(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221017BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20221017BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20221017BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20221017BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20221017BHJP
C21C 1/04 20060101ALI20221017BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20221017BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/16
C21D8/12 A
C21C7/10 A
C21C1/02 101
C21C1/04
C21C5/28 Z
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2020526230
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 CN2018095237
(87)【国際公開番号】W WO2019105041
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】201711241774.3
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、フォン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、シュエジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ボ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、バオジュン
(72)【発明者】
【氏名】ゾン、ジェンユ
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイ
(72)【発明者】
【氏名】スン、イエジョン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-002954(JP,A)
【文献】特開平09-067654(JP,A)
【文献】特開平09-067656(JP,A)
【文献】特表2015-515539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
C21C 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、質量%にて、C:0~0.005%、Si:2.1~3.2%、Mn:0.2~1.0%、P:0~0.2%、Al:0.2~1.6%、N:0~0.005%、Ti:0~0.005%、Cu:0~0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ下記の要件:
(MnSを形成するSの含有量+Cu
xSを形成するSの含有量)/鋼中のSの含有量≦0.2 式(1)
を満たす、磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板であって、
0.2~0.5μmのサイズ範囲内で形成されるMnS数が5.0×10
8個/mm
3以下であり、且つ0.2~1.0μmのサイズ範囲内で形成されるMnS数が下記の式:
(0.5~1.0μm)のMnS数/(0.2~0.5μm)のMnS数≦0.2 式(2)
を満たし、および
前記無方向性電磁鋼板の鉄損P
15/50が2.4W/kg以下である、無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
1)溶銑予備処理により、高炉溶銑の脱硫、脱マンガン及びスラグ除去を行う工程;
2)鋼スクラップを配合し、転炉精錬を行う工程;
3)以下の操作を含むRH真空循環脱ガス精錬を行う工程;
a)溶鋼の炭素含有量を0.005%以下に低下させる脱炭素化、
b)脱酸素・合金化処理、
c)溶鋼中の各元素化学成分が、質量%で、C:0~0.005%、Si:2.1~3.2%、Mn:0.2~1.0%、P:0~0.2%、Al:0.2~1.6%、N:0~0.005%、Ti:0~0.005%、Cu:0~0.2%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるようにする、溶鋼の化学成分の最適化、
d)脱ガス・精錬;
4)鋳造によりビレットを形成し、鋳片の表面温度が1100℃から700℃までに低下する降温過程における冷却速度を2.5~25℃/minとなるように制御する、ビレット鋳造工程;
5)熱間圧延工程;
6)酸洗工程;
7)冷間圧延工程;
8)焼鈍工程;および
9)コーティング工程;
を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
工程4)の鋳造過程において、鋳片の表面温度が1100℃から700℃までに低下する降温過程における冷却速度を2.5~20℃/minとなるように制御することを特徴とする請求項2に記載の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
工程5)の熱間圧延において、巻取り温度が700℃以上であることを特徴とする請求項
2に記載の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板に関し、特に磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザー市場の高効率・省エネルギー・環境にやさしいニーズの高まりに伴い、これらの電気製品の高効率、省エネルギー、環境にやさしい切実な要望を満たすために、モーター、コンプレッサー、EI鉄心原料を作製するための無配向ケイ素鋼板が、価格競争優位性を保証する前提で、優れた電磁気特性を有し、すなわちいわゆる低鉄損や高磁束密度が要求される。
【0003】
従来、低鉄損、高磁束密度を得るために、化学成分の設計を最適化し、鋼中に特殊な有益な合金元素を添加して、熱間圧延鋼板の焼準処理、および連続焼鈍温度を高める加工方式が採用されている。これらの要因はいずれも鋼中の微細析出物による材料電磁気特性への大きな影響を考慮していない。例えば、鋼中に含有量の高いSiやAlを添加することで、材料の電気抵抗率を高め、材料の鉄損を低減させることができる。例えば、日本特許JP2015515539Aでは、Si含有量が2.5~4.0%、Al含有量が0.5~1.5%に達し、このように、SiやAl含有量が増加するにつれて、材料の鉄損が急速に低下すると共に、材料の磁束密度も急激に低下し、また冷間圧延時の破断部の発生などの異常も生じやすくなる。
【0004】
冷間圧延性を改善するために、中国特許CN104399749Aには、Si含有量が3.5%以上の鋼の耳割れ防止および脆化破壊防止の処理方法が開示されているが、このようにしても、まだ脆性破面率が0.15%を有し、且つ設備の機能精度への要求が高いのである。また、良好な材料の磁束密度を得るために、中国特許CN103014503Aでは、鋼中に0.20~0.45%(Sn+Cu)を添加し、結晶粒界の偏析を利用して材料の集合組織形態を改善することで、良好な材料磁気特性を取得していたが、SnやCuは高価な金属であるため、製造コストが大幅に増加し、またCuが鋼帯表面に品質欠陥を発生させやすくなる。
【0005】
日本特開平10-25554は、SiやAlの合計量が変わらない前提で、Al/(Si+Al)比率を増加させることで材料の磁束密度を改善しようとするが、Al含有量が高くなるにつれてSi含有量が低下し、材料の鉄損が劣化し始め、それに伴って材料の機械的特性も低下した。
【0006】
現段階では、焼準処理又はベル式炉での中間焼鈍を採用することは、材料の鉄損や磁束密度を改善するための効果的な方法であり、高効率、高規格の無方向珪素鋼板の製造に広く採用され、材料の鉄損を効果的に低減し、材料の磁束密度を大幅に向上させることができ、その欠点は新たな生産設備を導入し、製造コストを大幅に増加させ、材料の製造や納品サイクルが延長され、生産現場技術や品質管理などに新たな煩わしさをもたらす。
【0007】
この影響を受けて、化学成分が相対的に一定である場合には、当業者が以下の検討を開始した。鋼中に希土類、カルシウム合金などの強脱酸素や脱硫元素を加えることで、非金属介在物を効果的に除去または低減させることができ、鋼質の清浄度を改善することにより、材料の電磁気特性を向上させることができ、または、粗圧延パスを採用して大圧下で、粗ロール圧延と高温巻取りを利用して、高磁束密度を有する高規格の無方向電磁鋼を得ることもでき、また熱間圧延平坦化機能を有するものであれば、通常の焼鈍処理を合わせて、同様に高磁束密度の無方向性珪素鋼を得ることができる。
【0008】
また、鋼中の微細析出物が連続焼鈍時に、完成品である鋼帯の結晶粒成長に影響を与え、特に微細な硫化物の結晶粒サイズへの影響により、完成品である鋼帯の鉄損が大幅に増加してしまう。無害化の観点から言えば、鋼中の硫化物の数をできるだけ低減し、且つその粗大化の保持を確保する必要がある。硫化物の数を減らすことは、硫黄含有量の低減に密接に関係しているので、RH精錬でさらに脱硫を行い、RH脱ガス精錬の時間を長くすることで脱硫効率を高める必要があるが、これで鋼の製造コストを増加させるとなった。
【0009】
さらに、熱間圧延加熱温度を低下させる手段、例えば、熱間圧延中、粗圧延パスの温度を950~1150℃に制限して、微細なMnSの析出を防止することが提案されている。しかし、このような単純な熱間圧延加熱温度を低下させる手段では、鋼中硫化物の種類や状態を特定の範囲内に制限することは非常に困難である。また、熱間圧延加熱温度の低下は、熱間圧延負荷が大きくなってしまい、熱間圧延後の再結晶や結晶粒サイズの成長に大きく不利となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無方向性電磁鋼板の磁気特性に優れ、鉄損P15/50が2.4W/kg以下である磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。また、その製造過程が簡便であり、鋼の化学成分が制御しやすく、製造過程が安定し、技術的要件が容易に実現される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の技術的手段は以下のとおりである。
化学成分として、質量%にて、C:0~0.005%、Si:2.1~3.2%、Mn:0.2~1.0%、P:0~0.2%、Al:0.2~1.6%、N:0~0.005%、Ti:0~0.005%、Cu:0~0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ下記の技術的要件を満たす磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板。
(MnSを形成するSの含有量+CuxSを形成するSの含有量)/鋼中のSの含有量≦0.2 式(1)
【0012】
さらに、0.2~0.5μmのサイズ範囲内で、形成されるMnS数の要件が5.0×108個/mm3以下であり、また、0.2~1.0μmのサイズ範囲内で、形成されるMnS数のうち、下記式を満たす。
(0.5~1.0μm)のMnS数/(0.2~0.5μm)のMnS数≦0.2……式(2)
【0013】
本発明は、前記無方向性電磁鋼板の鉄損P15/50が2.4W/kg以下である。
【0014】
本発明の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板の成分設計において、
炭素(C):完成品の鋼の結晶粒成長を強く抑制し、Nb、V、Ti等の元素と結合して微細析出物を形成しやすく、損失増加を引き起こし磁気時効が生じる。したがって、C含有量を0~0.005%に制限する必要がある。
【0015】
硅素(Si):完成品の鋼の電気抵抗率を著しく高めることができ、完成品の鋼の損耗を効果的に低減することができる。Si含有量が3.2%を超えると、完成品の鋼の磁束密度が著しく低下する;一方、2.1%未満であると、損耗を大幅に低減する効果が得られない。したがって、本発明は、Si含有量を2.1~3.2%に制限する。
【0016】
マンガン(Mn):Sと結合してMnSを生成することにより、完成品の鋼の磁気特性への障害を低減しつつ、完成品の鋼の表面品質を改善することができる。そのため、Mn含有量を0.2%以上添加する必要があり、Mn含有量が1.0%を超えると、連続鋳造が困難となり、完成品の鋼の再結晶集合組織を破壊しやすくなる。したがって、本発明は、Mn含有量を0.2~1.0%に制限する。
【0017】
リン(P):0.2%を超えると、低温脆化現象が発生しやすくなり、冷間圧延ラインの製造可能性を低下させる。したがって、本発明は、P含有量を0.2%以下に制限する。
【0018】
アルミニウム(Al):完成品の鋼の電気抵抗率を著しく高めつつ、溶鋼のさらなる脱酸素を行うことができる。このため、0.2%以上のAl含有量を添加する必要があり、Al含有量が1.6%を超えると、完成品の鋼の磁束密度が著しく低下しつつ、製鋼コストを大幅に増加させる。したがって、本発明は、Al含有量を0.2~1.6%に制限する。
【0019】
窒素(N):0.005%を超えると、NのNb、V、Ti、Al等の析出物を大きく増加させ、完成品の鋼の結晶粒成長を強く抑制し、完成品の鋼の磁気特性を劣化させる。したがって、本発明は、N含有量を0.005%以下に制限する。
【0020】
チタン(Ti):0.005%を超えると、TiのCやN化物の介在物を大きく増加させ、完成品の鋼の結晶粒成長を強く抑制し、完成品の鋼の磁気特性を劣化させる。したがって、本発明は、Ti含有量を0~0.005%に制限する。
【0021】
銅(Cu):Sと結合してCuxSを生成し、完成品の鋼の磁気特性を劣化させる。0.2%を超えると、熱間圧延鋼板の表面に品質欠陥が生じやすくなる。したがって、本発明は、Cu含有量を0~0.2%に制限する。
【0022】
本発明は、前記磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法であって、
1)溶銑予備処理により、高炉溶銑の脱硫、脱マンガン及びスラグ除去を行う工程;
2)鋼スクラップを配合し、転炉精錬を行う工程;
3)以下の操作を含むRH真空循環脱ガス精錬を行う工程;
a)溶鋼の炭素含有量を0.005%以下に低下させる脱炭素化、
b)脱酸素・合金化処理、
c)溶鋼中の各元素化学成分が、質量%で、C:0~0.005%、Si:2.1~3.2%、Mn:0.2~1.0%、P:0~0.2%、Al:0.2~1.6%、N:0~0.005%、Ti:0~0.005%、Cu:0~0.2%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるようにする、溶鋼の化学成分の最適化、
d)脱ガス・精錬;
4)鋳造によりビレットを形成し、鋳片の表面温度が1100℃から700℃までに低下する降温過程における冷却速度を2.5~25℃/minとなるように制御する、ビレット鋳造工程;
5)熱間圧延工程;
6)酸洗工程;
7)冷間圧延工程;
8)焼鈍工程;および
9)コーティング工程。
を含む製造方法。
【0023】
好ましくは、工程4)の鋳造過程において、鋳片の表面温度が1100℃から700℃までに低下する降温過程における冷却速度を2.5~20℃/minとなるように制御する。
【0024】
好ましくは、工程5)の熱間圧延において、仕上げ圧延過程中の鋼帯の冷却速度が20℃/s以下、仕上げ圧延終了時から水冷開始時までの時間が5s以上、巻取り温度が600℃以上である必要があり、巻取り温度が700℃以上であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る無方向性電磁鋼は、原料として溶銑を予備処理により、脱硫、脱マンガン、スラグ除去の後、鋼スクラップを適宜の割合で配合し転炉精錬を行う。その精錬過程において、スラグの滓化状況が良好にあり、溶鋼脱炭や昇温効果が安定することを確保する。
【0026】
転炉精錬後の溶鋼は、まずRH精錬(真空サイクル脱ガス精錬)過程でさらなる脱炭素を行い、脱炭素終了後、溶鋼の炭素含有量が0.005%以下となるように制御された。そして、溶鋼中に硅素や銅を添加することで溶鋼を脱酸素、合金化する。
【0027】
従来技術と比較して、本発明は、成分設計の観点によれば、SiやAl元素が材料の電気抵抗率を著しく高めることができ、材料を磁化しやすく、無方向性電磁鋼板の磁気特性を改善するのに有効な元素であるため、鋼中に適切なSi元素を添加することで、鋼の磁束密度を高めつつ、鋼の鉄損を低減させた。適量のAl元素は、電気抵抗を増加させるとともに鋼種のさらなる脱酸素の役割も果たしている。
【0028】
本発明において、鋼中の硫化物の形態と数をいかに効果的に制御するかが重要なことであり、これはかかる完成品の鋼帯の電磁気特性に直接に影響しているためである。研究によると、鋼中の介在物、特に微細分散している介在物は、熱間圧延鋼板および完成品鋼板の組織に著しく影響し、微細分散している介在物が結晶粒成長を著しく抑制し、完成品の結晶粒のサイズを最適な結晶粒のサイズに達させず、かかるヒステリシス損が増加する。そのため、鋼中の介在物の数やサイズを効果的に制御する必要がある。一方、経験から、微細分散している介在物の磁気特性への障害程度は、針状>ストランド状、樹枝状>球状であることが示されている。
【0029】
これに基づき、研究の結果、特定の介在物の有害なサイズ条件下で溶鋼の鋳造、凝固の過程で酸化物や窒化物の数が極めて少なく、ほとんどMnSやCuxSなどの硫黄含有介在物であることを見出した。また、鋼中の化学成分制御の違い、連続鋳造冷却規則の設計、および熱間圧延温度制御過程では、MnSやCuxS介在物の析出条件(その形態やサイズなどを含む)が大きく異なるため、磁気特性への影響も大きく異なっている。例えば、磁壁サイズに近い介在物は、サイズが約百ナノメートルであり、鋳片の冷却過程で優先的に形成され、サイズが約0.5~1.0um、形態が楕円または略球形であり、完成品の鋼帯への影響が相対的に小さいのであり、また0.2~0.5um範囲にある介在物、例えばCu2S介在物は、主に熱間圧延の後期で形成される。その数の増加に伴い、完成品の磁気特性が著しく劣化した。
【0030】
また、通常、鋼中のSは、Mn、Cu、Ca、Mg等の元素と結合し、熱間圧延条件によって単一または複合介在物を形成した。ここで、硫化物の分析測定に用いた方法は、非水溶液の電解採取+走査型電子顕微鏡の観察である。この方法では、1000倍で1μm以上のサイズの介在物を観察し、5000倍で0.5~1.0μmサイズの介在物を観察し、10000倍で0.2~0.5μmサイズの介在物を観察した。一定数の視野において、介在物のサイズ、種類、数、分布などを統計することにより、鋼中の介在物の分布規律や存在状態などの情報が得られる。
【0031】
研究により、硫化物は、種類が異なるため、その固溶、析出温度が異なっており、熱間圧延、熱処理過程において、結晶集合組織の発達と結晶粒サイズの成長に影響するのは、主にMnSやCuxSであり、鋼中でのサイズや比率が異なり、直接に再結晶効果と密接に関連する。好ましい制御効果と技術的要件は以下のとおりである。
(MnSを形成するSの含有量+CuxSを形成するSの含有量)/鋼中のSの含有量≦0.2 式(1)
【0032】
さらに、0.2~0.5μmのサイズ範囲内で、形成されるMnS数の要件が5.0×108個/mm3以下であり、且つ0.2~1.0μmのサイズ範囲内で、形成されるMnS数のうち、下記の式を満たす。
(0.5~1.0μm)のMnS数/(0.2~0.5μm)のMnS数≦0.2……式(2)
【0033】
中でも、熱間圧延プロセスは、硫化物の析出制御に重要である。特に、熱間圧延前の鋳片は、900~1100℃で加熱し、30min以上均熱することで効果がより顕著となる。これは、主に高温段階の温度が高いほど、時間が長くなるほど硫化物の固溶量が多くなり、冷却段階では析出した介在物が少なくなり、数が多くなることが主に考えられる。一方、鋳片の加熱温度が低いと、かかる仕上げ圧延や巻取り温度が低くなり、硫化物の形成には一定の抑制作用があるが、同時に熱間圧延再結晶組織の成長にも影響する。
【0034】
比較に好適な熱間圧延方法は、熱間圧延中の温度、時間、履歴および冷却速度を制御することである。0.2%Cu以下の成分系では、鋳片を予め900~1100℃で加熱し、30min以上均熱することで温度の均一性を確保した後、1150℃以上に昇温して短時間に高温で加熱し、鋳片が圧延過程において、表面温度の低下により熱間圧延再結晶組織の成長に影響することが確保する。このように熱間圧延過程における仕上げ圧延温度と鋼帯の冷却速度を制御することにより硫化物の析出種類、数およびサイズを制御することができる。
【0035】
また、Cu含有硫化物の生成に必要な温度はより低いため、仕上げ圧延過程中の鋼帯の冷却速度は20℃/s以下とすることが好ましく、仕上げ圧延終了時から水冷開始時までの時間が5s以上、また、巻取り温度が600℃以上とし、700℃以上とすることが好ましく、これはCu含有硫化物の形態および個数を制御するためである。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、焼準処理またはベル式炉での中間焼鈍を経ることなく、製造コストが比較的安価な高磁束密度、低鉄損の無方向性電磁鋼板の製造およびその製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0038】
表1は本発明の実施例における電磁鋼板と比較例の電磁鋼板の化学成分を示し、表2は本発明の実施例、比較例のプロセス設計および電磁気特性を示す。
【0039】
実施例の溶銑、鋼スクラップは、表1中の化学成分割合で装入し、300トンの転炉精錬後、RH精錬にて脱炭素、脱酸素、合金化を行った。鋼中のSの含有量に応じてMn、Cuの含有量を動的に調整し、C、N、Ti、Alの含有量が設計要件を満たすように制御する。溶鋼が連続鋳造により、170mm~250mm厚、800mm~1400mm幅の鋳片が得られ、その後、鋳片に熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、コーティングを順次行った後、最終製品が得られ、そのプロセスパラメータおよび電磁気特性を表2に示す。なかでも、熱間圧延による圧延の際、鋳片は、1100℃で十分に均熱して表面を短時間で1150℃まで加熱し、熱間圧延過程において、仕上げ圧延、巻取りの冷却速度、時間を厳密に制御し、巻取り温度を700℃以上確保することで、適正なMn、Cuの硫化物を形成するSの含有量、および異なるサイズ区間でのMnSの含有量を得た。
【0040】
【0041】