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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】包装材料
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/00 20060101AFI20221017BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20221017BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221017BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20221017BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20221017BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B65D65/00 A
B65D65/40 D
C08L101/00
C08K3/01
C08K3/11
C01B39/48
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019555497
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 GB2018050944
(87)【国際公開番号】W WO2018189518
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】1705796.9
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スミス, アンドリュー ウィリアム ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コーニッシュ, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】シュ, ハン
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ラモス, ジョニー
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125050(WO,A1)
【文献】特開平03-280827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158019(US,A1)
【文献】特開平03-111264(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181132(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00
B65D 65/40
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C01B 39/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物の吸着のための包装材料であって、包装材料の表面にコーティングを含み、コーティングがパラジウムドープゼオライトの粒子とポリマー性バインダーとを含み、ゼオライトがCHA骨格タイプを有する、包装材料。
【請求項2】
ポリマーフィルムを含み、ポリマーフィルムが、エチレン酢酸ビニルフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリプロピレンフィルム、ポリプロピレンフィルムまたは高耐衝撃性ポリスチレンフィルムから選択される、請求項に記載の包装材料。
【請求項3】
ゼオライトが、ドープゼオライトの全重量に基づいて0.2~2重量%パラジウムを含む、請求項1または2に記載の包装材料。
【請求項4】
ゼオライトが100:1以下のシリカ対アルミナモル比(SAR)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項5】
単一のポリマーフィルム層を含み、ポリマーフィルム層がポリマーフィルム層の1つの表面に塗布されたコーティングを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項6】
単一のポリマーフィルム層を含み、単一のポリマーフィルム層がポリマーフィルム層の両表面に塗布されたコーティングを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項7】
ゼオライトが水素型である、請求項1から6のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項8】
包装材料が、ポリマーフィルム、容器用蓋、または包装インサートから選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の包装材料
【請求項9】
包装材料が、瓶の蓋、クラムシェルボックスの蓋、ストリップまたはパッドから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項10】
揮発性有機化合物の吸着のためのパラジウムドープゼオライトの使用であって、ゼオライトがCHA骨格タイプを有し、かつ包装材料の表面のコーティングに組み込まれており、コーティングが、ポリマー性バインダーとパラジウムドープゼオライトの粒子とを含む、使用。
【請求項11】
揮発性有機化合物が有機物に由来する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
揮発性有機化合物がエチレンである、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
パラジウムドープゼオライト粒子とポリマー性バインダーとを含む、包装材料に塗布するためのインクであって、ゼオライトがCHA骨格タイプを有する、インク。
【請求項14】
水中に、水溶性バインダーと、CHA骨格タイプを有するパラジウムドープゼオライトの粒子とを含む、請求項13に記載のインク。
【請求項15】
パラジウムドープゼオライト対水溶性バインダーの重量比が、3:1~19:1である、請求項13または14に記載のインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーに結合したパラジウムドープゼオライトを使用する揮発性有機化合物(VOC)の吸着に関する。特に、本発明は、有機物に由来するVOCを吸着するためのポリマーに結合したパラジウムドープゼオライトの使用、ならびにこの目的に適した包装材料およびインクを提供する。
【背景技術】
【0002】
運送中または貯蔵中の果物、野菜および他の有機物の過熟または損傷は、農産物の著しい損失および廃棄を招く恐れがある。これは、長い運送時間および変わりやすい気候条件を伴うことがある生鮮農産物サプライチェーンに関与するものにとって増加しつつある問題である。有機物が貯蔵される雰囲気の改変は、農産物の寿命を延ばすのに効果的な方策であることが示されている。例えば、農産物包装内の酸素レベルおよび二酸化炭素レベルを変更すると、農産物の呼吸速度を低下させ、したがって生鮮農産物の損傷を遅らせることができる。
【0003】
他の方策は、農産物包装内または農産物包装周りから揮発性有機化合物(VOC)を除去するものである。VOCは典型的には、農産物自体によって発せられ、または農産物が貯蔵もしくは輸送される環境中に存在し得る。そのようなVOCの存在は、例えば、農産物の損傷を速め、望ましくないにおいもしくは味、または農産物の変色もしくは外観の他の変化をもたらす可能性がある。
【0004】
そのようなVOCの1つがエチレンである。エチレンは植物ホルモンであり、植物中の多くの生理的プロセスにおいて重要な役割を持つ。例えば、外生エチレンは果物の熟成を開始することができ、これは果物が熟するときエチレンの放出を招き、局所濃度を高くする可能性がある。他の生鮮農産物タイプも、たとえそれら自身のエチレン産生が少なくても、エチレンに対して敏感である。エチレン発生速度は局所エチレン濃度の決定において重要な要素になることがあり、この速度は農産物タイプ間で大きく異なる。過剰なエチレンレベルは、例えば、果物および野菜の早熟、生花のしおれ、ならびに野菜の緑色の退色および苦味の増加を招く恐れがある。
【0005】
周囲のエチレンレベルのコントロールは、多くの園芸産物の貯蔵寿命を延ばすのに効果的であることが明らかになっており、エチレンコントロールの様々な方法が商業的に利用されている。方法には、エチレン吸着および酸化、例えば過マンガン酸カリウムの使用に基づくものが含まれる。
【0006】
パラジウムドープゼオライトはエチレン吸着剤として作用することが明らかになっている。例えば、WO2007/052074(Johnson Matthey Public Limited Company)には、有機物由来のエチレンなどのVOCを吸着するためにパラジウムドープZSM-5を使用できることが記載されている。
【0007】
VOCを除去するために使用される吸着剤は典型的には、粉末の形態で、または顆粒として使用される。生鮮農産物パッケージ内の使用の場合、吸着剤材料は典型的には、パッケージの内部に貼り付けられたラベルに組み込まれており、またはパッケージ内に位置する小袋内、パッド内もしくは他のインサート内に収めることができる。
【0008】
WO2014207467A1(Johnson Matthey Public Limited Company)には、パラジウムドープ水素ZSM-5と、少なくとも1種の水溶性バインダーとを含む、VOCを吸着するための耐水性組成物が記載されている。組成物が調製され、Tyvek(登録商標)紙に塗布される。
【0009】
小袋、パッドまたは他のタイプのインサートの内部に吸着剤を提供する代わりに、包装材料に吸着剤材料を組み込むことは有利であろう。この場合、吸着剤材料はパッケージ内により広く分散するであろうし、吸着剤材料が水と直接接触するのを防ぐことができる。さらに、吸着剤材料が一次包装と組み合わせられる場合、1つまたは複数の別のインサートが包装内部に置かれる必要はない。これらの利点は、含まれる吸着剤材料の減少、包装材料の減少および加工工程の減少につながり得る。
【0010】
WO2016181132A1(Innovia Films Ltd、Food Freshness Technology Holdings Ltd)には包装構造体における使用のためのフィルムが記載されており、これは、バインダーと、VOCを除去することができる粒子状隆起(protuberent)成分とを含むフィルム表面のコーティングを含む。例には隆起(protuberent)成分としてのパラジウムドープゼオライトの使用が記載されており、ZSM-5が述べられている。
【0011】
吸着剤材料をポリマー性材料と結合すると、典型的には吸着剤の能力および/または吸着速度が著しく低下し、性能が不十分になるため、吸着剤とポリマー性材料との組合せは依然として課題である。得られる材料は安定性が低くなることもある。生鮮農産物に対する使用に適している吸着剤を組み込んだ別の材料を例えば包装フィルムまたは他の包装材料として開発することがまだ必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
驚くべきことに、組み合わせられた材料が様々な農産物タイプに対して包装材料としての使用に適するように、CHA骨格タイプを有するパラジウムドープゼオライトは、ポリマー性材料と組み合わせることができ、かなりの割合のVOC吸着能を保持することができる一方、除去速度を維持することが明らかになった。これらのゼオライト材料を含む安定なポリマー性フィルムを調製できることも明らかになった。そのようなフィルムおよび他の包装材料は、貯蔵寿命の延長および生鮮農産物の損傷の低減を含む利益を与えることができる。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様において、揮発性有機化合物、特に有機物に由来する揮発性有機化合物の吸着のためのパラジウムドープゼオライトの使用であって、ゼオライトがCHA骨格タイプを有し、かつポリマーに結合している、使用が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様において、揮発性有機化合物、特に有機物に由来する揮発性有機化合物を吸着するための方法であって、揮発性有機化合物と、CHA骨格タイプを有し、かつポリマーに結合しているゼオライトとを接触させる工程を含む、方法が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様において、したがって、揮発性有機化合物、特に有機物に由来する揮発性有機化合物の吸着のための包装材料であって、パラジウムドープゼオライトを含み、ゼオライトがCHA骨格タイプを有する、包装材料が提供される。好ましくは、ポリマー性材料は包装フィルムである。
【0016】
好ましくは、包装材料はポリマーフィルム層を含み、ゼオライトの粒子はポリマーフィルム層内に分散している。そのようなフィルム層は配合および押出プロセスにより得ることができて、驚くべきことに、本発明者らによって、CHA骨格タイプを有するゼオライトは、高温およびポリマー性材料との吸着剤の粉砕を含むポリマーフィルム層を形成するために使用されるポリマー加工条件にも関わらず、吸着能の保持率が予想外に高いことが明らかになった。
【0017】
配合された混合物は、押出の前にマスターバッチとして単離することができる。マスターバッチの単離は、吸着剤材料の輸送および貯蔵を容易にし、包装材料の製造を簡単にする助けとなる。したがって、本発明のさらなる態様において、ポリマーとパラジウムドープゼオライトの粒子とを含むマスターバッチであって、ゼオライトがCHA骨格タイプを有する、マスターバッチが提供される。
【0018】
ポリマー性バインダーとゼオライトの粒子とを含むコーティングをポリマーフィルムなどの包装材料の表面に塗布することにより包装材料を生成することもできる。したがって、本発明の別の態様において、パラジウムドープゼオライト粒子とポリマー性バインダーとを含む、包装材料に塗布するためのインクであって、ゼオライトがCHA骨格タイプを有する、インクが提供される。
【0019】
本明細書に記載の包装材料は、包装構造体を形成するために使用することができる。この材料は、包装構造体をシールするために、例えばパネット、箱もしくは瓶をシールするために使用することができて、または例えば、袋または包みの場合のように包装構造体の大部分を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】異なる骨格タイプを有するPdドープゼオライト粒子を組み込んだポリマーフィルムのエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図2】多層フィルムに組み込まれた粉末の形態の1% Pdドープチャバザイトのエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図3】1% Pdドープチャバザイトを組み込んだLDPEフィルムのエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図4】ポリアミドフィルムに塗布された、1% Pdドープチャバザイトを組み込んだPVPコーティングのエチレン吸着試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、CHA骨格タイプと、VOCの吸着のためのその有用性とを有するポリマーに結合したゼオライトに関する。3文字コードCHAは、「IUPAC Commission on Zeolite Nomenclature」および/または「Structure Commission of the International Zeolite Association」による骨格タイプを表す。
【0022】
骨格がCHA/AEI混合物または連晶である領域をゼオライトが含み得ることが理解されるであろうが、CHAの連晶および別の骨格タイプを含まない骨格をゼオライトが有することが一般に好ましい。
【0023】
ゼオライトは典型的には、100:1以下、例えば、10:1~50:1、好ましくは10:1~40:1、より好ましくは20:1~30:1の間のシリカ対アルミナモル比(SAR)を有する。
【0024】
記載のゼオライトは、ポリマーに結合されたとき、かなりの割合のエチレン吸着能を保持することが明らかになった。ポリマーに結合されたという用語は、ゼオライトがポリマー性材料に埋め込まれている、またはポリマー性材料によりカプセル化されていることを意味することを当業者なら理解するであろう。好ましくは、ゼオライト材料は、ポリマー性材料によりカプセル化されており、水と接触するのを防ぐ。
【0025】
ゼオライト骨格は、カチオンにより、例えば、アルカリ元素および/もしくはアルカリ土類元素(例えば、Na、K、Mg、Ca、SrおよびBa)のカチオン、アンモニウムカチオンならびに/またはプロトンにより均衡することができる。好ましくは、ゼオライトは水素型である。
【0026】
ゼオライトはパラジウムがドープされており、典型的には、ドープゼオライトの全重量に基づいて0.1~10重量%、好ましくは0.2~2重量%、0.3~1.8重量%、0.3~1.6重量%、0.3~1.4重量%、より好ましくは0.3~1.2重量%、0.4~1.2重量%、0.6~1.2重量%または0.8~1.2重量%パラジウムを含む。
【0027】
そのようなゼオライトは典型的には、硝酸パラジウム溶液を使用する初期湿式含浸、粒子の乾燥、次いで450~750℃の間の温度での焼成により調製される。
【0028】
ゼオライト粒子はポリマーフィルム内に分散させることができる。適したポリマー性材料には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリスチレン、ポリブチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートならびにそれらの混合物、ブレンドおよびコポリマーが含まれる。好ましくは、ポリマーは、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、低密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、ポリプロピレンまたは高耐衝撃性ポリスチレンである。より好ましくは、ポリマーは、エチレン-酢酸ビニルコポリマーまたは低密度ポリエチレンである。
【0029】
好ましくは、ポリマー性材料がVOC吸着速度を損ねないように、高いガス透過性を有するポリマーまたはポリマーの混合物が選択される。ガス透過速度は、ガスに対するバリアとして材料が作用し得る程度の尺度である。ポリマーのガス透過速度の既知の単位の1つは、1平方メートルの面積を有する1ミクロンのフィルムを1標準気圧のガスの分圧差で1時間にわたって通過する標準温度および気圧のガスの立方センチメートルである。この既知の単位はcm.μm/m.h.atmと略記される。ガス透過速度は温度に依存する。フィルムの試験のための既知の慣例の1つは、25℃および相対湿度(RH)0%で試験するものである。所与のポリマーの透過速度もガス自体に依存する。二酸化炭素の透過速度はVOC、特にエチレンの良好な代用になることが明らかになっている。したがって、好ましくはポリマーフィルム層は、25℃およびRH0%で1.00e+02cm.μm/m.h.atm超、より好ましくは1.00e+04cm.μm/m.h.atm超の二酸化炭素透過率を有するポリマーまたはポリマーの混合物を含む。フィルムを通る二酸化炭素透過度は、標準法、例えばASTM F 2478「Standard Test Method for the Determination of Carbon Dioxide Gas Transmission Rate(COTR) Through Barrier Materials Using An Infrared Detector」を使用して測定することができる。二酸化炭素透過速度は、材料厚さおよび圧力勾配に規格化されたCOTRである。
【0030】
そのようなフィルムは、(i)少なくとも1種のポリマーと、CHA骨格タイプを有するパラジウムドープゼオライトの粒子とを配合する工程と、(ii)ポリマーフィルムを形成するために、配合された混合物を押し出す工程とを含むポリマー押出プロセスにより得ることができる。選択されたポリマー性材料は、例えば、二軸スクリュー押出機を使用して、パラジウムドープゼオライト粒子と配合される。次いで、フィルムが押出により、例えばインフレーションフィルム押出またはキャストフィルム押出により生成される。
【0031】
配合工程および/または押出工程の間に比較的低い温度を維持することは、ゼオライト材料のVOC吸着能の保持に関して有利であり得ることが明らかになっている。典型的には、配合工程および/または押出工程は、200℃未満、例えば120℃~180℃の間の温度で行うことができる。例えば、ポリマー材料がエチレン-酢酸ビニルコポリマーである場合、配合工程および/または押出工程の温度は典型的には、120℃~180℃の間、好ましくは120℃~170℃の間、より好ましくは120℃~150℃の間、さらにより好ましくは120℃~140℃の間である。ポリマー材料が低密度ポリエチレンである場合は、配合工程および/または押出工程の温度は典型的には、150℃~190℃の間、好ましくは150℃~180℃の間、より好ましくは150℃~170℃の間である。
【0032】
配合された混合物はフィルム形成の前にマスターバッチとして単離できることを当業者なら理解するであろう。配合された材料は典型的には、このプロセスの一部としてペレット化される。マスターバッチの生成は、例えば、吸着剤の輸送を容易にしたり、標準的なポリマー加工設備を使用して包装フィルムの生成を可能にしたりするのに有利なことがある。
【0033】
マスターバッチは典型的には、マスターバッチ材料の全重量に基づいて1~50重量%の範囲のゼオライト粒子を含む。
【0034】
次いで、形成されるフィルム中のパラジウムドープゼオライトの所望の添加量に応じて、さらなるポリマー性材料の添加あり、またはなしでマスターバッチを押し出すことにより、本明細書に記載のポリマーフィルムを得ることができる。適した押出プロセスにはインフレーションフィルム押出またはキャストフィルム押出が含まれる。
【0035】
典型的には、押し出されたポリマーフィルムは、2~100μm、好ましくは5~30μmの間の厚さを有する。パラジウムドープゼオライト粒子は、典型的にはポリマーフィルムの全重量に基づいて1~50重量%のゼオライト添加量で、好ましくはポリマーフィルムの全重量に基づいて1~10重量%のゼオライト添加量でポリマーフィルム内に分散している。
【0036】
ゼオライト材料は、好ましくは粒子の形態で提供され、これは典型的には、1μm~25μm、好ましくは5μmおよび10μmのサイズ(d50)を有する。フィルム内に分散した粒子の粒子サイズ分布は、例えば、走査型電子顕微鏡法により測定することができる。
【0037】
ポリマーフィルム内に分散させる代わりに、ポリマーフィルムなどの包装材料、または瓶の蓋もしくはクラムシェルボックスの蓋などの容器用蓋、またはストリップもしくはパッド、例えばTyvek(登録商標)ストリップなどの包装インサートの表面のコーティングにゼオライト粒子を組み込むことができる。そのようなコーティングはポリマー性バインダーとゼオライト粒子とを含む。
【0038】
コーティングは、その後に乾燥させる水性インクを使用して、例えば包装材料表面に塗布することができる。そのような場合、水溶性バインダー、例えばポルビニルピロリドン(polvinylpyrrolidone)を使用することができる。好ましくは、インクは、水中の水溶性バインダーと、CHA骨格タイプを有するパラジウムドープゼオライトの粒子とを含む。インク中のパラジウムドープゼオライト対水溶性バインダーの重量比は典型的には3:1~19:1である。
【0039】
コーティングは、適した包装材料、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンまたはそれらの混合物、ブレンドもしくはコポリマーから形成されたポリマーフィルムに塗布される。好ましくは、ポリマーフィルムは、エチレン-酢酸ビニル、低密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、二軸配向ポリプロピレン、ポリアミドまたは高耐衝撃性ポリスチレンである。
【0040】
コーティング内のゼオライト材料は好ましくは粒子の形態であり、これは典型的には、1μm~25μm、好ましくは5μmおよび10μmのサイズ(d50)を有する。コーティング組成物に含まれる粒子の粒子サイズ分布は、例えばレーザ回折により、例えば、脱イオン水中の粒子の懸濁液を生成し、Malvern Mastersizer 2000を使用して粒子サイズ分布を測定することにより測定することができる。
【0041】
本明細書に記載のゼオライトは、包装フィルムを生成するために使用することができる。包装フィルムはポリマー単層でもよく、または同じ材料もしくは異なる材料でもよい2つ以上の層のラミネート構造を含んでもよい。
【0042】
1つの配置において、包装フィルムは、ゼオライトの粒子が分散しているポリマーフィルムの単層を含み、またはそれから実質的になる。
【0043】
さらなる配置において、包装フィルムは、フィルムの片面または両面に塗布されたコーティングを含むポリマーフィルム単層を含み、コーティングはゼオライトの粒子とポリマー性バインダーとを含む。
【0044】
別の配置において、包装フィルムは2つ以上のポリマーフィルム層を含み、包装フィルムは、ゼオライト粒子が分散している少なくとも1つの層を有する。包装フィルムが少なくとも3つの層を含む場合、ゼオライト粒子が分散している1つまたは複数の層は好ましくは包装フィルムの外部層であることを当業者なら理解するであろう。そのような包装フィルムは、例えば、押出またはラミネーションプロセスにより形成することができる。
【0045】
さらに別の配置において、包装フィルムは、2つ以上のポリマーフィルム層を含み、それらのうちの少なくとも1つは、包装フィルムの少なくとも1つの外面に塗布されたコーティングを備え、コーティングはゼオライトの粒子とポリマー性バインダーとを含む。
【0046】
典型的には、包装フィルムは、5μm~200μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~40μmの間の厚さを有する。コーティングが塗布される場合は、コーティング層は0.1~5μmの典型的な厚さ(すなわち、コーティング層内の平均バインダー厚さ)を有する。
【0047】
包装フィルムは、加えて、ガス透過性バリア層、例えばシリコーンゴム、または他の合成もしくは天然ゴム材料を含むことができて、これは包装フィルムの安定性を改善することがあり、かつ特に食品または他の消耗包装用途に有利なことがあり、例えば、ガス透過性バリア層は、ポリマーマトリックスに含まれる粒子状添加剤がフィルム表面に移動するのを防ぎ、したがって、添加剤と包装内容物との接触を防ぐことができる。バリア層は、コーティングプロセス、ラミネーションプロセスにより、またはフィルムブロー成形プロセス中の押出により付与することができる。
【0048】
包装フィルムは、加えて、防曇添加剤を含むことができる。そのような添加剤は、当業者には既知であり、洗剤および/または界面活性剤を含んでもよい。
【0049】
本明細書に記載のゼオライトおよび包装材料は、VOCの吸着のために有利に使用することができる。VOCは、例えば、エチレンなどの植物生長調整物質、アンモニアまたは酢酸などのにおいのある化学種、およびトリメチルアミンなどの農産物腐敗の他の副生成物であり得る。
【0050】
本明細書に記載のゼオライトおよび包装材料は、果物、野菜、切り花または他の食料品などの有機物に由来するVOCの吸着のために有利に使用することができる。VOCは典型的にはエチレンである。特に、呼吸の増大を伴って、熟成中にエチレンを一気に放出するクライマクテリック農産物、例えばバナナ、アボカド、ネクタリン、メロンおよびセイヨウナシに由来するエチレンの吸着のためにゼオライトおよびフィルムを使用することができる。エチレンに対して敏感な他の非クライマクテリック農産物タイプには、ジャガイモ、タマネギ、ブロッコリー、キャベツおよび切り花が含まれる。
【0051】
典型的には、有機物は、貯蔵中および輸送中の包装構造体、例えばクレート、袋、瓶、箱またはパネットに含まれる。したがって、ゼオライトおよび包装材料は、そのような包装構造体内のエチレンレベルをコントロールするために有利に使用することができる。
【0052】
包装材料は、包装構造体をシールするために、例えばパネット、瓶もしくは箱をシールするために使用することができて、または例えば、袋の場合のように包装構造体の大部分を形成することができて、あるいは包装フィルムは、農産物または農産物のコンテナ、例えば箱を包むために使用することができる。
【0053】
多層またはコーティングされた包装フィルムの場合、ゼオライト粒子を組み込んだ層またはコーティング層は典型的には包装構造体の内部に提供され、構造体内の雰囲気の組成物のコントロールを可能にすることを当業者なら理解するであろう。しかし、外部で発生したVOCを例えば輸送中に包装構造体に吸着させるために、包装フィルムの最外層が代わりに、もしくは加えてゼオライト粒子を組み込めること、またはゼオライト粒子を組み込んだ層で包装フィルムの最外層をコーティングできることが想定できる。
【0054】
包装構造体は、例えば穴または典型的には直径50~500μmもしくは適切な長さのスリットで穿孔されたポリマーフィルムを含んでもよい。そのような穿孔はレーザ穿孔により形成することができる。使用中、農産物が内部に置かれたら、包装構造体内のガス状組成物をコントロールして酸素含有量をより低くするために穿孔度を使用することができる。そのような包装構造体は改変雰囲気包装として既知であろう。非改変および改変雰囲気包装構造体のいずれも本明細書に記載の包装フィルムと共に使用することができる。
【0055】
本明細書において使用される「吸着剤」および「吸着」という用語は、特定の経路へのVOCの取込みに限定されるものと解釈されるべきではなく、二次化合物へのVOCの化学変換を含むことに留意されたい。本明細書において使用されるとき、「吸着剤」という用語は「吸収剤」と同義である。
【0056】
本明細書において使用される「実質的になる」という表現は、指定の材料を含むために特徴の範囲を制限し、例えば少量の不純物など、その特徴の基本特性に実質的に影響を与えない任意の他の材料または工程を制限する。「から実質的になる」という表現は、「からなる」という表現を包含する。
【実施例
【0057】
ここで、本発明を以下の非限定的な例により説明する。
【0058】
パラジウムドープゼオライトの調製例
1% PdドープH-チャバザイト(SAR=22):試料を初期湿式含浸により調製した。硝酸Pd(~8%)溶液を秤量し、ゼオライト上に所望の重量%の金属を得た。次いで、ゼオライトの細孔充填率がおよそ60~70%になるまで硝酸Pd溶液を水で希釈した。ピペットを使用して溶液をゼオライト粉末(Tosoh Corporationから入手した)に加え、数滴加える毎に溶液を手作業で撹拌し、スパチュラを使用して「湿った塊」を砕き、試料をできるだけ均質に保った。次いで、試料を105℃(2時間)で乾燥し、次いで、ランプ速度10℃/minで500℃の温度で2時間焼成した。
【0059】
1% PdドープH-ZSM-5(SAR=23)および0.4% PdドープH-ベータゼオライト(SAR=28)の試料を記載の方法にしたがって調製した。ただし、条件に以下の変更を加えた:(i)ゼオライトの細孔充填率がおよそ95%になるまで硝酸Pd溶液を水で希釈した;(ii)乾燥時間は18時間であった。
【0060】
Pdドープゼオライトを組み込んだポリマーマスターバッチの調製例
二軸スクリュー押出機(Dr Collin)を使用してPdドープゼオライト粒子を選択されたポリマーと配合した。二軸スクリュー配合速度は、120~180℃の間の設定温度で20rpmであった。次いで、配合した材料をマスターバッチにペレット化した。
【0061】
実施例1
異なる骨格タイプを有するPdドープゼオライト粒子を組み込んだエチル-酢酸ビニルフィルムの調製
二軸スクリュー押出機(Dr Collin)を使用して上述の異なる骨格タイプを有するPdドープゼオライト粒子とエチレン-酢酸ビニル(EVA FL00209)を130℃の温度で配合した。パラジウムドープゼオライトをおよそ1.5重量%含むフィルムが得られるようにゼオライト添加速度およびポリマー添加速度を調節した。次いで、以下の条件を使用して、配合した混合物をインフレーションフィルムラインを通じて押し出し、多層構造体(20μm)を生成した:
内層(EVA):
押出速度:25rpm
供給ゾーンからダイアダプターまでの温度プロファイル(℃):30、130、130、130、130
中層(EVA):
押出速度:25rpm
供給ゾーンからダイアダプターまでの温度プロファイル(℃):30、130、130、130、130
外層(EVA+吸収剤):
押出速度:50rpm
供給ゾーンからダイまでの温度プロファイル(℃):30、130、130、130、130、130、130および130
【0062】
生成したフィルム中のゼオライト添加量を灰分試験により確認した。試験は、フィルムの試料を500℃に5時間加熱するものであった。次いで、以下の式を使用してゼオライト添加量を計算した:
ゼオライト添加量=正味の灰分/正味のフィルム×100%
【0063】
フィルム灰分試験結果によれば、試験したフィルムは以下のゼオライト添加量を有していた:
Pd-チャバザイト-1.57重量%;
Pd-ZSM-5-1.45重量%;
Pd-ベータ-1.89重量%;
【0064】
ポリマーフィルムの試験
一連の実験を実施して様々なパラジウムドープゼオライトのエチレン除去性能を評価し、ポリマーフィルムへの組込み後と粉末としてのそれらの性能を対比して比較した。
【0065】
エチレン取込み測定
ゼオライト約0.2gを含むフィルムを調製し、シールした1990mlジャー内に置いた。エチレンガスをジャーに注入し、500ppmにした。ジャー内の内部雰囲気を一定の間隔で分析した。エチレンの濃度をGC分析により決定した。ジャー内の温度および湿度を試験中、5℃およびRH90~95%に維持した。
【0066】
結果
図1は、エチレン吸着試験の結果を示す。1% Pd-チャバザイト(SAR 22)は、試験した他の骨格タイプと比較して高い除去速度で、かつ特に有利なプロファイルで、調査の期間にわたって継続的にエチレンを除去することが明らかになった。
【0067】
実施例2
Pdドープチャバザイト粒子を組み込んだ多層ポリマーフィルムおよびPdドープチャバザイト粉末のエチレン除去能の比較
0.2gの1% Pd-チャバザイト粉末および0.199gの1% Pd-チャバザイト粉末が組み込まれたEVA多層フィルムを実施例1に記載の通り調製した。食品貯蔵条件を模倣できる湿潤低温条件(5℃およびRH90~95%)のエチレン取込み試験において両方のエチレン除去性能を評価した。多層フィルムのエチレン除去性能を図2に示した。フィルムがゼオライト粉末の活性をおよそ約80%保持することが明らかになった。
【0068】
実施例3
LDPEポリマーフィルムの調製および試験
二軸スクリュー押出機(Dr Collin)を使用して低密度ポリエチレン(Lupolen 3020H)を1% Pdドープチャバザイト粒子と配合し、160℃の温度で上述のマスターバッチを生成した。パラジウムドープゼオライトをおよそ2重量%含むフィルムが得られるようにゼオライト添加速度およびポリマー添加速度を調節した。次いで、以下の条件を使用して、配合した混合物をインフレーションフィルムラインを通じて押し出し、多層構造体(20μm)を生成した:
内層(LDPE):
押出速度:25rpm
供給ゾーンからダイアダプターまでの温度プロファイル(℃):30、160、160、160、160
中層(LDPE):
押出速度:25rpm
供給ゾーンからダイアダプターまでの温度プロファイル(℃):30、160、160、160、160
外層(LDPE+吸収剤):
押出速度:50rpm
供給ゾーンからダイまでの温度プロファイル(℃):30、160、160、160、160、160、160および160
【0069】
フィルム灰分試験結果によれば、試験したフィルムは以下のゼオライト添加量を有していた:
Pd-チャバザイト-2.08重量%
【0070】
ポリマーフィルムの試験
一連の実験を実施して様々なパラジウムドープゼオライトのエチレン除去性能を評価し、ポリマーフィルムへの組込み後と粉末としてのそれらの性能を対比して比較した。
【0071】
エチレン取込み測定
ゼオライト0.208gを含むフィルムを調製し、シールした1990mlジャー内に置いた。エチレンガスをジャーに注入し、500ppmにした。ジャー内の内部雰囲気を一定の間隔で分析した。エチレンの濃度をGC分析により決定した。ジャー内の温度および湿度を試験中、5℃およびRH90~95%に維持した。
【0072】
エチレン取込み:LDPEフィルムおよびゼオライト粉末(コントロール=1% Pd-チャバザイト粉末)を上述のエチレン取込みに関して試験した
【0073】
結果
LDPE多層フィルムのエチレン除去性能を図3に示した。フィルムがゼオライト粉末の活性をおよそ約60~70%保持することが明らかになった。
【0074】
実施例4
Pdドープチャバザイト粒子を組み込んだポリマー性コーティングを含むポリマーフィルムの調製および試験
1%パラジウムドープチャバザイト粒子(10重量%)の撹拌懸濁液にポリビニルピロリドン(1重量%)を添加することによりインクを調製した。インクをポリアミドPA6フィルム(Xtend)に吹き付けた。次いで、ホットプレート(100℃)を使用してフィルムを10分間乾燥した。基材のコーティングは、150mm×150mmのフィルムあたり0.25gであった。粒子サイズ(D50)は6.4μmであった。
【0075】
エチレン取込み:コーティングされたフィルム(コーティングされたXtend)およびゼオライト粉末0.25g(コントロール=1% Pd-チャバザイト粉末)を上述のエチレン取込みに関して試験した。
【0076】
結果:図4に示す通り、コーティングされたフィルムはエチレンの大部分を除去し、実験の最初の2時間でエチレン濃度が大幅に減少した。
図1
図2
図3
図4