(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、その硬化物およびプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20221017BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20221017BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C08G59/50
C08K3/00
H05K3/28 C
(21)【出願番号】P 2019530111
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2019000832
(87)【国際公開番号】W WO2019142752
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2019-06-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018005236
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310024066
【氏名又は名称】太陽インキ製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】野口 智崇
(72)【発明者】
【氏名】金沢 康代
(72)【発明者】
【氏名】播磨 英司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康昭
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】土橋 敬介
【審判官】細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-141662(JP,A)
【文献】特開平10-075027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/
C08L 63/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーとを少なくとも含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂は、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、ヒドロキシベンゾフェノン型液状エポキシ樹脂、パラアミノフェノール型液状エポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、イミダゾールヒドロキシメチル体、変性脂肪族ポリアミン、イミダゾール
のアジン化合物、
脂肪族ポリアミンのアダクト化合物、および
イミダゾールアダクト体から選択される少なくとも1種を含み、
JIS-Z8803:2011に準拠して円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)により測定した粘度をV
1(dPa・s)とし、JIS-K7244-10:2005に準拠して平行平板振動レオメーターにより測定した60~100℃における溶融粘度の最小値をV
2(dPa・s)とした際の、式V
2/V
1で表される粘度比Rが1.0×10
-1~1.0×10
2の範囲にあり、V
1が200dPa・s超800dPa・s未満の範囲にあり、V
2が40dPa・s以上21800dPa・s以下の範囲にあり、且つ
前記熱硬化性樹脂組成物を銅厚35μmの銅ベタ基板に乾燥後の塗膜の厚みが20~40μmとなるように全面に塗布し、100℃の熱風循環式乾燥炉にて160分間加熱し硬化させた硬化物の、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
JIS-C2161:2010に規定された熱板法に準拠して測定した110℃でのゲルタイムが2分以上30分以下である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
V
1が360dPa・s以上670Pa・s以下の範囲にある、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
V
2が80dPa・s以上12200dPa・s以下の範囲にある、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤の配合量が、固形分換算で、熱硬化性樹脂100質量部に対して1~35質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
プリント配線板の貫通孔または凹部の充填材として使用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られることを特徴とする、硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物を有することを特徴とする、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関し、より詳細には、プリント配線板のスルーホール等の貫通孔や凹部の穴埋め用充填材として好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化・高機能化に伴い、プリント配線板のパターンの微細化、実装面積の縮小化、部品実装の高密度化が要求されている。そのため、異なる配線層同士を電気的に接続するための層間接続を形成する貫通孔、すなわちスルーホールが設けられた両面基板や、コア材上に絶縁層、導体回路が順次形成され、ビアホールなどで層間接続されて多層化されたビルドアップ配線板などの多層基板が用いられる。そして、BGA(ボール・グリッド・アレイ)、LGA(ランド・グリッド・アレイ)などのエリアアレイ実装が行われる。
【0003】
このようなプリント配線板において、表面の導体回路間の凹部や、内壁面に配線層が形成されたスルーホール、ビアホールなどの穴部には、熱硬化性樹脂充填材により穴埋め加工処理がされるのが一般的である。熱硬化性樹脂充填材としては、一般に、熱硬化性樹脂成分としてのエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、および無機フィラーを含む熱硬化性樹脂充填材が用いられている。例えば、特許文献1には、充填性等に優れる熱硬化性樹脂充填材として、液状エポキシ樹脂と、液状フェノール樹脂と、硬化触媒と、2種のフィラーとを含む熱硬化性樹脂充填材が提案されている。
【0004】
ところで、近年、プリント配線板の高機能化に伴い、スルーホールやビアホールの壁面のめっき膜のうち、層間の導通に関係のない余剰な部分を除去することで、周波数特性を向上させることが行われている。例えば、特許文献2には、バックドリル工法と呼ばれる手法を用いてスルーホールやビアホールを途中まで掘削した穴部を備えたプリント配線板が提案されている。また、特許文献3には、スルーホールやビアホールの壁面の一部のみにめっき膜を設けることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-019834号公報
【文献】特表2007-509487号公報
【文献】特開2012-256636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2および3に記載されているようなプリント配線基板のスルーホール等は、ドリルで掘削した側の穴部の開口径が0.5~0.8mmであり、通常のスルーホール等の穴部の開口径(0.2~0.3mm)よりも大きい。このような穴部の開口径が大きいプリント配線板に、従来の熱硬化性樹脂充填材を適用して穴埋めを行った場合、充填材の硬化処理を行うと、充填材で穴埋めされた穴部表面に凹みが発生することあった。即ち、充填材の硬化処理は、一般的に充填材をスルーホール等に充填した後にプリント配線板を立て掛けた状態で充填材を硬化させることにより行われているが、穴部の開口径の大きいスルーホール等に充填材を充填した後にプリント配線板を立て掛けると、充填材が硬化する前に液ダレが生じ易く、充填量が不足した状態でスルーホールの穴埋めが行われてしまうため、穴埋めされた開口部の表面に凹みが発生するものと考えられる。また、加熱中、充填材中に含まれる樹脂等に起因したブリードが生じる。ブリードが生じると、充填材を硬化させた際にプリント配線板の表面に樹脂等(充填材の硬化物)が付着するため、他の開口部に樹脂等が流れ込んでしまうことがある。
【0007】
また、上記したような、穴部の内壁面の一部にめっき膜等が形成されていない、あるいはめっき膜の一部が除去されており、プリント配線板の絶縁層が露出している箇所が存在する構造のスルーホール等の穴埋めに従来の熱硬化性樹脂充填材を適用した場合、充填材を硬化させると、めっき膜と絶縁層との境界部分で充填材の硬化物にクラックが発生することがあった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、スルーホール等の穴部の開口径が大きいプリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても液ダレやブリードが発生しにくく、とりわけ、スルーホール等の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備える多層プリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても、クラックの発生を抑制することができる熱硬化性樹脂組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記熱硬化性樹脂組成物を用いて形成された硬化物および前記硬化物を有するプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、熱硬化性樹脂組成物が硬化する際の粘度変化に着目し、熱硬化性樹脂組成物の室温での粘度と、硬化時の温度での溶融粘度とが特定の比率にあり、且つ硬化後の表面硬度が一定以上になるような熱硬化性樹脂組成物とすることにより、スルーホール等の穴部の開口径が大きいプリント配線板や穴部内壁に導電部と絶縁部とを備える多層プリント配線板の穴埋めに使用した場合であっても、液ダレやブリードの発生が抑制でき且つ硬化物にクラックが発生することを抑制できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
[1]本発明の第1の実施形態による熱硬化性樹脂組成物は、JIS-Z8803:2011に準拠して円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)により測定した粘度をV1(dPa・s)とし、JIS-K7244-10:2005に準拠して平行平板振動レオメーターにより測定した60~100℃における溶融粘度の最小値をV2(dPa・s)とした際の、式V2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲にあり、且つ
100℃で160分間加熱した状態での、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とする。
【0011】
[2]本発明の第2の実施形態による熱硬化性樹脂組成物は、JIS-C2161:2010に規定された熱板法に準拠して測定した110℃でのゲルタイムが30分以内である、[1]の熱硬化性樹脂組成物である。
【0012】
[3]本発明の第3の実施形態による熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーとを少なくとも含む、[1]または[2]の熱硬化性樹脂組成物である。
【0013】
[4]本発明の第4の実施形態による熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の貫通孔または凹部の充填材として使用されるものである、[1]~[3]のいずれか1つの熱硬化性樹脂組成物である。
【0014】
[5]本発明の第5の実施形態による硬化物は、[1]~[4]のいずれか1つの熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られることを特徴とする。
【0015】
[6]本発明の第6の実施形態によるプリント配線板は、[5]の硬化物を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スルーホール等の穴部の開口径が大きいプリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても液ダレやブリードが発生しにくく、とりわけ、スルーホール等の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備える多層プリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても、クラックの発生を抑制することができる熱硬化性樹脂組成物を実現することができる。また、本発明の別の形態によれば、上記熱硬化性樹脂組成物を用いて形成された硬化物および前記硬化物を有するプリント配線板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】熱硬化性樹脂充填材を用いてプリント配線板の貫通孔を穴埋めする工程を説明する概略図である。
【
図1b】熱硬化性樹脂充填材を用いてプリント配線板の貫通孔を穴埋めする工程を説明する概略図である。
【
図1c】熱硬化性樹脂充填材を用いてプリント配線板の貫通孔を穴埋めする工程を説明する概略図である。
【
図1d】熱硬化性樹脂充填材を用いてプリント配線板の貫通孔を穴埋めする工程を説明する概略図である。
【
図2】熱硬化性樹脂組成物により穴埋めされたプリント配線板の一実施形態を示した概略断面図である。
【
図3】熱硬化性樹脂組成物により穴埋めされたプリント配線板の別の実施形態を示した概略断面図である。
【
図4】熱硬化性樹脂組成物により穴埋めされたプリント配線板の別の実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、JIS-Z8803:2011に準拠して円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)により測定した粘度をV1(dPa・s)とし、JIS-K7244-10:2005に準拠して平行平板振動レオメーターにより測定した60~100℃における溶融粘度の最小値をV2(dPa・s)とした際の、式V2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲にあり、且つ100℃で160分間加熱した状態での、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とするものである。なお、本発明において、粘度V1は、コーンローター(円錐ロータ)とプレートからなる円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)、ロータ3°×R9.7を用いて、25℃、5rpmの30秒値により測定した値をいうものとし、溶融粘度の最小値V2は、平行平板振動レオメーター(ThermoFisher社製HAAKE RheoStress6000)を用いて、試料をシリンジで0.2ml量りとり、30℃に設定した直径20mmのアルミの円盤上に載せて、試験片厚さ0.5mmに設定し、30℃で180秒間予熱したのち、昇温速度5℃/分、測定温度30~150℃、周波数1Hz、せん断ひずみ0.1740、ひずみ制御方式の測定条件にて測定した値をいうものとする。円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)として、例えばTV-30型(東機産業株式会社製、ロータ3°×R9.7)を使用することができる。
【0019】
一般的な熱硬化性樹脂組成物は、加熱時に硬化反応が進行して硬化物となるため、硬化に伴い溶融粘度は急激に上昇すると考えられる。一方、熱硬化性樹脂組成物中に含まれる樹脂成分は加熱により軟化するため、熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度は減少する。通常の熱硬化性樹脂組成物の硬化時の経時的な溶融粘度変化は、上記した硬化に伴う粘度上昇現象と加熱に伴う粘度降下現象とが競合した複雑な挙動を示す。本発明においては、100℃で160分間加熱した状態での、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度がHB以上となるような熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂組成物が硬化する前の粘度をV1、熱硬化性樹脂組成物の硬化時の溶融粘度の最小値をV2とした際の、式V2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲にあれば、液ダレやブリードの発生を抑制でき、特定のプリント配線板の貫通孔や凹部の穴埋めに使用した場合でも穴埋めした硬化物にクラックが発生するのを抑制できるものである。その理由は定かではないが以下のように考えられる。
【0020】
即ち、硬化前の粘度(即ち、V1の値)に対する硬化時の溶融粘度の最小値(即ち、V2の値)である粘度比R(即ち、V2/V1の値)が5.0×10-2以上であるような熱硬化性樹脂組成物は、硬化速度が遅すぎないと考えられるため、大口径の穴部に熱硬化性樹脂を充填した硬化させた場合に液ダレやブリードが発生しにくくなる。一方、粘度比Rが1.0×102以下であるような熱硬化性樹脂組成物は、硬化速度が速すぎないと考えられるため、導電部と絶縁層との境界部分で熱硬化性樹脂組成物の硬化物にクラックが発生しにくい。貫通孔や凹部の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備えるプリント配線板の穴埋めに熱硬化性樹脂組成物を使用すると、熱硬化性樹脂組成物が接触している導電部と絶縁部とで熱伝導率が異なるため、導電部に接している部分の熱硬化性樹脂組成物の硬化が先に進行し、遅れて絶縁部に接している部分の熱硬化性樹脂組成物の硬化が進行する。その結果、先に硬化した部分の硬化収縮により遅れて硬化した部分に応力がかかり、同様にクラックが発生するものと考えられる。本発明においては、式V2/V1で表される粘度比Rは5.0×10-2~1.0×102の範囲であり、1.0×10-1~1.0×101の範囲であることがより好ましい。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の貫通孔や凹部の穴部の穴埋めに使用する際の作業性の観点から、JIS-Z8803:2011に準拠して円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)により測定した25℃における粘度V1が、100~1000dPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは200~800dPa・sの範囲である。
【0022】
粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲内にあり、さらに100℃で160分間加熱した状態での、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度がHB以上であるような熱硬化性樹脂組成物は、硬化速度がより適切な範囲内にあるものと考えられるため、貫通孔や凹部の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備えるプリント配線板の穴埋めに使用した場合に液ダレ、ブリード、クラックのいずれにおいても発生しにくくなる。鉛筆硬度は2H以上が好ましく、より好ましくは4H以上である。一方、上限としては、6H以下が好ましい。鉛筆硬度は、具体的には、バフロール研磨後に水洗いし、乾燥させた銅厚35μmの銅ベタ基板上に熱硬化性樹脂組成物を塗布して100℃の熱風循環式乾燥炉で160分間加熱して得られた塗膜表面の鉛筆硬度をJIS-K5600-5-4:1999に準拠して測定し、塗膜に傷痕の付かない最も高い鉛筆の硬度をいうものとする。試験は2回行い、2回の結果が一単位以上異なるときは放棄し、試験をやり直すものとする。なお、熱風循環式乾燥炉での乾燥条件としては、具体的には、塗膜を設けた基板等のサンプルを棚板等の利用により炉内の中央部に載置し、エアーの循環やダクトの調節により炉内の温度が100℃±5℃の範囲で一定となるようにする。熱風循環式乾燥炉としては、例えばヤマト科学株式会社製DF610等を使用することができる。また、硬化後の塗膜の膜厚としては特に制限はないが、30~50μmであることが好ましい。
【0023】
本発明においては、JIS-C2161:2010に規定された熱板法に準拠して測定した110℃でのゲルタイムが30分以内であることが好ましく、2分以上30分以下であることがより好ましい。ゲルタイムが上記範囲にあるような熱硬化性樹脂組成物であれば、特定のプリント配線板の貫通孔や凹部の穴埋めに使用した場合でも穴埋めした硬化物にクラックが発生するのを、より一層抑制できる。なお、本発明において、ゲルタイムは、ホットプレート型ゲル化試験機を用いて、110℃の温度に設定したゲル化試験機のホットプレート上に熱硬化性樹脂組成物を載置してから、熱硬化性樹脂組成物がゲル化するまでの時間をいうものとする。また、JIS-C2161:2010に規定された熱板法とは、JIS-C2161:2010の7.5.2に規定されたB法をいうものとする。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、V2/V1で表される粘度比R、鉛筆硬度、およびゲルタイムが上記した範囲となるように、適宜、各成分の種類や配合比を適宜調整することができる。例えば、反応性の高い樹脂の組合せや相溶性が高い組成や工程等で適宜調整されるが、必ずしもこれらに限られるものではない。
【0025】
上記したような特性を有する熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーとを少なくとも含むことが好ましい。以下、各成分について説明する。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれることが好ましい熱硬化性樹脂としては、熱により硬化し得るものであれば特に制限なく使用することができるが、エポキシ樹脂を好適に使用することができる。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば制限なく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂、アルキルフェノール型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記したエポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂を含むこともできる。ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE(AD)型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE(AD)型エポキシ樹脂が好ましい。また、ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂は液状、半固形、固形のいずれも用いられるが、なかでも、充填性の観点から液状であることが好ましい。なお、液状とは、20℃で流動性を有する液体の状態にあることをいうものとする。
【0028】
これらビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、充填性に優れる結果、硬化後の特性にもより良い影響を及ぼす観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびビスフェノールE(AD)型エポキシ樹脂から選択される2種以上のエポキシ樹脂を併用して用いることが好ましい。これらの市販品としては、三菱ケミカル株式会社製jER828、同jER834、同jER1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、同jER807、同jER4004P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エア・ウォーター社製R710(ビスフェノールE型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂を含むこともできる。多官能エポキシ樹脂としては、ヒドロキシベンゾフェノン型液状エポキシ樹脂である株式会社ADEKA製のEP-3300E等、アミノフェノール型液状エポキシ樹脂(パラアミノフェノール型液状エポキシ樹脂)である三菱ケミカル株式会社製のjER630、住友化学株式会社製のELM-100等、グリシジルアミン型エポキシ樹脂である三菱ケミカル株式会社製のjER604、新日鉄住金化学株式会社製のエポトートYH-434、住友化学工業株式会社製のスミ-エポキシELM-120、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であるダウ・ケミカル社製のDEN-431、脂環式エポキシ樹脂である株式会社ダイセル製のセロキサイド2021P等が挙げられる。これら多官能エポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に熱硬化性樹脂が含まれる場合は、熱硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるために一般的に使用されている公知の硬化剤を使用することができ、例えばアミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物、イソシアネート類、イミダゾールアダクト体等のイミダゾール潜在性硬化剤、およびこれらの官能基を含むポリマー類があり、必要に応じてこれらを複数用いても良い。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン等がある。イミダゾール類としては、アルキル置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等がある。多官能フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化合物、さらに、これにアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等がある。酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。イソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があり、このイソシアネートをフェノール類等でマスクしたものを使用しても良い。これら硬化剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記した硬化剤のなかでも、アミン類やイミダゾール類を導電部および絶縁部との密着性、保存安定性、耐熱性の観点から好適に使用することができる。炭素数2~6のアルキレンジアミン、炭素数2~6のポリアルキレンポリアミン、炭素数8~15である芳香環含有脂肪族ポリアミンなどの脂肪族ポリアミンのアダクト化合物、またはイソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ポリアミンのアダクト化合物、または上記脂肪族ポリアミンのアダクト化合物と上記脂環式ポリアミンのアダクト化合物との混合物を主成分とするものが好ましい。特に、キシリレンジアミンまたはイソホロンジアミンのアダクト化合物を主成分とする硬化剤が好ましい。
【0032】
上記脂肪族ポリアミンのアダクト化合物としては、当該脂肪族ポリアミンにアリールグリシジルエーテル(特にフェニルグリシジルエーテルまたはトリルグリシジルエーテル)またはアルキルグリシジルエーテルを付加反応させて得られるものが好ましい。また、上記脂環式ポリアミンのアダクト化合物としては、当該脂環式ポリアミンにn-ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を付加反応させて得られるものが好ましい。
【0033】
脂肪族ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなど炭素数2~6のアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミンなど炭素数2~6のポリアルキレンポリアミン、キシリレンジアミンなど炭素数8~15の芳香環含有脂肪族ポリアミンなどが挙げられる。変性脂肪族ポリアミンの市販品の例としては、例えばFXE-1000またはFXR-1020、フジキュアFXR-1030、フジキュアFXR-1080、FXR-1090M2(富士化成工業株式会社製)、アンカミン2089K、サンマイドP-117、サンマイドX-4150、アンカミン2422、サーウェットR、サンマイドTX-3000、サンマイドA-100(エアープロダクツジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
脂環式ポリアミンとしては、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等を例示することができる。変性脂環式ポリアミンの市販品としては、例えばアンカミン1618、アンカミン2074、アンカミン2596、アンカミン2199、サンマイドIM-544、サンマイドI-544、アンカミン2075、アンカミン2280、アンカミン1934、アンカミン2228(エアープロダクツジャパン株式会社製)、ダイトクラールF-5197、ダイトクラールB-1616(大都産業株式会社製)、フジキュアFXD-821、フジキュア4233(富士化成工業株式会社製)、jERキュア113(三菱ケミカル株式会社製)、ラロミンC-260(BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。その他、ポリアミン型硬化剤として、EH-5015S(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0035】
イミダゾール類としては、例えば、エポキシ樹脂とイミダゾールの反応物等を言う。例えば、2-メチルイミダゾール、4-メチル-2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール等を挙げることができる。イミダゾール類の市販品としては、例えば、2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ(以上は、エポキシ樹脂とイミダゾールの反応物)のイミダゾール類や、2MZ-A、2E4MZ-A、2MZA-PW(以上は、イミダゾールのAZINE(アジン)化合物)、2MZ-OK、2PZ-OK(以上は、イミダゾールのイソシアヌル酸塩)、2PHZ、2P4MHZ(以上は、イミダゾールヒドロキシメチル体)(これらはいずれも四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。イミダゾール型潜在性硬化剤の市販品としては、例えば、キュアゾールP-0505(四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。またイミダゾール類と併用する硬化剤としては、変性脂肪族ポリアミン、ポリアミン型硬化剤、イミダゾール型潜在性硬化剤であることが好ましい。
【0036】
上記した硬化剤のなかでも、熱硬化性樹脂組成物の保存安定性を維持できる観点からは、上記した硬化剤を少なくとも2種以上含んでもよく、その1種がイミダゾール類であってもよい。また、クラックやデラミ抑制の観点から、ポリアミンおよびインダゾール潜在型硬化剤のいずれか少なくとも1種を含むことが好ましい。また、イミダゾール類を含む場合は2種以上のイミダゾール類を含むことが好ましい。
【0037】
硬化剤の配合量は、保存安定性や粘度比Rおよび100℃で160分間加熱した状態での、JIS-K5600-5-4:1999に準拠する鉛筆硬度試験による鉛筆硬度を、より適切な範囲に調整するし易さの観点から、熱硬化性樹脂を含む場合、固形分換算で、熱硬化性樹脂100質量部に対して1~35質量部であることが好ましく、より好ましくは4~30質量部である。また、イミダゾール類とそれ以外の硬化剤とを併用する場合には、イミダゾール類とその他の硬化剤との配合割合は、質量基準において1:99~99:1であることが好ましく、より好ましくは10:90~90:10である。
【0038】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板のスルーホール等の貫通孔や凹部の穴埋め充填材として好適に使用されるものであるが、充填材の硬化収縮による応力緩和や線膨張係数の調整のため無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーとしては、通常の樹脂組成物に用いられる公知の無機フィラーを用いることができる。具体的には、例えば、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、タルク、有機ベントナイトなどの非金属フィラーや、銅、金、銀、パラジウム、シリコーンなどの金属フィラーが挙げられる。これら無機フィラーは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
これらの無機フィラーのなかでも、低吸湿性、低体積膨張性に優れる炭酸カルシウムやシリカ、硫酸バリウム、酸化アルミニウムが好適に用いられ、なかでもシリカおよび炭酸カルシウムがより好適に用いられる。シリカとしては、非晶質、結晶のいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。特に非晶質(溶融)シリカが好ましい。また、炭酸カルシウムとしては、天然の重質炭酸カルシウム、合成の沈降炭酸カルシウムのいずれであってもよい。
【0040】
無機フィラーの形状は、特に制限されるものではなく、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形状、六角状、キュービック状、薄片状など挙げられるが、無機フィラーの高配合の観点から球状が好ましい。
【0041】
また、これら無機フィラーの平均粒径は、無機フィラーの分散性、穴部への充填性、穴埋めした部分に配線層を形成した際の平滑性等を考慮すると、0.1μm~25μm、好ましくは0.1μm~15μmの範囲が適当である。より好ましくは、1μm~10μmである。なお、平均粒径とは平均一次粒径を意味し、平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱法により測定することができる。
【0042】
無機フィラーの配合割合は、硬化物とした際の熱膨張係数、研磨性、密着性と、印刷性や穴埋め充填性とを両立させる観点から、熱硬化性樹脂を含む場合、固形分換算で、熱硬化性樹脂100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましく、20~500質量部であることがより好ましく、特に30~400質量部であることがより好ましい。
【0043】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、チキソ性を付与するために脂肪酸で処理したフィラー、または有機ベントナイト、タルクなどの不定形フィラーを添加することができる。
【0044】
上記脂肪酸としては、一般式:(R1COO)n-R2(置換基R1は炭素数が5以上の炭化水素、置換基R2は水素または金属アルコキシド、金属であり、nが1~4である)で表される化合物を用いることができる。当該脂肪酸は、置換基R1の炭素数が5以上のとき、チキソ性付与の効果を発現させることができる。より好ましくはnが7以上である。
【0045】
脂肪酸としては、炭素鎖中に二重結合あるいは三重結合を有する不飽和脂肪酸であってもよいし、それらを含まない飽和脂肪酸であってもよい。例えば、ステアリン酸(炭素数と不飽和結合の数および括弧内はその位置による数値表現とする。18:0)、ヘキサン酸(6:0)、オレイン酸(18:1(9))、イコサン酸(20:0)、ドコサン酸(22:0)、メリシン酸(30:0)などが挙げられる。これら脂肪酸の置換基R1の炭素数は5~30が好ましい。より好ましくは、炭素数5~20である。また、例えば、置換基R2を、アルコキシル基でキャッピングされたチタネート系の置換基とした金属アルコキシドなど、カップリング剤系の構造で長い(炭素数が5以上の)脂肪鎖を有する骨格のものであってもよい。例えば、商品名KR-TTS(味の素ファインテクノ社株式会社製)などを用いることができる。その他、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム(それぞれ川村化成工業株式会社製)など金属石鹸を用いることができる。その他の金属石鹸の元素としては、Ca、Zn、Li、Mg,Naなどがある。
【0046】
脂肪酸の配合割合は、チキソ性、埋め込み性、消泡性等の観点から、無機フィラー100質量部に対して0.1~2質量部の割合が適当である。
【0047】
脂肪酸は、予め脂肪酸で表面処理をした無機フィラーを用いることにより配合されてもよく、より効果的に熱硬化性樹脂組成物にチキソ性を付与することが可能となる。この場合、脂肪酸の配合割合は、未処理フィラーを用いた場合より低減することができ、無機フィラーを全て脂肪酸処理フィラーとした場合、脂肪酸の配合割合は、無機フィラー100質量部に対して0.1~1質量部とすることが好ましい。
【0048】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、シラン系カップリング剤が含まれていてもよい。シラン系カップリング剤を配合することにより、無機フィラーとエポキシ樹脂との密着性を向上させ、その硬化物におけるクラックの発生を抑えることが可能となる。
【0049】
シラン系カップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、ビニルシラン、イミダゾールシラン、メルカプトシラン、メタクリロキシシラン、アミノシラン、スチリルシラン、イソシアネートシラン、スルフィドシラン、ウレイドシランなどが挙げられる。また、シラン系カップリング剤は、予めシラン系カップリング剤で表面処理をした無機フィラーを用いることにより配合されてもよい。
【0050】
シラン系カップリング剤の配合割合は、無機フィラーとエポキシ樹脂との密着性と消泡性とを両立させる観点から、無機フィラー100質量部に対して0.05~2.5質量部とすることが好ましい。
【0051】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、その他必要に応じて、フェノール化合物、ホルマリンおよび第一級アミンを反応させて得られるオキサジン環を有するオキサジン化合物を配合してもよい。オキサジン化合物を含むことにより、プリント配線板の穴部に充填された熱硬化性樹脂組成物を硬化した後、形成された硬化物上に無電解めっきを行なう際、過マンガン酸カリウム水溶液などによる硬化物の粗化を容易にし、めっきとのピール強度を向上させることができる。
【0052】
また、通常のスクリーン印刷用レジストインキに使用されているフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、ジスアゾイエロー、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知の着色剤を添加してもよい。
【0053】
また、保管時の保存安定性を付与するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知の熱重合禁止剤や、粘度などの調整のために、クレー、カオリン、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、チキソトロピー剤を添加することができる。その他、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤、レベリング剤やイミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤などの密着性付与剤のような公知の添加剤類を配合することができる。特に、有機ベントナイトを用いた場合、穴部表面からはみ出した部分が研磨・除去し易い突出した状態に形成され易く、研磨性に優れたものとなるので好ましい。また、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等の公知慣用の着色剤等を配合することもできる。
【0054】
上記した熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板において、特に硬化膜を形成するために好適に使用され、ソルダーレジスト、層間絶縁材、マーキングインキ、カバーレイ、ソルダーダム、プリント配線板のスルーホールやビアホールの貫通孔や凹部の穴部を穴埋めするための充填材として使用することができる。これらのなかでも、プリント配線板のスルーホールやビアホールの貫通孔や凹部の穴部を穴埋めするための充填材として好適に使用することができる。本発明によれば、穴部の開口径が大きいプリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても液ダレやブリードが発生しにくく、とりわけ、スルーホール等の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備える多層プリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても、クラックの発生を抑制することができる熱硬化性樹脂組成物を実現することができる。また、本発明による熱硬化性樹脂組成物は、1液性であってもよく、2液性以上であってもよい。
【0055】
本発明による硬化物は、上記した熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られたものである。
【0056】
<硬化物の用途>
次に、一般的なプリント配線板に、本発明の熱硬化性樹脂組成物を適用して穴部等の穴埋めを行う方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、熱硬化性樹脂組成物を用いてプリント配線板の貫通孔(スルーホール)を穴埋めする工程を説明する概略図である。先ず、内壁表面がめっきされた貫通孔4を有するプリント配線板1を準備する(
図1a)。
図1aに示すようなプリント配線基板1は、表面に配線層5が設けられた絶縁層6の表面に、ドリル等で貫通孔を形成し、貫通孔4の内壁および配線層5の表面に無電解めっきおよび電解めっきの少なくともいずれか1種を施したものを好適に使用することができる。なお、
図1aでは、絶縁層5の表面に配線層5が設けられているプリント配線板1を示したが、これに限られず、絶縁層6の表面に配線層5が設けられていないプリント配線板を使用することもできる。かかる場合は、絶縁層6の表面にドリル等で貫通孔を形成し、貫通孔4の内壁および表面に無電解めっきおよび電解めっきの少なくともいずれか1種を施すことによって内壁および表面に導電部を形成することができる。
【0057】
次に、貫通孔4に熱硬化性樹脂組成物を充填する。充填方法としては、貫通孔部分に開口を設けたマスクをプリント基板上に載置しておき、マスクを介して熱硬化性樹脂組成物を印刷法等により塗布する方法や、ドット印刷法などにより貫通孔内に熱硬化性樹脂組成物を充填する方法が挙げられる。その後、プリント配線板1を加熱して充填した熱硬化性樹脂組成物を硬化させる(
図1b)。
【0058】
続いて、貫通孔の表面からはみ出した硬化物7の不要部分を研磨により除去して平坦化する(
図1c)。研磨は、ベルトサンダーやバフ研磨等により好適に行なうことができる。
【0059】
次いで、プリント配線基板1の表面を必要に応じてバフ研磨や粗化処理により前処理を施した後、外層絶縁層8を形成する(
図1d)。この前処理により配線層5の表面は、アンカー効果に優れた粗化面が形成されるため外層絶縁層8との密着性に優れたものとなる。外層絶縁層8は、その後に行われる処理に応じてソルダーレジスト層(図示せず)や絶縁樹脂層(図示せず)、あるいは保護マスク(図示せず)などであり、従来公知の各種熱硬化性樹脂組成物や光硬化性および熱硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物を塗布したり、ドライフィルムやプリプレグシートをラミネートして形成することができる。外層絶縁層8に微細なパターンを形成する場合には、光硬化性および熱硬化性樹脂組成物やそのドライフィルムを用いることが好ましい。
【0060】
その後、必要に応じて、プリント配線板1をさらに加熱して本硬化(仕上げ硬化)し外層絶縁層8を形成する。なお、外層絶縁層8の形成に光硬化性および熱硬化性樹脂組成物を用いた場合には周知の方法に従って乾燥(仮硬化)し露光した後、本硬化する。なお、プリント配線基板1として
図1(a)に示すような両面基板を用いた場合には、さらに周知の方法により、配線層5の形成と絶縁層6の形成とを交互に繰り返し、必要に応じて貫通孔3の形成を行うことによって、多層プリント配線板を形成することもできる。
【0061】
図2は、熱硬化性樹脂組成物により穴埋めされた多層プリント配線板の一実施形態を示した概略断面図である。熱硬化性樹脂組成物を適用する多層プリント配線板1は、絶縁層10を介して厚さ方向に、めっき膜等からなる複数の配線層20a、20b、20c、20dが積層されており、複数の配線層20a、20b、20c、20dの厚さ方向に形成された貫通孔40(熱硬化性樹脂組成物により穴埋めされる穴部)を備えている。貫通孔40の穴部の一端には、貫通孔40の内壁に配線層20dから延びる導電部20eが形成されている。貫通孔40の穴部の他端には、導電部20eの形成後に配線層20aの一部を除去するように貫通孔の内径が拡大されており、穴部の内壁には絶縁層が露出することで絶縁部10aが形成された状態になっている。すなわち、貫通孔40(穴部)の内壁は、導電部20eと絶縁部10aとを備えた状態となっている。このように貫通孔40(穴部)の内壁に導電部20eと絶縁部10aとを備えることにより、電気的に接続されない部分が形成され、その結果、伝送効率が向上する。このような断面形状を有する貫通孔40(穴部)に熱硬化性樹脂組成物が充填され、加熱硬化することにより穴埋めが行われる。なお、本実施の形態において、絶縁層とは、異なる配線層間を絶縁しながらも配線層を支持する層をいい、配線層とは、回路により電気的な導通を行う層をいう。また、絶縁部とは、各層を電気的に導通させない箇所をいい、前述した絶縁層も含み得る。一方、導電部とは、めっき膜等、各配線層を電気的に導通させるための箇所をいい、前述した配線層も含み得る。さらに、貫通孔とは、多層プリント配線板の厚さ方向全体を貫通するように設けられる孔をいう。貫通孔は配線層の厚さ方向に形成されていればよく、より具体的には配線層と平行に形成されていなければよい。なお、本実施の形態では、貫通孔の壁面に延びる配線層を導電部としたが、配線層の一部が貫通孔の壁面に露出しているような場合も、導電部というものとする。また、前述した配線層が壁面に延びることにより形成される場合だけでなく、めっき等により導電膜が壁面に形成されるような場合も、導電部というものとする。
【0062】
本発明の別の実施の形態においては、貫通孔の穴部の形状は上記した以外にも、例えば
図3に示すような、配線層30aおよび30dが貫通孔40(穴部)の内壁まで延びて導電部30eを形成し、当該導電部の一部が除去されて絶縁層が露出することで導電部30eと絶縁部10aとを備えた状態となっているような構造の多層プリント配線板であってもよい。なお、本実施の形態では、貫通孔の壁面に延びる配線層を導電部としたが、配線層の一部が貫通孔の壁面に露出しているような場合も、導電部というものとする。また、前述した配線層が壁面に延びることにより形成される場合だけでなく、めっき等により導電膜が壁面に形成されるような場合も、導電部というものとする。
【0063】
また、本発明の別の実施の形態においては、熱硬化性樹脂組成物を用いて穴埋めが行われるのは貫通孔に限られず、例えば
図4に示すような、凹部70を有する多層プリント配線板2であってもよい。多層プリント配線板2は、絶縁層10の一方の表面に設けられた配線層50aが、凹部70の壁面および底部60まで延びて導電部50dを形成し、凹部70の開口側は導電部50dの形成後に配線層50aの一部を除去するように凹部の内径が拡大されており、穴部の内壁には絶縁層が露出することで絶縁部10aが形成された状態になっている。すなわち、底部を有する凹部(穴部)の内壁は、導電部50dと絶縁部10aとを備えた状態となっている。なお、本実施の形態では、凹部の壁面に延びる配線層を導電部としたが、配線層の一部が凹部の壁面に露出しているような場合も、導電部というものとする。このような多層プリント配線板2では、底部60を有する凹部70に熱硬化性樹脂組成物を充填した場合には、配線層50aから延びる導電部と凹部70の壁面に露出した絶縁部との両方に熱硬化性樹脂組成物が接するようになる。また、前述した配線層が壁面に延びることにより形成される場合だけでなく、めっき等により導電膜が壁面に形成されるような場合も、導電部というものとする。本実施の形態において、凹部とは、多層プリント配線板の表面のうち、他の部分よりも明らかに窪んでいると認められる部分をいう。
【0064】
多層プリント配線板において、貫通孔または底部を有する凹部の内径および深さの範囲としては、内径は0.1~1mm、深さは0.1~10mmがそれぞれ好ましい。
【0065】
導電部を形成する配線層は、銅めっき、金めっき、錫めっき等、特に制限されるものではないが、熱硬化性樹脂組成物の充填性や硬化物との密着性の観点からは、銅からなるものであることが好ましい。また、同様に、プリント配線板を構成する絶縁層としては、紙フェノール、紙エポキシ、ガラス布エポキシ、ガラスポリイミド、ガラス布/不繊布エポキシ、ガラス布/紙エポキシ、合成繊維エポキシ、フッ素系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、シアネートエステル、ポリイミド、PET、ガラス、セラミック、シリコンウエハ等が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性樹脂組成物の充填性や硬化物との密着性の観点からは、ガラス布/不繊布エポキシ、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、セラミックからなるものであることが好ましく、エポキシ樹脂含有硬化物がより好ましい。エポキシ樹脂含有硬化物とは、ガラス繊維を含侵させたエポキシ樹脂の硬化物またはエポキシ樹脂を含む樹脂組成物の硬化物をいう。
【0066】
熱硬化性樹脂組成物を充填材として使用する場合、充填材は、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、真空印刷法など公知のパターニング方法を用いて、例えば上記した実施形態の多層プリント配線板の貫通孔の穴部や底部を有する凹部に充填される。このとき、穴部や凹部から少しはみ出るように完全に充填される。穴部や凹部が熱硬化性樹脂組成物で充填された多層プリント配線板を、例えば80~160℃で30~180分程度加熱することにより、熱硬化性樹脂組成物が硬化し、硬化物が形成される。特に、アウトガス発生抑制の観点からは2段階で硬化させることが好ましい。すなわち、より低い温度で熱硬化性樹脂組成物を予備硬化させておき、その後に本硬化(仕上げ硬化)することが好ましい。予備硬化としての条件は、80~110℃で30~180分程度の加熱が好ましい。予備硬化した硬化物の硬度は比較的に低いため、基板表面からはみ出している不必要部分を物理研磨により容易に除去でき、平坦面とすることができる。その後、加熱して本硬化させる。本硬化としての条件は、130~160℃で30~180分程度の加熱が好ましい。この際、低膨張性のために硬化物は殆ど膨張も収縮もせず、寸法安定性良く低吸湿性、密着性、電気絶縁性等に優れた最終硬化物となる。なお、予備硬化物の硬度は、予備硬化の加熱時間、加熱温度を変えることによってコントロールすることができる。
【0067】
上記のようにして熱硬化性樹脂組成物を硬化させた後、プリント配線板の表面からはみ出した硬化物の不要部分を、公知の物理研磨方法により除去し、平坦化した後、表面の配線層を所定パターンにパターニングして、所定の回路パターンが形成される。なお、必要に応じて過マンガン酸カリウム水溶液などにより硬化物の表面粗化を行った後、無電解めっきなどにより硬化物上に配線層を形成してもよい。
【実施例】
【0068】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0069】
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
下記表1および2に示す種々の成分を各表に示す割合(質量部)にて配合し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散を行い、実施例1~12および比較例1~5の各熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0070】
なお、表1および表2中の*1~*18は、以下の成分を表す。
*1:株式会社プリンテック製EPOX MK R710(ビスフェノールE型エポキシ樹脂)
*2:三菱ケミカル株式会社製jER828(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂)
*3:三菱ケミカル株式会社製jER807(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂)
*4:株式会社ADEKA製EP-3300E(ヒドロキシベンゾフェノン型液状エポキシ樹脂)
*5:株式会社ダイセル製セロキサイド2021P(脂環式エポキシ樹脂)
*6:三菱ケミカル株式会社製jER630(トリグリシジルアミノフェノール)
*7:三菱ケミカル株式会社製jER604(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)
*8:四国化成工業株式会社製2PHZ(イミダゾールヒドロキシメチル体)
*9:富士化成工業株式会社製フジキュアFXR-1030(変性脂肪族ポリアミン)
*10:四国化成工業株式会社製2MZA-PW(イミダゾール型硬化剤)
*11:株式会社ADEKA製EH-5015S(ポリアミン型硬化剤)
*12:四国化成工業株式会社キュアゾールP-0505(イミダゾール型潜在性硬化剤)
*13:三菱ケミカル株式会社製DICY(ジシアンジアミド)
*14:四国化成工業株式会社製2E4MHZ(イミダゾールヒドロキシメチル体)
*15:丸尾カルシウム株式会社スーパー4S(重質炭酸カルシウム)
*16:アドマテックス株式会社製SO-C6(非晶質シリカ)
*17:白石工業株式会社製オルベンM(ベントナイトのカチオン化物)
*18:信越化学工業株式会社KS-66(シリコーン系消泡剤)
【0071】
<熱硬化性樹脂組成物の粘度測定>
得られた各熱硬化性樹脂組成物の粘度を円すい-平板形回転粘度計(コーン・プレート形)(東機産業株式会社製、TV-30型、ロータ3°×R9.7)を用いて、25℃、5rpmの30秒値の測定条件において粘度V1の測定を行った。
また、各熱硬化性樹脂組成物について、平行平板振動レオメーター(ThermoFisher社製HAAKE RheoStress6000)を用いて、試料をシリンジで0.2ml量りとり、30℃に設定した直径20mmのアルミの円盤上に載せて、試験片厚さ0.5mmに設定し、30℃で180秒間予熱したのち、昇温速度5℃/分、測定温度30~150℃、周波数1Hz、せん断ひずみ0.1740、ひずみ制御方式の測定上点にて各温度での溶融粘度の経時変化を測定した。60~100℃での溶融粘度のうち最小値V2とした。測定されたV1およびV2の値から、V2/V1で表される粘度比Rを算出した。各熱硬化性樹脂組成物の粘度比Rは表1および表2に示されるとおりであった。
【0072】
<鉛筆硬度>
バフロール研磨後に水洗いし、乾燥させた銅厚35μmの銅ベタ基板に、各熱硬化性樹脂組成物を、100メッシュのスクリーン板を用いてスクリーン印刷法により、乾燥後の塗膜の厚みが20~40μmとなるように全面に塗布し、100℃の熱風循環式乾燥炉(ヤマト科学株式会社製DF610)にて160分間加熱した。加熱後の塗膜表面の鉛筆硬度をJIS-K5600-5-4:1999に準拠して測定し、塗膜に傷痕が生じなかった最も高い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。試験は2回行い、2回の結果が一単位以上異なるときは放棄し、試験をやり直した。各熱硬化性樹脂組成物を用いた塗膜の鉛筆硬度は表1および表2に示されるとおりであった。
【0073】
<ゲルタイム測定>
JIS-C2161:2010に規定された熱板法に準拠して、ホットプレート型ゲル化試験機(GT-D、株式会社ユーカリ技研製)を用いてゲルタイムの測定を行った。各熱硬化性樹脂組成物をシリンジで0.5mL量りとった試料を、110℃に設定したゲル化試験機のホットプレート上に載置し、かき混ぜ針をホットプレート面に対して90度の角度に維持しながら、針先で90±10回/分の速度で円状に試料をかき混ぜ、かき混ぜ針が回転できなくなったり或いは針先に試料が粘着しなくなる等、試料がゲル状になったときを終点とし、試料を載置してから終点までの時間を測定した。この操作を3回繰り返し、平均時間をゲルタイムとした。各熱硬化性樹脂組成物のゲルタイムは、表1および表2に示されるとおりであった。
【0074】
<硬化後の充填性評価>
内径が0.3mm、深さが3.2mmの貫通孔の内壁面全体に銅めっきからなる配線層(めっき厚25μm)を設けて形成されたスルーホールを有する厚さ3.2mmの多層プリント配線基板(FR-4材、型番MCL-E67、日立化成株式会社製)の片面から深さ1.6mmまでドリル加工(ドリル径0.5mm)して配線層の一部を除去して絶縁層を露出させ、内壁に導電部と絶縁部とが形成されたスルーホールを有する多層プリント配線基板を準備した。
多層プリント配線基板のスルーホールに各熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法により充填し、ラックに立て掛けて基板が載置面に対して90度±10度の角度となるように載置した状態で、熱風循環式乾燥炉(ヤマト科学株式会社製DF610)にて110℃で30分加熱することにより熱硬化性樹脂組成物を硬化させた。
【0075】
硬化後の基板表面の光学顕微鏡観察を行い、熱硬化性樹脂組成物を充填した穴部の充填性評価を下記の評価基準により行った。
○:ドリル加工した側のスルーホール表面において、熱硬化性樹脂組成物充填時の状態(凸状の状態)が維持されている
△:ドリル加工した側のスルーホール表面において、表面にわずかな凹みが発生している
×:ドリル加工した側のスルーホール表面において、表面に大きな凹みが発生している
評価結果は下記の表1および表2に示されるとおりであった。
【0076】
<ブリードの有無>
上記<硬化後の充填性評価>のようにして熱硬化性樹脂組成物を充填して基板の表面を目視により観察し、ブリード(基板表面に樹脂が流れ出ている状態)の有無を確認した。
○:ブリードの発生なし
×:ブリードの発生あり
評価結果は下記の表1および表2に示されるとおりであった。
【0077】
<クラックおよびデラミ発生の有無>
上記<硬化後の充填性評価>において評価した基板を用いて、穴埋めした後のスルーホール断面の光学顕微鏡観察および電子顕微鏡観察を行い、クラック発生の有無およびデラミ(剥離)の有無を確認した。また、穴埋めした基板のリフロー処理(最高温度260℃、5サイクル)を行った後に、上記と同様にしてスルーホール断面のクラック発生の有無およびデラミ(剥離)の有無を確認した。
なお、顕微鏡観察を行うにあたり、観察するスルーホールの断面は以下のようにして形成した。すなわち、スルーホールを含む多層プリント配線板を厚さ方向に垂直に裁断し、裁断面にSiC研磨紙(丸本ストルアス株式会社製、500番および2000番)と研磨機(ハルツォク・ジャパン株式会社製、FORCIPOL-2V)を使用して、スルーホールの断面を研磨した。
◎:クラックまたはデラミが発生している箇所の合計が0~2箇所
○:クラックまたはデラミが発生している箇所の合計が3~5箇所
△:クラックまたはデラミが発生している箇所の合計が6~20箇所
×:クラックまたはデラミが発生している箇所の合計が21箇所以上
評価結果は下記の表1および表2に示されるとおりであった。
【0078】
<保存安定性の評価>
調製した実施例1~12の各熱硬化性樹脂組成物を、25℃の環境下で5日間保管した後、上記した粘度V1の測定と同様にして、各熱硬化性樹脂組成物の粘度(V1’)を測定した。下記式により増粘率(Δη)を算出した。
Δη=V1’/V1×100
保存安定性の評価を下記の評価基準により行った。
◎:Δη<10%
○:Δη=10%~100%
△:Δη>100%
評価結果は下記の表1および表2に示されるとおりであった。
【0079】
【0080】
【0081】
表1および表2の評価結果からも明らかなように、V2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲外にあり且つ鉛筆硬度がB以下である熱硬化性樹脂組成物(比較例1、2および4)と比較して、粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲内にあり且つ鉛筆硬度がHB以上である熱硬化性樹脂組成物(実施例1~11)では、硬化後の充填性(液ダレ)およびブリードが改善されており、クラックおよびデラミの発生も抑制されていることがわかる。また、鉛筆硬度がHB以上であってもV2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲外にある熱硬化性樹脂組成物(比較例3)やV2/V1で表される粘度比Rが5.0×10-2~1.0×102の範囲内にあっても、鉛筆硬度がB以下である熱硬化性樹脂組成物(比較例5)では、硬化後の充填性やブリードは改善されるもののクラックおよびデラミの発生の抑制が不十分であることがわかる。
【符号の説明】
【0082】
1 プリント配線板
2 貫通孔を有する多層プリント配線板
3 凹部を有する多層プリント配線板
4 内壁表面がめっきされた貫通孔
5 配線層
6 絶縁層
7 予備硬化物
8 外層絶縁層
10 絶縁層
10a 絶縁部
20a、20b、20c、20d 配線層
30a、30b、30c、30d 配線層
40 貫通孔
50a、50b、50c、配線層
20e、30e、50d 導電部
60 底部
70 凹部