが、AIM-IgM五量体(複合体)から解離しないためであることが明らかになっている(非特許文献4)。
また、このような疾患の指標として、血中のAIM濃度を測定する技術が、特許文献4、5、6に開示されている。
しかし、これまで血中に存在するIgMの五量体とAIMの複合体からAIMをフリー体として生成させる手段や薬剤は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/162021号
【文献】国際公開第2015/119253号
【文献】国際公開第2011/145723号
【文献】国際公開第2011/145725号
【文献】国際公開第2017/022315号
【文献】国際公開第2017/043617号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Miyazaki T et al.,J Exp Med 189:413-422,1999
【文献】Miyazaki T et al.,Cell Reports 3,1187-1198,April 25,2013
【文献】Hiramoto et al.,Sci.Adv.2018;4:eaau1199 10 October 2018
【文献】Sugisawa,R.et al.Sci.Rep.6:35251(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、多数の天然物や化合物のAIMに対する作用を研究する過程で、多数の天然物や抽出物のスクリーニングを行い、ドリアン果実抽出物及び香辛料に利用されるアサフェティダ抽出物が、血中のAIMとIgMの複合体からAIMを生成させることを見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明は、血中のAIMとIgMの複合体からAIMを生成させ、血中のフリー体のAIM濃度を上昇させる作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物を有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加用の組成物。
(2)ドリアン果実抽出物がγ-グルタミルシステインを含有する(1)に記載の組成物。
(3)ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物が、血中のAIMとIgM複合体からフリー体AIMを生成させる作用を有する(1)または(2)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物を有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加用の組成物が提供される。
本発明の組成物は、血中のフリー体AIMを増加させ、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等のフリー体AIMが関与する疾患の予防改善剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ドリアン果実熱水抽出物(熱水抽出エキス)、ドリアン果実から搾汁した果汁(ドリアン果汁)、ドリアン果実凍結乾燥粉末を試験試料のフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図2図1の画像から読み取った試験試料のフリー体AIMの量を示すグラフである。
図3】ドリアン果実のブタノール抽出物のフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット撮影画像を示す。
図4図3の画像より読み取ったフリー体AIMの量を示すグラフである。
図5】γ-グルタミルシステインのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット撮影画像を示す。
図6図5の画像より読み取ったフリー体AIMの量を示すグラフである。
図7】アサフェティダ抽出物のフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図8図7の画像より読み取ったフリー体AIMの量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について具体的に説明する。
本発明でいう「フリー体AIM」とは、AIMがIgMの五量体から生成して、単独で血中に存在している状態をいう。当該フリー体AIMは、IgMをはじめとする血中のタンパク質や糖蛋白質と非結合の状態である。
ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物とは、ドリアン果実或いはアギを搾汁した搾汁液、乾燥させた乾燥物、あるいはドリアン果実又はアサフェティダの溶媒抽出物あるいは水蒸気蒸留物をいう。
本発明でいう「組成物」とは、ドリアン及び/又はアサフェティダの搾汁物、乾燥物または抽出物を含有し、血中フリー体増加効果を発揮するものをいう。「組成物」には食品、医薬品、健康食品、動物用飼料を包含する。
本発明においては、IgM等と結合した状態のAIMを「複合体AIM」という。また複合体AIMとフリー体AIMの両方を合わせたAIM量を「全AIM量」という。
なお、AIMの検出、定量は、特許文献4~6に開示された抗AIMモノクローナル抗体を用いるイムノアッセイ法で測定することができる。
【0014】
<ドリアン果実抽出物>
以下ドリアン果実抽出物について説明する。
本発明に用いるドリアン(Durio zibethinus Murr.、Durio oxleyanus、Durio graveolensを含むDurio spp.)は、ボルネオ島から西マレーシアを原産地とし、東南アジアに広く分布するパンヤ科の植物である。
本発明の有効成分であるドリアン果実抽出物は、ドリアンの果実の可食部から水性の溶媒によって抽出した物又は非水溶性の有機溶媒で抽出したもの、或いは水蒸気蒸留によって抽出したものをいう。
【0015】
本発明において、溶媒抽出に用いられる抽出溶媒は、植物材料からの溶媒抽出に用いられる公知の抽出溶媒であればいずれも使用可能である。抽出溶媒としては、親水性の高い溶媒を用いると、本願発明の目的に合致した、効果の高い抽出物が得られるため、好ましく用いられる。このような溶媒として、本発明では、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶媒から選ばれる溶媒が特に好ましく用いられる。前記水溶性有機溶媒とは、水と相溶性を有する溶媒を指し、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、等の低級アルコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、その他アセトン等の極性の高い有機溶剤が挙げられる。また非水溶性の有機溶媒としては、ブタノール、酢酸メチル、酢酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類が例示できる。
【0016】
抽出に当たっては、ドリアン果肉、又はドリアン果肉乾燥物を、公知の適当な手段で果肉試料を細断、破砕する。溶媒による抽出は公知の方法に従って行えばよい。例えば、水、水溶性有機溶媒又はこれらの混合溶媒を抽出溶媒として用いた場合、抽出原料に対して質量比で1~50倍、好ましくは3~10倍の抽出溶媒量で、0℃~100℃の範囲で、かつ抽出溶媒の沸点より低い温度条件下で、0.1~50時間、好ましくは0.5~24時間抽出すればよい。抽出は静置状態でも良いが、より効率的に抽出を行うには、適度に攪拌しながら抽出を行うのが望ましい。
【0017】
こうして得られるドリアン果実抽出物は、このまま食品に配合して良いし、濃縮や乾固させたものを錠剤などの形態に加工しても良い。さらに、抽出物を公知の順相カラムクロマトグラフィーや逆相カラムクロマトグラフィーや、分取用液体クロマトグラフィーなどの精製手段により分画、精製することにより得られる画分を用いても良い。
【0018】
ドリアン果実抽出物には、分析により、次の化学式1で表されるγ-グルタミルシステインを含有していることを確認できる。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明のドリアン果実抽出物を配合した組成物は、フリー体のAIM増加の目的で各種医薬品、食品、健康食品、動物飼料等とすることが可能である。剤形としては特に制限されず、種々の形態とすることができ、具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等経口投与のための形態とすることができる。
【0021】
本発明に係るドリアン果実抽出物の、フリー体AIM増加用組成物への配合量は、特に制限されず、また、目的、対象とする疾病により異なるので、一概に規定できるものではないが、一般的には乾固物換算で0.00001~99質量%、好ましくは0.001~99質量%で用いることで、血中のフリー体のAIM濃度を増加させることができる。
【0022】
<アサフェティダ抽出物>
本発明で用いるアサフェティダは、和名をアギと呼ぶオオウイキョウ属アギ(assafoetida、学名:Ferula assa-foetida)の植物又は、この植物から得られる樹脂状の香料をいう。樹脂状の香料のアサフェティダは、複数の揮発性硫黄化合物を含みニンニクやドリアンに似た強烈な臭いがある。アサフェティダは、別名をヒングとも呼ばれている。樹脂又はアギ全草から水蒸気蒸留して得られる蒸留物や、水又はアルコール抽出物であるアギエキスを抽出原料として使用することができる。
【0023】
水蒸気蒸留によって本発明の組成物を得るには、樹脂状のアサフェティダ香料又は植物アギ、あるいはオオウイキョウ属の植物を乾燥させ又は生のままで使用することができる。水蒸気蒸留に先立ち、植物又は樹脂の裁断物を蒸留水に浸漬する。浸漬は、一般的に植物体1kgに対して蒸留水を1~10Lの割合で使用するのが好ましい。浸漬温度は、特に限定されず、常温で行うのが好ましい。浸漬時間は、1~24時間程度である。あるいは、アサフェティダ根塊から得られる樹脂状の塊を同様に処理してもよい。
水蒸気蒸留は、公知の方法で実施すればよい。水蒸気蒸留水又は精油画分を回収し、これを本発明の組成物として用いる。
【0024】
なお、植物アギ、あるいはオオウイキョウ属の植物から本発明の組成物を得るには植物体は、必要に応じて水洗浄した後、裁断し水切りしたものを用いる。原料のアギやオオウイキョウ属の植物は、搾汁または抽出の効率を高めるため、搾汁または抽出の前に、原料を細断(約1~20mm)し、またはミキサーなどで破砕する。
【0025】
搾汁の調製は、濾布や、各種のフィルター、メッシュ金網などを用いて通常の方法で行うことができる。この場合、加圧して作業効率を高めてもよい。別法として、遠心分離(1000~20000rpm)により搾汁を得ることもできる。
【0026】
抽出液の調製は、溶媒として、水のほか、各種の有機溶媒およびそれらの混合物を用い、公知の抽出方法で行う。抽出操作を行う前に、原料をそのまま、または粗く細断したものを、疎水性もしくは親水性溶媒単独または混合有機溶媒で洗浄し、色素等の不要物を除去してもよい。疎水性溶媒としては、クロロホルム、エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、石油エーテルおよびベンゼンなどが挙げられ、親水性溶媒としては低級アルコール(例、メチル、エチル、n-プロピル)、酢酸エチル、アセトンおよびアセトニトリルなどが挙げられる。所望により原料に水を適宜加え、原料を湿潤させてもよい。
【0027】
水で抽出を行うには、例えば、原料1質量部に対し、水0.5~10質量部を加え、40~120℃で、5分~2時間、好ましくは10~60分間、さらに好ましくは10~20分間抽出を行うことができる。このとき、撹拌により抽出効率を高めることもできる。また、抽出は、加熱還流により行うこともできる。抽出後、濾布、フィルターまたはメッシュ金網などを用いて濾過または圧搾を行う。この場合、加圧して作業効率を高めてもよい。また、別法として、遠心分離(1000~20000rpm)により抽出液を得ることもできる。回収率を高めるために、この抽出・濾過工程を1~5回繰り返すことができる。
【0028】
有機溶媒で抽出を行うには、例えば、原料1質量部に対し、溶媒0.5~10質量部を加え、水での抽出と同様にして抽出物を得ることができる。用いる溶媒としては上記した疎水性、親水性溶媒を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができ、含水溶媒も使用できる。特に、上記のように抽出前に原料を疎水性溶媒で洗浄して色素等の不要物を除去する場合および下記のように抽出後の粗抽出物を疎水性溶媒で洗浄する場合において、抽出に用いる溶媒としては、水、低級アルコール、50~80%(v/v)含水低級アルコールが好ましい。これらの低級アルコールとしては上記と同様のものを例示できる。溶媒の除去は、濾過、遠心分離、蒸留などの常法に従って行うことができる。
【0029】
本発明においては、得られた抽出物(抽出液を含む)は、そのまま本発明のフリー体AIM増加用の組成物として使用することができる。また、精製、濃縮、乾燥などの処理を行ってもよい。
【0030】
精製・濃縮は、上記抽出物を、親水性溶媒または含水溶媒に分散または溶解させ、濃縮して析出物を取得することを繰り返すことによって行うことができる。
或いは、公知の分離・精製に用いるクロマトグラフィー装置に高濃度に濃縮した画分を得ることもできる。これらの精製操作は繰り返して行うことができる。
【0031】
本発明に使用可能なアサフェティダ抽出物は、市販されている抽出物であっても使用可能である。
【0032】
本発明のアサフェティダ抽出物を配合した組成物は、フリー体のAIM増加の目的で各種医薬品、食品、健康食品、動物飼料等とすることが可能である。剤形としては特に制限されず、種々の形態とすることができ、具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等経口投与のための形態とすることができる。
【0033】
本発明に係るアサフェティダ抽出物の、フリー体AIM増加用組成物への配合量は、特に制限されず、また、目的、対象とする疾病により異なるので、一概に規定できるものではないが、一般的には乾固物換算で0.00001~99質量%、好ましくは0.001~99質量%で用いることで、血中のフリー体のAIM濃度を増加させることができる。
【実施例
【0034】
実施例、試験例を示し、本発明についてさらに説明する。
<実施例1.ドリアン果実抽出物>
1.抽出物の調製
ドリアン果実を凍結乾燥させ、ミルサーにて粉末状にした。粉末状にしたドリアン果実(6.00g)を高速溶媒抽出ASE200(Thermo Scientific)を用いて、100℃ 1000psiの条件で抽出を行い、熱水抽出物(1.09g)を得た。
【0035】
2.フリー体AIM増加効果確認試験
(1)試験試料
熱水抽出物(熱水抽出エキス)、ドリアン果実から搾汁した果汁(ドリアン果汁)、ドリアン果実凍結乾燥粉末を試験試料とした。
【0036】
(2)試験方法
ヒト血清とPBS(-)とを2:3の比率で混合し、血清希釈液を調製した。
熱水抽出物及びドリアン果実凍結乾燥粉末は、20mg/mLの濃度になるように、PBSに分散又は溶解させた。ドリアン果汁は、そのまま試験に用いた。
果実の凍結乾燥粉末および熱水抽出物のPBS溶液(20mg/mL)あるいはドリアン果汁と血清希釈液を等容量で混合し、37℃1時間インキュベートした。インキュベートしたものをフリー体AIMの増加を確認するウエスタンブロッティング用の試料とした。
【0037】
(3)ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング用試料に4×LDS試料用緩衝液(Thermo Scientific)を加え混合し、1ウェルあたり血清が1μL含まれるようXV PANTERA MP Gel(ゲル濃度:5~20%、ディー・アール・シー)にロードし、200Vの定電圧でSDS-PAGE法により試料中のタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、タンパク質をPVDF膜(Amersham Hybond P PVDF 0.45、GEヘルスケア)に転写した。
転写後のPVDF膜をTris buffered saline with Tween(TBST 0.05%Tween20)で洗浄し、続いてブロッキング溶液(5%スキムミルク/TBST)に浸した後、室温で1時間振盪し、ブロッキング処理を行った。
ブロッキング処理を行ったPVDF膜は抗体希釈用緩衝液で希釈した抗体と4℃、16~18時間反応させた。反応後、PVDF膜を3回TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で二次抗体を希釈して室温、1時間の条件で二次抗体反応を行った。なお、使用した抗体の希釈条件は以下の通りである。一次抗体:抗ヒト/マウスAIM抗体 rab1(宮崎研究室で生産・非特許文献2等で使用)(1:3000)、二次抗体:抗ウサギ IgG(H+L)抗体HRP conjugate(1:5000)(Thermo Scientific)。
反応終了後、再度3回、TBSTで洗浄し、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を基質として用い、ChemiDoc Touch(BioRad)にてシグナルの検出・撮影を行った。
同様の操作を血清のみの試料(PBS添加)についても行った。
【0038】
(4)結果
ウエスタンブロッティングの撮影画像を図1、画像より読み取ったフリー体AIM量を図2に示す。
図1図2に示すとおり、本来は血清には殆ど検出されないフリー体のAIMに相当するバンドがドリアン果汁、ドリアン果実の凍結乾燥粉末及びドリアンの熱水抽出物(熱水抽出エキス)が出現した。なお図1には比較対照として、ヒト血清とPBSの混合物に試料に相当する容量のPBSを添加したものをPBSと略記して表示した。このバンドがフリー体のAIMであることは非特許文献2等で使用している組み換えAIMを電気泳動の対照とすることで確認できた。
以上の試験結果から、ドリアンの果実には、通常血中に存在しないフリー体のAIMを増加させる作用があることがわかった。
ドリアン抽出物による血中のフリー体AIMの増加により、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等のフリー体AIMが関与する疾患の予防改善剤として期待される。
【0039】
<実施例2.ドリアン果実中のフリー体AIM増加活性の分画>
1.分画操作
ドリアン果汁25mLに対して、同量のブタノール(以下BuOH)25mLを加えて液々分配し、さらにその水層を再度BuOH 25mLで繰り返し抽出した。
水層およびBuOH層をそれぞれ乾固し、水層画分2.7gとBuOH層画分180mgを得た。
得られた水層画分2.7gをXG-C30M-5 10×250mm 5μmカラム、移動相2%アセトニトリル(0.1%ギ酸水溶液)、流速5mL/分、検出UV210nmの条件による高速液体クロマトグラフィーを用いてさらに分画を行った。
画分は、実施例1と同様にウエスタンブロッティングによって、フリー体AIMの増加効果を確認しながら行った。図3にブタノール抽出物のウエスタンブロット撮影画像、図4に画像より読み取ったフリー体AIMの量を示す。
得られた活性画分を乾固し、Amide-80 7.8×300mm 10μmカラム、移動相80%アセトニトリル水溶液、流速2.8mL/分、検出UV210nmの条件による高速液体クロマトグラフィーで再分画し、2mgの最終活性画分を得た。
得られた最終活性画分は、ToFMSにて分子量及び組成式を得た。この最終画分は、分子量m/z251.0696(M+H)、組成式C14Sであった。この結果から活性物質の1つは、γ-グルタミルシステインと推定し、標品試薬としてγ-グルタミルシステイン(SIGMA)を入手し、HPLCで保持時間の一致、ToFMSにて分子量組成式及びフラグメンテーションの一致を確認した。
γ-グルタミルシステインは、次の化学式1で表すことができる。
【0040】
【化2】
【0041】
<実施例3.グルタミルシステインのフリー体AIM増加効果確認試験>
実施例1と同様に、グルタミルシステインのフリー体AIM増加効果を確認した。
図5に高純度γ-グルタミルシステインのヒト血清中のAIM増加効果を確認したウエスタンブロット画像、図6にこの画像から読み取ったフリー体AIM量のグラフを示す。(なお図5図6には比較対照として、ヒト血清とPBSの混合物に試料に相当する容量のPBSを添加したものをPBSと略記して表示した。)
γ-グルタミルシステインは強いフリー体AIM増加作用を有することが確認された。
【0042】
<実施例4.アサフェティダ抽出物によるフリー体AIM増加効果確認試験>
市販されている水蒸気蒸留法で抽出されたアサフェティダ抽出物を用いて血中フリー体AIMの増加作用について試験を行った。
(1)試験試料
アサフェティダオイル(バイオアクティブズジャパン株式会社)を試験試料とした。
アサフェティダオイルは、最終の濃度が1%(V/V)になるようジメチルスルフォオキシド(DMSO)に溶解させた。
【0043】
(2)試験方法
ヒト血清とPBS(-)とを2:3の比率で混合し、血清希釈液を調製した。
DMSOに溶解したアサフェティダオイルをPBS(-)容量の1/5量を添加して調製した溶液と血清希釈液を等量で混合し、37℃1時間インキュベートした。果実の凍結乾燥粉末および熱水抽出物のPBS溶液(20mg/mL)あるいはドリアン果汁と血清希釈液を等容量で混合し、37℃1時間インキュベートした。これをウエスタンブロッティング用の試料とした。
【0044】
(3)ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング用試料に4×LDS試料用緩衝液(Thermo Scientific)を加え混合し、1ウェルあたり血清が1μL含まれるようXV PANTERA MP Gel(ゲル濃度:5~20%、ディー・アール・シー)にロードし、200Vの定電圧でSDS-PAGE法により試料中のタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、タンパク質をPVDF膜(Amersham Hybond P PVDF 0.45、GEヘルスケア)に転写した。
転写後のPVDF膜をTris buffered saline with Tween(TBST 0.05%Tween20)で洗浄し、続いてブロッキング溶液(5%スキムミルク/TBST)に浸した後、室温で1時間振盪し、ブロッキング処理を行った。
ブロッキング処理を行ったPVDF膜は抗体希釈用緩衝液で希釈した抗体と4℃、16~18時間反応させた。反応後、PVDF膜を3回TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で二次抗体を希釈して室温、1時間の条件で二次抗体反応を行った。なお、使用した抗体の希釈条件は以下の通りである。一次抗体:抗ヒト/マウスAIM抗体 rab1(1:3000)、二次抗体:抗ウサギ IgG(H+L)抗体HRP conjugate(1:5000)。
反応終了後、再度3回、TBSTで洗浄し、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を基質として用い、ChemiDoc Touch(BioRad)にてシグナルの検出・撮影を行った。
同様の操作を血清のみの試料についても行った。
【0045】
(4)結果
ウエスタンブロッティングの撮影画像を図7に示す。
図7に示すとおり、アサフェティダ抽出物には、通常血中に存在しないフリー体のAIMを増加させる作用があることがわかった。アサフェティダ抽出物による血中のフリー体AIMの増加により、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等のフリー体AIMが関与する疾患の予防改善剤として期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8