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  • 特許-積層造形装置及びその改造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】積層造形装置及びその改造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 15/00 20060101AFI20221017BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221017BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20221017BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20221017BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B23K15/00 501B
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F3/105
B22F3/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019084936
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020179415
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】江口 滋信
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165998(JP,A)
【文献】実開平01-166955(JP,U)
【文献】特開2015-193135(JP,A)
【文献】特開2019-007051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0108641(US,A1)
【文献】特開昭55-051572(JP,A)
【文献】特公昭49-042418(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置された導電性のステージと、
前記ステージの上側に配置された導電性のベースプレートと、
前記ベースプレートの上側に金属素材を供給する金属素材供給装置と、
前記金属素材供給装置で供給された前記金属素材に電子ビームを照射し、前記金属素材を溶融して凝固させる電子ビームガンと、
前記ステージ及び前記ベースプレートをアースするアース回路と、
前記金属素材供給装置及び前記電子ビームガンを制御するコントローラとを備えた積層造形装置において、
前記ステージと前記ベースプレートの間に配置され、前記電子ビームガンからの電子ビームの照射で生じる電流によって発熱する抵抗発熱体を備えたことを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の積層造形装置において、
前記ベースプレートの温度を検出する温度検出器を備え、
前記アース回路は、前記ステージに接続された第1の接続線と、前記ベースプレートに接続された第2の接続線と、アース線と、前記第1の接続線及び前記第2の接続線のうちの一方を選択して前記アース線に接続する切替スイッチとで構成されており、
前記コントローラは、前記温度検出器で検出された前記ベースプレートの温度が予め設定された所定値未満である場合に、前記第1の接続線と前記アース線を接続するように前記切替スイッチを制御し、前記温度検出器で検出された前記ベースプレートの温度が前記所定値以上である場合に、前記第2の接続線と前記アース線を接続するように前記切替スイッチを制御することを特徴とする積層造形装置。
【請求項3】
真空チャンバ内に配置された導電性のステージと、
前記ステージの上側に配置された導電性のベースプレートと、
前記ベースプレートの上側にワイヤ状又は粉末状の金属素材を供給する金属素材供給装置と、
前記金属素材供給装置で供給された前記金属素材に電子ビームを照射し、前記金属素材を溶融して凝固させる電子ビームガンと、
前記ステージ及び前記ベースプレートをアースするアース回路と、
前記金属素材供給装置及び前記電子ビームガンを制御するコントローラとを備えた積層造形装置を改造する方法であって、
前記ステージと前記ベースプレートの間に、前記電子ビームガンからの電子ビームの照射で生じる電流によって発熱する抵抗発熱体を設けたことを特徴とする積層造形装置の改造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の積層造形装置の改造方法において、
前記ベースプレートの温度を検出する温度検出器を設け、
前記アース回路は、前記ステージに接続された第1の接続線と、前記ベースプレートに接続された第2の接続線と、アース線と、前記第1の接続線及び前記第2の接続線のうちの一方を選択して前記アース線に接続する切替スイッチとで構成し、
前記コントローラは、前記温度検出器で検出された前記ベースプレートの温度が予め設定された所定値未満である場合に、前記第1の接続線と前記アース線を接続するように前記切替スイッチを制御し、前記温度検出器で検出された前記ベースプレートの温度が前記所定値以上である場合に、前記第2の接続線と前記アース線を接続するように前記切替スイッチを制御する機能を追加することを特徴とする積層造形装置の改造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを金属素材に照射して積層造形を行う積層造形装置及びその改造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを金属素材に照射して積層造形を行う積層造形装置が知られている。特許文献1の積層造形装置は、真空チャンバ内に配置されたステージと、ステージの上側に配置されたベースプレートと、ベースプレートの上側にワイヤ状の金属素材を供給する金属素材供給装置と、金属素材供給装置で供給された金属素材に電子ビームを照射し、金属素材を溶融して凝固させる電子ビームガンとを備えている。そして、金属の層を順次成形して、ベースプレート上に三次元形状の造形物を造形するようになっている。
【0003】
特許文献2の積層造形装置は、ベースプレートと造形物の界面に設けられた温度センサと、ステージの下部に配置された抵抗加熱ヒータと、温度センサの出力に基づいて抵抗加熱ヒータに通電する電流をON/OFF制御する制御部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-530027号公報
【文献】特開2017-165998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
明確に記載されていないものの、特許文献2の積層造形装置では、抵抗加熱ヒータに電流を流すためのヒータ用電源を必要としている。しかし、本願発明者らは、電子ビームガンから照射された電子ビームを有効活用すれば、ヒータ用電源が不要になることに気づいた。
【0006】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子ビームを有効活用してヒータ用電源を不要とし、コスト低減を図ることができる積層造形装置及びその改造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、真空チャンバ内に配置された導電性のステージと、前記ステージの上側に配置された導電性のベースプレートと、前記ベースプレートの上側に金属素材を供給する金属素材供給装置と、前記金属素材供給装置で供給された前記金属素材に電子ビームを照射し、前記金属素材を溶融して凝固させる電子ビームガンと、前記ステージ及び前記ベースプレートをアースするアース回路と、前記金属素材供給装置及び前記電子ビームガンを制御するコントローラとを備えた積層造形装置において、前記ステージと前記ベースプレートの間に配置され、前記電子ビームガンからの電子ビームの照射で生じる電流によって発熱する抵抗発熱体を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子ビームを有効活用してヒータ用電源を不要とし、コスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態における積層造形装置の概略構造を表す図である。
図2】本発明の第2の実施形態における積層造形装置の概略構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態における積層造形装置の概略構造を表す図である。
【0011】
本実施形態の積層造形装置は、真空チャンバ1内に配置された導電性のステージ2と、ステージ2の上側に配置された導電性のベースプレート3と、ベースプレート3の上側にワイヤ状の金属素材4を供給する金属素材供給装置5と、金属素材供給装置5で供給された金属素材4に電子ビーム6を照射し、金属素材4を溶融して凝固させる電子ビームガン7と、アース回路8と、コントローラ9とを備えている。
【0012】
ステージ2は、水平方向に移動可能かつ鉛直軸を中心として回転可能に構成されている。本実施形態のアース回路8は、ステージ2に接続されたアース線で構成されており、ステージ2及びベースプレート3をアースするようになっている。
【0013】
電子ビームガン7は、図示しないものの、電子ビーム6を発生させるフィラメントと、電子ビーム6を集束させる集束コイルとを有している。電子ビーム6の照射位置と金属素材4の供給位置が同じとなるように、電子ビームガン7と金属素材供給装置5が互いに連結されている。電子ビームガン7は、金属素材供給装置5と共に、水平方向及び鉛直方向に移動可能かつ水平軸を中心として回転可能に構成されている。
【0014】
コントローラ9は、図示しないものの、プログラムや造形物の設計データを記憶する記憶部(詳細には、例えばメモリ及びハードディスク等)と、プログラムや造形物の設計データに基づいて制御処理を実行するプロセッサとを有している。コントローラ9は、ステージ2の位置や回転角を制御すると共に、電子ビームガン7及び金属素材供給装置5の位置や回転角を制御する。また、電子ビームガン7の電子ビーム6の照射のON/OFFを制御すると共に、金属素材供給装置5の金属素材4の供給のON/OFFを制御する。これにより、金属の層を順次成形して、ベースプレート3上に三次元形状の造形物10を造形するようになっている。
【0015】
造形完了後、ベースプレート3と一体化された造形物10は、真空チャンバ1から外部へ取出される。なお、造形中、真空チャンバ1の内部は、真空ポンプ(図示せず)によって高真空状態となっている。これにより、造形物10における不純物の混入を防ぐようになっている。
【0016】
ところで、造形物10の各層の厚みが大きく且つ造形速度が速い場合や、金属素材4として高強度の超合金(詳細には、例えば高強度のニッケル基合金又は高強度のコバルト基合金等)を用いる場合、造形物10の割れを防止するために、造形物10の温度を高温に保つことが好ましい。また、造形物10の温度勾配を抑えることが好ましい。詳しく説明すると、造形物10の上側部分は、電子ビームガン7からの電子ビーム6によって入熱して高温となるものの、造形物10の下側部分は、ベースプレート3及びステージ2を介し放熱して低温となる。そのため、造形物10の下側部分を暖めることが好ましい。
【0017】
そこで、本実施形態の積層造形装置は、ステージ2とベースプレート3の間に配置された抵抗発熱体11(詳細には、例えばカーボン又はセラミック等からなり、ステージ2及びベースプレート3より高い抵抗を有し、電気を熱に変換するもの)を備える。そして、電子ビームガン7からの電子ビーム6の照射に伴い、造形物10、ベースプレート3、抵抗発熱体11、ステージ2、及びアース回路8にその順序で電子が移動する。この電子の移動(すなわち、電流)によって抵抗発熱体11が発熱し、ベースプレート3及び造形物10の下側部分を暖めることができる。これにより、造形物10の温度を高温に保ち、造形物10の温度勾配も抑えることができる。したがって、造形物10の割れを防止することができる。また、電子ビーム6を有効活用するので、抵抗発熱体11に電流を流すためのヒータ用電源を不要とし、コスト低減を図ることができる。
【0018】
なお、本実施形態の積層造形装置を構築する際、装置全体を新たに構築してもよいが、既存の積層造形装置を改造してもよい。すなわち、既存の積層造形装置に対し、抵抗発熱体11を設けてもよい。この改造は、ヒータ用電源を要する場合と比べ、容易に行うことができる。
【0019】
本発明の第2の実施形態を、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態における積層造形装置の概略構造を表す図である。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0020】
本実施形態の積層造形装置は、ベースプレート3の温度(但し、図示では、ベースプレート3の内部温度であるが、表面温度でもよい)を検出する温度検出器12(詳細には、例えば熱電対)を備える。
【0021】
本実施形態のアース回路8は、ステージ2に接続された接続線13Aと、ベースプレート3に接続された接続線13Bと、アース線14と、接続線13A,13Bのうちの一方を選択してアース線14に接続する切替スイッチ15とで構成されている。
【0022】
本実施形態のコントローラ9は、第1の実施形態と同様の機能に加え、温度検出器12で検出されたベースプレート3の温度に応じて切替スイッチ15を制御する機能を有する。詳細には、ベースプレート3の温度が予め設定された所定値未満である場合に、コントローラ9は、接続線13Aとアース線14を接続するように切替スイッチ15を制御する。これにより、造形物10、ベースプレート3、抵抗発熱体11、ステージ2、接続線13A、及びアース線14に電流が流れて、抵抗発熱体11が発熱する。したがって、ベースプレート3及び造形物10の下側部分を暖めることができる。
【0023】
一方、温度検出器12で検出されたベースプレート3の温度が所定値以上である場合に、コントローラ9は、接続線13Bとアース線14を接続するように切替スイッチ15を制御する。これにより、造形物10、ベースプレート3、接続線13B、及びアース線14に電流が流れる。すなわち、抵抗発熱体11に電流が流れず、抵抗発熱体11が発熱しない。
【0024】
以上のように構成された本実施形態においても、第1の実施形態と同様、電子ビーム6を有効活用してヒータ用電源を不要とし、コスト低減を図ることができる。また、本実施形態では、ベースプレート3の温度を調整することができる。
【0025】
なお、本実施形態の積層造形装置を構築する際、装置全体を新たに構築してもよいが、既存の積層造形装置を改造してもよい。詳しく説明すると、既存の積層造形装置に対し、抵抗発熱体11及び温度検出器12を設けてもよい。アース回路8は、接続線13A,13B、アース線14、及び切替スイッチ15で構成すればよい。コントローラ9は、温度検出器12で検出されたベースプレート3の温度に応じて切替スイッチ15を制御する機能を追加すればよい。この改造は、ヒータ用電源を要する場合と比べ、容易に行うことができる。
【0026】
なお、第1及び第2の実施形態において、特に説明しなかったが、コントローラ9は、造形物10の造形前に、電子ビームガン7からベースプレート3に電子ビーム6を直接照射するように制御して、ベースプレート3を予熱してもよい。この場合も、抵抗発熱体11が発熱するので、ベースプレート3の予熱温度を高めることができる。
【0027】
また、第1及び第2の実施形態において、ステージ2は、水平方向に移動可能かつ鉛直軸を中心として回転可能に構成された場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば移動不能かつ回転不能に構成されてもよい。この場合、コントローラ9は、ステージ2を制御する機能を有しなくてよい。
【0028】
また、第1及び第2の実施形態において、積層造形装置は、ワイヤ状の金属素材4を供給する金属素材供給装置5を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られず、粉末状の金属素材を供給する金属素材供給装置を備えてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 真空チャンバ
2 ステージ
3 ベースプレート
4 金属素材
5 金属素材供給装置
6 電子ビーム
7 電子ビームガン
8 アース回路
9 コントローラ
10 造形物
11 抵抗発熱体
12 温度検出器
13A 接続線(第1の接続線)
13B 接続線(第2の接続線)
14 アース線
15 切替スイッチ
図1
図2