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特許7159175イムノグロブリン結合タンパク質、及びそれを用いたアフィニティー担体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】イムノグロブリン結合タンパク質、及びそれを用いたアフィニティー担体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/195 20060101AFI20221017BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221017BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20221017BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20221017BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C07K14/195 ZNA
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K17/00
C07K1/22
C12P21/02 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019543140
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035418
(87)【国際公開番号】W WO2019059399
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017184158
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513133022
【氏名又は名称】JSRライフサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502066476
【氏名又は名称】ジェイエスアール マイクロ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】316008086
【氏名又は名称】ジェイエスアール マイクロ エヌ.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】JSR Micro N.V.
【住所又は居所原語表記】Technologielaan 8, B-3001, Leuven, BELGIUM
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 潤一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貴一
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/069158(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/096643(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/033130(WO,A2)
【文献】特開2016-079149(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059400(WO,A1)
【文献】Biochemistry,2004年,Vol.43,p.2445-2457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノグロブリン結合タンパク質であって、
イムノグロブリン結合ドメインの変異体を少なくとも1つ含み、
該イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列に対して以下の(b)、(c)及び(f)の変異を加えたアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有する:
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位におけるアミノ酸残基のアルギニンへの置換;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位におけるアミノ酸残基のアルギニンへの置換;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位におけるアミノ酸残基のグルタミンへの置換、
イムノグロブリン結合タンパク質。
【請求項2】
請求項1記載のイムノグロブリン結合タンパク質に含まれるイムノグロブリン結合ドメインの変異体にさらに以下の(d)、(a)及び(h)の変異を加えたイムノグロブリン結合ドメインの変異体を少なくとも1つ含む、イムノグロブリン結合タンパク質:
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位におけるアミノ酸残基のリジンへの置換;
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位におけるアミノ酸残基のアルギニンへの置換;
(h)配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位、7位、及び10位におけるプロリンの欠失。
【請求項3】
前記イムノグロブリン結合ドメインの変異体を2個以上含む、請求項1又は2記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項7】
固相担体と、該固相担体に結合した請求項1~のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質とを含む、アフィニティー担体。
【請求項8】
請求項記載のアフィニティー担体を用いる、抗体又はその断片の単離方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質を、請求項記載の形質転換体、もしくは無細胞タンパク質合成系において発現させるか、又は化学合成することを含む、イムノグロブリン結合タンパク質の製造方法。
【請求項10】
イムノグロブリン結合ドメインの変異体の製造方法であって、
配列番号9で示されるアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドに対して、以下の(b)、(c)及び(f)の変異を加えることを含む、方法:
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位におけるアミノ酸残基のアルギニンへの置換;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位におけるアミノ酸残基のアルギニンへの置換;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位におけるアミノ酸残基のグルタミンへの置換。
【請求項11】
固相担体に、請求項1~のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質を固定化することを含む、アフィニティー担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノグロブリン結合タンパク質、それを用いたアフィニティー担体、ならびに該アフィニティー担体を用いた抗体又はその断片の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、近年、研究用試薬、抗体医薬などに広く利用されている。これら試薬や医薬用の抗体は、一般に、アフィニティークロマトグラフィーによって精製されている。抗体のアフィニティー精製には、一般に、イムノグロブリンと特異的に結合する物質であるリガンドを固定化したカラムが用いられる。このリガンドには、一般に、プロテインA、プロテインG、プロテインLなどのイムノグロブリン結合タンパク質が用いられている。
【0003】
アフィニティー精製用カラムの洗浄にはアルカリ溶液が用いられる一方、アフィニティーリガンドに用いられるイムノグロブリン結合タンパク質は、一般にアルカリ耐性が低い。そのため、リガンドタンパク質のアルカリ耐性向上が望まれている。プロテインAは、比較的以前から使用されているリガンドタンパク質であり、アルカリ耐性を向上させる技術も以前より研究されている。例えば、プロテインAのアルカリ耐性を、CドメインもしくはZドメインにおける特定のアミノ酸の改変(特許文献1)、又はAsnの置換(特許文献2)により向上させる方法が開示されている。
【0004】
プロテインLは、イムノグロブリンκ軽鎖と結合するため、Fabや1本鎖抗体(scFv)等の低分子抗体の精製に使用される。アフィニティーリガンド用に改変したプロテインLに関する報告は少ない。例えば、特許文献3及び4には、プロテインLのドメイン又はその変異体を含むイムノグロブリンκ鎖結合性ポリペプチドが記載されている。特許文献5の実施例には、プロテインLのB5ドメインのイムノグロブリンκ鎖結合性ペプチドのアミノ酸配列の15位、16位、17位及び18位から選択される1つ以上のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、置換導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチドが記載されている。特許文献6には、プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインのアミノ酸配列において、第7位、第13位、第22位、及び第29位よりなる群から選択される部位の少なくとも2個以上が、リジン以外の塩基性アミノ酸又は水酸基を有するアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を含むイムノグロブリン結合ドメインが、アルカリ安定性に優れていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報第2007/097361号
【文献】国際公開公報第2000/023580号
【文献】国際公開公報第2016/096643号
【文献】米国特許第6884629号公報
【文献】国際公開公報第2016/121703号
【文献】国際公開公報第2017/069158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アフィニティーリガンドとして用いるための、アルカリ耐性の向上したプロテインL由来のイムノグロブリン結合ドメインが求められている。本発明は、アルカリ耐性の向上したプロテインL由来のイムノグロブリン結合ドメインの変異体を含む、イムノグロブリン結合タンパク質、及びそれを用いたアフィニティー担体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下を提供する:
イムノグロブリン結合タンパク質であって、
イムノグロブリン結合ドメインの変異体を少なくとも1つ含み、
該イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列であって且つ以下の(a)~(h):
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入;
(h)少なくとも1つのプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有する、
イムノグロブリン結合タンパク質。
【0008】
本発明はまた、前記イムノグロブリン結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
本発明はまた、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
本発明はまた、前記ベクターを含む形質転換体を提供する。
本発明はまた、固相担体と、該固相担体に結合した前記イムノグロブリン結合タンパク質とを含む、アフィニティー担体を提供する。
本発明はまた、前記アフィニティー担体を用いる、抗体又はその断片の単離方法を提供する。
本発明はまた、前記イムノグロブリン結合タンパク質を、前記形質転換体、もしくは無細胞タンパク質合成系において発現させるか、又は化学合成することを含む、イムノグロブリン結合タンパク質の製造方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、以下を提供する:
イムノグロブリン結合ドメインの変異体の製造方法であって、
配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列又はこれらと少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドに対して、以下の(a)~(h):
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入;
(h)少なくとも1つのプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つの変異を加えることを含む、方法。
【0010】
本発明はまた、固相担体に、前記イムノグロブリン結合タンパク質を固定化することを含む、アフィニティー担体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、イムノグロブリンκ鎖に対する結合活性が高く、且つアルカリ耐性に優れているため、アフィニティーリガンドとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の例示的実施形態を以下に記載する。
〔1〕イムノグロブリン結合タンパク質であって、
イムノグロブリン結合ドメインの変異体を少なくとも1つ含み、
該イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列であって且つ以下の(a)~(h):
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入;
(h)少なくとも1つのプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有する、
イムノグロブリン結合タンパク質。
〔2〕前記(a)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(b)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(c)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(d)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(e)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(f)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(g)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する1個のアミノ酸残基の挿入であり、
前記(h)の変異が、1~3個のプロリンの欠失である、
〔1〕記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔3〕前記(a)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるリジンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(b)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるリジンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(c)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるトレオニンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(d)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるグルタミン酸のリジンへの置換であり、
前記(e)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるチロシンのフェニルアラニン又はトリプトファンへの置換であり、
前記(f)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアスパラギンのグルタミンへの置換であり、
前記(g)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアスパラギンと55位に相当する位置におけるグリシンとの間に対するアラニン、ロイシン又はチロシンの挿入であり、
前記(h)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置におけるプロリン、7位に相当する位置におけるプロリン、及び10位に相当する位置におけるプロリンからなる群より選択される1つ以上のプロリンの欠失である、
〔1〕又は〔2〕記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔4〕前記イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ以下の(a’)~(h’):
(a’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(b’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(c’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(d’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるリジン;
(e’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるフェニルアラニン又はトリプトファン;
(f’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるグルタミン;
(g’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間におけるアラニン、ロイシン又はチロシン;
(h’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置、及び10位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つを有するアミノ酸配列からなる、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔5〕前記イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ以下の(a")~(l")のいずれか:
(a")配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアルギニン;
(b")配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアルギニン;
(c")配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアルギニン;
(d")配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるリジン;
(e")配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるフェニルアラニン;
(f")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるグルタミン;
(g1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の55位に相当する位置と56位に相当する位置の間におけるアラニン;
(g2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の55位に相当する位置と56位に相当する位置の間におけるチロシン;
(h1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置及び7位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h3")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置、及び10位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(i")該(a")及び(b")の組み合わせ;
(j")該(b")、(c")及び(f")の組み合わせ;
(k")該(b")、(c")、(d")及び(f")の組み合わせ;
(l")該(a")、(b")、(c")、(d")、(f")及び(h3")の組み合わせ、
を有するアミノ酸配列からなる、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔6〕前記配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列が、配列番号9で示されるアミノ酸配列である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔7〕前記少なくとも85%の同一性が少なくとも90%の同一性である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔8〕前記イムノグロブリン結合ドメインの変異体を2個以上含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質。
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔10〕〔9〕記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
〔11〕〔10〕記載のベクターを含む形質転換体。
〔12〕固相担体と、該固相担体に結合した〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質とを含む、アフィニティー担体。
〔13〕〔12〕記載のアフィニティー担体を用いる、抗体又はその断片の単離方法。
〔14〕〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質を、〔11〕記載の形質転換体、もしくは無細胞タンパク質合成系において発現させるか、又は化学合成することを含む、イムノグロブリン結合タンパク質の製造方法。
〔15〕イムノグロブリン結合ドメインの変異体の製造方法であって、
配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列又はこれらと少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドに対して、以下の(a)~(h):
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入;
(h)少なくとも1つのプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つの変異を加えることを含む、方法。
〔16〕前記(a)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(b)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(c)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(d)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(e)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(f)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換であり、
前記(g)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する1個のアミノ酸残基の挿入であり、
前記(h)の変異が、1~3個のプロリンの欠失である、
〔15〕記載の製造方法。
〔17〕前記(a)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるリジンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(b)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるリジンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(c)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるトレオニンのアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸への置換であり、
前記(d)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるグルタミン酸のリジンへの置換であり、
前記(e)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるチロシンのフェニルアラニン又はトリプトファンへの置換であり、
前記(f)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアスパラギンのグルタミンへの置換であり、
前記(g)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアスパラギンと55位に相当する位置におけるグリシンとの間に対するアラニン、ロイシン又はチロシンの挿入であり、
前記(h)の変異が、配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置におけるプロリン、7位に相当する位置におけるプロリン、及び10位に相当する位置におけるプロリンからなる群より選択される1つ以上のプロリンの欠失である、
〔15〕又は〔16〕記載の製造方法。
〔18〕前記少なくとも1つの変異が、以下の(a")~(l")のいずれか:
(a")配列番号9で示されるアミノ酸配列17位に相当する位置におけるリジンのアルギニンへの置換;
(b")配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるリジンのアルギニンへの置換;
(c")配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるトレオニンのアルギニンへの置換;
(d")配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるグルタミン酸のリジンへの置換;
(e")配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるチロシンのフェニルアラニンへの置換;
(f")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアスパラギンのグルタミンへの置換;
(g1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対するアラニンの挿入;
(g2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対するチロシンの挿入;
(h1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置及び7位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h3")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置、及び10位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(i")該(a")及び(b")の組み合わせ;
(j")該(b")、(c")及び(f")の組み合わせ;
(k")該(b")、(c")、(d")及び(f")の組み合わせ;
(l")該(a")、(b")、(c")、(d")、(f")及び(h3")の組み合わせ、
である、〔15〕~〔17〕のいずれか1項記載の製造方法。
〔19〕前記配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列が、配列番号9で示されるアミノ酸配列である、〔15〕~〔18〕のいずれか1項記載の製造方法。
〔20〕前記少なくとも85%の同一性が少なくとも90%の同一性である、〔15〕~〔19〕のいずれか1項記載の製造方法。
〔21〕前記イムノグロブリン結合ドメインの変異体が、親ドメインと比べてアルカリ耐性が向上している、〔15〕~〔20〕のいずれか1項記載の製造方法。
〔22〕前記変異を加えたポリペプチドを〔11〕記載の形質転換体、もしくは無細胞タンパク質合成系において発現させるか、又は化学合成することをさらに含む、〔15〕~〔21〕のいずれか1項記載の製造方法。
〔23〕固相担体に、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載のイムノグロブリン結合タンパク質を固定化することを含む、アフィニティー担体の製造方法。
【0013】
本明細書において、アミノ酸配列やヌクレオチド配列の同一性は、カーリンとアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,1993,90:5873-5877)を用いて決定することができる。このBLASTアルゴリズムに基づいて、BLASTN、BLASTX、BLASTP、TBLASTN及びTBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(J.Mol.Biol.,1990,215:403-410)。これらのプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列に関する「少なくとも85%の同一性」とは、85%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは97%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、なお好ましくは99%以上の同一性をいう。また、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは97%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、なお好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0015】
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号9で示されるアミノ酸配列)とを、各アミノ酸配列又はヌクレオチド配列中に存在する保存アミノ酸残基又はヌクレオチドに最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.,22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。
【0016】
本明細書において、アミノ酸残基は次の略号でも記載される:アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)、バリン(Val又はV);及び任意のアミノ酸残基(Xaa又はX)。また本明細書において、ペプチドのアミノ酸配列は、常法に従って、アミノ末端(以下N末端という)が左側、カルボキシル末端(以下C末端という)が右側に位置するように記載される。
【0017】
本明細書において、アミノ酸配列の特定の位置に対する「前」及び「後」の位置とは、それぞれ、該特定の位置のN末端側及びC末端側に隣接する位置をいう。例えば、特定の位置の「前」及び「後」の位置へアミノ酸残基を挿入する場合、該特定の位置のN末端側及びC末端側に隣接する位置に、挿入後のアミノ酸残基が配置される。
【0018】
本明細書において、プロテインLとは、Finegoldia magnaによって生産されるタンパク質の1種であるプロテインLをいう。
【0019】
本明細書において、「イムノグロブリン結合タンパク質」とは、イムノグロブリン(又は抗体もしくは抗体の断片)に対する結合活性を有するタンパク質をいう。本明細書において、「イムノグロブリン」(Ig)とは、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリンを含む。本明細書における「抗体」は、イムノグロブリン又は抗原認識部位を含むその断片をいい、例えば、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリン、その断片、それらの変異体などを含み得る。また本明細書における「抗体」は、ヒト化抗体等のキメラ抗体、抗体複合体、及び抗原認識部位を含む他のイムノグロブリン修飾体などであってもよい。また本明細書における「抗体の断片」は、抗原認識部位を含む抗体の断片であっても、抗原認識部位を含まない抗体の断片であってもよい。抗原認識部位を含まない抗体の断片としては、例えばイムノグロブリンのFc領域のみからなるタンパク質、Fc融合タンパク質、及びそれらの変異体や修飾体などが挙げられる。
【0020】
本明細書において「イムノグロブリン結合ドメイン」とは、イムノグロブリン結合タンパク質に含まれる、単独でイムノグロブリン(又は抗体もしくは抗体の断片)結合活性を有するポリペプチドの機能単位をいう。該「イムノグロブリン結合ドメイン」の例としては、イムノグロブリンのκ鎖に対する結合活性を有するドメイン、例えば、プロテインLのイムノグロブリン結合ドメイン、及びイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するそれらの変異体が挙げられる。
【0021】
当該プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインの例としては、Finegoldia magna 312株が産生するプロテインLのB1ドメイン、B2ドメイン、B3ドメイン、B4ドメイン、及びB5ドメインや、F.magna 3316株が産生するプロテインLのC1ドメイン、C2ドメイン、C3ドメイン、及びC4ドメインが挙げられ、このうち、C1ドメイン、C2ドメイン、C3ドメイン及びC4ドメインがより好ましい。プロテインLのB1ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのB2ドメインは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのB3ドメインは、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのB4ドメインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのB5ドメインは、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのC1ドメインは、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのC2ドメインは、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのC3ドメインは、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる。プロテインLのC4ドメインは、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる。これらのプロテインLのイムノグロブリン結合ドメインは、互いにアミノ酸配列の類似性が高い。表1に、配列番号1~9で示されるプロテインLのドメインのアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【0022】
【表1】
【0023】
当該プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインの変異体の例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。好ましくは、当該プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインの変異体の例としては、配列番号6~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0024】
1.イムノグロブリン結合タンパク質
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインに由来するイムノグロブリン結合ドメインの変異体(以下、本発明の変異体ともいう)を少なくとも1つ含む。本発明の変異体は、親ドメインであるプロテインL由来のイムノグロブリン結合ドメイン又はその変異体に所定の変異を加えることによって得ることができる。本発明の変異体は、イムノグロブリンκ鎖結合性を有し、且つ親ドメインと比べてアルカリ耐性が向上している。本発明の変異体を有する本発明の変異イムノグロブリン結合タンパク質は、アフィニティー担体のリガンドとして使用することができる。
【0025】
本発明の変異体の親ドメインとしては、プロテインL由来のイムノグロブリン結合タンパク質、例えば、プロテインLのC1ドメイン、C2ドメイン、C3ドメイン、C4ドメイン、B1ドメイン、B2ドメイン、B3ドメイン、B4ドメイン、B5ドメイン、及びそれらの変異体が挙げられる。このうち、C1ドメイン、C2ドメイン、C3ドメイン、C4ドメイン、及びそれらの変異体が好ましく、C4ドメイン及びその変異体がより好ましい。
【0026】
当該親ドメインとして使用され得るプロテインLのB1~B5ドメイン及びC1~C4ドメインは、それぞれ、配列番号1~9で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。本発明の変異体の親ドメインとして使用され得るプロテインLのB1~B5ドメイン及びC1~C4ドメインの変異体としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0027】
当該親ドメインとして使用され得るプロテインLのイムノグロブリン結合ドメインの変異体は、プロテインLのイムノグロブリン結合ドメインのアミノ酸配列に対して、アミノ酸残基の挿入、削除、置換又は欠失や、アミノ酸残基の化学的修飾等の改変を施すことによって作製することができる。アミノ酸残基の挿入、削除、置換又は欠失の手段としては、該ドメインをコードするポリヌクレオチドに対する部位特異的突然変異(Site-specific mutaion)等の公知の手段が挙げられる。
【0028】
したがって、本発明における好ましい親ドメインの例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。より好ましい親ドメインの例としては、配列番号6~9のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は配列番号6~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。さらに好ましい親ドメインの例としては、配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0029】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質に含まれる本発明の変異体は、上述した親ドメインのアミノ酸配列に対して以下の(a)~(h):
(a)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(b)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(c)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(d)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(f)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換もしくは欠失、又は当該位置の前もしくは後の位置への他のアミノ酸残基の挿入;
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入;
(h)少なくとも1つのプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つの変異を導入して得られたポリペプチドであって、イムノグロブリンκ鎖結合活性を保持しているものである。
【0030】
例えば、本発明の変異体は、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに対して、上記(a)~(h)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を導入することによって製造される。あるいは、本発明の変異体は、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つイムノグロブリンκ鎖結合活性を有するプロテインLイムノグロブリン結合ドメイン変異体のポリペプチドに対して、上記(a)~(h)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を導入することによって製造される。製造された本発明の変異体は、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有し、イムノグロブリン結合ドメインとして機能する。また本発明の変異体は、変異前のドメイン(親ドメイン)と比べてアルカリ耐性が向上しているため、アフィニティーリガンドとして好適に使用することができる。
【0031】
好ましくは、上記(a)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはArg、Glu又はAspであり、より好ましくはArgである。より好ましくは、上記(a)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるLysのArgへの置換である。
【0032】
好ましくは、上記(b)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはArg、Glu又はAspであり、より好ましくはArgである。より好ましくは、上記(b)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるLysのArgへの置換である。
【0033】
好ましくは、上記(c)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはArg、Glu又はAspであり、より好ましくはArgである。より好ましくは、上記(c)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるThrのArgへの置換である。
【0034】
好ましくは、上記(d)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはLysである。より好ましくは、上記(d)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるGluのLysへの置換である。
【0035】
好ましくは、上記(e)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはPhe又はTrpであり、より好ましくはPheである。より好ましくは、上記(e)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるTyrのPheへの置換である。
【0036】
好ましくは、上記(f)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換である。当該他のアミノ酸残基は、好ましくはGlnである。より好ましくは、上記(f)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるAsnのGlnへの置換である。
【0037】
好ましくは、上記(g)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間に対するAla、Leu又はTyrの挿入であり、より好ましくはAla又はTyrの挿入である。より好ましくは、上記(g)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるAsnと、55位に相当する位置におけるGlyとの間に対するAla又はTyrの挿入である。
【0038】
好ましくは、上記(h)の変異は、配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置、及び10位に相当する位置から選択される少なくとも1つの位置におけるProの欠失であり、より好ましくはこれら全部の位置におけるProの欠失である。
【0039】
上記(a)~(h)の変異を組み合わせる場合の好適な例としては、(a)及び(b)の組み合わせ;(b)、(c)及び(f)の組み合わせ;(b)、(c)、(d)及び(f)の組み合わせ;ならびに、(a)、(b)、(c)、(d)、(f)及び(h)の組み合わせが挙げられる。より好適な例としては、K17R及びK26Rの組み合わせ;K26R、T35R及びN54Qの組み合わせ;K26R、T35R、E42K及びN54Qの組み合わせ;ならびに、K17R、K26R、T35R、E42K、N54Q、ΔP4、ΔP7及びΔP10の組み合わせ、が挙げられる。
【0040】
親ドメインを変異させる手段としては、該親ドメインをコードするポリヌクレオチドに対して、所望のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入等が生じるように変異導入する方法が挙げられる。ポリヌクレオチドに対する変異導入のための具体的な手法としては、部位特異的突然変異、相同組換え法、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などを挙げることができ、これらの詳細な手順は当業者に周知である。
【0041】
上記手順で得られる本発明の変異体の例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ上記(a)~(h)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0042】
本発明の変異体の好ましい例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ以下の(a’)~(h’):
(a’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(b’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(c’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸;
(d’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるリジン;
(e’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるフェニルアラニン又はトリプトファン;
(f’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるグルタミン;
(g’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間におけるアラニン、ロイシン又はチロシン;
(h’)配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置、及び10位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるプロリンの欠失、
からなる群より選択される少なくとも1つを有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0043】
本発明の変異体のより好ましい例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ少なくとも以下の(a")~(l")のいずれか:
(a")配列番号9で示されるアミノ酸配列の17位に相当する位置におけるアルギニン;
(b")配列番号9で示されるアミノ酸配列の26位に相当する位置におけるアルギニン;
(c")配列番号9で示されるアミノ酸配列の35位に相当する位置におけるアルギニン;
(d")配列番号9で示されるアミノ酸配列の42位に相当する位置におけるリジン;
(e")配列番号9で示されるアミノ酸配列の44位に相当する位置におけるフェニルアラニン;
(f")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置におけるグルタミン;
(g1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間におけるアラニン;
(g2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の54位に相当する位置と55位に相当する位置の間におけるチロシン;
(h1")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h2")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置及び7位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(h3")配列番号9で示されるアミノ酸配列の4位に相当する位置、7位に相当する位置及び10位に相当する位置におけるプロリンの欠失;
(i")該(a")及び(b")の組み合わせ;
(j")該(b")、(c")及び(f")の組み合わせ;
(k")該(b")、(c")、(d")及び(f")の組み合わせ;
(l")該(a")、(b")、(c")、(d")、(f")及び(h3")の組み合わせ、
を有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0044】
本発明の変異体のさらに好ましい例としては、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ上記(a")、(b")、(c")、(e")、(f")、(g1")、(g2")、(h1")、(h2")、(h3")のいずれか1つ、又は(a")及び(b")の組み合わせ、(b")、(c")及び(f")の組み合わせ、(b")、(c")、(d")及び(f")の組み合わせ、もしくは(a")、(b")、(c")、(d")、(f")及び(h3")の組み合わせを有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0045】
本発明の変異体のさらに好ましい例としては、配列番号9で示されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し且つ上記(a")~(l")のいずれかを有するアミノ酸配列からなり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。本発明の変異体のさらに好ましい例としては、配列番号10~23のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0046】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、上述した本発明の変異体を1つ以上含んでいればよい。好ましくは、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、本発明の変異体を2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上含む。一方、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、本発明の変異体を、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下、さらに好ましくは7個以下含む。例えば、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、本発明の変異体を、好ましくは2~12個、より好ましくは3~8個、さらに好ましくは4~7個含む。本発明のイムノグロブリン結合タンパク質が2個以上の本発明の変異体を含む場合、それらの変異体は、同じ種類のものであっても、異なる種類のものであってもよいが、好ましくは同じ種類である。
【0047】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、上述した本発明の変異体以外の、イムノグロブリンκ鎖に対する結合活性を有する他のイムノグロブリン結合ドメインを含んでいてもよい。当該他のドメインの例としては、上述した(a)~(h)で示されるいずれの変異も有さないプロテインLのイムノグロブリン結合ドメイン又はその変異体が挙げられる。
【0048】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質の好ましい例としては、配列番号10~23から選択される1種又は2種以上のアミノ酸配列が2~12個、より好ましくは3~8個、さらに好ましくは4~7個直鎖状に連結されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる、より好ましい例としては、直鎖状に連結された、2~12個、より好ましくは3~8個、さらに好ましくは4~7個の配列番号10~23のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。しかしながら、本発明のタンパク質の好ましい例は、これらに限定されない。
【0049】
2.イムノグロブリン結合タンパク質の製造
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、当該分野で公知の手法、例えばアミノ酸配列に基づく化学合成法や、リコンビナント法などにより製造することができる。例えば、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、Frederick M. AusbelらによるCurrent Protocols In Molecular Biologyや、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3rd edition,2001)などに記載されている公知の遺伝子組換え技術を利用して製造することができる。すなわち、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを大腸菌などの宿主に形質転換し、得られた組換え体を適切な液体培地で培養することにより、培養後の細胞から、目的のタンパク質を大量且つ経済的に取得することができる。好ましい発現ベクターとしては、宿主細胞内で複製可能な既知のベクターのいずれをも用いることができ、例えば、米国特許第5,151,350号明細書に記載されているプラスミドや、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3rd edition,2001)などに記載されているプラスミドが挙げられる。また、形質転換のための宿主としては、特に限定されないが、大腸菌などのバクテリア、真菌類、昆虫細胞、哺乳類細胞等の組換えタンパク質を発現させるために用いられる公知の宿主を用いることができる。宿主中に核酸を導入することにより宿主を形質転換させるためには、各宿主に応じて当該技術分野において知られるいずれの方法を用いてもよく、例えば、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3rd edition,2001)などに記載されている公知の方法を利用することができる。得られた形質転換体(例えば細菌等の細胞)を培養して発現されたタンパク質を回収する方法は、当業者によく知られている。あるいは、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、無細胞タンパク質合成系を用いて発現させてもよい。
【0050】
したがって、本発明はまた、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(DNA等)、それを含むベクター、及びそれらを含む形質転換体を提供する。
【0051】
3.アフィニティー担体
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質は、アフィニティーリガンドとして使用することができる。本発明のイムノグロブリン結合タンパク質を固相担体に固定化することによって、該本発明のイムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとしたアフィニティー担体を製造することができる。当該アフィニティー担体は、プロテインL由来のイムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとする担体であり、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有する。また当該アフィニティー担体は、野生型プロテインLやそのドメインをリガンドとする担体に比べて、アルカリ耐性が向上している。
【0052】
本発明のアフィニティー担体に含まれる固相担体の形状としては、粒子、膜、プレート、チューブ、針状、繊維状等の任意の形態であることができる。該担体は、は多孔性でも非多孔性でもよい。これらの担体は充填ベッドとして使用することもでき、又は懸濁形態で使用することもできる。懸濁形態には流動層(expanded bed)及び純然たる懸濁物として知られるものが包含され、該形態中では粒子が自由に運動できる。モノリス、充填床及び流動層の場合、分離手順は一般に濃度勾配による従来のクロマトグラフィー法に従う。純然たる懸濁物の場合は、回分法が用いられる。好ましくは、当該担体は充填剤である。あるいは、担体は、チップ、キャピラリー又はフィルターのような形態であってもよい。
【0053】
一実施形態において、当該固相担体は、粒径が好ましくは20μm以上200μm以下である。例えば、担体が合成ポリマーの場合、粒径は、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、かつ好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、例えば、好ましくは20~100μm、さらに好ましくは30~80μmである。例えば、担体が多糖の場合、粒径は、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上、かつ好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、例えば、好ましくは50~200μm、さらに好ましくは60~150μmである。粒径が20μm未満であると、高流速下でカラム圧力が高くなり、実用に耐えない。粒径が200μmを超えると、イムノグロブリンがアフィニティー担体に結合する量(結合容量)に劣る場合がある。なお、本明細書における「粒径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により得られる体積平均粒径であり、より詳細にはISO 13320及びJIS Z 8825-1に準じたレーザー回折法で測定した体積平均粒子径を意味する。具体的には、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置(例えば、LS 13 320((株)ベックマン・コールター等)により粒径分布を測定し、Fluid R.I.Real 1.333、Sample R.I.Real 1.54 Imaginary 0等を光学モデルとして使用し、体積基準の粒度分布を測定して求められる平均粒子径のことをいう。
【0054】
一実施形態において、当該固相担体は、好ましくは、多孔質であり、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上、かつ好ましくは150m2/g以下、より好ましくは130m2/g以下、例えば、好ましくは50~150m2/g、より好ましくは、80~130m2/gの比表面積を有する。ここで、比表面積が50m2/g未満であると、結合容量が劣る場合があり、一方、150m2/gを超えると、担体の強度が劣るために高流速下で担体が破壊されて、カラム圧力が上昇する場合がある。なお、本明細書における「比表面積」とは、水銀ポロシメーターにより得られる細孔径10~5000nmの細孔の有する表面積を粒子の乾燥重量で除した値である。
【0055】
一実施形態において、当該固相担体は、好ましくは、体積平均細孔径が100nm以上1400nm以下である。例えば、担体が合成ポリマーの場合、体積平均細孔径は好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、かつ好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下であり、例えば、好ましくは100~400nm、さらに好ましくは200~300nmである。例えば、担体が多糖の場合、体積平均細孔径は好ましくは500nm以上、より好ましくは800nm以上、かつ好ましくは1400nm以下、より好ましくは1200nm以下であり、例えば、好ましくは500~1400nm、さらに好ましくは800~1200nmである。ここで、体積平均細孔径が100nm未満であると、高流速下の結合容量低下が顕著になる場合があり、一方、1400nmを超えると、流速にかかわらず結合容量が低下する場合がある。なお、本明細書における「体積平均細孔径」とは、水銀ポロシメーターにより得られる細孔径10~5000nmの細孔の体積平均細孔径である。
【0056】
当該固相担体が上記範囲の粒径、比表面積、及び細孔径分布を満たす場合、精製対象溶液の流路となる粒子間の隙間及び粒子内の比較的大きな細孔径と、精製対象分子の結合表面積のバランスが最適化され、高流速下の結合容量が高いレベルに維持される。
【0057】
当該固相担体の材質としては、例えば、親水性表面を有するポリマーであり、例えば、親水化処理により外表面に(及び存在する場合には内表面にも)ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシ基(-COOH)、アミノカルボニル基(-CONH2、又はN置換型)、アミノ基(-NH2、又は置換型)、又はオリゴもしくはポリエチレンオキシ基を有するポリマーである。一実施形態において、該ポリマーは、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール系等の合成ポリマーに親水化処理したポリマーであり得、好ましくは、多官能(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の多官能モノマーで架橋された共重合体のような合成ポリマーに親水化処理したポリマーである。かかるポリマーは公知の方法により容易に製造される(例えば、J.MATER.CHEM1991,1(3),371-374に記載の方法を参照されたい)。あるいは、トヨパール(東ソー社)のような市販品も使用される。他の実施形態におけるポリマーは、デキストラン、デンプン、セルロース、プルラン、アガロース等の多糖類である。かかる多糖類は公知の方法により容易に製造される(例えば特許第4081143号に記載の方法を参照されたい)。あるいは、セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社)のような市販品も使用される。その他の実施形態ではシリカ、酸化ジルコニウムなどの無機担体であってもよい。
【0058】
一実施形態において、当該固相担体として使用される多孔性粒子の一具体例としては、例えば、20~50質量%の架橋性ビニル単量体と3~80質量%のエポキシ基含有ビニル単量体、20~80質量%のジオール基含有ビニル単量体との共重合体を含有し、粒径が20~80μmであり、比表面積が50~150m2/gであり、体積平均細孔径が100~400nmである多孔性有機重合体粒子が挙げられる。
【0059】
なお、当該固相担体を水銀ポロシメーターで測定した場合の細孔径10~5000nmの細孔の浸入体積(細孔体積)は、好ましくは、1.3mL/g以上7.0mL/g以下である。例えば、担体が合成ポリマーの場合、細孔体積は、好ましくは1.3mL/g以上、かつ好ましくは7.0mL/g以下、より好ましくは5.0mL/g以下、さらに好ましくは2.5mL/g以下であり、例えば、好ましくは1.3~7.0mL/g、より好ましくは1.3~5.0mL/g、さらに好ましくは1.3~2.5mL/gである。また例えば、担体が多糖の場合、細孔体積は、好ましくは3.0~6.0mL/gである。
【0060】
当該固相担体へのリガンド(すなわち本発明のイムノグロブリン結合タンパク質)の結合方法としては、タンパク質を担体に固定化する一般的方法を用いて行うことができる。例えば、カルボキシ基を有する担体を用い、このカルボキシ基をN-ヒドロキシコハク酸イミドにより活性化させリガンドのアミノ基と反応させる方法;アミノ基又はカルボキシ基を有する担体を用い、水溶性カルボジイミド等の脱水縮合剤存在下でリガンドのカルボキシ基又はアミノ基と反応させアミド結合を形成する方法;水酸基を有する担体を用い、臭化シアン等のハロゲン化シアンで活性化させてリガンドのアミノ基と反応させる方法;担体の水酸基をトシル化又はトレシル化しリガンドのアミノ基と反応させる方法;ビスエポキシド、エピクロロヒドリン等によりエポキシ基を担体に導入し、リガンドのアミノ基、水酸基又はチオール基と反応させる方法;エポキシ基を有する担体を用い、リガンドのアミノ基又、水酸基又はチオール基と反応させる方法、などが挙げられる。上記のうち、反応を実施する水溶液中での安定性の観点からは、エポキシ基を介してリガンドを結合させる方法が望ましい。
【0061】
エポキシ基が開環して生成する開環エポキシ基である水酸基は、担体表面を親水化し、タンパク質などの非特異吸着を防止すると共に、水中で担体の靱性を向上させ、高流速下の担体の破壊を防止する役割を果たす。したがって、リガンドを固定化させた後の担体中にリガンドと結合していない残余のエポキシ基が存在している場合、当該残余のエポキシ基を開環させることが好ましい。担体中のエポキシ基の開環方法としては、例えば、水溶媒中で、酸又はアルカリにより、加熱又は室温で該担体を撹拌する方法を挙げることができる。また、メルカプトエタノール、チオグリセロール等のメルカプト基を有するブロッキング剤やモノエタノールアミン等のアミノ基を有するブロッキング剤で、エポキシ基を開環させても良い。より好ましい開環エポキシ基は、担体に含まれるエポキシ基をチオグリセロールにより開環させて得られる開環エポキシ基である。チオグリセロールは、原料としてメルカプトエタノール等よりも毒性が低く、またチオグリセロールが付加したエポキシ開環基は、アミノ基を有するブロッキング剤による開環基よりも非特異吸着が低い上に、動的結合量が高くなる、といった利点を有する。
【0062】
必要に応じて固相担体とリガンドの間に任意の長さの分子(スペーサー)を導入してもよい。スペーサーの例としてはポリメチレン鎖、ポリエチレングリコール鎖、糖類などが挙げられる。
【0063】
本発明のアフィニティー担体は、アルカリ耐性の向上したリガンドを有しているため、繰り返しアルカリ洗浄した後でも、高い静的結合容量(SBC)を維持することができる。また本発明のアフィニティー担体は、イムノグロブリンκ鎖結合活性を有するリガンドを用いているため、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等のイムノグロブリンだけでなく、Fabや1本鎖抗体(scFv)等の低分子抗体の精製にも使用することができる。
【0064】
4.抗体又はその断片の単離方法
本発明の一実施形態に係る抗体又はその断片(以下、単に抗体と表記する。)の単離方法を説明する。本実施形態に係る抗体の単離方法は、好適には、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質を固定化したアフィニティー担体に、抗体を含有する試料を通液し、該担体に抗体を吸着させる工程(第一の工程)、及び、該担体から該抗体を溶出させる工程(第二の工程)を含む。
【0065】
当該第一の工程では、本発明のアフィニティー担体を充填したカラム等に抗体を含有する試料を、リガンド(本発明のイムノグロブリン結合タンパク質)に抗体が吸着する条件にて流す。この第一の工程では、試料中の抗体以外の物質のほとんどは、リガンドに吸着されずカラムを通過する。この後、必要に応じて、リガンドに弱く保持された一部の物質を除去するため、担体をNaClなどの塩を含む中性の緩衝液で洗浄してもよい。
【0066】
当該第二の工程では、pH2~5の適切な緩衝液を流し、リガンドに吸着された抗体を溶出させる。この溶出液を回収することで、試料から抗体を単離することができる。
【0067】
本発明の抗体の単離方法の一実施形態において、単離された抗体は、抗体医薬として使用される。したがって、一実施形態において、本発明は、本発明のアフィニティー担体を用いる抗体医薬の製造方法を提供する。当該方法の手順は、目的とする抗体医薬を含有する試料を用いる以外は、基本的に上述した抗体の単離方法の手順と同様である。
【実施例
【0068】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0069】
参考例1 多孔質粒子の合成
(1)グリシジルメタクリレート(三菱レーヨン社製)8.2g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(サートマー社製)65.9g及びグリセリンモノメタクリレート(日油社製)90.6gを、2-オクタノン(東洋合成工業社製)245.8g及びアセトフェノン(和光純薬工業社製)62gに溶解させ、2,2’-アゾイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)2gを添加し、有機モノマー溶液を調製した。
(2)4240gの純水に、ポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA-217)8.5g、ドデシル硫酸ナトリウム(花王社製 エマール10G)0.43g及び硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)21.3gを添加し、一晩撹拌して水溶液を調製した。
(3)(2)で得られた水溶液を7Lセパラブルフラスコ内に投入し、温度計、攪拌翼及び冷却管を装着して、温水バスにセットし、窒素雰囲気下、600rpmで撹拌した。続いて、セパラブルフラスコを温水バスにより加温し、水溶液の温度が85℃になったところで、この水溶液に滴下ロートを用いて(1)で得られた有機モノマー溶液を添加し、5時間攪拌を行った。
(4)(3)で得られた反応液を冷却した後、5Lのポリプロピレン製ビンに移し、粒子が浮遊するまで静置し、余分な水を下方から吸い出して廃棄した。残った粒子を含む液に、アセトンを加えて粒子を沈降させ、3分間静置した後、デカンテーションによりアセトンを除去した。この操作を2回繰り返した。残留物に水を加えて粒子を沈降させた後、3分間静置してデカンテーションした。この操作を2回繰り返して粒子を洗浄した後、液分をアセトンで置換して、一晩風乾したのち、真空乾燥機にて乾燥を行い、多孔質粒子(以下、PBと記す)90gを得た。PBの平均粒径は53μm、比表面積は95m2/gであった。
【0070】
実施例1 イムノグロブリンκ鎖結合タンパク質(KBP1~14)の作製
配列番号10~23のいずれかに示すアミノ酸配列からなるイムノグロブリン結合ドメイン変異体(変異ドメイン)を複数個含むタンパク質をコードする遺伝子のそれぞれをpET-24a(+)ベクターに組み込んだプラスミドを、人工遺伝子合成メーカーより入手した。これらのプラスミドを大腸菌コンピテントセルBL21(DE3)(NEW ENGLAND BioLabs製)に形質転換して形質転換細胞を得た。
得られた形質転換細胞を、吸光度(OD600)が約10に到達するまで37℃でインキュベートした。その後、終濃度で1mMになるようにIPTG(Sigma-Aldrich製)を添加し、さらに4時間37℃でインキュベートして、組み換え型イムノグロブリンκ鎖結合タンパク質を発現させた。細胞を回収し、pH9.5のトリス緩衝液中で破砕した。得られた細胞破砕液から、陰イオン交換クロマトグラフィー(Q-セファロースFF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)及び陽イオン交換クロマトグラフィー(SP-セファロースFF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によって、組み換えイムノグロブリン結合タンパク質を精製した。精製したイムノグロブリン結合タンパク質を、10mMクエン酸緩衝液pH6.6に対して16時間透析した。SDS-PAGEによって確認された組み換え型イムノグロブリン結合タンパク質の純度は95%以上であった。精製された組換え型イムノグロブリンκ鎖結合タンパク質を、それぞれKBP1~14とした。
【0071】
比較例1 イムノグロブリンκ鎖結合タンパク質(KBP0)の作製
配列番号9に示すアミノ酸配列からなる野生型イムノグロブリン結合ドメインを複数個含むタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて、実施例1と同様の手順で、組換え型イムノグロブリンκ鎖結合タンパク質KBP0を製造した。
【0072】
実施例1及び比較例1で作製したイムノグロブリンκ鎖結合タンパク質(KBP0~14)の構造を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例2 リガンドタンパク質固定化多孔質粒子の調製
実施例1で調製したPBを8mg含むように150μLの純水に懸濁させ、フィルターチューブ(Millipore社)に移し遠心して純水を除いた。ここに、比較例1で調製したKBP0を1mg溶解した450μLの0.85M硫酸ナトリウムを含む0.1M炭酸緩衝液(pH10)を加え、25℃で5時間振盪させ、KBP0をPBに結合させた。生成した粒子を濾過した後、1Mチオグリセロール400μLと混合して25℃で16時間反応させ、残余のエポキシ基をブロッキングし、30mM NaOHで洗浄後、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH2.5)及び0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.6)で洗浄し、400μLの結合多孔質粒子(KBP0/PB)を得た。
同様の手順で、KBP1~14のいずれかが結合した多孔質粒子(KBP1/PB~KBP14/PB)を得た。
【0075】
試験例1 静的結合容量(SBC)の測定
(1)アルカリ処理なしでの多孔質粒子のSBCの測定
2mgの多孔質粒子(KBP0/PB)を含む100μLの懸濁液をフィルターチューブ(Millipore社)に移し、遠心して透過液を除いた。これに20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLを添加し、遠心して透過液を除去し、チューブ内の粒子を平衡化させた。次いでこれに0.8mgのFabを含む20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLを添加し、1時間インキュベートし、遠心した後、さらに20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLで洗浄し、遠心した。次いで50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH2.5)400μLを添加し、遠心してFabを含む溶出液を回収した。溶出液中のFab量を吸光度測定により算出し、溶出Fab量と担体体積から静的結合容量(SBC)を求めた。同様の手順で、KBP1/PB~KBP14/PBのSBCを求めた。
【0076】
(2)アルカリ処理した多孔質粒子のSBCの測定
2mgの多孔質粒子(KBP0/PB)を含む100μLの懸濁液をフィルターチューブ(Millipore社)に移し、遠心して透過液を除いた。これに0.1M NaOHを400μL添加し、24時間振盪しながら浸漬後、遠心して透過液を除去した。次いで20mMリン酸バッファー(pH・BR>V.5)400μLを添加し、遠心して透過液を除去し、チューブ内の粒子を平衡化させた。これに0.8mgのFabを含む20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLを添加し、1時間インキュベートし、遠心した後、さらに20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLで洗浄し、遠心した。次いで50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH2.5)400μLを添加し、遠心してFabを含む溶出液を回収した。溶出液中のFab量を吸光度測定により算出し、溶出Fab量と担体体積から静的結合容量(SBC)を求め、(1)で求めたアルカリ処理なしでのSBCに対する相対値(SBC維持率、%)を算出した。同様の手順で、KBP1/PB~KBP14/PBのSBC維持率(%)を求めた。
【0077】
(3)結果
測定結果を表3に示す。アルカリ処理をしない条件下では、変異ドメインを用いた多孔質粒子(KBP1/PB~KBP14/PB)のSBCは、野生型ドメインを用いたKBP0/PBとほぼ同等であった。一方、アルカリ処理後には、KBP1/PB~KBP14/PBのSBCは、KBP0/PBと比べて顕著に向上していた。この結果から、変異ドメインを含むリガンドタンパク質KBP1~14は、野生型タンパク質と比べてアルカリ耐性が高く、0.1M水酸化ナトリウムに24時間曝露するという過酷な条件下でも高い抗体結合性を維持することができることが示された。
【0078】
【表3】
【配列表】
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