(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】低剪断強度潤滑流体
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20221017BHJP
C10M 105/44 20060101ALN20221017BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20221017BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20221017BHJP
C10M 129/28 20060101ALN20221017BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20221017BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20221017BHJP
C10M 155/02 20060101ALN20221017BHJP
C10M 145/08 20060101ALN20221017BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20221017BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20221017BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/44
C10M133/12
C10M139/00 Z
C10M129/28
C10M133/16
C10M135/10
C10M155/02
C10M145/08
C10N10:04
C10N20:04
C10N20:00 Z
(21)【出願番号】P 2020215956
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2018526863の分割
【原出願日】2016-11-21
【審査請求日】2021-01-06
(32)【優先日】2015-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521161314
【氏名又は名称】ヴァンテージ サントルブズ リサーチ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・レジナルド・フォーブス・ジュニア
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-500679(JP,A)
【文献】国際公開第2015/078707(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/062008(WO,A1)
【文献】特開2009-203385(JP,A)
【文献】特開2010-090210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)の構造によって表され
るポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステル:
【化2】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、それぞれ5個~11個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含み、R
3は、24個~36個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖を有するアルキレン基であり、nは2~4の範囲であり、oは2~4の範囲である)
;
を含み、
抗酸化剤、超高圧添加剤、耐磨耗添加剤、摩擦調整剤、防錆剤、防食剤、洗浄剤、分散剤、消泡剤、流動点降下剤及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含み、
前記抗酸化剤が、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン及びアルキル化フェニル-x-ナフチルアミン、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)及びイソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオナート、及びジチオリン酸亜鉛からなる群から選択され、
前記摩擦調整剤は、有機モリブデン系化合物、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ステアリン酸、オレイルグリセリンエステル、ステアリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル、ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、アルキルジエタノールアミン、ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル、油/脂肪、アミン、硫化エステル、リン酸エステル、酸リン酸エステル、酸亜リン酸エステル、及びリン酸エステルのアミン塩からなる群から選択され、
前記防錆剤は、脂肪酸、アルケニルコハク酸半エステル、脂肪酸石鹸、アルキルスルホナート、多価アルコール/脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン及びアルキルポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択され、
前記分散剤が、ポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルコハク酸アミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、コハク酸エステルアミド及びそれらのホウ素誘導体をベースとする分散剤から選択される無灰分散剤であり、
前記洗浄剤が、カルシウム、マグネシウム、バリウムのスルホン酸塩、石炭酸塩、サリチル酸塩及びリン酸塩を含む金属洗剤から選択され、
前記消泡剤が、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリラート、ポリアルキルメタクリラート、アルコールエトキシ/プロポキシラート、脂肪酸エトキシ/プロポキシラート及びソルビタン部分脂肪酸エステルからなる群から選択され、
前記流動点降下剤が、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、ポリメタクリレート及びポリアルキルスチレンからなる群から選択される、
ことを特徴とする潤滑流体。
【請求項2】
式(2)
のポリテトラメチレングリコールセグメントが、200g/モル~300g/モルの範囲の平均分子量を有する請求項1に記載の潤滑流体。
【請求項3】
R
4及びR
5が、それぞれ独立して、オクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物に由来する請求項
1に記載の潤滑流体。
【請求項4】
R
3が、24個~36個の炭素原子を有する二量体カルボン酸に由来する請求項
1に記載の潤滑流体。
【請求項5】
滑り/転がり比40パーセント、荷重20N~70N、90℃で測定したとき、0.001μ~0.015μの範囲のトラクション(traction)係数を有する請求項
4に記載の潤滑流体。
【請求項6】
15cSt~1,500cStの範囲の40℃動粘度を有する請求項
5に記載の潤滑流体。
【請求項7】
前記ポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルが、それぞれ25℃で液体である請求項
6に記載の潤滑流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシルエステル又はその混合物の使用、カルボキシル 二末端保護ポリテトラメチレングリコールの使用に関し、同様に、その弾性流体力学的剪断強度を最小化し、潤滑の弾性流体力学的レジーム(regime)において動作する機械又は機械要素用の高効率流体の生産を可能にする特定の構造の複合エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性流体力学的機械要素は、相互接触する、名目上平滑な、転がり滑り、弾性変形、不適合(non-confirming)表面間の流体の薄膜と共に動作する機械的装置である。弾性流体力学接触における流体は、典型的には、粘性流体としてではなく、通常の転がり剪断運動に対して降伏強度又は剪断強度を有する弾塑性固体として挙動する。接触内の剪断は、接触している2つの表面が、接触表面の形状及び機械要素の普通の操作におけるその相対運動によって単に引き起こされ得る相対速度に差異があるときにのみ生じる。
【0003】
これら機械要素の効率は、これら高応力、弾性変形、不適合接触において表面を潤滑にするために使用される流体の高応力剪断強度に大きく依存している。接触動作条件下における流体の剪断強度特性は、潤滑の弾性流体力学的条件下における合せ面間の滑り運動の程度に依存してその効率に実質的に影響を与え得る。したがって、低弾性流体力学的剪断強度を有する流体は、これら接触における転がり-滑り運動又は純滑り運動における流体剪断損失がより低いことから、効率をより高めることができる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の一実施形態は、(1)式(1)の構造によって表される第1のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステル:
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、それぞれ5個~11個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含み、mは2~4の範囲である);(2)式(2)の構造によって表される第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステル:
【化2】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、それぞれ5個~11個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含み、R
3は、24個~36個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含むジカルボン酸であり、nは2~4の範囲であり、oは2~4の範囲である);及びこれらの混合物
からなる群から独立して選択されるポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルを含む潤滑流体を提供する。
【0005】
特定の実施形態では、式(1)のポリテトラメチレングリコールセグメントは、200g/モル~300g/モルの範囲の平均分子量を有する。特定の実施形態では、式(2)のポリテトラメチレングリコールセグメントは、200g/モル~300g/モルの範囲の平均分子量を有する。
【0006】
潤滑流体の幾つかの実施形態では、R1及びR2は、それぞれ独立して、オクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物に由来する。潤滑流体の幾つかの実施形態では、R4及びR5は、それぞれ独立して、オクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物に由来する。
【0007】
潤滑流体の幾つかの実施形態では、R3は、24個~36個の炭素原子を有する二量体カルボン酸に由来する。
【0008】
潤滑流体の幾つかの実施形態では、潤滑流体は、滑り/転がり比40パーセント、荷重20N~70N、90℃で測定したとき、0.001μ~0.015μの範囲のトラクション係数を有する。
【0009】
潤滑流体の幾つかの実施形態では、潤滑流体は、15cSt~1,500cStの範囲の40℃動粘度を有する。
【0010】
潤滑流体の幾つかの実施形態では、潤滑流体は、抗酸化剤、超高圧添加剤、耐磨耗添加剤、摩擦調整剤、防錆剤、防食剤、洗浄剤、分散剤、消泡剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含む。
【0011】
本発明の低剪断強度潤滑流体及び方法の実施形態についての以下の詳細な説明と同様に、前述の概要は、例示的な実施形態の添付図面と合わせて読むことにより、より深く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の2つの異なる組成物について、荷重20N(0.8GPa)、40N(1.0GPa)、及び68N(1.2GPa)、60℃、及び1メートル/秒以下のエントレインメント(entrainment)速度で測定した、滑り/転がり比対トラクション係数(μ)のプロットを示す。
【
図2】
図2は、本発明の2つの異なる組成物について、荷重20N(0.8GPa)、40N(1.0GPa)、及び68N(1.2GPa)、90℃、及び1メートル/秒以下のエントレインメント速度で測定した、滑り/転がり比対トラクション係数(μ)のプロットを示す。
【
図3】
図3は、本発明の2つの異なる組成物について、荷重20N(0.8GPa)、40N(1.0GPa)、及び68N(1.2GPa)、120℃、及び1メートル/秒以下のエントレインメント速度で測定した、滑り/転がり比対トラクション係数(μ)のプロットを示す。
【
図4】
図4は、グループ1の鉱油、ポリアルファオレフィン、最良利用可能な超低剪断強度ポリアルキレングリコール(PAG)、及び本発明の組成物について、1.2GPa[荷重68N]、90℃、及び3メートル/秒のエントレインメント速度で測定した、滑り/転がり比対トラクション係数(μ)のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、弾性流体力学的潤滑のために高エネルギー効率流体の潤滑流体を生産するための、低~高粘度範囲における超低弾性流体力学的剪断強度の処方潤滑剤のためのエステルベース油を提供する。
【0014】
ベース油
本発明は、カルボキシル 二末端保護ポリテトラメチレングリコールのカルボキシルエステル又はその混合物を利用し、同様に、その弾性流体力学的(EHD)剪断強度を最小化し、潤滑の弾性流体力学的レジームにおいて動作する機械又は機械要素用の高効率流体の生産を可能にするための特定の構造の複合エステルに関する。
【0015】
一実施形態は、低分子量ポリテトラメチレングリコール及び低粘度の第1のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルを含む潤滑流体を提供する。一実施形態では、第1のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルは、式(1)の構造によって表される。
【化3】
式(1)の幾つかの実施形態では、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、それぞれ5個~11個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含む。式(1)の幾つかの実施形態では、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、それぞれ7個~9個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含む。式(1)の様々な実施形態では、式(1)の各ポリテトラメチレングリコールセグメントは、200g/モル~300g/モルの範囲の平均分子量を有する。式(1)の様々な実施形態では、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、オクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物に由来する。式(1)の前述の各実施形態では、mは2~4の範囲である。更に、式(1)の前述の各実施形態では、R
1及びR
2は、それぞれ、5個~11個の炭素原子又は7個~9個の炭素原子を有する分枝鎖アルキル基を含有し得、分枝鎖アルキル基の量は、10重量%未満、5重量%未満、又は1重量%未満である。前述の各実施形態について、第1のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルは、25℃で液体である。
【0016】
別の実施形態は、主に直鎖の長いジカルボン酸をポリテトラメチレングリコールとカップリングさせ、続いて、残留ヒドロキシル基をノルマルカルボン酸、好ましくは、混合チェーンリンク(mixed-chainlink)、直鎖(即ち、「ノルマル」)カルボン酸でキャッピングして、中~高粘度複合エステルを形成することに由来する第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルを含む潤滑流体を提供する。
【0017】
一実施形態では、第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルは、式(2)の構造によって表される。
【化4】
式(2)の幾つかの実施形態では、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、それぞれ5個~11個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含み、R
3は、32個~36個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含む。式(2)の幾つかの実施形態では、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、それぞれ7個~9個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を含む。式(2)の様々な実施形態では、式(1)の各ポリテトラメチレングリコールセグメントは、200g/モル~300g/モルの範囲の平均分子量を有する。式(2)の様々な実施形態では、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、オクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物に由来する。式(2)の様々な実施形態では、R
3は、36個の炭素原子を有する二量体カルボン酸に由来する。式(2)の他の実施形態では、二量体カルボン酸は、24個~36個の炭素原子、28個~36個の炭素原子、30個~36個の炭素原子、32個~36個の炭素原子、34個~36個の炭素原子、又は35個の炭素原子を有する。式(2)の特定のかかる実施形態では、ダイマー酸(二量体化不飽和脂肪酸)は、不飽和脂肪酸を二量体化することによって調製されるジカルボン酸である。かかる一実施形態では、ジカルボン酸は、不飽和のままであってもよく、構造から残留不飽和(オレフィン結合)を除去するために水素で飽和させることによって仕上げしてもよいオレイン酸由来の主に直鎖の二量体である。前述の式(2)の各実施形態では、nは2~4の範囲であり、oは2~4の範囲である。更に、前述の式(2)の各実施形態では、R
4及びR
5は、それぞれ、5個~11個の炭素原子又は7個~9個の炭素原子を有する分枝鎖アルキル基を含有し得、分枝鎖アルキル基の量は、10重量%未満、5重量%未満、又は1重量%未満である。更に、前述の各実施形態では、R
3は、分枝鎖アルキル基を含有し得、分枝鎖アルキル基の量は、10重量%未満、5重量%未満、1重量%未満である。前述の各実施形態では、第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルは、25℃で液体である。
【0018】
別の実施形態は、本明細書に記載される前記第1及び第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルの前述の各実施形態の混合物を含む潤滑流体を提供する。前記第1及び第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルは、所望のISO粘度グレードを有する製品が得られる比でブレンドされる。第1のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルと第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルとの混合物の好ましい粘度範囲は、40℃で15センチストークス~1,500センチストークス又は40℃で15センチストークス~1,000センチストークスの動粘度である。
【0019】
本明細書に記載される第1及び/又は第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルを含有する潤滑流体は、弾性流体力学的な滑り接触及び転がり-滑り接触において極めて低い剪断強度を有するので、潤滑接触内で生じる剪断損失が低いことから高いエネルギー効率を有する、弾性流体力学的潤滑で使用される潤滑剤を生産することが可能になる。一実施形態では、潤滑流体は、滑り/転がり比40パーセント、荷重20N~70N、90℃で測定したとき、0.001μ~0.015μの範囲のトラクション(traction)係数を有する。
【0020】
図1を参照すると、様々なベース油の弾性流体力学的剪断強度の相対順位は、グループIの鉱油>ポリアルファオレフィン>ポリアルキレングリコール>本明細書で作製及び記載される第1及び/又は第2のポリテトラメチレングリコールのカルボキシルジエステルであり、4つの一連の要素のうちで2番目に低いポリアルキレングリコールよりも実質的に相当低い。
【0021】
添加剤
本明細書に記載される潤滑流体の様々な実施形態は、抗酸化剤、超高圧添加剤、耐磨耗添加剤、摩擦調整剤、防錆剤、防食剤、洗浄剤、分散剤、消泡剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含み得る。
【0022】
分散剤の例としては、本発明に有用な無灰分散剤が挙げられ、例えば、ポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルコハク酸アミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、コハク酸エステルアミド、及びこれらのホウ素誘導体に基づくものが挙げられる。無灰分散剤は、通常、0.05質量%~7質量%配合される。
【0023】
金属洗浄剤の例は、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルホン酸塩、石炭酸塩、サリチル酸塩、及びリン酸塩を含有するものから選択してよい。任意で、様々な酸価の過塩基性、塩基性、中性の塩等から選択してもよい。金属洗浄剤は、任意で、0.05質量%~5質量%配合される。
【0024】
本発明に有用な流動点降下剤の例としては、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、塩素化パラフィン及びナフタレンの縮合物、塩素化パラフィン及びフェノールの縮合物、ポリメタクリラート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。流動点降下剤は、通常、0.1重量%~10重量%配合される。
【0025】
本発明で使用することができる消泡剤の例としては、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイドシリカ、ポリアルキルアクリラート、ポリアルキルメタクリラート、アルコールエトキシ/プロポキシラート、脂肪酸エトキシ/プロポキシラート、及びソルビタン部分脂肪酸エステルが挙げられる。消泡剤は、通常、10質量ppm~100質量ppm配合され得る。
【0026】
本発明で使用することができる抗酸化剤の例としては、アミン系のもの、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、及びアルキル化フェニル-x-ナフチルアミン;フェノール系のもの、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、及びイソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート;硫黄系のもの、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオナート;並びにジチオリン酸亜鉛が挙げられる。抗酸化剤は、通常、0.05質量%~5質量%配合される。
【0027】
本発明に有用な防錆剤の例としては、脂肪酸、アルケニルコハク酸半エステル、脂肪酸石鹸、アルキルスルホナート、多価アルコール/脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、及びアルキルポリオキシエチレンエーテルが挙げられる。防錆剤は、通常、0質量%~37質量%配合される。
【0028】
本発明に有用な摩擦調整剤の例としては、有機モリブデン系化合物、オレイルアルコール及びステアリルアルコール等の高級アルコール;オレイン酸及びステアリン酸等の脂肪酸;オレイルグリセリンエステル、ステアリルグリセリンエステル、及びラウリルグリセリンエステル等のエステル;ラウリルアミド、オレイルアミド、及びステアリルアミド等のアミド;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、及びアルキルジエタノールアミン等のアミン;並びにラウリルグリセリンエーテル及びオレイルグリセリンエーテル等のエーテル、油/脂肪、アミン、硫化エステル、リン酸エステル、酸リン酸エステル、酸亜リン酸エステル、及びリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。摩擦調整剤は、通常、0.05質量%~5質量%配合される。
【0029】
本発明のギヤ油組成物における添加剤の合計含量は限定されない。しかし、1以上の添加剤(上記可溶化剤を含む)は、1質量%~30質量%、好ましくは2質量%~15質量%配合され得る。
【0030】
本開示の潤滑流体は、当業者に公知の様々な標準試験によって特性評価され得る。トラクション係数は、PCS Mini-Traction Machine(MTM)(PCS Instruments,Ltd.製)を使用して測定することができ、様々な滑り/転がり比、例えば、(0.1%~200%)、温度、及び20N~70Nの範囲の荷重、又は0.5GPa~1.5GPaの最大ヘルツ接触応力で測定され得る。動粘度(Kinematic viscosity)は、ASTM D445-06によって決定することができる。また、動粘度は、低い剪断速度及び密度における粘度(dynamic viscosity)の測定値から計算することもでき、動粘度は、2つの数の乗積である。粘度指数は、ASTM D2270-04によって決定され得る。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、本発明の範囲内の例示的な実施形態を更に説明及び証明するものである。実施例は、説明のためだけに与えられ、本発明を限定すると解釈されるものではないが、それは、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなしに多くの変形例が可能であるためである。
【0032】
実施例1:ジエステルの調製
機械的攪拌機と、デジタル熱電対コントローラを備える加熱マントルと、冷水凝縮器を備えるディーン・スタークトラップとを備える3リットルの3つ口丸底フラスコを合成反応器として使用した。Emery(登録商標)658(ノルマルのC8及びC10のカルボン酸の混合物)615.6グラム、Invista Terathane(登録商標)250(公称平均分子量250ダルトンのポリテトラメチレングリコール)526.6グラム、混合キシレン100グラム、及び触媒として50%次亜リン酸10gを容器に添加した。約30mL/分で流れる窒素で反応をガスシール(blanketed)し、反応及びストリッピング(stripping)全体を通して使用した。フラスコの内容物を145℃に昇温し、次いで、30℃/時で230℃の最終反応器温度にした。約145℃で水が発生し、キシレンとの共沸によってディーン・スタークトラップで蒸留される。
【0033】
230℃に達した後、8時間超温度を維持し、その時点で、理論水の99+%が反応混合物から除去されていた。この時点における反応器の内容物の酸価は、5.88mgKOH/グラムであった。
【0034】
真空に引きながら(10トールまで)反応混合物を冷却した。反応器の温度が90℃に達したら、10%炭酸ナトリウム90グラムを添加し、混合物を1時間撹拌し、85℃で保持した。次いで、水相を除去し、水90mLをフラスコに添加し、85℃で1時間撹拌した。次いで、水相を分離し、次いで除去した。
【0035】
反応器の内容物を85℃で保持しながら、Celatom(登録商標)FW-14を5グラム添加し、反応器を高真空下におき、30分間保持した。真空を破り、フラスコの内容物を濾過して固形分を除去した。得られた流体の重量は1,035グラムであった(理論収量1,065.2グラムの97.2%の収率)。得られた流体は、0.40mgKOH/グラムの酸価及び2ガードナーの色を有していた。
【0036】
実施例2:高粘度エステルの調製
実験準備は、機械的攪拌機、デジタル熱電対コントローラを備える加熱マントルを備える3,000mLの3つ口丸底フラスコを使用することからなっていた。また、水/キシレン蒸留物を回収するために、フラスコは、~30mL/分の窒素ヘッドスペース流、ディーン・スタークトラップ、及び冷水凝縮器も備えている。ノルマルのC8及びC10のカルボン酸とポリ-THFと触媒(50%次亜リン酸)との混合物をフラスコに仕込み、撹拌を開始する。窒素流を開始し、反応相及びストリッピング相全体に亘って継続する。反応温度を速やかに145℃に昇温し、次いで、約5℃/10分の速度で最高反応温度260℃まで穏やかに昇温する。
【0037】
水は約125℃で発生し始め、キシレンと共にディーン・スタークトラップで回収され、キシレンは反応物に戻される。
【0038】
反応仕込み及び工程:I相
反応物質を以下の順序で添加する。(1.)EMPOL(登録商標)1008オレイン二酸を286グラム反応フラスコに仕込む。(2.)Invista Terathane(登録商標)250を296グラム反応フラスコに仕込む。(3.)撹拌を開始する。(4.)バブラーを通して窒素流を開始する。(5.)加熱設定点を120℃に調整する。(6.)キシレン100グラムを反応フラスコに仕込む。(7.)50%次亜リン酸3.0グラムを反応フラスコに仕込む。(8.)水/キシレン共沸混合物が約120℃~約125℃で発生し始める。(9.)反応器の設定点を15分間毎に10℃ずつ上昇させる。排水し、共沸混合物の底層で発生した水の合計量を15分間~20分間毎に記録する。(10.)加熱設定点の上昇及び除去された水の合計量の記録を、最高温度設定点が260℃に達するまで継続する。温度が260℃に達する前の幾つかの時点で、系におけるキシレンの合計量を把握するために、キシレンの一部をディーン・スタークトラップから除去し、回収し、計量する必要がある。(11.)反応器内の温度が260℃に達したら、2グラム±0.1グラムのサンプルを採取し、添付の酸価試験手順を使用して酸価を滴定する。(12.)材料の酸価が0.50mgKOH/グラム以下に達したら反応を終了する。0.50mgKOH/グラムに達するまで、2時間毎に酸価用のサンプルを反応器から採取する。全ての結果を工程表に記録する。(13.)酸価が0.5mgKOH/グラムに達したら、反応器を170℃に冷却し、反応のII相に進む。
【0039】
反応仕込み及び工程:II相
反応物質を以下の順序で添加する。1. n-C8-C10酸を混合したEMERY(登録商標)658を129グラム仕込む。(2.)添加後数分間以内に水が発生し始めるはずである。(3.)反応器の設定点を15分間毎に10℃ずつ上昇させる。排水し、共沸混合物の底層で発生した水の合計量を15分間~20分間毎に記録する。(4.)加熱設定点の上昇及び除去された水の合計量の記録を、最高温度設定点が260℃に達するまで継続する。温度が260℃に達する前の幾つかの時点で、系におけるキシレンの合計量を把握するために、キシレンの一部をディーン・スタークトラップから除去し、回収し、計量する必要がある。(5.)反応器内の温度が260℃に達したら、2グラム±0.1グラムのサンプルを採取し、酸価を滴定する。(6.)材料の酸価が1.0mgKOH/グラム以下に達したら反応を終了する。1.0mgKOH/グラムに達するまで、2時間毎に酸価用のサンプルを反応器から採取する。(7.)酸価が1.0mgKOH/グラムに達したら、反応器を170℃に冷却し、反応のIII相に進む。
【0040】
反応仕込み及び工程:III相
反応物質を以下の順序で添加する。(1.)反応容器を90℃に冷却する。(2.)炭酸カリウム1.0グラムを水2.0グラムに混合し、溶解するまで撹拌する。(3.)窒素流を反応器から除去する。(4.)炭酸カリウム/水溶液を反応器に添加する。90℃で1時間加熱を維持する。(5.)反応器をゆっくり真空にして、エステルから溶存二酸化炭素ガスを除去する。発泡が静まったら、真空を完全真空にする。(6.)15分間あたり10℃で150℃まで昇温し、30分間保持して、エステルから水及びキシレンを完全に除去する。(7.)真空を破り、Celatom(登録商標)FW-14を~1.0グラム使用して、予めコーティングされたフィルタで熱時濾過、即ち、100℃で濾過する。(8.)エステルを容器に入れる。(9.)生成物の最終酸価を測定する。それは0.5mgKOH/グラム以下になるはずである。
【0041】
表1は、ノルマル(直鎖)のオクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物を用いて作製される代表的な第1のポリテトラメチレングリコールのジエステル[実施例2]についてのデータ;並びにオレイン酸二量体1モル及びポリテトラメチレングリコール2モルを利用して、オレインダイマー酸(ジカルボン酸)及びノルマル(直鎖)のオクタンカルボン酸とデカンカルボン酸との混合物を用いて作製される代表的な第2のエステル[実施例2](公称平均分子量232ダルトン、200ダルトン~300ダルトンの範囲)についてのデータを提供する。
【0042】
【0043】
図1~3は、2つの流体、即ち、それぞれ実施例1及び実施例2に記載の手順によって作製された第1のジエステル及び第2のエステルの、エントレインメント(entrainment)速度3メートル/秒、様々な荷重及び温度における滑り/転がり比を用いてPCS Mini-Traction Machineで測定されたISO220ギヤ油のトラクション(traction)係数のプロットを示す。ギヤ油は、滑り/転がり比40パーセント、荷重20N、40N、及び68N、60℃、及びエントレインメント速度3メートル/秒以下で測定したとき、0.012μ~0.025μの範囲のトラクション係数を有する。ギヤ油は、荷重20N、40N、及び68N、90℃、及びエントレインメント速度3メートル/秒以下で測定したとき、0.008μ~0.015μの範囲のトラクション係数を有する。ギヤ油は、荷重20N、40N、及び68N、120℃、及びエントレインメント速度3メートル/秒で測定された、0.007μ~0.010μの範囲のトラクション係数を有する。荷重20N、40N、及び68Nは、それぞれ、最大ヘルツ接触応力(maximum Hertzian contact stresses)0.8GPa、1.0GPa、及び1.2GPaに対応する。
【0044】
本開示は、本発明の主旨又は本質的な属性から逸脱することなしに他の特定の形態で具現化され得る。したがって、上記明細書よりもむしろ添付の特許請求の範囲を参照すべきであるが、それは本開示の範囲を示すためである。上記明細書は本開示の好ましい実施形態を示すものであるが、他の変形及び改変が当業者には明らかであり、本開示の主旨又は範囲から逸脱することなしに行い得ることに留意する。