(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】放射性フッ素標識化合物の製造方法および放射性医薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 233/91 20060101AFI20221017BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20221017BHJP
A61K 51/02 20060101ALI20221017BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20221017BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20221017BHJP
C07D 403/14 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C07D233/91
A61K51/00 200
A61K51/02 200
A61K51/04 200
C07B59/00
C07D403/14
(21)【出願番号】P 2019525277
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2018020403
(87)【国際公開番号】W WO2018235535
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017122981
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】奥村 侑紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 大作
(72)【発明者】
【氏名】桐生 真登
(72)【発明者】
【氏名】市川 浩章
(72)【発明者】
【氏名】殿谷 豪太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 尚美
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504443(JP,A)
【文献】特表2008-515793(JP,A)
【文献】特表2014-521677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0174606(US,A1)
【文献】Bioconjugate Chem.,2012年,Vol.23,pp.106-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性
フッ化物イオンにより求核置換可能な脱離基を備えた放射性
フッ素標識前駆体化合物に対し、放射性
フッ素化反応を実行することにより、放射性
フッ素標識前駆体化合物と放射性
フッ素化反応の反応生成物とを含む第一の反応混合物を得る工程と、
前記第一の反応混合物と、
多価酸と相関移動触媒とが塩形成したものとを混合
させることにより、前記脱離基と前記多価酸との置換反応を実行して、第二の反応混合物を得る工程と、
逆相分配能と陰イオン交換基とを有する固相カートリッジを用いた固相抽出法により、前記第二の反応混合物から前記反応生成物を精製する工程と、
を含
み、
前記多価酸が、カルボキシル基、スルホン酸基およびフェノール基から選択される一の酸性基を複数備えるもの、または、これらの酸性基を組み合わせて備えるものからなる多価有機酸であり、
前記脱離基が、スルホニルオキシ基である、放射性
フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第二の反応混合物を得る前記工程は、前記第一の反応混合物と、前記多価酸
と相関移動触媒とが塩形成したものとを混合させた後、加熱することにより、前記第二の反応混合物を得ることを含む、請求項
1に記載の放射性
フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項3】
前記脱離基が、
芳香族スルホニルオキシ基またはアルキルスルホニルオキシ基から選択される、請求項1または2に記載の放射性
フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項4】
前記相関移動触媒が、テトラアルキルアンモニウム塩である、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の放射性
フッ素標識化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の放射性
フッ素標識化合物の製造方法を実行することを含む、放射性
フッ素標識化合物を有効成分とする放射性医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ハロゲン標識化合物の製造方法および放射性医薬の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ハロゲン化された医薬の調製においては、標的基質のハロゲン標識部位に脱離基を結合させた化合物を標識前駆体化合物として用意し、この標識前駆体化合物に放射性ハロゲン化物イオンを反応させる求核置換反応が行われることが多い。そして、この反応は、一般的に、大量の標識前駆体化合物に少量の放射性ハロゲン化物イオンを用いて行われる。したがって、得られる放射性ハロゲン標識化合物の精製は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により、多量の未反応の標識前駆体化合物を分離することにより行われることが通常である。しかしながら、HPLC法は、煩雑で時間を要するものであり、放射性ハロゲンの減衰を考慮すると、目的化合物の収量の低下を招く要因となる。
【0003】
HPLC精製を要しない代替的戦略として、特許文献1は、上記標識前駆体化合物の脱離基の部分を化合物M(精製部分)で修飾した化合物を標識前駆体化合物として用意し、この化合物に放射性ハロゲン化物イオンなど求核剤を反応させて、精製部分Mを含有する種を、精製部分Mを含有しない他の種から容易に分離できるようにすることを提案している。
【0004】
また、特許文献2、3には、脂溶性官能基が導入された脱離基を有する放射性ハロゲン標識前駆体化合物および放射性ハロゲン標識方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/127372号公報
【文献】国際公開第2011/006610号公報
【文献】特開2017-52713号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1に記載された方法は、放射性ハロゲン化反応後、標識前駆体化合物の精製部分Mに対し、樹脂に固定された活性基を化学的に作用させることをコンセプトとしている。このため、放射性ハロゲン化反応生成物の収率に悪影響を与えたり、特殊な活性基を導入するなど樹脂の調製が必要だったりするなどの問題がある。
【0007】
また、特許文献2、3に記載された方法は、既存の標識前駆体化合物の構造の設計変更が必要となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、標識前駆体化合物の構造を設計変更せずに、HPLC法によらない方法で、放射性ハロゲン化反応の反応生成物を、未反応の放射性ハロゲン標識前駆体化合物から分離精製するための技術を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様は、
放射性ハロゲン化物イオンにより求核置換可能な脱離基を備えた放射性ハロゲン標識前駆体化合物に対し、放射性ハロゲン化反応を実行することにより、放射性ハロゲン標識前駆体化合物と放射性ハロゲン化反応の反応生成物とを含む第一の反応混合物を得る工程と、
前記第一の反応混合物と、多価酸またはその塩とを混合して、第二の反応混合物を得る工程と、
固相抽出法により、前記第二の反応混合物から前記反応生成物を精製する工程と、
を含む放射性ハロゲン標識化合物の製造方法
を提供するものである。
【0010】
本発明の他の態様は、上記の放射性ハロゲン標識化合物の製造方法を実行することを含む、放射性ハロゲン標識化合物を有効成分とする放射性医薬の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明によれば、標識前駆体化合物の構造を設計変更させることなく、HPLC法によらない方法で、放射性ハロゲン化反応の反応生成物を、未反応の放射性ハロゲン標識前駆体化合物から分離精製することができる。
【0012】
また、特許文献2、3記載の方法では、放射性ハロゲン標識前駆体化合物と放射性ハロゲン標識化合物との脂溶性の差が大きくなるため、放射性ハロゲン標識化合物を有効成分とする放射性医薬中の非放射性不純物を逆相系で分析する場合、分析時間に時間を要し、結果として放射性医薬の品質試験にかかる時間が延びてしまうおそれがあった。しかしながら、本発明の方法では、放射性ハロゲン標識前駆体化合物と放射性ハロゲン標識化合物との脂溶性の差を大きくするような放射性ハロゲン標識前駆体化合物の設計を行わないため、放射性医薬の品質試験に要する時間を延長させることなく放射性医薬の合成時間を短縮し、放射性医薬の製造時間を全体として短縮させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の放射性ハロゲン標識化合物の製造方法は、以下[工程1]~[工程3]の工程を順に実行するものである。
[工程1]放射性ハロゲン化物イオン(X-)により求核置換可能な脱離基(L)を備えた放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)に対し、放射性ハロゲン化反応を実行することにより、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)と放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)とを含む反応混合物RM1(第一の反応混合物)を得る工程。
[工程2]反応混合物RM1と、多価酸(AH)またはその塩(A-B+)とを混合して、反応混合物RM2(第二の反応混合物)を得る工程。
[工程3]固相抽出法により、反応混合物RM2から反応生成物(S-X)を精製する工程。
【0014】
[工程1]放射性ハロゲン化工程
放射性ハロゲン化工程では、放射性ハロゲン化物イオン(X-)により求核置換可能な脱離基(L)を備えた放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)に対し、放射性ハロゲン化反応を実行することにより、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)と放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)とを含む反応混合物RM1を得る。
【0015】
ここで、「放射性ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびアスタチンの各放射性同位体から選択されるものであり、具体的には、18F、34mCl、76Br、123I、124I、125I、131I、211Atが挙げられる。中でも、放射性フッ素(18F)が好ましい。
【0016】
放射性ハロゲン化物イオン(X-)は、通常使用される方法で、生成することができる。例えば、放射性フッ化物イオンの場合、サイクロトロンにより[18O]水から18O(p,n)18F反応により生成することができる。
【0017】
また、放射性ハロゲン化物イオン(X-)は、対イオンを備えていてもよい。例えば、放射性フッ化物イオンの場合、アルカリ金属イオンや、テトラアルキルアンモニウムイオンを対イオンとすることができる。ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが例示される。また、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンが例示される。目的の対イオンを備えた放射性ハロゲン化物イオン(X-)の調製には、陰イオン交換樹脂を使用することができる。一例として、炭酸型または重炭酸型に調製した陰イオン交換樹脂に対し、放射性フッ化物イオンを含む[18O]水を通液することで、放射性フッ化物イオンを吸着させ、炭酸カリウム水溶液、または、重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液を用いて放射性フッ化物イオンを溶離することで、調製することが可能である。
【0018】
放射性ハロゲン化物イオン(X-)は、相関移動触媒を使用して活性化されたものであってもよい。ここで用いられる相関移動触媒の例としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩、クラウンエーテル、クリプタンドが挙げられる。例えば、放射性フッ化物イオンの場合、4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)またはテトラアルキルアンモニウム塩と混合し、必要に応じて加熱することで、活性化することができる。放射性フッ化物イオンの活性化に関しては、(i)陰イオン交換樹脂および炭酸カリウム水溶液を用いて、放射性フッ化カリウム水溶液を調製した後、4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)と混合し、アセトニトリルと共沸させながら、放射性フッ化物イオンを活性化するとともに水蒸散させる方法、または、(ii)陰イオン交換樹脂および重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液を用いて調製した放射性フッ化テトラエチルアンモニウム水溶液をアセトニトリルと共沸させながら、放射性フッ化物イオンを活性化するとともに水蒸散させる方法がある。
【0019】
脱離基(L)は、放射性ハロゲン化物イオン(X-)が求核剤として攻撃することにより脱離するものであれば限定されないが、好ましくは、スルホニルオキシ基である。「スルホニルオキシ基」は、芳香族スルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基またはハロアルキルスルホニルオキシ基であり、芳香族スルホニルオキシ基としては、ベンゼンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基およびp-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基が例示される。また、アルキルスルホニルオキシ基としては、メタンスルホニルオキシ基が例示される。また、ハロアルキルスルホニルオキシ基としては、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基が例示される。
【0020】
放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)は、生体分子認識部位などからなる基質(S)に対し、脱離基(L)が導入された化合物(ここで、基質(S)は、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基など、放射性ハロゲン化物イオン(X
-)が作用する基を保護したものを含む)であり、以下の化合物が例示される。
・式(1)で表わされる化合物:フルオロデオキシグルコース(
18F)の標識前駆体化合物
・式(2)で表わされる化合物:fluciclovine(
18F)の標識前駆体化合物
・式(3)で表わされる化合物:[
18F]FLT(3’-[
18F]fluoro-3’-deoxythymidine)の標識前駆体化合物
・式(4)で表わされる化合物:[
18F]FET(O-(2-[
18F]fluoroethyl)-L-tyrosine)の標識前駆体化合物
・式(5)で表わされる化合物:[
18F]FES(6α-[
18F]fluoro-17β-estradiol)の標識前駆体化合物
・式(6)で表わされる化合物:[
18F]FMISO([
18F]fluoromisonidazole)の標識前駆体化合物
・式(7)で表わされる化合物:[
18F]FRP-170(1-(2-[
18F]fluoro-1-(hydroxymethyl)ethoxy)methyl-2-nitroimidazole)の標識前駆体化合物
・式(8)で表わされる化合物:[
18F]FAZA([
18F]fluoroazomycin arabinoside)の標識前駆体化合物
・式(9)で表わされる化合物:1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-[
18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール(WO2013/042668の化合物1)の標識前駆体化合物
・式(10)で表わされる化合物:フロルベタピル(
18F)の標識前駆体化合物
・式(11)で表わされる化合物:florbetaben(
18F)の標識前駆体化合物
・式(12)で表わされる化合物:[
18F]FP-CITの標識前駆体化合物
・式(13)で表される化合物:[
18F]FDDNP(2-(1-{6-[(2-[
18F]fluoroethyl)(methyl)amino]-2-naphthyl}-ethylidene)malono nitrile)の標識前駆体化合物
・式(14)で表わされる化合物:WO2015/199205に記載されたCYP11B2選択的阻害能を有する化合物の標識前駆体化合物
(式(14)中、R
1は、水素原子又はCO
2R
aを示し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子又はCO
2R
aを示し、R
3は、水素原子又は炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を示し、R
4は、水素原子、ヒドロキシ基又は炭素数1~10のアルコキシ基を示し、nは、1~5の整数を示し、Aは、CH又は窒素原子を示し、X
1、X
3は、各々独立して、水素原子又はハロゲン原子を示し、X
2は、水素原子、ハロゲン原子又はニトリル基を示すが、X
1、X
2、X
3の少なくとも1つはハロゲン原子であり、R
aは、各々独立して、炭素数1~10のアルキル基を示す。)
【化1】
【化2】
【0021】
なお、式(1)~(14)中、Lは、脱離基であり、P1は、ヒドロキシ基の保護基であり、P2は、アミノ基の保護基であり、P3は、カルボキシル基の保護基である。Lは、前述したものの中から式(1)~(14)で示す化合物ごとに、個々に選択することが
できる。また、P1、P2、P3は、Greene's Protective Groups in Organic Synthesis (John Wiley & Sons Inc社出版、5版、2014年10月27日発行)に記載されたものの中から、式(1)~(14)で示す化合物ごとに、個々に選択することができる。
【0022】
放射性ハロゲン化反応は、放射性ハロゲン化物イオン(X-)を求核剤とした放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の求核置換反応が進行する条件であれば、特に限定はされず、適宜、公知の方法を使用することができる。好ましくは、非プロトン性溶媒を使用し、塩基存在下に実行される。反応速度を上げるため、加熱条件下に実行されてもよい。
【0023】
非プロトン性溶媒としては、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが例示される。
【0024】
塩基としては、好ましくは、炭酸カリウム、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの非求核性塩基が用いられる。
【0025】
放射性ハロゲン化物イオン(X-)として、放射性フッ化物イオンを用いた放射性フッ素化反応の場合、相関移動触媒および塩基存在下に実行される方法が挙げられる。代表的には、4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)および炭酸カリウムを用いる例や、重炭酸テトラメチルアンモニウム、重炭酸テトラエチルアンモニウム、重炭酸テトラプロピルアンモニウム、重炭酸テトラブチルアンモニウムなどの重炭酸テトラアルキルアンモニウムを用いる例が挙げられる。また、放射性フッ素化反応においては、好ましくは、20~180℃の温度条件下に実行することができる。
【0026】
放射性ハロゲン化反応では、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の物質量は、放射性ハロゲン化物イオンの物質量に対して、過剰量に使用される。このため、放射性ハロゲン化反応の実行により得られる反応混合物RM1は、少なくとも放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)と反応生成物(S-X)とを含むものとなる。
【0027】
[工程2]放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解工程
放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の分解工程では、反応混合物RM1と、多価酸(AH)またはその塩(A-B+)とを混合させることにより、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の脱離基(L)と多価酸イオン(A-)との置換反応を実行して、放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)を得る。これにより、放射性フッ素化反応の反応生成物(S-X)と放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)とを含む反応混合物RM2が得られる。
【0028】
多価酸(AH)とは、価数が2以上の酸であり、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の脱離基(L)と置換するが、反応生成物(S-X)には作用しないものを適宜使用することができる。多価酸は、多価有機酸であってもよいし、多価無機酸であってもよい。多価有機酸とは、カルボキシル基、スルホン酸基およびフェノール基から選択される一の酸性基を複数備えるもの、または、これらの酸性基を組み合せて備えるものであり、例えば、カルボキシル基を複数備えるものとして、クエン酸、シュウ酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。また、カルボキシル基とフェノール基とを組み合わせて備えるものとしてゲンチジン酸が挙げられる。また、多価無機酸としては、リン酸が例示される。
【0029】
多価酸は、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の反応性を高めるため、塩(A-B+)を形成してもよい。多価酸の塩(A-B+)は、多価酸イオン(A-)と陽イオン(B+)との塩であるが、好ましくは、多価酸と相関移動触媒とが塩形成したものであり、多価有機酸と相関移動触媒とが塩形成したものがより好ましい。好ましい例において、多価酸の塩(A-B+)は、多価酸と相関移動触媒とを混合させることにより調製することができる。ここで用いられる相関移動触媒の例としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩や、クラウンエーテルやクリプタンドのアルカリ金属錯体(例えば、4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)のカリウムイオン(K+)錯体)が挙げられる。多価酸と相関移動触媒とを塩形成させるためには、多価酸の物質量に価数を乗じた量と、相関移動触媒の物質量とが等価になる条件で混合させることで調製することが好ましい。また、多価酸の塩の調製において、多価酸と相関移動触媒は、任意の溶媒下で混合されてもよい。溶媒としては、多価酸および相関移動触媒が溶解し、かつ、蒸散が容易であるものを適宜選択することができ、水;メタノール、エチルアルコールなどのアルコール;アセトン;テトラヒドロフラン;酢酸エチルなどが挙げられる。
【0030】
工程2で使用する多価酸またはその塩の物質量は、理論的には、工程1の放射性フッ素化反応で残留した放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の物質量と等価であればよいが、工程1で使用した放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の物質量と等価であってもよい。放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)を速やかに分解させる観点からは、多価酸またはその塩の物質量が、工程1で使用した放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の物質量に対して過剰に使用されることが好ましい。例えば、工程1で使用した放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)の物質量に対する多価酸またはその塩の物質量を1~100モル当量、好ましくは、1.5~50モル当量、より好ましくは、2~20モル当量とする。
【0031】
多価酸またはその塩と反応混合物RM1との混合物は、多価酸イオン(A-)と放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)との反応速度を促進させるため、必要に応じて加熱を行ってもよい。また、反応混合物RM1と、多価酸またはその塩との混合物に対して加熱を行う場合は、溶媒下に加熱することが好ましい。溶媒の種類および温度条件としては、多価酸イオン(A-)の反応性を高めることができ、かつ、反応生成物(S-X)が反応または分解しないものを選択する。工程1において非プロトン性溶媒下に放射性ハロゲン化反応を行った場合、反応混合物RM1は、非プロトン性溶媒を含んだ状態で、多価酸またはその塩と混合させてもよい。また、反応混合物RM1に対し、溶媒を添加してもよいし、放射性ハロゲン化反応で使用した非プロトン性溶媒を蒸散させて、放射性ハロゲン化反応で使用した溶媒とは異なる溶媒を使用してもよい。ここで使用する溶媒として、好ましくは、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドが用いられる。また、温度条件は、60~180℃が好ましい。
【0032】
なお、多価酸イオン(A-)の放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)に対する反応性を高める観点から、反応混合物RM1は、放射性ハロゲン化反応で使用した相関移動触媒を含んでいることが好ましい。
【0033】
こうすることで、反応生成物(S-X)と放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)とを含む反応混合物RM2を得ることができる。
【0034】
[工程3]精製工程
精製工程では、固相抽出法により、反応混合物RM2から放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)を精製する。
【0035】
工程3で使用される固相抽出法は、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)と放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)とを分離できる条件であれば特に制限されないが、陰イオン交換基を有する固相カートリッジを用いることが好ましい。こうすることで、多価酸が有する複数の酸性基のうち、脱離基(L)との置換によりS(基質)と結合した一の酸性基以外の酸性基が固相カートリッジの陰イオン交換基にイオン結合するため、分解物(S-A)を固相カートリッジに保持させることができる。一方、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)は、固相カートリッジの陰イオン交換基にイオン結合しないため、固相カートリッジへの吸着能が放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)に対して相対的に弱くなる。したがって、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)と放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)とを分離することが可能になる。
【0036】
また、工程3で使用される固相抽出法は、逆相分配能と陰イオン交換能とを併せ持つ固相カートリッジ(ミックスモードの固相カートリッジ)を使用することがより好ましい。具体的には、ジビニルベンゼンおよびビニルピロリドンの共重合体からなる多孔性ポリマーに陰イオン交換基を結合させた固相カートリッジ、または、オクタデシル基と陰イオン交換基とを有する固相カートリッジを使用することが好ましい。こうすることで、反応混合物RM2に含まれる非放射性不純物と放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)とを分離して、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)の純度をより向上させることができる。
【0037】
固相抽出法の操作の一例として、反応混合物RM2を水で希釈し、ミックスモードの固相カートリッジに通液した後、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)および放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)を固相カートリッジに吸着させて、エタノールで、放射性ハロゲン標識前駆体化合物の分解物(S-A)を固相カートリッジ吸着させたまま反応生成物(S-X)を溶出する方法が挙げられる。ただし、希釈液および溶出液の種類は、この例に限定されず放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)の種類に応じて、種々のものを採用することができる。
【0038】
放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)が、目的とする放射性ハロゲン標識化合物の場合、工程3において固相抽出法を実施することで、目的の放射性ハロゲン化合物を得ることができる。工程1において、放射性ハロゲン標識前駆体化合物(S-L)として、式(1)~(11)に示すような保護基(P1、P2、P3)を有する化合物を用いた場合は、工程3の後、放射性ハロゲン化反応の反応生成物(S-X)に対し、更に脱保護反応を行うことで、目的の放射性ハロゲン標識化合物を得ることができる。
【0039】
また、工程3の後、放射性ハロゲン標識化合物の精製のため、放射性ハロゲン化物イオンを除去するためアルミナを用いた精製や、非放射性不純物の分離を目的した逆相固相カードリッジを用いた精製などを更に行ってもよい。
【0040】
得られた放射性ハロゲン標識化合物に、適宜、pH調節剤、可溶化剤、安定剤または酸化防止剤を添加し、水または生理食塩液などの等張液で希釈することで、放射性医薬を調製することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)クエン酸テトラエチルアンモニウム塩の合成
テトラエチルアンモニウム炭酸水素塩(15.6mmol、2.98g)をメタノール30mlに溶解し、クエン酸(5.2mmol、1.0g)を加えた。これを、室温で30分撹拌した後、溶媒を留去した。残留物をクロロホルム(20mL)で3回洗浄したのち、減圧下で乾燥することでクエン酸テトラエチルアンモニウム塩(5.0mmol、2.8g)を得た。
使用NMR装置:AVANCE-III(Bruker社製)
1H-NMR(溶媒:重ジメチルホルムアミド、共鳴周波数:500MHz):δ 3.23(q,J=7.2Hz,24H),2.23および2.17(qa-b,J=14.6Hz,4H),1.18(t,J=7.2Hz,36H)。
【0043】
(実施例2)[18F]CDP2230の調製
以下の工程1~3の手順に従い、アルドステロン合成酵素(CYP11B2)イメージング剤の6-クロロ-5-フルオロ-1-(2-[18F]フルオロエチル)-2-[5-(イミダゾール-1-イルメチル)ピリジン-3-イル]ベンゾイミダゾール([18F]CDP2230;WO2015/199205の化合物[18F]100)を製造した。
【0044】
[工程1][18F]フッ化物イオン含有[18O]水(放射能量43.8MBq、合成開始時補正値)を、炭酸型に調製したSep-Pak Light QMA(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液(5.1μmol/L、0.2mL)およびアセトニトリル0.8mL溶液を通液して、[18F]フッ化物イオンを溶出した。これをアルゴンガスの通気下110℃に加熱して水を蒸発させた後、アセトニトリル(0.3mL×3)を加えて共沸させ乾固させた。ここに、6-クロロ-5-フルオロ-2-[5-(イミダゾール-1-イルメチル)ピリジン-3-イル]-1-[2-(p-トルエンスルホニルオキシ)エチル]ベンゾイミダゾール(WO2015/199205の化合物17、前駆体化合物1)(5mg、9.52μmol相当)を溶解したジメチルスルホキシド溶液(1.0mL)を加え、100℃で7分加熱することにより、放射性フッ素化反応を実行した。
【0045】
[工程2]工程1の終了後、実施例1で調製したクエン酸テトラエチルアンモニウム塩55.2mg(95.2μmol相当)をジメチルスルホキシド溶液0.5mLに溶かして、放射性フッ素化反応の反応液に添加し、100℃で5分加熱した。
【0046】
[工程3]工程2の終了後、注射用水15mLを加え、Oasis(登録商標)WAX Plus(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]CDP2230を当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(5mL)を通液して[18F]CDP2230を溶出させた。
【0047】
工程3で得られた溶出液の放射能量は18.2MBq(合成開始後45分)であった。下記の条件によるTLC分析を行ったところ、放射化学的純度は97.5%であった。また、下記の条件によるHPLC分析を行ったところ、前駆体化合物1は確認されず、前駆体化合物1に換算して非放射性不純物が1.94mg混入したことを確認した。
[TLC条件]
プレート:TLCガラスプレート シリカゲル60F254
展開溶媒:アセトニトリル/ジエチルアミン/水=10:1:1
[HPLC条件]
カラム:XBridge Phenyl(商品名、日本ウォーターズ社製、粒子径:3.5μm、サイズ:4.6mmφ×100mm)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:10mM炭酸水素アンモニウム溶液/メタノール=50/50→35/65(0→10分),35/65→0/100(10→25分)
流速:1.0mL/分
検出器:紫外可視吸光光度計(検出波:300nm)
【0048】
(比較例1)[18F]CDP2230の調製
実施例2の工程2を省略した以外は、実施例2とほぼ同様にして、以下のとおり、[18F]CDP2230を製造した。
【0049】
[18F]フッ化物イオン含有H2
18O(放射能量34.9MBq、合成開始時補正値)を、炭酸型に調製したSep-Pak Light QMA(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液(5.1μmol/L、0.2mL)およびアセトニトリル0.8mL溶液を通液して、[18F]フッ化物イオンを溶出した。これをアルゴンガスの通気下110℃に加熱して水を蒸発させた後、アセトニトリル(0.3mL×2)を加えて共沸させ乾固させた。ここに前駆体化合物1を5mg(9.52μmol相当)溶解したジメチルスルホキシド溶液1.0mLを加え、100℃で7分加熱することにより、放射性フッ素化反応を実行した。
【0050】
放射性フッ素化反応の終了後、放射性フッ素化反応の反応液に注射用水15mLを加え、Oasis(登録商標)WAX Plas(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]CDP2230を当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(5mL)を通液して[18F]CDP2230を溶出させた。
【0051】
得られた溶出液の放射能量は13.4MBq(合成開始後46分)であった。実施例2の条件によるTLC分析を行ったところ、放射化学的純度は97.44%であった。また、実施例2の条件によるHPLC分析を行ったところ、前駆体化合物1に換算して、前駆体化合物1が1.13mg、非放射性不純物が合計で2.39mg混入したことを確認した。
【0052】
(実施例3)放射性フッ素化1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールの調製
以下の工程1~4の手順に従い、低酸素イメージング剤の1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール(WO2013/042668の化合物1の18F標識体)を製造した。
【0053】
[工程1][
18F]フッ化物イオン含有H
2
18O(放射能量85.1MBq、合成開始時補正値)を、炭酸型に調製したSep-Pak Light QMA(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[
18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液(5.1μmol/L、0.2mL)およびアセトニトリル0.8mL溶液を通液して、[
18F]フッ化物イオンを溶出した。
これをアルゴンガスの通気下110℃に加熱して水を蒸発させた後、アセトニトリル(0.3mL×2)を加えて共沸させ乾固させた。ここに2,2-ジメチル-5-[(2-ニトロ-1H-イミダゾール-1-イル)メチル]-5-(p-トルエンスルホニルオキシメチル)-1,3-ジオキサン(WO2013/042668の
図1 step5の生成物、前駆体化合物2)5mg(11.7μmol相当)を溶解したジメチルスルホキシド溶液1.0mLを加え、100℃で10分加熱することにより、放射性フッ素化反応を実行した。
【0054】
[工程2]工程1の終了後、実施例1で調製したクエン酸テトラエチルアンモニウム塩(100μmol相当)をジメチルスルホキシド溶液0.5mLに溶かして、放射性フッ素化反応の反応液に添加し、100℃で5分加熱した。
【0055】
[工程3]工程2の終了後、注射用水10mLを加え、Oasis(登録商標)WAX Plas(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールの保護体を当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(3mL)を通液して1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールの保護体を溶出させた。
【0056】
[工程4]工程3で得られた溶出液に1mol/L塩酸2.0mLを加え、110℃で3分加熱して脱保護反応を行った。反応終了後、注射用水10mLを加え、Oasis(登録商標)HLB Plas(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールを当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(3mL)を通液して1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールを溶出させた。
【0057】
得られた溶出液の放射能量は15.9MBq(合成開始後99分)であった。下記条件によるTLC分析を行ったところ、放射化学的純度は、98.84%であった。また、下記の条件によるHPLC分析を行ったところ、前駆体化合物2に換算して前駆体化合物2由来の不純物が0.91mg、非放射性不純物が合計で1.27mg混入したことを確認した。
[TLC条件]
プレート:TLCガラスプレート シリカゲル60F254
展開溶媒:酢酸エチル/メタノール/トリエチルアミン=5:1:0.5
[HPLC条件]
カラム:YMC-TriartC18(商品名、YMC社製、粒子径:5μm、サイズ:4.6mmφ×150mm)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:50mM炭酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=100/0→30/70(0→40分)
流速:1.0mL/分
検出器:紫外可視吸光光度計(検出波:254nm)
【0058】
(比較例2)低酸素イメージング剤の合成
実施例3の工程2を省略した以外は、実施例3とほぼ同様にして、以下のとおり、1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールを製造した。
【0059】
[18F]フッ化物イオン含有H2
18O(放射能量51.6MBq、合成開始時補正値)を、炭酸型に調製したSep-Pak Light QMA(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに重炭酸テトラエチルアンモニウム水溶液(5.1μmol/L、0.2mL)およびアセトニトリル0.8mL溶液を通液して、[18F]フッ化物イオンを溶出した。これをアルゴンガスの通気下110℃に加熱して水を蒸発させた後、アセトニトリル(0.3mL×2)を加えて共沸させ乾固させた。ここに前駆体化合物2を5mg(11.4μmol相当)溶解したジメチルスルホキシド溶液1.0mLを加え、100℃で7分加熱することにより、放射性フッ素化反応を実行した。
【0060】
放射性フッ素化反応の終了後、放射性フッ素化反応の反応液に注射用水10mLを加え、Oasis(登録商標)WAX Plas(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールの保護体を当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(3mL)を通液して1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールの保護体を溶出させた。
【0061】
この溶出液に1mol/L塩酸2.0mLを加え、110℃で3分加熱した。反応終了後、注射用水10mLを加え、Oasis(登録商標)HLB Plas(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールを当該カラムに吸着捕集した。このカラムを水(10mL)で洗浄した後、エタノール(3mL)を通液して1-(2,2-ジヒドロキシメチルー3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾールを溶出させた。
【0062】
得られた溶出液の放射能量は13.2MBq(合成開始後90分)であった。実施例3の条件によるTLC分析を行ったところ、放射化学的純度は、98.00%であった。また、実施例3の条件によるHPLC分析を行ったところ、前駆体化合物2に換算して、前駆体化合物2由来の不純物が2.23mg、非放射性不純物が2.27mg混入したことを確認した。
【0063】
以上の実施例から、本発明の方法により、従来のHPLC法によらずに、固相抽出法で放射性ハロゲン化反応の反応生成物を、未反応の放射性ハロゲン標識前駆体化合物から分離精製できることが示唆された。
【0064】
この出願は、2017年6月23日に出願された日本出願特願2017-122981号を基礎とする優先権を主張し、その開示の総てをここに取り込む。