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特許7159286ショートピーニングされたなじみ層を備えるピストンリング、並びにその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ショートピーニングされたなじみ層を備えるピストンリング、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/26 20060101AFI20221017BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
F16J9/26 D
F16J9/26 C
F02F5/00 G
F02F5/00 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020502712
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2018060449
(87)【国際公開番号】W WO2019015818
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】102017116480.4
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501081166
【氏名又は名称】フェデラル-モーグル・フリートベルク・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ブーフマン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス オーミラー
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-515848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/26
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリングであって、
・環状体(2)と、
・溶射によって前記環状体(2)上に適用された耐摩耗層(6)と、
・溶射によって前記耐摩耗層(6)上に適用され、かつ、AlCuFe合金より成るなじみ層(8)と、
を備え、
前記なじみ層(8)が、ショットペレットによるインプリントを有すると共に、該インプリントにて歪み硬化に基づくより大きな硬度を有し、
前記なじみ層(8)が、150~250の硬度HVを有し、
ショットピーニングにおいて、50~100%のカバレージが実現され、
前記なじみ層(8)が、60~95 μmの粗さRzを有するピストンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンリングであって、前記なじみ層(8)が、アーク溶射によって前記耐摩耗層(6)上に適用されているピストンリング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のピストンリングであって、前記環状体(2)の摺動面上に溶射によって適用された接着促進層(4)を更に備え、前記耐摩耗層(6)が、前記接着促進層(4)上に適用されているピストンリング。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のピストンリングであって、前記耐摩耗層(6)及び前記なじみ層(8)が、重ね塗り形態で適用されているピストンリング。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のピストンリングであって、前記環状体の側面のエッジが30°~70°の角度及び/又は0.5~2.0 mmの幅を有する面取り部を有するピストンリング。
【請求項6】
ピストンリングの製造方法であって、
・環状体(2)を提供するステップと、
・前記環状体(2)上に耐摩耗層(6)を溶射するステップと、
・前記耐摩耗層(6)上に、AlCuFe合金より成るなじみ層(8)を溶射するステップと、・前記なじみ層を、50~100%のカバレージが実現されるショットピーニングによって歪み硬化するステップと、
を含み、
前記なじみ層(8)が、150~250の硬度HVを有し、
前記なじみ層(8)が、60~95 μmの粗さRzを有する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記なじみ層を、アーク溶射によって前記耐摩耗層(6)上に適用する方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法であって、前記耐摩耗層の溶射が、
・アーク溶射コーティングと、
・ワイヤーフレームコーティングと、
・大気プラズマ溶射(APS)と、
・高速フレーム溶射(HVOF)と、
の何れか1つを含む方法。
【請求項9】
請求項7又は8の何れか一項に記載の方法であって、
30°~70°の角度及び/又は0.5~2.0 mmの幅を有する面取り部を、前記環状体の側面のエッジに設けるステップ更に含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリン及びその製造方法、特に、内燃機関用の多層コーティングを備える大口径ピストンリング、又は2ストローク用のピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
往復ピストン内燃機関などにおけるピストンリングにおいては、2つの相反する要件を満たさなければならない。一方では、ピストンリングの薄肉化に伴い、ガス漏れ及びオイル消費が増加してエンジン性能が損なわれる可能性があるため、高い耐摩耗性が付与される必要がある。ピストンリングの摩耗に伴い、シリンダ壁とピストンリングとの間のギャップがますます大きくなるため、燃焼ガスがより容易にリングを越えて漏れ易くなり(いわゆるブローバイ)、エンジン効率が低下する。更に、ギャップが拡大することにより、掻き落とされずに燃焼室内に残留する油膜が厚くなるため、単位時間当たりのオイルロスがより多くなる可能性がある(即ち、オイル消費量が増加する)。
【0003】
従って、エンジン特性を最適化するため、即ち最大のシール作用と低い摩擦損失との間で最適なバランスを実現するために、ピストンリングとシリンダ壁との間のギャップ寸法は可能な限り正確に維持されなければならない。しかしながら、このことは、エンジンの製造及び組み立て時に複雑でコストのかかる工程ステップを必要とする。なぜなら、そのような工程ステップがなければ、ある程度の公差が確実に生じるからである。従って、僅かに小さ過ぎるギャップ寸法が通常は許容され、この場合にピストンリングは、作動時の摩耗によって最適な厚さを得ることができるよう構成される。理想的には、ピストンリングの摺動面は、最適なギャップ直径が得られるまで摩耗する。この工程は、なじみ工程とも称される。
【0004】
このように、ピストンリングは、一方では、通常作動時に可能な限り摩耗を被らないようにするために耐摩耗性材料で構成されるのが望ましく、ギャップがほぼ拡大しないのが好適である。他方では、良好ななじみ特性を得るために、摺動面の少なくとも一部に関してはより容易に摩耗を被らなければならず、これにより(例えば、構成要素における不可避的な公差による)ピストンリングとシリンダ壁との間における過度に小さなギャップが、なじみ動作時に可能な限り迅速に正確な寸法に拡大可能である。
【0005】
従って、原則的に、ピストンリングには、所望の特性をもたらすコーティングが設けられる。このことは当然、所望の特性を有する高価な材料を使用してピストンリング全体を製造する場合に比べて処理が容易であるだけでなく安価である。そのようなコーティングには、更なる要件が存在する。コーティングは、必要な特性を付与することに加えて、ピストンリングから剥離しないよう、即ちコーティング下にある材料との良好な接着性を有するよう構成しなければならない。コーティングが複数の異なる層で構成される場合は、層間における良好な凝集性も必要である。このことが保証されていなければ、層にクラックの形成又は層の剥離の危険性があり、エンジンにとって有害であり得る。
【0006】
ピストンリングの摺動面上のコーティングは、シリンダ壁に接触する表面領域で耐摩耗性を有する必要がある。また、なじみ段階において、これらコーティングの固有の摩耗性は、対向面に対して十分に適合可能であるのが好適である。更に、これら層は、高い耐破壊性を有すると共に、長時間使用後においても疲労挙動をほぼ又は全く示さないのが好適である。
【0007】
耐摩耗層は、例えば、硬質クロムで構成される。特許文献1(独国特許出願公開第19931829号明細書)には、ピストンリング用の電着硬質クロム層が記載されている。耐摩耗層用の他の材料としては、酸化アルミニウムセラミックを含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のCKS(登録商標))、又はマイクロダイヤモンドを含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のGDC(登録商標))がある。
【0008】
CKS(登録商標)耐摩耗層に適用されるなじみ層は、例えば、モリブデンをベースとし、ワイヤーフレーム溶射によって耐摩耗層に適用される。この場合、耐摩耗層は、ブラスト処理によって予め活性化される。
【0009】
更に、AlCuFe合金で構成されるなじみ層は、溶射によってCKS(登録商標)耐摩耗層に適用することができる。ただしこの場合、CKS(登録商標)耐摩耗層には、電着中間層を先に適用する必要がある。
【0010】
上述した技術にもかかわらず、クロム系の耐摩耗層を備える既知のピストンリング及びそのピストンリングに適用されるなじみ層のなじみ特性及び耐摩耗特性は、更なる改善を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許出願公開第19931829号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、なじみ挙動及び摩耗挙動が改善されたピストンリング、並びにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1実施形態によれば、環状体と、溶射によって環状体上に適用された耐摩耗層と、溶射によって耐摩耗層上に適用され、かつ、AlCuFe合金より成る歪み硬化されたなじみ層とを備えるピストンリングが提供される。
【0014】
本発明に係るピストンリングは、2つの異なる機能層の使用により、(耐摩耗層による)耐摩耗性及び(なじみ層による)好ましいなじみ特性に基づく新規で有利な組み合わせを提供するものである。なじみ層は、例えば、ショットピーニングによって適切に後加工され、その際に歪み硬化及び圧縮される。耐摩耗層は、エンジンの過酷な作動条件下における過度の摩耗を回避する。
【0015】
代案として、ピストンリングは、環状体と、溶射によって環状体上に適用された耐摩耗層と、溶射によって耐摩耗層上に適用され、AlCuFe合金より成り、かつ、粗さRzが<100 μm、好適には60~95 μm、特に好適には70~95 μmのなじみ層とを備えることによって特徴付けられる。
【0016】
更なる代案として、ピストンリングは、環状体と、溶射によって環状体上に適用された耐摩耗層と、溶射によって耐摩耗層上に適用され、AlCuFe合金より成り、かつ、硬度HVが150~250、好適には170~210、特に好適には180~200のなじみ層とを備えることによって特徴付けられる。
【0017】
ピストンリングの一実施形態において、なじみ層は、アーク溶射によって耐摩耗層に適用される。アーク溶射は、ベース表面にコーティングを施すための簡単で費用体効果の高い方法である。この方法は、特に、なじみ層に使用可能な比較的柔らかいコーティングを製造するのに特に適している。アーク溶射は、AlCuFeより成る耐摩耗層を容易に製造するのに使用することもできる。
【0018】
ピストリングの他の実施形態において、AlCuFeなじみ層は、ショットピーニング、圧延、又はハンマリングによって歪み硬化される。歪み硬化によって層に圧縮応力が導入されるため、なじみ層が硬化する。なじみ層は、なじみ段階時に除去されるよう機能するものであるため、従来においては後加工されてこなかった。一見すれば、短い作動期間内でほぼ完全に除去される層に注意を払う必要はないと思われ、従って従来においては更なる機械加工ステップが行われてこなかった。歪み硬化を行うことにより、なじみ層はより安定するが故により長期間に亘って持続し、従ってレシプロエンジンのなじみ工程を延長することができる。また、なじみ期間を所望の値に適合するために、異なる材料を使用するか又はなじみ層の厚さを変更するのが一般的である。本発明においては、歪み硬化によってなじみ層の安定性を増加させ、これにより同じ材料消費でなじみ期間が延長するか、又は同じなじみ期間で材料厚さが低下する。なじみ層の厚さは僅かであり、歪み硬化により、実質的にはなじみ層の厚さ全体に亘って硬化をもたらすことができる。
【0019】
ピストンリングの他の実施形態において、ショットピーニング後のなじみ層表面は、50~100%、好適には70~100%、更に好適には90~100%のカバレージを有する。この場合、なじみ層表面の少なくとも50%は、ショットピーニング工程におけるショットペレットによる窪みを有する。なじみ層表面におけるショットペレットによる窪みは、なじみ層表面の少なくとも50%、好適には少なくとも70%、更に好適には90%を覆う。顕微鏡下において、なじみ層の表面構造は、ショットピーニングで生じるショットペレットによるインプリントを示す。ショットペレットによるインプリントを有する表面構造により、なじみ層が歪み硬化された否かを容易に判定することができる。
【0020】
環状体と耐摩耗層との間には、接着促進層が設けられるのが好適である。接着促進層により、環状体における各層の最適な接着が保証される。
【0021】
耐摩耗層、なじみ層、並びに任意的な接着促進層は、好適には、重ね塗りの形態で設けられる。
【0022】
環状体は、好適には、ガス放出スロットを備え、そのガス放出スロットは、エッジに面取り部を有する。
【0023】
面取り部は、好適には、30°~70°の角度を有する。面取り部は更に、好適には、0.5~2.0 mmの幅を有する。
【0024】
本発明の他の態様によれば、本発明の第1実施形態に係るピストンリングの製造方法が提供される。この方法は、環状体を提供するステップと、環状体上に耐摩耗層を溶射するステップと、耐摩耗層上に、AlCuFe合金より成るなじみ層を溶射するステップとを含む。なじみ層は、ショットピーニングによって歪み硬化する。
【0025】
耐摩耗層、なじみ層、並びに任意的な接着促進層は、好適には、重ね塗りの形態で設けられる。
【0026】
溶射は、好適には、以下のコーティングプロセス、即ち、アーク溶射コーティングと、ワイヤーフレームコーティングと、大気プラズマ溶射(APS)と、高速フレーム溶射(HVOF)とを含む。
【0027】
本発明の方法において、なじみ層は、アーク溶射によって耐摩耗層に適用される。
【0028】
なじみ層は、ショットピーニング、圧延、及び/又は、ハンマリングによって歪み硬化することができる。
【0029】
ショットピーニングは、50~100%、好適には70~100%、更に好適には90~100%のカバレージが実現されるよう行うのが好適である。
【0030】
本発明の方法は、好適には、接着促進層上に溶射する前に、面取り部を環状体の側面のエッジに設けるステップを更に含む。
【0031】
環状体がガス放出スロットを備える場合、本発明の方法は、好適には、接着促進層上に溶射する前に、面取り部をガス放出スロットのエッジに設けるステップを更に含む。
【0032】
面取り部は、好適には、30°~70°の角度を有する。面取り部は更に、好適には、0.5~2.0 mmの幅を有する。
【0033】
以下、本発明を例示的な実施形態を示す概略図を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1A図1Fは、様々な機械加工ステップ中のピストンリングの断面図に基づいて、本発明に係る方法の一実施形態を示す説明図である。
図2】本発明に係るピストンリングの一実施形態の摺動面における歪み硬化されたなじみ層の上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
説明及び図面において、同一又は類似の要素又は構成要素は、同一又は類似の参照符号で表すものとする。
【0036】
ピストンリングの摺動面上のコーティングは、基板に対して良好な耐熱接着性及び層内における良好な結合性(凝集性)に加えて、シリンダ壁と接触する表面領域においても耐摩耗性を有する必要がある。また、なじみ段階において、これらコーティングの固有の摩耗性は、対向面に対して十分に適合可能であるのが好適である。更に、これら層は、高い耐破壊性を有すると共に、長時間使用後においても疲労挙動をほぼ又は全く示さないのが好適である。
【0037】
本発明においては、AlCuFe合金で構成された歪み硬化なじみ層が使用され、そのなじみ層は、アーク溶射によってピストンリング上に生成される。この場合に歪み硬化は、ショットピーニングによって実現され、これによりなじみ層の平滑化及び硬化が生じる。ショットピーニング、即ち歪み硬化により、溶射されたなじみ層が圧縮される。歪み硬化により、なじみ層に圧縮応力が生じるため、なじみ層が改善されると共に強化される。歪み硬化は、実質的になじみ層の厚さ全体に影響を及ぼし得る。ショットピーニングは、0.5~1 mmの直径を有する鋼製ショット(ブラストペレット)を使用して行い、これによりなじみ層において十分に平滑で硬化した表面を得るのが好適である。噴射圧力は、2.5バール~6の間、好適には3バール~5.5バール、更に好適には4バール~5バールの間とする。この場合にショットピーニングは、なじみ層表面から50~200 mmの距離で行うことができる。ショットピーニングにおいては、1分間当たり1~3 kgのブラストペレットの量的スループットを使用することができる。歪み硬化処理においては、ショットピーニングの代わりに、圧延、ローレット加工、又はハンマリングを施してもよい。
【0038】
このように、本発明の課題は、極端な応力に耐えることができるが、良好ななじみ挙動を有し、フレーム溶射法によって適用される耐摩耗層をピストンリングの摺動面に設けることである。本発明に係る層の製造方法は、好適には、実施が容易で安価であり、特に、特定の用途に合わせた特性を有する耐摩耗コーティング及びなじみ層を製造可能とする。
【0039】
本発明によれば、この課題は、第1実施形態において、互いに上下に重なるよう配置された少なくとも2種の異なる溶射層、即ち耐摩耗層、任意的な接着促進層、並びに外側のなじみ層で構成されたコーティングによって解決される。層の接着性及び凝集性は、リング側面におけるエッジを適切に面取りすると共に、コーティングに先立ってガス放出スロットを使用することによって更に改善することができる。
【0040】
図1A及び図1Bは、ピストンリング又は環状体2が如何にして面取りされるかの断面図を示す。本発明によれば、ピストンリング2の摺動面側(図の左側)のエッジには、コーティング前に面取り部10を設けることができる。本発明によれば、面取り部10の角度は、30°~70°とすることが可能であり、図2においては45°の角度が例示されている。本発明の様々な実施形態によれば、面取り部10は更に、0.5~2 mmの幅dを有することができる。エッジの面取りは、ピストンリングの製造における任意的なステップであり、これは換言すれば、面取り部は、本発明に係る完成したピストンリングにおける任意的な特徴であることを意味する。面取りは、任意の適切な既知の方法を使用して行うことができる。また、ピストンリングの摺動面を丸くしてバレル状にすることも可能である。摺動面の面取り又は成形は、任意の適切な既知の方法を使用して行うことができる。
【0041】
図1Cは、コーティングにおける第1層を適用するステップの断面図を示す。この場合、接着促進層4が環状体2に適用されている。本発明によれば、この適用は、高速フレーム溶射(HVOF)、大気プラズマ溶射(APS)、アーク溶射コーティング、又はワイヤーフレームコーティングなどの溶射法で行われる。この適用は、HVOF装置12によって例示されている。図示の接着促進層4は、ニッケル合金として構成されている。
【0042】
図1Dに示すように、その後に耐摩耗層6が接着促進層4上に適用される。この適用は、接着促進層の適用と同様、上述した溶射法の何れかを使用して行うことが可能であり、また異なる層には異なる溶射法を使用することも可能である。図示の例における適用は、やはりHVOF装置14を使用して実現される。層構成はFF、即ち重ね塗りされるよう設けられる。
【0043】
本発明の第1実施形態によれば、耐摩耗層は、炭化クロムCrC又は炭化タングステンWC又は炭化モリブデンMoCを含むモリブデン合金とすることができる。
【0044】
図1Eに示すように、なじみ層8が耐摩耗層6上に適用される。この適用は、アーク溶射装置16を使用するアーク溶射によって行われる。この場合も、層構成はFF、即ち重ね塗りされるよう設けられる。なじみ層は、アルミニウム-銅-鉄(AlCuFe合金)を含む。また、ピストンリングは、2ストローク内燃機関用の大口径ピストンリングであるのが好適である。
【0045】
図1Fに示すように、最後に適用されたなじみ層は、その表面又は摺動面がショットピーニングによって後加工される。なじみ層は、摺動面において歪み硬化されるため、エンジンのなじみ段階が延長されるか、又はより薄いなじみ層が使用されることによって摩耗が低減される。歪み硬化においては、ショットピーニング装置26が使用される。
【0046】
図1Fは、本発明の第1実施形態に係る完成したピストンリングの断面図を示す。この場合にピストンリングは、環状体2と、接着促進層4と、耐摩耗層6と、なじみ層8とを備える。
【0047】
本発明の第2実施形態によれば、ピストンリングは、環状体と、環状体の摺動面に適用された耐摩耗層と、歪み硬化され、かつ、耐摩耗層に適用されたAlCuFe合金より成るなじみ層とを備える。AlCuFe合金は、これら成分及び不可避的不純物で構成されていてもよく、又は少量の炭素などの更なる合金元素及び固体潤滑剤を含んでいてもよい。
【0048】
図2は、本発明に係るピストンリングの摺動面の拡大詳細図を示す。この場合に表面には、ショットブラストペレット42による摺動面又はなじみ層8上のインプリント42が表されている。図示のインプリント42は、大きなカバレージを示しており、従ってなじみ層8の表面全体が歪み硬化されている。
【0049】
本発明に係るピストンリングは、2つの異なる機能層の使用により、(耐摩耗層による)耐摩耗性及び(AlCuFeなじみ層による)好ましいなじみ特性に基づく新規で有利な組み合わせを提供するものである。なじみ層8は、溶射後に歪み硬化され、なじみ段階で生じる摩耗によって除去される。耐摩耗層6は、エンジンの過酷な作動条件下における過度の摩耗を回避する。
【0050】
耐摩耗層6は、好適には、硬質クロム、酸化アルミニウムセラミックを含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のCKS(登録商標))、又はマイクロダイヤモンドを含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のGDC(登録商標))を含む。同様に、耐摩耗層6には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層が設けられてもよく又はそのような層を含んでもよい。
【0051】
なじみ層8は、好適には、20~400 μmの層厚を有する。
【0052】
耐摩耗層の適用は、好適には、溶射法を使用して行われる。溶射法としては、大気プラズマ溶射(APS、例えばMKP)、又は高速フレーム溶射(HVOF、例えばフェデラルモーグル社のMKJet(登録商標))が好適である。耐摩耗層は、好適には、硬質クロム、酸化アルミニウムセラミックを含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のCKS(登録商標))、又はマイクロダイヤモンド或いはダイヤモンドライクカーボン(DLC)層を含有するクロム(例えば、フェデラルモーグル社のGDC(登録商標))を含む。
【0053】
耐摩耗層は、好適には、ブラスト処理によって活性化されるか、又は熱的に活性化される。
【0054】
なじみ層8の適用は、熱コーティングによって行われる。熱コーティングは、アーク溶射であるのが好適である。
【0055】
なじみ層8は、好適には、20~400 μmの層厚を有する。
【符号の説明】
【0056】
2 ピストンリング/環状体
4 接着促進層
6 耐摩耗層
8 なじみ層
10 面取り部
12 接着促進層用のフレーム溶射装置
14 耐摩耗層用のフレーム溶射装置
16 アーク溶射装置
20 ワイヤ電極
22 アーク
24 ガス流
26 ショットピーニング装置
30 ショットペレット供給部
32 ガス/空気流
34 鋼製ブラストショット
42 ブラストペレットによるインプリント
α 面取り部の角度
d 面取り部の幅
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2