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特許7159147ジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システム
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  • 特許-ジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システム 図1
  • 特許-ジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システム
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20221017BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20221017BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
G21F9/30 511B
G21F9/16 511B
G21F9/36 511E
G21F9/36 511L
G21F9/36 521Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019223888
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021092474
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】古館 佑樹
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067679(JP,A)
【文献】特開2018-021808(JP,A)
【文献】特開2018-122585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、
上記混合工程で得られた混合物の上面に、水蒸気を放出する孔を有し又は上記混合物が配置される枠型との間に隙間を形成できる蓋を載置した状態で、上記混合物を加熱する工程と
を備えるジオポリマー固化体製造方法。
【請求項2】
ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、
上記混合工程で得られた混合物の上面に、水蒸気を上記混合物側に還流可能な蓋を載置した状態で、上記混合物を加熱する工程と
を備えるジオポリマー固化体製造方法。
【請求項3】
上記混合工程と上記加熱工程との間にポリマー化反応を進行させる工程を有しておらず、
上記加熱工程における加熱温度が40℃以上100℃未満である請求項1又は請求項2に記載のジオポリマー固化体製造方法。
【請求項4】
上記混合工程後に上記混合物を型枠に充填する工程を備え、
上記加熱工程で加熱される混合物が上記充填工程で得られた成形体である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のジオポリマー固化体製造方法。
【請求項5】
上記ジオポリマー材料が、アルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を含む材料である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のジオポリマー固化体製造方法。
【請求項6】
ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する混合部と、
上記混合部で得られた混合物の上面に載置される蓋と、
上記蓋が載置された記混合物を加熱する加熱部と
を備え
上記蓋は、水蒸気を放出する孔を有し又は上記混合物が配置される枠型との間に隙間を形成できるように設けられているジオポリマー固化体製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃棄物をドラム缶等の容器の中に入れて固めるための固化材として、セメント、アスファルト、プラスチック、ガラス等が用いられている。このうち、セメントと放射性廃棄物とを混合して容器の中に固める方法は、原子力施設内での処理が比較的容易なことから、多くの原子力施設で標準的な固化法として用いられている。
【0003】
しかしながら、セメントによる固化法では、水和反応により水和物を生成して硬化する反応を利用するため、その固化体中には多量の水が含まれる。放射性廃棄物の放射能濃度が高くなると、水和物に不可分に含まれている水分や添加した水分が放射線分解されて水素が発生する。そして、発生した水素が容器内に充満して爆発限界濃度を超えると、爆発を起こすことがある。このため、セメント固化法では、セメントと混合する放射性廃棄物の濃度あるいは量を制限して、水素の発生量を抑制する必要がある。すなわち、放射能濃度の高い放射性廃棄物をセメントで固化する場合には、1個の容器に収納することができる放射性廃棄物の量が制限され、結果として使用する容器の数が増え、放射性廃棄物の輸送費用や処分費用が増大するという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、水分を含まないガラスを固化材とするガラス固化法を適用することが考えられる。しかしながら、ガラス固化法は、1200℃以上に加熱した溶融ガラスに放射性廃棄物を混合して容器の中に固める高度な技術を要する固化法であり、セメント固化法に比べて汎用性・経済性に劣る。
【0005】
そこで、放射性廃棄物をジオポリマーで固化することが考えられる。ジオポリマーは水和反応を利用しないため、固化体中に不可分な水が含まれることがない。例えば、特許文献1には、赤泥と灰とを混合した粉末を、ジオポリマーにより固化する赤泥の固化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-75716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射性廃棄物を廃棄体として処分する際には、廃棄体が所定の技術上の基準に適合している必要がある。具体的には、一軸圧縮強度が15kgf/cm以上であることや、空隙が残らないこと、固型化材料と混和材料と放射性廃棄物とが均質に混合されていること等がある。しかし、放射性廃棄物をジオポリマーで固化する場合、ジオポリマー固化反応の進行が不十分となることがある。この場合、固化体の均質性や強度について、前述の技術上の基準に適合せず、廃棄体として処分が出来なくなることが懸念される。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができるジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、上記混合工程で得られた混合物を低密閉状態で加熱する工程とを備えるジオポリマー固化体製造方法である。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の別の態様は、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、上記混合工程で得られた混合物を高湿度環境で加熱する工程とを備えるジオポリマー固化体製造方法である。
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の別の態様は、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する混合部と、上記混合部で得られた混合物を低密閉状態で加熱する加熱部とを備えるジオポリマー固化体製造システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができるジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法のフローチャートである。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造システムの構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法は、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、上記混合工程で得られた混合物を低密閉状態で加熱する工程とを備える。当該ジオポリマー固化体製造方法によると、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0015】
低密閉状態とは、完全な密閉状態とせずに、加熱により蒸発した水蒸気が外部に放出できる程度の密閉状態であることを意味する。上記低密閉状態においては、ジオポリマー固化体の生成反応を進行するために必要な水分が不足しない程度の水蒸気雰囲気下で加熱を行うことができる。当該ジオポリマー固化体製造方法は、上記加熱工程が低密閉状態で行われることにより水蒸気の過度な放出を防ぐため、固化反応に必要な水分が不足しない。ジオポリマー固化反応に必要な水分を反応系に留めておくことで、ジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができると考えられる。
【0016】
本発明の別の実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法は、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程と、上記混合工程で得られた混合物を高湿度環境で加熱する工程とを備える。当該ジオポリマー固化体製造方法によると、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0017】
高湿度環境とは、ジオポリマー固化反応に係る反応系の水分が、加熱による水分蒸発に拘わらずジオポリマー固化反応の進行が妨げられない程度に維持される湿度環境をいい、必ずしも相対湿度100%である必要はない。当該ジオポリマー固化体製造方法は、上記加熱工程が高湿度環境で行われることにより、反応系の水分を一定に保つことができる。ジオポリマー固化反応に必要な水分を反応系に留めておくことで、ジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができると考えられる。
【0018】
当該ジオポリマー固化体製造方法は、上記加熱工程を、上記混合物の上面に蓋を載置することで行うと好ましい。上記蓋により、上記加熱工程において蒸発した水蒸気が環流される。このようなジオポリマー固化体製造方法は、加熱中の過度な水蒸気の外部への放出を抑制し、また、反応系の水分を一定に保つことができる。ジオポリマー固化反応に必要な水分を反応系に十分に留めておくことで、ジオポリマー固化反応の反応場が維持され、より均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0019】
当該ジオポリマー固化体製造方法は、上記混合工程後に上記混合物を型枠に充填する工程を備え、上記加熱工程で加熱される混合物が上記充填工程で得られた成形体であると好ましい。ジオポリマー固化前の過度な混合物の圧縮は、水分が混合物内に閉じ込められることによる不均質なジオポリマー固化体を生成し得る。混合物を型枠に充填し、上記充填工程で得られた成形体を加熱する当該ジオポリマー固化体製造方法は、より均質なジオポリマー固化体を製造することができる。
【0020】
当該ジオポリマー固化体製造方法は、上記ジオポリマー材料が、アルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を含む材料であると好ましい。アルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を含む材料を上記ジオポリマー材料として用いた場合、上記加熱工程において、ジオポリマー固化反応に必要なSiとAlの架橋反応が効率的に進行する。また、メタケイ酸ナトリウム九水和物から水和水が脱離し、この水和水がジオポリマー固化反応に必要な水分として機能する。このようなジオポリマー固化体製造方法は、上記ジオポリマー材料をすべて固体の状態で取り扱うことができ、設備及び作業工程の簡略化が可能となる。
【0021】
本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造システムは、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する混合部と、上記混合部で得られた混合物を低密閉状態で加熱する加熱部とを備えるジオポリマー固化体製造システムである。
【0022】
当該ジオポリマー固化体製造システムによると、ジオポリマー固化反応の進行が不十分となる領域の生成を防ぐことができる。このため、当該ジオポリマー固化体製造システムは、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システムについて詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成要素の名称は、背景技術に用いられる各構成要素の名称と異なる場合がある。適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0024】
なお、以下の説明において、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する工程を「混合工程」と、混合工程で得られた混合物を型枠に充填する工程を「充填工程」と、上記混合物又は充填工程で得られた成形体(以下、まとめて「混合物等」ということがある。)を低密閉状態で加熱する工程を「加熱工程」と、加熱工程の後に得られた生成物を養生する工程を「養生工程」とし、説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法のフローチャートである。図中のS1からS4は工程を示す符号であり、後述する符号S1からS4と対応している。
【0026】
<ジオポリマー固化体製造方法>
図1に示す本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法では、混合工程S1と、充填工程S2と、加熱工程S3と、養生工程S4とを備える。なお、本発明に係るジオポリマー固化体製造方法においては、充填工程S2及び養生工程S4を省略することが可能である。
【0027】
(混合工程)
混合工程S1では、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を撹拌機等によって均一に混合する。混合工程S1において、水分を添加してもよい。水分の添加は、水の添加、水蒸気の導入等により行うことができる。混合工程S1において適切な水分量を保持することにより、十分な流動性を確保し、均一な混合を行うことができる。混合工程S1により、上記ジオポリマー材料と上記放射性廃棄物との混合物を得ることができる。
【0028】
(ジオポリマー)
ジオポリマーとは、ケイ酸モノマーと架橋金属とが脱水縮合により重縮合することで形成される無機ポリマーの1つである。上記架橋金属は、例えばアルミニウムを用いることができる。
【0029】
上記ジオポリマーは、例えば、ケイ酸ナトリウム等のSiを含む化合物と、アルミナ等のAlを含む化合物と、アルカリ性の化合物を含有するアルカリ刺激剤とを混合することで形成することができる。ジオポリマーの形成にあたり、上記アルカリ刺激剤を溶解し、アルカリ性の反応場を形成することによってSiとAlの架橋反応を形成するために水分が必要である。上記水分は反応系に水を加えてもよいし、上記アルカリ刺激剤として水和物を用いることにより加熱時に脱離する水和水を上記水分として機能させてもよい。ジオポリマー形成前の材料をすべて固体の状態で取り扱うことができ、設備及び作業工程の簡略化が期待できるため、上記アルカリ刺激剤として水和物を用いると好ましい。
【0030】
ケイ酸ナトリウムとアルミナを例として、上記ジオポリマーの生成過程を詳説する。アルミナに含まれるAlは、ケイ酸ナトリウム水溶液、いわゆる水ガラスに溶出してケイ酸モノマーとなるSiOと重縮合する。これにより、Si-O-Al結合が生じて、無機ポリマーであるジオポリマーが生成される。さらに詳説すると、水ガラスの一部は加水分解してケイ酸と水酸化ナトリウムになっており、反応系に添加された上記アルカリ刺激剤や上記水酸化ナトリウムから生じた水酸化物イオンは、アルミナを水和させて水酸化アルミニウム等に変え、さらにアルミン酸まで可溶化させる。このアルミン酸とケイ酸とから水分子が取り外されることでSi-O-Al結合が生じ、上記ジオポリマーが生成される。上記ジオポリマーが、上記放射性廃棄物を固化するバインダーの役目を果たす。
【0031】
ここで、ポリマーとは、複数のモノマーが重縮合することによってできた化合物のことである。また、重縮合とは、複数の化合物が、互いの分子内から水のような小分子を取り外しながら縮合し、それらが連鎖的につながってポリマーを生成することである。
【0032】
(ジオポリマー材料)
上記ジオポリマー材料には、無機材料とアルカリ刺激剤とが含まれる。上記無機材料には、ケイ酸塩、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、メタカオリン、高炉スラグ、焼却灰、飛灰、フライアッシュ、ゼオライト、モルデナイト、シリカフューム等があり、上述したジオポリマーの形成に必要なSi及びAlが含まれるよう、これらのうち少なくとも1種以上が選ばれる。
【0033】
上記ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ルビジウム、ケイ酸セシウム等を用いることができる。また、ケイ酸塩には、オルト、メタ等の様々な化学形態のものが存在するが、特定の化学形態に限定されることなく何れの化学形態のケイ酸塩であっても上記無機材料として採用することができる。
【0034】
上記無機材料中のSiとAlとの比率は特に制限されないが、通常、Si:Al原子比が1:1~35:1にあるものが使用され、上記放射性廃棄物の固定という機能の点からは、Si:Al比が1:1~5:1の範囲内にあるものが好ましい。なお、上記無機材料にはSi及びAl以外の元素や不純物を含んでもよい。
【0035】
(アルカリ刺激剤)
アルカリ刺激剤とは、上記無機材料に含まれるAlを水ガラスに溶出させて反応を促進させるアルカリ性の化合物を含有する反応促進剤である。
【0036】
上記アルカリ刺激剤としては、例えば、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、上述したケイ酸塩等を用いることができる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等がある。上記ケイ酸塩を用いる場合は上記無機材料の機能を兼ねることができる。また、上記水酸化物や上記ケイ酸塩に、さらにアルミン酸塩を添加したものも上記アルカリ刺激剤として採用することができる。
【0037】
(水和物)
ジオポリマーの形成に必要な水分は、上記アルカリ刺激剤として水和物を用いることで、加熱時に脱離する水和水を水分として機能させてもよい。上記水和物は、水分子を含む物質を持つ化合物として、例えば、ケイ酸塩水和物、アルミン酸塩水和物、硫酸ナトリウム十水和物等を用いることができる。
【0038】
上記ケイ酸塩水和物としては、例えば、ケイ酸リチウム水和物、メタケイ酸ナトリウム九水和物等のケイ酸ナトリウム水和物、四ケイ酸カリウム一水和物等のケイ酸カリウム水和物、ケイ酸ルビジウム水和物、ケイ酸セシウム水和物等がある。また、上記アルミン酸塩水和物としては、例えば、アルミン酸リチウム水和物、アルミン酸ナトリウム水和物、アルミン酸カリウム三水和物等のアルミン酸カリウム水和物、アルミン酸ルビジウム水和物、アルミン酸セシウム水和物等がある。
【0039】
上記ジオポリマー材料は、アルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を含む材料が好適である。アルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を含む材料を上記ジオポリマー材料として用いた場合、上記加熱工程において、ジオポリマー固化反応に必要なSiとAlの架橋反応が効率的に進行する。また、メタケイ酸ナトリウム九水和物から水和水が脱離し、ジオポリマー固化反応に必要な水分として機能する。このため、上記ジオポリマー材料をすべて固体の状態で取り扱うことができ、設備及び作業工程の簡略化が可能である。
【0040】
(放射性廃棄物)
上記放射性廃棄物は、特に限定されず、イオン交換樹脂の熱分解処理残渣、放射化金属の切粉等の粉状あるいは粒状のもの、瓦礫等を焼却して得られる焼却残渣、板や管等の塊状のもの、汚染水等の液状のものであってもよい。上記放射性廃棄物を用いて当該ジオポリマー固化体製造方法により製造されたジオポリマー固化体は、低水分となるため、水の放射線分解による水素の発生を抑制することができる。
【0041】
当該ジオポリマー固化体製造方法では、上記放射性廃棄物以外の廃棄物を用いることも可能である。このような廃棄物として、一般廃棄物、燃え殻、汚泥、廃油、廃アルカリ、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず、鉱さい、がれき類、ばいじん、紙くず、木くず、植物性残さ、動物系固体不要物、動物のふん尿、感染性産業廃棄物等を用いることが可能である。
【0042】
(混合量)
上記ジオポリマー材料の混合量は、ジオポリマー固化体が形成できる範囲であれば特に制限されない。上記ジオポリマー材料の混合量は、上記ジオポリマー材料と上記放射性廃棄物との合計重量に対し5重量%以上50重量%以下の範囲が好ましく、20重量%以上50重量%以下の範囲にあるとより好ましい。
【0043】
なお、混合工程S1において水の添加は必ずしも必要ないが、水を添加する場合、水の添加量は、上記ジオポリマー材料と上記放射性廃棄物と水との合計重量に対し、0.1重量%以上50重量%以下の範囲にあることが好ましく、0.1重量%以上30重量%以下の範囲にあるとより好ましい。ジオポリマーが固化する際の脱水重縮合でも水が生成されるため、過剰量の水の添加は、不均質なジオポリマー固化体が生成する原因となり得る。上記範囲の水の添加であれば均質なジオポリマー固化体の生成に支障をきたすことがない。
【0044】
(充填工程)
当該ジオポリマー固化体製造方法は、充填工程S2を備えると好ましい。加熱工程S3の前に充填工程S2を行う場合、混合工程S1後に得られた上記混合物を型枠に充填するとよい。充填工程S2における上記型枠への充填に係る上記混合物の導入は、少量ずつ行うことが好ましく、上記混合物の導入後に上記型枠を震盪するとより好ましい。これにより、充填工程S2により得られる成形体の嵩密度を高めることができる。
【0045】
充填工程S2は、常圧、すなわち減圧や加圧を行わない大気圧程度の圧力条件下で上記混合物を上記型枠に充填することで行われると好ましい。ジオポリマー固化前の混合物の加圧等は、水分が混合物内に閉じ込められることによる不均質なジオポリマー固化体を生成し得る。常圧で混合物を型枠に充填することで、より均質なジオポリマー固化体を製造することができる。
【0046】
(型枠)
上記型枠としては、長期保存が可能であれば、特に制限されず、その素材は、例えば金属材料やセラミックス等の無機材料等を用いることができる。無機材料等を用いた基材に金属層を積層した材料を用いてもよい。上記型枠の容積は、処理効率等を鑑み適宜選択される。例えば、金属製のドラム缶やペール缶を用いる場合は規格に応じて、200L、120L、100L、80L、60L、50L、40L、20L等がある。
【0047】
(加熱工程)
本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法は、加熱工程S3において混合物等を低密閉状態すなわち、完全な密閉状態とせずに加熱により蒸発した水蒸気が外部に放出できる程度の密閉状態で加熱を行う。上記加熱は、例えば温度調整が成される加熱器や乾燥機等によって行うことができる。当該ジオポリマー固化体製造方法は、このような加熱工程を備えることでジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0048】
上記低密閉状態は、例えば混合物等の上面に蓋を載置すること、混合物等の上面を気密性の高いカバーで覆うこと、型枠に空孔を設けること、上記型枠に開閉可能な蓋を設けること等の方法により作り出すことができる。また、加熱工程S3において、水蒸気の外部からの導入又は水の追加を併行して行うと、より十分に水分が存在する雰囲気下で加熱によるジオポリマー固化反応を促進することができる。
【0049】
本発明の別の実施形態に係るジオポリマー固化体製造方法は、加熱工程S3において高湿度環境、すなわちジオポリマー固化反応に係る反応系の水分が、加熱による水分蒸発に拘わらずジオポリマー固化反応の進行が妨げられない程度に維持される湿度環境において加熱を行う。当該ジオポリマー固化体製造方法は、このような加熱工程を備えることでジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0050】
上記高湿度環境は、例えば上記型枠内に水蒸気を外部から導入すること、上記型枠内に水を断続的に追加すること、混合物等の上面に蓋を載置すること、上記型枠に開閉可能な蓋を設けること等の方法により作り出すことができる。上記高湿度環境における相対湿度は50%以上100%以下であると好ましく、70%以上100%以下であるとより好ましく、80%以上100%以下であるとさらに好ましい。上記範囲内の湿度であると、十分に水分が存在する環境下でジオポリマー固化反応を促進することができる。
【0051】
(蓋)
加熱工程S3を、上記混合物等の上面に蓋を載置することで行うと好ましい。上記蓋は、上記混合物等の加熱中に蒸発した水蒸気を環流することで、加熱中の過度な水蒸気の外部への放出を抑制し、反応系の水分を一定に保つ。このような加熱工程を備えたジオポリマー固化体製造方法は、ジオポリマー固化反応の反応場が維持され、混合物等の内部まで十分にジオポリマー固化反応が進行した、より均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。また、上記蓋の自重によってジオポリマー固化反応の進行によるジオポリマー固化体の体積減少に伴い、上記型枠に充填された上記混合物等を適度に減容させることができる。
【0052】
上記蓋は、例えば上記型枠との間に隙間を確保する大きさであること、又は水蒸気を放出する孔を有することが好ましい。上記蓋が水蒸気を放出する孔を有さない場合は、上記蓋の表面積が上記混合物等の上面の表面積に対して70%以上95%以下の範囲内の面積であるとよい。これにより上記型枠が密閉されることなく、上記混合物等の加熱中に上記型枠の内圧が過度に高まることを防ぐことができる。
【0053】
上記蓋の材質は、加熱工程S3において変形、変質しないものであれば特に限定されない。例えば、金属、セラミックス、石英ガラス等を好適に使用することができる。
【0054】
(加熱温度)
加熱工程S3において、加熱温度は40℃以上100℃未満の温度であることが好ましい。100℃以上の温度で加熱を行うと水分が急速に蒸発し、上記混合物等の表面部のみで固化反応が進み、表面部が硬く緻密となる一方で、上記混合物等の内部には大量の水分が残存することがある。閉じ込められた上記混合物等の水分が外部に放散できなくなり、不均質なジオポリマー固化体が生成する可能性がある。また、40℃より低い温度で加熱を行うとジオポリマー固化反応の進行や、水分の除去が適切に行われず、余剰な水分を含んだジオポリマー固化体が生成する可能性がある。
【0055】
(養生工程)
養生工程S4は、加熱工程S3後の生成物を養生してポリマー化反応を進行させる工程である。加熱工程S3により適度にジオポリマー固化反応が進行した上記生成物は、例えば常温常圧環境下に静置することによって、人為的に手を加えなくても、大気中の水蒸気を吸収してジオポリマー固化反応の反応場が形成され、ジオポリマー固化反応が自然に進行する。養生時間は特に制限されず、養生温度や上記混合物等の容量等から最適に決定される。通常、3時間以上100時間以下の範囲であればよい。
【0056】
当該ジオポリマー固化体製造方法は、混合工程S1と加熱工程S3とを備えることで、ジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することを可能とする。また、使用するジオポリマー材料の種類や放射性廃棄物の量等に応じて充填工程S2や養生工程S4をさらに備えることも可能である。製造した放射性廃棄物を含むジオポリマー固化体は、型枠から取り出したうえで、又は型枠ごと、廃棄体として処分場に搬出される。
【0057】
当該ジオポリマー固化体製造方法は、部分的にジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。また、当該ジオポリマー固化体製造方法によって生成されたジオポリマー固化体は、低水分となるため、水の放射線分解による水素の発生を抑制することができる。さらに、当該ジオポリマー固化体製造方法によれば、一連の処理で放射性廃棄物の固化処理を行うことができ、処理時間の短縮、省力化を図ることができる。
【0058】
<ジオポリマー固化体製造システム>
本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体製造システムは、ジオポリマー材料及び放射性廃棄物を混合する混合部と、上記混合部で得られた混合物を低密閉状態で加熱する加熱部とを備えるジオポリマー固化体製造システムである。
【0059】
図2にジオポリマー固化体製造システム10の構成に係る一例を示す。ジオポリマー固化体製造システム10は、ジオポリマー材料1及び放射性廃棄物2を混合する混合部11と、混合部11で得られた混合物3を図示しない型枠に充填する充填部12と、混合物3又は充填部12で得られた成形体4を低密閉状態で加熱する加熱部13と、加熱部13における加熱後の生成物を養生する養生部14とを備える。なお、ジオポリマー固化体製造システム10は、ジオポリマー固化反応が十分に進行するのであれば、充填部12及び養生部14の一方又は両方を省略することが可能である。
【0060】
混合部11は、ジオポリマー材料1及び放射性廃棄物2を混合することで混合物3を作製する機能を有する。混合部11は、例えば撹拌機を有していてもよく、ジオポリマー材料1と放射性廃棄物2とを均一に混ぜ合わせることができる。
【0061】
充填部12は、混合物3を充填することにより成形体4を作製する機能を有し、混合物3を充填する図示しない型枠を備える。充填部12は常圧で成形体4を作製することも可能であるし、任意に設定される圧力を加える加圧部を有することで加圧して成形体4を作製することも可能である。
【0062】
成形体4を作製する際に混合物3に圧力を加えることにより、物量を圧縮できる点では有利といえる一方、設備コスト等が増大する点に留意する必要がある。このような観点からは、加圧を行わず常圧にて成形体4の作製を行う方が好ましい。
【0063】
加熱部13は、混合物3又は成形体4を加熱する機能を有する。加熱温度を制御する調温機能を有しており、混合物3又は成形体4への加熱温度を調節し、所定範囲内の温度を維持する。加熱部13は、少なくとも100℃までは昇温可能に構成される。
【0064】
加熱部13では、低密閉状態での加熱を行うことができるよう、例えば混合物3又は成形体4の上面に載置することができる蓋を備える。低密閉状態での加熱を行うことにより、ジオポリマー固化反応の促進に適した環境に調節する。すなわち、加熱時に反応物の内部に水分が提供され、ジオポリマー固化反応の反応場が形成される。ジオポリマー固化反応がさらに進行し、均質かつ高強度のジオポリマー固化体5を製造することができる。
【0065】
養生部14は、加熱部13における加熱後の生成物を養生してポリマー化反応を促進させる機能を有し、例えば、養生する空間を提供する養生室と、養生室の雰囲気を調節する空調部とを備える。養生部14では、上記空調部が上記養生室内の雰囲気を適度に調節することで、上記養生室内にて上記加熱後の生成物が大気中の水蒸気を吸収して、ジオポリマー反応が自然に進行する。これにより、より均質かつ高強度のジオポリマー固化体5を製造することができる。
【0066】
当該ジオポリマー固化体製造システムは、ジオポリマー固化反応の不十分な領域が生じることを防ぎ、均質かつ高強度のジオポリマー固化体を製造することができる。
【0067】
<その他の実施形態>
なお、本発明に係るジオポリマー固化体製造方法及びジオポリマー固化体製造システムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0069】
[実施例1]
ジオポリマー材料としてアルミナ及びメタケイ酸ナトリウム九水和物を使用した。また、模擬廃棄物として炭酸ナトリウムを使用した。本実施例においては、メタケイ酸ナトリウム九水和物が37重量%、アルミナが13重量%、炭酸ナトリウムが50重量%となるように混合した混合物を250g作製した。
【0070】
続いて、得られた混合物を、直径50ミリメートル、長さ100ミリメートルの型枠に充填することにより成形体を得た。充填は少量ずつ行い、都度振盪することにより、成形体4の嵩密度を高めた。
【0071】
得られた成形体を型枠ごと65時間加熱を行った。急速な水の蒸発を抑制するための蓋を成形体の上面に載置した上で、55℃の条件で加熱を行った。蓋の形状は、型枠との間に隙間が確保されるものとして、水蒸気の経路を確保した。
【0072】
[実施例2]
実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体を型枠ごと65時間加熱を行った。加熱は、実施例1と同様に蓋を成形体の上面に載置した上で、加熱開始後1時間は60℃で行い、その後55℃の条件で加熱を行った。加熱後の生成物は、実施例1と同様に養生し、ジオポリマー固化体を得た。
【0073】
[比較例1]
実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体を型枠ごと65時間加熱を行った。加熱は蓋を使用せず、55℃の条件で加熱を行った。加熱後の生成物は、実施例1と同様に養生し、ジオポリマー固化体を得た。
【0074】
(ジオポリマー固化体の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1において作製したジオポリマー固化体について、型枠から外し均質性及び一軸圧縮強度の評価を行った。均質性は作製したジオポリマー固化体の外観を観察することにより評価を行った。二層化が確認されなかった場合をA、二層化が生じその上層の厚さが全体の20%未満であった場合をB、二層化が生じその上層の厚さが全体の20%以上であった場合をCとして、均質性の評価とした。一軸圧縮強度はJIS-A-1108に準拠して測定を行った。
【0075】
上記評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1におけるジオポリマー固化体は上部から7分の1程度で二層化していた。実施例2におけるジオポリマー固化体は二層化が見られなかった。すなわち実施例1及び実施例2で得られたジオポリマー固化体は均質性が高いものであった。一方、比較例1におけるジオポリマー固化体の均質性は上部から4分の1程度で二層化した不均質なものであった。すなわち比較例1に係る製造方法は、本発明に係るジオポリマー固化体製造方法としては不適である。
【0078】
実施例1、実施例2及び比較例1において作製したジオポリマー固化体の一軸圧縮強度はいずれも1.47MPaを超えたものであった。放射性廃棄物を廃棄体として処理するためには一軸圧縮強度が15kgf/cm(1.47MPa)以上である必要があるため、実施例1、実施例2及び比較例1において作製したジオポリマー固化体はいずれも基準を満たす。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るジオポリマー固化体製造方法は、放射性廃棄物を用いたジオポリマー固化体の製造方法として有用であり、放射性廃棄物の固化方法として好適に用いることができる。また、本発明に係るジオポリマー固化体製造システムは、放射性廃棄物をジオポリマーで固化したジオポリマー固化体を製造することができる。
【符号の説明】
【0080】
S1 混合工程
S2 充填工程
S3 加熱工程
S4 養生工程
1 ジオポリマー材料
2 放射性廃棄物
3 混合物
4 成形体
5 ジオポリマー固化体
10 ジオポリマー固化体製造システム
11 混合部
12 充填部
13 加熱部
14 養生部
図1
図2